説明

炭化ケイ素の製造方法

【課題】 低い温度で十分に原材料からの転換率が得られ、粒子サイズが小さく、不純物が少ない粉末状の炭化ケイ素の製造方法を提供する。
【解決手段】 (A)Si元素および一種以上の遷移金属元素を含む合金、金属ケイ素粉末および遷移金属粉末を含む混合物、金属ケイ素粉末および遷移金属化合物を含む混合物のいずれかと、(B)鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含む炭化ケイ素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素の製造方法に関し、より詳しくは簡単な製造装置を用いて、安価な原材料から、表面積が高く、不純物が少ない炭化ケイ素粉末を低い温度で合成する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素は、耐熱性があり、強く、硬く、耐酸化性があり、熱、機械的機能構造材として、各種ルツボ、窯業焼成用部品、耐摩耗性摺動部材、熱交換器伝熱管、製紙用部品、触媒の担体、フィルター、ゴミ焼却炉の内張材、発熱体および研磨剤などに使われる。また、自動車やパワー半導体の分野では炭化ケイ素単結晶ウエハーが、上記特性(熱的、化学的、機械的に安定)に加え、電力損失が少ないという長所から利用され、その原材料として炭化ケイ素粉末材料が必要とされている。
【0003】
炭化ケイ素粉末材料の製造方法としては、非特許文献1に記載されているように、金属ケイ素粉末と炭素粉末とを混合し1000〜1400℃で加熱する方法(直接反応法)、二酸化ケイ素粉末にコークスを1500〜1900℃で作用させる還元反応を利用する方法(還元炭化法)、ポリカルボシランなどの化合物を非酸化性雰囲気中1300〜2000℃で熱分解させる方法(熱分解法)、四塩化ケイ素などのハロゲン化ケイ素をメタンと800〜2000℃で反応させる気相反応法(CVD法)などが知られている。
【0004】
直接反応法は、得られる炭化ケイ素粉末の粒子径が粗く、金属ケイ素が残りやすいため、反応時間が長くなる。また、還元炭化法も反応温度が1500℃以上と高いうえ、原材料である二酸化ケイ素と炭素を充分に反応させるには長時間の反応時間を必要としている。さらに還元炭化法では副生成する有害な一酸化炭素を除去していかないと反応が停滞するため、除去装置並びに除害装置を創設しなければならないという問題がある。熱分解法は1300℃以上の反応温度を必要としており、加工コストが高いだけでなく原材料の有機ケイ素化合物が高価であるという問題がある。
【0005】
そして、CVD法は、原材料にハロゲン化ケイ素およびメタンを使用するため、原材料コストが高いだけでなく、原材料の分解によって有害なハロゲン化水素が副生成され、装置に腐食によるダメージを与えるという問題があるとともに最低でも800℃という反応温度を必要としている。さらに、上記のような方法で用いられる温度範囲では、温度が高くなるほどSi元素成分が昇華するという現象があり、高い反応温度は収率を悪化させるという問題にもつながっており、製造コストを高くする大きな要因となっている。
【0006】
その他、特許文献1には、セルロース材料に水ガラスを含浸させ、酸性物質でケイ酸ナトリウムを中和、水洗したシリカをセルロース材料に担持後不活性雰囲気中1000〜2000℃で焼成、粉砕する方法が開示されている。
【0007】
また、炭化ケイ素単結晶ウエハーに供給可能な高純度β型炭化ケイ素粉末の製造方法においては、特許文献2にエチルシリケートモノマーとフェノール樹脂などの樹脂の硬化を促進する触媒を混合し、窒素雰囲気下900℃で炭化後、アルゴン雰囲気下1900℃で焼成する方法が開示されている。
【0008】
しかし、このように、800℃より高い反応温度を必要とする上記のような方法に用いる高温用の製造設備は、いずれも温度が高ければ高ほど昇温と冷却にかかる時間が長くなるうえ、反応時間が長ければ長いほどランニングコストがかかるという問題をもっている。
【0009】
さらに、このような高い反応温度においては、生成する炭化ケイ素粉末の粒子サイズは大きくなり、焼結性を悪化させる。そのため焼結成形品の原材料としての用途に用いるには粉砕工程を設ける必要があるが、硬い材料なので粉砕工程において金属等不純物元素が混入するという問題が生じる。
【0010】
したがって、各用途に適応可能な小さい粒子サイズを持ち、小さい粒子サイズは簡単な熱処理によって調整可能なので、不純物の少ない炭化ケイ素材料を安価に製造できる技術が望まれている。そのためには、炭化ケイ素の合成温度を低くできる方法が必要となる。
【特許文献1】特開平5−279007号公報
【特許文献2】特開平7−157307号公報
【非特許文献1】“炭化珪素セラミックスの製造方法”、宗宮重行・猪股吉三編、内田老鶴圃発行、1988年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有害なハロゲン化水素を発生することなく、簡単な装置を用い、低い温度で十分に原材料からの転換率が得られ、加工コストを低減し、かつ安価な原材料を使うことで安価に粒子サイズが小さく、不純物が少ない粉末状の炭化ケイ素を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の第一の発明は、粉末状の炭化ケイ素の製造方法において、少なくともSi元素および一種以上の遷移金属元素を含む合金と、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法である。
【0013】
本発明の第二の発明は、粉末状の炭化ケイ素の製造方法において、金属ケイ素粉末および遷移金属粉末を少なくとも含む混合物と、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法である。
【0014】
