説明

濃厚乳及び濃厚乳用乳化剤

【課題】濃厚乳中に含まれる乳化粒子のメジアン径を25MPa未満の低圧均質化処理を用いた場合でも1.0μm以下、特に殺菌処理後でも1.06μm以下に小さくすることで、濃厚乳の凝集を効果的に防止する乳化剤を提供する。
【解決手段】ショ糖脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリド、及び蒸留モノグリセリドを含有するか、これらを組み合わせてなる濃厚乳用乳化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚乳の調製に好適に使用できる乳化剤に関する。詳細には、本発明は濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径を小さくすることができる濃厚乳用乳化剤に関する。より詳細には、本発明は、濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径を小さくすることによって、殺菌処理などによって生じる濃厚乳の凝集を抑制することができる乳化剤に関する。
【0002】
なお、以下、本明細書において「粒子径」とは、具体的にはメジアン径(d50)を意味する。また、本明細書において「殺菌処理」とは、食物などに含まれる微生物を殺菌又は滅菌するものであり、一例として加熱殺菌処理が挙げられる。かかる加熱殺菌処理の例として、レトルト殺菌(例えば121℃で20分間処理)、フ゜レート殺菌(例えば 140℃で7秒間処理)、チューブラー殺菌(例えば138℃ 3秒間処理)、スチーム殺菌((インジェクション方式(例えば140℃ 15秒間殺菌処理)、インフユージョン方式(例えば140℃ 7秒間殺菌処理))等を挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
乳素材は、豊かな栄養特性および生理特性、おいしさを示す優れた嗜好特性を持っているため、食品の調理に幅広く利用されている。例えば、乳素材は、食品への色付け(視覚)、味(味覚)、香り(嗅覚)及びテクスチャー(触覚)等の嗜好性を改良または向上するために、多くの食品に利用されている。
【0004】
かかる乳素材の効果は多岐にわたり、具体的には、例えば色白く仕上げる、よい焦げ色をつける(視覚)、コクのある旨みをつける、あと口をよくする(味覚)、生臭さを消す、香ばしい香りや芳醇な芳香をつける(嗅覚)、なめらかにする、粘稠性を与える、ゲル化に影響する、起泡性を付与する(テクスチャー)等を挙げることができる。
【0005】
乳素材には様々な形態の種類があるが、その中でも乳から水分を除去して粉末状に乾燥した粉乳は、液状乳と比較して保存性が著しく良好であること、輸送や貯蔵に非常に便利であること、さらに必要に応じて還元でき、濃度調整が簡便であることなどの利点があることから、食品に対してよく使用されている素材である。
【0006】
食品に添加して用いられる乳素材としては、上述のように製造した粉乳を還元、溶解し、調製した濃厚乳や、牛乳中の水分をエバポレーターで蒸発して作る濃縮乳といった、乳本来の成分が高濃度に含まれている素材、すなわち乳濃度の高い乳素材を挙げることができる。かかる乳素材は、食品に少量添加することによって乳本来の特性を食品に付与することでき、また添加量が少量で済むため、食品自体の味質に影響を与えにくいことから汎用されている。
【0007】
乳濃度の高い乳素材を用いた加工技術としては、例えば、無脂乳固形分と糖アルコールを含有した加工用濃縮乳を用いて、レトルト殺菌のような高温加熱殺菌をおこないながらも乳本来の風味・コク味のあるホワイトソースを作成する方法(特許文献1)、特定の無脂乳固形分および乳脂肪分を含有する濃縮乳を用いて乳脂肪含有量の高いフレッシュチーズを作成する方法(特許文献2)、乳からイオンを一部除去し、低溶存酸素状態で加熱処理することによって、飲料などの原料に用いたときに生乳本来の口当たり、フレッシュ感、のど越し、後味に優れた濃縮乳や粉乳を作成する方法(特許文献3)等、従来から種々の方法が知られている。
【0008】
しかし、その一方で、乳素材を食品に使用する際の実用上の問題点として、殺菌処理によりタンパク質が変性してしまい、凝集してしまうという点が挙げられる。
【0009】
これを解決するための方法として、原料乳を濃縮処理する前と後に均質化処理を行うことで熱安定性の高い良質な濃縮乳を調製する方法(特許文献4);原料乳を濃縮処理する前に予熱処理、濃縮処理前後の少なくともいずれかの段階で均質化処理、さらにUHT処理を施し、且つリン酸塩を添加して濃縮乳を調製する方法(特許文献5);特許文献5と同様に、原料乳を濃縮処理前に予熱処理、濃縮処理前後の少なくともいずれかの段階で均質化処理;さらにUHT処理を施し、且つ重曹(炭酸水素ナトリウム)を添加して濃縮乳を調製する方法(特許文献6)が提案されている。
【0010】
また、乳に含まれる乳化粒子の平均粒子径を小さくして乳化安定性を向上させる方法として、牛乳と乳化剤を含む混合物を高圧(25MPa以上)で均質化処理する方法(特許文献7);油脂成分と水と乳化剤もしくは安定剤と混合し、85℃以下の油脂含有溶液を500kg/cm(50MPa)以上の圧力で均質化を行うことにより油脂含有飲料に含まれる水不溶性成分の粒子径を1.0μm以下とする方法(特許文献8);モノエステル含有量が50質量%以上のジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びHLB10未満のショ糖脂肪酸エステルから成る乳化安定剤を用いることによって、0.5μm程度のメジアン径を有し、乳化安定性を有する乳飲料を調製する方法(特許文献9)が知られている。
【特許文献1】特開2000−139343号公報
【特許文献2】特開2000−245341号公報
【特許文献3】特開2007−60901号公報
【特許文献4】特開2002−345402号公報
【特許文献5】特開2005−245281号公報
【特許文献6】特開2006−87358号公報
【特許文献7】特開2003−180243号公報
【特許文献8】特開平6−292544号公報
【特許文献9】特開2006−14725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
粉乳は、先述するように保存性、輸送簡便性および貯蔵面において、液状乳より優れているため、濃厚乳の製造に汎用される素材の一つである。しかし、その一方で、粉乳を用いて調製した濃厚乳の安定性は、濃縮乳と比較して以下のような問題がある。
【0012】
(1)粉乳は、水分除去するために熱を利用した乾燥工程を経ているため粒子が大きくなり、溶解時の安定性が悪い。
【0013】
(2)粉乳自体の粒子が大きいため、粉乳を用いて調製した濃厚乳に対して殺菌処理を行うと、タンパク質の凝集物が生じる。
【0014】
乳飲料について粒子径を小さくする方法としては、特許文献7〜8に記載されるように、高圧下(特許文献7では25MPa以上、特許文献8では500kg/cm(50MPa)以上)で均質化処理を行う方法が知られている。しかし、このような高圧均質化処理により一時的に粒子径は小さくなるが、脂肪含量が高い場合は処理後の殺菌あるいは保存により粒子の再凝集が発生しやすく、再度均質化処理を行う必要がある。
【0015】
前述する特許文献7〜9には、かかる問題を解決する方法も記載されている。しかしながら、特許文献7が対象とする乳飲料は、ミルクコーヒー、カフェオレ、ミルクティー、ミルクココア、および豆乳飲料といった乳濃度が牛乳より低い飲料である。また特許文献8及び9が対象とする乳飲料も、全粉乳濃度13%(牛乳換算濃度:約100%=牛乳そのもの)や牛乳換算濃度30%(特許文献8)、および牛乳換算濃度8%もしくは20%など、乳濃度が牛乳と同様またはそれよりも低い濃度であり、乳濃度の高い濃厚乳の粒子径を小さく出来る手段は開示されていない。
