説明

炉上部炉心筒

【課題】炉心筒下部側に対して炉心筒上部側の温度を下げられる範囲を広げることが出来る炭素化炉の炉上部炉心筒を提供する。
【解決手段】炉内を鉛直方向に上方から下方に走行する原料繊維4を焼成して炭素繊維にする炭素化炉の原料繊維入口部に形成されてなる炉上部炉心筒2を、その外側面6a、6bにヒーター10a〜10fを設置し、外側壁のヒーター非設置部分に放熱用切欠き溝12a〜12xを設置して形成させる。この構成にすることにより、炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bの表面積を大きくすることができ、炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bからの放熱量を、炉下部炉心筒からの伝熱による蓄熱量よりも多くすることができ、炉心筒下部側に対して炉心筒上部側の温度を下げられる範囲を広げることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を製造する縦型の熱処理炉の原料繊維入口部に形成されてなる炉上部炉心筒に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造工程においては、アクリル繊維等の前駆体繊維を耐炎化し、得られた耐炎化繊維を原料繊維とし、これを炭素化して炭素繊維とする。原料繊維を炭素化する熱処理炉(炭素化炉)としては大きく分けて、熱処理室内に耐炎化繊維を水平方向に沿って供給する横型炭素化炉(例えば、特許文献1参照)と、熱処理室内に耐炎化繊維を上方から下方、即ち鉛直方向に沿って供給する縦型炭素化炉(例えば、特許文献2参照)とがある。
【0003】
横型炭素化炉は、熱処理室内を走行する原料繊維を支持する手段を必要とするため、熱処理室が大きくなり、惹いては炉全体が複雑化、大型化する。これに対し、縦型炭素化炉は、熱処理室(炉心筒)内を走行する原料繊維を支持する手段を特に必要とはしないため、炉全体の複雑化、大型化を回避できる。
【特許文献1】特開平11−293526号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭58−126316号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
縦型炭素化炉では炉心筒内における温度勾配及び/又は炉上部の炉心筒内における温度勾配が、炭素繊維製品の性能に大きく関与すると考えられる。そこで、本発明者は図2に示す炉上部炉心筒の構造に特徴を有する縦型炭素化炉を新たに製造し、この炭素化炉を用いて炭素繊維を製造することを試みた。
【0005】
図2において、(A)は上記炉上部炉心筒の正面断面図であり、(B)はその側面図である。図2中、22は水平方向断面が長方形の炉上部炉心筒である。互いに平行に並んで供給される原料繊維24は、炉上部炉心筒22内を鉛直方向に上方から下方に走行した後、炉上部炉心筒22に接続され、炉上部炉心筒22内よりも高温に加熱された炉下部炉心筒(不図示)内を鉛直方向に上方から下方に走行し、熱処理(炭素化処理)されて炭素繊維が製造される。
【0006】
炉上部炉心筒22内に温度勾配を設けるため、炉上部炉心筒22の外側壁26a、26bに長手方向を水平にして穿設した切欠き溝28a、28b、28c、28d、28e、28fを形成し、この切欠き溝に棒状のヒーターを複数本(図2の例では30a、30b、30c、30d、30e、30fの6本)埋込むと共に、各ヒーター出力を調節できるようにしている。なお、炉心筒の材料には耐熱性、伝熱性が高いことからグラファイトを使用している。
【0007】
しかし、上記炭素化炉においては炉上部炉心筒22のヒーター30a〜30jの出力を落としても、炉下部炉心筒のヒーター出力は常に高く保たれているため、炉下部炉心筒からの伝熱により炉上部炉心筒22にも蓄熱される。その際、炉上部炉心筒22から外部に放出する放熱量に限界があるため、炉上部炉心筒22内温度勾配を最適にすることは困難で、炉上部炉心筒22の上部側の温度を下げられる範囲には限界がある。
【0008】
そのため、炭素繊維の製品銘柄によっては、炉下部炉心筒の長さやヒーター仕様等の異なる炭素化炉を有する機台の中から選定して生産する必要があり、多種の製品銘柄の炭素繊維を製造する場合、その製造条件の合致し得る機台が限定され、効率の悪い問題がある。
【0009】
本発明者は、縦型炭素化炉の炉心筒内における温度勾配及び/又は炉上部の炉心筒内における温度勾配について更に検討を重ねるうちに、炉上部炉心筒の外側壁において、ヒーター非設置部分に切欠き溝を設けることに想到した。この構造によれば、炉上部炉心筒の外側壁の表面積を大きくすることができ、放熱量が多くなって炉上部炉心筒22の上部側の温度を下げられる範囲を広げることが出来る。
【0010】
また、ヒーター非設置部分に切欠き溝を設けることは、炉心筒の材料であるグラファイトの使用量を低減することが出来ることも知得し、本発明を完成するに到った。従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した炉上部炉心筒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0012】