本発明の第三の発明は、粉末状の炭化ケイ素の製造方法において、金属ケイ素粉末および遷移金属化合物を少なくとも含む混合物と、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、研磨材としての用途の他、構造用セラミック材料、各種焼結成形品の原材料としての用途、および炭化ケイ素単結晶ウエハー用原材料としても利用可能な粉末状の炭化ケイ素(以降、炭化ケイ素粉末と記す)を低い温度で合成することにより安価に製造する方法を提供できる。
【0016】
また、本発明によれば、炭化ケイ素の合成反応を370〜800℃の低い温度で行うことができるので、加工エネルギーコストを削減できる。
また、本発明によれば、炭化ケイ素を低い温度で合成するため、粒子サイズの小さい炭化ケイ素粉末を供給可能にする。粒子サイズの小さい炭化ケイ素粉末は焼結性がよく、炭化ケイ素焼結成形品を作製するのに適している。
【0017】
さらに、本発明によれば、不純物元素が少ない炭化水素原材料を用い、該炭化水素原料からの脱水素反応を促進する遷移金属もしくは遷移金属化合物の触媒の金属元素以外は、特に不純物金属元素が混入しないこと、および原材料Si元素から炭化ケイ素への転換率が高く未反応ケイ素が少ないため、簡単な精製処理工程を設けることにより、炭化ケイ素単結晶ウエハー用原材料としても利用可能な炭化ケイ素粉末材料を供給可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、炭化ケイ素粉末の製造方法において、少なくともSi元素を含む材料と、炭化水素の分解を促進する触媒としての効果のある遷移金属元素を含む材料との合金または混合物に、370〜800℃の温度範囲にて置換または未置換の炭化水素(以降、「炭化水素」と略記する)を反応させることによって、該温度範囲のような低い温度で炭化ケイ素粉末を製造することを可能にする方法を特徴とする。
【0019】
本発明は、従来よりも低い温度で原材料を反応させるため、反応にあずかるC元素を上記のような低い温度範囲で炭化水素より分解生成し、速やかに該C元素を原材料中のSi元素と反応させるものである。
【0020】
したがって、本発明の実施においては、Si元素を含む材料、炭化水素の分解を促進する触媒としての効果のある遷移金属元素を含む材料、炭化水素材料、装置構成および装置条件など種々の条件を適切に抽出していく必要があり、以下は、本発明における好ましい原材料、好ましい装置、条件などについて実施の態様を示すものである。
【0021】
本発明において、原材料として用いる炭化水素の中で、鎖状飽和炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、イソブタン、イソペンタン、ジメチルブタン、トリメチルペンタン、メチルオクタン、メチルヘプタン、及びメチルペンタンから選ばれる一種又は二種以上の混合物であることが好ましい。これらの中でも、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカンは液状あるいは固体であり取り扱いが容易である点でより好ましい原材料である。安価という点では、n−ヘキサンが好ましい原材料である。
【0022】
前記原材料として用いる原材料として用いる炭化水素の中で、鎖状不飽和炭化水素としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、メチルプロペン、シクロヘキセン、シクロペンテン、ブタジエン、プロパジエン、アセチレン、プロピン等が挙げられる。前記原材料に用いるより好ましい鎖状不飽和炭化水素としては、安価で炭化ケイ素粉末への反応性が高いことから、プロピレン、エチレン、ブタジエンが挙げられる。
【0023】
前記原材料として用いる原材料として用いる炭化水素の中で、環状飽和炭化水素としては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、ジメチルシクロペンタン、デカリンが等挙げられる。
【0024】
前記原材料として用いる原材料として用いる炭化水素の中で、アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、イソブチルアルコール、t−ブタノール、メチルブタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール等が挙げられる。より好ましいアルコールの例としては、安価で炭化ケイ素粉末への反応性が高いことから、エタノール、ブタノールが挙げられる。
【0025】
前記原材料として用いる原材料として用いる炭化水素の中で、芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、スチレン、フェノール、アニリン、安息香酸、フタル酸、アセチルサリチル酸、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ナフタレン、アントラセン等が挙げられる。これらの中で、反応性の高いことから、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、スチレンがより好ましい。
【0026】
メタンを主成分とし、エタン、プロパン、ブタン、窒素、炭酸ガス、硫黄化合物を含む天然ガス(Liquefied natural gas)、あるいはプロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、ブチレン、イソブチレンなどの混合物である液化石油ガス(Liquefied petroleum gas)も炭化ケイ素粉末の原材料として、安価である点で好ましい材料である。
【0027】
上記原材料のうち、反応性が高い点で、不飽和炭化水素が最も好ましい。不飽和炭化水素の場合、炭素二重結合をもつため、そのπ電子が触媒中の遷移金属元素に接合されやすいので脱水素反応はより起こりやすく、それに伴って、活性なC元素が作り出され、Si元素との反応がより促進されるものと推測される。取扱いが容易、生成物と未反応原材料との分離が容易であるという点では、上記原材料の形態は、常温大気圧下で液体あるいは気体であることがより好ましい。
