説明

炭水化物供給原料を保存するための安定化二酸化塩素

汚染微生物に対して炭水化物供給原料を保存する方法が、炭水化物供給原料を安定化二酸化塩素と少なくとも2.6のpHで接触させる段階を含む。炭水化物供給原料は、好ましくは天然起源の炭水化物、特には還元性末端基を有する炭水化物を含む。方法は、エタノール発酵におけるなどのバイオ精製プロセスで使用される供給原料を処理するために特に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その溶液または懸濁液が燃料エタノール生産用の供給原料である方法を含む、貯蔵または輸送中の炭水化物供給原料における微生物増殖を実質的に予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な農産物供給原料が、再生可能燃料ならびにより高価な化学品、材料、および医薬品に変換され得る統合的バイオ精製所で実質的な成長があった。バイオ精製所は、石油化学精製所と同様の考え方で稼動する。バイオ精製所用の受入供給原料には、従来の農産物、例えば、トウモロコシ、ミロ、コムギ、オオムギ、キビ・アワ(millet)、わら、ソルガム、サトウキビ、甜菜、糖蜜、乳漿、果実、およびジャガイモ、ならびにまた廃棄物流、例えば、木廃棄物、バガス、紙廃棄物、および都市固形廃棄物として現在分類されている他の産物が含まれる。このような供給原料の魅力は、その炭水化物含有量であり、これはバイオ精製所において反応物質として利用され得る。バイオ精製所からの生産物は、例えば、サトウキビから生産される砂糖もしくは甜菜から生産される糖蜜など人間による消費、または、例えば、トウモロコシから生産されるエタノールおよびコハク酸など燃料としてのもしくは化学合成における使用を目的とし得る。
【0003】
バイオ精製の特定の利用は、燃料エタノールの生産である。石油埋蔵量が枯渇し、より高価になるにつれて、代替物、好ましくは持続可能なエネルギー源に対する必要性が増している。エタノールは、種々の用途にとって石油系燃料の部分的または完全な代替品に対する選択肢である。エタノールを動力源とした自動車は、現実である。エタノールは、再生可能な燃料源として従来のガソリンの使用を凌ぐ利点を有する。
【0004】
現在、工業用エタノール(例えば、燃料)および飲料用エタノールの両方は、接種酵母により糖がエタノールおよび二酸化炭素に変換される発酵プロセスによって農産物(天然)供給原料から大規模に生産されている。潜在的に、ほとんどすべての植物を含む、任意のデンプンまたはセルロース物質を含む多くの供給原料は、デンプンまたはセルロースのいずれも糖への前駆体であり得るので、発酵させるための糖を供給するために使用され得る。燃料エタノールの生産に特に適した一般供給原料の一部には、トウモロコシ、ミロ、ソルガム、サトウキビ、甜菜および糖蜜が含まれる。
【0005】
バイオ製油所が直面している重大な問題は、貯蔵および輸送中の供給原料の腐敗である。未加工の農産物物質として、これらの供給原料は典型的には、バイオ精製プロセスに入る前に供給原料を劣化(腐敗)させ得る高レベルの望ましくない微生物、例えば、細菌、菌・カビ類、および望ましくない酵母を含有する。これらの微生物は、供給原料の元々の供給源の一部として、またはトウモロコシ供給原料用の予備調製工程から取り込まれ得る。望ましくない微生物は、その増殖を促進する微生物によって代謝される糖に供給原料を変換する酵素を含み得る。したがって、価値ある供給原料は、微生物によって消費されるにつれて消失する。これらの微生物の増殖は、入ってくる供給原料の価値を減少させる。特定の例では、糖蜜およびサトウキビまたは甜菜の汁の貯蔵に関する重大な問題は、ロイコノストック属(Leuconostoc)またはラクトバチラス属(Lactobacillus)などの腐敗微生物の作用による糖含有量の低下である。
【0006】
殺生物剤は一般に、望ましくない微生物を含有する原料を処理するために適しているが、それらは非特異的であり、標的および非標的微生物を攻撃する。殺生物剤は、それらが接種酵母を攻撃し得るので、発酵系ではあまりその役割を果たさない。二酸化塩素は、微生物感染を処置するために発酵系で使用されてきた殺生物剤である。二酸化塩素は、適当な二酸化塩素発生器から二酸化塩素ガスとして導入され得る。代替として、安定化二酸化塩素(SCD)は、酸との接触により活性化させ得る。酸の存在下での微生物感染を予防するためのSCDの使用は、国際公開第2007/149450号パンフレットに開示されている。
【0007】
Zieglerは国際公開第2007/097874号パンフレットにおいて、二酸化塩素(ClO2)ガスを用いて発酵プロセス中の望ましくない微生物、例えば、細菌、汚染酵母またはキラー酵母を低減させる方法を開示している。このプロセスは、ClO2ガスを発生させるために必要な発生装置および反応物質を必要とする。発生ClO2は、光に曝露された場合または発酵プロセス中に存在するようないずれかの有機物質と接触した場合に分解するので、それが生成するときに使用されなければならない。Zieglerは、望ましい酵母を死滅させおよび/または必要な酵素を阻害する可能性のために、安定化二酸化塩素の使用を困難および不明確であるとして反対して教示する。
【0008】
