炭素繊維束
【課題】トウボリュームの大きい炭素繊維束であっても、後加工における解舒性および工程通過性に優れた炭素繊維束を提供する。
【解決手段】フィラメントの本数が50,000以上200,000以下の炭素繊維束であって、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下であり、実質的に撚りがないものとする。5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率が10%以下であることが好ましい。巻き出しによる拡がり変動率が105%以上であることが好ましい。繊度が25,000dtex以上40,000dtex以下であることが好ましい。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下であることが好ましい。
【解決手段】フィラメントの本数が50,000以上200,000以下の炭素繊維束であって、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下であり、実質的に撚りがないものとする。5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率が10%以下であることが好ましい。巻き出しによる拡がり変動率が105%以上であることが好ましい。繊度が25,000dtex以上40,000dtex以下であることが好ましい。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料の分野において使用されるトウボリュームの大きい炭素繊維束(ラージトウ)でも、後加工における解舒性および工程通過性に優れた炭素繊維束に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、航空宇宙素材、スポーツ、レジャー用素材、圧縮ガス容器などの工業用素材として極めて有用であり幅広い範囲で需要が伸びていくことが期待されている。炭素繊維、ガラス繊維などを補強繊維とする複合材料の分野においてはプリプレグや織物、引き抜き成型等、用途多様化に伴い、多様な分野で取り扱い性、加工性の容易さが求められている。また、一般産業用途ではフィラメント数が24,000よりも多い、いわゆるラージトウタイプの炭素繊維が上市されている。このラージトウタイプの炭素繊維においても、フィラメント数が24,000よりも少ない、いわゆるスモールトウと同様に、後加工での均一な拡がり性が要求される。
【0003】
例えばプリプレグ用途においては、品位を損なわないように薄く開繊する必要があり、かつ長手方向のトウ幅の安定性が求められている。このためこれらの原材料となる補強繊維糸条においても従来のいわゆるロープ状に代わって、加工前から扁平状である扁平糸条が用いられるようになった。
【0004】
従来、実質的に撚りのない繊維束に集束されたポリアクリロニトリル系前駆体繊維束(以下、PAN系前駆体繊維束という)を炭素繊維化処理するには、次のような方法が挙げられる。最初に数十〜数百錘のPAN系前駆体繊維束をシート状に引き揃え、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化処理する。前記耐炎化処理により得られた耐炎化繊維束を、引き続いて300℃以上の不活性雰囲気中の焼成(炭素化処理)工程に導いて炭素繊維を得る。その後、電解液中で電解酸化処理を施したり、気相または液相での酸化処理を施したりすることによって、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性を向上させ、さらに、サイジング剤を付与する工程が一般的である。
【0005】
多くの炭素繊維束は、紙管に巻上げてパッケージにした後、連続解舒して加工していることが多い。その際、炭素繊維束が多い場合はそのトウボリュームが大きいことが原因でトウ幅が広くなり、炭素繊維束同士の摩擦が原因と推定される糸切れ回数が多いことが問題となっている。この糸切れ回数が多くなると最終的にはトウ切れを起こすために、後加工における工程通過性に問題が発生する。
【0006】
特許文献1および2には、炭素繊維束の平均扁平率を既定した技術が記載されている。しかし、いずれも強度発現率に優れた炭素繊維束に関する技術であり、炭素繊維束パッケージからの解舒性および工程通過性に関する記述は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−294568号公報
【特許文献2】特開2003−336129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トウボリュームの大きい炭素繊維束であっても、後加工における解舒
性および工程通過性に優れた炭素繊維束を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、トウボリュームの大きい炭素繊維束の後加工における工程通過性を改善するためには、炭素繊維束のトウ幅をある一定の幅に安定に制御する必要が生じることを見出した。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用する。
(1)フィラメントの本数が50,000以上200,000以下の炭素繊維束であって、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下であり、実質的に撚りがないことを特徴とする炭素繊維束。
(2)5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)と、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅(W1)とから、下記式(1)で求められる拡がり変動率が、105%以上である(1)に記載の炭素繊維束。
【0011】
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
(3)5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)の、下記式(2)で求められる変動率が、10%以下である(1)または(2)に記載の炭素繊維束。
【0012】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)トウ幅の標準偏差および平均値は、張力をかけずに、捩れが生じないように炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定して算出する。
(4)繊度が25,000dtex以上40,000dtex以下である(1)乃至(3)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(5)炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下である(1)乃至(4)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(6)(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と(b)ポリヒドロキシ化合物と(c)芳香環を含むジイソシアネートとで構成されるポリウレタンと、
(d)エポキシ樹脂と
の混合物および/またはそれらの反応生成物
を含んでなるウレタン変性エポキシ樹脂でサイジングされた(1)乃至(5)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(7)前記(a)サイジング剤のヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、前記(b)ポリヒドロキシ化合物が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか1種またはこれらの混合物であり、前記(c)芳香環を含むジイソシアネートが、トルエンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートである(1)乃至(6)のいずれかに記載の炭素繊維束。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トウボリュームの大きい炭素繊維束であっても、後加工における解舒性および工程通過性に優れた炭素繊維束の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅およびトウ幅変動率を測定する装置の概略構成図である。
【図2】溝ロールの周面を部分拡大した断面図である。
【図3】サイジング処理工程を行う装置の概略構成図である。
【図4】実施例1から4で用いたガイド装置側面の概略構成図である。
【図5】実施例1から4で用いたガイド装置が設置された巻取機を示す模式図である。
【図6】実施例1から4で用いた鼓形状のガイドロールの側面図である。
【図7】実施例1から4で用いた円柱形状のガイドロールの側面図である。
【図8】実施例1から4で用いたガイド装置が有するフック状ガイドの側面図である。
【図9】実施例5および比較例2で用いたガイド装置が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図である。
【図10】実施例5および比較例2における、巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。
【図11】実施例5および比較例2で用いた凹部を有する平行ガイドロールの側面図である。
【図12】比較例1で用いたガイド装置の概略図である。
【図13】比較例1で用いたガイド装置が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図である。
【図14】比較例1における、巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面等に基づき、さらに詳しく説明する。
【0016】
本明細書において、炭素化繊維束とは、PAN系前駆体繊維束を焼成して得られた繊維束を意味するものとする。炭素繊維束とは、前記炭素化繊維束をサイジング処理し、得られる繊維束を意味するものとする。
【0017】
本発明の炭素繊維束の繊度は、25,000dtex以上40,000dtex以下の範囲であることが好ましい。炭素繊維束の繊度とは、単糸繊度(dtex)×フィラメント数で表される。単糸繊度は通常0.2〜0.9dtexであるが、本発明では、フィラメント数は50,000〜200,000本となるように調整する。
【0018】
炭素繊維束の繊度を25,000dtex以上40,000dtex以下にする方法としては、トウボリュームの多い前駆体繊維束を出発物質として用いる方法、いくつかの少フィラメント数の前駆体繊維束を焼成工程の途中のいずれかの工程で、ワインダーで巻き終わるまでに合糸する方法、一旦炭素繊維束として巻き取ったものをクリールから引き出して合糸しながら巻き取る方法などがあるが、本発明では、トウボリュームの多い前駆体繊維束を出発物質として用いる。ワインダーで巻き終わるまでに合糸する方法または一旦炭素繊維束として巻き取ったものをクリールから引き出して合糸しながら巻き取る方法は、炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅が安定せず、後工程通過性が悪化する、または強度発現性が低下するために適当ではない。
【0019】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下である。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が13mmよりも大きい場合は、トウ幅が広いため、ボビンからトウを解舒する際、糸切れが発生する頻度が多くなり、後加工における取り扱い性に問題がある。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm未満の場合には、炭素繊維製造工程中に糸厚みに対するトウ幅が狭くなるため、トウボリュームの大きな炭素繊維束ボビンパッケージの製造は困難であり、撚りを入れる必要がある。
【0020】
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅を10mm以上13mm以下とする手法としては、後述するように、サイジング処理前に溝ロールで揃えた後に、サイジング処理を行う方法が適当である。
【0021】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下とすることが好ましく、8%以下とすることがより好ましい。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率を10%以下とすることで、後加工で使用する際にトウ幅が安定となり、例えば、プリプレグ製造などで引き揃えて使用する際に品位を損なうことなく製品を製造することが可能となる。なお、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率は、後述の実施例で定義している。
【0022】
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率を10%以下とする手法としては、図5
〜図8、または図9〜図11で示したガイド装置を用いた巻き取り方法で巻き取ることが適当である。詳細は、実施例で説明する。
【0023】
本発明の炭素繊維束は、巻き取られる段階で実質的に撚りを有していない。ここで、「実質的に撚りを有していない」とは、炭素繊維束に撚りが全くないか、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した場合において、連続的にトウ幅を50m測定した場合に、撚りの発生が2回以下であることを意味する。
【0024】
本発明の炭素繊維束は、拡がり変動率が105%以上であることが好ましい。ここで拡がり変動率は、下記式(1)で定義される。
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
炭素繊維ボビンパッケージ上の広がり変動率を105%以上とすることで、後工程で複合材料として使用した場合、含浸工程後の炭素繊維束の幅が十分広くなり、含浸させた樹脂が炭素繊維束周辺に染み出すマイグレーションが起こりにくくなる。
【0025】
本発明の炭素繊維束は、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率が、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。巻き出し直後のトウ幅の変動率が10%以下では、後加工で使用する際にトウ幅が安定となり、例えば、プリプレグ製造などで引き揃えて使用する際に品位を損なうことなく製品を製造することが可能となる。なお、このトウ幅の変動率は、下記式(2)で求められる。
【0026】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)トウ幅の標準偏差および平均値は、張力をかけずに、捩れが生じないように炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定して算出する。
【0027】
炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅およびトウ幅変動率を測定する装置の概略構成を図1を用いて説明する。炭素繊維ボビンパッケージ1から炭素繊維束を繊維方向Fに駆動ロール2を介して引き出した後、フリーロール4を通った後に巻取部5で炭素繊維束を巻き取る。本発明では駆動ロール2に至る前にトウ幅検出器3を炭素繊維ボビンパッケージに荷重をかけながら通過させ、トウ幅を測定する。
【0028】
本発明の炭素繊維束は、例えば、PAN系前駆体繊維束に対して、耐炎化処理工程、前炭素化処理工程、炭素化処理工程およびサイジング処理工程を行うことで、製造することができる。PAN系前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリルの単独重合体または共重合体を含む紡糸原液を紡糸することで得ることができる。
【0029】
本発明のPAN系前駆体繊維は、捲縮のない実質的にストレートなマルチフィラメントの形態を為しているものである。捲縮とはクリンプと称される座屈変形が付与され、この座屈変形は本質的にPAN系前駆体繊維へ機械的ダメージを与えるものであり、即ち炭素繊維製造工程において単糸切れによる毛羽の発生を誘発し、ロールへの巻き付き等のトラブルや得られる炭素繊維の品位、性能の低下を招く。
【0030】
PAN系前駆体繊維は、不純物、内部ボイド、クレーズやクラック等の表面欠陥を含まないことが好ましい。
【0031】
アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体若しくは共重合体、またはその混合物を用いることができる。
【0032】
アクリロニトリル共重合体は、アクリロニトリルと、それと共重合可能な他の単量体との共重合体である。共重合可能な他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の重合性の二重結合を有する酸類およびそれらの塩類;スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、β−スチレンスルホン酸ナトリウム、メタアリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体;2−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。共重合可能な他の単量体は1種でも2種以上でも良い。アクリロニトリル共重合体は、アクリロニトリル単位を90質量%以上含有するものが好ましく、アクリロニトリル単位を95質量%以上含有するものがより好ましい。
【0033】
アクリロニトリル系重合体を得るための重合方法としは、例えば水溶液中におけるレドックス重合、不均一系における懸濁重合、分散剤を使用した乳化重合等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
アクリロニトリル系重合体を溶解させる有機溶剤としては、特に制限はなく、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。アクリロニトリル系重合体の濃度は、例えば、10〜35質量%とすることができる。
【0035】
本発明の方法では、上記で得られた膨潤糸条を洗浄および延伸する。
【0036】
洗浄の方法としては、特に制限はないが、一般的に用いられている、水中、特に温水中に浸漬させる方法がよい。
【0037】
延伸の方法としては、水中、温水中に浸漬させながら延伸する方法、熱板、ローラー等のよる空気中での乾熱延伸法、また熱風が循環している箱型炉内での延伸でも良く、これらに限定されるものではない。経済的な観点から、温水中で行うことが好ましい。
【0038】
ここでの延伸の倍率は、1.1〜7.0倍とすることが好ましい。ただし、後述するように、本発明ではトータルの延伸倍率が5〜9倍である必要があるので、後に二次延伸を行う場合、その延伸倍率を考慮して設定することが好ましい。
【0039】
なお、上記洗浄と延伸の順番については、洗浄を先に行っても良く、また同時に行っても良い。
【0040】
本発明の方法では、上記で得られた洗浄および延伸後の糸条を、シリコーン系油剤が入った油浴槽に導いて、糸条にシリコーン系油剤を付与する。
【0041】
油剤としては、シリコーン化合物を含有するシリコーン系油剤を使用する。シリコーン化合物としては、特に限定されないが、ジメチルシリコーンオイルや有機変性シリコーンオイルを用いることができる。中でも、アミノ変性シリコーンオイルが好適である。通常は、シリコーン化合物とノニオン系乳化剤とを混合し、乳化したものを用いる。また、場合により、酸化防止剤や各種添加剤、さらにシリコーン原子を含まない有機物を混合することもできる。
【0042】
本発明の方法では、上記で得られたシリコーン系油剤を付与した糸条を乾燥緻密化する。
【0043】
乾燥緻密化の方法としては、特に制限はなく、熱板や加熱ローラーに接触させることにより行うことが一般的に用いられている。好ましくは、加熱ローラーによる乾燥である。
【0044】
本発明の方法では、必要に応じて、上記で得られた乾燥緻密化後の糸条を二次延伸することもできる。二次延伸の方法としては、乾熱延伸、スチーム延伸等が挙げられる。
【0045】
ただし、トータルの延伸倍率を5〜9倍とする。すなわち、前述の膨潤糸条の延伸と、必要に応じて行う乾燥緻密化後糸条の二次延伸との延伸倍率の積が5〜9となるように、それぞれの延伸倍率を設定する。トータル延伸倍率が5倍未満では、繊維構造の形成が不十分となり、一方、10倍を超えると耐炎化前の延伸性が低下し好ましくない。トータル延伸倍率は6〜9倍が好ましく、6.5〜8.5倍がより好ましい。
【0046】
耐炎化処理工程では、PAN系前駆体繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱して、耐炎化繊維束を得る。酸化性雰囲気としては、空気、酸素、二酸化窒素など、公
知の酸化性雰囲気を採用できるが、経済性の面から空気が好ましい。耐炎化処理の時間は、炭素繊維の生産性および性能を高める観点から30〜120分が好ましい。耐炎化処理に要する時間を30分以上とすることで、耐炎化反応が十分になって、斑を生じにくくなり、また後に行われる炭素化工程で毛羽、束切れを生じにくくなり、結果的に生産性が向上する。一方、耐炎化処理に要する時間を120分以下とすることで、耐炎化装置を大型化したり耐炎化処理速度を下げたりする必要がなくなり、生産性が向上する。
【0047】
前炭素化処理工程では、前記耐炎化繊維束を第1の炭素化炉に投入して前炭素化処理し、前炭素化繊維束を得る。第1の炭素化炉内には、温度が300℃以上1,000℃未満の不活性雰囲気が循環しており、耐炎化処理されたPAN系前駆体繊維束は、該不活性雰囲気中を走行する間に前炭素化処理される。なお、第1の炭素化炉内を循環する不活性雰囲気の流れは、走行する被処理繊維に対して平行方向でも、垂直方向でもよく、特に限定されない。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
【0048】
炭素化処理工程では、前記前炭素化繊維束を第2の炭素化炉に投入して炭素化処理し、炭素化繊維束を得る。第2の炭素化炉内には、最高温度が1,000℃以上3,000℃以下の不活性雰囲気が循環しており、前炭素化繊維束は、該不活性雰囲気中を走行する間に炭素化処理される。なお、第2の炭素化炉内を循環する不活性雰囲気の流れは、走行する被処理繊維に対して平行方向でも、垂直方向でもよく、特に限定されない。不活性雰囲気としては、先に例示した公知の不活性雰囲気の中から選択して用いることができるが、経済性の面から窒素が望ましい。
【0049】
炭素化繊維束は、サイジング処理工程の前に、表面処理が行われても良い。例えば、電解液中で電解酸化処理を施したり、気相または液相での酸化処理を施すことによって、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性を向上させることが好ましい。なお、酸化処理をする際は均一に処理できるよう、できるだけトウ幅の広い状態で処理することが好ましい。
【0050】
サイジング処理工程では、サイジング処理とその乾燥処理を行う。サイジング処理の方法は特に限定されず、炭素化繊維束に所望のサイジング剤を付与することができれば良い。例えば、ローラーサイジング法、ローラー浸漬法およびスプレー法等を挙げることができる。
【0051】
サイジング処理に用いるサイジング処理液は特に限定されず、種々の高次加工に適した特性を有するものを選択することができる。例えば、均一に糸条に含浸するためには、サイジング剤を含む溶液、エマルジョンまたはサスペンジョン状態としたサイジング処理液とできるもので、それを炭素化繊維束に付着させて、乾燥装置内で溶剤または分散媒を乾燥除去できるものであれば良い。
【0052】
サイジング処理液中のサイジング剤の主成分としては特に限定されず、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂などが挙げられ、これらの二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
中でも、(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂(b)とポリヒドロキシ化合物(c)と芳香環を含むジイソシアネートで構成されるポリウレタンと、(d)エポキシ樹脂との混合物および/またはそれらの反応生成物を含んでなるウレタン変性エポキシ樹脂を含むものが好ましい。(a)成分および(d)成分が有するエポキシ基は、炭素繊維表面の酸素含有官能基との相互作用が非常に強く、サイジング剤成分の炭素繊維表面に強固に接着させることができる。また、(b)成分であるポリヒドロキシ化合物と(c)成分である芳香環を含むジイソシアネートにより形成されたウレタン結合ユニットを有することにより、柔軟性の付与とウレタン結合と芳香環の有する極性による炭素繊維表面との強い相互作用の付与が可能となる。したがって、分子中にエポキシ基と上記ウレタン結合ユニットを有するウレタン変性エポキシ樹脂は、炭素繊維表面に強く付着した柔軟性を有する化合物であり、マトリックス樹脂を含浸・硬化させる複合化工程において、炭素繊維表面に強固に接着した柔軟な界面層を形成することになり、その結果複合材料としての機械的性能に優れたものとすることができる。
【0054】
ここで、(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂は特に制限はなく、グリシドール、メチルグリシドール、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、オキシカルボン酸グリシジルエステルエポキシ樹脂などを用いることができる。特に好ましいヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂である。これらは、芳香環を有することから、炭素繊維表面との相互作用が強く、また複合材料に用いられるマトリックス樹脂が、耐熱性、剛直性の観点から、芳香環を有するエポキシ樹脂を用いる場合が多く、これらマトリックス樹脂との相溶性に優れることによる。
【0055】
また、(b)ポリヒドロキシ化合物は、2以上のヒドロキシ基を有する化合物であればよく、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか1種またはこれら混合物より構成されるものであるとより好ましい。これらの化合物は、ウレタン変性エポキシ樹脂を柔軟にすることができるからである。また、(c)芳香環を含むジイソシアネートには特に制限はない。特に好ましいのは、トルエンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートである。
【0056】
また、(d)エポキシ樹脂は特に制限はなく、また(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と同じものを用いてもよい。好ましくは、分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものがよい。これは、炭素繊維の表面とエポキシ基の相互作用が強く、これら化合物が表面に強固に付着するからである。エポキシ基の種類には特に制限はなく、グリシジルタイプ、脂環エポキシ基などを採用することができる。好ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エピクロンHP−7200シリーズ:大日本インキ化学工業株式会社製商品名)、トリスヒドロキシンフェニルメタン型エポキシ樹脂(エピコート1032H60、エピコート1032S50:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、DPPノボラック型エポキシ樹脂(エピコート157S65、エピコート157S70:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0057】
(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と(b)ポリヒドロキシ化合物と(c)芳香環を含むジイソシアネ−トとで構成されるポリウレタンと、(d)エポキシ樹脂との混合物および/またはそれらの反応生成物は、ポリウレタン樹脂を合成する際に、(a)−(d)を同時に混入してもよく、あるいはポリウレタン樹脂を合成したのち、ジイソシアネート化合物と(d)を追加で添加し、最終生成物として得ることもできる。このような化合物からなる水分散液としては、ハイドランN320(DIC株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0058】
また、上記サイジング剤を炭素繊維束に付与させることにより炭素繊維束の形態保持性が良好となり、後加工で用いる際に良好な加工適性を有す。
【0059】
サイジング処理液中のサイジング剤の割合は特に限定されず、0.2〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜10質量%である。サイジング処理液中のサイジング剤の割合を0.2質量%以上とすることで、炭素繊維に所望する機能を充分に付与することができる。また、サイジング処理液中のサイジング剤の割合を20質量%以下とすることで、サイジング剤の付着量が適切なものとなり、後工程で複合材料として利用する際のマトリックス樹脂の含浸性が良好となる。
【0060】
サイジング処理液に用いる溶媒または分散媒は特に限定されないが、取り扱い性および安全性の面から、水を用いることが好ましい。
【0061】
炭素繊維束におけるサイジング剤の付着量は、0.3〜5質量%が好ましく、0.4〜3質量%がより好ましい。サイジング剤の付着量を0.3質量%以上とすることで、炭素繊維に所望する機能を充分に付与することができる。また、サイジング剤の付着量を3質量%以下とすることで、後工程で複合材料として利用する際のマトリックス樹脂の含浸性が良好となる。
【0062】
サイジング処理後の乾燥処理では、サイジング処理液の溶媒または分散媒を乾燥除去する。その際の条件は、120〜300℃の温度で、10秒〜10分間の範囲が好適であり、より好適には150〜250℃の温度で、30秒〜4分間の範囲である。乾燥温度を120℃以上とすることで、溶媒を充分に除去することができる。また、乾燥温度を300℃以下とすることで、サイジング処理された炭素繊維束の品質を維持することができる。
