説明

炭化珪素及び炭化チタン含有不定形耐火物

【課題】炭化珪素を含有する不定形耐火物の欠点である酸化に伴う耐食性の低下を抑制し、溶銑との接触により粘性の高い皮膜を形成することをもって長寿命な耐火材料を提供する。
【解決手段】耐火組成物100質量%に対して、耐火性微粉として炭化珪素微粉を2〜35質量%及び炭化チタン微粉を2〜25質量%含有し、かつ炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量が10質量%以上である不定形耐火物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として高炉樋、溶銑鍋、混銑車等の溶銑容器あるいは保温カバーの内張りに使用する不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑用容器や保温カバー、例えば高炉樋や樋カバー等の内張り用不定形耐火物は出銑時に高温に曝され、熱的及び構造的スポーリングを受けるとともに、スラグや溶銑等の飛散による侵食や磨耗を受ける。そのため、耐食性及び耐スポーリング性に優れるアルミナ−炭化珪素質やスピネル−炭化珪素質といった炭化珪素(SiC)含有不定形耐火物が使用されている。炭化珪素は耐火性が優れ、スラグに濡れ難い等の特性を有するため耐火物施工体へのスラグの浸透や溶損が起こり難く、さらに容積安定性が高い等の特徴を有しているので、耐火物に適した材料であり、広く用いられている。
【0003】
この炭化珪素含有耐火物の耐用性に及ぼす大きな原因の一つに炭化珪素の酸化が挙げられている。すなわち、高炉樋や樋カバー等の溶銑容器は、大気に曝される部位と溶銑や溶融スラグに曝される部位とが存在しており、酸化を受けやすい。そして、この炭化珪素がO2ガスやCOガスと反応して酸化すると、SiO2を生成し、低融点化及び炭化珪素減によって耐食性が低下する。さらに、耐火物内部は酸素と炭素とが共存するためCOガス雰囲気となっており、COガスによる炭化珪素の酸化(次式参照)が継続して進行することが知られている。
SiC+2CO→SiO2+3C
この反応は徐々に進行し、例えば長期間使用後の樋材を分析すると、炭化珪素含有量は初期添加量の4/5〜2/3ほどに減少する場合があり、しかも低融点のSiO2の生成を伴うため、使用初期に比べて耐火物の耐食性が著しく低下する。
【0004】
このように炭化珪素の酸化は耐火物施工体の耐用性に大きく影響し、かつ施工体の補修頻度を左右するので、経済的な観点からも炭化珪素の酸化を抑制することは極めて重要な課題となっている。そこで、炭化珪素の酸化抑制法が検討され、例えば特開平3-164479号公報(特許文献1)には、低気孔率で表面積の小さい炭化珪素骨材を用いることにより、これまで問題のあった炭化珪素質材料の各種物性、耐食性及び耐酸化性を大幅に向上させることを可能とした技術が記載されている。また、特開2004-137122号公報(特許文献2)には、耐火組成物の微粉部分に特別な粒度構成と混合比率を有するアルミナ微粉と炭化珪素微粉からなる混合微粉及びシリカ微粉を使用することによって、極めて低水量で良好な流動性を示し、施工体組織がより緻密になって炭化珪素の酸化が抑制される結果、耐食性が非常に優れ、割れや剥離の少ない施工体を形成できることが記載されている。しかし、いずれの方法も炭化珪素の酸化による耐食性低下を充分に抑制できていない。
【0005】
一方、特開2004-59390号公報(特許文献3)には、MgO・Al2O3系スピネル:30〜80質量%、アルミナ:5〜55質量%、炭素:1〜15質量%、B4C、ZrB2、MgB2から選ばれる一種又は二種以上のホウ素化合物:1〜15質量%を含み、且つ実質的に炭化珪素を含まない耐火原料組成100質量%に対し、結合剤及び分散剤を添加してなる高炉樋用キャスタブル耐火物が記載されている(請求項1)。また、MgO・Al2O3系スピネル:30〜80質量%、アルミナ:5〜55質量%、炭素:1〜15質量%、TiC:1〜15質量%を含み、且つ実質的に炭化珪素を含まない耐火原料組成100質量%に対し、結合剤及び分散剤を添加してなる高炉樋用キャスタブル耐火物が記載されている(請求項2)。上記特許文献は、酸化してSiOを生成する炭化珪素を除き、それに代えてホウ素化合物やTiCを含ませたものだが、TiCはO2ガスに対して酸化されやすいため、すぐに酸化物(TiO2)に変わってしまい、スラグの浸透防止や耐食性などの炭化物特有の効果が生かされていない。
