説明

濃度測定装置

【課題】 センサの出力値が安定していない状態であっても出力初期値に関わらず、濃度の測定誤差を小さくすることができる濃度測定装置を提供する。
【解決手段】 センサの出力ピーク値Outと出力初期値Outとの差である出力変化値に基づいて試料の濃度を測定する濃度測定装置であって、予め濃度が分かっているサンプルの見掛濃度値と出力比と補正比とを有する出力データを複数蓄積するデータテーブルを備えると共に、データテーブルに蓄積された出力データのうち、試料の出力比及び見掛濃度値の少なくともいずれか一方と近い値を有する順に出力データを3点選択する出力データ選択手段と、試料の出力データが、3点の出力データによって形成される平面上に存在するように試料の補正比を特定する補正比特定手段と、試料の補正比と出力ピーク値Outとに基づいて試料の濃度を表す出力変化値を求める補正手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの出力ピーク値と出力初期値との差である出力変化値に基づいて試料の濃度を測定する濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の濃度を定量する装置として、ガスクロマトグラフ分析装置や液体クロマトグラフ分析装置等が知られている。これらの装置は、センサによって試料を測定し、得られた出力ピーク値と出力初期値との差から出力変化値を求めるものである。そして、得られた出力変化値はセンサ毎に予め濃度と関係付けて作成された検量線に適用することによって、試料の濃度を定量化することができる。
なお、上記装置は、通常、センサの出力値が略一定となる安定状態で待機しており、測定を開始すると、安定状態の出力値を出力初期値として、出力ピーク値との差から出力変化値が求められる。
【0003】
上記クロマトグラフ分析装置は複数成分からなる試料についても濃度の定量が可能である。例えば、ガスクロマトグラフ分析装置では、気体を移動相とした分析装置であるため、試料は気化させてカラム内に入れる。試料の各成分は、予めカラム内に充填された固定相との親和力にそれぞれ差を有するため、その差を利用してカラム内を通過する時間が決められる。そして、センサはカラム内を通過した順にその成分の出力変化を測定することができるため、各成分のそれぞれの濃度を定量することができる。
【0004】
また、試料の出力変化値を測定し、予め作成された検量線に基づいて濃度を定量するものとしては、上記クロマトグラフ分析装置に限らず、例えば、一般的なガス測定器等にも応用されている。
なお、これらの技術は通用技術であるため、先行技術文献は記載できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のクロマトグラフ分析装置は、予め検量線を作成しておくことによって、複数成分からなる試料であってもそれぞれの濃度を測定することができるものの、測定する試料によっては、各成分の固定相との親和力に差がほとんど生じない場合がある。このような場合には、カラム内を通過する時間にも差がほとんど生じないため、センサは先にカラム内を通過した成分の測定中に次に続く成分の測定を開始することになる。つまり、次に続く成分は出力初期値が安定状態の出力値に戻る前に測定することになる。このため、出力変化値は通常の条件で測定する場合とは異なる値となり、この値を安定状態における出力変化値と濃度との関係に基づいて作成している検量線にそのまま適用して濃度を求めると大きな誤差を生じるという問題がある。
一方、出力初期値はサンプルの種類や濃度等によって変わるものであるため、異なる出力初期値毎に検量線を作成することは困難である。
【0006】
また、一般的なガス測定器の場合には、一旦ガスの濃度を測定するとセンサの出力値が安定状態となるまで待つ必要がある。しかし、実際のガス測定現場では連続して測定する必要がある場合があり、このような場合には連続2回目以降の測定濃度は誤差が大きくなった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、センサの出力値が安定していない状態であっても出力初期値に関わらず、濃度の測定誤差を小さくすることができる濃度測定装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る濃度測定装置の第1特徴構成は、センサの出力ピーク値と出力初期値との差である出力変化値に基づいて試料の濃度を測定する濃度測定装置であって、予め濃度が分かっているサンプルの出力ピーク値と出力初期値とから求められる見掛濃度値と、前記サンプルの出力初期値に対する出力ピーク値の比である出力比と、前記サンプルの出力ピーク値に対する実際の濃度を表す出力変化値の比である補正比とを有する出力データを複数蓄積するデータテーブルを備えると共に、前記データテーブルに蓄積された前記出力データのうち、前記試料の出力比及び見掛濃度値の少なくともいずれか一方と近い値を有する順に前記出力データを3点選択する出力データ選択手段と、