〔1〕 炉内を鉛直方向に上方から下方に走行する原料繊維を焼成して炭素繊維を製造する炭素化炉の原料繊維入口部に形成されてなる炉上部炉心筒であって、炉上部炉心筒壁に形成したヒーター埋込み溝にヒーターが埋込まれると共に、放熱用切欠き溝が形成されてなる炉上部炉心筒。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、縦型炭素化炉の原料繊維入口部に形成されてなる炉上部炉心筒が、その外側壁のヒーター非設置部分に切欠き溝が形成されてなるので、炉上部炉心筒の外側壁の表面積を大きくすることができ、炉上部炉心筒の外側壁からの放熱量を多くすることができる。その結果、炉心筒下部側の温度の影響を削減し、炉心筒上部側の温度を下げられる。
【0014】
これにより、炉心筒上部側の炉心筒内温度勾配の設定幅が拡がり、製造される炭素繊維の性能を広い範囲で操作できる。即ち、製品銘柄によって機台を変える必要がなくなり、同じ機台において多種の製品銘柄の炭素繊維を製造することが出来る。
【0015】
また、ヒーター非設置部分に放熱用切欠き溝を設けることは、炉心筒の材料であるグラファイトの重量を低減することを可能にし、惹いては炭素化炉に関わる基礎や補強材といった設備費を低減することを可能にしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の炉上部炉心筒の一例を示す概略図であり、(A)はその正面断面図であり、(B)はその側面図である。図1中、2は水平方向断面が長方形の炉上部炉心筒である。原料繊維4は、互いに平行に並んで炉上部炉心筒2内を鉛直方向に上方から下方に走行した後、炉上部炉心筒2内よりも高温に加熱された炉下部炉心筒(不図示)内を鉛直方向に上方から下方に走行し、熱処理(炭素化処理)されて炭素繊維が製造される。
【0018】
炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bには、長手方向を水平にして穿設したヒーター埋込み用切欠き溝8a、8b、8c、8d、8e、8fが形成されている。前記切欠き溝8a〜8f内には、棒状のヒーターを複数本(図1の例では10a、10b、10c、10d、10e、10fの6本)埋込まれている。なお、これらヒーター10a〜10fは不図示の制御部により各ヒーター出力を調節できるようにしている。
【0019】
なお、炉心筒の材料には耐熱性、伝熱性が高いことからグラファイトを使用している。ヒーターは、導電部の材質にカーボン及び/又はグラファイトが使用され、絶縁部の材質にアルミナ絶縁体が使用されている。
【0020】
上記構成に加えて本例の炉上部炉心筒2においては、その外側壁6aのヒーター非設置部分に放熱用切欠き溝12a、12b、12c、12d、12e、12f、12g、12h、12i、12j、12k、12l、外側壁6bのヒーター非設置部分に放熱用切欠き溝12m、12n、12o、12p、12q、12r、12s、12t、12u、12v、12w、12x[なお、放熱用切欠き溝12m〜12xは図1(B)では裏側になるため、図1(A)において12m、12q、12uのみ図示]を設けている。
【0021】
放熱用切欠き溝の具体的な形状は、図1に例示するように、炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bに、放熱用切欠き溝の鉛直方向断面形状が開口部を炉外側に向けたコ字状に形成されている。
【0022】
放熱用切欠き溝の具体的な形状及び寸法、それに伴う炉上部炉心筒外側壁の表面積は、目標とする温度勾配に応じた蓄熱量及び放熱量に合わせて例えば次式
Q = UA(Ti−T0)
Q : 炉内から外気へ放出放出される熱量
U : 総括伝熱係数
A : 壁面面積
i : 炉内温度
0 : 外気温度
を用いて設計することが出来る。
【0023】
本発明を適用できる炭素化炉は、炉上部炉心筒長さの炉心筒全長(炉上部炉心筒長さ+炉下部炉心筒長さ)に対する比率が20〜50%のものが好ましい。
【0024】
例えば、鉛直方向高さ2.0〜5.0mの炉上部炉心筒において、炉上部炉心筒の厚さは、上部10〜60%の部分では100〜1200mmが好ましく、残部の下部では厚さ最大の部分で150〜2500mm、放熱用切欠き溝の最深の部分で100〜1800mm、即ち放熱用切欠き溝の深さは25〜350mmが好ましい。放熱用切欠き溝の鉛直方向高さは、ヒーター非設置部分の鉛直方向高さの10〜75%が好ましい。
【0025】
放熱用切欠き溝の水平方向幅は、炉上部炉心筒外側壁の水平方向幅まで構造上は可能であるが、外側壁の強度を考慮に入れると、炉上部炉心筒外側壁の水平方向幅の1/2より短い幅の放熱用切欠き溝を複数個(図1の例では4個)直列に穿設することが好ましい。
【0026】
なお、ヒーター埋込み用切欠き溝は、深さ25〜250mm、鉛直方向高さ25〜350mmが好ましい。
【0027】