【0006】
特開2009-13036号公報(特許文献4)には、耐火組成物100質量%に対して、耐火性微粉として炭化珪素微粉を5〜35質量%含有し、かつチタニア微粉及び/又はクロミア微粉を総量で3〜20質量%含有することを特徴とする不定形耐火物が記載されている。上記特許文献は、炭化珪素を含有する不定形耐火物に、COガス雰囲気下で安定な炭化物を生成する酸化物を加えることにより、炭化珪素の酸化による炭化物の減少を別種の炭化物生成で補うものだが、炭化珪素の酸化そのものは抑制されておらず、この酸化の進行に伴うSiO2の生成による耐食性の低下までは抑制できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3-164479号公報
【特許文献2】特開2004-137122号公報
【特許文献3】特開2004-59390号公報
【特許文献4】特開2009-13036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、炭化珪素を含有する不定形耐火物の欠点である酸化に伴う耐食性の低下を抑制し、溶銑との接触により粘性の高い皮膜を形成することをもって長寿命な耐火材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、炭化珪素微粉と炭化チタン微粉とを特定の配合割合で併用すると、高炉樋や樋カバー等の酸化の影響を受けやすい部位に適用しても、炭化珪素及び炭化チタン双方の短所を補完しあい、双方の長所が活かされることによって優れた耐食性や耐酸化性を有し、かつ長期間安定して使用でき、長寿命の不定形耐火物が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の不定形耐火物は、耐火組成物100質量%に対して、耐火性微粉として炭化珪素微粉を2〜35質量%及び炭化チタン微粉を2〜25質量%含有し、かつ炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量が10質量%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不定形耐火物によれば、炭化珪素微粉と炭化チタン微粉とを特定の割合で併用して含有させることにより、各々単独で含有させた場合に比べて耐食性及び耐酸化性が格段に優れ、かつ長期間使用時の劣化が少ない施工体を形成することができ、溶銑容器内張り材として用いられている従来の炭化珪素含有不定形耐火物よりも優れた不定形耐火物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る不定形耐火物は、耐火組成物100質量%に対して、耐火性微粉として炭化珪素微粉を2〜35質量%及び炭化チタン微粉を2〜25質量%含有し、かつ炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量が10質量%以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の不定形耐火物を、高炉樋や樋カバーに用いる流し込み耐火物の場合を例にとって説明する。ここで、流し込み耐火物は、成分として耐火性骨材、耐火性微粉及び硬化材を含む耐火組成物、並びに分散剤、各種添加剤等の成分で構成される。各成分の詳細は以下の通りである。
【0014】
(A)耐火性骨材
本発明に使用する耐火性骨材は、アルミナ、スピネル、ムライト、ジルコニア等の電融品又は焼結品から選ばれた少なくとも1種であり、必要に応じて2種以上の耐火性骨材を併用する。
【0015】
(B)耐火性微粉
本発明に使用する必須の耐火性微粉は、炭化珪素微粉及び炭化チタン微粉である。
