説明

炭素ナノシート複合体の製造方法、並びに該方法により得られた複合体を用いた有機性汚染物質の除去方法及び除去剤

【課題】 有機性環境汚染物質を取り除くための処理剤を、高効率で、かつ、簡便な調製手段により提供する。
【解決手段】 予め有機チタン化合物を酸性水溶液中で加水分解して透明なチタニアを製造し、得られた透明ゾルを、層状グラファイト酸化物を塩基性水溶液中で撹拌することにより剥離して得られたシート状グラファイト酸化物の分散液と混合・撹拌し、その後、これを焼成して酸化チタン導入炭素ナノシート複合体を得、得られた該複合体を有機性汚染物質除去剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素ナノシート複合体の製造方法、並びに該方法により得られた複合体を用いた有機性汚染物質の除去方法及び除去剤に関するものであり、特に極微量の有機性汚染物質の除去に適した炭素ナノシート複合体の製造方法及び該炭素ナノシート複合体を用いた極微量の有機性汚染物質の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、残留性有機汚染物質(POPs)や環境ホルモン等の有機性環境汚染物質は、微量でも長期的に環境中に滞留し、人間を含む生物系に危害を及ぼすことが危惧されており、こうした極微量な有機性環境汚染物質の除去処理は、解決すべき重大な課題である。
これらの有機性環境汚染物質の除去処理方法として、吸着剤による吸着法、植物吸収法、触媒酸化、オゾン曝気、電気分解等による分解無害化法或いは吸着法と分解無害化法との組み合わせ等が挙げられることができ、これらに関する特許出願も数多く見られているが、いずれも対象物質の濃度は通常大きく、少ない場合でも数ppm以上である。
【0003】
例えば、特許文献1では、内分泌攪乱性物質含有水の処理方法として、ゼオライト等の疎水性多孔体からなる吸着剤を用い、又はこれに酸化触媒を担持させた吸着剤を用い、或はさらに光照射やオゾン曝気などを併用しているが、この例の場合でも最低で100ppb〜10ppmの濃度範囲の有機物にしか適用できず、しかも、吸着剤の調製(ポアサイズの要求や疎水基の表面接合等)や酸化剤の担持等手順が煩雑で経済性の観点から不利であるという問題がある。
【0004】
一方、本発明者らは、グラファイトを酸化して得たグラファイト酸化物をアルカリ中に分散し、或いは予め長鎖有機イオンで層間を拡張し、続いて金属或いは半金属酸化物のような硬い架橋剤を導入することにより、高表面積の含炭素多孔体複合体を合成できることを報告してきた(特許文献2、3参照)。さらに、本発明者らは、グラファイト酸化物層状体を、より少量の有機金属種又は有機半金属種を用いて、メカニカル的に両者を均一的に混合させることで、効率的に、かつ短時間で有機金属種をグラファイト酸化物の層間に挿入できることも見出してきた。このような方法で得られた有機金属種挿入グラファイト酸化物は規則的な層状構造を保っており、有機金属種又は有機半金属種の仕込み量の増加に伴い、層間距離が次第に増大する結果となり、このような方法で得られた有機金属種挿入グラファイト酸化物を炭化等の後処理をすることにより、表面積1000m/g以上の含炭素多孔体複合材料を恒常的に合成することができることを見出した。そして、これらの方法において、有機金属種として有機チタン化合物を含有させた場合には、酸化チタンにより層間が拡張されたグラファイト酸化物の層状物を製造することができ、さらに驚くべきことに酸化チタンがグラファイト酸化物層に挿入されているにもかかわらず、光触媒活性を有することを見出した(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2000−254666号公報
【特許文献2】特開2003−192316号公報
【特許文献3】特開2004−217450号公報
【特許文献4】特開2006−272266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、有機性環境汚染物質を取り除くための処理剤であって、さらに高効率で、かつ、調製手段が繁雑でない処理剤を提供することを目的とするものである。また、本発明は、極微量な有機性環境汚染物質を完全に除去し得る方法を提供することをもう1つの目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の目的を達成すべく研究を進める過程で、前記酸化チタンが層間に挿入されているグラファイト酸化物の層状物について更に検討した結果、前記特許文献4に記載されているような、長鎖有機アミン、長鎖界面活性剤又は長鎖アルコール等による予備拡張処理を施すことなく、単にグラファイト酸化物の層状物を塩基性溶液中で撹拌することにより剥離して得られたシート状グラファイト酸化物を用いることによっても、酸化チタンを導入しうるという知見を得た。また、導入する酸化チタンの原料として、予め有機チタン化合物を酸性水溶液中で加水分解して得られた透明ゾルを用いることにより、前記シート状グラファイト酸化物に導入される酸化チタンの結晶性を高めるとともに、その主成分を光触媒活性が高いアナターゼ微結晶とすることができることを見いだした。さらに、このようにして結晶性が高められた酸化チタンを、シート状グラファイト酸化物に導入してなる炭素ナノシート複合体は、従来の除去剤より速い除去速度で低濃度の有機性環境汚染物質を吸着・濃縮したうえに、光分解することができるものであることを発見するに至った。
