濃縮された水性シルクフィブロイン溶液およびそれらの使用
本発明は、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液、および有機溶媒、直接の添加剤、またはきつい化学物質の使用を避ける濃縮された水性フィブロイン溶液の調製のための全て水性の様式を提供する。本発明はさらに、材料、例えば線維、フィルム、フォーム、メッシュ、足場、およびヒドロゲルなどの製造におけるこれらの溶液の使用を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年4月10日に出願された米国特許仮出願第60/461,716号および2004年3月8日に出願された米国特許仮出願第60/551,186号の恩典を主張するものである。
【0002】
政府の補助
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)、米国国立科学基金(NSF)および米空軍(Foster Millerからの外注契約)の基金番号第RO1EB003210、RO1DE13405-O1A1、DMR-0090384、F49620-01-C-0064により支援されており、米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の技術分野
本発明は概して、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液の調製法、ならびに線維、フィルム、スポンジ状多孔質フォーム、3次元足場、およびヒドロゲルなどのシルクフィブロイン材料の製造におけるこれらの溶液の使用法に関する。特にシルクフィブロイン溶液の調製のための全て水性の手段が説明される。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
シルクは、カイコボンビックス・モリ(Bombyx mori)により生成されるよく説明された天然の線維であり、これは伝統的に数千年にわたり織物の糸の形で使用されている。このシルクは、糸コアを形成するフィブロイン(重鎖および軽鎖の両方)と称される線維状タンパク質、およびフィブロイン線維を取り囲み、それらを一緒に固めているセリシンと称される糊状(glue-like)タンパク質を含む。フィブロインは、線維内でβプリーツシートの形成につながるアミノ酸グリシン、アラニンおよびセリンを最大90%含有する、高度に不溶性のタンパク質である(Asakura, et al., Encylopedia of Agricultural Science, Arntzen, C. J., Ritter, E. M. Eds.;Academic Press:New York, NY, 1994;Vol.4, pp1-11)。
【0005】
フィブロインのような再加工されたシルクの独特な力学的特性およびその生体適合性は、このシルク線維を、バイオテクノロジー材料における使用および医療適用にとって特に魅力的なものにしている。シルクは、素晴らしい力学特性、生体適合性および生分解性のために、生体材料および組織エンジニアリングのための重要な一連の材料オプションを提供している。
例えば、3次元多孔質シルク足場の、組織エンジニアリングにおける使用が説明されている(Meinel et al., Ann Biomed Eng, 2004 Jan;32(1):112-22;Nazarov, R., et al., Biomacromolecules、印刷中)。さらに再生されたシルクフィブロインフィルムは、酸素透過性膜および薬物透過性膜、酵素固定のための支持体、および細胞培養のための基体として研究されている。
加えてシルクヒドロゲルは、組織エンジニアリングに加え、ドラッグデリバリーにおいて多くの用途が認められる(Megeed et al., Pharm Res., 2002 Jul;19(7):954-9;Dinerman et al., J. Control Release., 2002 Aug 21;82(2-3):277-87)。
【0006】
しかし、先に説明されたシルクベースの材料を調製するために、化学物質または有機溶媒、例えばヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)が、架橋のためまたは加工のために使用される(Li, M., et al., J. Appl. Poly. Sci., 2001, 79,2192-2199;Min, S., et al., Sen'i Gakkaishi, 1997, 54,85-92;Nazarov, R., et al., Biomacromolecules、印刷中)。例えばHFIPは、シルクの溶解度を最適化するために使用され、およびメタノールは、水で安定なシルク構造を作製するために、フィブロインにおいて、アモルファスなβシートコンホメーションへの転移を誘導するために使用される。
【0007】
有機溶媒は、加工された材料がインビトロまたはインビボにおいて細胞に曝された場合に、生体適合性に問題を有するので、シルクフィブロイン材料の調製における有機溶媒の使用は、重大な欠点を示している。有機溶媒は、フィブロイン材料の特性を変更することもできる。例えば、シルクフィブロインフィルムのメタノールのような有機溶媒への含浸は、水和されたまたは膨潤された構造の脱水を引き起こし、これは結晶化、その結果の水への溶解度の喪失につながる。さらに組織エンジニアリングの足場に関して、有機溶媒の使用は、シルク材料をより分解し難くする。従って化学架橋および/または有機溶媒の非存在下で形成することができるシルクベースの材料を開発する必要がある。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液、および有機溶媒またはきつい化学物質の使用を避ける濃縮された水性フィブロイン溶液の調製のための全て水性の様式(all-aqueous mode)を提供する。本発明は、例えば線維、フィルム、フォーム、メッシュ、足場、およびヒドロゲルのような材料の製造における、これらの溶液の使用をさらに提供する。
【0009】
ひとつの態様において、少なくとも10wt%のフィブロイン濃度を有する水性シルクフィブロイン溶液が提供され、ここで該溶液は、有機溶媒を含まない。フィブロイン濃度が、少なくとも15wt%、少なくとも20wt%、少なくとも25wt%、または少なくとも30wt%である水性シルクフィブロイン溶液も提供される。望ましいならば、この溶液は、加工前に生体適合性ポリマーと一緒にすることができる。
【0010】
水性シルクフィブロイン溶液のフィブロインは、例えば、ボンビックス・モリ由来の溶解したカイコシルク、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)由来の溶解したクモシルクを含有する溶液から、または遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得ることができる。
【0011】
本発明のひとつの態様において、本明細書に説明された水性シルクフィブロイン溶液は、さらに治療用物質を含有する。治療用物質は、例えばタンパク質、ペプチド、核酸、および小型分子薬物を含む。
【0012】
別の態様において、濃縮された水性フィブロイン溶液を製造する方法が提供される。この方法は、水性シルクフィブロイン溶液を調製すること、およびこの溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%の水性フィブロイン溶液を生じるのに十分な時間透析することを含む。
【0013】
本発明の方法に有用な吸湿性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール、アミラーゼ、またはセリシンを含む。好ましい吸湿性ポリマーは、分子量8,000〜10,000g/molのポリエチレングリコール(PEG)である。最も好ましくは、PEGは、濃度25〜50%を有する。
【0014】
ひとつの態様において、線維を製造する方法が提供される。この方法は、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液を加工し線維を形成することを含む。処理は、例えば電気紡糸または湿式紡糸を含む。あるいは線維は、この溶液から直接引き延ばすことができる。望ましいならばこの線維は、加工後、メタノールで処理、好ましくは含浸される。その後この線維は、水で洗浄されることが好ましい。
【0015】
本発明の方法で製造される線維および治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0016】
別の態様において、シルクフォームを製造する方法が提供される。この方法は、本発明の濃縮された水性シルク溶液を加工し、フォームを作製することを含む。加工法は、例えば塩浸出、ガス発泡、マイクロパターニング、または溶液の塩粒子との接触による方法を含む。この塩は、好ましくは一価、例えばNaCl、KCl、KFl、またはNaBrである。あるいは二価の塩、例えばCaCl2、MgSO4、またはMgCl2も使用することができる。
【0017】
本発明の方法で製造されたフォームおよび治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0018】
別の態様において、フィルムを製造する方法が提供される。この方法は、濃縮された塩水溶液をキャスティングし、フィルムを形成する。ある態様において、このフィルムを水蒸気と接触させることが有用である。加えてフィルムは、一軸方向および二軸方向に延伸することができる。
【0019】
本発明の方法で製造されたフィルムおよび治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0020】
別の態様において、シルクヒドロゲルを製造する方法が提供される。この方法は、本発明の濃縮された水性シルク溶液において、ゾル-ゲル転移を誘導することを含む。
【0021】
ゾル-ゲル転移は、シルクフィブロイン濃度の増加、温度の上昇、pHの低下、塩(例えば、KCl、NaCl、またはCaCl2)濃度の増加、またはポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO))の添加により誘導することができる。
【0022】
本発明の方法により製造されるシルクヒドロゲルおよび治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0023】
発明の詳細な説明
有機溶媒またはきつい化学物質の非存在下で、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液を調製する方法が説明される。この方法は、シルクフィブロインを含有する溶液を形成することを含む。好ましくは、この溶液は、臭化リチウムのような水性の塩である。その後この溶液は、吸湿性ポリマーに対して、10〜30wt%またはそれよりも大きい水性シルクフィブロイン溶液を生じるのに十分な時間透析される。好ましい吸湿性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0024】
本発明者らは、水性シルクフィブロイン溶液の粘度を少なくとも10wt%まで増加させることで、電気紡糸による線維の形成、多孔質3次元組織エンジニアリングの足場形成、ならびにフォームおよびフィルムの形成などの他の適用を可能にする一方で、加工された材料がインビトロまたはインビボにおいて細胞に曝された場合に問題を生じ得る有機溶媒の使用を避けることを発見した。この溶液の吸湿性ポリマーに対する透析は、シルクヒドロゲルの形成における含水量の制御にも十分である。
【0025】
本明細書において使用される「フィブロイン」という用語は、カイコフィブロインおよび昆虫またはクモのシルクタンパク質を含む(Lucas et al., Adv. Protein Chem, 13:107-242(1958))。フィブロインは、溶解したカイコシルクまたはクモシルクを含有する溶液から得られることが好ましい。カイコシルクタンパク質は、例えばボンビックス・モリから得られ、クモシルクは、アメリカジョロウグモから得られる。本発明における使用に適した別のシルクタンパク質は、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物などに由来した、遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得ることができる。例えば、国際公開公報第97/08315号および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0026】
濃縮されるシルクフィブロイン溶液は、当業者に公知の任意の従来の方法で調製することができる。例えばボンビックス・モリの繭を、水溶液中で約30分間煮沸する。この水溶液は約0.02M Na2CO3であることが好ましい。この繭を、例えば水ですすぎ、セリシンタンパク質を抽出し、かつ抽出されたシルクを、塩水溶液中に溶解する。この目的に有用な塩は、臭化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウムまたはシルクを可溶化することが可能である他の化学物質を含む。好ましくは、抽出されたシルクは約9〜12M LiBr溶液中で溶解される。この塩は、最終的には、例えば透析を用いて除去される。
【0027】
その後この溶液は、例えばPEG、ポリエチレンオキシド、アミロース、またはセリシンなどの吸湿性ポリマーに対する透析を用い、濃縮される。
【0028】
好ましくはPEGは、分子量8,000〜10,000g/molであり、濃度25〜50%を有する。Slide-A-Lyzer透析カセット(Pierce, MWCO 3500)が使用されることが好ましい。しかし、任意の透析システムを使用することができる。この透析は、10〜30%の水性シルク溶液の最終濃度を生じるのに十分な時間透析される。ほとんどの場合、2〜12時間の透析で十分である。
【0029】
本発明の濃縮された水溶液は、当技術分野において公知の方法を用い、ヒドロゲル、フォーム、フィルム、糸、線維、メッシュ、および足場に加工することができる。例えば、Altman, et al., Biomaterials, 24:401,2003を参照のこと。
【0030】
生体適合性ポリマーを、このシルク溶液に添加し、本発明の方法において複合マトリックスを作製することができる。
【0031】
本発明において有用な生体適合性ポリマーは、例えばポリエチレンオキシド(PEO)(US 6,302,848)、ポリエチレングリコール(PEG)(US 6,395,734)、コラーゲン(US 6,127,143)、フィブロネクチン(US 5,263,992)、ケラチン(US 6,379,690)、ポリアスパラギン酸(US 5,015,476)、ポリリシン(US 4,806,355)、アルギン酸塩(US 6,372,244)、キトサン(US 6,310,188)、キチン(US 5,093,489)、ヒアルロン酸(US 387,413)、ペクチン(US 6,325,810)、ポリカプロラクトン(US 6,337,198)、ポリ乳酸(US 6,267,776)、ポリグリコール酸(US 5,576,881)、ポリヒドロキシアルカノエート(US 6,245,537)、デキストラン(US 5,902,800)、およびポリ酸無水物(US 5,270,419)を含む。2種またはそれよりも多い生体適合性ポリマーを使用することができる。
【0032】
シルクフィルムは、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液の調製およびこの溶液のキャスティングにより製造することができる。ひとつの態様において、このフィルムは、アルコールの非存在下で、水または水蒸気と接触される。その後このフィルムは、一軸方向または二軸方向で圧伸または延伸される。例えば、図5aおよび5bを参照のこと。シルク配合フィルムの延伸は、フィルムの分子のアラインメントを誘導し、これによりフィルムの力学特性を改善する。
【0033】
ひとつの態様において、フィルムは、水性シルクタンパク質溶液約50〜約99.99容量部、および生体適合性ポリマー、例えばポリエチレンオキシド(PEO)約0.01〜約50容量部から構成される。好ましくは、得られるシルク配合フィルムは、厚さ約60〜約240μmであるが、より大きい容積の使用、または複数層の付着により、より厚い試料が容易に形成される。
【0034】
フォームは、例えば各々、水が溶媒であるかまたは窒素もしくは他の気体が発泡剤である、凍結乾燥発泡およびガス発泡を含む、当技術分野において公知の方法により製造され得る。あるいはフォームは、シルクフィブロイン溶液の、粒状塩との接触により製造される。フォームの細孔径は、例えばシルクフィブロインの濃度および粒状塩の粒度(例えば、塩粒子の好ましい直径は約50ミクロン〜約1000ミクロンである)を調節することにより制御することができる。これらの塩は、一価または二価であることができる。好ましい塩は、NaClおよびKClのような一価である。CaCl2のような二価の塩も使用することができる。濃縮されたシルクフィブロイン溶液の塩との接触は、アモルファスシルクの溶液中に不溶性であるβシート構造へのコンホメーション変化を誘導するのに十分である。フォームの形成後、例えば水中への含浸により、過剰な塩が抽出される。その後得られる多孔質フォームは乾燥され、このフォームは、例えば生物医学的用途での細胞足場などとして使用される。図2参照のこと。
【0035】
ひとつの態様において、このフォームは、マイクロパターニングされたフォームである。マイクロパターニングされたフォームは、例えば米国特許第6,423,252号に開示された方法を用いて調製することができ、この開示は本明細書に参照として組入れられている。この方法は、本発明の濃縮されたシルク溶液を、金型の表面に接触させ、この金型は、その少なくともひとつの表面上に、フォーム上に配置されかつフォームの少なくともひとつの表面と一体化される予め決定されたμパターンの3次元の陰の形状を含み、金型のマイクロパターニングされた表面と接触している間にこの溶液を凍結乾燥し、これにより凍結乾燥されマイクロパターニングされたフォームを提供し、かつ凍結乾燥されマイクロパターニングされたフォームを金型から取り外すことを含む。この方法に従い調製されたフォームは、少なくとも1個の表面上に予め決定されかつデザインされたマイクロパターンを有し、このパターンは、組織の修復、内殖、または再生を促進するために有効である。
【0036】
線維は、例えば、湿式紡糸または電気紡糸を用いて製造される。あるいは、濃縮された溶液はゲル状の粘稠度を有するので、線維は、この溶液から直接引き延ばされる。
【0037】
電気紡糸は、当技術分野において公知の任意の手段により行うことができる(例えば、US 6,110,590参照)。好ましくは、先端内径1.0mmの鋼鉄製のキャピラリーチューブを、調節可能な絶縁されたスタンドに搭載する。好ましくは、このキャピラリーチューブは、高電位で維持され、平行平板配置で搭載される。このキャピラリーチューブは、好ましくは、シルク溶液を充填したシリンジに連結される。好ましくは、一定容積の流量が、シリンジポンプを用いて維持され、液だれすることなくチューブの先端に溶液を保持するように設定される。電位、溶液の流量、およびキャピラリー先端と収集スクリーンとの間の距離は、安定した噴射が得られるように、調節される。乾燥した、または湿った線維が、キャピラリー先端と収集スクリーンとの間の距離の変動により収集される。
【0038】
シルク線維の収集に適した収集スクリーンは、ワイヤメッシュ、高分子メッシュ、または水浴であることができる。別の好ましい収集スクリーンは、アルミフォイルである。アルミフォイルは、シルク線維の剥離をより容易にするために、テフロン液で被覆することができる。当業者は、線維溶液は電界を通って移動するので、線維溶液の収集の他の手段を容易に選択することができるであろう。下記実施例の項でより詳細に説明するように、キャピラリーの先端と対のアルミフォイル電極との間の電位差は、約12kVまで徐々に増加することが好ましいが、当業者は、適当な噴流を実現するために、電位を調節することができる。
【0039】
本発明は加えて、本発明の線維を含有する線維の不織ネットワークを提供する。この線維は、編み糸、および例えば織り布または編み布を含む布を形成することができる。
【0040】
本発明のフィブロインシルク溶液は、医療用具(例えば、ステント)を含む様々な形状の製品、ならびにシルクまたはこのような線維の断片を含む他の線維の上に被覆することもできる。
【0041】
シルクヒドロゲルは、当技術分野において公知の方法および本明細書に例示されたように調製することができる。濃縮されたシルクフィブロイン溶液のゾル-ゲル転移は、シルクフィブロイン濃度、温度、塩濃度(例えば、CaCl2、NaCl、およびKCl)、pH、親水性ポリマーなどの変化により変更することができる。ゾル-ゲル転移の前に、濃縮された水性シルク溶液は、金型または鋳型(form)中に配置することができる。次に得られるヒドロゲルを、例えばレーザーを用い、任意の形状に切断することができる。
【0042】
本発明を用いて作製された材料、例えばヒドロゲル、線維、フィルム、フォーム、またはメッシュは、制御された放出システムを含む薬剤(例えば、小型分子、タンパク質、または核酸)送達装置、血管創傷修復装置を含む創傷閉鎖システム、止血用包帯、貼付剤および接着剤、縫合糸などの様々な医療用途、ならびに例えば組織再生の足場、靱帯補綴装置および生体への長期もしくは生分解性の移植のための製品などの組織エンジニアリングの用途で使用することができる。フィルムも、制御された薬物放出システム、コーティング、複合材または独立型材料などの、広範な材料科学およびエンジニアリングの需要において使用することができる。
【0043】
加えてこれらの生体材料は、脊椎椎間板、頭蓋組織、硬膜、神経組織、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、脾臓、心筋、骨格筋、腱、靱帯、および乳房組織を含むが、これらに限定されるものではない、これらの独自の足場から恩恵を受け得る臓器の修復交換または再生の戦略のために使用することができる。
【0044】
別の本発明の態様において、シルク生体材料は、治療用物質を含有することができる。これらの材料を形成するために、シルク溶液は、材料を形成する前に治療用物質と混合されるか、または形成された後に材料に装填される。本発明の生体材料と組合わせて使用することができる治療用物質の多様性は豊富であり、かつ小型分子、タンパク質、ペプチド、および核酸を含む。概して本発明により投与することができる治療用物質は以下を含むが、これらに限定されるものではない:抗生物質および抗ウイルス薬などの抗感染薬;化学療法薬(すなわち、抗癌剤);抗拒絶反応薬;鎮痛薬および鎮痛薬の組合せ;抗炎症薬;ステロイドなどのホルモン;増殖因子(骨形成タンパク質(すなわち、BMP1-7)、骨形成様タンパク質(すなわち、GFD-5、GFD-7およびGFD-8)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(すなわち、FGF1-9)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF-IおよびIGF-II)、形質転換増殖因子(すなわち、TGF-β-III)、血管内皮増殖因子(VEGF));エンドスタチンのような抗血管新生タンパク質、および他の天然由来または遺伝子改変されたタンパク質、多糖、糖タンパク質、またはリポタンパク質。増殖因子は、Vicki RosenおよびR. Scott Thiesによる「The Cellular and Molecular Basis of Bone Formation and Repair」(R. G. Landes Company)に説明されており、これは本明細書に参照として組入れられている。加えて本発明のシルク生体材料は、薬学的物質、ビタミン、鎮静剤、ステロイド、催眠薬、抗生物質、化学療法薬、プロスタグランジン、および放射性医薬品などの、任意の種類の分子化合物を送達するために使用することができる。本発明の送達システムは、前記物質、ならびにタンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、炭水化物、単糖、細胞、遺伝子、抗血栓薬、代謝拮抗物質、増殖因子インヒビター、増殖プロモーター、抗凝固剤、抗有糸分裂物質、線維素溶解物質、抗炎症性ステロイド、およびモノクローナル抗体を含むが、これらに限定されるものではない他のものの送達に適している。
【0045】
生物活性物質を含むシルク生体材料は、1つまたは複数の治療用物質をこの材料を製造するために使用されるポリマーと混合することにより、製剤することができる。あるいは治療用物質は、好ましくは薬学的に許容される担体と共に、この材料の上に被覆することができる。このシルク材料に溶解しないあらゆる薬学的担体を使用することができる。この治療用物質は、液体、微粉固体、または任意の他の適当な物理的形状として存在することができる。
【0046】
本明細書に説明された生体材料はさらに、二次加工後修飾することができる。例えばこれらの足場は、所望の細胞集団について受容体または化学誘引物質として機能する生物活性物質のような添加剤で被覆することができる。このコーティングは、吸収または化学結合を介して適用することができる。
【0047】
本発明での使用に適した添加剤は、生物学的または薬学的に活性のある化合物を含む。生物学的に活性のある化合物の例は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:細胞接着メディエーター、例えばコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン、または公知のインテグリン結合ドメインを含むペプチド、例えば細胞接着に影響を及ぼすことが知られている「RGD」インテグリン結合配列またはそれらの変種(Schaffner P and Dard, 2003, Cell Mol Life Sci., Jan;60(1):119-32;Hersel U. et al., 2003, Biomaterials., Nov;24(24):4385-415);生物学的に活性のあるリガンド;ならびに、細胞または組織の内殖の特定の変種を増強または排除する物質。例えば、3次元足場マトリックスの細胞再集合の工程は、好ましくはマトリックスを再集合するために使用される培養細胞の増殖を促進するのに有効な増殖因子の存在下で行われる。増殖を促進する物質は、使用される細胞の種類によって決まるであろう。例えば線維芽細胞が使用される場合、ここで使用するための増殖因子は、線維芽細胞増殖因子(FGF)、最も好ましくは塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(ヒト組換えbFGF、UPSTATE Biotechnology, Inc.)であることができる。増殖または分化を増強する添加剤の他の例は、骨誘導物質、例えば骨形成タンパク質(BMP);サイトカイン、例えば上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF-IおよびII)、TGF-βなどの増殖因子を含むが、これらに限定されるものではない。本明細書において使用される添加剤という用語は、抗体、DNA、RNA、修飾されたRNA/タンパク質複合体、グリコーゲンまたは他の糖類、ならびにアルコールも包含している。
【0048】
これらの生体材料は、再建手術を含む、組織エンジニアリングおよび組織に導かれた再生の用途のための商品に形作ることができる。この足場の構造は、豊富な細胞の内殖を可能にし、細胞を予め播種する必要を排除する。これらの足場は、外部支持器官の作製のためのインビトロ細胞培養の支持体のための外部足場を形成するために、成形することもできる。
【0049】
足場は、体の細胞外マトリックス(ECM)を模倣するように機能する。この足場は、インビトロ培養およびそれに続く移植時に、単離された細胞の物理的支持体および接着性基体の両方として役立つ。移植された細胞集団は増殖し、かつ細胞は正常に機能するにしたがい、それら独自の細胞外マトリックス(ECM)支持体を分泌し始める。
【0050】
軟骨および骨のような構造的組織の再構築において、組織の形は、機能に不可欠であり、この足場を様々な厚さおよび形状の商品に成形する必要がある。3次元構造において望ましい任意の隙間、開口部、または改良を、はさみ、外科用メス、レーザービーム、または他の切除器具を用い、マトリックスの一部を除去することにより作製することができる。足場の適用は、実質器官または中空器官を形成する神経、筋骨格、軟骨、腱、肝臓、膵臓、眼、外皮、動静脈、泌尿組織または任意の他の組織などの組織の再生を含む。
【0051】
足場は、3次元の組織または器官を作製するために、例えば軟骨細胞または肝細胞などの、解離した細胞のマトリックスとしての移植において使用することもできる。組織または器官は、任意の種について、本発明の方法によって製造することができる。
【0052】
