説明

澱粉製造排水から液肥を製造する方法および装置。

【課題】
澱粉製造排水を処理して、臭気の問題がなく、しかも、そうか病原性放線菌による病害の心配のない液肥を製造する。
【解決手段】
澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させ、固液分離により固形分を分離し、分離液を嫌気性微生物処理し、液肥を製造する。加熱滅菌しているため、そうか病原性放線菌による病害の心配がなく、また、蛋白質を除去しているため、臭気の問題がなく、澱粉製造排水の有効利用ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉製造排水から液肥を製造する方法および装置に関し、特に馬鈴薯から澱粉を製造する工程から排出される高濃度排水(デカンター排水)からの液肥製造に適した方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
馬鈴薯等を原料とする澱粉の製造時に排出される有機性排水は、CODcr濃度30,000〜50,000mg/Lのデカンター高濃度排水と、CODcr濃度2,000〜4,000mg/Lのハイドロサイクロン排水とに大別される。
【0003】
従来、これらの排水のうち、比較的CODcr濃度の低いハイドロサイクロン排水が、活性汚泥処理や好気性ラグーンにて処理され、高濃度のデカンター排水が、貯留池に貯留され、畑に液肥として散布処理されていた。ところが、デカンター排水を長期間貯留したときや、畑に散布したときには、排水中の蛋白質から起因する激しい悪臭が発生し、周囲の環境に悪影響を及ぼすおそれがあった。また、排水中に存在するそうか病原性放線菌により、病害が発生するおそれもあった。そのため、従来においても、散布処理は忌避され年々少なくなっていた。
【0004】
そこで、畑に散布しない澱粉製造排水は、処理する必要があり、その処理方法としては、例えば、澱粉製造排水を加熱して溶解性の蛋白質を変性して析出させ、固液分離により固形分を分離し、分離液を高負荷型嫌気性処理したのち、好気性処理して処理水として排出する方法がある(特開2001−129590)。
【特許文献1】特開2001−129590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たしかに、馬鈴薯の澱粉製造排水は有機物濃度が高いので、肥料として産業上の利用性はあるものの、その排水にそうか病原性放線菌が存在している場合があるので、排水の畑への散布が忌避され、大量に排出される、価値ある排水の有効利用が図られていないのが、現状である。
【0006】
本発明の課題は、価値ある澱粉製造排水の有効利用を図るため、澱粉製造排水を処理して、臭気の問題がなく、しかも、そうか病原性放線菌による病害の心配のない液肥を製造する方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する方法は、澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させ、固液分離により固形分を分離し、分離液を嫌気性微生物処理することを特徴とする(請求項1)。
【0008】
本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する方法は、澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させ、固液分離により固形分を分離し、分離液を嫌気性微生物処理し、さらに部分脱リン処理することを特徴とする(請求項2)。
【0009】
本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する装置は、澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させるための加熱処理槽と、加熱処理槽の流出液を固形分と分離液に分離する固液分離機と、分離された分離液を嫌気性微生物で消化処理す
る嫌気性処理槽とを有することを特徴とする(請求項3)。
【0010】
本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する装置は、澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させるための加熱処理槽と、加熱処理槽の流出液を固形分と分離液に分離する固液分離機と、分離された分離液を嫌気性微生物で消化処理する嫌気性処理槽と、嫌気処理液を部分脱リン処理する脱リン槽とを有することを特徴とする(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、澱粉製造排水を加熱して滅菌するので、そうか病原性放線菌による病害の心配がなく、加熱して溶解性の蛋白質を変性して析出させ、これを分離するので、分離液の嫌気性処が良好に行われ、嫌気性処理液は安定した液肥となる(請求項1または3)。
