説明

炭化水素油の水素化処理触媒、炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法及び炭化水素油の水素化処理方法

【課題】水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすることなく、より優れた脱硫性能および脱窒素性能を示すとともに、触媒寿命の長い水素化処理触媒を提供する。
【解決手段】担体基準、酸化物換算でチタン原子を所定量含むとともに、担体基準でリン酸化物を所定量以下含む無機酸化物担体上に、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種を所定量、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種を所定量、触媒基準で有機酸由来の炭素を所定量、触媒基準でリン酸化物を所定量以上担持してなり、前記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および前記担持したリン酸化物の合計量が触媒基準で所定量以下であり、かつ比表面積、細孔容積、平均細孔直径が所定範囲内にあることを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物および窒素化合物の低減効果に優れた、炭化水素油の水素化処理触媒(以下、単に「水素化処理触媒」ともいう)及びその製造方法と、上記水素化処理触媒を用いた炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境改善のために、石油製品(炭化水素油)の品質規制が世界的に厳しくなる傾向にある。例えば、軽油中の硫黄化合物は、排ガス対策として期待されている酸化触媒、窒素酸化物(NOx)還元触媒、連続再生式ディーゼル排気微粒子除去フィルター等の後処理装置の耐久性に影響を及ぼす懸念があるため、その含有量を低減することが要請されている。
【0003】
このような状況下、炭化水素油中の硫黄化合物を大幅に低減する超深度脱硫技術の開発が重要視されている。炭化水素油中の硫黄化合物量を低減する方法としては、水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすること、具体的には、反応温度を高くしたり液空間速度を低下させること等が考えられる。しかしながら、水素化脱硫時の反応温度を高くした場合には、触媒上に炭素質が析出して触媒活性が急速に低下してしまい、また、水素化脱硫時の液空間速度を低下させた場合には、脱硫能は向上するものの精製処理能力が低下するため、設備規模を拡張する必要が生じてしまう。
【0004】
このため、水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすることなく炭化水素油の超深度脱硫を達成し得る最も良い方法として、優れた脱硫活性を有する水素化処理触媒の開発が望まれている。
【0005】
近年、活性金属の種類、活性金属の含浸方法、触媒担体の改良、触媒細孔構造制御、活性化法等についての多くの検討が多方面で進められており、その一例として軽油の新規深度脱硫方法として、以下の開発成果が報告されるようになっている。
【0006】
例えば、周期律表VIA族金属(以下、単に「VIA族金属」とも記す)化合物、リン成分、周期律表VIII族金属(以下、単に「VIII族金属」とも記す)化合物及び有機酸を含む溶液を無機酸化物担体に含浸担持させた後、200℃以下の温度で乾燥する触媒の製造方法が提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0007】
また、無機酸化物担体上に、コバルト及びニッケルから選択されるVIII族金属の塩又は錯体と、モリブデン及びタングステンから選択させるVIA族金属のヘテロポリ酸とを含む触媒において、VIII族金属の濃度が担体に関して2〜20質量%、VIA族金属の濃度が担体に関して5〜50質量%であり、実質的に自由水のない触媒が提案されている(特許文献3参照)。
【0008】
また、担体上にVIA族金属及びVIII族金属を担持した触媒に、ヒドロキシカルボン酸をVIA族金属とVIII族金属の金属総モル数の0.3〜5.0倍量添加し、次いで200℃以下の温度で乾燥させてなる触媒が知られている(特許文献4参照)。
【0009】
上述したように、従来より、種々の水素化処理触媒ないしはその製造方法が提案されているが、脱硫活性がより向上し、優れた深度脱硫性能および脱窒素性能を示すとともに、触媒寿命の長い水素化処理触媒が求められるようになっている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−299960号公報
【特許文献2】WO04054712A1公報
【特許文献3】特開平6−31176号公報
【特許文献4】特許第3244692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況下、本発明は、水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすることなく、より優れた深度脱硫性能および脱窒素性能を示すとともに、触媒寿命の長い水素化処理触媒を提供するとともに、該水素化処理触媒を簡便に製造する方法を提供し、上記水化処理触媒を用いた水素化処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明者等が鋭意検討したところ、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%含むとともに、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種を10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種を1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素を2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物を0.1質量%以上担持してなり、前記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および前記担持したリン酸化物の合計量が触媒基準で15質量%以下であり、かつ比表面積が100〜400m/g、細孔容積が0.2〜0.6ml/g、平均細孔直径が50〜200Åである炭化水素油の水素化処理触媒により、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%含むとともに、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種を10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種を1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素を2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物を0.1質量%以上担持してなり、
前記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および前記担持したリン酸化物の合計量が触媒基準で15質量%以下であり、かつ
比表面積が100〜400m/g、細孔容積が0.2〜0.6ml/g、平均細孔直径が50〜200Åである
ことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒、
(2)前記チタン原子が平均粒子径1〜100nmのチタン酸化物として存在する上記(1)に記載の炭化水素油の水素化処理触媒、
(3)前記チタン原子と周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、TiOの質量/周期律表第VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量で表わされる比が0.05〜0.5となるように含む上記(1)または(2)に記載の炭化水素油の水素化処理触媒、
(4)前記リン酸化物と周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、Pの総質量/周期律表第VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量で表わされる比が0.05〜1.0となるように含む上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒、
(5)前記周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種と前記周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、周期律表第VIII族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量/(周期律表第VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量と周期律表第VIII族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量との和)で表わされる比が0.1〜0.25となるように含む上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒、
(6)比表面積が230〜500m/g、細孔容積が0.5〜1ml/g、平均細孔直径が40〜180Åであり、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、
周期律表第VIA族金属、周期律表第VIII族金属、有機酸およびリン酸化物の原料を含む溶液を接触させて、
触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種が10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種が1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素が2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物が0.1質量%以上となるように担持した後、
200℃以下で乾燥させる
ことを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法、
(7)上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒または上記(6)に記載の製造方法で得られた炭化水素油の水素化処理触媒の存在下、水素分圧0.7〜8MPa、温度220〜420℃、液空間速度0.3〜10hr−1の条件下に炭化水素油と接触させ、水素化処理することを特徴とする炭化水素油の水素化処理方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チタン原子を必須成分として所定量含みリン酸化物を任意成分として所定料以下含む無機酸化物担体上に、第VIA族金属、第VIII族金属、有機酸由来の炭素およびリン酸化物を所定量担持してなり、上記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および担持したリン酸化物の合計量が所定量以下であり、かつ比表面積、細孔容積および平均細孔直径が所定範囲内にあるものであることにより、水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすることなく、より優れた深度脱硫性能および脱窒素性能を示すとともに、触媒寿命の長い水素化処理触媒を提供することができる。
また、上記水素化処理触媒を特定の方法で調製することにより、該水素化処理触媒を簡便に製造する方法を提供することができ、上記水化処理触媒を用いることにより高度な深度脱硫を可能にする水素化処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず、本発明の水素化処理触媒について説明する。
