説明

炭化水素ジチオリン酸の金属塩における粗沈降物の低減方法

【課題】 沈降物が少なく、曇り度が低い過塩基性金属ジチオリン酸塩組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 低沈降性の過塩基性金属ジチオリン酸塩組成物の製造方法を開示する。この方法は、第一級ジアルキルジチオリン酸の中和過程でC1〜C5モノカルボン酸促進剤の添加を遅れさせることを利用する。この方法は、結果として粗沈降物の生成を低減し、それにより得られた過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩はその意図する使用に先立って更にろ過を行う必要がない。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗沈降物の少ない過塩基性金属ジチオリン酸塩組成物の、酸性促進剤の添加を遅らせることにより製造する製造方法に関するものである。この方法は結果的に生成物の粗沈降物および曇り度を低減し、それにより、得られた過塩基性金属ジチオリン酸塩は、その意図する使用に先立ってろ過を行う必要がなくなる。
【背景技術】
【0002】
金属ジアリール及びジアルキルジチオリン酸塩、特にジチオリン酸亜鉛は、長い間、耐摩耗添加剤および酸化防止剤として、油圧作動油、モーター油および自動変速機油等に使用されてきている。これら化合物の製造方法についてもよく知られている。そのような金属ジチオリン酸塩の製造では普通、ジチオリン酸を酸化亜鉛などの金属塩基で中和する。この中和は容易には進行せず、普通は大過剰の塩基が使用され、時には促進剤が一緒に使用される。このために使用される促進剤としては種々様々なものがある。特許文献1には、無機亜鉛塩が促進剤として作用することが開示されている。また、アンモニアおよび他のアミンも促進剤として作用することが開示済みである(例えば特許文献2、3、4及び5を参照されたい)。酸促進剤、例えば強酸(塩酸、過塩素酸または硝酸)、スルホン酸およびカルボン酸も開示済みである(例えば特許文献6、7及び8を参照されたい)。なお、後者では酸性促進剤に続いて弱塩基が用いられる。特許文献9には、促進剤として二酸化窒素が提案されている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第3562306号明細書
【特許文献2】米国特許第3573293号明細書
【特許文献3】米国特許第3836745号明細書
【特許文献4】米国特許第4377527号明細書
【特許文献5】米国特許第4377527号明細書
【特許文献6】米国特許第3347790号明細書
【特許文献7】米国特許第3290347号明細書
【特許文献8】米国特許第4085053号明細書
【特許文献9】米国特許第4092341号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
当該分野では知られているように、促進剤の使用には望ましくない副作用がある。促進剤の使用によっては、安定性に問題がある生成物、沈降物が比較的多い生成物、ろ過が困難な生成物、暗色の生成物および/または曇り度が許容できないほど存在する生成物を生成させることがある。ある種の促進剤では粗沈降物のレベルを改善できるものの、依然としてろ過が必要なほど、粗沈降物レベルがひどく高い。一般に、沈降物や曇り度を減らしてもっと許容可能なレベルにするために、ろ過と組み合わせて、別の成分が使用されている。しかしながら、これら別の成分の使用には欠点がある。好ましいのは、作業条件が、別の成分の必要性を回避できることである。驚くべきことに、第一級アルコールから誘導したジアルキルジチオリン酸の中和とそれに続く過塩基化の過程で、特定の部類の促進剤の添加を制御して遅らせるようにした方法によって、沈降物が少なく、曇り度が低い過塩基性金属ジチオリン酸塩組成物が生成することが発見された。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示するのは、モノカルボン酸促進剤の添加を遅らせることによって、低沈降性の過塩基性金属ジチオリン酸塩組成物を製造する方法である。この独特な方法における促進剤の添加の遅れの結果、粗沈降物の生成が減少し、曇り度の低い生成物が生成し、それにより、得られた過塩基性金属ジチオリン酸塩は、その意図する使用に先立ってろ過を行う必要がなくなる。従って、本発明の一態様では、下記の工程からなる低沈降性の過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩組成物の製造方法に関する:
a)硫化リン反応体を少なくとも一種のC3〜C12第一級アルコールと反応させて、ジアルキルジチオリン酸を生成させる、
b)ジアルキルジチオリン酸を充分な量の金属酸化物を用いて充分な時間をかけて中和して、塩基性及び中性ジアルキルジチオリン酸塩からなる中間体であって、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定した値として約0.075乃至約0.75であることを特徴とする中間体を生成させる、
c)中間体に、金属酸化物の量に基づき1.5乃至5重量%の少なくとも一種の炭素原子数1〜5の脂肪族モノカルボン酸促進剤を添加して、反応物(反応塊)を形成する、そして
d)反応物を好適な温度及び時間の下で反応させて、ろ過前の粗沈降物が0.01重量%以下であることを特徴とする過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物を生成させる。
【0006】
全く予期し得なかったことには、促進剤の添加を中和工程の特定の時点まで遅らせることが、粗沈降物が少なく、曇り度が低い過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物を導いている。中間体の中性塩に対する塩基性塩の比が、31P−NMR分析で測定して約0.075より高く、一般には0.075乃至約0.75であるといえるような時点まで促進剤を遅らせる。好ましくはジアルキルジチオリン酸塩中間体の中性塩に対する塩基性塩の比は0.1乃至0.5であり、更に好ましくは0.1乃至0.3である。特に好ましい上記の塩は、酸化亜鉛から製造する亜鉛塩である。特には、硫化リン反応体と少なくとも一種のC3〜C12第一級アルコールとの反応からジアルキルジチオリン酸塩を誘導する。硫化リンは、リンの重量%が27.9乃至28.3となるように選ばれた五硫化リンであることが好ましい。
【0007】
全ての金属酸化物が、中和に適しているわけでも、あるいは過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩組成物の生成を導くわけでもない。従って、ある態様では、金属酸化物の金属はビスマス、コバルト、クロム、銅、ニッケル、バナジウム、タングステンおよび亜鉛からなる群より選ばれ、酸化亜鉛が特に好ましい。金属酸化物は、例えば酸化亜鉛が用いられるならば、グラム当りの表面積が約3m2より大きい、好ましくはグラム当り約4乃至約10m2であることを意味する「大表面積」を持つ乾燥粉末であるか、あるいはグラム当り11乃至40m2の超微細又はナノ粒子酸化亜鉛であることが好ましい。
