説明

炭素還元炉用のガス不透過性電極

アルミニウムをアルミナの炭素還元により生産する電熱還元炉用の黒鉛電極を、実質的にガス不浸透性にする。黒鉛電極は炉の操作中に消耗するので、黒鉛ピンによって接続される電極カラムを初めから炉に連続的に供給する。電極のコーティングは、酸化なしに数時間の期間にわたって300℃以上迄の温度に耐える。コーティングが、少なくとも部分的に炉区画に入るので、ホットメルトを汚染しないように設定する。即ち、コーティング材料の化学的性質が全体的な反応物の成分と類似するか、少なくとも外的要素の量が非常に低いようにする。コーティングは、電極カラム及び電極保持クランプ間の接続で電気接触抵抗を増加させないように選定する。電極入口領域を水により冷却する場合、コーティングは水不溶性とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナの炭素還元によりアルミニウムを生産するための黒鉛からなる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
一世紀の間、アルミニウム産業は、アルミニウム製錬のためのホール・エルー法に依存してきた。鋼やプラスチック等の、競合する材料を生産するために使用される方法と比較すると、この方法は、エネルギー消費型であり、かつコストがかかる。それ故、代替のアルミニウム生産方法が探求されてきた。
【0003】
そのような代替案の一つは、アルミナの直接炭素還元と呼ばれる方法である。米国特許第2974032号明細書(Grunert等)に記載されたように、全体的な反応
Al23+3C=2Al+3CO (1)
により要約できる方法が、2つのステップ、
2Al23+9C=Al43+6CO (2)
Al43+Al23=6Al+3CO (3)
で行われる。反応(2)は、1900〜2000℃の温度で行われる。現在のアルミニウム生産反応(3)は、2200℃以上の温度で行われ、反応速度は温度の上昇に伴い増加する。反応(2)及び(3)に示した種に加えて、Al2Oを含む揮発性Al種が、反応(2)及び(3)で生じ、かつオフガスで取り除かれる。回収しない限り、これらの揮発性種は、アルミニウム収率の損失になる。反応(2)及び(3)共、吸熱性である。
【0004】
アルミナの直接炭素還元の効率的な生産技術を開発すべく、種々の試みがなされてきた(Marshall Bruno, Light Metals 2003,TMS(The Minerals, Metals & Materials Society)2003参照)。米国特許第3607221号明細書(Kibby)は、全ての生成物が本質的にガス状アルミニウム及びCOのみに急速に蒸発し、液体アルミニウムの蒸気圧が、それと接触するアルミニウム蒸気の分圧未満であるように十分に低く、かつ一酸化炭素及びアルミニウムの反応を妨げるために十分に高い温度で、液体アルミニウム層と、蒸気性混合物を含み、かつ実質的に純粋なアルミニウムを回収する方法を記載している。
【0005】
アルミニウムを生産するための炭素還元に関する他の特許は、米国特許第4486229号(Troup等)及び同第4491472号(Stevenson等)を含む。二重反応ゾーンが、米国特許第4099959号明細書(Dewing等)に記載されている。Alcoa及びElkemによる最近の努力により、米国特許第6440193号明細書(Johansen等)に記載の如き、新規の2区画反応器が開発された。
【0006】
2区画反応器での反応(2)は、ほぼ低温区画に限定される。Al43とAl23の融解浴は、アンダフロ隔壁の下を高温区画へ流れ、そこで反応(3)が起こる。このように生成されたアルミニウムは、融解スラグ層の頂部に層を形成し、かつ高温区画から取り出される。Al蒸気と揮発性Al2Oを含み、低温区画と高温区画からのオフガスは、別個の蒸気回収装置内で反応し、Al43を形成し、それが低温区画に再流入する。低温区画内で温度を維持する上で必要なエネルギーは、融解浴内に設けた黒鉛電極を用いた高強度抵抗加熱により提供できる。同様に、高温区画内での温度の維持に必要なエネルギーは、反応器のその区画の側壁にほぼ水平に配置した複数の電極対により提供できる。
【0007】
アルミニウム炭素還元炉内の低温部で、垂直位置で使用される黒鉛電極の要件の1つは炉からの加圧ガス成分の漏れを妨げるべく、低い浸透性を示す表面である。計算では、炉内にCO及び同様に揮発性の低いAl及びAl2Oを保持するには、黒鉛表面で10-6cm2/秒未満のCO浸透性が必要となる。市販の黒鉛電極は、通常必要レベルよりも桁違いに高い浸透性を持つ故、黒鉛表面を密封するある種の手段を見出す必要がある。
【0008】
黒鉛表面をガス不透過性にする種々の方法が、一般に使用されている。しかしながら、アルミニウム炭素還元炉に特有の要件が、従来の表面密封技術の修正を求めている。先行技術は、全要件を適切に満たしてはいない。
【0009】
