説明

潤滑油残留量制御装置

【課題】内燃機関が停止状態にある場合に遊星差動ネジ型回転直動変換機構のナット内に適切な量の潤滑油を残留させることを可能とする潤滑油残留量制御装置の提供。
【解決手段】停止状態の内燃機関にてナットの回転量を2本一組のプラネタリシャフトが最下部となる最下部回転量Rθへ制御することで(S126,S128)、ナット内の下側の位相に偏在して残留する潤滑油に対してプラネタリシャフトの没入体積を最大とする。このことで内燃機関の停止状態ではナット内の潤滑油を最少の残留量にできる。内燃機関の始動時には最少の潤滑油量状態からプラネタリシャフトの自転と公転とが開始されるので、冷間始動時の回転抵抗を最小にでき内燃機関始動を容易にすることができる。しかも2本一組のプラネタリシャフトについては潤滑油による濡れ表面積を最大にできることから遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗及び摩耗を適切に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機関と遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態で遊星差動ネジ型回転直動変換機構を構成するナットの内部空間の一部の位相に偏在する潤滑油の残留量を調節する潤滑油残留量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のアクチュエータに用いられる回転直動変換機構として、サンシャフト、プラネタリシャフト及びナットを組み合わせた遊星差動ネジ型回転直動変換機構が知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1,2はいずれも内燃機関の駆動時にはネジの噛み合い機構部分であるナットの内部に対して潤滑油が適切な位置に適切な量で供給されている。
そして内燃機関が停止して潤滑油が供給されなくなると、特許文献1,2のいずれにおいても、遊星差動ネジ型回転直動変換機構を収納しているハウジングに形成された排出口から潤滑油が排出される。このことによりナット内では潤滑油がほとんど存在しない状態となる。
【0004】
このため内燃機関の冷間始動時において、低温化した潤滑油が高粘度となっていても、ナット内にほとんど潤滑油が存在しないために、始動時に高粘度の潤滑油による大きな抵抗が生じることなく、少ないエネルギーで十分に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の駆動ができる。このことにより円滑な内燃機関始動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−113652号公報(第5〜8頁、図1〜3)
【特許文献2】特開2007−162721号公報(第7〜10頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしナット内にほとんど潤滑油が存在しない状態では、回転抵抗は低いが、駆動開始時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の摩耗を促進させるおそれがある。
一方、内燃機関に対するハウジングの取り付け位置や内部の構成によっては、ハウジングにおける排出口の位置を十分に下げられず、内燃機関停止後もナットの内部空間に、特に下部の一部の位相に偏って潤滑油が多量に残留する場合がある。
【0007】
このような場合はナットとサンシャフトとの間に配置されているプラネタリシャフトがナット内でサンシャフトの周りを公転し始める際に、ナット内に残留している高粘度の潤滑油が抵抗となり、可変動弁機構の迅速な駆動が困難となるおそれがある。
【0008】
このように遊星差動ネジ型回転直動変換機構が適用される機関が停止状態にある場合に、ナット内の潤滑油量を適切に設定することができず、その過不足が生じてしまっている。このため機関始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止できない。
【0009】
本発明は、機関が停止状態にある場合に遊星差動ネジ型回転直動変換機構のナット内に適切な量の潤滑油を残留させることを可能とする潤滑油残留量制御装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の潤滑油残留量制御装置は、適用される機関から潤滑油が供給されるナットの内部空間に、複数のプラネタリシャフトを介してサンシャフトを配置して、前記ナット、前記プラネタリシャフト及び前記サンシャフトの間にネジの噛み合い機構を形成し、このネジの噛み合い機構における差動により、前記ナットの回転を前記サンシャフトの軸方向移動に変換して前記機関に備えられた駆動対象機構を駆動する遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記機関と前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態で前記ナットの内部空間の一部の位相に偏在する潤滑油の残留量を調節する潤滑油残留量制御装置であって、残留する前記潤滑油に対する前記プラネタリシャフトの没入程度により前記残留量を調節するプラネタリシャフト没入制御手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
上記停止状態でナットの内部空間の一部の位相に偏在する潤滑油の油面レベルは、排出口の位置により決定される。したがってナット内において油面レベルよりも下の容積がナット内の潤滑油の残留量に相当する。この容積は、ナット内で公転するプラネタリシャフトが潤滑油に没入した体積に応じて少なくなる。すなわちプラネタリシャフトの没入程度により潤滑油の残留量を調節できることになる。
【0012】
このようにプラネタリシャフト没入制御手段は、残留する潤滑油に対するプラネタリシャフトの没入程度によって潤滑油の残留量を調節することができる。このプラネタリシャフト没入制御手段により、機関が停止状態にある場合に、遊星差動ネジ型回転直動変換機構のナット内に適切な量の潤滑油を残留させることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の潤滑油残留量制御装置では、請求項1に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、前記ナットの停止回転位相制御により、残留する前記潤滑油に対する前記プラネタリシャフトの没入程度を調節することを特徴とする。
【0014】
ナットの回転によりプラネタリシャフトはサンシャフトの周りを公転し、このことによりナットの内部空間の一部の位相に偏在する潤滑油内へのプラネタリシャフトの没入程度が変化する。したがってプラネタリシャフト没入制御手段はナットの停止回転位相制御を実行することにより、プラネタリシャフトの没入程度を調節することができる。