【0028】
上記炭化水素は、二種類以上を組み合わせて使用するか、または芳香族化合物と組み合わせて使用しても構わない。
上記炭化水素としては、370〜800℃の温度範囲で、絶対圧力が60MPa以下で超臨界流体又は亜臨界流体となるものが好ましい。上記飽和炭化水素の例として、n−ヘキサンの場合、n−ヘキサンの臨界温度は234.4℃、臨界圧力は2.97MPaであり、この臨界点を超えた状態は超臨界状態にあるといえる。亜臨界状態とは、超臨界流体に準ずる流体で、具体的には、上記臨界点における温度(臨界温度)と圧力(臨界圧力)をT0(絶対温度)とP0(MPa)としたときに、下記式を満たす温度T(絶対温度)と圧力P(MPa)で臨界点を超えない状態にある流体をいう。
【0029】
T≧0.8T0
P≧0.8P0
反応容器の内容積に対し、原材料の仕込み量と加熱温度とを選ぶことによって、超臨界流体又は亜臨界流体をつくることができる。
【0030】
超臨界流体又は亜臨界流体の状態は、炭化水素原材料分子が気体状態に比べ遙かに高密度で触媒の周囲に存在する。加えて、炭化水素分子間の摩擦力が小さいため炭化水素分子の拡散係数が大きい。このため触媒と炭化水素分子の接触頻度が上がり、脱水素反応を促す。
【0031】
臨界温度と臨界圧力は炭化水素によって異なり、上記不飽和炭化水素の例として、エチレンの場合は臨界温度と臨界圧力は9.65℃、5.076MPa、プロピレンの場合は臨界温度と臨界圧力は92℃、4.62MPa、アセチレンの場合は臨界温度と臨界圧力は35.33℃、6.139MPaである。アルコールの例として1−ブタノールの場合は、臨界温度と臨界圧力は289.93℃、4.413MPaである。
【0032】
上記加熱温度は、超臨界流体又は亜臨界流体を形成する物質によっても相違するが、反応の容易さ、使用装置のコスト抑制と、運転エネルギーの節減などの観点から、370℃〜800℃、好ましくは450〜700℃の範囲が望ましい。圧力は原材料の反応性と装置の構成材料強度の観点から60.0MPa以下、好ましくは0.3〜60.0MPa、さらに好ましくは2〜30MPaの範囲が望ましい。
【0033】
前記炭化水素または触媒を溶解または分散する媒体は、原材料の封入のしやすさ、全体圧力の調整、触媒作用の助長を含む主反応の促進等の目的から使用しても構わない。
前記媒体としては、二酸化炭素、一酸化炭素、水、ヘリウム、アルゴン、エーテル、窒素、水素、亜酸化窒素、硫化水素及びアンモニアの内から選択される少なくとも一種以上が好ましく、原材料や触媒と共存させることによって、これらの媒体は触媒および原材料をより均一に分散し、原材料の反応を助長する働きをもつ。それゆえ、これらの媒体も超臨界流体又は亜臨界流体を形成する物質がより好ましい。
【0034】
具体的には、ヘリウム、アルゴン、窒素は自体の反応性が乏しいことから、原材料分子同士の衝突確率を低下させて副反応が起きるのを抑制し、原材料ガスの分解反応を安定させる働きがある。また、上記媒体の超臨界流体又は亜臨界流体においては媒体分子間の摩擦力の低下により、媒体分子と原材料分子の摩擦力を下げ、媒体が原材料分子の動きを潤滑にさせる働きをもち、触媒と原材料に均一な反応場をもたらすことで炭化水素の分解反応と同時に起こる活性なC元素の生成反応を促すことがある。したがって、上記媒体は、全体の圧力を簡単に調整することで、反応を制御できる媒体として好ましい。
【0035】
そして、炭化水素が分解し生成する水素や炭素に作用することで、炭化ケイ素粉末の生成に重要な役割を果たしうる媒体となるのが、一酸化炭素、二酸化炭素、水、亜酸化窒素、水素、エーテル、硫化水素及びアンモニアであり、これらは好ましい媒体として挙げられる。
【0036】
とりわけ、媒体としての二酸化炭素は、これを共存させることによって炭化水素の分解反応と同時に起こる活性なC元素の生成反応を促すことになる。その理由は、まず、二酸化炭素が超臨界流体又は亜臨界流体となるので、分子間の摩擦力が下がるため各分子はより高速で衝突しあい触媒と原材料とが均一に接触することができるためと考えられる。次に、炭化水素を分解させる反応においては炭素と同時に水素を発生する。しかし、分解生成したての炭素と水素は活性な状態を保っていて一定の割合で元の炭化水素やあるいは別の炭化水素へと再結合してしまう。ある温度、圧力の条件下では、これらの分解と再結合の度合はやがて平衡状態に達すると考えられ、二酸化炭素は、活性な水素と反応を起こし、これを取り除くため、平衡が崩れ、活性なC元素が生成しやすくなることが考えられる。あるいは、反応系内に存在していた酸素と活性な炭素が結合して二酸化炭素が形成される反応系において、二酸化炭素が系内に多く存在することで、その反応を抑制することが考えられる。
【0037】
本発明に用いられる遷移金属、遷移金属粉末、遷移金属化合物を構成する遷移金属元素としては、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Ta,W,Pt,Auが挙げられる。中でも、Ni,Co,Fe,Cu,Cr,W,Mo,Ti,V,Mn,Ru,Rh,Pd,Agがより好ましい。その中でも安価であるという点では、Feが最も好ましい元素といえるが、炭化水素を脱水素する触媒が活性になる温度は500℃以上となる。より低い温度で炭化水素の脱水素反応を起こすには、NiやCo元素が好ましい。
【0038】
本発明に用いられるSi元素および一種以上の遷移金属元素を含む合金としては、NiSi2(Si2Ni),CoSi2,Cr3Si2,Cr3Si,TiSi2,Ti5Si3,NbSi2,MoSi2,WSi2,ZrSi2,VSi2,HfSi2が好ましい。
【0039】
本発明に用いられる遷移金属粉末の混合物としては、Ni,Co,Fe,Cu,Cr,W,Mo,Ti,V,Mn,Ru,Rh,Pd,Agが好ましい。
粉末の混合物の粒子の平均粒子径は、0.1μm〜10μmの範囲が好ましい。
【0040】
