説明

炭素質薄板

【課題】燃料電池用セパレータとして有用な、機械的強度・ガス不透過性・導電性及び成形性に優れた、安価な炭素質薄板を提供する。
【解決手段】マトリックス原料であるピッチに、骨材を混合して得られた混合物を成形加工後、炭化焼成して得られる炭素質薄板において、前記骨材が熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物および/または炭化物であることを特徴とする炭素質薄板。また、この炭素質薄板を用いた燃料電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マトリックス原料であるピッチと骨材との混合物を成形加工後炭化焼成した炭素質薄板に関し、さらに詳しくは、燃料電池用セパレータとして有用な、機械的強度・ガス不透過性・導電性及び成形性に優れた、安価な炭素質薄板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】炭素質薄板は、優れた耐熱性及び耐食性を有し、また導電性も良好であるため電気電子分野で広く使用されており、例えば燃料電池用セパレータとして利用されている。この時、セパレータとして、ガス不透過性、良電気伝導性、機械的強度、寸法精度及び耐食性などの特性が要求され、さらに燃料電池スタックに大量のセパレータを使用することから、生産性すなわち低コスト化も必要とされる。
【0003】一般的に炭素質薄板は、マトリックス原料として熱硬化性樹脂を、骨材として炭素質材料を用い、成形加工後炭化焼成することで得られる。
【0004】例えば、炭素質材料に熱硬化性樹脂液を含浸して硬化させ、これを非酸化性雰囲気中で炭化処理することによって得られる炭素質薄板がある。
【0005】また、例えば特開昭60−150559号公報で開示されているような、熱硬化性樹脂と炭素質粉末を混練し、熱プレスまたは熱ロール成形加工後、炭化処理することで得られる炭素質薄板がある。
【0006】その他、フェノール樹脂等熱硬化性樹脂そのものを成形加工し、炭化処理することによっても炭素質薄板は得られる。
【0007】しかしながら、マトリックス原料である熱硬化性樹脂を炭化焼成して炭素質薄板を得る場合、熱硬化性樹脂の炭化収率は高々75%程度であることから、燃料電池用セパレータのように燃料電池スタックに多くのセパレータを使用する場合においては、経済的に満足されるものではない。
【0008】また、炭化焼成後の炭素質薄板について、熱硬化性樹脂配合量が少ない場合にはガス不透過性が十分ではなく、樹脂配合量を多くすると亀裂が生じやすく、機械的強度が劣るため、セパレータを狭持する際に問題が生じる場合が多い。
【0009】さらに、ガス不透過性を向上させるため、例えば炭素質材料に樹脂を含浸させることによって得られる炭素質薄板の場合、多孔質の炭素質薄板の空洞にさらに熱硬化性樹脂液を含浸させて焼成しなければならず、このように含浸と焼成を繰り返し行うことで炭素質薄板の膨張・収縮による割れが多くなるという欠点がある。
【0010】またさらには、緻密性に優れた炭素質薄板を作製するために、炭化焼成における焼成時の昇温、冷却に要する時間が長くなるという欠点がある。
【0011】一方で、ピッチのみを原料とした場合、炭化収率では熱硬化性樹脂より優れるものの、成形性が悪く、目的の成形体を得られることができないという欠点がある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】かかる状況に鑑み、本発明は、優れた機械的強度・ガス不透過性・耐食性及び導電性を有する、安価で成形性に優れた炭素質薄板を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意努力の結果後述するような炭素質薄板により、上記問題点が解決することを見いだし本発明に到達した。
