説明

潤滑油組成物

【課題】優れたスクラッチノイズ防止性、金属間摩擦係数及びシャダー防止性能にバランス良く優れる、ベルト式CVT及び発進クラッチ等のスリップ制御式湿式クラッチを有する無段変速機油として好適な潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油基油に、(A)金属系清浄剤及び(B)摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物であって、組成物全量基準で、(A1)スルホネート系清浄剤及び/又は(A2)サリシレート系清浄剤を金属量として0.01〜0.4質量%、及び(B1)脂肪酸金属塩系摩擦調整剤を0.01〜5質量%含有してなることを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、詳しくは自動変速機の滑り制御式湿式クラッチにおけるシャダー防止性能を長期間維持するとともに、自動車のベルト式CVTに適用した場合に金属間の摩擦係数を高く維持(動力伝達能力を高く維持)したまま、μ−V特性を正勾配にしてスクラッチノイズの発生を防止することができる、特にベルト式CVTと発進クラッチとを有する無段変速機に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動変速機や無段変速機は軽量小型化が望まれており、組み合わされるエンジンの高出力化に伴い、動力伝達能力の向上が追求されている。これら自動変速機や無段変速機には、トルクコンバータに内蔵されているロックアップクラッチを低速で滑らせる制御(スリップロックアップ制御)を有するものがあるが、これによって、エンジンのトルク変動を吸収して乗り心地を向上させながら、エンジントルクを効率よく変速機構へ伝達することができるように改良が進められている。また、一部の無段変速機には、湿式の発進クラッチを備えたものがあり、該発進クラッチを初めは滑らせてから結合することで停止状態からの発進をスムーズに行う、所謂滑り制御が行われている。これらのロックアップクラッチや発進クラッチ等の滑り制御が行われる変速機に用いられる潤滑油には、優れたトルク伝達力を有するともに変速ショックが小さく、優れた初期シャダー防止性能と、これを長期間維持する性能が要求されている。
【0003】
一方、無段変速機には、駆動プーリと被駆動プーリおよび動力を伝達するためのベルトとから構成されるベルト式CVTを有するものがあり、ベルトはエレメント(以下、コマと称する。)とそれを保持するベルト(鋼帯)より構成されている。このようなベルト式CVTに用いる潤滑油としては、冷却性、潤滑性、耐摩耗性を有し、かつ金属プーリーと金属ベルトの摩擦係数を高めた、動力伝達能力に優れたものが要求されている。
また、ベルト式CVTを用いた自動車においては、車庫入れ、発進時等に特有の雑音(スクラッチノイズ)が発生する現象、いわゆるスクラッチ現象が生じることがある。
このスクラッチ現象は、被駆動プーリの回転むらに原因があり、CVTの後にある歯車の歯打ち音によって生じることが見出されており、更にその回転むらはベルトとコマの摩擦係数(μ)の変化が滑り速度(V)の変化に対して負勾配にある時に発生することも見出されている(例えば、特許文献1参照。)。
従って、ベルト式CVTとロックアップクラッチや発進クラッチ等の滑り制御式湿式クラッチとを有する無段変速機においては、特にシャダー防止性能を長期間維持するとともに、金属プーリーと金属ベルトの金属間摩擦係数を高く維持(動力伝達能力を高く維持)したまま、μ−V特性を正勾配にしてスクラッチノイズの発生を防止することが重要である。
【0004】
従来、スクラッチノイズ防止性、金属間摩擦係数の向上及びシャダー防止性の耐久性を向上しうる変速機油組成物としては、例えば、特許文献1には、スルホネート、無灰系分散剤、酸アミド、有機モリブデン化合物及びアミン系酸化防止剤を配合することにより、伝達動力を大きく保ちつつ、スクラッチ現象を防止することができ、更に、μ−V特性を長期間正勾配に保持しうる無段変速機油組成物が、特許文献2には、リン:カルシウム:ホウ素:イオウの元素比を特定比率で含むことによりスクラッチ現象を防止し、長期間に渡りこれを防止し得る自動変速機用潤滑油組成物が、特許文献3には、特定の構造を有する有機酸金属塩、摩耗防止剤、及びホウ素含有コハク酸イミドを必須成分として配合した、高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立する無段変速機用潤滑油組成物が、特許文献4には、カルシウムサリシレート、りん系摩耗防止剤、摩擦調整剤、及び分散型粘度指数向上剤を配合した、高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立し、長期にわたって使用可能な無段変速機用潤滑油組成物が、特許文献5には、カルシウムスルホネート及び亜リン酸エステル類、更に、サルコシン誘導体あるいはカルボン酸とアミンの反応生成物を配合した、スリップロックアップ装置に対してシャダー防止寿命の性能を有し、ベルト式CVT装置に対してスクラッチノイズ防止長寿命の性能を有する自動変速機油組成物が開示されている。
しかしながらスクラッチノイズ防止性やシャダー防止性と金属間摩擦係数についてはトレードオフの関係にあり、これらの性能の両立の観点からは更なる改良の余地がある。
【0005】
【特許文献1】特開平9−263782号公報
【特許文献2】特開2003−73683号公報
【特許文献3】特開2001−323292号公報
【特許文献4】特開2000−355695号公報
【特許文献5】特開平10−306292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、以上のような事情に鑑み、滑り制御式湿式クラッチのシャダー防止性能を長期間維持するとともに、金属プーリーと金属ベルトの金属間摩擦係数を高く維持(動力伝達能力を高く維持)したまま、μ−V特性を正勾配にしてスクラッチノイズの発生を防止する、特にベルト式CVTと発進クラッチとを有する無段変速機に好適な潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の金属系清浄剤と、特定の摩擦調整剤、あるいはさらに特定のリン系摩耗防止剤を含む潤滑油組成物が、上記課題を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、潤滑油基油に、(A)金属系清浄剤及び(B)摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物であって、組成物全量基準で、(A1)スルホネート系清浄剤及び/又は(A2)サリシレート系清浄剤を金属量として0.01〜0.4質量%、および(B1)脂肪酸金属塩系摩擦調整剤を0.01〜5質量%含有してなることを特徴とする潤滑油組成物にある。
