炎症性腸疾患の診断方法及び診断用キット
【課題】 マルチマーカーシステムにも応用できる、体液を検体とした潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の診断方法を提供する。
【解決手段】 体液中におけるマーカー物質の濃度を健常値と比較し、炎症性腸疾患を診断する。該マーカー物質として15種類のタンパク質の少なくとも1種を使用する。マーカー物質の濃度は、質量分析によって測定することができる。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、マーカー物質の濃度を測定することもできる。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む炎症性腸疾患の診断用キットによれば、より簡便に炎症性腸疾患の診断を行うことができる。
【解決手段】 体液中におけるマーカー物質の濃度を健常値と比較し、炎症性腸疾患を診断する。該マーカー物質として15種類のタンパク質の少なくとも1種を使用する。マーカー物質の濃度は、質量分析によって測定することができる。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体にマーカー物質を捕捉して、マーカー物質の濃度を測定することもできる。マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む炎症性腸疾患の診断用キットによれば、より簡便に炎症性腸疾患の診断を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炎症性腸疾患の診断方法及び診断用キットに関し、さらに詳細には、被験者の体液中におけるマーカー物質の濃度を測定し、その値を健常値と比較する炎症性腸疾患の診断方法、及び当該診断方法に用いるための診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化に伴い炎症性腸疾患が増加する傾向にあり、特に、潰瘍性大腸炎が若年層を中心に急増している。ここ10年間の統計によると、潰瘍性大腸炎の患者数が約3倍に増えているとの報告もある。
【0003】
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性腸疾患である。潰瘍性大腸炎の症状としては、血便、下痢、食欲不振、腹痛があり、重症になると、体重減少、発熱、子供の成長障害が現れることもある。潰瘍性大腸炎は治りにくく、手術を要したり、いったん改善してもまた再発することも多い。また、潰瘍性大腸炎は長期にわたって再発を繰り返すことがあり、患者のQOL(Quality of Life)の面で多くの問題をもたらしている。よって、潰瘍性大腸炎については治療方法の確立、さらに予防方法と早期診断方法の確立が求められている。潰瘍性大腸炎の原因については不明な点が多いが、自己免疫反応の異常が原因の一つとして指摘されている。
【0004】
潰瘍性大腸炎の診断方法としては、大腸内視鏡検査や大腸レントゲン検査が行なわれている。また、潰瘍性大腸炎の疾患マーカーもいくつか見出されており、その多くは自己抗体の量を測定するものである。例えば、特許文献1には、血液中等におけるリボソーム蛋白質に結合する抗体の量によって、潰瘍性大腸炎を診断する方法が記載されている。また、特許文献2には、生体試料におけるCHI3L2遺伝子等の発現量によって、潰瘍性大腸炎を診断する方法が記載されている。
【特許文献1】特表2005−504321号公報
【特許文献2】特開2004−135545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の疾患マーカーで潰瘍性大腸炎の診断が十分に行なえるとは言い難く、さらに多くの他の疾患マーカーが求められている。一方、マルチマーカーシステムと称し、複数のマーカー物質を指標にして診断精度を上げる方法がすでに提案されている。したがって、潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患の診断にもマルチマーカーシステムを適用して診断精度を上げることが考えられる。しかし、マルチマーカーシステムによって炎症性腸疾患の診断を行うには、複数の有用なマーカー物質が必要となるが、現在のところそのような複数のマーカー物質はなく、マルチマーカーシステムによって炎症性腸疾患を診断した例は報告されていない。このように、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の予防や早期発見に有用で、マルチマーカーシステムにも適用可能な炎症性腸疾患の診断方法が求められている。
【0006】
本発明の目的は、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の新たなマーカー物質を特定し、体液中における当該マーカー物質の濃度を指標とした炎症性腸疾患の診断方法、及び当該診断方法に使用するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の新たなマーカー物質を検索すべく、潰瘍性大腸炎患者と健常者の体液中のタンパク質を質量分析計スペクトルにより網羅的に比較し、特異的なマーカー物質を検索した。その結果、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で、統計的に有意差のある複数のタンパク質を見出した。そして、当該タンパク質の体液中における濃度を指標として、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の診断を行なうことができることを見出した。さらに、当該診断方法を簡便に実施することができる診断用キットを構築し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
請求項1に記載の発明は、体液中の下記マーカー物質(a)〜(o)の少なくとも1つの濃度を測定し、その値を健常値と比較することを特徴とする炎症性腸疾患の診断方法である。
(a)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4160のイオンピークを生じるタンパク質、
(b)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6640のイオンピークを生じるタンパク質、
(c)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8840のイオンピークを生じるタンパク質、
(d)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8940のイオンピークを生じるタンパク質、
(e)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9440のイオンピークを生じるタンパク質、
(f)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12880のイオンピークを生じるタンパク質、
(g)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約132700のイオンピークを生じるタンパク質、
(h)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH7.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約147940のイオンピークを生じるタンパク質、
(i)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6440のイオンピークを生じるタンパク質、
(j)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8220のイオンピークを生じるタンパク質、
(k)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8710のイオンピークを生じるタンパク質、
(l)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9730のイオンピークを生じるタンパク質、
(m)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH3.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12640のイオンピークを生じるタンパク質、
(n)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39770のイオンピークを生じるタンパク質、
(o)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約99850のイオンピークを生じるタンパク質。
【0009】
また請求項2に記載の発明は、前記炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0010】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、炎症性腸疾患のマーカー物質として、体液中の上記(a)〜(o)の15種のマーカー物質の少なくとも1種の濃度を測定する。そして、その測定値を健常値と比較することにより、炎症性腸疾患の診断を行う。炎症性腸疾患の例としては、潰瘍性大腸炎、クローン病が挙げられる。ここで、「炎症性腸疾患の診断」とは、炎症性腸疾患に罹患しているか否かを判定することのみではなく、炎症性腸疾患の予防を目的として炎症性腸疾患に罹患するおそれの有無を判定することや、炎症性腸疾患の改善状態や再発のモニタリングを行うことも含む。本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、15種のマーカー物質の一部だけの濃度を測定してもよいし、15種全部の濃度を測定してもよい。特に、複数のマーカー物質の濃度を測定する場合は、マルチマーカーシステムを組んで多方面から炎症性腸疾患の診断を行うことができ、診断の精度が高い。また、これら15種のタンパク質はいずれも健常者の体液中にも存在しているものである。したがって、これらのタンパク質の体液中における濃度の変動をモニタリングすることにより、健常者が潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患を発病する兆候を検出することもできる。
【0011】
ここで、質量/電荷比(以下、「M/Z」と略記することもある。)の「約4160」、「約12880」、「約147940」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約4160は概ね4160±0.2%、約12880は概ね12880±0.2%、約147940は概ね147940±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。なお、マーカー物質(a)、(b)、(i)、(m)及び(n)は、炎症性腸疾患患者の体液において高値を示す。一方、マーカー物質(c)、(d)、(f)、(g)、(h)、(j)、(k)、(l)及び(o)は、炎症性腸疾患患者の体液において低値を示す。さらに、マーカー物質(e)は炎症性腸疾患患者の体液において低値と高値の両方を示し、健常者の体液はその間の値を示す。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0013】
かかる構成により、検査材料を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に炎症性腸疾患の診断を行なうことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、下記工程(1)〜(3)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
(1)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(2)工程(1)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(3)工程(2)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(h)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【0015】
また請求項5に記載の発明は、下記工程(4)〜(6)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
(4)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(5)工程(4)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(d)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(6)工程(5)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(a)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【0016】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法はマルチマーカーシステムによるものであり、複数のマーカー物質の濃度を指標として、炎症性腸疾患の診断を多段階で行なう。かかる構成により、炎症性腸疾患の診断をきわめて高精度に行なうことができる。ここで、「炎症性腸疾患の有無」とは、炎症性腸疾患の罹患の有無に加え、炎症性腸疾患に罹患するおそれの有無、炎症性腸疾患の改善の有無、炎症性腸疾患の再発の有無等をいう。
【0017】
請求項6に記載の発明は、下記工程(7)〜(11)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
(7)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(8)工程(7)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(9)工程(8)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(m)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(10)工程(9)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(f)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(11)工程(10)において炎症性腸疾患が有と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を、工程(8)で設定した健常値とは異なる基準値と比較して炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【0018】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法もマルチマーカーシステムによるものであり、複数のマーカー物質の濃度を指標として、炎症性腸疾患の診断を多段階で行なう。さらに、本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、同じマーカー物質について先に設定した健常値とは異なる基準値を別途設定し、複数の工程で使用する。かかる構成により、炎症性腸疾患の診断をきわめて高精度に行なうことができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、質量分析により体液中における前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0020】
かかる構成により、質量/電荷比のイオンピーク強度によってマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、被検者から体液を採取し、該体液又は体液成分を前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、前記マーカー物質を捕捉し、前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0022】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、検査材料となる体液又は体液成分をマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉する。そして、担体上に捕捉されたマーカー物質の濃度を測定する。本発明の炎症性腸疾患の診断方法によれば、検査材料の取り扱いが容易である。さらに、本発明の炎症性腸疾患の診断方法は、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、より正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0023】
請求項9に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項8に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0024】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は金属キレート体を用い、イオン交換体又は金属キレート体を介して検査材料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。イオン交換体や金属キレート体は各種のものが入手容易である。したがって、本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができ、作業が容易である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0026】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の検査材料を処理することができ、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の検査材料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする炎症性腸疾患の診断用キットである。