【0063】
乾燥処理の方法は特に限定されず、例えば、蒸気を熱源とするホットロールに接触させて乾燥させる方法や、熱風が循環している装置内で乾燥させる方法を挙げることができる。
【0064】
図3は、サイジング処理工程を行う装置の概略構成図である。図3に示すとおり、この装置は、溝ロール6と、サイジング剤付与装置9と、サイジング剤乾燥装置10とを有している。溝ロール6の一次側には、フリーロール4が配置されている。溝ロール6は、サイジング剤付与装置9の一次側に配置されている。サイジング剤付与装置9には、フリーロール4および駆動ロール2が、一次側から順に配置されている。サイジング剤付与装置9の二次側には、サイジング剤乾燥装置10が配置されている。サイジング剤乾燥装置10の一次側にはフリーロール4が配置され、二次側にはフリーロール4および巻取部5が順に配置されている。
【0065】
溝ロール6について、図2を用いて説明する。図2は、溝ロール6の周面を部分拡大した断面図であり、溝ロール6の溝形状を示すものである。溝ロール6は、略円筒状であって、その周面には、溝ロールの回転方向、即ち、炭素化繊維束の進行方向に沿って延びる複数の溝が設けられている。図2に示すとおり、溝ロール6の周面には、複数の凸部が離間して設けられ、溝部7が形成されている。溝部7の溝底部8の形状は、曲率半径Rの曲面状である。凸部は、溝部7に面する壁面と、曲面状の頭頂面を有する。
【0066】
溝ロール6の溝部7の形状は特に限定されないが、溝底部8の曲率半径Rは、1.5〜2.0mmであることが好ましい。1.5mm以上であると、得られる炭素繊維の厚み斑が生じることがなく、2.0mm以下であれば、トウ幅の制御が困難となることもない。また、溝部7を挟んで位置する凸部の、壁面と壁面とで形成される角度α、即ち、溝部の開度αが、5〜30°であることが好ましい。5°以上であると、得られる炭素繊維のトウ幅が狭くなりすぎて、後加工性が不良となることがない。一方、30°以下であれば、溝ロール6によるトウ幅の制御が困難となることがない。
【0067】
溝ロール6の材質は、走行させる炭素繊維束の張力に対して充分な強度が保証されるものであればよく、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックス、アルミニウムなどが好ましく用いられる。
【0068】
サイジング剤付与装置9は特に限定されず、既存の装置を用いることができる。また、
サイジング剤乾燥装置10は特に限定されず、既存の装置を用いることができる。
【0069】
シート状に引き揃えられた炭素化繊維束は、フリーロール4に巻き取られるようにしながら、サイジング剤付与装置9に移送される。サイジング剤付与装置9に移送された炭素化繊維束は、フリーロール4に巻き取られるようにしながら、任意の張力が与えられて、溝ロール6の周面に押し付けられる。溝ロール6の周面に押し付けられた炭素化繊維束は、トウごとに溝部7に押し込まれ、任意のトウ幅に規制されながら移送される。こうして、溝ロール6上で、任意のトウ幅に揃えられた炭素化繊維束は、フリーロール4によって、任意の張力が維持されながら、サイジング剤付与装置9内を移送され、サイジング処理液が付与される。次いで、駆動ロール2に挟持されながら移送されることで、炭素化繊維束に付着している余剰のサイジング処理液が除去される。そして、フリーロール4を経由して、サイジング剤乾燥装置10内を移送して、乾燥し、炭素繊維束を得ることができる。次いで、炭素繊維束は、フリーロール4に巻き取られるようにしながら、進行方向を変えて、巻取部5により巻き取られて、炭素繊維ボビンパッケージとなる。
【0070】
このようにして、工程通過性に優れた炭素繊維束を製造することができる。本発明の炭素繊維束は、プリプレグやフィラメントワインディング、織物、引き抜き成型等の後加工において安定した炭素繊維束を供給できる。
【0071】
本発明の炭素繊維束は、高品質、高品位であることが要求される自動車用途や建材等の一般産業用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0073】
(炭素繊維束を製造する基本工程)
アクリロニトリル、アクリルアミド、およびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、21質量%の紡糸原液を調製した。前記紡糸原液を孔数60,000、孔径45μmの紡糸口金(紡糸ノズル)を通して、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に吐出させ、紡糸原液の吐出線速度の0.38倍の引取り速度で引き取ることで繊維束(膨潤糸条)を得た。次いで、この繊維束に対して水洗と同時に5.3倍の延伸を行い、さらに1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第一油浴槽に導き第一油剤を付与し、ガイドで一旦絞りを行った後、引き続き第二油浴槽で第二油剤を付与した。この繊維束を熱ロールを用いて乾燥し、熱ロール間による乾熱二次延伸を1.5倍とし、トータル延伸倍率8.0倍を行った。その後、タッチロールにて繊維束の水分率を調整し、単繊維繊度1.0dtex、フィラメント数60,000本のPAN系炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0074】
前記前駆体繊維束を、耐炎化処理を終えるまでの伸長率を−5.9%、温度を220℃〜260℃として加熱処理を施し、耐炎化繊維束を得た。この耐炎化繊維束を、700℃の窒素雰囲気中、伸長率を+3%として前炭素化処理し、続いて1,350℃の窒素雰囲気中、伸長率を−3.8%として炭素化処理し、引き続いて、重炭酸アンモニウム5質量%水溶液中を走行せしめ炭素繊維束を陽極として、被処理炭素繊維1g当り5.4クーロンの電気量となるように対極との間で通電処理を行い、サイジング処理を行って、巻取機(神津製作所製、製品名:KTW型)で巻き取り、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の繊度は、33,000dtexであった。得られた炭素繊維束のストランド物性をASTM D4018に準拠した方法で測定したところ、ストランド強度4900MPa、ストランド弾性率255GPaであった。
【0075】
(複合材料の機械特性評価)
Bステージ化したエポキシ樹脂(商品名:#350、三菱レイヨン(株)製)を塗布した離型紙上に、ボビンから巻き出した炭素繊維束を引き揃えて配置して、加熱圧着ローラーを通して、エポキシ樹脂を含浸した。その上に、一方向引揃えプリプレグ(以下、UDPPと略記する。)を作製した。作製したUDPPを積層し、130℃での加熱し、オートクレーブ法により、一方向引揃え(UD)積層板を作製した。この積層板について、ASTM D3039に準じて繊維方向に対して0°方向の引張強度を測定した。
【0076】
(実施例1)
耐炎化処理、前炭素化処理、炭素化処理および電解酸化処理工程を経た後に、溝底部の曲率半径R=2.0mm、溝部開度α=21°の溝ロールを通過させた。その後、サイジング処理でサイジング剤1(商品名:ハイドランN320、DIC株式会社製)を1質量%付着させ、乾燥処理を経た後、以下のガイド装置を用いてボビンに巻き取り炭素繊維束を得た。
【0077】
図4は実施例1で用いたガイド装置12の概略構成図であり、図5はガイド装置12が設置された巻取機11の模式図である。
【0078】
図4に示すとおり、ガイド装置12は、ガイドスタンド13と、第一ガイドロール15および16が同一の軸方向で設置され構成されている第一ガイドロール対14と、第二ガイドロール18および19が同一の軸方向で設置され構成されている第二ガイドロール対17とを有する。ガイドスタンド13の炭素繊維束の進行方向の上流側には、第一ガイド
ロール対14が、第一ガイドロール15と第一ガイドロール16がガイドスタンド13の表面と平行、かつ、炭素繊維束の進行方向と直交する方向に設置されている。ガイドスタンド13の炭素繊維束の進行方向の下流側には、第二ガイドロール対17が、第二ガイドロール18と第二ガイドロール19がガイドスタンド13の面の垂直方向に設置されている。
【0079】
第一ガイドロール対14と第二ガイドロール対17との中間には、トラバースガイド20が設置されている。第二ガイドロール18と第二ガイドロール19との中間には、図8に概略的に示す側面形状を持つフック状ガイド21が設置されている。
【0080】
次に、図5を用いて巻取機11について説明する。巻取機11は、フリーロール4と、ガイド装置12と、巻取機プレッシャーロール22と、ボビン23とが順に設置されている。
【0081】
フリーロール4は、炭素繊維束の進行方向と直交するように設置されている。ガイド装置12のガイドスタンド13は、ボビン23の軸と直交する方向に立設され、軸と平行にボビン23の両端面間を往復動するトラバース装置と接続されている。巻取機プレッシャーロール22は、その周面がボビン23の巻取面と接するようにして、設置されている。
【0082】
第一ガイドロール15および16、ならびに第二ガイドロール18および19は、走行させる炭素繊維束の張力に対して充分な強度が保証されるものであればよく、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックス、アルミニウムなどが挙げられる。このうち、軽量であるという点からアルミニウムが優れているが、単糸巻き付け時にはカッターナイフを使用することがあるため、そのような場合にも損傷の少ないステンレス鋼を用いることが好ましい。さらには、単糸巻き付きを防止する観点から、ハードクロムによる梨地仕上げ等の表面処理を施すことが好ましい。
【0083】
第一ガイドロール対14の内、上流側に設置されている第一ガイドロール15の形状は、鼓形状である。鼓形状とは、図6に示すように、周面の円周が、両端面から中央部方向に向かって徐々に半径が短くなるような形状、即ち第一ガイドロール15の軸方向の断面において、中央部が凹んで湾曲した形状である。凹みの程度は特に限定されず、巻き取る炭素繊維束のトウ幅等を考慮して決定することができる。第一ガイドロール対14の内、下流側に設置されている第一ガイドロール16の形状は円柱形状である。円柱形状とは、図7に示すとおり、両端面の間の周面が同一半径の円周で形成されている形状である。第一ガイドロール15および16の直径、周面の幅は特に限定されず、走行させる炭素繊維束のトウ幅、フィラメント数に応じて決定することが好ましい。
【0084】
第二ガイドロール対17の内、上流側に設置されている第二ガイドロール18の形状は円柱形状であり、第一ガイドロール16と同様である。第二ガイドロール対17の内、下流側に設置されている第二ガイドロール19の形状は鼓形状であり、第一ガイドロール15と同様である。
【0085】
巻取機11を用いた炭素繊維束の巻き取り方法について、図5を用いて説明する。
【0086】
炭素繊維束は、フリーロール4の周面に沿って移送され、ガイド装置12に供給される。ガイド装置12に供給された炭素繊維束は、第一ガイドロール15および16の順に掛け回される。この際、第一ガイドロール15および16と、フリーロール4とは、直交する軸方向で設置されているため、フリーロール4を通過した炭素繊維束は、その軸線方向に90°捻転されながら移送される。このように、第一ガイドロール15および16は、フリーロール4と直交させ、即ち、トラバース(綾振り)方向と直交する軸方向で設置されているため、炭素繊維束は、第一ガイドロール15および16の周面に沿ってトラバース方向に供給されることとなり、炭素繊維束は安定した状態でトラバースされる。
【0087】
次いで、90°に捻転された炭素繊維束は、第二ガイドロール18および19の順に掛け回される。そして、第二ガイドロール18および19と、第一ガイドロール16とは、直交する軸方向で設置されているため、炭素繊維束は、その軸線方向に90°捻転される。この際、炭素繊維束は、第二ガイドロール18が円柱形状であるために、幅方向に均等に張力がかけられ、一定のトウ幅に制御される。次いで、炭素繊維束は、フック状ガイド21の開口部を通過して、鼓形状の第二ガイドロール19の湾曲周面に添って移送される。そして、炭素繊維束は、トラバース装置の往復動によって、ボビン23周面の幅方向に均等に分配され、巻取機プレッシャーロール22によってボビン23に押圧されながら、ボビン23に巻き取られて、炭素繊維束が得られる。
【0088】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0089】
(実施例2)
以下に示す方法で製造したサイジング剤2を1質量%付与させた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。
【0090】
(サイジング剤2)
フラスコに、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド8モル付加物1.8モル、トリメチロールプロパン0.8モル、ジメチロールプロピオン酸0.6モルよりなるポリオール3.2モルを投入し、さらに、反応禁止剤として2,6−ジ(t−ブチル)4−メチルフェノール(BHT)を0.5g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.2gを添加しこれら混合物が均一になるまで撹拌した。ここで、必要に応じて粘度調整剤としてメチルエチルケトンを加えた。均一に溶解した混合物にメタキシレンジイソシアネート3.4モルを滴下して加え、攪拌をしながら反応温度50℃、反応時間2時間でウレタンプレポリマーの重合を実施した。次に、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名「エピコート834」を0.25モル加え、ウレタンプレポリマーの末端にあるイソシアネート基を反応させることによりエポキシ変性ウレタン樹脂を得た。
【0091】
このエポキシ変性ウレタン樹脂90重量部と乳化剤として旭電化(株)製商品名「プルロニックF88」10質量部を混合し、サイジング剤2の水分散液を調製した。
【0092】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0093】
(実施例3)
以下に示す方法で製造したサイジング剤3を1.0質量%付与させた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。
【0094】
(サイジング剤3)
フラスコに、ポリエチレングリコール400を2.5モル、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名「エピコート834」を0.7モル投入し、さらに、反応禁止剤として2,6−ジ(t−ブチル)4−メチルフェノール(BHT)を0.25g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.1gを添加しこれら混合物が均一になるまで撹拌した。ここで、必要に応じて粘度調整剤としてメチルエチルケトンを加えた。均一に溶解した混合物にメタキシレンジイソシアネート2.7モルを滴下して加え、攪拌をしながら反応温度40℃、反応時間2時間でエポキシ変性ウレタン樹脂を得た。
【0095】
