説明

炭化水素系樹脂の撥水化方法

【課題】 炭化水素系樹脂の表面に剥がれ難く、撥水性を有する被覆層を形成し得て、炭化水素系樹脂を撥水化し得る炭化水素系樹脂の撥水化方法を提供する。
【解決手段】 超臨界状態または亜臨界状態のCO2 中に、下記式(1) のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル〔R2部にF(フッ素)有り〕と、下記式(2) のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル(R4部にF無し)と、開始剤とを溶解させて含有する混合流体に、炭化水素系樹脂を曝した後、この樹脂の表面に、光及び/又は熱を加えて開始剤を分解させることにより前記エステルの共重合体ポリマーを被覆することを特徴とする炭化水素系樹脂の撥水化方法等。但し、下記式(1), (2)において、R1、R3はH又はメチル基、R2はFを有する炭化水素基、R4はFを有しない炭化水素基を示すものである。 CH2=C(R1)-COO-R2 ---- 式(1) CH2=C(R3)-COO-R4 ---- 式(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系樹脂の撥水化方法に関する技術分野に属するものであり、より詳細には、炭化水素系樹脂に撥水性を付与する炭化水素系樹脂の撥水化方法に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
超臨界CO2(二酸化炭素)を用いた樹脂の撥水化・撥油化方法として、種々の方法が提案されている。例えば、特開2002-4169 号公報では、超臨界CO2 、亜臨界CO2 または液体状の高圧二酸化炭素と極性溶媒を含む混合物にビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、パーフルオロアルキルアクリレート系等の撥水剤を溶解させ、繊維を撥水化させる方法が記載されている。また、東工大の岡畑教授らは、Polymer Preprints, Japan Vol.52, No.11(2003)のIO04において、超臨界流体を用いた高分子基板のナノ表面改質の制御について報告しており、超臨界CO2 に入れた高密度ポリエチレンやPMMAの炭化水素系基板樹脂上でパーフルオロオクチルエチルメタクリレートやテトラフルオロエチレンなどのモノマーおよびAIBNなどの開始剤を添加し、そこへ光を照射することによりモノマーをポリマー化させることによる基板樹脂の撥水化方法について示している。しかしながら、これらの方法はいずれも問題を抱えている。この詳細を以下説明する。
【0003】
特開2002-4169 号公報に記載された方法においては、ビニリデンフルオリド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルアクリレート系等のフッ素化合物を単体で用いた場合は、フッ素化合物が一般的に撥水・撥油性を持つため、一般的な炭化水素系の繊維とは親和性が低く、密着性に劣る傾向にある。
【0004】
テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体等のフッ素化合物と炭化水素化合物の共重合体ポリマーを用いた場合には、炭化水素化合物部が炭化水素系繊維とフッ素化合物部を橋渡しする役目をするため密着性は高いと考えられる。しかし、ポリマーは超臨界CO2 への溶解度が低いため、使用出来るポリマー種が限られてしまう。
【0005】
東工大の岡畑教授らの示している方法では、モノマーおよび生成ポリマーを洗浄除去した後にポリエチレンやPMMA上の接触角を測定しているところから考えると、フッ素樹脂が炭化水素系基板樹脂と反応して化学結合を形成している場合を想定している。そのため、ポリイミド等のようにフッ素化合物と化学結合を作りにくい基板樹脂の場合には、撥水性を発現させることは難しい。また、フッ素樹脂と基板樹脂が化学結合を形成せずに単に付着しているとしても、そうした場合には、フッ素樹脂と炭化水素系基板樹脂の親和性は低く、フッ素樹脂はすぐに剥がれてしまうおそれがある。
【特許文献1】特開2002-4169 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、炭化水素系樹脂の表面に剥がれ難く、撥水性を有する被覆層を形成することができて、炭化水素系樹脂を撥水化することができる炭化水素系樹脂の撥水化方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0008】
このようにして完成されて上記目的を達成することができた本発明は、炭化水素系樹脂の撥水化方法に係わり、特許請求の範囲の請求項1〜3記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法(第1〜3発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法)であり、それは次のような構成としたものである。
【0009】
即ち、請求項1記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法は、炭化水素系樹脂に撥水性を付与する炭化水素系樹脂の撥水化方法であって、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素中に、下記式(1) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって下記式(1) のR2部にフッ素を有するものと、下記式(2) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって下記式(2) のR4部にフッ素を有しないものと、開始剤とを溶解させて含有する混合流体に、炭化水素系樹脂を曝した後、この炭化水素系樹脂の表面に、光および/または熱を加えて開始剤を分解させることにより前記エステルの共重合体ポリマーを被覆することを特徴とする炭化水素系樹脂の撥水化方法である〔第1発明〕。 CH2=C(R1)-COO-R2 -------- 式(1)