安定化二酸化塩素は市販されている。安定化二酸化塩素は一般に、次亜塩素酸ナトリウムの緩衝溶液(例えば、アルカリ性pHに対して炭酸塩緩衝液を用いる)であるが、他の二酸化塩素の供給源も存在する。緩衝された次亜塩素酸ナトリウム溶液は、長期間安定である。緩衝された次亜塩素酸ナトリウム溶液は、化学的酸化(例えば、オゾンまたは塩素による)、電気化学的酸化、または酸性化(例えば、HClなどの強酸を用いる)などによって活性化される場合、二酸化塩素を発生し得る。例えば、オンライン:2000年12月4日、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technologyで公表された、Jerry J.KaczurおよびDavid W.Cawlfieldによる「Chlorine Oxygen Acids and Salts,Chlorous Acid,Chlorites and Chlorine Dioxide」を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一連のバイオ精製所プロセスにおける使用を目的とした供給原料中の微生物汚染のレベルを低減させる方法に対する必要性が依然として存在する。糖料作物およびセルロース供給原料を含む、炭水化物含有供給原料は、微生物からの腐敗を受けやすい。バイオ精製所プロセスには、燃料エタノールの製造、セルロース含有バイオマスの分解、糖生産(サトウキビおよび/または甜菜から)、サトウキビ精製、デンプン(特に、バレイショデンプンおよびトウモロコシデンプンなど)の処理が含まれる。貯蔵および輸送の間の供給原料(炭水化物溶液および懸濁液など)の劣化を予防する方法に対するさらなる必要性がある。
【0010】
貯蔵中および輸送中の炭水化物供給原料を安定化させる簡単で経済的な方法を有することが望ましい。不必要なおよび/または望ましくない薬剤、特にエタノールなどのバイオ精製所生産物の品質に悪影響を与える薬剤を供給原料中に導入しない方法を有することが望ましい。
【0011】
本発明はこれらの必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0012】
汚染物微生物に対して炭水化物供給原料を保存する方法は、炭水化物供給原料を安定化二酸化塩素と少なくとも2.6のpHで接触させる段階を含む、またはそれから本質的になる、もしくはそれからなる。供給原料中の炭水化物の濃度は、全供給原料重量に基づいて、少なくとも1重量%であり、好ましくは1重量%〜70重量%の範囲である。安定化二酸化塩素の量は、全供給原料重量に基づいて、利用可能な二酸化塩素として、10〜10000mg/kgである。炭水化物供給原料は、好ましくは天然起源の炭水化物を含む。驚くべきことに、この方法は、二酸化塩素を発生させるために添加された酸または酸化剤の不存在下で有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書での商標は、大文字で示される。
【0014】
本発明は、汚染微生物による劣化に対して炭水化物供給原料を保存する方法を含む。炭水化物供給原料は、水性媒体中の炭水化物溶液または懸濁液であり得る。本明細書で用いられる「水性媒体」という用語によって、媒体が、例えば、80%を超える水、好ましくは90%を超える水、より好ましくは95%を超える水などの、実質的に水であることが意味される。水性媒体は、99%を超える水であることができる。
【0015】
本方法は、炭水化物溶液または懸濁液を安定化二酸化塩素と、少なくとも2.6、好ましくは少なくとも3、好ましくは少なくともpH3.5、好ましくは少なくともpH4、好ましくは少なくともpH4.5、好ましくはpH9以下のpHで接触させる段階を含む、またはそれから本質的になる、もしくはそれからなる。炭水化物の濃度は、全供給原料の重量に基づいて、供給原料中少なくとも1%、好ましくは1〜70%であり、添加される安定化二酸化塩素は、全供給原料重量に基づいて、利用可能な二酸化塩素含有量として10〜10000mg/kgである。
【0016】
保存
炭水化物供給原料に対して本明細書で適用される「保存する」および「保存」という用語は、細菌などの汚染微生物による炭水化物の反応または消費の予防が意味される。保存により、少なくとも1ヶ月の期間にわたって、微生物代謝による反応または消費から生じるような、実質的な変化を受けない安定な炭水化物供給原料がもたらされる。変化の尺度の1つは、保存供給原料の微生物個体群である。適切に保存される場合、炭水化物供給原料は、1log10CFU/mlまたは1log10CFU/gを超える供給原料中の微生物個体群の増加を受けない。典型的には、微生物個体群は、液体供給原料についてlog10CFU/mlと、および固体/半固体供給原料についてlog10CFU/gと表される。log10CFU/gという表現は、液体供給原料についても使用され得る。
【0017】
変化の第2の尺度は保存供給原料のpHであり、0.5pH単位を超えて変化してはならない。pH測定は、微生物個体群の測定に比べて保存効果のより迅速な評価を与えるが、pH変化は、炭水化物供給原料の保存(すなわち、変化の欠如)を監視するためにすべての状況下で十分ではあり得ないことが当業者によって理解される。例えば、緩衝された1つまたは複数の供給原料または約pH6未満のpHの供給原料について、実質的な微生物汚染は、0.5pH単位だけpHが変化する前に起こり得る。
【0018】