【0028】
本発明の炎症性腸疾患の診断用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。本発明の炎症性腸疾患の診断用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0029】
請求項12に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項11に記載の炎症性腸疾患の診断用キットである。
【0030】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法によれば、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の診断をより確実かつ精度よく行うことができる。また、複数のマーカー物質を組み合わせることによってマルチマーカーシステムによる炎症性腸疾患の診断を行うことができる。
【0032】
本発明の炎症性腸疾患の診断用キットによれば、より簡便かつ高精度で炎症性腸疾患の診断を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法は、患者体液における上記した15種のマーカー物質(a)〜(o)の少なくとも1個の濃度を指標とする。これらのマーカー物質は、いずれも炎症性腸疾患の患者と健常者との間で、体液中における濃度に有意差があるタンパク質である。なお、マーカー物質(a)、(b)、(i)、(m)及び(n)は、炎症性腸疾患患者の体液において高値を示す。一方、マーカー物質(c)、(d)、(f)、(g)、(h)、(j)、(k)、(l)及び(o)は、炎症性腸疾患患者の体液において低値を示す。さらに、マーカー物質(e)は炎症性腸疾患患者の体液において低値と高値の両方を示し、健常者の体液はその間の値を示す。
【0035】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法の対象となる疾患としては、潰瘍性大腸炎、クローン病等が挙げられるが、特に、潰瘍性大腸炎の診断を正確に行なうことができる。
【0036】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法における好ましい実施形態の一つは、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とすることである。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、若しくは疎水性相互作用のような化学的な相互作用、さらに、抗原と抗体、酵素と基質、ホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、が挙げられる。
【0037】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0038】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができるが、Cu2+が特に好ましい。
【0039】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0040】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法において、体液中のマーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば特に制限はなく、例えば、質量分析を用いることができる。すなわち、質量分析によって生じる各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix−assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time−of−flight mass spectromer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0041】
特に好ましい実施形態では、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface−enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time−of−flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度を測定する。本実施形態によれば、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に、弱陽イオン交換基板、並びに、金属イオン基板が好ましく用いられる。
【0042】
質量分析以外の方法でマーカー物質の濃度を測定する方法としては、タンパク質の定量に一般的に用いられている方法が採用可能であり、各種のイムノアッセイ、液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、ウエスタンブロット法等を使用することができる。
【0043】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法において使用する体液としては、血液が好ましく用いられる。すなわち、被験者から採取した血液を検体とし、その血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を検査材料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0044】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法における好ましい実施形態として、上記した(a)〜(o)のマーカー物質の複数個を組み合わせたマルチマーカーシステムによる方法が挙げられる。本発明の炎症性腸疾患の診断方法をマルチマーカーシステムに応用する例を、以下に挙げる。
【0045】
第1の例は、図1に示すフローによって炎症性腸疾患の診断を行なうものであり、3種のマーカー物質(e)、(h)及び(o)を用いる。すなわち、まず、被検者の体液中におけるマーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する(工程(1))。次に、工程(1)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する(工程(2))。次に、工程(2)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(h)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する(工程(3))。そして、工程(3)において、マーカー物質(h)の濃度値が健常値未満である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、マーカー物質(h)の濃度値が健常値以上である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。この例では、3種のマーカー物質を用いるが、炎症性腸疾患の有無の判定は1回のみである。
【0046】
第2の例は、図2に示すフローによって炎症性腸疾患の診断を行なうものであり、3種のマーカー物質(a)、(d)及び(o)を用いる。すなわち、まず、体液中のマーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する(工程(4))。次に、工程(4)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(d)の濃度値を健常値と比較して、1次判定をする(工程(5))。すなわち、工程(5)でマーカー物質(d)の濃度値が健常値未満である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(5)において、マーカー物質(d)の濃度値が健常値以上である場合は、さらに、体液中の前記マーカー物質(a)の濃度値を健常値と比較して、2次判定をする(工程(6))。すなわち、工程(6)でマーカー物質(a)の濃度値が健常値以上である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(6)でマーカー物質(a)の濃度値が健常値未満である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。この例では、3種のマーカー物質を用い、炎症性腸疾患の有無の判定を2段階で行なう。
【0047】
第3の例は、図3に示すフローによって炎症性腸疾患の診断を行なうものであり、4種のマーカー物質(e)、(f)、(m)及び(o)を用いる。さらに、マーカー物質(e)については先の工程で設定した健常値とは異なる基準値を別途設定し、2つの工程で使い分ける。すなわち、まず、体液中のマーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する(工程(7))。次に、工程(7)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する(工程(8))。次に、工程(8)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(m)の濃度値を健常値と比較して、1次判定をする(工程(9))。すなわち、工程(9)でマーカー物質(m)の濃度値が健常値以上である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(9)でマーカー物質(m)の濃度値が健常値未満である場合は、さらに、体液中の前記マーカー物質(f)の濃度値を健常値と比較して2次判定をする(工程(10))。すなわち、工程(10)でマーカー物質(f)の濃度値が健常値以上である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。一方、工程(10)において、マーカー物質(f)の濃度値が健常値未満である場合は、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を、工程(8)の健常値よりも高く設定した基準値と比較して3次判定をする(工程(11))。すなわち、工程(11)でマーカー物質(e)の濃度値が基準値以上である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(11)でマーカー物質(e)の濃度値が基準値未満である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。なお、マーカー物質(e)を使用する場合は、工程(8)で設定した健常値以下の場合、又は、工程(11)で設定した基準値以上の場合に、炎症性腸疾患「有」と判定する。この例では、4種のマーカー物質を用い、そのうち1種のマーカー物質については、先の工程で設定した健常値とは異なる基準値を別途設定して2つの工程で使い分け、炎症性腸疾患の有無の判定を3段階で行なう。
【0048】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法によって実際に診断を行なう手順の一例を、順を追って説明する。この例では、検査材料として血清を用い、マーカー物質の濃度をSELDI−TOF−MSによって測定する。ます、被検者から血液を採取し、検査材料となる血清を調製する。次に、この血清をpH9.0の条件でQAE等の強陰イオン交換樹脂カラムに供する。このとき、上記のマーカー物質(a)〜(o)は全て強陰イオン交換樹脂に捕捉される。次に、該強陰イオン交換樹脂カラムを、pH7.0、pH5.0、pH4.0、pH3.0、及び有機溶媒の条件で順次溶出し、各画分を回収する。
【0049】
まず、pH7.0の溶出画分を、銅イオン結合金属キレート基板に接触させ、次いで、pH7.0かつ0.5M NaClの条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(h)が基板上に捕捉される。また、pH5.0の溶出画分を、CM等の弱陽イオン交換基板に接触させ、次いで、pH4.0の条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(g)、(n)及び(o)が基板上に捕捉される。また、pH4.0の溶出画分を、CM等の弱陽イオン交換基板に接触させ、次いで、pH4.0の条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(b)及び(i)が基板上に捕捉される。また、pH3.0の溶出画分を、銅イオン結合金属キレート基板に接触させ、次いで、pH7.0かつ0.5M NaClの条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(m)が基板上に捕捉される。また、有機溶媒溶出画分を、CM等の弱陽イオン交換基板に接触させ、次いで、pH4.0の条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(c)、(d)、(f)、(j)及び(k)が基板上に捕捉される。また、有機溶媒溶出画分を、銅イオン結合金属キレート基板に接触させ、次いで、pH7.0かつ0.5M NaClの条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(a)、(e)及び(l)が基板上に捕捉される。次に、各基板をSELDI−TOF−MSに供し、検出される各マーカー物質のイオンピークの強度を測定する。そして、各イオンピーク強度を健常値と比較し、炎症性腸疾患の有無を判定する。
【0050】
本発明の炎症性腸疾患の診断用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものである。本発明の炎症性腸疾患の診断用キットにおける好ましい実施形態では、CM等の弱陽イオン交換体を固定化した基板、及び銅イオン等の金属キレート基板を含む。本実施形態によれば、SELDI−TOF−MSによるマーカー物質の濃度測定を簡便に行なうことができる。なお、本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。
【0051】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
1.プロテインチップを用いた候補タンパク質の検索
潰瘍性大腸炎患者38名分、健常者44名分、計82名分の血清サンプルを収集した。各血清サンプル20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各血清サンプルを強陰イオン交換樹脂カラム(Q Ceramic Hyper D、バイオセプラ社)にアプライした。次に、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH7.0の緩衝液(50mM HEPES−NaOH(pH7.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH4.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH4.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(33.3%イソプロピルアルコール、16.7%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸からなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH7.0で溶出)、画分3(pH5.0で溶出)、画分4(pH4.0で溶出)、画分5(pH3.0で溶出)、画分6(有機溶媒)の6つの画分を得た。
【0053】
得られた各画分10μLをpH4.0のプロテインチップ結合バッファー(100mM 酢酸ナトリウム)で10倍希釈した後、陽イオン交換チップCM10(サイファージェン社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH7.0のプロテインチップ結合バッファー(100mM リン酸、0.5M NaCl)で10倍希釈した後、銅修飾チップIMAC30(サイファージェン社)に添加した。各プロテインチップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(サイファージェン社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(M/Z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、M/Zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Magnager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもサイファージェン社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、プロテインチップの種類、画分の種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。これらのピークのうち、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に強度が異なる複数のピークについて、p値、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出した。その結果から、計15種のピークをピックアップした。
【0054】
