説明

炎感知器

【課題】素子の前面に設けられたバンドパスフィルタに不要な波長帯域の光を直接照射させないようにして、バンドパスフィルタの温度上昇を防止し、精度よく炎を検知する。
【解決手段】本体と、該本体の開口部を覆う保護フィルタと、該本体内に設けられ、特定波長の赤外線を透過するバンドパスフィルタを前面に有し、前記保護フィルタ及び前記バンドパスフィルタを介して炎から発生する赤外線を検出する素子を内部に収容した素子筐体とを備えてなる炎感知器において、前記保護フィルタの裏面側に、可視光線及び近赤外線をカットする蒸着膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炎感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
炎感知器の従来例としては、例えば特開2001−356047号公報(特許文献1)に記載のものがある。同公報の炎感知器は、CO2共鳴放射の波長帯の赤外線である例えば概ね4.4〜4.5μm付近の赤外線を透過し、例えばシリコンを基材とする第1の狭帯域バンドパスフィルタとその透過光を受光する第1の受光素子を備えたセンサ部Aと、CO2共鳴放射の波長帯近傍の赤外線である概ね5.0μm付近の赤外線を透過し、例えばシリコンを基材とするする第2の狭帯域バンドパスフィルタとその透過光を受光する第2の受光素子を備えたセンサ部Bとを備え、これらセンサ部A、Bの前面には、サファイアガラス等の赤外線透光性の部材により形成された共通の保護フィルタが設けられている。
【0003】
これにより、第1の受光素子には、第1の狭帯域バンドパスフィルタで設定された4.4〜4.5μm付近の赤外線に基づいたセンサ出力が生じ、また、第2の受光素子には、第2の狭帯域バンドパスフィルタで設定された5.0μm付近の赤外線に基づいたセンサ出力が生じ、この第1の受光素子のセンサ出力と第2のセンサ出力との比率を演算する等の所定のアルゴリズムを用いて、火災を検出している。
【特許文献1】特開2001−356047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サファイアガラスは概ね0.3〜7.6μmの放射光を透過する。つまり、赤外線の他に、可視光線及び近赤外線も透過するので、第1及び第2の狭帯域バンドパスフィルタには、可視光線及び近赤外線が直接照射されることとなる。しかしながら、第1及び第2の狭帯域バンドパスフィルタの基材であるシリコンは、物性上、概ね1.1μmを境に長波長側を多く透過し、短波長側を多く吸収する性質があるため、シリコン基材に吸収された可視光線及び近赤外線の光エネルギーは熱に変換され、シリコン基材の温度変化を第1及び第2の受光素子が検出してしまい、本来感度を抑制しなければならない可視光線、近赤外線に対して感度を持ってしまうという問題があった。特に、炎感知器の設置環境には、太陽光や電球などの誤報要因が存在し、これらから放射される可視光線及び近赤外線の強度は非常に大きいため、センサ出力に占めるノイズ成分が非常に大きくなり、精度よく火災を検出することができなかった。これは、4.4〜4.5μm付近の赤外線に基づいた火災検出を行う1波長式の炎感知器や、その他の多波長式の炎感知器についても同様の問題点である。
【0005】
したがって、この発明では、素子の前面に設けられたバンドパスフィルタに不要な波長帯域の光を直接照射させないようにして、バンドパスフィルタの温度上昇を防止し、精度よく炎を検知することができる炎感知器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の請求項1に係る炎感知器は、本体と、該本体の開口部を覆う保護フィルタと、該本体内に設けられ、特定波長の赤外線を透過するバンドパスフィルタを前面に有し、前記保護フィルタ及び前記バンドパスフィルタを介して炎から発生する赤外線を検出する素子を内部に収容した素子筐体とを備えてなる炎感知器において、前記保護フィルタの裏面側に、可視光