説明

炭素−ヘテロ原子二重結合の接触水素化

炭素−ヘテロ原子二重結合を接触的に、特に単純ケトンを接触的に不斉水素化するための方法であって、基質と水素とを水素化触媒及び塩基の存在下で反応させる工程を含み、水素化触媒が5配位ルテニウム錯体であり、該錯体はいずれもが、モノホスフィン配位子及びP−N二座配位子を有することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム錯体(該錯体いずれもがモノホスフィン配位子及びP−N二座配位子を有する)を用いて、炭素−ヘテロ原子二重結合を接触的に、特に単純ケトンを接触的に不斉水素化するための方法に関する。
【0002】
工業的な観点から適切な、炭素−ヘテロ原子二重結合を還元する実現性のある手段は、第1に移動水素化であり、第2に分子状水素を用いた水素化である。両方法についての必須条件は、その還元剤を活性化するための触媒の存在である。移動水素化において達成可能な水素化活性は、基本的に、その方法に関連する環境(大量の溶媒が必要であること)の結果として、分子状水素を用いた水素化におけるよりも有望であるとは言えない。しかし、分子状水素は、移動水素化における還元剤として供されるアルコールよりも活性化することが著しく困難であるため、近年、移動水素化のための触媒系はいくつか知られるようになったが、比べてみると、水素を用いた水素化については触媒系はほとんど知られていない。特に、単純ケトンの形態の基質については、今までに知られている触媒系は非常に少ない。単純ケトンは、カルボニル基の比較的近くに、官能基を有さないケトンであるか、あるいはより正確にはヘテロ原子を有さないケトンであり、この場合として、例えば、α−ケトエステル、α−ケトアミド、β−ケトエステル、あるいはアミノケトン、ヒドロキシケトン及びフェニルチオケトンである。
【0003】
官能化されていないケトンの接触H水素化のための有効な触媒系の第1の例は、R.Noyori及びT.Ohkumaにより、Angew.Chem.Int.Ed.2001,40,40ffに記載されている。これは、イソプロパノールの存在下で、均一系のClRu(PR型Ru(II)錯体、過剰モルの塩基、及び第一級、第二級若しくは第三級モノアミン、又は好ましくはジアミンの形態の窒素含有有機化合物を用いて、50barまでの圧力の水素ガスを用いて、単純カルボニル化合物を不斉水素化するための方法である。得られる触媒前駆体は、6配位の(Cl)Ru(ホスフィン)(N^N)及び(Cl)Ru(P^P)(N^N)錯体である。これらの錯体の有効な作用は、触媒工程中に、一方では基質の還元のための水素原子供与体として機能し、他方では分子状水素の活性化のための水素原子受容体として機能する、アミン配位子の特性に帰せられる(R. Noyori and T. Ohkuma, Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 40ff and R.H. Morris, Organometallics 2000, 19, 2655)。
【0004】
単純ケトンの水素化を可能ならしめる第2の、より最近の触媒類の更なる例は、国際公開公報第02/22526 A2に記載されている。これは、2個の二座配位子を有するがアミン配位子を有さない、6配位ルテニウム錯体の調製を記載している。2個の二座配位子は、P^P配位子との併用でのN^P配位子であるか、あるいは2個のN^P配位子のいずれかである。
【0005】
上述の例において、錯体はリン及び窒素の異なる配位子を有するが、上述の錯体は常に6座配位を有するため、中心ルテニウム原子の配位圏(coordination sphere)に関して何ら差異がないことは注目に値する。錯体の特定の中心原子の周りの配位子圏(ligand sphere)の性質は、錯体の持ち得る活性に大きな影響を与えることが知られている。
【0006】
水素を用いた単純ケトンの接触水素化のための適切な触媒前駆体はまた、配位子が1個のモノホスフィン及び1個のP^N二座配位子である5配位ルテニウム錯体であることも見出されている。
【0007】
それ故に、本発明は、炭素−ヘテロ原子二重結合を含有する基質を水素化するための方法であって、
水素化触媒及び塩基の存在下で、該基質を水素と反応させる工程を含み、
水素化触媒が、式(I):
[XYRu(PR)(P−Z−N)] (I)
〔式中、
X、Yは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1〜8アルコキシ若しくはC1〜8アシルオキシ基であるか、又は少なくとも1組の自由電子対を有するヘテロ原子(例えば、(シクロ)アルキル/アリールオキシ、シクロアルキルチオ又はシクロアルキルアミノ基の形態で)を少なくとも1つ含有する配位結合した有機溶媒分子であり、この場合に得られるカチオン性錯体の電荷は、アニオン、例えば、CN、OCN、PF又はFC−SOによりバランスされており、
、R、Rは、各々独立して、アルキル、アルキルオキシ、アルキルチオ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、シクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、ジシクロアルキルアミノ、アリール、アリールオキシ、アリールチオ又はジアリールアミノ基であり、場合により、C1〜4アルキル基及びC1〜4アルコキシ基から各々独立して選択される1、2又は3個の基で置換されているか、あるいはR、R、R基の1つが上に定義されたとおりであり、残りの2つの基が、酸素ブリッジを介して又は直接にリン原子と結合し、リン原子を含む4〜8員環の、場合により置換された環を形成しており、
P−Z−Nは、sp混成した窒素原子を含有し、式(II):
【0008】
【化10】

