説明

点火用電源装置

【課題】本発明は、発射装置の機動性に寄与するとともに緊急事態に対しても発射準備が迅速的確に行うことができる点火用電源装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】ロケット1は、内部に推進装置10を備えており、推進装置10は推進薬を内蔵している。推進装置10の一方の端部には、点火回路11が配設されており、他方の端部には、ロケット1の後端部に取り付けたノズル12が接続されている。発射制御装置2は、発射制御回路20及び点火用電源装置21を備えている。発射制御回路20は、点火回路11と電気的に接続しており、点火用電源装置21において発生した起電力に基づいて点火回路11に直流電流を供給制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットやミサイル等の発射装置や発破等の爆破装置に内蔵される点火回路に直流電流を供給する点火用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットやミサイル等の発射装置では、推進薬に着火するために点火回路を備えており、点火回路に直流電流を供給して作動させるようにしている。供給する直流電流は、発電機を用いたり、蓄電池を用いることが従来より行われている。例えば、特許文献1では、飛しょう体を同時に発射するための飛しょう体に供給する推進薬点火用電流は、高電流が必要であり、この供給源となる点火回路用直流電源及び発動発電機もこの電流に合わせて大型のものとなり、車両への搭載重量や形状が増大し発射装置の機動性能は悪いものであったことから、推進薬を点火させる電流を蓄電池に一旦蓄え、これによって供給するか、あるいは点火回路用直流電源と上記蓄電池を併用することによって、点火回路用直流電源及び発動発電機の電力供給容量を節約し、小型化及び軽量化する点が記載されている。
【特許文献1】特開平9−229593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した先行文献では、複数の飛しょう体を同時に発射させる場合に点火回路用に大容量の直流電源が必要となるため、各飛しょう体毎に蓄電池を用意して点火前に発電機により各蓄電池を充電しておき、点火時に蓄電池からも電流を供給して点火に必要な高電流を得るようにしているが、ロケットやミサイルといった兵器に関する技術分野では機動性がさらに重視されるようになり、発電機を装備することは機動性を考慮した場合不利な条件となる。また、緊急事態に対応して発射準備を行う場合に蓄電池に充電しなければならず、臨機応変な対応ができないといった問題点がある。そのため、常時蓄電池に充電しておくことが考えられるが、長期間待機状態が継続した場合に充電した蓄電池が放電して作動しなくなる危険性があり、一定期間毎に蓄電池を点検又は交換しなければならない、といった課題がある。
【0004】
そこで、本発明は、発射装置の機動性に寄与するとともに緊急事態に対しても発射準備が迅速的確に行うことができる点火用電源装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る点火用電源装置は、点火回路に直流電流を供給する点火用電源装置において、直流電流を供給するための固体高分子型燃料電池を備えていることを特徴とする。さらに、前記固体高分子型燃料電池に水素ガスを供給する水素ボンベと、前記固体高分子型燃料電池に酸素ガスを供給する酸素ボンベとを備えていることを特徴とする。さらに、前記水素ボンベ及び前記酸素ボンベは、着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、上記の構成を備えることで、固体高分子型燃料電池を用いて点火回路に直流電流を供給するので、発電機や蓄電池等を用いることなく点火に必要な高電流を迅速的確に供給することができる。すなわち、固体高分子型燃料電池は、水素等の燃料ガスと酸素等の酸化剤を触媒により反応させて水を生成する際に起電力を発生させるため、点火する際に燃料ガス及び酸化剤を供給すれば点火回路に直流電流が確実に供給され、蓄電池のように放電の点検を行う必要がなく、待機時では燃料ガスが供給されなければ作動することがなく安全性も極めて高い。
【0007】
また、燃料電池自体小型化が可能で、燃料ガス及び酸化剤は別途ガスボンベで供給すれば、点火用電源装置を携帯して運搬することもでき、発射装置の機動性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0009】