本発明に用いられる遷移金属化合物としては、遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、有機遷移金属化合物、遷移金属炭化物、遷移金属窒化物、遷移金属の塩が好ましい。中でも、有機遷移金属化合物は溶剤を用いるとSi元素を含む粉末材料と均一に分散されやすく、容易に分解して遷移金属元素はさらに均一に分散されやすいので、触媒としての効果のある材料として好ましい。上記遷移金属酸化物、遷移金属水酸化物、あるいは遷移金属塩は、高温高圧下の前記炭化水素原材料の分解反応で発生する水素により還元され、微小遷移金属粉末に変化することによって、さらに、脱水素化反応を促進する触媒としての効果を高めるものと推測される。
【0041】
上記有機遷移金属化合物の好ましい例としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、カルボン酸鉄、カルボン酸ニッケル、カルボン酸コバルト、シュウ酸鉄、シュウ酸ニッケル、シュウ酸コバルト、ニッケルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、鉄フタロシアニン、ニッケルアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、ニッケルカルボニル、コバルトカルボニル、鉄カルボニル、ビス(トリフェニルホスフィン)ジカルボニルニッケル、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル及びクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムが挙げられる。なお、上記有機遷移金属化合物に含まれる炭化水素部分は、合成反応中に分解され炭化ケイ素粉末合成反応に供するC元素の一部に転換される場合もある。
【0042】
上記遷移金属酸化物の好ましい例としては、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化ルテニウム、酸化ロジウム及び酸化パラジウムから選ばれる1種以上のものが挙げられる。
【0043】
本発明の炭化ケイ素の製造方法に用いられる原料の(A)Si元素および一種以上の遷移金属元素を含む合金、金属ケイ素粉末および遷移金属粉末の混合物、または金属ケイ素粉末および遷移金属化合物の混合物と、(B)炭化水素の割合は、B/A=1.0〜2.0、好ましくはB/A=1.1〜1.5が望ましい。
【0044】
本発明における炭化ケイ素粉末の合成温度は、原材料としてFe元素を触媒材料に用いるならば500〜800℃が好ましく、NiやCo元素を触媒材料に用いる場合は370〜800℃で合成が好ましい。このように用いる遷移金属元素の触媒として活性化する温度を考慮して、合成温度を変えるのが好ましい。
【0045】
本発明は、370〜800℃の温度範囲で炭化ケイ素粉末の合成を可能にしているが、精製を目的とする後工程を設けることが好ましい。上記のような方法で得られた炭化ケイ素粉末は遷移金属を不純物として含む。また、未反応のシリコンや副生成物であるカーボンを不純物として含む場合がある。遷移金属を除去するためには、フッ化水素酸、塩酸、硝酸など酸による洗浄が好ましい。Si元素と結合しなかった未反応カーボンは酸素中または空気中、700〜1000℃で熱処理することによって除去できる。また、C元素と結合しなかった未反応シリコンは酸素中または空気中で熱処理後、フッ化水素酸等で除去できる。
【0046】
以上説明した本発明の一例に係る製造方法のフローチャートを図1に示す。図1における工程1は、原材料または原材料を溶解または分散する媒体(必要に応じて入れる。以下反応促進媒体と呼ぶ)を反応容器に入れる準備工程である。工程2は、反応容器内でこれらを加熱し原材料を所定時間反応させる工程、工程3は、工程2を経て、さらに未反応の原材料を分離して炭化ケイ素粉末を得る工程である。この後、必要に応じて、工程3で得られた炭化ケイ素粉末を工程4にて、好ましくは空気中、酸素中で700〜1000℃にて加熱して未反応カーボン等を除去し精製する。工程5は、フッ化水素酸、硝酸、塩酸またはそれらの混合物などの酸で洗浄して、遷移金属や未反応Siなどを除去する工程である。ただし、得られた炭化ケイ素粉末の用途によっては、工程4,工程5の工程を実施する必要はない。
【0047】
上記製造方法により炭化ケイ素粉末を調製する反応装置の一例としては、図2に示されるように、圧力計206、加熱装置203、安全弁207を備えた反応容器200が用いられる。図2において、201は原材料または原材料と二酸化炭素等の反応促進媒体、202は別の原材料、204は原材料貯蔵容器、205は二酸化炭素等の反応促進媒体貯蔵容器、208は排気装置、209は原材料あるいは反応促進媒体の供給管、210は排気管、211は攪拌機構である。
【0048】
少なくとも反応容器200の内壁の材質は、好ましくはステンレス、より好ましくは、Ni−Cr−Mo合金から成っているのが耐食性の点で望ましい。また、原材料からの収率を上げるために、未反応原材料を含む反応生成物から所望の反応生成物(炭化ケイ素粉末)を分離し、再び、原材料を反応容器に戻す循環型の反応装置(不図示)を用いるのがより好ましい。
【0049】
本発明では、排気装置208により、原材料201や別の原材料202を入れた反応容器200内を排気して脱酸素を行い、原材料貯蔵容器204より、原材料201を反応容器に所定量供給し、また、必要に応じて反応促進媒体貯蔵容器205から所定量の二酸化炭素等の反応促進媒体を供給する。その後、370〜800℃の温度範囲で加熱装置203にて加熱する。このときの圧力は、原材料、反応促進媒体、仕込み量などによって異なり、60.0MPa以下の絶対圧力にするのが好ましい。また、十分に主反応が進む場合は、排気装置208の排気量を調整しながら大気圧以下の圧力に調整しても構わない。攪拌機構211の機能は原材料または媒体201と別の原材料202または媒体を均一に混合し、原材料から一様な炭化ケイ素粉末を合成することにある。