本発明の水素化処理触媒は、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%含むとともに、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種を10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種を1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素を2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物を0.1質量%以上担持してなり、前記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および前記担持したリン酸化物の合計量が触媒基準で15質量%以下であり、かつ比表面積が100〜400m/g、細孔容積が0.2〜0.6ml/g、平均細孔直径が50〜200Åであることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体は、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%含むとともに、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含むものである。
【0017】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体は、必須成分としてチタン原子を含む。
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体中のチタン原子の含有量は、担体基準、酸化物(TiO)換算で、0.1〜10質量%であり、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがより好ましい。
【0018】
チタン原子の含有量が上記範囲内にあることにより、目的とする脱硫活性向上効果を得ることができる。
また、チタン原子の含有量が、担体基準、酸化物換算で10質量%以下であることにより、チタン原子の凝集を抑えつつ、チタン原子を分散性よく含有させることができる。チタン原子の分散性が良好である結果、後述するVIA族金属として多用されるモリブデン原子がチタン原子上に担持され、硫化されたときに、二硫化モリブデンのシンタリング(凝集)が発生し難くなり、その結果、二硫化モリブデン結晶のエッジ部の面積も減少せず、脱硫活性点であるCoMoS相、NiMoS相の絶対数が減少しないために、高い脱硫活性を発揮することができる。一方、チタン原子の含有量が、担体基準、酸化物換算で0.1質量%以上であることにより、目的とする脱硫活性向上効果を得ることができる。
【0019】
無機酸化物担体中において、チタン原子は、チタン酸化物(TiO)粒子として存在することができ、この場合、チタン酸化物粒子の平均粒子径は、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましく、1〜35nmがさらに好ましい。
チタン酸化物の平均粒子径が上記範囲内にあることにより、チタン酸化物の分散性を向上させることができる。
なお、本出願書類において、チタン酸化物の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡やX線回折装置で測定したときに測定される値を意味する。
【0020】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体は任意成分としてリン酸化物を含む。
無機酸化物担体中のリン酸化物(P)の含有量は、担体を基準として10質量%以下であれば特に制限はない。無機酸化物担体中のリン酸化物の含有量が担体基準で10質量%以下であることにより、目的とする脱硫活性の高い水素化処理触媒を得ることができる。
本発明の水素化処理触媒において、リン酸化物は無機酸化物担体の任意成分であり、無機酸化物担体はリン酸化物を含まなくてもよいが、無機酸化物担体がリン酸化物を含む場合、その含有量は通常担体基準で0.1〜10質量%の範囲であり、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
リン酸化物が10質量%以下であることにより、後述するVIA族金属として多用されるモリブデン原子が酸化モリブデンとして担体上に担持されるときに、十分な担体表面積を有するため、予備硫化処理により二硫化モリブデンに硫化された際、二硫化モリブデンのシンタリング(凝集)が発生し難くなり、その結果、二硫化モリブデン結晶のエッジ部の面積も減少せず、脱硫活性点であるCoMoS相、NiMoS相の絶対数が減少しないために、高い脱硫活性を発揮することができる。
【0022】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体としては、種々のものを用いることができるが、主成分がアルミナであるものが好ましい。
【0023】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体に用いられるアルミナとしては、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、アルミナ水和物等の種々のものを挙げることができ、多孔質で高比表面積であるものが好ましく、中でもγ−アルミナが適している。
また、無機酸化物担体に用いられるアルミナとしては、純度が98質量%以上であるものが好ましく、99質量%以上のものがより好ましい。アルミナ中に含まれ得る不純物としては、SO2−、Cl、Fe、NaO等が挙げられるが、これらの不純物は可能な限り少ないことが望ましく、不純物全量で2質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましく、成分毎では、SO2−が1.5質量%未満であることが好ましく、Cl、Fe、NaOが、それぞれ0.1質量%未満であることが好ましい。
【0024】
なお、本出願書類において、担体中の上記不純物量は、SO2−量およびCl量については硫黄分析装置と塩素分析計とを用い、Fe量およびNaO量についてはICP発光分光装置(誘導結合高周波プラズマ分光装置)を用いて測定した値を意味する。
上記担体(または触媒)中のFe量およびNaO量を測定する場合、より具体的には、誘導結合プラズマ発光分析(ICPS−2000:島津製作所製)を用い、絶対検量線法により測定する。すなわち、ユニシールに、担体0.05g、塩酸(50%)1ml、フッ酸一滴、及び純水1mlを投入し、加熱、溶解した後、ポリプロピレン製メスフラスコ(50ml)に移し換え、純水を加えて50mlに秤量し、この溶液をICPS−2000により測定する。
【0025】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体は、アルミナとともに他の酸化物成分を含むものであることが好ましく、他の酸化物成分としては、ゼオライト、ボリア、シリカ及びジルコニアから選ばれる一種以上が好ましい。
無機酸化物担体が、アルミナと他の酸化物成分とを複合化させてなるものであることにより、後述するVIA族金属として多用されるモリブデン原子が担体上に担持されるときに、脱硫活性点を形成する二硫化モリブデンが積層した状態で容易に担持することができる。
【0026】
無機酸化物担体がゼオライトを含むものである場合、ゼオライトとしては、コールターカウンター法で測定(1質量%NaCl水溶液、30μmサイズのアパーチャーチューブを用い、超音波処理を3分間実施)したときに、平均粒子径が、2.5〜6μmであるものが好ましく、3〜4μmであるものがより好ましく、また、粒子径6μm以下の粒子が、全粒子に対して70〜98%であるものが好ましく、75〜98%であるものがより好ましく、約80〜98%であるものがさらに好ましい。
【0027】
上記平均粒子径および粒度分布を有するゼオライトを用いることにより、難脱硫性物質の細孔内拡散を容易にするための細孔直径の精密制御が容易になる。
これに対し、例えば平均粒子径が大きすぎたり、粒子径が6μm超であるゼオライトの含有量が多くなり過ぎると、無機酸化物担体の調製過程で強度向上を目的として焼成処理を施す場合に、アルミナ水和物(アルミナ前駆体)とゼオライトの吸着水量や結晶性の違いから、アルミナ水和物とゼオライトの収縮率が異なるために、無機酸化物担体の細孔として比較的大きなメゾポアあるいはマクロポアを生じる傾向がある。これらの大きな細孔は、比表面積を低下させ、脱硫活性を低下させ易くなる。
【0028】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体がゼオライトを含むものである場合、ゼオライトとしては、フォージャサイトX型ゼオライト、フォージャサイトY型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM系ゼオライト(ZSM-4、5、8、11、12、20、21、23、34、35、38、46等)、MCM−41、MCM-22、MCM−48、SSZ−33、UTD−1、CIT−5、VPI−6、TS−1、TS−2等を挙げることができる。
上記ゼオライトとしては、特にY型ゼオライト、安定化Yゼオライト、βゼオライトが好ましく、また、ゼオライトとしては、プロトン型が好ましい。
【0029】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体がアルミナとともにボリア、シリカ及びジルコニアから選ばれる一種以上を含むものである場合、ボリア、シリカまたはジルコニアとしては、この種の触媒担体成分として使用される公知のものを挙げることができる。
上記のゼオライト、ボリア、シリカ及びジルコニアは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体がアルミナを含むものである場合、担体基準で、アルミナを、65質量%を超え99.3質量%以下含むことが好ましく、70〜98.5質量%含むことがより好ましく、80〜97.5質量%含むことがさらに好ましい。
【0031】
また、本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体がアルミナとともに他の酸化物成分を含むものである場合、担体基準で他の酸化物成分を、合計で0.5質量%以上15質量%未満含むことが好ましく、合計で0.5〜10質量%含むことがより好ましく、合計で0.5〜4質量%含むことがさらに好ましい。
無機酸化物担体において、他の酸化物成分の含有量が上記範囲内にあることにより、細孔直径の制御を好適に行うことができ、またブレンステッド酸点やルイス酸点を十分に付与することができ、後述するVIA族金属、特にモリブデンを高分散に担持することができる。
【0032】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体として、具体的には、チタン原子を酸化物換算で0.1質量%〜10質量%、リン酸化物を10質量%以下、アルミナを65質量%を超え99.3質量%以下、他の酸化物成分を0.5質量%から15質量%未満含むものが適当であり、チタン原子を酸化物換算で0.5質量%〜10質量%、リン酸化物を0.5〜10質量%、アルミナを70〜98.5質量%、他の酸化物成分を0.5〜10質量%含むものがより適当であり、チタン原子を酸化物換算で1〜8質量%、リン酸化物を1〜8質量%、アルミナを80〜97.5質量%、他の酸化物成分を0.5〜4質量%含むものがさらに適当である。
【0033】
なお、本出願書類において、無機酸化物担体を構成する、チタン原子、リン酸化物、アルミナ、他の酸化物成分等の含有割合は、ICP発光分光装置(誘導結合高周波プラズマ分光装置)を用い、上述した担体(または触媒)中の不純物の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0034】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体の調製方法は特に制限されず、平衡吸着法、共沈法、混練法等により調製することができる。
【0035】
無機酸化物担体の調製に使用するチタン原料としては、チタン酸化物粉末や、チタン化合物の溶液を挙げることができる。