【0016】
乳濃度が高い濃厚乳は、乳濃度が低い乳飲料よりも乳含量が非常に多いため、凝集しやすいという問題点がある。また、濃厚乳に該当する濃縮乳は未濃縮乳と比較して、殺菌処理に対して不安定であり、凝集しやすいという問題がある(特許文献5の段落[0003]参照)。
【0017】
これらのことから、牛乳よりも乳固形分濃度の高い濃厚乳について、乳化粒子の粒子径を安定的に小さくし、かつ殺菌処理を行った場合でも乳化粒子が凝集せずに安定に存在させる方法が求められている。特に、殺菌処理による熱変性によりタンパク質が凝固し凝集すると濃厚乳がざらつき、舌触りの悪い食感となってしまうため、これらを改善する必要がある。
【0018】
そこで、本発明は、濃厚乳、特に粉乳や濃縮乳から調製される濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径を小さくするのに有効な濃厚乳用乳化剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、殺菌処理によって乳化粒子の粒子径が大きくなり、また乳素材が凝集することを抑制するために好適に用いられる乳化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、濃厚乳、特に粉乳や濃縮乳を用いた濃厚乳の調製に、乳化剤として、ショ糖脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリド及び蒸留モノグリセリドを併用することにより、濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径を小さくすることが出来ること、また、殺菌処理しても、当該乳化粒子を小さい状態のまま安定維持でき、また濃厚乳の凝集を有意に抑制することができることを見出し、本発明に至った。
【0020】
(I)本発明は以下の態様を有する濃厚乳用乳化剤に関する;
(I-1).下記の(1)〜(3)成分を含有するか、または個別包装された下記(1)〜(3)成分を組み合わせてなることを特徴とする濃厚乳用乳化剤。
(1)ショ糖脂肪酸エステル
(2)コハク酸モノグリセリド
(3)蒸留モノグリセリド。
(I-2).ショ糖脂肪酸エステルが、HLB3〜7を有するものである(I-1)に記載する濃厚乳用乳化剤。
(I-3).濃厚乳の製造に際して、濃厚乳全原料中における(1)〜(3)成分の濃度が下記の割合になるように用いられる、(I-1)または(I-2)に記載する濃厚乳用乳化剤:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%
(3)蒸留モノグリセリド:0.1〜1.5質量%。
(I-4).濃厚乳の製造に際して、濃厚全乳原料中における(1)〜(3)成分の濃度が下記の割合になるように用いられる、(I-1)または(I-2)に記載する濃厚乳用乳化剤:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%
(3)蒸留モノグリセリド:0.25〜1質量%。
(I-5).(1)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、(2)コハク酸モノグリセリドを1〜2質量部、および(3)蒸留モノグリセリドを1〜20質量部の割合で、(1)〜(3)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する濃厚乳用乳化剤。
(I-6).濃厚乳を、その中に含まれる乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下になるように調製するための乳化剤である、(I-1)乃至(I-5)いずれかに記載する濃厚乳用乳化剤。
【0021】
(II)また本発明は以下の態様を有する濃厚乳の製造方法に関する;
(II-1).(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する濃厚乳用乳化剤の存在下で、濃厚乳原料を均質化処理する工程を有する、乳固形分濃度が12.6質量%より高いことを特徴とする濃厚乳の製造方法。
(II-2).濃厚乳全原料中における(1)〜(3)成分の濃度が、下記の割合になるように濃厚乳用乳化剤を用いることを特徴とする(II-1)に記載する濃厚乳の製造方法:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%
(3)蒸留モノグリセリド:0.1〜1.5質量%。
(II-3).濃厚乳全原料中における(1)〜(3)成分の濃度が、下記の割合になるように濃厚乳用乳化剤を用いることを特徴とする(II-1)に記載する濃厚乳の製造方法:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%
(3)蒸留モノグリセリド:0.25〜1質量%。
(II-4).均質化処理を25MPa未満の低圧力条件下で行うことを特徴とする、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
(II-5).均質化処理工程及び殺菌処理工程を有する、(II-1)乃至(II-4)のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
(II-6).均質化処理工程後、殺菌処理工程を有する、(II-1)乃至(II-5)のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
(II-7).乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下の濃厚乳を製造する方法である、(II-1)乃至(II-6)のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
【0022】
(III)さらに本発明は以下の態様を有する濃厚乳またはその加工物に関する;
(III-1).(II-1)乃至(II-6)のいずれかに記載する製造方法で調製される、乳固形分濃度が12.6質量%より高いことを特徴とする濃厚乳、またはそれを原料として製造される乳を含む製品。
(III-2).乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下であることを特徴とする(III-1)に記載する濃厚乳、またはそれを原料として製造される乳を含む製品。
【発明の効果】
【0023】
本発明の乳化剤によれば、濃厚乳、特に粉乳や濃縮乳を用いて調製される濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径を小さくすることができ、また、殺菌処理後も乳化粒子を小さい状態のまま維持することができる。またかかる乳化剤を用いることによって、殺菌処理によって生じる濃厚乳の凝集ならびに保存後における再凝集が有意に抑制できるため、品質が安定した濃厚乳が調製できるとともに、濃厚乳について、ざらつきなど、舌触りや食感の悪さを改良することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(I)濃厚乳の定義
本発明が対象とする濃厚乳は、含有する乳濃度が、乳固形分濃度(無脂乳固形分と乳脂肪分を含む)に換算した場合に牛乳の12.6質量%よりも多いことを特徴とするエマルジョン形態の液状物である。
【0025】