変化の他の尺度を用いることができることが当業者によってさらに理解される。例えば、炭水化物供給原料の代謝由来の生産物などの望ましくない化合物の存在の検出は、変化を示し得る。検出方法には、分光測光法、クロマトグラフィー、および当業者に知られている他の方法が含まれる。さらに他の尺度には、比重または比粘度などの炭水化物供給原料に対する物理的変化を含み得る。
【0019】
本発明は、炭水化物供給原料を単位操作で保存する方法に関する。「単位操作」によって、炭水化物供給原料に関する任意の操作、特に、貯蔵、輸送、前処理および生産が意味される。「前処理」は、本明細書では、供給原料の使用直前に行われる任意の工程を意味する。供給原料の使用直前の前処理は、エタノールの生産用のバイオ精製所におけるなどの、1つの容器、例えば、貯蔵庫から第2の容器、例えば、発酵槽への供給原料の移送を含む。生産操作は、糖などの非発酵生成物である炭水化物供給原料の生産のためのプロセスを含む。保存により、供給原料中の微生物活動に伴う劣化が予防または遅延される。供給原料は、発酵もしくは同様のプロセスを介する最終生成物への変換、または最終生成物を生産するために使用される他のプロセス中への取り込みを介する最終生産物へのその後の変換のために使用される。
【0020】
炭水化物供給原料
本明細書で用いられる「炭水化物」は、単糖、二糖、オリゴ糖、または多糖である。本明細書で用いられる炭水化物は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、またはこれらの2種以上の混合物であり得る。単糖類、二糖類、オリゴ糖類、および多糖類の例は、当業者に公知である。炭水化物は、好ましくは天然起源の炭水化物である。天然起源の炭水化物は、還元性末端基を有していても、有していなくてもよい。このような炭水化物は、より容易に代謝され、したがって、微生物による劣化をより受けやすい。
【0021】
意図された用途に依存して、非単糖炭水化物を含む炭水化物供給原料は、非単糖炭水化物を発酵可能な糖へ変化させるための加水分解などの前処理を必要とし得る。例えば、炭水化物供給原料は、水中のトウモロコシデンプンからなり得る。トウモロコシデンプンは、一緒に連結されているグルコースの個々の単位からできている多糖である。トウモロコシデンプンは、多糖をより小さい(より短い)多糖類(デキストリン)およびグルコース(単糖)に、例えば、酵素を用いて、連続的に変換させるために前処理され得る。
【0022】
炭水化物供給原料は、マッシュ(mash)の形態であってもよい。本明細書で用いられる「マッシュ」という用語は、発酵可能な糖または発酵可能な糖の前駆体を含む組成物である。より一般的には、マッシュには、エタノールの生産で使用される、水中穀物または他の炭水化物の任意の混合物が含まれる。マッシュは、蒸解(cooking)および/または発酵可能な糖前駆体の糖化の前に行われる混合から、発酵の完了後に生じた組成物まで、エタノール発酵におけるいずれかの段階で使用される炭水化物含有組成物を意味し得る。マッシュは、Jacques,K.A.、Lyons,T.P.、Kelsall,D.R.、「The Alcohol Textbook」、2003年、426〜424頁、Nottingham University Press、英国でさらに定義されている。
【0023】
炭水化物供給原料は、発酵可能な糖の溶液または懸濁液であり得る。より具体的には、本明細書で用いられる発酵可能な糖は、本質的に糖、デンプンおよび/またはセルロースを含む任意の植物源から誘導される炭水化物の溶液または懸濁液である。すなわち、デンプンおよび/またはセルロースは、当技術分野で知られている方法によって、例えば、酵素を用いて、発酵可能な糖に変換され得る。発酵可能な糖は、任意の穀物系産物、例えば、トウモロコシ、木材チップ、麦かん、コーンストーバ、スイッチグラスの1種または複数から誘導され得る。発酵可能な糖は、代替として、ミロ、オオムギ、キビ・アワ、ソルガム、サトウキビ、甜菜、糖蜜、乳漿、ジャガイモ、藻類、海藻、および他の生物源から誘導され得る。植物源を発酵可能な糖に変換する処理は、当業者に公知である。好都合にも、発酵可能な糖は、液化デンプンを生成させる湿式ミルまたは乾湿ミル法を用いて、トウモロコシから誘導される。液化デンプンは、糖化が行われ、ここで、デンプンは、デンプンをグルコースに変換する酵素と接触し、したがって、発酵可能な糖を形成する。
【0024】
炭水化物供給原料は、最大100重量%の炭水化物を含み得る。一般に、炭水化物供給原料は、供給原料の全重量に基づいて、1%〜70%、好ましくは2〜40%の炭水化物を含む。供給原料中の炭水化物の量および組成は、意図された最終用途に依存して変わり得る。例えば、炭水化物溶液であり、湿式ミル法から得られるコーンスティープリカーは、16.5%の炭水化物を含み得る。湿式ミル法では、トウモロコシは、水に浸され(soaked or steeped)、次いで、種々の成分に分離される。コーンスティープリカーは、トウモロコシが長期間浸された(この間に、容易に発酵可能な可溶性成分は、トウモロコシ固形分からスティープ水中に抽出される)後に得られる水性液体である。湿式ミル法からのデンプン成分は、最大40重量%の炭水化物を含み得る。
【0025】
炭水化物供給原料は、溶液および/または懸濁液に添加物として一般的に機能する他の成分を含み得る。例えば、炭水化物供給原料は、酵素、界面活性剤、分散剤、消泡性組成物、ミネラル、微量元素、およびこれらの2種以上の組合せを含み得る。添加物として作用するこれらの成分および他の成分は、当業者に周知である。炭水化物供給原料は、全供給原料重量に基づいて、最大70重量%の他の成分を含んでもよく、好ましくは炭水化物供給原料は、2〜40重量%、より好ましくは2〜35重量%の1種または複数の成分を含む。