線及び近赤外線をカットする蒸着膜が形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、この発明の請求項2に係る炎感知器は、前記バンドパスフィルタの基材はシリコン基材で構成され、前記保護フィルタの裏面側に形成された蒸着膜は、前記シリコン基材の最短透過波長よりも長い波長までカットする膜で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る炎感知器は、保護フィルタの裏面側に、可視光線及び近赤外線をカットする蒸着膜が形成されているので、素子の前面に設けられたバンドパスフィルタには、可視光線及び近赤外線の不要な波長帯域の光が直接照射されず、バンドパスフィルタを構成する基材が不要な波長帯域の光を吸収することによって起こる、バンドパスフィルタの温度上昇が防止され、素子にはバンドパスフィルタで設定した帯域の波長の赤外線のみに基づくセンサ出力が生じるため、精度よく炎を検知することができる。
【0009】
また、現場に設置された炎感知器は、外側が塵埃等によって汚れることもあり、清掃によって傷がついてしまうこともあるが、蒸着膜は、保護フィルタの裏面にのみ蒸着されるので、環境耐久性に優れる。
【0010】
また、請求項2に係る炎感知器は、蒸着膜が、バンドパスフィルタの基材であるシリコン基材の最短透過波長である概ね1.1μmよりも長い波長、例えば1.8μmまでカットする膜で構成される。シリコン基材は、1.1μmよりも短波長側の放射光ほどの吸収率ではないが、1.1μmよりも長波長側の放射光も吸収する。そのため、蒸着膜をシリコン基材の最短透過波長よりも長い波長までカットする膜で構成して、より広い近赤外線の波長帯域をバンドパスフィルタに直接照射させないようにすることで、バンドパスフィルタを構成する基材が不要な波長帯域の光を吸収することによって起こる、バンドパスフィルタの温度上昇がより防止される。
【0011】
なお、バンドパスフィルタに可視光線及び近赤外線の不要な波長帯域の光を直接照射させない構成として、バンドパスフィルタと保護フィルタとの間に別のシリコン基材を介在させる方法も考えられるが、別のシリコン基材は1.1μmよりも長い波長の近赤外線を透過し、バンドパスフィルタの温度上昇が生じるため、本発明のほうが簡易な構成で、より効果的にバンドパスフィルタの温度上昇を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1はこの発明を利用した炎感知器の構成を示す断面図であり、図2はこの発明を利用した炎感知器の構成を示す正面図である。
【0013】
図において、炎感知器1は、表カバー3と表カバー3の内面から立設された隔壁3a上を覆う裏カバー2とからなる本体としてのケース4を備えており、図示しない取り付けベースに結合されて天井面等に取り付けられる。
【0014】
ケース4内に収納されるプリント基板5には、それぞれ受光素子8b、9bが内蔵される素子筐体8、9が搭載されている。この素子筐体8、9の最前面には、バンドパスフィルタ8a、9aが設けられている。
【0015】
このバンドパスフィルタ8a、9aは、特定の波長帯の赤外線のみを透過させるものであり、例えば、バンドパスフィルタ8aは、炎から放射されるCO2共鳴放射の波長帯の赤外線である概ね4.4〜4.5μm付近の赤外線のみを通過させるために、概ね1.1μm以上の放射光を透過させるシリコン基材の両面に概ね4.4〜4.5μm付近の赤外線のみを通過させる蒸着膜を形成したものであり、また、バンドパスフィルタ9aは、炎から放射されるCO2共鳴放射の波長帯近傍の赤外線である概ね5.0μm付近の赤外線のみを通過させるために、シリコン基材の両面に概ね5.0μm付近の赤外線のみを通過させる蒸着膜を形成したものである。
【0016】
表カバー3は、外殻円筒形でその表面側の中央部に窓部となる開口部6が形成されており、この開口部6を裏面から覆うように保護フィルタとしての例えばサファイアガラス7が固定されている。この開口部6によって、受光素子8b、9bの視野角が決定されている。