CH2=C(R3)-COO-R4 -------- 式(2)
ただし、上記式(1) において、R1は水素原子またはメチル基、R2はフッ素を有する炭化水素基を示すものであり、上記式(2) において、R3は水素原子またはメチル基、R4はフッ素を有しない炭化水素基を示すものである。
【0010】
請求項2記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法は、前記炭化水素系樹脂がポリイミド樹脂である請求項1記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法である〔第2発明〕。
【0011】
請求項3記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法は、前記超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素に対して前記エステルは可溶であるが、被覆されたエステルの共重合体ポリマーは不溶となる条件で、前記エステルの共重合体ポリマーの被覆をする請求項1または2記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法である〔第3発明〕。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法によれば、炭化水素系樹脂の表面に剥がれ難く、撥水性を有する被覆層を形成することができて、炭化水素系樹脂を撥水化することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法は、前述のように、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素(CO2 )中に、前記式(1) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって前記式(1) のR2部にフッ素を有するもの(以下、フッ素モノマーともいう)と、前記式(2) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって前記式(2) のR4部にフッ素を有しないもの(以下、炭化水素系モノマーともいう)と、開始剤とを溶解させて含有する混合流体に、炭化水素系樹脂を曝した後、この炭化水素系樹脂の表面に、光および/または熱を加えて開始剤を分解させることにより、前記エステルの共重合体ポリマーを被覆する(即ち、前記フッ素モノマーと前記炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを形成させる)ことを特徴とする炭化水素系樹脂の撥水化方法である。
【0014】
多くのフッ素樹脂が撥水・撥油性を示すことは一般的に知られている。しかしながら、フッ素樹脂は炭化水素系樹脂との親和性が低いために炭化水素系樹脂上に固定化させることが困難である。つまり、単に炭化水素系樹脂の表面にフッ素樹脂をのせても、はじいてしまうためにコーティング(被覆)させることは困難である。
【0015】
そこで、本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法においては、炭化水素系樹脂の表面にフッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを形成させることにより、親和性を向上させた。即ち、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーの炭化水素系ポリマー部分が炭化水素系樹脂と親和性を高め、フッ素ポリマー部分によって撥水・撥油性(撥水性および撥油性)を発現させる。この共重合体ポリマーを炭化水素系樹脂表面に形成した場合の状態を模式図で図3に示す。これに対し、フッ素ポリマー単体を炭化水素系樹脂表面にのせた場合の状態を模式図で図2に示す。なお、図2において、○はフッ素ポリマーを示すものである。図3において、○はフッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーのフッ素ポリマー部を示し、△は該共重合体ポリマーの炭化水素系ポリマー部を示すものである。図3の場合、図2の場合(フッ素ポリマー単体をのせた場合)に比較して、密着性に極めて優れている。上記のことが本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法に関しての第一の特徴である。
【0016】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法においては、共重合体ポリマーを用いるのではなく、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーと開始剤とを用いて系中でポリマー化させる。これが第二の特徴である。これにより、フッ素モノマーや炭化水素系モノマーとして多種類選択することができるため、用途にあわせて容易にその化学組成を変えることが可能である。
