説明

濃度測定方法及び濃度測定装置

【課題】反応複合体に含まれる蛍光体の濃度に拘わらず、短時間で被分析物質の濃度を測定することができる濃度測定方法及び濃度測定装置を提供する。
【解決手段】抗体の結合した磁性体、抗体の結合した第1発光標識、抗体の結合した第2発光標識、及び、抗原を反応させ、反応により生じた反応複合体を集めて光を照射し、この光照射による反応複合体からの発光スペクトルから、第1発光標識の発光強度と第2発光標識の発光強度とをそれぞれ求め、求めた第1発光標識及び第2発光標識の発光強度に基づいて、検査容器内の抗原の濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度測定方法及び濃度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている抗原抗体反応を利用した濃度測定方法として、蛍光免疫測定がある(特許文献1)。この測定方法では、まず、検査容器内で抗体を結合した蛍光体と抗原(被分析物質)を反応させ、該反応物に抗体を結合した磁気粒子を添加反応させて、反応複合体を作製する。その後、前記反応複合体に光を照射したときに発する蛍光強度を測定して、被分析物質の量を測定する。被分析物質の測定においては、磁石で集めた反応複合体にレーザ光を照射し、反応複合体の蛍光体から発生する蛍光強度を検出する。蛍光強度は被分析物質の量に比例することを利用して、検出された蛍光強度から被分析物質を定量測定する。
【0003】
また、磁石で磁気粒子を集合させる時間を短縮する手法が提案されている。特許文献2では、撹拌吸引ノズルから液体または気体を検査容器内に吐出し、検査容器底部に存在していた磁性ビーズを吹き上げることで、磁石によって作られる磁場を通過する反応複合体の数を増加せしめ、検査溶液内の磁気粒子を短時間で集合させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−249114号公報
【特許文献2】特開2001−116752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蛍光観察において、反応複合体に含まれる蛍光体の濃度が高い場合、濃度を検出する検出器の測定上限を超えることにより、検出結果としての輝度が飽和してしまうおそれがある。このため、反応複合体から発生した蛍光の強度情報を正確に取得することができない。
【0006】
これに対して、光学系にNDフィルタを出し入れることにより、ダイナミックレンジを広げる手法をとることも考えられる。しかし、NDフィルタがある場合とない場合とで複数回検出する必要があり、測定に時間がかかるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、反応複合体に含まれる蛍光体の濃度に拘わらず、短時間で被分析物質の濃度を測定することのできる濃度測定手法及び濃度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る濃度測定方法は、抗体の結合した磁性体を検査容器内に拡散させる工程と、抗体の結合した第1発光標識を検査容器内に拡散させる工程と、第1発光標識とは異なる発光スペクトルを持ち、抗体の結合した第2発光標識を検査容器内に拡散させる工程と、抗原を検査容器内に拡散させる工程と、抗体の結合した磁性体、抗体の結合した第1発光標識、抗体の結合した第2発光標識、及び、抗原を反応させる工程と、反応により生じた反応複合体を集める収集工程と、
収集工程で集められた反応複合体に光を照射する光照射工程と、光照射工程における光照射による反応複合体からの発光スペクトルを検出するスペクトル検出工程と、スペクトルから第1発光標識の発光強度を求める第1発光標識発光強度算出工程と、スペクトルから第2発光標識の発光強度を求める第2発光標識発光強度算出工程と、第1発光標識発光強度算出工程で求められた第1発光標識の発光強度と、及び、第2発光標識発光強度算出工程で求められた第2発光標識の発光強度に基づいて、検査容器内の抗原の濃度を求める濃度算出工程と、を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明の濃度測定方法において、濃度算出工程は、第1発光標識の既知の発光スペクトルと第2発光標識の既知の発光スペクトルの情報に基づいて、第1発光標識の発光強度と第2発光標識の発光強度を求めるが好ましい。
