説明

炭素繊維複合成形品の製造方法

【課題】軽量で、強度、剛性、寸法安定性、及び耐久性に優れ、かつ特徴ある異方性光沢を有する炭素繊維複合成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】金型内に厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その表面に、中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ、厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る、炭素繊維複合成形品の製造方法は、効率的に炭素繊維複合成形品を製造することができ、得られた炭素繊維複合成形品は軽量でありながら優れた物性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で、強度、剛性、寸法安定性、及び耐久性に優れ、かつ特徴ある異方性光沢を有する炭素繊維複合成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維複合材料は、軽量で且つ高強度であると云う特徴から航空機、自動車、スポーツ、レジャー、その他各種工業用途に利用されている。一方、炭素繊維複合材料は、それを構成する炭素繊維集束体の配向性によって特徴ある異方性光沢を有し、更に表面に塗装等の処理を施すことによって深みのある重厚な外観を与え、また導電性、X線透過性、電磁波遮蔽性等の特徴を有している。
【0003】
かかる炭素繊維複合材料の製造方法として、例えば特許文献1のように、厚さ0.01〜2.0mmの単層または複層の可撓性を有する炭素繊維複合材料板の表面および/または中間層に厚み0.01〜30mmの熱可塑性樹脂層を射出成形して、結合一体化せしめる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許平6−15687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭素繊維複合材料の用途によっては、更なる軽量化が要求されている。本願発明は係る要求に応えるべくなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の要旨は、金型内に厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その表面に、中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ、厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る、炭素繊維複合成形品の製造方法にある。
また本発明の第二の要旨は、金型内に2枚の厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その間に、中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ、厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る、炭素繊維複合成形品の製造方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、軽量で、強度、剛性、寸法安定性、及び耐久性に優れ、かつ特徴ある異方性光沢を有する炭素繊維複合成形品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に使用する炭素繊維複合材料板としては、炭素繊維を一方向に引き揃えてシート状にし、公知の熱硬化性樹脂(エポキシ、ポリエステル、フェノール、ビニルエステル、ポリイミド等)および、公知の熱可塑性樹脂(ナイロン、ABS、ポリカーボネート、アクリル等)を含浸せしめた一方向プリプレグを必要に応じて適宜積層し、加熱加圧して得られる炭素繊維複合材料板が代表例として挙げられる(特願平2−418525号、同4−32344号、同4−32345号明細書に記載)。
【0009】
さらに、一方向プリプレグの代わりに炭素繊維からなる織物、編み物、不織布、マット等に公知の方法で適宜、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含浸せしめ、必要に応じて積層し、加熱加圧せしめた厚み0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板も使用される。
【0010】
本発明に使用する炭素繊維複合材料板の厚みは0.01〜2mmである。5〜10μm径をもつ通常の炭素繊維フィラメントの場合、厚み0.01mm未満の複合材料板またはフィルムを製作することは困難であり、逆に厚み2mmを越える複合材料板は、射出成形金型内に入れるために必要な曲げ及び撓み変形に乏しくなるので好ましくない。
【0011】
なお、本発明の趣旨に従って、炭素繊維複合材料の成形に際し、ガラス繊維、アラミド繊維、そのほかの有機または無機繊維をハイブリッドとして併用することは何ら差し支えない。また、取扱い性を改良するために積極的にハイブリッド材とすることも可能である。
【0012】
炭素繊維複合材料板の表面または中間層に樹脂層を形成する熱可塑樹脂としては、ナイロン、ABS、ポリカーボネート、アクリル、その他、射出成形できる樹脂であればよく、公知の熱可塑性樹脂または、強化熱可塑性樹脂から、マトリックス樹脂との接着性、劣化温度等を考慮にいれ、適宜選定使用することが可能である。樹脂層の厚み、すなわち、炭素繊維複合材料板との厚み比率は、性能発揮効率と材料費のバランスから決定される。
【0013】
本発明の製造方法は、金型内に厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その表面に、中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ、厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る。これにより得られる炭素繊維複合材料板を表面に出した成形品では、炭素繊維複合材料板のマトリックスと樹脂層を形成する樹脂をともにアクリル系樹脂とすることにより、炭素繊維に独特の深みのある光沢、模様がより鮮やかに現れ、意匠効果を発揮する。