【0015】
請求項3に記載の潤滑油残留量制御装置では、請求項2に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に前記ナットの停止回転位相制御により、残留する前記潤滑油に対する前記プラネタリシャフトの没入程度を調節することを特徴とする。
【0016】
このように機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、プラネタリシャフト没入制御手段が、前述したごとくプラネタリシャフトの没入程度を調節することにより、機関の停止状態にてナットの内部空間に残留する潤滑油量を、所望の適切な状態にできる。したがって機関の始動時において、遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗及び摩耗を適切に防止できるようになる。
【0017】
請求項4に記載の潤滑油残留量制御装置では、請求項2又は3に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記機関は内燃機関であり、前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構は内燃機関の可変動弁機構を前記駆動対象機構として駆動するものであることを特徴とする。
【0018】
このように内燃機関の可変動弁機構に適用されている遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、上述したごとくプラネタリシャフト没入制御手段が機能することで、内燃機関始動時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗及び摩耗を適切に防止でき、内燃機関のフリクション増加を防止できる。
【0019】
請求項5に記載の潤滑油残留量制御装置では、請求項2〜4のいずれか一項に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記ナットと前記サンシャフトとの間での、前記複数のプラネタリシャフトの公転軌道での配置間隔は、少なくとも2種類の位相間隔で配置されていることを特徴とする。
【0020】
このように全てのプラネタリシャフトがナットとサンシャフトとの間の公転軌道において同じ位相間隔で配置されているのではなく、少なくとも2種類の位相間隔で配置されている場合には、プラネタリシャフトの公転位相による残留潤滑油量変動が大きくなる傾向にある。
【0021】
したがってナットの回転位相により、残留する潤滑油量を広範囲に調節することができ、より適切な残留量に調節することができる。
請求項6に記載の潤滑油残留量制御装置では、請求項2〜5のいずれか一項に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、潤滑油中への前記プラネタリシャフトの没入体積を最大とする公転位相位置に前記プラネタリシャフトを停止させることにより、前記ナットの内部空間に残留する潤滑油量を最少とするものであることを特徴とする。
【0022】
特にプラネタリシャフトの没入体積を最大とすることで、潤滑油によるプラネタリシャフトの濡れ表面積が最大にできるので、機関始動時に遊星差動ネジ型回転直動変換機構の摩耗を適切に防止できる。
【0023】
しかも冷間始動時には高粘度の潤滑油が最少量となるので、遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗を適切に防止でき、機関のフリクション増加を防止できる。
請求項7に記載の潤滑油残留量制御装置では、請求項2〜6のいずれか一項に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記機関の停止状態に対して前記ナットに要求される前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、前記機関の停止状態に対して要求される潤滑油中への前記プラネタリシャフトの没入程度とを対応させて構成した前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構を用い、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、前記ナットを、前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に回転して停止させることを特徴とする。
【0024】
ここでは遊星差動ネジ型回転直動変換機構は、機関の停止状態に対してナットに要求されるサンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、機関の停止状態に対して要求される潤滑油中へのプラネタリシャフトの没入程度とを対応させて構成されている。
【0025】
この遊星差動ネジ型回転直動変換機構を用いることで、プラネタリシャフト没入制御手段は、機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、ナットを要求されるサンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に回転して停止させることで、同時に機関の停止状態に対して要求される潤滑油中へのプラネタリシャフトの没入程度を実現できる。
【0026】
この場合は、サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、潤滑油の残留量調節のためのプラネタリシャフトの没入程度とが相互に制約を受けることがないので、機関始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構の回転抵抗と摩耗とを適切に防止できると共に、始動時の機関制御も高精度なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態1の回転直動変換アクチュエータの断面図。
【図2】実施の形態1の遊星差動ネジ型回転直動変換機構の正面図。
【図3】実施の形態1の遊星差動ネジ型回転直動変換機構におけるサンシャフト周りでの複数のプラネタリシャフトの公転位相位置とそれらの配置関係を示す斜視図。
【図4】実施の形態1の遊星差動ネジ型回転直動変換機構において潤滑油中への没入体積を最大とする公転位相位置にプラネタリシャフトを停止した状態の説明図。
【図5】実施の形態1のECUが実行するプラネタリシャフト最下部回転量学習処理のフローチャート。
【図6】同じく内燃機関停止時回転制御処理のフローチャート。
