説明

無方向性電磁鋼板およびその製造方法

【課題】本発明は、焼き嵌めによって突き合わせ部が歪みにくい無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:3.0%以下、sol.Al:3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、Si+0.5×sol.Al+0.3×Mn+10×P≧2.5を満足する化学組成を有し、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合が30%以下である鋼組織を有し、ランダム組織の方位強度に対する{011}<100>方位強度I{011}<100>が1.0以上10.0以下である集合組織を有し、板厚が0.10mm以上0.30mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機など、主に高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に使用することが好適な無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスを削減する必要性から、自動車、家電製品等の分野では消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば、自動車分野においては、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。また、家電製品分野においては、年間電気消費量の少ない高効率エアコン、冷蔵庫等がある。これらに共通する技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
従来のモータでは一体打抜き型の鉄心が固定子に採用されるケースが多かった。一方、近年では、巻き線設計や歩留りの面で有利な分割鉄心が採用されるケースが増加しており、例えば特許文献1〜特許文献3には、分割鉄心用の無方向性電磁鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−127600号公報
【特許文献2】特開2008−127608号公報
【特許文献3】特開2008−127612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分割鉄心を組む手段としては、焼き嵌めによって鉄心のヨーク部に圧縮応力を負荷することで、鉄心を固定するのが一般的である。しかしながら、この焼き嵌めによる圧縮応力によって、鉄心の突き合わせ部が歪み、モータ性能が劣化するという問題がある。この問題は特に薄肉の無方向性電磁鋼板の場合に顕著であることから、鉄心材料である無方向性電磁鋼板には焼き嵌めによって突き合わせ部が歪みにくいことが要求される。しかしながら、従来技術においては斯かる観点から詳細な検討がなされていないのが実情である。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その課題はエアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機など、主に高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に使用することが好適な、焼き嵌めによって突き合わせ部が歪みにくい無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく、無方向性電磁鋼板のミクロ組織、集合組織を詳細に調査した。その結果、焼き嵌めによる突き合わせ部の歪みを抑制するためには、板厚方向に貫通する結晶粒の個数割合を低減し、{011}<100>方位の集積度を高めることが有効であることを新たに知見した。このような新知見に基づく本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:3.0%以下、sol.Al:3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、下記式(1)を満足する化学組成を有し、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合が30%以下である鋼組織を有し、ランダム組織の方位強度に対する{011}<100>方位強度I{011}<100>が1.0以上10.0以下である集合組織を有し、板厚が0.10mm以上0.30mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板を提供する。
Si+0.5×sol.Al+0.3×Mn+10×P≧2.5 (1)
(ここで、Si、sol.Al、MnおよびPは、各元素の含有量(質量%)を示す。)
【0009】
上記発明においては、板厚t(mm)と磁束密度1.0Tおよび周波数800Hzで磁化した際の圧延方向の鉄損W10/800(W/kg)とが下記式(2)を満足し、磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度B50が1.68T以上であることが好ましい。
10/800≦80×t+16 (2)
多極モータのモータ効率は固定子(ステータ)のティース部の磁気特性の影響を大きく受けることが知られているため、分割鉄心の場合、ティース部の方向を電磁鋼板の磁気特性が良好な方向である圧延方向に一致させて板取りされることが一般的である。したがって、圧延方向の磁気特性が重視されるのである。
【0010】
また本発明においては、上記化学組成が、上記Feの一部に代えて、Sn:0.1質量%以下およびSb:0.1質量%以下からなる群から選択される1種または2種を含有していてもよい。無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させることができるからである。
【0011】
さらに本発明においては、上記化学組成が、上記Feの一部に代えて、Ca:0.01質量%以下を含有していてもよい。結晶粒成長性を向上させて磁気特性を向上させることができるからである。
【0012】
また本発明は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