【0010】
本発明の濃度測定方法は、第1発光標識の発光スペクトルのピーク波長であって第2発光標識が発光しない波長、及び、第2発光標識の発光スペクトルのピーク波長であって第1発光標識が発光しない波長と、抗原の濃度と、の関係を示す検量線を作成する検量線作成工程を備え、濃度算出工程において、検量線を用いて検査容器内の抗原の濃度を求めることが好ましい。
【0011】
また、本発明の濃度測定装置は、抗体の結合した磁性体、抗体の結合した第1発光標識、第1発光標識とは異なる発光スペクトルを持ち、抗体の結合した第2発光標識、及び、抗原を反応させて出来た反応複合体の入った検査容器と、反応複合体に光を照射する光照射手段と、光照射手段の光照射による反応複合体からの発光スペクトルを検出し、この発光スペクトルに基づいて、第1発光標識及び第2発光標識それぞれの発光強度を求める発光強度算出手段と、予め測定した、抗原の濃度と、第1発光標識の発光強度及び第2発光標識の発光強度と、の関係を記憶する記憶手段と、スペクトル検出手段で得られた、第1発光標識及び第2発光標識それぞれの発光強度、及び、記憶手段が記憶している、抗原の濃度と、第1発光標識の発光強度及び第2発光標識の発光強度と、の関係、に基づいて検査容器内の抗原の濃度を解析する解析手段と、を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明の濃度測定装置において、第1発光標識の発光スペクトルのピーク波長は、光照射手段から照射する励起光の波長と略一致していることが好ましい。
【0013】
本発明の濃度測定装置において、抗体が結合した第1発光標識の数は、抗体が結合した第2発光標識の数より多いことが好ましい。
【0014】
本発明の濃度測定装置において、第1発光標識に結合した抗体の数は、第2発光標識に結合した抗体の数より多いことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る濃度測定方法及び濃度測定装置は、反応複合体に含まれる発光標識の濃度に拘わらず、短時間で被分析物質の濃度を測定することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る濃度測定装置の構成を示す上面図であって、一部をブロック図で示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る、抗体、第1発光標識、第2発光標識、抗原、磁気ビーズ、及び、反応複合体を模式的に示す図である。
【図3】(a)は第1発光標識の発光スペクトルSo1(λ)を示すグラフであり、(b)は第2発光標識の発光スペクトルSo2(λ)を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態に係る第1発光標識及び第2発光標識の検量線を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態の変形例に係る光検出部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る濃度測定方法及び濃度測定装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る濃度測定装置の構成を示す上面図であって、一部をブロック図で示す図である。濃度測定装置100は、検査容器110と、光源部141と、光検出部142と、演算部143と、記憶手段としての記憶部146と、を備える。光源部141は光照射手段を構成する。光検出部142と演算部143はスペクトル算出手段を構成する。また、演算部143は解析手段を構成する。
【0019】
検査容器110には、抗体の結合した第1発光標識、抗体の結合した第2発光標識、抗体の結合した磁気ビーズ(磁性体)、及び、被分析物質としての抗原が拡散収容される。検査容器110内でこれらの物質を反応させると反応複合体が生成される。検査容器110は、マイクロリットルからミリリットル程度の試料を収納できるプラスチック製の容器(例えばキュベット)が好ましく、例えばエッペンドルフチューブやマイクロチューブを用いることができる。検査容器110の材質は、磁力を通すものであれば良く、ガラス製等であってもかまわない。さらに、検査容器110は使い捨てであってもよい。
