説明

濃縮燃料で作動する直接酸化燃料電池システム用の多孔質輸送構造体

【課題】 濃縮燃料で作動する直接酸化燃料電池システム用の多孔質輸送構造体を提供する。
【解決手段】 1つの実施態様では、触媒層と、任意選択の微孔質層と、任意選択のバッキング層と、および導電性の多孔質輸送構造体であって、多孔質体とこの多孔質体に接触した不透過性層とをこの順序で含む多孔質輸送構造体とを、上記の順序で含む、直接酸化燃料電池が提供される。別の実施態様により、多孔質体とこの多孔質体に接触した不透過性層とを含んでいる導電性の多孔質輸送構造体を含む直接酸化燃料電池であって、直接酸化燃料電池によって約60〜約80℃の範囲の動作温度において約0.6未満の最終的な水輸送係数(α)が達成される、直接酸化燃料電池が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に携帯電源用の燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
直接酸化燃料電池(DOFC)は、液体燃料の完全な電解酸化によって電気を発生させる電気化学的デバイスである。一般的な液体燃料としては、メタノール、エタノール、ギ酸、ジメチルエーテル、これらの水溶液、およびこれらの組み合わせがある。酸化剤は、実質的に純粋な酸素または希薄流(空気中の酸素など)であってよい。携帯用途および移動用途(例えば、ノートパソコン、携帯電話、PDAなど)にDOFCを用いた場合の重要な利点として、液体燃料の保管の容易さ/取り扱いやすさ、およびエネルギー密度が高いことなどがある。
【0003】
DOFCシステムの一例は、直接メタノール型燃料電池(DMFC)である。DMFCでは一般に、アノードとカソード、およびこれらの間にあるプロトン伝導性膜電解質とを有する、膜−電極接合体(MEA)を用いている。高分子電解質膜またはPEMと呼ばれることがある膜電解質の一般的な例として、ナフィオン(Nafion)(登録商標)(E.I.Dupont de Nemours and Companyの登録商標)がある。メタノール/水の溶液は燃料としてアノードへ直接供給され、空気は酸化剤としてカソードへ供給される。アノードでは、触媒(一般的にはPt−Ru触媒)の存在下でメタノールが水と反応して、二酸化炭素、プロトンおよび電子を生成する。すなわち次のようになる。
[化1]
CHOH+HO→CO+6H+6e (1)
【0004】
プロトンはプロトン伝導性膜電解質を通過してカソードへ移動する。高分子電解質膜は電子の伝導性がない。電子は外部回路を通ってカソードへ伝わり、外部回路では電力が提供される。カソードでは、プロトン、電子および空気の酸素分子が触媒(一般的にはPt触媒)の存在下で結合して水を形成する。つまり次のようになる。
[化2]
3/2O+6H+6e→3HO (2)
【0005】
2種類の電気化学反応(1)および(2)により、次のような全電池反応が行われる。
[化3]
CHOH+3/2O→CO+2HO (3)
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0134487号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0087234号明細書
【特許文献3】米国特許第5,599,638号明細書
【非特許文献1】Y.S.キム、M.J.サムナー、W.L.ハリソン、J.S.リフル、J.E.マクグラス、及びB.S.ピボバー(Y.S.Kim,M.J.Sumner,W.L.Harrison,J.S.Riffle,J.E.McGrath,andB.S.Pivovar)、Direct Methanol Fuel Cell Performance of Disulfonated Poly(arylene ether benzonitrile)Copolymers,J.Electrochem.Soc.、151巻、A2157−A2172ページ、2004年12月。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般にDMFCでは、メタノールは一部が膜電解質を透過してアノードからカソードへ移る。このメタノールのことを「クロスオーバーメタノール」と呼ぶ。クロスオーバーメタノールはカソードで酸素と反応し、これによって燃料電池の燃料利用効率およびカソード電位が低下する。その結果、燃料電池によって生成される電力は少なくなる。メタノールのほかに、水も膜を通過してクロスオーバーする。この「クロスオーバー水」は、少なくとも一部が電気浸透抗力(electroosmotic drag)および拡散によって引き起こされ、その結果、相当量の水がアノードから失われる。