本発明が対象とする濃厚乳は、上記の範囲において、使用目的に応じて乳濃度を適宜設定することができる。ところで、乳濃度は、通常「乳固形分濃度」として表示する場合と、「牛乳換算濃度」として表示する場合がある。ここで「乳固形分濃度」とは、濃厚乳に含まれる水分を除くその他の成分を合計した絶対濃度を意味する。なお、普通牛乳の乳固形分濃度は12.6質量%である。また「牛乳換算濃度」とは、五訂日本食品標準成分表(大蔵省印刷局発行、発行日平成12年12月20日)にて規定されている普通牛乳を基準とする濃度を意味する。例えば、牛乳換算濃度100%とは牛乳そのもの(乳固形分濃度が普通牛乳と同じ12.6質量%である液体)を指し、牛乳換算濃度200%とは牛乳の2倍の濃度(乳固形分を25.2質量%(乳固形分濃度が普通牛乳の2倍)含有する液体)を指す。
【0026】
本発明が対象とする濃厚乳の乳濃度は、牛乳のそれより高ければ制限はされず、乳固形分濃度に換算した場合、12.6質量%より多く30.2質量%以下、好ましくは13〜30.2質量%の範囲にあることが望ましい。また牛乳換算濃度に換算した場合、100質量%より多く240質量%以下、好ましくは103〜240質量%の範囲にあることが望ましい。
【0027】
本発明が対象とする好適な濃厚乳は、乳固形分濃度が上記範囲になるように、粉乳または濃縮乳から調製されるものである。ここで粉乳とは、乳から水分を除去して粉末状に乾燥したものであり、具体的には、脱脂粉乳、全粉乳、調製粉乳、加糖粉乳、クリームパウダー、ホエーパウダー、およびバターミルクパウダーを挙げることができる。粉乳として好ましくは脱脂粉乳である。また濃縮乳とは、牛乳や乳製品をエバポレーターで減圧濃縮又は膜濾過により濃縮した乳素材であり、具体的には、脱脂濃縮乳、全脂濃縮乳、脱脂加糖練乳、全脂加糖練乳、脱脂無糖練乳、および全脂無糖練乳などを挙げることができる。
【0028】
本発明が対象とするより好ましい濃厚乳は、上記粉乳のうち脱脂粉乳を原料として調製されるものである。ここで脱脂粉乳は、常法により製造されたものを用いることができる。通常、脱脂粉乳は原料乳を浄化処理し、クリームと脱脂乳に分離し、その後、冷却、貯乳、殺菌工程を経て、次いで濃縮、乾燥工程を経る。その後、粒子の湿潤性、分散性、沈降性、溶解性を付与するために、通常造粒工程を経て製造される。造粒(インスタント化)された脱脂粉乳は、加湿し気流造粒により作られるため、多孔質で、表面積は大きく、平均粒子はおよそ200μmである。本発明で使用される脱脂粉乳は商業的に入手可能であり、森永乳業株式会社製の脱脂粉乳や雪印乳業株式会社製の脱脂粉乳等を挙げることができる。
【0029】
(II)濃厚乳用乳化剤
本発明の濃厚乳用乳化剤は、上記の濃厚乳の乳化調製に使用される乳化剤であって、下記(1)〜(3)成分を含有するか、または個別包装された下記(1)成分、(2)成分および(3)成分を個々に組み合わせてなることを特徴とする:
(1)ショ糖脂肪酸エステル
(2)コハク酸モノグリセリド
(3)蒸留モノグリセリド。
【0030】
本発明で使用するショ糖脂肪酸エステルは、HLB3〜7、好ましくはHLB5〜6、特に好ましくはHLB5のものである。その構成脂肪酸としては主としてステアリン酸を有するものを挙げることができる。その割合は特に制限されないが、通常7割程度を挙げることができる。ショ糖脂肪酸エステルの由来は特に制限されないが、通常、サトウキビとパームを挙げることができる。かかるショ糖脂肪酸エステルは、商業的に入手可能であり、例えば三菱化学フーズ株式会社製のエステルS−570(商品名)や第一工業製薬株式会社製のDKエステルF−50(商品名)等を挙げることができる。
【0031】
本発明で使用するコハク酸モノグリセリドは、有機酸モノグリセリドの一種であり、モノグリセリドに有機酸であるコハク酸をエステル結合してなるものである。かかるコハク酸モノグリセリドは商業的に入手可能であり、例えば、花王株式会社製のステップSS(商品名)や理研ビタミン株式会社製のポエムB−10(商品名)等を挙げることができる。
【0032】
本発明で使用する蒸留モノグリセリドは、モノグリセリドを分子蒸留したものであり、モノグリセリド含量が90質量%以上100質量%以下、好ましくはモノグリセリド含量が95質量%以上100質量%以下のものである。かかる蒸留モノグリセリドは商業的に入手可能であり、例えば、花王株式会社製のエキセルT−95(商品名)や太陽化学株式会社のサンソフト8000(商品名)等を挙げることができる。
【0033】
本発明の濃厚乳用乳化剤は、濃厚乳の製造に、濃厚乳原料中(総量100質量%)における、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、および(3)蒸留モノグリセリドの濃度が下記の割合になるように用いられることが好ましい:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%、好ましくは、0.05〜0.25質量%、より好ましくは0.08〜0.2質量%、
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%、より好ましくは、0.12〜0.25質量%、
(3)蒸留モノグリセリド:0.1〜1.5質量%、好ましくは0.25〜1質量%、より好ましくは0.25〜0.7質量%となるような割合である。
【0034】
本発明の濃厚乳用乳化剤中に配合されるか、または濃厚乳用乳化剤として組み合わせて用いられる上記ショ糖脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリド、および蒸留モノグリセリドの割合は、濃厚乳の製造に上記割合で使用されるものであればよく、適宜調節することが可能であるが、例えばショ糖脂肪酸エステル1質量部に対する、コハク酸モノグリセリドの割合として1〜2質量部、好ましくは1.5〜2質量部;蒸留モノグリセリドの割合として1〜20質量部、好ましくは2.5〜10質量部の割合を例示することができる。
【0035】
本発明の濃厚乳用乳化剤は、上記(1)〜(3)成分だけを組み合わせてなるものであってもよいが、本発明の効果を妨げない限りにおいて、pH調整剤、重曹、有機酸塩、増粘多糖類、香料、色素、酸化防止剤、日持ち向上剤、保存料、糖類等の添加剤を配合するか、または併用することも出来る。これらの添加剤を用いる場合、これらの配合量としては、上限として、糖類については20質量%、それ以外の成分については1質量%を挙げることができる。
【0036】
本発明の濃厚乳用乳化剤は、後述するように濃厚乳の乳化調製に好適に使用することができ、斯くして調製される濃厚乳は、乳化粒子の粒子径が小さくその安定性に優れているため、殺菌処理などの加熱処理や長期保存によっても乳化粒子が凝集せず、滑らかな食感を長期にわたって保有している。特に本発明の濃厚乳用乳化剤を用いることにより、濃厚乳の調製に際して、65〜80℃での均質化処理を、25MPa未満、好ましくは15MPa以下の低圧条件下で行った場合でも、乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下、好ましくは0.5μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.0μm未満であり、その結果、滑らかな濃厚乳を調製することができる。また、本発明の濃厚乳用乳化剤を用いて濃厚乳を調製すると、それを殺菌処理、特に121℃30分間からなるレトルト殺菌をした後でも、乳化粒子のメジアン径を、1.06μm以下、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは1.0μm未満を維持することを特徴とする。
【0037】
(III)濃厚乳およびそれを原料として調製される乳を含む製品