このエポキシ変性ウレタン樹脂80重量部と乳化剤として旭電化(株)製商品名「プルロニックF88」20質量部を混合し、サイジング剤3の水分散液を調製した。
【0096】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0097】
(実施例4)
以下に示す方法で製造したサイジング剤4を1.0質量%付与させた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。
【0098】
(サイジング剤4)
ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物無水フマル酸エステル41質量部と、片末端アクリル酸変性ジグリシジルエーテルビスフェノールAエポキシ樹脂28質量部と、共栄社化学(株)製脂肪族系ウレタンアクリレートオリゴマー(粘度;高粘調液体/60℃、硬化物の引張伸び率50%、硬化物Tg56℃、商品名:UF−8001)14質量部と、青木油脂工業(株)製イソステアリルアルコールエチレンオキサイド6モル付加物2質量部と、乳化剤として日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環置換フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:ニューコール723SF)15質量部を混合し、サイジング剤4の水分散液を調製した。
【0099】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0100】
(実施例5)
以下のガイド装置を用いた以外は実施例1と同様の方法で、炭素繊維束を得た。
【0101】
図9は、ガイド装置が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図であり、図10は、巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。また、図11は凹部を有する平行ガイドロールの側面図である。
【0102】
ガイド装置12は、図示せぬフレームに取り付けられた3つのガイド24、25および26を有し、ボビン23の軸線23aに平行に往復動する図示せぬ公知のトラバース機構に装着されて一緒に往復動する。ガイド装置12の第1ガイド24および第2ガイド25は一組のガイドを構成し、図9に示すボビンの軸線方向から見て、それぞれボビンの軸線23aとは直交する方向に配置される。また他の一つのガイド26は前記第2ガイド25の炭素繊維束供給後流側に配され、その軸線が前記ボビン23の軸線23aと平行に配されたガイドロール(以下、平行ガイドロールという。)からなる。
【0103】
第1ガイド24は円錐状ガイドからなり、材質としては、鋼製の梨地メッキを施したものまたは鏡面メッキを施したもの、さらにはテフロン(登録商標)などの樹脂をコーティングしたものなど、いずれの材質も使用可能である。第1ガイド24は、その軸線を、炭素繊維束が供給されて最初に接する円錐の斜辺に相当する部分が、ボビンの軸線23aと垂直な方向に配置する。このとき、第1ガイド24の炭素繊維束の接する部分の長さは、供給する炭素繊維束の繊度または炭素繊維束の幅にもよるが、炭素繊維束が最初に接する部分である斜辺の長さが、20mm〜120mm、好ましくは30mm〜100mmであり、円錐の底面の直径も10〜50mm、より好ましくは20mm〜40mmである。
【0104】
第2ガイド25は円錐状を呈しており、第1ガイド24とはその軸線がねじれた位置関係に配置される。すなわち、第2ガイド25は、図9においてボビンの軸線23aとはその軸線方向から見て直交する方向に配置され、同時に第2ガイド25の軸線は、ボビン23の軸線23aに対して炭素繊維束の供給方向から見て90°以下の角度をもって設置される。その円錐形状の頂角は45°以下に設定される。ボビン23の配列スペースの制約の観点から、狭いスペースの中で炭素繊維束の接する斜辺の長さを充分確保することが好ましい。すなわち、円錐状である第2ガイド25の底面の直径は10〜50mmであることが好ましく、より好ましくは20〜40mmであり、斜辺の長さは20mm〜100mm、好ましくは30mm〜80mmである。
【0105】
この一組の第1ガイド24および第2ガイド25と、上記平行ガイドロール26によって、炭素繊維束はほぼその供給方向の軸線に対して90°捻転されてから0°に戻し、またはさらに同一方向に90°捻転させるためには、第2ガイド25の軸線の方向およびその頂角は、前述のとおり、繊維束と接する斜辺の方向を、ボビン23の軸線23aに対して30°〜60°に設定し、特に40〜50°に設定することが好ましい。
【0106】
前記平行ガイドロール26もまた、前述した第1ガイド24および第2ガイド25と共通の支持手段によって支持され、図示せぬトラバース機構によりボビン23の軸線23aと平行な方向に往復トラバースされる。
【0107】
この平行ガイドロール26は、その上方に配置される円錐状のロールからなる第2ガイド25を経由して供給されてくる炭素繊維束をボビンに平行な方向にさらに捻転させると同時に、平行ガイドロール26は、その上部に配置される円錐状のガイドロールを経由して供給される炭素繊維束をボビンに平行な方向にさらに捻転させるものである。平行ガイドロール26として、通常は1本の円筒形状のロールが用いられるが、巻取部内におけるボビン配列スペースの観点から、その直径は10mm〜40mm、さらに好ましくは、15mm〜30mmに設定される。平行ガイドロール26のロール面長は20mm〜100mm、さらにトラバース機構への取り付けなどのスペース要因をも考慮すると30mm〜80mmとすることがさらに好ましい。
【0108】
平行ガイドロール26として、通常は1本の円筒形状のロールが用いられるが、本発明ではトウ幅を縮小させるために、図11に示すようにガイドロールの一部が凹部を有することが好ましい。凹部を通過させることによってトウ幅を縮小させることにより、巻き取った炭素繊維束を巻き出した場合に糸切れ発生が少なくなる効果がある。
【0109】
また凹部を有するガイドロールの曲率半径R’は製造する炭素繊維束のトウ本数により適宜変更させる必要がある。例えば繊度33,000dtex、60,000本からなる炭素繊維束の場合は凹部を有するガイドロールに関して、その平行ガイドロールの凹部の曲率半径R’が5mmよりも小さくなった場合は、炭素繊維束に撚りや折れが入り、巻きパッケージの悪化や、後加工で使用する際に均一に繊維が拡がらないために適切ではない。また曲率半径R’が15mmよりも大きい場合はトウ幅を縮小させる効果がないために適切ではない。
【0110】
図9に示すとおり、巻取部本体の上方には、その軸線をボビンの軸線23aと平行にフリーロール4が設けられる。
【0111】
炭素繊維束は、前記巻取部の上部に設置された上部フリーロール4に掛け回されてから、軸線が空間上で互いにねじれた位置関係にある一組のガイドすなわち、第1ガイド24と第2ガイド25とに交互に掛け回されてボビンへと送られる。このとき、第1ガイド24と第2ガイド25はボビンの軸線23aと平行にトラバースされ、さらに初めに炭素繊維束が接する第1ガイド24は円錐状ガイドであり、その軸線がボビンの軸と垂直すなわちトラバース方向と直交する方向に配置されているため、ボビンの軸と平行に移動しても繊維束は前記第1ガイド24のロール周面に沿って供給され、炭素繊維束は安定した状態でトラバースがなされテープ状の形態を維持できる。
【0112】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻
き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0113】
(比較例1)
以下のガイド装置を用いた以外は実施例1と同様の方法で、炭素繊維束を得た。
【0114】
図12は用いたガイド装置12の概略図であり、図13はガイド装置12が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図であり、図14は巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。
【0115】
図13に示すとおり、巻取部本体の上方には、その軸線をボビン23の軸線23aと平行にフリーロール4が設けられる。巻取機11は、フリーロール4と、ガイド装置12と、巻取機プレッシャーロール22と、ボビン23とが順に設置されている。フリーロール4は、炭素繊維束の進行方向と直交するように設置されている。ガイド装置12は、ボビン23の軸と直交する方向に立設され、軸と平行にボビン23の両端面間を往復動するトラバース装置と接続されている。巻取機プレッシャーロール22は、その周面がボビン23の巻取面と接するようにして、設置されている。
【0116】
巻取機11を用いた炭素繊維束の巻き取り方法について、図14を用いて説明する。炭素繊維束は、フリーロール4の周面に沿って移送され、ガイド装置12に供給される。ガイド装置12に供給された炭素繊維束は、ガイドロールのスリット部27を通過して、トラバース装置の往復動によって、ボビン23周面の幅方向に均等に分配され、巻取機プレッシャーロール22によってボビン23に押圧されながら、ボビン23に巻き取られて、炭素繊維束が得られる。この際トラバースされるごとに炭素繊維束に撚りが入っていきながら巻き取られていく。比較例1ではスリット部27のスリットの幅を3.2mmとした。
【0117】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率は安定していたが、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅は不安定であった。
【0118】
(比較例2)
溝ロールを設置せずにサイジング処理を行い、乾燥処理を経た後、実施例4と同じガイド装置を用いた以外は実施例1と同様の方法でボビンに巻き取り炭素繊維束を得た。
【0119】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。この炭素繊維束では、糸切れ、トウ切れが発生した。
【0120】
実施例および比較例で得られた炭素繊維束の評価方法は、以下のとおりである。その結果を表1に纏めた。
【0121】
<炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅および変動率>
張力をかけずに、炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定し、その平均値を算出した。また、トウ幅の変動率を下記式(2)から算出した。
【0122】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)
<巻き出し直後のトウ幅および変動率>
図1に示すように、炭素繊維束を、炭素繊維ボビンパッケージ1上から300gf(2.94N)の張力をかけた状態で、5m/分の速度で駆動ロール2を通過させて張力を調整しながら巻き出し、巻取部5で巻き取った。50m分のトウ幅を0.1秒ごとにトウ幅検出器3で読み取りデータロガーで記録し、その平均値を算出した。また、トウ幅の変動率を前記式(2)から算出した。
【0123】
<拡がり変動率>
下記式(1)から算出した。
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
<解舒性評価>
炭素繊維束ボビンパッケージを、300gf(2.94N)の張力をかけた状態で100m/分の速度で1,000m解舒を行い、糸切れ、トウ切れの発生を確認した。解舒性評価は、以下のように判定した。
○:解舒中の糸切れも、トウ切れなし。
×:解舒中に糸切れ、トウ切れが1回以上あり解舒中断。
【0124】
<炭素繊維束の撚り発生頻度評価>
5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した場合において、連続的にトウ幅を50m測定した場合の撚りの発生頻度を測定して記録した。
【0125】
【表1】
【符号の説明】
【0126】
1:炭素繊維ボビンパッケージ
2:駆動ロール
3:トウ幅検出器
4:フリーロール
5:巻取部
6:溝ロール
7:溝部
8:溝底部
9:サイジング剤付与装置
10:サイジング剤乾燥装置
11:巻取機
12:ガイド装置
13:ガイドスタンド
14:第一ガイドロール対
15、16:第一ガイドロール
17:第二ガイドロール対
18、19:第二ガイドロール
20:トラバースガイド
21:フック状ガイド
22:巻取機プレッシャーロール
23:ボビン
23a:軸線
24:第1ガイド
25:第2ガイド
26:平行ガイドロール
27:スリット部
R:サイジング処理前に用いる溝ロールの溝底部の曲率半径
R’:平行ガイドロールの曲率半径
α:サイジング処理前に用いる溝ロールの溝部の開度
F:繊維方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料の分野において使用されるトウボリュームの大きい炭素繊維束(ラージトウ)でも、後加工における解舒性および工程通過性に優れた炭素繊維束に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、航空宇宙素材、スポーツ、レジャー用素材、圧縮ガス容器などの工業用素材として極めて有用であり幅広い範囲で需要が伸びていくことが期待されている。炭素繊維、ガラス繊維などを補強繊維とする複合材料の分野においてはプリプレグや織物、引き抜き成型等、用途多様化に伴い、多様な分野で取り扱い性、加工性の容易さが求められている。また、一般産業用途ではフィラメント数が24,000よりも多い、いわゆるラージトウタイプの炭素繊維が上市されている。このラージトウタイプの炭素繊維においても、フィラメント数が24,000よりも少ない、いわゆるスモールトウと同様に、後加工での均一な拡がり性が要求される。
【0003】
例えばプリプレグ用途においては、品位を損なわないように薄く開繊する必要があり、かつ長手方向のトウ幅の安定性が求められている。このためこれらの原材料となる補強繊維糸条においても従来のいわゆるロープ状に代わって、加工前から扁平状である扁平糸条が用いられるようになった。
【0004】
従来、実質的に撚りのない繊維束に集束されたポリアクリロニトリル系前駆体繊維束(以下、PAN系前駆体繊維束という)を炭素繊維化処理するには、次のような方法が挙げられる。最初に数十〜数百錘のPAN系前駆体繊維束をシート状に引き揃え、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化処理する。前記耐炎化処理により得られた耐炎化繊維束を、引き続いて300℃以上の不活性雰囲気中の焼成(炭素化処理)工程に導いて炭素繊維を得る。その後、電解液中で電解酸化処理を施したり、気相または液相での酸化処理を施したりすることによって、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性を向上させ、さらに、サイジング剤を付与する工程が一般的である。
【0005】
多くの炭素繊維束は、紙管に巻上げてパッケージにした後、連続解舒して加工していることが多い。その際、炭素繊維束が多い場合はそのトウボリュームが大きいことが原因でトウ幅が広くなり、炭素繊維束同士の摩擦が原因と推定される糸切れ回数が多いことが問題となっている。この糸切れ回数が多くなると最終的にはトウ切れを起こすために、後加工における工程通過性に問題が発生する。
