説明

炭素繊維の円筒形電極を用いた電気分解

【課題】炭素繊維の円筒形電極を用いた両電極の表面積が大きく両電極が平行で電解効率の高い電解方法を提供する。
【解決手段】可撓性がある炭素繊維(CF)をらせん巻して円筒形にするか、シート状にしたCFを円筒形(これらをCFパイプと呼称)にして、CFパイプ15の中に炭素棒をCFパイプの内側の面と炭素棒の面が平行になるように入れて、CFパイプを陽極とし炭素丸棒を陰極した同じ容積の電解槽内で、平板電極を平行に浸漬するよりも向き合う電極の表面積が大きな電解装置ができる。この装置により電解を行う。また、陰極の炭素棒に替えてFe(鉄)パイプ16またはPt(白金)パイプを用いることにより、Fe丸棒またはPt丸棒を用いるよりFeまたはPtの使用量が節約できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素(黒鉛:C)に比し、可撓性が優れている炭素繊維(CF)で円筒をつくり、または炭素を成型して円筒をつくり、これらを電極に用いて効率的な電気分解(電解)を行なう技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の炭素電極をNaCl水溶液(電解液)に浸漬して両極に直流電圧を加えると、電極と電解液の界面で電子eの授受が行われ、陰極でHOが還元されてHを発生し、陽極でClが酸化されてClを発生する。そして、陰極の近くにNaOHが生成する。
即ち、陰極で:2HO+2e→H+2OH (1)
陽極で:2Cl→Cl+2e (2)
全体で:2NaCl+2HO→2NaOH+H+Cl (3)
この化学反応で、教科書などの解説に用いられている説明図には、従来より誤り、または曖昧さが見受けられる([0004]で示す)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電解の化学反応は、電極と電解液の界面で電子eの授受によって進行するので、加える直流電圧の大きさが一定なら、電極の表面積が大きいほど電子eの授受は効果的に行われる。
容積が限られている電解槽内で、表面積が大きい電極をつくるためには、2本の電極を太くすればよいが限度がある。
CFをらせん状に巻いて円筒形にしたり、シート状にしたCFを円筒形にする。また、細分化したCFチップを成型して円筒をつくる。以下、これらをCFパイプと呼称する。
また、Cを成型して円筒をつくり、これをCパイプと呼称する。
CFは主成分がCであるから、CパイプはCFパイプの範疇に入る。
CFパイプは、限られた容積の電解槽内で、表面積が大きい電極として用いることができる。
従って、CFパイプ電極による電解の特長を示すことが、発明が解決しようとする課題である。
但し、CFパイプ電極はばらけないように、金属を含まない導電性がある耐水性耐薬品性の接着物質(炭素同素体が混合しているものを含む)で固める。
また、CFパイプ電極を電解液に浸漬すると、毛細管現象で電解液が電極端子まで上昇し、電源接続端子の金属に影響を及ぼすので、これを防ぐために、図1のようにCFの一部を接着剤で固めたものを電極に接続して電極端子とする。
なお、以下に示す電解は9Vの直流電源で行った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
NaCl水溶液の電解について、教科書などで解説するのに用いられている従来の説明図から導かれる横断面図を図2に示す。
図2によると、電解によって発生するHとClの気泡は、陽極と陰極の両電極の周囲面にほぼ均一に付着(グレーで示す)している。
直径5mmの炭素棒による電解をして両電極を観察すると、図2のように見える。
直径10mmの炭素棒を用いて電解をすると、両電極の周囲面の気泡は図3に示すように、互いに両電極に近い面に多く付着(グレーで示す)しているのが観察される。
そこで、直径5mmの炭素棒に付着している気泡を注意深く観察すると、両電極の気泡は互いに両電極に近い面に密生し、両電極の互いに遠い面の気泡の付着は少なく、図2のようには見えないで図3のように見えることが確かめられる。
【0005】