本発明の濃厚乳は、上記本発明の濃厚乳用乳化剤、すなわち下記(1)〜(3)成分を含有する濃厚乳用乳化剤、または個別包装された下記(1)成分、(2)成分および(3)成分を個々に組み合わせてなる濃厚乳用乳化剤を用いて乳化調製することができる:
(1)ショ糖脂肪酸エステル
(2)コハク酸モノグリセリド
(3)蒸留モノグリセリド。
【0038】
かかる濃厚乳用乳化剤の濃厚乳原料への配合時期は、濃厚乳原料を乳化処理する前であればよく、特に制限されない。
【0039】
濃厚乳の乳化調製に使用される濃厚乳用乳化剤の割合としては、濃厚乳の全原料(総量)100質量%中の(1)ショ糖脂肪酸エステルの濃度が0.03〜0.3質量%、好ましくは、0.05〜0.25質量%、更に好ましくは0.08〜0.2質量%となるような割合;濃厚乳原料(総量)100質量%中の(2)コハク酸モノグリセリドの濃度が0.05〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%、更に好ましくは、0.12〜0.25質量%となるような割合;濃厚乳原料(総量)100質量%中の(3)蒸留モノグリセリドの濃度が0.1〜1.5質量%、好ましくは0.25〜1質量%、更に好ましくは0.25〜0.7質量%となるような割合である。
【0040】
なお、上記で説明する濃厚乳の調製方法は、濃厚乳用乳化剤との認識の有無を問わず、個別包装された上記(1)〜(3)成分を濃厚乳原料に個々に配合することによって、濃厚乳を乳化調製する方法を包含するものである。
【0041】
本発明に係る濃厚乳は乳化剤として、本発明の濃厚乳用乳化剤、具体的には上記(1)〜(3)成分を添加すること以外は、前述する粉乳または濃縮乳を用いて常法により製造することができる。具体的には、牛乳や水に、粉乳または濃縮乳などの乳原料、必要に応じて乳固形分濃度を調整するなどの目的でバター、並びに本発明の濃厚乳用乳化剤(すなわち上記(1)〜(3)成分)を添加し、混合し、均質化処理を施した前もしくは後に、殺菌処理することにより製造することができる。
【0042】
ここで混合処理は、制限はされないが、約40℃のお湯に脱脂粉乳等の乳原料と本発明の濃厚乳用乳化剤を加え、更に、必要に応じてバターを加えて、75℃まで加温し、75℃で10分間攪拌混合する方法を例示することができる。
【0043】
均質化処理は、常法により行うことができるが、具体的には、ホモジナイザーを用い、65〜80℃の条件下、5MPa以上25MPa未満の圧力で処理する方法を例示することができる。好ましくは、温度を65〜80℃の条件に設定し、第一段10〜25MPa未満、第二段0〜5MPa以下の圧力でホモジナイズする方法を用いることができる。
【0044】
殺菌処理も、レトルト殺菌や超高温短時間加熱殺菌(UHT殺菌)など、乳を含む製品に使用される常法に従って行うことができる。一般的に、高温での殺菌時間が長いレトルト殺菌は加熱熱量が大きいため、タンパク質に負担がかかり、タンパク質の変性・凝集が起こりやすくなるため、乳を含む製品の殺菌方法としては、超高温短時間加熱殺菌(UHT殺菌)がよく用いられる。しかし、乳化剤として本発明の乳化剤を用いると、UHT殺菌はもちろん、上記レトルト殺菌を行った場合でも、濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径が大きくならず、小さい状態を維持することができる。
【0045】
本発明の濃厚乳は、乳濃度が、乳固形分濃度に換算した場合、12.6質量%より多く30.2質量%以下、好ましくは13〜30.2質量%の範囲にあるものであり、また牛乳換算濃度に換算した場合に100質量%より多く240質量%以下、好ましくは103〜240質量%の範囲にあるものである。また、本発明の濃厚乳は、本発明の濃厚乳用乳化剤(すなわち前述する(1)〜(3)成分)を用いて上記の方法に従って乳化調製されるものであって、その製造において、65〜80℃の均質化処理を、25MPa未満、好ましくは15MPa以下の低圧条件で行った場合でも、乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下、好ましくは0.5μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.0μm未満であることを特徴とする。さらに当該乳化粒子のメジアン径は、殺菌処理後、特に121℃30分間からなるレトルト殺菌後でも殆ど変化なく、1.06μm以下、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは1.0μm未満を維持することを特徴とする。さらに本発明の濃厚乳は、乳化粒子の凝集が有意に抑制されており、上記のレトルト殺菌後でも凝集が殆ど生じない。
【0046】
このため、本発明の濃厚乳は、長期間にわたって乳化安定性に優れ、舌触り(食感)が滑らかであることを特徴とする。
【0047】
当該濃厚乳は、市場に流通する乳を含む製品の製造に使用される原料(中間原料)として使用される。濃厚乳を原料として製造される乳を含む製品としては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で、規定されている加工乳及び乳製品(アイスクリーム類、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料などを含む)、清涼飲料(ココア飲料、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料、ミルクティー)、及び乳等を主要原料とする食品(ホイップクリーム、ホワイトナー、ソフトクリーム用ミックス、アイスクリーム用ミックスなどを含む)等を挙げることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載がない限り単位は「質量%」とし、文中「*」印のものは三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0049】
実施例1〜6:濃厚乳の作成
表1に実施例1〜6の、表2に比較例1〜8の処方を示す。
【0050】
表1および2に記載する各成分(脱脂粉乳、無塩バター、各種乳化剤及び水)を混合し、75℃で10分間混合した。その後、ホモジナイザーにて品温75℃、圧力(第一段:10MPa、第二段:5MPa)で均質化処理し、次いで121℃30分間のレトルト殺菌を行い、室温まで放冷し、乳濃度が、乳固形分濃度で18.49質量%の濃厚乳(実施例1〜6、比較例1〜8)を調製した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
得られた各濃厚乳の乳化粒子の粒子径を比較するために、メジアン径(d50)を測定した。メジアン径の測定には島津製作所製のレーザー回折式粒度分布計(形式:SALD2100)を用いた。測定条件としては、温度:室温、屈折率:1.70〜0.20i、セル:バッチセル、測定範囲:0.03〜1000μm、粒度分布:体積基準で測定を行った。メジアン径(d50)は乳化粒子の粒子径を大きさ順にならべ、これを2つに分けたときに大きい側と小さい側が等量になる径をいい、真の中心の位置を表す。従って、値が小さいものほど乳化粒子の粒子径が小さいことを示す。
【0054】
また、レトルト殺菌によるタンパク質の変性度合い(凝集度合い)を評価するために沈殿量を測定した。沈殿量の測定方法としては、室温保存した各濃厚乳を遠沈管に50g正確に量り取り、これを遠心分離機(クボタ社製形式8400)にて、2000回転/分で10分間遠心し、上澄みを捨て20分間倒置して液をきり、沈殿物の質量を測定した。この測定値から下記の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0055】
【数1】

