説明

炭素繊維含有樹脂分散液及び樹脂複合材

【課題】 繊維径0.001〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂および有機溶媒を含む分散液であって、前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、四塩化炭素、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソオクタン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ブチルセロソルブのいずれか、あるいはそれらの混合物である気相法炭素繊維含有分散液、その製造方法、その方法によって得られる気相法炭素繊維含有樹脂複合材及びその製造方法、その樹脂複合材を用いた導電性材料及び熱伝導性材料に関する。
【解決手段】 本発明によれば、気相法炭素繊維が均一に分散した樹脂溶液を調製することができ、この分散溶液から塗布等により容易に導電性材料や熱伝導性材料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気相法炭素繊維含有分散液に関する。さらに詳しく言えば、気相法炭素繊維を樹脂に均一に混合分散した気相法炭素繊維含有分散液とその製造方法、前記分散液を用いて得られる気相法炭素繊維が均一に混合された樹脂複合材とその製造方法、及び前記樹脂複合材の用途(導電性材料、熱伝導性材料)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を樹脂等のマトリックス中に分散させることにより、導電性、熱伝導製を付与することが広く一般的に行われている。炭素繊維の中でも、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)を樹脂中に添加することは、添加量が少なくても導電性、熱伝導性が大きく向上するため樹脂組成物の加工性、成形品の表面外観を損ねることがなく有用である(特許第2862578号:特許文献1)。
【0003】
樹脂に炭素繊維を配合する場合、樹脂中に炭素繊維を均一に混合する必要がある。一般に炭素繊維の樹脂中への混合は、溶融樹脂中に炭素繊維を添加し、二軸押出機、変形スクリュウバレルなどにより混練する方法により行われているが、繊維径0.001〜5μm、繊維径と繊維長さの比(アスペクト比)が5〜15,000という形状異方性のある気相法微細炭素繊維を均一に混合する方法として溶融混練法は多大の動力を要すること、混練り中に気相法炭素繊維の切断がおこることなどの問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、より簡便に気相法微細炭素繊維を樹脂中に均一混合する方法として、微細炭素繊維を熱可塑性樹脂の有機媒溶中に均一に分散した分散液の調製について検討した。微細炭素繊維が均一に分散した熱可塑性樹脂の分散液が得られれば、塗布、噴霧、浸漬等により基材などの上に設けた後、溶媒を除去乾燥することによって、基材の上に導電性材料や熱伝導性材料としての機能を有する材料として微細炭素繊維が均一に分散した熱可塑性樹脂組成物(複合体)を容易に調製することができる。
【0005】
炭素繊維の有機溶媒分散液に関連する先行技術としては、特開2002-255528号公報(特許文献2)に微粒子を双極性非プロトン溶媒(ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル)に分散した微粒子分散液が記載され、微粒子の例として粒径が概ね10nm〜10μmのカーボンナノチューブも挙げられているが、本発明者らは、気相法炭素繊維についてこの文献に記載の双極性非プロトン溶媒(ジメチルホルムアミド)を用いて検討したところでは気相法炭素繊維については均一な分散液は得られなかった。また、溶媒としてテトラヒドロフラン、ベンゼン、ジクロロメタンの単独溶媒を用いて気相法炭素繊維を機械撹拌にて分散させても、初期の気相法炭素繊維の塊状構造がくずれることはほとんどなく分散液は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2862578号
【特許文献2】特開2002−255528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、繊維径0.001〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維が均一に分散した樹脂の分散液及びその製造方法を提供することにある。
さらに本発明の課題は前記分散液を用いた気相法炭素繊維が均一に混合された樹脂組成物とその製造方法、及び前記分散液から塗布などにより得られる前記樹脂複合材の導電性材料あるいは熱伝導性材料としての用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、気相法炭素繊維と共に使用する樹脂として、例えば、少なくとも環状構造を有する構造単位を繰り返し構造として含む重合体を含む樹脂を用い、かつ有機溶媒としてピリジニウム−N−フェノールベタインの吸収スペクトルから算出される溶媒パラメーターET値(新実験化学講座14(V),2594(1978年)(Ann., 661, 1(1963))が45以下の溶媒を使用することにより気相法炭素繊維が均一に分散した樹脂溶液が容易に得られることを見出し本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の気相法炭素繊維含有分散液、その製造方法、及びその分散液から得られる樹脂複合材を用いた導電性材料と熱伝導性材料に関する。
