説明

炭化水素の製造方法

【課題】高効率でメタンの酸化カップリング反応を行わせて、炭素数が2以上の炭化水素を、高い収率で、しかも経済的に製造可能な炭化水素の製造方法および該方法に用いられるメタンの酸化カップリング反応用触媒を提供する。
【解決手段】ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持させた触媒を用い、メタンの酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の製造方法およびそれに用いる触媒に関し、さらに詳しくは、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造する方法とそれに用いるメタンの酸化カップリング用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
他の炭化水素にくらべ反応性が低くその多くが燃料として使用されてきたメタンは、天然ガス中に豊富に存在し、石炭の高温コークス炉ガス(COG)中にも多量に存在する。さらに、石炭分解ガスから生成する一酸化炭素や二酸化炭素の水素化反応や石油留分由来炭化水素の分解プロセス副生物としても多量に発生する。また、発酵法からも相応の量が発生する。このメタンを有効利用するための炭素数2以上の炭化水素への転換の試みが古くからなされている。
【0003】
メタンから炭素数2以上の有用な炭化水素に転換するための技術の一つとして、メタンの酸化カップリング、すなわちメタンを酸素存在雰囲気下、触媒と接触してエチレンやエタンなど炭素数2以上の炭化水素を製造のための触媒反応が、1980年から盛んに検討され、1982年に初の酸化カップリング触媒が提案された(非特許文献1)。この非特許文献1の方法では、α−アルミナ担体に各種金属酸化物を担持した触媒を使用して炭素数2以上の炭化水素を製造する方法であるが、メタンの転化率が数%であり、エチレン、エタンなどの炭素数2以上への選択率も極めて低い。
【0004】
また、酸化カルシウム担体に酸化リチウムと酸化錫を担持した触媒を使用した触媒を使用して炭素数2以上の炭化水素を製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この特許文献1の方法では、エチレン、エタンなどの炭素数2以上の炭化水素への収率が約15%であり、さらに収率を高めることのできる技術が求められている。
【0005】
さらに、シリカ担体にマンガンおよびタングステン酸ナトリウムを担持した触媒を使用して炭素数2以上の炭化水素を製造する方法も提案されている(非特許文献2)。この非特許文献2には、メタン転化率が36.8%、エチレンとエタンの合計選択率が64.9%と記載されており、これまで提案されてきたメタンの酸化カップリング反応触媒として最も高性能であると考えられるが、収率が25%以下であり、さらなる改良技術が求められている。
【0006】
このように、これまで提案された幾多の技術は、何れもワンパス収率が低く、高い反応温度を必要とするなどの理由で未だ工業化されることなく現在に至っており、反応温度の低温化と収率向上を可能とする技術が求められているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−70372号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Catalysis 73, 9-19 (1982)
【非特許文献2】Journal of Molecular Catalysis (China) 6, 6, 427-433 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し高効率でメタンの酸化カップリング反応を行わせて、炭素数が2以上の炭化水素を、高い収率で、しかも経済的に製造することが可能な炭化水素の製造方法と、優れたメタンの酸化カップリング反応触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するため諸種の検討を行った結果、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持してなる触媒を用いれば、メタンから炭素数2以上の炭化水素を高効率で製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、次の(1)〜(5)に存する。
(1)ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持させた触媒を用い、メタンの酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を生成させることを特徴とする炭化水素の製造方法。
(2)無機酸化物が、石英ウール、チタン酸カリウム及びシリカゲルよりなる群から選ばれる何れかの無機酸化物である、(1)に記載の方法。
(3)酸化カップリング反応が、酸素とスチームの共存雰囲気下で行われる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)酸化カップリング反応が、600℃〜900℃の範囲内で行われる、(1)乃至(3)の何れかに記載の方法。