2.マーカー物質(a)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が4155(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図4(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図4(b)に、図4(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図4(c)に本ピークのROC曲線を示す。なお、ROC面積が1に近いほど(曲線が左上に寄るほど)その測定系の精度が高いことを示す。その結果、P値は0.013、ROC面積は0.611であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約4160のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(a))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約4160のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0055】
3.マーカー物質(b)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分4(pH4.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が6636(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図5(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図5(b)に、図5(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図5(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.033、ROC面積は0.599であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6640のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(b))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約6640のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0056】
4.マーカー物質(c)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8835(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図6(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図6(b)に、図6(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図6(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.020、ROC面積は0.662であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8840のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(c))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8840のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0057】
5.マーカー物質(d)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8940(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図7(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図7(b)に、図7(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図7(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.011、ROC面積は0.634であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8940のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(d))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8940のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0058】
6.マーカー物質(e)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が9436(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図8(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図8(b)に、図8(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図8(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.003、ROC面積は0.627であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約9440のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(e))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約9440のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0059】
7.マーカー物質(f)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が12884(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図9(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図9(b)に、図9(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図9(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.040、ROC面積は0.636であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約12880のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(f))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約12880のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0060】
8.マーカー物質(g)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分3(pH5.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が132701(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図10(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図10(b)に、図10(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図10(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.008、ROC面積は0.644であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約132700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(g))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約132700のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0061】
9.マーカー物質(h)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分2(pH7.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が147936(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図11(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図11(b)に、図11(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図11(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.005、ROC面積は0.614であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約147940のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(h))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約147940のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0062】
10.マーカー物質(i)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分4(pH4.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が6436(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図12(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図12(b)に、図12(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図12(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.013、ROC面積は0.638であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6440のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(i))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約6440のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0063】
11.マーカー物質(j)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8219(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図13(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図13(b)に、図13(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図13(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.032、ROC面積は0.617であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8220のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(j))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8220のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0064】
12.マーカー物質(k)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8709(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図14(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図14(b)に、図14(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図14(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.038、ROC面積は0.605であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8710のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(k))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8710のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0065】
13.マーカー物質(l)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が9727(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図15(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図15(b)に、図15(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図15(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.032、ROC面積は0.599であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約9730のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(l))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約9730のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0066】
14.マーカー物質(m)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分5(pH3.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が12638(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図16(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図16(b)に、図16(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図16(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.021、ROC面積は0.591であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約12640のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(m))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約12640のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0067】
15.マーカー物質(n)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分3(pH5.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が39773(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図17(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図17(b)に、図17(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図17(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.008、ROC面積は0.640であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約39770のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(n))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約39770のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0068】