【0020】
図2は、抗体151、第1発光標識152、第2発光標識162、被分析物質としての抗原153、磁性体としての磁気ビーズ154、及び、反応複合体155を模式的に示す図である。図2(a)は、抗体151が結合された第1発光標識152を示し、(b)は抗体151が結合された第2発光標識162を示し、(c)は被分析物質としての抗原153を示し、(d)は抗体151が結合された磁気ビーズ154を示し、(e)はこれらから生成される反応複合体155を示している。
【0021】
図2(a)、(b)、(d)、(e)における、略Y字形状の物体が抗体151であり、抗体151は、図2(c)に示す、被分析物質としての抗原153と特異的に抗原抗体反応する。
【0022】
第1発光標識152及び第2発光標識162は、光源部141からの励起光の照射によって蛍光もしくはラマン散乱光等を発する物質であって、発光スペクトルが互いに異なるものを用いる。また、上記励起光による発光強度を第1発光標識152と第2発光標識162とで異なることにすることが好ましく、ここでは、光源部141から同じ強度で励起した時、強い強度で発光する発光標識を第1発光標識152、弱い強度で発光する発光標識を第2発光標識162で定義する。
【0023】
第1発光標識152及び第2発光標識162は、化学的に安定であること、光源部141からの光の波長で発光可能な吸収帯を有すること、発光標識と磁気ビーズとの非特異的な吸着が無い材質であることが望ましい。
【0024】
第1発光標識152及び第2発光標識162としては、例えば、蛍光色素、蛍光マイクロビーズ、量子ドット、SERSナノタグを用いる。
【0025】
蛍光マイクロビーズとしては、例えば、488nmの光で励起し、515nmから660nmの蛍光を発するプローブ(フローサイトメトリーアラインメントビーズ)(Molecular Probes社製)を用いることができる。
【0026】
量子ドットは、例えばCdS、CdSeで作られたナノ粒子であって、光を照射すると発光する。発光波長は、粒子直径と相関関係にあり、粒径が大きくなるに連れて長波長側にシフトする。
【0027】
SERSナノタグとは、光照射によって強いラマン散乱光を発する直径数10nm〜数100nmの大きさを持つ微小球である。例えば、米国特許第7192778号明細書には、800〜1800cm-1のラマン散乱光の発光が開示されており、波長633nmの励起光(レーザ光)を照射すると波長670nm〜710nmのラマン散乱光が発生する例がある。SERSナノタグの構造は、例えば、約60nmのラマン活性レポーター分子を付着させた金ナノ粒子をポリマー、ガラスまたは任意の他の誘電性材料を含む被包シェルでシールドした構造である。レーザを照射すると、金属ナノ粒子で電場が増強され,吸着したラマン活性レポーター分子から強いラマン散乱光が発光される。ここで、「SERS」は、Surface Enhanced Raman Scatteringの略称である。
【0028】
ここで、第1発光標識152及び第2発光標識162のより具体的な例を挙げる。
ラマン散乱光を発する発光標識(SERSナノタグ)とする場合は、第1発光標識152は金属ナノ粒子を複数含むSERSナノタグとし、第2発光標識162は金属ナノ粒子を単数含むSERSナノタグとする。複数の金属ナノ粒子が互いに隣接していると、励起光照射時にこの隣接部において大変強い電場増強が起きることが知られている。そのため、金属ナノ粒子が単数のときに比べて、光照射によって、強いラマン散乱光が発生する。
【0029】
一方、第1発光標識152及び第2発光標識162を、蛍光を発する発光標識とする場合の一例としては、第1発光標識152を量子効率の高い蛍光色素(半導体量子ドット)とし、第2発光標識162を量子効率の低い蛍光色素とする。これに対して、第1発光標識152を量子効率の高い半導体量子ドットとし、第2発光標識162を量子効率の低い半導体量子ドットとすることもできる。さらに別の例としては、第1発光標識152を蛍光体含有量の多い蛍光ビーズとし、第2発光標識162を蛍光体含有量の少ない蛍光ビーズとすることも可能である。
【0030】