【0017】
サファイアガラス7は、概ね0.3〜7.6μmの放射光を透過させるものであり、このサファイアガラス7の裏面には、蒸着によって積層された蒸着膜7aが形成されている。蒸着膜7aは、バンドパスフィルタ8a、9aのシリコン基材によって吸収される下限カットオフ波長である概ね1.1μmよりも短波長側の波長帯域の、可視光線及び近赤外線をカットするだけでなく、波長1.1μmよりも長波長側である波長、例えば、1.8μmの波長までをカットするように設定されている。
【0018】
素子筐体8は、ホルダ13内に収容され、例えば焦電体のような素子である受光素子8b、9bが、表カバー3の開口部6との相対位置に位置する如く、プリント基板5に搭載されている。プリント基板5は、表カバー3とその隔壁3a上を覆う裏カバー2により形成された収容部3b内に収容されている。サファイアガラス7の蒸着膜7aが収容部3b内に位置することによって、蒸着膜7aは、塵埃等による汚れや、清掃による傷がつくことがなく、環境耐久性に優れている。
【0019】
以上のような構成の炎感知器1における炎検知について説明すると、まず、サファイアガラス7に、火災による炎から発生する放射光の他に、誤報要因である太陽光、電球等から放射される可視光線及び近赤外線を含む外部からの放射光が照射される。サファイアガラス7は、概ね0.3〜7.6μmの放射光を透過するが、裏面に形成された蒸着膜7aにより、概ね0.3〜1.8μmの可視光線及び近赤外線がカットされた概ね1.8〜7.6μmの波長の放射光のみが収容部3b内に透過されることになる。
【0020】
バンドパスフィルタ8a、9aには、概ね1.8〜7.6μmの波長の放射光が照射される。そして、CO2共鳴帯の波長である概ね4.4〜4.5μm付近の赤外線のみがバンドパスフィルタ8aを透過し、また、CO2共鳴帯近傍の波長である概ね5.0μm付近の赤外線のみがバンドパスフィルタ9aを透過して、受光素子8b、9bに到達するが、その際、シリコン基材によって大きい吸収率で吸収される下限カットオフ波長である概ね1.1μmよりも短波長側の放射光及び1.1μmよりも短波長側の放射光ほどの大きい吸収率ではないが吸収がある概ね1.1〜1.8μmの放射光からなる、可視光線及び近赤外線の不要な波長帯域の光が直接照射されないので、バンドパスフィルタ8a、9aは、シリコン基材の温度上昇が防止されて、バンドパスフィルタ8a、9aで設定した帯域の波長の赤外線のみに基づいたセンサ出力が受光素子8b、9bに生じる。そして、受光素子8bのセンサ出力と受光素子9bのセンサ出力との比率を演算する等の所定のアルゴリズムを用いて、炎の発生を感知することで、精度よく炎を検知することができるようになっている。
【0021】
この実施形態における炎感知器1は、本体としてのケース4と、該ケース4の開口部6を覆う保護フィルタとしてのサファイアガラス7と、該ケース4内に設けられ、特定波長の赤外線を透過するバンドパスフィルタ8a、9aを前面に有し、サファイアガラス7及びバンドパスフィルタ8a、9aを介して炎から発生する赤外線を検出する受光素子8b、9bを内部に収容した素子筐体8、9とを備えてなる炎感知器1において、サファイアガラス7の裏面側に、可視光線及び近赤外線をカットする蒸着膜7aが形成されている。
【0022】
そして、サファイアガラス7に形成された蒸着膜7aによって、バンドパスフィルタ8a、9aに可視光線及び近赤外線の不要な波長帯域の光を直接照射させないようにすることができ、バンドパスフィルタ8a、9aを構成する基材が不要な波長帯域の光を吸収することによって起こる、バンドパスフィルタ8a、9aの温度上昇が防止される。そのため、受光素子8b、9bにはバンドパスフィルタ8a、9aで設定した帯域の波長の赤外線のみを通過させて、バンドパスフィルタ8a、9aで設定した帯域の波長の赤外線のみに基づくセンサ出力が生じるため、精度よく炎を検知することができる。
【0023】
