説明

炭素構造体及びその製造方法、並びに金属−炭素複合構造体

【課題】 比表面積が大きく、且つ単位比表面積あたりの電気容量の極めて大きい電気二重層キャパシタ用電極を得る上で有用な炭素構造体を得る。
【解決手段】 互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bが除去され、且つ炭化された炭素構造体。前記炭素構造体には微細空孔を有する多孔質体が含まれる。前記相Aは3次元架橋構造を有しているのが好ましい。相Aを構成するポリマー鎖は、例えば、熱硬化型、重合型又は化学結合型の架橋により3次元架橋された樹脂で構成されていてもよい。また、相Bを構成するポリマー鎖が、ポリジエン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート及びポリアミドから選択された樹脂で構成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック又はグラフトコポリマーにより形成されるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から得られる炭素構造体、該炭素構造体の製造方法、該炭素構造体からなる電気二重層キャパシタ用電極、該炭素構造体から得られる金属−炭素複合構造体とその製造方法、該金属炭素−複合構造体からなる燃料電池用電極、並びにこの燃料電池用電極を備えた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー貯蔵デバイスとして電気二重層キャパシタの研究が盛んに行われている(特許文献1等)。電気二重層キャパシタは、パソコンのバックアップ電源、自動車用電源などとして利用される。また、燃料電池の開発も精力的に行われている(特許文献2等)。これら電気二重層キャパシタや燃料電池の電極材料として炭素電極が用いられるが、特に、比表面積が大きいことから活性炭の利用が検討されている。活性炭の表面積は表面のクラックの形状によって決まるが、クラックは活性炭内部を貫通しておらず、活性炭の表面近傍だけが機能化に寄与している。
【0003】
【特許文献1】特開2003−229336号公報
【特許文献2】特開2003−317728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、比表面積が大きく、且つ単位比表面積あたりの電気容量の極めて大きい電気二重層キャパシタ用電極及び燃料電池用電極、並びに該燃料電池用電極を備えた燃料電池を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記のような優れた特性を有する電気二重層キャパシタ用電極を得る上で有用な炭素構造体及びその簡易な製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記のような優れた特性を有する燃料電池用電極を得る上で有用な金属−炭素複合構造体及びその簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討の結果、互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体に対して特定の操作を施すと、比表面積が大きく、しかも内部まで貫通する孔を有する炭素構造体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bが除去され、且つ炭化された炭素構造体を提供する。前記炭素構造体には微細空孔を有する多孔質体が含まれる。前記相Aは3次元架橋構造を有しているのが好ましい。
【0007】
相Aを構成するポリマー鎖は、例えば、熱硬化型、重合型又は化学結合型の架橋により3次元架橋された樹脂で構成されていてもよい。また、相Bを構成するポリマー鎖が、ポリジエン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート及びポリアミドから選択された樹脂で構成されていてもよい。
【0008】
相Bの除去法としては、例えば、主鎖切断、フリー末端からの解重合、又はブロック結合点解離後の溶剤による洗浄除去などの方法が挙げられる。
【0009】
互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーとしては、例えば、フェノール骨格を有するポリマーとポリジエンとからなるブロック又はグラフトコポリマーが好ましい。
【0010】
