説明

潤滑油組成物

【課題】摩擦低減及び腐食防止効果の高い環境規制対応型の内燃機関用の潤滑油を提供する。
【解決手段】基油に、(a)C6〜20の直鎖又は分岐の飽和ヒドロカルビル基を有する脂肪酸とグリセリンとのモノ又はジエステルを0.5〜1.5質量%と、(b)一般式(1)で表されるトリアゾール誘導体を0.2〜0.5質量%と、(c)アルキル基が1級ヒドロカルビル基である1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とアルキル基が2級ヒドロカルビル基である2級ヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛の混合物をリン量換算で0.01〜0.2質量%含有し、上記(a)成分/(b)成分の比が1.5〜8である潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、特には摩擦低減効果および腐食防止性を向上させた内燃機関用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全に対する規制の強化は、現在、地球規模で行われている。特に自動車に関連しては、燃費規制、排出ガス規制等が益々厳しくなっているが、これは地球温暖化等の
環境問題と、石油資源枯渇の懸念、資源保護対策に基づいている。
【0003】
自動車の省燃費化に関する要求に対しては、自動車の軽量化、エネルギー効率を向上させるエンジンの改良、駆動力の伝達効率の向上等、自動車の各種構成要素の改良と共に、エンジンでの摩擦ロスを防ぐためのエンジン油の改善も重要となっている。
エンジン油により省燃費性能の向上を図るために、低粘度化によって粘性抵抗を低減させることが有効であるが、このエンジン油の低粘度化は、エンジン各部での摩耗の増大を引き起こすことから、過度の低粘度化は避けなければならない。
【0004】
省燃費性能の向上を図るために、金属接触部における摩擦を低減させることも有効であるが、摩擦調整剤、耐摩耗剤、極圧剤等の添加が必要であり、モリブデンジチオカーバメイト(MoDTC)などの硫黄含有化合物やリン含有化合物などが用いられている。しかし、この硫黄含有化合物やリン含有化合物により排出ガスを浄化する触媒が被毒し、その浄化性能が劣化することが知られており、この面からすると、エンジン油中の硫黄含有化合物およびリン含有化合物は極力低減することが望ましい。
【0005】
また、最近の厳しい排出ガス規制により、ディーゼルエンジンでは排出ガスに含まれる粒子状物質(PM)および窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質を低減することが重要な課題となっている。その対策としては、PMを自動車の排出ガスから取り除くディーゼル・パティキュレート・フィルター(DPF)やNOxを低減する触媒(酸化または還元触媒)などの排出ガス浄化装置を用いることが有効である。
【0006】
DPFを装着した自動車に従来のエンジン油を用いた場合、DPFに付着したススは酸化、燃焼により取り除くことができる。しかし、エンジン油の一部はエンジンの燃焼室で燃焼し排出ガスと共に排出されるため、エンジン油中の金属分が金属酸化物や硫酸塩などの形態となってDPFに堆積し、DPFの目詰まりを起こすという問題が生じる。このDPFの目詰まりによる性能低下を抑制するため、エンジン油中の金属含有添加剤の使用量を制限することが要求されるようになった。
【0007】
また、DPFにはDPF内に蓄積したススを連続的に燃焼させて系内から排出する(DPFの連続再生という)ために、DPF自身に触媒のコーティングが施されているものもある。この触媒の機能も、排出ガス中に含まれる硫黄分やリン分により被毒し、その性能が劣化することが報告されているため、この触媒機能の低下を抑制するためにもエンジン油中のリン分および硫黄分の低下が要求されるようになった。
このように、油中の金属含有量(灰分)、リン分および硫黄分を低減したエンジン油、すなわち低SAPS油(SAPS:ulphated-sh、hosphorus、ulpher)と言われるエンジン油が、最新の排ガス浄化装置を装備した車両には必要とされるようになった。
【0008】
また、ディーゼルエンジンにおいては軸受け部に、鉄系材料に限らずアルミニウム、銅、錫等の金属材料の他、鉛含有金属材料が使用されることがある。これは、鉛含有金属材料は疲労現象が少ないという優れた特長を有しているためであるが、一方で、この鉛含有金属材料は腐食摩耗が大きいという欠点がある。この腐食摩耗の原因として種々議論されているが、中でも潤滑油の劣化により生成する過酸化物や有機酸の蓄積が主たる原因と考えられている。
【0009】
鉛含有材料の腐食摩耗防止に対しては、ジチオリン酸亜鉛等の硫黄含有化合物が効果的であり、従来のエンジン油では優れた鉛腐食摩耗防止効果を発揮していた。
しかし、最近の上記低SAPS油への要求の高まりにより、エンジン油に最もよく使用される添加剤の一つであるジチオリン酸亜鉛が金属、硫黄、リンを含有することから、エンジン油にはその使用量が制限されることとなり、これにより鉛含有材料の腐食が増大する懸念がある。
また、地球温暖化対策の一環で、カーボンニュートラルの考えから、再生可能原料を主体とした燃料、いわゆるバイオ燃料が使用されるようになると、エンジン油の酸化安定性を著しく損なうことが予側される。すなわち、過酸化物や有機酸の蓄積が軽油を使用するよりも早まることになり、エンジン内の鉛含有材料の腐食が一層増大する懸念があるため、その抑制は急務とされている。
【0010】
鉛含有材料の腐食摩耗を抑えるには、トリアゾール誘導体による手法があるが、この種の腐食防止剤あるいは防錆剤は、副作用として、極圧性や耐摩耗性を大幅に低下させることがあるが、その対応方法については全く示されていない(特許文献1)。