【0009】
(式中、
、Rは、各々独立して、場合により置換されている、直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜8アルキル若しくはC2〜8アルケニル基;場合により置換されている、C6〜18アリール、C3〜18ヘテロアリール、C3〜8シクロアルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−(ヘテロ)アリールであり、ここで、可能な置換基は、ハロゲン、有機ハロゲン基、O(C1〜8)アルキル、N(C1〜8アルキル)であるか;あるいはR及びRは一緒になって、リン原子を含む5〜10原子で構成される飽和又は芳香族の環となり、
、Cは、各々、少なくとも6つのπ電子を有する芳香族化合物の一部分であるが、場合により置換された(ヘテロ)アリールであり、
は、水素原子、場合により置換されている、直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル基、場合により置換されている芳香族環、あるいは−OR6’若しくは−NR6”基であり、ここで、R6’及びR6”はRについて定義されたとおりであり、
は、水素原子、直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル基、あるいはR7’CO若しくはR7’SO基であり、ここで、R7’はC1〜8アルキル若しくはアリール基であるか、
あるいは
及びRは一緒になって、5〜10の、場合により置換された環原子で構成される不飽和(ヘテロ)環となり、R及びRが結合した炭素原子及び窒素原子を含み、場合により、更なるヘテロ原子を含む)二座配位子である〕
で示される遷移金属錯体であることを特徴とする方法を提供する。
【0010】
上述の方法は、ケトンを高度に選択的に水素化して、対応する光学的に純粋なアルコールを製造するのに適している。
【0011】
適切な基質は、一般式(S)のケトンである:
【0012】
【化11】

【0013】
及びRが異なる場合、これはプロキラルケトンであり、本発明の錯体により触媒される、対応するアルコールへの水素化はエナンチオ選択性である。エナンチオマー過剰率は、80%(ee)を超えて、好ましくは90%を超えて、特に95%を超える。
【0014】
及びR基に関して、これらは基本的には制限はない。R及びR基は、各々独立して、水素原子、直鎖又は分枝鎖のアルキル基、単環式又は多環式のアリール、(ヘテロ)アリール若しくは(ヘテロ)アラルキル基であり、そしてまた全ての基が、更なる基、例えば、アルキル、(ヘテロ)アリール又は(ヘテロ)アラルキル基を有してもよい。還元されるカルボニル官能基はまた、単環式又は多環式の環構造に組み込まれていてもよい。本発明の方法の特徴は、官能化されていないケトンも水素化することが特に可能であが、R及びR基は各々独立して官能基を有していてもよい。これらの基についての唯一の制限は、これらの基が触媒と反応して触媒を破壊しないことである。R及びR基の可能な置換基及び式(S)における可能な置換基は、Hal、OR、NR又はRであり、ここで、Rは、H、あるいは直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル基である。
【0015】
好ましい基質は、式(S)のプロキラルケトンであり、ここで、R及びRは、各々独立して、水素原子、環状鎖、直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキル若しくはC2〜8アルケニル基、あるいは、単環式又は多環式のアリール若しくはヘテロアリール基であり、場合により、直鎖若しくは分枝鎖のC1〜8アルキル基、C1〜8アルコキシ基又はハロゲン原子により置換されている。
【0016】
式(S)の基質の例としては、特に、単環式又は多環式のアリールケトン若しくはヘテロアリールケトンが挙げられ、場合により、直鎖若しくはは分枝鎖のC1〜8アルキル基、C1〜8アルコキシ基又はハロゲン原子により置換されている。
【0017】
上述の方法はまた、一般式(O)に対応するC=N二重結合を含有する基質を水素化するのにも適している:
【0018】
【化12】

【0019】
及びRが異なる場合、これはプロキラルイミンであり、本発明の錯体により触媒される、対応するアミンへの水素化はエナンチオ選択性である。エナンチオマー過剰率は、80%(ee)を超えて、好ましくは90%を超えて、特に95%を超える。
【0020】
及びR基に関して、これらは基本的には制限はない。可能なR及びR基は、式(S)のもとで特定されるものに対応する。式(O)におけるRは、例えば、H、OR、SR、P(O)R基であってもよく、ここで、Rは、各々の場合において、場合により置換されている、直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキル若しくはアルケニル基、あるいは場合により置換されている芳香族環であってもよい。NR基の可能な置換基は、Hal、OR、NR又はRであり、ここで、Rは、H、又は直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル基である。
【0021】
炭素−ヘテロ原子二重結合を含有する基質を水素化するための本発明の方法は、水素化触媒が一般式(I):
[XYRu(PR)(P−Z−N)] (I)
で示される遷移金属錯体であることを特徴とする。
【0022】
式(I)において、X及びYは、好ましくは、各々独立して、水素原子又はハロゲン原子(好ましくは塩素原子)である。特に好ましくは、X及びY各々が塩素原子である。
【0023】
本発明の式(I)の錯体において使用される好ましいモノホスフィンPRは、R、R、R基が各々独立して、C1〜4アルキル基、C5〜6シクロアルキル基、又はフェニル基であるものであり、場合により、C1〜4アルキル基及びC1〜4アルコキシ基から、各々独立して選択される1、2又は3つの基によって場合により置換されているものである。R、R、R基は、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、あるいはフェニル、o−若しくはp−トリル、p−イソプロピルフェニル又はメシチルである。特に好ましいモノホスフィンは、トリフェニルホスフィン、トリ−C1〜4アルキルホスフィン、トリトリルホスフィン又はトリメシチルホスフィンである。
【0024】
本発明の(I)の錯体中のP−Z−N部分は、1個の窒素原子を含有し、式(II)を有する二座配位子である:
【0025】
【化13】