【0056】
結果を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
表3の結果から、乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後の両方で1.0μm以下、好ましくは1.0μm未満とし、且つ沈殿量を少なくするためには、乳化剤として(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを使用することが必要であることが分かった(実施例1〜6,比較例2〜7)。具体的には、蒸留モノグリセリドを添加しなかった場合(比較例3)、蒸留モノグリセリド以外の乳化剤として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを併用した場合(比較例5)、ソルビタン脂肪酸エステルを併用した場合(比較例6)、およびレシチンを併用した場合(比較例7)はいずれも殺菌処理後の乳化粒子のメジアン径が1.0μmを超えて大きくなり、沈殿量が増加する傾向が認められた。
【0059】
また、実施例1〜6に比較して、ショ糖脂肪酸エステルおよびコハク酸モノグリセリドの添加量を少なく、それぞれ0.02質量%以下および0.03質量%以下とした場合、乳化粒子のメジアン径は1.0μmを超えて大きくなり、沈殿量も約2倍に増加した(比較例1)。またショ糖脂肪酸エステルおよびコハク酸モノグリセリドの添加量を多く、それぞれ0.4質量%以上および0.6質量%以上とした場合でも、乳化粒子のメジアン径は1.0μmを超えて大きくなり、沈殿量も増加すること(比較例8)がわかった。
【0060】
これらの結果から、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリド成分からなる乳化剤の中でも、特にショ糖脂肪酸エステルおよびコハク酸モノグリセリドの添加量は一定範囲内であることが好ましいこと、具体的にはショ糖脂肪酸エステルについては0.03〜0.3質量%の範囲、コハク酸モノグリセリドについては0.05〜0.5質量%の範囲とすることが好ましいことがわかった(実施例1〜6)。更には、乳化剤として(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを使用した場合(実施例1〜6)には、殺菌前後の乳化粒子のメジアン径の差が小さいことから(0.004−0.01μm)、殺菌処理に関わらず乳化粒子が安定であることが分かった。斯くして、殺菌処理を行った場合でも乳化粒子のメジアン径を1.0μm以下、特に1.0μm未満、好ましくは0.8μm未満に維持することができ、かつ殺菌処理後の沈殿率(%)を小さくすること(0.3%以下)ができることから、本発明の乳化剤を用いることにより、安定な乳化粒子を調製して乳化を安定化できることがわかった。
【0061】
実施例7:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:13.00質量%)
表4に処方を示す。調製方法は実施例1〜6と同様に行った。
【0062】
【表4】

