説明

点鼻剤組成物

フマル酸ケトチフェン、カルボキシビニルポリマー、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、塩基性物質、及び水を含有し、pHが5から8であることを特徴とする点鼻剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、フマル酸ケトチフェンを含有する点鼻剤組成物に関し、さらに詳しくは、フマル酸ケトチフェンとカルボキシビニルポリマーの相互作用により生じる沈殿の発生を抑制した、澄明なフマル酸ケトチフェン含有点鼻剤組成物に関する。
【背景技術】
点鼻剤は、薬効成分を水溶液の形態で鼻腔内に投与するため、点鼻液中に液垂れ防止用の増粘剤が配合されることがある(特開平10−226648号参照)。
しかしながら、有効成分としてフマル酸ケトチフェンを含有する点鼻液に増粘剤としてカルボキシビニルポリマーを配合すると白濁を生じ、点鼻剤の噴霧器のノズルに詰まって噴霧性を悪化させたり、商品性を低下させてしまうという問題があった。
本発明の目的は、フマル酸ケトチフェンを含有する点鼻剤において、増粘剤としてカルボキシビニルポリマーを配合した場合に生じる白濁の発生を防止し、澄明な点鼻剤を提供することである。
【発明の開示】
本発明者らは、前記目的を達成するために検討を重ねた。その結果、カルボキシビニルポリマーを分散させ、塩基性物質で中和させた水溶液に、フマル酸ケトチフェン及びモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを溶解させた水溶液を添加し、混合することにより、白濁を生じることなく、澄明な点鼻液を調製しうることを見出した。
かかる知見に基づき完成した本発明の構成は、フマル酸ケトチフェン、カルボキシビニルポリマー、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、塩基性物質、及び水を含有し、pHが5から8であることを特徴とする点鼻剤組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の他の構成は、フマル酸ケトチフェン0.02から0.2質量%、カルボキシビニルポリマー0.01から0.3質量%、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン0.03から0.4質量%、塩基性物質0.01から0.3質量%、及び水80から99質量%を含有し、pHが5から8であることを特徴とする点鼻剤組成物である。
本発明において使用する「フマル酸ケトチフェン」とは、ヒスタミン受容体に結合してヒスタミンと拮抗したり、肥満細胞を安定化して化学伝達物質の遊離を抑制することにより、鼻掻痒、くしゃみ、鼻汁の分泌を抑制する薬物である。
フマル酸ケトチフェンの配合量は、本発明の点鼻剤組成物中0.02から0.2質量%であり、好ましくは0.03から0.1質量%である。
本発明における「フマル酸ケトチフェン」の投与量は、0.55mg/日(ケトチフェンとして0.4mg/日)である。
本発明において使用する「カルボキシビニルポリマー」(以下、適宜に「CVP」と略記する。)とは、アクリル酸の重合体であって、水、エタノールに加えて分散させると澄明又は白濁した粘性の液となる増粘剤である。
CVPの配合量は、本発明の点鼻剤組成物中0.01から0.3質量%であり、好ましくは0.02から0.3質量%である。0.01質量%未満ではほとんど白濁が生じないので本発明を用いる必要性がなく、0.3質量%を超えると点鼻液の粘性が大きくなりすぎて噴霧性が悪化し、点鼻剤には適さないからである。
本発明において使用する「モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン」(以下、適宜に「ポリソルベート80」の別名を用いる。)は、主としてモノオレイン酸ソルビタンに酸化エチレンを付加重合して得られ、可溶化剤、溶解補助剤、乳化剤の用途で医薬品等に用いられている。
ポリソルベート80の配合量は、本発明の点鼻剤組成物中0.03から0.4質量%であり、好ましくは0.03から0.3質量%である。0.03質量%未満では沈殿防止効果が充分でなく、0.4質量%を超えると沈殿防止作用にほとんど影響がないからである。
本発明における「塩基性物質」は、CVPの中和剤であり、また、点鼻剤組成物のpHを5から8に調節するために使用される。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、トリエチルアミン及びテトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、クエン酸ナトリウム、ホウ砂、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
塩基性物質の配合量はその種類によって異なるが、本発明の点鼻剤組成物中0.01から0.3質量%であり、好ましくは0.02から0.3質量%である。
本発明における「水」は、本発明の点鼻剤組成物中80から99質量%であり、好ましくは85から99質量%である。
本発明の点鼻剤組成物のpHは5から8であり、好ましくは6から7である。前記塩基性物質等を配合することにより調節される。
本発明の点鼻剤組成物は、例えば、次のようにして調製される。水にCVPを溶解し、塩基性物質で中和して粘稠な水溶液を得る(水溶液1)。水にポリソルベート80を溶解し、その後、フマル酸ケトチフェンを溶解した水溶液を得る(水溶液2)。水溶液1に水溶液2を添加、混合し、pHを6.0に調節する。こうして得られた水溶液を点鼻剤用の噴霧器に充填することにより点鼻剤として提供できる。