【0026】
微生物
本発明の文脈における微生物は、望ましい微生物および望ましくない微生物の、2つの分類にある。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などの望ましい微生物は、グルコースのエタノールおよび二酸化炭素への発酵で用いられる。他の望ましい微生物は、他のバイオ精製プロセスで用いられる。望ましい微生物は、典型的には炭水化物供給原料中に存在しない。
【0027】
望ましくない微生物には、細菌、菌・カビ類、野性型または汚染酵母、および微生物の生存可能性を維持するために炭水化物供給原料の成分を代謝することができる他の微生物が含まれる。望ましくない微生物は、炭水化物供給原料を汚染し、この供給原料を食物源として利用し、増殖し、したがって供給原料を枯渇させる。
【0028】
汚染酵母などの望ましくない微生物は、工業用および飲料用エタノール生産の両方でしばしば見られ、汚染の重度のエピソードの原因となり得、エタノール生産性の低下をもたらす。これらの望まれていない微生物は、供給原料、処理水、空気、作業員、および多くの他の源を通してプロセス中に導入される。
【0029】
細菌などの望ましくない微生物は、グルコース供給原料から酢酸および乳酸などの生成物をもたらし、このことは、供給原料を消費し、したがって供給原料の望ましい生産物への変換を予防するだけでなく、バイオ精製プロセス中の望ましい微生物に悪影響を与える。例えば、酢酸および乳酸は、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)がグルコースをエタノールに変換させる割合に悪影響を与える。本発明は、SCDを用いて、望ましくない微生物を、例えば、貯蔵および輸送中に抑制し、供給原料を保存する。
【0030】
炭水化物供給原料は、種々の微生物の増殖を支援し得る栄養物の豊富な供給源である。炭水化物供給原料は有利には、発酵中の酵母などの望ましい微生物に対する栄養物、およびエタノールを生産するための出発物質の両方として役立つ。しかし、望ましくない微生物は、発酵または他の最終用途の前の貯蔵および輸送中に栄養炭水化物供給原料中で増殖し、供給原料の劣化をもたらす。さらに、炭水化物供給原料の劣化に一般的に関係した望ましくない微生物は、バイオ精製プロセスのための任意の出発原料中で自然に発生し得るか、または数ある中でも、処理装置などの外部源、供給原料それ自体の中の不純物から導入され得る。
【0031】
炭水化物供給原料の「劣化」によって、炭水化物と望ましくない微生物との反応、または望ましくない微生物による炭水化物の消費からもたらされる炭水化物供給原料中の炭水化物の化学的変換が意味される。例えば、望ましくない微生物は、それらの増殖のために微生物の代謝の栄養源として炭水化物を消費し得る。代替として、望ましくない微生物は、炭水化物と反応して、炭水化物を代謝することなしに炭水化物を異なる化学成分に変換し得る。例えば、抽出サトウキビ汁中に自然に存在する細菌である、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)は、スクロース(二糖類)をデキストラン(多糖類)に変換する。スクロースのデキストランへの変換は、サトウキビ汁が氷砂糖を製造するために使用される場合、より低い収率をもたらす。同様に、L.メセンテロイデス(L.mesenteroides)で汚染されたサトウキビ汁がエタノール発酵に使用される場合、発酵生産性はより低い。
【0032】
安定化二酸化塩素
別に「SCD」と本明細書で称される「安定化二酸化塩素」という用語は、1種または複数の二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体、1種または複数の亜塩素酸塩含有化合物、酸に暴露された場合に二酸化塩素を形成することができる1種または複数の他の物質、およびこれらの組合せを意味する。したがって、安定化二酸化塩素は、二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体、亜塩素酸塩含有化合物、酸に暴露された場合に液体媒体中で二酸化塩素を形成することができる物質の少なくとも1種を含む。SCDは市販されている。
【0033】
好ましい二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体の中で、二酸化塩素と炭酸塩の複合体、二酸化塩素と炭酸水素塩との複合体、およびこれらの混合物からなる群から選択される。亜塩素酸塩含有化合物の例には、金属亜塩素酸塩、特にアルカリ金属およびアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれる。二酸化塩素前駆体として有用である亜塩素酸塩含有化合物の具体的な例は、亜塩素酸ナトリウムであり、これは、工業等級亜塩素酸ナトリウムとして使用され得る。
【0034】
SCDは、好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の亜塩素酸塩、典型的には亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)の水溶液である。溶液中の亜塩素酸ナトリウムは、一般に7を超えるpHで安定であるが、pHが中性(pH7)より低下する場合、活性二酸化塩素(ClO2)を放出する。SCDの活性化の割合、すなわち、活性ClO2がその安定型から放出される割合は、pHが低下するとともに増加する。
