説明

潤滑油組成物

【課題】優れた耐磨耗性を有する潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び(B) 少量の添加剤成分としての、無水マレイン酸とフランの水添ディールス-アルダー付加物から誘導された一種以上の油溶性イミド(そのイミド基は式>NR (式中、Rは4〜8個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基である)を有する)を含む内燃エンジン用クランクケース潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車潤滑油組成物、更に特別にはピストンエンジン、特に、ガソリン(火花点火)及びディーゼル(圧縮点火)中の使用、クランクケース潤滑のための自動車潤滑油組成物(このような組成物はクランクケース潤滑剤と称される)に関する。特に、専らではないが、本発明は自動車潤滑油組成物中の耐磨耗性を有する添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクケース潤滑剤は内燃エンジンにおける一般の潤滑のために使用される油であり、この場合、オイル・サンプが一般にエンジンのクランクシャフトの下に配置され、それに循環油が戻る。添加剤を幾つかの目的のためにクランクケース潤滑剤中に含むことは公知である。
ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩の形態のリンが耐磨耗性を有する内燃エンジン用潤滑油組成物を提供するために長年にわたって使用されていた。金属は亜鉛、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル或いは銅であってもよい。これらのうち、ジヒドロカルビルジチオリン酸の亜鉛塩(ZDDP)が最も普通に使用されている。しかしながら、完成クランクケース潤滑剤中のリンの量の一層厳密な制御の予測がこのような潤滑剤中のZDDPを、少なくとも一部、置換するために無リン添加剤を提供するようにとの要望をもたらしていた。
米国特許出願第2006/0183647号 (以下‘647と称する) (現在の米国特許第7,807,611 B2 号)は、この要望に取り組み、磨耗低減及びその他の性質を与えるために低リン潤滑剤中の酒石酸化合物を記載している。記載された酒石酸化合物として、酒石酸とアミンの縮合生成物、酒石酸イミドを含む特別に記載された化合物が挙げられる。 ‘647 はアミンが式RR1NH(式中R及びR1 は夫々独立にH、1-150個もしくは8-30個又は1-30個或いは8-150個の炭素原子の炭化水素をベースとする基を表す)を有してもよいことを記述している。‘647はオレイル酒石酸イミド及びトリデシルプロポキシアミン酒石酸イミドを詳しく記載している。こうして、‘647はNイミド原子にある比較的長い鎖基の存在を例示している。そのイミドの分子量がそれにより高められる。これは添加剤の一層多い質量が特定のモル数のイミドを得るのに必要とされることを意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は短鎖ヒドロカルビル基を有するイミドの形態の無リン添加剤を提供することにより上記問題を満足し、そのイミドはディールス-アルダー付加物から誘導される。本発明のイミドは、‘647に記載された添加剤の耐磨耗活性に匹敵する耐磨耗活性を、一層低い処理率で有することがわかる。
本発明はまた‘647に記載された添加剤の別型を提供すると見なされるかもしれない。
第一局面によれば、本発明は
(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び
(B) 少量の添加剤成分としての、無水マレイン酸とフランの水添ディールス-アルダー付加物から誘導された一種以上の油溶性イミド(そのイミド基は式>NR (式中、Rは4〜8個、例えば、4〜6個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基である)を有する)
を含み、又はこれらを混合することによりつくられた内燃エンジン用クランクケース潤滑油組成物を提供する。
第二局面によれば、本発明は潤滑油組成物に少量の本発明の第一局面で特定された一種以上の添加剤(B) を混入する工程を含む潤滑油組成物の耐磨耗性の改良方法を提供する。
第三局面によれば、本発明は
(i) 過半量の潤滑粘度の油中に、少量の、本発明の第一局面で特定された一種以上の添加剤(B) を提供して潤滑油組成物をつくることにより、組成物の耐磨耗性を改良する工程、
(ii) 前記潤滑油組成物を燃焼チャンバー中に提供する工程、