【0008】
メタノールのクロスオーバーおよびその有害な影響を制限し、かつ膜を通過してカソードへ過度の水がクロスオーバーしても耐えられるよう十分な水を供給するために、従来のDMFCシステムではアノードで希釈メタノール溶液(3〜6容量%)を使用している。このようなシステムの問題は、必要とされる相当量の水によって携帯システムへの負担が生じることであり、またシステムのエネルギー密度が犠牲にされる。
【0009】
DMFCテクノロジーはリチウムイオンバッテリーやその他の先進バッテリーと競い合うものなので、高濃度燃料を使用できることは携帯電源にとって非常に望ましいことである。アノードからカソードへ向かって膜を通過する水のクロスオーバーを少なくするかまたは負にすることは、高濃度メタノール燃料で燃料電池を作動させるための1つの鍵であることが示された(特許文献1および特許文献2。どちらもその全体を本明細書に援用する)。
【0010】
膜を通過する水のクロスオーバーの1つの尺度は、最終的な水輸送係数(α)である。最終的な水輸送係数は、電解質膜を貫通する、プロトン当たりの水分子の数と定義される。最終的な水輸送係数(α)は知られている用語であり、例えば、すでに援用されている特許文献2に記載されている。メタノールの直接使用によってDMFCが作動するための理論的なα値は、メタノール燃料濃度が10M、17Mおよび24M(純メタノール)の場合にそれぞれ0.52、0.05および−0.167である。
【0011】
これまでαの低い膜−電極接合体(MEA)は2つの主な方法で作られてきた。その1つは、特許文献1に記載されている薄いナフィオン膜を通過する液体の水の逆流を利用するものである。この取り組み方では、空気循環カソード中の高疎水性の微孔質層および薄膜(例えば、ナフィオン112)を使用することによって、60℃でα=0.4が実証されている。もう一方の取り組み方は、炭化水素膜を使用するものである。例えば、スルホン化ポリ(アリーレンエーテルベンゾニトリル)膜でα=1.3が実証された(非特許文献1。その内容全体を本明細書に援用する)。
【0012】
特許文献3は、固体高分子電解質膜を用いた水溶液供給有機燃料電池を開示している。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1つの実施態様は、アノードからカソードへの水のクロスオーバーが極めて少ないか、または負になる多孔質輸送構造体を提供する。
【0014】
本発明の1つの実施態様は、カソード排気から水を回収せずに、カートリッジまたは他の供給源(純メタノールを含む)からの高濃度燃料で直接作動することができる直接酸化燃料電池を提供する。直接酸化燃料電池は、高い電池温度で高濃度燃料を用いて高性能を示す。
【0015】
1つの実施態様では、多孔質輸送構造体を高分子電解質膜のカソード側に設ける。これによって、アノードからカソードへの水のクロスオーバーは極めて少なくなるかまたは負になる。
【0016】
1つの実施態様では、携帯電源用の燃料電池が提供される。別の実施態様では、アノードでの高濃度燃料の直接供給によって作動する直接メタノール型燃料電池が提供される。
【0017】
1つの実施態様では、
触媒層と、
任意選択の微孔質層と、
任意選択のバッキング層と、
導電性の多孔質輸送構造体であって、
多孔質体と、
この多孔質体に接触した不透過性層と、
をこの順序で含む多孔質輸送構造体と、
を、上記の順序で含む、直接酸化燃料電池が提供される。
【0018】
1つの実施態様では、
多孔質体と、
この多孔質体に接触した不透過性層と、
を含んでいる導電性の多孔質輸送構造体を含む直接酸化燃料電池であって、直接酸化燃料電池によって約60〜約80℃の範囲の動作温度において約0.6未満の最終的な水輸送係数(α)が達成される、直接酸化燃料電池が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1つの実施態様では、直接酸化燃料電池は約0.6未満の最終的な水輸送係数(α)を達成する。水輸送係数は、これ未満のあらゆる値および部分範囲の値が含まれ、0.6、0.55、0.5、0.52、0.5、0.45、0.4、0.35、0.33、0.3、0.25、0.2、0.15、0.14、0.1、0.05、0.01、0.00および−0.167を含む。
【0020】