前記試料の出力データが、前記3点の出力データによって形成される平面上に存在するように前記試料の補正比を特定する補正比特定手段と、前記試料の補正比と出力ピーク値とに基づいて前記試料の濃度を表す出力変化値を求める補正手段とを備える点にある。
【0009】
つまり、この構成によれば、センサの出力値が安定していない状態で試料の濃度を測定した場合であっても、予め複数の出力データを蓄積してあるデータテーブルと、試料の見掛濃度値及び出力比とに基づいて補正することにより、試料の実際の濃度との誤差を小さくすることができる。
【0010】
本発明に係る濃度測定装置の第2特徴構成は、出力初期値及び出力ピーク値を前記センサの検量線に適用して初期濃度値及びピーク濃度値を求め、出力比を出力初期値に対する出力ピーク値の比に代えて初期濃度値に対するピーク濃度値の比とする点にある。
【0011】
つまり、この構成によれば、初期濃度値に対するピーク濃度値の比を用いた場合であっても、センサの感度に影響を受けないため、同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る濃度測定装置は、センサの出力ピーク値と出力初期値との差である出力変化値に基づいて試料の濃度を測定する濃度測定装置であって、予め濃度が分かっているサンプルの出力ピーク値と出力初期値とから求められる見掛濃度値と、前記サンプルの出力初期値に対する出力ピーク値の比である出力比と、前記サンプルの出力ピーク値に対する実際の濃度を表す出力変化値の比である補正比とを有する出力データを複数蓄積するデータテーブルを備えると共に、前記データテーブルに蓄積された前記出力データのうち、前記試料の出力比及び見掛濃度値の少なくともいずれか一方と近い値を有する順に前記出力データを3点選択する出力データ選択手段と、前記試料の出力データが、前記3点の出力データによって形成される平面上に存在するように前記試料の補正比を特定する補正比特定手段と、前記試料の補正比と出力ピーク値とに基づいて前記試料の濃度を表す出力変化値を求める補正手段とを備えるものである。これにより、センサの出力値が安定していない状態であっても出力初期値の変動に影響されず、濃度の測定誤差の小さい濃度測定装置を提供することができる。
【0013】
本発明者らは、センサの出力変化が試料の濃度だけでなく、測定開始時または応答開始時のセンサの出力値である出力初期値にも影響されることから、センサの出力変化値及び出力初期値に基づいて、測定した試料の濃度を補正できることを見出した。そして、出力変化値及び出力初期値はセンサの感度のばらつきに影響を受けるため、個々のセンサの感度に影響を受けない値として、出力初期値に対する出力ピーク値の比である出力比と、出力ピーク値をセンサの検量線に適用した見掛濃度値とを適用することを導き出した。出力比及び見掛濃度値により、個々のセンサ感度のばらつきに関わらず、濃度を表す出力変化値を得ることが可能となる。
【0014】
本発明に係る濃度測定装置によって測定することができる試料は、特に限定されるものではなく、気体でも液体でも好ましく測定することができる。
【0015】
また、本発明に係る濃度測定装置は、ガスクロマトグラフ分析装置や液体クロマトグラフ分析装置等のクロマトグラフ分析装置や、ガスの濃度を測定するガス測定器、一定濃度のガスを検知するガス検知器等、様々な装置に適用することができる。
【0016】
本発明の濃度測定装置は、例えば、ガスクロマトグラフ分析装置に適用して複数成分からなる試料を測定した際に、濃度測定の対象となる出力ピークが図1に示す出力ピークBのような場合に特に有効である。すなわち、出力ピークAの影響によって出力ピークBの出力初期値が安定状態から変動した場合であっても、濃度の測定誤差を小さくすることができる。
【0017】
本発明の濃度測定装置を用いた濃度補正について、特に限定されないが、ガスクロマトグラフ分析装置に適用して図1に示す出力ピークBが得られた場合を例にとって、以下にその具体的な一例を示す。
図1に示す出力ピークBのような場合には、出力ピーク値Out、出力初期値Outが得られる。これにより、出力ピーク値Outをセンサの検量線に適用した見掛濃度cと出力比r=Out/Outとを求めることができる。そして、実際の濃度を表す出力変化値Outは、出力ピーク値Outに対する実際の濃度を表す出力変化値Outの比を補正比kとして、次の式1のように定義し、求めることができる。
[式1]
k=Out/Out=f(c,r)
【0018】