【0010】
1.繊維径0.001〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂および有機溶媒を含む分散液であって、該炭素繊維の塊状構造を部分的に消失させて、1本1本の該炭素繊維が独立して分散してなる気相法炭素繊維含有分散液。
2.繊維径0.001〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂および有機溶媒を含む分散液であって、該炭素繊維が、直径40μm以下の塊状構造で分散している部分と1本1本独立して分散している部分が混在している気相法炭素繊維含有分散液。
3.気相法炭素繊維が、ホウ素を0.001〜5質量%含有するものである前記1または2に記載の気相法炭素繊維分散液。
4.有機溶媒に可溶な樹脂が、環状構造を少なくとも一部に有する構造単位を繰り返し構造として含む重合体を含む樹脂である前記1乃至3のいずれかに記載の気相法炭素繊維分散液。
5.有機溶剤に可溶な樹脂が、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミック酸のいずれか、あるいはその混合物である前記1乃至4のいずれかに記載の気相法炭素繊維分散液。
6.有機溶媒が、ピリジニウム−N−フェノールベタインの吸収スペクトルから算出される溶媒パラメーターET値が45以下の溶媒である前記1乃至5のいずれかに記載の気相法炭素繊維分散液。
7.有機溶媒が、ピリジニウム−N−フェノールベタインの吸収スペクトルから算出される溶媒パラメーターET値が45以下であり、且つ、環状の構造を部分的に有する溶媒である前記1乃至6のいずれかに記載の気相法炭素繊維分散液。
8.有機溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、γ−ブチロラクトン、ブチルセルソルブ、あるいはそれらの混合物である前記1乃至7のいずれかに記載の気相法炭素繊維分散液。
9.気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂との配合割合(質量基準)が、炭素繊維:有機溶媒に可溶な樹脂=0.1〜80:20〜99.9、分散液中の樹脂濃度が0.1〜60質量%である前記1記載の気相法炭素繊維分散液。
10.樹脂を有機溶媒に溶解させ、その中へ繊維径0.001μm〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維を添加して撹拌または/及び超音波処理を行う工程を含む気相法炭素繊維含有分散液の製造方法。
11.有機溶媒に可溶な樹脂と繊維径0.001μm〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維を混合し、該混合物を有機溶媒中に添加する工程のいずれかの工程を含む気相法炭素繊維含有分散液の製造方法。
12.前記1乃至9のいずれかの項に記載の気相法炭素繊維分散液を基材に設けた後、溶媒を除去することを特徴とする気相法炭素繊維含有樹脂複合材の製造方法。
13.前記12に記載の方法によって得られる気相法炭素繊維含有樹脂複合材。
14.前記12に記載の方法で得られる樹脂複合材を用いた導電性材料。
15.前記12に記載の方法で得られる樹脂複合材を用いた熱伝導性材料。
【発明の実施の形態】
【0011】
本発明において使用する炭素繊維は、繊維径0.001μm〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維である。このような炭素繊維としては、例えば、高温雰囲気下で、触媒となる鉄等と共にガス化された有機化合物を吹き込むことにより製造できる気相成長炭素繊維(特許第2778434号公報参照)が好ましく用いられる。
【0012】
気相成長炭素繊維(気相法炭素繊維)は、例えば製造した状態のままのもの、製造した状態のままのものを800〜1500℃で熱処理したもの、2000〜3000℃で黒鉛化処理したもののいずれも使用可能であるが、1500℃程度で熱処理したものあるいは2000〜3000℃で黒鉛化処理したものがより好適である。
【0013】
また、気相法炭素繊維は、黒鉛化処理のときに、炭素の結晶化促進元素(例えば、B,Al,Be,Si)、好ましくはホウ素を存在させて、結果的に気相法炭素繊維の炭素結晶に少量(0.001〜5質量%、好ましくは0.01〜2質量%)含有させた炭素繊維でも良い(国際公開第00/585326号パンフレット)。
【0014】