【0063】
実施例1〜6と同様に乳化粒子のメジアン径及び沈殿量を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。また、レトルト殺菌による物性の変化を評価するために粘度を測定した。粘度の測定方法としては、試料の品温10℃にて、BL形粘度計(株式会社東京計器)にてローター1もしくはローター2を適宜用い、60回転/分(60rpm)で1分間測定した。なお、60回転/分(60rpm)の条件下で、測定対象の粘度が1〜100mPa・s以下の場合はローター1を、100〜500mPa・sの場合はローター2を用いた。結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
比較例9:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:13.00質量%)
表6に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0066】
【表6】

【0067】
実施例7と同様に比較例9のメジアン径、沈殿量及び粘度を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表7に示す。
【0068】
【表7】

【0069】
表7の結果よりわかるように、乳固形分濃度が普通牛乳の乳固形分濃度(12.6%)よりも高い場合において、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、(3)蒸留モノグリセリドの全てを併用することにより、乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後の両方で1.0μm未満にすることができた。一方、表7の結果(比較例9−1〜9−3)より、(3)蒸留モノグリセリドを添加しなければ乳化粒子のメジアン径を殺菌処理前後のいずれとも1.0μm未満にすることはできなかった。
【0070】
以上のことより、乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後の両方で1.0μm以下、特に1.0μm未満にするためには(1)〜(3)成分の併用が重要であることがわかった。
【0071】
更に、表5及び表7の結果より、(1)〜(3)成分を併用することによって、殺菌処理の前と後の両方で乳化粒子のメジアン径を大幅に小さくすることが可能となり、尚且つ殺菌処理前後でのメジアン径の変化も少ないことから、安定な乳化粒子を調製して乳化を安定化することができることがわかった(実施例7−1〜実施例7−7)。
【0072】
比較例10:調製乳の作成(乳固形分濃度:12.00質量%)
表8に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0073】
【表8】

【0074】
実施例7と同様に比較例10のメジアン径、沈殿量を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表9に示す。
【0075】
【表9】

【0076】
表9の結果より、乳固形分濃度が12.00質量%の場合でも、蒸留モノグリセリドを添加しなければ乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後で1.0μm未満にすることはできなかった(比較例10−1)が、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリド成分を全て併用することにより、乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後で1.0μm以下とすることが可能であった(比較例10−2)。このことから、乳固形分濃度が12.00質量%の場合でも、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリド成分の併用が重要であることがわかった。
【0077】
しかし、同濃度の(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドを添加した、比較例10−2(乳固形分濃度:12%)と実施例7−5(乳固形分濃度:13%)を比較すると、比較例10−2は乳固形分濃度が実施例7−5より低いにも関わらず、殺菌後の乳化粒子のメジアン径が大きくなること、殺菌前後のメジアン径の差が大幅に大きく、また殺菌後の沈殿率(%)が若干大きくなることが分かった。
【0078】
以上のことより、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリド成分の併用効果(メジアン径が殺菌処理によって大きくなることを防止する効果、殺菌処理前後のメジアン径の変化を少なくする効果)は、乳固形分濃度が12.00質量%の場合よりも13.00質量%の場合に、より効果的に発揮されることが分かった。
【0079】
実施例8、比較例11:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:13.83質量%)
表10に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0080】
【表10】

【0081】
実施例7と同様に実施例8及び比較例11のメジアン径、沈殿量及び粘度を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表11に示す。
【0082】
【表11】