(iii) 炭化水素燃料を燃焼チャンバー中に提供する工程、及び
(iv) 前記燃料を燃焼チャンバー中で燃焼させる工程
を含む、運転中の内燃チャンバーの燃焼チャンバーの表面の潤滑方法を提供する。
【0004】
この明細書中、下記の用語及び表現は、使用される場合に、以下の特有の意味を有する。
“活性成分”又は“(a.i.)”は希釈剤又は溶媒ではない添加剤を表す。
“含む”又は同義語は記述された特徴、工程、又は整数もしくは成分の存在を明記するが、一つ以上のその他の特徴、工程、整数、成分又はこれらのグループの存在又は追加を排除しない。“からなる”又は“実質的にからなる”という表現或いは同義語は“含む”又はその同義語の中に含まれてもよく、“実質的にからなる”はそれが適用される組成物の特徴に実質的に影響しない物質の包含を許す。
“ヒドロカルビル”は水素原子及び炭素原子のみを含み、炭素原子を介して化合物の残部に直接結合されている化合物の化学基を意味する。
本明細書に使用される“油溶性”もしくは“油分散性”、又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又はあらゆる比率で油中で分散し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、これらの用語は、それらが、例えば、油が使用される環境でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度で油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、他の添加剤の追加の混入がまた所望により一層高レベルの特別な添加剤の混入を許すかもしれない。
“過半量”は組成物の50質量%を超える量を意味する。
“少量”は組成物の50質量%未満を意味する。
“TBN”はASTM D2896により測定された全アルカリ価を意味する。
“リン含量”はASTM D5185により測定され、
“硫黄含量”はASTM D2622により測定され、また
“硫酸塩灰分”はASTM D874 により測定される。
また、使用される種々の成分(必須のものだけでなく、最適のもの及び通例のもの)は、配合、貯蔵又は使用の条件下で反応してもよいこと、及び本発明がまたあらゆるこのような反応の結果として得られ、又は得られた生成物を提供することが理解されるであろう。
更に、本明細書に示される量、範囲及び比の上限及び下限は独立に組み合わされてもよいことが理解される。
【発明を実施するための形態】
【0005】
適当な場合に、本発明の夫々の局面及び全ての局面に関する本発明の特徴が、今以下に更に詳しく説明されるであろう。
潤滑粘度の油(A)
潤滑粘度の油(しばしば“原料油”又は“ベースオイル”と称される)は潤滑剤の液体主成分であり、これに添加剤そしておそらくその他の油が、例えば、最終の潤滑剤(又は潤滑剤組成物)を生成するためにブレンドされる。
ベースオイルは濃縮物をつくるだけでなく、それから潤滑油組成物をつくるのに有益であり、天然(植物、動物又は鉱物)及び合成の潤滑油並びにこれらの混合物から選ばれてもよい。それは軽質蒸留鉱油から重質潤滑油まで、例えば、ガスエンジンオイル、潤滑鉱油、自動車オイル及びヘビーデューティディーゼルオイルの粘度の範囲であってもよい。一般に、油の粘度は100℃で、2mm2s-1から30 mm2s-1まで、特に5〜20mm2s-1の範囲である。
【0006】
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油及びラード油)、液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶剤処理された潤滑鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油がまた有益なベースオイルである。
合成潤滑油として、炭化水素油、例えば、重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びこれらの誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
合成潤滑油の別の好適なクラスはジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。これらのエステルの特別な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより生成された複雑なエステルが挙げられる。
【0007】
合成油として有益なエステルとして、C5-C12モノカルボン酸及びポリオール並びにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールからつくられたものがまた挙げられる。