(5)ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持させてなることを特徴とするメタンの酸化カップリング反応用触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭化水素の製造方法によれば、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物を担体とし、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を担持してなる触媒を用い、メタン含有ガスを、上記触媒と接触させて酸化カップリング反応を行わせ、メタンから炭素数2以上の炭化水素を高効率で製造することができる。例えば、メタン含有ガスを酸素とスチームの共存雰囲気下、反応温度800℃以下で、上記触媒と接触させて反応を行わせることにより、エチレンなどの炭素数2以上の炭化水素の収率を30%程度まで向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1〜6及び比較例1で用いた担体について、水銀圧入法によって得られた細孔分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
【0015】
本発明の炭化水素の製造方法は、上記のとおり、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物(以下これを「活性成分」ということがある。)を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持させた触媒とメタンを、酸素の存在下で接触させ、酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を生成させることに特徴を有するものである。
【0016】
まず、本発明で用いる触媒(メタンの酸化カップリング反応用触媒)について説明する。
本発明において、触媒の活性成分を担持させる担体としては、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物(以下これを、単に「担体」と称することがある)が用いられる。
なお、水銀圧入法による細孔分布測定はそれ自体既知の通常用いられる方法であり、本発明における細孔径の表記は全て直径を指す。担体の好ましい細孔径は、下限が0.01μmであり、上限が54μmである。
【0017】
上記担体の好ましい細孔容積は1ml/g以上、7ml/g以下である。
かかる細孔容積の条件を満足するためには、担体が、0.01μm以下の細孔を減じて極力ポーラスであること、更に好ましくは幾何学的な外表面積も大きいことである。
【0018】
上記担体としては、0.01μm以上の細孔を多く有する周期律表の第1族から第16族元素の酸化物あるいはそれらの複合酸化物であって、メタンの酸化カップリング反応を阻害しないものであれば特に限定されず、何れの酸化物あるいはそれらの複合酸化物も用いることができる。
さらに具体的には、周期表の第1族から第16族元素の酸化物あるいはそれらの複合酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、石英ウール、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、シリカゲル等が挙げられる。
【0019】
また、これらの担体は、単独でも互いに混合しても、さらに別途希釈剤等と混合使用してもよい。
ここで、別途希釈剤としては、例えば、ムライト(3Al・2SiO)、溶融アルミナ、シリカ、石英砂等、反応に悪影響をおよぼさない物質が挙げられる。これらの希釈剤は、単独でも互いに混合使用してもよい。
【0020】
上記担体の中で、本発明においては、例えば、石英ウール、チタン酸カリウム及びシリカゲルよりなる群から選ばれる何れかの担体を用いるのが特に好ましい。
【0021】
さらに詳細には、石英ウールは、市販品の使用も可能であり、そのまま使用しても予め酸や塩基で前処理したものでもよい。本発明で用いる石英ウールは、一般にSiO2として純度99.99%、あるいはそれ以上の透明石英ガラスの繊維体で、線径が0.数μm〜9μmであり、他の繊維に比べて繊維径が均一で、耐熱性に優れた繊維であるものが好ましい
【0022】
チタン酸カリウムは、一般式でK2O・nTiO2(式中、nは1、2、4、6または8の整数を示す。)で表記され、水熱合成法や高温焼成法等の常法で合成したものあるいは市販品の使用が可能である。
【0023】
シリカゲルは、SiO・nHOの一般式で表される多孔性ガラス状固体で、その製造法により細孔径や細孔容積の異なる多種多様の品種の製造が可能である。本発明に用いられるシリカゲルは、細孔径0.01μm以上で尚かつ細孔容積が1.0ml/g以上であれば如何なる製造法で調製されたでもよく、更に市販品の使用が可能であり、その形状についても球状や繊維状等に限定されるものではない。
【0024】
本発明で用いる担体、例えば石英ウールやチタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、シリカゲルあるいはその混合物等は、予め所望の温度で焼成したものでもよい。
【0025】
また、担体の形状は前記条件を満足するものであれば特に限定されるものではなく、円柱型、リング状、押出し型、球状、粒状、粉末状、フレーク型、ハニカム状、パスティル状、リブ押出し型、リブリング状、塊状及び繊維状、等の使用が可能である。
【0026】
上記担体は、市販品を用いることもできるが、それ自体既知の通常用いられる方法、例えば、目的担体に所望の細孔径と細孔容積を構築し、尚かつ焼成工程等の温度で脱離または燃焼消滅するものを担体に混在させて成型後熱処理または焼成する方法や、予め微粒子化した担体をシリカ等の別途融着剤を用いて再結合させる方法で製造することができる。更に、成型担体前駆体に物理的に溝等を施す方法、繊維状担体前駆体をピラー等で架橋して目的の形状に成型し、必要に応じて焼成する方法等により製造することもできる。