【図7】実施の形態2のECUが実行する内燃機関停止時回転制御処理のフローチャート。
【図8】(a),(b)実施の形態2のECUによる制御例を示すプラネタリシャフトの公転位相位置説明図。
【図9】実施の形態3のECUが実行する内燃機関停止時ストローク設定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態1]
〈構成〉図1は、上述した発明が適用された回転直動変換アクチュエータ(以下、「アクチュエータ」と称する)2の断面構成を表している。このアクチュエータ2は、車載用の内燃機関EGに適用され、そのシリンダヘッドあるいはカムキャリアの外面に取り付けられる。
【0029】
そしてアクチュエータ2はシリンダヘッド上に取り付けられた可変動弁機構を駆動するために、可変動弁機構に備えられたコントロールシャフトをその軸方向に駆動するものである。ここではアクチュエータ2は、ハウジング4の取り付け面4aにてカムキャリアなどの内燃機関EGの外周面にボルトなどの締結により取り付けられるものとして説明する。
【0030】
アクチュエータ2は、ハウジング4と、このハウジング4の背面側を閉塞するように配置された制御部8とを主要な外郭構成としている。
ハウジング4には、内部にベアリング10が取り付けられている。このベアリング10の外輪は、ボルトBtによる締結によりベアリングプレート12とハウジング4の内面との間で挟持されることで固定され、ハウジング4内に取り付けられている。
【0031】
このようにハウジング4内に取り付けられているベアリング10を介して、ハウジング4内の中心位置には、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14が配置されている。遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は、ナット16、サンシャフト18、及びナット16とサンシャフト18との間に配置された複数のプラネタリシャフト20を備えている。ナット16とプラネタリシャフト20とはギヤ16a,16b,20a,20bとネジ16c,20cとでそれぞれ噛み合い、同様にプラネタリシャフト20とサンシャフト18との間についてもギヤ20a,20b,18a,18bとネジ20c,18cとでそれぞれ噛み合っている。
【0032】
ナット16の後部側にはロータ22が圧入により嵌合しており、更にこのロータ22の後端には回転センサ24用のマグネット環状配列体24aが取り付けられている。そして制御部8側には、マグネット環状配列体24aに対して軸方向に対向させてホール素子24bが配置されており、マグネット環状配列体24aと共に回転センサ24を構成している。
【0033】
ハウジング4内には、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14側のロータ22の外周に対向させてステータ26が配置されている。ロータ22とステータ26とにより電動モータが構成され、制御部8によりステータ26が電磁駆動されることでロータ22に回転駆動力が生じる。このことによりロータ22と一体化されているナット16は自身の軸回りに回転する。このナット16の回転により、ナット16とサンシャフト18との間のプラネタリシャフト20は、自転しつつサンシャフト18の周りを公転する。
【0034】
サンシャフト18は自身のスプライン18dとハウジング4の先端開口部に形成されているスプライン4bとにより軸周りの回転が阻止されている。このためプラネタリシャフト20の自転と公転とにより生じるネジ20c,18c間の差動により、サンシャフト18は軸方向移動(図示G方向の移動)を行うことになる。
【0035】
このサンシャフト18の軸方向移動に連動して、サンシャフト18の先端部18eに連結されている可変動弁機構のコントロールシャフトが、内燃機関EGのカムキャリア内の空間にて軸方向に移動し、この移動により内燃機関EGの可変動弁機構が機能して、内燃機関EGの動弁系、ここでは各気筒に設けられた吸気バルブの作用角が連続的に調節される。
【0036】
この内燃機関EGを搭載している車両には内燃機関制御用の電子制御ユニット(以下ECUと称する)30が設けられており、各種入力信号に基づいて、ECU30は要求されるバルブ作用角を算出して、アクチュエータ2におけるナット16の回転量を算出し、制御信号によりアクチュエータ2の制御部8に回転駆動を指令する。制御部8ではECU30からの指令に応じて要求される回転量を実行するため、ステータ26への通電制御によりナット16を回転させる。このことにより内燃機関EGに要求される吸気バルブのバルブ作用角が実現される。
【0037】
制御部8からはECU30に対して回転センサ24にて検出された回転信号に基づいて演算したナット16の回転状態を表す信号(回転量信号)が出力される。ECU30はこの回転量信号により吸気バルブにおける実際のバルブ作用角やナット16の回転位相位置を把握する。
【0038】
遊星差動ネジ型回転直動変換機構14においてサンシャフト18の周りを公転するプラネタリシャフト20の公転軌道上の配置状態は図2,3に示すごとくである。尚、図3はサンシャフト18とプラネタリシャフト20との配置関係をナット16を除いて示している。
【0039】
図示するごとくナット16とサンシャフト18との間では、複数、ここでは6本のプラネタリシャフト20が公転軌道上に配置されている。ただし均等な位相間隔にて配置されているのではなく、2種類の位相間隔(40°,80°)で配置されている。すなわち40°と80°とが交互に生じる位相間隔として、6本のプラネタリシャフト20が公転軌道上に配置されている。
【0040】
内燃機関EGが駆動状態にある場合には、ハウジング4内部には内燃機関EG側の油路からハウジング4に設けられている導入油路4cを介して潤滑油が供給される。
ナット16の前端側外周には、ハウジング4の内面との間にリング状オイルシール材32が配置されており、ハウジング4内に導入された潤滑油は、ベアリング10も含めてこれより後方側へ流れ込むのが防止されている。したがって潤滑油は、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14のナット16内を潤滑して、排出口4d,4eから内燃機関EG側へ排出される。
【0041】
図1は鉛直方向での断面を示している。したがって内燃機関EGの運転中は、下方の導入油路4cから導入される潤滑油は上方の排出口4eまで達している。しかし内燃機関EGが停止すると、導入油路4cからの潤滑油の供給は停止するので、最終的には図1,2に破線にて示すごとく、油面は、下方の排出口4dの油面レベルSLとなり、内燃機関EGの停止中もこの油面レベルSLで、ナット16内に潤滑油が残留する。すなわち内燃機関EGの停止時には、潤滑油はナット16の内部空間の一部の位相に偏在して残留することになる。