【0026】
式(II)において、R、Rは、各々独立して、好ましくはC1〜4アルキル、好ましくは各々独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルである。R、Rは、各々独立して、より好ましくは、C6〜18アリール、C3〜18ヘテロアリール、C3〜8シクロアルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−(ヘテロ)アリールであり、場合により置換されており、ここで、可能な置換基は、ハロゲン、有機ハロゲン基、O(C1〜8)アルキル、N(C1〜8アルキル)であるか;あるいはR及びRは一緒になって、リン原子を含む5〜10原子で構成される飽和又は芳香族の環になる。
【0027】
及びRが一緒になって、リン原子を含む、飽和環又は芳香族環を形成する場合、R及びRは一緒になって、好ましくは、n−ブチレン、n−ペンチレン又は2,2’−ビフェニレンとなる。
【0028】
式(II)において、C、Cは一緒になって、6つ以上のπ電子を有する芳香族化合物の一部分、場合により置換された(ヘテロ)アリールを形成する。基本的な芳香族構造は、メタロセンの配位子として、多環式芳香族化合物の形態の縮合ベンゼン(例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン)又はヘテロ芳香族化合物(例えば、キノリン又はイソキノリン)、あるいはシクロペンタジエニドイオンであってもよい。好ましくは、各々の場合の形態の、場合により置換されたベンゼンの形態の、純正6π電子系、あるいは6π又は10π電子ヘテロ芳香族系である。
【0029】
式(II)において、R及びRは、好ましくは各々独立して、水素原子、場合により置換されている、直鎖若しくは分枝鎖のC1〜4アルキル基、又は場合により置換されている芳香族環であるか、あるいは特に好ましくは、R及びRは一緒になって、5〜10の、場合により置換された環原子で構成される不飽和ヘテロ環を形成し、R及びRが結合した炭素原子及び窒素原子を含み、場合により、更なるヘテロ原子を含む。
【0030】
式(II)の好ましい配位子は、第1に、一般式(IIIa)
【0031】
【化14】

【0032】
〔式中、
n=1又は2、好ましくは1であり、
m(Mに依存する)は、中心原子M上の自由な配位部位(free coordination sites)の数であり、
M=Cr、Mo、Fe、Ru、Os、Mn又はRe、好ましくはReであり、
X=O、S又はN、好ましくはOであり、
Lは、各々独立して、中心原子M上の自由な配位部位を満たす一座又は多座配位子であり、例えば、P(C6〜18アリール)、P(C6〜18アルキル)、HNCHCHNH、(C6〜18アリール)PCHCHP(C6〜18アリール)、又は好ましくはCOであり、
、Rは、各々、式(II)のもとで与えられた定義に対応する基であり、
11は、C2〜8アルコキシアルキル、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくは、C1〜8アルキル、C6〜18アリール基であり、そして上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよく、
8、9、10は、各々独立して、C1〜8アルキル、C2〜8アルコキシアルキル、C6〜18アリール、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、C3〜8シクロアルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくはHであり、そして上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよい〕
で示される配位子である。
【0033】
式(II)の好ましい配位子は、また、式(IIIb):
【0034】
【化15】

【0035】
〔式中、
n=1又は2、好ましくは1であり、
M=Fe、Ru、Os、好ましくはFeであり、
X=O、S又はN、好ましくはOであり、
、Rは、各々、式(II)のもとで与えられた定義に対応する基であり、
11は、C2〜8アルコキシアルキル、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくは、C1〜8アルキル、C6〜18アリール基、特にi−プロピルであり、そして
上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよく、
8、9、10は、各々独立して、C1〜8アルキル、C2〜8アルコキシアルキル、C6〜18アリール、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、C3〜8シクロアルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくはHであり、そして上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよく、そして上記式における下方のシクロペンタジエニド配位子は、上方のシクロペンタジエニド配位子についての上述の可能な置換パターンを基準にして、可能なPR及びR10基に関して同様に置換されてもよい〕
で示される配位子でもある。
【0036】
すでに述べたように、式(II)中のC、Cは一緒になって、6つ以上のπ電子を有する芳香族化合物の一部分、場合により置換された(ヘテロ)アリールを形成し、該芳香族化合物の部分は、好ましくは、それぞれの場合の形態の、場合により置換されたベンゼンの形態の純正6π電子系、あるいは6π又は10π電子ヘテロ芳香族系である。それ故に、式(II)の好ましい配位子はまた、一般式(IV)及び(V):
【0037】
【化16】