多くの異なる細胞型またはそれらの組合せを、製造される組織エンジニアリング構築体の意図された機能に応じて、本発明において採用することができる。これらの細胞型は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、ケラチノサイト、肝細胞、胆管細胞、膵臓島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎、視床下部、下垂体、卵巣、精巣、唾液腺細胞、脂肪細胞、および前駆細胞。例えば、平滑筋細胞および内皮細胞は、筋肉、管状構築体、例えば血管、食道、腸管、直腸、または尿管構築体として意図された構築体のために採用することができ;軟骨細胞は、軟骨構築体において使用することができ;心筋細胞は、心臓構築体において使用することができ;肝細胞および胆管細胞は、肝臓構築体において使用することができ;上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞および神経細胞は、これらの細胞を含む多種多様な組織型の任意のものを代替または増強するように機能することが意図された構築体において使用することができる。一般に、その構築体が対応することが意図される天然の組織において認められる任意の細胞を使用することができる。加えて前駆細胞、例えば筋芽細胞または幹細胞などを、それらの対応する分化した細胞型を製造するために使用することができる。場合によっては、新生児細胞または腫瘍細胞を使用することが好ましいことがある。
【0053】
細胞は、ドナー(アロジェニック)またはレシピエント(自家性)から得ることができる。細胞は、確立された細胞培養株であるか、遺伝子改変を受けた細胞であることもできる。組織片も使用することができ、同じ構造中に多くの異なる細胞形を提供することができる。
【0054】
哺乳動物細胞の適切な増殖条件は、当技術分野において周知である(Freshney, R. I., (2000), Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique. Hoboken NJ, John Wiley & Sons;Lanza et al. Principles of Tissue Engineering, Academic Press;2nd edition May 15, 2000;および、Lanza & Atala, Methods of Tissue Engineering Academic Press;1st edition October 2001)。細胞培養培地は一般に、必須栄養素、および任意で培養される細胞型に応じて選択され得る、増殖因子、塩、ミネラル、ビタミンなどの追加の要素を含む。特定の成分を、細胞の増殖、分化、特異的タンパク質の分泌などを増強するために選択してもよい。一般に標準の増殖培地は、10〜20%のウシ胎仔血清(FBS)または仔ウシ血清および100U/mlペニシリンを補充した110mg/Lのピルビン酸およびグルタミン酸を含む、ダルベッコ変法イーグル培地低グルコース(DMEM)が、当業者に公知の様々な他の標準培地と同様適している。増殖条件は、使用される哺乳動物細胞型および所望の組織に応じて変動するであろう。
【0055】
ひとつの態様において、骨または軟骨形成を誘導するのに適した条件下で、多孔質シルクフィブロイン足場上で多能性細胞を培養することを含む、インビトロで骨または軟骨組織を作製する方法が提供される。骨および軟骨の生成に適当な条件は、当業者には周知である。例えば、軟骨組織の成長のための条件は、非必須アミノ酸、アスコルビン酸-2-リン酸塩、デキサメタゾン、インスリン、およびTGF-β1を含むことが多い。ひとつの好ましい態様において、非必須アミノ酸は濃度0.1mMで存在し、アスコルビン酸-2-リン酸塩は濃度50ug/mlで存在し、デキサメタゾンは濃度10nMで存在し、インスリンは濃度5ug/mlで存在し、TGF-β1は濃度5ng/mlで存在する。骨の成長に適した条件は、アスコルビン酸-2-リン酸塩、デキサメタゾン、βグリセロリン酸およびBMP-2を含むことが多い。好ましい態様において、アスコルビン酸-2-リン酸塩は濃度50ug/mlで存在し、デキサメタゾンは濃度10nMで存在し、βグリセロリン酸は濃度7mMで存在し、およびBMP-2は濃度1ug/mlで存在する。
【0056】
一般に増殖期間の長さは、製造される特定の組織エンジニアリング構築体に依存するであろう。増殖期間は、構築体が所望の特性に達するまで、例えば構築体が特定の厚さ、サイズ、強度、タンパク質成分の組成、および/または特定の細胞密度に達するまで、継続することができる。これらのパラメータを評価する方法は、当業者に公知である。
【0057】
これらの構築体は、第一の増殖期間に続き、第二の細胞集団と共に播種することができ、これは第一の播種において使用されるものと同じ型の細胞、または異なる型の細胞を含むことができる。その後この構築体は、第一の増殖期間とは長さが異なり、かつ異なる増殖条件を採用できる第二の増殖期間、維持することができる。介在する増殖期間を伴う複数の細胞播種のラウンドを採用することができる。
【0058】
ひとつの好ましい態様において、組織および器官は、ヒトのために作製される。別の態様において、組織および器官は、イヌ、ネコ、ウマ、サル、または任意の他の哺乳動物などの動物のために作製される。
【0059】
これらの細胞は、ヒトまたは動物の任意の適切なドナーから、またはそれが移植されるべき対象から得られる。本明細書において使用される「宿主」または「対象」という用語は、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラットを含むが、これらに限定されるものではない、哺乳動物種を含む。
【0060】
本発明の方法に使用される細胞は、意図されたレシピエントと適合性があるソースに由来しなければならない。細胞は、標準の技法を用いて解離され、足場の上および中へ播種される。インビトロ培養は、任意で、移植前に行うことができる。あるいは、この足場は対象に移植され、血管形成させ、その後細胞がこの足場へ注入される。細胞のインビトロ培養および組織足場の移植のための方法および試薬は、当業者に公知である。
【0061】
細胞は、マトリックス形成の方法に応じ、マトリックス形成の前または後のいずれかで、マトリックス内に播種することができる。均一な播種が好ましい。理論的には、播種される細胞数は、製造される最終組織を限定しないが、最適な播種は、その製造速度を増大させるかもしれない。播種される細胞の数は、動的播種(dynamic seeding)を用い、最適化することができる(Vunjak-Novakovic et al., Biotechnology Progress, 1998;Radisic et al., Biotechnoloy and Bioengineering, 2003)。
【0062】
本明細書において説明される3次元多孔質シルク足場は、それ自身インビボにおいて移植され、かつ組織代替物(例えば、骨または軟骨の代替物)として利用することができることは、本発明の別の局面である。このようなインプラントは細胞の播種を必要としないが、例えば細胞を引きつけるRGDの添加を含む。
【0063】
ひとつの態様において、シルクマトリックス足場は、骨または軟骨のいずれかの形成を誘導する培地の存在下で、多能性細胞と共に播種される。軟骨および骨の製造に適した培地は、当業者に周知である。
【0064】
本明細書において使用される「多能性」細胞は、個別の分化シグナルに応じ、1種よりも多い細胞型に分化する能力を有する。多能性細胞の例は、骨髄ストロマ細胞(BMSC)および成体または胚性幹細胞を含むが、これらに限定されるものではない。好ましい態様において、BMSCが使用される。BMSCは、未分化の状態で増殖することができ、かつ適切な外因性シグナルにより、軟骨、骨、または脂肪などの間葉系細胞に分化する骨髄の多能性細胞である(Friedenstein, A. J., 1976, Int Rev Cytol, 47:327-359;Friedenstein et al., 1987, Cell Tissue Kinet, 20:263-272;Caplan, A. I., 1994, Clin Plast Surg, 21:429-435;Mackay et al., 1998, Tissue Eng, 4:415-428;Herzog et al., Blood, 2003 Nov 15;102(10):3483-93, Epub 2003 Jul 31)。
【0065】
軟骨組織または骨の形成は、組織学的、免疫組織化学的、および共焦点または走査型電子顕微鏡を含むが、これらに限定されるものではない、当業者に周知のアッセイ法によりモニタリングすることができる(Holy et al., J. Biomed. Mater. Res(2003) 65A:447-453)。
【0066】
シルクベースの足場を使用し、予め決定された形および構造を伴う器質化された組織を、インビトロまたはインビボのいずれかで作製することができる。例えば、エクスビボで製造される組織は、開始時から機能し、インビボのインプラントとして使用することができる。あるいは、このシルクベースの構造は、骨または軟骨のいずれかを形成することが可能な細胞と共に播種し、その後インビボでの増殖を促進するように移植することができる。従ってこれらの足場は、特に特定の患者への移植のためにデザインされた「カスタマイズされた適合」を伴う組織を形成するようにデザインすることができる。例えば本発明の方法で製造された軟骨組織または骨組織を用い、変形性関節症またはリウマチなどの筋骨格疾患および変性疾患において認められる、巨大な軟骨または骨の欠損と置き換えるために使用することができる。エンジニアリングされた骨および軟骨は、脊柱および肘、膝、腰、または指の関節などの関節の交換に適しているか、または骨軟骨インプラントにおいても使用することができる。
【0067】
本発明の全ての生体材料は、放射線滅菌(すなわちγ線)、化学滅菌(エチレンオキシド)、オートクレーブ、または他の適当な手法などの通常の滅菌法を用い、滅菌されてもよい。好ましくは、温度52〜55℃で、エチレンオキシドを用い、8時間未満の滅菌法である。滅菌後、生体材料は、出荷ならびに病院および他の健康管理施設での使用のために、適当な無菌の防湿性パッケージ中に包装することができる。
【0068】
特に定義しない限りは、本明細書において使用した全ての技術用語および科学用語は、当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明されたものに類似したまたは同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書において言及された全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、本明細書に参照として組入れられている。加えて、材料、方法および実施例は、単なる例証であり、限定を意図しない。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が支配する。
【0069】
本発明はさらに、本発明の例証であることが意図された下記実施例により特徴付けられる。
【0070】
実施例
(実施例1)電気紡糸による再生されたシルク溶液由来の水からの純粋なシルク線維の調製
方法
再生されたB・モリシルクフィブロイン溶液の調製
ボンビックス・モリシルクフィブロインは、本発明者らの初期の手法(Sofia, et al., Journal of Biomedical Materials Research, 2001, 54:139-148)の改変として、下記のように調製した。繭は、0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、その後水で入念にすすぎ、糊状のセリシンタンパク質を抽出した。抽出したシルクをその後、9.3M LiBr溶液中に室温で溶解し、20%(w/v)溶液を得た。この溶液を、Slide-A-Lyzer透析カセット(Pierce, MWCO 2000)を用い、水中で48時間透析した。水性シルク溶液の最終濃度は、8.0wt%であり、これは乾燥後の残留固形物を計量し決定した。
【0071】
この溶液はさらに、浸透圧により、Slide-A-Lyzer透析カセット(Pierce, MWCO 3500)の外側の水性ポリエチレングリコール(PEG)(MW 8,000〜10,000)溶液(25〜50wt%)に、2〜12時間曝すことにより濃縮した(図1)。水性シルク溶液の最終濃度は、10〜30wt%またはそれ以上を形成した。
【0072】
電気紡糸
紡糸のため水性シルク溶液の粘度を8wt%を超えるよう増大するために、この溶液を、上記のPEG溶液法を用いて濃縮した。純粋なシルク溶液(8wt%)の粘度および表面張力が、キャピラリーの先端に安定した液滴を維持するのに十分ではないので、濃縮が必要があった。シルク溶液の増加は、電気紡糸に適した粘度および表面張力を生じた。新たなより濃縮された純粋なシルク溶液(10〜30%)により、直接紡糸が実行可能になる。先端と収集器との間の距離は10〜15cmであり、液体の流量は0.01〜0.05ml/分であった。キャピラリーの先端と対のアルミフォイル電極との間の電位差は、30kV(E=2〜3kV/cm)へ漸増したので、キャピラリー先端の末端での液滴は、半球形から円錐形へ伸長した。電気紡糸した線維の形態および直径は、SEMを用いて試験した。シルク/PEO配合液は、直径1.5μm〜25μmのマイクロサイズ線維を製造した。線維表面および液体窒素中の破砕された表面の形態は、天然のシルク線維に良く合致していた。
【0073】
(実施例2)シルクフィブロイン足場の調製
多孔質3次元足場を、シルクフィブロイン水溶液から塩浸出により調製した。シルクフィブロイン濃度および粒状NaClの粒度の調節により、足場の形態および機能の特性が制御される。これらの足場は高度に均一で、かつ相互に連結した孔を有し、調製の様式に応じて470〜940umの範囲の細孔径を示した。これらの足場は、>90%の多孔度を有した。足場の圧縮強度および圧縮弾性率は、各々、最大320±10KPaおよび3330±500KPaであった。足場は、プロテアーゼにより21日間に完全に分解された。これらの新規シルクベースの3次元マトリックスは、全て水性の様式の調製、細孔径の制御、細孔の接続性、分解性および有用な機械的特徴により、組織エンジニアリングのための生体材料マトリックスとして有用な特性を提供する。
【0074】
方法
シルクフィブロイン水溶液の調製
B・モリの繭を、0.02M Na2CO3水溶液中で20分間煮沸し、その後蒸留水で入念にすすぎ、糊状のセリシンタンパク質およびワックスを抽出した。抽出したシルクを次に、9.3M LiBr溶液中に60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液を得た。この溶液を、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500, Pierce)を用いて、蒸留水中で2日間透析した。シルクフィブロイン水溶液の最終濃度は約8w/v%であり、これは乾燥後の残留固形物を計量して決定した。濃縮されたシルクフィブロイン溶液を調製するために、8w/v%シルクフィブロイン溶液10mlを、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500)を用い、1リットルの25wt%ポリエチレングリコール(PEG, 10,000g/mol)溶液に対し室温で透析した。必要な時間の後、濃縮されたシルクフィブロイン溶液を、過剰な剪断を避けるために、シリンジによりゆっくり収集し、濃度を決定した。濃度が8wt%未満のシルクフィブロイン水溶液を、蒸留水による希釈により調製した。全ての溶液を、早期沈殿を避けるために使用前に7℃で貯蔵した。8w/v%溶液から調製したシルクフィブロインフィルムを評価し、XPSによりLi+イオンの除去を証明した。残存するLi+イオンは検出されなかった。
【0075】
シルクフィブロイン足場の調製
粒状NaCl(粒度;300〜1180um)4gを、ディスク型テフロン容器中のシルクフィブロイン水溶液(4〜10wt%)2ml中に添加した(図2a)。容器に蓋をし、室温に放置した。24時間後、この容器を水中に含浸し、NaClを2日間抽出した。この方法で形成された多孔質シルクフィブロイン足場は、使用前に水中に7℃で貯蔵した。
【0076】
X線回折
40kVおよび40mAで作動中のRigaku RU-200BH回転式対陰極X線発生装置からのNiフィルターを通したCu-Kα照射(λ=0.15418nm)により、足場の凍結乾燥した試料のX線回折を得た。X線回折パターンは、真空カメラにおける点で視準された(point collimated)ビームおよびイメージングプレート(Fuji Film BAS-IP SR 127)により記録した。カメラ長は、NaFで較正した(d=0.23166nm)。
【0077】
FTIR分光法
凍結乾燥した試料約1mgを、臭化カリウム200mgとペレットに圧縮し、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを、Nicolet Magna 860による64スキャンの蓄積および4cm-1の分解能で記録した。
【0078】
走査型電子顕微鏡(SEM)
シルク足場を、カミソリの刃を用い、蒸留水中で切片に切断し、その後凍結乾燥した。試料は金でスパッターコーティングした。足場の形態は、LEO Gemini 982電界放出ガンSEMで観察した。米国国立衛生研究所により開発されたImageJソフトウェアを用い、細孔径を得た。
【0079】
多孔度
シルク足場の密度および多孔度を、液体交換により測定した(Zhang, R. Y., et al., J. Biomed. Mater. Res., 1999, 44:446-455)。ヘキサンはマトリックスを膨潤または縮小することなくシルク足場を通して浸透するので、これを交換液として用いた。シルク足場(乾燥質量, W)は、メスシリンダー中の既知の容積(V1)のヘキサン中に5分間含浸した。ヘキサンおよびヘキサンを含浸した足場の総容積は、V2として記録した。その後ヘキサンを含浸した足場をシリンダーから取り除き、残存するヘキサン容積をV3として記録した。足場総容積は下記式である:
V=(V2-V1)+(V1−V3)=V2−V3
V2−V1は、ポリマー足場の容積であり、V1−V3は、足場内のヘキサン容積である。足場の多孔度(ε)は、下記式から得た:
ε(%)=(V1−V3)/(V2−V3)x100
【0080】
膨潤特性
シルクフィブロイン足場を、蒸留水中に室温で24時間含浸した。過剰な水を除去した後、足場の含水質量(Ws)を決定した。その後試料を、真空下65℃のオーブンの中で一晩乾燥し、足場の乾燥質量(Wd)を決定した。足場の膨潤比および足場の含水量は以下のように計算した:
膨潤比=(Ws−Wd)/Wd
水取込み(%)=[(Ws−Wd)/Ws]x100
【0081】
力学的特性
足場(直径12mm、高さ10mm、ディスク)の力学的圧縮に対する抵抗を、0.1kNを装填した細胞を装加したInstron 8511上で室温で実行した。クロスヘッド速度は10mm/分であった。圧縮試験は、便宜上オープンサイド/拘束法(open-sided/confined method)で行った。4つの試料を、各組成について評価した。直径12mmおよび高さ10mmと測定された円柱形の試料を、ASTM法F451-95を基にした改変法に従い用いた。圧縮応力および圧縮ひずみをグラフ化し、平均圧縮強度に加え圧縮弾性率および標準偏差を決定した。弾性率は、応力−ひずみ曲線の最初の直線部分の勾配により定義した。圧縮強度は、1%ひずみから出発する、これに平行な直線を描くことにより決定した。この直線と応力−ひずみ曲線とが交差した点を、フォームの圧縮強度として定義した(Thomson RC et al., Biomaterials, 1998,19;1935-1943)。
【0082】
インビトロ酵素分解
シルクフィブロイン足場の分解は、活性5.6U/mgのプロテアーゼXIV(EC 3.4.24. 31, Sigma-Aldrich)を用いて評価した。試料(直径12mm、高さ5mm)を、プロテアーゼ(1U)を含有するリン酸緩衝生理食塩水5ml(pH7.4)に37℃で含浸した。特定時間の後に、試料をリン酸緩衝生理食塩水および蒸留水で洗浄し、凍結乾燥した。酵素溶液を、新たに調製した溶液と24時間毎に交換した。対照として、試料を酵素を含まないリン酸緩衝生理食塩水に含浸した。
【0083】
結果および考察
水ベースの足場の調製
多孔質シルクフィブロイン足場を、コラーゲンおよびポリ乳酸などの他のポリマーからの多孔質足場の調製においてこれまでに使用されていた塩浸出法を用いて調製した。足場の細孔径および多孔度は、シルクフィブロイン水溶液への直径300〜1180μmの粒度を持つ粒状NaClの添加により調節した。この方法において、NaCl粒子の表面の一部は、シルクフィブロイン水溶液に溶解したが、この塩のほとんどは溶液の飽和のために固形物粒子として残存した。このシルクフィブロイン水溶液は、〜24時間後混合物中にヒドロゲルを形成し、これは水で安定的な多孔質マトリックスの形成を生じた。表1は、本試験において使用したシルクフィブロイン濃度およびNaClの粒度を示す。シルクフィブロイン濃度の増加に伴い、より大きい粒度のNaClの使用により、マトリックスは均質に形成された。粒度500〜600μmのNaClが8wt%シルクフィブロイン溶液に添加された場合、シルクフィブロイン水溶液の表面は、ヒドロゲルを迅速に形成した。
【0084】
(表1)様々なシルクフィブロイン濃度およびNaCl粒度からの足場調製
均質性の程度:○>□>×
【0085】
濃縮された塩溶液においては、塩イオンが介在水の構造を変化させるので、溶媒和力は、薄い電解液のそれとは著しく異なっている(Curtis RA et al., Biophys Chem, 2002, 98:249-265)。NaCl、KC1、CaCl2およびMgCl2などの塩素イオンを含有する濃縮された塩溶液の、シルクフィブロインに対する作用は、塩濃度最大3M、室温で決定した。シルクフィブロイン溶液(8wt%)の液滴が、3Mの濃縮された塩溶液に添加された場合、NaClおよびKCl溶液中ではシルクヒドロゲルが迅速に形成されたが、CaCl2およびMgCl2溶液中では形成されなかった。イオンは、それらのサイズおよび電荷を基に、コスモトロピック(kosmotropic)またはカオトロピック(chaotropic)として分類される(Grigsby JJ et al., Biophys Chem., 2001,91:231-243)。Ca2+およびMg2+のような電荷密度の高いイオンは、きわめてコスモトロピックであり、K+のような電荷密度の低いイオンは、カオトロピックである。Na+は弱コスモトロピックであり、Cl-は弱カオトロピックである。コスモトロピックイオンは、隣接する水分子にカオトロピックイオンよりもより強力に結合する。加えて、コスモトロピックイオンは、それらの高電荷密度のために、タンパク質表面上の反対に帯電した残基と強力に相互作用する。低い塩濃度で、この溶液は、タンパク質表面およびイオンの両方を水和するのに十分な数の水分子を含有する。より高い塩濃度では、増加した数のイオンを水和するために、より多くの水分子が必要である。従って水分子は、塩溶液の濃度が増加するにつれて、タンパク質から容易に除去される。
【0086】
カイコシルクフィブロイン重鎖の一次配列からは、鎖末端の2個の大きい親水性ブロックを有する7個の内部疎水性ブロックおよび7個のはるかに小さい内部親水性ブロックが存在する(Zhou, C. Z., et al., Nucleic Acids Res., 2000, 28:2413-2419)。シルクフィブロイン中の疎水性残基の割合は79%であり(Braun, F. N., et al., Int. J. Biol. Macromol., 2003,32:59-65)、これらの疎水性ブロック中の反復配列は、シルクフィブロイン線維およびフィルム中で結晶領域を形成するβシート構造において支配的であるGAGAGSペプチドからなる(Mita, K., et al., J. Mol. Evol., 1994,38:583-592)。
【0087】
タンパク質溶解度は典型的には塩濃度が上昇するにつれて減少するので、タンパク質間の相互作用が好ましくなる(Curtis, R. A., et al., Biophys. Chem.. 2002, 98:249-265)。無極性残基間の疎水性相互作用は、塩の添加により増大し、これが塩析作用につながることは周知である(Robinson, D. R., et al., J. Am. Chem. Soc., 1965,87:2470-2479)。記載された塩システム中のフィブロインの挙動は、そうでなければ疎水性フィブロインドメインを被覆し、鎖-鎖相互作用を促進し、新たなより安定した構造につながるような、水の抽出における塩イオンの役割に関連している。これらの疎水性相互作用は、βシートの形成を生じるタンパク質の折りたたみを誘導する(Li, G. Y., et al., Biochem., 2001, 268:6600-6606)。
【0088】
シルクフィブロイン(8wt%)のヒドロゲル化に対するイオン作用をさらに証明するために、アルギン酸ビーズまたはガラスビーズを試験した。シルクフィブロインのガラスビーズによるゲル化時間は、先の試験でシルクフィブロインにおいて30日間にわたり観察された結果と同様の結果を示したが(Kim UJ et al., Biomacromolecules, 印刷中)、シルクフィブロイン溶液のアルギン酸ビーズによるゲル化時間は、おそらく膨潤したアルギン酸ビーズに会合したタンパク質からの水分子の除去のために、〜2倍迅速であった。飽和NaCl溶液中のシルクフィブロインのゲル化時間(24時間)と比較し、塩イオンは強力にタンパク質-タンパク質相互作用を誘導した。
【0089】
構造解析
シルクフィブロインの構造の変化は、X線回折およびFTIR(図3)により決定した。シルクフィブロイン足場のX線回折は、20.8°の明瞭なピークおよび24.6°の小さいピークを示した。これらのピークは、天然のシルクフィブロインのβシート結晶構造(シルクII)のピークとほぼ同じであった(Asakura, T., et al., Macromolecules, 1985,18:1841-1845)。これらの結果は、20.8°および24.6°の反射に従い、各々、距離4.3および3.6Åのスペーシングのβ結晶を示している。シルクフィブロイン足場のFTIRスペクトルは、1701cm-1および1623cm-1(アミドI)にシルクIIの特徴的なピークを示した(Asakura, T., et al., Macromolecules, 1985,18:1841-1845)。水溶液中のシルクフィブロインは、中性pHで、ランダムコイル構造を示した。X線回折およびFTIR解析の結果より、これらの溶液からのシルクフィブロイン足場の形成は、ランダムコイルからβシートへの構造転移を誘導した。
【0090】
形態
様々なシルクフィブロイン濃度および様々なサイズのNaCl粒子から調製した凍結乾燥した足場のSEM画像は、高度に相互に連結した多孔質構造を示し、孔の分布は、足場の最表面の空気-水界面に形成された薄い層を除いて、足場全体で均質であった。足場は、多くのより小さい孔により高度に相互連結された粗い細孔表面を示した。直径1〜3μmの球状の構造が、細孔の表面上に観察された。シルクフィブロイン濃度が増加するにつれて、細孔壁は厚くなった。表2は、足場内の実際の細孔径を示し、これは350〜920μmの範囲である。
【0091】
(表2)測定されたシルクフィブロイン足場の細孔径(μm)
値は平均±標準偏差(N=20)である。
【0092】
足場内の実際の細孔径は、この方法で使用したNaClの粒度よりも80〜90%小さかった。同じ粒度のNaClで調製された足場の細孔径は、使用したシルクフィブロイン濃度とは無関係に、類似したサイズの細孔を生じた。
【0093】
多孔度および膨潤特性
多孔度が>90%のシルクフィブロイン足場が形成され、かつ多孔度は、細孔径およびシルクフィブロイン濃度が減少するにつれて増加した(表3)。これらの値は、塩浸出またはガス発泡により調製されたHFIP由来のシルク足場のもの(84〜98%)と類似していた(Nazarov R, et al., Biomacromolecules, 印刷中)。足場の膨潤比および水取込みは、表4および5に示す。
【0094】
(表3)シルクフィブロイン足場の多孔度(%)
値は平均±標準偏差(N=3)である。
【0095】
(表4)シルクフィブロイン足場の膨潤比
値は平均±標準偏差(N=3)である。
【0096】
(表5)シルクフィブロイン足場の水取込み(%)
値は平均±標準偏差(N=3)である。
【0097】
膨潤比は、細孔径の減少と共に次第に低下した。しかし膨潤比は、シルクフィブロイン濃度が増加するにつれ、多孔度の減少のために有意に減少した。8wt%シルクフィブロインから調製された足場の膨潤比は、タンパク質の親水性の差異のために、コラーゲン足場のそれよりも〜8倍低かった(Ma L. et al., Biomaterials, 2003,24:4833-4841)。この値は、ポリ乳酸足場と類似している(Maquet V. et al., Biomaterials, 2004,25:4185-4194)。蒸留水中の足場の水の取込みは、24時間の間に>93%であった。足場の高い水結合能は、タンパク質ネットワークの高度に多孔質な構造に起因する。
【0098】
力学特性
足場は、本方法において使用したシルクフィブロイン濃度に依存する様々な硬さを有する、延性のあるスポンジ状の挙動を示した。弾性領域が、初期ひずみで観察され、それにピーク応力が続いた。表6は、シルクフィブロイン足場の力学特性を示す。足場の圧縮強度および圧縮弾性率は、シルクフィブロイン濃度の増加と共に増加した。
【0099】
(表6)シルクフィブロイン足場の力学特性
値は平均±標準偏差(N=4)である。
【0100】
