説明

無方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】常法の製造工程を変えることなく、コストと生産性に優れて製造することが可能で、歪取り焼鈍時の結晶粒成長性に優れ、かつ高周波鉄損の良好な無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以上3.5%以下、Al:0.2%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、Ti:0.0015%以上0.01%以下、N:0.005%以下、Nd:0.001%以上0.01%以下からなり、残部が鉄および不可避的不純物であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター鉄芯などの高周波用途に用いられる高級グレードの無方向性電磁鋼板の鉄損を下げて、エネルギーロスを少なくし、電気機器の効率化を図り省エネに寄与する、鉄損、特に歪取焼鈍後の鉄損に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から省エネが大きな問題となっており、冷暖房器具のモーターや電気自動車のメインモーターなどの分野で更なる消費電力の低減が求められている。これらのモーターは高回転で使用されることが多い。このため、モーター素材となる無方向性電磁鋼板に対し、従来の商用周波数である50〜60Hzよりも高周波の400〜800Hz域での鉄損の改善が求められている。
【0003】
無方向性電磁鋼板の高周波域での鉄損を改善する方策として、例えば特許文献1に記載されたように、SiやAlの含有量を増加させ電気抵抗を増加させることが従来一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO93/08313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、SiやAl量の増加に伴い、合金原料に不可避的に含まれるTiが鋼板に多量に混入するようになる。鋼板中のTiが増えると、Tiは鋼板中でTiN、TiS、TiCなどの析出物(以降、「Ti介在物」と記載する場合がある。)を生成する。鋼板中にこれらの析出物が微細かつ多量に析出すると、鋼板の焼鈍時での結晶粒成長をピン止め阻害して結晶粒成長を抑制し、磁気特性を劣化させる。特に、需要家が打ち抜き加工の後に、例えば750℃×2時間程度の歪取り焼鈍を行って結晶粒を成長させる方策が択られているが、Ti介在物は歪取り焼鈍中に結晶粒界に微細かつ多量に析出し易いため、結晶粒成長を著しく損ねて磁気特性を大きく劣化させる。
【0006】
このため、鋼板中の微細なTi介在物を極力低減させることが必要である。その方策のひとつは、不純物としてのTi含有量の少ない合金原料を使用することであるが、コストアップを招くという問題がある。また鋼中のN、S、Cを低下させることもTi介在物を低減する方策のひとつであり、真空脱ガス処理などによってSやCを充分下げることは現在の技術で可能であるものの、長時間の処理が必要となり、生産性の悪化が避けられない。また、Nを溶鋼中に混入させない様に、精錬容器のシールを強化することも考えられるが、コストアップを招くとともに、この様な処置を行ってもやはりNの溶鋼への混入は避けられないという問題がある。
【0007】
本発明は、常法の製造工程を変えることなく、コストと生産性に優れて製造することが可能で、歪取り焼鈍時の結晶粒成長性に優れ、かつ高周波鉄損の良好な無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は次の通りである。
(1) 質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以上3.5%以下、Al:0.2%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、Ti:0.0015%以上0.01%以下、N:0.005%以下、Nd:0.001%以上0.01%以下からなり、残部が鉄および不可避的不純物であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(2) 質量%で、さらに、Cu:0.5%以下あるいはCr:20%以下の何れか1種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の無方向性電磁鋼板。
(3) 質量%で、さらに、SnまたはSbの何れか1種以上の合計量が0.3%以下含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板。