(A)上述の化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率で冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程
(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.30mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程
(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に下記式(3)を満足する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
900≦A≦1200 (3)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)を示す。)
【0013】
上記仕上焼鈍工程における仕上焼鈍はさらに下記式(4)を満足することが好ましい。圧延方向の磁気特性をさらに高めることができるからである。
5−A/300≦B≦10−A/300 (4)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)、Bは仕上焼鈍時に負荷する張力(MPa)を示す。)
【0014】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板に、700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する箱焼鈍による、または、900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上300秒間以下保持する連続焼鈍による、熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有していてもよい。磁気特性をさらに高めることができるからである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る無方向性電磁鋼板により、分割鉄心型モータのモータ効率の向上が期待できる。また、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は特殊な設備を要しないため、製造コスト面でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における貫通粒の個数割合と応力Xとの関係を示すグラフである。
【図2】実施例2における{011}<100>方位強度I{011}<100>と応力Xとの関係を示すグラフである。
【図3】実施例3における第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の圧下率と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図4】実施例3における仕上焼鈍温度および仕上焼鈍時の張力と磁気特性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の無方向性電磁鋼板およびその製造方法について詳細に説明する。
【0018】
A.無方向性電磁鋼板
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:3.0%以下、sol.Al:3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、上記式(1)を満足する化学組成を有し、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合が30%以下である鋼組織を有し、ランダム組織の方位強度に対する{011}<100>方位強度I{011}<100>が1.0以上10.0以下である集合組織を有し、板厚が0.10mm以上0.30mm以下であることを特徴とするものである。
【0019】
以下、本発明の無方向性電磁鋼板における各構成について詳細に説明する。
【0020】
(化学組成)
まず、鋼板の化学組成の限定理由について説明する。なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味するものである。
【0021】
Cは、不純物として含有され、磁気特性を劣化させる元素である。このため、C含有量は0.005%以下とする。好ましくは、0.003%以下である。
【0022】
Siは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。したがって、Si含有量は1.5%以上とする。一方、Siを過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、Si含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.5%以下である。
【0023】
Alは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素であるが、過剰に含有させると磁束密度が著しく低下する。このため、sol.Al含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。一方、鉄損低減の観点からは、sol.Al含有量が多いほど良いため、0.3%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.6%以上である。
【0024】
Mnは、鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素であるが、MnはSiやAlに比べて合金コストが高いため、Mn含有量が多くなると経済的に不利となる。このため、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下である。一方、鉄損低減の観点からは、Mn含有量が多いほど良いため、0.05%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.15%以上である。
【0025】