本発明の分散液に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを含む有機溶媒に可溶な樹脂であれば良い。有機溶媒に可溶な樹脂が、環状構造を少なくとも一部に有する構造単位を繰り返し構造として含む重合体を含む樹脂である。また、この環状構造には、その構造中に、炭素原子以外に酸素原子、窒素原子、硫黄原子が入っていても良い。
【0015】
樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアミック酸などである。また、好ましくは、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミック酸のいずれか、あるいはそれらの混合物が挙げられる。
【0016】
気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂との配合割合(質量基準)は、樹脂複合材の用途により異なるが、炭素繊維:有機溶媒に可溶な樹脂=0.1〜80:20〜99.9、分散液中の樹脂濃度が0.1〜60質量%である。気相法炭素繊維が0.1質量%より少ないと溶媒を除いた後の組成物の導電性、熱伝導性が得られず、80質量%より多くなると樹脂分散液からの塗布組成物が脆くなる。
【0017】
本発明において分散媒として使用する有機溶媒は、ピリジニウム−N−フェノールベタインの吸収スペクトルから算出される溶媒パラメーターET値(新実験化学講座14(V),2594(1978年)(Ann., 661,1(1963))が45以下の溶媒が好ましい。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、アニソール、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、四塩化炭素、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソオクタンである。中でも、特に環状構造を有するもの、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、γ−ブチロラクトンが好ましい。
【0018】
気相法炭素繊維及び樹脂(溶質)と分散溶媒の割合は、特に制限はないが、分散し易くするためには溶質を60質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
分散方法には特に制限はないが、例えば、樹脂を有機溶媒に溶解させて気相法炭素繊維を撹拌するか、超音波処理することによって安定な分散液を得ることができる。
また、その際の分散状態は、気相法炭素繊維の状態により異なる。通常、気相法炭素繊維は、分散前の状態では、繊維が1本1本独立しておらず、直径約100μm程度の凝集体として存在する。これを本方法により分散させることにより得られる分散液は、気相法炭素繊維が1本1本独立して存在する。あるいは、直径約40μm以下の凝集体と1本1本の分散した状態との混在した分散状態で存在させることができる。
【0020】
例えば、樹脂としてポリカーボネートを、気相法炭素繊維として2800℃にて熱処理をした繊維径0.15μm、アスペクト比70の気相法炭素繊維を5質量%添加し、ベンゼン(BZ、ET値 34.5)及びテトラヒドロフラン(THF、ET値 37.4)、ジクロロメタン(DCM、ET値 41.1)、ジメチルホルムアミド(DMF、ET値 43.8)、アセトニトリル(ATN、ET値 46.0)の10質量%分散液を各々調整し、撹拌機で30分撹拌すると、有機溶媒がベンゼン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドの場合には、気相法炭素繊維の分散液が得られ、1週間放置しても、気相法炭素繊維は沈降しない。それに対して、有機溶媒がアセトニトリルの場合には、放置2日目で沈降し、透明な上澄み部分が見られる。
【0021】
本発明により得られる分散液から、基材(例えば、回路基板)上への塗布乾燥法(塗布後溶媒を乾燥し溶媒を気化させる方法)により気相法炭素繊維が均一に分散した樹脂複合材を得ることができ、これらは導電性や熱伝導性に優れた材料である。また、本発明の分散液の塗布法としては、ドクターブレードによる塗布やスクリーン印刷法、スピンコート法等、ペーストや分散液の塗布法で一般に用いられる方法を用いることができる。また、溶媒の乾燥方法は、加熱乾燥法、真空乾燥法等の溶媒の乾燥に一般に用いられる方法を用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、下記の例により本発明は何等限定されるものではない。
【0023】
実施例1:
数平均分子量20,000、質量平均分子量32,000のポリカーボネート(PC;帝人化成製品 AD5503)のテトラヒドロフラン(THF)10質量%溶液を作成し、2800℃にて熱処理をした繊維径0.15μm、アスペクト比70の気相法炭素繊維(VGCF(登録商標);昭和電工製)を0.2質量%添加し、機械撹拌機で毎分600回転のスピードで、30分混合した。気相法炭素繊維の均一に分散した分散液が得られた。これを室温にて7日間放置したが、本分散液は、気相法炭素繊維の沈降は見られなかった。また、光学顕微鏡で観察したところVGCF(登録商標)が1本1本ばらばらに非常に良好に分散していることが確認された。また、これを毎分100回転5秒、1000回転10秒、100回転5秒で、カバーガラスをつかい分散溶液を数滴、滴下しスピンコートにより複合体の薄膜を作成したところVGCF(登録商標)が非常に良好に分散した薄膜を形成した。