(4) 質量%で、さらに、Ni:1.0%以下含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
(5) 質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以上3.5%以下、Al:0.2%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、Ti:0.0015%以上0.01%以下、N:0.005%以下、Nd:0.001%以上0.01%以下に溶鋼成分を調整し、該溶鋼を鋳造して得られた鋳片を熱間圧延し、得られた熱延板に対して1000℃〜1200℃の範囲内に10分以上保持する熱処理を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
(6) 前記の溶鋼成分を調整する際に、さらに、質量%で、Cu:0.5%以下あるいはCr:20%以下の何れか1種以上を添加することを特徴とする(5)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(7) 前記の溶鋼成分を調整する際に、さらに、質量%で、SnまたはSbの一種または二種をその合計量で0.3%以下添加することを特徴とする(5)または(6)に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(8) 前記の溶鋼成分を調整する際に、さらに、質量%で、Ni:1.0%以下を添加することを特徴とする(5)〜(7)のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、SiやAlの含有量が高い無方向性電磁鋼板中に内存する微細なTi介在物を充分抑制することができ、焼鈍時の結晶粒成長性を改善でき、高周波域での鉄損に優れた無方向性電磁鋼板を、コストと生産性に優れて製造することが可能となり、モーター特性を改善して省エネに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】鋼中のNd含有量と歪取り焼鈍後の鉄損値との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明について具体的に述べる。
【0012】
無方向性電磁鋼(以下、鋼と略記する)へNdを添加すると、鋼中のTiSの形成が抑制され、かつTiNの析出・成長が促進されて鋼中に粗大TiNが生成し、さらに歪取り焼鈍後の製品板におけるTiCが著しく減少し、以上によって微細なTi介在物が減少し、微細Ti介在物による結晶粒成長の抑制が緩和され、結晶粒成長性が大幅に改善されることが、鋭意調査の結果明らかとなった。以下、これについて詳細に説明する。なお、Ndは原子番号60の元素であり、ランタノイドの一種である。
【0013】
真空溶解を用いたラボ実験を行い、質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以上3.5%以下、Al:0.2%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、Ti:0.0015%以上0.01%以下、N:0.0004%以上0.005%以下、の成分の溶鋼をベースとして、Nd:0%超0.05%以下の範囲内で成分を変化させた種々の溶鋼を製造し、凝固した後、ラボで熱延、熱延板焼鈍、冷延、仕上げ焼鈍、歪取り焼鈍の順で実験を行って製品サンプルを製造し、以下の方法により介在物ならびに結晶粒の調査を行った。
【0014】
介在物調査方法の一例を説明する。サンプルを表面から適宜厚さにまで研磨して鏡面とし、後述のエッチングを施した後にレプリカを採取し、レプリカに転写された介在物をフィールドエミッション型透過式電子顕微鏡およびフィールドエミッション型走査式電子顕微鏡により観察した。なお、前者の場合、レプリカでなく薄膜を作成して観察してもよい。
【0015】
エッチング方法は、例えば、黒沢らの方法(黒沢文夫、田口 勇、松本龍太郎:日本金属学会誌、43(1979),p.1068)により非水溶性溶媒液中でサンプルを電解腐食し、介在物を残したまま鋼のみ溶解させて介在物を抽出した。
【0016】
また、結晶粒径はサンプルの断面を鏡面研磨し、ナイタールエッチングを施して結晶粒を現出させて平均結晶粒径を測定した。
【0017】
上述の結果、製品サンプルにおいて、質量%で0.001%以上のNdを含有させた場合に、歪取り焼鈍後の製品サンプルにおけるTi介在物が著しく減少し、結晶粒成長性が大幅に改善されることが、鋭意調査の結果明らかとなった。このメカニズムについて以下に詳細に説明する。