得られた担体は、水銀圧入法による細孔分布測定により所望の細孔容積を有することを確認のうえ用いればよい。
【0027】
担体へ担持する活性成分は、前記のとおり、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)、タングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物である。これら活性成分の担体への担持は、それ自体既知の方法、例えば、活性成分の前駆体化合物(以下これを、「Na化合物、Mn化合物、W化合物」と略称することがある。)の水溶液を、担体に含浸させて乾燥し、次いで、これを空気流通下で焼成する(以下これを「触媒焼成」と略称することがある。)方法等により行うことができる。
【0028】
触媒焼成は、通常300〜1200℃、好ましくは500〜1000℃で、通常1〜24時間、好ましくは3〜16時間行うのが適当である。これにより、Na、MnおよびW化合物が、酸化物あるいはその複合酸化物に転換する。
ここで、ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物の酸化状態および結晶構造は特に限定されるものではない。
【0029】
担体に含浸させるNa、Mn、W化合物としては、これら金属元素の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、アンモニウム塩等の無機化合物や酢酸塩、シュウ酸塩等の有機化合物やタングステン酸ナトリウム等の複合酸化物化合物をはじめ、一般に酸化物の製造に用いることが知られている種々のものを用いることができる。
【0030】
これら前駆体化合物(Na、Mn、W化合物)の具体例としては、Na源として、塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO)、硝酸ナトリウム(NaNO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、酢酸ナトリウム(CHCOONa)等が、Mn源として、塩化マンガン(MnCl)、硫酸マンガン(MnSO)、硝酸マンガン[Mn(NO]、酢酸マンガン[Mn(CHCOO)]、シュウ酸マンガン[Mn(C]等が、W源として、パラタングステン酸アンモニウム〔(NH10[W1242]〕等が挙げられる。
これらの中で、Na源としてNaOH、NaCOが、Mn源としてMn(NOが、W源として〔(NH10[W1242]〕が好ましい前駆体化合物として挙げられ、それ等を組合せて用いるのが好ましい。また、Na、W源としてタングステン酸ナトリウム(NaWO・2HO)を用いることもできる。
【0031】
触媒中のNa、Mn、Wの含有量は、Mn金属質量換算で0.2〜6%、好ましくは0.5〜5%、NaとWはNaWO質量換算で0.5〜15%、好ましくは1.2〜13%である。
【0032】
上記触媒は、そのまま触媒として用いてもよく、目的によっては反応に悪影響をおよばさないバインダーを用いて成型することができる。
成型体は、目的に合致すればいかなる形状、寸法でも限定されるものではない。成型法も特に限定されるものではなく、例えば、予め担体をシリカゾル、シリカ、シリカゲル、石英、およびそれらの混合物等のバインダーを用いた成型方法や、活性成分化合物を担持した触媒前駆体あるいは予備焼成後の粉末体を前記バインダー、活性成分Na、Mn、W化合物をバインダーとした成型方法がある。
【0033】
以上の方法で、本発明の触媒(メタンの酸化カップリング反応用触媒)を好適に得ることができる。
本発明の触媒は、上記のとおり、特定の細孔径と細孔容積をもつ担体を用いて調製されるものである。即ち、基質メタンや目的生成物エタン、エチレン等の細孔内での拡散速度が抑制されて一酸化炭素や二酸化炭素への逐次完全酸化反応を促進する様なミクロ細孔を有さないあるいは形成しない、なおかつ活性サイト形成に有意義な幾何学表面積の大きい担体を用いて調製されるものである。これにより、目的生成物の収率向上を可能とした。
【0034】
また、本発明の触媒は、その活性を阻害しない範囲でナトリウム(Na)、マンガン(Mn)、タングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物以外の他の成分、例えば、アルカリ金属類、アルカリ土類金属、希土類、ケイ素(Si)、ジルコニア(Zr)等の酸化物等を含有していてもよい。これらの成分は、その前駆体化合物を、必要に応じて、Na、MnおよびW化合物とともに、担体に含浸させて焼成することにより、触媒に含有させることができる。
【0035】
次に、本発明の炭化水素の製造方法について説明する。
反応原料として用いるメタンは、純粋なメタンであっても、あるいは酸化カップリング反応を阻害しない範囲で他の成分を含有したメタン含有ガスであってもよい。これらメタンやメタン含有ガスは、天然ガス、石炭の高温コークス炉で得られたメタン含有ガス、石炭分解ガスから生成する一酸化炭素や二酸化炭素の水素化反応や石油留分由来炭化水素の分解によって得られたメタン含有ガス、発酵法で得られたメタン含有ガス等から、また必要に応じて、これらメタン含有ガスからメタンの単離または精製処理を施して得ることができる。
【0036】
メタンの酸化カップリング反応は、酸素、炭酸ガス、(亜)酸化窒素などが存在する雰囲気下で行うことができるが、酸素存在雰囲気下で行うのが好ましい。