【0038】
〔式中、
n=1又は2、好ましくは1であり、
X=O、S又はN、好ましくはOであり、
、Rは、各々、式(II)のもとで与えられた定義に対応する基であり、
11は、C2〜8アルコキシアルキル、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくは、C1〜8アルキル、C6〜18アリール基、特にi−プロピルであり、そして
上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよく、
12、R13は、各々独立して、C1〜8アルキル、C1〜4アルコキシ基、又は好ましくはHであるか、あるいは一緒になって縮合シクロアルキル環又はアリール環になる〕
で示される配位子でもある。
【0039】
式(II)の好ましい配位子はまた、一般式(V):
【0040】
【化17】

【0041】
〔式中、
n、X、R、R及びR11は、各々、式(IV)で定義されたとおりであり、R14及びR15は一緒になって、6π又は10π電子ヘテロ芳香族系になり、場合により、直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキル基により置換されており、そして可能なヘテロ原子は、N、O、又はSである〕
で示される配位子でもある。
一般式(IIIb)の特に好ましい配位子は、以下の配位子A〜Gに対応する:
【0042】
【化18】

【0043】
一般式(IV)の特に好ましい配位子は、式Jに対応する:
【0044】
【化19】

【0045】
一般式(V)の特に好ましい配位子は、式H、I及びKに対応する:
【0046】
【化20】

【0047】
直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキルは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル又はオクチル(これらの構造異性体を全て含む)であるとみなされたい。
【0048】
2〜8アルコキシアルキルは、アルキル鎖が少なくとも1つの酸素官能基により中断されているが、2個の酸素原子が連続して結合していない基を意味する。炭素原子の数は、基の中に存在する炭素原子の合計数を示す。全ての構造異性体が含まれる。
【0049】
3〜8シクロアルキル基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル基等を指す。ヘテロ原子で置換されたシクロアルキル基は、好ましくは、例えば、1−、2−、3−、4−ピペリジル、1−、2−、3−ピロリジニル、2−、3−テトラヒドロフリル、2−、3−、4−モルホリニルである。
3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基は、上に特定されたようなアルキル基を介して分子に結合する、上述のようなシクロアルキル基を表わす。
6〜18アリール基は、6〜18個の炭素原子を有する芳香族基を指す。これらとしては、特に、フェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリル、ビフェニル基のような化合物が挙げられる。
【0050】
7〜19アラルキル基は、C1〜8アルキル基を介して分子に結合するC6〜18アリール基である。本発明の文脈によれば、C3〜18ヘテロアリール基は、環中にヘテロ原子(例えば、窒素、酸素又は硫黄)を有する3〜18個の炭素原子で構成される、5−、6−、又は7−員の芳香族環系を示す。このようなヘテロ芳香族環系は、特に、1−、2−、3−フリル、1−、2−、3−ピロリル、1−、2−、3−チエニル、2−、3−、4−ピリジル、2−、3−、4−、5−、6−、7−インドリル、3−、4−、5−ピラゾリル、2−、4−、5−イミダゾリル、アクリジニル、キノリニル、フェナントリジニル、2−、4−、5−、6−ピリミジニルのような基であるとみなされる。
【0051】
4〜19ヘテロアラルキルは、C7〜19アラルキル基に対応する、上に定義されたようなヘテロ芳香族系を指す。
Halは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、好ましくは塩素である。有機ハロゲン化合物は、炭素に加えて、ハロゲン族(フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を含む)の元素を含有する化合物について使用される集合的な用語である。例はCF基である。
【0052】
一般式(II)の特定のP−Z−N二座配位子及びその調製は、文献から基本的に公知である。いくつかの参考文献を、本明細書実験セクションで引用している。一般式(I)の遷移金属錯体は、所望な場合、水素化される基質を含有する反応混合物中の「その場で(in situ)」調製してもよいし、又は水素化の前の最初に単離してもよい。錯体の調製方法は、基本的に同じである。錯体を調製する場合、P−Z−N配位子は、基本的に化学量論的に導入される。
【0053】
一般式(I)の遷移金属錯体は、有利には、特に単純ケトンを水素化するために使用してもよい。実際に、カルボニル基の近傍に配位するヘテロ原子を含有しない単純ケトンでさえ、高い活性及び高いエナンチオ選択性で水素化することができる。触媒の高い活性に照らして、プロキラルでないケトンの還元によりアキラルなアルコールを製造することもまた、第二級アルコールの経済的合成にとり実際的な関心を引くものである。
水素化は、代表的には、式(I)の錯体、基質、塩基、及び場合により溶媒を含む組成物で行われる。次いで、水素を、所望の圧力及び所望の温度下でこの組成物に注入する。選択される水素化条件は、基本的に、従来技術で公知の、通常の条件及び必須の工程パラメータ(例えば、圧力、温度、基質及び触媒の濃度、溶媒、塩基)に従う。以下に列挙される工程条件は、単に代表的例の性格を有するのみである。
【0054】
基質に基づく錯体の濃度範囲は、広範囲に変わってもよい。一般に、基質に基づいて、0.1〜50000ppmが使用される。これは、基質/錯体比(S/C)10〜20に対応する。
使用される塩基は、水素化において通常使用される任意の無機塩基又は有機塩基であってよい。アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルコキシド及び炭酸塩、並びに第四級アンモニウム塩にのみ言及する。好ましくは、KOH、KOMe、KOiPr、KOtBu、LiOH、LiOMe、LiOiPr、NaOH、NaOMe又はNaOiPrを用いることである。塩基は、固体形態でか、あるいはアルコール又は好ましくは水に溶解した形態、例えば、KOtBu/tBuOH(1モル濃度)又はNaOH/HO(1モル濃度)で使用してもよい。更に、使用される塩基は、広い濃度範囲で使用してもよい。金属錯体に対して表した塩基のモル当量(B/M)において、この比は、約0.5〜50000、好ましくは2〜10000であってもよい。
【0055】
本発明の方法は、不活性溶媒の非存在下又は存在下で行うことができる。適切な溶媒は、例えば、脂肪族、脂環式、及び芳香族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)、脂肪族ハロ炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン及びテトラクロロエタン)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステル及びラクトン(酢酸エチル又は酢酸メチル、バレロラクトン)、N−置換ラクタム(N−メチルピロリドン)、カルボキサミド(ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド)、非環式尿素(テトラメチル尿素)又は環式尿素(ジメチルイミダゾリジノン)、並びにスルホキシド及びスルホン(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)及びアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル)及び水である。溶媒は、単独又は少なくとも2つの溶媒の混合物で使用してもよい。好ましいのは、トルエンを用いることである。
【0056】
本発明の水素化方法は、代表的な圧力10×10〜10×10Pa(1〜100bar)で行なってもよい。有利には、20×10〜85×10(20〜85bar)、特に80×10Pa(80bar)が使用される。
【0057】
水素化反応は、代表的には、標準的な室温、すなわち、約20〜35℃で行われる。しかし、主として使用される溶媒に依存して、又はより具体的には、使用される反応剤の溶解挙動に依存して、選択される温度はまた、約0〜100℃であってもよい。
【0058】
以下の非限定的な実施例は、本発明を詳細に説明する。
【0059】
実施例:
使用した基質は以下のものである:
【0060】
【化21】