力学特性の改善は、細孔壁の厚さの増加を伴う、ポリマー濃度の増加によるものであった。同じシルクフィブロイン濃度で、より小さい粒度のNaClで調製された足場は、減少した細孔径のために、より高い圧縮強度および圧縮弾性率を示した。減少した細孔径により誘導された増加した細孔壁部位は、加えられた応力を分配するためのより大きい経路を提供したと考えられる。増加した細孔部位は、亀裂の広がりを減らすための、亀裂ディシペーション(crack disipation)のような障壁として機能した。加えてより均一な細孔分布が、ポリマーマトリックスの力学特性を改善したことが報告されている。従って多孔質材料に加えられた応力は、細孔の界面に集中し、細孔分布が均一でない場合は、ポリマーマトリックスは典型的にはより低い応力で変形した(Harris LD. et al., J. Biomed Mater Res., 1998, 42:396-402)。例えば本発明者らの最近の研究(Nazarov R. et al., Biomacromolecules, 印刷中)において、3次元シルクフィブロイン足場が、HFIPによる塩浸出法を用いて、開発された。これらの足場はより小さい細孔径を有し、加工時にはより高濃度のシルクフィブロインが利用されたが、塩浸出により調製されたHFIP由来のシルク足場(HFIP中17wt%シルク)の圧縮強度(30〜250kPa)は、本発明の水性由来の(水中8〜10wt%シルク)シルク足場について認められるものに類似していた。しかし水性由来のシルク足場の圧縮弾性率は、HFIP由来のシルク足場よりも3〜4倍高かった(100〜790kPa)。
【0101】
酵素分解
図4aは、分解期間21日間の、直径850〜1000μmの粒度を持つNaClで、4〜8wt%シルクフィブロインから調製された足場質量を経時的に示している。プロテアーゼを含まないリン酸緩衝液中の足場は、21日以内に分解を示さなかった。4wt%フィブロインで調製した足場は迅速に分解され、10日後に残存する質量は、わずかに2%であった。6および8wt%フィブロインから調製された足場は、経時的に徐々に分解し、21日後に、質量は各々30および20%に減少した。図4bは、様々な粒度のNaClで6wt%シルクフィブロインから調製した場合に、残存する足場の質量を示している。これらの分解パターンは、フィブロインの初期濃度の性質に関連して、細孔径は分解率に相関しないことを示した。
【0102】
結論
有機溶媒または化学架橋の完全な非存在下で、シルクフィブロイン水溶液からの塩浸出法により、多孔質シルクフィブロイン足場を直接調製した。足場の形成は、ランダムコイルからβシートへの構造転移を含んだ。この転移は、塩が疎水性ドメインからの水の喪失を促進し、これは鎖-鎖相互作用を増強し、その結果βシートの形成につながるので、転移に関する力学的基礎を提供する。足場の機能的および形態学的特性は、この方法において使用されるシルクフィブロイン溶液の濃度およびNaClの粒度により制御された。
【0103】
(実施例3)シルクヒドロゲルの調製
浸透ストレスを介した水溶液中のシルクフィブロイン濃度の制御を、この方法に関連したゲル形成と構造、形態、および機能(力学的)の変化との関係を評価するために試験した。水性シルクフィブロインのインビボプロセッシングにおいて重要な可能性のある環境因子も試験し、この方法へのそれらの寄与を決定した。シルクフィブロイン水溶液のゲル化は、温度、Ca2+、pH、およびポリエチレンオキシド(PEO)により影響を受けた。ゲル化時間は、タンパク質濃度の増加、pHの低下、温度の上昇、Ca2+の添加、およびPEOの添加と共に減少した。K+の添加では、ゲル化時間に変化は認められなかった。ゲル化にあたり、シルクフィブロインのランダムコイル構造は、βシート構造に転移された。フィブロイン濃度が>4質量%のヒドロゲルは、走査型電子顕微鏡を基に、ネットワークおよびスポンジ状の構造を示した。凍結乾燥したヒドロゲルの細孔径は、シルクフィブロイン濃度またはゲル化温度が増加するにつれてより小さくなった。Ca2+の存在下で形成された凍結乾燥したヒドロゲルは、このイオン濃度が増加するにつれて、より大きい細孔を示した。ヒドロゲルの力学的圧縮強度および圧縮弾性率は、タンパク質濃度およびゲル化温度の増大と共に増加した。
【0104】
方法
シルクフィブロイン水溶液の調製
ボンビックス・モリの繭を、M. Tsukada(Institute of Sericulture, Tsukuba, Japan)およびM. Goldsmith(U. Rhode Island)のご厚意により入手し、0.02M Na2CO3の水溶液中で20分間煮沸し、その後蒸留水で入念にすすぎ、糊状のセリシンタンパク質およびワックスを抽出した。抽出したシルクフィブロインをその後、9.3M LiBr溶液中に60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液を得た。この溶液を、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500 Pierce)を用い、蒸留水中で2日間透析した。シルクフィブロイン水溶液の最終濃度は約8w/v%であり、これは乾燥後の残留固形物を計量し決定した。8w/v%溶液から調製したシルクフィルムを評価し、XPSによりLi+イオンの除去を証明した。残存するLi+イオンは検出されなかった。
【0105】
浸透ストレスによる濃縮されたシルクフィブロイン溶液の調製
シルクフィブロイン水溶液(8wt%, 10ml)を、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500)を使用し、室温で10〜25wt%ポリエチレングリコール(PEG, 10,000g/mol)溶液に対して透析した。PEGのシルクフィブロイン溶液に対する容積比は100:1であった。浸透ストレスにより、シルクフィブロイン溶液中の水分子は、透析膜を通りPEG溶液へと移動した(Parsegian, V. A., et al., Methods in Enzymology, Packer, L., Ed.;Academic Press:1986;Vol.127, p400)。必要な時間の後、濃縮されたシルクフィブロイン溶液を、過剰な剪断を避けるために、シリンジによりゆっくり収集し、濃度を決定した。濃度が8wt%未満のシルクフィブロイン水溶液は、8wt%溶液を蒸留水で希釈することにより調製した。全ての溶液は、使用前は7℃で貯蔵した。
【0106】
ゾル-ゲル転移
シルクフィブロイン水溶液0.5mlを、2.5mlの平底バイアル(直径:10mm)に入れた。これらのバイアルを密閉し、室温、37℃および60℃で維持した。試料が不透明な白色を示しかつ反転させたバイアルから30秒以内に落下しない時点で、ゲル化時間を決定した。この方法に対するイオンおよびイオン濃度の影響を調べるために、CaCl2またはKCl溶液を、シルクフィブロイン水溶液に添加し、最終塩濃度2.5〜30mMを生じた。シルクフィブロイン溶液のpHは、HClまたはNaOH溶液で調節した。シルクフィブロイン-ポリ(エチレン)オキシド(PEO, 900,000g/mol)溶液の調製のために、必要量のPEO溶液(5wt%)を、シルクフィブロイン溶液に、ゆっくり攪拌しながら5分間かけて添加した。シルクフィブロイン/PEOの配合比は、100/0、95/5、90/10、80/20および70/30(w/w)であった。
【0107】
広角X線散乱(WAXS)
X線プロファイルを、Brucker D8 X線回折装置を用い、40kVおよび20mAで、NiフィルターCu-Kα照射により、凍結乾燥されたシルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルについて記録した。
【0108】
走査型電子顕微鏡(SEM)
シルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルを-80℃で凍結し、その後凍結乾燥した。これらの試料を、液体窒素中で破壊し、LEO Gemini 982電界放出ガンSEMを用いて試験した。凍結乾燥による人為的な形態変化をチェックするために、代替調製法では、室温で4時間のKarnovsky固定剤を使用した。固定剤入り、またはなしで、ヒドロゲルは、凍結乾燥時に形態学的変化をほとんど示さなかった。米国NIHにより開発されたImageJソフトウェアを用い、細孔径を得た。
【0109】
力学特性
ヒドロゲルの圧縮試験を、2.5kNを装填した細胞を装加したInstron 8511において室温で行った。クロスヘッド速度は10mm/分であった。試料の横断面は、直径12mmおよび高さ5mmであった。圧縮試験は、便宜上オープンサイド法で行った。圧縮限界は、装填細胞を保護するために98%ひずみであった。各組成物について5個の試料を評価した。
【0110】
結果
濃縮されたシルクフィブロイン溶液
初期濃度8wt%のシルクフィブロイン水溶液を、10〜25wt%PEG溶液に対し室温で透析した。シルクフィブロイン水溶液は、浸透ストレスにより経時的に濃縮され、25wt%PEG溶液に対する9時間の透析後、約21wt%の濃度を得た(図6)。より低い濃度のPEG溶液を使用する場合、より高い濃度のシルクフィブロイン水溶液を作製するには、より長い透析時間が必要であった。23〜33wt%のシルクフィブロインゲルは、濃縮法の間に透析カセット中に自然発生的に生成された。これらのゲルは、室温および60℃で乾燥後であっても透明であった。
【0111】
シルクフィブロイン水溶液のゲル化
シルクフィブロイン水溶液のゲル化に対する温度、Ca2+およびK+濃度、pH、ならびにPEO濃度の影響を調べた。図7は、シルクフィブロイン水溶液(pH6.5〜6.8)の様々な温度でのゲル化時間を示している。シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間は、フィブロイン含量および温度の上昇と共に減少した。同時にランダムコイルからβシート構造への構造変化が観察され、ヒドロゲル内のβシート構造の形成は、以下に説明されるようなX線回折により確認された。図8は、様々なCa2+およびK+濃度でのシルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。Ca2+およびK+イオンを含むシルクフィブロイン溶液のpHは、各々、5.6〜5.9および6.2〜6.4であった。Ca2+は、比較的短いゲル化時間を生じたのに対し、K+の添加ではいずれの温度でもゲル化時間に変化はなかった。再生されたカイコフィブロインによるこれらの結果は、クモシルク溶液に添加されたK+イオンが、タンパク質の凝集および沈殿に影響を及ぼした先の試験とは異なったが、Ca2+イオンの添加後レオロジー変化はなかった。図9は、様々なpHでのシルクフィブロイン水溶液(4wt%)のゲル化時間を示す。ゲル化時間は、pHの低下と共に有意に短縮した。この挙動は、pH5.5でゲル化するがpH7.4では粘性の液体として挙動する、ニワオニグモ(Araneus diadematus)由来のシルクについて観察されたものに類似している(Vollrath, F., et al., Proc. R. Soc. London B, 1998, 265:817-820)。図10は、様々なポリエチレンオキシド(PEO)含量のシルクフィブロイン水溶液(4wt%)のゲル化時間を示す。PEO溶液の添加により、pHは、6.1〜6.4の範囲にわずかに低下した。ゲル化時間は、5%PEOのみの添加により有意に短縮したのに対し、濃度が5%を上回る場合のゲル化時間には差異はなかった。
【0112】
ヒドロゲルの構造解析
シルクフィブロインにおける構造変化を、X線回折により決定した。図11は、シルクフィブロイン水溶液から調製した凍結乾燥されたシルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルのX線プロファイルを示している。シルクフィブロイン溶液がガラス転移点以下の低温(-34〜-20℃)で凍結された場合、その構造は有意に変化しなかった(Li, M., et al., J Appl. Polym. Sci., 2001, 79:2185-2191)。凍結乾燥したシルクフィブロイン試料は、シルクフィブロイン濃度に関わりなく、20°近傍で、幅広のピークを示し、これはアモルファス構造を示している。中性pH水溶液中のシルクフィブロインはランダムコイル構造を示した(Magoshi, J., et al., Polymeric Materials Encyclopedia;Salamone, J. C., Ed.;CRC Press:NewYork, 1996;Vol.1, p.667;Magoshi, J., et al., Polymeric Materials Encyclopedia;Salamone, J. C., Ed.;CRC Press: New York, 1996;Vol.1, p.667)。シルクフィブロイン溶液から調製した全てのヒドロゲルは、明確なピークを20.6°に、ならびに9°および24°付近に2個の小さいピークを示した。これらのピークは、シルクフィブロインのβシート結晶構造のものとほぼ同じであった(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Asakura, T., et al., Macromolecules, 1985, 18:1841-1845)。これらのピークは、9°、20.6°、および24°に従い各々、β結晶スペーシング距離9.7、4.3、および3.7Åを示している。X線回折の結果から、シルクフィブロイン溶液のゲル化は、先に報告されたような、ランダムコイルからβシートへのコンホメーション転移を誘導した(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Hanawa, T., et al., Chem. Pharm. Bull., 1995, 43:284-288;Kang, G. D., et al., Marcromol. Rapid Commun., 2000, 21:788-791)。
【0113】
凍結乾燥されたヒドロゲルの形態
シルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルの形態学的特徴を、-80℃で凍結乾燥した後、SEMにより観察した。凍結乾燥した4〜12wt%のシルクフィブロイン溶液は、葉状の形態を示した。凍結乾燥した16wt%および20wt%のシルクフィブロイン溶液は、各々、細孔径5.0±4.2μmおよび4.7±4.0μmのネットワークおよびスポンジ状構造を示した。SEM画像により、4wt%シルクフィブロイン溶液から調製した凍結乾燥したヒドロゲルは、温度とは無関係に葉状形態および相互に連結した細孔を示し、4wt%よりも高いフィブロイン濃度では、スポンジ状構造が観察されたことが決定された。凍結乾燥したヒドロゲルの細孔径(<1.1±0.8μm)は、凍結乾燥したシルクフィブロイン溶液試料について観察されるものよりも小さかった。凍結乾燥されたヒドロゲルの細孔径は、シルクフィブロイン濃度の増加と共に減少し、かつ細孔径は、同じシルクフィブロイン濃度では温度が上昇するにつれ減少した。Ca2+イオンを含む4wt%の凍結乾燥されたヒドロゲルは、ネットワークおよびスポンジ状構造を示したが、K+イオンを含む4wt%の凍結乾燥されたヒドロゲルは、葉状形態を有した。フィブロイン濃度>4wt%の凍結乾燥されたヒドロゲルにおいて、Ca2+を含む凍結乾燥されたヒドロゲルの細孔径は、Ca2+イオンを含まないシルクフィブロイン水溶液から調製された凍結乾燥されたヒドロゲルのものよりも大きかった。興味深いことに、細孔径は、同じシルクフィブロイン濃度で、Ca2+濃度が増加するにつれて、凍結乾燥されたヒドロゲルにおいてより大きくなった。Ca2+を含む凍結乾燥されたヒドロゲルとは対照的に、K+を含む凍結乾燥されたヒドロゲルの細孔径は、シルクフィブロイン水溶液から調製した凍結乾燥されたヒドロゲルのものと類似したサイズを示した。これらの結果は、Ca2+は、シルクフィブロイン鎖間で相互作用を誘導する点で、K+よりもより有効であることを暗示している。この結果は、Ca2+がK+よりもより短いゲル化時間を生じた先行するデータとも一致する。
【0114】
ヒドロゲルの力学特性
シルクフィブロイン水溶液から調製したヒドロゲルの圧縮強度および圧縮弾性率は、シルクフィブロイン濃度の増加と共に増加した(図12aおよび12b)。力学特性の改善は、細孔径の減少を伴うポリマー濃度の増加に起因する。同じシルクフィブロイン濃度で、より高い温度で調製されたヒドロゲルは、減少した細孔径のために、より高い圧縮強度および圧縮弾性率を示した。4〜8wt%フィブロインのヒドロゲルが55%未満のひずみを示したのに対し、12〜16wt%フィブロインのヒドロゲルは75%〜96%の範囲のより大きいひずみを示した(図12c)。より小さな細孔径は、ヒドロゲル内の応力をより均一に分配し、応力の集中に抵抗するため、細孔径の影響が考慮された。より小さい細孔径および増加した数の細孔は、亀裂の広がりに対する障壁としても機能する。
【0115】
考察
ゲル化は、疎水性相互作用および水素結合を含む、タンパク質鎖間の分子内および分子間相互作用の形成により生じる(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Hanawa, T., et al., Chem. Pharm. Bull., 1995, 43:284-288;Kang, G. D., et al., Marcromol. Rapid Commun., 2000, 21:788-791)。フィブロイン含量および温度の増加と共に、フィブロイン鎖間の相互作用は増加する。これによりシルクフィブロイン分子は、より迅速に相互作用することができ、このことは物理的架橋につながる。
【0116】
カイコ(ボンビックス・モリ)のCa2+イオン濃度は、シルクが吐糸管に向かい進むにつれ、5mMから15mMまで増加するのに対し、K+イオンは5〜8mM3で存在する。いくつかのカルシウム塩が、フィブロインとの強力な相互作用のために、シルクフィブロインを溶解することが知られている(Ajisawa, A., J. Seric. Sci. Jpn., 1998, 67:91-94;Ha, S. W., et al., Biomacromolecules, 2003,4:488-496)。ボンビックス・モリ由来のシルクフィブロインの希釈溶液のレオロジーに関する測定値は、タンパク質鎖が、フィブロインのアミノ酸側鎖のCOO-イオンとCa2+またはMg2+などの二価のイオンとの間のイオン相互作用によりクラスターを形成する傾向があることを明らかにした(Ochi, A., et al., Biomacromolecules, 2002,3:1187-1196)。これらの相互作用を通じて、Ca2+イオンを含むシルクフィブロイン溶液のpHは、これらのイオンが存在しないシルクフィブロイン溶液のそれよりも有意に低かったのに対し、K+などの一価のイオンの添加は、pHのわずかな低下のみを示した。より低いpHにより、シルクフィブロイン分子間の反発力は低下し、鎖間の相互作用は容易になり、疎水性相互作用を介したβシート構造が形成される可能性の増加を生じた。シルクフィブロインの等電点(pI=3.8〜3.9)近傍のpH(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Kang, G. D., et al., Marcromol. Rapid Commun., 2000,21:788-791)は、等電点近傍で凝集する他のタンパク質に類似した様式で、シルクフィブロイン水溶液のゾル-ゲル転移を加速した。
【0117】
これらの結果は、異なる生物に由来する異なるシルクタンパク質が、ゾル-ゲル転移を促進するために生理学的に関連するイオンを利用する方法についての、微妙な差異を反映している。二価のイオンは、特に重鎖フィブロインの鎖の末端近傍に存在する負に帯電したアミノ酸とのイオン相互作用により、シルクフィブロイン分子の凝集を誘導する可能性がある。異なる濃度のCa2+に対する反応の欠如は、生理的な反応またはおそらくはこの方法をインビボまたはインビトロにおいて完全に制御するためのイオンの組合せの役割の幅広い窓口を示唆している。特に、処理環境に関連したシルクのドメインマッピングに関する知見と呼応して考慮される場合には、これらの関係を解明するために追加試験が必要であろう(Bini, E., et al., J. Mol.Biol., 2004, 335:27-40)。
【0118】
シルクフィブロイン分子から親水性PEOへの水の移動は、タンパク質分子間の分子内および分子間の相互作用、ならびにそれに続くβシート構造の形成を促進する。この転移は、この方法に関する本発明者らの最新の力学的理解を基に、シルクにおいて明らかである(Jin, H. J., et al., Nature, 2003,424:1057-1061)。これらの転移は、PEOのフィブロイン水溶液への直接添加によるか、または透析膜を横断する水溶液からの分離(PEGによる)を介して、誘導することができる。従って、タンパク質とPEOとの間の直接の接触は不要であり、タンパク質からPEO/PEGへの水輸送の促進のみが、ゾル-ゲル転移を駆動する。
【0119】
結論
一次配列から、カイコシルクフィブロイン重鎖は、鎖端に2個の大きい親水性ブロックを有する7個の内部疎水性ブロック、および7個のはるかに小さい内部親水性ブロックから構成されている(Zhou, C. Z., et al., Nucleic Acids Res., 2000,28:2413-2419;Jin, H. J., et al., Nature, 2003,424:1057-1061)。シルクフィブロイン中の疎水性残基の割合は79%であり(Braun, F. N., et al., Int. J. Biol. Macromol., 2003,32:59-65)、疎水性残基中の反復配列は、シルクフィブロイン線維およびフィルム内の結晶領域を形成するβシート構造を支配するGAGAGSペプチドからなる(Mita, K., et al., J. Mol. Evol., 1994, 38:583-592)。これらβシートの形成は、水中での不溶性をもたらす(Valluzzi, R., et al., J. Phys. Chem. B, 1999, 103:11382-11392)。水溶液中のシルクフィブロインの疎水性領域は、疎水性相互作用により物理的に集合し、最終的にはヒドロゲルに組織化される(Jin, H. J., et al., Nature, 2003,424:1057-1061)。シルクフィブロイン濃度、温度、Ca2+、pHおよびPEOは、シルクフィブロイン水溶液のゲル化に影響を及ぼす。フィブロイン含量および温度の増加に伴い、シルクフィブロイン分子間の物理的架橋は、より容易に形成される。Ca2+イオンは、おそらく鎖末端の親水性ブロックを介して、これらの相互作用を促進する。pHの低下および親水性ポリマーの添加は、シルクフィブロイン分子間の反発力を低下させ、タンパク質からの水の脱離を促進し、より短いゲル化時間をもたらす。ゲル化にあたり、ランダムコイルからβシート構造への構造転移が誘導され、水中のシルクフィブロインヒドロゲルの不溶性および安定性が促進される。シルクフィブロインヒドロゲルは、ネットワークおよびスポンジ状構造を有する。細孔径は、シルクフィブロイン濃度およびゲル化温度が増加するにつれて、より小さくなった。凍結乾燥されたヒドロゲルは、Ca2+濃度の増加に伴い、同じフィブロイン含量のシルクフィブロイン水溶液から調製された凍結乾燥されたヒドロゲルよりもより大きい細孔径を示した。イオンを含まないシルクフィブロイン水溶液から調製されたヒドロゲルの圧縮強度および圧縮弾性率は、タンパク質濃度およびゲル化温度の増加に伴い、増加した。
【0120】
コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブリン、アルギン酸塩、およびキトサンなどの、天然のポリマー由来のヒドロゲルは、薬剤送達に加え、組織エンジニアリングにおける多くの用途が認められている。しかしこれらは一般に限定された範囲の力学的特性を提供する(Lee, K. Y., et al., Chem. Rev., 2001, 101:1869-1879)。対照的に、シルクフィブロインは、優れた力学特性、生体適合性、生分解性、および細胞相互作用との組合せのために、制御された放出、組織エンジニアリングのための生体材料および足場の分野における重要な一連の材料オプションを提供する。
【0121】
(実施例4)3次元水性由来のシルク足場を使用した骨再生
本発明者らは、本発明の水性シルク溶液からの3次元シルク足場上でのヒト骨髄幹細胞の骨再生を試験した。シルク足場の骨髄幹細胞の増殖および分化を支持する能力を試験するために、本発明者らは、いかなる修飾もしないシルク足場を使用した。
【0122】
方法
材料
ウシ血清、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α改変型(αMEM)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Pen-Strep)、ファンギゾン、非必須アミノ酸、トリプシンは、Gibco(Carlsbad, CA)から得た。アスコルビン酸リン酸塩、Histopaque-1077、デキサメタゾン、およびβグリセロリン酸塩は、Sigma(St. Lois, MO)から得た。他の物質は全て、分析用または医薬品グレードであり、Sigmaから得た。カイコ繭は、M. Tsukada(Institute of Sericulture, Tsukuba, Japan)およびMarion Goldsmith (University of Rhode Island, Cranston, RI)のご厚意により入手した。
【0123】
足場の調製
水性由来のシルク足場は、粒状NaCl(粒度;1000〜1180μm)4gを、ディスク型テフロン容器中の8wt%シルクフィブロイン溶液2mlに添加して調製した。この容器に蓋をし、室温に放置した。24時間後、容器を水に含浸し、NaClを2日間抽出した。HFIP由来のシルク足場は、4gの粒状NaCl(粒度;850〜100μm)をHFIP中の8wt%シルクフィブロイン2mlに添加することにより調製した。この容器に蓋をしHFIPを減少させ、この溶液のより均一な分布に十分な時間を提供した。溶媒を室温で3日間揮発させた。シルク/ポロゲンの複合体を、メタノール中で30分間処理し、βシート構造および水溶液中の不溶性を誘導した後、この複合体をNaClを除去するために2日間水に含浸した。この多孔質シルク足場を風乾した。
【0124】
ヒト骨髄幹細胞の単離および増殖
全骨髄(25cm3、Clonetics, Santa Rosa, CA.)を、分離培地(RPMI 1640培地中5%FBS)100ml中に希釈した。細胞を、密度勾配遠心分離法により分離した。簡単に述べると、骨髄懸濁液の20mlアリコートを、ポリショ糖勾配(1,077g/cm3, Histopaque, Sigma, St. Louis, MO)上に積層し、800xgで30分間、室温で遠心分離した。この細胞層を慎重に取り出し、分離培地10mlで洗浄し、Pure-Gene溶解液5ml中でペレット化し夾雑している赤血球を溶解した。細胞をペレット化し、増殖培地(DMEM、10%FBS、1ng/ml bFGF、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、0.25μg/mlファンギゾン、非必須アミノ酸)中に懸濁し、75cm2フラスコ中に、密度5x104個細胞/cm2で播種した。接着細胞は、約80%のコンフルエンスに到達させた(初代継代12〜17日間)。細胞をトリプシン処理し、再度播種し、継代2(P2)細胞(6〜8日後に80%コンフルエント)を、実験に使用した。
【0125】
インビトロ培養
シルク足場上のインビトロにおける細胞の増殖および分化を試験するために、BMSC(5x105個細胞/足場、継代2)を、予め湿らせた(α-MEM、一晩)シルク足場上に播種した。24時間後、この培地を除去し、6ウェルプレートの個々のウェル中で培養物を維持した。骨形成性の培地は、ペニシリンおよびストレプトマイシンおよびファンギゾンの存在する、10%FBS、非必須アミノ酸、50μg/mlアスコルビン酸-2-リン酸塩、10nMデキサメタゾン、および7mMβグリセロリン酸を補充したαMEMであった。培養物は、5%CO2を補充した加湿したインキュベーター内、37℃で維持した。培地の半分を、2〜3日おきに交換した。
【0126】
生化学分析および組織学
足場を、骨形成性培地中で2週間および4週間培養し、生化学分析および組織学のために処理した。DNA分析のために、1群1時点あたり3〜4足場を、分解した。DNA含量(n=3〜4)を、PicoGreenアッセイ(Molecular Probes, Eugene, OR)を製造業者のプロトコールに従い使用し、測定した。試料を、励起波長480nmおよび放出波長528nmで蛍光定量的に測定した。総カルシウム含量については、試料(n=4)を、5%トリクロロ酢酸0.5mlで2回抽出した。カルシウム含量は、o-クレゾールフタレインコンプレキソン(Sigma, St. Louis, MO)を使用する比色アッセイ法により決定した。カルシウム複合体は、575nmで分光光度法により測定した。アルカリホスファターゼ活性は、405nmで分光光度法により測定されるp-ニトロフェニルリン酸のp-ニトロフェノールへの転換を基にした、Sigma(St. Louis, MO)の生化学アッセイを用いて測定した。
【0127】
RNA単離、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムRT-PCR)
