説明

潤滑組成物のための改良された腐食抑制方法

本発明は、少なくとも1つのトリアゾール含有種及び少なくとも1つのチアジアゾール含有種を含む組成物に関する。前記組成物の1態様は、マニュアルトランスミッションオイルに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物及び他の機能流体に関する。前記組成物は少なくとも1つのチアジアゾール含有種及び少なくとも1つのトリアゾール含有種を含む。好ましい潤滑組成物において、少なくとも1つの極圧(EP)剤成分及び少なくとも1つのリン含有抗摩耗剤成分も存在する。好ましい態様において前記組成物は特にマニュアルトランスミッションオイルに有用である。
【背景技術】
【0002】
マイクロピッティング及び腐食防止の分野でのマニュアルトランスミッション流体に対する新たな産業的需要が新たな潤滑組成物を必要性としている。このような必要性に見合う、好適なベースストックとブレンドするのに適した新たな添加剤システムが必要とされている。近年製造されている潤滑組成物の好ましい性質、特に酸化及び熱安定性、載荷及び耐天候性能、シール相溶性等に関する性質を損なわずに、新たな必要条件に見合う組成物が好ましい。
【0003】
マニュアルトランスミッション流体、とりわけ、マニュアルトランスミッションオイル又はMTOとして知られている流体は、通常、自動車、軽トラック、及び大型トラックに用いられる。エンジンからのトルクは、機械的クラッチ、加速/減速ギア、例えば平歯車を介して、エンジンから直接、駆動系統に伝わる。このようなギアを潤動させる流体は、従来の性能の中でもとりわけ、積載に対する極圧(EP)性、抗摩耗性、重金属防腐性、防錆性、発泡抑制性、熱及び酸化安定性、洗浄性、シール相溶性を有することが必要である。通常、硫黄(S)及び/又は臭素(B)を主成分とするEP組成物、及び通常リン(P)を主成分とする抗摩耗剤は、潤滑組成物の一部となる。そのような添加剤の例は、米国特許No.4,900,460、米国特許No.5,500,140、米国特許No.5,547,596、米国特許No.5,691,283、米国特許No.5,756,429、米国特許No.6,046,144、米国特許No.6,605,572、米国出願No.2003/0176299、WO03/104620、EP1422287、EP391653、EP531000、EP450208、及びEP531585等の多くの文献に記載されている。
【0004】
しかしながら、特に銅含有組成物、例えば、冷却剤を用いた場合に、硫黄・リン系化合物を主成分とする潤滑剤を用いた液体において腐食が見られる。その結果として、OEMは硫黄・リン系化合物含有添加剤を用いて潤滑組成物を製剤化することが難しいという規格書を発行している。それゆえ、多くのOEMは腐食の問題から硫黄・リン系化合物含有添加剤システムを用いていない。
【0005】
マイクロピッティング及び腐食防止、並びに耐久性に関する新たな要求は硫黄・リン系化合物(SP chemistry)を用いないMTOにおいてもシビアな問題であると認識されている。相手先商標製品の製造会社(OEM)は、新たなマイクロピッティング試験及び長期間腐食試験により製品の性能を証明することを必要としている一方で、EP及び防磨耗性を長期間維持又は改善することも望んでいる。その結果、より長い使用期間、改善された耐久性、及び高められた抗腐食性又は抗マイクロピッティング性が新たなトランスミッション流体に必要とされる重要な性質である。従来の硫黄・リン系(SP)(添加剤)パッケージは十分なレベルの性能条件を満たすために四苦八苦している。
【0006】
添加剤パッケージについては、膨大な数の添加剤が提案されているが、他の性能において従来の性能水準を維持しつつ、MTO等の動力伝播装置において好ましいとされる数多くの新たな必要条件に見合う、正確な組合せを見つけることは、困難であった。硫黄・リン系化合物(SP chemistry)に基づく製剤における腐食問題を改善するために多くの試みがなされてきた。
【0007】
米国特許No.4,511,481は、リン酸アミンのトリアゾール付加物で安定化した工業用潤滑油を開示する。該潤滑油は、酸化安定性、抗摩耗性及び防錆性を有している。
【0008】
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾル、ジソディウム2,5−ジメルカプトチアジアゾル、及び2,5−ビス(t−ノニル−ジチオ)チアジアゾール等のジメルカプトトリアゾール誘導体は、例えば、米国特許No.4,382,869、米国特許No.4,661,273、米国特許No.4,678,592及び米国特許No.4,584,114に開示されているように、抗酸化性、抗腐食性及び金属表面安定化性があることが知られている。
【0009】
更に、米国特許No.5,186,850は、潤滑組成物において、スクシニミド構造へ、ヘテロサイクリックジメルカプトチアジアゾール官能基を取り込んだ、抗摩耗、抗酸化等の多機能を有する無灰分散剤を提供することを開示する。
【0010】
米国特許No.5,205,945はアミノメルカプトチアジアゾール(AMTD)又はジメルカプトチアジアゾール(DMTD)、無水及び炭化水素置換されたスクシニミドダイマー等のチオール置換されたジアゾールの反応生成物である、燃料及び潤滑油の多機能抗酸化剤、抗摩耗剤、及び分散添加剤を開示する。
【0011】
米国特許No.5,538,652はアミンを有するジチオ化合物と結合したジメルカプトチアジアゾール−メルカプタンの組合せに関するものである。該組合せは、極めて有効な潤滑油及び燃料の多機能抗摩耗/極圧剤を提供する。
【0012】
米国特許No.6,180,575は抗摩耗性及び防錆性のバランスをとることを目的として、リン酸アミンを付加した置換トリアゾールを含む添加剤を有する潤滑油を開示する。WO2000/08119参照のこと。
【0013】
発明者らは、好適なベースストックと組み合わせた好ましい態様において、近年利用されている市販製品が有する好適な性質を維持しつつ、MTOに対する新たな工業的要求に見合う組成物を発明した。
【発明の概要】
【0014】