【0008】
本発明の方法では、中和工程に使用される金属酸化物の懸濁にスラリー媒体として希釈油やプロセス水を用いる必要がなく、好ましくはそれらを全く何も用いない。金属酸化物は、一般に中和反応器に直接に供給される。金属酸化物をスラリーにすべきであるなら、この方法に使用されるジアルキルジチオリン酸全量のうちの一部でスラリーにすることが好ましい。従って、ジアルキルジチオリン酸は、スラリー媒体として作用するだけではなく、よって金属酸化物を反応物に加えるのに過剰な希釈油やプロセス水の使用を必要としないが、反応に続いてプロセス放熱体としても作用し、不要な不活性物質の添加によって反応体の能力を低減させるようなことはない。金属酸化物をスラリーにするのに使用されるジアルキルジチオリン酸の量は、本発明において必須ではないが、通常はジアルキルジチオリン酸全分量の20乃至約40重量%の範囲にあり、より好ましくはジアルキルジチオリン酸全分量の約30乃至35重量%の範囲にある。次に、中和工程に使用されるジチオリン酸の残りの部分が、一般に約1時間乃至3時間の範囲の時間をかけて、得られたスラリーに添加される。最も好ましくは、金属酸化物を添加する前にジアルキルジチオリン酸の全分量を反応器に加えることであり、特に好ましい金属酸化物は、上述したように酸化亜鉛である。金属酸化物の添加の速度は、反応物への投入時間が約60分以下、好ましくは30分以下となるような速度である。
【0009】
従って、本発明の別の態様では、リンに対する亜鉛の重量比が1.08乃至1.30である低沈降性の過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩組成物を製造するための下記の工程からなる方法に関する:
a)五硫化リンと少なくとも一種のC3〜C12第一級アルコールとの反応から誘導した充分な量のジアルキルジチオリン酸で、充分な量の酸化亜鉛のスラリーを形成する、
b)工程a)のスラリーを温度及び時間の好適な条件下で反応させて、塩基性及び中性塩からなるジアルキルジチオリン酸亜鉛中間体であって、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定して0.075乃至0.75であることを特徴とする中間体を生成させる、
c)工程b)に続いて、酸化亜鉛の量に基づき1.5乃至5重量%の、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、2−メチル−酪酸、3−メチル−酪酸およびそれらの混合物からなる群より選ばれる促進剤を供給して、反応物を形成する、そして
d)工程c)の反応物を好適な温度及び時間の下で反応させて、沈降物が0.01重量%以下であり、リンに対する亜鉛の比が1.08乃至1.30であることを特徴とする過塩基性ジアルキルジチオリン酸亜鉛生成物を生成させる。
【発明の効果】
【0010】
数ある因子のうちでも、本発明は一部では、特定のグループのジアルキルジチオリン酸の中和過程において特定の促進剤を特別に遅らせて添加することによって、得られた最終過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物の曇り度および/または沈降物を劇的に低減することができるという、予期し得ない発見に基づいている。全く驚くべきことには、本発明で中性塩に対する塩基性塩の比として測定される特徴は、促進剤の種類や促進剤の遅延の程度にあるだけではなく、用いられるジアルキルジチオリン酸の種類にもある。この興味深い方法と組合せが、粗沈降物が少なく、かつ曇り度が低い生成物を導いている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
金属酸化物と反応させるためのジアルキルジチオリン酸の製造方法は本発明では特には重要ではなく、ジチオリン酸生成反応として公知の任意のバッチ法および連続法を使用することができる。一般には、1モルの五硫化リン(P25)を約4当量のアルコールと反応させる。一般に小過剰のアルコールが用いられる。
【0012】
アルコールを約55℃乃至約110℃、より好ましくは約75℃乃至約100℃、最も好ましくは約90℃乃至約100℃の範囲内の温度に加熱しながら、反応器に投入する。反応物には過剰のアルコールを使用することが好ましく、より好ましくは約15モル%以下で過剰のアルコール、最も好ましくは10モル%以下で過剰のアルコールを使用する。P25が過剰にあると、望ましくない副生成物が生成する傾向にあるので、反応物中の過剰の硫化リンは一般に避けるべきである。反応が完了した後、反応体混合物を冷却し、そして好ましくは窒素ガスまたは他の不活性ガスを用いてスパージ(散布)し、残留硫化水素を好適なレベルにまで取り除く。残留硫化水素の除去によって次の中和工程における金属硫化物沈殿物の生成が減ると考えられる。ジアルキルジチオリン酸生成物は、残留硫化水素の含有量が百万分の200部以下であることが好ましく、より好ましくは残留硫化水素の含有量は百万分の100部以下で、最も好ましくは百万分の50部以下である。
【0013】
本発明のジチオリン酸生成工程に使用される硫化リン反応体は、P410、P49、P47、P43のうちの一種以上、またはそれらの混合物から選ぶことができ、最も好ましいのは工業生産された五硫化リンである。市販の五硫化リン又はP25は、主としてP410とP49の混合物であり、少量のP47と多硫化リン(Pmy、ただし、y/m>2.5)も含んでいる。市販のP25に含まれるP410とP49の量は、リン対硫黄のモル投入比を調整することにより反応過程で多少変化しうる。リンレベルがP410に対する化学量論レベルの27.87重量%より下に減少するにつれて、P25混合物は多硫化物および/または遊離硫黄が増えてP49が涸渇してくる。リンレベルが27.87重量%より上に増加するにつれて、P410と遊離硫黄の含量が減少し、一方P49とP47のレベルが増加する。P含有量が>27.87重量%のグレードのP25から製造した過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩組成物は、P含有量が<27.87重量%のグレードのP25から製造したものと比較して、銅腐食試験(ASTM D130)の性能が改善されるのではないかと考えられる。よって、本発明に用いられる特に好ましいP25は、リンレベルが27.87重量%より上である、好ましくは約27.9重量%乃至約28.3重量%のリンを含むグレードのP25種である。銅腐食試験(ASTM D130)における性能の改善はまた、ジチオリン酸塩を亜リン酸トリフェニルなどの硫黄掃去剤で処理することによっても実現させることができる。
【0014】