また、銅系金属に対する腐食摩耗を抑える方法も知られているが、その程度はまだ十分でない上に、鉛含有材料に対する解決方法については取り組まれていない(特許文献2)。
つまり、銅系金属と鉛系金属の腐食摩耗を同時に抑制する方法を確立することが要求されている。
【0011】
腐食防止剤や防錆剤が、潤滑油の基本的な性能である極圧性や耐摩耗性をなぜ著しく低下させるかについては種々検討されているが、こうした検討によれば、通常、潤滑油組成物に添加されている極圧剤や耐摩耗剤は、厳しい摺動条件下で摺動部の金属表面に入り込み、その金属表面に吸着して油性膜あるいは反応被膜(耐摩耗被膜という)を形成することで、焼き付きや摩耗及びかじりなどを防ぐが、腐食防止剤や防錆剤は、このような極圧剤や耐摩耗剤の作用を阻害するようになるという。
すなわち、腐食防止剤や防錆剤は金属表面への吸着速度が速く、また金属との親和力が強いために、これらの添加剤が摺動部の金属表面に極圧剤や耐摩耗剤よりも先に強く吸着してしまうため、極圧剤や耐摩耗剤が耐摩耗被膜を形成できず、その結果、損傷や摩擦増大を起こすことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−120735号公報
【特許文献2】特開2003−238982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような状況下で、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、あるいはジメチルエーテルなどを燃料とするエンジンやガスエンジンなどの内燃機関に用いられる、モリブデン系摩擦低減剤を含有しない低灰分、低リン、低硫黄であって、摩擦低減効果及び腐食防止効果を向上させた環境規制対応型の潤滑油組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、潤滑油基油に、(a)特定の脂肪酸グリセライド化合物と(b)特定のトリアゾール誘導体とを一定の比率で併用し、(c)特定のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有させ、いずれも少量ずつ含有させることにより、摩擦低減効果を維持しながら、鉛腐食、銅腐食の問題を解決し得ることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0015】
潤滑油基油に含有させる(a)成分として炭素数6〜20の直鎖又は分岐の飽和ヒドロカルビル基を有する脂肪酸とグリセリンとのモノ又はジエステルを0.5〜1.5質量%と、(b)成分として下記一般式(1)で表されるトリアゾール誘導体
【化1】

〔上記式(1)中、R1は水素または炭素数1〜3のヒドロカルビル基、R2、R3はそれぞれ独立に、水素または酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20のヒドロカルビル基である。R2、R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。〕を0.1〜0.5質量%と、
(c)成分としてアルキル基が1級ヒドロカルビル基である1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、1級ZnDTPということがある)とアルキル基が2級ヒドロカルビル基であるジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、2級ZnDTPということがある)との混合物をリン量換算で0.01〜0.2質量%含有し、上記(a)成分/(b)成分の比率が1.5〜8であるようにした潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記した(a)特定の脂肪酸グリセライド化合物と、(b)特定のトリアゾール誘導体を特定の分量、特定の割合で併用し、(c)1級ZnDTPと2級ZnDTPとを特定の割合で配合させた混合物を含有することにより、各添加剤の組合せによる相乗効果が発現して、省燃費化のため低摩擦を達成しながら、鉛と銅の腐食問題を同時に抑えることができる。この潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦低減剤を含有しなくとも良いもので、低灰分、低リン、低硫黄であって、摩擦低減効果、酸化安定性及び腐食防止効果を向上させた環境規制対応型の内燃機関用の潤滑油組成物であり、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、あるいはジメチルエーテルを燃料とするエンジンやガスエンジンなどの内燃機関に広く用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の潤滑油組成物に用いられる基油には、通常の潤滑油に使用される鉱油、合成油、これらの各種の混合油を適宜使用することができ、API(American Petroleum Institute;米国石油協会)基油カテゴリーでグループ1、グループ2、グループ3、グループ4およびグループ5の基油を単独または混合物として使用することができるが、特にグループ2、グループ3およびグループ4の基油の使用が好ましい。
【0018】
グループ1基油には、例えば、原油を減圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。粘度指数は80〜120、好ましくは95〜110が良い。