【0007】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)予め有機チタン化合物を酸性水溶液中で加水分解して透明なチタニアを製造し、得られた透明ゾルを、層状グラファイト酸化物を塩基性水溶液中で撹拌することにより剥離して得られたシート状グラファイト酸化物の分散液と混合・撹拌し、その後、これを焼成することを特徴とする酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(2)前記焼成を、真空雰囲気下で行うことを特徴とする上記(1)の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(3)前記酸化チタンが、アナターゼ微結晶を主成分とすることを特徴とする上記(1)又は(2)の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの方法により得られた炭素ナノシート複合体からなり、その層間に有機性汚染物質が取り込むことができることを特徴とする有機性汚染物質除去用処理剤。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかの方法により得られた炭素ナノシート複合体を用いて、有機性汚染物質をその層間に取り込むことを特徴とする有機性汚染物質の除去方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により製造された炭素ナノシート複合体は、その層間に有機性汚染物質を取り込むことにより、低濃度で存在する有機性汚染物質を吸着、濃縮し、省エネルギーの条件下で完全に無害化することができ、特に数〜数十ppb程度の極低濃度有機性汚染物質の除去処理への対応が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において基材として用いられる、グラファイト酸化物の層状体は、例えばグラファイトを濃硫酸と硝酸との混合液中に浸し、塩素酸カリウムを加え、反応させるか、或いは濃硫酸と硝酸ナトリウムの混合液中に浸し、過マンガン酸カリウムを加え、反応させることにより調製される。これらの処理によりグラファイトの炭素原子の少なくとも一部は、sp状態からsp状態に変化し、いわゆるベンゼン環を形成している炭素原子のような状態から飽和の脂肪族の炭素原子の状態に変化し、これらの変化した炭素原子に酸素原子や水素原子などが結合して、層間に酸素原子を導入することができる。このようにして製造されたグラファイト酸化物層状体の層間距離は、通常0.6〜1.1nm程度である。
【0010】
本発明では、このようにして製造されたグラファイト酸化物の層状体を、塩基性水溶液中に分散させ、シート状グラファイト酸化物とするものである。
具体的には、グラファイト層状物を塩基性水溶液中で、好ましくは超音波処理等により、充分に撹拌、分散させることにより、グラファイト層状物の層間を剥離して、シート状グラファイト酸化物を得るものである。
【0011】
次に、このようにして層間が剥離されたシート状グラファイト酸化物に、酸化チタン前駆体を導入して、酸化チタンが導入されたシート状グラファイト酸化物からなる炭素ナノシート複合体を製造することができる。
この酸化チタン前駆体をシート状グラファイト酸化物に導入する方法としては、予め有機チタン化合物を酸性水溶液中で加水分解して透明なチタニアを製造し、得られた透明ゾルを、前記のシート状グラファイト酸化物の分散液と混合・撹拌する。
【0012】
使用される透明ゾルにおける有機チタン化合物の量を、モル数で、シート状グラファイト酸化物(GO)のイオン交換可能な量(以下、[H]と略す。)の70倍以下、好ましくは30倍以下、より好ましくは5〜25倍として、シート状グラファイト酸化物と透明ゾルとを機械的に攪拌して混合させる。
ここで、GOの[H]とは、重量単位あたりのGOの陽イオン交換容量(mmol/g)(Cation Exchange Capacity、CECと略す)に、GOの重量をかけたものである。GOのCECは、GOを水酸化ナトリウムで処理して、ナトリウムイオンに交換にした後、これを塩酸などの酸で滴定して決定することができる。
GOの[H]の値は、使用するグラファイトや酸化方法などにより異なるが、例えば、後記する実施例において製造されたGOのCECが、6.74mmol/gであった場合、このGOを1000g使用した場合には、その[H]は6.74モルであり、これに対する、酸化チタンのモル数が、70倍以下、好ましくは30倍以下、より好ましくは5〜25倍である酸化チタン前駆体を含有する酸化物前駆体を使用すればよいことになる。
【0013】