1つの実施態様では、本発明は、60〜約80℃の温度下の活性空気流システム(active air−flowing system)において0.1から−0.167のα値を達成し、そのようにしてアノードでの濃度15〜24Mのメタノールの直接供給が可能となる燃料電池を提供する。
【0021】
従来の直接酸化燃料電池では、カソード側は典型的には、高分子電解質膜に接合されたカソード触媒層、バッキング層(微孔質層を有するかまたは有しない)、およびグラファイト製または金属製の双極板(bipolar plate)の表面に機械加工された平行または蛇行のチャネルを有する流れ場を含んでいる。本発明の1つの実施態様では、カソード側は、カソード触媒層および多孔質輸送構造体を含み、これらの間に挟まれたバッキング層および/または微孔質層を有するかまたは有しない。1つの実施態様では、多孔質輸送構造体は、触媒層に面した1つの開口側と不透過性層で密閉された反対側とを有する多孔質体を含んでいる。図1は、このような多孔質輸送構造体の1つの実施態様を模式的に示している。
【0022】
図1に示すように、多孔質輸送構造体は多孔質体と不透過性層を含んでいる。多孔質輸送構造体は導電性でなければならない。1つの実施態様では、多孔質体と不透過性層は導電性ではない。この実施態様では、多孔質体と不透過性層を貫通するかまたはそれらの周囲にある、あるいは多孔質体と不透過性層を貫通しかつこれらの周囲にある1種以上の導電性材料によって、電気的接触が行われる。別の実施態様では、多孔質体は導電性であり、不透過性層は導電性でない。別の実施態様では、多孔質体は導電性ではなく、不透過性層は導電性である。別の実施態様では、多孔質体と不透過性層の両方が導電性である。本明細書で使用される「多孔質」および「不透過性」という用語は、液体および気体などの流体に関連したものである。
【0023】
1つの実施態様では、多孔質輸送構造体は、多孔質体に接触した1種以上の導電性材料を含んでいる。導電性材料は特に限定されず、導電性材料として、1種またはそれ以上の導電性のピン、ビア、メッシュ、コーティング、およびそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0024】
図1に示されているように、乾燥空気を(例えば、多孔質輸送構造体の左隅の)カソード入口に供給すると、空気は多孔質輸送構造体の多孔質体を通って流れ、かつ/または拡散し、バッキング層および触媒層を透過して、最終的にカソード触媒層内で反応して水を生成する。その後、生成水(product water)は、触媒層およびバッキング層を通って移動して多孔質輸送構造体の多孔質体に入る。排気ガスはカソード出口から除去される。多孔質輸送構造体の1つの機能は、カソード内に水を保持しかつ内部加湿を促進し、それによってアノードからカソードへの水の流れを極めて少なくするかまたは負にすることである。これは、少なくとも一部は、多孔質輸送構造体内の蛇行経路によって達成される。多孔質輸送構造体は、反応物を送り出し、触媒層から生成物を除去するという機能も果たす。多孔質輸送構造体は、アノード側またはカソード側の一方または両方で利用できる。
【0025】
多孔質輸送構造体内の不透過性層は、反応物および生成水が電池から漏れるのを防ぐかまたは実質的に防ぎ、そのようにしてカソード内部の湿気を保ち、それゆえに膜の水輸送係数αを減少させる。図6に示すように不透過性層がカソード触媒層の反対側にある多孔質輸送構造体で構成される電池でαを実験的に測定すると、不透過性表面のないものと比べてαが5〜10倍減少することが確認される。
【0026】
多孔質体の厚さは約100μmから約2mmの間であってよい。多孔質体の厚さは、これらの間のあらゆる値および部分範囲が含まれ、約100、200、300、400、500、600、700、800、900μm、および約1および2mmを含む。携帯機器に関しては、道理に合った範囲内に電池の空気圧降下を維持することを考慮して、下限は100マイクロメートルであることが好ましい。単一電池の体積を小さく保つため(したがって、得られる燃料電池のスタックをコンパクトに保つため)には、上限は2ミリメートルであることが望ましい。
【0027】
1つの実施態様では、多孔質体は約5μm以上の細孔寸法を有する細孔を含む。細孔寸法は、これ以上のあらゆる値および部分範囲が含まれ、約5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95および100μmを含む。
【0028】