16.マーカー物質(o)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分3(pH5.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が99853(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図18(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図18(b)に、図18(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図18(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.004、ROC面積は0.646であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約99850のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(o))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約99850のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【実施例2】
【0069】
図19で表されるフローに従い、81名分(潰瘍性大腸炎患者38名、健常者43名)の血清サンプルを振り分けた。図19の各nodeにおいて、各マーカー物質の濃度がカットオフ値(健常値)未満であった場合は左(YES)に、カットオフ値以上であった場合に右(NO)に進めた。また、同じマーカー物質(e)を使用するnode 2とnode 6においては、node 6におけるカットオフ値は、node 2におけるカットオフ値よりも高い値に設定した。その結果、node 1→node 2→node 3の手順(図1のフローに相当)で振り分けた場合、Terminal Node 1で、23名のうち21名(91%)が潰瘍性大腸炎患者、Terminal Node 2で6名のうち4名(67%)が健常者であった。また、node 1→node 7→node 8(図2のフローに相当)の手順で振り分けた場合、Terminal node 7で2名全員(100%)が潰瘍性大腸炎患者、Terminal node 8で17名全員(100%)が健常者、Terminal node 9で1名(100%)が健潰瘍性大腸炎患者であった。また、node 1→node 2→node 4→node 5→node 6の手順(図3のフローに相当)で振り分けた場合、Terminal node 3で6名のうち5名(80%)が健常者、Terminal node 4で4名全員(100%)が潰瘍性大腸炎患者、Terminal node 5で14名全員(100%)が健常者、Terminal node 6で8名のうち7名(89%)が潰瘍性大腸炎患者であった。これらのフローによった場合のROC面積は0.965であり、精度が極めて高かった。以上より、複数のマーカー物質を組み合わせることにより、きわめて正確に潰瘍性大腸炎の有無を判定することができた。
【実施例3】
【0070】
1枚の弱陽イオン交換チップCM10、1枚の銅修飾チップIMAC30、500mLの変性バッファー(pH9.0)、500mLの溶出バッファー(pH7.0)、500mLの溶出バッファー(pH4.0)、1gのSPAを1セットとして、潰瘍性大腸炎の診断用キットを構築した。本キットは、SELDI−TOF−MSによって被検者の体液中のマーカー物質の濃度を測定し、潰瘍性大腸炎の診断を行うためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】マルチマーカーシステムにより炎症性腸疾患の診断を行なう第1の例を表すフローチャートである。
【図2】マルチマーカーシステムにより炎症性腸疾患の診断を行なう第2の例を表すフローチャートである。
【図3】マルチマーカーシステムにより炎症性腸疾患の診断を行なう第3の例を表すフローチャートである。
【図4】質量/電荷比が約4160のイオンピークについての測定結果を表し、図4(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図4(b)は、図4(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図4(c)は、ROC曲線を示す。
【図5】質量/電荷比が約6640のイオンピークについての測定結果を表し、図5(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図5(b)は、図5(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図5(c)は、ROC曲線を示す。
【図6】質量/電荷比が約8840のイオンピークについての測定結果を表し、図6(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図6(b)は、図6(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図6(c)は、ROC曲線を示す。
【図7】質量/電荷比が約8940のイオンピークについての測定結果を表し、図7(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図7(b)は、図7(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図7(c)は、ROC曲線を示す。
【図8】質量/電荷比が約9940のイオンピークについての測定結果を表し、図8(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図8(b)は、図8(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図8(c)は、ROC曲線を示す。
【図9】質量/電荷比が約12880のイオンピークについての測定結果を表し、図9(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図9(b)は、図9(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図9(c)は、ROC曲線を示す。
【図10】質量/電荷比が約132700のイオンピークについての測定結果を表し、図10(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図10(b)は、図10(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図10(c)は、ROC曲線を示す。
【図11】質量/電荷比が約147940のイオンピークについての測定結果を表し、図11(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図11(b)は、図11(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図11(c)は、ROC曲線を示す。
【図12】質量/電荷比が約6640のイオンピークについての測定結果を表し、図12(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図12(b)は、図12(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図12(c)は、ROC曲線を示す。
【図13】質量/電荷比が約8220のイオンピークについての測定結果を表し、図13(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図13(b)は、図13(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図13(c)は、ROC曲線を示す。
【図14】質量/電荷比が約8710のイオンピークについての測定結果を表し、図14(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図14(b)は、図14(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図14(c)は、ROC曲線を示す。
【図15】質量/電荷比が約9730のイオンピークについての測定結果を表し、図15(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図15(b)は、図15(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図15(c)は、ROC曲線を示す。
【図16】質量/電荷比が約12640のイオンピークについての測定結果を表し、図16(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図16(b)は、図16(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図16(c)は、ROC曲線を示す。
【図17】質量/電荷比が約39770のイオンピークについての測定結果を表し、図17(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図17(b)は、図17(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図17(c)は、ROC曲線を示す。
【図18】質量/電荷比が約99850のイオンピークについての測定結果を表し、図18(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図18(b)は、図18(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図18(c)は、ROC曲線を示す。
【図19】実施例2において、81名分の血清を振り分けた手順を表すフローチャートである。
【技術分野】
【0001】
本発明は炎症性腸疾患の診断方法及び診断用キットに関し、さらに詳細には、被験者の体液中におけるマーカー物質の濃度を測定し、その値を健常値と比較する炎症性腸疾患の診断方法、及び当該診断方法に用いるための診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
食生活の欧米化に伴い炎症性腸疾患が増加する傾向にあり、特に、潰瘍性大腸炎が若年層を中心に急増している。ここ10年間の統計によると、潰瘍性大腸炎の患者数が約3倍に増えているとの報告もある。
【0003】
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる炎症性腸疾患である。潰瘍性大腸炎の症状としては、血便、下痢、食欲不振、腹痛があり、重症になると、体重減少、発熱、子供の成長障害が現れることもある。潰瘍性大腸炎は治りにくく、手術を要したり、いったん改善してもまた再発することも多い。また、潰瘍性大腸炎は長期にわたって再発を繰り返すことがあり、患者のQOL(Quality of Life)の面で多くの問題をもたらしている。よって、潰瘍性大腸炎については治療方法の確立、さらに予防方法と早期診断方法の確立が求められている。潰瘍性大腸炎の原因については不明な点が多いが、自己免疫反応の異常が原因の一つとして指摘されている。
【0004】
潰瘍性大腸炎の診断方法としては、大腸内視鏡検査や大腸レントゲン検査が行なわれている。また、潰瘍性大腸炎の疾患マーカーもいくつか見出されており、その多くは自己抗体の量を測定するものである。例えば、特許文献1には、血液中等におけるリボソーム蛋白質に結合する抗体の量によって、潰瘍性大腸炎を診断する方法が記載されている。また、特許文献2には、生体試料におけるCHI3L2遺伝子等の発現量によって、潰瘍性大腸炎を診断する方法が記載されている。
【特許文献1】特表2005−504321号公報
【特許文献2】特開2004−135545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の疾患マーカーで潰瘍性大腸炎の診断が十分に行なえるとは言い難く、さらに多くの他の疾患マーカーが求められている。一方、マルチマーカーシステムと称し、複数のマーカー物質を指標にして診断精度を上げる方法がすでに提案されている。したがって、潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患の診断にもマルチマーカーシステムを適用して診断精度を上げることが考えられる。しかし、マルチマーカーシステムによって炎症性腸疾患の診断を行うには、複数の有用なマーカー物質が必要となるが、現在のところそのような複数のマーカー物質はなく、マルチマーカーシステムによって炎症性腸疾患を診断した例は報告されていない。このように、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の予防や早期発見に有用で、マルチマーカーシステムにも適用可能な炎症性腸疾患の診断方法が求められている。
【0006】
本発明の目的は、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の新たなマーカー物質を特定し、体液中における当該マーカー物質の濃度を指標とした炎症性腸疾患の診断方法、及び当該診断方法に使用するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の新たなマーカー物質を検索すべく、潰瘍性大腸炎患者と健常者の体液中のタンパク質を質量分析計スペクトルにより網羅的に比較し、特異的なマーカー物質を検索した。その結果、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で、統計的に有意差のある複数のタンパク質を見出した。そして、当該タンパク質の体液中における濃度を指標として、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の診断を行なうことができることを見出した。さらに、当該診断方法を簡便に実施することができる診断用キットを構築し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
請求項1に記載の発明は、体液中の下記マーカー物質(a)〜(o)の少なくとも1つの濃度を測定し、その値を健常値と比較することを特徴とする炎症性腸疾患の診断方法である。
(a)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4160のイオンピークを生じるタンパク質、
(b)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6640のイオンピークを生じるタンパク質、
(c)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8840のイオンピークを生じるタンパク質、
(d)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8940のイオンピークを生じるタンパク質、
(e)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9440のイオンピークを生じるタンパク質、
(f)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12880のイオンピークを生じるタンパク質、
(g)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約132700のイオンピークを生じるタンパク質、
(h)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH7.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約147940のイオンピークを生じるタンパク質、
(i)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6440のイオンピークを生じるタンパク質、
(j)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8220のイオンピークを生じるタンパク質、
(k)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8710のイオンピークを生じるタンパク質、
(l)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9730のイオンピークを生じるタンパク質、
(m)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH3.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12640のイオンピークを生じるタンパク質、
(n)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39770のイオンピークを生じるタンパク質、
(o)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約99850のイオンピークを生じるタンパク質。
【0009】
また請求項2に記載の発明は、前記炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0010】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、炎症性腸疾患のマーカー物質として、体液中の上記(a)〜(o)の15種のマーカー物質の少なくとも1種の濃度を測定する。そして、その測定値を健常値と比較することにより、炎症性腸疾患の診断を行う。炎症性腸疾患の例としては、潰瘍性大腸炎、クローン病が挙げられる。ここで、「炎症性腸疾患の診断」とは、炎症性腸疾患に罹患しているか否かを判定することのみではなく、炎症性腸疾患の予防を目的として炎症性腸疾患に罹患するおそれの有無を判定することや、炎症性腸疾患の改善状態や再発のモニタリングを行うことも含む。本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、15種のマーカー物質の一部だけの濃度を測定してもよいし、15種全部の濃度を測定してもよい。特に、複数のマーカー物質の濃度を測定する場合は、マルチマーカーシステムを組んで多方面から炎症性腸疾患の診断を行うことができ、診断の精度が高い。また、これら15種のタンパク質はいずれも健常者の体液中にも存在しているものである。したがって、これらのタンパク質の体液中における濃度の変動をモニタリングすることにより、健常者が潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患を発病する兆候を検出することもできる。