【0061】
使用した配位子は以下のものである:
【0062】
【化22】

【0063】
配位子A〜Dを、参考文献(1)に従って調製した。配位子E〜Gを以下に示す実験セクションに従って調製した。配位子H、I及びKを、参考文献(2)に従って調製した。配位子JはStrem社から市販されている。
【0064】
触媒[RuCl(PPh)(A)]を参考文献(3)に従って調製した。
【0065】
【表1】

【0066】
配位子E、F及びGの調製
【0067】
配位子E:
250mLの三ッ口フラスコに、上述の参考文献(3)に従って調製したフェロセン−オキサゾリン前駆体(2.0g、6.8mmol)、TMEDA(1.2mL、8.2mmol)及びジエチルエーテル70mLを仕込んだ。溶液を−70℃まで冷却すると、黄濁を生じた。シリンジを用いて、反応混合物の温度を−65℃未満に保ちながら、n−BuLi(1.6Mヘキサン、5.5mL、8.8mmol)をゆっくり(約10分かけて)添加した。添加後、混合物を−70℃で2時間攪拌し、ドライアイス浴をはずし、反応溶液を0〜5℃で更に15分間攪拌した。次いで、シリンジを用いて、PCl(キシリル) 3.5g(12.6mmol)をゆっくり(約10分かけて)添加した。次いで、今は暗橙色に着色された溶液を室温で約15分間攪拌し、ジエチルエーテル50mLを続けて添加した。飽和NaHCO溶液30mLを添加することで、反応を停止させた。EtOAc各50mLで3回抽出し、合わせた有機相をNaSOで乾燥させた。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後、橙褐色に着色された油状物3.3gを得た。この油状物をカラムクロマトグラフィー(SiO 240g、4:1ヘプタン/酢酸エチル)で精製し、純粋な橙色の結晶生成物1.5gを得た。
収量:1.5g、理論量の46%。
【0068】
【表2】