また、現場に設置された炎感知器1は、外側が塵埃等によって汚れることもあり、清掃によって傷がついてしまうこともあるが、蒸着膜7aは、サファイアガラス7の裏面にのみ蒸着されるので、環境耐久性に優れる。
【0024】
また、この炎感知器1は、バンドパスフィルタ8a、9aの基材はシリコン基材で構成され、サファイアガラス7の裏面側に形成された蒸着膜7aは、シリコン基材の最短透過波長である概ね1.1μmよりも長い波長、例えば1.8μmまでカットする膜で構成される。
【0025】
シリコン基材は、1.1μmよりも短波長側の放射光ほどの吸収率ではないが、1.1μmよりも長波長側の放射光も吸収する。そのため、蒸着膜7aをシリコン基材の最短透過波長よりも長い波長までカットする膜で構成して、より広い近赤外線の波長帯域をバンドパスフィルタ8a、9aに直接照射させないようにすることで、バンドパスフィルタ8a、9aを構成するシリコン基材が不要な波長帯域の光を吸収することによって起こる、バンドパスフィルタ8a、9aの温度上昇がより防止される。
【0026】
なお、バンドパスフィルタ8a、9aに可視光線及び近赤外線の不要な波長帯域の光を直接照射させない構成として、バンドパスフィルタ8a、9aとサファイアガラス7との間に別のシリコン基材を介在させる方法も考えられるが、別のシリコン基材は1.1μmよりも長い波長の近赤外線を透過し、バンドパスフィルタ8a、9aの温度上昇が生じるため、本発明のほうが簡易な構成で、より効果的にバンドパスフィルタ8a、9aの温度上昇を防止することができる。
【0027】
また、蒸着膜7aがカットする下限カットオフ波長は、上述の1.8μmに限定されず、炎感知器1が有する上述の設定された検出波長帯域の赤外線の検出性能に支障をきたさない波長であればよく、例えば検出波長の最小値である4.4μm又は4.4μmをやや下回る波長に設定してもよい。
【0028】
なお、この実施形態では、保護フィルタの裏面側に形成されて可視光線及び近赤外線をカットする膜を蒸着膜としたが、同様の機能を有するその他の膜であってもよい。
【0029】
なお、この実施形態では、受光素子が2つの場合について説明したが、2つ以上の複数の受光素子を設ける場合や単一の受光素子を設ける場合であってもよく、炎を判別するためのアルゴリズムには各種の手法が採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の一実施形態を示す断面図。
【図2】この発明の一実施形態を示す正面図。
【符号の説明】
【0031】
4 ケース(本体)
6 開口部
7 サファイアガラス(保護フィルタ)
7a 蒸着膜
8 素子筐体
8a バンドパスフィルタ
8b 受光素子(素子)
9 素子筐体
9a バンドパスフィルタ
9b 受光素子(素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、該本体の開口部を覆う保護フィルタと、該本体内に設けられ、特定波長の赤外線を透過するバンドパスフィルタを前面に有し、前記保護フィルタ及び前記バンドパスフィルタを介して炎から発生する赤外線を検出する素子を内部に収容した素子筐体とを備えてなる炎感知器において、
前記保護フィルタの裏面側に、可視光線及び近赤外線をカットする蒸着膜が形成されていることを特徴とする炎感知器。
【請求項2】
前記バンドパスフィルタの基材はシリコン基材で構成され、前記保護フィルタの裏面側に形成された蒸着膜は、前記シリコン基材の最短透過波長よりも長い波長までカットする膜で構成されることを特徴とする請求項1の炎感知器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−98372(P2006−98372A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288158(P2004−288158)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】