【0014】
また、本発明の別の一例の製造方法は、金型内に2枚の厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その間に、中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ、厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る。これにより得られる、2枚の炭素繊維複合材料板の中間層に熱可塑性樹脂層を有するサンドイッチ構造体は、軽量かつ高剛性である。また、炭素繊維の特徴ある異方性光沢を成形品外観に生かすためには、外層を炭素繊維複合材料にすることが効果的である。これらの方法により、軽量、高性能、好外観の成形品が得られる。
【0015】
本発明の炭素繊維複合成形品は、樹脂と、樹脂中に分散された多数の気密な中空粒子とを用いて形成する。このとき、樹脂は中空粒子間で連続相を形成し、中空粒子内には気体が封入されている。ここで中空粒子とは、直径が数mm以下の殻構造を持つ球体をいい、球状で殻厚の均一な単一球体のもの、見かけは単一球体であるが、内部に隔壁を有するものや、球殻自身が多孔質のもののすべてを含むものとする。
【0016】
この中空粒子としては、ガラスバルーンをはじめシラスバルーン、アルミナバルーン、パーライトバルーン、黒曜石バルーン、カーボンバルーンが好ましい。中空粒子の大きさは、複合体の厚さにもよるが、10μm〜3000μmが好適であり、さらには、10μm〜80μmがより好ましい。樹脂と中空粒子の体積分率は、中空粒子が40〜85体積%で、樹脂が15〜60体積%であるのが好ましい。
【0017】
本発明の炭素繊維複合成形品は、既存の射出成形機を用いても製造することができるが、インジェクションプレスを用いることで、大型成形品の成形が可能となり、また、炭素繊維複合材料板と樹脂層との接着が強固なものとなる。
【0018】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
炭素繊維3000本を集束した炭素繊維トウ(三菱レイヨン社製パイロフィルTR40)を用いて製織(経緯とも12.5本/インチ)した炭素繊維織布に、アクリル系樹脂を含浸して0.3mm厚の炭素繊維複合材料板を形成した。
次に、このシート状物を95×520mmに切断して皿金型底部にセットし、ガラスバルーンの体積比率が、後述の樹脂体積と50:50となる量を炭素繊維複合材料板の表面に配し、ポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製アクリライトVH)を、シリンダー温度250℃、金型温度60℃の条件で射出成形して、外層に炭素繊維複合材料層をもつ、3mm厚の成形品を得た。
これから切り出した試験片に対して、ASTM D−790に準じた曲げ試験を実施したところ、表1の如く優れた特性を示した。また表面は炭素繊維複合材料特有の高級重厚感をもち、日用品、自動車内装品へ有効に利用できるものであった。
【0020】
<実施例2>
実施例1と同様の炭素繊維複合材料板を形成した後、ゲート部に当たる部分に13mmφの穴を開けた炭素繊維複合材料板と、穴を開けない炭素繊維複合材料板を重ねて金型内にセットし、かつ炭素繊維複合材料板の間に、ガラスバルーンの体積比率が、後述の樹脂体積と50:50となる量を配したほかは、実施例1と同様の操作を行って、樹脂層の両面に炭素繊維複合材料層をもつ3mm厚のサンドイッチ成形品を得た。
これから切り出した試験片に対して、ASTM D−790に準じた曲げ試験を実施したところ、表1の如く特に優れた特性を示した。また表面は炭素繊維複合材料特有の高級重厚感をもち、日用品、自動車内装品へ有効に利用できるものであった。
【0021】
<比較例1>
実施例1と同様に作製した炭素繊維複合材料板を95×520mmに切断して皿金型底部にセットし、ポリメチルメタクリレート(三菱レイヨン社製アクリライトVH)を、シリンダー温度250℃、金型温度60℃の条件で射出成形して、外層に炭素繊維複合材料層をもつ、3mm厚の成形品を得た。
これから切り出した試験片に対して、ASTM D−790に準じた曲げ試験を実施したところ、表1の如く、比重あたりの剛性は、実施例1に比べて低かった。
【0022】
<比較例2>
実施例1と同様に作製した炭素繊維複合材料板を形成した後、ゲート部に当たる部分に13mmφの穴を開けた炭素繊維複合材料板と、穴を開けない炭素繊維複合材料板を重ねて金型内にセットした他は、比較例1と同様の操作を行って、樹脂層の両面に炭素繊維複合材料層をもつ3mm厚のサンドイッチ成形品を得た。
これから切り出した試験片に対して、ASTM D−790に準じた曲げ試験を実施したところ、表1の如く、比重あたりの剛性は、実施例2に比べて低かった。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その表面に、中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ、厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る、炭素繊維複合成形品の製造方法。
【請求項2】
金型内に2枚の厚さ0.01〜2mmの炭素繊維複合材料板を配し、その間に中空粒子を配すと共に熱可塑性樹脂を射出成形して結合一体化せしめ。厚み0.01〜30mmの炭素繊維複合成形品を得る、炭素繊維複合成形品の製造方法。
【請求項3】
前記中空粒子は、ガラスバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、パーライトバルーン、黒曜石バルーン、カーボンバルーンの少なくとも1種である請求項1又は2記載のいずれかに記載の炭素繊維複合成形品の製造方法。

【公開番号】特開2012−192701(P2012−192701A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60050(P2011−60050)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】