上記炭素構造体には、ポリヒドロキシスチレンとポリジエンからなるブロック又はグラフトコポリマーにより形成されるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体のポリヒドロキシスチレン相をホルムアルデヒドとの脱水縮合反応により3次元架橋した後、ポリジエン相をオゾン分解により除去して得られるポリマー多孔体を炭化して得られる炭素構造体が含まれる。上記炭素構造体には、また、フェノール樹脂硬化前駆体とポリジエンからなるブロック又はグラフトコポリマーにより形成されるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体のフェノール樹脂硬化前駆体相を硬化して3次元架橋した後、ポリジエン相をオゾン分解により除去して得られるポリマー多孔体を炭化して得られる炭素構造体も含まれる。
【0011】
本発明は、また、互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bを除去し、且つ炭化することを特徴とする炭素構造体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、上記の炭素構造体からなる電気二重層キャパシタ用電極を提供する。
【0013】
本発明は、さらにまた、上記の炭素構造体の表面に金属微粒子を担持した金属−炭素複合構造体を提供する。前記金属微粒子は、白金又はパラジウムが好ましい。
【0014】
本発明は、また、上記の炭素構造体の表面をメッキして、炭素構造体の表面に金属微粒子を担持させることを特徴とする金属−炭素複合構造体の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、さらに、上記の金属−炭素複合構造体からなる燃料電池用電極を提供する。
【0016】
本発明は、さらにまた、上記の燃料電池用電極を構成要素として含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比表面積が大きく、且つ単位比表面積あたりの電気容量の極めて大きい電気二重層キャパシタ用電極及び燃料電池用電極、並びに該燃料電池用電極を備えた燃料電池が提供される。また、本発明によれば、上記のような優れた特性を有する電気二重層キャパシタ用電極を得る上で有用な炭素構造体及びその簡易な製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、上記のような優れた特性を有する燃料電池用電極を得る上で有用な金属−炭素複合構造体及びその簡易な製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の炭素構造体は、互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bが除去され、且つ炭化されている。
【0019】
相Aを構成するポリマー鎖としては、炭化の際に構造が壊れないような樹脂で構成されていれば特に限定されない。このような樹脂として、例えば、ポリイミド樹脂等の高耐熱性樹脂や、架橋樹脂などが用いられる。架橋樹脂には、例えば、熱硬化型、重合型又は化学結合型の架橋により3次元架橋された樹脂が含まれる。相Aを構成するポリマー鎖が3次元架橋された樹脂である場合、相Aは3次元架橋構造をとる。
【0020】
前記熱硬化型の架橋には、例えば、レゾール樹脂やノボラック樹脂等のフェノール樹脂硬化前駆体を硬化して得られるフェノール系樹脂;尿素樹脂、メラミン樹脂等のアミノ系樹脂;エポキシ樹脂;架橋型ポリエステル樹脂;架橋型ポリウレタン樹脂;架橋型シリコーン樹脂、架橋型ポリイミド樹脂などにおける架橋(硬化)が含まれる。フェノール系樹脂はフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類の付加縮合反応により生成する硬化前駆体(レゾール樹脂、ノボラック樹脂等)を、自己縮合させたり、硬化剤(ヘキサメチレンテトラミン、パラホルムアルデヒド等)を用いて架橋(硬化)させることにより得られる。アミノ樹脂は尿素、メラミン又はグアナミン等とホルムアルデヒド等のアルデヒド類の付加縮合反応により得られる。エポキシ樹脂の架橋には、アミン、ルイス酸、カルボン酸、カルボン酸無水物、イソシアナートなどの硬化剤が用いられる。
【0021】
重合型の架橋には、多官能ビニルモノマー(例えば、ジビニルベンゼン等)の単独又は共重合体のラジカル重合による架橋などが含まれる。この場合の架橋剤として、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等のジビニルモノマーなどが用いられる。
【0022】