【0083】
表11より、乳固形分濃度が13.83質量%の場合において、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを併用することにより、乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後の両方で1.0μm未満にすることができた。特に、(3)蒸留モノグリセリドの濃厚乳中における濃度が0.5〜0.7質量%の場合(実施例8−1〜8−3)、殺菌による加熱の前後における乳化粒子のメジアン径の差を0.1μm未満にすることができ、かつ殺菌後の沈殿率(%)も小さく、更には濃厚乳の粘度上昇があまり見られないことから、安定な濃厚乳を調製できることがわかった。
【0084】
実施例9、比較例12:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:16.36質量%)
表12に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0085】
【表12】

【0086】
実施例7と同様に実施例9及び比較例12の乳化粒子のメジアン径、沈殿量及び粘度を測定し、数1に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表13に示す。
【0087】
【表13】

【0088】
表13より、乳固形分濃度が16.36質量%の場合においても、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを併用することにより、乳化粒子のメジアン径を1.0μm未満、殺菌処理後でも1.06μm以下にすることができた。特に、(3)蒸留モノグリセリドの濃厚乳中における濃度が0.1〜0.7質量%の場合(実施例9−1〜9−5)に、殺菌による加熱を行った前後の乳化粒子のメジアン径の差を0.1μm未満(特に0.05μm未満)に、かつ沈殿量を少なくすることができ、更には濃厚乳の粘度上昇があまり見られないことから、安定な濃厚乳を調製できることがわかった。
【0089】
以上より、本発明において乳化剤(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを用いることが重要であることが確認された。
【0090】
一方、(3)蒸留モノグリセリドの濃厚乳中における濃度が2.0質量%(比較例12−2)の場合、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリド全てを用いた場合でも乳化粒子のメジアン径が「13.684μm」とかなり大きくなり、更には、殺菌後の沈殿率(%)も大きくなり、粘度も顕著に上昇した。このことから、(3)蒸留モノグリセリドは2質量%未満で使用することが好ましいと判断された。
【0091】
実施例10、比較例13:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:20.32質量%)
表14に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0092】
【表14】

【0093】
実施例7と同様に実施例10及び比較例13のメジアン径、沈殿量及び粘度を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表15に示す。
【0094】
【表15】

【0095】
表15より、乳固形分濃度が20.32質量%の場合において、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを併用することにより、殺菌処理の前と後の両方で乳化粒子のメジアン径を1.0μm未満に維持することができ、沈殿量も少なく安定な濃厚乳を調製できることがわかった。また濃厚乳の粘度上昇もあまり見られなかった。
【0096】
実施例11、比較例14:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:25.00質量%)
表16に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0097】
【表16】

【0098】
実施例7と同様に実施例11及び比較例14のメジアン径、沈殿量及び粘度を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表17に示す。
【0099】
【表17】

【0100】
表17より、乳固形分濃度が25.00質量%の場合においても、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを併用することにより、乳化粒子のメジアン径を1.0μm未満にすることができ、また殺菌処理の後でも1.06μm未満とすることができ、殺菌後の沈殿率(%)も小さくすることができた。特に(3)蒸留モノグリセリドの濃厚乳中における濃度が0.25〜0.7質量%の場合(実施例11−1〜11−4)は、殺菌処理の前と後の両方で乳化粒子のメジアン径を1.0μm未満にすることができ、更には濃厚乳の粘度上昇もあまり見られなかった。
【0101】
以上のことより、安定な濃厚乳を調製するうえで、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを用いることが重要であることが確認された。
【0102】
実施例12、比較例15:濃厚乳の作成(乳固形分濃度:30.19質量%)
表18に処方を示す。調製方法は実施例7と同様に行った。
【0103】
【表18】

【0104】
実施例7と同様に実施例12及び比較例15のメジアン径、沈殿量及び粘度を測定し、数1の計算式に従って沈殿率(%)を算出した。結果を表19に示す。
【0105】
【表19】