こうして酸化チタン前駆体が導入されたシート状グラファイト酸化物を用いて、酸化チタンが導入された安定な炭素ナノシート複合体を形成させるためには、前記方法によりシート状グラファイト酸化物に酸化チタン前駆体を導入した後、好ましくは50〜150℃で乾燥した後、次いで不活性雰囲気中で焼成することにより製造することができる。
焼成は、500〜1000℃、好ましくは500〜700℃の焼成温度で、1〜8時間加熱処理することにより行われる。当該焼成処理により、酸化チタンが導入された安定な本発明の炭素ナノシート複合体が得られる。
【0014】
本発明の方法において使用される少なくとも有機チタン化合物としては、前記した焼成処理により酸化チタンとなるものであればよく、好ましくは酸化チタンの大部分がアナターゼ型の酸化チタンの結晶となるものが好ましい。より具体的には、例えば、チタニアゾル、チタン酸と低級アルコールとのエステル、例えば、炭素数1〜4のアルコール、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールとのエステルが挙げられる。好ましい酸化チタン前駆体としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンなどが挙げられる。
【0015】
本発明の炭素ナノシート複合体はポアが形成されているため、光触媒により処理される有機性汚染物質などの被処理物が吸着されやすくなり、吸着されて酸化チタンと接触してよりよく分解されるものと考えられる。
【0016】
さらに、本発明は、前記した本発明の炭素ナノシート複合体を有機性汚染物質の除去剤として使用を提供するものである。本発明の炭素ナノシート複合体は、シート状グラファイト酸化物のシート上に、光触媒活性を有する酸化チタンが存在していることを特徴とするものである。本発明の除去剤は、大きな比表面積を有しているだけでなく、層間が拡張されて大きなポア径を有しており、吸着能に優れ、有機物を吸着して内部の酸化チタンに接触させることにより優れた分解能が発揮されるものと考えられる。
【0017】
本発明の除去用処理剤により除去される極微量の有機性汚染物質としては、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール類(PCB)、ポリ臭化ビフェニール類(PBB)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、ペンタクロロフェノール(PCP),2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、アミトロール、アトラジン、アラクロール、シマジン(CAT)、ヘキサクロロシクロヘキサン、エチルパラチオン、カルバリル(NAC)、クロルデン、オキシクロルデン、trans−ノナクロル、1,2−ジブロモ−3−クロロプロパン、DDT、DDE、DDD、ケルセン、アルドリン、エンドリン、ディルドリン、エンドスルファン(ベンゾエピン)、ヘプタクロル、ヘプタクロルエポキサイド、マラチオン、メソミル、メトキシクロル、マイレックス、ニトロフェン、トキサフェン、トリブチルスズ、トリフェニルスズ、トリフルラリン、アルキルフェノール(C5〜C9)、ノニルフェノール、4−オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ−2−エチルへキシル、フタル酸ジブチルベンジル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチル、ベンゾ(a)ピレン、2,4−ジクロロフェノール、アジピン酸ジ−2−エチルへキシル、ベンゾフェノン、4−ニトロトルエン、オクタクロロスチレン、アルディカーブ、ベノミル、キーポン(クロルデコン)、マンゼブ(マンコゼブ)、マンネブ、メチラム、メトリブジン、シペルメトリン、エスフェンバレレート、フェンバレレート、ペルメトリン、ビンクロゾリン、ジネブ、ジラム、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジプロピル等の環境ホルモン、及びフラン類などの残留性有機汚染物質などが挙げられる。
【0018】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1:シート状グラファイト酸化物の製造)
層状グラファイト酸化物(GO)として、Hummers及びOffemanの方法(W. Hummers and R. E. Offeman, J. Am. Chem. Soc., 80, 1339 (1958))により製造されたものを用いた。
この層状グラファイト酸化物(GO)の0.2gを、20mLの0.05N NaOH水溶液中に加え、これを30分間超音波処理により撹拌して、層状グラファイト酸化物を剥離し、シート状グラファイト酸化物(GO)とした。
得られたシート状グラファイト酸化物(GO)のCECは、6.74mmol/gであった。
(実施例2:透明チタニアゾルの製造)
テトライソプロポキシチタン(Ti(OC)8.52gを、0.36NのHCl水溶液中に加え、50℃で3〜5時間反応させ、透明なゾルを得た。
【0019】
(実施例3:炭素ナノシート複合体の製造)
実施例1で得られたシート状グラファイト酸化物(GO)の分散液と、実施例2で得られた透明チタニアゾルとを混合し、50℃で3時間撹拌した。