【0069】
配位子F:
250mLの三ッ口フラスコに、上述の参考文献(3)に従って調製したフェロセン−オキサゾリン前駆体(2.0g、6.8mmol)、TMEDA(1.2mL、8.2mmol)及びジエチルエーテル60mLを仕込んだ。溶液を−70℃まで冷却すると、黄色になった。シリンジを用いて、反応混合物の温度を−65℃未満に保ちながら、n−BuLi(1.6Mヘキサン、5.5mL、8.8mmol)をゆっくり(約10分かけて)添加した。添加後、混合物を−70℃で3時間攪拌し、ドライアイス浴をはずし、反応溶液を0〜5℃でさらに15分間攪拌した。次いで、シリンジを用いて、PCl(p−CF−アリール) 1.8g(6mmol)をゆっくり(約10分かけて)添加した。次いで、暗橙色に着色された溶液を室温で約60分間攪拌し、ジエチルエーテル50mLを続けて添加した。飽和NaHCO溶液30mLを添加することで、反応を停止させた。EtOAc各50mLで3回抽出し、合わせた有機相をNaSOで乾燥させた。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後、褐色の油状物を得た。少量の酢酸エチルを添加し、油状物を溶解させた。次いで、ヘプタンをゆっくり添加すると、橙色沈殿(1g)の沈殿を生じ、この沈殿をフリットにより除去した。ろ液の溶媒をロータリーエバポレーターで除去した後、褐色に着色された油状物を得た。この油状物をカラムクロマトグラフィー(SiO 120g、4:1ヘプタン/酢酸エチル)で精製し、純粋な橙色の結晶生成物1.4gを得た。
収量:2.4g、理論量の65%。
【0070】
【表3】

【0071】
配位子G:
250mLの三ッ口フラスコに、上述の参考文献(3)に従って調製したフェロセン−オキサゾリン前駆体(2.97g、10mmol)、TMEDA(1.8mL、12.0mmol)及びジエチルエーテル60mLを仕込んだ。溶液を−70℃まで冷却すると、黄濁を生じた。シリンジを用いて、反応混合物の温度を−65℃未満に保ちながら、n−BuLi(1.6Mヘキサン、8.6mL、13.6mmol)をゆっくり(約10分かけて)添加した。添加後、混合物を−70℃で2時間攪拌し、ドライアイス浴をはずし、反応溶液を0〜5℃でさらに15分間攪拌した。次いで、シリンジを用いて、PCl(3,5−CF−アリール) 6.0g(12.2mmol)をゆっくり(約10分かけて)添加した。次いで、暗橙色に着色された溶液を室温で約15分間攪拌し、ジエチルエーテル50mLを続けて添加した。飽和NaHCO溶液30mLを添加することで、反応を停止させた。EtO各50mLで3回抽出し、合わせた有機相をNaSOで乾燥させた。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後、褐色に着色された油状物9.0gを得た。この油状物をカラムクロマトグラフィー(SiO 380g、4:1ヘプタン/酢酸エチル)で精製し、暗橙色の結晶生成物3.0gを得た。収量:3.0g、理論量の42%。
【0072】
【表4】

【0073】
実験手順:
全ての反応をシュレンク(Schlenk)の技法を用いて、保護ガス雰囲気下で行った。
【0074】
水素化の概要:
適切な前処理後、個々の触媒溶液を、不活性雰囲気にした50mLの小型オートクレーブ(アルゴンの注入と脱気3回)に移し、出発物質(基質)及び塩基を続けて添加した。その後、オートクレーブを密閉し、水素を所望の圧力まで注入した。磁気攪拌器の電源を入れることにより反応を開始した。水素化時間が経過した時、磁気攪拌器を止め、オートクレーブを排気した。GC分析のためのサンプルを採取し、収率及び転化率を求めた。
【0075】
転化率及びee値の決定:
1回の分析工程で、前記基質について転化率及びee値を求めた。
カラム:Beta−Dex 110(30m);110℃の等温;キャリアガスとして100kPaのH
反応剤1=5.6分;E1=7.7分;E2=8.1分。
反応剤5=8.8分、E1=12.5分;E2=13.0分。
反応剤7=6.2分、E1=8.4分;E2=8.8分。
カラム:Beta−Dex 110(30m);110℃の等温;キャリアガスとして120kPaのH
反応剤4=23.4分;E1=25.7分;E2=26.7分。
反応剤6=7.3分;E1=13.6分;E2=14.3分。
カラム:Beta−Dex 110(30m);130℃の等温;キャリアガスとして100kPaのH
反応剤2=5.7分、E1=9.5分;E2=10.9分。
反応剤3=7.7分、E1=11.1分;E2=11.7分。
【0076】
結果
使用した反応剤、反応条件及び得られた結果に関する実験1〜64の詳細を以下の表1に列挙した。
【0077】
【表5】