【0006】
特許文献1および2には、炭素繊維束の平均扁平率を既定した技術が記載されている。しかし、いずれも強度発現率に優れた炭素繊維束に関する技術であり、炭素繊維束パッケージからの解舒性および工程通過性に関する記述は見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−294568号公報
【特許文献2】特開2003−336129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、トウボリュームの大きい炭素繊維束であっても、後加工における解舒
性および工程通過性に優れた炭素繊維束を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、トウボリュームの大きい炭素繊維束の後加工における工程通過性を改善するためには、炭素繊維束のトウ幅をある一定の幅に安定に制御する必要が生じることを見出した。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用する。
(1)フィラメントの本数が50,000以上200,000以下の炭素繊維束であって、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下であり、実質的に撚りがないことを特徴とする炭素繊維束。
(2)5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)と、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅(W1)とから、下記式(1)で求められる拡がり変動率が、105%以上である(1)に記載の炭素繊維束。
【0011】
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
(3)5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)の、下記式(2)で求められる変動率が、10%以下である(1)または(2)に記載の炭素繊維束。
【0012】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)トウ幅の標準偏差および平均値は、張力をかけずに、捩れが生じないように炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定して算出する。
(4)繊度が25,000dtex以上40,000dtex以下である(1)乃至(3)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(5)炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下である(1)乃至(4)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(6)(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と(b)ポリヒドロキシ化合物と(c)芳香環を含むジイソシアネートとで構成されるポリウレタンと、
(d)エポキシ樹脂と
の混合物および/またはそれらの反応生成物
を含んでなるウレタン変性エポキシ樹脂でサイジングされた(1)乃至(5)のいずれかに記載の炭素繊維束。
(7)前記(a)サイジング剤のヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、前記(b)ポリヒドロキシ化合物が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか1種またはこれらの混合物であり、前記(c)芳香環を含むジイソシアネートが、トルエンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートである(1)乃至(6)のいずれかに記載の炭素繊維束。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トウボリュームの大きい炭素繊維束であっても、後加工における解舒性および工程通過性に優れた炭素繊維束の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅およびトウ幅変動率を測定する装置の概略構成図である。
【図2】溝ロールの周面を部分拡大した断面図である。
【図3】サイジング処理工程を行う装置の概略構成図である。
【図4】実施例1から4で用いたガイド装置側面の概略構成図である。
【図5】実施例1から4で用いたガイド装置が設置された巻取機を示す模式図である。
【図6】実施例1から4で用いた鼓形状のガイドロールの側面図である。
【図7】実施例1から4で用いた円柱形状のガイドロールの側面図である。
【図8】実施例1から4で用いたガイド装置が有するフック状ガイドの側面図である。
【図9】実施例5および比較例2で用いたガイド装置が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図である。
【図10】実施例5および比較例2における、巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。
【図11】実施例5および比較例2で用いた凹部を有する平行ガイドロールの側面図である。
【図12】比較例1で用いたガイド装置の概略図である。
【図13】比較例1で用いたガイド装置が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図である。
【図14】比較例1における、巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面等に基づき、さらに詳しく説明する。
【0016】
本明細書において、炭素化繊維束とは、PAN系前駆体繊維束を焼成して得られた繊維束を意味するものとする。炭素繊維束とは、前記炭素化繊維束をサイジング処理し、得られる繊維束を意味するものとする。
【0017】
本発明の炭素繊維束の繊度は、25,000dtex以上40,000dtex以下の範囲であることが好ましい。炭素繊維束の繊度とは、単糸繊度(dtex)×フィラメント数で表される。単糸繊度は通常0.2〜0.9dtexであるが、本発明では、フィラメント数は50,000〜200,000本となるように調整する。
【0018】
炭素繊維束の繊度を25,000dtex以上40,000dtex以下にする方法としては、トウボリュームの多い前駆体繊維束を出発物質として用いる方法、いくつかの少フィラメント数の前駆体繊維束を焼成工程の途中のいずれかの工程で、ワインダーで巻き終わるまでに合糸する方法、一旦炭素繊維束として巻き取ったものをクリールから引き出して合糸しながら巻き取る方法などがあるが、本発明では、トウボリュームの多い前駆体繊維束を出発物質として用いる。ワインダーで巻き終わるまでに合糸する方法または一旦炭素繊維束として巻き取ったものをクリールから引き出して合糸しながら巻き取る方法は、炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅が安定せず、後工程通過性が悪化する、または強度発現性が低下するために適当ではない。
【0019】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下である。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が13mmよりも大きい場合は、トウ幅が広いため、ボビンからトウを解舒する際、糸切れが発生する頻度が多くなり、後加工における取り扱い性に問題がある。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm未満の場合には、炭素繊維製造工程中に糸厚みに対するトウ幅が狭くなるため、トウボリュームの大きな炭素繊維束ボビンパッケージの製造は困難であり、撚りを入れる必要がある。
【0020】
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅を10mm以上13mm以下とする手法としては、後述するように、サイジング処理前に溝ロールで揃えた後に、サイジング処理を行う方法が適当である。
【0021】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下とすることが好ましく、8%以下とすることがより好ましい。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率を10%以下とすることで、後加工で使用する際にトウ幅が安定となり、例えば、プリプレグ製造などで引き揃えて使用する際に品位を損なうことなく製品を製造することが可能となる。なお、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率は、後述の実施例で定義している。
【0022】
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率を10%以下とする手法としては、図5
〜図8、または図9〜図11で示したガイド装置を用いた巻き取り方法で巻き取ることが適当である。詳細は、実施例で説明する。
【0023】
本発明の炭素繊維束は、巻き取られる段階で実質的に撚りを有していない。ここで、「実質的に撚りを有していない」とは、炭素繊維束に撚りが全くないか、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した場合において、連続的にトウ幅を50m測定した場合に、撚りの発生が2回以下であることを意味する。
【0024】
本発明の炭素繊維束は、拡がり変動率が105%以上であることが好ましい。ここで拡がり変動率は、下記式(1)で定義される。
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
炭素繊維ボビンパッケージ上の広がり変動率を105%以上とすることで、後工程で複合材料として使用した場合、含浸工程後の炭素繊維束の幅が十分広くなり、含浸させた樹脂が炭素繊維束周辺に染み出すマイグレーションが起こりにくくなる。
【0025】
本発明の炭素繊維束は、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率が、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。巻き出し直後のトウ幅の変動率が10%以下では、後加工で使用する際にトウ幅が安定となり、例えば、プリプレグ製造などで引き揃えて使用する際に品位を損なうことなく製品を製造することが可能となる。なお、このトウ幅の変動率は、下記式(2)で求められる。
【0026】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)トウ幅の標準偏差および平均値は、張力をかけずに、捩れが生じないように炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定して算出する。
【0027】
炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅およびトウ幅変動率を測定する装置の概略構成を図1を用いて説明する。炭素繊維ボビンパッケージ1から炭素繊維束を繊維方向Fに駆動ロール2を介して引き出した後、フリーロール4を通った後に巻取部5で炭素繊維束を巻き取る。本発明では駆動ロール2に至る前にトウ幅検出器3を炭素繊維ボビンパッケージに荷重をかけながら通過させ、トウ幅を測定する。
【0028】
本発明の炭素繊維束は、例えば、PAN系前駆体繊維束に対して、耐炎化処理工程、前炭素化処理工程、炭素化処理工程およびサイジング処理工程を行うことで、製造することができる。PAN系前駆体繊維束は、ポリアクリロニトリルの単独重合体または共重合体を含む紡糸原液を紡糸することで得ることができる。
【0029】
本発明のPAN系前駆体繊維は、捲縮のない実質的にストレートなマルチフィラメントの形態を為しているものである。捲縮とはクリンプと称される座屈変形が付与され、この座屈変形は本質的にPAN系前駆体繊維へ機械的ダメージを与えるものであり、即ち炭素繊維製造工程において単糸切れによる毛羽の発生を誘発し、ロールへの巻き付き等のトラブルや得られる炭素繊維の品位、性能の低下を招く。
【0030】
PAN系前駆体繊維は、不純物、内部ボイド、クレーズやクラック等の表面欠陥を含まないことが好ましい。
【0031】
アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体若しくは共重合体、またはその混合物を用いることができる。
【0032】
アクリロニトリル共重合体は、アクリロニトリルと、それと共重合可能な他の単量体との共重合体である。共重合可能な他の単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の重合性の二重結合を有する酸類およびそれらの塩類;スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、β−スチレンスルホン酸ナトリウム、メタアリルスルホン酸ナトリウム等のスルホン基を含む重合性不飽和単量体;2−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン等のピリジン基を含む重合性不飽和単量体;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。共重合可能な他の単量体は1種でも2種以上でも良い。アクリロニトリル共重合体は、アクリロニトリル単位を90質量%以上含有するものが好ましく、アクリロニトリル単位を95質量%以上含有するものがより好ましい。
【0033】
アクリロニトリル系重合体を得るための重合方法としは、例えば水溶液中におけるレドックス重合、不均一系における懸濁重合、分散剤を使用した乳化重合等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
アクリロニトリル系重合体を溶解させる有機溶剤としては、特に制限はなく、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。アクリロニトリル系重合体の濃度は、例えば、10〜35質量%とすることができる。
【0035】
本発明の方法では、上記で得られた膨潤糸条を洗浄および延伸する。
【0036】
洗浄の方法としては、特に制限はないが、一般的に用いられている、水中、特に温水中に浸漬させる方法がよい。
【0037】
延伸の方法としては、水中、温水中に浸漬させながら延伸する方法、熱板、ローラー等のよる空気中での乾熱延伸法、また熱風が循環している箱型炉内での延伸でも良く、これらに限定されるものではない。経済的な観点から、温水中で行うことが好ましい。
【0038】
ここでの延伸の倍率は、1.1〜7.0倍とすることが好ましい。ただし、後述するように、本発明ではトータルの延伸倍率が5〜9倍である必要があるので、後に二次延伸を行う場合、その延伸倍率を考慮して設定することが好ましい。
【0039】
なお、上記洗浄と延伸の順番については、洗浄を先に行っても良く、また同時に行っても良い。
【0040】