【0035】
SCD組成物の多くの正確な化学組成、特に二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体は、完全には理解されていない。ある種の二酸化塩素前駆体の製造または生産が、Gordonの米国特許第3,585,147号明細書およびLovelyの米国特許第3,591,515号明細書に記載されている。市販のおよび有用な安定化二酸化塩素の具体的な例には、例えば、本件特許出願人から入手できるANTHIUM DIOXCIDEおよびFERMASURE;Bio−Cide International,Inc.、Norman、OKから入手できるOXINEおよびPUROGENEが含まれる。
【0036】
SCDは、1種または複数の二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体、1種または複数の亜塩素酸塩含有化合物、酸に暴露された場合に二酸化塩素を形成することができる1種または複数の他の物質、およびこれらの組合せの溶液として提供され得る。この溶液は、利用可能な二酸化塩素(ClO2)として活性剤の所定の濃度で液体媒体中のSCDを与える。好ましくは、液体媒体は、二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体、亜塩素酸塩含有化合物、酸に暴露された場合に二酸化塩素を形成することができる他の物質、およびこれらの組合せを含む液体媒体の全重量に基づいて、約0.002重量%〜約40重量%の範囲、好ましくは約2重量%〜約25重量%の範囲、より好ましくは約5重量%〜約15重量%の範囲の利用可能な二酸化塩素濃度を有するために十分なSCDを有する。
【0037】
SCDは、固体物質、例えば、アルカリまたはアルカリ土類金属の亜塩素酸塩粉末、不活性成分、および場合によって、乾燥酸などの乾燥活性化剤を含む組成物などとして提供され得る。
【0038】
SCDは、アルカリまたはアルカリ土類金属の亜塩素酸塩粉末の飽和溶液およびさらなる固体のアルカリまたはアルカリ土類金属の亜塩素酸塩粉末を含む混合物(またはスラリー)としても提供され得る。このようなスラリーは、溶液形態で利用できるよりもより高い活性成分レベルを有する液体SCDを与え得る。
【0039】
本発明は、安定化亜塩素酸アルカリ金属塩、より具体的には亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)としてSCDに関して以下に記載される。典型的には、亜塩素酸ナトリウムは、水中亜塩素酸ナトリウムの溶液重量に基づいて、5〜22重量%含む水溶液として使用される。以下で、SCD濃度は、亜塩素酸塩が「利用可能なClO2」である二酸化塩素に化学量論的に変換される場合、利用できる二酸化塩素の濃度に関して記載される。1gの亜塩素酸ナトリウム中見込まれる二酸化塩素の含有量は、0.597gである。5〜22重量%の亜塩素酸ナトリウムを含む亜塩素酸ナトリウム溶液は、したがって、2.98〜13.13%の利用可能な二酸化塩素を含有する。ClO2の生成は、以下の式(1):
5NaClO2+4H+→4ClO2(g)+2H2O+Cl-+5Na+
(式中、1個のNaClO2分子は、0.8個のClO2分子を与える)
によって示される。
【0040】
本発明は、炭水化物と微生物との反応または炭水化物の微生物による消費を抑制する炭水化物供給原料中保存剤としてのSCDの使用を含む。このような汚染は、炭水化物供給原料の生産の供給源で、または供給原料の使用前の貯蔵、輸送または他の移送中に起こり得る。このようにして、保存された炭水化物供給原料は、例えば、バイオ精製所、または貯蔵および輸送後の他の消費における使用のための炭水化物含有量を維持する。
【0041】
SCDは、炭水化物溶液に、利用可能な二酸化塩素として10mg/kg〜10000mg/kgの範囲、利用可能な二酸化塩素として、好ましくは10mg/kg〜5000mg/kg、より好ましくは50mg/kg〜1000mg/kg、最も好ましくは100〜500mg/kgの範囲で添加される。SCDは、炭水化物溶液のpHが、概して2.6〜9の範囲である場合に有効である。
【0042】
pH限度
本明細書で定義されるSCDは、二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体、亜塩素酸塩含有化合物、酸に曝露される場合に液体媒体中で二酸化塩素を形成することができる物質の少なくとも1種を含む。SCDが、亜塩素酸ナトリウムの水溶液である場合、SCDは、pH7を超えるpHを示す。亜塩素酸ナトリウム溶液は、pHが低下する場合に、活性二酸化塩素(ClO2)を放出する。約5〜6のpHから2.6に低下する場合、SCD水溶液から放出される二酸化塩素の割合は増加する。この割合は、いくつかの要因に依存して変わり得る。例えば、異なるClO2前駆体は、同じまたは同様のpH内で異なる割合でClO2を放出し得る。溶液の緩衝能力などの他の要因は、SCD溶液からのClO2放出の割合に影響を与え得る。これらの要因は、当業者に周知である。
【0043】
