説明

炭化水素系洗浄剤を用いた洗浄方法

【課題】 可燃性の洗浄剤を使用した洗浄において、洗浄剤が帯電せず、帯電性の被洗浄物および洗浄治具への帯電も発生せず、洗浄剤を蒸留回収して繰り返し使用しながら効率的かつ安全に洗浄することが可能な洗浄方法を提供する。
【解決手段】 炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物およびグリコールエーテル類から選ばれる2種以上の成分からなり、その体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1013Ωcm以下である帯電防止性に優れた炭化水素系洗浄剤を用いて、50〜130℃の温度範囲、200mmHg以下の洗浄槽圧力下で被洗浄物を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、電気、電子、機械、精密機器等の各種工業分野で扱われる部品類の洗浄において、可燃性の洗浄剤を用いて効率的かつ安全に洗浄を行う方法に関する。より詳しくは、密閉し減圧された洗浄槽内で洗浄剤と被洗浄物を接触させて汚れを除去した後、減圧により洗浄剤を蒸発させて被洗浄物を乾燥する真空洗浄において、洗浄剤を蒸留回収しながら繰り返し使用する中で、洗浄剤および帯電性の被洗浄物や洗浄治具への帯電を防止し、効率的かつ安全に洗浄することが可能な洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業分野を中心に洗浄剤として広く使用されてきたフロン113および1,1,1−トリクロロエタンは、オゾン層破壊問題から1995年末に生産が中止され、他のハロゲン系洗浄剤、水系洗浄剤、準水系洗浄剤、炭化水素系洗浄剤およびアルコール系洗浄剤等に転換された。しかし、これらの代替洗浄剤は、毒性、洗浄力、乾燥性、錆などの被洗浄物への影響、地球温暖化などの環境影響、火災安全性、経済性などの点で洗浄剤として好ましい特性をすべて兼ね備えているわけではなく、洗浄の状況に応じて使い分けられているのが現状である。
【0003】
炭化水素やアルコール類を主成分とする可燃性の洗浄剤は、水系や準水系洗浄剤に比べて洗浄力が高く、乾燥性、被洗浄物への影響、環境影響、省エネルギー等に優れるなど総合的に優れた特徴があり、自動車、電気、電子、機械、精密機器等の各種工業分野において加工部品等に付着した加工油、グリース、ワックス、フラックス、離型剤などの除去に広く使用されている。
【0004】
可燃性の洗浄剤を使用した洗浄方法は、洗浄剤を大気圧下で扱う常圧洗浄と、減圧下で扱う真空洗浄に大別されるが、真空洗浄は、密閉し減圧された洗浄槽内で引火点以上に加熱された洗浄剤(洗浄剤蒸気を含む)と被洗浄物を接触させて汚れを除去した後、さらに減圧度を高めて洗浄剤を蒸発させて被洗浄物を乾燥する工程からなる洗浄方法である。真空洗浄は、一般に常圧洗浄に比べて洗浄効果が大きく、乾燥に伴って洗浄槽外に排出される洗浄剤蒸気を冷却により回収できる特徴があり、大気汚染防止法のVOC規制に代表されるように環境保護の観点からも、好ましく使用されている。
【0005】
しかし、可燃性の洗浄剤は、引火性があるため、使用する洗浄装置はもとより、洗浄条件や取り扱いにも十分防爆対策を講じる必要がある。可燃性洗浄剤は、発火点以上の温度で使用されることはないため、発火事故は、そのガス濃度が燃焼範囲内にあり、かつ着火源によりエネルギーが与えられたことにより起こる。したがって、爆発や火災の危険性を根本的に解消するためには、ガス組成を燃焼範囲から外すこと、また着火源を与えないことの2つ対策が挙げられるが、いずれも完全な実施は困難であるため、以下のような複数の対策が講じられている。
【0006】
ガス組成を燃焼範囲から外す方法として、大気圧下での洗浄の場合には、引火点未満の温度範囲で使用されるが、真空洗浄の場合には、通常、洗浄剤温度は引火点以上の温度で、洗浄槽内のガス濃度が燃焼上限界以上となる条件下で操作が行われる。しかし、洗浄装置の起動、停止時や、洗浄効果を上げるために洗浄槽内圧力を変化させる洗浄方法(以下、変圧洗浄という。)等の際には、系内のガス濃度が一時的に燃焼範囲を通過する危険を伴う。
【0007】