化学結合型の架橋には、ピリジン骨格、キノリン骨格等の含窒素複素環骨格、N,N−ジ置換アミノ基などの塩基性の窒素原子含有基を構成する窒素原子の多官能ハロゲン化アルキル(例えば、ジヨードブタン等)による4級化などによる架橋が含まれる。
【0023】
相Aを構成するポリマー鎖が架橋樹脂である場合、架橋前のポリマー鎖としては、架橋可能な骨格又は官能基、例えば、フェノール骨格、尿素骨格、メラミン骨格、グアナミン骨格、エポキシ基、アミノ基、イミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子、シラノール基、アルコキシシリル基、ハロシリル基、炭素−炭素二重結合などを有する樹脂で構成されたポリマー鎖が例示される。
【0024】
相Aを構成するポリマー鎖の代表的な例として、主鎖に前記架橋可能な骨格を有する重合体(フェノール樹脂硬化前駆体など)の架橋体(硬化体)(フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂硬化物等)、側鎖に前記架橋可能な骨格又は官能基を有する芳香族ビニル化合物の重合体(ポリスチレン類、ポリビニルナフタレン類、ポリビニルピリジン類、ポリビニルカルバゾール類など)の架橋体、側鎖に前記架橋可能な骨格又は官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体等のアクリル系ポリマーの架橋体、架橋型ポリエステル樹脂、架橋型ポリウレタン樹脂、架橋型シリコーン樹脂、架橋型又は線状ポリイミド樹脂などが挙げられる。相Aを構成するポリマー鎖としては、特に、ポリ(p−ヒドロキシスチレン)等の架橋可能な骨格又は官能基を有する芳香族ビニル化合物の重合体の架橋体や、フェノール樹脂硬化前駆体の架橋体(硬化体)が好ましい。
【0025】
相Bを構成するポリマー鎖としては、相Aを構成する樹脂とミクロ相分離構造を形成可能な樹脂で構成され、該相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造から除去可能なポリマー鎖であれば特に限定されない。このようなポリマー鎖として、例えば、ポリジエン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミドなどが挙げられる。
【0026】
好ましいブロック又はグラフトコポリマーとして、ポリヒドロキシスチレンやフェノール樹脂硬化前駆体等のフェノール骨格を有するポリマー(鎖)とポリジエン(鎖)とからなるブロック又はグラフトコポリマーなどが挙げられる。
【0027】
本発明におけるブロックコポリマー又はグラフトコポリマーは、例えば、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、リビングラジカル重合などのリビング重合により、逐次ポリマー鎖を成長させる方法、末端に官能基を導入したポリマー(末端変性ポリマー等)2種類を合成し、末端官能基同士を反応させて結合する方法などにより製造できる。末端に官能基を導入する方法としては、例えば、重合開始剤、重合停止剤、連鎖移動剤等に官能基を持った化合物を使用する方法等が挙げられる。結合に利用する反応としては、例えば、エステル化、エーテル化、酸無水物化、アミド化などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、重合を阻害するような置換基を有するモノマーについては、該置換基を保護基で保護した状態で重合に付した後、適宜な段階で保護基を外してもよい。
【0028】
ブロックコポリマーやグラフトコポリマーの数平均分子量(各ブロックの分子量の総和)は、一般に1000〜1000000程度である。数平均分子量が小さすぎると相分離しない可能性があり、大きすぎると製造が困難になるとともに、多孔化した時の孔径が大きくなり、ブロックコポリマーを使用するメリットが小さくなる。従って、前記数平均分子量は、好ましくは2000〜200000、さらに好ましくは5000〜100000程度である。ブロックコポリマーを構成する各ブロックの数平均分子量は、例えば500〜500000、好ましくは1000〜100000、さらに好ましくは2500〜50000程度である。
【0029】
前記ブロックコポリマーには、2種のポリマー鎖がその各々の末端で結合したジブロックコポリマー、3種のポリマー鎖がその各々の末端で結合したトリブロックコポリマーなどが含まれるが、ジブロックコポリマーが特に好ましい。グラフトコポリマーにおける分岐の数は、特に限定されないが、相分離のしやすさの点から、ポリマー1分子あたり1〜10程度、特に1が好ましい。
【0030】