磁性体としての磁気ビーズ154は、可磁化物質(Fe23)が一様に分布したポリスチレン製のコアを親水性ポリマーで被った直径数100nm〜数μmの大きさを持つビーズであり、例えば、ダイナビーズ(商標)(ダイナル社製)を用いることができる。
【0031】
磁界発生部130は、検査容器110内の反応複合体155を所定位置に集めるように配置される。この所定位置において、光源部141からの所定の光が反応複合体155に照射されるとともに、光検出部142によって反応複合体155からの光が検出される。また、磁界発生部130には、例えばネオジウム磁石や電磁石のような、比較的強力な磁力を有する磁石を用いることが好ましい。
【0032】
光源部141としては、例えばハロゲンランプ、水銀ランプ、レーザ、レーザダイオード、LEDを用いることができる。
光検出部142には、例えば、分光器、光電子増倍管、フォトダイオード、フォトンカウンティングを用いることができる。反応複合体からの光の検出において、励起光の除去が必要ならば、干渉フィルタを光検出部142の前に入れて、励起光の影響を除くことが好ましい。
【0033】
光検出部142では、反応複合体155中の、第1発光標識152、および第2発光標識162からの光信号が測定される。光検出部142の出力は、データ処理用コンピュータの演算部143に入力される。演算部143は、光検出部142の検出結果に基づいて、データの解析を行う。より具体的には、演算部143は、光検出部142により検出された光強度に基づいて、第1発光標識152及び第2発光標識162の数、抗原153の濃度を算出する。演算部143としては、データ処理用のコンピュータ等を用いることができる。
【0034】
記憶部146は、演算部143による算出結果や光検出部142による検出結果を記憶するほか、予め測定した、抗原の濃度と、第1発光標識の発光強度及び第2発光標識の発光強度と、の関係を記憶する。
【0035】
光源部141から発せられた光は、励起光照射用のレンズ144によって検査容器110の測定領域に励起光が集光される。このレンズ144としては、開口数(NA)の大きいものが好ましい。NAが大きいと、光源スポット径を10um以下に小さく設定できるからである。すなわち、磁界発生部130によって、反応複合体155を所定の狭い領域に集合させるため、光源部141からの光は狭い領域に集まった反応複合体155に効率よく照射される。
【0036】
一方、反応していない第1発光標識152及び第2発光標識162からの発光は、バックグラウンドノイズになる。従って、励起光照射用のレンズ144のNAが大きい場合、反応複合体155を構成する、第1発光標識152及び第2発光標識162のみを効率よく励起できるとともに、未反応の第1発光標識152及び第2発光標識162の励起を抑制することができる。
【0037】
反応複合体155から発せられた蛍光もしくはラマン散乱光等は、信号検出用のレンズ145によって集められ、光検出部142で集光する。このレンズ145としては、開口数(NA)の大きいものが好ましい。NAが大きいと、反応複合体155から発せられた蛍光もしくは、ラマン散乱光等を効率よく集光することができる。励起光の除去が必要ならば、干渉フィルタを検出器の前に入れて、励起光の影響を除くことも可能である。
【0038】
ここで、磁界発生部130の先端位置と、励起光照射用のレンズ144の焦点位置と、信号検出用のレンズ145の焦点位置と、は略一致している。
以上の構成においては、磁界発生部130の先端には、磁気ビーズ154の磁力と磁界発生部130が発生する磁界との作用により、検査容器110内の反応複合体155及び磁気ビーズ154が集められる。
【0039】
つづいて、本実施形態に係る濃度測定方法について説明する。
まず、検査容器110内に、抗体151の結合した磁気ビーズ154、抗体151の結合した第1発光標識152、抗体151の結合した第2発光標識162、及び、被分析物質としての抗原153をそれぞれ拡散させる。
【0040】
磁気ビーズ154、第1発光標識152、第2発光標識162、及び抗原153が拡散した検査容器110では、これらの物質間の抗原抗体反応により、所定の反応複合体155が生成され、試料として検査容器110内に収容される。
【0041】