【0018】
鋼中で形成されるTi析出物の種類にはTiN、TiSおよびTiCがある。それぞれ析出開始する温度が異なり、TiNは1000℃以上で、TiSは1000℃未満で、TiCは800℃以下で析出する。これらは通常、結晶粒界や転位等を析出サイトにして微細に多数析出し、鋼の結晶粒成長をピン止め阻害する。
【0019】
鋼中にNdをSと結合してNdSを形成する量を超えて添加した場合、Ndの一部は溶鋼段階でSと結合してNdSを形成する。これにより鋼中のSはNdSとして固定され、TiSやMnS等の硫化物の形成が抑制される。
【0020】
また、残りのNdは鋼中に固溶する。固溶したNdにより鋼中におけるTiNおよびTiCの形成は促進される。このメカニズムは明らかでないが、固溶Ndが鋼中のTiの活量を上げることにより、Ti析出物の析出、成長が促進されたものと考えられる。
【0021】
しかしながら、鋼は熱間圧延などにおいて1000℃超の高温から冷却されるが、このとき固溶Ndの効果によってTi析出物の形成が促進された場合、TiCより高温で析出を開始するTiNの析出・成長が促進され、鋼中のTiがTiNの析出によって消費される。このため、Ti量が0.01質量%以下であれば、TiはTiNの析出により、ほとんど消費され、残りのTiが大幅に減少するため、TiCの析出は寧ろ抑制される。
【0022】
この様に、TiNの析出・成長が促進させるためには、Ti量が0.0015質量%以上存在する必要があることも、併せて知見している。
【0023】
すなわち、Ti量が0.0015〜0.01質量%の範囲で、同一のTi含有量で比較すると、Ndを添加した場合、TiNの析出、成長がより促進され、TiSおよびTiCの析出、成長はより抑制されることが判明した。このとき、TiNは析出が促進されるのみならず成長も促進されるため、TiNのサイズがより大きくなって微細なTiNが無くなり、結晶粒成長のピン止め効果がより小さくなり、結晶粒成長性が改善される。
【0024】
ここで、TiNのサイズが大きくなる理由については以下のように考えられる。TiNが結晶粒界や転位等を析出サイトにして析出するとき、Ndを添加してもサイト数は変わらない。ここで、Tiの活量増加によってTi析出物の形成が促進されると、TiNの析出数は変わらず、TiNがより成長するようになる。
【0025】
次に、NdによるTiNの析出、成長の促進効果をさらに好ましくするための、TiNの成長を促進させる熱処理について説明する。TiNは1000℃以上で析出するが、成長をより効率的に促進させるためにはより高温での熱処理が好ましい。但し、高温域ではスケールの多量生成などの問題が副次的に発生するため、1200℃から1000℃の温度域で10分以上保持すればよいことを実験的に知見した。
【0026】
以上のメカニズムにより、Ti量が0.0015〜0.01質量%の範囲で、鋼中にNdをSと結合してNdSを形成する量を超えて添加すると、TiNのサイズが大きくなり、かつTiSおよびTiCが減少し、結晶粒成長のピン止め抑制力が小さくなって結晶粒成長が改善される。このときさらに、Tiを不可避的不純物レベルでなく、むしろ高めることによってTiNの成長を促進させ、Tiの無害化を図ることができる。これにより、熱延板焼鈍あるいは冷延板仕上げ焼鈍のみならず、特に歪取り焼鈍におけるTiCの抑制によって、各焼鈍における結晶粒成長が著しく改善される。
【0027】
次に、本発明における成分の限定理由について説明する。
【0028】
[C]:Cは、鋼中でTiCを形成して磁気特性を劣化させるだけでなく、Cの析出による磁気時効が著しくなるので、上限を0.01質量%とした。下限は0質量%を含む。
【0029】
[Si]:Siは鉄損を減少させる元素である。下限の1.0質量%より少ないと充分な低鉄損が得られない。なお、鉄損をさらに減少させる観点から、好ましい下限は1.5質量%、より好ましくは2.0質量%である。また、上限の3.5質量%を超えると加工性が著しく不良となるため、上限を3.5質量%とした。なお、上限としてより好ましい値は、冷延性がより良好な3.1質量%であり、さらに好ましい値は3.0質量%であり、一層好ましい値は2.5質量%である。
【0030】
[Al]:AlはSi同様に鉄損を減少させる元素である。下限の0.2質量%より少ないと充分な低鉄損が得られない。上限の3.0質量%を超えるとコストの増加が著しい。Alの下限は、鉄損の観点から、好ましくは0.3質量%、より好ましくは0.4質量%、さらに好ましくは0.5質量%とする。Alの上限は、コストの観点から、好ましくは2.5質量%、より好ましくは2.0質量%、さらに好ましくは1.8質量%とする。
【0031】