図1は、本発明に係る実施形態を備えた発射装置に関する概略構成図である。ロケット1は、内部に推進装置10を備えており、推進装置10は推進薬を内蔵している。推進装置10の一方の端部には、点火回路11が配設されており、他方の端部には、ロケット1の後端部に取り付けたノズル12が接続されている。
【0010】
発射制御装置2は、発射制御回路20及び点火用電源装置21を備えている。発射制御回路20は、点火回路11と電気的に接続しており、点火用電源装置21において発生した起電力に基づいて点火回路11に直流電流を供給制御する。
【0011】
点火用電源装置21は、固体高分子電解質形燃料電池本体22(以下「PEFC」と略称する。)、水素ボンベ23及び酸素ボンベ24を備えている。PEFC22と水素ボンベ23とを接続する供給管路には開閉弁25が設けられており、供給された水素ガスがPEFC22内を通り外部に排気される排気管路には開閉弁26が設けられている。また、PEFC22と酸素ボンベ24とを接続する供給管路には開閉弁27が設けられており、供給された酸素ガスがPEFC22内を通り外部に排気される排気管路には開閉弁28が設けられている。
【0012】
水素ボンベ23及び酸素ボンベ24は、着脱可能に点火用電源装置21に取り付けられるようになっており、点火用電源装置21に設けられた差し込み口に圧入することで、供給管路内にガスを供給する。そして、各ボンベ内には高圧のガス(2気圧〜4気圧)が封入されており、一挙に大量のガスが供給できる。
【0013】
開閉弁25〜28は、手動で開閉する弁であり、PEFC22へのガスの供給及び排気を適宜設定することができる。手動以外でも可能で、発射制御回路20からの開閉信号に基づいて開閉する電磁弁を用いてもよい。
【0014】
PEFC22は、図2に示すような単セルを多数積層したスタックで構成される。単セルは、固体高分子電解質膜30の両側に、白金等の触媒層及び拡散層を備えた水素極31及び酸素極32がそれぞれ積層されており、水素極31及び酸素極32の外表面にはセパレータ33及び34が配設されている。そして、水素料極31とセパレータ33との間には水素ボンベ23から供給される水素ガスが流通する流路35が形成されており、酸素極32とセパレータ34との間には酸素ボンベ24から供給される酸素ガスが流通する流路36が形成されている。水素極31に供給された水素ガスに含まれる水素は触媒によりプロトン(H+)となり、生成されたプロトン(H+)は電解質膜を通り酸素極32に到達して酸素ガスと反応して水が生成されるようになる。水が生成する際に電気エネルギーと熱エネルギーが発生するが、発生した電気エネルギーが起電力として取り出される。電気エネルギーは、配列された各単セルのセパレータ33及び34を導電体で電気的に接続して導電体を介して外部に取り出される。導電体は、発射制御回路20を介して点火回路11に電気的に接続され、PEFC22で発生した起電力により点火回路11に直流電流が供給されるようになる。以上説明したようなPEFC22は、公知のものを使用することができる。
【0015】
ロケット1を発射させる場合には、まず、点火用電源装置21の開閉弁25〜28がすべて閉状態となっているか確認し、開状態の開閉弁は完全に閉じた状態になるよう操作する。そして、開閉弁25〜28が閉状態となっているのを確認後点火用電源装置21に水素ボンベ23及び酸素ボンベ24を装着する。ガズボンベの装着によりボンベ内から高圧ガスが供給管路に流入するが、開閉弁25及び27によりPEFC22内への流入は一旦阻止される。
【0016】
PEFC22は、低温状態では十分な作動状態を得られないため、予めヒータ等を用いて加熱して作動温度(約70℃)にしておくとよい。また、固体高分子電解質膜30は、水により湿潤な状態にしておくことが望ましい。反応が開始されると酸素極側に水素と酸素が反応して水が発生するが、開始当初においては電解質膜が乾燥しないように水分を補給することが望ましい。PEFC22とは別に予め水素ガス及び酸素ガスを反応させて熱を発生させてPEFC22を加熱し、発生した水蒸気により固体高分子電解質膜30を湿潤状態にするようにしてもよい。
【0017】