補正比kを実際に求めるためには、予め濃度が分かっているサンプルの出力ピーク値Out、出力初期値Outを変動させた場合の見掛濃度値c、出力比r、補正比kを求め、出力データとしてデータテーブル等に事前に複数蓄積しておく必要がある。すなわち、図1の出力ピークAを示すサンプルと出力ピークBを示すサンプルとの混合比及びそれぞれの濃度を変えて測定し、得られる出力ピークBから式2に示す出力データ集合を求める。
[式2]
{(c,r,k),(c,r,k),・・・,(c,r,k)}
【0019】
濃度が知りたい試料が出力ピークBを示した場合には、出力ピークBの出力ピーク値Out、出力初期値Outに基づき、見掛濃度c、出力比rを求め、c、r平面上において得られた(c,r)と近い(c,r)を有する順に蓄積されている出力データ(c,r,k)から3つを選択する。そして、c軸、r軸、k軸によって形成される空間において、(c,r)が、選択した3つの出力データによって形成される式3に示す平面上に存在すると近似して、補正比kを求める。
なお、(c,r)と近い(c,r)とは、c軸とr軸を含む平面上において(c,r)で表される点と、(c,r)で表される点が近いことを示している。
また、出力データは、(c,r)と近い(c,r)を有する順に選択したが、cまたはrに近いcまたはrの順に出力データを選択することもできる。
[式3]
Ac+Br+Ck=d
【0020】
得られた補正比kと測定した試料の出力ピーク値Outとに基づいて、実際の濃度を表す出力変化値Outを求め、その値をセンサの検量線に適用することによって、試料の濃度を求めることができる。
【0021】
また、出力初期値を検量線に適用して初期濃度値cを求めることにより、出力比rの代わりに、初期濃度値cに対する見掛濃度値cの比であるc/cによっても上記の方法により補正することができる。さらには、出力比rの代わりにcを用いてもよい。
【0022】
本発明の濃度測定装置は、ガス測定器に適用する場合には、図2に示すように一旦ガスの濃度を測定して出力ピークCを示した後、安定状態になる前に再び測定し、得られた出力ピークDに基づいて濃度を求める場合にも良好な効果を得ることができる。ガス測定器の場合には、安定状態で一定の出力値OutBaseを有するため、出力初期値Out、出力ピーク値Outは、それぞれ実際にセンサの出力値から出力値OutBaseを引いたものとして適用することにより、ガスクロマトグラフ分析装置に適用した場合と同様に測定誤差の小さいガスの濃度を求めることができる。
【0023】
また、本発明の濃度測定装置において、予め蓄積しておく出力データの数は、特に限定されないが、多く蓄積した方が実際の濃度より近い濃度を得ることができるため好ましい。
【0024】
このような本発明の濃度測定装置によれば、サンプルを用いて事前に出力データをデータテーブルに蓄積しておけば、上述の通り出力データはセンサの感度に影響されないため、サンプルとは異なる種類の試料の濃度を測定する場合であっても、前記データテーブルを適用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の濃度測定装置をガスクロマトグラフ分析装置に適用した場合の実施例について説明する。
p−キシレンのカラムにおける保持時間と差が小さい保持時間を有するエチルベンゼンを、表1に示す濃度で混合し、それぞれp−キシレンの見掛濃度値c、出力比r、補正比kを求め、表2に示すデータテーブルを得た。
そして、各実施例において、前記データテーブルを用いてo−キシレンの濃度を求めた。なお、本実施例におけるo−キシレンの出力値と濃度の関係を示す検量線は図3に示す通りであった。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
(実施例1)
m−キシレン100ppbとo−キシレン25ppbの混合ガスを測定した。その結果、図4に示すような出力ピークが得られた。
o−キシレンの出力ピークは出力ピークEであり、出力ピークEの出力初期値Outは207.3mV、出力ピーク値Outは229.8mV、出力比rは0.902089であった。また、見掛濃度値cは出力ピーク値Outを図3の検量線に適用することにより求めることができ、61.67ppbであった。
そして、表2のデータテーブルにおいて、前記出力比rの0.902089に近いrの値を有する順に選択した3点の出力データは表3の通りであり、この3点によって形成される平面式(Ac+Br+Ck=d)からc=61.67、r=0.902089の時のkを求めた。
その結果、k=0.36406であり、kと出力ピーク値Outとから求められる出力変化値Outは83.66mVであった。そして、出力変化値Outを検量線に適用することにより、濃度24.89ppbを得た。この濃度は、実際のo−キシレンの濃度である25ppbに極めて近い値であった。
【0029】
【表3】

【0030】
(実施例2)
m−キシレン25ppbとo−キシレン25ppbの混合ガスを測定した。その結果、図5に示すような出力ピークが得られた。