新たな足場(n=3〜4/群)を、2mlプラスチック製チューブに移し、1.0mlトリゾールを添加した。スチールボールおよびMicrobeaterを用い、足場を分解した。チューブを、12000gで10分間遠心し、上清を新たなチューブに移した。クロロホルム(200μl)をこの溶液に添加し、室温で5分間インキュベートした。チューブを12000gで15分間再度遠心し、上側水層を新たなチューブに移した。70%エタノール(v/v)1容量を添加し、RNeasyミニスピンカラム(Quiagen, Hilden, Germany)に装加した。RNAを洗浄し、製造業者のプロトコールに従い溶離した。RNA試料を、製造業者のプロトコールに従いオリゴ(dT)選択を用いcDNAに逆転写した(Superscript Preamplification System, Life Technologies, Gaithersburg, MD)。I型コラーゲン、II型コラーゲン、アルカリホスファターゼ、骨シアロタンパク質およびオステオポンチンの遺伝子発現を、ABI Prism 7000 Real Time PCRシステム(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用い定量した。PCR反応条件は、50℃で2分間、95℃で10分間、その後95℃で15秒を50サイクル、および60℃で1分間であった。発現データは、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対して標準化した。GAPDHプローブは、5'末端を蛍光色素VICで、および3'末端を消光色素TAMRAで標識した。ヒトGAPDH遺伝子のプライマー配列は以下であった:フォワードプライマー
、リバースプライマー
、プローブ
。アルカリホスファターゼ、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチンのプライマーおよびプローブは、Applied Biosciencesから購入した(Assay on Demand #, Hs 00240993 ml(ALP), Hs 00173720 ml(BSP), Hs 00167093 ml(オステオポンチン))。
【0128】
ウェスタンブロット解析
総タンパク質抽出のために、細胞を、プロテアーゼインヒビターおよびホスファターゼインヒビターを含有する、RIPA緩衝液[50mM Tris-HCl、pH8.0、150mM NaCl、1% Nonidet P-40(NP-40)、0.2%SDS、5mM NaF]中で溶解した。タンパク質含量を、Bradfod法により測定した。タンパク質を、3〜8%SDS-PAGEにより分解し、メンブレンに移した。ブロットを、一次抗体で4℃で12時間プロービングし、洗浄し、適当なペルオキシダーゼで標識した二次抗体と共に、室温で1時間インキュベートした。タンパク質バンドを、ECL(Armersham-Pharmacia)により顕在化した。
【0129】
走査型電子顕微鏡(SEM)分析
細胞接着の前後に、ポリマー表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により試験した。マトリックスは、Karnovsky固定剤を用いて24時間固定し、CMPBS中で3回洗浄し、残存する固定剤を除去した。その後これらの試料を、一連の段階的エタノール(50〜100%)を15分間隔で用いて乾燥した。乾燥後、試料を金でスパッタコーティングし、LEO Gemini 982電界放出ガンSEMで調べた。
【0130】
組織学的評価
4%リン酸緩衝ホルムアルデヒドで少なくとも24時間固定した後、標本をパラフィンに包埋し、切片とした(4μm)。標準の組織化学的技術を用い、連続切片をヘマトキシリン・エオシンおよびアルシアンブルーで染色した。
【0131】
結果
SEM分析
3Dシルク足場の特徴を、細孔径分布および表面トポグラフィーの分析のためのSEMによる構造的評価により決定した。SEM分析は、水-シルク足場が、平均細孔径920±50μmである相互に連結された多孔質ネットワークを有することを示した。細孔表面は、非均質の微小孔を含む粗い構造の外観を有した。しかしHFIP-シルク足場は、平均細孔径900±40μmである、相互連結の乏しい多孔質ネットワークを有し、かつ滑らかな表面構造を示した。BMSC(継代2)を、水-シルクスポンジおよびHFIP-シルクスポンジに播種した。HFIP-シルクスポンジよりも、水-シルクスポンジに、より多くの細胞が接着した。水-シルクスポンジは、細胞播種を促進した。かつBMSCは、水-シルクスポンジ全体に均一に分布された。対照的に、HFIP-シルクスポンジ上のBMSCの分布は均一ではなかった。BMSC増殖は、水-シルクスポンジ上で認められた。SEMは、水-シルクスポンジ上でのBMSCの広範囲の増殖、その後最大4週間の増殖を確認した。
【0132】
肉眼による試験
細胞足場構築体は、5%CO2雰囲気下、37℃で、骨形成性培地において培養した。構築体は、6ウェルプレートにおいて最大28日間培養した。BMSC水-シルク構築体は、培養後丸くなり始めたが、BMSCHFIP-シルク構築体は当初平坦で、培養後も変化しなかった。水-シルク足場中に形成された組織は、白っぽく、手および外科用鉗子で触ると固かった。しかし、HFIP-シルク足場に播種されたBMSCは、白っぽい組織を形成しなかった。2週間および4週間の標本は、肉眼による試験では有意差は認められなかった。水-シルク足場内のBMSCの均一な細胞分布は、足場の表面上および中心全体にわたる均一なマトリックス染色(生存細胞によるMTT転換の指標)により定性的に明らかであった。しかしHFIP-シルク足場は、構築体の表面に沿った強力な染色、および構築体内部の弱い染色領域を示した。
【0133】
生化学分析
3Dマトリックスの多孔度は、水-シルクおよびHFIP-シルクの両方において約92%であった。水-シルク足場の圧縮強度および圧縮弾性率は、100±10kPaおよび1300±40kPaであった。HFIP足場のこれらの値は、50±5kPaおよび210±60kPaであった。
【0134】
これらの足場上で培養された細胞の総数は、本試験の時間経過にわたりDNAアッセイを用いて定量した。培地中に懸濁された細胞を播種した水-シルク足場については、最初の播種後の51,000±12,000個細胞から、28日間の培養後の150,000±12,000個細胞へと増加した。培地中に懸濁された細胞を播種したHFIP-シルク足場は、最初の細胞播種後の8,000±3,400個細胞から、28日間の培養後の32,000±11,000個細胞へと、有意な増殖を示さなかった。
【0135】
アルカリホスファターゼ(ALPase)活性は、骨前駆細胞の骨芽細胞表現型へのコミットメントの指標であるが、これを足場毎に測定した。水-シルク足場については、28日培養後のALPase活性(9.7±0.3mmol/足場)は、1日目(0.4±0.01mmol/足場)と比べ、有意に増加した。HFIP-シルク足場については、培養の28日後、2.9±0.12mmol/足場が検出された。
【0136】
各試料の総カルシウム含量を、足場毎に測定した。水-シルク足場については、骨形成性培地中での28日間の培養後、有意なカルシウム沈着(10.5±0.65μg/足場)が認められた。HFIP-シルク足場については28日間の培養後、Ca2+1.4±0.1μg/足場が存在した。
【0137】
骨形成性分化関連遺伝子の発現
BMSCにより生成された骨様組織を特徴付けるために、いくつかの骨形成性の分化および軟骨形成性の分化のマーカー遺伝子の発現を、リアルタイムRT-PCRアッセイ法を用いて定量した。分析した遺伝子は、骨形成性分化マーカーI型コラーゲン(Col I)、アルカリホスファターゼ(ALP)、オステオポンチン(OP)、骨シアロタンパク質(BSP)、および軟骨形成性分化マーカーII型コラーゲン(Col II)を含む。足場の種類間の転写レベル(増幅の直線範囲内でGAPDHに対して標準化)の差異は、有意であった。Col I、ALP、およびOP転写レベルは、HFIP-シルク足場と比べ、水-シルク足場において増加した。水-シルク足場において28日間培養後、Col I、ALPおよびBSPの遺伝子発現は、1日培養後と比べ、各々、190%、1100%、および10500%有意に増加した。しかしOPおよびCol IIの発現は、有意に減少した。BSP発現は、水-シルク足場およびHFIP-シルク足場において、同様に調節された。足場の種類間の差異に統計学的有意性はなかった。
【0138】
骨形成性分化に関連したタンパク質の発現
3D水-シルク足場培養条件において、ヒト骨髄幹細胞は、骨芽細胞マーカーを発現した。HFIP-シルク構築体と比べて、Col Iの発現は、水-シルク培養条件下で、2週間培養後、タンパク質レベルの有意な増加を示した。しかしCol Iの発現は両方の条件下で、4週間の培養後に減少した。28日間の培養後、OPの発現は水-シルク構築体において増加した。このタンパク質は2本のバンドを示し、そのうち最も高い分子量は、高度にグリコシル化、硫酸化、またはリン酸化されていると推定された(Singh et al., J. Biol. Chem., 1990,65:18696-18701)。骨の他のタンパク質であるBSPは、水-シルク足場およびHFIP-シルク足場の両方で培養された細胞において発現された。しかしその発現は、28日間培養後、HFIP-シルク構築体において増加した。
【0139】
本発明者らは、マトリックスメタロプロテアーゼ13(MMP13)およびCol IIの発現も分析した。MMP13は、水-シルク構築体においてのみ発現した。また、Col IIは、4週間後、両方の培養条件においてダウンレギュレートされた。
【0140】
組織学的試験
これらの標本のヘマトキシリン・エオシン染色を用いる組織学的試験は、それらの立方体または円柱状の形態の骨芽細胞様細胞の割合が、水-シルク構築体における培養期間の延長と共に増加したことを明らかにした。14日間の培養後、ほぼ全ての細孔が、結合組織、線維芽細胞、および立方体の骨芽細胞様細胞により充填された。28日後、これらの細孔は細胞外マトリックス、骨芽細胞様細胞、およびわずかな線維芽細胞様形態の細胞で充填された。しかしHFIP-シルク足場の組織学的切片は、細胞のわずかな分布が存在し、その大半は足場の表面に細胞層を形成していることを明らかにした。28日間の培養後、HFIP-シルク構築体内の細胞の大半は、平坦な線維芽細胞形態を示した。
【0141】
骨形成性培地での培養後、アルシアンブルー染色によるプロテオグリカンの細胞外マトリックスは、プロテオグリカンが水-シルク構築体において検出されたことを明らかにした。HFIP-シルク構築体においては、プロテオグリカンは組織学的には検出されなかった。
【0142】
考察
シルクタンパク質ベースのマトリックス足場は、骨組織エンジニアリングに関して現在関心がもたれている。これらの足場は、PGA-PLAコポリマーおよびコラーゲンのような、他の一般的生分解性合成ポリマーおよび天然ポリマーよりも、より高い力学特性を示した。HFIPを使用して、多孔質シルクフィブロイン材料が調製されてきた。HFIP-シルク足場は、それらの独特な力学特性について知られているが、これらの天然のポリマーは、細胞認識シグナルを欠いているため不充分な細胞接着を生じる。この問題点を克服するために、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)による表面修飾、および天然の生分解性ポリマーとのハイブリッドを含む、多くのアプローチが開発されてきた。
【0143】
細胞接着は、細胞の増殖および分化に直接影響するため、重要な細胞プロセスとして知られている。本実施例において、シルク足場は修飾せずに使用した。本発明者らは、水-シルク足場における十分な細胞接着を認めた。HFIP-シルク足場よりもより多くの細胞が、水-シルク足場に接着した。表面組織、またはミクロトポグラフィーの多様性は、細胞の反応に影響を及ぼすことができる。より粗い表面には、より高い割合で細胞が接着していることがわかった。SEM分析および組織学的分析は、本発明者らの水-シルク足場が、均一な細孔を伴う粗い構造を有することを示した。しかしHFIP-シルク足場は滑らかな表面構造を有した。
【0144】
多孔質足場の微細構造に関して、高い多孔度(>90%)および相互に連結された細孔ネットワークが望ましい。加えて、好ましい細孔径は一般に、細胞の内殖および組織の再生を可能にするためには50〜500μmの範囲である(Katoh K. et al., Biomaterials, 2004, 25:4255-4262;Thomson R, et al., In Principles of Tissue Engineering;Lanza R, Langer R and Vacanti J, eds. Academic Press: San Diego, pp.251-262,2000)。3次元細胞/ポリマー構築体の外側への栄養輸送制限の緩和は、3次元足場上に播種されたMSCの骨芽細胞マーカーの増殖、分化、および発現に影響を及ぼす(Sikavitsas VI. et al., J. Biomed Mater Res, 62:136-148)。構造の特徴決定は、水-シルクスポンジの細孔径および多孔度が、NaCl粒子のサイズにより制御されることを示した。本発明者らは、90%より大きい多孔度を有する、調節された細孔径(920±50μm)を有する水-シルクスポンジを調製した。さらにこれらの細孔は外側に開口し、相互に連結し、かつスポンジ全体に均一に分布していた。
【0145】
多孔質シルク足場にヒトBMSCを播種し、BMSCシルク構築体をふたつのモデルシルク足場(水-シルク足場およびHFIP-シルク足場)において、28日の延長された期間培養した。水-シルク足場に播種されたBMSCは、培養の最初の2週間に促進された増殖、ならびに培養期間の最後に最強のALP活性および最高のカルシウム付着を示した。
【0146】
胎児発生または成人修復のどちらの期間でも、骨格形成の開始は間葉幹細胞の凝縮により始まる。凝縮段階の直後に、凝集の中央領域の細胞は、軟骨表現型をとる(Ferguson C. et al., Mech. Dev., 1999,87:57-66)。Col IIの発現は、本発明者らのシルク足場においてこの事象を示した。本発明者らのCol IIの研究は、初期のCol II遺伝子発現にもかかわらず、水-シルク足場において培養された分化したBMSCが、培養期間の最後まで、分化した表現型を維持したことを示した。初期において、本発明者らは、HFIP-シルク構築体においてもCol II発現を観察した。しかしCol II遺伝子発現およびタンパク質発現は、有意に低下した。
【0147】
軟骨細胞は、増殖から肥大性の状態へと進行する。肥大した軟骨細胞の大半は、プログラムされた細胞死を受けるように最終的には運命付けられており、これは細胞外マトリックス(ECM)のリモデリング、およびそれに続く新たな骨の付着が伴う(Gerber H. et al., Nat. Med. 1999,5:623-628)。MMP13は、肥大性軟骨マトリックスのリモデリングを調節する。MMP13の発現は、水-シルク構築体において観察されたが、HFIP-シルク構築体においては観察されず、これは水-シルク足場の細胞は成熟しかつ肥大した軟骨細胞であることを示している。
【0148】
軟骨内骨形成時の軟骨鋳型から骨への切り替えは、細胞表現型の単なる切り替えではなかった。その後軟骨性のECMは、骨ECMにより交換される。プロテオグリカン合成、ALPの発現、およびI型コラーゲンの発現は、水-シルク構築体において検出されたが、II型コラーゲンはほとんど検出されなかった。ALPおよびI型コラーゲン(骨芽細胞分化のマーカー)の発現は、水-シルク構築体において有意に増加したが、骨の他のタンパク質で、総非コラーゲン性のタンパク質を8〜12%含むと考えられるBSPは、水-シルク足場およびHFIP-シルク足場において同様に発現された。I型およびII型コラーゲンの同時発現が、試験において明らかにされており(Nakagawa T. et al., Oral Diseases, 2003, 9:255-263)、これは軟骨細胞が、それらの表現型を、骨様マトリックスを作製して軟骨内骨内に残留するように変更することを示している。
【0149】
骨芽細胞マーカーのひとつであるOPは、下記の骨形成の二つの段階で高度に発現されていることが明らかである:初期の増殖段階、および石灰化された骨マトリックスの初期の形成に続く後期の段階(Yae, KL. et al., J. Bone Miner. Res., 1994,9:231-240)。培養初期に、OPの発現は、水-シルク構築体においてアップレギュレートされた。これらの試験は、骨組織の初期形成における水-シルク足場の有用性を指摘している。I型コラーゲンは、骨の有機マトリックスの最大部分(90%)を構成しているが、これはこの組織に独自ではない。プロテオグリカン、または少なくともそれらの成分グリコサミノグリカン鎖は、石灰化された骨マトリックスの小さいが重要な成分として長く認められている(Fisher LW. et al., J. Biol. Chem., 1982, 258:6588-6594;Fedarko NS. et al., J. Biol. Chem., 1990, 265:12200-12209)。水-シルク足場での培養後のアルシアンブルー染色液による切片の染色は、ECM内のプロテオグリカンの存在を明確に示した。プロテオグリカンは、軟骨内に認めることができる。これらのプロテオグリカンの起源および組織特異性は、決定されていない。本発明者らの研究において、プロテオグリカンは、水-シルク構築体内での培養の14日後に検出されたが、HFIP-シルク構築体においては検出されなかった。
【0150】
本出願を通じて引用された参考文献は、本明細書に参照として組入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
本明細書に組込まれかつその一部を構成している添付図面は、本発明の態様を例示し、説明すると共に、本発明の目的、利点、および原理を説明するために利用される。
【図1】図1は、高度に濃縮された再生されたシルクフィブロイン溶液を製造する本発明の方法のひとつの態様を例示している。
【図2】図2は、多孔質シルクフィブロイン足場の調製のための本発明の方法のひとつの態様を例示している。
【図3】図3aおよび3bは、実施例IIにおいて説明された水ベースの方法により調製されたシルクフィブロイン足場の(図3a)X線回折および(図3b)FTIRスペクトルを示す。
【図4】図4aおよび4bは、(図4a)4または8wt%シルクフィブロインと直径850〜1000μmの粒度のNaClにより調製された場合の経時的な残存する足場の質量、ならびに(図4b)様々な粒度のNaClにより6wt%で調製された足場の質量を示している。
【図5】図5aおよび5bは、(図5a)水処理および(図5b)延伸を含む、シルクフィルム調製に関する本発明のひとつの態様を例示している。
【図6】図6は、室温での、PEG溶液(丸;25wt%、四角;15wt%、三角;10wt%)に対する透析により調製されたシルクフィブロイン溶液(黒印)およびゲル(白印)の濃度を示している。値は、3個の試料の平均±標準偏差である。
【図7】図7は、様々な温度(pH6.5〜6.8、イオンなし)でのシルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。値は、7個の試料の平均±標準偏差である。
【図8】図8a、8b、および8cは、(図8a)室温、(図8b)37℃および(図8c)37℃で、異なるCa2+(pH5.6〜5.9)およびK+(pH6.2〜6.4)濃度での、シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。
【図9】図9は、様々なpH(4wt%シルクフィブロイン;イオンなし;室温)での、シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。値は、7個の試料の平均±標準偏差である。
【図10】図10は、様々なPEO含量(4wt%シルクフィブロイン;pH6.1〜6.4;イオンなし;室温)での、シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。値は、7個の試料の平均±標準偏差である。
【図11】図11aおよび11bは、(図11a)凍結乾燥したシルクフィブロイン溶液および(図11b)シルクフィブロイン水溶液から60℃で調製されたヒドロゲルのX線回折を示す。
【図12】図12a、12b、および12cは、様々な温度での、シルクフィブロイン水溶液から調製したヒドロゲルの圧縮強度(図12a)、圧縮弾性率(図12b)および破損歪(図12c)を示す。**:60℃でシルクフィブロイン濃度16wt%で調製したヒドロゲルは、本試験に使用した条件下で粉砕されなかった。値は、5個の試料の平均±標準偏差である。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年4月10日に出願された米国特許仮出願第60/461,716号および2004年3月8日に出願された米国特許仮出願第60/551,186号の恩典を主張するものである。
【0002】
政府の補助
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)、米国国立科学基金(NSF)および米空軍(Foster Millerからの外注契約)の基金番号第RO1EB003210、RO1DE13405-O1A1、DMR-0090384、F49620-01-C-0064により支援されており、米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の技術分野
本発明は概して、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液の調製法、ならびに線維、フィルム、スポンジ状多孔質フォーム、3次元足場、およびヒドロゲルなどのシルクフィブロイン材料の製造におけるこれらの溶液の使用法に関する。特にシルクフィブロイン溶液の調製のための全て水性の手段が説明される。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
シルクは、カイコボンビックス・モリ(Bombyx mori)により生成されるよく説明された天然の線維であり、これは伝統的に数千年にわたり織物の糸の形で使用されている。このシルクは、糸コアを形成するフィブロイン(重鎖および軽鎖の両方)と称される線維状タンパク質、およびフィブロイン線維を取り囲み、それらを一緒に固めているセリシンと称される糊状(glue-like)タンパク質を含む。フィブロインは、線維内でβプリーツシートの形成につながるアミノ酸グリシン、アラニンおよびセリンを最大90%含有する、高度に不溶性のタンパク質である(Asakura, et al., Encylopedia of Agricultural Science, Arntzen, C. J., Ritter, E. M. Eds.;Academic Press:New York, NY, 1994;Vol.4, pp1-11)。
【0005】
フィブロインのような再加工されたシルクの独特な力学的特性およびその生体適合性は、このシルク線維を、バイオテクノロジー材料における使用および医療適用にとって特に魅力的なものにしている。シルクは、素晴らしい力学特性、生体適合性および生分解性のために、生体材料および組織エンジニアリングのための重要な一連の材料オプションを提供している。
例えば、3次元多孔質シルク足場の、組織エンジニアリングにおける使用が説明されている(Meinel et al., Ann Biomed Eng, 2004 Jan;32(1):112-22;Nazarov, R., et al., Biomacromolecules、印刷中)。さらに再生されたシルクフィブロインフィルムは、酸素透過性膜および薬物透過性膜、酵素固定のための支持体、および細胞培養のための基体として研究されている。
加えてシルクヒドロゲルは、組織エンジニアリングに加え、ドラッグデリバリーにおいて多くの用途が認められる(Megeed et al., Pharm Res., 2002 Jul;19(7):954-9;Dinerman et al., J. Control Release., 2002 Aug 21;82(2-3):277-87)。
【0006】
しかし、先に説明されたシルクベースの材料を調製するために、化学物質または有機溶媒、例えばヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)が、架橋のためまたは加工のために使用される(Li, M., et al., J. Appl. Poly. Sci., 2001, 79,2192-2199;Min, S., et al., Sen'i Gakkaishi, 1997, 54,85-92;Nazarov, R., et al., Biomacromolecules、印刷中)。例えばHFIPは、シルクの溶解度を最適化するために使用され、およびメタノールは、水で安定なシルク構造を作製するために、フィブロインにおいて、アモルファスなβシートコンホメーションへの転移を誘導するために使用される。
【0007】
有機溶媒は、加工された材料がインビトロまたはインビボにおいて細胞に曝された場合に、生体適合性に問題を有するので、シルクフィブロイン材料の調製における有機溶媒の使用は、重大な欠点を示している。有機溶媒は、フィブロイン材料の特性を変更することもできる。例えば、シルクフィブロインフィルムのメタノールのような有機溶媒への含浸は、水和されたまたは膨潤された構造の脱水を引き起こし、これは結晶化、その結果の水への溶解度の喪失につながる。さらに組織エンジニアリングの足場に関して、有機溶媒の使用は、シルク材料をより分解し難くする。従って化学架橋および/または有機溶媒の非存在下で形成することができるシルクベースの材料を開発する必要がある。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液、および有機溶媒またはきつい化学物質の使用を避ける濃縮された水性フィブロイン溶液の調製のための全て水性の様式(all-aqueous mode)を提供する。本発明は、例えば線維、フィルム、フォーム、メッシュ、足場、およびヒドロゲルのような材料の製造における、これらの溶液の使用をさらに提供する。
【0009】
ひとつの態様において、少なくとも10wt%のフィブロイン濃度を有する水性シルクフィブロイン溶液が提供され、ここで該溶液は、有機溶媒を含まない。フィブロイン濃度が、少なくとも15wt%、少なくとも20wt%、少なくとも25wt%、または少なくとも30wt%である水性シルクフィブロイン溶液も提供される。望ましいならば、この溶液は、加工前に生体適合性ポリマーと一緒にすることができる。
【0010】
水性シルクフィブロイン溶液のフィブロインは、例えば、ボンビックス・モリ由来の溶解したカイコシルク、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)由来の溶解したクモシルクを含有する溶液から、または遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得ることができる。
【0011】
本発明のひとつの態様において、本明細書に説明された水性シルクフィブロイン溶液は、さらに治療用物質を含有する。治療用物質は、例えばタンパク質、ペプチド、核酸、および小型分子薬物を含む。
【0012】
別の態様において、濃縮された水性フィブロイン溶液を製造する方法が提供される。この方法は、水性シルクフィブロイン溶液を調製すること、およびこの溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%の水性フィブロイン溶液を生じるのに十分な時間透析することを含む。
【0013】
本発明の方法に有用な吸湿性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール、アミラーゼ、またはセリシンを含む。好ましい吸湿性ポリマーは、分子量8,000〜10,000g/molのポリエチレングリコール(PEG)である。最も好ましくは、PEGは、濃度25〜50%を有する。
【0014】
ひとつの態様において、線維を製造する方法が提供される。この方法は、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液を加工し線維を形成することを含む。処理は、例えば電気紡糸または湿式紡糸を含む。あるいは線維は、この溶液から直接引き延ばすことができる。望ましいならばこの線維は、加工後、メタノールで処理、好ましくは含浸される。その後この線維は、水で洗浄されることが好ましい。
【0015】
本発明の方法で製造される線維および治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0016】
別の態様において、シルクフォームを製造する方法が提供される。この方法は、本発明の濃縮された水性シルク溶液を加工し、フォームを作製することを含む。加工法は、例えば塩浸出、ガス発泡、マイクロパターニング、または溶液の塩粒子との接触による方法を含む。この塩は、好ましくは一価、例えばNaCl、KCl、KFl、またはNaBrである。あるいは二価の塩、例えばCaCl2、MgSO4、またはMgCl2も使用することができる。
【0017】
本発明の方法で製造されたフォームおよび治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0018】
別の態様において、フィルムを製造する方法が提供される。この方法は、濃縮された塩水溶液をキャスティングし、フィルムを形成する。ある態様において、このフィルムを水蒸気と接触させることが有用である。加えてフィルムは、一軸方向および二軸方向に延伸することができる。
【0019】
本発明の方法で製造されたフィルムおよび治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0020】
別の態様において、シルクヒドロゲルを製造する方法が提供される。この方法は、本発明の濃縮された水性シルク溶液において、ゾル-ゲル転移を誘導することを含む。
【0021】