このため、窒素ガスなどの不活性ガスを使用して系内の酸素濃度を減じ、燃焼限界酸素濃度未満の酸素濃度に保持することが行われている。また、着火源を与えない方法としては、例えば、洗浄装置を構成する各機器に関しては、エアー駆動機器や防爆仕様のものが使用され、各機器、配管、バルブ等は十分な接地を行い、洗浄剤の加熱に関しては、熱媒油による間接加熱方式等が採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の可燃性の洗浄剤を使用する真空洗浄方法は、防爆対策が全く不十分であり危険性が高い。すなわち、真空洗浄は、洗浄装置の起動、停止時や変圧洗浄時には、一時的にガス組成が燃焼範囲内に入り、大気の洩れ込みなどの異常時や、誤操作等により、容易にガス濃度が燃焼範囲内に入る危険性がある。その対策として、不活性ガスを使用したとしても、完全にその危険性を取り除くことは難しい。さらに、洗浄剤自体が帯電することもあり、特に、被洗浄物が樹脂製のものであったり、洗浄治具に樹脂などの帯電性材料が使用される場合などは帯電が著しく、洗浄装置の接地を十分に行ったとしても、着火源となる危険性が極めて高い。
【0009】
炭化水素系洗浄剤による樹脂部品の拭き取り洗浄の際に、樹脂が帯電して障害を起こす問題に対して、石油系溶剤にアニオン性界面活性剤と極性溶媒を配合した洗浄剤(例えば、特許文献1参照)、炭化水素系溶剤に、有機オニウム塩を配合した洗浄剤(例えば、特許文献2参照)、2−メチルペンタン全量に対してエタノールを2〜15容量%配合した洗浄剤(例えば、特許文献3参照)が、樹脂の被洗浄物に対して帯電を抑制する洗浄剤として提案されている。
【0010】
また、洗浄剤の組合せとして、炭素数が9〜13の脂肪族炭化水素系溶媒と単環状ケトン類およびメチルメトキシブタノール類との溶剤組成物(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平6−136387号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2006−63274公報(請求項1)
【特許文献3】特開平10−330796号公報(請求項1)
【特許文献4】特開平7−331291号公報(請求項1) しかし、特許文献1,2の洗浄剤では、帯電抑制効果の有効成分として含まれるアニオン性界面活性剤や有機オニウム塩が不揮発性であるため、被洗浄物を乾燥した際に、その表面に帯電抑制剤がシミとなって残存する問題がある。また、洗浄剤を蒸留回収すると、主成分の炭化水素系溶剤とアニオン性界面活性剤や有機オニウム塩が分離され、回収液は帯電防止効果が失われるため、繰り返し使用することができない問題がある。また、特許文献3の洗浄剤は、引火点が極めて低く、危険性が高いという問題がある。さらに、特許文献4の溶剤組成物は、環境汚染などの問題を起こさず、毒性も低く、脱脂能力にも優れるものではあるが、帯電防止効果については一切記載されておらず、引火性については不明である。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、密閉し減圧された洗浄槽内で被洗浄物を洗浄剤(洗浄剤蒸気を含む)で洗浄して汚れを除去した後、さらに減圧して付着した洗浄剤を蒸発させて被洗浄物を乾燥する真空洗浄において、洗浄剤および、帯電性の被洗浄物や洗浄治具への帯電が発生せず、洗浄剤を蒸留回収して繰り返し使用しながら、効率的かつ安全に洗浄することが可能な洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは前述の問題点を解決すべく種々の検討を重ねた結果、目的の洗浄方法を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
すなわち、本発明は、炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物およびグリコールエーテル類から選ばれる2種以上の成分からなり、その体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1013Ωcm以下である帯電防止性に優れた炭化水素系洗浄剤を用いて、50〜130℃の温度範囲、200mmHg以下の洗浄槽圧力下で被洗浄物を洗浄することを特徴とする洗浄方法に関する。
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明で使用する炭化水素系洗浄剤は、炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物およびグリコールエーテル類から選ばれる2種以上の成分からなり、体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1013Ωcm以下であり、好ましくは3×10Ωcm以上、1×1013Ωcm以下である。体積抵抗率が1×1013Ωcmを越える場合は、洗浄剤や帯電性被洗浄物、帯電性洗浄治具への帯電が著しくなり、使用できない。体積抵抗率の低下に伴い洗浄剤の親水性が高まり、油性汚れに対する洗浄性が次第に悪化するため、体積抵抗率が1×10Ωcm以上であることが好ましく、より好ましくは3×10Ωcm以上である。