本発明の潤滑組成物は少なくとも1つのトリアゾール含有種とチアジアゾール含有種から選択される少なくとも1種とを含む。他の態様において、本発明はマニュアルトランスミッションにおける防腐性を改善する手段を提供する。
【0015】
他の態様において、前記組成物は、(a)硫黄含有成分から選択される少なくとも1つの極圧(EP)成分、及び(b)少なくとも1つのリン含有抗摩耗成分、から選択される1つ以上の成分も含む。少なくとも1つの硫黄含有EP成分を含む態様において、好ましい組成物は硫黄対トリアゾール含有種の容量比が150:1以下であることを特徴とする。
【0016】
更に好ましい態様において、アルキルポリスルフィド及びアルキルフォスフェートエステルを、トリルトリアゾール等のトリアゾール含有防腐剤をジメルカプトチアジアゾールと組み合わせて含む潤滑組成物が銅の腐食を防ぐのに特に有効であることが発見された。
【0017】
他の態様において、本発明の組成物は分散剤及び/又は防腐剤、並びに任意で他の成分を含む。
【0018】
本発明は、好ましい態様においてAPI GroupI乃至Vベースストックから選択さ少なくとも1つのベースストックと添加剤システムとを含む製剤化されたMTOにも関する。より好ましい態様において、本発明は少なくとも1つのAPI GroupIV及び/又はGroupVベースストック及び添加剤システムを含む製剤化されたMTOに関する。
【0019】
重金属を有意には腐食せずに、硫黄含有レベルの高い潤滑オイルを提供することも本発明の目的である。
【0020】
高温において銅の腐食耐性を提供する硫黄・リン系化合物(SP chemistry)に基づく潤滑油製剤を提供することも本発明の目的である。
【0021】
マイクロピッティング及び積載/抗摩耗性を改善することも本発明の更なる目的である。
【0022】
前述の及び他の、目的、特徴、及び利点は以下の詳細な説明、好ましい態様、実施例、及び添付の特許請求の範囲を参照することにより明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明において、潤滑油組成物は少なくとも1つの、「トリアゾール含有種」と言われる、トリアゾール、トリアゾール誘導体、又はそれらの塩と、チアジアゾール含有種から選択される少なくとも1つの種とを含組み合わせることにより提供される。
【0024】
他の態様において、前記潤滑組成物は、硫黄含有及び/又は臭素含有種から選択される少なくとも1つの極圧(EP)成分、並びに少なくとも1つのリン含有抗摩耗成分から選択される成分も含む。
【0025】
少なくとも1つの硫黄含有EP成分を含む態様において、好ましい潤滑成分は150:1以下の硫黄対トリアゾール含有種の容量比を有することを特徴とする。
【0026】
追加的な態様は以下で説明する。
【0027】
主要な成分は以下で説明する物質から選択される。
【0028】
A.トリアゾール含有種
本発明の潤滑組成物において、「トリアゾール含有種」と定義される重要な成分は、トリアゾール、トリアゾール誘導体又はそれらの塩である。好ましいトリアゾール含有種は、それ自身が腐食抑制剤として知られているものを含む。用いる正確な量は重要ではないが、効果的な量を用いるべきである。この量は、本開示の分野に属する当業者により容易に決定されるであろう。通常、用いるトリアゾール及び/又はその誘導体の量は、硫黄含有EP剤のレベルに依存する。適切な量は過度なルーチン試験を行うことなしに本開示が属する技術分野における当業者により容易に決定されるであろう。
【0029】
トリアゾール、例えば、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、並びにそれらの誘導体及びそれらの塩のうちの市販されている幾つかの製品(例えば、アルドリッチケミカルズより)は、工業用ギアにおいて、ベアリングの摩耗を減らすために、及びマニュアルトランスミッションにおいて腐食を防ぐために重要であることが発見された。トリアゾール自体は、オイル又は添加剤ミックスに溶解することが困難であるので、誘導体化することが有利である。前記誘導体はその腐食及び摩耗を減らす性質を維持しつつトリアゾール基をオイル中に溶解しやすくする手段を提供する。誘導体の幾つかの例は、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクチルトリアゾール、デシルトリアゾール、ドデシルトリアゾール、2−メルカプトベンゾトリアゾールを含む。
【0030】
トリアゾールのアルキル及びアリール誘導体が好ましい。より好ましいものはトリルトリアゾールである。
【0031】
トリアゾール種を含有するあらゆる種が本発明の組成物に有用である。前述の背景技術のセクションで説明した従来技術は、本発明に有用な多くのトリアゾール含有種を列挙している。更に、従来技術において定義されたものを含む、前述の任意のトリアゾールは、例えば、オレイン酸のような脂肪酸の塩、又はポリブチルコハク酸の塩等の、カルボン酸塩としても存在する。トリアゾール種を含有する付加化合物も用いられ、例えば、カルボン酸をトリアゾールのアミンと反応させて成るアミン誘導体も本発明に包含される。
【0032】
更に、トリアゾールは以下で述べるリン酸種の1つの塩の形態で存在することもできる。本発明の特に好ましい態様は、過リン酸アルキル又は過リン酸アリールとトリアゾール誘導体との複合体である。
【0033】
B.チアジアゾール
少なくとも1つのチアジアゾール含有種は本発明の組成物中に必ず存在する。正確な量は重要ではないが、効果的な量を用いるべきである。この量は、本開示の分野に属する当業者により容易に決定されるであろう。
【0034】