【0078】
実験1及び2:典型的な移動水素化条件下でこれらの実験を行った。イソプロパノール10mLに、[RuCl(PPh)(A)]0.005mmol、基質1 1mmol、及び塩基としてiPrOK 0.025mmolを添加した。実験1においてはアルゴン下、実験2においては水素圧1.1bar下で、室温で反応を行った。
【0079】
実験3〜59:個々の触媒は、配位子0.1mmol及び[RuCl(PPh]0.1mLを、トルエン20mL中で還流条件下1時間反応させることにより、「その場で」調製した。次いで、得られた溶液2mLを、20mLフラスコ中の基質2mmolに添加した。次いで、1モルのNaOH水性溶液1mLを添加し、フラスコを多数並列(multiparallel)オートクレーブ中に入れた。次いで、水素を80barの圧力に1時間注入した(他に言及しない限り、表を参照)。
【0080】
実験60〜62:シュレンクフラスコ(Schlenk flask)に、実験60においては、[RuCl(PPh)(A)]0.005mmol、基質50mmol、トルエン18mL及び1モルのNaOH水性溶液1mLを仕込み、実験61においては、基質250mmol、トルエン2mL及び1モルのNaOH水性溶液1mLを仕込んだ。組成物を50mLのオートクレーブに入れ、実験60においては1時間、実験61においては78時間、80barの水素圧下に供した。反応62については、反応を「混ぜ物なし(neat)」(すなわち、トルエンの添加なし)で行った以外は、実験60と同じ反応条件を用いた。
【0081】
実験63〜65:シュレンクフラスコに、[RuCl(PPh]0.005mmol、配位子0.005mmol及びトルエン9mLを仕込み、還流条件下で1時間保持した。次いで、基質100mmol及び1モルのNaOH水性溶液1mLを、「その場で」調製した触媒に室温で添加した。組成物を50mLのオートクレーブに入れ、20barの水素圧下に1時間又は1.5時間供した(表を参照)。
【0082】
結果の考察
代表的な移動水素化条件下で行った最初の2つの比較実験は、水素圧1.1barの適用は活性にほとんど影響を与えないが、より高いエナンチオ選択性を可能にすることを示している。この関心を引く、重要な結果は、水素を用いた水素化が、移動水素化の主要な欠点(すなわち、エナンチオ選択性の割合が時間と共に減少していく(平衡に近づく)こと)を防ぐことが可能であることを示している。また、20〜80barの高圧下で、イソプロパノールではなくトルエンのような有機溶媒の存在下での水素化については、50000までのターンオーバー数を達成することができることを示すことができた。また、水素化しにくいことが知られているイソブチロフェノン(基質6)のような基質を、同様の条件下で、高いエナンチオ選択性(ee=97.2%)で水素化することができたことは注目に値する。
【0083】
イミンの水素化(基質8):
【0084】
【化23】

【0085】
【表6】

【0086】
実験66及び67:個々の触媒は、配位子0.1mmol及び[RuCl(PPh]0.1mLを、トルエン20mL中で還流条件下1時間反応させることにより、「その場で」調製した。次いで、得られた溶液2mLを、20mLフラスコ中の基質2mmolに添加した。次いで、1モルのNaOH水性溶液1mLを添加し、フラスコを多数並列(multiparallel)オートクレーブ中に入れた。次いで、水素を80barの圧力に16時間注入した。結果を上の表2に列挙した。
【0087】
結果の考察:
イミンのような水素化困難な基質を用いた場合でさえ、ケトンで記載したのと同様の水素化条件に従って水素化が進行したということは非常に興味深いことである。90%eeより高い注目すべきエナンチオマー過剰率を達成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素−ヘテロ原子二重結合を含有する基質を水素化するための方法であって、
水素化触媒及び塩基の存在下、該基質を水素と反応させる工程を含み、
水素化触媒が、式(I):
[XYRu(PR)(P−Z−N)] (I)
〔式中、
X、Yは、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1〜8アルコキシ若しくはC1〜8アシルオキシ基であるか、又は少なくとも1組の自由電子対を有するヘテロ原子(例えば、(シクロ)アルキル/アリールオキシ、シクロアルキルチオ又はシクロアルキルアミノ基の形態で)を少なくとも1つ含有する配位結合した有機溶媒分子であり、この場合に得られるカチオン性錯体の電荷は、アニオン、例えば、CN、OCN、PF又はFC−SOによりバランスされており、
、R、及びRは、各々独立して、アルキル、アルキルオキシ、アルキルチオ、ジアルキルアミノ、シクロアルキル、シクロアルキルオキシ、シクロアルキルチオ、ジシクロアルキルアミノ、アリール、アリールオキシ、アリールチオ又はジアリールアミノ基であり、場合により、C1〜4アルキル基及びC1〜4アルコキシ基から各々独立して選択される1、2又は3個の基で置換されているか、あるいはR、R、及びR基の1つが上に定義されたとおりであり、残りの2つの基が、酸素ブリッジを介して又は直接にリン原子と結合し、リン原子を含む4〜8員環の、場合により置換された環を形成しており、
P−Z−Nは、sp混成した窒素原子を含有し、式(II):
【化1】