最新式コーティングに特有の1つの制限は、黒鉛電極の特有の温度状況である。電極は炉の操作中に消耗し、それ故に黒鉛ピンによって接続される電極カラムは、最初から炉に連続的に供給される。炉内雰囲気が約2000℃の高温であり、かつ黒鉛電極が非常に良好な熱導体なので、追加の外部冷却手段にも拘わらず、炉区間入口で300℃迄の温度に達する。それ故、電極のコーティングは、数時間にわたり酸化なしに、少なくとも300℃に耐えねばならない。更に、コーティングは、それがホットメルトを汚染し得る炉区画に少なくとも部分的に入る。従って、コーティング材料の化学的性質は、反応物(1)の成分と類似せねばならないか、又は少なくとも外的要素の量が、非常に低くなければならない。エネルギー損失を抑えるべく、電極カラムと電極保持クランプ間の接続で電気接触抵抗を増加させないというコーティングの要件が、同等に重要である。加えて、電極入口領域が水で常に冷却されので、コーティングは水不溶性である必要がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、この一般的な公知の装置と方法の欠点を克服し、かつアルミナの炭素還元によるアルミニウム生産に特に適した炭素還元炉用の気密黒鉛電極を提供することが本発明の目的ある。この目的は、特にガス不透過性にすべく被覆された黒鉛電極であって、コーティングが300℃迄の温度に耐え、不純物に伴いホットメルトを殆ど汚染せず、電極カラム及び電極保持クランプ間の接続で電気接触抵抗に有害な影響を示さず、かつ水に不溶の黒鉛電極を提供することである。
【0011】
上記及び他の目的を考慮し、本発明は、アルミナの炭素還元によるアルミニウム生産炉用の黒鉛電極を提供する。この黒鉛電極は、電極体のCO浸透性を10-6cm2/秒未満にするコーティングを持つ。更にコーティングは、ほぼ水不溶性でありおよび/又はその主成分が、上記式(1)におけるそれに対応する。
【0012】
本発明の追加の特徴によれば、コーティングは、ほぼ酸化なしに数時間、300℃以上迄の温度に耐えるように設定される。
【0013】
本発明の追加の特徴によれば、コーティングは、電極体が、炉内で電極クランプにより保持される保持領域で、電極体の電気抵抗を無視できる程度に増加するよう設定される。
【0014】
本発明の他の特徴によれば、コーティングは、熱分解された熱分解性炭素コーティングやガラス状炭素コーティングであるか、高温コークス化樹脂(high-temperature-coked resin)から形成されるか、ケイ酸ナトリウム層であるか、好ましい実施態様ではSi及びAlのプレコーティング層をゾル又はゲルコーティングすることで構成され、Al含有プレコーティング層に塗布される金属Alから形成される。
【0015】
上述の及び他の目的を考慮し、本発明は、アルミナの炭素還元によるアルミニウム生産炉用の黒鉛電極を生産する方法であって、
黒鉛電極体を提供する工程と、
CO浸透性を10-6cm2/秒未満に調整するために、黒鉛電極体の少なくとも一部を被覆する工程とを含む方法を提供する。
【0016】
本発明の一実施態様では、熱分解技術を用いた熱分解性炭素で電極を被覆する。本発明の更なる実施態様では、ガラス状炭素で被覆することにより電極表面を密封する。本発明のもう1つの実施態様では、コーティングを、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ホルムアルデヒド及びエポキシ樹脂等の高温でコークス化現象を起す樹脂の塗布により得る。本発明の更なる実施態様では、電極をケイ酸ナトリウムで被覆する。本発明の別の実施態様では、電極コーティングを、Al含有プレコーティング層に金属Alを塗布することで得る。Al又は酸化Al粒子をベースとするゾル又はゲルで、好適にはSi及びAl含有プレコーティング層で電極を被覆することは、本発明の更にもう一つの実施態様である。これらコーティングの実施態様の種々の組み合わせも、同様に可能である。
【0017】
上記コーティング技術の利点は、コーティングの大部分の粒子状物質が、黒鉛表面気孔内部に拡散し、その結果として電極の電気表面接触特性に殆ど影響を与えることのない、電極表面の薄膜しか形成しないことである。更に、上記の全てのコーティング技術は、工業規模で適用でき、それ故に黒鉛電極に僅かなコストしか追加しない。このように被覆された電極は、炉内雰囲気から流出するいかなるCOもなく、アルミニウム炭素還元炉内で安全に使用できる。
【0018】
本発明の特性と考えられる他の特徴を、従属請求項に示す。
【0019】
本明細書では、本発明を炭素還元炉用の気密電極で具体化して例証し、かつ説明しているが、本発明の精神から逸脱することなく、かつ請求項の均等物の範囲内で、種々の修正及び構造的な変更が行われ得るので、本発明は、提示した詳細に限定されない。
【0020】
しかし本発明の構造は、その追加の目的及び利点と共に、本発明の特殊な例及び実施態様を含む、本発明の代表的な改良の以下の記載から最も良く理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次の実施例は、本発明を更に例示し、かつ説明するために提示する。それらはいかなる点においても限定的であると見なされるべきでない。特段の指示がない限り、全ての部及び百分率は、重量による。