【0042】
尚、車両の傾きや、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の取り付け姿勢によって油面レベルSLは変化する。例えば排出口4dが上方になるように遊星差動ネジ型回転直動変換機構14が傾けば、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14内の潤滑油の残留量は増加する。
【0043】
ナット16を回転させて特定の回転位相θとした場合の6本のプラネタリシャフト20の公転位相位置を図4に示す。この特定の回転位相θは、図示するごとく40°の位相間隔で隣り合った2本1組のプラネタリシャフト20が最下部に配置された公転位相位置に相当する。したがってこの公転位相位置では2本のプラネタリシャフト20の一部が油面レベルSL以下となる。この状態ではプラネタリシャフト20が潤滑油に没入している体積(没入体積)は最大となっている。
【0044】
したがって、2本1組のプラネタリシャフト20の没入体積分、潤滑油が排出口4dから排出されるので、油面レベルSLの下に存在する潤滑油量は図4に示した状態では最少となる。
【0045】
ナット16の回転位相θは回転センサ24にて回転量として検出される。この回転センサ24が検出する回転量から、プラネタリシャフト20の公転位相位置を求めるために次のようにアクチュエータ2の組み立て及び学習を行う。
【0046】
すなわちアクチュエータ2の組み立て時に、基準ストローク状態で配置されたサンシャフト18に対して、プラネタリシャフト20の公転位相位置が既知の一定の関係になるように、6本のプラネタリシャフト20をナット16とサンシャフト18との間に組み付ける。
【0047】
そして内燃機関EGにアクチュエータ2を取り付けた後に、所定の学習タイミングで、回転センサ24の回転量(ナット16の回転位相)とプラネタリシャフト20の公転位相位置との関係を学習する。
【0048】
所定の学習タイミングとしては、具体的にはサンシャフト18の基準ストロークと回転センサ24が検出する回転量との関係を学習したタイミングを用いる。
前述したごとく遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の組み立て時に、サンシャフト18のストロークと6本のプラネタリシャフト20の公転位相位置との関係が既知の一定関係に設定されている。このことからサンシャフト18の基準ストロークと回転センサ24の回転量との関係が学習されると、この学習に基づいて、回転センサ24の回転量とプラネタリシャフト20の公転位相位置との関係についても学習できることになる。
【0049】
すなわちサンシャフト18が基準ストロークにある場合に相当する回転学習値に基づくことで、40°の位相間隔に配置されたいずれか2本1組のプラネタリシャフト20が図4に示したごとくに最下部となるナット16の特定位相θを示す最下部回転量学習値Rgを求めることができる。
【0050】
尚、ナット16の特定位相θを示す回転量は実際には1つではなく、120°位相が異なる他の2組のプラネタリシャフト20が最下部に位置する場合も該当する。更にナット16の回転可能な範囲でこれら3組のプラネタリシャフト20が最下部となれば、それらは全てナット16の特定位相θとなる。
【0051】
したがってナット16の特定位相θを生じる最下部回転量Rθは、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の差動状態から予め決定されている最下部回転幅dR(プラネタリシャフト20の公転120°に相当するナット16の回転量)の間隔で現れる。このことから、最下部回転量Rθは、特定位相θで学習した1つの最下部回転量学習値Rgと最下部回転幅dRとから式1のごとく表される。
【0052】
[式1] Rθ = Rg + n・dR
上記式1にてnは整数である。ただしこの最下部回転量Rθは、ナット16が回転可能な範囲、すなわちサンシャフト18がストローク可能な範囲を限度としている。
【0053】
ECU30は、内燃機関EGの停止時には、制御部8に指令して回転センサ24により検出される回転量が上記式1にて表される最下部回転量Rθとなる位置を、ナット16の回転停止位置とする。
〈作用〉次に本実施の形態の作用について、ECU30が実行する処理について図5,6のフローチャートに基づいて説明する。尚、個々の処理内容に対応するフローチャート中のステップを「S〜」で表す。
【0054】
プラネタリシャフト最下部回転量学習処理(図5)は時間周期で繰り返し実行される処理である。
本処理が開始されると、まず回転量学習完了直後か否かが判定される(S102)。すなわちサンシャフト18を基準ストローク状態にして、この状態での回転センサ24の検出値が回転学習値として学習された直後か否かが判定される。
【0055】
このような回転量学習処理としては、例えば、図1に示したごとくサンシャフト18のストッパ18fをハウジング4の内面に当接した状態(ロー端状態)を基準ストローク位置として、このときの回転センサ24の検出値を回転学習値として学習する処理である。あるいはサンシャフト18のギヤ18a側の端部(図1の左側端)をナット16の内奥面に当接した状態(ハイ端状態)を基準ストローク位置として、このときの回転センサ24の検出値を回転学習値として学習する処理でも良い。
【0056】
このような回転量学習完了直後でなければ(S102でNO)、このまま本処理を出る。
回転量学習完了直後であれば(S102でYES)、前記回転学習値に基づいて式2に示すごとく最下部回転量学習値Rgを算出する(S104)。
【0057】
[式2] Rg ← 回転学習値 + Ra
補正値Raは、アクチュエータ2の組み立て時におけるプラネタリシャフト20の配置により決定されるものである。すなわち、回転量学習時にいずれかの2本1組のプラネタリシャフト20が最下部に存在するようにアクチュエータ2が組み立てられていれば、補正値Ra=0(回転センサ24のカウンタ値に相当)とする。したがってこの場合には最下部回転量学習値Rgとしては回転学習値をそのまま用いる。
【0058】
しかし、最下部でなく最下部から既知のずれが有るようにアクチュエータ2が組み立てられていれば、そのずれを反映した一定の値が設定された補正値Raを用いて、前記式2のごとく最下部回転量学習値Rgを計算して求める。
【0059】
こうして最下部回転量学習値Rgを求めると本処理を出る。次の処理周期では回転量学習完了直後ではないので(S102でNO)、このまま本処理を出る。以後も、次の回転量学習がなされるまでは、ステップS102でNOとされる状態が継続し、次の回転量学習がなされて、かつ完了すると、その直後にステップS102でYESと判定され、前記式2により最下部回転量学習値Rgが更新される(S104)。