(式中、
、Rは、各々独立して、場合により置換されている、直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜8アルキル若しくはC2〜8アルケニル基;場合により置換されている、C6〜18アリール、C3〜18ヘテロアリール、C3〜8シクロアルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−(ヘテロ)アリールであり、ここで、可能な置換基は、ハロゲン、有機ハロゲン基、O(C1〜8)アルキル、N(C1〜8アルキル)であるか;あるいはR及びRは一緒になって、リン原子を含む5〜10原子で構成される飽和又は芳香族の環となり、
、Cは、各々、少なくとも6つのπ電子を有する芳香族化合物の一部分であるが、場合により置換された(ヘテロ)アリールであり、
は、水素原子、場合により置換されている、直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル基、場合により置換されている芳香族環、あるいは−OR6’若しくは−NR6”基であり、ここで、R6’及びR6”はRについて定義されたとおりであり、
は、水素原子、直鎖、分枝鎖又は環状鎖のC1〜10アルキル若しくはC2〜10アルケニル基、あるいはR7’CO若しくはR7’SO基であり、ここで、R7’はC1〜8アルキル若しくはアリール基であるか、
あるいは
及びRは一緒になって、5〜10の、場合により置換された環原子で構成される不飽和(ヘテロ)環となり、R及びRが結合した炭素原子及び窒素原子を含み、場合により、更なるヘテロ原子を含む〕を有する二座配位子である〕
で示される遷移金属錯体であることを特徴とする方法。
【請求項2】
式(I)中のX、Yが、各々独立して、水素原子又はハロゲン原子であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)中のX、Yが、各々、ハロゲン原子、特に塩素であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式(I)中のR、R、Rが、各々独立して、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、o−若しくはp−トリル、p−イソプロピルフェニル又はメシチル基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
式(I)中のR、Rが、各々独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、シクロヘキシル、フェニル、o−若しくはp−トリル、メシチル、α−若しくはβ−ナフチルから選択される基であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
式(II)中のC、Cが、メタロセンの配位子として、場合により置換されたベンゼンの形態、又は場合により置換されたシクロペンタジエニドイオンの形態である純正6π電子系の一部分であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
式(II)中のC及びCが一緒になって、5〜10の、場合により置換された環原子で構成される不飽和ヘテロ環になり、R及びRが結合した炭素原子及び窒素原子を含み、場合により、更なるヘテロ原子を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式(II)の配位子が、一般式(IIIb):
【化2】


〔式中、
n=1又は2、好ましくは1であり、
M=Fe、Ru、Os、好ましくはFeであり、
X=O、S又はN、好ましくはOであり、
、Rは、各々、式(II)のもとで与えられた定義に対応する基であり、
11は、C2〜8アルコキシアルキル、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくは、C1〜8アルキル、C6〜18アリール基、特にi−プロピルであり、そして
上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよく、
8、9、10は、各々独立して、C1〜8アルキル、C2〜8アルコキシアルキル、C6〜18アリール、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、C3〜8シクロアルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくはHであり、上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよい〕
で示される配位子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
式(IIIb)の配位子が、配位子A〜G:
【化3】


から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式(II)の配位子が、一般式(IV):
【化4】


〔式中、
n=1又は2、好ましくは1であり、
X=O、S又はN、好ましくはOであり、
、Rは、各々、式(II)のもとで与えられた定義に対応する基であり、
11は、C2〜8アルコキシアルキル、C7〜19アラルキル、C3〜18ヘテロアリール、C4〜19ヘテロアラルキル、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18(ヘテロ)アリール、(C1〜8アルキル)1〜3−C6〜18シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル、C3〜8シクロアルキル−C1〜8アルキル基、又は好ましくは、C1〜8アルキル、C6〜18アリール基、特にi−プロピルであり、そして
上述の基は、1つ以上のヘテロ原子、例えば、Hal、Si、N、O、P、Sにより置換されていてもよく、あるいは上記基は、それらの炭素骨格中に1つ以上のヘテロ原子、例えば、Si、N、O、P、Sを有していてもよく、
12、R13は、各々独立して、C1〜8アルキル、C2〜8アルコキシ基、又は好ましくはHであるか、あるいは一緒になって縮合シクロアルキル環又はアリール環となる〕
で示される配位であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
式(IV)の配位子が、式J:
【化5】


に対応することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
式(II)の配位子が、一般式(V):
【化6】


〔式中、
n、X、R、R及びR11は、各々、式(IV)に関し請求項10で定義されたとおりであり、R14及びR15は一緒になって、6π又は10π電子ヘテロ芳香族系となり、場合により、直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキル基により置換されており、可能なヘテロ原子は、N、O、又はSである〕
で示される配位子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
式(V)の配位子が、式H、I及びK:
【化7】


の1つに対応することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
水素化される基質がプロキラルイミン又はプロキラルケトンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
水素化される基質が、一般式(S):
【化8】


〔式中、R及びRは、各々独立して、水素原子、環状鎖、直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキル若しくはC2〜8アルケニル基、あるいは単環式又は多環式のアリール若しくはヘテロアリール基であり、場合により、直鎖若しくは分枝鎖のC1〜8アルキル基、C1〜8アルコキシ基、又はハロゲン原子により置換されている〕
で示されるプロキラルケトンであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
水素化される基質が、プロキラルの単環式又は多環式アリールケトン若しくはヘテロアリールケトンであり、場合により、直鎖又は分枝鎖のC1〜8アルキル基、C1〜8アルコキシ基、又はハロゲン原子によって置換されていることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
水素化される基質が、ケトン1〜7:
【化9】


の1つから選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。

【公表番号】特表2006−508161(P2006−508161A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556337(P2004−556337)
【出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050902
【国際公開番号】WO2004/050585
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】