また、前記潤滑油組成物は、さらに(B2)アルカノールアミン系摩擦調整剤を、組成物全量基準で、0.01〜5質量%含有してなることが好ましい。
また、前記潤滑油組成物は、さらに(C)リン系摩耗防止剤として、(C1)アルキル基の炭素数が17以下のアルキルホスファイト及び/又は(C2)炭素数6〜12の(アルキル)アリールホスファイトを、組成物全量基準で、リン量として0.001〜0.1質量%含有してなることが好ましい。
【0009】
以下本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油が使用できる。
【0010】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素異性化、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0011】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0012】
本発明における潤滑油基油としては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0013】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、好ましくは2〜8mm/s、より好ましくは2.5〜6mm/s、特に好ましくは3〜4.5mm/sに調整してなることが望ましい。潤滑油基油の100℃での動粘度が8mm/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が2mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0014】
また、本発明において用いる潤滑油基油の硫黄含有量に特に制限はないが、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下であることが望ましい。
【0015】
潤滑油基油の蒸発損失量としては、特に制限はないが、NOACK蒸発量で、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%、特に好ましくは22〜35質量%に調整してなることが望ましい。NOACK蒸発量が上記範囲に調整された潤滑油基油を使用することで低温特性と摩耗防止性を両立しうる。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、CEC L−40−T−87に準拠して測定される蒸発量を意味する。
【0016】
本発明における潤滑油基油の具体例としては、(a)100℃における動粘度が1.5〜3.5mm/s、好ましくは2〜3.2mm/s、さらに好ましくは2.5〜3mm/sであり、硫黄含有量が0.05質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下であり、NOACK蒸発量が20〜80質量%、好ましくは30〜65質量%、さらに好ましくは30〜55質量%の基油と、(b)100℃における動粘度が3.5〜6mm/s、好ましくは3.8〜4.5mm/s、さらに好ましくは3.9〜4.3mm/s、硫黄含有量が0.05質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下であり、NOACK蒸発量が5〜20質量%、好ましくは10〜18質量%、さらに好ましくは12〜16質量%の基油とを、10:90〜90:10、好ましくは25:75〜75:25、さらに好ましくは25:75〜50:50の質量比で混合し、混合基油の100℃における動粘度、硫黄含有量及びNOACK蒸発量をそれぞれ上記範囲とすることが好ましい。これにより変速機油組成物として好適な低温特性と潤滑性能を両立しうる組成物を得ることできる。
なお、上記混合基油には、疲労寿命向上の観点から、さらに100℃における動粘度が6mm/s以上、好ましくは10〜35mm/s、硫黄含有量が0.05〜1質量%、好ましくは0.1〜0.7質量%、さらに好ましくは0.2〜0.6質量%、NOACK蒸発量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下の基油を少量、例えば5〜30質量%混合しても良い。
【0017】
本発明の潤滑油組成物における(A)成分は、(A1)スルホネート系清浄剤及び/又は(A2)サリシレート系清浄剤であり、その構造に特に制限はなく使用することができる。
(A1)スルホネート系清浄剤としては、例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0018】
また、アルカリ土類金属スルホネートとしては、上記のアルキル芳香族スルホン酸を直接、マグネシウム及び/またはカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、または一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルホネートだけでなく、上記中性アルカリ土類金属スルホネートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネートや、炭酸ガス及び/又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性アルカリ土類金属スルホネートをアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、ホウ酸塩過塩基性アルカリ土類金属スルホネートも含まれる。
本発明でいうスルホネート系清浄剤としては、上記の中性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属スルホネート及びこれらの混合物等を用いることができる。
【0019】
本発明における(A1)成分としてはカルシウムスルホネート系清浄剤、マグネシウムスルホネート系清浄剤を使用することが好ましく、金属間摩擦係数向上の点でカルシウムスルホネート系清浄剤を使用することが特に好ましい。
【0020】
スルホネート系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0021】
本発明で用いるスルホネート系清浄剤の塩基価は任意であり、通常0〜500mgKOH/gであるが、金属間摩擦係数の向上および湿式摩擦特性の向上に優れる点から、塩基価が100〜450mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。