相Aを構成するポリマー鎖を架橋樹脂とする場合には、上記で得られたブロックコポリマーの1つのブロック(グラフトコポリマーの場合は幹ポリマー又は枝ポリマー)を架橋させる。架橋の方法は該ブロックの有する架橋可能な骨格又は官能基の種類に応じて適宜選択される。例えば、ポリ(p−ヒドロキシ)スチレンブロックを有するコポリマーでは、フェノール系樹脂の架橋に準じて、アルカリ存在下でホルムアルデヒド等のアルデヒドを反応させ、次いで加熱して縮合させたり硬化剤を反応させることにより架橋させることができる。また、フェノール樹脂硬化前駆体のブロックを有するコポリマーにおいても、例えば硬化剤を反応させることにより架橋させることができる。架橋率は焼成時(炭化時)に構造が破壊しない程度必要である。
【0031】
相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造は、一般的な方法、例えば、ポリマー溶液から溶媒を蒸発により除去する方法(キャスティング法)等により形成できる。なお、前記ポリマー溶液には、ブロックコポリマー(又はグラフトコポリマー)のほか、ブロックを構成する樹脂(又は幹ポリマー若しくは枝ポリマー)に対応するホモポリマーを含んでいてもよい。このホモポリマーの量によりミクロ相分離構造の形状を調整することもできる。このホモポリマーは、重合時に副生するポリマーであってもよいが、別途合成して得たポリマーを添加してもよい。添加するポリマーは、対応するブロック(又は幹ポリマー若しくは枝ポリマー)を構成する樹脂と相分離しない限り、該ブロック(又は幹ポリマー若しくは枝ポリマー)を構成する樹脂と全く同一の構造でなくてもよい。
【0032】
ミクロ相分離構造の形状は、2つの相の割合によって相違し、例えば、相Aと相Bの割合(重量比)が、40:60〜60:40の範囲では通常ラメラ構造(板状)となり、前記割合が64:36付近では共連続構造(テトラポット形状の相Bが相Aからなるマトリックスに分散している状態)をとり、前記割合が70:30〜80:20の範囲では通常シリンダ形状(相Bがシリンダ形状、相Aがマトリックス)となり、前記割合が90:10付近では通常球状(相Bが球状、相Aがマトリックス)となる。本発明では、炭化後の炭素構造体の比表面積を高める観点から、共連続構造又はシリンダ形状が特に好ましい。従って、相Aと相Bの割合(重量比)は60:40〜80:20の範囲が特に好ましい。
【0033】
本発明では、こうして得られた相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bが除去される。相Bの除去は、相Bを構成するポリマー鎖の種類に応じて、主鎖切断(炭素−炭素二重結合のオゾン分解等)、フリー末端からの解重合、ブロックの結合点解離後の溶剤による洗浄除去などにより行われる。例えば、前記ポリジエンはオゾン分解により除去できる。また、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミドは、フリー末端からの解重合により、或いはブロックの結合点を酸などにより解離させた後、有機溶剤で洗浄することにより除去できる。相Bが除去されると、相Bの形状に相当する空孔が形成され、例えば、直径数十nm程度(例えば、10〜100nm、好ましくは10〜50nm程度)の微細連続孔を多数有する多孔質体(多孔性フィルム等)を得ることができる。
【0034】
本発明において、炭化(炭素化)は、酸素非存在下(嫌気性雰囲気下)、例えば窒素雰囲気下で焼成することにより行われる。あまりにも高温で焼成すると、炭素の結晶化(グラファイト化)が進行して多孔構造が破壊され、比表面積が小さいものとなる。また、低温で焼成すると電気伝導度が低くなる。このような観点から、焼成温度は、一般に500〜2000℃であり、好ましくは600〜1500℃、さらに好ましくは600〜1000℃である。上記炭化により、直径数十nm程度(例えば、10〜100nm、好ましくは10〜80nm程度)の微細連続孔を多数有する炭素構造体を得ることができる。
【0035】
こうして得られる炭素構造体は電極の材料として利用できる。電極の材料として利用する場合、焼成して得られた炭素構造体をそのまま用いてもよいし、焼成後の炭素構造体を粉体化した後、必要な形状に成形して用いてもよい。このように成形したものも本発明の炭素構造体に含まれる。成形方法としては、粉体を必要な形状にホールドしておいて再焼成して固める方法、粉体を適当なバインダと混合して成形する方法などが挙げられる。
【0036】