【0050】
図3は、本発明の方法にて連続的に炭化ケイ素粉末の製造するための製造装置の概略を示した一例である。図3において、300は反応器、301は生成物(生成した炭化ケイ素粉末)分離器、302は原材料回収精製塔、303はコンプレッサー、304は供給原材料、305は供給触媒、306は必要に応じて供給される反応促進媒体、307は生成物の炭化ケイ素粉末である。ここでは、先ず、十分に脱酸素された反応器300に、原材料304、別の原材料305、必要に応じて二酸化炭素等の反応促進媒体306を供給し、370〜800℃の温度範囲になるようする。このときの反応機内は60.0MPa以下の絶対圧力になるように調整することが好ましいが、十分に主反応が進む場合は大気圧以下の圧力に調整しても構わない。上記温度と圧力下で所定時間反応させた後、生成物と未反応原材料との混合物を生成物分離器に送り、生成物の炭化ケイ素粉末307と未反応の原材料304とを分離し、未反応の原材料は原材料回収精製塔302に送り、回収された未反応原材料304は、系内が高圧の場合には必要に応じてコンプレッサー303を通して、反応器300に送られる。引き続き、原材料304、別の原材料305、必要に応じて二酸化炭素等の反応促進媒体306を供給し、所定条件で反応させて、炭化ケイ素粉末が製造される。
【0051】
本発明によって製造した炭化ケイ素粉末は、研磨材や各種焼結成形品および炭化ケイ素単結晶ウエハー用の原材料などとして用いることができ、以下これらの用途に用いる場合について説明する。
【0052】
(研磨材)
本発明の炭化ケイ素粉末は、研磨材として使用可能である。超硬金属の研磨、真鍮、銅合金などの軟質金属、および樹脂類等の研磨に使用できる。炭化ケイ素粉末をそのまま研磨粉として使用してもかまわないが、鉱物油などと混練してペースト状にして用いるか、樹脂で固めた成形品として用いることもできる。研磨粉の粒子サイズは熱処理によって調整でき、粒度分布はメッシュ等で篩別して調整できる。
【0053】
(焼結成形品)
本発明の炭化ケイ素粉末は、焼結成形して使用できる。焼結特性に影響を与えるものとして、粉末の表面積、不純物、焼結助剤、顆粒形成などがある。粉末の粒子サイズは小さいほど粒子間の接触面積が増え焼結に有利でより低い温度で欠陥の少ない焼結体が得られる。本発明の炭化ケイ素は800℃以下の低い温度で合成されるため、一次粒子サイズは非常に小さい。具体的には、平均一次粒子径は0.01μm〜0.1μmの範囲、B.E.T.比表面積は10〜100m2/gの範囲である。
【0054】
炭化ケイ素粉末中の不純物としての遷移金属元素、Siは焼結性を悪くするため十分に取り除く必要がある。そのため、図1中の工程4および工程5でこれらを十分に取り除く。工程5の不純物を除去(精製)の工程では、フッ化水素酸と硝酸の混酸で洗浄するのが好ましい。
【0055】
焼結助剤としては、ホウ素、炭素、アルミニウム、酸化ベリリウムなどがあり、1〜3wt%加えて十分に混合し、約2000℃に加熱することで焼結可能である。このとき、常圧でもかまわないが、30〜70MPa程度加圧しながら加熱してもかまわない。
【0056】
成形段階で、粉末状の炭化ケイ素が細か過ぎて型への充填が難しいときは、炭化ケイ素粉末、焼結助剤、バインダーの3つを混合した顆粒を形成して充填してもかまわない。顆粒形成にあたっては、スプレードライヤー(噴霧乾燥機)が簡便な方法である。
【0057】
(炭化ケイ素単結晶ウエハー)
本発明の炭化ケイ素粉末は、炭化ケイ素単結晶ウエハーの原材料として利用できる。この用途においては、炭化ケイ素粉末中の不純物が低いことが要求される。したがって、図1中の工程4、工程5では、酸素中700〜1000℃で熱処理し、その後、フッ化水素酸と硝酸の混酸で洗浄して、副生成物である炭素、ケイ素、および触媒の金属その他の不純物を取り除くことが好ましい。このときの処理温度は、不純物の除去に大きく影響するため加温することがより好ましい。また、必要に応じて、HClやCl2 といったハロゲンガスを流しながら約1000℃で精製処理を行なっても構わない。単結晶の作製においては、グラファイトからなるルツボに上記本発明の炭化ケイ素粉末を入れ非酸化性雰囲気で約2000℃に加熱し、得られるSiCの昇華ガス中で炭化ケイ素単結晶を成長させる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、4.0gのシリコンニッケル合金Si2 Niを入れた後、10.0gのn−ヘキサンを入れ、さらに30gのドライアイスを添加して密封し、室温下で気化した二酸化炭素を少し排出し圧力を調整し、温度450℃、絶対圧力28.6MPaで2時間加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出し乾燥すると5.92gが回収できた。後処理として、得られた粉末を空気中800℃で1時間熱処理し、さらにフッ化水素酸(50%)と濃硝酸(69%)とを混合した溶液に入れ、約70℃に加温しながら1時間撹拌した。その後、イオン交換水で洗浄、ろ過後、100℃で8時間乾燥した。
【0059】
上記操作で得られた反応生成物にX線回折測定を行ない図4に示すX線回折パターンを得た。X線回折の測定は、株式会社リガク製、RINT2400で、CuKα線を用いて行った。このピークより生成物がβ−SiCであることが分かった。
【0060】
また、得られた粉末のB.E.T.比表面積を測定したところ38m2 /gと大きい値を示した。この粉末をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、不定形で粒子の平均粒子径は0.05μm以下であった。この得られた炭化ケイ素粉末の不純物量を調べるため、ICP発光分析装置(堀場製作所JY238U)でFe,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,Alについて測定したところ、それら元素のトータルは10ppm以下であった。後処理後の純度を99.99%として回収重量と原材料で使ったSi元素のスペック及び重量とからSi元素の炭化ケイ素粉末への転換率を計算すると97.3%であり、低い温度でもよく反応していることが分かった。