なおここでいう塩基価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味している。
【0022】
本発明の潤滑油組成物において、(A1)成分の含有量は、組成物全量基準で、金属換算量(MeA)として、好ましくは0.01〜0.4質量%、より好ましくは0.01〜0.3質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.2質量%、特に好ましくは0.04〜0.15質量%である。(A1)成分の含有量を上記範囲とすることで(A1)成分を配合しない場合よりもシャダー防止寿命を延長できるとともに、金属間のμ−V特性をより改善できる。
【0023】
本発明の潤滑油組成物における(A2)成分は、サリシレート系清浄剤であり、その構造に特に制限はないが、炭素数1〜30のアルキル基を1〜2個有するサリチル酸の金属塩、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
本発明における(A2)成分は、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜100mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が0〜15mol%であって、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が40〜100mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩であることがシャダー防止寿命をより向上させることができる点で好ましい。
【0024】
ここでいうモノアルキルサリチル酸金属塩は、3−アルキルサリチル酸金属塩、4−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等のアルキル基を1つ有するアルキルサリチル酸金属塩を意味し、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、85〜100mol%、好ましくは88〜98mol%、さらに好ましくは90〜95mol%であり、モノアルキルサリチル酸金属塩以外のアルキルサリチル酸金属塩、例えばジアルキルサリチル酸金属塩の構成比は、0〜15mol%、好ましくは2〜12mol%、さらに好ましくは5〜10mol%である。また、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、40〜100mol%、好ましくは45〜80mol%、さらに好ましくは50〜60mol%である。なお、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の合計の構成比は、アルキルサリチル酸金属塩100mol%に対し、上記3−アルキルサリチル酸金属塩、ジアルキルサリチル酸金属塩を除いた構成比に相当し、0〜60mol%、好ましくは20〜50mol%、さらに好ましくは30〜45mol%である。ジアルキルサリチル酸金属塩を少量含むことで摩耗防止性と低温特性を両立した組成物を得ることができ、3−アルキルサリシレートの構成比を40mol%以上とすることで、5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比を相対的に低くすることができ、油溶性を向上させることができる。
【0025】
また、(A2)成分を構成するアルキルサリチル酸金属塩におけるアルキル基としては、炭素数10〜40、好ましくは炭素数10〜19又は炭素数20〜30、さらに好ましくは炭素数14〜18又は炭素数20〜26のアルキル基、特に好ましくは炭素数14〜18のアルキル基である。炭素数10〜40のアルキル基としては、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、及びトリアコンチル基等の炭素数10〜40のアルキル基が挙げられる。これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、プライマリーアルキル基、セカンダリーアルキル基であっても良いが、本発明においては(A2)成分の規定を満たすサリチル酸金属塩を得やすい点で、セカンダリーアルキル基であることが特に好ましい。
また、アルキルサリチル酸金属塩における金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、カルシウム、マグネシウムであることが好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。
【0026】
本発明の(A2)成分は、公知の方法等で製造することができ、特に制限はないが、例えば、フェノール1molに対し1mol又はそれ以上の、エチレン、プロピレン、ブテン等の重合体又は共重合体等の炭素数10〜40のオレフィン、好ましくはエチレン重合体等の直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションし、炭酸ガス等でカルボキシレーションする方法、あるいはサリチル酸1molに対し1mol又はそれ以上の当該オレフィン、好ましくは当該直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションする方法等により得たモノアルキルサリチル酸を主成分とするアルキルサリチル酸に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。ここで、フェノール又はサリチル酸とオレフィンの反応割合を、好ましくは、例えば1:1〜1.15(モル比)、より好ましくは1:1.05〜1.1(モル比)に制御することでモノアルキルサリチル酸金属塩とジアルキルサリチル酸金属塩の構成比を所望の割合に制御することができ、また、オレフィンとして直鎖α−オレフィンを用いることで、3−アルキルサリチル酸金属塩、5−アルキルサリチル酸金属塩等の構成比を本願特定の(A2)成分のような所望の割合に制御しやすくなるとともに、本発明において好ましいセカンダリーアルキルを有するアルキルサリチル酸金属塩を主成分として得ることができるため特に好ましい。なお、オレフィンとして分岐オレフィンを用いた場合には、ほぼ5−アルキルサリチル酸金属塩のみを得やすいが、本願(A2)成分の構成となるように3−アルキルサリチル酸金属塩等を混合して油溶性を改善する必要があり、製造プロセスが多様化するため好ましくない方法である。
【0027】
本発明の(A2)成分は、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩も含まれる。