例えば、前記炭素構造体は、電気二重層キャパシタ用電極の材料として利用できる。電気二重層キャパシタ用電極は、前記炭素構造体を適当な大きさに切断したり、成形することにより得ることができる。なお、電気二重層キャパシタは、前記多孔質の炭素構造体を分極電極とし、この分極電極とステンレス、白金、グラファイト板などの集電体とを導電性接着剤で接着して正極と負極とを作製し、セパレータを挟んだ状態でフッ素樹脂製フレームなどの容器に収納し、容器内に電解液を注入することにより製造できる。分極電極の厚さは、例えば5〜300μm、好ましくは10〜200μm程度である。セパレータとしては、公知のものを使用でき、例えば、コンデンサーペーパー、電解紙、微孔性のポリオレフィンフィルム、ポリオレフィン製不織布などが例示される。電解液は水溶液系電解液、非水電解液の何れであってもよく、通常用いられる電解液を使用できる。
【0037】
前記炭素構造体は、表面に金属微粒子を担持することにより、金属−炭素複合構造体として利用できる。金属−炭素複合構造体は、前記炭素構造体の表面に金属微粒子を担持することにより製造できる。金属微粒子の金属としては、例えば、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウムなどの貴金属、ニッケル、銅などの他の遷移金属などが挙げられる。それらの金属の合金であってもよい。これらのなかでも、パラジウム又は白金が好ましい。金属微粒子の粒子径は10nm以下(例えば、1〜10nm、特に1〜5μm程度)であるのが好ましい。金属微粒子の担持量は、用途によっても異なるが、前記炭素構造体に対して、通常0.1〜60重量%程度、好ましくは0.5〜40重量%程度である。
【0038】
金属微粒子の担持法としては、特に制限はないが、メッキにより金属微粒子を炭素構造体表面に担持する方法が好ましい。なかでも、金属イオンの無電解メッキ(化学メッキ)により担持する方法が好ましい(特開平10−330528号公報参照)。無電解メッキの後、電解メッキ等を行うことができる。
【0039】
上記方法をより詳しく説明すると、前記炭素構造体を、例えば界面活性剤等による親水性処理、Sn2+の吸着処理、Pd(0)の担持処理等の前処理を行った後、担持させたい金属の無電解メッキ液に浸すことにより、炭素構造体の内表面(孔壁)に該金属を析出させることができる。この際に、孔を覆い隠す形で金属が析出するのを抑制するため、金属の析出はゆっくり行うのが好ましい。すなわち、通常よりメッキ液の濃度を薄くしたり低い温度(例えば、室温以下の温度)で無電解メッキを行うことにより、微細孔の内部表面に金属を析出させることができる。この方法によると、空孔内での金属の析出はその空孔内に存在している金属イオンの量に支配されるため、メッキの初期過程、すなわち金属の超微粒子形成過程で止まり、金属の析出量の増加に伴い、それらの金属微粒子が互いに接触し合い、結果として空孔壁をかたどった中空の3次元ネットワーク構造状の金属超微粒子集合体を形成する。金属−炭素複合構造体の厚みは、用途によっても異なるが、例えば3〜100μm程度である。
【0040】
こうして得られる金属−炭素複合構造体は、例えば還元反応、酸化反応等の触媒として利用できる。中でも特に重要な利用例として、燃料電池の電極材料が挙げられる。また、この燃料電池用電極と電解質により燃料電池を構成できる。燃料電池の構造は特に制限はなく、従来公知の燃料電池と同様の構造を採用できる。電解質としても特に制限は無く、公知の種々の電解質を使用できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0042】
実施例1
(ブロックコポリマーの合成)
ゴムキャップをして王冠で栓をした1Lの耐圧ガラス容器を、n−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液で内部洗浄し、モレキュラーシーブ上で乾燥窒素バブリングすることにより窒素置換したシクロヘキサンですすいだ。この耐圧容器に、上記と同様の方法で窒素置換したシクロヘキサン49.8g、テトラメチルエチレンジアミン0.8g、p−t−ブトキシスチレン9gを導入した。この容器を氷冷し、n−ブチルリチウムの0.158Mシクロヘキサン溶液2mlを導入することで、リビングアニオン重合を開始した。氷冷したまま2時間重合を続けた後、溶液の一部をサンプリングした。続いて、イソプレン8mlを添加し、50℃に加熱した。3時間後、窒素置換したメタノール1mlを添加し、重合を停止した。上記サンプリングした液も、同様に窒素置換したメタノールを添加して重合を停止した。