未精製油、精製油及び再精製油が本発明の組成物中に使用し得る。未精製油は更に精製処理しないで天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油、蒸留から直接得られた石油、又はエステル化方法から直接得られ、更に処理しないで使用されるエステル油が未精製油であろう。精製油はそれらが一つ以上の性質を改良するために一つ以上の精製工程で更に処理された以外は未精製油と同様である。多くのこのような精製技術、例えば、蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、濾過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は既に商用された精製油に適用される、精製油を得るのに使用される方法と同様の方法により得られる。このような再精製油はまた再生油又は再加工油として知られており、使用済み添加剤及び油分解生成物の認可のための技術によりしばしば更に加工される。
ベースオイルのその他の例は合成軽油(gas-to-liquid(“GTL”))ベースオイルであり、即ち、ベースオイルはフィッシャー-トロプッシュ触媒を使用して水素及び一酸化炭素を含む合成ガスからつくられたフィッシャー-トロプッシュ合成炭化水素から誘導されたオイルであってもよい。これらの炭化水素は典型的にはベースオイルとして有益であるために更なる加工を必要とする。例えば、それらは、当業界で知られている方法により、水素異性化されてもよく、ハイドロクラッキングされ、水素異性化されてもよく、脱蝋されてもよく、又は水素異性化され、脱蝋されてもよい。
ベースオイルはAPI EOLCS 1509定義に従ってグループI〜Vにカテゴリー化されてもよい。
【0008】
潤滑粘度の油が濃縮物をつくるのに使用される場合、それは濃縮物生成量(例えば、30質量%から70質量%まで、例えば、40〜60質量%)で存在して、必要により一種以上の補助添加剤とともに、例えば、1〜90質量%、10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%、更に好ましくは20〜70質量%(活性成分)の一種以上の添加剤(上記成分(B)である)を含む濃縮物を与える。濃縮物中に使用される潤滑粘度の油は好適な油性の、典型的には炭化水素、キャリヤー液体、例えば、潤滑鉱油、又はその他の好適な溶媒である。潤滑粘度の油、例えば、本明細書に記載されたものだけでなく、脂肪族、ナフテン系、及び芳香族の炭化水素が、濃縮物に適したキャリヤー液体の例である。
濃縮物はそれらの使用の前に添加剤を取り扱うだけでなく、潤滑油組成物中の添加剤の溶解又は分散を促進するのに便利な手段を構成する。一種より多い型の添加剤(しばしば“添加剤成分”と称される)を含む潤滑油組成物を調製する場合、夫々の添加剤が、夫々濃縮物の形態で、別々に混入されてもよい。しかしながら、多くの場合、単一濃縮物中に一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものを含む所謂添加剤“パッケージ”(また“アドパック”と称される)を用意することが便利である。
本発明の潤滑油組成物は、必要により、一種以上の補助添加剤、例えば、以下に記載されるものとともに用意されてもよい。この調製は添加剤を油に直接添加することにより、又はそれをその濃縮物の形態で添加して添加剤を分散もしくは溶解することにより達成されてもよい。添加剤は他の添加剤の添加の前、同時、又はその後に当業者に知られているあらゆる方法により油に添加されてもよい。
潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、好ましくは55質量%より多く、更に好ましくは60質量%より多く、更に好ましくは65質量%より多い量で存在する。潤滑粘度の油は潤滑油組成物の合計質量を基準として、好ましくは98質量%より少なく、更に好ましくは95質量%より少なく、更に好ましくは90質量%より少ない量で存在する。
【0009】
本明細書に使用される“油溶性”もしくは“油分散性”という用語、又は同義語は化合物又は添加剤が可溶性、溶解性、混和性であり、又はあらゆる比率で油中で分散し得ることを必ずしも示さない。しかしながら、これらは、それらが、例えば、油が使用される環境でそれらの意図される効果を与えるのに充分な程度で油に可溶性又は安定に分散性であることを意味する。更に、他の添加剤の追加の混入がまた所望により一層高レベルの特別な添加剤の混入を許すかもしれない。