この検査容器110を濃度測定装置100の所定位置にセットすると、磁界発生部130の磁気が、検査容器110内の反応複合体155の磁気ビーズ154に作用することにより、反応複合体155が、所定の位置に集められる。より具体的には、反応複合体155は、検査容器110の内壁部であって、磁界発生部130の磁力が強い箇所に集められる(収集工程)。
【0042】
つづいて、磁界発生部130の磁気によって所定位置に集められた反応複合体155に対して、光源部141から励起光を照射する(光照射工程)。この励起光照射により反応複合体155は発光し、光検出部142はこの発光の発光スペクトル(S(λ))を測定する(スペクトル検出工程)。
【0043】
スペクトル検出工程で測定された発光スペクトルのデータは、演算部143に入力され、演算部143は入力された発光スペクトルのデータに基づいて解析を行う。具体的には次のとおりである。
【0044】
(a)発光強度算出工程
まず、スペクトル検出工程で得られた発光スペクトルのうち、第1発光標識のピーク波長における発光強度と、第2発光標識のピーク波長における発光強度を求める。このピーク波長算出工程では、第1発光標識の既知の発光スペクトルと第2発光標識の既知の発光スペクトルの情報に基づいて、第1発光標識ピーク波長における発光強度と第2発光標識のピーク波長における発光強度を求める。具体的には、第1発光標識のピーク波長λ1の強度I(λ1)、第2発光標識のピーク波長λ2の強度I(λ2)を求める。ここで、波長λ1は第1発光標識のピーク波長であって第2発光標識が発光しない波長であり、波長λ2は第2発光標識のピーク波長であって第1発光標識が発光しない波長である。
【0045】
(b)濃度算出工程
次に、波長I(λ1)、I(λ2)の強度と検量線(図4)を利用して、抗原の濃度を求める。
検量線において、第1発光標識のピーク波長λ1の強度I(λ1)の値が飽和していない場合は、強度I(λ1)から抗原の濃度を求める。また、第2発光標識のピーク波長λ2の強度I(λ2)の値が飽和していない場合は、強度I(λ2)から抗原の濃度を求める。
【0046】
ここで、検量線作成工程について説明する。
検量線作成工程は、検査容器110内に磁性体、第1発光標識152、第2発光標識162、抗原を拡散させる前に実行され、第1発光標識の発光スペクトルのピーク波長であって第2発光標識が発光しない波長、及び、第2発光標識の発光スペクトルのピーク波長であって第1発光標識が発光しない波長と、抗原の濃度と、の関係を示す検量線を作成する。作成された検量線データは、記憶部146に記憶される。
【0047】
検量線作成工程は、(1)第1発光標識の発光スペクトル測定ステップ、(2)第2発光標識の発光スペクトル測定ステップ、(3)反応複合体の発光スペクトル測定ステップ、及び、(4)検量線作成ステップからなる。各ステップにおける測定結果、計算結果は記憶部146に記憶される。
【0048】
(1)第1発光標識の発光スペクトル測定ステップ(So1(λ))
まず、第1発光標識152を検査容器110内に収納し、濃度測定装置100の所定位置にセットする。次に、検査容器110に対して励起光を照射し、光検出部142で第1発光標識152の発光スペクトルSo1(λ)(図3(a))を測定する。ここで、図3(a)は、第1発光標識152の発光スペクトルSo1(λ)を示すグラフである。
第1発光標識152の発光スペクトルSo1(λ)は、光の波長λの関数として得られた発光強度{So1(λ[1])、So1(λ[2])・・・So1(λ[N])}(Nは離散データ点数)である。このスペクトルにおいて発光強度のピーク波長λ1では、第2発光標識162は発光していない。
【0049】
(2)第2発光標識の発光スペクトル測定ステップ(So2(λ))
第1発光標識152の場合と同様に、第2発光標識162を検査容器110内に収納し、濃度測定装置100の所定位置にセットする。つづいて、検査容器110に対して励起光を照射し、光検出部142で発光スペクトルSo2(λ)(図3(b))を測定する。ここで、図3(b)は、第2発光標識162の発光スペクトルSo2(λ)を示すグラフである。
【0050】
第2発光標識162の発光スペクトルSo2(λ)は、光の波長λの関数として得られた発光強度{So2(λ[1])、So2(λ[2])・・・So2(λ[N])}(Nは離散データ点数)である。このスペクトルにおいて発光強度のピーク波長λ2では、第1発光標識152は発光していない。