使用した透明チタニアゾルの量は、Tiのモル数で、GOの[H]に対して、22.3倍であった。
次いで得られた生成物を水洗し、真空乾燥した後、真空中、250℃、350℃、450℃、550℃、及び650℃で焼成して炭素ナノシート複合体(以下、「Ti−1.44−GO−22.3−T」と記載する。ここでTは焼成温度(℃)であり、1.44はテトライソプロポキシドに対するHClのモル比である。)を得た。
【0020】
(比較例1:グラファイト酸化物の層状体からなる複合体の製造)
一方、比較例として、前記層状グラファイト酸化物(GO)の0.2gを、アルカリ溶液中に分散せず、実施例2と同様な方法で得られた透明チタニアゾルと直接混合しただけのものを用いた以外は、実施例3と同様にして、層状グラファイト酸化物と酸化チタンの複合体(以下、「Ti−1.44−GO−22.3−T−nd」と記載する。ここで「1.44」及び「T」は前述したと同じであり、ndは、分散せずに直接混合したものであることを意味する。)を得た。こうして得られたものは、炭素ナノシートの層間にチタニア粒子がインタカレーションされている、実施例3のようなものではなく、外表面層の上だけにチタニアが担持されたものであり、以下、担持系複合体と呼ぶ。
また、GOと混合せず、クリアチタニアゾル液から水を蒸発させた後、それぞれ350℃及び550℃で真空焼成して単独のチタニア粉末(以下、それぞれ「TiO−350」、「TiO−550」と記載する。)を得た。
【0021】
図1は、実施例3で得られた複合体のX線回折パターンを示すものである。なお、該図中には、比較例として焼成をしなかったもののX線回折パターンを記載した。
図1から、焼成温度の増加に伴い、アナターゼの(101)面に由来するA(101)回折ピークが大きくなっていることから、アナターゼ結晶が次第に大きく成長しはじめるが、550℃をこえるとルチル結晶(R(110)ピーク)が生成しはじめることがわかった。
【0022】
(実施例4)
実施例3において、焼成温度を550℃とし、使用した透明チタニアゾルの量を、Tiのモル数で、GOの[H]に対して22.3倍とし、クリアゾル合成時に用いられたテトライソプロポキシドに対するHClのモル比(以下、xと記載する)を0.36、0.72、1.08、1.44、及び4と変化させた以外は実施例3と同様にして、炭素ナノシート複合体(以下、「Ti−x−GO−22.3−550」と記載する。)を得た。
図2は、該実施例で得られた複合体のX線回折パターンを示すものである。
図2から、x=4という高いx値は、アナターゼ結晶サイズに大きく影響せず、ルチル結晶の成長を促進することがわかった。
【0023】
(実施例5)
実施例4において得られた炭素ナノシート複合体、及び比較例1で得られた担持系複合体(Ti−1.44−GO−22.3−T−nd)と単独のチタニア粒子(TiO−350、TiO−550)について、熱重量分析からTiO含有量(wt%)を、X線回折法からアナターゼ結晶サイズ(LA(101)/nm、ここで、LA(101)=0.9λ/βcosθ;なお、λ=0.15418nm(CuKα線波長)、β=A(101)の回折ピークの半値幅、θ=回折角度)とチタニア結晶中のアナターゼ結晶の重量比(AF/wt%、ここで、AF=100×IA(101)/(IA(101)+1.265IR(110));なお、IA(101)、IR(110)は、それぞれA(101)、R(110)回折ピーク強度)を、窒素吸着等温線に対するBET解析からBET比表面積(SBET/m−1)及び窒素吸着等温線に対するBJH解析からメソポア容積(Vmeso/mlg−1)、メソポアサイズ(Dmeso/nm)をそれぞれ決定した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1から、(1)xの値によらず、Ti−x−GO−22.3―550サンプルのチタニア含有量がほぼ同じであること、(2)GOを分散剥離して得た炭素ナノシート複合体のチタニア含有量がGO未分散で得られた担持系複合体(比較例)のチタニア含有量より多いこと、(3)x=0.72の時に、比表面積が一番多いこと、(4)xの値によらずメソポアサイズが4nm前後であること、(5)xが大きくなるに伴い、Ti−x−GO−22.3―550サンプルのアナターゼ結晶サイズが大きく変化しないが、アナターゼ結晶の含有量が次第に少なくなること、(6)複合体の比表面積とメソポア容量が、チタニア単独のそれよりも大きいことなどがわかる。
これらの結果から、細孔性やチタニア含有量・結晶サイズ/成分等の総合的な観点に於いて炭素ナノシート複合体が担持系複合体や単独のチタニア粉末より優れた特性を有するといえる。
【0026】
(実施例6)
30℃において初濃度(Cと記載する)50ppmのメチルオレンジ(以下、「MO」と記載する。)溶液中に、2L溶液/1gサンプルの割合で、実施例4で得られた炭素ナノシート複合体(Ti−x−GO−22.3―550)を投入し、暗状態及び光照射状態下でのMO濃度の経時変化を測定した。