好ましいチアジアゾールは、ジメルカプトチアジアゾール(DMTD)及びそのアルキル化誘導体を含み、これらは、それ自身が銅腐食抑制の分野において知られている。チアジアゾールの特定の例としては、2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−ハイドロカルビルチオ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−ヒドロカルビルジチオ−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス−(ヒドロカルビルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、及び2,5−ビス−(ヒドロカルビルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールを含む。好ましい化合物は1,3,4チアジアゾール、特に、2−ヒドロカルビルジチオ−5−メルカプト−1,3,4−ジチアジアゾール及び2,5−ビス(ヒドロカルビルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールである。
【0035】
必要なチアジアゾール及びトリアゾールと一緒に用いられる、銅の腐食の抑制に好適な他の抑制剤はチアゾール、イミダゾール、エトシキ化フェノール、及びアルコール等を含む。しかしながら、本発明者らは、本発明の少なくとも1つの目的、少なくとも好適な潤滑組成物に見合うのをアシストする重要な成分が、チアジアゾール含有種と組み合わせたトリアゾール含有種であることを発見した。
【0036】
任意の追加的な成分のほかに、これらの重要な種は、別々に又は添加剤パッケージとして、ベースストックに提供され、潤滑組成物又は他の機能的な液体を生成する。追加的な成分は含んでいても含んでいなくても良い。
【0037】
本発明の潤滑組成物の製剤化に好適な追加的な成分は以下のC.、D.、及びE.のセクションで定義される少なくとも1つの種を含む。通常、以下の各群から選択される少なくとも1の混合物が含まれている。
【0038】

C.極圧剤
本発明の組成物に有用な極圧(EP)剤は、既知の硫黄含有及び臭素含有EP剤を含む。硫黄含有EP剤が好ましい。
【0039】
硫黄化されたオレフィンは、それ自身が工業用及び自動車ギアオイルにおける金属−金属接触の高圧力に対する保護を提供するのに有用であると知られている。しかしながら、硫黄の存在により熱安定性が低くなり、特定のシール物質の凝集を促進し、及び銅含有アロイが腐食しやすくなる、という不利益が生じることから、前述の目的のための硫黄化オレフィンは、このような不利益に対して何らかの策をとらなければならない。
【0040】
本発明の添加剤パッケージに用いることができる硫黄含有極圧剤は特に限定されない。本発明に有用な硫黄含有成分は硫黄化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド、硫黄化脂肪及び油、硫黄化脂肪酸エステル、トリチオン、C2乃至C8モノオレフィンの硫黄化オリゴマー、チオリン酸化合物、硫黄化テルペン、チオカルバメート化合物、チオカルボネート化合物、スルホキシド、及びスルフィン酸チオールを含む。硫黄含有EP剤成分の混合物も用いられる。
【0041】
好適な硫黄含有EP成分は、C2乃至C8モノオレフィンの硫黄化オリゴマー、オレフィン硫黄化物、及びジアルキル及びジアリールポリスルフィドから選択される。
【0042】
極圧剤として用いるのに好適な数多くの硫黄化オレフィンは従来技術において詳述されている。例えば、米国特許No.6,844,300及びここに引用された文献を参照のこと。
【0043】
より好適な極圧剤はオリゴマー化オレフィンスルフィド及びジアルキルポリスルフィドである。オリゴマー化オレフィンスルフィドは、スルフリル一塩化物を、オレフィン、例えば、イソブチレンと反応させてオリゴマー化オレフィンスルフィド化合物を生成することにより調製される。これらの物質の不利な点は、この工程において取り残される塩基残基である。しかしながら、この残基は、各種処置により減らすことができる。米国特許No.2,249,312、米国特許No.2,708,199、米国特許No.3,471,404、米国特許No.4,204,969、米国特許No.4,563,302、米国特許No.4,954,274、及び米国特許No.4,966,720、及びEP No.737,674 A2、及び英国特許No.1,308,894は、硫黄化オレフィンの調製を開示する。
【0044】
ジアルキルポリスルフィドは米国特許No.4,119,550、米国特許No.4,119,549、米国特許No.4,344,854、米国特許No.5,135,670、及び米国特許No.5,338,468に記載のような高圧硫黄化法により調製される。これらは、例えば、硫黄、オレフィン、及び水素化硫化物をその場で又は追加的に添加して、反応させることにより得られる。本発明の添加剤パッケージに用いるための極圧剤を提供する目的に用いる方法はその場において、水素化硫黄化物を生成する方法を含む。より好適な態様では、硫化水素はナトリウム硫化水素から反応器内で形成され、反応機内で消費される。
【0045】
好適な態様において、高圧硫黄化オレフィンはオレフィン、好ましくはイソブチレンを、高圧条件下において水溶性ナトリウム硫化水素の存在下で、規定量の溶融硫黄と反応させることにより調製される。市販の高圧硫黄化イソブチレン(HPSIB)はMobilad(TM)C−170及びMobilad(TM)C−175を含む。これらの好適なHPSIBの合成は、米国特許No.5,135,670及びWO92/03524等の従来技術において説明されている。
【0046】
本願発明の特徴としては重要ではないけれども、好ましい態様において、潤滑油中の任意の形態において添加剤により提供される硫黄の重量パーセントは0.1乃至3重量%、より好ましくは0.2乃至2.0重量%である。
【0047】
臭素含有EP剤もそれ自身が本分野において知られている。しかしながら、臭素含有EP剤は、加水分解耐性が無いことが知られている。従って、ギアボックスが水に曝された場合、臭素含有EP剤は加水分解されてしまい、EP成分としての有効性を失ってしまう。更に、幾つかの硫黄化オレフィンよりもEP性質が低いので、特定の動力伝達装置においては、硫黄化オレフィンが臭素含有添加剤と一緒に添加される。水が無い場合に限り、マニュアルトランスミッションにおいて、臭素含有EP添加剤が適切な場合がある。幾つかの態様において、臭素含有及び硫黄化オレフィンの混合物がEP成分として用いられる。しかしながら、好ましい態様において、本発明の組成物は臭素を含む極圧成分を用いない。