なお、強い強度で発光する発光標識を第1発光標識152、弱い強度で発光する発光標識を第2発光標識162とした場合、第2発光標識162は第1発光標識に比べて測定を行う標識濃度を濃くすることが望ましい。
【0051】
(3)反応複合体の発光スペクトル測定ステップ
検査容器110内で、抗体が結合した第1発光標識152、抗体が結合した第2発光標識162、及び、抗体が結合した磁気ビーズを拡散させる。これらの第1発光標識152、第2発光標識162、及び磁気ビーズは、一定数としている。この検査容器110に、濃度が既知である抗原を一定量添加攪拌して反応させることにより、反応複合体155を作製する。
【0052】
次に、この検査容器110を濃度測定装置100の所定位置に配置する。磁界発生部130によって検査容器110内の反応複合体155は一か所に集められ、集められた反応複合体155に対して光源部141からの励起光を照射し、光検出部142で反応複合体155の発光スペクトル(S(λ))を測定する。
【0053】
(4)検量線作成ステップ
演算部143は、反応複合体の発光スペクトル測定ステップで光検出部142が測定した結果について、データの解析を行う。具体的には、反応複合体155の発光スペクトル(S(λ))のうち、第1発光標識152のピーク波長λ1の強度をI(λ1)、第2発光標識162のピーク波長λ2の強度をI(λ2)し、これらの強度I(λ1)、I(λ2)を抗原の濃度に対応させて検量線(図4)を作成する。ここで、図4は、本実施形態の第1発光標識152及び第2発光標識162の検量線を示すグラフである。図4では、破線IVAは第1発光標識152の検量線を、実線IVBは第2発光標識162の検量線を、それぞれ示している。
【0054】
図4から分かるように、第1発光標識152は、第2発光標識162に比して、励起光によって強く発光する。また、第1発光標識152は、第2発光標識162よりも、抗原の濃度が小さくても、波長λ1の強度I(λ1)を測定することができる。さらに、抗原の濃度が高い領域では、第1発光標識152からの発光強度が光検出部142の測定上限よりも高くなることから、検量線上の発光強度I(λ1)の値は飽和する。
【0055】
一方、第2発光標識162は、励起光による発光が第1発光標識152よりも弱い。このため、抗原の濃度が低い領域では、光検出部142の測定下限よりも暗くなることから、検量線上の発光強度I(λ2)の値はゼロとなる。これに対して、第2発光標識162からの発光強度は測定範囲内にあるため、抗原の濃度が高い領域の広い範囲において、検量線上の発光強度I(λ2)は飽和することなく実際の測定値となる。
【0056】
本実施形態の濃度測定装置及び濃度測定方法によれば、ダイナミックレンジを広げることができるため、NDフィルタを用いなくても、反応複合体に含まれる蛍光体の濃度に関わらず短時間で抗原の濃度を測定できる。
【0057】
また、図1の光検出部142に代えて、図5に示す構成を用いることもできる。図5は、変形例に係る光検出部の構成を示す図である。
図5に示す光検出部は、励起光カットフィルタ241と、波長選択フィルタ242と、第1検出部243と、第2検出部244と、を備える。
【0058】
励起光カットフィルタ241には、光源部141の光照射によって反応複合体155が発した励起光が入射する。励起光カットフィルタ241で反応複合体155からの発光以外の光を除去した後、波長選択フィルタ242により、第1発光標識152からの発光信号と、第2発光標識162からの発光信号と、を分離する。第1発光標識152からの発光信号は第1検出部243で受光され、発光強度が測定される。また、第2発光標識162からの発光信号は第2検出部244で受光され、発光強度が測定される。ここで、波長選択フィルタ242としては、例えばダイクロイックミラーを用いる。
【0059】
図5に示す光検出部を用いる場合の検量線の作成工程について説明する。なお、検量線作成以外の工程は上述の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
第1検出部243の発光強度をI(1)、第2検出部244の発光強度をI(2)とし、抗原153の濃度と、第1発光標識152及び第2発光標識162の発光強度I(1)、I(2)と、をそれぞれ対応させて検量線を作成する。ここで、第1発光標識152、第2発光標識162は、上述の実施形態と同様に、互いに異なる発光スペクトルを有し、かつ、第1発光標識152の方が第2発光標識162よりも発光強度が強い。