その結果を図3に示す。図中、「暗状態」とは、光が完全にカットされた状態であり、サンプルのMOに対する吸着作用だけが働く状態である。一方、「光照射状態」とは、暗状態で24時間吸着平衡させた後、6×15Wの殺菌灯で光照射を行う状態であり、光分解作用だけが働く状態である。また、図中、○は、x=0.36、□は、x=0.72、▲は、x=1.08、●は、x=1.44、◆は、x=4、である場合をそれぞれ示している。
【0027】
図3からすべての炭素ナノシート複合体において暗状態下24時間経過後のMO濃度が5割以下減少し、これらの複合体がMOに対する吸着作用が優れていることがわかる。一方、光照射状態下ではどの複合体もMOの濃度が時間と共に減少し続け、x<1.08で合成した複合体において更に2日でMOの濃度がゼロ近くになった。
以上のことから、当該炭素ナノシート複合体が、吸着濃縮作用だけでなく、光分解活性も有しており、この両方による協同作用で効率よく低濃度有機汚染物質を除去できるといえる。
【0028】
(比較例2)
実施例6と同様な方法及び条件下で、担持系複合体及び単独のチタニア粉末のMOに対する除去効果を検討した。図4に、これらサンプルの暗状態及び光照射状態に於けるMO濃度の経時変化を、実施例6における炭素ナノシート複合体のそれらと比較した。図中、▽は、担持系複合体(Ti−1.44−GO−22.3−T−nd)、△は、単独のチタニア粉末(TiO−350)、◇は、単独のチタニア粉末(TiO−550)、である場合をそれぞれ示している。
図4から、担持複合体に対し、炭素ナノシート複合体の複合状態が優れているため、また、単独のチタニア粉末に対し、炭素ナノシート複合体の細孔性が良く、有機物に対する炭素ナノシートの親和性があるため、炭素ナノシート複合体のMOに対する吸着性が大変優れていることが分かる。従って、光照射状態での除去効果に暗状態での吸着濃縮効果を加味して考えると、低濃度MOに対する除去速度が炭素ナノシート複合体の場合、担持複合体及び単独のチタニア粉末に比べ、大きく向上されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、光触媒として有用なアナターゼ結晶を主成分とする二酸化チタンが導入されたシート状グラファイト酸化物、及び優れた吸着濃縮特性と強い光触媒活性を有する有機性汚染物質除去剤を提供するものであり、しかも光触媒の活性点がシート状グラファイト酸化物のシート上に存在していることから、低濃度の有機性汚染物質に対し選択的に取り除くことができる。したがって本発明を生鮮野菜等の表面処理用水や飲用水等に好適な有機汚染物質が高度に除去された超清浄水の製造に利用することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例3で得られた複合体のX線回折パターンを示す図
【図2】実施例4で得られた複合体のX線回折パターンを示す図
【図3】本発明の炭素ナノシート複合体のMOに対する除去効果を示す図
【図4】本発明の炭素ナノシート複合体と、担持系複合体及び単独のチタニア粉末のMOに対する除去効果の比較図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め有機チタン化合物を酸性水溶液中で加水分解して透明なチタニアを製造し、得られた透明ゾルを、層状グラファイト酸化物を塩基性水溶液中で撹拌することにより剥離して得られたシート状グラファイト酸化物の分散液と混合・撹拌し、その後、これを焼成することを特徴とする酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成を、真空雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタンが、アナターゼ微結晶を主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化チタン導入炭素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの方法により得られた炭素ナノシート複合体からなり、その層間に有機性汚染物質が取り込むことができることを特徴とする有機性汚染物質除去用処理剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの方法により得られた炭素ナノシート複合体を用いて、有機性汚染物質をその層間に取り込むことを特徴とする有機性汚染物質の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−266039(P2008−266039A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107467(P2007−107467)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第87春季年会(2007)講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、「試験研究調査委託費(地球環境保全等試験研究に係るもの)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】