【0014】すなわち本発明の要旨は、第一に、マトリックス原料であるピッチに、骨材を混合して得られた混合物を成形加工後、炭化焼成して得られる炭素質薄板において、前記骨材が熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物または炭化物であることを特徴とする炭素質薄板であり、第二に、上記骨材が熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物及び炭化物の混合物であることを特徴とするものであり、第三に、前記混合物が、マトリックス原料であるピッチ50〜95質量%に対して、骨材50〜5質量%を混合したことを特徴とするものであり、第四に、上記混合物の成形加工手段が、射出成形であることを特徴とするものであり、第五に、上記炭素質薄板が燃料電池用セパレータであることを特徴とするものである。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を参照にして詳細に説明する。
【0016】本発明の炭素質薄板のマトリックス原料となるピッチとしては、特に制限されるものではないが、石炭系、石油系ピッチ及び合成系ピッチいずれであってもよく、また光学的等方性または光学的異方性いずれのピッチであっても良い。さらにこれらピッチは、必要に応じて濾過、蒸留などの公知の方法によって改質されたものを使用しても良い。ピッチは一種単独で用いる他に、異なる種類のピッチを混合した混合物であっても良い。
【0017】ピッチの軟化点は特に限定されるのものではないが、成形性及び不融化を考慮すると、100〜300℃が好ましく、200〜300℃のものがさらに好ましい。
【0018】本発明の骨材には、熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物または炭化物が用いられる。硬化物または炭化物となる熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリルアルコール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂またはカルボジイミド樹脂等である。硬化物とは、単に硬化したもののみでなく、一旦硬化したものをさらに炭化直前まで熱処理したものを含む。また炭化物とは、さらに加熱処理し炭化したものである。
【0019】球状の熱硬化性樹脂としてとは、硬化物および炭化物粒子の長軸および短軸の比が小さいものが好ましく、例えば長軸/短軸比で1.0〜1.5の範囲のものが好ましく、また真球状の熱硬化性樹脂硬化物および炭化物がさらに好ましい。
【0020】球状の熱硬化性硬化物または炭化物の粒径としては、500μm以下が好ましく、緻密性の高い炭素質薄板を作製するためには、200μm以下がさらに好ましい。粒径が500μmを越える場合、炭素質薄板の密度が上がらず、ガス不透過性、電気伝導性が満足するものにならない場合がある。
【0021】本発明の骨材が熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物である場合、硬化度の異なる球状熱硬化性樹脂硬化物の混合物を骨材として用いてもよい。
【0022】マトリックス原料であるピッチと骨材とは、ある一定の割合で混合される。これらの混合比はピッチ50〜95質量%に対して、骨材50〜5質量%であることが好ましい。
【0023】これらの混合方法は、特に限定されるものではなく、湿式法あるいは乾式法等従来より知られた混合方法を採用し得る。例えば乾式法では、マトリックス原料をボールミル、ヘンジェルミキサー等の粉砕混合機で微粉末として骨材と混合する方法が好ましい。
【0024】成形加工方法は、射出成形や圧縮成形、トランスファー成形など、常法の成形加工方法を採用することができる。このうち、射出成形は、サイクルタイムが短く、原料樹脂に起因する粒界がなく均質であり、複雑な形状にも容易に対応可能であり、また製品の寸法精度も良好であるという利点を有する。圧縮成形は、サイクルタイムは中程度であるが、原料樹脂に起因する粒界が生じやすいことで不均一になりやすく、複雑な製品形状には対応しにくく、また製品の寸法精度も悪い。トランスファー成形は、サイクルタイムが長くなる傾向にあり、金型構造も複雑であるが、原料樹脂に起因する粒界が生じにくく、従って均一性は中程度である。また複雑な製品形状にもある程度対応可能であり、製品の寸法精度も中程度である。以上の点を加味すると、成形加工方法として射出成形が最適である。