ゾル-ゲル転移は、シルクフィブロイン濃度の増加、温度の上昇、pHの低下、塩(例えば、KCl、NaCl、またはCaCl2)濃度の増加、またはポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO))の添加により誘導することができる。
【0022】
本発明の方法により製造されるシルクヒドロゲルおよび治療用物質を含有する組成物も提供される。
【0023】
発明の詳細な説明
有機溶媒またはきつい化学物質の非存在下で、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液を調製する方法が説明される。この方法は、シルクフィブロインを含有する溶液を形成することを含む。好ましくは、この溶液は、臭化リチウムのような水性の塩である。その後この溶液は、吸湿性ポリマーに対して、10〜30wt%またはそれよりも大きい水性シルクフィブロイン溶液を生じるのに十分な時間透析される。好ましい吸湿性ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0024】
本発明者らは、水性シルクフィブロイン溶液の粘度を少なくとも10wt%まで増加させることで、電気紡糸による線維の形成、多孔質3次元組織エンジニアリングの足場形成、ならびにフォームおよびフィルムの形成などの他の適用を可能にする一方で、加工された材料がインビトロまたはインビボにおいて細胞に曝された場合に問題を生じ得る有機溶媒の使用を避けることを発見した。この溶液の吸湿性ポリマーに対する透析は、シルクヒドロゲルの形成における含水量の制御にも十分である。
【0025】
本明細書において使用される「フィブロイン」という用語は、カイコフィブロインおよび昆虫またはクモのシルクタンパク質を含む(Lucas et al., Adv. Protein Chem, 13:107-242(1958))。フィブロインは、溶解したカイコシルクまたはクモシルクを含有する溶液から得られることが好ましい。カイコシルクタンパク質は、例えばボンビックス・モリから得られ、クモシルクは、アメリカジョロウグモから得られる。本発明における使用に適した別のシルクタンパク質は、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物などに由来した、遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得ることができる。例えば、国際公開公報第97/08315号および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0026】
濃縮されるシルクフィブロイン溶液は、当業者に公知の任意の従来の方法で調製することができる。例えばボンビックス・モリの繭を、水溶液中で約30分間煮沸する。この水溶液は約0.02M Na2CO3であることが好ましい。この繭を、例えば水ですすぎ、セリシンタンパク質を抽出し、かつ抽出されたシルクを、塩水溶液中に溶解する。この目的に有用な塩は、臭化リチウム、チオシアン酸リチウム、硝酸カルシウムまたはシルクを可溶化することが可能である他の化学物質を含む。好ましくは、抽出されたシルクは約9〜12M LiBr溶液中で溶解される。この塩は、最終的には、例えば透析を用いて除去される。
【0027】
その後この溶液は、例えばPEG、ポリエチレンオキシド、アミロース、またはセリシンなどの吸湿性ポリマーに対する透析を用い、濃縮される。
【0028】
好ましくはPEGは、分子量8,000〜10,000g/molであり、濃度25〜50%を有する。Slide-A-Lyzer透析カセット(Pierce, MWCO 3500)が使用されることが好ましい。しかし、任意の透析システムを使用することができる。この透析は、10〜30%の水性シルク溶液の最終濃度を生じるのに十分な時間透析される。ほとんどの場合、2〜12時間の透析で十分である。
【0029】
本発明の濃縮された水溶液は、当技術分野において公知の方法を用い、ヒドロゲル、フォーム、フィルム、糸、線維、メッシュ、および足場に加工することができる。例えば、Altman, et al., Biomaterials, 24:401,2003を参照のこと。
【0030】
生体適合性ポリマーを、このシルク溶液に添加し、本発明の方法において複合マトリックスを作製することができる。
【0031】
本発明において有用な生体適合性ポリマーは、例えばポリエチレンオキシド(PEO)(US 6,302,848)、ポリエチレングリコール(PEG)(US 6,395,734)、コラーゲン(US 6,127,143)、フィブロネクチン(US 5,263,992)、ケラチン(US 6,379,690)、ポリアスパラギン酸(US 5,015,476)、ポリリシン(US 4,806,355)、アルギン酸塩(US 6,372,244)、キトサン(US 6,310,188)、キチン(US 5,093,489)、ヒアルロン酸(US 387,413)、ペクチン(US 6,325,810)、ポリカプロラクトン(US 6,337,198)、ポリ乳酸(US 6,267,776)、ポリグリコール酸(US 5,576,881)、ポリヒドロキシアルカノエート(US 6,245,537)、デキストラン(US 5,902,800)、およびポリ酸無水物(US 5,270,419)を含む。2種またはそれよりも多い生体適合性ポリマーを使用することができる。
【0032】
シルクフィルムは、濃縮された水性シルクフィブロイン溶液の調製およびこの溶液のキャスティングにより製造することができる。ひとつの態様において、このフィルムは、アルコールの非存在下で、水または水蒸気と接触される。その後このフィルムは、一軸方向または二軸方向で圧伸または延伸される。例えば、図5aおよび5bを参照のこと。シルク配合フィルムの延伸は、フィルムの分子のアラインメントを誘導し、これによりフィルムの力学特性を改善する。
【0033】
ひとつの態様において、フィルムは、水性シルクタンパク質溶液約50〜約99.99容量部、および生体適合性ポリマー、例えばポリエチレンオキシド(PEO)約0.01〜約50容量部から構成される。好ましくは、得られるシルク配合フィルムは、厚さ約60〜約240μmであるが、より大きい容積の使用、または複数層の付着により、より厚い試料が容易に形成される。
【0034】
フォームは、例えば各々、水が溶媒であるかまたは窒素もしくは他の気体が発泡剤である、凍結乾燥発泡およびガス発泡を含む、当技術分野において公知の方法により製造され得る。あるいはフォームは、シルクフィブロイン溶液の、粒状塩との接触により製造される。フォームの細孔径は、例えばシルクフィブロインの濃度および粒状塩の粒度(例えば、塩粒子の好ましい直径は約50ミクロン〜約1000ミクロンである)を調節することにより制御することができる。これらの塩は、一価または二価であることができる。好ましい塩は、NaClおよびKClのような一価である。CaCl2のような二価の塩も使用することができる。濃縮されたシルクフィブロイン溶液の塩との接触は、アモルファスシルクの溶液中に不溶性であるβシート構造へのコンホメーション変化を誘導するのに十分である。フォームの形成後、例えば水中への含浸により、過剰な塩が抽出される。その後得られる多孔質フォームは乾燥され、このフォームは、例えば生物医学的用途での細胞足場などとして使用される。図2参照のこと。
【0035】
ひとつの態様において、このフォームは、マイクロパターニングされたフォームである。マイクロパターニングされたフォームは、例えば米国特許第6,423,252号に開示された方法を用いて調製することができ、この開示は本明細書に参照として組入れられている。この方法は、本発明の濃縮されたシルク溶液を、金型の表面に接触させ、この金型は、その少なくともひとつの表面上に、フォーム上に配置されかつフォームの少なくともひとつの表面と一体化される予め決定されたμパターンの3次元の陰の形状を含み、金型のマイクロパターニングされた表面と接触している間にこの溶液を凍結乾燥し、これにより凍結乾燥されマイクロパターニングされたフォームを提供し、かつ凍結乾燥されマイクロパターニングされたフォームを金型から取り外すことを含む。この方法に従い調製されたフォームは、少なくとも1個の表面上に予め決定されかつデザインされたマイクロパターンを有し、このパターンは、組織の修復、内殖、または再生を促進するために有効である。
【0036】
線維は、例えば、湿式紡糸または電気紡糸を用いて製造される。あるいは、濃縮された溶液はゲル状の粘稠度を有するので、線維は、この溶液から直接引き延ばされる。
【0037】
電気紡糸は、当技術分野において公知の任意の手段により行うことができる(例えば、US 6,110,590参照)。好ましくは、先端内径1.0mmの鋼鉄製のキャピラリーチューブを、調節可能な絶縁されたスタンドに搭載する。好ましくは、このキャピラリーチューブは、高電位で維持され、平行平板配置で搭載される。このキャピラリーチューブは、好ましくは、シルク溶液を充填したシリンジに連結される。好ましくは、一定容積の流量が、シリンジポンプを用いて維持され、液だれすることなくチューブの先端に溶液を保持するように設定される。電位、溶液の流量、およびキャピラリー先端と収集スクリーンとの間の距離は、安定した噴射が得られるように、調節される。乾燥した、または湿った線維が、キャピラリー先端と収集スクリーンとの間の距離の変動により収集される。
【0038】
シルク線維の収集に適した収集スクリーンは、ワイヤメッシュ、高分子メッシュ、または水浴であることができる。別の好ましい収集スクリーンは、アルミフォイルである。アルミフォイルは、シルク線維の剥離をより容易にするために、テフロン液で被覆することができる。当業者は、線維溶液は電界を通って移動するので、線維溶液の収集の他の手段を容易に選択することができるであろう。下記実施例の項でより詳細に説明するように、キャピラリーの先端と対のアルミフォイル電極との間の電位差は、約12kVまで徐々に増加することが好ましいが、当業者は、適当な噴流を実現するために、電位を調節することができる。
【0039】
本発明は加えて、本発明の線維を含有する線維の不織ネットワークを提供する。この線維は、編み糸、および例えば織り布または編み布を含む布を形成することができる。
【0040】
本発明のフィブロインシルク溶液は、医療用具(例えば、ステント)を含む様々な形状の製品、ならびにシルクまたはこのような線維の断片を含む他の線維の上に被覆することもできる。
【0041】
シルクヒドロゲルは、当技術分野において公知の方法および本明細書に例示されたように調製することができる。濃縮されたシルクフィブロイン溶液のゾル-ゲル転移は、シルクフィブロイン濃度、温度、塩濃度(例えば、CaCl2、NaCl、およびKCl)、pH、親水性ポリマーなどの変化により変更することができる。ゾル-ゲル転移の前に、濃縮された水性シルク溶液は、金型または鋳型(form)中に配置することができる。次に得られるヒドロゲルを、例えばレーザーを用い、任意の形状に切断することができる。
【0042】
本発明を用いて作製された材料、例えばヒドロゲル、線維、フィルム、フォーム、またはメッシュは、制御された放出システムを含む薬剤(例えば、小型分子、タンパク質、または核酸)送達装置、血管創傷修復装置を含む創傷閉鎖システム、止血用包帯、貼付剤および接着剤、縫合糸などの様々な医療用途、ならびに例えば組織再生の足場、靱帯補綴装置および生体への長期もしくは生分解性の移植のための製品などの組織エンジニアリングの用途で使用することができる。フィルムも、制御された薬物放出システム、コーティング、複合材または独立型材料などの、広範な材料科学およびエンジニアリングの需要において使用することができる。
【0043】
加えてこれらの生体材料は、脊椎椎間板、頭蓋組織、硬膜、神経組織、肝臓、膵臓、腎臓、膀胱、脾臓、心筋、骨格筋、腱、靱帯、および乳房組織を含むが、これらに限定されるものではない、これらの独自の足場から恩恵を受け得る臓器の修復交換または再生の戦略のために使用することができる。
【0044】
別の本発明の態様において、シルク生体材料は、治療用物質を含有することができる。これらの材料を形成するために、シルク溶液は、材料を形成する前に治療用物質と混合されるか、または形成された後に材料に装填される。本発明の生体材料と組合わせて使用することができる治療用物質の多様性は豊富であり、かつ小型分子、タンパク質、ペプチド、および核酸を含む。概して本発明により投与することができる治療用物質は以下を含むが、これらに限定されるものではない:抗生物質および抗ウイルス薬などの抗感染薬;化学療法薬(すなわち、抗癌剤);抗拒絶反応薬;鎮痛薬および鎮痛薬の組合せ;抗炎症薬;ステロイドなどのホルモン;増殖因子(骨形成タンパク質(すなわち、BMP1-7)、骨形成様タンパク質(すなわち、GFD-5、GFD-7およびGFD-8)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(すなわち、FGF1-9)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF-IおよびIGF-II)、形質転換増殖因子(すなわち、TGF-β-III)、血管内皮増殖因子(VEGF));エンドスタチンのような抗血管新生タンパク質、および他の天然由来または遺伝子改変されたタンパク質、多糖、糖タンパク質、またはリポタンパク質。増殖因子は、Vicki RosenおよびR. Scott Thiesによる「The Cellular and Molecular Basis of Bone Formation and Repair」(R. G. Landes Company)に説明されており、これは本明細書に参照として組入れられている。加えて本発明のシルク生体材料は、薬学的物質、ビタミン、鎮静剤、ステロイド、催眠薬、抗生物質、化学療法薬、プロスタグランジン、および放射性医薬品などの、任意の種類の分子化合物を送達するために使用することができる。本発明の送達システムは、前記物質、ならびにタンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、炭水化物、単糖、細胞、遺伝子、抗血栓薬、代謝拮抗物質、増殖因子インヒビター、増殖プロモーター、抗凝固剤、抗有糸分裂物質、線維素溶解物質、抗炎症性ステロイド、およびモノクローナル抗体を含むが、これらに限定されるものではない他のものの送達に適している。
【0045】
生物活性物質を含むシルク生体材料は、1つまたは複数の治療用物質をこの材料を製造するために使用されるポリマーと混合することにより、製剤することができる。あるいは治療用物質は、好ましくは薬学的に許容される担体と共に、この材料の上に被覆することができる。このシルク材料に溶解しないあらゆる薬学的担体を使用することができる。この治療用物質は、液体、微粉固体、または任意の他の適当な物理的形状として存在することができる。
【0046】
本明細書に説明された生体材料はさらに、二次加工後修飾することができる。例えばこれらの足場は、所望の細胞集団について受容体または化学誘引物質として機能する生物活性物質のような添加剤で被覆することができる。このコーティングは、吸収または化学結合を介して適用することができる。
【0047】
本発明での使用に適した添加剤は、生物学的または薬学的に活性のある化合物を含む。生物学的に活性のある化合物の例は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:細胞接着メディエーター、例えばコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン、または公知のインテグリン結合ドメインを含むペプチド、例えば細胞接着に影響を及ぼすことが知られている「RGD」インテグリン結合配列またはそれらの変種(Schaffner P and Dard, 2003, Cell Mol Life Sci., Jan;60(1):119-32;Hersel U. et al., 2003, Biomaterials., Nov;24(24):4385-415);生物学的に活性のあるリガンド;ならびに、細胞または組織の内殖の特定の変種を増強または排除する物質。例えば、3次元足場マトリックスの細胞再集合の工程は、好ましくはマトリックスを再集合するために使用される培養細胞の増殖を促進するのに有効な増殖因子の存在下で行われる。増殖を促進する物質は、使用される細胞の種類によって決まるであろう。例えば線維芽細胞が使用される場合、ここで使用するための増殖因子は、線維芽細胞増殖因子(FGF)、最も好ましくは塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(ヒト組換えbFGF、UPSTATE Biotechnology, Inc.)であることができる。増殖または分化を増強する添加剤の他の例は、骨誘導物質、例えば骨形成タンパク質(BMP);サイトカイン、例えば上皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン様増殖因子(IGF-IおよびII)、TGF-βなどの増殖因子を含むが、これらに限定されるものではない。本明細書において使用される添加剤という用語は、抗体、DNA、RNA、修飾されたRNA/タンパク質複合体、グリコーゲンまたは他の糖類、ならびにアルコールも包含している。
【0048】
これらの生体材料は、再建手術を含む、組織エンジニアリングおよび組織に導かれた再生の用途のための商品に形作ることができる。この足場の構造は、豊富な細胞の内殖を可能にし、細胞を予め播種する必要を排除する。これらの足場は、外部支持器官の作製のためのインビトロ細胞培養の支持体のための外部足場を形成するために、成形することもできる。
【0049】
足場は、体の細胞外マトリックス(ECM)を模倣するように機能する。この足場は、インビトロ培養およびそれに続く移植時に、単離された細胞の物理的支持体および接着性基体の両方として役立つ。移植された細胞集団は増殖し、かつ細胞は正常に機能するにしたがい、それら独自の細胞外マトリックス(ECM)支持体を分泌し始める。
【0050】
軟骨および骨のような構造的組織の再構築において、組織の形は、機能に不可欠であり、この足場を様々な厚さおよび形状の商品に成形する必要がある。3次元構造において望ましい任意の隙間、開口部、または改良を、はさみ、外科用メス、レーザービーム、または他の切除器具を用い、マトリックスの一部を除去することにより作製することができる。足場の適用は、実質器官または中空器官を形成する神経、筋骨格、軟骨、腱、肝臓、膵臓、眼、外皮、動静脈、泌尿組織または任意の他の組織などの組織の再生を含む。
【0051】
足場は、3次元の組織または器官を作製するために、例えば軟骨細胞または肝細胞などの、解離した細胞のマトリックスとしての移植において使用することもできる。組織または器官は、任意の種について、本発明の方法によって製造することができる。
【0052】
多くの異なる細胞型またはそれらの組合せを、製造される組織エンジニアリング構築体の意図された機能に応じて、本発明において採用することができる。これらの細胞型は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、ケラチノサイト、肝細胞、胆管細胞、膵臓島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎、視床下部、下垂体、卵巣、精巣、唾液腺細胞、脂肪細胞、および前駆細胞。例えば、平滑筋細胞および内皮細胞は、筋肉、管状構築体、例えば血管、食道、腸管、直腸、または尿管構築体として意図された構築体のために採用することができ;軟骨細胞は、軟骨構築体において使用することができ;心筋細胞は、心臓構築体において使用することができ;肝細胞および胆管細胞は、肝臓構築体において使用することができ;上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞および神経細胞は、これらの細胞を含む多種多様な組織型の任意のものを代替または増強するように機能することが意図された構築体において使用することができる。一般に、その構築体が対応することが意図される天然の組織において認められる任意の細胞を使用することができる。加えて前駆細胞、例えば筋芽細胞または幹細胞などを、それらの対応する分化した細胞型を製造するために使用することができる。場合によっては、新生児細胞または腫瘍細胞を使用することが好ましいことがある。
【0053】
細胞は、ドナー(アロジェニック)またはレシピエント(自家性)から得ることができる。細胞は、確立された細胞培養株であるか、遺伝子改変を受けた細胞であることもできる。組織片も使用することができ、同じ構造中に多くの異なる細胞形を提供することができる。
【0054】
哺乳動物細胞の適切な増殖条件は、当技術分野において周知である(Freshney, R. I., (2000), Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique. Hoboken NJ, John Wiley & Sons;Lanza et al. Principles of Tissue Engineering, Academic Press;2nd edition May 15, 2000;および、Lanza & Atala, Methods of Tissue Engineering Academic Press;1st edition October 2001)。細胞培養培地は一般に、必須栄養素、および任意で培養される細胞型に応じて選択され得る、増殖因子、塩、ミネラル、ビタミンなどの追加の要素を含む。特定の成分を、細胞の増殖、分化、特異的タンパク質の分泌などを増強するために選択してもよい。一般に標準の増殖培地は、10〜20%のウシ胎仔血清(FBS)または仔ウシ血清および100U/mlペニシリンを補充した110mg/Lのピルビン酸およびグルタミン酸を含む、ダルベッコ変法イーグル培地低グルコース(DMEM)が、当業者に公知の様々な他の標準培地と同様適している。増殖条件は、使用される哺乳動物細胞型および所望の組織に応じて変動するであろう。
【0055】
ひとつの態様において、骨または軟骨形成を誘導するのに適した条件下で、多孔質シルクフィブロイン足場上で多能性細胞を培養することを含む、インビトロで骨または軟骨組織を作製する方法が提供される。骨および軟骨の生成に適当な条件は、当業者には周知である。例えば、軟骨組織の成長のための条件は、非必須アミノ酸、アスコルビン酸-2-リン酸塩、デキサメタゾン、インスリン、およびTGF-β1を含むことが多い。ひとつの好ましい態様において、非必須アミノ酸は濃度0.1mMで存在し、アスコルビン酸-2-リン酸塩は濃度50ug/mlで存在し、デキサメタゾンは濃度10nMで存在し、インスリンは濃度5ug/mlで存在し、TGF-β1は濃度5ng/mlで存在する。骨の成長に適した条件は、アスコルビン酸-2-リン酸塩、デキサメタゾン、βグリセロリン酸およびBMP-2を含むことが多い。好ましい態様において、アスコルビン酸-2-リン酸塩は濃度50ug/mlで存在し、デキサメタゾンは濃度10nMで存在し、βグリセロリン酸は濃度7mMで存在し、およびBMP-2は濃度1ug/mlで存在する。
【0056】
一般に増殖期間の長さは、製造される特定の組織エンジニアリング構築体に依存するであろう。増殖期間は、構築体が所望の特性に達するまで、例えば構築体が特定の厚さ、サイズ、強度、タンパク質成分の組成、および/または特定の細胞密度に達するまで、継続することができる。これらのパラメータを評価する方法は、当業者に公知である。
【0057】
これらの構築体は、第一の増殖期間に続き、第二の細胞集団と共に播種することができ、これは第一の播種において使用されるものと同じ型の細胞、または異なる型の細胞を含むことができる。その後この構築体は、第一の増殖期間とは長さが異なり、かつ異なる増殖条件を採用できる第二の増殖期間、維持することができる。介在する増殖期間を伴う複数の細胞播種のラウンドを採用することができる。
【0058】
ひとつの好ましい態様において、組織および器官は、ヒトのために作製される。別の態様において、組織および器官は、イヌ、ネコ、ウマ、サル、または任意の他の哺乳動物などの動物のために作製される。
【0059】
これらの細胞は、ヒトまたは動物の任意の適切なドナーから、またはそれが移植されるべき対象から得られる。本明細書において使用される「宿主」または「対象」という用語は、ヒト、サル、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、マウス、ウサギ、ラットを含むが、これらに限定されるものではない、哺乳動物種を含む。
【0060】
本発明の方法に使用される細胞は、意図されたレシピエントと適合性があるソースに由来しなければならない。細胞は、標準の技法を用いて解離され、足場の上および中へ播種される。インビトロ培養は、任意で、移植前に行うことができる。あるいは、この足場は対象に移植され、血管形成させ、その後細胞がこの足場へ注入される。細胞のインビトロ培養および組織足場の移植のための方法および試薬は、当業者に公知である。
【0061】
細胞は、マトリックス形成の方法に応じ、マトリックス形成の前または後のいずれかで、マトリックス内に播種することができる。均一な播種が好ましい。理論的には、播種される細胞数は、製造される最終組織を限定しないが、最適な播種は、その製造速度を増大させるかもしれない。播種される細胞の数は、動的播種(dynamic seeding)を用い、最適化することができる(Vunjak-Novakovic et al., Biotechnology Progress, 1998;Radisic et al., Biotechnoloy and Bioengineering, 2003)。
【0062】
本明細書において説明される3次元多孔質シルク足場は、それ自身インビボにおいて移植され、かつ組織代替物(例えば、骨または軟骨の代替物)として利用することができることは、本発明の別の局面である。このようなインプラントは細胞の播種を必要としないが、例えば細胞を引きつけるRGDの添加を含む。
【0063】
ひとつの態様において、シルクマトリックス足場は、骨または軟骨のいずれかの形成を誘導する培地の存在下で、多能性細胞と共に播種される。軟骨および骨の製造に適した培地は、当業者に周知である。
【0064】
本明細書において使用される「多能性」細胞は、個別の分化シグナルに応じ、1種よりも多い細胞型に分化する能力を有する。多能性細胞の例は、骨髄ストロマ細胞(BMSC)および成体または胚性幹細胞を含むが、これらに限定されるものではない。好ましい態様において、BMSCが使用される。BMSCは、未分化の状態で増殖することができ、かつ適切な外因性シグナルにより、軟骨、骨、または脂肪などの間葉系細胞に分化する骨髄の多能性細胞である(Friedenstein, A. J., 1976, Int Rev Cytol, 47:327-359;Friedenstein et al., 1987, Cell Tissue Kinet, 20:263-272;Caplan, A. I., 1994, Clin Plast Surg, 21:429-435;Mackay et al., 1998, Tissue Eng, 4:415-428;Herzog et al., Blood, 2003 Nov 15;102(10):3483-93, Epub 2003 Jul 31)。
【0065】
軟骨組織または骨の形成は、組織学的、免疫組織化学的、および共焦点または走査型電子顕微鏡を含むが、これらに限定されるものではない、当業者に周知のアッセイ法によりモニタリングすることができる(Holy et al., J. Biomed. Mater. Res(2003) 65A:447-453)。
【0066】
シルクベースの足場を使用し、予め決定された形および構造を伴う器質化された組織を、インビトロまたはインビボのいずれかで作製することができる。例えば、エクスビボで製造される組織は、開始時から機能し、インビボのインプラントとして使用することができる。あるいは、このシルクベースの構造は、骨または軟骨のいずれかを形成することが可能な細胞と共に播種し、その後インビボでの増殖を促進するように移植することができる。従ってこれらの足場は、特に特定の患者への移植のためにデザインされた「カスタマイズされた適合」を伴う組織を形成するようにデザインすることができる。例えば本発明の方法で製造された軟骨組織または骨組織を用い、変形性関節症またはリウマチなどの筋骨格疾患および変性疾患において認められる、巨大な軟骨または骨の欠損と置き換えるために使用することができる。エンジニアリングされた骨および軟骨は、脊柱および肘、膝、腰、または指の関節などの関節の交換に適しているか、または骨軟骨インプラントにおいても使用することができる。
【0067】
本発明の全ての生体材料は、放射線滅菌(すなわちγ線)、化学滅菌(エチレンオキシド)、オートクレーブ、または他の適当な手法などの通常の滅菌法を用い、滅菌されてもよい。好ましくは、温度52〜55℃で、エチレンオキシドを用い、8時間未満の滅菌法である。滅菌後、生体材料は、出荷ならびに病院および他の健康管理施設での使用のために、適当な無菌の防湿性パッケージ中に包装することができる。
【0068】
特に定義しない限りは、本明細書において使用した全ての技術用語および科学用語は、当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に説明されたものに類似したまたは同等の方法および材料を、本発明の実践または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料を以下に説明する。本明細書において言及された全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、本明細書に参照として組入れられている。加えて、材料、方法および実施例は、単なる例証であり、限定を意図しない。矛盾する場合は、定義を含む本明細書が支配する。