【0011】
ここで、質量/電荷比(以下、「M/Z」と略記することもある。)の「約4160」、「約12880」、「約147940」等の値は、質量分析における測定値の誤差範囲を考慮した値であり、概ね±0.2%の幅を有する。すなわち、約4160は概ね4160±0.2%、約12880は概ね12880±0.2%、約147940は概ね147940±0.2%を表す。他の質量/電荷比についても全く同様に、概ね±0.2%の幅を有する。また、これらのマーカー物質はいずれも主に血液中に存在するタンパク質である。なお、マーカー物質(a)、(b)、(i)、(m)及び(n)は、炎症性腸疾患患者の体液において高値を示す。一方、マーカー物質(c)、(d)、(f)、(g)、(h)、(j)、(k)、(l)及び(o)は、炎症性腸疾患患者の体液において低値を示す。さらに、マーカー物質(e)は炎症性腸疾患患者の体液において低値と高値の両方を示し、健常者の体液はその間の値を示す。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0013】
かかる構成により、検査材料を簡単に採取でき、より簡便かつ迅速に炎症性腸疾患の診断を行なうことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、下記工程(1)〜(3)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
(1)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(2)工程(1)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(3)工程(2)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(h)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【0015】
また請求項5に記載の発明は、下記工程(4)〜(6)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
(4)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(5)工程(4)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(d)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(6)工程(5)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(a)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【0016】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法はマルチマーカーシステムによるものであり、複数のマーカー物質の濃度を指標として、炎症性腸疾患の診断を多段階で行なう。かかる構成により、炎症性腸疾患の診断をきわめて高精度に行なうことができる。ここで、「炎症性腸疾患の有無」とは、炎症性腸疾患の罹患の有無に加え、炎症性腸疾患に罹患するおそれの有無、炎症性腸疾患の改善の有無、炎症性腸疾患の再発の有無等をいう。
【0017】
請求項6に記載の発明は、下記工程(7)〜(11)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
(7)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(8)工程(7)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(9)工程(8)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(m)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(10)工程(9)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(f)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(11)工程(10)において炎症性腸疾患が有と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を、工程(8)で設定した健常値とは異なる基準値と比較して炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【0018】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法もマルチマーカーシステムによるものであり、複数のマーカー物質の濃度を指標として、炎症性腸疾患の診断を多段階で行なう。さらに、本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、同じマーカー物質について先に設定した健常値とは異なる基準値を別途設定し、複数の工程で使用する。かかる構成により、炎症性腸疾患の診断をきわめて高精度に行なうことができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、質量分析により体液中における前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0020】
かかる構成により、質量/電荷比のイオンピーク強度によってマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、被検者から体液を採取し、該体液又は体液成分を前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、前記マーカー物質を捕捉し、前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0022】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、検査材料となる体液又は体液成分をマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を使用する。そして、該担体に体液又は体液成分を接触させて、体液又は体液成分に含まれるマーカー物質を、マーカー物質に対する親和性を有する物質を介して担体上に捕捉する。そして、担体上に捕捉されたマーカー物質の濃度を測定する。本発明の炎症性腸疾患の診断方法によれば、検査材料の取り扱いが容易である。さらに、本発明の炎症性腸疾患の診断方法は、担体上に捕捉されたマーカー物質を測定対象とするので、より正確にマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、体液成分の例としては、体液が血液である場合の血清又は血漿が挙げられる。
【0023】
請求項9に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項8に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0024】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、マーカー物質に対する親和性を有する物質としてイオン交換体又は金属キレート体を用い、イオン交換体又は金属キレート体を介して検査材料中のマーカー物質を担体上に捕捉する。イオン交換体や金属キレート体は各種のものが入手容易である。したがって、本発明の炎症性腸疾患の診断方法においては、マーカー物質を捕捉するための担体を容易に調製することができ、作業が容易である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の炎症性腸疾患の診断方法である。
【0026】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法では、平面部分を有する担体を用い、マーカー物質に対する親和性を有する物質は該平面部分の一部に固定化されている。かかる構成により、マーカー物質に対する親和性を有する物質を、担体上の複数箇所にスポット的に固定化することができる。その結果、1個の担体で複数の検査材料を処理することができ、作業効率がよい。さらに、各スポットの面積を小さくすることにより、微量の検査材料からでもマーカー物質の濃度を測定することができる。なお、平面部分を有する担体の例としては、チップ等の基板が挙げられる。
【0027】
請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする炎症性腸疾患の診断用キットである。
【0028】
本発明の炎症性腸疾患の診断用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含む。本発明の炎症性腸疾患の診断用キットによれば、マーカー物質の濃度測定に際して当該担体を別途用意する必要がなく、きわめて簡便にマーカー物質の濃度を測定することができる。
【0029】
請求項12に記載の発明は、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項11に記載の炎症性腸疾患の診断用キットである。
【0030】
かかる構成により、マーカー物質をより確実に担体上に捕捉することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法によれば、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患の診断をより確実かつ精度よく行うことができる。また、複数のマーカー物質を組み合わせることによってマルチマーカーシステムによる炎症性腸疾患の診断を行うことができる。
【0032】
本発明の炎症性腸疾患の診断用キットによれば、より簡便かつ高精度で炎症性腸疾患の診断を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法は、患者体液における上記した15種のマーカー物質(a)〜(o)の少なくとも1個の濃度を指標とする。これらのマーカー物質は、いずれも炎症性腸疾患の患者と健常者との間で、体液中における濃度に有意差があるタンパク質である。なお、マーカー物質(a)、(b)、(i)、(m)及び(n)は、炎症性腸疾患患者の体液において高値を示す。一方、マーカー物質(c)、(d)、(f)、(g)、(h)、(j)、(k)、(l)及び(o)は、炎症性腸疾患患者の体液において低値を示す。さらに、マーカー物質(e)は炎症性腸疾患患者の体液において低値と高値の両方を示し、健常者の体液はその間の値を示す。
【0035】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法の対象となる疾患としては、潰瘍性大腸炎、クローン病等が挙げられるが、特に、潰瘍性大腸炎の診断を正確に行なうことができる。
【0036】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法における好ましい実施形態の一つは、マーカー物質を担体上に捕捉し、その捕捉されたマーカー物質を測定対象とすることである。すなわち、マーカー物質に対する親和性を有する物質を担体に固定化し、その親和性を有する物質を介してマーカー物質を担体上に捕捉する。本実施形態によれば、試料中に含まれる夾雑物質の影響を低減させることができ、より高感度かつ高精度でマーカー物質の濃度を測定することができる。本実施形態において用いることができる担体の例としては、ビーズ、金属、ガラス、樹脂等のような一般的なものの他、基板のような、平面部分を有する担体を用いることができる。基板を用いる場合は、その平面部分の一部にマーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化することが好ましい。例としては、基板としてチップを用い、その表面の複数箇所にスポット的にマーカー物質に親和性を有する物質を固定化した担体が挙げられる。なお「親和性」の例としては、イオン結合、金属キレート体とタンパク質中のヒスチジン残基等とのアフィニティ、若しくは疎水性相互作用のような化学的な相互作用、さらに、抗原と抗体、酵素と基質、ホルモンとレセプターのようなバイオアフィニティ、が挙げられる。
【0037】
イオン結合によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、イオン交換体を担体に固定化する。この場合、イオン交換体には陽イオン交換体、陰イオン交換体のいずれも用いることができ、さらに、強陽イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陰イオン交換体、弱陰イオン交換体のいずれも用いることができるが、弱陽イオン交換体が好ましく用いられる。弱陽イオン交換体の例としては、カルボキシメチル(CM)等の弱陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、強陽イオン交換体の例としては、スルホプロピル(SP)等の強陽イオン交換基を有するものが挙げられる。また、弱陰イオン交換体の例としては、ジメチルアミノエチル(DE)、ジエチルアミノエチル(DEAE)等の弱陰イオン交換基を有するものが挙げられる。さらに、強陰イオン交換体の例としては、4級アンモニウム(トリメチルアミノメチル)(QA)、4級アミノエチル(ジエチル,モノ・2−ヒドロキシブチルアミノエチル)(QAE)、4級アンモニウム(トリメチルアンモニウム)(QMA)等の強陰イオン交換基を有するものが挙げられる。
【0038】
金属キレート体を介してマーカー物質を捕捉する場合は、例えば、Cu2+、Zn2+、Ni2+、Co2+、Al3+、Fe3+、Ga3+等の金属キレート体を固定化した担体を用いることができるが、Cu2+が特に好ましい。
【0039】
疎水性相互作用によってマーカー物質を担体に捕捉する場合は、担体に疎水基をもつ物質を固定化する。疎水基の例としては、C4〜C20のアルキル基、フェニル基等が挙げられる。
【0040】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法において、体液中のマーカー物質の濃度を測定する方法は、そのマーカー物質の濃度を特異的に測定できる方法であれば特に制限はなく、例えば、質量分析を用いることができる。すなわち、質量分析によって生じる各マーカー物質由来のイオンピークを特定し、そのイオンピーク強度をもって各マーカー物質の量(濃度)を測定することができる。質量分析によってマーカー物質の濃度を測定する場合のイオン化の方法としては、マトリクス支援レーザーイオン化(matrix−assisted laser desorption/ionization、MALDI)、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization、ESI)のいずれも適用可能であるが、多価イオンの生成が少ないMALDIが好ましい。特に、飛行時間質量分析計(time−of−flight mass spectromer、TOF)と組み合わせたMALDI−TOF−MSによれば、より正確にマーカー物質由来のイオンピークを特定することができる。
【0041】
特に好ましい実施形態では、担体として基板を用い、表面エンハンス型レーザー脱離イオン化(surface−enhanced laser desorption/ionization)−飛行時間質量分析(time−of−flight mass spectrometry)(以下、「SELDI−TOF−MS」と称する)を行うことにより、マーカー物質の濃度を測定する。本実施形態によれば、マーカー物質の濃度をより正確に測定することができる。使用できる基板の種類としては、陽イオン交換基板、陰イオン交換基板、順相基板、逆相基板、金属イオン基板、抗体基板等を用いることができるが、陽イオン交換基板、特に、弱陽イオン交換基板、並びに、金属イオン基板が好ましく用いられる。
【0042】
質量分析以外の方法でマーカー物質の濃度を測定する方法としては、タンパク質の定量に一般的に用いられている方法が採用可能であり、各種のイムノアッセイ、液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、ウエスタンブロット法等を使用することができる。
【0043】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法において使用する体液としては、血液が好ましく用いられる。すなわち、被験者から採取した血液を検体とし、その血液から調製した血清又は血漿(体液成分)を検査材料とすることが好ましい。血清又は血漿は遠心分離等の公知の方法で血液から調製することができる。
【0044】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法における好ましい実施形態として、上記した(a)〜(o)のマーカー物質の複数個を組み合わせたマルチマーカーシステムによる方法が挙げられる。本発明の炎症性腸疾患の診断方法をマルチマーカーシステムに応用する例を、以下に挙げる。
【0045】
第1の例は、図1に示すフローによって炎症性腸疾患の診断を行なうものであり、3種のマーカー物質(e)、(h)及び(o)を用いる。すなわち、まず、被検者の体液中におけるマーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する(工程(1))。次に、工程(1)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する(工程(2))。次に、工程(2)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(h)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する(工程(3))。そして、工程(3)において、マーカー物質(h)の濃度値が健常値未満である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、マーカー物質(h)の濃度値が健常値以上である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。この例では、3種のマーカー物質を用いるが、炎症性腸疾患の有無の判定は1回のみである。