25の反応性は、リン:硫黄の化学量論量とP25が溶融物から冷却される速度との両方の影響を受ける。一般に、冷却速度が速いと、アルコールとの反応性も高くなる。低反応性P25がより結晶性であるのとは反対に、高反応性P25は、構造がよりアモルファスであると思われる。P25の反応性は粒子径が小さい(表面積が増える)ほど多少は増大するが、主には反応性は溶融P25が冷却される速度により影響される。
【0015】
五硫化リンの化学式は、一般にはP25として表わされるが、実際の構造は、P410、P49、P47並びにその他の化合物との平衡混合物であると思われる。しかし、ジチオリン酸反応はしばしば、P25とアルコールとの反応として単純化される。従って、1モル当量のP25が4当量のヒドロキシ化合物と反応してジチオリン酸が生成する。本発明の目的では、硫化リン反応体は、実際の構造はずっと複雑であると理解しつつも、P25の化学式を有する化合物とみなすことができる。
【0016】
ジアルキルジチオリン酸の原材料となるヒドロキシ化合物は、総括的には化学式ROH(ただし、Rは炭化水素基または置換炭化水素基、特には置換アルキル基である)を有するアルコールとして表すことができる。特に好ましいR基は、炭素原子数3〜20のアルキル基である。アルコールは、少なくとも1個の−CH2OH基で特徴付けられる第一級アルコールであることが好ましく、更に好ましくはモノヒドロキシアルコールである。ヒドロキシ化合物の混合物も使用することができる。当該分野では確認されているように、これらのヒドロキシ化合物はモノヒドロキシ化合物である必要はない。すなわち、ジアルキルジチオリン酸は、モノ、ジ、トリ及び他のポリヒドロキシ化合物、またはそれらの二種以上の混合物から製造することができる。
【0017】
化学式ROHに相当する一般的な部類の化合物の例としては、Rがアルキル、シクロアルキル、アルキル置換シクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシアルキルおよびハロアルキル等から選ばれたものがある。
【0018】
前記のうちで、分枝鎖脂肪族アルコールを含む脂肪族アルコールが好ましい。より好ましいのは炭素原子数3〜20の脂肪族アルコールであり、更に好ましくは炭素原子数3〜12、更に好ましくは炭素原子数6〜8の第一級アルコールである。アルコールは、モノアルコール、例えばプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ペプチル、オクチル、ノニルおよびデシル等のアルコールである。アルコールは、直鎖でも分枝鎖でもよく、不飽和を含んでいてもよく、またそれらの混合物であってもよい。
【0019】
脂肪族アルコールは、C3〜C12の第一級アルコールであることが好ましい。好ましい直鎖アルコールとしては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、およびドデカノール等がある。特に好ましいのは、メチル、エチル、プロピル及びイソプロピル分枝鎖またはそれらの混合物を持つ分枝鎖第一級アルコールである。分枝鎖がメチル基であるとき、そのような第一級アルコールは、メチル−1−プロパノール、メチル−1−ブタノール、メチル−1−ペンタノール、メチル−1−ヘキサノール、メチル−1−ヘプタノール、メチル−1−オクタノール、メチル−1−ノナノールおよびメチル−1−デカノールからなる群より選ぶことができる。メチル基および/または分枝基は、アルファ炭素以外の任意の炭素原子に位置できることが分かっている。特に好ましいのは、C6〜C8の第一級アルコール、例えばメチル−1−ペンタノール、2−エチルブタノール、メチル−1−ヘキサノール、エチル−1−ペンタノール、2−エチル−2−メチル−ブタノール、メチル−1−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピルペンタノール、エチル−メチル−ペンタノール、ジメチル−1−ペンタノール、または2−イソプロピルペンタノールである。市販物として最も容易に入手可能なアルコールは、純粋な化合物ではなく、主要量の所望のアルコールと少量の様々な異性体および/または長鎖又は短鎖アルコールとを含む混合物であると理解すべきである。
【0020】
ジチオリン酸の生成反応は一般に、実質的に無水条件下で、かつ溶媒および/または触媒の不存在下で行われる。ヒドロキシ化合物とP25との反応は発熱反応であり、反応熱は反応混合物を加熱するのを補助するために使用することができる。また、反応熱並びに反応器の外部加熱及び/又は冷却は、所望の反応温度を維持するためにも用いることができる。一旦ジアルキルジチオリン酸反応が完了したなら、ジアルキルジチオリン酸生成物を冷却し、そして窒素等の不活性ガスでストリップして残留する硫化水素を取り除くが、ジアルキルジチオリン酸中の硫化水素の濃度は百万分の200部以下であることが好ましい。金属酸化物による中和の前に硫化水素を取り除かないと、金属酸化物が硫化水素と反応して、粗沈降物の生成に寄与しうる金属硫化物の沈殿物を生成する可能性がある。さらに、金属硫化物に変換された金属酸化物はもはや、金属ジチオリン酸塩の塩基性塩の生成には利用できず、その結果、金属酸化物のある一定の投入量にしては少ない塩基性塩が生成することになってしまう。ジチオリン酸中の残留P25は、金属酸化物による中和の前に、重力沈降、遠心分離およびろ過など公知の任意の固/液分離技術を利用して取り除くことが好ましい。この残留P25は取り除かないと、ジチオリン酸の中和反応過程で生成した水と反応してリン酸と硫化水素が生成する可能性がある。これらの化合物は中和過程で金属酸化物化合物と反応して沈殿物が生成する可能性がある。
【0021】
金属酸化物を、促進剤または触媒の不存在下でジアルキルジチオリン酸と接触させることにより、ジアルキルジチオリン酸を中和し、過塩基化して、塩基性及び中性ジアルキルジチオリン酸塩からなる中間体を生成させることができる。ただし、該中間体は、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定したときに約0.075乃至約0.75の値であることを特徴とする。この中間体の生成に続いて次に、炭素原子数1〜5の脂肪族モノカルボン酸促進剤を、金属酸化物の量に基づき1.5乃至5重量%で添加して反応物を生成させる。次いで、反応物を好適な温度および時間の下で反応させて、粗沈降物が0.01重量%以下であることに特徴がある過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物を生成させることができる。相当な量の塩基性塩が生成するまで遅らせたモノカルボン酸の添加は、促進剤を中和の前またはその時点で添加した場合に比べて、沈降生成物の生成の全体的な低減をもたらす。
【0022】