上記チタン酸化物粉末としては、平均粒子径が、1〜100nmであるものが好ましく、1〜50nmであるものがより好ましく、1〜35nmであるものがさらに好ましい。
上記チタン化合物の溶液を構成するチタン化合物としては、水酸化チタン、塩化チタン、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸などの無機化合物や有機オキシチタン、有機ぺルオキシチタン、ヒドロキシ(ヒドロキシカルボキシラート)チタンなどのチタン錯体から選ばれる一種以上を挙げることができ、これ等のチタン化合物のうち、硫酸チタンが好適である。上記チタン化合物の溶液としては、チタンイオンを含む水溶液が好適であり、具体的には、上記各チタン化合物を含む水溶液を挙げることができる。
【0036】
無機酸化物担体の調製に使用するリン酸化物の原料としては、種々の化合物を用いることができ、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸から選ばれる一種以上を挙げることができ、これ等のリン酸化物の原料のうちオルトリン酸が好適である。上記リン酸化物の原料は、水溶液として用いることが好ましい。
【0037】
また、無機酸化物担体の調製に使用するアルミナ原料としては、各種のアルミナゲルを挙げることができ、無機酸化物担体の調製に使用する、ゼオライト、ボリア、シリカ及びジルコニア等の他の酸化物成分としては、上述した各種酸化物成分の粉末を挙げることができる。
【0038】
例えば、無機酸化物担体が、アルミナを主成分として含むとともにチタン原子およびリン酸化物を含むものである場合、アルミナゲル、チタン酸化物またはチタン化合物の溶液、リン酸化物の原料をそれぞれ所望量混練する混練法によって調製することができる。
また、無機酸化物担体がリン酸化物を含まないものである場合、上記方法においてリン酸化物の原料を用いずに各原料を混練することにより目的とする無機酸化物担体を調製することができ、無機酸化物担体がさらに他の酸化物成分を含むものである場合、上記方法において他の酸化物成分の原料をさらに所望量混練することによって目的とする無機酸化物担体を調製することができる。
チタン原料としてチタン酸化物を用いて混練法により無機酸化物担体を調製した場合、チタン酸化物は、混練後においても混練前の平均粒子径を保持し得ることから、所望の平均粒子径を有するチタン酸化物が分散した無機酸化物担体を容易に得ることができ、チタン原料としてチタン化合物の溶液を用いて無機酸化物担体を調製した場合においても、チタン化合物溶液の調製条件を制御することにより、平均粒子径が、好ましくは1〜100nm、より好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは1〜35nmであるチタン酸化物が分散した無機酸化物担体を得ることができる。
【0039】
また、例えば、無機酸化物担体が、アルミナを主成分として含むとともにチタン原子及びリン酸化物を含むものである場合、アルミナゲル、チタン化合物及びリン酸化物の原料を溶液状態で接触させることによって調製することもできる。
【0040】
具体的には、リン酸イオンを含有する塩基性アルミニウム塩水溶液に対し、チタン化合物と酸性アルミニウム塩との混合水溶液を、塩基性アルミニウム塩水溶液のpHが6.5〜9.0になるように混合してチタン−アルミナ水和物からなる無機酸化物担体を得ることができる。
この場合、所定量のリン酸イオンを含有する塩基性アルミニウム塩水溶液を40〜90℃に加温して保持し、この溶液に40〜90℃に加温した所定量のチタン化合物溶液と酸性アルミニウム塩水溶液の混合水溶液をpHが6.5〜9.0になるように5〜20分間で連続添加してチタン−アルミナ水和物の沈殿を生成させ、所望により熟成した後、洗浄して副生塩を除いたチタン−アルミナ水和物スラリーを得ることが好ましい。
【0041】
塩基性アルミニウム塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが好ましく、また、酸性アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどが好ましい。
【0042】
また、リン酸イオンとしては、上述したリン酸化物の原料やその塩に由来するものを挙げることができ、リン酸イオンは、上述したリン酸化物の原料やその塩を水溶媒に溶解することによって得ることができる。
【0043】
上記の例においては、塩基性アルミニウム塩の水溶液を調製する際に上述したリン酸化物の原料またはその塩を添加することにより所定量のリン酸イオンを含有する塩基性アルミニウム塩水溶液を調製しており、このように上述したリン酸化物の原料またはその塩は、チタン−アルミナ水和物を調製する原料混合物溶液中に添加してもよいし、上述したリン酸化物の原料またはその塩以外の原料を用いて上記方法によりチタン−アルミナ水和物を調製した後に添加してもよい。
【0044】
上述したリン酸化合物の原料またはその塩がアルカリ性または中性の場合には塩基性アルミニウム塩水溶液と混合し、上述したリン酸化合物の原料またはその塩が酸性または中性の場合には酸性アルミニウム塩水溶液と混合することが好ましく、このように混合することにより、リン酸イオンを塩基性アルミニウム塩水溶液および/または酸性アルミニウム塩水溶液に含有させることができる。
【0045】
また、無機酸化物担体がリン酸化物を含まないものである場合、上記方法において上述したリン酸化物の原料またはその塩を用いずに各原料を接触させ反応させることにより目的とする無機酸化物担体を調製することができ、無機酸化物担体がさらに他の酸化物成分を含むものである場合、上記方法において他の酸化物成分をさらに所望量添加、混合することによって目的とする無機酸化物担体を調製することができる。
【0046】
本発明の水素化処理触媒において、上記のとおり調製した無機酸化物担体には、さらに焼成処理を施してもよい。焼成処理は、400℃〜700℃の温度条件下、0.5〜10時間行うことが好ましい。
【0047】
本発明の水素化処理触媒は、後述するように、無機酸化物担体に活性成分を担持させた後は、200℃以下で乾燥するだけで調製するものであるため、水素化処理触媒の機械特性(側面破壊強度や最密充填かさ密度等)を得るためには、上記のとおり無機酸化物担体を焼成することが好ましい。
焼成温度が400℃未満であったり、焼成時間が0.5時間未満であると十分な機械強度を有する無機酸化物担体が得難くなり、焼成温度が700℃を超えると10時間を超える長時間の焼成を行っても、得られる効果が飽和するばかりでなく、焼き締めにより、無機酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔直径といった特性を却って低下させ易くなる。
【0048】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体は、比表面積が230〜500m/gであることが好ましく、270〜500m/gであることがより好ましく、細孔容積が0.5〜1ml/gであることが好ましく、0.55〜0.9ml/gであることがより好ましく、平均細孔直径が40〜180Åであることが好ましく、50〜170Åであることがより好ましい。
【0049】
後述するVIA族金属とVIII族金属とを無機酸化物担体に担持する際に、含浸溶液中でVIA族金属とVIII族金属は錯体を形成していると考えられ、無機酸化物担体の比表面積が230m/g未満では、含浸の際、錯体の嵩高さのために金属の高分散化が困難となり、その結果、得られる触媒を予備硫化処理しても、上記活性点(CoMoS相、NiMoS相等)の精密制御が困難になると推測される。比表面積が500m/g以下であれば、無機酸化物担体および水素化処理触媒の細孔直径が極端に小さくならず、硫黄化合物を触媒細孔内に十分に拡散して、十分な脱硫活性を発揮し易くなる。
【0050】
また、無機酸化物担体の細孔容積が0.5ml/g以上であると、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔容積内に入り込む溶媒が少量とならないため、好ましい。溶媒が少量であると、活性金属化合物の溶解性が悪くなり、活性金属の分散性が低下して低活性な触媒となり易い。活性金属化合物の溶解性を上げるためには、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、加えすぎると担体の低表面積化が起こり、脱硫性能低下の主原因となる。無機酸化物担体の細孔容積が1ml/g以下であると、比表面積が小さくならず、活性金属の分散性が良くなり、脱硫活性の高い水素化処理触媒を得易くなる。
【0051】
無機酸化物担体の平均細孔直径が40Å以上であると、活性金属担持後において水素化処理触媒の細孔直径も小さくならず、好ましい。水素化処理触媒の細孔直径が小さくなると、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下し易くなる。平均細孔直径が180Å以下であると、触媒の比表面積が小さくならず、好ましい。触媒の比表面積が小さいと、活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性の低い触媒となる。
また、上記平均細孔直径の条件を満たす細孔の有効数を多くするために、無機酸化物担体の細孔分布、すなわち平均細孔直径±15Åの細孔を有する細孔の割合は、20〜90%、好ましくは35〜85%とする。上記細孔の割合が90%以下であると、脱硫される化合物が特定の硫黄化合物に限定されず、満遍なく脱硫することができるために好ましい。一方、上記細孔の割合が20%以上であると、炭化水素油の脱硫に寄与しない細孔が増加せず、その結果、脱硫活性が大幅に低下することがないため好ましい。
【0052】
このように、無機酸化物担体の比表面積、細孔容積または平均細孔直径が上記範囲内にあるものであることにより、炭化水素油に対する水素化脱硫活性の高い水素化処理触媒を容易に得ることができる。
【0053】
本発明の水素化処理触媒は、後述するように、無機酸化物担体上で、コバルト、ニッケル等のVIII族金属が不活性な金属種を形成しておらず、コバルト、ニッケル等のVIII族金属がモリブデン等のVIA族金属とともにタイプIIと称される高活性な脱硫活性金属点が精密制御されつつ形成されてなるものであることから、炭化水素油の脱硫反応及び脱窒素反応を効率的に進行させ、脱硫装置の運転条件を過酷にしなくても深度脱硫処理を容易に達成することができ、特に担体として上記無機酸化物担体を用いることにより、より高度な深度脱硫処理を行うことができる。
【0054】
本発明の水素化処理触媒は、上記無機酸化物担体上に、触媒基準、酸化物換算でVIA族金属から選ばれる少なくとも1種を10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算でVIII族金属から選ばれる少なくとも1種を1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素を2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物を0.1質量%以上担持してなり、前記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および前記担持したリン酸化物の合計量が触媒基準で15質量%以下であるものである。
【0055】
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体上に担持するリン酸化物としては、担体を構成するものと同様のものを挙げることができ、リン酸化物の原料としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等から選ばれる一種以上のリン化合物を挙げることができ、これ等の原料のうちオルトリン酸が好ましい。
リン酸化物は、例えば無機酸化物担体に上記リン化合物を含浸させることにより担持することができる。
【0056】
本発明の水素化処理触媒は、無機酸化物担体上に、触媒基準でリン酸化物を0.1質量%以上担持してなるものであり、0.5〜15質量%担持してなるものであることが好ましく、1.0〜10質量%担持してなるものであることがより好ましい。