本発明の方法では、上記で得られた洗浄および延伸後の糸条を、シリコーン系油剤が入った油浴槽に導いて、糸条にシリコーン系油剤を付与する。
【0041】
油剤としては、シリコーン化合物を含有するシリコーン系油剤を使用する。シリコーン化合物としては、特に限定されないが、ジメチルシリコーンオイルや有機変性シリコーンオイルを用いることができる。中でも、アミノ変性シリコーンオイルが好適である。通常は、シリコーン化合物とノニオン系乳化剤とを混合し、乳化したものを用いる。また、場合により、酸化防止剤や各種添加剤、さらにシリコーン原子を含まない有機物を混合することもできる。
【0042】
本発明の方法では、上記で得られたシリコーン系油剤を付与した糸条を乾燥緻密化する。
【0043】
乾燥緻密化の方法としては、特に制限はなく、熱板や加熱ローラーに接触させることにより行うことが一般的に用いられている。好ましくは、加熱ローラーによる乾燥である。
【0044】
本発明の方法では、必要に応じて、上記で得られた乾燥緻密化後の糸条を二次延伸することもできる。二次延伸の方法としては、乾熱延伸、スチーム延伸等が挙げられる。
【0045】
ただし、トータルの延伸倍率を5〜9倍とする。すなわち、前述の膨潤糸条の延伸と、必要に応じて行う乾燥緻密化後糸条の二次延伸との延伸倍率の積が5〜9となるように、それぞれの延伸倍率を設定する。トータル延伸倍率が5倍未満では、繊維構造の形成が不十分となり、一方、10倍を超えると耐炎化前の延伸性が低下し好ましくない。トータル延伸倍率は6〜9倍が好ましく、6.5〜8.5倍がより好ましい。
【0046】
耐炎化処理工程では、PAN系前駆体繊維束を200〜300℃の酸化性雰囲気中で加熱して、耐炎化繊維束を得る。酸化性雰囲気としては、空気、酸素、二酸化窒素など、公
知の酸化性雰囲気を採用できるが、経済性の面から空気が好ましい。耐炎化処理の時間は、炭素繊維の生産性および性能を高める観点から30〜120分が好ましい。耐炎化処理に要する時間を30分以上とすることで、耐炎化反応が十分になって、斑を生じにくくなり、また後に行われる炭素化工程で毛羽、束切れを生じにくくなり、結果的に生産性が向上する。一方、耐炎化処理に要する時間を120分以下とすることで、耐炎化装置を大型化したり耐炎化処理速度を下げたりする必要がなくなり、生産性が向上する。
【0047】
前炭素化処理工程では、前記耐炎化繊維束を第1の炭素化炉に投入して前炭素化処理し、前炭素化繊維束を得る。第1の炭素化炉内には、温度が300℃以上1,000℃未満の不活性雰囲気が循環しており、耐炎化処理されたPAN系前駆体繊維束は、該不活性雰囲気中を走行する間に前炭素化処理される。なお、第1の炭素化炉内を循環する不活性雰囲気の流れは、走行する被処理繊維に対して平行方向でも、垂直方向でもよく、特に限定されない。不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウムなど公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が望ましい。
【0048】
炭素化処理工程では、前記前炭素化繊維束を第2の炭素化炉に投入して炭素化処理し、炭素化繊維束を得る。第2の炭素化炉内には、最高温度が1,000℃以上3,000℃以下の不活性雰囲気が循環しており、前炭素化繊維束は、該不活性雰囲気中を走行する間に炭素化処理される。なお、第2の炭素化炉内を循環する不活性雰囲気の流れは、走行する被処理繊維に対して平行方向でも、垂直方向でもよく、特に限定されない。不活性雰囲気としては、先に例示した公知の不活性雰囲気の中から選択して用いることができるが、経済性の面から窒素が望ましい。
【0049】
炭素化繊維束は、サイジング処理工程の前に、表面処理が行われても良い。例えば、電解液中で電解酸化処理を施したり、気相または液相での酸化処理を施すことによって、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との親和性や接着性を向上させることが好ましい。なお、酸化処理をする際は均一に処理できるよう、できるだけトウ幅の広い状態で処理することが好ましい。
【0050】
サイジング処理工程では、サイジング処理とその乾燥処理を行う。サイジング処理の方法は特に限定されず、炭素化繊維束に所望のサイジング剤を付与することができれば良い。例えば、ローラーサイジング法、ローラー浸漬法およびスプレー法等を挙げることができる。
【0051】
サイジング処理に用いるサイジング処理液は特に限定されず、種々の高次加工に適した特性を有するものを選択することができる。例えば、均一に糸条に含浸するためには、サイジング剤を含む溶液、エマルジョンまたはサスペンジョン状態としたサイジング処理液とできるもので、それを炭素化繊維束に付着させて、乾燥装置内で溶剤または分散媒を乾燥除去できるものであれば良い。
【0052】
サイジング処理液中のサイジング剤の主成分としては特に限定されず、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂などが挙げられ、これらの二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
中でも、(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂(b)とポリヒドロキシ化合物(c)と芳香環を含むジイソシアネートで構成されるポリウレタンと、(d)エポキシ樹脂との混合物および/またはそれらの反応生成物を含んでなるウレタン変性エポキシ樹脂を含むものが好ましい。(a)成分および(d)成分が有するエポキシ基は、炭素繊維表面の酸素含有官能基との相互作用が非常に強く、サイジング剤成分の炭素繊維表面に強固に接着させることができる。また、(b)成分であるポリヒドロキシ化合物と(c)成分である芳香環を含むジイソシアネートにより形成されたウレタン結合ユニットを有することにより、柔軟性の付与とウレタン結合と芳香環の有する極性による炭素繊維表面との強い相互作用の付与が可能となる。したがって、分子中にエポキシ基と上記ウレタン結合ユニットを有するウレタン変性エポキシ樹脂は、炭素繊維表面に強く付着した柔軟性を有する化合物であり、マトリックス樹脂を含浸・硬化させる複合化工程において、炭素繊維表面に強固に接着した柔軟な界面層を形成することになり、その結果複合材料としての機械的性能に優れたものとすることができる。
【0054】
ここで、(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂は特に制限はなく、グリシドール、メチルグリシドール、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、オキシカルボン酸グリシジルエステルエポキシ樹脂などを用いることができる。特に好ましいヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂である。これらは、芳香環を有することから、炭素繊維表面との相互作用が強く、また複合材料に用いられるマトリックス樹脂が、耐熱性、剛直性の観点から、芳香環を有するエポキシ樹脂を用いる場合が多く、これらマトリックス樹脂との相溶性に優れることによる。
【0055】
また、(b)ポリヒドロキシ化合物は、2以上のヒドロキシ基を有する化合物であればよく、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか1種またはこれら混合物より構成されるものであるとより好ましい。これらの化合物は、ウレタン変性エポキシ樹脂を柔軟にすることができるからである。また、(c)芳香環を含むジイソシアネートには特に制限はない。特に好ましいのは、トルエンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートである。
【0056】
また、(d)エポキシ樹脂は特に制限はなく、また(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と同じものを用いてもよい。好ましくは、分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものがよい。これは、炭素繊維の表面とエポキシ基の相互作用が強く、これら化合物が表面に強固に付着するからである。エポキシ基の種類には特に制限はなく、グリシジルタイプ、脂環エポキシ基などを採用することができる。好ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(エピクロンHP−7200シリーズ:大日本インキ化学工業株式会社製商品名)、トリスヒドロキシンフェニルメタン型エポキシ樹脂(エピコート1032H60、エピコート1032S50:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、DPPノボラック型エポキシ樹脂(エピコート157S65、エピコート157S70:ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名)、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0057】
(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と(b)ポリヒドロキシ化合物と(c)芳香環を含むジイソシアネ−トとで構成されるポリウレタンと、(d)エポキシ樹脂との混合物および/またはそれらの反応生成物は、ポリウレタン樹脂を合成する際に、(a)−(d)を同時に混入してもよく、あるいはポリウレタン樹脂を合成したのち、ジイソシアネート化合物と(d)を追加で添加し、最終生成物として得ることもできる。このような化合物からなる水分散液としては、ハイドランN320(DIC株式会社製商品名)などが挙げられる。
【0058】
また、上記サイジング剤を炭素繊維束に付与させることにより炭素繊維束の形態保持性が良好となり、後加工で用いる際に良好な加工適性を有す。
【0059】
サイジング処理液中のサイジング剤の割合は特に限定されず、0.2〜20質量%が好ましく、より好ましくは3〜10質量%である。サイジング処理液中のサイジング剤の割合を0.2質量%以上とすることで、炭素繊維に所望する機能を充分に付与することができる。また、サイジング処理液中のサイジング剤の割合を20質量%以下とすることで、サイジング剤の付着量が適切なものとなり、後工程で複合材料として利用する際のマトリックス樹脂の含浸性が良好となる。
【0060】
サイジング処理液に用いる溶媒または分散媒は特に限定されないが、取り扱い性および安全性の面から、水を用いることが好ましい。
【0061】
炭素繊維束におけるサイジング剤の付着量は、0.3〜5質量%が好ましく、0.4〜3質量%がより好ましい。サイジング剤の付着量を0.3質量%以上とすることで、炭素繊維に所望する機能を充分に付与することができる。また、サイジング剤の付着量を3質量%以下とすることで、後工程で複合材料として利用する際のマトリックス樹脂の含浸性が良好となる。
【0062】
サイジング処理後の乾燥処理では、サイジング処理液の溶媒または分散媒を乾燥除去する。その際の条件は、120〜300℃の温度で、10秒〜10分間の範囲が好適であり、より好適には150〜250℃の温度で、30秒〜4分間の範囲である。乾燥温度を120℃以上とすることで、溶媒を充分に除去することができる。また、乾燥温度を300℃以下とすることで、サイジング処理された炭素繊維束の品質を維持することができる。
【0063】
乾燥処理の方法は特に限定されず、例えば、蒸気を熱源とするホットロールに接触させて乾燥させる方法や、熱風が循環している装置内で乾燥させる方法を挙げることができる。
【0064】
図3は、サイジング処理工程を行う装置の概略構成図である。図3に示すとおり、この装置は、溝ロール6と、サイジング剤付与装置9と、サイジング剤乾燥装置10とを有している。溝ロール6の一次側には、フリーロール4が配置されている。溝ロール6は、サイジング剤付与装置9の一次側に配置されている。サイジング剤付与装置9には、フリーロール4および駆動ロール2が、一次側から順に配置されている。サイジング剤付与装置9の二次側には、サイジング剤乾燥装置10が配置されている。サイジング剤乾燥装置10の一次側にはフリーロール4が配置され、二次側にはフリーロール4および巻取部5が順に配置されている。
【0065】
溝ロール6について、図2を用いて説明する。図2は、溝ロール6の周面を部分拡大した断面図であり、溝ロール6の溝形状を示すものである。溝ロール6は、略円筒状であって、その周面には、溝ロールの回転方向、即ち、炭素化繊維束の進行方向に沿って延びる複数の溝が設けられている。図2に示すとおり、溝ロール6の周面には、複数の凸部が離間して設けられ、溝部7が形成されている。溝部7の溝底部8の形状は、曲率半径Rの曲面状である。凸部は、溝部7に面する壁面と、曲面状の頭頂面を有する。
【0066】
溝ロール6の溝部7の形状は特に限定されないが、溝底部8の曲率半径Rは、1.5〜2.0mmであることが好ましい。1.5mm以上であると、得られる炭素繊維の厚み斑が生じることがなく、2.0mm以下であれば、トウ幅の制御が困難となることもない。また、溝部7を挟んで位置する凸部の、壁面と壁面とで形成される角度α、即ち、溝部の開度αが、5〜30°であることが好ましい。5°以上であると、得られる炭素繊維のトウ幅が狭くなりすぎて、後加工性が不良となることがない。一方、30°以下であれば、溝ロール6によるトウ幅の制御が困難となることがない。
【0067】
溝ロール6の材質は、走行させる炭素繊維束の張力に対して充分な強度が保証されるものであればよく、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックス、アルミニウムなどが好ましく用いられる。
【0068】
サイジング剤付与装置9は特に限定されず、既存の装置を用いることができる。また、
サイジング剤乾燥装置10は特に限定されず、既存の装置を用いることができる。
【0069】
シート状に引き揃えられた炭素化繊維束は、フリーロール4に巻き取られるようにしながら、サイジング剤付与装置9に移送される。サイジング剤付与装置9に移送された炭素化繊維束は、フリーロール4に巻き取られるようにしながら、任意の張力が与えられて、溝ロール6の周面に押し付けられる。溝ロール6の周面に押し付けられた炭素化繊維束は、トウごとに溝部7に押し込まれ、任意のトウ幅に規制されながら移送される。こうして、溝ロール6上で、任意のトウ幅に揃えられた炭素化繊維束は、フリーロール4によって、任意の張力が維持されながら、サイジング剤付与装置9内を移送され、サイジング処理液が付与される。次いで、駆動ロール2に挟持されながら移送されることで、炭素化繊維束に付着している余剰のサイジング処理液が除去される。そして、フリーロール4を経由して、サイジング剤乾燥装置10内を移送して、乾燥し、炭素繊維束を得ることができる。次いで、炭素繊維束は、フリーロール4に巻き取られるようにしながら、進行方向を変えて、巻取部5により巻き取られて、炭素繊維ボビンパッケージとなる。
【0070】
このようにして、工程通過性に優れた炭素繊維束を製造することができる。本発明の炭素繊維束は、プリプレグやフィラメントワインディング、織物、引き抜き成型等の後加工において安定した炭素繊維束を供給できる。
【0071】