【0048】

D.リン酸含有抗摩耗剤
あらゆるタイプのリン含有化合物を用いることができる。工業用ギア及び動力伝達装置の流体に通常用いられる、油溶性抗摩耗及び/又は極圧剤は大部分が、リンをエステル化した酸である。これらの全てが本発明において意図される。このようなものは、過リン酸塩、リン酸水素、亜リン酸塩、リン酸塩、ホスフィン酸塩、及びリンアミド化物(phosphoroamidate)を含む。それらは、これら全ての硫黄化アナログも含む。例としては、モノ、ジ、及びトリヒドロカルビルフォスフィート;モノ、ジ、及びトリヒドロカルビルフォスフェート;モノ、ジ、及びトリヒドロカルビル、モノ、ジ、トリ、テトラチオフォスフェート;モノ、ジ、トリカルビル、モノ、ジ、トリ、テトラチオフォスフィート;各種ヒドロカルビルフォスフォネート及びチオフォスフォネート;各種ヒドロカルビルフォスフォネート及びチオフォスフォネート;各種ヒドロカルビルフォスフォニット(phosphonite)及びチオフォスフォニット(phosphonite)等を含む。特定の実施例は、トリクレジルフォスフェート、トリブチルフォフィート、トリフェニルフォフィート、ジ−2−エチルヘキシルフォスフェート、ジ−イソオクチルフォスフェート、ジイソブチルヒドロゲンフォフィート、ジイソプロピルジイソフォスフェート、ジフェニルフォスフェート等を含む。これらの物質を用いて製造される全てのアミン塩も含まれ、用いることができるアミンのタイプは以下のセクションで説明する。好ましい態様はモノ、及びジ−アルキルフォスフェート、例えば、モノ、及びジ−2−エチルヘキシルフォスフェート及びモノ及びジアリルフォスフェート、例えば、チバ(Ciba)から販売されているIrgalube 349及びそれらのアミン塩である。
【0049】
本発明の特徴に重要ではないが、好ましい態様において、本発明の製剤化された潤滑油組成物におけるリン酸成分のレベルは、約0.01乃至1重量%、より好ましくは0.03乃至0.5重量%である。
【0050】
E.他の任意の成分
防錆剤、分散剤、及び/又は清浄剤、抗酸化剤、消泡剤、追加的な金属腐食抑制剤(例えば、銅の表面安定化剤)、摩擦改質剤、シール膨潤剤(seal swell agetn)、流動点低下剤、希釈剤等を含む他の成分も必要とされるオイルの性質を提供するために存在する。C.及びD.において列挙された任意の成分と一緒に、これらの任意の成分は、充分に製剤化された潤滑油又は他の機能的な液体又はこれらの組合せの一部になる。更に、これらの任意の成分の効果的な量は本開示の技術分野における当業者により容易に決定される。
【0051】
好ましい、しかし、任意の添加剤は防錆剤である。防錆剤は油溶性塩基性アミン又はこのようなアミンの組合せである。アミンは、一級、二級、三級、非環式、環式、モノ、ポリアミンでよい。ヘテロ環式アミンであってもよい。アミン含有成分は他の置換基、例えば、エーテル結合又はヒドロキシ部分を含んでいてもよい。好適なアミンは通常、天然の脂環式である。幾つかの例としては、オクチルアミン、デシルアミン、C10、C12、C14及びC16第三アルキル一級アミン(又はこれらの組合せ)、ラウリルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、デセニルアミン、ドデセニルアミン、パルミトイルアミン、オレイルアミン、リノレイルアミン、ジイソアミルアミン、ジオクチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジラウリルアミン、シクロヘキシルアミン、1,2−プロピルアミン、1,3−プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、トリオクチルアミン、ピリジン、モルフォリン、2−メチルピペラジン、1,2−ビス(N−ピペラジニル−エタン)、テトラアミノオクタデセン、トリアミノオクタデセン、N−ヘキシルアニリン等を含む。これらは、本発明の組成物において必須の成分として他で定義されているトリアソゾル又はトリアゾール誘導体でもよい。
【0052】
防錆剤として本発明に用いられる最も好ましいアミンは、脂肪族基が三級アルキル基である油溶性脂環式アミンである。そのようなアミンの例は、Rohmaxより市販されているPrimene(TM)81R及びPromene(TM)JMTを含む。
【0053】
本発明の製剤化された潤滑組成物において、本開示の分野に属する当業者に明らかなように、アミンと過リン酸塩とを結合して塩を生成するが、有効な防錆剤及び抗摩耗剤である。リン酸とアミンの塩は、潤滑組成物に添加する前に形成されるか又は過リン酸塩とアミンが添加剤パッケージ又は製剤化された潤滑油に添加された後でその場所において形成される。
【0054】
アミド、イミド、及びイミダゾール、オキサゾリジノン及び他の関連する窒素含有種も防錆又は摩擦改質剤として、又は他の幾つかの目的のために存在することができる。これらの幾つかの例は、ドデセニルスクシニック無水物(DDSA)とテトラエチレンペンタアミンとの反応生成物、オレイン酸とテトラエチレンペンタアミンとの反応生成物、ジエチレントリアミン及びDDSAとの反応性生物、トリエタノールアミンとノナン酸との反応生成物等を含む。
【0055】
好適なしかし任意の添加剤は、少なくとも1つの分散剤及び/又は清浄剤である。分散剤は、とりわけ、スラッジ及びワニス粒子がギア表面を覆ってしまうことを避けるために用いられる。そのような多くの試薬は当業者に知られている。用いるタイプについては特に限定されない。それらは単独又は組み合わせて用いられる。それらはホウ酸塩であってもよく、特に、ホウ酸塩又は非ホウ酸塩でもよい。窒素含有分散剤の例としては、アルキルスクシニミド、アルケニルスクシニミド、臭素含有アルキルスクシニミド、臭素含有アルケニルスクシニミド、ベンジルアミン化合物(マンニッヒベース(Mannich bases))、ポリブテニルアミン、スクシニルアミドエステル化合物等を含む。
【0056】