上記ポリカーボネート(PC)の代わりに、ポリスチレン(PS;旭化成製品 PS666、数平均分子量420,000、質量平均分子量1000,000)を用いて、分散液及びスピンコート法により薄膜を形成した。分散液及び薄膜の光学顕微鏡像を、各々図1及び図2に示す。
【0024】
実施例2:
実施例1のポリスチレン(PS)とTHFの組み合わせにおいて、溶媒のTHFの代わりに、ベンゼン(BZ)、ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて、分散液及びスピンコート法により薄膜を形成した。
分散液及び薄膜の光学顕微鏡像を、各々図3及び図4に示す。
【0025】
実施例3:
溶媒として、N―メチルー2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、ブチルセロソルブが、30:30:35質量%で混ざっており、5質量%ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)が溶解している溶液に、ポリマーに対して2質量%あるいは5質量%VGCF(登録商標)を添加し、マグネチックスターラーにて、毎分200回転で、20分混合した。これを室温にて7日間放置したが、VGCF(登録商標)2質量%含有分散液、VGCF(登録商標)5質量%分散液の両分散液は、気相法炭素繊維の沈降は見られなかった。また、光学顕微鏡で観察したところVGCF(登録商標)が1本1本ばらばらに非常に良好に分散していることが確認された。この光学顕微鏡像を図5に示す。また、これを毎分100回転5秒、1000回転10秒、100回転5秒で、カバーガラスをつかい分散溶液を数滴、滴下しスピンコートにより複合体の薄膜を作成したところVGCF(登録商標)が非常に良好に分散した薄膜を形成した。
【0026】
実施例4:
実施例1で作成した気相法炭素繊維分散液を回路基板にスクリーン印刷にて、塗布し風乾し気相法炭素繊維複合塗布膜を作成し、塗布膜の導電性を評価した(評価試料No.1)。また、ポリカーボネートと気相法炭素繊維の量を表1に示すように変えて塗布膜を作成し(評価試料No.2〜4)、また、ポリカーボネートの代わりに、ポリスチレン(PS;旭化成製品 PS666、数平均分子量420,000、質量平均分子量1,000,000)を用いて、塗布膜を作成し(評価試料No.5)、同様に導電性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0027】
比較例1:
テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、ベンゼン(BZ)、ジメチルホルムアミド(DMF)を用いて、これに0.2質量%となるようにVGCF(登録商標)を添加し、これを機械撹拌機にて600回転で30分間撹拌し分散液を作成した。この液体をスライドガラスとカバーガラスの間にはさみ光学顕微鏡にて400倍でVGCF(登録商標)の分散状態を観察したところ、VGCF(登録商標)の初期の塊状構造がそのまま観察された。また、分散液を室温にて放置したところ、2日目で気相法炭素繊維の沈降が見られた。分散液の光学顕微鏡像を図6、7に示す。
【0028】
比較例2:
実施例2の溶媒のTHFの代わりに、アセトニトリル(ATN)を用いて、分散液を作成した。分散液の光学顕微鏡像を図8に示す。
【0029】
比較例3:
実施例1のPCの代わりに、ポリメチルメタクリレート(PMMA;旭化成製品 60N、数平均分子量76,000、質量平均分子量150,000)を用いて、分散液を作成した。分散液の光学顕微鏡像を図9に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば繊維径0.001〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法微細炭素繊維、有機溶媒に可溶な樹脂を使用し、有機溶媒としてピリジニウム−N−フェノールベタインの吸収スペクトルから算出される溶媒パラメーターET値が45以下の非極性溶媒を使用することにより気相法炭素繊維が均一に分散した樹脂溶液を調製することができ、この分散溶液から塗布等により容易に導電性材料や熱伝導性材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)及び(B)は、各々VGCFのPC/THF系分散液及びPS/THF系分散液の光学顕微鏡像である。
【図2】(A)及び(B)は、各々VGCFのPC/THF系分散液及びPS/THF系分散液を用いてそれぞれスピンコート法により作成した薄膜の光学顕微鏡像である。
【図3】(A)及び(B)は、各々VGCFのPS/BZ系分散液及びPS/DMF系分散液の光学顕微鏡像である。
【図4】(A)及び(B)は、各々VGCFのPS/BZ系分散液及びPS/DMF系分散液を用いてそれぞれスピンコート法により作成した薄膜の光学顕微鏡像である。