炭化珪素微粉はSiC含有量が90質量%以上のものが好ましい。高耐食性という観点から、炭化珪素微粉中のSiC含有量は94質量%以上で、金属鉄含有量は0.5質量%以下であるのがより好ましい。特に金属鉄は炭化珪素の酸化を助長するため、できるだけ少ない方が良い。また、炭化珪素微粉の粒度は、0.3 mm程度以下のものが好ましい。
【0016】
耐火性微粉として含有する炭化珪素微粉の量は2質量%以上、かつ35質量%以下である。2質量%以上であれば、炭化珪素微粉自身の作用によってスラグ浸透防止効果や耐食性が得られるのみならず、併用する炭化チタン微粉の安定性も得られる。すなわち、炭化珪素微粉は、酸化して形成されるガラス皮膜によって耐火物稼動面からのOガスの侵入を抑制して耐火物内部をCOガス雰囲気に保つ作用を有する。一方、炭化チタン微粉は、高温COガス雰囲気下では安定だが、Oガスに対しては酸化しやすいため炭化物としての効果であるスラグ浸透防止や耐食性向上などが充分に発揮できなくなるという性質を有する。しかし、炭化珪素微粉が共存すると、炭化チタン微粉は安定して存在でき、充分に炭化物としての効果が発揮できるようになる。この作用機構については後に詳述する。
【0017】
炭化珪素微粉は酸化によってSiOを生成するので耐火物の低融点化及び低耐食性化を招きやすい。そのため、炭化珪素微粉の含有量は35質量%以下である。
【0018】
炭化チタン微粉は、TiC含有量が90質量%以上のものが好ましい。高耐食性という観点から、炭化チタン微粉中のTiC含有量は94質量%以上がより好ましい。また、炭化チタン微粉の粒度は、0.3 mm程度以下のものが好ましい。
【0019】
炭化チタンは高温下では窒素を固溶しやすい。そのため、炭化チタン微粉を含有した流し込み耐火物を用いて実機使用や侵食試験を行った後の耐火物には、空気中のN2ガスを取り込んだ炭窒化チタンに変化している場合がよくみられる。しかし、この窒素の固溶は耐食性や耐酸化性の優劣にはほとんど影響していない。
【0020】
耐火性微粉として含有する炭化チタン微粉の量は2質量%以上、かつ25質量%以下である。2質量%以上であれば優れたスラグ浸透防止効果や耐食性向上効果が得られる。また、炭化チタン微粉の含有量は多すぎると添加水量が増して、それに起因する耐火物組織の緩みが耐食性や強度の低下を惹起するので、25質量%以下で使用する。
【0021】
さらに、炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量は10質量%以上である。10質量%以上であれば耐食性及び耐酸化性に優れ、特に長期間使用時の酸化による劣化が少ない耐火物が得られる。
【0022】
中でも炭化珪素微粉を2〜15質量%及び炭化チタン微粉を6〜18質量%含有し、かつ炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量が12〜25質量%である不定形耐火物において、前記の効果が顕著に発揮される。
【0023】
(C)その他の耐火性微粉
その他の耐火性微粉としては、アルミナ、スピネル、ムライト、マグネシア、チタニア、ジルコニア等の電融品又は焼結品、シリカフューム、粘土、ジルコン、窒化珪素、炭素類等を1種又は2種以上併用して使用することができる。なお炭素類微粉としては黒鉛粉、カーボンブラック、ピッチ類等が使用できる。
【0024】
(D)硬化材
流し込み耐火物の硬化材には一般にアルミナセメントが用いられる。使用するアルミナセメントは、通常不定形耐火物に用いるものであれば特に限定されないが、中でもJISの1種、2種及び3種のクラスが適している。アルミナセメントの配合量は、流し込み不定形耐火物全体を100質量%として、0.5〜8質量%とするのが好ましく、1〜6質量%とするのがより好ましい。アルミナセメントの配合量が0.5質量%以上であれば充分な強度の耐火物が得られ、また8質量%以下であれば耐食性が優れる耐火物が得られる。ただし、湿式吹付け施工に用いられる流し込み耐火物では、アルミナセメントを使用せず、急結剤のみで硬化させてもよい。
【0025】
(E)添加剤
(a)分散剤