[Mn]:Mnは鋼板の硬度を増加させ、打抜性を改善するために、0.1質量%以上添加する。なお、上限の2.0質量%は経済的理由によるものである。
【0032】
[P]:Pは材料の強度を高め、加工性を改善するため、下限0質量%超を含有させる。但し過剰な場合は冷延性を損ねるため、0.1質量%以下が好ましい。
【0033】
[S]:SはTiS等を形成し、結晶粒成長性を悪化させ、鉄損を悪化させる。NdによってNdSを形成することにより無害化されるものの、NdSが過剰に生成すると、NdSによって結晶粒成長が阻害される。NdSの過剰生成を防止する上限として0.005質量%とした。なお、より好ましい上限は0.003質量%である。下限は0質量%を含む。
【0034】
[N]:NはTiNなどの窒化物となり鉄損を悪化させる。本発明によって無害化されるものの、TiNが過剰に生成すると、焼鈍してもTiNを充分成長させて微細TiNを無くすことができなくなる。よって許容できる上限として0.005質量%とした。なお、上限として好ましくは0.003質量%、より好ましくは0.002質量%である。また、前記の理由により、Nはできる限り少ないほうが好ましいが、0質量%に限りなく近づけるには工業的な制約が大きいため、下限を0質量%超とする。なお、工業製造プロセスで可能な脱窒素の下限として0.001質量%を目安とする。さらに極限的に脱窒素した場合、0.0005質量%まで下げると窒化物がさらに抑制されてより好ましい。
【0035】
[Ti]:TiはTiN、TiS、TiCなどの微細介在物を生成し、結晶粒成長性を悪化させ、鉄損を悪化させる。本発明によりTiを高めることによってTiN成長を促進させることによりTi介在物が無害化されるものの、TiNが過剰に生成すると、焼鈍してもTiNを充分成長させて微細TiNを無くすことができなくなる。よって許容できる上限として0.01質量%とした。また、上記の理由により、上限として好ましくは0.005質量%である。なお、0.0015質量%を下回るとTi析出物が過少となり、TiNの析出・成長を促進させるためには、Ti量が0.0015質量%以上存在する必要がある。また、Ti量が0.0015質量%を下回ると結晶粒成長の阻害効果が実質的に問題なくなるため、この観点からも、下限は0.0015質量%とする。
【0036】
ちなみに、Ti量が多いほど、TiNの析出・成長を促進させることができるため、下限として好ましくは0.002質量%であり、より好ましくは0.0025質量%であり、さらにより好ましくは0.003質量%である。
【0037】
[Nd]:Ndは脱硫元素であり、鋼中でNdSを形成してSを固定する。また、NdをSと結合してNdSを形成する量を超えて添加されたNdは、鋼中に固溶したNdとなり、これによりTiNの析出と成長を促進する。これにより、微細なTiSやTiCの生成を防止または抑制する。Sが0.005質量%以下の鋼中であっても、Ndが0.001質量%未満の場合は、NdSの形成によってNdが消費されて固溶Ndが充分に存在しないことが実験的に確認された。よって、固溶Ndをつくるための下限値として0.001質量%以上であればNdの効果が発揮される。ここで、その効果をより発揮するためには、0.003質量%以上であれば好ましく、0.005質量%を超えればより好ましい。また上限値として0.01質量%を超えるとコストの観点から好ましくない。よって、0.001質量%以上0.01質量%以下とする。
【0038】
なお、Ndは、原子番号が57のランタンから71のルテシウムまでの15元素からなるランタノイドの一種であるが、上記の効果はNdのみ特異的に有するものであり、その他のランタノイド元素は含有量に含まない。
【0039】
以下に、選択元素について説明する。尚、これらの含有量の下限値は、微量でも含有されていれば良いため、すべて0質量%超とする。
【0040】
[Cu]:Cuは耐食性を向上させ、また固有抵抗を高めて鉄損を改善する。但し、過剰な場合は製品板の表面にヘゲ疵などが発生して表面品位を損ねるため、0.5質量%以下が好ましい。
【0041】
[Cr]:Crは耐食性を向上させ、また固有抵抗を高めて鉄損を改善する。但し、過剰な添加はコスト高となるため、20質量%を上限とした。
【0042】
[Sn]および[Sb]:SnまたはSbは偏析元素であり、磁気特性を悪化させる(111)面の集合組織を阻害し、磁気特性を改善する。これらは1種だけ用いても、あるいは2種を組み合わせて用いても、上記の効果を発揮する。但し、0.3質量%を超えると冷延性が悪化するため、0.3質量%を上限とした。
【0043】
[Ni]:Niは磁気特性に有利な集合組織を発達させ、鉄損を改善する。但し、過剰な添加はコスト高となるため、1.0質量%を上限とした。