【0017】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法においては、フッ素モノマーや炭化水素系モノマー、開始剤を溶かす流体として、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素(CO2 )を用いている。これが第三の特徴である。超臨界状態の二酸化炭素(超臨界CO2 )や亜臨界状態のCO2 は、無毒であると共に臨界温度が304Kと常温付近であるので、安全に取り扱うことが可能であり、安価であり、かつ、リサイクル性に優れており、このため、多くのプロセスに用いられている流体である。よって、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 を用いることにより、有機溶媒を用いた撥水化方法の場合に比べて有機溶媒の使用量を大幅に低減することができ、また、廃液の排出量を極めて少なくできるようになる。
【0018】
更には、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 を用いることにより、樹脂表面を荒らすことなく、炭化水素系樹脂の表面に形成された共重合体ポリマーの耐剥がれ性を向上させることができる。即ち、フッ素樹脂の耐剥がれ性の向上方法として、予め樹脂表面を荒らしておき、これにフッ素樹脂を被覆するという方法があるが、このように樹脂表面を荒らすことは好ましくない処理である。これに対し、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 は樹脂を可塑化させる(やわらかくする)ことができるため、樹脂表面を荒らしておかなくてもよく、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中にフッ素モノマーと炭化水素系モノマーと開始剤とを溶解させて含有する混合流体に樹脂を曝すこと(本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法での開始剤の分解前の段階)により、樹脂表層部においてフッ素モノマーや炭化水素系モノマーが樹脂と混ざったような状態で樹脂内部に埋め込まれ、この後、開始剤の分解により共重合体ポリマーが形成されるので、この共重合体ポリマーの耐剥がれ性は優れている。つまり、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 を用いることにより、樹脂表面を荒らさなくてもアンカー効果を奏することができ、このアンカー効果により共重合体ポリマーの耐剥がれ性が向上する。なお、基材が樹脂ではなく、金属やガラスのように可塑化されない物質の場合には、このような超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 によるアンカー効果を奏することはできず、本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法では基材が樹脂であるが故に、このようなアンカー効果を奏することができる。上記混合流体に樹脂を曝す時間は、特には限定されないが、短すぎるとアンカー効果の程度が小さいので、アンカー効果が充分に得られるような時間とすることが望ましく、例えば120 分とすればよい。
【0019】
以上のことからもわかるように、本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法によれば、炭化水素系樹脂の表面に剥がれ難く、撥水・撥油性(撥水性および撥油性)を有する被覆層を形成することができて、炭化水素系樹脂を撥水・撥油化(撥水化および撥油化)することができるようになる。このようにして撥水・撥油化された炭化水素系樹脂は、その被覆層が撥水・撥油性を有すると共に剥がれ難いので、長期にわたって撥水・撥油性を維持することができる。
【0020】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法においては、前述のように、共重合体ポリマーを用いるのではなく、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーと開始剤とを用いて系中でポリマー化させるので、フッ素モノマーや炭化水素系モノマーとして多種類選択することができるため、用途にあわせて容易にその化学組成を変えることが可能である。つまり、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを用いるのでは超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中での溶解性の点から使用可能なポリマー種が制限されるが、本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法の場合、かかる制限がない。
【0021】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法の場合、前述のように、樹脂表面を荒らさなくてもアンカー効果を奏することができ、このアンカー効果により共重合体ポリマーの耐剥がれ性が向上する。このため、樹脂表面を荒らす処理(好ましくない処理)をしなくてよい。また、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 を用いず、有機溶媒等を用いる場合(即ち、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを樹脂表面に塗布して被覆する場合や、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーと開始剤の混合体を樹脂表面に塗布してから開始剤を分解させることによりフッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを被覆する場合)に比較して、共重合体ポリマーの耐剥がれ性が優れており、特に樹脂表面を荒らす処理をしない場合において、耐剥がれ性が優れている。更には、有機溶媒を用いた撥水化方法の場合に比べて有機溶媒の使用量を大幅に低減することができ、また、廃液の排出量を極めて少なくできるようになる。