ガスボンベより高圧ガスが流入した状態で、開閉弁25及び27を開くことで水素ガス及び酸素ガスが供給管路から一挙にPEFC22内に流入して反応が開始される。反応が行われる固体高分子電解質膜30は、大きな差圧にも十分耐えることが可能で、水素ガスが50気圧以上となっても問題ない。反応面積が100cm2の固体高分子電解質膜30を備えた単セルが50個で、水素ガス及び酸素ガスを供給して電流密度1A/cm2程度の電流を発生させると、理論的に100A、25Vの直流出力を得ることができる。そして、点火には、高直流電流(10A〜50A)が0.5秒間流れればよいことから、ガスボンベに貯蔵される水素ガス及び酸素ガスの量は、それぞれ3リットル及び1.5リットル程度でよく、携帯用のガスボンベを用いれば十分収まる量である。
【0018】
また、点火用電源装置21の大きさは、単セルの大きさでほぼ決まってくることから、人手で運搬できる程度にコンパクト化及び軽量化することが可能で、従来の発射装置のように発電機や蓄電池が不要となり、きわめて機動性に優れたものとすることができる。
【0019】
開閉弁25及び27を開いてガスをPEFC22内に流入した後開閉弁26及び28を開いて排気を行い、PEFC22内のスタック全体に水素ガス及び酸素ガスが供給されてPEFC22から発生する起電力を高めていく。この場合、水素ガス及び酸素ガスを高圧で一挙に供給することで、瞬時に高い起電力を得ることが可能となる。
【0020】
発生した起電力は発射制御回路20により検知されて、点火に必要な高直流電流が得られる電圧まで起電力が大きくなったことが検知されると、PEFC22と点火回路11とを電気的に接続して高直流電流が点火回路11に流れるようになる。電気的な接続には、例えばリレースイッチ等のスイッチを用いてスイッチを閉じることで行われる。
【0021】
点火回路11に高直流電流が流れると、点火回路11内の火薬が燃焼し、その結果発生する高温ガスにより推進装置10内の推進薬が着火して燃焼が開始される。推進薬の燃焼により発生したガスは、ノズル12を通して後方に押し出されるようになり、その反作用によってロケット1は推進力を得て加速するようになる。
【0022】
以上説明したように、PEFCを用いた点火用電源装置は、点火に必要な高直流電流を発生させることができるとともに装置がコンパクトで軽量化することが可能である。また、点火の際にガズボンベを取り付けて作動させるので、ガスボンベを取り付けない限り誤作動することはなく、安全性の高い装置とすることができる。さらに、作動に必要なガスを高圧で一挙に供給して瞬時に高い起電力を発生させることができるので、緊急事態にも十分対応することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る点火用電源装置は、ロケットやミサイル等の発射装置や発破等の爆破装置に内蔵される点火回路に好適であり、人手により運搬することも可能で蓄電池等が不要なことから、山岳地帯や砂漠地帯等の不便な場所においても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る実施形態を備えた発射装置に関する概略構成図である。
【図2】燃料電池の単セルの模式説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ロケット
2 発射制御装置
20 発射制御回路
21 点火用電源装置
22 PEFC
23 水素ボンベ
24 酸素ボンベ
25 開閉弁
26 開閉弁
27 開閉弁
28 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火回路に直流電流を供給する点火用電源装置において、直流電流を供給するための固体高分子型燃料電池を備えていることを特徴とする点火用電源装置。
【請求項2】
前記固体高分子型燃料電池に水素ガスを供給する水素ボンベと、前記固体高分子型燃料電池に酸素ガスを供給する酸素ボンベとを備えていることを特徴とする請求項1に記載の点火用電源装置。
【請求項3】
前記水素ボンベ及び前記酸素ボンベは、着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の点火用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−247935(P2007−247935A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70089(P2006−70089)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】