1つの実施態様では、多孔質体の多孔率は50%より大きい。多孔率は、これより大きいあらゆる値および部分範囲が含まれ、50、55、60、65、70、75、80、85、90、および95%の多孔を含む。
【0029】
多孔質体は、任意の耐食多孔質材料で好適に作ることができる。多孔質体は、導電性材料、非導電性材料、または導電性材料と非導電性材料の組み合わせで作ることができる。多孔質体材料の幾つかの非限定例として、炭素紙、炭素布、多孔質炭素、金属フォーム、材料または任意の複合材料、あるいはこれらの組み合わせがある。多孔質体は、所望される場合には、1種以上の親水性または疎水性の薬剤で全面的または部分的に処理してよい。このような親水性および疎水性の薬剤は知られており、所望の性質に応じて任意の界面活性剤または表面処理剤を好適に選択することができる。多孔質体は、導電性コーティング、例えば、導電性の金属または炭素コーティングあるいはさらには導電性ポリマーコーティングを有していてもよい。コーティングを組み合わせることも可能である。
【0030】
不透過性層は、任意の不透過性材料で好適に作ることができる。1つの実施態様では、不透過性層は耐食性の不透過性材料で作られる。不透過性層は、任意の導電性材料、非導電性材料、または導電性材料と非導電性材料の組み合わせで作ることができる。1つの実施態様では、不透過性層は、グラファイト、金属、またはこれらの組み合わせで作られる。
【0031】
不透過性層の厚さは、層が液体および気体などの流体に対して不透過性または実質的に不透過性である限り、特に限定されない。不透過性層の厚さは、約30μmから約1mm未満の範囲であってよい。この範囲には、これらの間のあらゆる値および部分範囲が含まれ、約30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、600、700、800、900μm、および約1mm未満を含む。
【0032】
1つの実施態様では、多孔質体は、1つ以上の側面をさらに含み、それは電池から流体が漏れるのを防ぐために1つ以上の側面不透過性壁によって密閉されていてよい。側面不透過性壁は、導電性であってもなくてもよい。1つの実施態様では、側面不透過性壁は不透過性層と同じ材料である。1つの実施態様では、側面不透過性壁は不透過性層とは異なる材料でできている。
【0033】
多孔質輸送構造体はその中に1つ以上のチャネルを含んでもよい。チャネルは、平行、蛇行または相互嵌合(interdigitated)の流れ場を形成してもよい。チャネルはどんな断面を有していてもよい。例えば、矩形、円形、正方形、楕円形、または他の任意の断面でもよい。チャネルは、多孔質輸送構造体の表面上に機械加工されるか、またはその内側の内部に埋め込まれていてよい。
【0034】
1つの実施態様が図2に示されている。この図は、カソード触媒層に面する表面上に機械加工された開口チャネルを有する多孔質輸送構造体を示す。
【0035】
1つの実施態様では、矩形または円形のチャネルが多孔質体の内側に埋め込まれた、図3に示されているようなものなどがある。別の実施態様では、図4に示されているようなものなど、埋め込まれたチャネルは多孔質輸送構造体の開口表面との距離が均一でない。1つの実施態様では、チャネルの中心とカソード触媒層に面した表面との間の距離は、カソード入口領域からその出口領域にかけて減少する。これは、(一つには、入口領域において拡散距離を長くすることにより)入ってくる乾燥空気によって膜が乾燥するのを防ぎ、かつ(一つには、フローチャネル中の空気の酸素含量が低い場所で拡散距離を短くすることにより)出口領域における酸素輸送を改善するためである。チャネルの中心は触媒層からの距離が異なるように配置することができ、かつチャネルから触媒層までの距離は、入口領域での膜の乾燥を防ぐと同時に出口領域での酸素の枯渇を防ぐために調整できる。図4に示すように埋め込まれたチャネルを有する多孔質輸送構造体には、触媒/バッキング層と多孔質輸送構造体との間の界面における接触面積が、従来の電池におけるバッキング層と表面チャネルを有する双極板との間の接触面積よりもかなり大きいため、電池中の接触抵抗が実質的に減少するという付加的な便益がある。
【0036】
1つの実施態様では、チャネルの寸法は、幅が約0.3〜2mm、および深さが約200μm〜約1mmの範囲である。これらの範囲には、これらの間あらゆる値および部分範囲が含まれ、幅約0.3、0.4、0.5、0.75、1、1.25、1.5、1.75および2mm、および深さ約200、300、400、500、600、700、800、900μmおよび1mmを含む。いずれか1つの多孔質輸送構造体内のチャネルまたは幾つかの多孔質輸送構造体におけるチャネルは、寸法が同じであっても異なっていてもよい。