100℃における動粘度は、好ましくは2〜40mm/s、より好ましくは3〜15mm/sである。全窒素分は100ppm未満、好ましくは50ppm未満が良い。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは90〜135℃のものを使用するのが良い。
【0019】
上記グループ2基油には、例えば、原油を減圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、水素化分解、脱ろうなどの精製手段を適宜組み合わせて適用することにより得られたパラフィン系鉱油がある。ガルフ社法などの水素化精製法により精製されたグループ2基油は、全イオウ分が10ppm未満、アロマ分が5質量%以下であり、本発明において好適に用いることができる。
これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は80〜120、好ましくは100〜120がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜40mm/s、より好ましくは3〜15mm/s、特に好ましくは3.5〜12mm/sである。また全硫黄分は300ppm未満、好ましくは100ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは100〜135℃のものを使用するのがよい。
これらグループ2基油の中でも、好ましいものとして粘度指数が115以上であるグループ2プラスと呼ばれる基油が挙げられる。
【0020】
グループ3基油には、例えば、原油を減圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、高度水素化精製により製造されるパラフィン系鉱油や、脱ろうプロセスにて生成されるワックスをイソパラフィンに変換・脱ろうするISODEWAXプロセスにより精製された基油や、モービルWAX異性化プロセスにより精製された基油があり、これらも本発明において好適に用いることができる。
これらの基油の粘度は特に制限されないが、粘度指数は120〜160、好ましくは120〜150がよい。100℃における動粘度は、好ましくは2〜40mm/s、より好ましくは3〜15mm/s、特に好ましくは3.5〜12mm/sである。また全硫黄分は、300ppm未満、好ましくは100ppm未満、更に好ましくは10ppm未満がよい。全窒素分も10ppm未満、好ましくは1ppm未満がよい。さらにアニリン点は80〜150℃、好ましくは110〜135℃のものを使用するのがよい。
これらグループ3基油の中でも、好ましいものとして粘度指数が130以上であるグループ3プラスと呼ばれる基油が挙げられる。
【0021】
グループ4基油は、ポリα−オレフィン(PAO)と呼ばれているポリオレフィンである。
粘度は特に制限されないが、100℃における動粘度は、好ましくは2〜40mm/s、より好ましくは3〜15mm/s、特に好ましくは3.5〜12mm/sである。
【0022】
グループ5基油としては、例えば、上記PAO以外のポリオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーンなどが挙げられる。
ポリオレフィンとして、各種オレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。オレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5以上のα−オレフィンなどが挙げられる。ポリオレフィンの製造に当っては、上記オレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)基油は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
GTL基油の粘度性状は特に制限されないが、通例、粘度指数は115〜180、好ましくは125〜175、より好ましくは130〜160である。また100℃における動粘度は2〜12mm/s、好ましくは2.5〜8.5mm/sである。また通例全硫黄分は10ppm未満で、全窒素分は1ppm未満である。そのようなGTL基油の商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)がある。
【0024】
上記の如く、基油として各種の油種を単独使用したり、適宜に混合使用したりすることができるが、こうした基油の硫黄分は、50ppm以下、好ましくは10ppm以下にするとよく、0ppmにすると配合設計の自由度を増すことができて一層好ましいことが多い。
【0025】
上記基油の粘度についても前述の如く特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて適度のものを使用すればよいが、通常100℃における動粘度が、2〜40mm2/s、好ましくは3〜15mm2/s、特に好ましくは3.5〜12mm2/sのものである。100℃における動粘度が2mm2/s以上であると蒸発損失が少なく、また40mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失が抑制され、燃費改善効果が得られる。
【0026】
本発明の上記(a)は脂肪酸グリセライド化合物であって、炭素数6〜20の直鎖又は分岐の飽和ヒドロカルビル基を有する脂肪酸とグリセリンとのモノ又はジエステルである。
この中で、好ましいものとしては、炭素数6〜12の直鎖の飽和ヒドロカルビル基又は炭素数14〜20の分岐の飽和ヒドロカルビル基を有する脂肪酸とグリセリンとのモノ又はジエステルが挙げられる。こうしたものとして、例えば、グリセリルモノイソステアレート、グリセリルモノオクタネートとジオクタネートの混合物などが挙げられる。