【0044】
また、以上に述べた成分以外の元素で、本願の鋼の効果を大きくさまたげるものでなければ、含有していても良く、本願発明範囲とする。
【0045】
なお、不可避的不純物には以下の元素が含まれる。
【0046】
[Zr]:Zrは微量でも結晶粒成長を阻害し、歪取り焼鈍後の鉄損を悪化させる。よって、できる限り低減して、0.01質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
[V]:Vは窒化物あるいは炭化物を形成し、磁壁移動や結晶粒成長を阻害する。このため、0.01質量%以下とすることが好ましい。
【0048】
[Mg]:Mgは脱硫元素であり、鋼中のSと反応してサルファイドを形成し、Sを固定する。含有量が多くなると脱硫効果が強化されるものの、上限の0.05質量%を超えると、過剰なMg硫化物により結晶粒成長が妨げられる。よって0.05質量%以下とすることが好ましい。
【0049】
[O]:Oは0.005質量%より多く含有されると、酸化物が多数生成し、この酸化物によって磁壁移動や結晶粒成長が阻害される。よって、0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0050】
[B]:Bは粒界偏析元素であり、また窒化物を形成する。この窒化物によって粒界移動が妨げられ、鉄損が悪化する。よって、できる限り低減して、0.005質量%以下とすることが好ましい。
【0051】
次に、本発明における好ましい製造条件ならびにその規定理由について説明する。
【0052】
製鋼段階において、転炉や2次精錬炉などの常法により精錬し、所望の組成範囲内に溶製し、溶鋼を取鍋に受け、タンディッシュを介して鋳型に注入し、連続鋳造ないしインゴット鋳造によりスラブ等の鋳片を鋳造する。
【0053】
この後さらに、熱間圧延し、一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延、および必要に応じて酸洗処理を施し、製品厚に仕上げる。その際に、本発明の無方向性電磁鋼板を得るためには、熱間圧延後、あるいは冷間圧延前において、鋼中のTiNを成長させるために、1200℃〜1000℃の範囲で10分以上の熱処理を行うことが重要である。次いで仕上げ焼鈍し、絶縁皮膜を塗布する。
【0054】
以上述べた方法により、鋼板中のTi介在物を制御することが可能となる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明の効果を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
質量%で、C:0.0019%、Si:2.5%、Mn:0.3%、P:0.05%、N:0.0025%、Al:1.2%、および表1に示す種々元素からなり、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分の溶鋼を、転炉と真空脱ガス装置により精錬し、金属Ndを溶鋼に添加して取鍋に受鋼し、タンディッシュを経て、浸漬ノズルにより鋳型内に溶鋼を供給して連続鋳造し鋳片を得た。その後、鋳片を熱延し、1050℃×15分の熱処理をバッチ炉で行い、厚さ0.35mmに冷延し、950℃×30秒の仕上げ焼鈍を行い、絶縁皮膜を塗布し、さらに750℃×2時間の歪取り焼鈍を行い、製品を得た。製品板の析出物および結晶粒径は前記の方法により調査し、製品板の鉄損は、製品板を25cm長に切断してJIS−C−2550に示すエプスタイン法により調査した。ここで、直径50nm以下の析出物が結晶粒界をピン止めしていたのが観察されたので、直径50nm以下の析出物の存在に着目した。
【0056】
【表1】

【0057】
結果を表1ならびに図1に示す。本発明に準拠したNo.1〜5は、製品板中に径50nm以下の微細なTiN、TiSおよびTiCは見られなかった。結晶粒は比較的粗大に成長し、鉄損値は良好であった。一方、比較例のNo.6はNdを添加しなかった例であり、またNo.7はNd添加量が本発明範囲を下回った例であるが、製品板中のTiNが径50nm以下の微細なサイズに止まり、TiCの析出が認められた。またNdを添加しなかったNo.6にはTiSが観察され、結晶粒成長および鉄損値は発明例に比べて劣位であった。また、比較例のNo.8は鋼中S量が本発明範囲の上限を上回る例であるが、NdによるS固定が不十分でTiSが析出し、結晶粒成長および鉄損値は発明例に比べて劣位であった。さらにまた、比較例のNo.9は鋼中Ti量が本発明範囲の上限を上回る例であるが、TiNが粗大化し、TiSが析出しなかったものの、余剰のTiによるTiCが析出し、結晶粒成長および鉄損値は発明例に比べて劣位であった。