【0061】
比較例1
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、4.0gのシリコンニッケル合金Si2 Niを入れた後、1.0gのカーボン粉末(ケッチェンブラック)を入れ、さらに30gのドライアイスを添加して密封し、室温下で気化した二酸化炭素を少し排出し圧力を調整し、温度450℃、絶対圧力27.4MPaで2時間加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出した。
上記操作で得られた粉末にX線回折測定を行なったところ、原料は全く反応していないことがわかった。
【0062】
実施例2
平均粒径1μmのSi粉末4.0gと平均粒径3μmのFe粉末2.0gを遊星型のボールミルで30分混合撹拌した。この粉末を取りだし原料とした。
【0063】
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、上記原料を入れ、次にトルエン7.0gを入れ、さらに30gのドライアイスを添加して密封し、室温下で気化した二酸化炭素を少し排出し圧力を調整し、温度700℃、絶対圧力23.1MPaで10分加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出し乾燥すると6.58gが回収できた。後処理として、得られた粉末を空気中800℃で1時間熱処理し、さらにフッ化水素酸(50%)と濃硝酸(69%)とを混合した溶液に入れ、70℃に加温しながら1時間撹拌した。その後、イオン交換水で洗浄、ろ過後、100℃で8時間乾燥した。
【0064】
上記操作で得られた反応生成物にX線回折測定を行ない実施例1と同じ回折角度にピークが見られた。このピークより生成物がβ−SiCであることが分かった。また、得られた粉末のB.E.T.比表面積を測定したところ31m2 /gであった。この粉末をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、不定形で粒子の平均粒子径は0.05μm以下であった。得られた炭化ケイ素粉末の不純物量を調べるため、ICP発光分析装置(堀場製作所JY238U)でFe,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,Alについて測定したところ、それら元素のトータルは10ppm以下であった。実施例1と同じ方法にて原材料で使用したSi元素の炭化ケイ素粉末への転換率を計算すると96.7%であり、よく反応していることが分かった。
【0065】
比較例2
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、4.0gのSi粉末を入れた後、2.0gのカーボン粉末(ケッチェンブラック)を入れ、さらに30gのドライアイスを添加して密封し、室温下で気化した二酸化炭素を少し排出し圧力を調整し、温度700℃、絶対圧力22.3MPaで2時間加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出した。
上記操作で得られた粉末にX線回折測定を行なったところ、原料は全く反応していないことがわかった。
【0066】
実施例3
平均粒径1μmのSi粉末4.0gと7.0gのトルエンに溶解した1.0gのフェロセンを遊星型のボールミルで30分混合撹拌した。このペーストを取りだし原料とした。
【0067】
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、上記ペーストを入れ、さらに30gのドライアイスを添加して密封し、室温下で気化した二酸化炭素を少し排出し圧力を調整し、温度600℃、絶対圧力25.4MPaで10分加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出し乾燥すると6.24gが回収できた。後処理として、得られた粉末を空気中800℃で1時間熱処理し、さらにフッ化水素酸(50%)と濃硝酸(69%)とを混合した溶液に入れ、70℃に加温しながら1時間撹拌した。その後、イオン交換水で洗浄、ろ過後、100℃で8時間乾燥した。
【0068】
上記操作で得られた反応生成物にX線回折測定を行ない実施例1と同じ回折角度にピークが見られた。このピークより生成物がβ−SiCであることが分かった。また、得られた粉末のB.E.T.比表面積を測定したところ33m2 /gであった。この粉末をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、不定形で粒子の平均粒子径は0.05μm以下であった。得られた炭化ケイ素粉末の不純物量を調べるため、ICP発光分析装置(堀場製作所JY238U)でFe,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,Alについて測定したところ、それら元素のトータルは10ppm以下であった。実施例1と同じ方法にて原材料で使用したSi元素の炭化ケイ素粉末への転換率を計算すると98.4%であり、よく反応していることが分かった。
【0069】
比較例3
平均粒径50nmのSiO2 粉末5.0gと平均粒径10μmのカーボン粉末(ピッチコークス粉末)2.5gとを遊星型のボールミルで30分混合撹拌した。これを取りだし原料とした。
【0070】
グラファイトルツボに、上記原料を入れ、Ar雰囲気中で1700℃、絶対圧力0.1MPaで2時間焼成した。ついで、室温まで冷却して、ルツボから固体分を取り出すと3.70gが回収できた。後処理として、得られた粉末を空気中800℃で1時間熱処理し、さらにフッ化水素酸(50%)と濃硝酸(69%)とを混合した溶液に入れ、70℃に加温しながら1時間撹拌した。その後、イオン交換水で洗浄、ろ過後、100℃で8時間乾燥した。