酸化カップリング反応に供する酸素源として、酸素、空気および酸素富化空気など酸素含有ガスを使用することができる。さらに、メタンの酸化カップリング反応は、酸素とスチームが共存する雰囲気中で行うのがより好ましい。
【0037】
更に、反応雰囲気中に塩化メチル、塩化メチレン及び臭化メチル等のハロゲン化合物共存させた反応も可能である。
【0038】
スチーム源としては、水を使用しても、あるいはボイラーや各種化学プラントの排ガス中のスチーム等を、必要に応じて単離または精製処理を施して使用してもよい。
【0039】
酸化カップリング反応に供するメタンと、酸素およびスチームの割合は、メタン1モルに対し、酸素0.1〜10モル比、スチーム0.1〜20モル比の範囲が好ましく、酸素0.2〜5モル比、スチーム0.2〜10モル比の範囲がより好ましい。酸素およびスチームの割合をこれらの範囲とすることにより爆発範囲を回避できる。また、反応雰囲気中に窒素やヘリウムおよびアルゴンなどの不活性ガスを存在させてもよい。
【0040】
メタンの酸化カップリング反応の温度は、通常500〜1100℃であるが、この範囲内でも下限近くでは、触媒の活性が低下する傾向があり、上限近くではメタンの燃焼反応が増大して炭素数2以上の選択率が低下する傾向がある。従って、メタンの酸化カップリング反応の温度は、好ましくは600〜900℃、より好ましくは700〜800℃が適当である。
【0041】
メタンの酸化カップリング反応の圧力は、通常大気圧で行われ、触媒を充填した反応器に原料のメタンあるいはメタン含有ガスと酸素あるいは酸素含有ガス、好ましくは、さらにスチームを含む雰囲気ガスとの混合物を流通させる固定床反応式で行われるが、流動床や移動床反応器を用いた方法でもよい。また、触媒層入り口部における高酸素濃度による原料メタンの燃焼抑制目的にメンブレン反応器の使用や触媒層別に分割して酸素を注入する分割フィード法を可能とする反応器を使用してもよい。
【0042】
空間速度は、1〜100000ml/g/hの範囲であり、好ましくは100〜50000ml/g/hの範囲である。ここで、空間速度とは、触媒単位重量あたりの原料メタン含有ガスと酸素含有ガスと、スチーム、窒素等の不活性ガス、および所望により添加した他のガスの、時間あたりの総容積流量であり、触媒重量とは、反応管に充填した触媒総重量である。
【0043】
反応器には一種類の触媒を充填してもよく、また、活性の異なる複数種の触媒を混合あるいは層別に充填してもよい。所望ならば活性の異なる複数種の触媒を、または一種類の触媒と希釈剤として使用する不活性な無機物とを、用いて、反応器入り口から出口へ向けて活性が変化する様に触媒を充填することも可能である。
【0044】
反応器出口ガス、すなわちメタンの酸化カップリング反応により生成する炭素数2以上の炭化水素類を含むガスは、反応原料によってその組成が異なる。出口ガス中の目的生成物である炭素数2以上の炭化水素類は、それ自体公知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行うことにより、必要な目的物、例えばエチレンやエタンを得ることができる。
【0045】
また、未反応のメタンはリサイクルせずにそのまま燃焼して、メタンの酸化カップリング反応での反応熱と併せて発電用の熱源として使用することもできる。
【実施例】
【0046】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例により限定されるものではない。
なお、以下の実施例1〜6、比較例1において使用した担体の細孔分布及び細孔容積は、マイクロメリテックス社製オートポアIV 9520型を用いて、試料を減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理を施した後、約4psia(細孔径54μm相当)から40000psia(細孔径0.0054μm相当)までの水銀圧入法曲線を測定することにより求めた。
上記水銀圧入法によって得られた細孔分布を図1に、細孔分布図から読み取った、細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積(ml/g)を表1に示す。
【0047】
[実施例1]
<触媒調製>
Ti17(商品名 TISMO−D:大塚化学社製)2gに脱塩水3.1gに溶解した硝酸マンガン・6水和物[Mn(NO・6HO]0.2267gを加え、含浸後、ロータリエバポレーターにて減圧下充分乾燥した。次に、3.1gに溶解したタングステン酸ナトリウム・2水和物(NaWO・2HO)0.1218gを加え、含浸後、ロータリエバポレーターにて減圧下充分乾燥した。乾燥品は100℃の乾燥機器にて10時間以上乾燥後、空気流通下850℃で8時間焼成して触媒とした。担体として使用したKTi17は、触媒焼成温度条件ではKTi13とTiOに転移しているのがX線回折から確認されている。得られた触媒の組成は仕込み換算で5wt%NaWO/2wt%Mn/KTi17である。なお、用いた担体(KTi17)の細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積は3.46ml/gである。
【0048】
<反応>
得られた触媒0.5gを1mlの石英砂で希釈して、内径7mmの石英反応管に充填して、酸素3.74ml/分、窒素31.4ml/分の混合ガスフィード下触媒層を所望の温度に昇温後、0.006ml(液)/分の速度で水を反応管へフィードすると同時にメタン(99.999%)7.48ml/分の速度でフィードして反応を開始した。このときのフィードガス組成は、O/N/HO/メタン=0.5/4.2/1/1モル比である。この時の空間速度は6010ml/g/hで、反応温度は650℃から850℃まで、10〜25℃の間隔で変化して反応管出口ガスをガスクロマトグラフィーで測定し、メタンの転化率及びエチレン、エタン収率、炭素数2以上の収率及び生成ガス中のエチレン/エタンのモル比を求めた。最高収率が得られた近傍の温度依存性の結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