好ましい態様において、窒素含有分散剤は、アルキルスクシニミド、アルケニルスクシニミド、及びこれらの臭素含有アナログから選択される。本発明に用いるために特に好ましい無灰分散剤は、ポリエチレンポリアミド、例えば、トリエチレンテトラアミンペンタアミンと、ポリオレフィン、好ましくは7000−1400、及び特に800−1200と不飽和ポリカルボン酸又はその無水物、例えば、無水マレイン三量体との反応により得られる、炭化水素置換された無水物との反応生成物である。無灰分散剤は、ホウ酸、ホウ素酸化物、ホウ素エステル及びホウ酸のアミン又はアンモニウム塩等のホウ素含有化合物を用いたホウ素含有分散剤を形成するためにホウ素付加することもできる。
【0057】
本発明の組成物に好適なしかし任意である他の成分は、該組成物を保護し、及び特に高温において酸素による分解を低減する抗酸化剤である。典型的な抗酸化剤は、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、2級芳香族アミン系抗酸化剤、及び硫黄化フェノール系抗酸化剤を含む。特定の例は、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、及びt−ブチルフェノール誘導体、スチリルフェノール及びその誘導体を含む。抗酸化剤の最も一般的なクラスは、窒素含有抗酸化剤、例えば、ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、及びフェニル−α−ナフチルアミン等の芳香族アミン抗酸化剤である。
【0058】
安定した発泡の形成を避ける又は減らすのに有用な消泡剤も本発明の成分とし好ましいが、任意の成分である。典型的な消泡剤はシリコン又はアクリレートポリマー等の有機ポリマーを含む。消泡剤の幾つかの特定の例としては、ポリメチルアクリレート及びポリブチルアクリレートを含む。アルキルアクリレートポリマー系消泡剤の一つである、Mobilad C−402は、エクソンモービル ケミカル カンパニーより入手可能である。消泡剤成分は添加剤パッケージ又に追加的に添加されるか、又は最終製品に添加される。追加的な消泡剤成分はHenry T. Kernerの“Foram Control Agent”(Noyes Data Corporation 1976、pp125−162)に記載されている。
【0059】
含まれる他の成分は、金属を含有し、又は含有しない界面活性剤、シール膨潤剤(seal swell agetn)、摩擦改質剤、抗縞剤等である。
【0060】
必須の及び任意の成分を含んでいる製剤化された潤滑組成物は上で定義されたけれども、典型的な上記成分は添加剤パッケージに添加されるか又は製剤油をベースストック又は例えば、キャリアー、圧媒液体、溶媒等の他の液体に添加する際に、パッケージとして添加されるだろうということは当業者に理解されている。
【0061】
硫黄対トリアゾール含有種の容量比に関しては、本発明の組成物においては重要ではないが、ある態様では、150:1以下、好ましい態様では100:1以下、更に好ましい態様では、75:1以下である。更に本発明において重要ではないけれども、必要とされるトリアゾール含有種の有効量が存在することを条件に、ある態様において、硫黄対トリアゾール誘導体の下限値は、約10:1である。特定のベースストックは感知可能な量の硫黄含有種を含むが、ベースストック由来の硫黄は、前記容量比には含まれないことは理解されるだろう。
【0062】
添加剤は全体として、又は一部組み合わされ、添加剤パッケージとなる。又はそれらは別個に最終的な潤滑油組成物又は他の機能的な液体に添加される。これらのいずれかの場合のブレンド操作は複雑である必要はない。それらは全ての適切な成分を適切な割合で一緒に混合する工程を含むのみである。当業者は添加剤成分と潤滑油組成物を製剤化及びブレンドするための好適な手段に精通している。一般的に、発熱を制御するために必要とならない限り、添加の順序は重要ではない。発熱を制御する必要がある場合は、当業者は過度な試験を行うことなく、添加の順序を決定することができる。一般的な撹拌器を用いた撹拌によりブレンドを生成する。ブレンドの間過熱を行う当業者もいる。一般的に、ブレンドの過熱は40℃及び100℃の間の温度で充分である。当然ながら、温度は、好ましくない化学反応及び熱ダメージを引き起こさないように選択される。不活性化環境下でのブレンドも好ましい。最終潤滑油のブレンドも等しく容易に行うことができる。
【0063】
ベースオイル
本明細書においてベースストック及びベースオイルの語は、互換的に用いられる。潤滑油及び機能流体のためのベースオイルの基準に見合う流体は多様である。それらは米国石油協会(API)のGroupI乃至GroupVに分類される。APIはGroupIストックを溶媒精製ミネラルオイルと定義する。GroupIストックは最も多くの不飽和物及び硫黄を含み、最も低い粘度指数を有する。GroupIは潤滑剤性能の低いグループを形成する。GroupII及びGroupIIIベースストックは、それぞれ、高い粘度指数及び非常に高い粘度指数を有するベースストックである。GroupIIIオイルはGroupIIオイルよりも少ない不飽和物類及び硫黄を含む。特定の性質、特に、熱及び酸化安定性に関しては、GroupII及びGroupIIIオイルはGroupIオイルよりも良い性能を示す。
【0064】
GroupIVベースストックはポリアルファオレフィンから成る。前記ポリアルファオレフィンは、エチレン及びプロピレン等の低級オレフィンのオリゴマー、エチレン/ブテン−1及びイソブチレン/ブテン−1のオリゴマー、及び米国特許No.4,956,122及び本明細書において参照される特許に記載されているようなエチレンと他の高級オレフィンとのオリゴマー、及び同種のものも用いることができるけれども、C5乃至C14アルファオレフィンから選択されるか、好ましくは1−ヘキセン乃至テトラデセン(特に1−デセンが好ましい)選択されるか、より好ましくは1−オクテン乃至1−ドデセンから選択されるか、及びこれらの混合物から選択される直鎖アルファオレフィン(LAO)を、触媒を用いてオリゴマー化して生成することが好ましい。PAOはGroupI、II及びIIIのベースオイルに優れた揮発性、熱安定性及び融点性質を与える。
【0065】