【0060】
第1発光標識152は、反応複合体155からの励起光によって強く発光する。このため、検査容器110中の抗原153の濃度が低くても、強度I(1)を測定することができる。なお、抗原153の濃度が高いときは、第1発光標識152からの発光は第1検出部243の測定上限よりも明るくなり、強度I(1)の値は飽和する。
【0061】
一方、第2発光標識162は、反応複合体155からの励起光によって弱い強度で発光するため、抗原153の濃度が低い場合、第2検出部244の測定下限よりも暗くなる。また、抗原153の濃度が高いときには、244の測定範囲内の明るさになる。
【0062】
また、図5に示す光検出部に代えて、分光器を用いることもできる。分光器には、反応複合体155の励起光が入射し、第1発光標識152からの発光と第2発光標識162からの発光を分離する。反応複合体155と分光器の間には、図5に示す光検出部と同様に、反応複合体155からの発光以外の光を除去する励起光カットフィルタを配置することが好ましい。
【0063】
さらにまた、上述の実施形態及び各変形例において、第1発光標識152の吸収スペクトルの吸収ピーク波長は光源部141の波長と略一致していることが好ましい。
ラマン散乱光を発する発光標識(SERSナノタグ)の場合、金属ナノ粒子はサイズによって吸収スペクトルが変化し、粒子が大きくなると吸収ピークの波長が長波長にシフトすることが知られている(J.Phys.Chem.B 103,8410−8426 (1999))。第1発光標識152にSERSナノタグを用いる場合、金属ナノ粒子の吸収スペクトルのピーク波長が励起波長に一致するように、金属ナノ粒子の大きさに設定することが好ましい。
【0064】
蛍光を発する発光標識を用いる場合、例えば、励起光の波長を488nmとするときは、第1発光標識152にCy2(吸収ピーク波長489nm)、第2発光標識162にCy5(吸収ピーク波長650nm)をそれぞれ使用するとよい。すなわち、第1発光標識152の吸収ピーク波長と励起光の波長とを略一致させている。
ここで、「Cy2」、「Cy5」は、GEヘルスケアバイオサイエンス社(ア
マシャムバイオサイエンス社)のシアニン蛍光色素の商品名である。
【0065】
これにより、第1発光標識152は、略同一の波長において、光を吸収するとともに発光も行う。このため、吸収ピーク波長では、エネルギーの多くを吸収するため、より明るく発光する。従って、第1発光標識152は、さらに明るく発光する。従って、さらに被分析物質の濃度が薄いときでも測定できるため、測定レンジを広げることができる。
【0066】
また、検査容器110内での抗原抗体反応に使用する抗体151が結合された第1発光標識152の数は、抗体151が結合された第2発光標識162の数に比べて多くすることが好ましい。
これにより、抗原153と結合する発光標識のうち、第1発光標識152が第2発光標識162に比べて多くなるため、第1発光標識152からの発光強度はより強くなる。従って、抗原153の濃度が低いときでも測定が可能となり、測定レンジを広げることができる。
【0067】
さらにまた、第1発光標識152に結合した抗体151の数は、第2発光標識162に結合した抗体151の数に比べて多いことが好ましい。
これにより、抗原153と結合する発光標識のうち、第1発光標識152が第2発光標識162に比べて多くなるため、第1発光標識152からの発光強度はより強くなる。従って、抗原153の濃度が低いときでも測定が可能となり、測定レンジを広げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上のように、本発明に係る濃度測定装置及び濃度測定方法は、反応複合体に含まれる発光標識の濃度に拘わらず、短時間で抗原の濃度を測定することが必要な濃度測定に有用である。
【符号の説明】
【0069】
100 濃度測定装置
110 検査容器
130 磁界発生部
141 光源部(光照射手段)
142 光検出部(スペクトル算出手段)
143 演算部(スペクトル算出手段、解析手段)
144、145 レンズ
146 記憶部(記憶手段)
151 抗体