ジアルキルジチオリン酸を中和するには、高純度の金属酸化物を用いることが好ましい。可能な金属酸化物としては、ビスマス、コバルト、クロム、銅、ニッケル、バナジウム、タングステンおよび亜鉛の酸化物を挙げることができる。好ましい金属酸化物は銅および亜鉛の酸化物である。特に好ましい金属酸化物は酸化亜鉛であり、好ましくは「フランス法」により製造された酸化亜鉛である。「アメリカ法」で製造された酸化亜鉛は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛生成物に関しては色および/または追加沈降物の生成の問題を引き起こす傾向がある。一般に、フランス法により生成した酸化亜鉛は、アメリカ法と比較して不純物が少なく、より微細な粒子径となる。特に好ましい酸化亜鉛の表面積は、グラム当り約3m2より大きく、好ましくはグラム当り約4乃至約10m2である。酸化亜鉛の粒子径が中和の速度に影響を及ぼすことが分かっていて、研究では酸化亜鉛の表面積の増加が中和速度を増大させることが分かっているので、グラム当り11乃至40m2の超微細又はナノ粒子酸化亜鉛は、より一層利益をもたらす。取扱いを容易にするために、酸化亜鉛粒子の緩やかな凝集体を形成することによって酸化亜鉛の嵩密度を増やすことができる。
【0023】
金属酸化物は、スラリーまたは乾燥固形物のいずれかとして中和反応器に添加することができる。スラリーで用いるときには、金属酸化物を適当な液体、例えばニュートラル油またはジチオリン酸の全分量のうちの一部に懸濁する。ニュートラル油を使用する場合には、軽質潤滑油が好ましく、その低い粘度が一般に取扱い及び/又はポンピング要求性能を容易にするからである。しかし、重質油も合成油と同様に使用することができる。乾燥固形物として供するときには、金属酸化物を直接中和反応器に添加する、この反応器にはニュートラル油、中和すべきジチオリン酸の全量、またはジチオリン酸の初期の部分又は「ヒール」が金属酸化物をスラリーにするのに好適な量で含まれている。一般に、冷却能力に限界があるならば「ヒール」法が使用される。一般に、「ヒール」は、全反応容量の大体20乃至50容量%であり、好ましくは全反応容量の25乃至35%である。一般に、ジチオリン酸の「ヒール」および任意にニュートラル油を反応器に供給した後、適当な量の金属酸化物を混合条件下で供給してスラリーを形成させる。過剰量のニュートラル油は、スラリーの材料管理を改善するものの生産能力や生成物収量に悪影響を与えうるので、これは避けるべきである。金属酸化物スラリーの調製では水も避けるべきである。なぜならば、添加した水が最終生成物において固形物を増やすことが分かっているからである。一旦金属酸化物のスラリーが形成されたなら、ヒール法にジチオリン酸の残りの分量を添加する。金属酸化物を添加してスラリーを形成するのは遅らせない方が好ましく、一般には1時間以内で、より好ましくは30分以内で完了させる。中和工程に使用される金属酸化物の量は、ジアルキルジチオリン酸塩の過塩基性金属塩を所望のレベルで生成させるのに充分な量である。特に好ましい過塩基性ジアルキルジチオリン酸亜鉛組成物における亜鉛とリンの重量比は、約1.08:1かそれ以上であり、好ましくは1.08:1乃至1.30:1、より好ましくは1.1:1乃至1.22:1、そして更に好ましくは約1.14:1乃至1.18:1である。
【0024】
いずれにしても、ジチオリン酸と金属酸化物を好適な中和条件下で反応させて、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定して約0.075乃至約0.75であることを特徴とする、塩基性及び中性ジアルキルジチオリン酸塩からなる中間体を生成させることができる。中間体、およびその事実として最終過塩基性ジアルキルジチオリン酸塩は、ジチオリン酸の「中性」及び「塩基性」金属塩からなる。中性金属塩は一般にまた超単純化して、1モル当量の金属酸化物(例えば、酸化亜鉛)と、1モル当量のジチオリン酸((RO)2P(S)SH)(ただし、Rは独立に選ばれたアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数3〜12の分枝鎖アルキル基であり、更に好ましくは酸素に結合したアルファ炭素はメチレンである)との反応の生成物として記述できる。しかし、中性塩が平衡状態で単量体のキレート化構造を持つ架橋型の二量体となることができるという証拠がある(P.G.ハリソン(P.G.Harrison)及びT.キカバイ(T.Kikabhai)著、ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサエティ、ダルトン・トランサクションズ(J. Chem. Soc., Dalton Trans.)、1987年、p.807)。中性塩の単純化型に比べて、塩基性塩は金属酸化物を過剰に、よって中性塩生成に必要な化学量論量よりも多く含む。ジアルキルジチオリン酸亜鉛の塩基性塩が、3個の中性塩分子と1個の酸化亜鉛分子とからなる四面体ケージのような分子であるという相当な証拠もある。
【0025】
予期し得なかったことに、操作条件によって影響されうる塩基性と中性塩の平衡混合物が存在することが発見された。特に、ジアルキルジチオリン酸と金属酸化物の中和反応が、初期にはC1〜C5モノカルボン酸促進剤無しで反応して、塩基性及び中性ジアルキルジチオリン酸塩からなる中間体であって、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定して約0.075乃至約0.75であることを特徴とする中間体が生成するならば、その後にこの中間体に、金属酸化物分量に基づき1.5乃至5重量%の炭素原子数1〜5の脂肪族モノカルボン酸促進剤を添加することで反応物が形成され、次いでこれを好適な温度および時間の下で更に反応させて、粗沈降物の生成量が0.01重量%以下であることを特徴とする過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物が生成する。よって、該過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物は、沈降物が少なく、曇り度が低いものである。
【0026】
中和反応の温度は、50℃より上で約95℃までに維持することが好ましく、より好ましくは約65℃乃至約85℃である。ジチオリン酸の添加過程では、添加の速度を操作することにより、あるいは外部冷却手段により反応物を一般に約65℃乃至約85℃の範囲内の温度に制御する。ジチオリン酸の反応物への添加速度は本発明では特には重要ではなく、5分乃至3時間かそれ以上の範囲であってもよい。一般に反応物(反応塊)のサイズや反応の規模にもよるが、ジチオリン酸の添加は一般には約1乃至2時間以内に完了することができる。一般に、中和過程では反応器に若干負の圧力を維持して、発生した如何なる気体もガス排気系に排出する。全ての成分を添加した後は、中和反応が完了するまで、一般には5時間反応器を反応温度で保持する。中和過程で所望の温度を維持するために、内部又は外部加熱/冷却コイル、反応器用加熱/冷却ジャケットおよび熱交換循環ループ等を使用して、反応容器の内容物を加熱または冷却するようにしてもよい。反応が完了した後、過剰のアルコールと中和の水はフラッシュ蒸留により取り除くことができる。流下フィルム式又は拭い取りフィルム式蒸発器を使用することが好ましい。一段フラッシュドラムを使用する蒸留も用いることができる。