供給原料のpHは、典型的には少なくともpH2.6である。pHは、好ましくは3〜9、好ましくは3.5〜8、より好ましくは4〜7、最も好ましくは4.5〜7のpHの範囲である。必要に応じて、pHは、アルカリまたはアルカリ土類の水酸化物または炭酸塩などの塩基の添加によって所望の範囲に上昇させ得る。同様に、必要に応じて、pHは、クエン酸、塩酸、またはリン酸などの酸の添加によって所望の範囲に低下させ得る。例えば、コーンマッシュのpHは、通常4.5から5.8に調整されて、それぞれ、アルファ−アミラーゼおよびグルコ−アミラーゼ酵素の効力を促進する。
【0044】
本発明は、以下、安定化亜塩素酸アルカリ金属塩、より具体的には亜塩素酸アルカリ金属塩の最も一般的で市販されている亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)であるSCDに関して記載される。安定化亜塩素酸アルカリ金属塩によって、7を超えるpH、好ましくは9〜10のpHの亜塩素酸塩の緩衝溶液が意味される。この溶液は、典型的には水中5〜22%w/wの亜塩素酸ナトリウムを含むが、亜塩素酸ナトリウムの濃度は、より高くても、または低くてもよい。以下、SCD濃度は、その亜塩素酸塩が二酸化塩素に化学量論的に変換される場合にClO2として利用できる二酸化塩素の濃度に関して記載される。
【0045】
方法
本発明は、炭水化物供給原料を保存する方法であって、炭水化物供給原料を安定化二酸化塩素(「SCD」)と接触させる段階を含むまたはそれから本質的になるもしくはそれからなる方法である。SCDには、アルカリおよびアルカリ土類金属の亜塩素酸塩が含まれる。安定化二酸化塩素は、二酸化塩素含有オキシ−塩素複合体、亜塩素酸塩含有化合物、酸に曝露される場合に液体媒体中で二酸化塩素を形成することができる物質の少なくとも1種を含む。SCDは、供給原料の全重量に基づいて、10〜10000mg/kgの利用可能な全二酸化塩素を与える量で添加される。好ましくは、SCDは、10〜5000mg/kgの利用可能な全二酸化塩素、より好ましくは利用可能な二酸化塩素として、50mg/kg〜1000mg/kg、最も好ましくは100〜500mg/kgを与える量で添加される。
【0046】
本発明の方法では、SCDは、望ましくない微生物の増殖から炭水化物を保護し、したがって、供給原料の劣化を予防するために有効な量で、炭水化物供給原料、例えば、マッシュと接触させる。供給原料の劣化は、存在する汚染微生物の固体群、または一般に供給原料中の意図されないおよび望ましくない微生物活性を示す微生物代謝物、例えば、有機酸の濃度によって決定され得る。したがって、微生物は、SCDの添加後の貯蔵または輸送された供給原料中での増殖から実質的に予防される。
【0047】
驚くべきことに、本発明よって処理された炭水化物供給原料は、少なくとも1ヶ月間安定なままである。「安定」によって、SCDの添加により炭水化物供給原料が保存されることが本明細書で意味され、ここで、「保存する」は、上記で汚染微生物による炭水化物の反応または消費を予防すると定義される。安定な炭水化物供給原料は、1log10CFU/mlまたは1log10CFU/gを超える供給原料中微生物個体群の増加を受けない。コロニー形成単位(colony forming unit)の略語であるCFUは、供給原料中の微生物個体群の尺度である。CFUは、単位容量もしくは単位質量当たりの試料中の生存微生物細胞の数、または試料中の微生物汚染の程度を決定するために用いられる。変化の第2の尺度は、保存供給原料のpHであり、0.5pH単位を超えて変化するべきでない。しかし、前に記載したように、pH変化は、炭水化物供給原料の保存を監視するためにすべての状況下で十分でないことがあり得る。
【0048】
炭水化物供給原料は、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、またはこれらの混合物を含む水溶液または懸濁液であり得る。炭水化物供給原料は、特に、供給原料が、人間の消費のための糖生産物(テーブルシュガーまたは糖蜜など)の生産における使用、または燃料エタノール発酵における使用を目的とする場合、発酵可能な糖を含み得る。炭水化物供給原料は、最大100重量%の炭水化物を含み得る。一般に、炭水化物供給原料は、供給原料の全重量に基づいて、1%〜70%、好ましくは2〜40%の炭水化物を含む。
【0049】
驚くべきことに、この方法は、二酸化塩素を発生させるべく添加される酸の不存在下で有効である。「添加される酸の不存在」によって、二酸化塩素を発生させるために酸が添加されないか、または酸化などの他の方法が使用されることが本明細書で意味される。この方法は、典型的には少なくとも2.6のpHで行われる。pHは、好ましくは3〜9、好ましくは3.5〜8、より好ましくは4〜7、最も好ましくは4.5〜7のpHの範囲である。
【0050】
第2の実施形態では、SCDは、微生物が供給原料を劣化させ始めた単位操作において炭水化物供給原料と接触させる。炭水化物の消失は不可逆的である一方、劣化は中断することができ、供給原料は炭水化物のその後の処理のために保存することができる。この実施形態では、SCDは、供給原料の全重量に基づいて、50〜10000mg/kgの利用可能な全二酸化塩素を与える量で添加される。好ましくは、SCDは、100〜5000mg/kg、より好ましくは100〜1000mg/kgの利用可能な全二酸化塩素を与える量で添加される。
【0051】
本発明の方法によるSCDによって保存される炭水化物供給原料は、発酵および他のバイオ精製プロセスで使用され得る。SCD含有量、炭水化物濃度、およびpHは、具体的な所望のプロセスパラメータに依存して変わり得る。これらの変化は、当業者に周知である。