本発明の潤滑油組成物は、特に内燃エンジン、例えば、火花点火又は圧縮点火2又は4ストローク往復エンジン中の、機械エンジン部品を、それにその組成物を添加することにより潤滑するのに使用されてもよい。それらはクランクケース潤滑剤であることが好ましく、それらの中にヘビーデューティディーゼル(HDD) エンジン潤滑剤が挙げられるかもしれない。
本発明の潤滑油組成物は、油性キャリヤーと混合する前及び後に化学的に同じに留まってもよく、又は留まらなくてもよい、定義された成分を含む。本発明は混合の前、もしくは混合の後、又は混合の前及び後の両方で、定義された成分を含む組成物を含む。
濃縮物が潤滑油組成物をつくるのに使用される場合、それらは、例えば、濃縮物の質量部当り3〜100質量部、例えば、5〜40質量部の潤滑粘度の油で希釈されてもよい。
本発明の潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、リンの原子として表して、1600ppm(質量基準)以下、好ましくは1200ppm以下、更に好ましくは800ppm以下、例えば、500ppm以下、例えば、200〜800ppm、又は200〜500ppmの範囲のレベルのリンを含んでもよい。上記の幾つかが低リン油と称されるかもしれない。或る場合には、リンが実質的に存在しない。潤滑油組成物はリン原子として表して、1000ppm(質量基準)以下、例えば、800ppm以下のリンを含むことが好ましい。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫黄を含んでもよい。潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、硫黄の原子として表して、好ましくは0.4質量%まで、更に好ましくは0.3質量%まで、最も好ましくは0.2質量%までの硫黄を含む。
典型的には、潤滑油組成物は低レベルの硫酸塩灰分を含んでもよい。潤滑油組成物は組成物の合計質量を基準として、1.0質量%まで、好ましくは0.8質量%までの硫酸塩灰分を含むことが好ましい。
好適には、潤滑油組成物は4〜15、好ましくは5〜11の全アルカリ価(TBN) を有してもよい。
【0010】
添加剤成分(B)
(B) は3段階方法によりつくられてもよい。最初に、フランと無水マレイン酸のディールス-アルダー付加物がつくられ、第二に、その付加物が接触水素化され、最後にその生成物が一級アミンと反応させられて酸無水物部分をイミド部分に変換する。この明細書の例は例示の反応スキームを含む。
イミド部分の基Rは、記述されたように、4〜8個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基である。Rは直鎖又は分岐アルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。Rは好ましくは4個から7個未満まで、例えば、4〜6個、更に好ましくは4個又は6個、最も好ましくは4個の炭素原子を有する。Rの注目に値する例はn-ブチルである。このような添加剤は本発明の実施において油溶性又は油分散性であるとわかる。
(B) はまた上記方法により得られる生成物と定義されてもよい。
好適には、添加剤成分(B) は潤滑油組成物の合計質量を基準として、潤滑油組成物の0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.1〜2質量%の量で存在する。
【0011】
補助添加剤
添加剤成分(B) と異なる、また存在してもよい補助添加剤が、代表的な有効量とともに、以下にリストされる。リストされた全ての値は活性成分質量%として記述される。
添加剤 質量% 質量%
(広い範囲) (好ましい範囲)
無灰分散剤 0.1-20 1-8
金属洗剤 0.1-15 0.2-9
摩擦改質剤 0-5 0-1.5
腐食抑制剤 0-5 0-1.5
金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート 0-10 0-4
酸化防止剤 0-5 0.01-3
流動点降下剤 0.01-5 0.01-1.5
消泡剤 0-5 0.001-0.15
補充耐磨耗剤 0-5 0-2
粘度改質剤(1) 0-6 0.01-4
鉱物又は合成ベースオイル 残部 残部
(1) 粘度改質剤はマルチグレードオイル中でのみ使用される。
典型的には添加剤又は夫々の添加剤をベースオイルにブレンドすることによりつくられた、最終潤滑油組成物は5質量%から25質量%まで、好ましくは5〜18質量%、典型的には7〜15質量%の補助添加剤を含んでもよく、残部は潤滑粘度の油である。
上記補助添加剤が以下のように更に詳しく説明される。当業界で知られているように、或る種の添加剤は多くの効果を与えることができ、例えば、単一添加剤が分散剤及び酸化抑制剤として作用し得る。
【0012】