【0012】
請求項2の方法または請求項4の装置によれば、リン濃度を調節した液肥が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する方法および装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する方法および装置実施の形態を示す系統図である。
【0015】
図1において、1は加熱処理槽、2は熱交換器、3は凝集槽、4は固液分離機、5は嫌気性処理槽、6は脱リン槽、7は脱水機、8はガス貯槽、9はボイラである。
【0016】
液肥製造原料は馬鈴薯澱粉製造排水であり、デカンター排水のような高濃度排水11、およびハイドロサイクロン排水のような低濃度排水12の排水処理を兼ねて液肥製造ができるようになっている。
【0017】
高濃度排水11を加熱処理槽1に導入し、蒸気13を吹込んで加熱して、滅菌するとともに蛋白質を変性させ、さらに、酸14を注入して等電点処理を行い蛋白質を析出させる。酸の注入は必ずしも必要ではないが、酸を注入することにより、少ない熱量で効率よく蛋白質を析出させることができる。蛋白質が析出した反応液15は熱交換器2を通って給水16と熱交換して冷却され凝集槽3に導入される。給水16はボイラ9に送られ、ガス貯槽8からの燃料ガス17の燃焼により加熱されて蒸気13を発生し、濃縮水18は排出される。
【0018】
凝集槽3では凝集剤19を添加し、攪拌機21で攪拌して凝集を行い、フロックを生成させる。ここではpH調整剤を注入してもよいが、できるだけ等電点処理のpHで凝集する凝集剤を用いるのが好ましい。凝集を行った反応液22は固液分離機4で固液分離し、分離液23は嫌気性処理槽5に導入して嫌気性処理を行う。分離固形分24は脱水機7において脱水し、回収蛋白質25を得る。固液分離機としてはスクリューデカンター型の固液分離機が用いられるが、他のスクリュープレス型やペルトプレス型の固液分離機でもよい。なお、凝集槽3を省略して加熱処理槽1の処理液を固液分離してもよい。
【0019】
嫌気性処理槽5へ反応液23を導入する際、低濃度排水12の一部を混合して、所定の蛋白質濃度、温度、pHとなるように希釈する。処理コスト低減のためには、なるべく低希釈または無希釈が好ましい。前述のように加熱処理槽1で蛋白質を変性析出させ、それを固液分離機4で除去しているので、アンモニア等による阻害が軽減されるため、低希釈
または無希釈で嫌気性処理が可能となる。嫌気性処理槽5はUASB式のものでスラッジブランケット5aが形成されているが、流動床式、固定床式等の他の嫌気性処理槽でもよい。嫌気性処理槽5で高流速で嫌気性処理を行うことにより、被処理水に含まれていた澱粉その他の有機物は酸生成菌により有機酸に分解され、さらにメタン生成菌によりメタンに分解される。蛋白質はすでに大部分が除去されているので、生成するアンモニア性窒素の量は少なく、メタン生成菌の活性は高く維持される。
【0020】
嫌気性処理槽5で発生するメタンガスを含む生成ガス26はガス貯槽8に貯留され、蒸気発生用の燃料ガス17として利用される。嫌気性処理槽5の嫌気性処理水27は、そのまま液肥とすることができるが、さらに脱リン槽6に送られ、ここでリンが部分的に除去され、リン濃度が調節された液肥28が製造される。脱リン槽6へは、カルシウムやマグネシウムなどのリン析出剤を添加(図示せず)し、ヒドロキシアパタイトまたはリン酸マグネシウムアンモニウム塩を晶析させることにより、リン濃度を調節した液肥を得ることができる。脱リン槽6は、必ずしも必要ではないが、リン濃度が高いので配管輸送の際、配管を詰まらせるおそれがあるため、リン濃度を調節するために、設けることが好ましい。脱リン槽6で生成した含リン汚泥は、別途リン肥料として利用可能である。
【実施例1】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
実施例1
図1に示す装置で、馬鈴薯澱粉排水を原料として液肥製造を行った。
〔排水水質〕
1)デカンター排水
全CODcr :44,000〜60,000mg/L
溶解性全CODcr :40,000〜51,000mg/L