また、本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および担持したリン酸化物の合計量は触媒基準で15質量%以下であるものが好ましく、0.5〜15質量%であるものがより好ましく、1.0〜10質量%であるものがさらに好ましい。
本発明の水素化処理触媒が、無機酸化物担体上にリン酸化物が担持されてなるものであることにより、VIA族金属やVIII族金属を分散性よく担持することができる。
【0057】
本発明の水素化処理触媒は、後述するVIA族金属に対して、上記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および無機酸化物担体に担持されるリン酸化物の合計量が、酸化物換算で、「Pの総質量/VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量」で表わされる比が0.05〜1.0となるように含むことが好ましく、0.07〜0.8となるように含むことがより好ましく、0.1〜0.5となるように含むことがさらに好ましい。
上記比が0.05以上であると、後述するVIA族金属及びVIII族金属(Mo及びCo等)の渾然一体化を図ることができ、また、硫化後に二硫化モリブデンの積層化が図り易いため、最終的に脱硫活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相等の活性点が得られ易い。特に、脱硫活性点の中で高い脱硫活性を示すCoMoS相、NiMoS相等のタイプIIと称される活性点が得られ易いため、活性を効果的に向上させることができる。
また、上記比が1.0以下であると、水素化処理触媒の表面積及び細孔容積が減少し難く、触媒の活性を低下させ難く、酸量を増加させ難く、また炭素析出を招き難いため、活性劣化を引き起こし難くなる。
【0058】
本発明の水素化触媒において、VIA族金属としては、モリブデン、タングステン等を挙げることができ、モリブデンが好適である。
本発明の水素化触媒において、VIA族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、10〜40質量%であり、10〜30質量%であることが好ましい。VIA族金属の担持量が触媒基準、酸化物換算で10質量%以上であると、VIA族金属に起因する効果を十分に発現させることができ、また、VIA族金属の担持量が触媒基準、酸化物換算で40質量%以下であると、VIA族金属の含浸(担持)工程でVIA族金属化合物の凝集が生じ難くVIA族金属の分散性が良好となり、また、効率的に分散し得るVIA族金属担持量の上限を超えず、触媒表面積が大幅に低下しない等により、触媒活性を効果的に向上することができる。
【0059】
本発明の水素化処理触媒は、チタン原子とVIA族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、「TiOの質量/VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量」で表わされる比が0.05〜0.5となるように含むことが好ましく、0.07〜0.45となるように含むことがより好ましく、0.10〜0.40となるように含むことがさらに好ましい。
上記比が0.05以上であると、チタン原子を添加することによる脱硫活性向上効果が得られ易く、上記比が0.5以下であると、モリブデン等のVIA族金属が十分に分散され、触媒活性を十分に向上することができる。
【0060】
本発明の水素化処理触媒において、VIII族金属としては、コバルト、ニッケル等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
本発明の水素化処理触媒において、VIII族金属の担持量は、触媒基準、酸化物換算で、1〜15質量%であり、3〜8質量%であることが好ましい。
【0061】
VIII族金属の担持量が、触媒基準、酸化物換算で1質量%以上であることにより、VIII族金属に帰属する活性点が十分に得られるため好ましい。また、VIII族金属の担持量が、触媒基準、酸化物換算で15質量%以下であることにより、VIII族金属の含有(担持)工程でVIII族金属化合物の凝集が生じず、VIII族金属の分散性が良くなることに加え、不活性なコバルト、ニッケル種等のVIII族金属種であるCo種、Ni種等の前駆体であるCoO種、NiO種等や、担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等が生成しないと考えられるため、触媒能を容易に向上させることができる。
【0062】
本発明の水素化処理触媒において、担持されるVIII族金属がコバルト及びニッケルである場合、Co/(Ni+Co)のモル比が0.6〜1であることが好ましく、0.7〜1であることがより好ましい。上記モル比が0.6以上であると、Ni上でコーク前駆体が生成し難く、触媒活性点がコークで被覆されず、その結果活性が低下しないため、好ましい。
【0063】
本発明の水素化処理触媒は、VIA族金属から選ばれる少なくとも1種とVIII族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、「VIII族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量/(VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量とVIII族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量との和)」で表わされる比が0.1〜0.25となるように含むことが好ましく、0.12〜0.23となるように含むことがより好ましく、0.14〜0.20となるように含むことがさらに好ましい。
上記比が0.1以上であると、脱硫の活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相等の活性点の生成が抑制され難く、脱硫活性の向上効果が高くなる。また、上記比が0.25以下であると、上記不活性なコバルト、ニッケル種等(Co種、Ni種等)の生成が抑制され易く、触媒活性を向上させ易くなる。
【0064】
なお、本出願書類において、無機酸化物担体に担持されるリン酸化物、VIA族金属、VIII族金属の含有量は、ICP発光分光装置(誘導結合高周波プラズマ分光装置)を用い、上述した担体(または触媒)中の不純物の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0065】
本発明の水素化処理触媒は、有機酸由来の炭素を触媒基準で2〜14質量%担持してなるものである。
【0066】
有機酸由来の炭素としては、クエン酸由来の炭素であると好ましい。
【0067】
本発明の水素化処理触媒において、有機酸由来の炭素の担持量は触媒基準で2〜14質量%であり、2.5〜13質量%であることが好ましく、3〜12質量%であることがより好ましい。
なお、本出願書類において、有機酸由来の炭素の担持量は、触媒を乳鉢で粉砕した後、柳本株式会社製CHN分析計(MT−5)を用い、950℃で燃焼させた燃焼生成ガスを差動熱伝導度計で測定することにより測定することができる。
【0068】
本発明の水素化処理触媒において、有機酸由来の炭素の担持量が触媒基準で2質量%以上であると、触媒表面上でVIII族金属と有機酸との錯化合物の形成が促進され、予備硫化工程において錯体化されていないVIA族金属がVIII族金属の硫化に先立って硫化されることによって、脱硫活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相が十分に形成されるとともに、不活性なコバルト、ニッケル種等のVIII族金属の金属種であるCo種、Ni種及び担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等が形成され難くなると推測される。
【0069】
本発明の水素化処理触媒において、有機酸由来の炭素の担持量が触媒基準で14質量%以下であると、触媒表面上でVIII族金属が有機酸と十分に錯化合物を形成して、VIA族金属と有機酸との錯化合物の形成を抑制することができ、また、余剰の有機酸由来の炭素が触媒表面上に残留することを抑制することができる。
VIA族金属が有機酸と錯体化した場合は、活性化(硫化)の際に、VIA族金属の硫化がVIII族金属の硫化と同時に起こり、脱硫活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相が効率的に形成されず、不活性なCo種、Ni種等が形成され易くなると推定される。また、過剰な炭素は、触媒の被毒物質として硫化段階で脱硫活性点を被毒するため、活性低下の原因となる。
【0070】
本発明の水素化処理触媒は、比表面積が100〜400m/gであり、150〜350m/gであることが好ましく、150〜280m/gであることがより好ましい。
また、本発明の水素化処理触媒は、細孔容積が0.2〜0.6ml/gであり、0.3〜0.6ml/gであることが好ましく、0.3〜0.5ml/gであることが好ましい。
本発明の水素化処理触媒は、平均細孔直径が50〜200Åであることが好ましく、50〜180Åがより好ましく、50〜150Åであることがさらに好ましく、50〜130Åであることが一層好ましい。
【0071】
本発明の水素化処理触媒は、比表面積、細孔容積及び平均細孔直径が上記範囲内にあることにより、所望の触媒活性を得ることができ、所期の目的を達成することができる。
本発明の水素化処理触媒において、比表面積、細孔容積及び平均細孔直径は、後述するように、上記無機酸化物担体上に所定量のVIA族金属、VIII族金属等を担持した後、乾燥条件を制御することによって容易に制御することができる。
【0072】
なお、本出願書類において、水素化処理触媒の比表面積は、比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した値を意味し、具体的には、触媒試料を、真空雰囲気下、400℃で1時間処理して揮発分を除去した後、日本ベル(株)製の表面積測定装置によって測定した値を意味する。
また、本出願書類において、水素化処理触媒の細孔容積および平均細孔直径は、水銀圧入法により測定した値を意味し、具体的には、触媒試料を真空雰囲気下400℃で1時間処理して揮発分を除去した後、ポロシメーター(MICROMERITICSAUTO−PORE 9200:島津製作所製)を用い、下記測定原理に基づき、下記測定条件で測定した値を意味する。
【0073】
(測定原理)
水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づく。水銀と円筒細孔の場合には、この法則は次式で表される。
D=−(1/P)4γcosθ
式中、Dは細孔直径、Pは掛けた圧力、γは表面張力、θは接触角である。掛けた圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定する。なお、触媒の細孔水銀の表面張力は484dyne/cmとし、接触角は130度とする。
上式に基づき、Pを関数として算出されたDの分布として細孔分布を求め、Dの平均値として平均細孔直径を求める。
また、細孔へ進入した触媒グラム当たりの全水銀体積量として細孔容積を求める。
【0074】
(測定手順)
(1)真空加熱脱気装置の電源を入れ、温度400℃、真空度5×10−2Torr以下になることを確認する。
(2)サンプルビュレットを空のまま真空加熱脱気装置に掛ける。
(3)真空度が5×10−2Torr以下となったなら、サンプルビュレットを、そのコックを閉じて真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定する。
(4)サンプルビュレットに試料(触媒)を入れる。
(5)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置に掛け、真空度が5×10−2Torr以下になってから1時間以上保持する。
(6)試料入りサンプルビュレットを真空加熱脱気装置から取り外し、冷却後、重量を測定し、試料重量を求める。
(7)AUTO−PORE 9200用セルに試料を入れる。
(8)AUTO−PORE 9200により測定する。
【0075】
また、本発明の水素化処理触媒は、硫化処理後に透過型電子顕微鏡で観察したときに、二硫化モリブデン等のVIA族金属二硫化物の積層数の平均値が2.5〜5であるものが好ましく、2.7〜4.0であるものがより好ましい。