【0017】
なお、本発明における体積抵抗率は、JIS C 2320に準拠した絶縁抵抗測定器を用いて、温度25℃の試料に250Vの直流電圧を印加し、1分後の絶縁抵抗値より求めた値である。
【0018】
本発明で使用する炭化水素系洗浄剤の成分である炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物としては、例えば、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカンなどの飽和炭化水素、ブチルシクロヘキサンなどの環式飽和炭化水素が挙げられ、単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
また、他の成分であるグリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、エチレングリコールペンチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、エチレングリコールエチルヘキシルエーテルなどのエチレングリコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのジエチレングリコール類、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールメチルプロピルエーテル、プロピレングリコールエチルプロピルエーテルなどのプロピレングリコール類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのジプロピレングリコール類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのトリエチレングリコール類、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノールなどが例示でき、特に、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メトキシブタノールは、洗浄性、乾燥性、帯電防止性、引火点、毒性等に優れ、好ましく使用できる。これらより選ばれる成分も単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
グリコールエーテル類としては、体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1010Ωcm以下のものが好ましく、それ以外の範囲の成分は、洗浄性、乾燥性、帯電防止性、引火点、毒性等のいずれかに問題があり、性能的に劣るものとなる。
【0021】
本発明で使用する炭化水素系洗浄剤は、炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物およびグリコールエーテル類から選ばれる2種以上の成分からなるものであり、炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物と体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1010Ωcm以下であるグリコールエーテル類との組合せ、または、体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1010Ωcm以下であるグリコールエーテル類同士の組合せ等が挙げられる。
【0022】
本発明で使用する洗浄剤は、沸点が約150℃以上、220℃以下であることが好ましく、汚れの成分である油分等の沸点と大きく離れているため、蒸留等により汚れ成分との分離が容易で、組成変化もほとんど起こらないため、蒸留再生しながら繰り返し使用することが可能である。また、引火点が40℃以上であり、貯蔵などの通常の取り扱いの際も安全性が高い。
【0023】
炭素数9以下の飽和炭化水素化合物は、沸点が低いために、被洗浄物を乾燥した際に排出される洗浄剤ガスの回収率が悪い。さらに、引火点が低いため、貯蔵などの通常の取り扱いの際にも特別な注意を要する。炭素数13以上の飽和炭化水素化合物は、沸点が高いために、真空洗浄装置で乾燥することが困難で、汚れとの沸点差も小さくなるために、蒸留回収効率が著しく悪化する。