Ti17に代えてKTi13(商品名 TISMO−N:大塚化学社製)を用いた以外は実施例1と全く同様にして触媒を調製し、反応を行った。結果を表1に示す。なお、用いた担体(KTi13)の細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積は2.35ml/gである。
【0050】
[実施例3]
Ti17に代えて石英ウール(T−1030:コバレントマテリアル社製)を用いた以外は実施例1と全く同様にして触媒を調製し、反応を行った。結果を表1に示す。なお、用いた担体(石英ウール)の細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積は5.04ml/gである。
【0051】
[実施例4]
実施例1の触媒を用い、反応ガスフィードを酸素3.74ml/分、窒素39.4ml/分、メタン7.48ml/分の速度でフィードした以外は実施例1と全く同様に反応を行った。このときのフィードガス組成は、O/N/メタン=0.5/5.3/1モル比である。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例5]
Ti17に代えてシリカゲル(試作品 CARiACT Q−500相当品、粒子径約40μ:富士シリシア社製)を用いた以外は実施例1と全く同様にして触媒を調製し、反応を行った。結果を表1に示す。なお、用いた担体(シリカゲル)の細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積は2.28ml/gである。
【0053】
[実施例6]
Ti17に代えてシリカゲル(試作品 CARiACT Q−15相当品、粒子径約75〜500μ:富士シリシア社製)を用いた以外は実施例1と全く同様にして触媒を調製し、反応を行った。結果を表1に示す。なお、用いた担体(シリカゲル)の細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積は1.33ml/gである。
【0054】
[比較例1]
Ti17に代えてシリカゲル(商品名 CARiACT Q−3相当品、粒子径約70〜500μ:富士シリシア社製)を用いた以外は実施例1と全く同様にして触媒を調製し、反応を行った。結果を表1に示す。なお、用いた担体(シリカゲル)の細孔径(直径)0.01〜54μmの細孔容積は0.24ml/gである。
【0055】
【表1】

【0056】
なお、表1中の転化率、収率(例:エチレン収率)及びエチレン/エタン比は以下の計算法で単位時間あたりのモル数から算出した値である。
【0057】
メタン転化率(mol%)=[(反応管入口メタンモル数)−(反応管出口メタンモル数)]÷(反応管入口メタンモル数)×100
エチレン収率(mol%)=[(反応管出口エチレンモル数)×2]÷(反応管入口メタンモル数)×100
エチレン/エタン(モル比)=(反応管出口エチレンモル数)÷(反応管出口エタンモル数)×100
【0058】
表1の結果のとおり、本発明の酸化カップリング用触媒は、従来技術により提供された触媒の性能にくらべ、800℃以下の低温で、エチレン+エタン及び炭素数2以上の炭化水素(表中の「C以上」)を高収率で得ることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、メタンの酸化カップリング反応を効率よく行わせて、メタンから炭素数2以上の炭化水素を、高収率で、しかも経済的に製造することが可能となる。したがって、本発明は、メタンから炭素数2以上の炭化水素を製造する技術分野、および、メタンの酸化カップリング反応触媒の分野に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持させた触媒を用い、メタンの酸化カップリング反応により、メタンから炭素数2以上の炭化水素を生成させることを特徴とする炭化水素の製造方法。
【請求項2】
無機酸化物が、石英ウール、チタン酸カリウム及びシリカゲルよりなる群から選ばれる何れかの無機酸化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化カップリング反応が、酸素とスチームの共存雰囲気下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
酸化カップリング反応が、600℃〜900℃の範囲内で行われる、請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
ナトリウム(Na)、マンガン(Mn)及びタングステン(W)の酸化物あるいはその複合酸化物を、水銀圧入法による細孔分布測定から求められる、細孔径0.01μm以上の細孔容積が1.0ml/g以上である無機酸化物に担持させてなることを特徴とするメタンの酸化カップリング反応用触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−32257(P2011−32257A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20354(P2010−20354)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】