本発明の水素化処理触媒において、無機酸化物担体上に形成される二硫化モリブデン層等のVIA族金属二硫化物層は、水素化処理触媒の接触面積を大きくする役割を成すと共に、上記層内にCoMoS相、NiMoS相等の活性点を形成する役割を成す。
積層数の平均値が上記範囲内にあると、VIA族金属二硫化物層の一層目のエッジ部に形成されるCoMoS相やNiMoS相のタイプIと称される低活性な活性点の形成割合を抑制し、VIA族金属二硫化物層の2層目以上のエッジ部に形成されるCoMoS相タイプIIやNiMoS相タイプII等のタイプIIと称される高活性な活性点の形成割合を向上させて、活性点の絶対数を減少させることなく、脱硫活性を容易に向上させることができる。
【0076】
なお、本出願書類において、VIA族金属二硫化物の積層数の平均値は、1視野当たり200以上の二硫化モリブデン等のVIA族金属二硫化物結晶を観察し得る透過型電子顕微鏡を用いたときに、各二硫化モリブデンの積層数から算出される平均値を意味する。
【0077】
本発明の水素化処理触媒は、透過型電子顕微鏡で観察した場合における二硫化モリブデン層等のVIA族金属二硫化物層の面方向の平均長さが、1〜3.5nmであるものが好ましく、2〜3.5nmであるものがより好ましい。
上記平均長さが1nm以上であると、二硫化モリブデン等のVIA族金属二硫化物の分子が単分子で存在することがないため、コバルト及びニッケル等のVIII族金属がスクエアピラミッド型の5配位硫黄構造を形成することができ、活性点であるCoMoS相やNiMoS相等を容易に形成することができる。
上記平均長さが3.5nm以下であると、二硫化モリブデン等のVIA族金属二硫化物の結晶が大きくならないため、エッジ部分の絶対数が減少せず、活性点であるCoMoS相やNiMoS相等の数を十分に確保し易くなる。
【0078】
なお、本出願書類において、VIA族金属二硫化物層の面方向の平均長さは、1視野当たり200以上のVIA族金属二硫化物結晶を観察し得る透過型電子顕微鏡を用いたときに、各二硫化モリブデンの面方向の長さから算出される平均値を意味する。
【0079】
本発明の水素化処理触媒の形状は、特に限定されず、通常、この種の触媒に用いられている形状、例えば、円柱状、三葉状、四葉状等を採用することができる。触媒の大きさは直径が約1〜2mm、長さは約2〜5mmが好ましい。
なお、上記触媒の形状は大きさはノギスで図ることで確認することができる。
【0080】
本発明の水素化処理触媒の機械的強度は、側面破壊強度(SCS:Side Crushing Strength)で約2lbs/mm以上が好ましい。SCSが約2lbs/mm以上であれば、反応装置に充填した触媒が破壊され、反応装置内で差圧が発生することにより、水素化処理運転の続行が不可能となることを、防止、抑制することができる。
なお、本出願書類において、上記SCSは、(株)木屋製作所製の木屋式硬度計を用い、2mm程度の長さを有する円柱状の成型触媒を50個選び、触媒の横方向の強度を測定したときの平均値を意味する。
【0081】
本発明の水素化処理触媒の最充填かさ密度(CBD:Compacted Bulk Density)は、0.6〜1.2g/mlが好ましい。
また、触媒中の活性金属の分散状態は、触媒中で活性金属が均一に分布しているユニフォーム型がこの好ましい。
【0082】
本発明の水素化処理触媒は、特定の無機酸化物担体上で、コバルト、ニッケル等のVIII族金属が不活性な金属種を形成しておらず、コバルト、ニッケル等のVIII族金属がモリブデン等のVIA族金属とともにタイプIIと称される高活性な脱硫活性金属点が精密制御されつつ形成されてなるものであることから、炭化水素油の脱硫反応及び脱窒素反応を効率的に進行させ、脱硫装置の運転条件を過酷にしなくても高深度脱硫処理を容易に行うことができ、触媒寿命を向上させることができる。
本発明の水素化処理触媒は、以下に詳述する本発明の製造方法により容易に製造することができる。
【0083】
次に、本発明の水素化処理触媒の製造方法について説明する。
本発明の水素化処理触媒の製造方法は、比表面積が230〜500m/g、細孔容積が0.5〜1ml/g、平均細孔直径が40〜180Åであり、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、周期律表第VIA族金属、周期律表第VIII族金属、有機酸およびリン酸化物の原料を含む溶液を接触させて、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種が10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種が1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素が2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物が0.1質量%以上となるように担持した後、200℃以下で乾燥させることを特徴とするものである。
【0084】
本発明の製造方法において、無機酸化物担体の内容および製造方法等は、上述したとおりであり、無機酸化物担体に担持するVIA族金属、VIII族金属、有機酸由来の炭素およびリン酸化物の担持量や担持割合等も上述したとおりである。
【0085】
本発明の製造方法においては、比表面積が230〜500m/g、細孔容積が0.5〜1ml/g、平均細孔直径が40〜180Åであり、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、周期律表第VIA族金属、周期律表第VIII族金属、有機酸およびリン酸化物の原料を含む溶液を接触させる。
【0086】
本発明の製造方法としては、上記無機酸化物担体に、上述したVIA族金属の少なくとも1種を含む化合物と、上述したVIII族金属の少なくとも1種を含む化合物と、有機酸とを含有する溶液を接触、含浸させ、VIA族金属、VIII族金属および有機酸由来の炭素を上記担持量となるように担時させた後、乾燥する方法を挙げることができる。
【0087】
上記VIA族金属を含む化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等から選ばれる一種以上を挙げることができ、三酸化モリブデン、モリブドリン酸等が好適である。本発明の製造方法において、上記含浸溶液中のVIA族金属を含む化合物の含有量は、得られる触媒に担持される上記VIA族金属の担持量に対応した量とする。
【0088】
また、上記VIII族金属を含む化合物としては、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト、クエン酸ニッケル、硝酸コバルト6水和物、硝酸ニッケル6水和物等から選ばれる一種以上を挙げることができ、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト、クエン酸ニッケル化合物等であることが好ましく、クエン酸コバルト、クエン酸ニッケル化合物であることがより好ましい。
上記のクエン酸コバルトとしては、クエン酸第一コバルト(Co(C)、クエン酸水素コバルト(CoHC)、クエン酸コバルトオキシ塩(Co(C・CoO)等が挙げられ、クエン酸ニッケルとしては、クエン酸第一ニッケル(Ni(C)、クエン酸水素ニッケル(NiHC)、クエン酸ニッケルオキシ塩(Ni(C)・NiO)等が挙げられる。
【0089】
上記コバルトやニッケルのクエン酸化合物は、コバルトのクエン酸化合物を例にとると、クエン酸の水溶液に炭酸コバルトを溶解することにより調製することができる。このような方法で調製されたクエン酸化合物含有液は、水分を除去せずにそのまま触媒調製に用いることもできる。
本発明の製造方法において、上記含浸溶液中のVIII族金属を含む化合物の含有量は、得られる触媒に担持される上記VIII族金属の担持量に対応した量とする。
【0090】
本発明の製造方法において、有機酸としては、クエン酸一水和物、無水クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、グルタン酸、グルコン酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、マロン酸等から選ばれる一種以上を挙げることができ、クエン酸一水和物が好適である。
これらの有機酸は、硫黄を実質的に含まない化合物を使用することが好適である。
有機酸としてクエン酸を使用する場合は、クエン酸単独であってもよいし、上記したコバルトやニッケル等のVIII族金属とのクエン酸化合物であってもよい。
【0091】
本発明の製造方法において、有機酸の添加量は、得られる触媒に担持される上記有機酸由来の炭素量に対応する量にする。
また、本発明の製造方法において、VIII族金属の添加量に対する有機酸の添加量は、モル比で、有機酸/VIII族金属=0.2〜1.2となるように添加することが好ましい。上記モル比が0.2以上であると、VIII族金属に帰属する活性点を十分に得易くなる。また、上記モル比が1.2以下であると、含浸溶液が高粘度とならないため、担持工程に時間を要することなく活性金属を担体ペレットの内部まで含浸させることができるため、活性金属を良好に分散させることができる。
【0092】
本発明の製造方法において、VIA族金属とVIII族金属の総量に対する有機酸の添加量は、モル比で、有機酸/(VIA族金属+VIII族金属)が0.35以下となるように添加することが好ましく、0.3以下となるように添加することが適している。上記モル比が0.35以下であると、金属と錯体化しきれない余剰な有機酸が触媒表面に残ることがない。触媒表面上に余剰な有機酸が残っていると、硫化工程で原料油とともに流れ出す場合があるので好ましくない。
【0093】
上記VIA族金属の化合物やVIII族金属の化合物が含浸溶液に十分に溶解しない場合には、これらの化合物とともに硝酸、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)等の酸を使用してもよく、有機酸を使用することが好ましい。
VIA族金属の化合物やVIII族金属の化合物の溶解性を向上させるために有機酸を使用する場合には、得られる水素化処理触媒中に上記有機酸由来の炭素が残存することがあるため、上記有機酸の使用量は、得られる触媒に担持される有機酸由来の炭素の担持量を考慮して決定する。
【0094】
本発明の製造方法において、リン酸化物の原料としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0095】
本発明の製造方法において、担持成分を含む溶液を形成する溶媒は、水であることが好ましい。
溶媒の使用量は、担体100gに対して、50〜90gが好ましい。
溶媒の使用量が少なすぎると、担体を十分に浸漬し難く、多すぎると、溶解した活性金属の一部が担体上に担持しきれず、含浸溶液容器のへりなどに付着してしまい、所望の担持量が得られ難くなる。
【0096】
本発明の製造方法において、各担持成分を含む溶液は、上記溶媒に上記各担持成分を所望量溶解させることにより調製することができ、各担持成分の溶解温度は、0℃を超え100℃以下が好ましく、本温度範囲内であれば、上記溶媒に各成分を良好に溶解させることができる。
【0097】
本発明の製造方法においては、このようにして調製した溶液を、上記無機酸化物に含浸等により接触させて、溶液中に含まれる各担持成分を担持させる。
接触条件は、種々の条件を採用することができ、通常、接触温度は、0℃を超え100℃未満が好ましい。また、接触時間は、15分〜3時間が好ましく、20分〜2時間がより好ましく、30分〜1時間がさらに好ましい。
接触温度が高すぎると、含浸等による接触中に乾燥を生じて分散度が偏る場合がある。また、含浸中は攪拌することが好ましい。
【0098】
本発明の製造方法においては、上記接触後、常温〜約80℃の温度条件下、窒素気流中、空気気流中、あるいは真空中において、水分がある程度以下[LOI(Loss on ignition)が50%以下]となるように除去した後、空気気流中、窒素気流中、あるいは真空中で200℃以下の温度条件下で、5時間〜20時間乾燥させることが好ましい。
【0099】
本発明の製造方法において、上記乾燥を200℃以下の温度で行うことにより、金属と錯体化していると推測される有機酸が触媒表面上から脱離せず、その結果、得られる触媒を硫化処理したときに活性点になると考えられるCoMoS相、NiMoS相等を精密制御しつつ容易に形成することができる。