分散剤はその主たる機能が固体及び液体の汚染物を懸濁して保持し、それによりそれらを不動態化し、エンジン付着物を減少すると同時にスラッジ付着物を減少する添加剤である。例えば、分散剤は潤滑剤の使用中に酸化から生じる油不溶性物質を懸濁して維持し、こうしてスラッジ凝集及びエンジンの金属部分上の沈殿又は付着を防止する。
分散剤は、上記のように、通常“無灰”であり、金属を含み、それ故、灰を形成する物質とは対照的に、燃焼時に灰を実質的に形成しない非金属有機物質である。それらは極性頭部を有する長い炭化水素長鎖を含み、その極性は、例えば、O原子、P原子、又はN原子の組み込みから誘導される。その炭化水素は、例えば、40〜500個の炭素原子を有する、油溶性を与える親油性基である。こうして、無灰分散剤は油溶性ポリマー主鎖を含んでもよい。
オレフィンポリマーの好ましいクラスは、ポリブテン、特に、例えば、C4製油装置流の重合により調製し得るような、ポリイソブテン(PIB)又はポリ-n-ブテンにより構成される。
分散剤として、例えば、長鎖炭化水素置換カルボン酸の誘導体が挙げられ、例は高分子量ヒドロカルビル置換コハク酸の誘導体である。分散剤の注目に値するグループは、例えば、上記酸(又は誘導体)を窒素含有化合物、有利にはポリアルキレンポリアミン、例えば、ポリエチレンポリアミンと反応させることによりつくられた、炭化水素置換スクシンイミドにより構成される。ポリアルキレンポリアミンとアルケニル無水コハク酸の反応生成物、例えば、米国特許第3,202,678号、同第3,154,560号、同第3,172,892号、同第3,024,195号、同第3,024,237号、同第3,219,666号、及び同第3,216,936号に記載されたものが特に好ましく、それらはそれらの性質を改良するために、後処理、例えば、ホウ化(米国特許第3,087,936号及び同第3,254,025号に記載されたような)、フッ素化そしてオキシル化されてもよい。例えば、ホウ化はアシル窒素含有分散剤をホウ素酸化物、ホウ素ハロゲン化物、ホウ素酸及びホウ素酸のエステルから選ばれたホウ素化合物で処理することにより達成されてもよい。
【0013】
洗剤はエンジン中の、ピストン付着物、例えば、高温ワニス付着物及びラッカー付着物の生成を減少する添加剤である。それは通常酸中和特性を有し、微細な固体を懸濁して保つことができる。殆どの洗剤は金属“石鹸”をベースとし、これは酸性有機化合物の金属塩である。
洗剤は一般に長い疎水性尾部とともに極性頭部を含み、その極性頭部は酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は実質的に化学量論量の金属を含んでもよく、その場合にはそれらは通常又は中性の塩として通常記載され、典型的には0から80までの全アルカリ価即ちTBN(ASTM D2896により測定し得る)を有するであろう。多量の金属塩基が過剰の金属化合物、例えば、酸化物又は水酸化物と酸性ガス、例えば、二酸化炭素の反応により含まれる。得られる過塩基化(overbased)洗剤は金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和された洗剤を含む。このような過塩基化洗剤は150以上、典型的には250から500以上までのTBNを有してもよい。
使用し得る洗剤として、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの油溶性の中性また過塩基化されたスルホン酸塩、フェネート、硫化フェネート、チオホスホン酸塩、サリチル酸塩、及びナフテン酸塩並びにその他の油溶性カルボン酸塩が挙げられる。最も普通に使用される金属はカルシウム及びマグネシウムであり、これらは両方とも潤滑剤中に使用される洗剤中に、またカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムの混合物中に存在してもよい。洗剤は、例えば、サリチル酸塩洗剤との、種々の組み合わせで使用されてもよく、又はサリチル酸塩洗剤と組み合わせて使用されなくてもよい。
【0014】
摩擦改質剤として、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、グリセリルモノ-オレエート;長鎖ポリカルボン酸とジオールのエステル、例えば、2量体化された不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;並びにアルコキシル化アルキル置換モノ-アミン、ジアミン及びアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化牛脂アミン及びエトキシル化牛脂エーテルアミンが挙げられる。