本発明の炭素繊維束は、高品質、高品位であることが要求される自動車用途や建材等の一般産業用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0073】
(炭素繊維束を製造する基本工程)
アクリロニトリル、アクリルアミド、およびメタクリル酸を、過硫酸アンモニウム−亜硫酸水素アンモニウムおよび硫酸鉄の存在下、水系懸濁重合により共重合し、アクリロニトリル単位/アクリルアミド単位/メタクリル酸単位=96/3/1(質量比)からなるアクリロニトリル系重合体を得た。このアクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、21質量%の紡糸原液を調製した。前記紡糸原液を孔数60,000、孔径45μmの紡糸口金(紡糸ノズル)を通して、濃度60質量%、温度35℃のジメチルアセトアミド水溶液からなる凝固浴中に吐出させ、紡糸原液の吐出線速度の0.38倍の引取り速度で引き取ることで繊維束(膨潤糸条)を得た。次いで、この繊維束に対して水洗と同時に5.3倍の延伸を行い、さらに1.5質量%に調製したアミノシリコン系油剤の第一油浴槽に導き第一油剤を付与し、ガイドで一旦絞りを行った後、引き続き第二油浴槽で第二油剤を付与した。この繊維束を熱ロールを用いて乾燥し、熱ロール間による乾熱二次延伸を1.5倍とし、トータル延伸倍率8.0倍を行った。その後、タッチロールにて繊維束の水分率を調整し、単繊維繊度1.0dtex、フィラメント数60,000本のPAN系炭素繊維前駆体繊維束を得た。
【0074】
前記前駆体繊維束を、耐炎化処理を終えるまでの伸長率を−5.9%、温度を220℃〜260℃として加熱処理を施し、耐炎化繊維束を得た。この耐炎化繊維束を、700℃の窒素雰囲気中、伸長率を+3%として前炭素化処理し、続いて1,350℃の窒素雰囲気中、伸長率を−3.8%として炭素化処理し、引き続いて、重炭酸アンモニウム5質量%水溶液中を走行せしめ炭素繊維束を陽極として、被処理炭素繊維1g当り5.4クーロンの電気量となるように対極との間で通電処理を行い、サイジング処理を行って、巻取機(神津製作所製、製品名:KTW型)で巻き取り、炭素繊維束を得た。得られた炭素繊維束の繊度は、33,000dtexであった。得られた炭素繊維束のストランド物性をASTM D4018に準拠した方法で測定したところ、ストランド強度4900MPa、ストランド弾性率255GPaであった。
【0075】
(複合材料の機械特性評価)
Bステージ化したエポキシ樹脂(商品名:#350、三菱レイヨン(株)製)を塗布した離型紙上に、ボビンから巻き出した炭素繊維束を引き揃えて配置して、加熱圧着ローラーを通して、エポキシ樹脂を含浸した。その上に、一方向引揃えプリプレグ(以下、UDPPと略記する。)を作製した。作製したUDPPを積層し、130℃での加熱し、オートクレーブ法により、一方向引揃え(UD)積層板を作製した。この積層板について、ASTM D3039に準じて繊維方向に対して0°方向の引張強度を測定した。
【0076】
(実施例1)
耐炎化処理、前炭素化処理、炭素化処理および電解酸化処理工程を経た後に、溝底部の曲率半径R=2.0mm、溝部開度α=21°の溝ロールを通過させた。その後、サイジング処理でサイジング剤1(商品名:ハイドランN320、DIC株式会社製)を1質量%付着させ、乾燥処理を経た後、以下のガイド装置を用いてボビンに巻き取り炭素繊維束を得た。
【0077】
図4は実施例1で用いたガイド装置12の概略構成図であり、図5はガイド装置12が設置された巻取機11の模式図である。
【0078】
図4に示すとおり、ガイド装置12は、ガイドスタンド13と、第一ガイドロール15および16が同一の軸方向で設置され構成されている第一ガイドロール対14と、第二ガイドロール18および19が同一の軸方向で設置され構成されている第二ガイドロール対17とを有する。ガイドスタンド13の炭素繊維束の進行方向の上流側には、第一ガイド
ロール対14が、第一ガイドロール15と第一ガイドロール16がガイドスタンド13の表面と平行、かつ、炭素繊維束の進行方向と直交する方向に設置されている。ガイドスタンド13の炭素繊維束の進行方向の下流側には、第二ガイドロール対17が、第二ガイドロール18と第二ガイドロール19がガイドスタンド13の面の垂直方向に設置されている。
【0079】
第一ガイドロール対14と第二ガイドロール対17との中間には、トラバースガイド20が設置されている。第二ガイドロール18と第二ガイドロール19との中間には、図8に概略的に示す側面形状を持つフック状ガイド21が設置されている。
【0080】
次に、図5を用いて巻取機11について説明する。巻取機11は、フリーロール4と、ガイド装置12と、巻取機プレッシャーロール22と、ボビン23とが順に設置されている。
【0081】
フリーロール4は、炭素繊維束の進行方向と直交するように設置されている。ガイド装置12のガイドスタンド13は、ボビン23の軸と直交する方向に立設され、軸と平行にボビン23の両端面間を往復動するトラバース装置と接続されている。巻取機プレッシャーロール22は、その周面がボビン23の巻取面と接するようにして、設置されている。
【0082】
第一ガイドロール15および16、ならびに第二ガイドロール18および19は、走行させる炭素繊維束の張力に対して充分な強度が保証されるものであればよく、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックス、アルミニウムなどが挙げられる。このうち、軽量であるという点からアルミニウムが優れているが、単糸巻き付け時にはカッターナイフを使用することがあるため、そのような場合にも損傷の少ないステンレス鋼を用いることが好ましい。さらには、単糸巻き付きを防止する観点から、ハードクロムによる梨地仕上げ等の表面処理を施すことが好ましい。
【0083】
第一ガイドロール対14の内、上流側に設置されている第一ガイドロール15の形状は、鼓形状である。鼓形状とは、図6に示すように、周面の円周が、両端面から中央部方向に向かって徐々に半径が短くなるような形状、即ち第一ガイドロール15の軸方向の断面において、中央部が凹んで湾曲した形状である。凹みの程度は特に限定されず、巻き取る炭素繊維束のトウ幅等を考慮して決定することができる。第一ガイドロール対14の内、下流側に設置されている第一ガイドロール16の形状は円柱形状である。円柱形状とは、図7に示すとおり、両端面の間の周面が同一半径の円周で形成されている形状である。第一ガイドロール15および16の直径、周面の幅は特に限定されず、走行させる炭素繊維束のトウ幅、フィラメント数に応じて決定することが好ましい。
【0084】
第二ガイドロール対17の内、上流側に設置されている第二ガイドロール18の形状は円柱形状であり、第一ガイドロール16と同様である。第二ガイドロール対17の内、下流側に設置されている第二ガイドロール19の形状は鼓形状であり、第一ガイドロール15と同様である。
【0085】
巻取機11を用いた炭素繊維束の巻き取り方法について、図5を用いて説明する。
【0086】
炭素繊維束は、フリーロール4の周面に沿って移送され、ガイド装置12に供給される。ガイド装置12に供給された炭素繊維束は、第一ガイドロール15および16の順に掛け回される。この際、第一ガイドロール15および16と、フリーロール4とは、直交する軸方向で設置されているため、フリーロール4を通過した炭素繊維束は、その軸線方向に90°捻転されながら移送される。このように、第一ガイドロール15および16は、フリーロール4と直交させ、即ち、トラバース(綾振り)方向と直交する軸方向で設置されているため、炭素繊維束は、第一ガイドロール15および16の周面に沿ってトラバース方向に供給されることとなり、炭素繊維束は安定した状態でトラバースされる。
【0087】
次いで、90°に捻転された炭素繊維束は、第二ガイドロール18および19の順に掛け回される。そして、第二ガイドロール18および19と、第一ガイドロール16とは、直交する軸方向で設置されているため、炭素繊維束は、その軸線方向に90°捻転される。この際、炭素繊維束は、第二ガイドロール18が円柱形状であるために、幅方向に均等に張力がかけられ、一定のトウ幅に制御される。次いで、炭素繊維束は、フック状ガイド21の開口部を通過して、鼓形状の第二ガイドロール19の湾曲周面に添って移送される。そして、炭素繊維束は、トラバース装置の往復動によって、ボビン23周面の幅方向に均等に分配され、巻取機プレッシャーロール22によってボビン23に押圧されながら、ボビン23に巻き取られて、炭素繊維束が得られる。
【0088】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0089】
(実施例2)
以下に示す方法で製造したサイジング剤2を1質量%付与させた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。
【0090】
(サイジング剤2)
フラスコに、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド8モル付加物1.8モル、トリメチロールプロパン0.8モル、ジメチロールプロピオン酸0.6モルよりなるポリオール3.2モルを投入し、さらに、反応禁止剤として2,6−ジ(t−ブチル)4−メチルフェノール(BHT)を0.5g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.2gを添加しこれら混合物が均一になるまで撹拌した。ここで、必要に応じて粘度調整剤としてメチルエチルケトンを加えた。均一に溶解した混合物にメタキシレンジイソシアネート3.4モルを滴下して加え、攪拌をしながら反応温度50℃、反応時間2時間でウレタンプレポリマーの重合を実施した。次に、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名「エピコート834」を0.25モル加え、ウレタンプレポリマーの末端にあるイソシアネート基を反応させることによりエポキシ変性ウレタン樹脂を得た。
【0091】
このエポキシ変性ウレタン樹脂90重量部と乳化剤として旭電化(株)製商品名「プルロニックF88」10質量部を混合し、サイジング剤2の水分散液を調製した。
【0092】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0093】
(実施例3)
以下に示す方法で製造したサイジング剤3を1.0質量%付与させた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。
【0094】
(サイジング剤3)
フラスコに、ポリエチレングリコール400を2.5モル、ジャパンエポキシレジン株式会社製商品名「エピコート834」を0.7モル投入し、さらに、反応禁止剤として2,6−ジ(t−ブチル)4−メチルフェノール(BHT)を0.25g、反応触媒としてジブチルスズジラウレート0.1gを添加しこれら混合物が均一になるまで撹拌した。ここで、必要に応じて粘度調整剤としてメチルエチルケトンを加えた。均一に溶解した混合物にメタキシレンジイソシアネート2.7モルを滴下して加え、攪拌をしながら反応温度40℃、反応時間2時間でエポキシ変性ウレタン樹脂を得た。
【0095】
このエポキシ変性ウレタン樹脂80重量部と乳化剤として旭電化(株)製商品名「プルロニックF88」20質量部を混合し、サイジング剤3の水分散液を調製した。
【0096】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0097】
(実施例4)
以下に示す方法で製造したサイジング剤4を1.0質量%付与させた以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を製造した。
【0098】
(サイジング剤4)
ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物無水フマル酸エステル41質量部と、片末端アクリル酸変性ジグリシジルエーテルビスフェノールAエポキシ樹脂28質量部と、共栄社化学(株)製脂肪族系ウレタンアクリレートオリゴマー(粘度;高粘調液体/60℃、硬化物の引張伸び率50%、硬化物Tg56℃、商品名:UF−8001)14質量部と、青木油脂工業(株)製イソステアリルアルコールエチレンオキサイド6モル付加物2質量部と、乳化剤として日本乳化剤(株)製ポリオキシエチレン多環置換フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:ニューコール723SF)15質量部を混合し、サイジング剤4の水分散液を調製した。
【0099】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0100】
(実施例5)
以下のガイド装置を用いた以外は実施例1と同様の方法で、炭素繊維束を得た。
【0101】
図9は、ガイド装置が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図であり、図10は、巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。また、図11は凹部を有する平行ガイドロールの側面図である。
【0102】
ガイド装置12は、図示せぬフレームに取り付けられた3つのガイド24、25および26を有し、ボビン23の軸線23aに平行に往復動する図示せぬ公知のトラバース機構に装着されて一緒に往復動する。ガイド装置12の第1ガイド24および第2ガイド25は一組のガイドを構成し、図9に示すボビンの軸線方向から見て、それぞれボビンの軸線23aとは直交する方向に配置される。また他の一つのガイド26は前記第2ガイド25の炭素繊維束供給後流側に配され、その軸線が前記ボビン23の軸線23aと平行に配されたガイドロール(以下、平行ガイドロールという。)からなる。
【0103】
第1ガイド24は円錐状ガイドからなり、材質としては、鋼製の梨地メッキを施したものまたは鏡面メッキを施したもの、さらにはテフロン(登録商標)などの樹脂をコーティングしたものなど、いずれの材質も使用可能である。第1ガイド24は、その軸線を、炭素繊維束が供給されて最初に接する円錐の斜辺に相当する部分が、ボビンの軸線23aと垂直な方向に配置する。このとき、第1ガイド24の炭素繊維束の接する部分の長さは、供給する炭素繊維束の繊度または炭素繊維束の幅にもよるが、炭素繊維束が最初に接する部分である斜辺の長さが、20mm〜120mm、好ましくは30mm〜100mmであり、円錐の底面の直径も10〜50mm、より好ましくは20mm〜40mmである。
【0104】
第2ガイド25は円錐状を呈しており、第1ガイド24とはその軸線がねじれた位置関係に配置される。すなわち、第2ガイド25は、図9においてボビンの軸線23aとはその軸線方向から見て直交する方向に配置され、同時に第2ガイド25の軸線は、ボビン23の軸線23aに対して炭素繊維束の供給方向から見て90°以下の角度をもって設置される。その円錐形状の頂角は45°以下に設定される。ボビン23の配列スペースの制約の観点から、狭いスペースの中で炭素繊維束の接する斜辺の長さを充分確保することが好ましい。すなわち、円錐状である第2ガイド25の底面の直径は10〜50mmであることが好ましく、より好ましくは20〜40mmであり、斜辺の長さは20mm〜100mm、好ましくは30mm〜80mmである。
【0105】