この(a)の脂肪酸グリセライド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることができる。また、その配合量は、摩擦低減効果の点から0.5質量%以上が好ましく、より好ましくは0.7質量%以上である。配合量の上限に関しては、金属腐食性、潤滑油の酸化劣化及び経済性の観点より1.5質量%以下にするとよい。
【0027】
本発明の(b)トリアゾール系化合物としては、下記一般式(1)で表されるトリアゾール誘導体が挙げられる。
【化2】

【0028】
上記式(1)中、R1は水素または炭素数1〜3のヒドロカルビル基であり、好ましくは水素である。R2、R3はそれぞれ独立に、水素または酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20のヒドロカルビル基、好ましくは炭素数6〜12のヒドロカルビル基である。R2、R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
上記(b)トリアゾール誘導体はその効果の点から0.1〜0.5質量%使用される。また、このトリアゾール誘導体は、一種を用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。更には、他の金属不活性化剤と組み合わせて用いることもできる。
【0029】
本発明の(c)成分として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を使用する。
このZnDTPは、次の一般式(2)で表される。
【化3】

【0030】
上記式(2)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に炭素数3〜20の直鎖又は分岐の飽和ヒドロカルビル基である。飽和ヒドロカルビル基の炭素数は、好ましくは3〜12、さらに好ましくは3〜8である。
〜Rの炭素数はそれぞれ独立であるが、その構造は同一である。すなわち、Rが1級ヒドロカルビル基である場合には、残りのR〜Rも1級ヒドロカルビル基であり、Rが2級ヒドロカルビル基である場合には、残りのR〜Rも2級ヒドロカルビル基である。
そして、R〜Rが1級ヒドロカルビル基の1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛(1級ZnDTP)とR〜Rが2級ヒドロカルビル基の2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛(2級ZnDTP)とが混合されている。R〜Rはそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0031】
1級ZnDTPと2級ZnDTPの混合物の含有量は、リン量基準(換算)で0.01〜0.2質量%、好ましくは0.05〜0.15質量%、より好ましくは0.05〜0.12質量%である。1級及び2級のZnDTPが少なすぎると、十分な摩耗防止性能が得られず、多すぎても添加効果が飽和して不経済となるのみならず、リン成分の排ガス触媒活性に与える影響が大きくなり、触媒被毒の問題が発生する恐れがある。
【0032】
そして、上記1級ZnDTPと2級ZnDTPの混合物は、1級ZnDTPの割合がリン量基準(換算)で全ZnDTPの10〜60質量%、好ましくは30〜55質量%、より好ましくは33〜50質量%であり、2級ZnDTPが40〜90質量%、好ましくは45〜70質量%、より好ましくは50〜67質量%である。
【0033】
上記した(a)、(b)、(c)成分を含むものにおいて、上記の(a)成分と(b)成分の比率(a/b)は、1.5〜8程度にするとよく、これらによって相乗効果が発現され、単独では実現できないような優良な摩擦低減効果と腐食防止効果が同時に得られるようになる。
【0034】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて(a)、(b)、(c)成分以外の他の添加剤、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩擦低減剤、金属不活性化剤、耐摩耗剤又は極圧剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0035】
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、非分散型オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。
これら粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜15質量%程度である。
また、流動点降下剤としては、例えば重量平均分子量が5,000〜50,000程度のポリメタクリレートなどが例として挙げられる。
【0036】
金属清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属清浄剤があり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート及びこれらの2種類以上の混合物等がある。
上記アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートのアルカリ土類金属としては、マグネシウムやカルシウムがあるが、好ましくはカルシウムが用いられる。
この金属清浄剤としては、上記した中性塩の他、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物等を用いることができ、特にカルシウムサリシレートが清浄性、耐摩耗性において好ましい。
【0037】