その他の既知の摩擦改質剤は油溶性有機モリブデン化合物を含む。このような有機モリブデン摩擦改質剤はまた潤滑油組成物に酸化防止信用及び耐磨耗信用を与える。好適な油溶性有機モリブデン化合物はモリブデン-硫黄コアーを有する。例として、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、スルフィド、及びこれらの混合物が挙げられる。モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートが特に好ましい。モリブデン化合物は2核又は3核である。
【0015】
本発明の全ての局面に有益な好ましい有機モリブデン化合物の一つのクラスは式Mo3SkLnQzの3核モリブデン化合物及びこれらの混合物であり、式中、Lはその化合物を油に可溶性又は分散性にするのに充分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立に選ばれたリガンドであり、nは1から4までであり、kは4から7まで変化し、Qは中性電子供与性化合物、例えば、水、アミン、アルコール、ホスフィン、及びエーテルのグループから選ばれ、かつzは0から5までの範囲であり、非化学量論値を含む。少なくとも21個の合計炭素原子、例えば、少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が全てのリガンドの有機基中に存在すべきである。
モリブデン化合物は0.1〜2質量%の濃度で潤滑油組成物中に存在してもよく、又は少なくとも10ppm(質量基準)、例えば、50〜2,000ppmのモリブデン原子を与える。
モリブデン化合物からのモリブデンは潤滑油組成物の合計質量を基準として10ppmから1500ppmまで、例えば、20〜1000ppm、更に好ましくは30〜750ppmの量で存在することが好ましい。或る適用について、モリブデンが500ppmより大きい量で存在する。
酸化防止剤は酸化抑制剤と時折称される。それらは酸化に対する組成物の耐性を増大し、過酸化物と化合し、変性してそれらを無害にすることにより、過酸化物を分解することにより、又は酸化触媒を不活性にすることにより作用し得る。酸化劣化は潤滑剤中のスラッジ、金属表面上のワニスのような付着物、及び増粘により証明し得る。
それらは遊離基脱除剤(例えば、立体障害フェノール、二級芳香族アミン、及び有機銅塩);ヒドロペルオキシド分解剤(例えば、有機硫黄添加剤及び有機リン添加剤);及び多機能剤(例えば、亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスフェート(これらはまた耐磨耗添加剤として機能し得る)、及び有機モリブデン化合物(これらはまた摩擦改質剤及び耐磨耗添加剤として機能し得る)として分類し得る。
【0016】
好適な酸化防止剤の例は銅含有酸化防止剤、硫黄含有酸化防止剤、芳香族アミン含有酸化防止剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、ジチオホスフェート誘導体、金属チオカルバメート、及びモリブデン含有化合物から選ばれる。
ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩は耐磨耗剤及び酸化防止剤として頻繁に使用される。その金属はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、又はアルミニウム、鉛、スズ、亜鉛、モリブデン、マンガン、ニッケル或いは銅であってもよい。亜鉛塩が潤滑油組成物の合計質量を基準として、例えば、0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%の量で潤滑油中に最も普通に使用される。それらは既知の技術に従って最初に通常一種以上のアルコール又はフェノールとP2S5との反応により、ジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を生成し、次いで生成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより調製されてもよい。例えば、ジチオリン酸は一級アルコールと二級アルコールの混合物との反応によりつくられてもよい。また、一方の酸のヒドロカルビル基が特性上完全に二級であり、かつ他方の酸のヒドロカルビル基が特性上完全に一級である場合、多種のジチオリン酸が調製し得る。亜鉛塩をつくるために、あらゆる塩基性又は中性亜鉛化合物が使用し得るが、酸化物、水酸化物及び炭酸塩が殆ど一般に使用される。市販の添加剤は中和反応中の過剰の塩基性亜鉛化合物の使用のために過剰の亜鉛を頻繁に含む。