p−メトキシフェノール(重合禁止剤)を添加した10倍量のメタノールに重合液を滴下してポリマーを沈殿させ、濾別乾燥することにより、ポリ(p−ヒドロキシスチレン)−b−ポリイソプレンブロックコポリマーを精製回収した。このブロックコポリマーの数平均分子量は71000であったが、イソプレン添加時に含まれる不純物によりリビングアニオンが停止したポリ(p−t−ブトキシスチレン)ホモポリマー由来と思われる数平均分子量30000のピークが約30%存在する。なお、前記サンプリングにより得られたポリ(p−t−ブトキシスチレン)の数平均分子量はポリスチレン換算で29000であった。
還流管を装着したフラスコ中で、前記回収したポリマー15gをテトラヒドロフラン150gに溶解し、6N塩酸7mlを加えて、60℃で24時間撹拌反応し、ポリマー中のp−t−ブトキシスチレン単位をp−ヒドロキシスチレン単位に変換した。得られた反応液を、p−メトキシフェノール15mgを加えた蒸留水1.5Lに添加して、ポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを再度テトラヒドロフランに溶解して、10重量%溶液にした後、10倍量の蒸留水に添加することで再度沈殿させ、ポリマー[ポリ(p−ヒドロキシスチレン)−b−ポリイソプレンブロックコポリマーを主成分とする]を精製回収した。
【0043】
(フィルムの作製及び架橋)
前記回収したポリマーの1.3gをテトラヒドロフラン15gに溶解し、37重量%ホルムアルデヒド水溶液1gと水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムがホルムアルデヒドの1/100モル)を加えて、24時間室温で撹拌した。得られた溶液をテフロン(登録商標)シャーレに移し、24時間以上かけてテトラヒドロフランを蒸発除去した。得られたフィルムを60℃で24時間加熱した後、さらに150℃で1時間加熱硬化した。得られたフィルムを透過型電子顕微鏡(TEM;オスミウム染色)で観察した結果、ポリ(p−ヒドロキシスチレン)からなるマトリックス中にポリイソプレン相が直径20〜30nmの乱れたシリンダー構造を形成していることが分かった(図1参照)。
【0044】
(オゾン分解)
得られたフィルムをエタノール中でオゾンバブリングすることにより、ポリイソプレン相のオゾン分解を行った。オゾンの発生及び導入はシルバー精工(株)製のオゾン発生機(商品名「OS−100」)に、(株)ニッソー製のエアポンプ(商品名「β2000」)を接続して行った。得られたフィルムを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、直径20〜30nmの多数の孔が開いた多孔質フィルムであることが分かった(図2参照)。
【0045】
(炭素化)
得られた多孔質フィルムを窒素雰囲気下、600℃で焼成し、(窒素流量:200ml/min、昇温速度:2℃/min)、炭素化した。炭素化したフィルムを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、直径30〜50nmの孔を有する多孔質炭素フィルムであることが分かった(図3参照)。
【0046】
(比表面積測定)
自動比表面積測定装置(日本ベル製、商品名「BELSORP−mini」)を用いて、77Kでの窒素吸着量から、上記多孔質炭素フィルムのBET比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(電気二重層容量測定)
3極式セルを用いて、水系(硫酸)、定電流測定(充放電測定)により、上記多孔質炭素フィルムの電気二重層容量を算出した。その結果を表1に示す。
装置:ナガノ製、商品名「BTS2004」
測定条件:電流値40mA/g、電位範囲−393〜+7mV、休止時間5分(グラムは電極重量を示す)
容量計算:定電流充放電時のグラフの傾きから算出。容量(F/g)=電流値(40mA/g)/傾き
セル:3極式(対極=白金、参照極=硫酸水銀電極、作用極=試料)
電解液:1M硫酸
作用極の作製法:上記多孔質炭素フィルムをメノウ鉢で粉末にする。該粉末炭素(試料):アセチレンブラック:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(三井・デュポンフルオロケミカル製、商品名「PTFE6−J」)を質量比10:1:1で混練し、得られたシートを加圧して平らにする。このシートから直径9mmのディスクをくり抜く。このシート電極の重量を電極重量とする。シート電極をチタンメッシュ(ニコラ製)に挟んで加圧固定し、これを作用極とする。作用極は測定前に電解液を減圧含浸させた後、超音波洗浄に5分間かけて用いた。電解液は測定前に窒素置換して溶存酸素を除去して用いた。