【0022】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法において用いるフッ素モノマー(前記式(1) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって前記式(1) のR2部にフッ素を有するもの)は比較的容易に超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中に溶ける。このフッ素モノマーとしては、特には限定されるものではなく、種々のものを用いることができる。例えば、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10- ヘプタデカフルオロデシルアクリレート、4,4,5,5,6,7,7,7-ノナフルオロ-2- ヒドロキシ- ブチルアクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,8,8,8-ドデカフルオロ-7-(トリフルオロメチル)オクチルアクリレート、3,3,4,4,5,6,6,6-オクタフルオロ-5-(トリフルオロメチル)ヘキシルアクリレート、4,4,5,5,6,7,7,7-オクタフルオロ-2- ヒドロキシ-6- (トリフルオロメチル)ヘプチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルアクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,8,8,8-ドデカフルオロ-7-(トリフルオロメチル)-オクチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ドデカフルオロオクチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルメタクリレート、3,3,4,4,5,6,6,6-オクタフルオロ-5-(トリフルオロメチル)-ヘキシルメタクリレート、あるいは、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10- ヘプタデカフルオロオクチルエチルメタクリレート等を用いることができる。
【0023】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法において用いる炭化水素系モノマー(前記式(2) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって前記式(2) のR4部にフッ素を有しないもの)は比較的容易に超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中に溶ける。この炭化水素系モノマーとしては、特には限定されるものではなく、種々のものを用いることができ、一般的なアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを用いることが可能である。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、n-ラウリルアクリレート、n-セチルアクリレート、あるいは、n-ステアリルアクリレート等を用いることができる。
【0024】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法において上記フッ素モノマーおよび炭化水素系モノマーを用いる理由は、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中で、炭化水素系樹脂の表面に剥がれ難く、撥水・撥油性を有する被覆層を形成することができることの他に、上記のように他のものに比較して超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中に溶けやすいことにある。
【0025】
上記2種のモノマーの配合比率については、特には限定されるものではないが、フッ素モノマー:炭化水素系モノマー比として、5:95から90:10までの範囲で使用することが望ましい。これは、フッ素モノマー比が5%未満(フッ素モノマー量/炭化水素系モノマー量<5/95)であると、撥水性も撥油性もほとんど得られなくなる傾向があり、フッ素モノマー比が90%超(フッ素モノマー量/炭化水素系モノマー量>90/10)となると、炭化水素系樹脂とその表面に形成されたフッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーとの密着性が低下し、この共重合体ポリマーが剥離しやすくなる傾向があるからである。
【0026】
開始剤(重合開始剤)としては、特には限定されるものではなく、種々のものを用いることができ、一般的なポリマーの開始剤を用いることができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルや2,2'- アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤や、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤を用いることができる。なお、開始剤の種類によっては超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に溶けにくいものもあるが、使用する開始剤は非常に少量(例えば0.05%)でよいので、少量でも超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中に溶解する開始剤であれば使用することができる。