上記金属清浄剤の含有量は、通常、金属元素換算量で1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下である。潤滑油組成物中の硫酸灰分を1質量%以下にするためには、0.3質量%以下とすることが好ましい。また、酸化安定性、塩基価維持、高温清浄性を得るためには、含有量が0.05質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上である。
なお、上記硫酸灰分は、JIS K2272の「5.硫酸灰分試験方法」による測定値であり、これは主として金属を含有する添加剤に起因するものであって、これによって組成物中の金属系添加剤の量を知ることができる。
【0038】
無灰分散剤としては、その種類に特に制限はなく、従来一般に使用されるものがいずれも使用でき、例えば、モノイミド型あるいはビスイミド型のコハク酸イミド系化合物,ベンジルアミン系化合物,アルケンアミン系化合物がある。好ましくはコハク酸イミド系化合物、特に好ましくはアルケニルコハク酸イミド類がある。
上記無灰分散剤は、組成物中に0.1〜15質量%、好ましくは0.2〜10質量%含有される。上記含有量が0.1重量%未満では十分な効果が認められず、15重量%を超える場合には効果が飽和し、それ以上の添加は経済的に不利である。上記無灰系分散剤は一種のみで用いることができるが、二種以上を適宜の割合で混合して用いることもできる。
【0039】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等を用いることができる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−ドデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ヘキサメチレングリコールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適であり、また、二種以上を混合して使用することができる。
【0040】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えば、ヘキシルフェニルアニリン,オクチルフェニルアニリンなどのアルキル置換フェニルアニリン系;ビス(ブチルフェニル)アミン,ビス(ペンチルフェニル)アミン,ビス(ヘキシルフェニル)アミン,ビス(ヘプチルフェニル)アミン,ビス(オクチルフェニル)アミン,ビス(ノニルフェニル)アミンなどのビス(アルキル置換フェニル)アミン系;ビス(ジブチルフェニル)アミン,ビス(ジヘキシルフェニル)アミン,ビス(ジオクチルフェニル)アミン,ビス(ジノニルフェニル)アミンなどのビス(ジアルキル置換フェニル)アミン系;及びナフチルアミン系のもの、具体的には2−ナフチルアミン,N−2−ナフチルアニリン,さらにはN−ブチルフェニル−2−ナフチルアミン,N−ペンチルフェニル−2−ナフチルアミン,N−ヘキシルフェニル−2−ナフチルアミン,N−ヘプチルフェニル−2−ナフチルアミン,N−オクチルフェニル−2−ナフチルアミン,N−ノニルフェニル−2−ナフチルアミンなどのN−アルキル置換フェニル−2−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中でビス(アルキルフェニル)アミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
【0041】
モリブデンアミン錯体系酸化防止剤には、6価のモリブデン化合物、例えば三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるものがある。
6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、例えば、モノアミン、ジアミン、ポリアミン、アルカノールアミン、イミダゾリン等の複素環化合物、これらの化合物のアルキレンオキシド付加物、及びこれらの混合物等がある。また、コハク酸イミドの硫黄含有モリブデン錯体等も挙げられる。
【0042】
上記硫黄系酸化防止剤としては、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイドなどのジアルキルサルファイド類、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネートなどのチオジプロピオン酸エステル類、2−メルカプトベンゾイミダゾール、フェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)などが挙げられる。
【0043】
耐摩耗剤、極圧剤としては、上記(c)成分以外のジアルキルジチオリン酸亜鉛や潤滑油に通常用いられる任意の化合物が耐摩耗剤、極圧剤として使用可能であり、例えば、リン酸亜鉛、ジアルキルリン酸亜鉛、ジアルキルモノチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類等の硫黄含有化合物、亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩または金属塩等のリン含有化合物、チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩または金属塩等の硫黄及びリン含有摩耗防止剤、アルカリ金属ホウ酸塩ならびにその水和物が挙げられる。
【0044】
摩擦低減剤としては、上記(a)成分以外の潤滑油用の摩擦低減剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸エステル、脂肪族アミン、酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦低減剤が挙げられる。また、有機配位子を有するモリブデン錯体等の金属含有摩擦低減剤も挙げられる。