【0024】
本発明で使用される洗浄剤は、不揮発成分を0.05重量%以上含まない。したがって、洗浄後にそのまま乾燥しても被洗浄物表面にシミなどが発生することもなく、高い清浄度で洗浄することができる。さらに、蒸留回収してもその性能は維持されており、繰り返し使用することができる。また、0.05重量%未満であれば、界面活性剤や帯電防止剤、酸化防止剤などの不揮発成分を併用することもできる。
【0025】
本発明の洗浄方法は、密閉し減圧された槽内で引火点以上に加熱された洗浄剤(洗浄剤蒸気を含む)と被洗浄物を接触させて汚れを除去した後、さらに減圧度を高めて洗浄剤を蒸発させ被洗浄物を乾燥する洗浄方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、洗浄乾燥槽に被洗浄物を入れ、密閉して真空ポンプで減圧した後、減圧した洗浄剤タンクより加熱した洗浄剤を受け入れて被洗浄物を浸漬して洗浄し、洗浄後に洗浄剤を洗浄剤タンクに戻し、洗浄乾燥槽の減圧度をさらに高めて洗浄剤を蒸発させて乾燥する方法が挙げられる。このような方法においては、洗浄剤タンクを複数設け、洗浄剤を入れ替えながら洗浄を行うこともできる。
【0026】
また、洗浄乾燥槽をゲート弁等で洗浄室と乾燥室に区切り、洗浄室を減圧して加熱した洗浄剤を貯留しておき、乾燥室に被洗浄物を入れ、乾燥室を密閉して減圧した後、ゲート弁等を開き、被洗浄物を洗浄室に搬送して洗浄剤に浸漬して洗浄を行い、洗浄後に、被洗浄物を乾燥室に搬送してゲート弁等を閉じ、乾燥室の減圧度をさらに高めて洗浄剤を蒸発させ乾燥する方法が挙げられる。
【0027】
上記の洗浄方法においては、超音波を照射する超音波洗浄、洗浄乾燥槽の圧力を変化させる変圧洗浄、被洗浄物を揺動させる揺動洗浄、被洗浄物を回転させる回転洗浄、被洗浄物に洗浄剤の噴流をあてて洗浄する噴流洗浄などを併用して洗浄効果を高めることもできる。
【0028】
さらに、洗浄乾燥槽に被洗浄物を入れ、密閉して減圧し、減圧した洗浄剤タンクの加熱した洗浄剤を蒸気発生機により蒸気化して導入し、被洗浄物を洗浄した後、被洗浄物などに凝縮した洗浄剤を洗浄剤タンクに戻し、その後に洗浄乾燥室の減圧度をさらに高めて洗浄剤を蒸発させ乾燥する方法(以下、蒸気洗浄という。)が挙げられる。このような洗浄方法でも、洗浄乾燥槽の圧力を変化させる変圧洗浄、被洗浄物を揺動させる揺動洗浄、被洗浄物を回転させる回転洗浄などを併用して洗浄効果を高めることもできる。
【0029】
これらの洗浄方法は、前洗浄として大気圧下における常圧洗浄を併用することもできる。
【0030】
また、蒸留回収機を設けて、洗浄剤を精製しながら洗浄を行うことが好ましい。蒸留回収機は、蒸気発生機と兼ねることもできる。
【0031】
本発明の洗浄方法では、窒素発生機などを設け、洗浄装置系内の酸素濃度を減じて使用すると、好ましい。その際の酸素濃度は12容量%以下である。酸素濃度が12容量%以下の場合、洗浄剤の着火が起こりにくく、より好ましく使用できる。
【0032】
本発明で使用する洗浄剤は、引火点が約40〜約80℃の範囲にあり、真空下における浸漬洗浄の場合には、引火点より約10〜20℃高い50〜100℃に加熱して使用し、真空下での蒸気洗浄の場合には、洗浄剤の沸点により異なるが、通常50〜130℃に加熱して使用する。洗浄剤温度が低いと、洗浄後に乾燥することが困難となる。また、洗浄剤の温度が高すぎると、洗浄剤の劣化が速くなり好ましくない。本発明に使用する洗浄剤は、それらの温度に加熱しても分解等の変質がなく、安定して繰り返し使用することができる。
【0033】
本発明においては、洗浄槽の圧力が200mmHg以下、好ましくは100mmHg以下で洗浄を行うのが望ましい。200mmHgを超えると、洗浄剤および洗浄剤温度によってはガス濃度が燃焼範囲に入る場合があり危険である。100mHg以下では着火したとしても燃焼が継続しにくくなり、より安全に使用することができる。
【0034】
本発明の洗浄方法は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの帯電性材料を含む被洗浄物や、帯電性材料を使用した洗浄籠や洗浄治具を用いて被洗浄物を洗浄する際に、特に有効である。
【発明の効果】
【0035】
本発明の洗浄方法によれば、密閉し減圧された洗浄槽内で被洗浄物を洗浄剤(洗浄剤蒸気を含む)で洗浄して汚れを除去した後、さらに減圧して付着した洗浄剤を蒸発させて被洗浄物を乾燥することにより、洗浄剤および、帯電性の被洗浄物や洗浄治具が帯電せず、洗浄剤を蒸留回収して繰り返し使用しながら効率的かつ安全に洗浄することができる。