このような金属塩は、例えば、(B) が100モル%の一種以上のアルコールROH を含み、潤滑油組成物中の合計ZDDP含量(どのような型のものであっても)の少なくとも50モル%を構成する場合に、一種以上の添加剤成分(B) と組み合わせて好適に使用し得る。
【0017】
耐磨耗剤は摩擦及び過度の磨耗を減少し、通常硫黄もしくはリン又はその両方を含む化合物、例えば、多硫化物フィルムを関係する表面に付着することができる化合物をベースとする。ジヒドロカルビルジチオリン酸塩、例えば、本明細書に説明されたジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)が注目に値する。
無灰耐磨耗剤の例として、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、硫化脂肪酸エステル、及びジチオカルバメート誘導体が挙げられる。
錆及び腐食抑制剤は表面を錆及び/又は腐食に対して保護するのに利用できる。錆抑制剤として、ノニオン性ポリオキシアルキレンポリオール及びこれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、並びに陰イオン性アルキルスルホン酸が挙げられる。
流動点降下剤(それ以外に、潤滑油流動性改良剤として知られている)は、油が流れ、又は注入し得る最低温度を低下する。このような添加剤は公知である。これらの添加剤の典型例はC8-C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー及びポリアルキルメタクリレートである。
ポリシロキサン型の添加剤、例えば、シリコーンオイル又はポリジメチルシロキサンは発泡制御を与え得る。
少量の解乳化成分が使用されてもよい。好ましい解乳化成分がEP-A-330,522に記載されている。それはアルキレンオキサイドをビス-エポキシドと多価アルコールの反応により得られた付加物と反応させることにより得られる。解乳化剤は活性成分0.1質量%を超えないレベルで使用されるべきである。活性成分0.001〜0.05質量%の処理率が好都合である。
粘度改質剤(又は粘度指数改良剤)は高温及び低温運転性を潤滑油に付与する。分散剤としてまた機能する粘度改質剤がまた知られており、無灰分散剤について上記されたように調製されてもよい。一般に、これらの分散剤粘度改質剤は官能化ポリマー(例えば、無水マレイン酸の如き活性モノマーで後グラフトされたエチレン-プロピレンのインターポリマー)であり、これらがその後に、例えば、アルコール又はアミンで誘導体化される。
潤滑剤は通常の粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよく、また分散剤粘度改質剤を配合されてもよく、また配合されなくてもよい。粘度改質剤としての使用に適した化合物は一般に高分子量炭化水素ポリマー(ポリスチレンを含む)である。油溶性粘度改質ポリマーは一般に10,000から1,000,000まで、好ましくは20,000〜500,000の重量平均分子量を有し、これはゲル透過クロマトグラフィー又は光散乱により測定し得る。
【実施例】
【0018】
今、本発明が以下の実施例(これらは特許請求の範囲を限定することを目的としない)に特別に記載される。
ディールス-アルダー誘導体の合成
(i) フランと無水マレイン酸の反応
無水マレイン酸(1当量、1質量)をジエチルエーテル(2倍容)中のフラン(5.4当量、3.7質量)の溶液に添加した。その反応混合物を周囲温度で6時間撹拌し、その時に白色の固体が結晶化した。固体を濾過し、ジエチルエーテル(3x2倍容)で洗浄し、次いで真空で乾燥させた。生じた反応は以下のように表される。
【0019】
【化1】

【0020】
(ii)水素化
10%のパラジウム/カーボン(1モル%、0.064質量)をアセトン(10倍容)中の工程(i) の固体1(1当量、1質量)の溶液に添加した。その反応混合物を周囲温度で4バールの水素雰囲気下で撹拌した。1時間後、得られる混合物をセライトにより濾過し、溶媒を減圧下で除去して生成物を以下のように得た。
【0021】
【化2】

【0022】
(iii) イミドの合成
n-ブチルアミン(1当量、0.59倍容)をトルエン(15倍容)中の工程(ii)の生成物2(1当量、1質量)及びトリエチルアミン(3.6倍容、例えば、3.0倍容)の溶液に添加した。その反応混合物を加熱、還流し、生成された水をディーン・アンド・スタークトラップに集めた。水生成が停止した時、その混合物を周囲温度に冷却し、溶媒を減圧で除去して以下に3として示されるイミド−実施例1−(4-n-ブチル-10-オキサ-4-アザトリシクロ[5.2.1.02.6]デカン-3,5-ジオン)を得た。
【0023】
【化3】

【0024】
便宜のために、生成物をn-ブチルイミドの略名により称する。