【0071】
上記操作で得られた反応生成物にX線回折測定を行ない実施例1と同じ回折角度にピークが見られた。このピークより生成物がβ−SiCであることが分かった。また、得られた粉末のB.E.T.比表面積を測定したところ0.07m2 /gであった。この粉末をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、不定形で粒子の平均粒子径は5〜10μmであった。得られた炭化ケイ素粉末の不純物量を調べるため、ICP発光分析装置(堀場製作所JY238U)でFe,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,Alについて測定したところ、Al元素について実施例1の7倍、測定元素のトータルでは、実施例1の10倍の量が測定された。実施例1と同じ方法にて原材料で使用したSi元素の炭化ケイ素粉末への転換率を計算すると83.6%であり、未反応の原材料が多いことが分かった。
【0072】
実施例4
平均粒径1μmのSi粉末4.0gと平均粒径0.05μmのFe34 粉末2.0gを遊星型のボールミルで30分混合撹拌した。この粉末を取りだし原料とした。
【0073】
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、上記原料を入れ、次に7.0gのn−ヘキサンを入れ、さらに30gのドライアイスを添加して密封し、室温下で気化した二酸化炭素を少し排出し圧力を調整し、温度700℃、絶対圧力27.2MPaで10分加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出し乾燥すると5.92gが回収できた。後処理として、得られた粉末を空気中800℃で1時間熱処理し、さらにフッ化水素酸(50%)と濃硝酸(69%)とを混合した溶液に入れ、70℃に加温しながら1時間撹拌した。その後、イオン交換水で洗浄、ろ過後、100℃で8時間乾燥した。
【0074】
上記操作で得られた反応生成物にX線回折測定を行ない実施例1と同じ回折角度にピークが見られた。このピークより生成物がβ−SiCであることが分かった。また、得られた粉末のB.E.T.比表面積を測定したところ30m2 /gであった。この粉末をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、不定形で粒子の平均粒子径は0.05μm以下であった。得られた炭化ケイ素粉末の不純物量を調べるため、ICP発光分析装置(堀場製作所JY238U)でFe,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,Alについて測定したところ、それら元素のトータルは10ppm以下であった。実施例1と同じ方法にて原材料で使用したSi元素の炭化ケイ素粉末への転換率を計算すると95.8%であり、よく反応していることが分かった。
【0075】
実施例5
平均粒径1μmのSi粉末4.0gと7.0gのトルエンに溶解した1.0gのフェロセンを遊星型のボールミルで30分混合撹拌した。その後、このペーストを取りだしN2 雰囲気中で乾燥しSiとフェロセンの混合体を作製した。
【0076】
内容積95mlのハステロイ(Ni−Cr−Mo合金)製耐圧容器に、上記ペーストを入れ、脱気した後、液体窒素で冷却後プロピレンを7.0g封入した。室温まで戻した後、温度600℃、絶対圧力23.6MPaで10分加熱した。ついで、室温まで冷却して、反応容器を開封し、固体分を取り出し乾燥すると6.35gが回収できた。後処理として、得られた粉末を空気中800℃で1時間熱処理し、さらにフッ化水素酸(50%)と濃硝酸(69%)とを混合した溶液に入れ、70℃に加温しながら1時間撹拌した。その後、イオン交換水で洗浄、ろ過後、100℃で8時間乾燥した。
【0077】
上記操作で得られた反応生成物にX線回折測定を行ない実施例1と同じ回折角度にピークが見られた。このピークより生成物がβ−SiCであることが分かった。また、得られた粉末のB.E.T.比表面積を測定したところ33m2 /gであった。この粉末をSEM(走査電子顕微鏡)で観察したところ、不定形で粒子の平均粒子径は0.05μm以下であった。得られた炭化ケイ素粉末の不純物量を調べるため、ICP発光分析装置(堀場製作所JY238U)でFe,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti,Alについて測定したところ、それら元素のトータルは10ppm以下であった。実施例1と同じ方法にて原材料で使用したSi元素の炭化ケイ素粉末への転換率を計算すると98.9%であり、よく反応していることが分かった。
【0078】
以上の実施例及び比較例の結果をまとめると次の表1のようになる。
【0079】
【表1】

【0080】
(注1)Si原材料のSiCへの転換率(%)は、後処理後の炭化ケイ素の純度を99.99%として次式(1)で計算した。
【0081】
【数1】

【0082】
(注2)B.E.T.比表面積は、Brunauer−Emmett−Teller法により測定した後処理後の炭化ケイ素粉末の比表面積を示す。
上記の表1より、本発明の炭化ケイ素の製造方法によると、低い温度でも炭化水素がよくSi元素と反応し、比表面積が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の炭化ケイ素の製造方法は、研磨材、構造用セラミック材料、各種焼結成形品の原材料としての用途、および炭化ケイ素単結晶ウエハー用原材料としても利用可能な炭化ケイ素粉末の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の炭化ケイ素の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の炭化ケイ素の製造に用いる高温高圧反応装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の炭化ケイの製造に用いる連続式製造装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例1の炭化ケイの製造方法で作製した炭化ケイ素粉末のX線回折パターンを示す図である。