【0027】
開始剤の分解は光および/または熱を加えることにより行う。この光や熱の条件は、それぞれの開始剤種の有する分解条件に基づいて定める。例えば、開始剤がアゾビスイソブチロニトリルの場合、光を加えることにより行う場合は約360nm の紫外線を1分照射し、熱を加えることにより行う場合は80℃で30分加熱する。これにより、開始剤を分解させることができる。開始剤の分解により、重合が開始し、炭化水素系樹脂の表面に、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーが形成され、被覆される。
【0028】
フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを形成(被覆)するに際し、雰囲気(混合流体)の条件としては、混合流体中の超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に対してフッ素モノマーおよび炭化水素系モノマーは可溶であるが、形成(被覆)された共重合体ポリマーは不溶となる条件とし、この条件で共重合体ポリマーを形成(被覆)することが望ましい〔第3発明〕。これは、生成する共重合体ポリマーが混合流体中の超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に対して可溶であるような条件で共重合体ポリマーを生成すると、生成した共重合体ポリマーが超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中に溶け、樹脂表面にほとんど付着しなくなってしまうという傾向があるからである。このような条件としては圧力等があり、特に圧力が関係し、例えば、圧力P1 (例えば15MPa )のときフッ素モノマーおよび炭化水素系モノマーは可溶であり、生成する共重合体ポリマーは不溶であるが、これよりも相当高い圧力P2 (例えば25MPa )のときにはフッ素モノマーおよび炭化水素系モノマーは可溶であり、生成する共重合体ポリマーも可溶となる。
【0029】
本発明において共重合体ポリマーを被覆する基材としては炭化水素系樹脂を用いる。この炭化水素系樹脂としては、特には限定されるものではなく、種々のものを用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエステルなどの樹脂やアクリル樹脂、ポリイミド樹脂を用いることができる。
【0030】
これらの炭化水素系樹脂の中でも、ポリイミド樹脂は化学反応性に乏しく、フッ素樹脂との親和性が低いため、ポリイミド樹脂の表面にフッ素樹脂をのせても、はじいてしまうためにコーティング(被覆)することは困難であり、ポリイミド樹脂の撥水化は困難であるが、本発明に係る方法においては、このようなポリイミド樹脂であっても、その表面に剥がれ難く、撥水・撥油性を有する被覆層を形成することができて、ポリイミド樹脂を撥水・撥油化(撥水化および撥油化)することができる。従って、本発明に係る方法は、特にポリイミド樹脂の撥水・撥油化に際して有用であり、意義がある。〔第2発明〕。
【0031】
前記式(2) に示される炭化水素系モノマーおいて、R4はフッ素を有しない炭化水素基を示すものである。この炭化水素基は、アルキル基のような直鎖状のものに限定されず、アリール基のような環状のもの、あるいは、直鎖状のものと環状のものとを含むものであってもよい。
【0032】
前記式(1) に示されるフッ素モノマーおいて、R2はフッ素を有する炭化水素基を示すものである。このR2は、炭化水素基の水素の一部がF(フッ素)に置換されたものである。このFの数(置換数)は、特には限定されず、炭化水素系樹脂表面に形成されるフッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーが撥水性を有することができるようなF数であればよく、例えば7である。上記R2の炭化水素基は、アルキル基のような直鎖状のものに限定されず、アリール基のような環状のもの、あるいは、直鎖状のものと環状のものとを含むものであってもよい。なお、R2のF置換前の炭化水素基とR4の炭化水素基が同一であってもよく、同一でなくてもよい。
【0033】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法において、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 中にフッ素モノマーと炭化水素系モノマーと開始剤とを溶解させて含有する混合流体に、炭化水素系樹脂を曝す。この混合流体は必要に応じて有機溶剤を含むことができる。即ち、これらのモノマーの種類や量によって、これらを超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に直接混合するのでは、これらのモノマーが溶解しない場合があり、このような場合、これらのモノマーや開始剤をトルエン等の有機溶剤に一旦溶解した後、これを超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に混合することにより、これらのモノマーや開始剤を有機溶剤と共に超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に溶解させる。このようにして得られる混合流体は、有機溶剤を含んでいる。この混合流体も本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法での混合流体に含まれる。なお、この場合、設備上あるいは実施の容易性等の点から、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に混合する前に、モノマーや開始剤を有機溶剤に一旦溶解したものに、炭化水素系樹脂が接触する場合もある。この場合、超臨界CO2 や亜臨界状態のCO2 に混合した後、得られる混合流体に炭化水素系樹脂が曝されることになる。