GroupVはGroupI乃至GroupIVに分類されない全てのベースストックを含む。GroupVベースストックはエステルを基にした又はエステル由来の潤滑油の重要なグループを含む。このグループはアルキル化芳香族化合物、ポリインターナルオレフィン(PIO)、ポリアルキレングリコール(PAG)等を含む。
【0066】
本発明の大きな利点の一つは、以下説明する他の物質のほかに、上で説明した前記5つのカテゴリー、即ちAPI GroupI乃至Vに適合するベースオイルも、本発明に適用可能であるという点である。本明細書において、「Group...(以下にI乃至Vのローマ数字が入る)」の語は、上で説明したAPI分類スキームを定義する場合に用いる。
【0067】
それ自体は「添加剤」として当業者に分類されていないけれども、本発明の範囲に含まれる、最終潤滑油又は機能流体組成物に有用である追加的なしかし任意の成分は、流動点低下剤、粘度指数改善剤、粘着剤(例えば、ポリイソブチレン)及び増粘剤である。
【実施例】
【0068】
以下の実施例は本発明を説明することを意図し、他の方法及びそれにより製造された製品との比較を提供する。数多くの変法及び変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である、さらにここで具体化された形と異なる形で実施されうることが理解されるであろう。
【0069】
マニュアルトランスミッションオイル
以下のセクションにおいて説明される添加剤含有潤滑油組成物はマニュアルトランスミッションオイル製剤に有用である。
【0070】
マニュアルトランスミッションオイルは、高圧/抗摩耗性、金属腐食抑制機能、摩擦性質、シール適合性、熱及び酸化安定性、抗酸化性(antioxidancy)、発泡制御性、流動点低下性等の多くの他の潤滑油に必要とされる幾つかの性質のセットを有する。更に、近年北米におけるMTOは、硫黄・リン系化合物(SP chemistry)では不可能な優れた腐食防止能力を必要としている。新MTOはミクロピッティングに対する防止機能も要求している。潤滑油組成物はこのことを達成するための重要な成分を含むように調製した。その成分とは、トリアゾール含有誘導体及びチアジアゾール含有誘導体である。更に、この流体(潤滑組成物)は硫黄化イソブチレン及びリン含有抗摩耗剤から選択される極圧添加剤を含んでいた。PAO及びエステルをベースオイルとして用いた。前記流体は、当業者に知られているイートン(Eaton)PS 164 ver 7に従い、幾つかの重要な性質について試験を行った。
【0071】
本発明の潤滑組成物の以下の実施例は、従来のギア及びトランスミッション潤滑油に対して有意に改善された性質を示している。一連の潤滑組成物は合成ベースストックを用いて調製した。それぞれの組成物に含まれる添加剤を表1に示した。これらは、極圧剤、抗摩耗剤、抗腐食剤、清浄剤等を含む。硫黄含量が異なる3つの極圧添加を用いた。第一の極圧剤は47−52重量%の範囲の硫黄を含む。第二の極圧剤は45−49重量%の範囲の硫黄を含む。第三の極圧剤は41−46重量%の硫黄を含む。実施例A−E及び比較例F及びGに用いたベースストックは、エクソンモービル ケミカル カンパニーより販売されている、2又は4センチストーク(cSt)ポリアルファオレフィン(PAO)、剪断安定性ポリイソブチレン、例えば、BP’s Indopol(TM)H−300、及び高粘度150cStPAOを含む。
【表1】

【0072】
表1の流体は、150℃で行われる7日間の過酷試験である、イートン銅腐食試験(Eaton Copper Corrosion Test)(TEP−247)に従い試験を行った。この試験は、長期間使用されるトランスミッション流体のためのイートン(Eaton’s) PS−164 rev 7規格の一部である。5mg未満の金属損失が合格条件となる。試験した組成物の結果を表2に示す。市販のMTO対照は本試験において良い結果を示した。しかしながら、このMTO対照の添加剤システムはSPケミストリーに基づいていないので、このような結果は予測可能である。典型的なSPケミストリーに基づく市販の合成自動車オイルは301mgの重量損失を示した。比較例F及びGは、さらにS,P−に基づく添加剤システムにおいて見られる腐食を顕著に証明している。
【0073】
これに対して、潤滑油組成物が本発明の範囲内のもの、すなわち、トリアゾール含有誘導体及びチアジアゾール含有誘導体を含む組成物である場合には、腐食による金属ロスが一桁にまで劇的に低められた。
【表2】

【0074】
表3に示すように、さらにイートン(Eaton)FZG ミクロピッティング(Micropitting)試験(TEP 272)のために表1のいくつかの潤滑組成物を選別試験により評価した。選別試験(C−GFギア/8.3ms−1/120℃制御、かけはね潤滑油(splush lube))は負荷ステージ7(50時間)、8(100時間)、9(100時間)、及び10(50時間)の後にギア表面に発生するミクロピッティングの量を測定することにより行われる。イートン(Eaton)FZG ミクロピッティング(Micropitting)試験(TEP 272)のための選別試験をオイルA及びCについて行い、MTO対照の結果と比較した。結果を表3に示す。本発明に従って製剤化された組成物はMTO対照オイルよりも、ギア表面のミクロピッティング及び摩耗が大変少ない結果となった。
【表3】

【0075】
表4はASTM D5182において得られた結果を示す。この試験は、硬化したスチールギアの潤動に用いるオイルの擦りきず積載量(scuffing load capacity)を測定する。この試験は主に、工業用ギアオイル、トランスミッションオイル、及び圧媒流体等の緩やかに添加されたオイルの擦りきずに対する耐性を評価する。この試験は、トランスミッションの規格の必要条件にも包含されている。しかしこの試験は、よりシビアなEP負荷輸送試験、例えば、FZA A 10ギア/16.6ms−1R/120℃で代替することもできる。これまで、前記オイルにおいて、高い積載能力とシビアな腐食及びマイクロピッティングに対する要件とを兼ね備えることをどのように達成したらよいかということは知られていなかった。本発明の組成物はこの問題を解決する。
【表4】

【0076】