流し込み耐火物においては、分散剤の添加が有効である。分散剤は、耐火性微粉に作用して減水効果をもたらす。分散剤としては、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ等の縮合リン酸塩、β−ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アミノスルホン酸及びその塩、リグニンスルホン酸及びその塩、ポリアクリル酸及びその塩、ポリカルボン酸及びその塩、オキシカルボン酸及びその塩等が好ましく、これらを1種又は2種以上配合して使用することができる。分散剤の添加量は、耐火組成物を100質量%として、0.01〜1質量%(外割)であるのが好ましい。分散剤の添加量が0.01〜1質量%(外割)であれば耐火性微粉に対する充分な分散効果が得られる。
【0026】
(b)その他の添加剤
本発明の不定形耐火物に配合できるその他の添加物としては、硼酸、リン酸、オキシカルボン酸、炭酸アルカリ塩等の硬化時間調整剤、無機又は金属等の繊維、金属アルミニウム、オキシカルボン酸塩、有機繊維等の爆裂防止材等が挙げられる。さらに金属シリコン等の微粉状焼結助剤、炭化ホウ素等の酸化防止剤も使用できる。
【0027】
本発明者らは、炭化珪素微粉と炭化チタン微粉とを特定の割合で併用すると、耐食性及び耐酸化性が著しく向上し、特に長期間使用時の酸化による劣化が少ない耐火物が得られることを見出したが、この作用機構については以下のように推察される。ただし、以下の推察は本発明を限定するものではない。
【0028】
樋や樋カバー等に使用される不定形耐火物は大気の影響を受けている。そのため耐火物の耐酸化性は耐食性に重大な影響を及ぼす。
【0029】
この樋材や樋カバー材のような炭化珪素や炭素類を含有する耐火物の内部は、稼動中はCOガス雰囲気となっている。すなわち、炭素と酸素とが共存する場合、炭素の酸化は400〜800℃から始まり、CO又はCOとなる。CO/CO2比は温度が高いほど大きくなり、1100℃以上ではCOのみとなる(実質はNガスが存在するためCOガス分圧は約0.33 atmである)。ここで、稼動面の高温側では炭化珪素の酸化によって生じたSiO2によってガラス皮膜が形成される。この皮膜によって、稼動面からのO2ガスの耐火物内部への供給が大幅に抑制されるため、耐火物内部はCOガス雰囲気が保たれる。
【0030】
このCOガス雰囲気下での炭化物の酸化反応を式で示すと、
炭化珪素の場合は、SiC+2CO→SiO2+3C
炭化チタンの場合は、TiC+2CO→TiO2+3C
で示されるが、この反応が右へ進む(酸化反応が起こる)のは炭化珪素の場合が1518℃以下、炭化チタンの場合が1288℃以下である。(JANAF熱化学表の標準生成自由エネルギーデータから求めた)
【0031】
各種窯炉の内張り耐火物は、稼動中耐火物内部に稼動面側温度を最高温度とし背面側を最低温度とする温度勾配が生じる。高炉樋の内張り耐火物の場合でみると、稼動面温度が1500〜1550℃程度、母材(ワーク材のこと。この背面側にはバック材が張られている。)の背面側温度が1200〜1300℃程度となっている。従って、COガス雰囲気下で稼動中の高炉樋耐火物内部では、炭化珪素は常に酸化が進行する状態にあることになる。これに対して、稼動面温度〜1288℃以上の温度域では炭化チタンの酸化は起こらない。また、1288℃以下の温度域でも、酸化反応が進行するときのCOガス平衡分圧は炭化珪素の方が低いため、炭化珪素と炭化チタンとが共存する場合は、炭化珪素の酸化が先に進行し、炭化珪素が存在する間、炭化チタンは酸化されず安定に存在することになる。
【0032】
従って、炭化チタン微粉が含有せず、炭化珪素微粉を単独で含有する場合は、ガラス皮膜層の内部でCOガス雰囲気下での炭化珪素の継続酸化が進行し、炭化物の減少及びSiOの増加によって、炭化物が有するスラグ浸透抑制及び耐食性向上等の効果が充分に発揮できなくなる。これに対して、炭化チタン微粉を併用した場合は炭化珪素が減少したとしても、安定な炭化チタンが常に存在するため、耐スラグ浸透性や耐食性の低下が抑制される。さらには、溶銑との接触により粘性の高い皮膜を形成するためか、炭化珪素の酸化そのものの進行が抑制される効果も得られている。
【0033】