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0028】
本発明における(A2)成分として最も好ましいものとしては、初期シャダー防止性能に優れる点から、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜95mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が5〜15mol%、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が50〜60mol%、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が35〜45mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩である。ここでいうアルキル基としては、セカンダリーアルキル基であることが特に好ましい。
【0029】
本発明において、(A2)成分の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜300mgKOH/g、特に好ましくは100〜200mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0030】
本発明の潤滑油組成物において、(A2)成分の含有量は、(A1)成分を併用しない場合、組成物全量基準で、金属量(MeB)として、0.01〜0.4質量%、好ましくは0.01〜0.3質量%、さらに好ましくは0.02〜0.2質量%、さらに好ましくは0.04〜0.15質量であり、(A1)成分と併用する場合の(A2)成分の含有量は、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.005〜0.08質量%、特に好ましくは0.01〜0.04質量%である。
なお、これら(A1)成分及び/又は(A2)成分の合計の含有量は、組成物全量基準で、金属量として0.01〜0.4質量%であり、好ましくは0.01〜0.3質量%、さらに好ましくは0.02〜0.2質量%、特に好ましくは0.04〜0.15質量%である。(A1)成分と(A2)成分とを併用することで金属間摩擦係数を高く維持しながらシャダー防止寿命をより長くすることができる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物において、(A1)成分と(A2)成分とを併用する場合の含有量の質量比((MeB)/(MeA))は、特に制限はないが、好ましくは0.01〜1.5、より好ましくは0.05〜1.4であり、さらに好ましくは0.1〜1、特に好ましくは0.2〜0.5である。(A1)成分と(A2)成分を併用することでそれぞれ単独で使用した場合よりもシャダー防止寿命を向上させることができ、湿式クラッチにおいても伝達トルク容量と変速特性を高いレベルで維持することができる。
【0032】
本発明の潤滑油組成物において、(B)摩擦調整剤としては、(B1)脂肪酸金属塩を含有することが必要である。
(B1)脂肪酸金属塩における脂肪酸としては、直鎖脂肪酸でも分枝脂肪酸でもよく、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよいが、そのアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、6〜30、好ましくは9〜24が望ましい。脂肪酸のアルキル基又はアルケニル基の炭素数が6未満の場合や30を超える場合は、湿式クラッチの摩擦特性が悪化するため、それぞれ好ましくない。
【0033】
この脂肪酸としては、具体的には例えば、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンチル酸等の飽和脂肪酸(これら飽和脂肪酸は直鎖状でも分枝状でもよい。);ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の不飽和脂肪酸(これら不飽和脂肪酸は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である。);等が挙げられるが、特に湿式クラッチの摩擦特性により優れる点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、各種油脂から誘導される直鎖脂肪酸(ヤシ油脂肪酸等)等の直鎖脂肪酸や、オキソ法等で合成される直鎖脂肪酸と分枝脂肪酸の混合物等が好ましく用いられる。
【0034】
また、(B1)成分としては、具体的には、上記脂肪酸のアルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)や亜鉛塩等が例示できる。より具体的には、金属間摩擦係数を高く維持し、金属間摩擦特性とシャダー防止性をバランス良く向上させることができる観点から、ラウリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、ヤシ油脂肪酸カルシウム、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、ヤシ油脂肪酸亜鉛、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸亜鉛、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0035】
本発明における(B1)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.01〜5質量%であり、好ましくは0.05〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。(B1)成分を上記範囲とすることで、シャダー防止寿命を格段に向上できるとともに、金属間摩擦係数を高く維持しながら金属間のμ−V特性を向上させ、スクラッチノイズを防止することができる。なお、(B1)成分が多くなると金属間摩擦係数が低下する傾向にあり、上記の各特性をバランスよく発現させるためには(B1)成分の含有量を0.3質量%以下とすることが特に好ましい。
【0036】
本発明の潤滑油組成物には、(B)摩擦調整剤として、さらに(B1)成分以外の摩擦調整剤を併用することが好ましい。(B1)成分以外の摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる(B1)成分以外の任意の化合物が使用可能であるが、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン系摩擦調整剤、イミド系摩擦調整剤、アミド系摩擦調整剤、脂肪酸エステル系摩擦調整剤等が挙げられる。