マイクロピッティング及び腐食に関する耐性を改善しつつ、同時に高いEP性質を提供するS、PベースEP/抗摩耗剤の能力は本発明の態様の一つの利点である。論理に拘束されることを意図しないけれども、イートン銅腐食試験(Eaton Copper Corrosion Test)における優れた性質は、大部分がトリアゾール含有誘導体及びチアジアゾール含有誘導体の両者が存在した場合の相乗効果によるものであると考えられる。本発明の発明者らは、このような新たな要件を満たすことができるS、PベースEP/抗摩耗添加剤を含む他の潤滑油を知らない。本発明の潤滑組成物は新たなトランスミッション流体の好ましい特徴となるミクロピティング試験においても良い結果を示した。
【0077】
本発明の潤滑組成物は、例えば、自動車トランスミッション、工業用ギアボックス、並びに銅又は銅含有合金と潤滑油が接触するような他の製品に用いることができる。
【0078】
本明細書で用いる商品名を示す(TM)の記号又は(登録商標)の記号は特定の商標権により保護されているものであり、例えば、それらは各種法域において商標として登録されている。
【0079】
本明細書で引用する全ての特許、特許出願、(ASTM法、UL法、API分類等の)試験方法、及び他の文献は本発明と一致する範囲及び前記全文献が引用を許す範囲で参照により本明細書に援用される。
【0080】
本明細書で数値範囲の下限値及び上限値が列挙されている場合には、任意の下限値及び任意の上限値の範囲を意図する。
【0081】
本発明の態様を特に説明してきたが、本発明の精神と範囲を逸脱しない限り、当業者に自明であり、容易に成され得る各種変更も意図する。従って、添付の特許請求の範囲を本明細書の実施例及び説明に限定することは意図しない。しかしながら、請求項は本発明の分野の当業者により等価であると扱われる全ての特徴を含む、本発明に存在する特許性の特徴を全て包含すると解釈される。
【0082】
本発明の好ましい態様(a)は、潤滑油として好適な潤滑組成物である。前記組成物は少なくとも1つのトリアゾール含有種及び少なくとも1つのチアジアゾール含有種を含み、更に前記組成物は以下の限定の1つ以上によりさらに限定される。前記組成物は少なくとも1つのトリアゾール含有種とジメルカプトチアジアゾール及びそれらのアルキル化誘導体から成る群より選択される少なくとも1つとを含む。前記組成物はトリアゾール含有種がトリルトリアゾールであることを特徴とする。前記組成物はさらにチアジアゾール含有種対トリアゾール含有種の比が約20:1乃至約10:1、より好ましくは約10:1乃至約1:1の比であることを特徴とする。前記組成物は更に(i)少なくとも1つの硫黄含有又は臭素含有極圧剤、及び(ii)少なくとも1つのリン酸含有抗摩耗剤、から選択される少なくとも1つを含む。前記組成物は更に、約150:1未満、より好ましくは約100:1未満の硫黄対トリアゾール含有種の比を有することを特徴とする。または、前記組成物は更に極圧剤、抗摩耗剤、分散剤、界面活性剤、防錆剤、防腐食剤、抗発泡剤、抗乳化剤、流動点低下剤、シール膨潤剤(seal swell agent)、乳化剤、粘着剤、抗酸化剤、VI改質剤、増粘剤、及びこれらの混合物から選択される成分を含む。並びに、他の態様(b)は、(a)により与えられた又は説明された、任意の置換(permutation)及びさらにAPI GroupIから選択される少なくとも1つのベースストックを含む組成物を含む。並びに、他の態様(c)は、(a)又は(b)により提供又は説明された潤滑組成物を含む自動車トランスミッションオイル、工業用ギアオイル、圧媒流体、けん引オイルを含む。並びに、他の態様(d)は、(a)又は(b)において提供又は示唆された潤滑組成物又はこれを含むマニュアルトランスミッションオイルを含む。前記マニュアルトランスミッションオイルは、さらに、ベースストックを含む態様を含み、前記ベースストックはAPI GroupI乃至V、好ましくはAPI Group IV、API Group V及びこれらの混合物から選択される。更に好ましくは前記ベースストック組成物はAPI Group IVから選択される。更に好ましくは、前記ベースストックは2cSt及び150cStPAO、又は4cStPAO、及び150cStPAO、又はポリイソブチレンを更に含む前述の組成物のいずれかを含むことを特徴とする。並びに、他の態様(e)は、防腐剤を含む潤滑流体組成物の改良方法を含む。前記改良の特徴は、トリアゾール含有種及びチアジアゾール含有種の組合せの有用量を含む点にある(態様は本段落において提供又は説明された組成物の任意の限定により更に限定される)。並びに、他の態様(f)は、マニュアルトランスミッションを含む乗り物を含む。前記マニュアルトランスミッションは、本段落により提供又は説明された任意の限定を有する組成物により潤動されることを特徴とする。並びに、他の態様(g)は、本段落により提供又は説明された任意の限定を有する組成物の1つにより潤動されることを特徴とする、トランスミッションを含む。並びに、他の態様(h)は、本段落により提供又は説明された任意の限定を有する潤滑流体により潤動されることを特徴とする、トランスミッションを含む。並びに、他の態様(i)は、(a)において提供又は説明された任意の組成物と少なくとも1つのAPI GroupI乃至Vから選択されるベースストックとを組み合わせる工程を含む潤滑組成物を調製する方法を含む。並びに、他の態様(j)は、本段落において提供又は説明された任意の組成物をトランスミッションオイルに添加する工程を含むトランスミッションを潤動させる方法を含む。並びに、他の態様(k)は、少なくとも1つのトリアゾール含有種及び少なくとも1つのチアジアゾール含有種を、約20:1乃至約10:1、より好ましくは10:1乃至約1:1の比で含む組成物であって、さらに(i)少なくとも1つの硫黄含有又は臭素含有極圧剤、(ii)少なくとも1つのリン酸含有抗摩耗剤、から選択される少なくとも1つの成分をさらに含む組成物を含む。並びに、他の態様(l)は、少なくとも1つのトリアゾール含有種及び少なくとも1つのチアジアゾール含有種を、約20:1乃至約10:1、より好ましくは10:1乃至約1:1の比で含むS,Pケミストリーに基づく充分に製剤化された潤滑組成物を含む。述べたように、本開示の分野における当業者は多くの変更をただちに行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのトリアゾール含有種と、少なくとも1つのチアジアゾール含有種とを含む潤滑油に好適な潤滑組成物。