【実施例】
【0034】
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
〔実施例1〕
実施例に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法の模式図を図1に示す。以下、図1を参照しながら実施例を説明する。炭化水素系樹脂としてはポリイミド樹脂(東レ製:カプトン)を用いた。このポリイミド樹脂を1cm□に切断し、この1cm□のポリイミド樹脂3を圧力容器5にセットした。この後、圧力容器5をヒーター6により加熱し、圧力容器5内を50℃まで昇温し、50℃の温度に保持するようにした。
【0036】
一方、フッ素モノマーとして3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10- ヘプタデカフルオロオクチルエチルメタクリレート:0.125 g、炭化水素系モノマーとしてn-ステアリルアクリレート:0.375 g、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.005 gと、トルエン:0.495 gとの混合溶液4を作製した。なお、このトルエンは、上記フッ素モノマーおよび炭化水素系モノマーを予め溶解させるために用いたものである。即ち、上記フッ素モノマーおよび炭化水素系モノマーは超臨界CO2 に直接混合するのでは超臨界CO2 に溶解し難いので、これらモノマーをトルエンに予め溶解させたのである。このトルエンには上記フッ素モノマー、炭化水素系モノマーおよび開始剤が溶解しており、混合溶液4となっている。上記のようにモノマーを予め溶解させるに際し、有機溶媒としてトルエンを用いたのは、トルエンの溶解性が高いからである。
【0037】
この混合溶液4を、前述の50℃の温度に保持した圧力容器5内にセットした。この後、CO2 ポンプ1を使ってCO2 ボンベ2から圧力容器5内にCO2 を供給し、圧力調整弁7によって圧力容器5内を15MPa に制御し、この状態(50℃、15MPa )で120 分間放置した。このとき、圧力容器5内は、超臨界CO2 にトルエンと共にフッ素モノマー、炭化水素系モノマーおよび開始剤が溶解して含まれた混合流体の雰囲気となっている。この混合流体に、ポリイミド樹脂3を120 分間曝すことになる。
【0038】
上記混合流体にポリイミド樹脂3を120 分間曝した(120 分間放置した)後、ヒーター6によって圧力容器5を更に加熱し、圧力容器5内を50℃から80℃に昇温し、80℃の温度で60分間放置した。このとき、圧力容器5内の圧力は15MPa に維持されたままである。上記80℃に昇温することにより、開始剤が分解する。即ち、熱を加えることにより、開始剤が分解する。この開始剤の分解により、重合反応が開始し、進行し、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーがポリイミド樹脂3の表面に形成される。
【0039】
上記60分間放置の後、1MPa/min の減圧速度で大気圧まで減圧し、そして、ポリイミド樹脂3を圧力容器5内から取り出した。
【0040】
しかる後、このポリイミド樹脂3の撥水性を調べるため、協和界面化学社製接触角測定装置-FACE-CA-Aを用いて、静的な水の接触角を測定したところ、水の接触角:109°であった。これは撥水性に優れていることを示している。次に、このポリイミド樹脂3の表面をキムワイプを用いて30回擦動させた後に、再度水の接触角を測定したところ、水の接触角:100°であった。これは、キムワイプによる30回擦動後も撥水性に優れており、キムワイプでの30回擦動による撥水性の低下の程度が極めて小さく、従って、ポリイミド樹脂3の表面に形成された共重合体ポリマーが極めて剥がれにくく、密着性に優れていることを示している。
【0041】
〔実施例2〕
フッ素モノマーとして、実施例1での3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10- ヘプタデカフルオロオクチルエチルメタクリレート:0.125 gに代えて、ヘプタデカフルオロデシルアクリレート:0.125 gを用い、この点を除き実施例1の場合と同様の方法により、同様のポリイミド樹脂3の表面への、フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーの形成を行った。
【0042】
そして、この共重合体ポリマーの形成されたポリイミド樹脂3について、実施例1の場合と同様の方法により、静的な水の接触角を測定して撥水性を調べたところ、水の接触角:108°であった。これは、撥水性に優れていることを示している。次に、このポリイミド樹脂3の表面をキムワイプを用いて30回擦動させた後に、再度水の接触角を測定したところ、水の接触角:101°であった。これは、キムワイプによる30回擦動後も撥水性に優れており、キムワイプでの30回擦動による撥水性の低下の程度が極めて小さく、従って、ポリイミド樹脂3の表面に形成された共重合体ポリマーが極めて剥がれにくく、密着性に優れていることを示している。
【0043】
〔比較例1〕