【0022】
鋼生産用の電気アーク炉で使用される黒鉛電極は、原料の選択及び含浸サイクルの数に応じ1〜103cm2/秒の範囲のCO浸透性を持つ。生産コストの低下のため、好適には低いガス浸透性を持つ黒鉛電極等級を使用すべきである。
【0023】
本発明の1つの実施例では、黒鉛電極表面を、気孔中に堆積した熱分解性炭素で密封する。電極を真空炉内に置き、真空下に5分未満ガスを放出させ、その後1秒未満、約140kPa(ゲージ圧)の圧力で、アセチレン等のガス状の炭素に富む炭化水素化合物で排気した容積を充填する工程及び気孔中のガス状炭化水素を熱分解し、かつ分解炭化水素を熱分解性炭素に変換すべく800〜1000℃の温度に炉を加熱する工程を行う。上記の各手順の終了時の容積排気及び充填工程を、引き続き、かつ反復して2〜5回続ける。
【0024】
更なる実施例では、COガス浸透性を、電極をガラス状炭素で被覆することで減少させる。電極を、室温でポリアミド酸溶液によりスプレー被覆し、かつ溶剤を、70〜100℃の高温で蒸発させ、その後、イミド化のために400℃迄温度を更に上昇させた。処置は、4回反復して行った。
【0025】
本発明のもう1つの実施例では、コーティングを、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ホルムアルデヒド又はエポキシ樹脂のような高温コークス化現象を示す樹脂を塗布することで得る。電極を真空炉内に置き、真空下に5分未満ガスを放出させ、その後、30分未満、約69kPa(ゲージ圧)の圧力で、フェノール樹脂のような樹脂で排気した容積を充填する工程、及び600〜800℃の温度に炉を加熱する工程を実行する。この結果樹脂が炭素に変化する。次に、上記の各手順の終了時の容積排気及び充填ステップを、同じ手順で4回迄反復し、毎回、樹脂充填時間を5分だけ減少させる。
【0026】
電極をケイ酸ナトリウムで被覆することは、本発明の更なる実施態様である。ケイ酸ナトリウム溶液(15重量%の水溶液)を、スプレーコーティングによって60〜75℃の温度の電極表面に25〜50g/m2の割合で塗布する。ケイ酸ナトリウムコーティングを、次に350℃の温度の熱気中で乾燥させる。この処理は、数回繰り返してもよい。
【0027】
本発明のなおも更なる実施態様では、電極コーティングを、Alのプラズマ溶射により得る。黒鉛電極表面に、700g/cm2の量で技術等級純度を有するアルミニウムからなる第1層を、プラズマ溶射によって塗布する。この層上に、35g/m2の酸化鉄、10g/m2のニッケル及び18g/m2のアルミニウム粉末との配合物であるアルミニウム層を塗布した。この後、12×106W/cm2の熱流表面密度での熱処理を施し、かくしてAl−Fe−Ni層を形成すべく、2つの層を合金化した。この処置をもう一度反復した。最後に、1150g/m2の量の純アルミニウム層を、金属化により塗布した。
【0028】
もう1つの実施態様では、ゾル又はゲル形状のAl又は酸化Al粒子を電極表面に塗布した。種々の市販製品の中から、好ましくは100nm未満の範囲の、非常に小さい粒径を有するものを使用するのが望ましい。最良の結果は、両方の要素を含むコロイド状懸濁液中に炭素基板を浸漬、塗装、吹き付け又はローリングするような、従来技術によってアルミニウム中の2〜5%のケイ素をベースとするプレコーティング層を塗布することで得た。アルミニウム−ケイ素被覆を持つ電極を、次に約30分間、約900℃で、炭化ケイ素が、アルミニウムを炭素に化学結合することに役立つ界面層として原位置で形成する、不活性雰囲気中で熱処理を施した。その後コロイド状Al又はアルミナ粒子を、塗装又は吹き付け法で塗布し、かつこのようにして覆われた電極を、約10分間、900℃の不活性ガス雰囲気内で短期間加熱した。
【0029】
電極表面は、上述のコーティング技術を組み合わせることでも密封できる。
【0030】
上記の方法で処理した黒鉛電極は、10-6cm2/秒未満のCO浸透性を示した。
【0031】
以上の説明は、当業者が、本発明を実施可能にすることを意図している。記載を読めば当業者に明らかになる全ての可能な応用例及び修正を詳述することは意図していない。しかし、全てのかかる修正及び応用例が、請求項によって定義される本発明の範囲内に含まれる。状況が反対のことを具体的に示さない限り、請求項は、本発明に関して意図される目的を満たすために効果的であるいかなる配置又は順序でも、示した要素及びステップをカバーするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナの炭素還元によるアルミニウム生産炉用の黒鉛電極であって、該電極は成形黒鉛電極体と、前記電極体上のコーティングを含み、
該コーティングが、前記電極体のCO浸透性を10-6cm2/秒未満に限定し、かつ水不溶性である黒鉛電極。