【0052】
本発明では、SCDは、炭水化物供給原料のための保存剤として使用されて、汚染微生物の活動およびその後の炭水化物供給原料の劣化を妨げる。汚染微生物には、国際公開第2007/149450号パンフレットに開示されたとおりの細菌および2009年5月18日に出願された米国特許出願第12/467,728号明細書に開示されたとおりの汚染酵母が含まれる。SCDは、単糖などの炭水化物の有害な酸への望ましくない分解を引き起こす特定の細菌の増殖を阻害し、およびまた汚染酵母の活動を選択的に低下させる。
【0053】
SCDは、糖系供給原料およびセルロース供給原料などの炭水化物供給原料の微生物腐敗を抑制するために使用され得る。セルロース供給原料には、スイッチグラスなどの未加工の植物材料、またはコーンストーバおよびバガセなどの農業副産物が含まれる。糖系供給原料には、サトウキビ汁および糖蜜が含まれる。
【0054】
特定のバイオ精製プロセスでは、新たに処理されるサトウキビ汁または糖蜜のpHは、約5(通常pH4.5〜pH5.5)である。サトウキビ汁は10〜15%のスクロースを含有するが、糖蜜は最大50%のスクロースを含有する。この実施形態では、SCDは、サトウキビ汁または糖蜜と接触させる。この接触は生産直後であってもよく、これは、生産物が貯蔵または輸送が意図される場合に微生物活動を妨げるために効果的である。サトウキビ汁および糖蜜は、サトウキビ汁または糖蜜の腐敗に寄与する微生物による自然に生じる高レベルの汚染を示す傾向がある。したがって、本発明によるSCDとの接触は、腐敗微生物がその汁または糖蜜中で増殖しおよびそれらを劣化させる能力を低下させることによってこれらの生産物の有用な貯蔵寿命を延長させる。pHおよびスクロース(炭水化物)濃度に依存して、利用可能なClO2として200〜1500mgのSCDの用量(例えば、全供給原料重量に基づいて、335〜2510mg/kgの亜塩素酸ナトリウム)が、サトウキビ汁または糖蜜中の微生物の増殖を予防するために十分である。
【0055】
したがって、本発明の方法では、劣化を低下させ、このようにして、発酵などの下流操作の操作を改善することにより炭水化物供給原料の貯蔵および輸送が改善されている。
【実施例】
【0056】
実施例は、SCDの存在下で貯蔵された炭水化物の保存を実証する。これらの実施例では、SCDは、9.2のpHを有する亜塩素酸ナトリウム(21%w/w)の緩衝溶液(本件特許出願人から入手できる)である。
【0057】
実施例1
この実施例では、SCDは、糖蜜中の腐敗細菌の増殖を抑制するために使用した。糖蜜(B&G Foods,Inc.、Roseland、NJから入手でき、炭水化物含有量約50%)を3.1部の水でモデル工業条件に希釈した。希釈糖蜜溶液を121℃の温度でオートクレーブすることによって滅菌した。滅菌溶液のpHは5.32であった。次いで、この溶液を個別の125mlのフラスコ中に7つの個別の75mlの試料に分けた。SCDをそれぞれのフラスコに添加して、利用可能なClO2に基づいて、0〜450mg/kgの濃度の範囲を得た。
【0058】
この実施例で、工業用エタノール生産を汚染すると知られている細菌である、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)およびラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)を用いた。この細菌をdeMan Rogosa and Sharpe(MRS)ブロス(Difco Laboratories,Inc.、Sparks、MDから入手できる)中32℃で一晩別々に増殖させた。次いで、細菌を一緒に混合して、個々の試料に接種し、約105個の細菌/ml(コロニー形成単位/mlとして、「5log10CFU/ml」と表される)を得た。
【0059】
ここでは試料中の全生存細菌を、試料の容量単位当たりのコロニー形成単位(CFU)(すなわち、CFU/ml)の濃度として測定した。試料中の細菌の濃度とCFU測定値の正の相関がある。したがって、細菌の濃度が高いほど、CFUは高くなり、逆もまた同様である。慣例として、CFUを数学的に対数値(Log10CFU)に変換して、異なる処理間の比較を簡単にする。
【0060】
L.ブレビス(L.brevis)およびL.プランタルム(L.plantarum)の増殖を阻害するSCDの能力を、各フラスコからの試料に外でプレートに播くことによって測定した。24時間(h)の間隔で、試料をそれぞれのフラスコから取り出し、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(Sigma−Aldrich,Inc.、St.Louis、MOから入手できる)を用いて希釈し、MRSプレートの表面上に播いた(0.1ml)。プレートを32℃で接種して、得られたコロニーを数え、結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1により、試料のすべての初期の細菌濃度が示され、接種して5.0log10CFU/mlの糖蜜であり、工業規模で見ることができるものと同じようであった。SCD処理を受けなかった対照試料は、24時間で5.0log10CFU/mlから8.53log10CFU/mlに、および48時間で9.3log10CFU/mlに、両方とも32℃で、細菌を増殖させた。37.5mg/kgSCDによる処理は、増殖を48時間後に8.88log10CFU/mlに制限した。75mg/kgSCDによる処理は、試料中の細菌の濃度を24時間後に5.0log10CFU/mlから2.26log10CFU/mlに、および48時間後に3.38log10CFU/mlに低下させた。試験した100mg/kgより高いSCE濃度すべてで、糖蜜試料から回収することができたL.ブレビス(L.brevis)およびL.プランタルム(L.plantarum)の数は、検出限界未満であった。表1により、これらの濃度のSCDによる処理は、細菌の増殖を抑制することができ、したがって、供給原料としての使用を目的とした糖蜜の細菌劣化を低減させることが示される。