潤滑油組成物
2組の油組成物を調製した。
第一の組は夫々n-ブチルイミド(0.5又は1質量%)、又は、比較としての、トリデシルプロポキシアミン酒石酸イミド(1質量%)、或いはZDDP(0.75質量%、600ppm(質量基準)のリン)を含むヘビーデューティディーゼル油Xを含んでいた。
油Xは添加剤原料油、洗剤、分散剤、酸化防止剤、ポリイソブテン、消泡剤、原料油、及び粘度改質剤を含んでいた。
第二の組は下記の配合(質量%)を有する油Y、YI及びYIIを含んでいた。
【0025】
【表1】

【0026】
試験及び結果
高周波数往復リグ(PCS インストルメンツから)を使用してHFRRボールx軸磨耗傷(単位:mm)を測定することにより上記油組成物の夫々の磨耗特性を評価した。実験を下記の条件下で行なった。
・100℃で60分間
・1mmのストローク長さの20Hz往復
・通常の装置製造業者供給鋼基板を使用する800gの負荷
対照を添加剤を含まない油Xで行なった。
結果を下記の表に示す。
表1
【0027】
【表2】

【0028】
結果はn-ブチルイミド含有油が耐磨耗性能で対照よりも有意に良好であり、ZDDP含有油及びトリデシルプロポキシアミン酒石酸イミド含有油よりも良好であり、又はこれらに匹敵したことを示す。
表2
【0029】
【表3】

【0030】
結果はそのイミドが耐磨耗添加剤として有意な効果を有し、洗剤成分と比較して優れた耐磨耗活性を有したことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 過半量の潤滑粘度の油、及び
(B) 少量の添加剤成分としての、無水マレイン酸とフランの水添ディールス-アルダー付加物から誘導された一種以上の油溶性イミド(そのイミド基は式>NR (式中、Rは4〜8個の炭素原子を有する脂肪族ヒドロカルビル基である)を有する)
を含み、又はこれらを混合することによりつくられた内燃エンジン用クランクケース潤滑油組成物。
【請求項2】
ヒドロカルビル基が直鎖又は分岐アルキル基又はアルケニル基である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ヒドロカルビル基が4個から7個未満まで、例えば、4〜6個の炭素原子を有する、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ヒドロカルビル基がブチル基、好ましくはn-ブチル基である、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
1.0までの硫酸塩灰分及び0.4質量%までの硫黄含量を有する、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
無灰分散剤、金属洗剤、腐食抑制剤、酸化防止剤、流動点降下剤、耐磨耗剤、摩擦改質剤、解乳化剤、消泡剤及び粘度改質剤の一種以上から選ばれた、(B) とは異なる他の添加剤成分を含む、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
リン原子として表して、1600ppm(質量基準)以下、例えば、1200ppm以下、例えば、800ppm以下、例えば、500ppm以下のリンを有する、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
リンの原子として表して、800ppm(質量基準)以下のリンを有する、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
潤滑油組成物に少量の請求項1から4のいずれかに記載の一種以上の添加剤(B) を混入する工程を含む、潤滑油組成物の耐磨耗性の改良方法。
【請求項10】
(i) 過半量の潤滑粘度の油中に少量の請求項1から4のいずれかに記載の一種以上の添加剤(B) を提供して潤滑油組成物をつくることにより、組成物の耐磨耗性を改良する工程、
(ii) 前記潤滑油組成物を燃焼チャンバー中に提供する工程、
(iii) 炭化水素燃料を燃焼チャンバー中に提供する工程、及び
(iv) 前記燃料を燃焼チャンバー中で燃焼させる工程
を含む、運転中の内燃チャンバーの燃焼チャンバーの表面の潤滑方法。
【請求項11】
潤滑油組成物の耐磨耗性を改良するための、請求項1から4のいずれかに記載の添加剤(B) の使用。

【公開番号】特開2012−102329(P2012−102329A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244290(P2011−244290)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】