(実施例2)
質量%で、C:0.0015%、Si:3.0%、Mn:0.4%、P:0.1%、S:0.0021%、Al:0.6%、Ti:0.002%、N:0.0022%、Nd:0.0035%からなり、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分の鋼を、高周波真空溶解装置により溶解し、鋳型に注入してインゴットを得た。その後、インゴットを熱延し、熱延板に表2に示す種々の焼鈍処理を行った後、厚さ0.35mmに冷延し、950℃×30秒の仕上げ焼鈍を行い、鋼板サンプルを得、製品板の析出物および結晶粒径を前記の方法により調査した。
【0058】
【表2】

【0059】
結果を表2に示す。本発明に準拠したNo.1〜4は製品板中に平均直径65〜80nmの比較的粗大なTiNが見られ、結晶粒径は115〜130μmと充分に成長した。また製品板の表面にはスケール疵が発生しなかった。一方、焼鈍温度が1250℃と本発明範囲を上回ったNo.5は、製品板中のTiNは平均直径で105nmと比較的粗大であり、結晶粒径は140μmと充分に成長したが、製品板の表面にスケールの押し込み疵が多数発生し、製品として不可であった。また、No.6は焼鈍時間が、No.7は焼鈍温度が、No.8は焼鈍温度および時間が、本発明範囲を下回った例であるが、いずれも製品板中のTiNの平均直径が20〜30nmと比較的微細に止まり、結晶粒径は80〜90μmであり本発明例より劣位であることが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明した通り、無方向性電磁鋼板中に内包される微細なTi析出物を充分抑制することにより、充分良好な磁気特性を得ることが可能となり、需要家のニーズを満たしつつ省エネに貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以上3.5%以下、Al:0.2%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、Ti:0.0015%以上0.01%以下、N:0.005%以下、Nd:0.001%以上0.01%以下からなり、残部が鉄および不可避的不純物であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
質量%で、さらに、Cu:0.5%以下あるいはCr:20%以下の何れか1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
質量%で、さらに、SnまたはSbの何れか1種以上の合計量が0.3%以下含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
質量%で、さらに、Ni:1.0%以下含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
質量%で、C:0.01%以下、Si:1.0%以上3.5%以下、Al:0.2%以上3.0%以下、Mn:0.1%以上2.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、Ti:0.0015%以上0.01%以下、N:0.005%以下、Nd:0.001%以上0.01%以下に溶鋼成分を調整し、該溶鋼を鋳造して得られた鋳片を熱間圧延し、得られた熱延板に対して1000℃〜1200℃の範囲内に10分以上保持する熱処理を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記の溶鋼成分を調整する際に、さらに、質量%で、Cu:0.5%以下あるいはCr:20%以下の何れか1種以上を添加することを特徴とする請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記の溶鋼成分を調整する際に、さらに、質量%で、SnまたはSbの一種または二種をその合計量で0.3%以下添加することを特徴とする請求項5または6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記の溶鋼成分を調整する際に、さらに、質量%で、Ni:1.0%以下を添加することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−280936(P2010−280936A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134175(P2009−134175)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】