【0037】
1つの実施態様では、多孔質輸送構造体は、図5に示すように種々の多孔質材料で作られた2つ以上の副層からなる複合体であってよい。各副層は、微細構造、細孔寸法、多孔率、湿潤処理(すなわち、親水性または疎水性)、および層の厚さが異なってもよい。これらは、本明細書の教示を組み合わせるならば、当業者によって好適に選択することができる。
【0038】
三次元チャネル構造を有する多孔質輸送構造体は、機械加工、射出成形、押出し成形、粉末からの選択焼結、積層などによって製作できる。
【0039】
図6および7は、多孔質輸送構造体を使用した電池でできている2種類のスタック構成を示す。図6に示されている一方のスタックは、アノード板とカソード板の両方に多孔質輸送構造体を使用し、アノード側とカソード側を隔てた1つの不透過性壁を有している。一方、図7のスタックは、アノード用として従来の固体板を含んでいるが、カソード用には多孔質輸送構造体を含んでいる。その他の組み合わせも企図されている。
【0040】
図8aおよび8bは、多孔質輸送構造体が導電性材料を含みかつ多孔質体部を貫通するチャネルも含んでいる、1つの実施態様の2つの図を示す。図8bは、図8aのA−A’の線に沿った断面図である。この実施態様では、多孔質体は導電性ではなく、不透水層は導電性である。図に示されている導電性材料によって電気的接触が行われる。側面不透過性壁は、導電性であってもなくてもよい。
【0041】
高分子電解質膜は特には限定されず、本明細書の教示と当業者の知識を合わせるならば、公知の膜から好適に選択することができる。高分子電解質膜の幾つかの例として、フッ素化膜または炭化水素膜がある。
【0042】
カソード側は、空気循環式または空気吸込式にすることができる。カソード側から水を回収する必要はない。
【0043】
微孔質層は、存在する場合、特に限定されない。微孔質層の1つの機能は、触媒層と気体拡散層との接触を滑らかにすることである。微孔質層は、多孔質輸送構造体よりもかなり薄いものであり、またかなり小さな細孔を含んでいる。多孔質輸送構造体とは異なり、微孔質層は芯としては機能しない。1つの実施態様では、微孔質層の厚さは約10〜60μmの範囲である。この範囲には、これらの間あらゆる値および部分範囲が含まれ、約10、15、20、25、30、35、40、45、50、55および60μmを含む。1つの実施態様では、微孔質層中の細孔寸法は約50〜100nmの範囲である。この範囲には、これらの間のあらゆる値および部分範囲が含まれ、約50、60、70、80、90および100nmを含む。
【0044】
微孔質層は、好適には炭素粉末およびPTFEで作ることができる。
【0045】
バッキング層は、存在する場合、特に限定されない。バッキング層の1つの機能は、反応物が電極中に分散されるようにすることである。別の機能は、電池中の集電ランド部(current collecting lands)に対して横方向に電子を伝えることである。バッキング層は、生成水をカソードから、また生成物の二酸化炭素をアノードから除去するのにも役立つ。1つの実施態様では、バッキング層の厚さは約50〜400μmの範囲である。この範囲には、これらの間のあらゆる値および部分範囲が含まれ、約50、100、150、175、200、225、250、300、350および400μmを含む。1つの実施態様では、バッキング層の細孔寸法は約10〜30μmの範囲である。バッキング層は、好適には炭素紙、炭素布、またはこれらの組み合わせで作ることができる。
【0046】
1つの実施態様では、燃料電池は、触媒電極層、微孔質層、バッキング層、多孔質輸送構造体をこの順で含み、多孔質輸送構造体は、多孔質体とこの多孔質体に接触した不透過性層とをこの順で含む。触媒電極層は、カソード触媒層またはアノード触媒層であってよい。
【0047】
1つの実施態様では、燃料電池は、触媒電極層、バッキング層、多孔質輸送構造体をこの順で含み、多孔質輸送構造体は多孔質体とこの多孔質体に接触した不透過性層とをこの順で含む。触媒電極層は、カソード触媒層またはアノード触媒層であってよい。
【0048】
1つの実施態様では、燃料電池は、触媒電極層、微孔質層、多孔質輸送構造体をこの順で含み、多孔質輸送構造体は多孔質体とこの多孔質体に接触した不透過性層とをこの順で含む。触媒電極層は、カソード触媒層またはアノード触媒層であってよい。