【0027】
中性又は塩基性ジアルキルジチオリン酸塩の量を分析するのに、従来の31P−NMR法が使用される。スペクトル位置をリン酸トリフェニル(−17.3ppm)としている。この方法に従えば、例えば、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛による塩基性種はスペクトルの約103〜105ppmの範囲に現れるが、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛から誘導されたものはスペクトルの約98〜100ppmの範囲に現れる。一方、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛による中性種はスペクトルの約100〜102ppmの範囲に現れるが、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛から誘導されたものはスペクトルの約92〜94ppmの範囲に現れる。シグナルを通常の仕方で積分して相対的な量を算出する。これらのシグナルは、過塩基性又は塩基性塩と中性塩との比を得るためにも使用することができる。この比は、ジチオリン酸と金属酸化物の中間体に促進剤を遅らせて添加するのに適した時間を決定するためにも使用することができる。中性塩に対する塩基性塩の好ましい比は0.075乃至0.75であり、より好ましくは中性塩に対する塩基性塩の比は0.1乃至0.5である。
【0028】
モノカルボン酸促進剤は、炭素原子1〜5個、好ましくは炭素原子1〜3個を含む炭化水素モノカルボン酸から選ばれる。好ましいカルボン酸は、化学式:RCOOH(ただし、Rは直鎖又は分枝鎖脂肪族基(例えば、アルキルまたはアルケニル)である)を有するものである。好適な酸としては次のものが挙げられる:ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、2−メチル−酪酸、3−メチル−酪酸、並びにオレフィン系の酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、2−及び3−ブテン酸、2−、3−及び4−ペンテン酸。特に好ましい分枝鎖の酸としては、2−メチルブタン酸、および3−メチルブタン酸等が挙げられる。特に好ましいカルボン酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸および酪酸からなる群より選ばれ、より好ましくはギ酸、酢酸およびプロピオン酸からなる群より選ばれ、そして酢酸がとりわけ好ましい。促進剤として用いられるモノカルボン酸の量は、金属酸化物の量に基づき5重量%以下であり、好ましくは約1.5重量%乃至約4重量%であり、そして最も好ましくは約1.5重量%乃至約3重量%である。
【実施例】
【0029】
本発明の利点について更に説明するために、以下に実施例を記す。ただし、下記の実施例は、本発明の特定の態様を説明しているのであって、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書で使用する重量%の測定については下記実施例4で略述する。本明細書で使用する曇り度の定義と測定については表1の後に記す。
【0030】
[実施例1]
第一級DTPA584.2部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO75.6部を五分割(ほぼ等量)し、15分かけて反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した(加熱時間〜15分)。次いで、反応器を77℃で1時間維持した。次に、酢酸1.5部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.009重量%であり、曇り度は5.6%であった。
【0031】
[実施例2]
第一級DTPA206.8部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO80.4部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した。同時に、追加の第一級DTPA(上記と同じDTPA)414.3部を2時間かけて反応器に加えた。DTPAの添加終了時点で酢酸0.8部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.04重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0032】
[実施例3]
第一級DTPA106.0部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO41.1部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した。同時に、追加の第一級DTPA(上記と同じDTPA)211.8部を1時間かけて反応器に加えた。次いで、酢酸0.8部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.002重量%であり、曇り度は7.1%であった。
【0033】
[実施例4]
第一級DTPA96.8部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO37.5部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した。同時に、追加の第一級DTPA(上記と同じDTPA)193部を2時間かけて反応器に加えた。DTPAの投入終了時点で酢酸0.75部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.002重量%であり、曇り度は8.9%であった。
【0034】
以下に、最終生成物の沈降物重量%の測定について略述する。粗製ZDTP97.3645グラムを計量して、風袋が140.7255グラムの清浄な150mL遠心管に入れた。充分な量の試薬等級のヘキサンを遠心管に加えて(〜50mL)、管首から約1cm以内の所まで管を満たした。管をねじ込キャップで密閉した。次いで、ZDTP/ヘキサン混合物を激しく振とうして溶解し易くした。一旦ZDTPが完全に溶解したなら、試料をおよそ3500Gで15分間遠心分離にかけた。次に、固形物を逸失しないように注意して試料の液層を固層からデカントして捨てた。試薬等級のヘキサンおよそ100mLを残った固形物に加えた。遠心管を再度ねじ込キャップで密閉した。次に、固形物/ヘキサン混合物を激しく振とうして、固形物に残っている如何なるZDTPも溶解し易くした。試料を上記と同じ条件で遠心分離にかけた。試料液体を再度注意深くデカントして捨てた。残った固形物をこの技術を用いて2回以上洗浄した。最終の遠心分離とデカンテーションの後、残留固形物の入った遠心管を70℃の真空オーブンにおよそ30分間入れることにより乾燥した。乾燥固形物込みの遠心管の重量は、140.7272グラムであった。下記式を用いて沈降物重量%を算出した:
【0035】
沈降物重量% = [((管及び沈降物重量)−(管重量))/(試料重量)]×100、よって、沈降物重量%=[((140.7272)−(140.7255))/(97.3645)]×100=0.002重量%。
【0036】
[実施例5]
第一級DTPA392.5部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO50.8部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物のおよそ77℃までの加熱を開始した(加熱時間〜45分)。ZnOの添加を完了して45分後に、酢酸1.0部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から≦50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.007重量%であり、曇り度は9.7%であった。
【0037】
[実施例6]
第一級DTPA349.9部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO45.3部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物のおよそ77℃までの加熱を開始した(加熱時間〜15分)。ZnOの添加を終了して1時間後に、プロピオン酸1.1部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.010重量%であり、曇り度は5.8%であった。
【0038】
[比較例]
[比較例A]
第一級DTPA210.5部(投入したDTPA全量の〜2/3)を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO40.9部を1回の添加で反応器に投入した。追加のDTPA105.3部を反応器に投入した。DTPAの添加終了後直ちに、酢酸0.8部を反応混合物に添加した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した(加熱時間〜5分)。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.02重量%であり、曇り度は50.3%であった。
【0039】
[比較例B]
第一級DTPA325.9部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO42.2部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物のおよそ77℃までの加熱を開始した(加熱時間〜30分)。ZnOの添加を終了して30分後に、酢酸0.8部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.016重量%であり、曇り度は26.0%であった。
【0040】
[比較例C]
第一級DTPA330.9部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO42.8部を五分割(ほぼ等量)し、30分かけて反応器に投入した。ZnOの添加終了後直ちに、酢酸0.9部を反応混合物に添加した。ZnOの添加を開始して15分後に、反応混合物のおよそ77℃までの加熱を開始した(加熱時間〜20分)。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.022重量%であり、曇り度は42.4%であった。
【0041】
[比較例D]
第一級DTPA329.5部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO42.6部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した。ZnOの投入終了後直ちに、2−エチル−ヘキサン酸2.0部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.084重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0042】
[比較例E]
第一級DTPA298.4部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO38.6部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した。ZnOの添加を終了して1時間後に、2−エチル−ヘキサン酸1.9部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.099重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0043】
[比較例F]
第二級DTPA(基礎原料MIBC)146.2部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO20.5部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した(加熱時間〜15分)。ZnOの投入を終了して約3分後に、酢酸0.4部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で4時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.19重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0044】
[比較例G]
第二級DTPA(基礎原料MIBC)146.2部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO20.5部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物をおよそ77℃に加熱した(加熱時間〜15分)。反応混合物をこのような条件で55分間保持した。この保持時間後直ちに、酢酸0.4部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から≦50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.36重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0045】
[比較例H]