【0046】
第2の例は、図2に示すフローによって炎症性腸疾患の診断を行なうものであり、3種のマーカー物質(a)、(d)及び(o)を用いる。すなわち、まず、体液中のマーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する(工程(4))。次に、工程(4)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(d)の濃度値を健常値と比較して、1次判定をする(工程(5))。すなわち、工程(5)でマーカー物質(d)の濃度値が健常値未満である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(5)において、マーカー物質(d)の濃度値が健常値以上である場合は、さらに、体液中の前記マーカー物質(a)の濃度値を健常値と比較して、2次判定をする(工程(6))。すなわち、工程(6)でマーカー物質(a)の濃度値が健常値以上である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(6)でマーカー物質(a)の濃度値が健常値未満である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。この例では、3種のマーカー物質を用い、炎症性腸疾患の有無の判定を2段階で行なう。
【0047】
第3の例は、図3に示すフローによって炎症性腸疾患の診断を行なうものであり、4種のマーカー物質(e)、(f)、(m)及び(o)を用いる。さらに、マーカー物質(e)については先の工程で設定した健常値とは異なる基準値を別途設定し、2つの工程で使い分ける。すなわち、まず、体液中のマーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する(工程(7))。次に、工程(7)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する(工程(8))。次に、工程(8)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中のマーカー物質(m)の濃度値を健常値と比較して、1次判定をする(工程(9))。すなわち、工程(9)でマーカー物質(m)の濃度値が健常値以上である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(9)でマーカー物質(m)の濃度値が健常値未満である場合は、さらに、体液中の前記マーカー物質(f)の濃度値を健常値と比較して2次判定をする(工程(10))。すなわち、工程(10)でマーカー物質(f)の濃度値が健常値以上である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。一方、工程(10)において、マーカー物質(f)の濃度値が健常値未満である場合は、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を、工程(8)の健常値よりも高く設定した基準値と比較して3次判定をする(工程(11))。すなわち、工程(11)でマーカー物質(e)の濃度値が基準値以上である場合は、炎症性腸疾患「有」と判定する。一方、工程(11)でマーカー物質(e)の濃度値が基準値未満である場合は、正常(炎症性腸疾患「無」)と判定する。なお、マーカー物質(e)を使用する場合は、工程(8)で設定した健常値以下の場合、又は、工程(11)で設定した基準値以上の場合に、炎症性腸疾患「有」と判定する。この例では、4種のマーカー物質を用い、そのうち1種のマーカー物質については、先の工程で設定した健常値とは異なる基準値を別途設定して2つの工程で使い分け、炎症性腸疾患の有無の判定を3段階で行なう。
【0048】
本発明の炎症性腸疾患の診断方法によって実際に診断を行なう手順の一例を、順を追って説明する。この例では、検査材料として血清を用い、マーカー物質の濃度をSELDI−TOF−MSによって測定する。ます、被検者から血液を採取し、検査材料となる血清を調製する。次に、この血清をpH9.0の条件でQAE等の強陰イオン交換樹脂カラムに供する。このとき、上記のマーカー物質(a)〜(o)は全て強陰イオン交換樹脂に捕捉される。次に、該強陰イオン交換樹脂カラムを、pH7.0、pH5.0、pH4.0、pH3.0、及び有機溶媒の条件で順次溶出し、各画分を回収する。
【0049】
まず、pH7.0の溶出画分を、銅イオン結合金属キレート基板に接触させ、次いで、pH7.0かつ0.5M NaClの条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(h)が基板上に捕捉される。また、pH5.0の溶出画分を、CM等の弱陽イオン交換基板に接触させ、次いで、pH4.0の条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(g)、(n)及び(o)が基板上に捕捉される。また、pH4.0の溶出画分を、CM等の弱陽イオン交換基板に接触させ、次いで、pH4.0の条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(b)及び(i)が基板上に捕捉される。また、pH3.0の溶出画分を、銅イオン結合金属キレート基板に接触させ、次いで、pH7.0かつ0.5M NaClの条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(m)が基板上に捕捉される。また、有機溶媒溶出画分を、CM等の弱陽イオン交換基板に接触させ、次いで、pH4.0の条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(c)、(d)、(f)、(j)及び(k)が基板上に捕捉される。また、有機溶媒溶出画分を、銅イオン結合金属キレート基板に接触させ、次いで、pH7.0かつ0.5M NaClの条件で洗浄する。このとき、マーカー物質(a)、(e)及び(l)が基板上に捕捉される。次に、各基板をSELDI−TOF−MSに供し、検出される各マーカー物質のイオンピークの強度を測定する。そして、各イオンピーク強度を健常値と比較し、炎症性腸疾患の有無を判定する。
【0050】
本発明の炎症性腸疾患の診断用キットは、マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むものである。本発明の炎症性腸疾患の診断用キットにおける好ましい実施形態では、CM等の弱陽イオン交換体を固定化した基板、及び銅イオン等の金属キレート基板を含む。本実施形態によれば、SELDI−TOF−MSによるマーカー物質の濃度測定を簡便に行なうことができる。なお、本キット中には他の試薬類、例えば、標準物質、前処理用の各種緩衝液等を含めてもよい。
【0051】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
1.プロテインチップを用いた候補タンパク質の検索
潰瘍性大腸炎患者38名分、健常者44名分、計82名分の血清サンプルを収集した。各血清サンプル20μLに、変性バッファー(9M 尿素、2% CHAPS、50mM Tris−HCl(pH9.0))30μLを加えて前処理を行い、タンパク質を変性させた。次に、前処理した各血清サンプルを強陰イオン交換樹脂カラム(Q Ceramic Hyper D、バイオセプラ社)にアプライした。次に、pH9.0の緩衝液(50mM Tris−HCl(pH9.0)、0.1%(w/v)1−o−N−オクチル−β−D−グルコピラノシド(以下、「OGP」と称する。))、pH7.0の緩衝液(50mM HEPES−NaOH(pH7.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH5.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH4.0の緩衝液(100mM 酢酸ナトリウム(pH4.0)、0.1%(w/v)OGP)、pH3.0の緩衝液(50mM クエン酸ナトリウム(pH3.0)、0.1%(w/v)OGP)、及び有機溶媒(33.3%イソプロピルアルコール、16.7%アセトニトリル、0.1%トリフルオロ酢酸からなる混合液)各200μLで順に溶出させ、画分1(pH9.0で溶出、素通り)、画分2(pH7.0で溶出)、画分3(pH5.0で溶出)、画分4(pH4.0で溶出)、画分5(pH3.0で溶出)、画分6(有機溶媒)の6つの画分を得た。
【0053】
得られた各画分10μLをpH4.0のプロテインチップ結合バッファー(100mM 酢酸ナトリウム)で10倍希釈した後、陽イオン交換チップCM10(サイファージェン社)に添加した。同様に、得られた各画分10μLをpH7.0のプロテインチップ結合バッファー(100mM リン酸、0.5M NaCl)で10倍希釈した後、銅修飾チップIMAC30(サイファージェン社)に添加した。各プロテインチップを各結合バッファーで3回洗浄した後に脱イオン水で1回洗浄し、乾燥させた。次に、エネルギー吸収分子であるシナピン酸(SPA)を添加し、プロテインチップリーダーModel PBS IIc(サイファージェン社)を用いて、SELDI−TOF−MSを行なった。なお、測定分子量範囲(M/Z)は、3000〜200000の範囲で行なった。また、測定は2連で行い、M/Zの平均値を算出した。データ解析は、Protein Chip Software、CiphergenExpress Data Magnager、及びBiomarker Patterns Software(いずれもサイファージェン社)を用いて行なった。具体的には、ベースライン補正、分子量校正、スペクトルの正規化処理を行なった後、シングルマーカー解析及び数本のマーカーを組み合わせたマルチフロー解析を行なった。その結果、プロテインチップの種類、画分の種類、チップの洗浄条件等の組み合わせによって多数のピークが検出された。これらのピークのうち、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に強度が異なる複数のピークについて、p値、ROC面積、及びイオンピーク強度を算出した。その結果から、計15種のピークをピックアップした。
【0054】
2.マーカー物質(a)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が4155(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図4(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図4(b)に、図4(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図4(c)に本ピークのROC曲線を示す。なお、ROC面積が1に近いほど(曲線が左上に寄るほど)その測定系の精度が高いことを示す。その結果、P値は0.013、ROC面積は0.611であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約4160のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(a))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約4160のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0055】
3.マーカー物質(b)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分4(pH4.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が6636(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図5(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図5(b)に、図5(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図5(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.033、ROC面積は0.599であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6640のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(b))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約6640のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0056】
4.マーカー物質(c)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8835(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図6(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図6(b)に、図6(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図6(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.020、ROC面積は0.662であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8840のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(c))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8840のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0057】
5.マーカー物質(d)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8940(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図7(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図7(b)に、図7(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図7(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.011、ROC面積は0.634であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8940のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(d))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8940のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0058】
6.マーカー物質(e)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が9436(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図8(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図8(b)に、図8(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図8(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.003、ROC面積は0.627であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約9440のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(e))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約9440のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0059】
7.マーカー物質(f)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が12884(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図9(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図9(b)に、図9(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図9(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.040、ROC面積は0.636であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約12880のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(f))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約12880のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0060】