【0037】
アミン系摩擦調整剤としては、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族モノアミン、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族アルカノールアミン、直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族ポリアミン、又はこれら脂肪族アミンのアルキレンオキシド付加物等の脂肪族アミン系摩擦調整剤等が例示できる。
イミド系摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜18の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは分枝状の炭化水素基を1つ又は2つ有するモノ及び/又はビスコハク酸イミド、当該コハク酸イミドにホウ酸やリン酸、炭素数1〜20のカルボン酸あるいは硫黄含有化合物から選ばれる1種又は2種以上を反応させたコハク酸イミド変性化合物等のコハク酸イミド系摩擦調整剤等が例示できる。
アミド系摩擦調整剤としては、炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸と、アンモニア、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとのアミド等の脂肪酸アミド系摩擦調製剤等が例示できる。
脂肪酸系摩擦調整剤としては、炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸、該脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステル等の脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0038】
本発明において、(B1)成分以外の摩擦調整剤は、上記の中から選ばれる1種又は2種以上を配合することができ、その含有量は、組成物全量基準で、0.01〜5質量%であり、好ましくは0.05〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0039】
本発明において、(B1)成分以外の摩擦調整剤としては、上記のうち、(B2)アルカノールアミン系摩擦調整剤を使用することが特に好ましい。(B1)成分と(B2)成分を併用することで、シャダー防止寿命、金属間摩擦係数及び金属間のμ−V特性をバランス良く向上させることができる。
(B2)アルカノールアミン系摩擦調整剤としては、具体的には、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アルカノールアミン等が挙げられ、より具体的には、ヘキシルジエタノールアミン、ヘプチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ノニルジエタノールアミン、デシルジエタノールアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジエタノールアミン、トリデシルジエタノールアミン、テトラデシルジエタノールアミン、ペンタデシルジエタノールアミン、ヘキサデシルジエタノールアミン、ヘプタデシルジエタノールアミン、オクタデシルジエタノールアミン等の炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の直鎖または分枝状のアルキル基と、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4、さらに好ましくは炭素数2のアルカノール基を有する飽和脂肪族アルカノールアミン;ヘキセニルジエタノールアミン、ヘプテニルジエタノールアミン、オクテニルジエタノールアミン、ノネニルジエタノールアミン、デセニルジエタノールアミン、ウンデセニルジエタノールアミン、ドデセニルジエタノールアミン、トリデセニルジエタノールアミン、テトラデセニルジエタノールアミン、ペンタデセニルジエタノールアミン、ヘキサデセニルジエタノールアミン、ヘプタデセニルジエタノールアミン、オクタデセニルジエタノールアミン等の炭素数6〜30、好ましくは炭素数12〜18の直鎖または分枝状のアルケニル基と、炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4、さらに好ましくは炭素数2のアルカノール基を有する不飽和脂肪族アルカノールアミンを挙げることができる。これらの中でも、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミンが特に好ましい。
【0040】
(B2)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.05〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%である。
なお、(B1)成分と(B2)成分を併用する場合、その質量比は特に制限はないが、変速特性に優れる点で、(B1)成分:(B2)成分が、好ましくは1:5〜5:1、より好ましくは1:3〜3:1、特に好ましくは1:2〜2:1である。
【0041】
本発明の潤滑油組成物には、金属間摩擦係数をより高めるために(C)リン系摩耗防止剤を含有することが好ましい。
リン系摩耗防止剤としては、分子中にリンを含むものであれば特に制限はないが、例えば、炭素数1〜30の炭化水素基を有するリン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、リン酸トリエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類、チオリン酸モノエステル類、チオリン酸ジエステル類、チオリン酸トリエステル類、チオ亜リン酸モノエステル類、チオ亜リン酸ジエステル類、チオ亜リン酸トリエステル類、これらのエステル類とアミン類あるいはアルカノールアミン類との塩若しくは亜鉛塩等の金属塩等が使用できる。前記炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができ、1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
【0042】