CuClの水溶液に、直径10mmの炭素棒を浸漬して電解をすると、
Cu2++2Cl→Cu+Cl (4)
の化学反応によって、陰極の表面にCuが析出し、陽極の表面ではClが発生する。これをよく観察すると、Cuは陰極の陽極に近い面に多く付着し、Clは陽極の陰極に近い面に多く付着している。
この現象に関する教科書などの説明図でも、Cuは陰極の周囲面にほぼ均一に付着し、Clの気泡は陽極の周囲面にほぼ均一に付着しているように記されている。
【0006】
〔0004〕と〔0005〕の現象は、円柱形の電極を用いる電解に関する従来の教科書などの説明図は誤り、または曖昧であることを示しており、両電極の周囲面は互いに等間隔で平行を保つことが、電極反応による物質が両電極面でほぼ均一に生ずるための条件であることを示唆している。
【0007】
そこで、横断面図が図4のように、CFパイプ電極の中へ炭素棒電極を入れた電解装置をつくる。但し、CFパイプの内面と炭素棒の周囲面は平行である。
図4の装置にNaCl水溶液を入れて電解をすると、各電極面にHとClの気泡がほぼ均一に付着(グレーで示す)する。
また、CuCl水溶液を図4の装置に入れて電解をすると、陰極面にCuがほぼ均一に析出付着し、陽極面にClの気泡がほぼ均一に付着(グレーで示す)する。
これらの現象は、2枚の平板電極を電解液に平行に浸漬して電解をする場合と同様に、陽極と陰極が円筒と円柱であっても、相対する面が平行であれば、電極反応によって生ずる物質は、両電極の周囲面にほぼ均一に生ずることを示している。
【0008】
電解の化学反応は、電極と電解液の界面で電子eの授受によって進行するので、図4の陰極に鉄(Fe)パイプを用いて、NaCl水溶液の電解を行う(図5)と、陰極と陽極の面にそれぞれHとClの気泡がほぼ均一に付着(グレーで示す)する。
また、Feパイプ電極に替えて、陽極のCFパイプ電極より細いCFパイプ電極を用いても、同様の現象が観られる。
【0009】
[0004][0005][0006][0007][0008]等で確かめたように、CFパイプ電極の中へ炭素棒電極またはFeパイプ電極を入れて行う新しい電解方法を開発したのが、課題を解決するための手段である。
【発明の効果】
【0010】
CFパイプ電極を用いる電解方法によって、電極と電解液の界面での電子eの授受が界面全体で均一に行なわれ、次のようなCFパイプ電極の発明効果がある。
1.電極がCF−FeまたはCF−Ptの場合:CFパイプ電極を太く、Feパイプ電極またはPtパイプ電極を細くして、CFパイプ電極の中へFeパイプ電極またはPtパイプ電極を入れ、互いの面を平行に保ち、CFパイプ電極を陽極とし、Feパイプ電極またはPtパイプ電極を陰極として電解をする。これによって、Fe丸棒電極またはPt丸棒電極を用いるより、FeまたはPtの使用が節約できる。
2.電極がCF−CFの場合:太いCFパイプ電極の中へ細いCFパイプ電極を入れ、互いの面を平行に保って電解をする。この場合は、陽極と陰極の選択は自由である。
なお、CパイプをCFパイプと代替できるが、強度に難点があるので、これを補うためにCにCFチップを混合して成型する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[0010]で示したように、CFパイプ電極を使うことにより、FeまたはPtを節約したFeパイプ電極またはPtパイプ電極の使用が可能になった。
従って、これらの電極を電解方法に応じた組合せによって、限られた容積の電解槽の中で、電子eの授受が効率よく行われる電極面積の大きな電解装置ができる。
例えば、NaOHの工業生産は、鉄網(Fe)を円筒形にした陰極の中に、円柱形の炭素棒を陽極として入れ、陰極と陽極の間に陽イオン交換膜を設けた装置(図6)によって行われているが、CFパイプの開発によって、両電極は図6の位置と入替が可能になる。
即ち、陰極の鉄網(Fe)の位置にCFパイプ(通水孔をあける)を設けて陽極とし、陽極の炭素棒の位置にFeパイプを設けて陰極としたNaOHの工業生産装置(図7)をつくることができる。