8.マーカー物質(g)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分3(pH5.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が132701(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図10(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図10(b)に、図10(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図10(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.008、ROC面積は0.644であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約132700のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(g))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約132700のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0061】
9.マーカー物質(h)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分2(pH7.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が147936(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図11(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図11(b)に、図11(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図11(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.005、ROC面積は0.614であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約147940のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(h))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約147940のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0062】
10.マーカー物質(i)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分4(pH4.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が6436(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図12(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図12(b)に、図12(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図12(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.013、ROC面積は0.638であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約6440のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(i))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約6440のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0063】
11.マーカー物質(j)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8219(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図13(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図13(b)に、図13(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図13(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.032、ROC面積は0.617であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8220のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(j))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8220のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0064】
12.マーカー物質(k)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が8709(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図14(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図14(b)に、図14(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図14(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.038、ROC面積は0.605であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約8710のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(k))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約8710のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0065】
13.マーカー物質(l)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分6(有機溶媒)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が9727(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図15(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図15(b)に、図15(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図15(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.032、ROC面積は0.599であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約9730のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(l))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約9730のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0066】
14.マーカー物質(m)の特定
銅修飾チップIMAC30を用い、画分5(pH3.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が12638(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図16(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図16(b)に、図16(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図16(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.021、ROC面積は0.591であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約12640のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(m))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約12640のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0067】
15.マーカー物質(n)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分3(pH5.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が39773(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において高値を示した。図17(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図17(b)に、図17(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図17(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.008、ROC面積は0.640であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約39770のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(n))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約39770のピーク強度が健常値より高い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【0068】
16.マーカー物質(o)の特定
弱陽イオン交換チップCM10を用い、画分3(pH5.0)についてSELDI−TOF−MSを行なった場合に、質量/電荷比が99853(平均値)のイオンピークが検出された。本ピークは、潰瘍性大腸炎患者において低値を示した。図18(a)に、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフを示す。また、図18(b)に、図18(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフを示す。さらに、図18(c)に本ピークのROC曲線を示す。その結果、P値は0.004、ROC面積は0.646であった。このように、血液中のタンパク質でSELDI−TOF−MSに供すると質量/電荷比が約99850のピークを生じるタンパク質(マーカー物質(o))の濃度が、潰瘍性大腸炎患者と健常者との間で有意に差があり、当該タンパク質の濃度を指標として潰瘍性大腸炎の診断が可能であることが示された。すなわち、被検者の血清を検査材料として、上記した条件のSELDI−TOF−MSを行い、質量/電荷比が約99850のピーク強度が健常値より低い場合、その被検者が潰瘍性大腸炎であると診断することができる。
【実施例2】
【0069】
図19で表されるフローに従い、81名分(潰瘍性大腸炎患者38名、健常者43名)の血清サンプルを振り分けた。図19の各nodeにおいて、各マーカー物質の濃度がカットオフ値(健常値)未満であった場合は左(YES)に、カットオフ値以上であった場合に右(NO)に進めた。また、同じマーカー物質(e)を使用するnode 2とnode 6においては、node 6におけるカットオフ値は、node 2におけるカットオフ値よりも高い値に設定した。その結果、node 1→node 2→node 3の手順(図1のフローに相当)で振り分けた場合、Terminal Node 1で、23名のうち21名(91%)が潰瘍性大腸炎患者、Terminal Node 2で6名のうち4名(67%)が健常者であった。また、node 1→node 7→node 8(図2のフローに相当)の手順で振り分けた場合、Terminal node 7で2名全員(100%)が潰瘍性大腸炎患者、Terminal node 8で17名全員(100%)が健常者、Terminal node 9で1名(100%)が健潰瘍性大腸炎患者であった。また、node 1→node 2→node 4→node 5→node 6の手順(図3のフローに相当)で振り分けた場合、Terminal node 3で6名のうち5名(80%)が健常者、Terminal node 4で4名全員(100%)が潰瘍性大腸炎患者、Terminal node 5で14名全員(100%)が健常者、Terminal node 6で8名のうち7名(89%)が潰瘍性大腸炎患者であった。これらのフローによった場合のROC面積は0.965であり、精度が極めて高かった。以上より、複数のマーカー物質を組み合わせることにより、きわめて正確に潰瘍性大腸炎の有無を判定することができた。
【実施例3】
【0070】
1枚の弱陽イオン交換チップCM10、1枚の銅修飾チップIMAC30、500mLの変性バッファー(pH9.0)、500mLの溶出バッファー(pH7.0)、500mLの溶出バッファー(pH4.0)、1gのSPAを1セットとして、潰瘍性大腸炎の診断用キットを構築した。本キットは、SELDI−TOF−MSによって被検者の体液中のマーカー物質の濃度を測定し、潰瘍性大腸炎の診断を行うためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】マルチマーカーシステムにより炎症性腸疾患の診断を行なう第1の例を表すフローチャートである。
【図2】マルチマーカーシステムにより炎症性腸疾患の診断を行なう第2の例を表すフローチャートである。
【図3】マルチマーカーシステムにより炎症性腸疾患の診断を行なう第3の例を表すフローチャートである。
【図4】質量/電荷比が約4160のイオンピークについての測定結果を表し、図4(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図4(b)は、図4(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図4(c)は、ROC曲線を示す。
【図5】質量/電荷比が約6640のイオンピークについての測定結果を表し、図5(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図5(b)は、図5(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図5(c)は、ROC曲線を示す。
【図6】質量/電荷比が約8840のイオンピークについての測定結果を表し、図6(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図6(b)は、図6(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図6(c)は、ROC曲線を示す。
【図7】質量/電荷比が約8940のイオンピークについての測定結果を表し、図7(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図7(b)は、図7(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図7(c)は、ROC曲線を示す。
【図8】質量/電荷比が約9940のイオンピークについての測定結果を表し、図8(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり、図8(b)は、図8(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図8(c)は、ROC曲線を示す。
【図9】質量/電荷比が約12880のイオンピークについての測定結果を表し、図9(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図9(b)は、図9(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図9(c)は、ROC曲線を示す。
【図10】質量/電荷比が約132700のイオンピークについての測定結果を表し、図10(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図10(b)は、図10(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図10(c)は、ROC曲線を示す。
【図11】質量/電荷比が約147940のイオンピークについての測定結果を表し、図11(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図11(b)は、図11(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図11(c)は、ROC曲線を示す。
【図12】質量/電荷比が約6640のイオンピークについての測定結果を表し、図12(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図12(b)は、図12(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図12(c)は、ROC曲線を示す。
【図13】質量/電荷比が約8220のイオンピークについての測定結果を表し、図13(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図13(b)は、図13(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図13(c)は、ROC曲線を示す。