【0069】
本発明はさらに、本発明の例証であることが意図された下記実施例により特徴付けられる。
【0070】
実施例
(実施例1)電気紡糸による再生されたシルク溶液由来の水からの純粋なシルク線維の調製
方法
再生されたB・モリシルクフィブロイン溶液の調製
ボンビックス・モリシルクフィブロインは、本発明者らの初期の手法(Sofia, et al., Journal of Biomedical Materials Research, 2001, 54:139-148)の改変として、下記のように調製した。繭は、0.02M Na2CO3水溶液中で30分間煮沸し、その後水で入念にすすぎ、糊状のセリシンタンパク質を抽出した。抽出したシルクをその後、9.3M LiBr溶液中に室温で溶解し、20%(w/v)溶液を得た。この溶液を、Slide-A-Lyzer透析カセット(Pierce, MWCO 2000)を用い、水中で48時間透析した。水性シルク溶液の最終濃度は、8.0wt%であり、これは乾燥後の残留固形物を計量し決定した。
【0071】
この溶液はさらに、浸透圧により、Slide-A-Lyzer透析カセット(Pierce, MWCO 3500)の外側の水性ポリエチレングリコール(PEG)(MW 8,000〜10,000)溶液(25〜50wt%)に、2〜12時間曝すことにより濃縮した(図1)。水性シルク溶液の最終濃度は、10〜30wt%またはそれ以上を形成した。
【0072】
電気紡糸
紡糸のため水性シルク溶液の粘度を8wt%を超えるよう増大するために、この溶液を、上記のPEG溶液法を用いて濃縮した。純粋なシルク溶液(8wt%)の粘度および表面張力が、キャピラリーの先端に安定した液滴を維持するのに十分ではないので、濃縮が必要があった。シルク溶液の増加は、電気紡糸に適した粘度および表面張力を生じた。新たなより濃縮された純粋なシルク溶液(10〜30%)により、直接紡糸が実行可能になる。先端と収集器との間の距離は10〜15cmであり、液体の流量は0.01〜0.05ml/分であった。キャピラリーの先端と対のアルミフォイル電極との間の電位差は、30kV(E=2〜3kV/cm)へ漸増したので、キャピラリー先端の末端での液滴は、半球形から円錐形へ伸長した。電気紡糸した線維の形態および直径は、SEMを用いて試験した。シルク/PEO配合液は、直径1.5μm〜25μmのマイクロサイズ線維を製造した。線維表面および液体窒素中の破砕された表面の形態は、天然のシルク線維に良く合致していた。
【0073】
(実施例2)シルクフィブロイン足場の調製
多孔質3次元足場を、シルクフィブロイン水溶液から塩浸出により調製した。シルクフィブロイン濃度および粒状NaClの粒度の調節により、足場の形態および機能の特性が制御される。これらの足場は高度に均一で、かつ相互に連結した孔を有し、調製の様式に応じて470〜940umの範囲の細孔径を示した。これらの足場は、>90%の多孔度を有した。足場の圧縮強度および圧縮弾性率は、各々、最大320±10KPaおよび3330±500KPaであった。足場は、プロテアーゼにより21日間に完全に分解された。これらの新規シルクベースの3次元マトリックスは、全て水性の様式の調製、細孔径の制御、細孔の接続性、分解性および有用な機械的特徴により、組織エンジニアリングのための生体材料マトリックスとして有用な特性を提供する。
【0074】
方法
シルクフィブロイン水溶液の調製
B・モリの繭を、0.02M Na2CO3水溶液中で20分間煮沸し、その後蒸留水で入念にすすぎ、糊状のセリシンタンパク質およびワックスを抽出した。抽出したシルクを次に、9.3M LiBr溶液中に60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液を得た。この溶液を、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500, Pierce)を用いて、蒸留水中で2日間透析した。シルクフィブロイン水溶液の最終濃度は約8w/v%であり、これは乾燥後の残留固形物を計量して決定した。濃縮されたシルクフィブロイン溶液を調製するために、8w/v%シルクフィブロイン溶液10mlを、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500)を用い、1リットルの25wt%ポリエチレングリコール(PEG, 10,000g/mol)溶液に対し室温で透析した。必要な時間の後、濃縮されたシルクフィブロイン溶液を、過剰な剪断を避けるために、シリンジによりゆっくり収集し、濃度を決定した。濃度が8wt%未満のシルクフィブロイン水溶液を、蒸留水による希釈により調製した。全ての溶液を、早期沈殿を避けるために使用前に7℃で貯蔵した。8w/v%溶液から調製したシルクフィブロインフィルムを評価し、XPSによりLi+イオンの除去を証明した。残存するLi+イオンは検出されなかった。
【0075】
シルクフィブロイン足場の調製
粒状NaCl(粒度;300〜1180um)4gを、ディスク型テフロン容器中のシルクフィブロイン水溶液(4〜10wt%)2ml中に添加した(図2a)。容器に蓋をし、室温に放置した。24時間後、この容器を水中に含浸し、NaClを2日間抽出した。この方法で形成された多孔質シルクフィブロイン足場は、使用前に水中に7℃で貯蔵した。
【0076】
X線回折
40kVおよび40mAで作動中のRigaku RU-200BH回転式対陰極X線発生装置からのNiフィルターを通したCu-Kα照射(λ=0.15418nm)により、足場の凍結乾燥した試料のX線回折を得た。X線回折パターンは、真空カメラにおける点で視準された(point collimated)ビームおよびイメージングプレート(Fuji Film BAS-IP SR 127)により記録した。カメラ長は、NaFで較正した(d=0.23166nm)。
【0077】
FTIR分光法
凍結乾燥した試料約1mgを、臭化カリウム200mgとペレットに圧縮し、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを、Nicolet Magna 860による64スキャンの蓄積および4cm-1の分解能で記録した。
【0078】
走査型電子顕微鏡(SEM)
シルク足場を、カミソリの刃を用い、蒸留水中で切片に切断し、その後凍結乾燥した。試料は金でスパッターコーティングした。足場の形態は、LEO Gemini 982電界放出ガンSEMで観察した。米国国立衛生研究所により開発されたImageJソフトウェアを用い、細孔径を得た。
【0079】
多孔度
シルク足場の密度および多孔度を、液体交換により測定した(Zhang, R. Y., et al., J. Biomed. Mater. Res., 1999, 44:446-455)。ヘキサンはマトリックスを膨潤または縮小することなくシルク足場を通して浸透するので、これを交換液として用いた。シルク足場(乾燥質量, W)は、メスシリンダー中の既知の容積(V1)のヘキサン中に5分間含浸した。ヘキサンおよびヘキサンを含浸した足場の総容積は、V2として記録した。その後ヘキサンを含浸した足場をシリンダーから取り除き、残存するヘキサン容積をV3として記録した。足場総容積は下記式である:
V=(V2-V1)+(V1−V3)=V2−V3
V2−V1は、ポリマー足場の容積であり、V1−V3は、足場内のヘキサン容積である。足場の多孔度(ε)は、下記式から得た:
ε(%)=(V1−V3)/(V2−V3)x100
【0080】
膨潤特性
シルクフィブロイン足場を、蒸留水中に室温で24時間含浸した。過剰な水を除去した後、足場の含水質量(Ws)を決定した。その後試料を、真空下65℃のオーブンの中で一晩乾燥し、足場の乾燥質量(Wd)を決定した。足場の膨潤比および足場の含水量は以下のように計算した:
膨潤比=(Ws−Wd)/Wd
水取込み(%)=[(Ws−Wd)/Ws]x100
【0081】
力学的特性
足場(直径12mm、高さ10mm、ディスク)の力学的圧縮に対する抵抗を、0.1kNを装填した細胞を装加したInstron 8511上で室温で実行した。クロスヘッド速度は10mm/分であった。圧縮試験は、便宜上オープンサイド/拘束法(open-sided/confined method)で行った。4つの試料を、各組成について評価した。直径12mmおよび高さ10mmと測定された円柱形の試料を、ASTM法F451-95を基にした改変法に従い用いた。圧縮応力および圧縮ひずみをグラフ化し、平均圧縮強度に加え圧縮弾性率および標準偏差を決定した。弾性率は、応力−ひずみ曲線の最初の直線部分の勾配により定義した。圧縮強度は、1%ひずみから出発する、これに平行な直線を描くことにより決定した。この直線と応力−ひずみ曲線とが交差した点を、フォームの圧縮強度として定義した(Thomson RC et al., Biomaterials, 1998,19;1935-1943)。
【0082】
インビトロ酵素分解
シルクフィブロイン足場の分解は、活性5.6U/mgのプロテアーゼXIV(EC 3.4.24. 31, Sigma-Aldrich)を用いて評価した。試料(直径12mm、高さ5mm)を、プロテアーゼ(1U)を含有するリン酸緩衝生理食塩水5ml(pH7.4)に37℃で含浸した。特定時間の後に、試料をリン酸緩衝生理食塩水および蒸留水で洗浄し、凍結乾燥した。酵素溶液を、新たに調製した溶液と24時間毎に交換した。対照として、試料を酵素を含まないリン酸緩衝生理食塩水に含浸した。
【0083】
結果および考察
水ベースの足場の調製
多孔質シルクフィブロイン足場を、コラーゲンおよびポリ乳酸などの他のポリマーからの多孔質足場の調製においてこれまでに使用されていた塩浸出法を用いて調製した。足場の細孔径および多孔度は、シルクフィブロイン水溶液への直径300〜1180μmの粒度を持つ粒状NaClの添加により調節した。この方法において、NaCl粒子の表面の一部は、シルクフィブロイン水溶液に溶解したが、この塩のほとんどは溶液の飽和のために固形物粒子として残存した。このシルクフィブロイン水溶液は、〜24時間後混合物中にヒドロゲルを形成し、これは水で安定的な多孔質マトリックスの形成を生じた。表1は、本試験において使用したシルクフィブロイン濃度およびNaClの粒度を示す。シルクフィブロイン濃度の増加に伴い、より大きい粒度のNaClの使用により、マトリックスは均質に形成された。粒度500〜600μmのNaClが8wt%シルクフィブロイン溶液に添加された場合、シルクフィブロイン水溶液の表面は、ヒドロゲルを迅速に形成した。
【0084】
(表1)様々なシルクフィブロイン濃度およびNaCl粒度からの足場調製
均質性の程度:○>□>×
【0085】
濃縮された塩溶液においては、塩イオンが介在水の構造を変化させるので、溶媒和力は、薄い電解液のそれとは著しく異なっている(Curtis RA et al., Biophys Chem, 2002, 98:249-265)。NaCl、KC1、CaCl2およびMgCl2などの塩素イオンを含有する濃縮された塩溶液の、シルクフィブロインに対する作用は、塩濃度最大3M、室温で決定した。シルクフィブロイン溶液(8wt%)の液滴が、3Mの濃縮された塩溶液に添加された場合、NaClおよびKCl溶液中ではシルクヒドロゲルが迅速に形成されたが、CaCl2およびMgCl2溶液中では形成されなかった。イオンは、それらのサイズおよび電荷を基に、コスモトロピック(kosmotropic)またはカオトロピック(chaotropic)として分類される(Grigsby JJ et al., Biophys Chem., 2001,91:231-243)。Ca2+およびMg2+のような電荷密度の高いイオンは、きわめてコスモトロピックであり、K+のような電荷密度の低いイオンは、カオトロピックである。Na+は弱コスモトロピックであり、Cl-は弱カオトロピックである。コスモトロピックイオンは、隣接する水分子にカオトロピックイオンよりもより強力に結合する。加えて、コスモトロピックイオンは、それらの高電荷密度のために、タンパク質表面上の反対に帯電した残基と強力に相互作用する。低い塩濃度で、この溶液は、タンパク質表面およびイオンの両方を水和するのに十分な数の水分子を含有する。より高い塩濃度では、増加した数のイオンを水和するために、より多くの水分子が必要である。従って水分子は、塩溶液の濃度が増加するにつれて、タンパク質から容易に除去される。
【0086】
カイコシルクフィブロイン重鎖の一次配列からは、鎖末端の2個の大きい親水性ブロックを有する7個の内部疎水性ブロックおよび7個のはるかに小さい内部親水性ブロックが存在する(Zhou, C. Z., et al., Nucleic Acids Res., 2000, 28:2413-2419)。シルクフィブロイン中の疎水性残基の割合は79%であり(Braun, F. N., et al., Int. J. Biol. Macromol., 2003,32:59-65)、これらの疎水性ブロック中の反復配列は、シルクフィブロイン線維およびフィルム中で結晶領域を形成するβシート構造において支配的であるGAGAGSペプチドからなる(Mita, K., et al., J. Mol. Evol., 1994,38:583-592)。
【0087】
タンパク質溶解度は典型的には塩濃度が上昇するにつれて減少するので、タンパク質間の相互作用が好ましくなる(Curtis, R. A., et al., Biophys. Chem.. 2002, 98:249-265)。無極性残基間の疎水性相互作用は、塩の添加により増大し、これが塩析作用につながることは周知である(Robinson, D. R., et al., J. Am. Chem. Soc., 1965,87:2470-2479)。記載された塩システム中のフィブロインの挙動は、そうでなければ疎水性フィブロインドメインを被覆し、鎖-鎖相互作用を促進し、新たなより安定した構造につながるような、水の抽出における塩イオンの役割に関連している。これらの疎水性相互作用は、βシートの形成を生じるタンパク質の折りたたみを誘導する(Li, G. Y., et al., Biochem., 2001, 268:6600-6606)。
【0088】
シルクフィブロイン(8wt%)のヒドロゲル化に対するイオン作用をさらに証明するために、アルギン酸ビーズまたはガラスビーズを試験した。シルクフィブロインのガラスビーズによるゲル化時間は、先の試験でシルクフィブロインにおいて30日間にわたり観察された結果と同様の結果を示したが(Kim UJ et al., Biomacromolecules, 印刷中)、シルクフィブロイン溶液のアルギン酸ビーズによるゲル化時間は、おそらく膨潤したアルギン酸ビーズに会合したタンパク質からの水分子の除去のために、〜2倍迅速であった。飽和NaCl溶液中のシルクフィブロインのゲル化時間(24時間)と比較し、塩イオンは強力にタンパク質-タンパク質相互作用を誘導した。
【0089】
構造解析
シルクフィブロインの構造の変化は、X線回折およびFTIR(図3)により決定した。シルクフィブロイン足場のX線回折は、20.8°の明瞭なピークおよび24.6°の小さいピークを示した。これらのピークは、天然のシルクフィブロインのβシート結晶構造(シルクII)のピークとほぼ同じであった(Asakura, T., et al., Macromolecules, 1985,18:1841-1845)。これらの結果は、20.8°および24.6°の反射に従い、各々、距離4.3および3.6Åのスペーシングのβ結晶を示している。シルクフィブロイン足場のFTIRスペクトルは、1701cm-1および1623cm-1(アミドI)にシルクIIの特徴的なピークを示した(Asakura, T., et al., Macromolecules, 1985,18:1841-1845)。水溶液中のシルクフィブロインは、中性pHで、ランダムコイル構造を示した。X線回折およびFTIR解析の結果より、これらの溶液からのシルクフィブロイン足場の形成は、ランダムコイルからβシートへの構造転移を誘導した。
【0090】
形態
様々なシルクフィブロイン濃度および様々なサイズのNaCl粒子から調製した凍結乾燥した足場のSEM画像は、高度に相互に連結した多孔質構造を示し、孔の分布は、足場の最表面の空気-水界面に形成された薄い層を除いて、足場全体で均質であった。足場は、多くのより小さい孔により高度に相互連結された粗い細孔表面を示した。直径1〜3μmの球状の構造が、細孔の表面上に観察された。シルクフィブロイン濃度が増加するにつれて、細孔壁は厚くなった。表2は、足場内の実際の細孔径を示し、これは350〜920μmの範囲である。
【0091】
(表2)測定されたシルクフィブロイン足場の細孔径(μm)
値は平均±標準偏差(N=20)である。
【0092】
足場内の実際の細孔径は、この方法で使用したNaClの粒度よりも80〜90%小さかった。同じ粒度のNaClで調製された足場の細孔径は、使用したシルクフィブロイン濃度とは無関係に、類似したサイズの細孔を生じた。
【0093】
多孔度および膨潤特性
多孔度が>90%のシルクフィブロイン足場が形成され、かつ多孔度は、細孔径およびシルクフィブロイン濃度が減少するにつれて増加した(表3)。これらの値は、塩浸出またはガス発泡により調製されたHFIP由来のシルク足場のもの(84〜98%)と類似していた(Nazarov R, et al., Biomacromolecules, 印刷中)。足場の膨潤比および水取込みは、表4および5に示す。
【0094】
(表3)シルクフィブロイン足場の多孔度(%)
値は平均±標準偏差(N=3)である。
【0095】
(表4)シルクフィブロイン足場の膨潤比
値は平均±標準偏差(N=3)である。
【0096】
(表5)シルクフィブロイン足場の水取込み(%)
値は平均±標準偏差(N=3)である。
【0097】
膨潤比は、細孔径の減少と共に次第に低下した。しかし膨潤比は、シルクフィブロイン濃度が増加するにつれ、多孔度の減少のために有意に減少した。8wt%シルクフィブロインから調製された足場の膨潤比は、タンパク質の親水性の差異のために、コラーゲン足場のそれよりも〜8倍低かった(Ma L. et al., Biomaterials, 2003,24:4833-4841)。この値は、ポリ乳酸足場と類似している(Maquet V. et al., Biomaterials, 2004,25:4185-4194)。蒸留水中の足場の水の取込みは、24時間の間に>93%であった。足場の高い水結合能は、タンパク質ネットワークの高度に多孔質な構造に起因する。
【0098】
力学特性
足場は、本方法において使用したシルクフィブロイン濃度に依存する様々な硬さを有する、延性のあるスポンジ状の挙動を示した。弾性領域が、初期ひずみで観察され、それにピーク応力が続いた。表6は、シルクフィブロイン足場の力学特性を示す。足場の圧縮強度および圧縮弾性率は、シルクフィブロイン濃度の増加と共に増加した。
【0099】
(表6)シルクフィブロイン足場の力学特性
値は平均±標準偏差(N=4)である。
【0100】
力学特性の改善は、細孔壁の厚さの増加を伴う、ポリマー濃度の増加によるものであった。同じシルクフィブロイン濃度で、より小さい粒度のNaClで調製された足場は、減少した細孔径のために、より高い圧縮強度および圧縮弾性率を示した。減少した細孔径により誘導された増加した細孔壁部位は、加えられた応力を分配するためのより大きい経路を提供したと考えられる。増加した細孔部位は、亀裂の広がりを減らすための、亀裂ディシペーション(crack disipation)のような障壁として機能した。加えてより均一な細孔分布が、ポリマーマトリックスの力学特性を改善したことが報告されている。従って多孔質材料に加えられた応力は、細孔の界面に集中し、細孔分布が均一でない場合は、ポリマーマトリックスは典型的にはより低い応力で変形した(Harris LD. et al., J. Biomed Mater Res., 1998, 42:396-402)。例えば本発明者らの最近の研究(Nazarov R. et al., Biomacromolecules, 印刷中)において、3次元シルクフィブロイン足場が、HFIPによる塩浸出法を用いて、開発された。これらの足場はより小さい細孔径を有し、加工時にはより高濃度のシルクフィブロインが利用されたが、塩浸出により調製されたHFIP由来のシルク足場(HFIP中17wt%シルク)の圧縮強度(30〜250kPa)は、本発明の水性由来の(水中8〜10wt%シルク)シルク足場について認められるものに類似していた。しかし水性由来のシルク足場の圧縮弾性率は、HFIP由来のシルク足場よりも3〜4倍高かった(100〜790kPa)。
【0101】
酵素分解
図4aは、分解期間21日間の、直径850〜1000μmの粒度を持つNaClで、4〜8wt%シルクフィブロインから調製された足場質量を経時的に示している。プロテアーゼを含まないリン酸緩衝液中の足場は、21日以内に分解を示さなかった。4wt%フィブロインで調製した足場は迅速に分解され、10日後に残存する質量は、わずかに2%であった。6および8wt%フィブロインから調製された足場は、経時的に徐々に分解し、21日後に、質量は各々30および20%に減少した。図4bは、様々な粒度のNaClで6wt%シルクフィブロインから調製した場合に、残存する足場の質量を示している。これらの分解パターンは、フィブロインの初期濃度の性質に関連して、細孔径は分解率に相関しないことを示した。
【0102】
結論
有機溶媒または化学架橋の完全な非存在下で、シルクフィブロイン水溶液からの塩浸出法により、多孔質シルクフィブロイン足場を直接調製した。足場の形成は、ランダムコイルからβシートへの構造転移を含んだ。この転移は、塩が疎水性ドメインからの水の喪失を促進し、これは鎖-鎖相互作用を増強し、その結果βシートの形成につながるので、転移に関する力学的基礎を提供する。足場の機能的および形態学的特性は、この方法において使用されるシルクフィブロイン溶液の濃度およびNaClの粒度により制御された。
【0103】
(実施例3)シルクヒドロゲルの調製
浸透ストレスを介した水溶液中のシルクフィブロイン濃度の制御を、この方法に関連したゲル形成と構造、形態、および機能(力学的)の変化との関係を評価するために試験した。水性シルクフィブロインのインビボプロセッシングにおいて重要な可能性のある環境因子も試験し、この方法へのそれらの寄与を決定した。シルクフィブロイン水溶液のゲル化は、温度、Ca2+、pH、およびポリエチレンオキシド(PEO)により影響を受けた。ゲル化時間は、タンパク質濃度の増加、pHの低下、温度の上昇、Ca2+の添加、およびPEOの添加と共に減少した。K+の添加では、ゲル化時間に変化は認められなかった。ゲル化にあたり、シルクフィブロインのランダムコイル構造は、βシート構造に転移された。フィブロイン濃度が>4質量%のヒドロゲルは、走査型電子顕微鏡を基に、ネットワークおよびスポンジ状の構造を示した。凍結乾燥したヒドロゲルの細孔径は、シルクフィブロイン濃度またはゲル化温度が増加するにつれてより小さくなった。Ca2+の存在下で形成された凍結乾燥したヒドロゲルは、このイオン濃度が増加するにつれて、より大きい細孔を示した。ヒドロゲルの力学的圧縮強度および圧縮弾性率は、タンパク質濃度およびゲル化温度の増大と共に増加した。
【0104】
方法
シルクフィブロイン水溶液の調製
ボンビックス・モリの繭を、M. Tsukada(Institute of Sericulture, Tsukuba, Japan)およびM. Goldsmith(U. Rhode Island)のご厚意により入手し、0.02M Na2CO3の水溶液中で20分間煮沸し、その後蒸留水で入念にすすぎ、糊状のセリシンタンパク質およびワックスを抽出した。抽出したシルクフィブロインをその後、9.3M LiBr溶液中に60℃で4時間溶解し、20%(w/v)溶液を得た。この溶液を、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500 Pierce)を用い、蒸留水中で2日間透析した。シルクフィブロイン水溶液の最終濃度は約8w/v%であり、これは乾燥後の残留固形物を計量し決定した。8w/v%溶液から調製したシルクフィルムを評価し、XPSによりLi+イオンの除去を証明した。残存するLi+イオンは検出されなかった。
【0105】
浸透ストレスによる濃縮されたシルクフィブロイン溶液の調製
シルクフィブロイン水溶液(8wt%, 10ml)を、Slide-A-Lyzer透析カセット(MWCO 3500)を使用し、室温で10〜25wt%ポリエチレングリコール(PEG, 10,000g/mol)溶液に対して透析した。PEGのシルクフィブロイン溶液に対する容積比は100:1であった。浸透ストレスにより、シルクフィブロイン溶液中の水分子は、透析膜を通りPEG溶液へと移動した(Parsegian, V. A., et al., Methods in Enzymology, Packer, L., Ed.;Academic Press:1986;Vol.127, p400)。必要な時間の後、濃縮されたシルクフィブロイン溶液を、過剰な剪断を避けるために、シリンジによりゆっくり収集し、濃度を決定した。濃度が8wt%未満のシルクフィブロイン水溶液は、8wt%溶液を蒸留水で希釈することにより調製した。全ての溶液は、使用前は7℃で貯蔵した。
【0106】
ゾル-ゲル転移
シルクフィブロイン水溶液0.5mlを、2.5mlの平底バイアル(直径:10mm)に入れた。これらのバイアルを密閉し、室温、37℃および60℃で維持した。試料が不透明な白色を示しかつ反転させたバイアルから30秒以内に落下しない時点で、ゲル化時間を決定した。この方法に対するイオンおよびイオン濃度の影響を調べるために、CaCl2またはKCl溶液を、シルクフィブロイン水溶液に添加し、最終塩濃度2.5〜30mMを生じた。シルクフィブロイン溶液のpHは、HClまたはNaOH溶液で調節した。シルクフィブロイン-ポリ(エチレン)オキシド(PEO, 900,000g/mol)溶液の調製のために、必要量のPEO溶液(5wt%)を、シルクフィブロイン溶液に、ゆっくり攪拌しながら5分間かけて添加した。シルクフィブロイン/PEOの配合比は、100/0、95/5、90/10、80/20および70/30(w/w)であった。
【0107】
広角X線散乱(WAXS)
X線プロファイルを、Brucker D8 X線回折装置を用い、40kVおよび20mAで、NiフィルターCu-Kα照射により、凍結乾燥されたシルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルについて記録した。
【0108】
走査型電子顕微鏡(SEM)
シルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルを-80℃で凍結し、その後凍結乾燥した。これらの試料を、液体窒素中で破壊し、LEO Gemini 982電界放出ガンSEMを用いて試験した。凍結乾燥による人為的な形態変化をチェックするために、代替調製法では、室温で4時間のKarnovsky固定剤を使用した。固定剤入り、またはなしで、ヒドロゲルは、凍結乾燥時に形態学的変化をほとんど示さなかった。米国NIHにより開発されたImageJソフトウェアを用い、細孔径を得た。
【0109】
力学特性
ヒドロゲルの圧縮試験を、2.5kNを装填した細胞を装加したInstron 8511において室温で行った。クロスヘッド速度は10mm/分であった。試料の横断面は、直径12mmおよび高さ5mmであった。圧縮試験は、便宜上オープンサイド法で行った。圧縮限界は、装填細胞を保護するために98%ひずみであった。各組成物について5個の試料を評価した。
【0110】
結果
濃縮されたシルクフィブロイン溶液
初期濃度8wt%のシルクフィブロイン水溶液を、10〜25wt%PEG溶液に対し室温で透析した。シルクフィブロイン水溶液は、浸透ストレスにより経時的に濃縮され、25wt%PEG溶液に対する9時間の透析後、約21wt%の濃度を得た(図6)。より低い濃度のPEG溶液を使用する場合、より高い濃度のシルクフィブロイン水溶液を作製するには、より長い透析時間が必要であった。23〜33wt%のシルクフィブロインゲルは、濃縮法の間に透析カセット中に自然発生的に生成された。これらのゲルは、室温および60℃で乾燥後であっても透明であった。
【0111】
シルクフィブロイン水溶液のゲル化
シルクフィブロイン水溶液のゲル化に対する温度、Ca2+およびK+濃度、pH、ならびにPEO濃度の影響を調べた。図7は、シルクフィブロイン水溶液(pH6.5〜6.8)の様々な温度でのゲル化時間を示している。シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間は、フィブロイン含量および温度の上昇と共に減少した。同時にランダムコイルからβシート構造への構造変化が観察され、ヒドロゲル内のβシート構造の形成は、以下に説明されるようなX線回折により確認された。図8は、様々なCa2+およびK+濃度でのシルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。Ca2+およびK+イオンを含むシルクフィブロイン溶液のpHは、各々、5.6〜5.9および6.2〜6.4であった。Ca2+は、比較的短いゲル化時間を生じたのに対し、K+の添加ではいずれの温度でもゲル化時間に変化はなかった。再生されたカイコフィブロインによるこれらの結果は、クモシルク溶液に添加されたK+イオンが、タンパク質の凝集および沈殿に影響を及ぼした先の試験とは異なったが、Ca2+イオンの添加後レオロジー変化はなかった。図9は、様々なpHでのシルクフィブロイン水溶液(4wt%)のゲル化時間を示す。ゲル化時間は、pHの低下と共に有意に短縮した。この挙動は、pH5.5でゲル化するがpH7.4では粘性の液体として挙動する、ニワオニグモ(Araneus diadematus)由来のシルクについて観察されたものに類似している(Vollrath, F., et al., Proc. R. Soc. London B, 1998, 265:817-820)。図10は、様々なポリエチレンオキシド(PEO)含量のシルクフィブロイン水溶液(4wt%)のゲル化時間を示す。PEO溶液の添加により、pHは、6.1〜6.4の範囲にわずかに低下した。ゲル化時間は、5%PEOのみの添加により有意に短縮したのに対し、濃度が5%を上回る場合のゲル化時間には差異はなかった。