【0045】
金属不活性化剤としては、上記(b)成分以外の潤滑油用の金属不活性化剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば、オキサゾール系、チアゾール系、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、インダゾール系、イミダゾール系およびピリミジン系化合物等が挙げられる。
【0046】
防錆剤としては、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
また、界面活性剤又は抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0047】
本発明の潤滑油組成物においては、上記の如く各種の添加剤の使用も可能であるが、潤滑油組成物中の硫黄含有量を0.5質量%以下に、好ましくは0.4質量%以下にするとよい。硫黄含有量が0.5質量%以下であれば、排出ガス浄化触媒の性能低下を抑えることができる。
また、リン含有量は0.01〜0.2質量%、好ましくは0.05〜0.15質量%、より好ましくは0.05〜0.12質量%にするとよい。リン含有量が0.2質量%以下であれば、前記と同様に、排出ガス浄化触媒の性能低下を抑えることができる。
そして、硫酸灰分は1.1質量%以下、好ましくは1.0質量%以下にするとよい。硫酸灰分が1.1質量%以下であれば、DPFの性能低下を抑えることができる。すなわち、DPFに堆積する灰分量が少なく、該フィルタの灰分による目詰まりが抑制され、DPFの使用寿命を長くすることができる。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
表1〜表3に示す組成を有する実施例及び比較例の潤滑油組成物を調製した。なお、潤滑油組成物の調製に用いた各成分は次のとおりである。
【0049】
(1)基油1:フィッシャー・トロプシュ由来のグループ3基油(特性:100℃動粘度3.979mm2/s、粘度指数131、%CAが1以下、硫黄含有量10ppm未満)
(2)基油2:フィッシャー・トロプシュ由来のグループ3基油(特性:100℃動粘度7.565mm2/s、粘度指数145、%CAが1以下、硫黄含有量10ppm未満)
(3)基油3:グループ3基油(特性:100℃動粘度4.250mm2/s、粘度指数125、%CAが1以下、硫黄含有量40ppm)
(4)基油4:グループ3基油(特性:100℃動粘度7.600mm2/s、粘度指数133、%CAが1以下、硫黄含有量10ppm)
(5)基油5:グループ2基油(特性:100℃動粘度5.357mm2/s、粘度指数109、%CAが1以下、硫黄含有量100ppm未満)
(6)基油6:グループ2基油(特性:100℃動粘度12.22mm2/s、粘度指数113、%CAが1以下、硫黄含有量100ppm未満)
【0050】
(7)2級ZnDTP:炭素数が3の2級ヒドロカルビル基および炭素数が6の2級ヒドロカルビル基を有するZnDTPの混合物。P含有量は10.0%
(8)1級ZnDTP:炭素数が5の1級ヒドロカルビル基を有するZnDTP。P含有量は9.5%
(9)グリセライド1:グリセリルモノイソステアレート(GMI)
(10)グリセライド2:グリセリルモノオクタネートとジオクタネートの混合物、モノ体:ジ体が4:6〜6:4
(11)グリセライド3:グリセリルモノオレエート(GMO)
(12)トリアゾール化合物:1−(ジー(2−エチルヘキシル)アミノエチル)1,2,4−トリアゾール(BASF社製 Irgamet30)
(13)ベンゾトリアゾール化合物:1−(ジー(2−エチルヘキシル)アミノエチル)−4−メチルベンゾトリアゾール(BASF社製 Irgamet39)
(14)Caサリシレート:Ca含有量が8質量%、全塩基価が230mgKOH/g
(15)Caスルホネート:Ca含有量が12.5質量%、全塩基価が320mgKOH/g
(16)その他の添加剤:コハク酸イミド分散剤、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤、粘度指数向上剤を含有。
【0051】
上記実施例及び比較例の性能を調べるために、以下に示す往復動摩擦試験、銅及び鉛腐食試験、トラクション試験に基づく摩擦特性試験、酸化安定性試験、耐摩耗性試験およびエンジン清浄性示すホットチューブ試験を行った。行った試験の結果は、表1〜表3に記載した。
〔往復動摩擦試験〕
摩擦特性を見るためにプリント試験機(PLINT・TE77試験機)を用いて評価した。
上部試験片はSK−3製で直径6mm、長さ16mmの円筒形とし、下部試験片はSK−3製の板を用い、試験温度100℃、荷重300N、振幅15mm、往復振動数10Hzで、10分間試験を実施し、得られた摩擦係数を省燃費性の指標とした。
本試験において、摩擦係数が0.115以下が合格値である。
【0052】
〔銅及び鉛腐食試験〕
JIS K2514の内燃機関用潤滑油酸化安定度試験(ISOT)に準拠して、ガラス製ビーカーに潤滑油組成物試料250mlを採取し、鋼板、銅板と鉛板を試料油中に浸漬させ150℃で168時間の酸化安定度試験を行い、試験後の劣化試料油中の銅と鉛の溶出量(ppm)を測定した。
なお、酸化劣化油中の銅、鉛含有量は日本石油学会規格JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
銅及び鉛の溶出量が少ないほど、銅及び鉛に対する腐食影響が少ないことを示す。
本試験における合格値は下記のとおりである。
銅分・・・50ppm以下。
鉛分・・・30ppm以下。
【0053】
〔摩擦特性試験〕