一方、炭化珪素微粉を含有せず、炭化チタン微粉を単独で含有する場合は、炭化珪素の酸化の際に生じるガラス皮膜の形成がないため、O2ガスの耐火物内部への供給が継続して起こる。炭化チタンはO2ガスに対して酸化されやすいため、すぐに酸化物(TiO2)に変わってしまい、耐スラグ浸透性や耐食性が著しく損なわれてしまう。
【0034】
炭化珪素を含有する不定形耐火物に、高温COガス雰囲気下で安定な炭化物を生成するチタニア(TiO2)微粉を含有させることによっても同様の効果が期待されるが、後述するようにSiC+TiO2→TiC+SiO2の反応が継続的に進行するため、長時間高温下に曝されると、炭化物の合計量は維持されるが、SiO2の生成量が増大することによる耐食性の低下が大きくなる。これに対して、炭化珪素と炭化チタンとが共存する場合は、溶銑との接触により粘性の高い皮膜を形成するためか、あるいはSiO2皮膜などの高粘性化によるためか、酸素の耐火物内部への供給を遮断する効果によってCOガス分圧がより低くなり、炭化珪素の酸化の進行そのものも著しく抑制されると思われる。
【0035】
このように炭化珪素微粉と炭化チタン微粉とを特定の割合で併用すると、酸化の影響を受けやすい部位に適用しても、炭化珪素及び炭化チタン双方の短所を補完しあい、双方の長所が活かされることによって、耐スラグ浸透性、スラグや溶銑に対する耐食性、耐酸化性の向上、さらには長期間使用時の耐スラグ浸透性やスラグや溶銑に対する耐食性の劣化抑制に顕著な効果をもたらしたものと考えられる。
【実施例】
【0036】
本発明を、流し込み材を例にとって以下にさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1〜13及び比較例1〜9
(1)流し込み材の調製
粒径0.3 mm以下の炭化珪素微粉、粒径0.074 mm以下の炭化珪素微粉、メジアン径1μmの炭化珪素微粉、メジアン径1μmの炭化チタン微粉、耐火性骨材、粒径0.074 mm以下のアルミナ微粉、メジアン径1μmのアルミナ微粉、カーボンブラック、アルミナセメント及び分散剤を準備し、表1(a)〜表1(c)に示す処方で配合し、流し込み樋材を調製した。なお、メジアン径は株式会社セイシン企業製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した体積基準値である。
【0038】
得られた各流し込み樋材を表1(a)〜表1(c)に示す量の水で混練し、所定の形枠に流し込み成形し、常温で24時間養生した後、110℃で24時間乾燥した。得られた成形体について、下記の方法により酸化試験及び侵食試験を行なった。結果を表1(a)〜表1(c)に示す。各試験の試験方法について以下に説明する。
【0039】
(a)酸化試験
4 cm×4 cm×16 cmの試験片を作製し、各試験片を大気中で室温から1450℃まで5℃/分で昇温した後3時間保持し、そのまま常温まで冷却した。焼成後の試片について酸化劣化の状態を観察し、亀裂がなかったものを○、亀裂があったものを△、割れや崩壊があったものを×として評価した。
【0040】
(b)侵食試験
誘導炉の炉壁に各試験片をセットした後、炉内で銑鉄を溶融し、その上に高炉スラグを浮かべて侵食試験を行った。侵食試験温度及び時間は1550〜1600℃×12時間である。侵食試験の前後の各試験片の寸法を測定し、試験前後の寸法差を時間当りの侵食量に換算した。
【0041】
なお表1(a)〜表1(c)中に示した誘導炉侵食試験結果は、いずれも110℃で24時間乾燥後の試験片をそのまま用いての結果である。
【0042】
【表1(a)】

【0043】
【表1(b)】

【0044】
【表1(c)】

【0045】
実施例1〜13は、炭化珪素微粉及び炭化チタン微粉を、本発明に規定する添加量で含有しているため、いずれも耐食性及び耐酸化性が優れていた。
【0046】
比較例1〜2は、炭化チタン微粉のみ含有し、炭化珪素微粉を含まない例である。また比較例3は炭化珪素微粉の含有量が1質量%と少ない例である。これらは大気中での加熱酸化試験においてO2ガスによる直接的な酸化が進み、崩壊もしくは亀裂が発生していた。さらに、侵食試験において稼動面に脱炭層がみられ、そのためか実施例1〜3及び5〜7と比較して耐食性が劣っていた。