本発明の潤滑油組成物においてリン系摩耗防止剤の含有量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%であるが、リン元素濃度として、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.005〜0.08質量%、さらに好ましくは0.01〜0.06質量%、特に好ましくは0.02〜0.05質量%である。リン系摩耗防止剤の含有量を上記範囲とすることで、摩耗防止性及び初期シャダー防止性能に優れると共に、シャダー防止性能を長期間維持しやすい組成物を得ることができる。
【0043】
本発明においては、上記(C)リン系摩耗防止剤のうち、(C1)炭素数17以下、好ましくは炭素数4〜8、さらに好ましくは炭素数4〜6のアルキル基を有するアルキルホスファイトを含有することが好ましく、モノブチルホスファイト、ジブチルホスファイトおよびトリブチルホスファイトから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、ジブチルホスファイトが最も好ましい。アルキル基の炭素数が17以下のアルキルホスファイト、特にアルキル基鎖長が短いアルキルホスファイト、例えばジブチルホスファイトを用いることで金属間のμ−V特性に優れ、スクラッチノイズ防止性に優れるとともに、アルキル基の炭素数が18以上のアルキルホスファイトを用いた場合と比べ金属間摩擦係数が高くトルク伝達能力をより高めた潤滑油組成物を得ることができる。
【0044】
また、本発明においては、金属間摩擦係数をより高め、トルク伝達能力を高めることができる点で、(C2)炭素数6〜12、好ましくは炭素数6〜8の(アルキル)アリールホスファイト(アルキル基は炭素数1〜6、好ましくは1〜2のアルキル基を示す。)を含有することがより好ましい。該(アルキル)アリールホスファイトの具体例としては、モノフェニルホスファイト、ジフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、モノクレジルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリクレジルホスファイト等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましく、ジフェニルホスファイトであることが最も好ましい。
また、シャダー防止寿命をより高めることができる点で、(C2)成分と(B1)成分を併用することが好ましく、(C2)成分、(B1)成分及び(B2)成分を併用することがさらに好ましい。
【0045】
また、(C2)成分単独では(A)成分及び(B)成分のバランスにより金属間のμ−V特性が悪化する傾向もあるため、金属間のμ−V特性により優れ、金属間摩擦係数をより高めることができる点で、(C1)成分と(C2)成分と併用することが特に好ましい。
従って、本発明においては、スクラッチノイズ防止性の向上、シャダー防止寿命の向上及び金属間摩擦係数の向上の全てをバランス良く最適化することができる点で、(C1)成分及び/又は(C2)成分と、(B1)並びに(B2)成分とを併用することが特に好ましい。
【0046】
本発明において、(C1)成分を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、リン量として0.001〜0.1質量%、好ましくは0.01〜0.05質量%、さらに好ましくは0.02〜0.03質量%であり、(C2)成分を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、リン量として0.001〜0.1質量%、好ましくは0.005〜0.05質量%、さらに好ましくは0.01〜0.02質量%であり、(C1)成分と(C2)成分を併用する場合の含有比率は、リン元素比率(質量比)として好ましくは1:0.1〜5:1、より好ましくは1:0.3〜1:1、さらに好ましくは1:0.5〜1:0.8である。
【0047】
なお、本発明の潤滑油組成物において、(C)リン系摩耗防止剤を含有させる場合、そのリン元素濃度での含有量(P)に対する(A1)成分の金属元素濃度での含有量(MeA)の質量比((MeA)/(P))には特に制限はなく、通常250以下であるが、好ましくは0.1〜250、より好ましくは0.5〜50、さらに好ましくは0.8〜5、特に好ましくは1〜3である。(C)成分のリン元素濃度での含有量(P)に対する(A1)成分の質量比を上記範囲とすることで、摩耗防止性及び初期シャダー防止性能に優れると共に、シャダー防止性能を長期間維持しやすい組成物を得ることができる。
【0048】
本発明の潤滑油組成物は、上記構成によりスクラッチノイズ防止性の向上、金属間摩擦係数の向上及びシャダー防止性能にバランスよく優れる潤滑油組成物を得ることができるが、その性能をさらに高める目的で、又は潤滑油組成物として必要な性能をさらに付与する目的で、公知の潤滑油添加剤を加えることができる。添加できる添加剤としては、例えば、無灰分散剤、(A1)成分及び(A2)成分以外の金属系清浄剤、酸化防止剤、極圧添加剤、粘度指数向上剤、金属不活性化剤、錆止め剤、腐食防止剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等を挙げることができる。これらは単独で、あるいは数種類組合せて用いることができる。
【0049】
無灰分散剤としては、潤滑油用の無灰分散剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能である。例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン等の含窒素化合物、又はその誘導体若しくは変性品等が挙げられる。炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよく、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、組成物の低温流動性が悪化する。
【0050】
上記無灰分散剤の1例として挙げた含窒素化合物の誘導体若しくは変性品としては、例えば、前述したような含窒素化合物に、炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;前述したような含窒素化合物にホウ酸又はホウ酸塩等のホウ素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述したような含窒素化合物にリン酸又は亜リン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン変性化合物;前述したような含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述したような含窒素化合物に酸変性、ホウ素変性、リン変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物等が挙げられる。