Pは、一般に不純物として含有される元素であるが、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有するので、積極的に含有させてもよい。しかしながら、Pは固溶強化元素でもあるため、P含有量が過剰になると、鋼板が硬質化して冷間圧延が困難になる。このため、P含有量を0.2%以下とする。さらに好ましくは0.15%以下である。上記作用による効果をより確実に得るにはP含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
【0026】
Si、Al、MnおよびPは、鋼板の降伏応力を増加させて突き合わせ部の歪みを抑制する作用を有する。したがって下記式(1)を満足するようにする。下記式(1)の右辺は2.9であることが好ましく、3.3であることがさらに好ましい。
Si+0.5×sol.Al+0.3×Mn+10×P≧2.5 (1)
(ここで、Si、sol.Al、MnおよびPは、各元素の含有量(質量%)を示す。)
【0027】
Sは、不純物として含有され、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。このため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
【0028】
Nは、不純物として含有され、Alと結合して微細なAlNを形成し、焼鈍時の結晶粒の成長を阻害し、磁気特性を劣化させる。このため、N含有量を0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
【0029】
SnおよびSbは、無方向性電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有する。したがって、SnおよびSbの1種または2種を含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して経済的に不利となる。したがって、SnおよびSbの含有量をいずれも0.1%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、SnおよびSbのいずれかを0.01%以上含有させることが好ましい。
【0030】
Caは、介在物制御に有効な元素であり、適度に含有させると結晶粒成長性が向上する。したがって、Caを含有させてもよい。しかしながら、過剰に含有させても上記作用による効果は飽和してしまい経済的に不利となる。したがって、Ca含有量は0.01%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ca含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
【0031】
(板厚)
エアコンや冷蔵庫などのコンプレッサーモータ、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動モータおよび発電機は高速回転域で使用されるため、鉄心材料である無方向性電磁鋼板は高周波域での鉄損が低いものが望ましい。高周波条件下での鉄損低減には板厚が薄い方が好ましい。したがって、板厚は0.30mm以下とする。一方、過度の薄肉化は鋼板やモータの生産性を著しく低下させる。したがって、板厚は0.10mm以上とする。好ましくは0.15mm以上である。
【0032】
(鋼組織)
本発明の無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が40μm以上180μm以下、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合が30%以下である鋼組織を有する。
【0033】
結晶粒径は大きくし過ぎても、小さくし過ぎても鉄損が劣化する。したがって、平均結晶粒径は40μm以上180μm以下とする。
なお、平均結晶粒径は、縦断面組織写真において、板厚方向および圧延方向について切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いればよい。この縦断面組織写真としては光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば50倍の倍率で撮影した写真を用いればよい。
【0034】
また、焼き嵌めによる突き合わせ部の歪みを抑制するためには、鋼板から鉄心を打抜く際に生じる打抜き端面のダレを低減することが重要となる。そして、打抜き端面のダレは板厚方向に貫通した結晶粒を打抜き加工した際に生じやすい。このため、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合を30%以下とする。好ましくは25%以下である。
なお、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合は、例えば、通常の光学顕微鏡観察によって任意の100個の結晶粒の内、貫通している結晶粒の個数を数えることで求めることができる。
【0035】
(集合組織)
本発明の無方向性電磁鋼板は、ランダム組織の方位強度に対する{011}<100>方位強度I{011}<100>が1.0以上10.0以下である集合組織を有する。
【0036】
{011}<100>方位の集積度を高めることで、打抜き加工によるダレを抑制することができる。さらに、分割鉄心用の無方向性電磁鋼板において重視される圧延方向(以下、「L方向」ともいう。)の磁気特性を向上させることができる。したがって、I{011}<100>は1.0以上とする。好ましくは1.5以上である。
打抜き加工によってダレを抑制できる理由は明らかではないが、以下の原理によると考えられる。すなわち、多極モータのモータ効率は固定子(ステータ)のティース部の磁気特性の影響を大きく受けることが知られているため、分割鉄心の場合、ティース部の方向を電磁鋼板の磁気特性が良好な方向である圧延方向(L方向)に一致させて板取りされることが一般的である。したがって、焼き嵌めによる突き合わせ部の歪みは、L方向と平行な打抜き端面で問題となる。{011}<100>方位の結晶粒を打抜き加工する場合、問題となる端面であるL方向と平行な打抜き端面はFeのすべり面に相当する。したがって、{011}<100>方位の集積度が高いほど、打抜き加工によるダレが生じにくくなったものと考えられる。