各試料油の摩擦特性を評価するために、PCS Instruments社のEHL薄膜厚計測器を用いて、PCS Instruments社が提供する1/2インチ鋼球とトラクション計測用の鋼製円板との組み合わせで各試料油のトラクションを測定した。
試験条件は、滑り・転がり率20%、荷重20N(0.82GPa)、油温を120℃に設定し、滑り速度0.01m/sにおけるトラクション係数が0.06以下を合格とした。トラクション係数が0.06を超えると摩擦が大きくなり、省燃費性に劣る。
【0054】
〔酸化安定性試験〕
各試料油の酸化安定性を評価するために特開2004−092601号公報に記載されている「潤滑油のピストンアンダークラウン堆積性試験装置」に準拠した試験装置を用いて試験を実施した。
試験条件は、ピストン上部温度275℃、油温100℃、オイル噴射量90ml/分、試験時間を48時間に設定し、試験後の40℃動粘度の増加率を計測し、5%以下のものを合格とした。
【0055】
〔耐摩耗性試験〕
各試料油の耐摩耗性を評価する試験として、ASTM D4172−94“Standard Test Method for Wear Preventive Characteristics of Lubricating Fluid (Four−Ball Method)”に準拠して回転速度1200rpm、荷重40kgf、油温75℃、試験時間1時間の条件で試験を実施し、3つの摩耗痕径の平均が0.50mm未満を合格とした。
【0056】
〔ホットチューブ試験〕
各試料油のピストン清浄性を測る指標となる高温清浄性能を評価するために、日本石油学会規格JPI−5S−55−99「エンジン油−ホットチューブ試験法」に準拠して、ホットチューブ試験を実施した。
試験条件は、試験温度280℃、試験時間16時間、試料油送り速度0.3ml/時間、空気流量10ml/時間に設定し、試験終了後のガラスチューブ変色部の色相評価(メリット評点)が7.0点以上を合格とした。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
(考察・評価など)
表1に示す実施例1〜4及び比較例1〜4のものは、2級及び1級ZnDTP、Caサリシレート、その他の添加剤(コハク酸イミド分散剤、フェノール系及びアミン系酸化防止剤、粘度指数向上剤を含有)を同量に固定して、グリセライド1(グリセライドモノイソステアレート)およびグリセライド2(C8モノ・ジグリセライド)の添加量、またトリアゾール化合物の添加量を変動させて往復動摩擦試験の摩擦係数、銅及び鉛腐食試験(ISOT)の油中銅濃度(溶出量)と油中鉛濃度を測定したものである。なお、1級ZnDTPと2級ZnDTPはリン量基準で1:2の比率で混合して用いた。グリセライド1・2/トリアゾール化合物の比率は2.5〜5である。
【0061】
表1に示すように、実施例1〜4は、往復動摩擦試験における摩擦係数が0.106〜0.114であって合格基準(0.115以下)を満たしている。また、銅及び鉛腐食試験において銅濃度が6〜14ppm、鉛濃度が3〜17ppmであり、いずれも銅腐食(50ppm以下)、鉛腐食(30ppm以下)の合格基準を満たしている。
一方、比較例1はトリアゾール化合物を含有しておらず、往復動摩擦試験における摩擦係数は合格基準を満たしているが、銅及び鉛腐食試験による銅腐食、鉛腐食が著しく、合格基準を満たしていない。比較例2はグリセライドとトリアゾール化合物の比が8を超える処方で、往復動摩擦試験の摩擦係数は合格基準を満たしているが、銅及び鉛腐食試験の銅溶出量、鉛溶出量が合格基準を満たしていない。比較例3はグリセライドとトリアゾール化合物の比が1.5を下回る処方で、銅及び鉛腐食試験の銅溶出量、鉛溶出量は合格基準を満たしているが、往復動摩擦試験の摩擦係数が合格基準を満たしていない。また、比較例4は、グリセライドを添加しておらず、銅及び鉛腐食試験の銅溶出量、鉛溶出量は合格基準を満たしているが、往復動摩擦試験の摩擦係数が合格基準を満たしていない。このように比較例1〜4のものはいずれも合格基準を満たしていないことが判る。
【0062】
ここで実施例1〜4と比較例1〜4の違いは、比較例1のようにトリアゾール化合物を添加せずにグリセライド1(GMI)を用いると銅及び鉛腐食試験の油中の銅と鉛の溶出が合格基準をオーバーし、その金属腐食性が著しいことが分かる。比較例2はトリアゾール化合物の0.1質量%添加により、比較例1に比べて銅分と鉛分の溶出が抑えられているが、未だ合格基準を満たしていない。比較例3はGMIを0.5質量%、トリアゾール化合物を0.5質量%添加することにより、銅分と鉛分の溶出量は合格基準を満たすレベルまで減るが、摩擦係数が合格基準を満たさない。また比較例4のように、トリアゾール化合物を使用しても、GMIを添加しないと摩擦係数が高くなって不合格となる。そして、グリセライド1(GMI)とトリアゾール化合物の添加比率を種々検討したところ、実施例1〜4、比較例1〜4の結果に示す通りグリセライド1・2とトリアゾール化合物の比が適切な範囲(実施例では2.5〜5)であれば、摩擦特性と銅分・鉛分の溶出を効果的に抑制できることがわかる。
【0063】
表2と表3に示すとおり、実施例5〜9は、実施例1と同様にグリセライド1・2とトリアゾール化合物の比を5に固定したものであり、実施例10はその比率を6にしたものであり、いずれも各試験における合格基準を満たしている。
実施例7および実施例8に示す通り、本発明の要件を満たしておれば、基油の種類に依存することなく各項目の合格基準を満たすことが判る。
実施例9は、1級ZnDTPと2級ZnDTPをリン量基準で1:1の比で配合したもので、他の実施例の2:1の比で配合したものと同様に合格基準を満たし、耐摩耗性などに影響がないことを示している。