【0112】
ヒドロゲルの構造解析
シルクフィブロインにおける構造変化を、X線回折により決定した。図11は、シルクフィブロイン水溶液から調製した凍結乾燥されたシルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルのX線プロファイルを示している。シルクフィブロイン溶液がガラス転移点以下の低温(-34〜-20℃)で凍結された場合、その構造は有意に変化しなかった(Li, M., et al., J Appl. Polym. Sci., 2001, 79:2185-2191)。凍結乾燥したシルクフィブロイン試料は、シルクフィブロイン濃度に関わりなく、20°近傍で、幅広のピークを示し、これはアモルファス構造を示している。中性pH水溶液中のシルクフィブロインはランダムコイル構造を示した(Magoshi, J., et al., Polymeric Materials Encyclopedia;Salamone, J. C., Ed.;CRC Press:NewYork, 1996;Vol.1, p.667;Magoshi, J., et al., Polymeric Materials Encyclopedia;Salamone, J. C., Ed.;CRC Press: New York, 1996;Vol.1, p.667)。シルクフィブロイン溶液から調製した全てのヒドロゲルは、明確なピークを20.6°に、ならびに9°および24°付近に2個の小さいピークを示した。これらのピークは、シルクフィブロインのβシート結晶構造のものとほぼ同じであった(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Asakura, T., et al., Macromolecules, 1985, 18:1841-1845)。これらのピークは、9°、20.6°、および24°に従い各々、β結晶スペーシング距離9.7、4.3、および3.7Åを示している。X線回折の結果から、シルクフィブロイン溶液のゲル化は、先に報告されたような、ランダムコイルからβシートへのコンホメーション転移を誘導した(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Hanawa, T., et al., Chem. Pharm. Bull., 1995, 43:284-288;Kang, G. D., et al., Marcromol. Rapid Commun., 2000, 21:788-791)。
【0113】
凍結乾燥されたヒドロゲルの形態
シルクフィブロイン溶液およびヒドロゲルの形態学的特徴を、-80℃で凍結乾燥した後、SEMにより観察した。凍結乾燥した4〜12wt%のシルクフィブロイン溶液は、葉状の形態を示した。凍結乾燥した16wt%および20wt%のシルクフィブロイン溶液は、各々、細孔径5.0±4.2μmおよび4.7±4.0μmのネットワークおよびスポンジ状構造を示した。SEM画像により、4wt%シルクフィブロイン溶液から調製した凍結乾燥したヒドロゲルは、温度とは無関係に葉状形態および相互に連結した細孔を示し、4wt%よりも高いフィブロイン濃度では、スポンジ状構造が観察されたことが決定された。凍結乾燥したヒドロゲルの細孔径(<1.1±0.8μm)は、凍結乾燥したシルクフィブロイン溶液試料について観察されるものよりも小さかった。凍結乾燥されたヒドロゲルの細孔径は、シルクフィブロイン濃度の増加と共に減少し、かつ細孔径は、同じシルクフィブロイン濃度では温度が上昇するにつれ減少した。Ca2+イオンを含む4wt%の凍結乾燥されたヒドロゲルは、ネットワークおよびスポンジ状構造を示したが、K+イオンを含む4wt%の凍結乾燥されたヒドロゲルは、葉状形態を有した。フィブロイン濃度>4wt%の凍結乾燥されたヒドロゲルにおいて、Ca2+を含む凍結乾燥されたヒドロゲルの細孔径は、Ca2+イオンを含まないシルクフィブロイン水溶液から調製された凍結乾燥されたヒドロゲルのものよりも大きかった。興味深いことに、細孔径は、同じシルクフィブロイン濃度で、Ca2+濃度が増加するにつれて、凍結乾燥されたヒドロゲルにおいてより大きくなった。Ca2+を含む凍結乾燥されたヒドロゲルとは対照的に、K+を含む凍結乾燥されたヒドロゲルの細孔径は、シルクフィブロイン水溶液から調製した凍結乾燥されたヒドロゲルのものと類似したサイズを示した。これらの結果は、Ca2+は、シルクフィブロイン鎖間で相互作用を誘導する点で、K+よりもより有効であることを暗示している。この結果は、Ca2+がK+よりもより短いゲル化時間を生じた先行するデータとも一致する。
【0114】
ヒドロゲルの力学特性
シルクフィブロイン水溶液から調製したヒドロゲルの圧縮強度および圧縮弾性率は、シルクフィブロイン濃度の増加と共に増加した(図12aおよび12b)。力学特性の改善は、細孔径の減少を伴うポリマー濃度の増加に起因する。同じシルクフィブロイン濃度で、より高い温度で調製されたヒドロゲルは、減少した細孔径のために、より高い圧縮強度および圧縮弾性率を示した。4〜8wt%フィブロインのヒドロゲルが55%未満のひずみを示したのに対し、12〜16wt%フィブロインのヒドロゲルは75%〜96%の範囲のより大きいひずみを示した(図12c)。より小さな細孔径は、ヒドロゲル内の応力をより均一に分配し、応力の集中に抵抗するため、細孔径の影響が考慮された。より小さい細孔径および増加した数の細孔は、亀裂の広がりに対する障壁としても機能する。
【0115】
考察
ゲル化は、疎水性相互作用および水素結合を含む、タンパク質鎖間の分子内および分子間相互作用の形成により生じる(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Hanawa, T., et al., Chem. Pharm. Bull., 1995, 43:284-288;Kang, G. D., et al., Marcromol. Rapid Commun., 2000, 21:788-791)。フィブロイン含量および温度の増加と共に、フィブロイン鎖間の相互作用は増加する。これによりシルクフィブロイン分子は、より迅速に相互作用することができ、このことは物理的架橋につながる。
【0116】
カイコ(ボンビックス・モリ)のCa2+イオン濃度は、シルクが吐糸管に向かい進むにつれ、5mMから15mMまで増加するのに対し、K+イオンは5〜8mM3で存在する。いくつかのカルシウム塩が、フィブロインとの強力な相互作用のために、シルクフィブロインを溶解することが知られている(Ajisawa, A., J. Seric. Sci. Jpn., 1998, 67:91-94;Ha, S. W., et al., Biomacromolecules, 2003,4:488-496)。ボンビックス・モリ由来のシルクフィブロインの希釈溶液のレオロジーに関する測定値は、タンパク質鎖が、フィブロインのアミノ酸側鎖のCOO-イオンとCa2+またはMg2+などの二価のイオンとの間のイオン相互作用によりクラスターを形成する傾向があることを明らかにした(Ochi, A., et al., Biomacromolecules, 2002,3:1187-1196)。これらの相互作用を通じて、Ca2+イオンを含むシルクフィブロイン溶液のpHは、これらのイオンが存在しないシルクフィブロイン溶液のそれよりも有意に低かったのに対し、K+などの一価のイオンの添加は、pHのわずかな低下のみを示した。より低いpHにより、シルクフィブロイン分子間の反発力は低下し、鎖間の相互作用は容易になり、疎水性相互作用を介したβシート構造が形成される可能性の増加を生じた。シルクフィブロインの等電点(pI=3.8〜3.9)近傍のpH(Ayub, Z. H., et al., Biosci. Biotech. Biochem., 1993, 57:1910-1912;Kang, G. D., et al., Marcromol. Rapid Commun., 2000,21:788-791)は、等電点近傍で凝集する他のタンパク質に類似した様式で、シルクフィブロイン水溶液のゾル-ゲル転移を加速した。
【0117】
これらの結果は、異なる生物に由来する異なるシルクタンパク質が、ゾル-ゲル転移を促進するために生理学的に関連するイオンを利用する方法についての、微妙な差異を反映している。二価のイオンは、特に重鎖フィブロインの鎖の末端近傍に存在する負に帯電したアミノ酸とのイオン相互作用により、シルクフィブロイン分子の凝集を誘導する可能性がある。異なる濃度のCa2+に対する反応の欠如は、生理的な反応またはおそらくはこの方法をインビボまたはインビトロにおいて完全に制御するためのイオンの組合せの役割の幅広い窓口を示唆している。特に、処理環境に関連したシルクのドメインマッピングに関する知見と呼応して考慮される場合には、これらの関係を解明するために追加試験が必要であろう(Bini, E., et al., J. Mol.Biol., 2004, 335:27-40)。
【0118】
シルクフィブロイン分子から親水性PEOへの水の移動は、タンパク質分子間の分子内および分子間の相互作用、ならびにそれに続くβシート構造の形成を促進する。この転移は、この方法に関する本発明者らの最新の力学的理解を基に、シルクにおいて明らかである(Jin, H. J., et al., Nature, 2003,424:1057-1061)。これらの転移は、PEOのフィブロイン水溶液への直接添加によるか、または透析膜を横断する水溶液からの分離(PEGによる)を介して、誘導することができる。従って、タンパク質とPEOとの間の直接の接触は不要であり、タンパク質からPEO/PEGへの水輸送の促進のみが、ゾル-ゲル転移を駆動する。
【0119】
結論
一次配列から、カイコシルクフィブロイン重鎖は、鎖端に2個の大きい親水性ブロックを有する7個の内部疎水性ブロック、および7個のはるかに小さい内部親水性ブロックから構成されている(Zhou, C. Z., et al., Nucleic Acids Res., 2000,28:2413-2419;Jin, H. J., et al., Nature, 2003,424:1057-1061)。シルクフィブロイン中の疎水性残基の割合は79%であり(Braun, F. N., et al., Int. J. Biol. Macromol., 2003,32:59-65)、疎水性残基中の反復配列は、シルクフィブロイン線維およびフィルム内の結晶領域を形成するβシート構造を支配するGAGAGSペプチドからなる(Mita, K., et al., J. Mol. Evol., 1994, 38:583-592)。これらβシートの形成は、水中での不溶性をもたらす(Valluzzi, R., et al., J. Phys. Chem. B, 1999, 103:11382-11392)。水溶液中のシルクフィブロインの疎水性領域は、疎水性相互作用により物理的に集合し、最終的にはヒドロゲルに組織化される(Jin, H. J., et al., Nature, 2003,424:1057-1061)。シルクフィブロイン濃度、温度、Ca2+、pHおよびPEOは、シルクフィブロイン水溶液のゲル化に影響を及ぼす。フィブロイン含量および温度の増加に伴い、シルクフィブロイン分子間の物理的架橋は、より容易に形成される。Ca2+イオンは、おそらく鎖末端の親水性ブロックを介して、これらの相互作用を促進する。pHの低下および親水性ポリマーの添加は、シルクフィブロイン分子間の反発力を低下させ、タンパク質からの水の脱離を促進し、より短いゲル化時間をもたらす。ゲル化にあたり、ランダムコイルからβシート構造への構造転移が誘導され、水中のシルクフィブロインヒドロゲルの不溶性および安定性が促進される。シルクフィブロインヒドロゲルは、ネットワークおよびスポンジ状構造を有する。細孔径は、シルクフィブロイン濃度およびゲル化温度が増加するにつれて、より小さくなった。凍結乾燥されたヒドロゲルは、Ca2+濃度の増加に伴い、同じフィブロイン含量のシルクフィブロイン水溶液から調製された凍結乾燥されたヒドロゲルよりもより大きい細孔径を示した。イオンを含まないシルクフィブロイン水溶液から調製されたヒドロゲルの圧縮強度および圧縮弾性率は、タンパク質濃度およびゲル化温度の増加に伴い、増加した。
【0120】
コラーゲン、ヒアルロン酸、フィブリン、アルギン酸塩、およびキトサンなどの、天然のポリマー由来のヒドロゲルは、薬剤送達に加え、組織エンジニアリングにおける多くの用途が認められている。しかしこれらは一般に限定された範囲の力学的特性を提供する(Lee, K. Y., et al., Chem. Rev., 2001, 101:1869-1879)。対照的に、シルクフィブロインは、優れた力学特性、生体適合性、生分解性、および細胞相互作用との組合せのために、制御された放出、組織エンジニアリングのための生体材料および足場の分野における重要な一連の材料オプションを提供する。
【0121】
(実施例4)3次元水性由来のシルク足場を使用した骨再生
本発明者らは、本発明の水性シルク溶液からの3次元シルク足場上でのヒト骨髄幹細胞の骨再生を試験した。シルク足場の骨髄幹細胞の増殖および分化を支持する能力を試験するために、本発明者らは、いかなる修飾もしないシルク足場を使用した。
【0122】
方法
材料
ウシ血清、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α改変型(αMEM)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、ペニシリン-ストレプトマイシン(Pen-Strep)、ファンギゾン、非必須アミノ酸、トリプシンは、Gibco(Carlsbad, CA)から得た。アスコルビン酸リン酸塩、Histopaque-1077、デキサメタゾン、およびβグリセロリン酸塩は、Sigma(St. Lois, MO)から得た。他の物質は全て、分析用または医薬品グレードであり、Sigmaから得た。カイコ繭は、M. Tsukada(Institute of Sericulture, Tsukuba, Japan)およびMarion Goldsmith (University of Rhode Island, Cranston, RI)のご厚意により入手した。
【0123】
足場の調製
水性由来のシルク足場は、粒状NaCl(粒度;1000〜1180μm)4gを、ディスク型テフロン容器中の8wt%シルクフィブロイン溶液2mlに添加して調製した。この容器に蓋をし、室温に放置した。24時間後、容器を水に含浸し、NaClを2日間抽出した。HFIP由来のシルク足場は、4gの粒状NaCl(粒度;850〜100μm)をHFIP中の8wt%シルクフィブロイン2mlに添加することにより調製した。この容器に蓋をしHFIPを減少させ、この溶液のより均一な分布に十分な時間を提供した。溶媒を室温で3日間揮発させた。シルク/ポロゲンの複合体を、メタノール中で30分間処理し、βシート構造および水溶液中の不溶性を誘導した後、この複合体をNaClを除去するために2日間水に含浸した。この多孔質シルク足場を風乾した。
【0124】
ヒト骨髄幹細胞の単離および増殖
全骨髄(25cm3、Clonetics, Santa Rosa, CA.)を、分離培地(RPMI 1640培地中5%FBS)100ml中に希釈した。細胞を、密度勾配遠心分離法により分離した。簡単に述べると、骨髄懸濁液の20mlアリコートを、ポリショ糖勾配(1,077g/cm3, Histopaque, Sigma, St. Louis, MO)上に積層し、800xgで30分間、室温で遠心分離した。この細胞層を慎重に取り出し、分離培地10mlで洗浄し、Pure-Gene溶解液5ml中でペレット化し夾雑している赤血球を溶解した。細胞をペレット化し、増殖培地(DMEM、10%FBS、1ng/ml bFGF、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、0.25μg/mlファンギゾン、非必須アミノ酸)中に懸濁し、75cm2フラスコ中に、密度5x104個細胞/cm2で播種した。接着細胞は、約80%のコンフルエンスに到達させた(初代継代12〜17日間)。細胞をトリプシン処理し、再度播種し、継代2(P2)細胞(6〜8日後に80%コンフルエント)を、実験に使用した。
【0125】
インビトロ培養
シルク足場上のインビトロにおける細胞の増殖および分化を試験するために、BMSC(5x105個細胞/足場、継代2)を、予め湿らせた(α-MEM、一晩)シルク足場上に播種した。24時間後、この培地を除去し、6ウェルプレートの個々のウェル中で培養物を維持した。骨形成性の培地は、ペニシリンおよびストレプトマイシンおよびファンギゾンの存在する、10%FBS、非必須アミノ酸、50μg/mlアスコルビン酸-2-リン酸塩、10nMデキサメタゾン、および7mMβグリセロリン酸を補充したαMEMであった。培養物は、5%CO2を補充した加湿したインキュベーター内、37℃で維持した。培地の半分を、2〜3日おきに交換した。
【0126】
生化学分析および組織学
足場を、骨形成性培地中で2週間および4週間培養し、生化学分析および組織学のために処理した。DNA分析のために、1群1時点あたり3〜4足場を、分解した。DNA含量(n=3〜4)を、PicoGreenアッセイ(Molecular Probes, Eugene, OR)を製造業者のプロトコールに従い使用し、測定した。試料を、励起波長480nmおよび放出波長528nmで蛍光定量的に測定した。総カルシウム含量については、試料(n=4)を、5%トリクロロ酢酸0.5mlで2回抽出した。カルシウム含量は、o-クレゾールフタレインコンプレキソン(Sigma, St. Louis, MO)を使用する比色アッセイ法により決定した。カルシウム複合体は、575nmで分光光度法により測定した。アルカリホスファターゼ活性は、405nmで分光光度法により測定されるp-ニトロフェニルリン酸のp-ニトロフェノールへの転換を基にした、Sigma(St. Louis, MO)の生化学アッセイを用いて測定した。
【0127】
RNA単離、リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムRT-PCR)
新たな足場(n=3〜4/群)を、2mlプラスチック製チューブに移し、1.0mlトリゾールを添加した。スチールボールおよびMicrobeaterを用い、足場を分解した。チューブを、12000gで10分間遠心し、上清を新たなチューブに移した。クロロホルム(200μl)をこの溶液に添加し、室温で5分間インキュベートした。チューブを12000gで15分間再度遠心し、上側水層を新たなチューブに移した。70%エタノール(v/v)1容量を添加し、RNeasyミニスピンカラム(Quiagen, Hilden, Germany)に装加した。RNAを洗浄し、製造業者のプロトコールに従い溶離した。RNA試料を、製造業者のプロトコールに従いオリゴ(dT)選択を用いcDNAに逆転写した(Superscript Preamplification System, Life Technologies, Gaithersburg, MD)。I型コラーゲン、II型コラーゲン、アルカリホスファターゼ、骨シアロタンパク質およびオステオポンチンの遺伝子発現を、ABI Prism 7000 Real Time PCRシステム(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用い定量した。PCR反応条件は、50℃で2分間、95℃で10分間、その後95℃で15秒を50サイクル、および60℃で1分間であった。発現データは、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に対して標準化した。GAPDHプローブは、5'末端を蛍光色素VICで、および3'末端を消光色素TAMRAで標識した。ヒトGAPDH遺伝子のプライマー配列は以下であった:フォワードプライマー
、リバースプライマー
、プローブ
。アルカリホスファターゼ、骨シアロタンパク質(BSP)、オステオポンチンのプライマーおよびプローブは、Applied Biosciencesから購入した(Assay on Demand #, Hs 00240993 ml(ALP), Hs 00173720 ml(BSP), Hs 00167093 ml(オステオポンチン))。
【0128】
ウェスタンブロット解析
総タンパク質抽出のために、細胞を、プロテアーゼインヒビターおよびホスファターゼインヒビターを含有する、RIPA緩衝液[50mM Tris-HCl、pH8.0、150mM NaCl、1% Nonidet P-40(NP-40)、0.2%SDS、5mM NaF]中で溶解した。タンパク質含量を、Bradfod法により測定した。タンパク質を、3〜8%SDS-PAGEにより分解し、メンブレンに移した。ブロットを、一次抗体で4℃で12時間プロービングし、洗浄し、適当なペルオキシダーゼで標識した二次抗体と共に、室温で1時間インキュベートした。タンパク質バンドを、ECL(Armersham-Pharmacia)により顕在化した。
【0129】
走査型電子顕微鏡(SEM)分析
細胞接着の前後に、ポリマー表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により試験した。マトリックスは、Karnovsky固定剤を用いて24時間固定し、CMPBS中で3回洗浄し、残存する固定剤を除去した。その後これらの試料を、一連の段階的エタノール(50〜100%)を15分間隔で用いて乾燥した。乾燥後、試料を金でスパッタコーティングし、LEO Gemini 982電界放出ガンSEMで調べた。
【0130】
組織学的評価
4%リン酸緩衝ホルムアルデヒドで少なくとも24時間固定した後、標本をパラフィンに包埋し、切片とした(4μm)。標準の組織化学的技術を用い、連続切片をヘマトキシリン・エオシンおよびアルシアンブルーで染色した。
【0131】
結果
SEM分析
3Dシルク足場の特徴を、細孔径分布および表面トポグラフィーの分析のためのSEMによる構造的評価により決定した。SEM分析は、水-シルク足場が、平均細孔径920±50μmである相互に連結された多孔質ネットワークを有することを示した。細孔表面は、非均質の微小孔を含む粗い構造の外観を有した。しかしHFIP-シルク足場は、平均細孔径900±40μmである、相互連結の乏しい多孔質ネットワークを有し、かつ滑らかな表面構造を示した。BMSC(継代2)を、水-シルクスポンジおよびHFIP-シルクスポンジに播種した。HFIP-シルクスポンジよりも、水-シルクスポンジに、より多くの細胞が接着した。水-シルクスポンジは、細胞播種を促進した。かつBMSCは、水-シルクスポンジ全体に均一に分布された。対照的に、HFIP-シルクスポンジ上のBMSCの分布は均一ではなかった。BMSC増殖は、水-シルクスポンジ上で認められた。SEMは、水-シルクスポンジ上でのBMSCの広範囲の増殖、その後最大4週間の増殖を確認した。
【0132】
肉眼による試験
細胞足場構築体は、5%CO2雰囲気下、37℃で、骨形成性培地において培養した。構築体は、6ウェルプレートにおいて最大28日間培養した。BMSC水-シルク構築体は、培養後丸くなり始めたが、BMSCHFIP-シルク構築体は当初平坦で、培養後も変化しなかった。水-シルク足場中に形成された組織は、白っぽく、手および外科用鉗子で触ると固かった。しかし、HFIP-シルク足場に播種されたBMSCは、白っぽい組織を形成しなかった。2週間および4週間の標本は、肉眼による試験では有意差は認められなかった。水-シルク足場内のBMSCの均一な細胞分布は、足場の表面上および中心全体にわたる均一なマトリックス染色(生存細胞によるMTT転換の指標)により定性的に明らかであった。しかしHFIP-シルク足場は、構築体の表面に沿った強力な染色、および構築体内部の弱い染色領域を示した。
【0133】
生化学分析
3Dマトリックスの多孔度は、水-シルクおよびHFIP-シルクの両方において約92%であった。水-シルク足場の圧縮強度および圧縮弾性率は、100±10kPaおよび1300±40kPaであった。HFIP足場のこれらの値は、50±5kPaおよび210±60kPaであった。
【0134】
これらの足場上で培養された細胞の総数は、本試験の時間経過にわたりDNAアッセイを用いて定量した。培地中に懸濁された細胞を播種した水-シルク足場については、最初の播種後の51,000±12,000個細胞から、28日間の培養後の150,000±12,000個細胞へと増加した。培地中に懸濁された細胞を播種したHFIP-シルク足場は、最初の細胞播種後の8,000±3,400個細胞から、28日間の培養後の32,000±11,000個細胞へと、有意な増殖を示さなかった。
【0135】
アルカリホスファターゼ(ALPase)活性は、骨前駆細胞の骨芽細胞表現型へのコミットメントの指標であるが、これを足場毎に測定した。水-シルク足場については、28日培養後のALPase活性(9.7±0.3mmol/足場)は、1日目(0.4±0.01mmol/足場)と比べ、有意に増加した。HFIP-シルク足場については、培養の28日後、2.9±0.12mmol/足場が検出された。
【0136】
各試料の総カルシウム含量を、足場毎に測定した。水-シルク足場については、骨形成性培地中での28日間の培養後、有意なカルシウム沈着(10.5±0.65μg/足場)が認められた。HFIP-シルク足場については28日間の培養後、Ca2+1.4±0.1μg/足場が存在した。
【0137】
骨形成性分化関連遺伝子の発現
BMSCにより生成された骨様組織を特徴付けるために、いくつかの骨形成性の分化および軟骨形成性の分化のマーカー遺伝子の発現を、リアルタイムRT-PCRアッセイ法を用いて定量した。分析した遺伝子は、骨形成性分化マーカーI型コラーゲン(Col I)、アルカリホスファターゼ(ALP)、オステオポンチン(OP)、骨シアロタンパク質(BSP)、および軟骨形成性分化マーカーII型コラーゲン(Col II)を含む。足場の種類間の転写レベル(増幅の直線範囲内でGAPDHに対して標準化)の差異は、有意であった。Col I、ALP、およびOP転写レベルは、HFIP-シルク足場と比べ、水-シルク足場において増加した。水-シルク足場において28日間培養後、Col I、ALPおよびBSPの遺伝子発現は、1日培養後と比べ、各々、190%、1100%、および10500%有意に増加した。しかしOPおよびCol IIの発現は、有意に減少した。BSP発現は、水-シルク足場およびHFIP-シルク足場において、同様に調節された。足場の種類間の差異に統計学的有意性はなかった。
【0138】
骨形成性分化に関連したタンパク質の発現
3D水-シルク足場培養条件において、ヒト骨髄幹細胞は、骨芽細胞マーカーを発現した。HFIP-シルク構築体と比べて、Col Iの発現は、水-シルク培養条件下で、2週間培養後、タンパク質レベルの有意な増加を示した。しかしCol Iの発現は両方の条件下で、4週間の培養後に減少した。28日間の培養後、OPの発現は水-シルク構築体において増加した。このタンパク質は2本のバンドを示し、そのうち最も高い分子量は、高度にグリコシル化、硫酸化、またはリン酸化されていると推定された(Singh et al., J. Biol. Chem., 1990,65:18696-18701)。骨の他のタンパク質であるBSPは、水-シルク足場およびHFIP-シルク足場の両方で培養された細胞において発現された。しかしその発現は、28日間培養後、HFIP-シルク構築体において増加した。
【0139】
本発明者らは、マトリックスメタロプロテアーゼ13(MMP13)およびCol IIの発現も分析した。MMP13は、水-シルク構築体においてのみ発現した。また、Col IIは、4週間後、両方の培養条件においてダウンレギュレートされた。
【0140】
組織学的試験
これらの標本のヘマトキシリン・エオシン染色を用いる組織学的試験は、それらの立方体または円柱状の形態の骨芽細胞様細胞の割合が、水-シルク構築体における培養期間の延長と共に増加したことを明らかにした。14日間の培養後、ほぼ全ての細孔が、結合組織、線維芽細胞、および立方体の骨芽細胞様細胞により充填された。28日後、これらの細孔は細胞外マトリックス、骨芽細胞様細胞、およびわずかな線維芽細胞様形態の細胞で充填された。しかしHFIP-シルク足場の組織学的切片は、細胞のわずかな分布が存在し、その大半は足場の表面に細胞層を形成していることを明らかにした。28日間の培養後、HFIP-シルク構築体内の細胞の大半は、平坦な線維芽細胞形態を示した。
【0141】
骨形成性培地での培養後、アルシアンブルー染色によるプロテオグリカンの細胞外マトリックスは、プロテオグリカンが水-シルク構築体において検出されたことを明らかにした。HFIP-シルク構築体においては、プロテオグリカンは組織学的には検出されなかった。
【0142】
考察
シルクタンパク質ベースのマトリックス足場は、骨組織エンジニアリングに関して現在関心がもたれている。これらの足場は、PGA-PLAコポリマーおよびコラーゲンのような、他の一般的生分解性合成ポリマーおよび天然ポリマーよりも、より高い力学特性を示した。HFIPを使用して、多孔質シルクフィブロイン材料が調製されてきた。HFIP-シルク足場は、それらの独特な力学特性について知られているが、これらの天然のポリマーは、細胞認識シグナルを欠いているため不充分な細胞接着を生じる。この問題点を克服するために、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)による表面修飾、および天然の生分解性ポリマーとのハイブリッドを含む、多くのアプローチが開発されてきた。