Feの水素発生過電圧は希少金属で高価なPtについで小さいために、NaOHの工業生産装置にFeが用いられている(丸善発行:渡辺正ほか3氏著「電気化学」)が、CFパイプ電極を用いた図7の装置にするとFeの使用量が節約されるばかりか、Ptの使用量を節約できるのでPtパイプ電極の使用も可能になり、NaOHの工業生産効率向上に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】 電極と電極端子を示す図
【図2】 教科書などの電解説明図の縦断面図から導いた横断面図
【図3】 直径10mmの炭素電極による電解を示す横断面図
【図4】 CFパイプ電極の中心に炭素電極を入れた電解装置の横断面図
【図5】 図4の炭素電極の代りに、Feパイプ電極またはCFパイプ電極を入れた電解装置の横断面図
【図6】 従来のNaOHの工業生産装置の原理を示す側断面図
【図7】 CFパイプ電極(陽極)とFeパイプ電極(陰極)を用いた本発明によるNaOH工業生産装置の原理を示す側断面図
【符号の説明】
【0013】
1 電極(CFまたは黒鉛)
2 電極端子(CF)
3 接着剤(例えばエポキシ系)
4 電極と電極端子を結合
5 電解液(NaCl水溶液またはCuCl水溶液)
6 陽極(炭素棒)
7 陰極(炭素棒)
8 電解液(NaCl水溶液またはCuCl水溶液)
9 陽極(炭素棒)
10 陰極(炭素棒)
11 電解液(NaCl水溶液またはCuCl水溶液)
12 陽極(CFパイプ)
13 陰極(炭素棒)
14 電解液(NaCl水溶液)
15 陽極(CFパイプ)
16 陰極(FeパイプまたはCFパイプ)
17 陽極室(NaCl水溶液)
18 陽極(炭素棒)
19 陰極室(水)
20 陽イオン交換膜
21 プラスチックなどの網
22 陰極(鉄網)
23 陽極室(NaCl水溶液)
24 陽イオン交換膜(旭化成ケミカルズ社製を使用)
25 プラスチックなどの網
26 陽極(CFパイプ)
27 陰極室(水)
28 陰極(Feパイプ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極めて微細で長繊維の炭素繊維(CFと略記。CFのPAN系、ピッチ系などの別は問わない)は可撓性があり、柔軟性を要する形状に加工できるので、CFを電気分解(電解)の電極に用いる。
CFをらせん巻して円筒をつくる。また、CFをシート状に加工したもので円筒をつくる。また、CFを細分化したチップを成型して円筒をつくる。これらの円筒をCFパイプと呼称する。
但し、CFパイプがばらけないように、金属を含まない導電性がある耐水性耐薬品性の接着物質(炭素同素体が混合しているものを含む)で固める。
CFパイプの内径より小さな外径の鉄(Fe)パイプを、CFパイプの中へCFパイプと平行になるように入れる。この場合、CFパイプとFeパイプは電解に必要な間隔をあける。
この組合せのCFパイプとFeパイプをNaCl水溶液に浸漬し、CFパイプを陽極、Feパイプを陰極として直流電圧を加えると、陽極でClを発生し、陰極でHが発生して、陰極側にNaOHが生ずる電解の方法。
【請求項2】
請求項1の方法で、Feパイプに替えて白金(Pt)パイプを用いて電解をする方法。
【請求項3】
請求項1の方法でのCFパイプより細いCFパイプをつくり、Feパイプに替えて細いCFパイプを用いて電解をする方法。
【請求項4】
請求項1の方法で、陰極にFe丸棒またはPt丸棒または炭素丸棒を用いて電解をする方法。
【請求項5】
請求項1の方法で、CFパイプに替えて、炭素(C:炭素同素体が混合しているものを含む)を円筒形に成型したCパイプを用いて電解をする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−174368(P2010−174368A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37134(P2009−37134)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(594183967)有限会社新日本社 (12)
【Fターム(参考)】