o−キシレンの出力ピークは出力ピークFであり、出力ピークFの出力初期値Outは59mV、出力ピーク値Outは124.5mV、出力比rは0.473896であった。また、見掛濃度値cは39.01ppbであった。
そして、表2のデータテーブルにおいて、前記出力比rの0.473896に近いrの値を有する順に選択した3点の出力データは表4の通りであり、この3点によって形成される平面式(Ac+Br+Ck=d)からc=39.01、r=0.473896の時のkを求めた。
その結果、k=0.599であり、出力変化値Outは74.875mVであった。そして、出力変化値Outと検量線とから、濃度23ppbを得た。この濃度は、実際のo−キシレンの濃度である25ppbに極めて近い値であった。
【0031】
【表4】

【0032】
(実施例3)
m−キシレン100ppbとo−キシレン50ppbの混合ガスを測定した。その結果、図6に示すような出力ピークが得られた。
o−キシレンの出力ピークは出力ピークGであり、出力ピークFの出力初期値Outは240mV、出力ピーク値Outは349.8mV、出力比rは0.686106であった。また、見掛濃度値cは89.01ppbであった。
そして、表2のデータテーブルにおいて、前記出力比rの0.686106に近いrの値を有する順に選択した3点の出力データは表5の通りであり、この3点によって形成される平面式(Ac+Br+Ck=d)からc=89.01、r=0.686106の時のkを求めた。
その結果、k=0.51975であり、出力変化値Outは181.8087mVであった。そして、出力変化値Outと検量線とから、濃度51.2ppbを得た。この濃度は、実際のo−キシレンの濃度である50ppbに極めて近い値であった。
【0033】
【表5】

【0034】
上記実施例により、データテーブルの出力データはp−キシレンの出力ピークに基づいているにも関わらず、異なる種類のo−キシレンの濃度測定において良好な結果が得られることが分かった。すなわち、1種類のサンプルに基づいた出力データを蓄積したデータテーブルを有していれば、異なる種類の試料の濃度測定にも有効であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る濃度測定装置は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ等の分析装置や、ガス測定器、ガス検知器、ガス警報器等ガス濃度測定機能を有する機器等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ガスクロマトグラフ分析装置に適用した場合に得られる出力ピークの一例を示す図
【図2】ガス測定器に適用した場合に得られる出力ピークの一例を示す図
【図3】o−キシレンの検量線を示す図
【図4】実施例1で得られた出力ピークを示す図
【図5】実施例2で得られた出力ピークを示す図
【図6】実施例3で得られた出力ピークを示す図
【符号の説明】
【0037】
Out 出力初期値
Out 出力ピーク値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの出力ピーク値と出力初期値との差である出力変化値に基づいて試料の濃度を測定する濃度測定装置であって、
予め濃度が分かっているサンプルの出力ピーク値を前記センサの検量線に適用して求められる見掛濃度値と、前記サンプルの出力初期値に対する出力ピーク値の比である出力比と、前記サンプルの出力ピーク値に対する実際の濃度を表す出力変化値の比である補正比とを有する出力データを複数蓄積するデータテーブルを備えると共に、
前記データテーブルに蓄積された前記出力データのうち、前記試料の出力比及び見掛濃度値の少なくともいずれか一方と近い値を有する順に前記出力データを3点選択する出力データ選択手段と、
前記試料の出力データが、前記3点の出力データによって形成される平面上に存在するように前記試料の補正比を特定する補正比特定手段と、
前記試料の補正比と出力ピーク値とに基づいて前記試料の濃度を表す出力変化値を求める補正手段とを備える濃度測定装置。
【請求項2】
出力初期値を前記センサの検量線に適用して初期濃度値を求め、出力比を出力初期値に対する出力ピーク値の比に代えて初期濃度値に対する見掛濃度値の比とする請求項1に記載の濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−46928(P2006−46928A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224007(P2004−224007)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000190301)新コスモス電機株式会社 (112)
【Fターム(参考)】