【0143】
細胞接着は、細胞の増殖および分化に直接影響するため、重要な細胞プロセスとして知られている。本実施例において、シルク足場は修飾せずに使用した。本発明者らは、水-シルク足場における十分な細胞接着を認めた。HFIP-シルク足場よりもより多くの細胞が、水-シルク足場に接着した。表面組織、またはミクロトポグラフィーの多様性は、細胞の反応に影響を及ぼすことができる。より粗い表面には、より高い割合で細胞が接着していることがわかった。SEM分析および組織学的分析は、本発明者らの水-シルク足場が、均一な細孔を伴う粗い構造を有することを示した。しかしHFIP-シルク足場は滑らかな表面構造を有した。
【0144】
多孔質足場の微細構造に関して、高い多孔度(>90%)および相互に連結された細孔ネットワークが望ましい。加えて、好ましい細孔径は一般に、細胞の内殖および組織の再生を可能にするためには50〜500μmの範囲である(Katoh K. et al., Biomaterials, 2004, 25:4255-4262;Thomson R, et al., In Principles of Tissue Engineering;Lanza R, Langer R and Vacanti J, eds. Academic Press: San Diego, pp.251-262,2000)。3次元細胞/ポリマー構築体の外側への栄養輸送制限の緩和は、3次元足場上に播種されたMSCの骨芽細胞マーカーの増殖、分化、および発現に影響を及ぼす(Sikavitsas VI. et al., J. Biomed Mater Res, 62:136-148)。構造の特徴決定は、水-シルクスポンジの細孔径および多孔度が、NaCl粒子のサイズにより制御されることを示した。本発明者らは、90%より大きい多孔度を有する、調節された細孔径(920±50μm)を有する水-シルクスポンジを調製した。さらにこれらの細孔は外側に開口し、相互に連結し、かつスポンジ全体に均一に分布していた。
【0145】
多孔質シルク足場にヒトBMSCを播種し、BMSCシルク構築体をふたつのモデルシルク足場(水-シルク足場およびHFIP-シルク足場)において、28日の延長された期間培養した。水-シルク足場に播種されたBMSCは、培養の最初の2週間に促進された増殖、ならびに培養期間の最後に最強のALP活性および最高のカルシウム付着を示した。
【0146】
胎児発生または成人修復のどちらの期間でも、骨格形成の開始は間葉幹細胞の凝縮により始まる。凝縮段階の直後に、凝集の中央領域の細胞は、軟骨表現型をとる(Ferguson C. et al., Mech. Dev., 1999,87:57-66)。Col IIの発現は、本発明者らのシルク足場においてこの事象を示した。本発明者らのCol IIの研究は、初期のCol II遺伝子発現にもかかわらず、水-シルク足場において培養された分化したBMSCが、培養期間の最後まで、分化した表現型を維持したことを示した。初期において、本発明者らは、HFIP-シルク構築体においてもCol II発現を観察した。しかしCol II遺伝子発現およびタンパク質発現は、有意に低下した。
【0147】
軟骨細胞は、増殖から肥大性の状態へと進行する。肥大した軟骨細胞の大半は、プログラムされた細胞死を受けるように最終的には運命付けられており、これは細胞外マトリックス(ECM)のリモデリング、およびそれに続く新たな骨の付着が伴う(Gerber H. et al., Nat. Med. 1999,5:623-628)。MMP13は、肥大性軟骨マトリックスのリモデリングを調節する。MMP13の発現は、水-シルク構築体において観察されたが、HFIP-シルク構築体においては観察されず、これは水-シルク足場の細胞は成熟しかつ肥大した軟骨細胞であることを示している。
【0148】
軟骨内骨形成時の軟骨鋳型から骨への切り替えは、細胞表現型の単なる切り替えではなかった。その後軟骨性のECMは、骨ECMにより交換される。プロテオグリカン合成、ALPの発現、およびI型コラーゲンの発現は、水-シルク構築体において検出されたが、II型コラーゲンはほとんど検出されなかった。ALPおよびI型コラーゲン(骨芽細胞分化のマーカー)の発現は、水-シルク構築体において有意に増加したが、骨の他のタンパク質で、総非コラーゲン性のタンパク質を8〜12%含むと考えられるBSPは、水-シルク足場およびHFIP-シルク足場において同様に発現された。I型およびII型コラーゲンの同時発現が、試験において明らかにされており(Nakagawa T. et al., Oral Diseases, 2003, 9:255-263)、これは軟骨細胞が、それらの表現型を、骨様マトリックスを作製して軟骨内骨内に残留するように変更することを示している。
【0149】
骨芽細胞マーカーのひとつであるOPは、下記の骨形成の二つの段階で高度に発現されていることが明らかである:初期の増殖段階、および石灰化された骨マトリックスの初期の形成に続く後期の段階(Yae, KL. et al., J. Bone Miner. Res., 1994,9:231-240)。培養初期に、OPの発現は、水-シルク構築体においてアップレギュレートされた。これらの試験は、骨組織の初期形成における水-シルク足場の有用性を指摘している。I型コラーゲンは、骨の有機マトリックスの最大部分(90%)を構成しているが、これはこの組織に独自ではない。プロテオグリカン、または少なくともそれらの成分グリコサミノグリカン鎖は、石灰化された骨マトリックスの小さいが重要な成分として長く認められている(Fisher LW. et al., J. Biol. Chem., 1982, 258:6588-6594;Fedarko NS. et al., J. Biol. Chem., 1990, 265:12200-12209)。水-シルク足場での培養後のアルシアンブルー染色液による切片の染色は、ECM内のプロテオグリカンの存在を明確に示した。プロテオグリカンは、軟骨内に認めることができる。これらのプロテオグリカンの起源および組織特異性は、決定されていない。本発明者らの研究において、プロテオグリカンは、水-シルク構築体内での培養の14日後に検出されたが、HFIP-シルク構築体においては検出されなかった。
【0150】
本出願を通じて引用された参考文献は、本明細書に参照として組入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
本明細書に組込まれかつその一部を構成している添付図面は、本発明の態様を例示し、説明すると共に、本発明の目的、利点、および原理を説明するために利用される。
【図1】図1は、高度に濃縮された再生されたシルクフィブロイン溶液を製造する本発明の方法のひとつの態様を例示している。
【図2】図2は、多孔質シルクフィブロイン足場の調製のための本発明の方法のひとつの態様を例示している。
【図3】図3aおよび3bは、実施例IIにおいて説明された水ベースの方法により調製されたシルクフィブロイン足場の(図3a)X線回折および(図3b)FTIRスペクトルを示す。
【図4】図4aおよび4bは、(図4a)4または8wt%シルクフィブロインと直径850〜1000μmの粒度のNaClにより調製された場合の経時的な残存する足場の質量、ならびに(図4b)様々な粒度のNaClにより6wt%で調製された足場の質量を示している。
【図5】図5aおよび5bは、(図5a)水処理および(図5b)延伸を含む、シルクフィルム調製に関する本発明のひとつの態様を例示している。
【図6】図6は、室温での、PEG溶液(丸;25wt%、四角;15wt%、三角;10wt%)に対する透析により調製されたシルクフィブロイン溶液(黒印)およびゲル(白印)の濃度を示している。値は、3個の試料の平均±標準偏差である。
【図7】図7は、様々な温度(pH6.5〜6.8、イオンなし)でのシルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。値は、7個の試料の平均±標準偏差である。
【図8】図8a、8b、および8cは、(図8a)室温、(図8b)37℃および(図8c)37℃で、異なるCa2+(pH5.6〜5.9)およびK+(pH6.2〜6.4)濃度での、シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。
【図9】図9は、様々なpH(4wt%シルクフィブロイン;イオンなし;室温)での、シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。値は、7個の試料の平均±標準偏差である。
【図10】図10は、様々なPEO含量(4wt%シルクフィブロイン;pH6.1〜6.4;イオンなし;室温)での、シルクフィブロイン水溶液のゲル化時間を示している。値は、7個の試料の平均±標準偏差である。
【図11】図11aおよび11bは、(図11a)凍結乾燥したシルクフィブロイン溶液および(図11b)シルクフィブロイン水溶液から60℃で調製されたヒドロゲルのX線回折を示す。
【図12】図12a、12b、および12cは、様々な温度での、シルクフィブロイン水溶液から調製したヒドロゲルの圧縮強度(図12a)、圧縮弾性率(図12b)および破損歪(図12c)を示す。**:60℃でシルクフィブロイン濃度16wt%で調製したヒドロゲルは、本試験に使用した条件下で粉砕されなかった。値は、5個の試料の平均±標準偏差である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を含まない、少なくとも10wt%のフィブロイン濃度を有する水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項2】
フィブロイン濃度が少なくとも15wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項3】
フィブロイン濃度が少なくとも20wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項4】
フィブロイン濃度が少なくとも25wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項5】
フィブロイン濃度が少なくとも30wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項6】
治療用物質をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項7】
フィブロインが、溶解したカイコシルクを含有する溶液から得られる、請求項1記載の溶液。
【請求項8】
カイコシルクが、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)から得られる、請求項7記載の溶液。
【請求項9】
フィブロインが、溶解したクモシルクを含有する溶液から得られる、請求項1記載の溶液。
【請求項10】
クモシルクが、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)から得られる、請求項9記載の溶液。
【請求項11】
シルクタンパク質が、遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得られる、請求項1記載の溶液。
【請求項12】
以下の工程を含む方法により製造された、濃縮された水性フィブロイン溶液:
(a)水性シルクフィブロイン溶液を調製する工程;および
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%の水性フィブロイン溶液を生じるのに十分な時間透析する工程。
【請求項13】
吸湿性ポリマーが、ポリエチレングリコール、アミラーゼ、およびセリシンからなる群より選択される、請求項12記載の溶液。
【請求項14】
吸湿性ポリマーが、分子量8,000〜10,000g/molのポリエチレングリコール(PEG)である、請求項12記載の溶液。
【請求項15】
PEGの濃度が25〜50%である、請求項14記載の溶液。
【請求項16】
フィブロインが溶解したカイコシルクを含有する溶液から得られる、請求項12記載の溶液。
【請求項17】
カイコシルクがボンビックス・モリから得られる、請求項16記載の溶液。
【請求項18】
フィブロインが溶解したクモシルクを含有する溶液から得られる、請求項12記載の溶液。
【請求項19】
クモシルクがアメリカジョロウグモから得られる、請求項18記載の溶液。
【請求項20】
シルクタンパク質が遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得られる、請求項12記載の溶液。
【請求項21】
以下の工程を含む、線維を製造する方法:
(a)塩水溶液中にシルクフィブロインを含むシルクフィブロイン溶液を調製する工程;
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%のフィブロイン水溶液をもたらすために透析する工程;および
(c)溶液を加工し、線維を形成する工程。
【請求項22】
線維をメタノール/水溶液に含浸する工程(d)をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
線維を水中で洗浄する工程(e)をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
フィブロインが、溶解したカイコシルクを含有する溶液から得られる、請求項21記載の方法。
【請求項25】
カイコシルクが、ボンビックス・モリから得られる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
フィブロインが、遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得られる、請求項21記載の方法。
【請求項27】
フィブロインが、溶解したクモシルクを含有する溶液から得られる、請求項21記載の方法。
【請求項28】
クモシルクが、アメリカジョロウグモから得られる、請求項27記載の方法。
【請求項29】
加工が、電気紡糸または湿式紡糸を含む、請求項21記載の方法。
【請求項30】
請求項21記載の方法で製造された線維。
【請求項31】
以下の工程を含む、シルクフォームを製造する方法:
(a)塩水溶液中にシルクフィブロインを含むシルクフィブロイン溶液を調製する工程;
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%のフィブロイン水溶液をもたらすために透析する工程;および
(c)工程(b)の該溶液を加工し、フォームを製造する工程。
【請求項32】
工程(c)が、塩粒子がフォーム(form)内に含まれる、工程(b)の溶液と塩粒子とを接触させる工程を含み;かつ、該粒子を除去するために該塩粒子と水とを接触させる工程を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
請求項32記載の製品を乾燥することをさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
工程(c)が、工程(b)の溶液に気体を泡立てて通す(bubbling)ことを含む、請求項31記載の方法。
【請求項35】
塩が一価である、請求項32記載の方法。
【請求項36】
一価の塩が、NaCl、KCl、KFl、およびNaBrからなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
塩が二価である、請求項32記載の方法。
【請求項38】
二価の塩が、CaCl2、MgS04、およびMgCl2からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
請求項31記載の方法により製造されたフォーム。
【請求項40】
以下の工程を含む、フィルムを製造する方法:
(a)シルクフィブロインを塩水溶液中に含むシルクフィブロイン溶液を調製する工程;
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して少なくとも10wt%のフィブロインの水溶液をもたらすために透析する工程;および
(c)工程(b)の溶液をキャスティングし、フィルムを形成する工程。
【請求項41】
工程(c)のフィルムを乾燥することをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
フィルムを水または水蒸気と接触させることをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項43】
フィルムを一軸方向および二軸方向に延伸することをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項44】
請求項40〜43のいずれか一項記載の方法により製造されたフィルム。
【請求項45】
以下の工程を含む、シルクヒドロゲルを製造する方法:
(a)水性シルクフィブロイン溶液を調製する工程;および
(b)該溶液を吸湿性ポリマーに対して透析する工程;および
(c)ゾル-ゲル転移を誘導する工程。
【請求項46】
吸湿性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、アミラーゼ、およびセリシンからなる群より選択される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
ゾル-ゲル転移が、シルクフィブロイン濃度の上昇により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項48】
ゾル-ゲル転移が、温度の上昇により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項49】
ゾル-ゲル転移が、pHの低下により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項50】
ゾル-ゲル転移が、ポリマーの添加により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項51】
ポリマーがポリエチレンオキシド(PEO)である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
ゾル-ゲル転移が、塩濃度の上昇により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項53】
塩が、KCl、NaCl、およびCaCl2からなる群より選択される、請求項45記載の方法。
【請求項54】
請求項45記載の方法により製造されたシルクヒドロゲル。
【請求項55】
請求項44記載のフィルムおよび治療用物質を含有する組成物。
【請求項56】
請求項39記載のフォームおよび治療用物質を含有する組成物。
【請求項57】
請求項54記載のシルクヒドロゲルおよび治療用物質を含有する組成物。
【請求項58】
請求項30記載の線維および治療用物質を含有する組成物。
【請求項1】
有機溶媒を含まない、少なくとも10wt%のフィブロイン濃度を有する水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項2】
フィブロイン濃度が少なくとも15wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項3】
フィブロイン濃度が少なくとも20wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項4】
フィブロイン濃度が少なくとも25wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項5】
フィブロイン濃度が少なくとも30wt%である、請求項1記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項6】
治療用物質をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の水性シルクフィブロイン溶液。
【請求項7】
フィブロインが、溶解したカイコシルクを含有する溶液から得られる、請求項1記載の溶液。
【請求項8】
カイコシルクが、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)から得られる、請求項7記載の溶液。
【請求項9】
フィブロインが、溶解したクモシルクを含有する溶液から得られる、請求項1記載の溶液。
【請求項10】
クモシルクが、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)から得られる、請求項9記載の溶液。
【請求項11】
シルクタンパク質が、遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得られる、請求項1記載の溶液。
【請求項12】
以下の工程を含む方法により製造された、濃縮された水性フィブロイン溶液:
(a)水性シルクフィブロイン溶液を調製する工程;および
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%の水性フィブロイン溶液を生じるのに十分な時間透析する工程。
【請求項13】
吸湿性ポリマーが、ポリエチレングリコール、アミラーゼ、およびセリシンからなる群より選択される、請求項12記載の溶液。
【請求項14】
吸湿性ポリマーが、分子量8,000〜10,000g/molのポリエチレングリコール(PEG)である、請求項12記載の溶液。
【請求項15】
PEGの濃度が25〜50%である、請求項14記載の溶液。
【請求項16】
フィブロインが溶解したカイコシルクを含有する溶液から得られる、請求項12記載の溶液。
【請求項17】
カイコシルクがボンビックス・モリから得られる、請求項16記載の溶液。
【請求項18】
フィブロインが溶解したクモシルクを含有する溶液から得られる、請求項12記載の溶液。
【請求項19】
クモシルクがアメリカジョロウグモから得られる、請求項18記載の溶液。
【請求項20】
シルクタンパク質が遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得られる、請求項12記載の溶液。
【請求項21】
以下の工程を含む、線維を製造する方法:
(a)塩水溶液中にシルクフィブロインを含むシルクフィブロイン溶液を調製する工程;
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%のフィブロイン水溶液をもたらすために透析する工程;および
(c)溶液を加工し、線維を形成する工程。
【請求項22】
線維をメタノール/水溶液に含浸する工程(d)をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
線維を水中で洗浄する工程(e)をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
フィブロインが、溶解したカイコシルクを含有する溶液から得られる、請求項21記載の方法。
【請求項25】
カイコシルクが、ボンビックス・モリから得られる、請求項24記載の方法。
【請求項26】
フィブロインが、遺伝子改変されたシルクを含有する溶液から得られる、請求項21記載の方法。
【請求項27】
フィブロインが、溶解したクモシルクを含有する溶液から得られる、請求項21記載の方法。
【請求項28】
クモシルクが、アメリカジョロウグモから得られる、請求項27記載の方法。
【請求項29】
加工が、電気紡糸または湿式紡糸を含む、請求項21記載の方法。
【請求項30】
請求項21記載の方法で製造された線維。
【請求項31】
以下の工程を含む、シルクフォームを製造する方法:
(a)塩水溶液中にシルクフィブロインを含むシルクフィブロイン溶液を調製する工程;
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して、少なくとも10wt%のフィブロイン水溶液をもたらすために透析する工程;および
(c)工程(b)の該溶液を加工し、フォームを製造する工程。
【請求項32】
工程(c)が、塩粒子がフォーム(form)内に含まれる、工程(b)の溶液と塩粒子とを接触させる工程を含み;かつ、該粒子を除去するために該塩粒子と水とを接触させる工程を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
請求項32記載の製品を乾燥することをさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
工程(c)が、工程(b)の溶液に気体を泡立てて通す(bubbling)ことを含む、請求項31記載の方法。
【請求項35】
塩が一価である、請求項32記載の方法。
【請求項36】
一価の塩が、NaCl、KCl、KFl、およびNaBrからなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
塩が二価である、請求項32記載の方法。
【請求項38】
二価の塩が、CaCl2、MgS04、およびMgCl2からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
請求項31記載の方法により製造されたフォーム。
【請求項40】
以下の工程を含む、フィルムを製造する方法:
(a)シルクフィブロインを塩水溶液中に含むシルクフィブロイン溶液を調製する工程;
(b)該溶液を、吸湿性ポリマーに対して少なくとも10wt%のフィブロインの水溶液をもたらすために透析する工程;および
(c)工程(b)の溶液をキャスティングし、フィルムを形成する工程。
【請求項41】
工程(c)のフィルムを乾燥することをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
フィルムを水または水蒸気と接触させることをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項43】
フィルムを一軸方向および二軸方向に延伸することをさらに含む、請求項40記載の方法。
【請求項44】
請求項40〜43のいずれか一項記載の方法により製造されたフィルム。
【請求項45】
以下の工程を含む、シルクヒドロゲルを製造する方法:
(a)水性シルクフィブロイン溶液を調製する工程;および
(b)該溶液を吸湿性ポリマーに対して透析する工程;および
(c)ゾル-ゲル転移を誘導する工程。
【請求項46】
吸湿性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、アミラーゼ、およびセリシンからなる群より選択される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
ゾル-ゲル転移が、シルクフィブロイン濃度の上昇により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項48】
ゾル-ゲル転移が、温度の上昇により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項49】
ゾル-ゲル転移が、pHの低下により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項50】
ゾル-ゲル転移が、ポリマーの添加により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項51】
ポリマーがポリエチレンオキシド(PEO)である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
ゾル-ゲル転移が、塩濃度の上昇により誘導される、請求項45記載の方法。
【請求項53】
塩が、KCl、NaCl、およびCaCl2からなる群より選択される、請求項45記載の方法。
【請求項54】
請求項45記載の方法により製造されたシルクヒドロゲル。
【請求項55】
請求項44記載のフィルムおよび治療用物質を含有する組成物。
【請求項56】
請求項39記載のフォームおよび治療用物質を含有する組成物。
【請求項57】
請求項54記載のシルクヒドロゲルおよび治療用物質を含有する組成物。
【請求項58】
請求項30記載の線維および治療用物質を含有する組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−515391(P2007−515391A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532398(P2006−532398)
【出願日】平成16年4月12日(2004.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/011199
【国際公開番号】WO2005/012606
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503216502)タフツ ユニバーシティー (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月12日(2004.4.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/011199
【国際公開番号】WO2005/012606
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503216502)タフツ ユニバーシティー (7)
【Fターム(参考)】
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