未ろ過/未ストリップ(粗製)の第一級ZDTP213.7部を撹拌下のガラス反応器に投入した。ZDTPを撹拌しながら、ZnO55.3部を1回の添加で反応器に投入した。DTPA427.0部を2時間かけて反応器に投入した。同時に、反応混合物をおよそ77℃に加熱した(加熱時間〜40分)。DTPAの添加終了後直ちに、酢酸1.1部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.18重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0046】
[比較例I]
未ろ過/未ストリップ(粗製)の第一級ZDTP230.9部を撹拌下のガラス反応器に投入した。ZDTPを撹拌しながら、ZnO59.8部を1回の添加で反応器に投入した。DTPA461.9部を2時間かけて反応器に投入した。同時に、反応混合物をおよそ77℃に加熱した(加熱時間〜40分)。DTPAの添加を終了して1時間後に、酢酸1.2部を反応混合物に添加した。反応器温度を77℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAとからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.215重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0047】
[比較例J]
第二級DTPA(基礎原料2−ブタノールとMIBCのブレンド)159.3部を撹拌下のガラス反応器に投入した。なお、反応器に投入する直前にDTPAを窒素でスパージして如何なる残留H2Sも除去した。DTPAを撹拌しながら、ZnO78.6部を1回の添加で反応器に投入した。反応の発熱のために反応混合物の温度は80℃まで上がった。次いで、反応混合物を氷浴を用いて約50℃まで冷却した。第二級DTPAの二回目の投入を滴下ロートを用いておよそ2時間かけて行った。同時に、反応混合物をおよそ76℃に加熱した。DTPAの添加終了時点で、酢酸1.6部を反応混合物に添加した。反応器温度を76℃で3時間維持した。次に、反応器圧力を大気圧から<50mmHg(絶対値)まで下げた。反応器温度を30分かけて99℃まで上げた。中和の水とDTPAからの如何なる残留アルコールも上方から除去した。未ろ過生成物の沈降物は0.14重量%であり、曇り度は高過ぎて測定できなかった(不透明)。
【0048】
【表1】

【0049】
上記の表において、用語は次のように定義される:1−DTPAは、五硫化リンと第一級アルコールから誘導されたジアルキルジチオリン酸、すなわち2−エチル−1−ヘキサノールである。1−DTPAの一般的な製造方法は、次の通りである:DTPAの基礎原料である2−エチル−1−ヘキサノール120部を撹拌下のガラス反応器に投入した。DTPAを撹拌しながら、P25100部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物を1時間かけておよそ100℃までゆっくりと加熱した。同時に、2−エチル−1−ヘキサノール250.2部をおよそ2時間かけて反応器に加えた。2−エチル−1−ヘキサノールの添加が完了した後、反応器温度を100℃で4.5時間維持した。最終生成物を冷却し、次いでNo.2ワットマン紙を付したブフナーろ過器を用いてろ過した。2−DTPAは、五硫化リンと第二級アルコールから誘導されたジアルキルジチオリン酸、すなわち、4−メチル−2−ペンタノールである。2−DTPAの一般的な製造方法は、次の通りである:MIBC(メチルイソブチルカルビノール)272.2部を撹拌下のガラス反応器に投入した。反応器を氷浴を用いて<4℃に冷却した。MIBCを撹拌しながら、P25403.3部を1回の添加で反応器に投入した。反応混合物を1時間かけておよそ82℃までゆっくりと加熱した。同時に、追加のMIBC535.8部をおよそ2時間かけて反応器に加えた。MIBCの添加が完了した後、反応器温度を82℃で4.5時間維持した。最終生成物を冷却し、次いでNo.2ワットマン紙を付したブフナーろ過器を用いてろ過した。促進剤の種類Aは酢酸であり、促進剤の種類Bはプロピオン酸であり、促進剤の種類Cは2−エチルヘキサン酸である。中間体−塩基性塩/中性塩比は、31P−NMRスペクトルの測定と積分により求めた、(反応体を全部投入した時点で促進剤の添加直前における)反応混合物中のジチオリン酸塩の中性塩に対する塩基性塩の比である。曇り度は、日本電色工業(株)製COH300A型測定器にて測定したが、これは、濁り度(曇り度)並びに透明度、セイボルト色およびASTM色の測定にも使用される。このような測定器は次のような標準濁り度(曇り度)に適している。:ASTM D1003、JIS K010、JIS K6714、JIS K6717、JIS K6718、JIS K6774、JIS K7105。
【0050】
上記の実施例1〜6で示したように、塩基性及び中性ジアルキルジチオリン酸塩からなる中間体の生成まで遅らせた促進剤の添加は、ここで、該中間体の特徴は、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定したときに約0.075乃至約0.75であることにあるが、更なる作業工程を経て、ろ過前の粗沈降物の生成量が0.01重量%以下であることに特徴がある過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物をもたらしている。また、比較例で示したように、特別な点は促進剤の種類、遅らせた添加の時点、並びにジアルキルジチオリン酸またはジアルキルジチオリン酸亜鉛の「ヒール」生成物の種類にある。驚くべきことには、作業の成分や条件を注意深く考察することによって、得られる生成物を少ない沈降物含量でかつ低い曇り度で生成させることができる。比較例A〜Cで明らかにしたように、促進剤の遅れが無いあるいは遅れ時間が不適正であるならば、得られた生成物は沈降物も曇り度も劇的に増加する。さらに、比較例D及びEで例証したように、促進剤の種類にも依存している。さらにまた、比較例F〜Jでは、少なくとも一種のC3〜C12第一級アルコールから誘導されたジアルキルジチオリン酸に特別性があるスラリー材料との関係を明らかにしている。比較例F及びGでは、第二級アルコールから誘導されたジアルキルジチオリン酸を用いたときに、相当な沈降物と曇り度があることを示し、一方比較例H〜Jでは、ジチオリン酸塩生成物ヒールを用いたときに多量の沈降物と高い曇り度があることが示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程からなる低沈降性の過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩組成物の製造方法:
a)硫化リン反応体を少なくとも一種のC3〜C12第一級アルコールと反応させて、ジアルキルジチオリン酸を生成させる、