【符号の説明】
【0085】
200 反応容器
201 原材料または媒体
202 原材料
203 加熱装置
204 原材料貯蔵容器
205 反応促進媒体貯蔵容器
206 圧力計
207 安全弁
208 排気装置
209 原材料あるいは媒体供給管
210 排気管
211 攪拌機構
300 反応器
301 生成物分離器
302 原材料回収精製塔
303 コンプレッサー
304 供給原材料
305 供給触媒
306 反応促進媒体
307 生成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の炭化ケイ素の製造方法において、少なくともSi元素および一種以上の遷移金属元素を含む合金と、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属元素が鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、タンタル、ニオブ、クロム、タングステン、モリブデン、チタン、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択される一種類以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項3】
粉末状の炭化ケイ素の製造方法において、金属ケイ素粉末および遷移金属粉末を少なくとも含む混合物と、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属粉末を構成する主たる元素が、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、タンタル、ニオブ、クロム、タングステン、モリブデン、チタン、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択される一種類以上の元素であることを特徴とする請求項3に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項5】
粉末状の炭化ケイ素の製造方法において、金属ケイ素粉末および遷移金属化合物を少なくとも含む混合物と、鎖状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、アルコールおよび芳香族炭化水素からなる群から選択される一種類以上の置換または未置換の炭化水素とを、370〜800℃の温度範囲にて反応させる工程を含むことを特徴とする炭化ケイ素の製造方法。
【請求項6】
前記遷移金属化合物を構成する主たる遷移金属元素が鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、タンタル、ニオブ、クロム、タングステン、モリブデン、チタン、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択される一種類以上の元素であることを特徴とする請求項5に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属化合物が有機遷移金属化合物であることを特徴とする請求項5または6に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項8】
前記有機遷移金属化合物が、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、カルボン酸鉄、カルボン酸ニッケル、カルボン酸コバルト、シュウ酸鉄、シュウ酸ニッケル、シュウ酸コバルト、ニッケルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、鉄フタロシアニン、ニッケルアセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、ニッケルカルボニル、コバルトカルボニル、鉄カルボニルから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項9】
前記遷移金属化合物が遷移金属酸化物であることを特徴とする請求項5または6に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項10】
前記遷移金属酸化物が、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化銅、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化ルテニウム、酸化ロジウム及び酸化パラジウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項9に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属化合物が遷移金属塩であることを特徴とする請求項5または6に記載の炭化ケイ素の製造方法。
【請求項12】
前記反応させる工程における絶対圧力が0.3〜60.0MPaの範囲であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかの項に記載の炭化ケイ素の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−206391(P2006−206391A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21614(P2005−21614)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】