【0037】
一方、{011}<100>方位は圧延直角方向(以下、「C方向」ともいう。)の磁気特性には不利な結晶方位である。また、I{011}<100>を非常に高くするには、一方向性電磁鋼板と同様に、2次再結晶が必要となり、著しいコストの増加を招く。したがって、I{011}<100>は10.0以下とする。好ましくは8.0以下、さらに好ましくは6.0以下である。
なお、I{011}<100>はX線回折装置により測定することができる。
【0038】
(磁気特性)
分割鉄心の場合、上述したようにL方向の磁気特性が重視される。したがって、板厚t(mm)と磁束密度1.0Tおよび周波数800Hzで磁化した際の圧延方向(L方向)の鉄損W10/800(W/kg)とが下記式(2)を満足し、磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向(L方向)の磁束密度B50が1.68T以上であることが好ましい。鉄損に関しては下記式(2a)を満足することがさらに好ましく、磁束密度に関してはB50が1.69T以上であることがさらに好ましい。
10/800≦80×t+16 (2)
10/800≦80×t+14 (2a)
【0039】
(製造方法)
本発明の無方向性電磁鋼板は、後述する無方向性電磁鋼板の製造方法により製造することが好適である。
【0040】
B.無方向性電磁鋼板の製造方法
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする。
(A)上述の化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率で冷間圧延を施す第1冷間圧延工程
(B)上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程
(C)上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.30mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程
(D)上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に上記式(3)を満足する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程
【0041】
以下、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法における各工程について説明する。
【0042】
(第1冷間圧延工程)
第1冷間圧延工程においては、上述の化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率で冷間圧延を施す。
第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚が厚いほど良好な磁気特性が得られる。したがって、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚は1.8mm以上とする。好ましくは2.0mm以上、さらに好ましくは2.2mm以上である。一方、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚が過度に厚くなると冷間圧延の負荷が過大となり冷間圧延が困難となる場合がある。したがって、第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板の板厚は3.5mm以下とする。好ましくは3.3mm以下である。
第1冷間圧延工程における圧下率が10%未満または75%超では、目的とする磁気特性を得ることができない場合がある。したがって、第1冷間圧延工程における圧下率は10%以上75%以下とする。さらに好ましくは15%以上75%以下である。
【0043】
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、熱延鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
熱延鋼板は、通常、熱間圧延の際に鋼板表面に生成したスケールを酸洗により除去してから冷間圧延に供される。後述するように熱延鋼板に熱延板焼鈍を施す場合には、熱延板焼鈍前あるいは熱延板焼鈍後のいずれかにおいて酸洗すればよい。
【0044】
(中間焼鈍工程)
中間焼鈍工程においては、上記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す。
中間焼鈍工程における焼鈍温度(以下、「中間焼鈍温度」ともいう。)が700℃未満であったり、700℃以上の温度域に保持する時間が3時間未満であったりすると、中間焼鈍後の結晶粒が粗大化されないために、目的とする磁気特性を得ることができない場合がある。一方、中間焼鈍温度を900℃超とするには特殊な設備が必要となりコストの増加を招く。また、700℃以上の温度域に保持する時間を40時間超としても効果が飽和してしまうので、コスト的に不利となる。したがって、中間焼鈍は700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持するものとする。中間焼鈍温度は730℃以上870℃以下とすることが好ましい。保持時間は5時間以上35時間以下とすることが好ましい。
中間焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0045】
(第2冷間圧延工程)
第2冷間圧延工程においては、上記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.30mm以下の板厚とする。
第2冷間圧延工程における圧下率が50%未満または85%超であると、目的とする磁気特性を得ることができない場合がある。したがって、第2冷間圧延工程における圧下率は50%以上85%以下とする。下限については、54%以上が好ましい。さらに好ましくは58%以上である。上限については80%以下が好ましい。
また、上述の「A.無方向性電磁鋼板」の項に記載した理由により、第2冷間圧延後の板厚は0.10mm以上0.30mm以下とする。