その際、本発明の効果を損なわない範囲で、他の有効成分として、血管収縮剤、抗炎症剤、局所麻酔剤、殺菌剤、収れん剤等を配合することができる。また、pH調節剤、清涼化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤、等張化剤、溶解補助剤等の公知の添加剤を配合してもよい。
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
フマル酸ケトチフェン 0.076g
塩酸テトラヒドロゾリン 0.1g
CVP 0.1g
ポリソルベート80 0.1g
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
グリセリン 適量
上記成分を精製水に溶解し、pHを6.0に調節して全量100mLの点鼻液を調製した。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【実施例2】
フマル酸ケトチフェン 0.076g
塩化ベンゼトニウム 0.02g
CVP 0.1g
ポリソルベート80 0.1g
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
グリセリン 適量
上記成分を精製水に溶解し、pHを6.0に調節して全量100mLの点鼻液を調製した。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【実施例3】
フマル酸ケトチフェン 0.076g
塩酸ナファゾリン 0.05g
CVP 0.1g
ポリソルベート80 0.1g
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
グリセリン 適量
上記成分を精製水に溶解し、pHを6.0に調節して全量100mLの点鼻液を調製した。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【実施例4】
フマル酸ケトチフェン 0.038g
塩酸テトラヒドロゾリン 0.05g
マレイン酸クロルフェニラミン 0.25g
塩化ベンゼトニウム 0.02g
グリチルリチン酸二カリウム 0.3g
CVP 0.1g
ポリソルベート80 0.1g
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
グリセリン 適量
上記成分を精製水に溶解し、pHを6.0に調節して全量100mLの点鼻液を調製した。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【実施例5】
フマル酸ケトチフェン 0.076g
塩酸ナファゾリン 0.05g
塩化ベンゼトニウム 0.02g
グリチルリチン酸二カリウム 0.3g
CVP 0.1g
ポリソルベート80 0.1g
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
グリセリン 適量
上記成分を精製水に溶解し、pHを6.0に調節して全量100mLの点鼻液を調製した。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
【実施例6】
フマル酸ケトチフェン 0.076g
塩化ベンザルコニウム 0.01g
CVP 0.1g
ポリソルベート80 0.1g
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
D−ソルビトール 適量
上記成分を精製水に溶解し、pHを6.0に調節して全量100mLの点鼻液を調製した。これを点鼻剤用噴霧器に充填して点鼻剤とした。
試験例1
下表1記載の処方でpH6.0の点鼻液(単位:g/100mL)を調製し、その性状を目視によって確認した。結果を表1下欄に記載する。

本発明の実施態様である実験例1乃至実験例4の点鼻液では澄明であったが、対照例1乃至対照例4では白濁が生じた。フマル酸ケトチフェンを配合していない対照例5では白濁は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、フマル酸ケトチフェン及びCVPを含有する澄明な点鼻剤を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ケトチフェン、カルボキシビニルポリマー、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、塩基性物質、及び水を含有し、pHが5から8であることを特徴とする点鼻剤組成物。
【請求項2】
フマル酸ケトチフェン0.02から0.2質量%、カルボキシビニルポリマー0.01から0.3質量%、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン0.03から0.4質量%、塩基性物質0.01から0.3質量%、及び水80から99質量%を含有し、pHが5から8であることを特徴とする点鼻剤組成物。

【国際公開番号】WO2004/030667
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541256(P2004−541256)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012560
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】