【0063】
実施例2
SCDからの二酸化塩素放出(発生)の割合を、炭水化物供給原料中で見られる汚染細菌によって産生される通例の酸である乳酸を用いる活性化によって決定した。この実施例では、250mg/mlのSCD溶液を乳酸で酸性化して、周囲温度でClO2を発生させた。約250mg/mlのSCD溶液を、原液FermaSure(登録商標)XL溶液を水で希釈することによって作製した。次いで、250mg/LのSCD溶液の一部を、希釈<2%の乳酸溶液を用いて2.2から3.2の間のpHに酸性化した。Accumet pH Meter 25(Fischer Scientific Company、Fair Lawn、NJから入手できる)を用いて、溶液の溶液pHを監視した。次いで、酸性化した250mg/mLの溶液を、400nm、420nmおよび445nmでClO2について較正したHACH DR/2000分光光度計(Hach Company、Loveland、COから入手できる)を用いてClO2濃度について分析した。分光光度計からのデータを、DELLコンピュータおよびHACH Link 2000データロギングソフトウェアを用いて、最大24時間10秒間隔で収集した。ClO2発生データの要約は、表2である。
【0064】
【表2】

【0065】
表2により、SCDからの二酸化塩素の放出は、低いpHにおいてさえも比較的遅いことが示される。したがって、SCDを、酸を添加することなしに、炭水化物供給原料と少なくとも2.6のpHで接触させる場合、SCDが保存性効果を有することは驚くべきことである。すなわち、炭水化物の消費によって生じる細菌の増殖は、ClO2の濃度が非常に低いと予想される場合に、実質的に予防される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物に対して炭水化物溶液を保存する方法であって、前記炭水化物溶液または懸濁液を安定化二酸化塩素と少なくとも2.6のpHで接触させる段階を含みまたはそれから本質的になりもしくはそれからなり、前記炭水化物の濃度は、供給原料の重量の少なくとも1%であり、添加される安定化二酸化塩素の量は、全供給原料重量に基づいて、ClO2として10から10000mg/kgである方法。
【請求項2】
前記供給原料中の炭水化物の濃度が、前記全供給原料重量に基づいて、1.0から70%であり、pHが少なくとも3である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭水化物供給原料が、発酵可能な糖の溶液または懸濁液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記炭水化物供給原料が、酵素、界面活性剤、分散剤、消泡性組成物、ミネラル、微量元素、およびこれらの2種以上の組合せをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炭水化物供給原料が、セルロース供給原料である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化二酸化塩素が、1種または複数の亜塩素酸塩含有化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1種または複数の亜塩素酸塩含有化合物が、亜塩素酸アルカリ金属塩の水溶液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記亜塩素酸アルカリ金属塩が、亜塩素酸ナトリウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記pHが、3から9である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記pHが、4から7である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
添加される安定化二酸化塩素の量が、全供給原料重量に基づいて、50から1000mg/kgである、請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2013−505955(P2013−505955A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531091(P2012−531091)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/050342
【国際公開番号】WO2011/038317
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】