【0049】
アノードおよびカソードの触媒層は特には限定されず、本明細書の教示があれば、必要以上に実験作業を行わなくとも同業者が好適に選択できる。1つの実施態様では、アノードにPt−Ru触媒が使用され、カソードにPt触媒が使用される。
【0050】
高分子電解質膜は特に限定されず、本明細書の教示があれば、必要以上に実験作業を行わなくとも同業者が好適に選択できる。1つの実施態様では、高分子電解質膜はナフィオン(Nafion)(登録商標)膜である。
【0051】
燃料電池は、直接酸化燃料電池に用いるのに好適な任意の燃料で作動しうる。このような燃料の例としては、メタノール、エタノール、その他のアルコール、ギ酸、ジメチルエーテル、それらの水溶液、およびこれらの組み合わせがある。1つの実施態様では、メタノール水溶液または純メタノールのいずれかが燃料として使用される。燃料電池では、水中での濃度範囲1〜24Mのメタノール、またはこれらの間の任意の濃度のメタノール燃料を好適に使用できる。例えば、濃度1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23および24Mのメタノールを使用できる。1つの実施態様では、メタノールの濃度範囲は10〜24Mである。別の実施態様では、濃度範囲15〜24Mのメタノールを使用できる。1つの実施態様では、燃料は30重量%のメタノール水溶液である。別の実施態様では、燃料は純粋なメタノールまたは実質的に純粋なメタノールである。
【0052】
1つの実施態様では、燃料電池は、100mW〜100Wの電力を提供し、その範囲には、100、200、300、400、500、600、700、800、または900mW、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100W、あるいは任意の値が含まれ、これらの間の任意の非整数値、またはこれらの任意の組み合わせも含まれる。
【0053】
1つの実施態様では、膜電極接合体が提供され、これは、アノード、カソード、これらの間にあるプロトン伝導性膜電解質、およびカソード側、アノード側、またはその両側にある1つ以上の多孔質輸送構造体を含んでいる。
【0054】
1つの実施態様は、多孔質輸送構造体を含む直接メタノール型燃料電池を提供する。
【0055】
複数のスタックを含むことができる燃料電池は、公知の方法に従って組み立てることができる。
【0056】
燃料電池は、任意の電子装置または他の装置の電源として、例えば、交換用バッテリー、追加バッテリー(battery supplement)、またはバッテリー・バックアップとして好適である。電子装置の一部の非限定例として、コンピューター、携帯情報端末、携帯電話、カメラ、携帯音楽装置、携帯ゲーム機、またはそれらの組み合わせがある。燃料電池を応用できるその他の装置として、発電機、自動車、オートバイ、スクーター、家庭電化製品、またはそれらの組み合わせがある。1つの実施態様では、燃料電池は、電力源として機能するように装置に電気的に接続される。
【0057】
1つの実施態様では、装置または燃料電池は、燃料を貯蔵し、かつ/または燃料を燃料電池へ送り出すための1つ以上の手段、例えば、燃料カートリッジ、燃料タンク、または燃料経路(fuel line)、あるいはこれらの組み合わせを好適に含むことができる。例えば、燃料電池は、特許文献2(すでに本明細書に援用されているもの)に開示されているような複式ポンプアノードシステムを実装することができる。
【0058】
燃料電池は、特許文献1(すでに本明細書に援用されているもの)に開示されているような風上水障壁(upwind water barrier)を実装することもできる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、説明の目的のために示すだけであり、特に明記されていない限り、限定することを意図するものではない。
【0060】