本発明の潤滑油組成物には、これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の割合で使用することができる。
【0051】
本発明の潤滑油組成物においては、これら無灰分散剤を含有することが好ましく、湿式クラッチにおける伝達トルク容量の向上、金属間摩擦係数の向上が期待できる点で、非ホウ素系コハク酸イミド系無灰分散剤を含有することが好ましい。また、(A1)成分との併用により伝達トルク容量の向上、変速特性の向上及び金属間摩擦係数の向上が期待できる点で、ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を使用することも有用である。
【0052】
無灰分散剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは1〜6質量%であり、窒素量として通常0.005〜0.4質量%、好ましくは0.01〜0.2質量%、特に好ましくは0.02〜0.15質量%である。また、ホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を使用する場合の含有量は、組成物全量基準で、ホウ素量として0.001〜0.1質量%であり、好ましくは0.005〜0.08質量%、より好ましくは0.01〜0.05質量%、特に好ましくは0.015〜0.025質量%である。
【0053】
(A1)成分及び(A2)成分以外の金属系清浄剤としては、フェネート系清浄剤等が挙げられる。
フェネート系清浄剤としては、具体的には、炭素数4〜30、好ましくは炭素数6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノールと硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
これら(A1)成分及び(A2)成分以外の金属系清浄剤の塩基価は、通常0〜500mgKOH/g、好ましくは20〜450mgKOH/gのものを使用することができる。
本発明の潤滑油組成物において、(A1)成分及び(A2)成分以外の金属系清浄剤を含有させる場合、その含有量は特に限定されないが、組成物全量基準で通常0.01〜5質量%であり、好ましくは0.05〜1質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0054】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。
具体的には、2−6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4、4−ビスフェノール(2、6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えば、メタノール、オクタデカノール、1、6ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル、フェノチアジン類、モリブデンや銅、亜鉛等の有機金属系酸化防止剤及びこれらの混合物等を挙げることができる。
本発明においてはこれらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%である。
なお、本発明においてはフェノール系酸化防止剤及び/又はアミン系酸化防止剤を使用することが好ましく、特にシャダー防止性能をより長期に渡り維持しやすい点でフェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤を併用することが好ましい。フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤を併用する場合の質量比は、好ましくは1:5〜10:1、より好ましくは1:1〜8:1、さらに好ましくは2:1〜6:1である。
【0055】
極圧添加剤としては、潤滑油用の極圧添加剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、例えば、ジチオカーバメート類、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等の硫黄系化合物等が挙げられる。本発明においてはこれらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%である。
【0056】
粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
これらの粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば、分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、5000〜150000、好ましくは5000〜35000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は800〜5000、好ましくは1000〜4000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は800〜150000、好ましくは3000〜12000のものが好ましい。
本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜20.0質量%である。
【0057】
金属不活性化剤としては、チアゾール化合物やチアジアゾール化合物が挙げられ、チアジアゾール化合物が好ましく用いられる。チアジアゾール化合物としては、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2,5−ビス(アルキルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2−(アルキルチオ)−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、炭素数6〜24の直鎖又は分枝アルキル基を有する、2−(アルキルジチオ)−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールが特に好ましい。これら金属系不活性化剤の含有量は、組成物全量基準で0.005〜0.5質量%である。
錆止め剤としては、例えば、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート等を挙げることができる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、イミダゾール系の化合物等を挙げることができる。