以上のような構成にすることにより、炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bの表面積を大きくすることができ、炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bからの放熱量を、炉下部炉心筒からの伝熱による蓄熱量よりも多くすることができ、炉心筒下部側に対して炉心筒上部側の温度を下げられる範囲を広げることが出来る。
【0028】
また、ヒーター10a、10b、10c、10d、10e、10fの出力を調節することにより、炉心筒上部側における温度勾配を操作することが出来る。
【0029】
なお、図1の例ではヒーターは、ヒーター埋込み用切欠き溝1個につきヒーター埋込み用切欠き溝水平方向幅より少し短いヒーター1本を設置したが、これに限らずヒーター埋込み用切欠き溝1個につきヒーター埋込み用切欠き溝水平方向幅の1/2より短いヒーターを複数本直列に設置することも可能である。
【0030】
更に、この放熱用切欠き溝の断面形状としては、上記コ字状以外にも、半円状、又はV状のものでも良い。また、コ字状の場合、溝頂部の幅と溝底部の幅とが同じものでも良い。炉上部炉心筒2の外側壁6a、6bにおける開口部の形状は任意で、例えば、筋状、ひし形状、丸状のものを用いることができる。
【0031】
また更に、放熱用切欠き溝がヒーター埋込み用切欠き溝よりも浅くても良い。また、本発明の炉上部炉心筒の形態は図1の形態だけではなく、本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【実施例】
【0032】
実施例1
図1に示す炭素化炉を用いて炭素繊維を製造した。
【0033】
この炭素化炉における炉心筒の鉛直方向高さは、炉上部炉心筒で3.8m、炉下部炉心筒で6.5mであった。炉上部炉心筒の厚さは、上部1.46m(38%)までの部分で800mm、残部の下部における厚さ最大の部分で2000mm、放熱用切欠き溝の最深の部分で1400mm、即ち放熱用切欠き溝の深さは300mmであった。放熱用切欠き溝の鉛直方向高さは、ヒーター非設置部分の鉛直方向高さの25%であった。なお、ヒーター埋込み用切欠き溝は、深さ200mm、鉛直方向高さ300mmであった。
【0034】
この炭素化炉の炉心筒に原料繊維を通して炭素繊維を製造したところ、炉心筒の温度分布は、炉上部炉心筒頂部で500℃、炉上部炉心筒中央部で600〜900℃、炉下部炉心筒中央部で1400℃と温度勾配の操作幅が大きいものであった。また、得られた炭素繊維は、引張り強度が4900〜5400MPaの間で幅広く操作可能であった。
【0035】
比較例1
図2に示す炭素化炉を用いて炭素繊維を製造した。
【0036】
この炭素化炉における炉心筒の鉛直方向高さは、炉上部炉心筒で3.8m、炉下部炉心筒で6.5mであった。炉上部炉心筒の厚さは、上部1.46m(38%)までの部分で800mm、残部の下部における厚さはヒーター非設置部分で2000mmであった。なお、ヒーター埋込み用切欠き溝は、深さ200mm、鉛直方向高さ300mmであった。
【0037】
この炭素化炉の炉心筒に原料繊維を通して炭素繊維を製造したところ、炉心筒の温度分布は、炉上部炉心筒頂部で500℃、炉上部炉心筒中央部で700〜900℃、炉下部炉心筒中央部で1400℃と温度勾配の操作幅が小さいものであった。また、得られた炭素繊維は、引張り強度が5300〜5400MPaと限定された範囲でのみ製造可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の炉上部炉心筒の一構成例を示す概略図であり、(A)はその正面断面図であり、(B)はその側面図である。
【図2】比較例1で用いた炉上部炉心筒を示す概略図であり、(A)はその正面断面図であり、(B)はその側面図である。
【符号の説明】
【0039】
2、22 炉上部炉心筒
4、24 原料繊維
6a、6b、26a、26b 炉上部炉心筒の外側壁
8a、8b、8c、8d、8e、8f、28a、28b、28c、28d、28e、28f ヒーター埋込み用切欠き溝
10a、10b、10c、10d、10e、10f、30a、30b、30c、30d、30e、30f ヒーター
12a、12b、12c、12d、12e、12f、12g、12h、12i、12j、12k、12l、12m、12n、12o、12p、12q、12r、12s、12t、12u、12v、12w、12x 放熱用切欠き溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内を鉛直方向に上方から下方に走行する原料繊維を焼成して炭素繊維を製造する炭素化炉の原料繊維入口部に形成されてなる炉上部炉心筒であって、炉上部炉心筒壁に形成したヒーター埋込み溝にヒーターが埋込まれると共に、放熱用切欠き溝が形成されてなる炉上部炉心筒。

【図1】
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【図2】
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