【実施例】
【0036】
実施例1〜13、比較例1〜9
<体積抵抗率試験>
洗浄剤の体積抵抗率は、JIS C 2320に準拠した絶縁抵抗測定器を用いて、温度25℃の試料に250Vの直流電圧を印加し、1分後の絶縁抵抗値より体積抵抗率を求めた。
【0037】
絶縁抵抗測定器SM−8200(東亜電波工業株式会社製)
液体試料用電極SME−8330(東亜電波工業株式会社製)
<浸漬洗浄試験>
被洗浄物(ボルト)に汚れを付着させ、付着した汚れの重量を測定後、温度を50℃に保った洗浄剤100mLに静かに浸漬して洗浄を行ない、1分後に洗浄剤より引き上げて、ボルトに残存する汚れ量を測定した。洗浄前の汚れ量と試験後の汚れ量から除去率を算出し、下記評価基準で洗浄性の評価を行った。
【0038】
除去率=(1−(洗浄後の汚れ量/洗浄前の汚れ量))×100(%)
被洗浄物:ボルト(外径18mm×長さ70mm)
汚れ :ユニカットGH35(新日本石油株式会社製 切削油)
洗浄性の評価 ◎:汚れの除去率90%以上
○:汚れの除去率70%以上〜90%未満
△:汚れの除去率50%以上〜70%未満
×:汚れの除去率50%未満
実施例11と12の洗浄剤組成物は、実施例1と4に記載の洗浄剤組成物をそれぞれエバポレーターを使用して下記条件で蒸留回収したものである。
【0039】
蒸留回収条件 圧力:50mmHg、回収率:95重量%
<洗浄剤の帯電性試験、樹脂の帯電性試験>
真空洗浄装置の洗浄槽に70Lの洗浄剤を張り込み、洗浄剤循環ポンプ、および被洗浄物の搬送機を起動した。搬送機には塩化ビニル樹脂トレーを取り付け、洗浄剤中への浸漬と取り出しを10秒に1回繰り返した。10分後に装置を停止して、洗浄剤表面の電位と塩化ビニル樹脂トレー表面の電位を測定した。なお、洗浄前の塩化ビニル樹脂トレーの表面電位は50V未満である。
【0040】
真空洗浄装置:VACCY3040D(株式会社クリンビー製)
電圧計:デジタル低電位測定器 KSD−0202(春日電機株式会社製)
帯電性の評価 ○:表面電位(絶対値)0V以上、50V未満
△:表面電位(絶対値)50V以上、500V未満
×:表面電位(絶対値)500V以上
これらの試験結果を表1に示す。本発明の洗浄剤組成物は、樹脂への帯電もなく、優れた洗浄性を示した。
【0041】
【表1】

実施例14〜19、比較例10
<真空洗浄試験>
被洗浄物(ボルト)に汚れを付着させ、付着した汚れの重量を測定後、塩化ビニル樹脂トレーに載せて、蒸留回収機付き真空洗浄装置で洗浄を行った。洗浄、乾燥後に、浸漬洗浄試験と同様に洗浄性を評価し、樹脂の帯電性試験と同様に塩化ビニル樹脂トレーの表面電位を測定して帯電性を評価した。
【0042】
被洗浄物:ボルト(外径18mm×長さ70mm)
汚れ :ユニカットGH35(新日本石油株式会社製 切削油)
真空洗浄装置:VACCY3040D(株式会社クリンビー製)
浄剤温度:70℃
洗浄乾燥槽圧力:100mmHg
洗浄時間:1分
乾燥時間:5分
これらの試験結果を表2に示す。本発明の洗浄方法によれば、樹脂への帯電もなく、高い清浄度で洗浄することができた。
【0043】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物およびグリコールエーテル類から選ばれる2種以上の成分からなり、その体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1013Ωcm以下である帯電防止性に優れた炭化水素系洗浄剤を用いて、50〜130℃の温度範囲、200mmHg以下の洗浄槽圧力下で被洗浄物を洗浄することを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄方法において、被洗浄物が樹脂製部品であることを特徴とする洗浄方法。
【請求項3】
炭素数10〜12の飽和炭化水素化合物およびグリコールエーテル類から選ばれる2種以上の成分からなり、その体積抵抗率が1×10Ωcm以上、1×1013Ωcm以下であることを特徴とする帯電防止性に優れた炭化水素系洗浄剤。

【公開番号】特開2008−49235(P2008−49235A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225847(P2006−225847)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】