なお、真空中で乾燥を行う場合は、圧力760mmHg換算で上記の温度範囲になるようにして乾燥を行うことが好ましい。
【0100】
本発明の製造方法によれば、本発明の水素化処理触媒を容易に製造することができる。得られる水素化処理触媒の詳細は、上述したとおりである。
【0101】
次に、本発明の炭化水素油の水素化処理方法について説明する。
本発明の炭化水素油の水素化処理方法は、本発明の水素化処理触媒または本発明の製造方法で得られた水素化処理触媒の存在下、水素分圧0.7〜8MPa、温度220〜420℃、液空間速度0.3〜10hr−1の条件下に炭化水素油と接触させ、水素化処理することを特徴とするものである。
【0102】
本発明の炭化水素油の水素化処理方法において、使用する水素としては、硫化水素濃度が4容量%以下であるものが好ましく、1.4容量%以下であるものがより好ましく、1容量%以下であるものがさらに好ましい。
【0103】
本発明の水素化処理方法において、水素化処理時の水素分圧は0.7〜8MPaであり、1.0〜7.0MPaであることが好ましく、1.5〜6.5MPaであることがより好ましい。
本発明の水素化処理方法において、水素化処理時の温度は220〜420℃であり、250〜400℃であることが好ましく、260〜390℃であることがより好ましい。
本発明の水素化処理方法において、水素化処理時の液空間速度は、0.3〜10hr−1であり、0.4〜9.5hr−1であることが好ましく、0.5〜9.0hr−1であることがより好ましい。
本発明の水素化処理方法において、水素化処理時の水素/炭化水素油比は20〜1000Nm/klが好ましく、50〜950Nm/klがより好ましく、70〜900Nm/klがさらに好ましい。
【0104】
本発明の水素化処理方法においては、上記条件で本発明の水素化処理触媒または本発明の製造方法で得られた水素化処理触媒と炭化水素油と接触させ、水素化処理することにより、炭化水素油中の難脱硫物質を含む硫黄化合物を効果的に減少させることができる。
【0105】
本発明の水素化処理方法において、処理対象となる炭化水素油としては、例えば、直留ナフサ、接触改質ナフサ、接触分解ナフサ、接触分解ガソリン、直留灯油、直留軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、水素化処理軽油、脱硫処理軽油、減圧蒸留軽油(VGO)等の留分が上げられる。これらの炭化水素油の代表的な性状例として、沸点範囲が30〜560℃、硫黄化合物濃度が5質量%以下のものが挙げられる。
【0106】
本発明の水素化処理方法を商業規模で実施する場合には、本発明の水素化処理触媒または本発明の製造方法で得られた水素化処理触媒により固定床、移動床あるいは流動床式の触媒層を反応装置(脱硫装置)内に形成し、この反応装置内に炭化水素油を導入して、上記条件下で水素化処理を行えばよい。
【0107】
最も一般的には、固定床式触媒床を反応装置内に形成し、水素化処理対象となる炭化水素油を反応装置の上部より導入し、上記条件下で水素化処理を施しつつ固定床の上部から下部に通過させ、反応装置の下部から生成物を流出させる。
【0108】
また、本発明の水素化処理方法は、水素化処理触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段の水素化処理であってもよいし、複数の反応装置に充填して行う多段連続水素化処理であってもよい。
【0109】
本発明の水素化処理方法において、使用する水素化処理触媒は、予め使用前に(即ち、水素化処理を実施する前に)、反応装置内で硫化処理して活性化することが適当である。この硫化処理は、好ましくは200℃〜400℃、より好ましくは250〜350℃の温度下において、常圧あるいはそれ以上の水素圧雰囲気下、硫黄化合物を含む石油蒸留物や、さらにジメチルジスルフィドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたものや、あるいは硫化水素を用いて行うことが好ましい。
【0110】
本発明の水素化処理方法においては、ナフサ、灯油または軽油留分までの炭化水素油については、硫黄分10質量ppm以下の生成油を得ることができ、また、減圧軽油については、原油種によっても異なるが、1〜4質量%程度の硫黄分を0.3質量%以下、好ましくは0.07質量%以下の生成油を得ることができる。
【0111】
本発明の水素化処理方法においては、本発明の水素化処理触媒または本発明の製造方法で得られた水素化処理触媒を用いていることから、水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすることなく、高い脱硫性能および脱窒素性能を効果的に発揮することができる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例により説明するが、これらは例示であって、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。
【0113】
(実施例1)
平均粒子径15nmの酸化チタン10.0gとアルミナ水和物203.3gとを混練し、押出成形した後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物の酸化チタン−アルミナ複合担体(酸化チタン/アルミナ質量比:7/93、比表面積289m2/g、細孔容積0.74ml/g、平均細孔直径75Å)を得た。
次いで、イオン交換水33.37gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.7gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記の酸化チタン−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉内で120℃で約16時間乾燥させ、触媒Aを得た。
この触媒Aは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.4質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.9質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で3.0質量%担持してなるものであった。
触媒Aに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するチタン原子の質量の比(TiOの質量/MoOの質量)は0.23であった。
触媒Aに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.14であった。
触媒Aに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.19であった。
そして、触媒Aは、比表面積216m2/g、細孔容積0.43ml/g、平均細孔直径85Åであるものであった。
【0114】
(実施例2)
平均粒子径15nmの酸化チタン10.0gとアルミナ水和物203.3gとを混練し、押出成形した後、550℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物の酸化チタン−アルミナ複合担体(酸化チタン/アルミナ質量比:7/93、比表面積360m2/g、細孔容積0.76ml/g、平均細孔直径67Å)を得た。
次いで、イオン交換水31.88gに、クエン酸第一コバルト15.8g、モリブドリン酸27.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記の酸化チタン−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉内で120℃で約16時間乾燥させ、触媒Bを得た。
この触媒Bは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で25.6質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で5.7質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.7質量%、リン酸化物を、触媒基準で4.0質量%担持してなるものであった。
触媒Bに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するチタン原子の質量の比(TiOの質量/MoOの質量)は0.18であった。
触媒Bに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.16であった。
触媒Bに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.18であった。
そして、触媒Bは、比表面積212m2/g、細孔容積0.42ml/g、平均細孔直径83Åであるものであった。
【0115】
(実施例3)
平均粒子径15nmの酸化チタン10.0gとオルトリン酸13.8gとアルミナ水和物188.0とを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物の酸化チタン−リン酸化物−アルミナ複合担体(酸化チタン/リン酸化物/アルミナ質量比:7/7/86、比表面積290m2/g、細孔容積0.73ml/g、平均細孔直径64Å)を得た。
次いで、イオン交換水32.87gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.7gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記の酸化チタン−リン酸化物−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Cを得た。
この触媒Cは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.3質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.8質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で2.9質量%担持してなるものであった。また、触媒Cは、リン酸化物を、触媒基準で7.8質量%含むものであった。
触媒Cに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するチタン原子の質量の比(TiOの質量/MoOの質量)は0.23であった。
触媒Cに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.37であった。
触媒Cに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.18であった。
そして、触媒Cは、比表面積215m2/g、細孔容積0.43ml/g、平均細孔直径76Åであるものであった。
【0116】
(実施例4)
アルミナ濃度換算で22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液260gを容器に入れ、イオン交換水1280gで希釈し、得られた希釈溶液の中にリン酸三ナトリウム(NaPO12HO)14.7g加え攪拌しながら60℃に加温して希釈溶液Iを得た。
一方、別の容器にアルミナ濃度換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液400gを入れ、これに酸化チタン濃度で32質量%の硫酸チタン15.6gを180gのイオン交換水に溶解した硫酸チタン水溶液を加え、さらに60℃のイオン交換温水で希釈して1130gとし、希釈溶液IIを得た。
次いで、上記リン酸イオンを含むアルミン酸ナトリウムの希釈溶液I中に上記硫酸チタンを含む硫酸アルミニウムの希釈溶液IIを一定速度で添加し、10分間でpHが7.2となるようにチタニア−リン−アルミナ水和物スラリーを調製した。
得られたチタニア−リン−アルミナ水和物スラリーを攪拌しながら60℃で1時間熟成した後、得られたスラリーを脱水し、0.3質量%アンモニア水溶液5Lで洗浄した。