【0025】この成形時には、ピッチ原料を予め焼成時の寸法収縮を見込んだ寸法形状の金型を用い、射出成形により成形加工することが好ましい。例えば、炭化焼成後の炭素薄板を燃料電池用セパレータとして用いる場合には、焼成時の寸法収縮を見込んだ金型を用いて射出成形し、セパレータの外形を規定するとともに、片面または表裏両面に反応ガスまたは冷却媒体の流路となる溝などの凹部を形成させ、得られた成形加工品を炭化焼成すると、切削加工のような後加工処理を必要とせず、あるいは省略することが可能となり、良好な形状の燃料電池用セパレータを量産性よく製造することができる。
【0026】成形加工後の成形体は、必要に応じて乾燥、不融化処理を行う。不融化処理は、溶融性を示すピッチに対して酸化性雰囲気中にて加熱処理等を行うことによって、ピッチを不溶融性とする処理である。これにより、焼成時における成形体の形状維持を容易にすることができる。
【0027】不融化処理方法は特に限定されるものではないが、従来より公知の方法を適宜適用すればよく、例えば、空気、酸素、オゾン、NOX等の気体またはこれら混合気体中などの酸化性雰囲気中で加熱処理される方法によって行われる。
【0028】不融化処理は、室温から400℃で、1〜50時間程度行われることが好ましいが、成形体を一様に不融化するためには300〜350℃、20〜50時間行われることがさらに好ましい。
【0029】炭化焼成は、真空または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましく、不活性ガスとしては窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられ、炭化焼成温度は700〜1600℃が好ましく、800〜1500℃がより好ましい。
【0030】図1は燃料電池(単電池セル)の基本的な構成例を示す概略斜視図である。ここで1はアノード、2は電解質膜、3はカソードであり、4はセパレータある。セパレータ表裏両面にアノードガス及びカソードガスなどの反応ガスの流路となる凹部5が多数形成されている。
【0031】本発明において、セパレータ4は、マトリックス原料であるピッチに骨材を混合して得られた混合物を、成形加工後炭化焼成したものである。
【0032】セパレータ4に形成されている、反応ガス流路となる凹部5は、少なくとも一方の面に備えられていればよく、燃料電池動作温度を安定させるため、片側の面に冷却水などの熱媒体を流す凹部を備えても良い。この凹部5は、図示のような溝形態の他に、セパレータ4の表面から突出する多数の突起を有することによって反対に凹状の流路を形成した形態などであっても差し支えない。
【0033】セパレータの寸法は特に限定されるものではなく、目的に応じて種々設計変更可能であり、またその平面形状、溝形状および寸法も目的に応じて種々に変更可能である。
【0034】
【作用】従来の炭素質薄板においては、前記したように炭化焼成後炭化収率が小さく、さらにガス不透過性、機械的強度などの要求を十分に満たすものがなかった。さらに、ガス不透過性などを向上させるために、焼成時間が長くなり、高コストである問題点があった。しかし、本発明の炭素質薄板は、ピッチと骨材を混合した混合物を、成形加工後炭化処理したことにより、炭化収率の向上と焼成時間の短縮が図れるため、安価でさらにガス不透過性、機械的強度、電気伝導率が良好で成形性に優れている。特に成形加工方法として、予め焼成収縮を見込んだ金型を用いて射出成形する方法を採用すると、複雑な形状の成形体を容易に得ることができ、切削加工などの後加工が不要となり、量産性に優れ、加工費をさらに低くすることが可能となる。このようなガス不透過性・機械的強度・電気伝導性に優れ、安価な炭素質薄板は、燃料電池用セパレータとして最適である。
【0035】
【実施例】以下に、本発明の実施例を示す。但し本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。
【0036】実施例1石炭系等方性ピッチ(軟化点約280℃)80質量%に対し、球状熱硬化性樹脂炭化物(ユニベックスGCP−30,平均粒径30μm)20質量%を配合し均一に混合した後、混合物を金型に供給して、プレス温度320℃、プレス圧6MPa、プレス時間15分の条件で熱プレス成形することで厚さ2.5mm、縦125mm×横125mmの溝を備えた成形体を得た。この成形体を300℃、24時間大気中で加熱処理した後、焼成炉にて窒素ガス雰囲気中1000℃、24時間炭化焼成することにより、縦115mm×横115mm、厚さ2mmで表裏両面にガス流路となる溝を備えた炭素質薄板を得た。得られた炭素質薄板の炭化収率は83%であった。