比較例5や比較例8は、グリセライド1・2とトリアゾール化合物の比を5としているが、ZnDTPとして1級ZnDTPのみを使用する処方は耐摩耗性試験で、2級ZnDTPのみを使用する処方は摩擦特性試験(トラクション係数)で合格基準を満たしておらず、1級ZnDTPと2級ZnDTPとを組み合わせることが耐摩耗性とトラクション係数の両方の合格基準を満たす上で重要なことが判る。また、実施例5に示すグリセライド2もグリセライド1と同様に各試験項目の合格基準を満たすことが分かる。
比較例6はグリセライド1・2の代わりにグリセライド3(不飽和ヒドロカルビル基を有するGMO)を用いたもので、銅腐食試験、酸化安定性試験、ホットチューブ試験において合格基準を満たさず、エンジン油の根幹性能である高温清浄性及び金属腐食抑制性能が大きく劣っている。
比較例7は、トリアゾール化合物の代わりに銅不活性化剤として広く使用されているベンゾトリアゾール化合物を使用したもので、銅及び鉛腐食試験に合格しておらず、腐食抑制に効果がないことが判る。
比較例9は2級ZnDTPとグリセライド3(GMO)を用いたもので、トラクション試験では合格基準を満たすが、ホットチューブ試験の高温清浄性が合格基準を満たさず、GMOではエンジン油としての重要性能の一つである清浄性が悪化することが判明した。
比較例10は比較例9のものからグリセライド3(GMO)を除いたもので、グリセライドが含まれていないものであり、ホットチューブ試験による高温清浄性、銅及び鉛腐食試験は合格しているが、摩擦特性試験におけるトラクション係数が大きくて合格基準を満たさず、省燃費性に劣っていることが判る。
また、実施例6は実施例5のCaサリシレートの一部をCaスルホネートに置き換えているが、各項目の合格基準を満たしており、金属清浄剤としてCaスルホネートも使用できることが示されている。
なお、表3において「実施せず」と記載されているのは、既に実施した試験において合格基準を満たしていないことが判った為に、当該試験を実施しなかったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、(a)炭素数6〜20の直鎖又は分岐の飽和ヒドロカルビル基を有する脂肪酸とグリセリンとのモノ又はジエステルを0.5〜1.5質量%と、(b)下記一般式(1)で表されるトリアゾール誘導体
【化1】

(式1中、R1は水素または炭素数1〜3のヒドロカルビル基、R2、R3はそれぞれ独立に、水素または酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20のヒドロカルビル基である。R2、R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。)を0.1〜0.5質量%と、(c)アルキル基が1級ヒドロカルビル基である1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とアルキル基が2級ヒドロカルビル基である2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物をリン量換算で0.01〜0.2質量%含有し、上記(a)成分/(b)成分の比が1.5〜8であることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
上記(a)成分が、炭素数6〜12の直鎖又は炭素数14〜20の分岐の飽和ヒドロカルビル基である脂肪酸とグリセリンとのモノ又はジエステルである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
上記(a)成分が、グリセリルモノイソステアレート又はグリセリルモノオクタネートとジオクタネートの混合物である請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
上記(c)成分の1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛のアルキル基が、炭素数3〜20の直鎖又は分岐の飽和ヒドロカルビル基である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
上記(c)成分の1級ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物と2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物の混合物の混合割合がリン量基準で1級が10〜60質量%、2級が40〜90質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
上記潤滑油基油は、アメリカ石油協会(API)が定める基油カテゴリーにおいてグループ2、グループ3、グループ4に属する基油またはこれらの混合物であり、組成物の全量基準で50質量%以上を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
上記潤滑油基油がフィッシャートロプシュ合成由来のもので、100℃の動粘度が2.5〜8.5mm/sである請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
上記潤滑油組成物は、内燃機関における銅および/または鉛含有金属材料と潤滑油が接触する潤滑機構において使用される請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2013−64073(P2013−64073A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203583(P2011−203583)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】