【0060】
次に内燃機関停止時回転制御処理(図6)について説明する。本処理は、図5の場合と同様に時間周期で繰り返し実行される処理である。
本処理が開始されると、まず回転センサ24にて検出されている現在の回転量RrがECU30の作業メモリに読み込まれる(S122)。次に内燃機関停止操作直後であるか否かが判定される(S124)。例えばイグニッションキーに対してオフ操作がなされた場合である。すなわち内燃機関EGの駆動から停止への移行時か否かが判定される。
【0061】
このような内燃機関停止操作直後でなければ、すなわち内燃機関EGが既に停止しているか、あるいは内燃機関EGが運転中であれば(S124でNO)、次に、後述する内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S130)。
【0062】
ここで内燃機関停止時回転指令中ではないとすると(S130でNO)、このまま本処理を出る。以後、同様に内燃機関EGが停止状態、あるいは運転状態を継続している限り、上述したごとくステップS122の処理と、ステップS124,S130にてNOと判定される処理とが繰り返される。
【0063】
内燃機関EGが運転されている状態から停止操作がなされた場合は、停止操作直後であることから、ステップS124でYESと判定される。したがって次に前記プラネタリシャフト最下部回転量学習処理(図5)のステップS104にて求められている最下部回転量学習値Rgと、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の構成から特定されている最下部回転幅dRとに基づいて、前記式1に相当する最下部回転量Rθの中で、現在の回転量Rrに最も近い最下部回転量Rθを算出する(S126)。
【0064】
そして最下部回転量Rθへナット16を回転させる指令をアクチュエータ2の制御部8に対して実行する(S128)。すなわち内燃機関停止時回転指令を実行する。このことによりステータ26への通電制御により、回転センサ24の検出値が最下部回転量Rθとなるようにナット16が回転される。
【0065】
例えば前記図2の状態で内燃機関EGの停止操作がなされたとすると、図示状態においてナット16を回転量Rrから最下部回転量Rθへ左回転させる。このことにより、2本1組のプラネタリシャフト20は左に公転し、最終的に前記図4の状態になる。前記図2,4に示した例では、ナット16を左回転させることにより、プラネタリシャフト20では左回転で約45°の公転がなされている。
【0066】
ステップS128の処理後には本処理を出る。次の処理周期では、内燃機関EGの停止操作直後ではないので(S124でNO)、内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S130)。ここでは直前の処理周期でステップS128が実行されたことにより、現在、内燃機関停止時回転指令中であるので(S130でYES)、次に回転センサ24により検出される回転量が目標回転量である最下部回転量Rθに未到達か否かが判定される(S132)。
【0067】
ナット16の回転途中であり未到達であれば(S132でYES)、最下部回転量Rθへ回転する指令出力(S128)が継続する。
最下部回転量Rθに到達するまでは、ステップS124でNO、ステップS130でYES、ステップS132でYESと判定され、最下部回転量Rθへ回転する指令出力(S128)が継続する。
【0068】
そしてステップS122で読み込まれている現在の回転量Rrが最下部回転量Rθに到達すると(S132でNO)、回転指令が停止される(S134)。
したがって以後の処理周期において、ステップS124でNOと判定された後に、内燃機関停止時回転指令中ではないので(S130でNO)、このまま本処理を出る。
【0069】
以後は、ステップS122の処理と、ステップS124,S130にてNOと判定される状態が継続する。
したがって内燃機関EGの停止中は、前記図4に示すごとく、いずれか2本1組のプラネタリシャフト20が、ハウジング4内への供給が停止された潤滑油の油面レベルSLより下に最大限没入している。このためプラネタリシャフト20が他の回転位相状態にある場合よりも、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14内の潤滑油の残留量は少なくなっている。すなわちナット16の回転位相位置の調節により、潤滑油の残留量を最少としている。
【0070】
この状態で内燃機関EGが始動操作されることで、アクチュエータ2が駆動開始すると、ナット16の回転により、最少の潤滑油量状態からプラネタリシャフト20の自転と公転とが開始されることになる。
〈請求項との関係〉上述した構成において、可変動弁機構が駆動対象機構に相当し、ECU30が潤滑油残留量制御装置に相当し、図5,6の処理がプラネタリシャフト没入制御手段としての処理に相当する。
〈効果〉(1)上述したごとくECU30は、停止状態の内燃機関EGにおいて、ナット16内の下側の位相に偏在して残留する潤滑油に対して、プラネタリシャフト20の没入体積を最大としている。この没入体積を最大とする制御は、ナット16の回転量を、停止回転位相に相当する最下部回転量Rθへ制御することによりなされる。この停止回転位相制御により、内燃機関EGの停止状態では、ナット16内の潤滑油は最少の残留量となっている。
【0071】
したがって、内燃機関EGの始動時には、このような最少の潤滑油量状態からプラネタリシャフト20の自転と公転とが開始される。
内燃機関EGの始動が冷間始動であった場合には、ナット16の内部空間に残留していた潤滑油は高粘度状態となっている。もし潤滑油の残留量が多量である場合には、プラネタリシャフト20の公転やナット16の回転に対する大きな抵抗となり、内燃機関EG始動時のフリクションが大きくなる。
【0072】
しかし本実施の形態では内燃機関EGを停止する際には、常にプラネタリシャフト20を、前記図4のごとく没入体積を最大としてナット16内の潤滑油を最少の残留量としている。このことにより冷間始動時のプラネタリシャフト20の公転やナット16の回転の抵抗を最小にでき、内燃機関EGの始動を容易にすることができる。
【0073】
しかも2本一組のプラネタリシャフト20については潤滑油による濡れ表面積を最大にできる。
このように内燃機関EGが停止状態にある場合に、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14のナット16内に適切な量の潤滑油を残留させることが可能となることから、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗及び摩耗を適切に防止できる。
【0074】