【0048】
比較例1
ポリマーとして、市販のポリ(p−ヒドロキシスチレン)(Aldrich製、重量平均分子量20000)を用いた以外は、実施例1と同様にして、フィルムの作製、架橋、炭素化を行い、比表面積測定及び電気二重層容量測定を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
市販の活性炭(日本化成製、商品名「AP−CA」)の比表面積測定及び電気二重層容量測定を実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1における架橋後のフィルムの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例1におけるオゾン分解後の多孔質フィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】実施例1における焼成後(炭素化後)の多孔質炭素フィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bが除去され、且つ炭化された炭素構造体。
【請求項2】
微細空孔を有する多孔質体である請求項1記載の炭素構造体。
【請求項3】
相Aが3次元架橋構造を有している請求項1記載の炭素構造体。
【請求項4】
相Aを構成するポリマー鎖が、熱硬化型、重合型又は化学結合型の架橋により3次元架橋された樹脂で構成されている請求項1記載の炭素構造体。
【請求項5】
相Bを構成するポリマー鎖が、ポリジエン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート及びポリアミドから選択された樹脂で構成されている請求項1記載の炭素構造体。
【請求項6】
相Bの除去が、主鎖切断、フリー末端からの解重合、又はブロック結合点解離後の溶剤による洗浄除去である請求項1記載の炭素構造体。
【請求項7】
互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーが、フェノール骨格を有するポリマーとポリジエンとからなるブロック又はグラフトコポリマーである請求項1記載の炭素構造体。
【請求項8】
ポリヒドロキシスチレンとポリジエンからなるブロック又はグラフトコポリマーにより形成されるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体のポリヒドロキシスチレン相をホルムアルデヒドとの脱水縮合反応により3次元架橋した後、ポリジエン相をオゾン分解により除去して得られるポリマー多孔体を炭化して得られる請求項1記載の炭素構造体。
【請求項9】
フェノール樹脂硬化前駆体とポリジエンからなるブロック又はグラフトコポリマーにより形成されるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体のフェノール樹脂硬化前駆体相を硬化して3次元架橋した後、ポリジエン相をオゾン分解により除去して得られるポリマー多孔体を炭化して得られる請求項1記載の炭素構造体。
【請求項10】
互いに非相溶である複数のポリマー鎖が化学結合したブロック又はグラフトコポリマーにより形成される相Aと相Bとからなるミクロ相分離構造を有するポリマー構造体から一方の相Bを除去し、且つ炭化することを特徴とする炭素構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9の何れかの項に記載の炭素構造体からなる電気二重層キャパシタ用電極。
【請求項12】
請求項1〜9の何れかの項に記載の炭素構造体の表面に金属微粒子を担持した金属−炭素複合構造体。
【請求項13】
金属微粒子が白金又はパラジウムである請求項12記載の金属−炭素複合構造体。
【請求項14】
請求項1〜9の何れかの項に記載の炭素構造体の表面をメッキして、炭素構造体の表面に金属微粒子を担持させることを特徴とする金属−炭素複合構造体の製造方法。
【請求項15】
請求項12又は13記載の金属−炭素複合構造体からなる燃料電池用電極。
【請求項16】
請求項15記載の燃料電池用電極を構成要素として含む燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−240902(P2006−240902A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56667(P2005−56667)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】