【図5】は、VGCFのポリアミック酸/N―メチルー2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、ブチルセロソルブ混合液に分散させた分散液の光学顕微鏡像である。
【図6】(A)及び(B)は、各々VGCFをTHFに分散させた分散液及びDCMに分散させた分散液の光学顕微鏡像である。
【図7】(A)及び(B)は、各々VGCFをBZに分散させた分散液及びDMFに分散させた分散液の光学顕微鏡像である。
【図8】VGCFのPS/ATN系分散液の光学顕微鏡像である。
【図9】VGCFのPMMA/THF系分散液の光学顕微鏡像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径0.001〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂および有機溶媒を含む分散液であって、前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、四塩化炭素、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソオクタン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ブチルセロソルブのいずれか、あるいはそれらの混合物である気相法炭素繊維含有分散液。
【請求項2】
気相法炭素繊維が、ホウ素を0.001〜5質量%含有するものである請求項1に記載の気相法炭素繊維分散液。
【請求項3】
有機溶媒に可溶な樹脂が、環状構造を少なくとも一部に有する構造単位を繰り返し構造として含む重合体を含む樹脂である請求項1または2に記載の気相法炭素繊維分散液。
【請求項4】
有機溶剤に可溶な樹脂が、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミック酸のいずれか、あるいはその混合物である請求項1乃至3のいずれかに記載の気相法炭素繊維分散液。
【請求項5】
気相法炭素繊維と有機溶媒に可溶な樹脂との配合割合(質量基準)が、炭素繊維:有機溶媒に可溶な樹脂=0.1〜80:20〜99.9、分散液中の樹脂濃度が0.1〜60質量%である請求項1記載の気相法炭素繊維分散液。
【請求項6】
樹脂を有機溶媒に溶解させ、その中へ繊維径0.001μm〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法微細炭素繊維を添加して撹拌または/及び超音波処理を行う工程を含み、前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、四塩化炭素、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソオクタン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ブチルセロソルブのいずれか、あるいはそれらの混合物である気相法炭素繊維含有分散液の製造方法。
【請求項7】
有機溶媒に可溶な樹脂と繊維径0.001μm〜5μm、アスペクト比5〜15,000の気相法炭素繊維を混合し、該混合物を有機溶媒中に添加する工程を含み、前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメトキシエタン、酢酸エチル、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、四塩化炭素、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、イソオクタン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ブチルセロソルブのいずれか、あるいはそれらの混合物である気相法炭素繊維含有分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかの項に記載の気相法炭素繊維分散液を基材に設けた後、溶媒を除去することを特徴とする気相法炭素繊維含有樹脂複合材の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によって得られる気相法炭素繊維含有樹脂複合材。
【請求項10】
請求項8に記載の方法で得られる樹脂複合材を用いた導電性材料。
【請求項11】
請求項8に記載の方法で得られる樹脂複合材を用いた熱伝導性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−242091(P2010−242091A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127961(P2010−127961)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【分割の表示】特願2004−88636(P2004−88636)の分割
【原出願日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】