(2)本実施の形態の遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は全てのプラネタリシャフト20がナット16とサンシャフト18との間の公転軌道において同じ位相間隔で配置されているのではなく、少なくとも2種類、ここでは40°と80°の位相間隔で配置されている。このようなプラネタリシャフト20の配置により、プラネタリシャフト20の公転位相による残留潤滑油量変動が大きくできる。
【0075】
したがってナット16の回転位相により、残留する潤滑油量を広範囲に調節することができ、より適切な残留量に調節可能となる。
[実施の形態2]
〈構成〉本実施の形態は、前記図1に示した構成において、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14内の潤滑油の残留量を最少とするのではなく、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗と潤滑とのバランス上、より適切な残留量が存在した場合に、その残留量に調節する処理を実行するものである。
【0076】
したがって本実施の形態では前記図6の代わりに図7に示す内燃機関停止時回転制御処理を時間周期で実行する。他の構成は前記実施の形態1と同じであるので図1〜5も参照して説明する。
〈作用〉内燃機関停止時回転制御処理(図7)では、まず回転センサ24にて検出されている現在の回転量RrがECU30の作業メモリに読み込まれる(S222)。次に内燃機関停止操作直後であるか否かが判定される(S224)。この処理は前記図6のステップS124と同じ処理である。
【0077】
内燃機関停止操作直後でなければ(S224でNO)、次に内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S230)。このステップS230の判定は前記図6のステップS130と同じ処理である。
【0078】
内燃機関停止時回転指令中ではないとすると(S230でNO)、このまま本処理を出る。以後、同様に内燃機関EGが停止状態、あるいは運転状態を継続している限り、上述したごとくステップS222の処理、及びステップS224,S230にてNOと判定される処理が繰り返される。
【0079】
内燃機関EGが運転されている状態から停止操作がなされた場合は、停止操作直後である。したがってステップS224でYESと判定される。そして式3のごとく、前記プラネタリシャフト最下部回転量学習処理(図5)のステップS104にて求められている最下部回転量学習値Rgを、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の構成から特定されている補正幅dRtにより補正して目標基準回転量Rtを算出する(S225)。
【0080】
[式3] Rt ← Rg ± dRt
上記補正幅dRtは、図4に示した40°間隔の2本1組のプラネタリシャフト20が最下部にある場合の回転量である最下部回転量学習値Rgを基準として、最下部から離れた公転位相位置にプラネタリシャフト20を停止させる目標回転量を設定するために用いるナット16の回転量幅を示すものである。
【0081】
すなわちこの補正幅dRtは、1組のプラネタリシャフト20が左右のいずれかの方向に公転して最下部から上昇した公転位相幅に対応したナット16の回転量を示している。
この補正幅dRtの値は、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14、アクチュエータ2あるいは内燃機関EGの特性に基づいて設定されたものであり、内燃機関EGの停止時に必要な潤滑油の残留量に対応して予め設定されている値である。
【0082】
尚、隣接する他の2組のプラネタリシャフト20との関係から、この補正幅dRtの値は、左右60°の公転幅に相当する回転量以内に限定されている。
上記式3にて「+dRt」により補正した目標基準回転量Rtは、図8の(a)に示すごとく右回転で1組のプラネタリシャフト20を最下部から離した場合のナット16の目標基準回転量Rtである。「−dRt」により補正した目標基準回転量Rtは、図8の(b)に示すごとく左回転で最下部から離した場合のナット16の目標基準回転量Rtである。
【0083】
したがってdRt=0であれば前記式3では目標基準回転量Rtは1つ求められ、前記実施の形態1の場合と同じとなるが、dRt>0であれば前記式3では目標基準回転量Rtは2つ求められることになる。ここではdRt>0であるとして説明する。
【0084】
この目標基準回転量Rtは、上述した「±dRt」による2つのみでなく、前記式1にて説明したごとく最下部回転幅dRの間隔で現れる。このことから、実際の目標回転量Rθtは目標基準回転量Rtと最下部回転幅dRとから式4のごとく表される。
【0085】
[式4] Rθt = Rt + n・dR
上記式4にてnは整数である。ただしこの目標回転量Rθtは、ナット16が回転可能な範囲、すなわちサンシャフト18がストローク可能な範囲を限度としている。
【0086】
したがってステップS225にて目標基準回転量Rtが前記式3により算出されると、次にこの目標基準回転量Rtと最下部回転幅dRとに基づいて、現在の回転量Rrから最も近い目標回転量Rθtを前記式4で表される関係から算出する(S226)。
【0087】
そして目標回転量Rθtへ回転する指令をアクチュエータ2の制御部8に対して実行する(S228)。すなわち内燃機関停止時回転指令を実行する。このことによりステータ26への通電制御により、回転センサ24の検出値が目標回転量Rθtとなるようにナット16が回転される。
【0088】
例えば前記図2の状態で内燃機関EGの停止操作がなされたとすると、図8の(a)の状態が最も近い目標回転量Rθtであることから、ナット16を回転量Rrから目標回転量Rθtへと左回転し、40°間隔で2本1組のプラネタリシャフト20を左に公転させて、図8の(a)に示すごとくの公転位相位置へ移動させる。
【0089】
ステップS228の処理後に本処理を出る。次の処理周期では、内燃機関EGの停止操作直後ではないので(S224でNO)、内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S230)。ここでは内燃機関停止時回転指令中であるので(S230でYES)、次に回転量Rrが目標回転量Rθtに未到達か否かが判定される(S232)。
【0090】
ナット16の回転途中であり未到達であれば(S232でYES)、目標回転量Rθtへ回転する指令出力(S228)が継続する。
目標回転量Rθtに到達するまでは、ステップS222の処理と、ステップS224でNO、ステップS230でYES、ステップS232でYESとする判定がなされ、目標回転量Rθtへ回転する指令出力(S228)が継続する。
【0091】