【請求項2】
前記コーティングが、酸化なしに数時間、300℃以上迄の温度に耐える請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項3】
前記コーティングは、前記電極体が、炉内で電極クランプによって保持される保持領域で、前記電極体の電気抵抗を無視できる程度に増加するように設定された請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項4】
前記コーティングが、アルミナ、炭化アルミニウム、炭素及び一酸化炭素を含む炉内の融解物を汚染しないように設定された請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項5】
前記コーティングが、熱分解された熱分解性炭素コーティングである請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項6】
前記コーティングが、ガラス状炭素コーティングである請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項7】
前記コーティングが、高温コークス化樹脂から形成された請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項8】
前記コーティングが、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ホルムアルデヒド又はエポキシ樹脂から形成された請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項9】
前記コーティングが、ケイ酸ナトリウム層である請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項10】
前記コーティングが、Al含有プレコーティング層に塗布された金属Alから形成された請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項11】
前記コーティングが、Al又は酸化Al粒子をベースとするゾル又はゲルコーティング層から形成された請求項1記載の黒鉛電極。
【請求項12】
アルミナの炭素還元によりアルミニウム生産炉用の黒鉛電極を生産する方法であって、以下の工程を含む方法。
黒鉛電極体を準備する工程、および
CO浸透性を10-6cm2/秒未満に調整すべく、黒鉛電極体の少なくとも一部を被覆する工程。
【請求項13】
熱分解技術を用い、熱分解性炭素によって電極体を被覆する工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
ガラス状炭素により電極体を被覆する工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項15】
電極体に高温コークス化行動を有する樹脂を塗布することによってコーティングを形成する工程と、CO不浸透性コーティングを形成するために樹脂をコークス化する工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項16】
ケイ酸ナトリウムにより電極体を被覆する工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項17】
Al含有プレコーティング層によって電極体を被覆する工程と、プレコーティング層に金属Alを塗布する工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項18】
電極体にAl又は酸化Al粒子をベースとするゾル又はゲルを塗布する工程を含む請求項12記載の方法。
【請求項19】
塗布工程に先立って、アルミニウム中の2〜5%のケイ素をベースとするプレコーティング層を塗布する工程と、その後、900℃迄、不活性雰囲気中で電極を熱処理する工程を含む請求項18記載の方法。
【請求項20】
アルミナの炭素還元によるアルミニウム生産炉用の黒鉛電極であって、
成形黒鉛電極体と、
前記電極体のCO浸透性を10-6cm2/秒未満に減少させるための、前記電極体上のコーティングとを含み
前記コーティングが、Al及びCからなる群から選択される主成分元素を有する黒鉛電極。

【公表番号】特表2007−537567(P2007−537567A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512112(P2007−512112)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005222
【国際公開番号】WO2005/113844
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(501090803)エスゲーエル カーボン アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】