混合溶液4として、実施例1でのもの(フッ素モノマーとして3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10- ヘプタデカフルオロオクチルエチルメタクリレート:0.125 g、炭化水素系モノマーとしてn-ステアリルアクリレート:0.375 g、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.005 gと、トルエン:0.495 gとの混合溶液4)に代えて、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10- ヘプタデカフルオロオクチルエチルメタクリレート(実施例1の場合と同種のフッ素モノマー):0.5 g、アゾビスイソブチロニトリル(実施例1の場合と同種の開始剤):0.005 gと、トルエン:0.495 gとの混合溶液4を用いた。つまり、実施例1の場合と同様のフッ素モノマー(但し、0.5 g)と開始剤とトルエンとの混合溶液4(炭化水素系モノマーは含まず)を用いた。この点を除き実施例1の場合と同様の方法により、ポリイミド樹脂3の表面への、ポリマーの形成を行った。なお、これにより形成されるポリマーは、フッ素モノマーの重合体ポリマー(つまり、フッ素樹脂)である。
【0044】
そして、このポリマーの形成されたポリイミド樹脂3について、実施例1の場合と同様の方法により、静的な水の接触角を測定して撥水性を調べたところ、水の接触角:104°であった。これは、撥水性に優れていることを示している。次に、このポリイミド樹脂3の表面をキムワイプを用いて30回擦動させた後に、再度水の接触角を測定したところ、水の接触角:82°であった。これは、キムワイプによる30回擦動後は撥水性が悪く、この30回擦動による撥水性の低下の程度が極めて大きく、従って、ポリイミド樹脂3の表面に形成された重合体ポリマーが極めて剥がれやすく、密着性に劣っていることを示している。なお、未処理ポリイミド樹脂(即ち、ポリマー等の被覆を全くしていないもの、つまり、ポリイミド樹脂そのもの)の水の接触角は76°であることから、キムワイプによる30回擦動後のポリイミド樹脂3の表面にはポリマー(フッ素樹脂)はほとんど残っていないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法によれば、炭化水素系樹脂の表面に剥がれ難く、撥水・撥油性(撥水性および撥油性)を有する被覆層を形成することができて、炭化水素系樹脂を撥水・撥油化(撥水化および撥油化)することができるようになる。このようにして撥水・撥油化された炭化水素系樹脂は、その被覆層が撥水・撥油性を有すると共に剥がれ難いので、長期にわたって撥水・撥油性を維持することができる。従って、本発明に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法は、炭化水素系樹脂を撥水・撥油化させる場合に好適に用いることができて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例に係る炭化水素系樹脂の撥水化方法を実施するための装置の概要を示す模式図である。
【図2】フッ素ポリマー単体を炭化水素系樹脂表面にのせた場合の状態をイメージ的に示す模式図である。
【図3】フッ素モノマーと炭化水素系モノマーの共重合体ポリマーを炭化水素系樹脂表面に形成した場合の状態をイメージ的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0047】
1-- CO2ポンプ、2-- CO2ボンベ、3--ポリイミド樹脂(樹脂基板)、
4--混合溶液(フッ素モノマーと炭化水素系モノマーと開始剤と溶媒の混合溶液)、
5--圧力容器、6--ヒーター、7--圧力調整弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系樹脂に撥水性を付与する炭化水素系樹脂の撥水化方法であって、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素中に、下記式(1) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって下記式(1) のR2部にフッ素を有するものと、下記式(2) で示されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルであって下記式(2) のR4部にフッ素を有しないものと、開始剤とを溶解させて含有する混合流体に、炭化水素系樹脂を曝した後、この炭化水素系樹脂の表面に、光および/または熱を加えて開始剤を分解させることにより前記エステルの共重合体ポリマーを被覆することを特徴とする炭化水素系樹脂の撥水化方法。
CH2=C(R1)-COO-R2 -------- 式(1)
CH2=C(R3)-COO-R4 -------- 式(2)
ただし、上記式(1) において、R1は水素原子またはメチル基、R2はフッ素を有する炭化水素基を示すものであり、上記式(2) において、R3は水素原子またはメチル基、R4はフッ素を有しない炭化水素基を示すものである。
【請求項2】
前記炭化水素系樹脂がポリイミド樹脂である請求項1記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法。
【請求項3】
前記超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素に対して前記エステルは可溶であるが、被覆されたエステルの共重合体ポリマーは不溶となる条件で、前記エステルの共重合体ポリマーの被覆をする請求項1または2記載の炭化水素系樹脂の撥水化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−335992(P2006−335992A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165825(P2005−165825)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】