そして回転量Rrが目標回転量Rθtに到達すると(S232でNO)、回転指令が停止される(S234)。
したがって以後の処理周期において、ステップS222の次にステップS224でNOと判定され、そして内燃機関停止時回転指令中ではないので(S230でNO)、このまま本処理を出る。
【0092】
以後は、ステップS222の処理と、ステップS224,S230でNOと判定される処理とが継続する。
したがって、停止状態の内燃機関EGでは、前記図8の(a),(b)のいずれかに示す状態を維持している。この状態では潤滑油の油面レベルSL以下に没入させたプラネタリシャフト20の体積が調節されており、ナット16内での潤滑油の残留量は目標状態に維持されている。
【0093】
この状態から内燃機関EGが始動操作されることで、アクチュエータ2が駆動開始すると、ナット16の回転により、所望する適切な潤滑油量状態からプラネタリシャフト20の自転と公転とが開始されることになる。
〈請求項との関係〉上述した構成において、可変動弁機構が駆動対象機構に相当し、ECU30が潤滑油残留量制御装置に相当し、図5,7の処理がプラネタリシャフト没入制御手段としての処理に相当する。
〈効果〉(1)上述したごとく停止状態にある内燃機関EGにおいて、ナット16の内部空間に下側の位相に偏在して残留する潤滑油に対して、プラネタリシャフト20の没入程度を調節して、潤滑油を所望の残留量に調節している。
【0094】
したがって、内燃機関EGの始動時には、このような調節された潤滑油量状態からプラネタリシャフト20の自転と公転とが開始される。
したがって内燃機関EGの冷間始動に対して必要十分な潤滑油量を残留させて内燃機関EGを停止しておくことにより、冷間始動時に潤滑油による潤滑と回転抵抗とを適切にバランスをとることができる。このため内燃機関EGの始動を容易にすることができ、遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の摩耗も促進させることがない。
【0095】
[実施の形態3]
〈構成〉本実施の形態では、図1に示した構成において、アクチュエータ2は、内燃機関EGの停止操作時に、サンシャフト18の軸方向移動が特定の停止時ストローク(前記実施の形態1に述べたロー端やハイ端、あるいは特定の吸気バルブ作用角)で停止される。
【0096】
このためにECU30は、図9に示すごとくの内燃機関停止時ストローク設定処理により、内燃機関EGの停止操作時に、上述した特定の停止時ストロークに対応する回転量へナット16を回転させる制御を行う。尚、このような特定の停止時ストロークは、内燃機関EGの停止直前の運転状態に応じて、内燃機関EG停止状態での吸気バルブ作用角を決定し、この吸気バルブ作用角を実現するストロークを、停止時ストロークとしても良い。
【0097】
遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は、サンシャフト18が上記停止時ストロークとなるナット16の回転量において、いずれか2本1組のプラネタリシャフト20が、所望の公転位相位置、例えば前記図4や前記図8の(a),(b)のいずれかに示したごとくの公転位相位置になるように機構的に完成されている。したがって本実施の形態では前記実施の形態1にて説明したプラネタリシャフト最下部回転量学習処理(図5)は実行しない。
〈作用〉内燃機関停止時ストローク設定処理(図9)について説明する。本処理は時間周期で繰り返し実行される処理である。
【0098】
本処理が開始されると、まず回転センサ24にて検出されている現在の回転量RrがECU30の作業メモリに読み込まれる(S322)。次に内燃機関停止操作直後であるか否かが判定される(S324)。この処理は前記図6のステップS124と同じ処理である。
【0099】
内燃機関停止操作直後でなければ(S324でNO)、次に内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S330)。このステップS330の判定は前記図6のステップS130と同じ処理である。
【0100】
内燃機関停止時回転指令中ではないとすると(S330でNO)、このまま本処理を出る。以後、同様に内燃機関EGが停止状態、あるいは運転状態を継続している限り、上述したごとくステップS322の処理、及びステップS324,S330にてNOと判定される処理が繰り返される。
【0101】
内燃機関EGが運転されている状態から停止操作がなされた場合は、停止操作直後である。したがってステップS324でYESと判定され、前述した停止時ストロークに対応する回転量Rsへナット16を回転させる指令をアクチュエータ2の制御部8に対して実行する(S328)。すなわち内燃機関停止時回転指令を実行する。このことによりステータ26への通電制御により、回転センサ24の検出値が回転量Rsとなるようにナット16が回転される。
【0102】
ステップS328の処理後に本処理を出る。次の処理周期では、内燃機関EGの停止操作直後ではないので(S324でNO)、内燃機関停止時回転指令中か否かが判定される(S330)。ここでは直前の処理周期でステップS328が実行されたことにより、現在、内燃機関停止時回転指令中であるので(S330でYES)、次に回転センサ24により検出される回転量が目標回転量である回転量Rsに未到達か否かが判定される(S332)。
【0103】
ナット16の回転途中であり未到達であれば(S332でYES)、回転量Rsへ回転する指令出力(S328)が継続する。
回転量Rsに到達するまでは、ステップS324でNO、ステップS330でYES、ステップS332でYESと判定され、回転量Rsへ回転する指令出力(S328)が継続する。
【0104】
そしてステップS322で読み込まれている現在の回転量Rrが回転量Rsに到達すると(S332でNO)、回転指令が停止される(S334)。
したがって以後の処理周期において、ステップS324でNOと判定された後に、内燃機関停止時回転指令中ではないので(S330でNO)、このまま本処理を出る。
【0105】
以後は、ステップS322の処理と、ステップS324,S330にてNOと判定される状態が継続する。
したがって停止状態の内燃機関EGでは、サンシャフト18は停止時ストロークに設定されてそのまま維持されることになる。
【0106】
そして前述したごとく遊星差動ネジ型回転直動変換機構14が構成されていることにより、サンシャフト18が停止時ストロークに設定されると同時にプラネタリシャフト20の公転位相位置は所望の位相位置に設定される。すなわち、ナット16の回転によりサンシャフト18を停止時ストロークに調節する処理により、同時に前記図4や前記図8の(a),(b)のいずれかに示したごとくの公転位相位置にプラネタリシャフト20を配置できる。