上記洗浄により得られたケーキ状スラリーをイオン交換水で希釈してアルミナ濃度で12質量%になるように調整した後、15質量%アンモニア水によりスラリーのpHを10.5に調整して容器に移し、攪拌しながら95℃で7時間熟成した。熟成終了後のスラリーを脱水した後、加温した状態でニーダーで練りながら所定の水分量まで濃縮捏和し、次いで降温して更に30分間捏和した。
得られた捏和物を押出成型後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物の酸化チタン−リン酸化物−アルミナ複合担体(酸化チタン/リン酸化物/アルミナ質量比:5/3/92、比表面積294m2/g、細孔容積0.74ml/g、平均細孔直径70Å)を得た。
次いで、イオン交換水33.51gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記の酸化チタン−リン酸化物−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Dを得た。
この触媒Dは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.2質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で5.0質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.2質量%、リン酸化物を、触媒基準で2.9質量%担持してなるものであった。また、触媒Dは、リン酸化物を、触媒基準で担体中に5.0質量%含むものであった。
触媒Dに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するチタン原子の質量の比(TiOの質量/MoOの質量)は0.17であった。
触媒Dに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.24であった。
触媒Dに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.19であった。
そして、触媒Dは、比表面積217m2/g、細孔容積0.43ml/g、平均細孔直径80Åであるものであった。
【0117】
(実施例5)
平均粒子径15nmの酸化チタン10.0gとSiO2/Al23モル比6のSHYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm 、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87%)10.0gとアルミナ水和物188.0gとを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物の酸化チタン−ゼオライト−アルミナ複合担体(酸化チタン/ゼオライト/アルミナ質量比:7/7/86、比表面積314m2/g、細孔容積0.75ml/g、平均細孔直径76Å)を得た。
次いで、イオン交換水34.01gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記の酸化チタン−ゼオライト−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Eを得た。
この触媒Eは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.4質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.8質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で2.9質量%担持してなるものであった。
触媒Eに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するチタン原子の質量の比(TiOの質量/MoOの質量)は0.23であった。
触媒Eに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.14であった。
触媒Eに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.18であった。
そして、触媒Eは、比表面積225m2/g、細孔容積0.43ml/g、平均細孔直径85Åであるものであった。
【0118】
(実施例6)
平均粒子径15nmの酸化チタン10.0gとオルトリン酸13.8gとSiO2/Al23モル比6のSHYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm 、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87%)10.0gとアルミナ水和物464.1gとを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物の酸化チタン−リン酸−ゼオライト−アルミナ複合担体(酸化チタン/リン酸/ゼオライト/アルミナ質量比:3/3/3/91、比表面積307m2/g、細孔容積0.73ml/g、平均細孔直径71Å)を得た。
次いで、イオン交換水33.01gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記の酸化チタン−リン酸−ゼオライト−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Fを得た。
この触媒Fは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.3質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.9質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で3.0質量%担持してなるものであった。また、触媒Fは、リン酸化物を、触媒基準で5.1質量%含むものであった。
触媒Fに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するチタン原子の質量の比(TiOの質量/MoOの質量)は0.10であった。
触媒Fに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.24であった。
触媒Fに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.19であった。
そして、触媒Fは、比表面積228m2/g、細孔容積0.44ml/g、平均細孔直径83Åであるものであった。
【0119】
(比較例1)
イオン交換水19.63gに、クエン酸第一コバルト7.69gと、モリブドリン酸12.91gと、オルトリン酸1.46gを溶解させた含浸用の溶液を調製した。
ナス型フラスコ中に、γ−アルミナ担体(細孔容積0.74m1/g、比表面積309m/g、平均細孔直径75Å)30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で1時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約1時間乾燥させ、比較触媒aを得た。
この比較触媒aは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.2質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.8質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で2.9質量%担持してなるものであった。
比較触媒aに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.14であった。
比較触媒aに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.18であった。
そして、比較触媒aは、比表面積230m2/g、細孔容積0.44ml/g、平均細孔直径85Åであるものであった。
【0120】
(比較例2)
アルミナ水和物209.8gとオルトリン酸7.9gとを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物のリン酸化物−アルミナ複合担体(リン酸化物/アルミナ質量比:4/96、比表面積304m2/g、細孔容積0.73ml/g、平均細孔直径69Å)を得た。
次いで、イオン交換水33.01gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記のリン酸化物−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、比較触媒bを得た。
この比較触媒bは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.0質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.7質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.0質量%、リン酸化物を、触媒基準で3.0質量%担持してなるものであった。また、比較触媒bは、リン酸化物を、触媒基準で5.9質量%含むものであった。
比較触媒bに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.29であった。
比較触媒bに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.18であった。
そして、比較触媒bは、比表面積220m2/g、細孔容積0.43ml/g、平均細孔直径80Åであるものであった。
【0121】
(比較例3)
SiO2/Al23モル比6のSHYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm 、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87%)10.0gとアルミナ水和物203.3gとを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比:7/93、比表面積329m2/g、細孔容積0.74ml/g、平均細孔直径75Å)を得た。
次いで、イオン交換水33.51gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記のゼオライト−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、比較触媒cを得た。
この比較触媒cは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.4質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.8質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で3.0質量%担持してなるものであった。
比較触媒cに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.14であった。
比較触媒cに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.19であった。
そして、比較触媒cは、比表面積242m2/g、細孔容積0.44ml/g、平均細孔直径84Åであるものであった。
【0122】
(比較例4)
SiO2/Al23モル比6のSHYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm 、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87%)10.0gとアルミナ水和物194.5gとオルトリン酸7.9gとを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物のリン酸化物−ゼオライト−アルミナ複合担体(リン酸化物/ゼオライト/アルミナ質量比:4/7/89、比表面積327m2/g、細孔容積0.74ml/g、平均細孔直径67Å)を得た。