【0047】
比較例4は炭化チタン微粉を26質量%と多く含有する例である。添加水量が多くなり、侵食試験後の試験片の組織の緩みが生じるためか、耐食性の向上効果が小さかった。
【0048】
比較例5〜7は、炭化珪素微粉は15〜26.5質量%含有しているが、炭化チタン微粉を含まないか、含有量が1質量%と少ない例である。これらは大気中での加熱酸化試験における耐酸化性は良好だが、同程度の量の炭化珪素微粉を含有する実施例8〜10と比べて耐食性が劣っていた。
【0049】
比較例8は、炭化珪素微粉は2質量%、炭化チタン微粉は6質量%含有するが、炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量が8質量%と少ない例であり、実施例と比較して耐食性が劣っていた。
【0050】
比較例9は炭化珪素微粉が37質量%と多い例であり、炭化珪素微粉が試験時に酸化してSiO2を生じる量が増すことと、炭化珪素微粉の酸化による減少の影響が大きくなるためか、実施例と比較して耐食性が劣っていた。
【0051】
さらに、実施例8〜10、比較例5、及び比較例10(炭化チタン微粉に代えてチタニア微粉を添加した試料)について、COガス雰囲気下での酸化劣化の影響を調べるため、予め侵食試験用試験片を黒鉛粉中に埋設して1300℃にて48hr及び168hr焼成処理したものも侵食試験に供した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
いずれも、予め黒鉛粉に埋設して焼成すると、炭化珪素微粉は焼成時間が長くなるにつれて酸化が進み、この時生成するSiOがアルミナセメントやアルミナ微粉と化合して低融点化合物アノーサイト(CaAl2Si2O8)を生成していた。比較例5は、さらに炭化珪素微粉の減少の影響も加わって、スラグ浸透防止効果や耐食性の低下が大きかった。これに対して炭化珪素微粉と共に炭化チタン微粉を含有する実施例8〜10は、長時間焼成処理しても、炭化珪素の酸化に起因するアノーサイトの生成量が少なく、耐食性の低下が非常に軽微であった。なお試験後試片を調べると、炭化チタン微粉はNガスの固溶は認められるが、炭化チタンの酸化物であるTiO2又はその化合物は全く生成しておらず、スラグ浸透防止効果や耐食性向上効果は保持し続けているものと思われる。
【0054】
一方、比較例10は、炭化チタンに代えて、高温COガス雰囲気下において炭窒化チタンを生成するチタニア微粉を添加した例であるが、加熱処理時間が長くなるにつれSiC+TiO2→TiC(TICN)+SiO2の反応の進行に伴うSiO2生成量増大の影響が顕著に現れ、耐食性が大幅に低下した。
【0055】
なお、これまで流し込み耐火物を例にとって説明したが、本発明の不定形耐火物はスタンプ材、吹付け材等いずれの態様にも適用することができる。ただし、硬化材の種類や粒度構成等は、公知技術を適用することによって、態様に応じた調整が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の不定形耐火物は、例えば高炉樋、溶銑鍋、混銑車等の溶銑容器あるいは保温カバーの内張りに利用できる。特に、高炉樋や樋カバー等の溶銑容器は、大気に曝される部位と溶銑や溶融スラグに曝される部位とが存在し、酸化の影響を受けやすいので、本発明の不定形耐火物を適用して好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火組成物100質量%に対して、耐火性微粉として炭化珪素微粉を2〜35質量%及び炭化チタン微粉を2〜25質量%含有し、かつ炭化珪素微粉と炭化チタン微粉との合量が10質量%以上であることを特徴とする不定形耐火物。

【公開番号】特開2011−16698(P2011−16698A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163449(P2009−163449)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000205111)大光炉材株式会社 (8)
【Fターム(参考)】