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等を挙げることができる。
ゴム膨潤剤としては、芳香族系やエステル系のゴム膨潤剤等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーンやフルオロシリコーン等のシリコーン類を挙げることができる。
【0058】
これらの添加剤の含有量は任意であるが、通常組成物全量基準で、腐食防止剤の含有量は0.005〜0.2質量%、消泡剤の含有量は0.0005〜0.01質量%、その他の添加剤の含有量は、それぞれ0.005〜10質量%程度である。
【0059】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、通常2〜25mm/s、好ましくは3〜15mm/s、より好ましくは4〜10mm/s、更に好ましくは5〜7mm/sである。
【0060】
本発明の潤滑油組成物は、優れたスクラッチノイズ防止性、金属間摩擦係数及びシャダー防止性能に優れる、ベルト式CVTと発進クラッチ等のスリップ制御式湿式クラッチを有する無段変速機用に特に好適な潤滑油組成物であり、シャダー防止寿命の向上が期待できる点から、自動変速機用の潤滑油組成物にも好適である。
また、本発明の潤滑油組成物は、上記以外の変速機油としての性能にも優れており、自動車、建設機械、農業機械等の自動変速機用あるいは手動変速機用、ディファレンシャルギヤ用の潤滑油としても好適に用いられる。その他、工業用ギヤ油、二輪車、四輪車等の自動車用、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン用の潤滑油、タービン油、圧縮機油等にも好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の潤滑油組成物は、優れたスクラッチノイズ防止性、金属間摩擦係数及びシャダー防止性能に優れる、ベルト式CVTと発進クラッチ等のスリップ制御式湿式クラッチを有する無段変速機用に特に好適な潤滑油組成物であり、シャダー防止寿命の向上が期待できる点から、自動変速機用の潤滑油組成物にも好適である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の内容を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0063】
(実施例1〜3及び比較例1〜6)
表1の実施例1〜3に示す潤滑油組成物(その他添加剤としてさらに粘度指数向上剤を組成物の100℃動粘度が7mm/sとなるように調製)及び比較のため比較例1〜6に示す各潤滑油組成物を調製し、以下に示す(1)金属間摩擦特性(μ−V特性)、(2)金属間摩擦係数及び(3)シャダー防止寿命を評価し、その結果を表1に併記した。基油の割合は基油全量基準、各添加剤の添加量は組成物全量基準である。
【0064】
(1)金属間摩擦特性(μ−V特性)
Falex Block-on-Ring Test Machineを用い、以下に示す条件で摩擦試験を行い、すべり速度2cm/sおよび20cm/sにおいて計測された摩擦力から摩擦係数を求め、μ2/μ20を計算した。μ2/μ20が1以下、特に1.00未満であればμ―Vが正勾配となるため、スクラッチノイズ防止性に優れていると判断した。
(試験条件)
リング :Falex S-10 Test Ring (SAE 4620 Steel)
ブロック:Falex H-60 Test Block (SAE 01 Steel)
油温 :60℃
負荷荷重:90N
【0065】
(2)金属間摩擦係数
金属ベルト式無段変速機のベルト−プーリー間の金属間摩擦特性を評価するため、Falex Block-on-Ring Test Machineを用い、以下に示す条件で摩擦試験を行い、計測された摩擦力から摩擦係数を求めた。
(試験条件)
リング :Falex S-10 Test Ring (SAE 4620 Steel)
ブロック :Falex H-60 Test Block
油温 :80℃
負荷荷重 :660N
すべり速度:50cm/s
【0066】
(3)シャダー防止寿命
JASO M349−98「自動変速機油シャダー防止性能試験方法」に準拠して低速滑り試験を行い、同試験法に規定されている基準油の寿命と実施例及び比較例の寿命との比により、シャダー防止性能の維持性を評価した。寿命が48h以上であればシャダー防止寿命に優れる一般レベルであり、120h以上であれば、その潤滑油組成物はシャダー防止性能の寿命が極めて優れていると判断される。なお、摩擦材はセルロース系の湿式摩擦材を用いた。
【0067】
表1の結果から明らかな通り、本発明にかかる実施例1〜3の組成物を使用した場合、スックラッチノイズ防止性の目安である金属間摩擦特性dμ/dVが正勾配を示しかつ金属間摩擦係数も高く維持でき、シャダー防止寿命も長く優れた性能を有することがわかる。一方、(A)〜(B)成分のいずれかを使用しない場合(比較例1〜2)、(B)成分として(B1)成分を使用しない場合(比較例3〜6)においては、金属間摩擦係数と金属間摩擦特性、シャダー防止寿命のいずれかもしくは全てを両立できないことがわかる。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(A)金属系清浄剤及び(B)摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物であって、組成物全量基準で、(A1)スルホネート系清浄剤及び/又は(A2)サリシレート系清浄剤を金属量として0.01〜0.4質量%、および(B1)脂肪酸金属塩系摩擦調整剤を0.01〜5質量%含有してなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに(B2)アルカノールアミン系摩擦調整剤を、組成物全量基準で、0.01〜5質量%含有してなることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに(C)リン系摩耗防止剤として、(C1)アルキル基の炭素数が17以下のアルキルホスファイト及び/又は(C2)炭素数6〜12の(アルキル)アリールホスファイトを、組成物全量基準で、リン量として0.001〜0.1質量%含有してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2007−126542(P2007−126542A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319879(P2005−319879)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】