【図14】質量/電荷比が約8710のイオンピークについての測定結果を表し、図14(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図14(b)は、図14(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図14(c)は、ROC曲線を示す。
【図15】質量/電荷比が約9730のイオンピークについての測定結果を表し、図15(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図15(b)は、図15(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図15(c)は、ROC曲線を示す。
【図16】質量/電荷比が約12640のイオンピークについての測定結果を表し、図16(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図16(b)は、図16(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図16(c)は、ROC曲線を示す。
【図17】質量/電荷比が約39770のイオンピークについての測定結果を表し、図17(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図17(b)は、図17(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図17(c)は、ROC曲線を示す。
【図18】質量/電荷比が約99850のイオンピークについての測定結果を表し、図18(a)は、健常者と潰瘍性大腸炎患者とに分けて本ピークのピーク強度をプロットしたグラフであり。図18(b)は、図18(a)の結果を、最大値、75%値、中央値、25%値、及び最小値で示したグラフであり、図18(c)は、ROC曲線を示す。
【図19】実施例2において、81名分の血清を振り分けた手順を表すフローチャートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中の下記マーカー物質(a)〜(o)の少なくとも1つの濃度を測定し、その値を健常値と比較することを特徴とする炎症性腸疾患の診断方法。
(a)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4160のイオンピークを生じるタンパク質、
(b)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6640のイオンピークを生じるタンパク質、
(c)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8840のイオンピークを生じるタンパク質、
(d)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8940のイオンピークを生じるタンパク質、
(e)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9440のイオンピークを生じるタンパク質、
(f)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12880のイオンピークを生じるタンパク質、
(g)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約132700のイオンピークを生じるタンパク質、
(h)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH7.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約147940のイオンピークを生じるタンパク質、
(i)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6440のイオンピークを生じるタンパク質、
(j)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8220のイオンピークを生じるタンパク質、
(k)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8710のイオンピークを生じるタンパク質、
(l)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9730のイオンピークを生じるタンパク質、
(m)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH3.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12640のイオンピークを生じるタンパク質、
(n)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39770のイオンピークを生じるタンパク質、
(o)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約99850のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
前記炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項3】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項4】
下記工程(1)〜(3)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
(1)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(2)工程(1)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(3)工程(2)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(h)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【請求項5】
下記工程(4)〜(6)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
(4)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(5)工程(4)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(d)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(6)工程(5)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(a)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【請求項6】
下記工程(7)〜(11)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
(7)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(8)工程(7)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(9)工程(8)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(m)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(10)工程(9)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(f)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(11)工程(10)において炎症性腸疾患が有と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を、工程(8)で設定した健常値とは異なる基準値と比較して炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【請求項7】
質量分析により体液中における前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項8】
被検者から体液を採取し、該体液又は体液成分を前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、前記マーカー物質を捕捉し、前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項9】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項8に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項10】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする炎症性腸疾患の診断用キット。
【請求項12】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項11に記載の炎症性腸疾患の診断用キット。
【請求項1】
体液中の下記マーカー物質(a)〜(o)の少なくとも1つの濃度を測定し、その値を健常値と比較することを特徴とする炎症性腸疾患の診断方法。
(a)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約4160のイオンピークを生じるタンパク質、
(b)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6640のイオンピークを生じるタンパク質、
(c)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8840のイオンピークを生じるタンパク質、
(d)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8940のイオンピークを生じるタンパク質、
(e)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9440のイオンピークを生じるタンパク質、
(f)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12880のイオンピークを生じるタンパク質、
(g)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約132700のイオンピークを生じるタンパク質、
(h)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH7.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約147940のイオンピークを生じるタンパク質、
(i)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH4.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約6440のイオンピークを生じるタンパク質、
(j)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8220のイオンピークを生じるタンパク質、
(k)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約8710のイオンピークを生じるタンパク質、
(l)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、有機溶媒で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約9730のイオンピークを生じるタンパク質、
(m)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH3.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH7.0かつ0.5MのNaCl濃度で銅イオン結合金属キレート体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約12640のイオンピークを生じるタンパク質、
(n)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約39770のイオンピークを生じるタンパク質、
(o)pH9.0で強陰イオン交換体に結合し、pH5.0で強陰イオン交換体に結合せず、pH4.0で弱陽イオン交換体に結合し、かつ質量分析に供すると質量/電荷比が約99850のイオンピークを生じるタンパク質。
【請求項2】
前記炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎であることを特徴とする請求項1に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項3】
前記体液は、血液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項4】
下記工程(1)〜(3)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
(1)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(2)工程(1)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(3)工程(2)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(h)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【請求項5】
下記工程(4)〜(6)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
(4)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(5)工程(4)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(d)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(6)工程(5)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(a)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【請求項6】
下記工程(7)〜(11)を包含することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
(7)体液中の前記マーカー物質(o)の濃度値を健常値と比較する工程、
(8)工程(7)において濃度値が健常値未満である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を健常値と比較する工程、
(9)工程(8)において濃度値が健常値以上である場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(m)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(10)工程(9)において炎症性腸疾患が無と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(f)の濃度値を健常値と比較して、炎症性腸疾患の有無を判定する工程、
(11)工程(10)において炎症性腸疾患が有と判定された場合に、さらに、体液中の前記マーカー物質(e)の濃度値を、工程(8)で設定した健常値とは異なる基準値と比較して炎症性腸疾患の有無を判定する工程。
【請求項7】
質量分析により体液中における前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項8】
被検者から体液を採取し、該体液又は体液成分を前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体に接触させて、前記マーカー物質を捕捉し、前記マーカー物質の濃度を測定することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項9】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項8に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項10】
前記担体は平面部分を有し、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、該平面部分の一部に固定化されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の炎症性腸疾患の診断方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の炎症性腸疾患の診断方法に用いるためのキットであって、前記マーカー物質に対する親和性を有する物質を固定化した担体を含むことを特徴とする炎症性腸疾患の診断用キット。
【請求項12】
前記マーカー物質に対する親和性を有する物質は、イオン交換体又は金属キレート体であることを特徴とする請求項11に記載の炎症性腸疾患の診断用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−258629(P2006−258629A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76943(P2005−76943)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(303058708)株式会社バイオマーカーサイエンス (27)
【Fターム(参考)】
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