b)該ジアルキルジチオリン酸を充分な量の金属酸化物を用いて充分な時間をかけて中和して、塩基性及び中性ジアルキルジチオリン酸塩からなる中間体であって、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定した値として約0.075乃至約0.75であることを特徴とする中間体を生成させる、
c)該中間体に、金属酸化物の量に基づき1.5乃至5重量%の少なくとも一種の炭素原子数1〜5の脂肪族モノカルボン酸促進剤を添加して、反応物を形成する、そして
d)該反応物を好適な温度及び時間の下で反応させて、ろ過前の粗沈降物が0.01重量%以下であることを特徴とする過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩生成物を生成させる。
【請求項2】
金属酸化物の金属が、ビスマス、コバルト、クロム、銅、ニッケル、バナジウム、タングステンおよび亜鉛からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属酸化物が酸化亜鉛である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
硫化リンがリン分27.9乃至28.3重量%の五硫化リンである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
中和工程の前に、ジアルキルジチオリン酸をスパージさせて残留硫化水素を200ppm以下にまで除去する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該方法をプロセス水の添加無しで実施する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ジアルキルジチオリン酸を、五硫化リンと直鎖又は分枝鎖のC6〜C8第一級アルコールとの反応から誘導する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アルコールが2−エチル−1−ヘキサノールである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
中和工程において脂肪族モノカルボン酸促進剤の添加前に、中間体が、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMRで測定して0.1乃至0.5の値となっていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
中和工程する過程でまず、金属酸化物をジアルキルジチオリン酸全量のうちの一部によりスラリーとする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
脂肪族モノカルボン酸促進剤が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、2−メチル酪酸、3−メチル酪酸からなる群より選ばれる請求項1に記載の方法。
【請求項12】
促進剤が脂肪族モノカルボン酸の混合物である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
脂肪族モノカルボン酸が酢酸である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
アルコールがC3〜C12第一級アルコールの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
リンに対する亜鉛の重量比が1.08乃至1.30である低沈降性の過塩基性金属ジアルキルジチオリン酸塩組成物を製造するための、下記の工程からなる方法:
a)五硫化リンと少なくとも一種のC3〜C12第一級アルコールとの反応から誘導した充分な分量のジアルキルジチオリン酸を用いて、充分な量の酸化亜鉛のスラリーを形成する、
b)工程a)のスラリーを温度及び時間の好適な条件下で反応させて、塩基性及び中性塩からなるジアルキルジチオリン酸亜鉛中間体であって、中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMR分析で測定した値として0.075乃至0.75であることを特徴とする中間体を生成させる、
c)工程b)に続いて、酸化亜鉛の量に基づき1.5乃至5重量%の、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ペンタン酸、2−メチル−酪酸、3−メチル−酪酸およびそれらの混合物からなる群より選ばれた促進剤を供給して、反応物を形成する、そして
d)工程c)の反応物を好適な温度及び時間の下で反応させて、沈降物が0.01重量%以下であり、リンに対する亜鉛の比が1.08乃至1.30であることを特徴とする過塩基性ジアルキルジチオリン酸亜鉛生成物を生成させる。
【請求項16】
該方法をプロセス水の添加無しで実施する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程b)において、該ジアルキルジチオリン酸塩中間体の中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMRで測定した値として0.1乃至0.5の値である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
工程b)において、該ジアルキルジチオリン酸塩中間体の中性塩に対する塩基性塩の比が31P−NMRで測定して0.1乃至0.3の値である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
五硫化リンのリン分が27.9乃至28.3重量%である請求項15に記載の方法。
【請求項20】
工程b)のスラリーを反応させる前に、ジアルキルジチオリン酸をスパージさせて残留硫化水素を200ppm以下にまで除去する請求項15に記載の方法。
【請求項21】
ジアルキルジチオリン酸を、五硫化リンと直鎖又は分枝鎖のC6〜C8第一級アルコールとの反応から誘導する請求項15に記載の方法。
【請求項22】
アルコールが2−エチル−1−ヘキサノールである請求項21に記載の方法。
【請求項23】
促進剤が、ギ酸、酢酸およびプロピオン酸からなる群より選ばれる請求項15に記載の方法。
【請求項24】
促進剤が酢酸である請求項21に記載の方法。
【請求項25】
促進剤を1.5乃至3重量%で添加する請求項23に記載の方法。
【請求項26】
過塩基性ジアルキルジチオリン酸亜鉛組成物のリンに対する金属の重量比が1.1乃至1.22である請求項15に記載の方法。

【公開番号】特開2006−1933(P2006−1933A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174210(P2005−174210)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】