【請求項2】
少なくとも1つのトリアゾール含有種と、ジメルカプトチアジアゾール及びそれらのアルキル化誘導体から成る群より選択される少なくとも1つの種とを含む請求項1の組成物。
【請求項3】
前記トリアゾール含有種がトリルトリアゾールである請求項1又は2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
チアジアゾール含有種対トリアゾール含有種の比が約20:1乃至約1:10であることを更に特徴とする請求項3乃至1のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
チアジアゾール含有種対トリアゾール含有種の比が約10:1乃至約1:1であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(i)少なくとも1つの硫黄含有又は臭素含有極圧剤及び(ii)少なくとも1つのリン含有抗摩耗剤から選択される少なくとも1つの成分を更に含む請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
硫黄対トリアゾール含有種の比が約150:1未満であることを更に特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
硫黄対トリアゾール含有種の比が約100:1であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
極圧剤、抗摩耗剤、分散剤、界面活性剤、防錆剤、抗凝集剤、抗発泡剤、抗乳化剤、流動点低下剤、シール膨潤剤(seal swell agent)、乳化剤、粘着剤、抗酸化剤、VI改質剤、増粘剤、及びこれらの混合物を更に含む請求項1乃至8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
API Group I乃至Vから選択される少なくとも1つのベースストックを含む請求項1乃至9のいずれか1項に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項の潤滑油組成物を含む自動車トランスミッションオイル、工業用オイル、工業用ギアオイル、圧媒流体、トラクターオイル。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に潤滑組成物を含むマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項13】
前記ベースストックがAPI Group I乃至Vから選択される少なくとも1つのベースストックを含む請求項12のマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項14】
前記ベースストックがAPI GroupIV、API GroupV及びこれらの混合物から選択される請求項12のマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項15】
前記ベースストックがAPI GroupIVから選択される請求項12のマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項16】
前記ベースストック組成物が2cSt乃至150cStのPAOを含む請求項12のマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項17】
前記ベースストック組成物が4cSt乃至150cStのPAOを含む請求項12のマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項18】
更にポリイソブチレンを含む請求項16又は17のマニュアルトランスミッションオイル。
【請求項19】
有効量のトリアゾール含有種及びチアジアゾール含有種の組合せを含むことを特徴とする、腐食抑制剤を含む改良された潤滑流体。
【請求項20】
請求項11の組成物により潤動されたマニュアルトランスミッションを含む乗り物。
【請求項21】
請求項1乃至10の組成物のいずれか1つで潤動されたトランスミッション。
【請求項22】
請求項19の潤滑流体で潤動されたトランスミッション。
【請求項23】
請求項1乃至10のいずれか1つの組成物を、API Group I乃至Vから選択される少なくとも1つの組成物と組み合わせる工程を含む潤滑組成物を調製する方法。
【請求項24】
請求項23の組成物をトランスミッションに添加する工程を含むトランスミッションを潤動させる方法。
【請求項25】
少なくとも1つのチアジアゾール含有種と少なくとも1つのトリアゾール含有種とを約20:1乃至約1:10の比で含む組成物。
【請求項26】
前記比が約10:1乃至約1:1である請求項25の組成物。
【請求項27】
(i)少なくとも1つの硫黄含有又は臭素含有極圧剤;及び(ii)少なくとも1つのリン含有抗摩耗剤から選択される少なくとも1つの成分を更に含む請求項25又は26の組成物。
【請求項28】
少なくとも1つのチアジアゾール含有種及び少なくとも1つのトリアゾール含有種を約20:1乃至約1:10の比で含む、硫黄・リン系化合物(SP chemistry)に基づく製剤化された潤滑組成物。
【請求項29】
前記比が約10:1乃至約1:1である請求項28の高度に製剤化された潤滑組成物。

【公表番号】特表2008−537008(P2008−537008A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507681(P2008−507681)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/010943
【国際公開番号】WO2006/115666
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】