この一組の第1ガイド24および第2ガイド25と、上記平行ガイドロール26によって、炭素繊維束はほぼその供給方向の軸線に対して90°捻転されてから0°に戻し、またはさらに同一方向に90°捻転させるためには、第2ガイド25の軸線の方向およびその頂角は、前述のとおり、繊維束と接する斜辺の方向を、ボビン23の軸線23aに対して30°〜60°に設定し、特に40〜50°に設定することが好ましい。
【0106】
前記平行ガイドロール26もまた、前述した第1ガイド24および第2ガイド25と共通の支持手段によって支持され、図示せぬトラバース機構によりボビン23の軸線23aと平行な方向に往復トラバースされる。
【0107】
この平行ガイドロール26は、その上方に配置される円錐状のロールからなる第2ガイド25を経由して供給されてくる炭素繊維束をボビンに平行な方向にさらに捻転させると同時に、平行ガイドロール26は、その上部に配置される円錐状のガイドロールを経由して供給される炭素繊維束をボビンに平行な方向にさらに捻転させるものである。平行ガイドロール26として、通常は1本の円筒形状のロールが用いられるが、巻取部内におけるボビン配列スペースの観点から、その直径は10mm〜40mm、さらに好ましくは、15mm〜30mmに設定される。平行ガイドロール26のロール面長は20mm〜100mm、さらにトラバース機構への取り付けなどのスペース要因をも考慮すると30mm〜80mmとすることがさらに好ましい。
【0108】
平行ガイドロール26として、通常は1本の円筒形状のロールが用いられるが、本発明ではトウ幅を縮小させるために、図11に示すようにガイドロールの一部が凹部を有することが好ましい。凹部を通過させることによってトウ幅を縮小させることにより、巻き取った炭素繊維束を巻き出した場合に糸切れ発生が少なくなる効果がある。
【0109】
また凹部を有するガイドロールの曲率半径R’は製造する炭素繊維束のトウ本数により適宜変更させる必要がある。例えば繊度33,000dtex、60,000本からなる炭素繊維束の場合は凹部を有するガイドロールに関して、その平行ガイドロールの凹部の曲率半径R’が5mmよりも小さくなった場合は、炭素繊維束に撚りや折れが入り、巻きパッケージの悪化や、後加工で使用する際に均一に繊維が拡がらないために適切ではない。また曲率半径R’が15mmよりも大きい場合はトウ幅を縮小させる効果がないために適切ではない。
【0110】
図9に示すとおり、巻取部本体の上方には、その軸線をボビンの軸線23aと平行にフリーロール4が設けられる。
【0111】
炭素繊維束は、前記巻取部の上部に設置された上部フリーロール4に掛け回されてから、軸線が空間上で互いにねじれた位置関係にある一組のガイドすなわち、第1ガイド24と第2ガイド25とに交互に掛け回されてボビンへと送られる。このとき、第1ガイド24と第2ガイド25はボビンの軸線23aと平行にトラバースされ、さらに初めに炭素繊維束が接する第1ガイド24は円錐状ガイドであり、その軸線がボビンの軸と垂直すなわちトラバース方向と直交する方向に配置されているため、ボビンの軸と平行に移動しても繊維束は前記第1ガイド24のロール周面に沿って供給され、炭素繊維束は安定した状態でトラバースがなされテープ状の形態を維持できる。
【0112】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻
き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。トウ幅は安定であり、撚りなく、解舒性も良好であった。また、この炭素繊維束を用いた複合材料の機械特性評価を行った。
【0113】
(比較例1)
以下のガイド装置を用いた以外は実施例1と同様の方法で、炭素繊維束を得た。
【0114】
図12は用いたガイド装置12の概略図であり、図13はガイド装置12が取り付けられた巻取部を概略的に示した側面図であり、図14は巻取機による炭素繊維束のトラバース状態の概略を示す正面図である。
【0115】
図13に示すとおり、巻取部本体の上方には、その軸線をボビン23の軸線23aと平行にフリーロール4が設けられる。巻取機11は、フリーロール4と、ガイド装置12と、巻取機プレッシャーロール22と、ボビン23とが順に設置されている。フリーロール4は、炭素繊維束の進行方向と直交するように設置されている。ガイド装置12は、ボビン23の軸と直交する方向に立設され、軸と平行にボビン23の両端面間を往復動するトラバース装置と接続されている。巻取機プレッシャーロール22は、その周面がボビン23の巻取面と接するようにして、設置されている。
【0116】
巻取機11を用いた炭素繊維束の巻き取り方法について、図14を用いて説明する。炭素繊維束は、フリーロール4の周面に沿って移送され、ガイド装置12に供給される。ガイド装置12に供給された炭素繊維束は、ガイドロールのスリット部27を通過して、トラバース装置の往復動によって、ボビン23周面の幅方向に均等に分配され、巻取機プレッシャーロール22によってボビン23に押圧されながら、ボビン23に巻き取られて、炭素繊維束が得られる。この際トラバースされるごとに炭素繊維束に撚りが入っていきながら巻き取られていく。比較例1ではスリット部27のスリットの幅を3.2mmとした。
【0117】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率は安定していたが、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅は不安定であった。
【0118】
(比較例2)
溝ロールを設置せずにサイジング処理を行い、乾燥処理を経た後、実施例4と同じガイド装置を用いた以外は実施例1と同様の方法でボビンに巻き取り炭素繊維束を得た。
【0119】
巻き取った炭素繊維束について、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅変動率、5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅の変動率、拡がり変動率、解舒性評価ならびに撚りの発生頻度の測定を行った。この炭素繊維束では、糸切れ、トウ切れが発生した。
【0120】
実施例および比較例で得られた炭素繊維束の評価方法は、以下のとおりである。その結果を表1に纏めた。
【0121】
<炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅および変動率>
張力をかけずに、炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定し、その平均値を算出した。また、トウ幅の変動率を下記式(2)から算出した。
【0122】
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)
<巻き出し直後のトウ幅および変動率>
図1に示すように、炭素繊維束を、炭素繊維ボビンパッケージ1上から300gf(2.94N)の張力をかけた状態で、5m/分の速度で駆動ロール2を通過させて張力を調整しながら巻き出し、巻取部5で巻き取った。50m分のトウ幅を0.1秒ごとにトウ幅検出器3で読み取りデータロガーで記録し、その平均値を算出した。また、トウ幅の変動率を前記式(2)から算出した。
【0123】
<拡がり変動率>
下記式(1)から算出した。
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
<解舒性評価>
炭素繊維束ボビンパッケージを、300gf(2.94N)の張力をかけた状態で100m/分の速度で1,000m解舒を行い、糸切れ、トウ切れの発生を確認した。解舒性評価は、以下のように判定した。
○:解舒中の糸切れも、トウ切れなし。
×:解舒中に糸切れ、トウ切れが1回以上あり解舒中断。
【0124】
<炭素繊維束の撚り発生頻度評価>
5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した場合において、連続的にトウ幅を50m測定した場合の撚りの発生頻度を測定して記録した。
【0125】
【表1】
【符号の説明】
【0126】
1:炭素繊維ボビンパッケージ
2:駆動ロール
3:トウ幅検出器
4:フリーロール
5:巻取部
6:溝ロール
7:溝部
8:溝底部
9:サイジング剤付与装置
10:サイジング剤乾燥装置
11:巻取機
12:ガイド装置
13:ガイドスタンド
14:第一ガイドロール対
15、16:第一ガイドロール
17:第二ガイドロール対
18、19:第二ガイドロール
20:トラバースガイド
21:フック状ガイド
22:巻取機プレッシャーロール
23:ボビン
23a:軸線
24:第1ガイド
25:第2ガイド
26:平行ガイドロール
27:スリット部
R:サイジング処理前に用いる溝ロールの溝底部の曲率半径
R’:平行ガイドロールの曲率半径
α:サイジング処理前に用いる溝ロールの溝部の開度
F:繊維方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントの本数が50,000以上200,000以下の炭素繊維束であって、
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下であり、
実質的に撚りがない炭素繊維束。
【請求項2】
5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)と、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅(W1)とから、下記式(1)で求められる拡がり変動率が、105%以上である請求項1に記載の炭素繊維束。
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
【請求項3】
5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)の、下記式(2)から求められる変動率が、10%以下である請求項1または2に記載の炭素繊維束。
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)トウ幅の標準偏差および平均値は、張力をかけずに、捩れが生じないように炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定して算出する。
【請求項4】
繊度が25,000dtex以上40,000dtex以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項5】
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項6】
(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と(b)ポリヒドロキシ化合物と(c)芳香環を含むジイソシアネートとで構成されるポリウレタンと、
(d)エポキシ樹脂と
の混合物および/またはそれらの反応生成物
を含んでなるウレタン変性エポキシ樹脂でサイジングされた請求項1乃至5のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項7】
前記(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、前記(b)ポリヒドロキシ化合物が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか1種またはこれらの混合物であり、前記(c)芳香環を含むジイソシアネートが、トルエンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートである請求項1乃至6のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項1】
フィラメントの本数が50,000以上200,000以下の炭素繊維束であって、
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅が10mm以上13mm以下であり、
実質的に撚りがない炭素繊維束。
【請求項2】
5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)と、炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅(W1)とから、下記式(1)で求められる拡がり変動率が、105%以上である請求項1に記載の炭素繊維束。
拡がり変動率(%)=(W2)×100/(W1) (1)
W1:炭素繊維ボビンパッケージ上の炭素繊維束のトウ幅(mm)
W2:5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから捩れが生じないようにして巻き出した直後の炭素繊維束のトウ幅(mm)
【請求項3】
5m/分の速度かつ300gf(2.94N)のテンションで炭素繊維ボビンパッケージから巻き出した直後のトウ幅(W2)の、下記式(2)から求められる変動率が、10%以下である請求項1または2に記載の炭素繊維束。
トウ幅の変動率(%)=(トウ幅の標準偏差/トウ幅の平均値)×100 (2)トウ幅の標準偏差および平均値は、張力をかけずに、捩れが生じないように炭素繊維ボビンパッケージから連続的に炭素繊維束を引き出し、25cmごとのトウ幅を100点測定して算出する。
【請求項4】
繊度が25,000dtex以上40,000dtex以下である請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項5】
炭素繊維ボビンパッケージ上のトウ幅の変動率が10%以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項6】
(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂と(b)ポリヒドロキシ化合物と(c)芳香環を含むジイソシアネートとで構成されるポリウレタンと、
(d)エポキシ樹脂と
の混合物および/またはそれらの反応生成物
を含んでなるウレタン変性エポキシ樹脂でサイジングされた請求項1乃至5のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項7】
前記(a)ヒドロキシ基を有するエポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であり、前記(b)ポリヒドロキシ化合物が、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、脂肪族ポリヒドロキシ化合物およびポリヒドロキシモノカルボキシ化合物のいずれか1種またはこれらの混合物であり、前記(c)芳香環を含むジイソシアネートが、トルエンジイソシアネートまたはキシレンジイソシアネートである請求項1乃至6のいずれかに記載の炭素繊維束。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−6833(P2011−6833A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111991(P2010−111991)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
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