【0037】実施例2石炭系等方性ピッチ(軟化点約280℃)70質量%に対し、球状熱硬化性樹脂炭化物(ユニベックスGCP−30,平均粒径30μm)20質量%、真球状熱硬化性樹脂硬化物(平均粒径30μm)10質量%を配合し均一に混合した後、実施例1と同様の条件にて熱プレス成形することで厚さ2.5mm、縦125mm×横125mmの溝を備えた成形体を得た。この成形体を300℃、24時間大気中で加熱処理した後、焼成炉にて窒素ガス雰囲気中1000℃、24時間炭化焼成することにより、縦115mm×横115mm、厚さ2mmで表裏両面にガス流路となる溝を備えた炭素質薄板を得た。得られた炭素質薄板の炭化収率は80%であった。
【0038】実施例3実施例1に記載の混合物を、予め焼成収縮を見込んだ金型を用いて射出成形を行い、厚さ2.5mm、縦125mm×横125mmの溝を備えた成形体を得た。この成形体を300℃、24時間大気中で加熱処理した後、焼成炉にて窒素ガス雰囲気中1000℃、24時間炭化焼成することにより、縦115mm×横115mm、厚さ2mmで表裏両面にガス流路となる溝を備えた炭素質薄板を得た。得られた炭素質薄板の炭化収率は82%であった。
【0039】実施例1、2および3から得られた炭素質薄板を、図1に示すような燃料電池用セパレータとして用いたところ、ガス不透過性、電気伝導度および機械的強度などセパレータとして十分な性能を示した。
【0040】比較例1石炭系等方性ピッチ(軟化点約280℃)を金型に供給して、実施例1と同様の条件にて熱プレス成形したところ、金型より取り出せない程度の脆さの成形体しか得られず、さらに成形体表面に凹凸のある不良な成形体しか得られなかった。
【0041】
【発明の効果】本発明の炭素質薄板は、安価で優れた機械的強度・ガス不透過性・耐食性・導電性及び成形性を示すものであり、また予め焼成収縮を見込んだ金型を用いて射出成形することで、切削加工など後加工を必要としないもしくは省略可能な、生産性に優れた炭素質薄板を提供できる。さらに本発明の炭素質薄板が安価で優れた機械的強度・ガス不透過性・耐食性及び導電性を示すことから、安価で優れた特性の燃料電池用セパレータとすることができる。
【0042】
【図面の簡単な説明】
【図1】 燃料電池の基本構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 アノード
2 電解質膜
3 カソード
4 セパレータ
5 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】マトリックス原料であるピッチに、骨材を混合して得られた混合物を成形加工後、炭化焼成して得られる炭素質薄板であって、前記骨材が熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物または炭化物であることを特徴とする炭素質薄板。
【請求項2】マトリックス原料であるピッチに、骨材を混合して得られた混合物を成形加工後、炭化焼成して得られる炭素質薄板であって、前記骨材が熱硬化性樹脂からなる球状の硬化物及び炭化物の混合物であることを特徴とする炭素質薄板。
【請求項3】ピッチ50〜95質量%に対して、骨材50〜5質量%を混合し、成型加工後炭化焼成したものである、請求項1または2に記載の炭素質薄板。
【請求項4】上記ピッチと骨材との混合物の成形加工手段が、射出成形であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の炭素質薄板。
【請求項5】上記の炭素質薄板が燃料電池用セパレータである請求項1〜4いずれかに記載の炭素質薄板。

【図1】
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【公開番号】特開2003−20278(P2003−20278A)
【公開日】平成15年1月24日(2003.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−206339(P2001−206339)
【出願日】平成13年7月6日(2001.7.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】