【0106】
表19よりわかるように、乳固形分濃度が30.19質量%の場合において、(1)ショ糖脂肪酸エステル、(2)コハク酸モノグリセリド、及び(3)蒸留モノグリセリドの全てを併用することにより、乳化粒子のメジアン径を殺菌処理の前と後の両方で1.0μm未満にすることができた(実施例12)。
【0107】
実施例13:コーヒー飲料(乳固形分濃度4.85質量%)
(1)下記処方成分のうち濃厚乳と脱脂粉乳を50℃の水で攪拌溶解した。
(2)別途、砂糖と乳化剤を70℃の水で溶解した。
(3)次に、上記(1)及び(2)で調製した各成分を混合し、粉末インスタントコーヒーを加え、10%(W/V)炭酸水素ナトリウム溶液でpHを6.8に調整し、全量を清水にて100質量%とした。この溶液を75℃で10分間混合した。その後、ホモジナイザーにて品温75℃、圧力(第一段:10MPa、第二段:5MPa)で均質化処理し、次いで140℃15秒間の加熱殺菌を行い、室温まで冷却し、乳濃度が、乳固形分濃度で4.85質量%のコーヒー飲料を調製した。
【0108】
<コーヒー飲料処方(質量%)>
濃厚乳(実施例3:乳固形分濃度18.49%) 19.0
脱脂粉乳 1.4
砂糖 4.5
粉末インスタントコーヒー 1.0
乳化剤(ホモゲン※No.897*) 0.1
10%(W/V)炭酸水素ナトリウム 適宜(pH6.8に調整)
清水にて合計 100.0。
【0109】
実施例14:ストロベリー乳飲料(乳固形分濃度7.93質量%)
下記処方成分のうち、砂糖と乳化剤を70℃の水で溶解し、濃厚乳と混合した。そこに、ストロベリー果汁を加え、10%(W/V)炭酸水素ナトリウム溶液でpHを6.8に調整し、全量を清水にて100質量%とした。この溶液を75℃で10分間混合した。その後、ホモジナイザーにて品温75℃、圧力(第一段:10MPa、第二段:5MPa)で均質化処理し、次いで138℃30秒間の加熱殺菌を行い、室温まで冷却し、乳濃度が、乳固形分濃度で7.93質量%のストロベリー乳飲料を調製した。
【0110】
<ストロベリー乳飲料処方(質量%)>
濃厚乳(実施例3:乳固形分濃度18.49%) 42.9
砂糖 4.0
ストロベリー果汁(ストレート) 5.0
乳化剤(ホモゲン※No.897*) 0.2
10%(W/V)炭酸水素ナトリウム 適宜(pH6.8に調整)
清水にて合計 100.0。
【0111】
実施例15:ドリンクヨーグルト(乳固形分濃度8.2質量%)
(A)発酵乳の調製
下記処方のうち、清水と濃厚乳を攪拌し、砂糖を加え70℃まで加熱溶解し、蒸発水を
補正後、ホモジナイザーにて品温75℃、圧力(第一段:10MPa、第二段:5MPa)で均質化処理を行った。次に90℃10分間加熱殺菌した後に、40℃まで冷却し、スターターを添加し、pH4.5迄発酵させた(40℃で約18時間)。次にホモジナイザーで攪拌してカードを破砕した後、10℃まで冷却し、発酵乳を調製した。
【0112】
<ヨーグルト処方(質量%)>
濃厚乳(実施例3:乳固形分濃度 18.49%) 55.4
砂糖 6.0
スターター 0.2
清水にて合計 100.0。
【0113】
(B)安定剤含有溶液の作成
清水を攪拌機で攪拌しつつ、安定剤としてペクチンを加え、80℃10分間加熱攪拌溶解した後、蒸発水を全量補正して100質量%とし、品温を10℃まで冷却して、安定剤含有溶液を調製した。
【0114】
<安定剤含有溶液処方 (質量%)>
ペクチン(SM-666*) 2.0
砂糖 5.0
清水にて合計 100.0。
【0115】
(C)ドリンクヨーグルトの調製
(A)で調製した発酵乳(10℃)と(B)で調製した安定剤含有溶液(10℃)を(A):(B)=80:20(重量比)の割合で混合した後、ホモジナイザーにて品温10℃以下、圧力(第一段:10MPa、第二段:5MPa)で均質化処理を行い、容器に充填して冷蔵し、ドリンクヨーグルトを調製した。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明により、濃厚乳中に含まれる乳化粒子の粒子径を小さくすることを特徴とする濃厚乳用乳化剤を提供できる。詳細には、濃厚乳中に含まれる乳化粒子のメジアン径を25MPa未満の低圧均質化処理を用いた場合でも殺菌処理の前と後の両方において1.0μm未満にまで小さくできる結果、濃厚乳の凝集を効果的に防止する乳化剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(3)成分を含有するか、または個別包装された下記(1)〜(3)成分を個々に組み合わせてなることを特徴とする濃厚乳用乳化剤。
(1)ショ糖脂肪酸エステル
(2)コハク酸モノグリセリド
(3)蒸留モノグリセリド。
【請求項2】
上記ショ糖脂肪酸エステルが、HLB3〜7を有することを特徴とする請求項1に記載する濃厚乳用乳化剤。
【請求項3】
濃厚乳の製造に、濃厚乳原料中における(1)〜(3)成分の濃度が下記の割合になるように用いられる、請求項1乃至2のいずれかに記載する濃厚乳用乳化剤:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%
(3)蒸留モノグリセリド:0.1〜1.5質量%。
【請求項4】
(1)ショ糖脂肪酸エステル1質量部に対して、(2)コハク酸モノグリセリドを1〜2質量部、および(3)蒸留モノグリセリドを1〜20質量部の割合で、(1)〜(3)成分を含有するか、または組み合わせてなることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載する濃厚乳用乳化剤。
【請求項5】
濃厚乳を、その中に含まれる乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下になるように調製するための乳化剤である、請求項1乃至4のいずれかに記載する濃厚乳用乳化剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載する濃厚乳用乳化剤の存在下で、濃厚乳原料を均質化処理する工程を有する、乳固形分濃度が12.6質量%より高いことを特徴とする濃厚乳の製造方法。
【請求項7】
濃厚乳原料中における(1)〜(3)成分の濃度が、下記の割合になるように濃厚乳用乳化剤を用いることを特徴とする請求項6に記載する濃厚乳の製造方法:
(1)ショ糖脂肪酸エステル:0.03〜0.3質量%
(2)コハク酸モノグリセリド:0.05〜0.5質量%
(3)蒸留モノグリセリド:0.1〜1.5質量%。
【請求項8】
均質化処理を25MPa未満の低圧力条件下で行うことを特徴とする、請求項6または7に記載する濃厚乳の製造方法。
【請求項9】
均質化処理工程及び殺菌処理工程を有する、請求項6乃至8のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
【請求項10】
均質化処理工程後、殺菌処理工程を有する、請求項6乃至9のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
【請求項11】
乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下である濃厚乳を製造する方法である、請求項6乃至10のいずれかに記載する濃厚乳の製造方法。
【請求項12】
請求項6乃至11のいずれかに記載する製造方法で調製される、乳固形分濃度が12.6質量%より高いことを特徴とする濃厚乳、またはそれを原料として製造される乳を含む製品。
【請求項13】
乳化粒子のメジアン径が1.0μm以下であることを特徴とする請求項12に記載する濃厚乳、またはそれを原料として製造される乳を含む製品。

【公開番号】特開2009−297017(P2009−297017A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328250(P2008−328250)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】