12cmの作用面積(active area)を有する、本発明の1つの実施態様による燃料電池を作製した。カソードバッキング層は、30μmの厚さの微孔質層(MPL)を有する、300μmの厚さの炭素布の気体拡散層(GDL)であった。カソードの多孔質輸送構造体は、図2に示すように表面上に機械加工された正方形の開口チャネルを有する多孔質炭素ブロックであった。アノードのバッキング層は、厚さが260μmの東レ(Toray)の炭素紙TGPH090であった。アノードの双極板は、従来の二路式蛇行流れ場(two−pass serpentine flowfield)であった。膜電極接合体(MEA)は、アノードバッキング層とカソードバッキング層を触媒の塗布されたナフィオン(登録商標)112膜にホットプレスすることにより作製した。アノード上のPt−Ruブラックの塗布量およびカソード上のPtブラック(ジョンソン・マッセイ・カンパニー(Johnson Matthey Company)の1つであるアルファ・エイサー社(Alfa Aesar))の塗布量はそれぞれ5.8mg/cmおよび4.9mg/cmであった。電池は、アノードおよびカソードがそれぞれ2Mメタノールおよび乾燥空気のときに、60℃で作動した。
【0061】
例示された電池と同じであるが、ただし、カソードの多孔質輸送構造体の代わりに従来の溝を有する固体双極板を用いた比較電池を作製した。
【0062】
図9は、例示的電池および比較電池のそれぞれにおける、測定された膜の水輸送係数(α)を示している。例示的電池の水輸送係数は、0.1より小さく、空気流量の影響を受けない。例示的実施態様で観察されたα値は、多孔質輸送構造体のない比較例で観察された値よりも約5〜10倍小さい。
【0063】
図10は、2Mのメタノール燃料を供給し60℃で作動させている間に150mA/cmで放電させた12cmの電池の電圧曲線を示す。カソードの空気化学量論量が2から3の間では、測定された電池電圧は0.36〜0.41Vの範囲であり、電力密度は54〜61.5mW/cmの範囲である。例示された実施態様の水のクロスオーバー係数を測定すると、カソード側に多孔質輸送構造体がなく、それ以外はすべて同じ条件および同じ電池構造である従来のDMFCにおける0.6と比べて、0.056〜0.09となった。
【0064】
したがってこの実施例は、アノードからカソードへの水の流れを少なくするかまたは反対方向にする点で、それゆえに、カソード排気から水を回収することなく、濃縮燃料を使用できるという点で、本発明の効果性を実証している。
【0065】
本発明について十分に説明したので、本明細書に非常に具体的に説明された詳細に頼らなくとも、本発明を実施できることは明らかなはずである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の1つの実施態様の略図を示す。
【図2】本発明の別の実施態様の略図を示す。
【図3】本発明の別の実施態様の略図を示す。
【図4】本発明の別の実施態様の略図を示す。
【図5】本発明の別の実施態様の略図を示す。
【図6】本発明の別の実施態様の略図を示す。
【図7】本発明の別の実施態様の略図を示す。
【図8】本発明の別の実施態様の2つの図を示しており、図8bは図8aのA−A’の線に沿った断面図である。
【図9】例示した本発明の実施態様および比較例に関する、測定された最終的な水輸送係数(α)対カソード空気化学量論量(air stoichiometry)または流量のグラフを示す。
【図10】60℃において150mA/cmで放電した例示の本発明の実施態様における電圧曲線のグラフを示す。説明文中の「α=0.09、0.085、および0.056」のデータはそれぞれグラフの中の上部、中間、下部の曲線に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層と、
任意選択の微孔質層と、
任意選択のバッキング層と、
導電性の多孔質輸送構造体であって、
多孔質体と、
前記多孔質体に接触した不透過性層と、
をこの順序で含む多孔質輸送構造体と、
を上記の順序で含む、直接酸化燃料電池。
【請求項2】
前記多孔質体が導電性である、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項3】
前記多孔質輸送構造体が、前記多孔質体に接触した1種以上の導電性材料をさらに含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項4】
前記導電性材料が、導電性のピン、ビア、メッシュ、コーティング、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項3に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項5】
前記不透過性層が導電性である、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項6】
前記多孔質体の厚さが約100μm〜約2mmである、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項7】