152 第1発光標識
153 抗原
154 磁気ビーズ(磁性体)
155 反応複合体
162 第2発光標識
241 励起光カットフィルタ
242 波長選択フィルタ
243 第1検出部
244 第2検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の結合した磁性体を検査容器内に拡散させる工程と、
抗体の結合した第1発光標識を前記検査容器内に拡散させる工程と、
前記第1発光標識とは異なる発光スペクトルを持ち、抗体の結合した第2発光標識を前記検査容器内に拡散させる工程と、
抗原を前記検査容器内に拡散させる工程と、
前記抗体の結合した磁性体、前記抗体の結合した第1発光標識、前記抗体の結合した第2発光標識、及び、前記抗原を反応させる工程と、
前記反応により生じた反応複合体を集める収集工程と、
前記収集工程で集められた反応複合体に光を照射する光照射工程と、
前記光照射工程における光照射による前記反応複合体からの発光スペクトルを検出するスペクトル検出工程と、
前記スペクトルから前記第1発光標識の発光強度を求める第1発光標識発光強度算出工程と、
前記スペクトルから前記第2発光標識の発光強度を求める第2発光標識発光強度算出工程と、
前記第1発光標識発光強度算出工程で求められた第1発光標識の発光強度と、及び、前記第2発光標識発光強度算出工程で求められた第2発光標識の発光強度に基づいて、前記検査容器内の前記抗原の濃度を求める濃度算出工程と、
を備えることを特徴とする濃度測定方法。
【請求項2】
前記濃度算出工程は、前記第1発光標識の既知の発光スペクトルと前記第2発光標識の既知の発光スペクトルの情報に基づいて、前記第1発光標識の発光強度と前記第2発光標識の発光強度を求めることを特徴とする請求項1に記載の濃度測定方法。
【請求項3】
前記第1発光標識の発光スペクトルのピーク波長であって前記第2発光標識が発光しない波長、及び、前記第2発光標識の発光スペクトルのピーク波長であって前記第1発光標識が発光しない波長と、前記抗原の濃度と、の関係を示す検量線を作成する検量線作成工程を備え、
前記濃度算出工程において、前記検量線を用いて前記検査容器内の前記抗原の濃度を求めることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の濃度測定方法。
【請求項4】
抗体の結合した磁性体、抗体の結合した第1発光標識、前記第1発光標識とは異なる発光スペクトルを持ち、抗体の結合した第2発光標識、及び、抗原を反応させて出来た反応複合体の入った検査容器と、
前記反応複合体に光を照射する光照射手段と、
前記光照射手段の光照射による前記反応複合体からの発光スペクトルを検出し、この発光スペクトルに基づいて、前記第1発光標識及び前記第2発光標識それぞれの発光強度を求める発光強度算出手段と、
予め測定した、前記抗原の濃度と、前記第1発光標識の発光強度及び前記第2発光標識の発光強度と、の関係を記憶する記憶手段と、
前記スペクトル検出手段で得られた、前記第1発光標識及び前記第2発光標識それぞれの発光強度、及び、前記記憶手段が記憶している、前記抗原の濃度と、前記第1発光標識の発光強度及び前記第2発光標識の発光強度と、の関係、に基づいて前記検査容器内の前記抗原の濃度を解析する解析手段と、
を備えることを特徴とする濃度測定装置。
【請求項5】
前記第1発光標識の発光スペクトルのピーク波長は、前記光照射手段から照射する励起光の波長と略一致していることを特徴とする請求項4に記載の濃度測定装置。
【請求項6】
前記抗体が結合した第1発光標識の数は、前記抗体が結合した第2発光標識の数より多いことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の濃度測定装置。
【請求項7】
前記第1発光標識に結合した抗体の数は、前記第2発光標識に結合した抗体の数より多いことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13143(P2011−13143A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158655(P2009−158655)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】