次いで、イオン交換水33.51gに、クエン酸第一コバルト12.5g、モリブドリン酸20.1gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌して含浸溶液を得た。
ナス型フラスコ中に、上記のリン酸化物−ゼオライト−アルミナ複合担体50.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。
この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、比較触媒dを得た。
この比較触媒dは、VIA族金属であるモリブデンを、触媒基準、酸化物換算で21.4質量%、VIII族金属であるコバルトを、触媒基準、酸化物換算で4.9質量%担持してなるものであり、また、クエン酸由来の炭素を、触媒基準で3.1質量%、リン酸化物を、触媒基準で2.9質量%担持してなるものであった。また、比較触媒dは、リン酸化物を、担体基準で5.7質量%含むものであった。
比較触媒dに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量に対するリン酸化物の質量の比(Pの質量/MoOの質量)は0.27であった。
比較触媒dに含まれる、酸化物換算した、モリブデンの質量とコバルトの質量の和に対するコバルトの質量の比(CoOの質量/(MoOの質量+CoOの質量)は、0.19であった。
そして、比較触媒dは、比表面積238m2/g、細孔容積0.44ml/g、平均細孔直径81Åであるものであった。
触媒A〜触媒F、比較触媒a〜比較触媒dの組成を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
実施例1〜実施例6で得られた触媒A〜触媒Fと、比較例1〜比較例4で得られた比較触媒a〜比較触媒dの物理性状を表2に示す。
チタン酸化物の粒子径および二硫化モリブデン層の積層数は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製商品名“JEM−2010”)を用い、次の要領で測定した。
1.触媒を流通式反応管に充填し、室温で窒素気流中に5分間保持し、雰囲気ガスをHS(5容量%)/Hに切替え、速度5℃/minで昇温し、400℃に達した後、1時間保持した。その後、同雰囲気下で200℃まで降温し、雰囲気ガスを窒素に切替え、常温まで降温し、硫化処理を終了した。
2.この硫化処理後の触媒をメノウ乳鉢で粉砕した。
3.粉砕した触媒の少量をアセトン中に分散させた。
4.得られた懸濁液をマイクログリッド上に滴下し、室温で乾燥して試料とした。
5.試料をTEMの測定部にセットし、加速電圧200kVで測定した。直接倍率は20万倍で、5視野を測定した。
6.写真を200万倍になるように引き延ばし(サイズ16.8cm×16.8cm)、写真上で目視できるチタン酸化物の粒子径および二硫化モリブデン層の積層数を測り取った。
【0125】
【表2】

【0126】
(直留軽油の水素化処理反応)
実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例4で調製した触媒A〜触媒F及び比較触媒a〜比較触媒dを用い、以下の要領にて、下記性状を有する直留軽油の水素化処理を行った。
【0127】
<炭化水素油の性状>
油種 ;中東系直留軽油
密度(15/4℃);0.8623g/ml
蒸留性状 ;初留点が186.0℃、50%点が316.0℃、90%点が355.5℃、終点が371.5℃
硫黄成分 ;1.74質量%
窒素成分 ;210質量ppm
動粘度(@30℃);7.026cSt
流動点 ;0.0℃
くもり点 ;4.0℃
セタン指数 ;55.4
【0128】
先ず、各触媒を高圧流通式反応装置にそれぞれ充填して固定床式触媒層を形成し、前処理として、下記の条件で触媒の硫化を行った。
触媒の硫化:上記炭化水素油(中東系直留軽油)による液硫化を行った。
圧力(水素分圧);4.9MPa
雰囲気;水素及び炭化水素油(液空間速度1.5hr−1、水素/オイル比200m(normal)/kl)
温度;常温約22℃で水素及び原料油を導入し、20℃/hrで昇温し、300℃にて24hr維持、次いで反応温度である350℃まで20℃/hrで昇温
【0129】
次に、反応温度に加熱した炭化水素油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で水素化反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0130】
<水素化反応条件>
反応温度 ;350℃
圧力(水素分圧) ;4.9MPa
液空間速度 ;1.3hr−1
水素/オイル比 ;200Nm/kl
【0131】
反応結果について、以下の方法で解析した。
350℃で反応装置を運転し、6日経過した時点で生成油を採取し、その性状を分析した。
(1)脱硫率(HDS)(%):
炭化水素油中の硫黄分を脱硫反応によって硫化水素に転換することにより、炭化水素油(被処理油)から消失した硫黄分の割合を脱硫率と定義し、炭化水素油(被処理油)及び生成油の硫黄分析値から以下の式により算出した。結果を表3に示す。
脱硫率(%)=〔(Sf−Sp)/Sf〕×100
(但し、式中、Sf:炭化水素油(被処理油)中の硫黄分(質量%)、Sp:反応生成油中の硫黄分(質量%)である。)
【0132】
(2)脱硫反応速度定数(ks):
生成油の硫黄分(Sp)の減少量に対して、1.3次の反応次数を得る反応速度式の定数を脱硫反応速度定数(ks)とし、以下の式により算出した。得られる反応速度定数が高い程、触媒活性が優れていることを示している。結果を表3に示す。
【0133】
脱硫反応速度定数=[1/0.3]×〔1/(Sp)0.3−1/(Sf)0.3〕×(LHSV)
(但し、式中、Sf:炭化水素油(被処理油)中の硫黄分(質量%)、Sp:反応生成油中の硫黄分(質量%)、LHSV:液空間速度(hr−1である。)
【0134】
また、得られた脱硫反応速度定数から、脱硫比活性(%)を以下の式により算出した。結果を表3に示す。
脱硫比活性(%)=(各脱硫反応速度定数/比較触媒aの脱硫反応速度定数)×100
【0135】
【表3】

【0136】
表3から明らかなように、実施例1〜実施例6で得られた触媒A〜触媒Fを用いることにより、軽油の超深度脱硫を容易に実施できることが分かる。
また、以上の結果から明らかなように、触媒A〜触媒Fは、従来の軽油水素化処理の場合とほぼ同じ水素分圧や反応温度等で、超深度脱硫領域での軽油の脱硫反応及び脱窒素反応に関し、極めて優れた活性を示すものであることが分かる。
【0137】
一方、比較例1〜比較例4で得られた比較触媒a〜比較触媒dは、何れも、無機酸化物担体がチタン原子を含まないものであることから、表3より、触媒A〜触媒Fと比較した場合に、脱硫活性が低いものであることが分かる。
【0138】
以上の結果から明らかなように、本発明の水素化処理触媒は、従来の炭化水素油の水素化処理の場合とほぼ同じ水素分圧や反応温度等で、炭化水素油の脱硫反応及び脱窒素反応に対して、極めて優れた活性を有し、高度な深度脱硫を可能にし、長寿命化を図ることができるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明によれば、水素化脱硫装置の運転条件を過酷にすることなく、より優れた脱硫性能および脱窒素性能を示すとともに、触媒寿命の長い水素化処理触媒を提供するとともに、該水素化処理触媒を簡便に製造する方法を提供し、上記水化処理触媒を用いた水素化処理方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%含むとともに、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、
触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種を10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種を1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素を2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物を0.1質量%以上担持してなり、
前記無機酸化物担体に含まれるリン酸化物および前記担持したリン酸化物の合計量が触媒基準で15質量%以下であり、かつ
比表面積が100〜400m/g、細孔容積が0.2〜0.6ml/g、平均細孔直径が50〜200Åである
ことを特徴とする炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項2】
前記チタン原子が平均粒子径1〜100nmのチタン酸化物として存在する請求項1に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項3】
前記チタン原子と周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、TiOの質量/周期律表第VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量で表わされる比が0.05〜0.5となるように含む請求項1または請求項2に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項4】
前記リン酸化物と周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、Pの総質量/周期律表第VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量で表わされる比が0.05〜1.0となるように含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項5】
前記周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種と前記周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種とを、酸化物換算で、周期律表第VIII族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量/(周期律表第VIA族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量と周期律表第VIII族金属から選ばれる金属の酸化物の総質量との和)で表わされる比が0.1〜0.25となるように含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒。
【請求項6】
比表面積が230〜500m/g、細孔容積が0.5〜1ml/g、平均細孔直径が40〜180Åであり、担体基準、酸化物換算でチタン原子を0.1〜10質量%、担体基準でリン酸化物を10質量%以下含む無機酸化物担体上に、
周期律表第VIA族金属、周期律表第VIII族金属、有機酸およびリン酸化物の原料を含む溶液を接触させて、
触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIA族金属から選ばれる少なくとも1種が10〜40質量%、触媒基準、酸化物換算で周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種が1〜15質量%、触媒基準で有機酸由来の炭素が2〜14質量%、触媒基準でリン酸化物が0.1質量%以上となるように担持した後、
200℃以下で乾燥させる
ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の炭化水素油の水素化処理触媒または請求項6に記載の製造方法で得られた炭化水素油の水素化処理触媒の存在下、水素分圧0.7〜8MPa、温度220〜420℃、液空間速度0.3〜10hr−1の条件下に炭化水素油と接触させ、水素化処理することを特徴とする炭化水素油の水素化処理方法。

【公開番号】特開2013−27847(P2013−27847A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167451(P2011−167451)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】