前記多孔質体が約5μm以上の細孔寸法を有する細孔を含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項8】
前記多孔質体が、炭素紙、炭素布、多孔質炭素、金属フォーム、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項9】
前記多孔質体が1つ以上の多孔質体副層をさらに含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項10】
前記多孔質体が、1つ以上の側面不透過性壁によって密閉されている1つ以上の側面をさらに含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項11】
前記側面不透過性壁が導電性ではない、請求項10に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項12】
前記側面不透過性壁が前記導電性の不透過性層と同じ材料で構成されている、請求項10に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項13】
前記多孔質輸送構造体がその中に1つ以上のチャネルをさらに含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項14】
前記多孔質輸送構造体がその中に複数のチャネルをさらに含み、前記チャネルは入口領域を出口領域に接続しており、および前記チャネルと前記触媒層との間の距離は前記入口領域から前記出口領域に向かって減少している、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項15】
前記多孔質輸送構造体がその中に複数のチャネルをさらに含み、前記チャネルが前記触媒層に対して均一な距離になっていない、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項16】
前記不透過性層が、グラファイト、金属、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項17】
カソード排気をさらに含み、かつ前記カソード排気から水を回収することなく作動するように構成されている、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項18】
前記直接酸化燃料電池によって約0.6未満の最終的な水輸送係数(α)が達成される、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項19】
前記触媒層がカソード触媒層である、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項20】
前記微孔質層、前記バッキング層、またはその両方をさらに含む、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項21】
直接メタノール型燃料電池である、請求項1に記載の直接酸化燃料電池。
【請求項22】
電源として請求項1に記載の直接酸化燃料電池を含むデバイス。
【請求項23】
コンピューター、携帯情報端末、携帯電話、カメラ、携帯音楽装置、携帯ゲーム機、発電機、自動車、オートバイ、スクーター、家庭電化製品、およびこれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
多孔質体と、
前記多孔質体に接触した不透過性層と、
を含む導電性の多孔質輸送構造体を含む直接酸化燃料電池であって、
前記直接酸化燃料電池によって約60〜約80℃の範囲の動作温度において約0.6未満の最終的な水輸送係数(α)が達成される、直接酸化燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−26762(P2009−26762A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−186620(P2008−186620)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(501456515)ザ ペン ステート リサーチ ファウンデイション (15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】