〈請求項との関係〉上述した構成において、可変動弁機構が駆動対象機構に相当し、ECU30が潤滑油残留量制御装置に相当し、図9の処理がプラネタリシャフト没入制御手段としての処理に相当する。
〈効果〉(1)遊星差動ネジ型回転直動変換機構14は、ナット16に要求される回転量Rs(サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に相当)と、内燃機関EGの停止時に要求される潤滑油中へのプラネタリシャフト20の没入程度とを対応させて構成されている。このように構成された遊星差動ネジ型回転直動変換機構14を用いることにより、ECU30が、内燃機関EGの停止操作時に、ナット16を停止時ストロークに対応する回転量Rsに回転して停止させるのみで、前記実施の形態1,2に示したごとくに潤滑油中へのプラネタリシャフト20の没入程度を調節できる。
【0107】
したがって前記実施の形態1又は2に述べた効果を生じる。
(2)本実施の形態では、停止時ストロークのためのナット16の停止回転位相と、潤滑油の残留量調節のためのプラネタリシャフト20の没入程度とが相互に制約を受けることがない。このため内燃機関EGの始動時における遊星差動ネジ型回転直動変換機構14の回転抵抗と摩耗とを適切に防止できると共に、始動時の内燃機関EG制御も高精度なものとすることができる。
【0108】
[その他の実施の形態]
・前記実施の形態2において、内燃機関停止時回転制御処理(図7)のステップS225では、最下部回転量学習値Rgを用いずに回転学習値を用いて、この回転学習値に対応する補正値を用いて目標基準回転量Rtを算出しても良い。したがってこの場合には、図5の処理は必要ない。
【0109】
・前記実施の形態3において、停止時ストロークに対応する停止回転位相へナット16を回転させる制御と、前記実施の形態1の図5,6の処理又は前記実施の形態2の図5,7処理とを、内燃機関EGの状態に応じて、選択的に実行しても良い。
【0110】
・前記各実施の形態では内燃機関EGの停止操作直後、すなわち機関の駆動から停止への移行時に、ナット16の停止回転位相制御を実行したが、機関の駆動から停止への移行後、すなわち内燃機関EGが停止した後にナット16の停止回転位相制御を実行しても良い。
【符号の説明】
【0111】
2…アクチュエータ、4…ハウジング、4a…取り付け面、4b…スプライン、4c…導入油路、4d,4e…排出口、8…制御部、10…ベアリング、12…ベアリングプレート、14…遊星差動ネジ型回転直動変換機構、16…ナット、16a,16b…ギヤ、16c…ネジ、18…サンシャフト、18a,18b…ギヤ、18c…ネジ、18d…スプライン、18e…先端部、18f…ストッパ、20…プラネタリシャフト、20a,20b…ギヤ、20c…ネジ、22…ロータ、24…回転センサ、24a…マグネット環状配列体、24b…ホール素子、26…ステータ、30…ECU、32…オイルシール材、Bt…ボルト、EG…内燃機関、SL…油面レベル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適用される機関から潤滑油が供給されるナットの内部空間に、複数のプラネタリシャフトを介してサンシャフトを配置して、前記ナット、前記プラネタリシャフト及び前記サンシャフトの間にネジの噛み合い機構を形成し、このネジの噛み合い機構における差動により、前記ナットの回転を前記サンシャフトの軸方向移動に変換して前記機関に備えられた駆動対象機構を駆動する遊星差動ネジ型回転直動変換機構において、前記機関と前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構とが共に停止した状態で前記ナットの内部空間の一部の位相に偏在する潤滑油の残留量を調節する潤滑油残留量制御装置であって、
残留する前記潤滑油に対する前記プラネタリシャフトの没入程度により前記残留量を調節するプラネタリシャフト没入制御手段を備えたことを特徴とする潤滑油残留量制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、前記ナットの停止回転位相制御により、残留する前記潤滑油に対する前記プラネタリシャフトの没入程度を調節することを特徴とする潤滑油残留量制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に前記ナットの停止回転位相制御により、残留する前記潤滑油に対する前記プラネタリシャフトの没入程度を調節することを特徴とする潤滑油残留量制御装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記機関は内燃機関であり、前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構は内燃機関の可変動弁機構を前記駆動対象機構として駆動するものであることを特徴とする潤滑油残留量制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記ナットと前記サンシャフトとの間での、前記複数のプラネタリシャフトの公転軌道での配置間隔は、少なくとも2種類の位相間隔で配置されていることを特徴とする潤滑油残留量制御装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載の潤滑油残留量制御装置において、前記プラネタリシャフト没入制御手段は、潤滑油中への前記プラネタリシャフトの没入体積を最大とする公転位相位置に前記プラネタリシャフトを停止させることにより、前記ナットの内部空間に残留する潤滑油量を最少とするものであることを特徴とする潤滑油残留量制御装置。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか一項に記載の潤滑油残留量制御装置において、
前記機関の停止状態に対して前記ナットに要求される前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相と、前記機関の停止状態に対して要求される潤滑油中への前記プラネタリシャフトの没入程度とを対応させて構成した前記遊星差動ネジ型回転直動変換機構を用い、
前記プラネタリシャフト没入制御手段は、前記機関の駆動から停止への移行時あるいはこの移行後に、前記ナットを、前記サンシャフトのストローク制御用の停止回転位相に回転して停止させることを特徴とする潤滑油残留量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−219859(P2012−219859A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83904(P2011−83904)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】