BOD :20,000〜30,000mg/L
SS : 3,000〜 6,000mg/L
溶解性蛋白質 :15,000〜25,000mg/L
全窒素(Nとして) : 5,000〜10,000mg/L
リン(PO4として): 300〜 500mg/L
2)ハイドロサイクロン排水
BOD : 1,000〜 2,000mg/L
溶解性蛋白質 : 1,000〜 2,000mg/L
全窒素(Nとして) : 400〜 500mg/L
〔処理方法〕
澱粉製造排水は高濃度排水11として上記1)の水質のデカンター排水と、低濃度排水12として上記2)の水質のハイドロサイクロン排水12に大別され、蛋白質の多くはデカンター排水に含まれていた。
【0022】
加熱処理槽1として通液能力0.5m3/Hrのインラインヒーターを通液し、蒸気を吹き込んでインラインヒーター出口の液温を95℃に調整し、デカンター排水中の蛋白質を熱変性処理により析出させた。その反応液を熟成槽としての凝集槽3に導入して5分〜60分滞留させることにより、凝集剤を添加することなく変性析出した蛋白質を凝集粒子として熟成させて安定化した後、デカンター型遠心分離機を用いて固液分離を行った。遠心分離機の分離液は、SS300〜1,000mg/L、BOD10,000〜20,000mg/L、蛋白質2,000〜4,000mg/Lであり、蛋白質はは84〜86%除去できた。
【0023】
この分離液をハイドロサイクロン排水12で3倍に希釈し、BOD約6,000mg/L、全窒素約600mg/Lの混合液を作成し、BOD負荷量10kg/m3/d(滞留
時間24時間)でUASB方式の嫌気性処理槽5に導入し、嫌気性処理を行った。嫌気性処理槽は水温35℃に調整したが、槽内液のpH調整は行わなかった。その結果、pH6.9〜7.2であった。嫌気性処理水のBODは50〜100mg/L(除去率98〜99%)であり、処理水の全窒素は400〜800mg/Lであり、窒素のほとんどがアンモニア態であった。
処理水のリン濃度は、リンとして50〜100mg/Lであった。カリウムは1,000〜3,000mg/Lであった。
【0024】
この処理水は肥料として必要な窒素、リン、カリウムを含むため、そのまま液肥として使用可能であった。
【0025】
この処理水を、高さ150cm、断面積20cm2(有効容量:2リットル)の晶析槽6に導入し、消石灰を、150〜250mg/L(消石灰として)添加して部分脱リン処理したところ、窒素(Nとして)400〜800mg/L、リン(Pとして)15〜30mg/L、カリウム(Kとして)1,000〜3,000mg/Lを含む液肥を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の澱粉製造排水から液肥を製造する方法および装置実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0027】
1 加熱処理槽
2 熱交換器
3 凝集槽
4 固液分離機
5 嫌気性処理装置
6 脱リン槽
7 脱水機
8 ガス貯槽
9 ボイラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉製造排水から液肥を製造する方法において、
澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させ、
固液分離により固形分を分離し、
分離液を嫌気性微生物処理することを特徴とする澱粉製造排水から液肥を製造する方法。
【請求項2】
嫌気性微生物処理後の液を、さらに部分脱リン処理する請求項1記載の澱粉製造排水から液肥を製造する方法。
【請求項3】
澱粉製造排水から液肥を製造する装置において、
澱粉製造排水を加熱して滅菌するとともに溶解性の蛋白質を変性して析出させるための加熱処理槽と、
加熱処理槽の流出液を固形分と分離液に分離する固液分離機と、
分離された分離液を嫌気性微生物で消化処理する嫌気性処理槽とを有することを特徴とする澱粉製造排水から液肥を製造する装置。
【請求項4】
嫌気処理槽の後段に、嫌気処理液を部分脱リン処理する脱リン槽を設けた請求項3記載の澱粉製造排水から液肥を製造する装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−256871(P2006−256871A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72123(P2005−72123)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】