冷間圧延時の鋼板温度、圧延ロール径など、冷間圧延の他の条件は特に限定されるものではなく、鋼板の化学組成、目的とする鋼板の板厚などにより適宜選択するものとする。
【0046】
(仕上焼鈍工程)
仕上焼鈍工程においては、上記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に下記式(3)を満足する仕上焼鈍を施す。
900≦A≦1200 (3)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)を示す。)
【0047】
仕上焼鈍における焼鈍温度(以下、「仕上焼鈍温度」ともいう。)が900℃未満では、粒成長不足により平均結晶粒径が40μm未満となって十分な磁気特性が得られない場合がある。一方、仕上焼鈍温度が1200℃超では、粒成長が過度に進行してしまい平均結晶粒径が180μm超となって十分な磁気特性が得られない場合がある。さらに、このような高温焼鈍には特殊な設備が必要になる場合があるためにコスト増加を招く恐れがある。したがって、仕上焼鈍温度は900℃以上1200℃以下とする。
【0048】
仕上焼鈍はさらに下記式(4)を満足することが好ましい。圧延方向の磁気特性をさらに高めることができるからである。
5−A/300≦B≦10−A/300 (4)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)、Bは仕上焼鈍時に負荷する張力(MPa)を示す。)
仕上焼鈍時の張力に関して、式(4)で規定する下限よりも高い張力で焼鈍するとL方向の鉄損が低減され、一層良好な磁気特性を得ることが可能となる。一方、上限よりも低い張力で焼鈍すると、鋼板について良好な平坦を確保し、焼鈍時の破断をより確実に防止することができる。したがって、仕上焼鈍時の張力は式(4)で規定した値とすることが好ましい。中でも下記式(4a)を満足することがさらに好ましい。
6−A/300≦B≦10−A/300 (4a)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)、Bは仕上焼鈍時に負荷する張力(MPa)を示す。)
【0049】
仕上焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0050】
(熱延板焼鈍工程)
上記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板には、熱延板焼鈍を施してもよい。熱延板焼鈍を施すことにより、一層良好な磁気特性が得られる。
熱延板焼鈍は箱焼鈍および連続焼鈍のいずれによって行ってもよい。箱焼鈍により行う場合には、700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持することが好ましい。連続焼鈍により行う場合には、900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上300秒間以下保持することが好ましい。
熱延板焼鈍の他の条件は特に限定されるものではない。
【0051】
(熱間圧延工程)
上記冷間圧延工程に供する熱延鋼板は、上述の化学組成を有する鋼塊または鋼片(以下、「スラブ」ともいう。)に熱間圧延を施すことにより得ることができる。
熱間圧延においては、上述の化学組成を有する鋼を、連続鋳造法あるいは鋼塊を分塊圧延する方法など一般的な方法によりスラブとし、加熱炉に装入して熱間圧延を施す。この際、スラブ温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を行ってもよい。
熱間圧延での諸条件は特に規定しないが、仕上温度700℃以上、巻取温度300℃以上とするのが好ましい。
【0052】
(その他の工程)
歪取焼鈍によって打抜き歪みが除去されることから、鉄心加工後に歪取焼鈍を施してもよい。一方、モータの生産コストの観点からは施さない方がよい。
【0053】
また、上記仕上焼鈍工程後に、一般的な方法に従って、有機成分のみ、無機成分のみ、あるいは有機無機複合物からなる絶縁被膜を鋼板表面に塗布するコーティングを施してもよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁被膜を塗布するものであっても構わない。また、コーティングは、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施すものであってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
【0054】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
焼き嵌めによる突き合わせ部の歪み易さを定量的に評価するため、以下の実験を行った。
下記表1に示す化学組成を有する鋼片を板厚2.2mmまで熱間圧延し、酸洗を施した。この酸洗板を板厚0.7mmまで冷間圧延し(圧下率68.2%)、この冷延鋼板に800℃で10時間保持する、箱型の中間焼鈍を施した。この中間焼鈍板を板厚0.20mmまで冷間圧延した(圧下率71.4%)。この冷延鋼板に3MPaの張力を負荷しながら、1050℃以上1180℃以下で20秒以下保持する種々の条件の仕上焼鈍を施して、平均結晶粒径81μm〜168μmの無方向性電磁鋼板とした。なお、この無方向性電磁鋼板のI{011}<100>はおよそ4.0に揃っていた。
【0056】
この無方向性電磁鋼板を長さが3cmの端面がL方向と平行になるよう3×10cmのサイズに打抜き加工し、これを10枚積み重ねてカシメを施した試料を2セット作製した。この積層試験片の長さが3cmの端面を突き合わせて、両端から圧縮応力を負荷した。圧縮応力を増加させていくと、ある応力において突き合わせ部が大きく歪み、その際に圧縮応力が急激に減少した。この急激に減少する直前の圧縮応力を測定して応力Xとした。この応力Xを各試料のL方向断面の組織観察より測定した板厚方向に貫通している結晶粒の個数の割合で整理した。その結果を表2、図1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
鋼板No.1、2、5、6は貫通粒の割合およびSi+0.5×sol.Al+0.3×Mn+10×Pの値が所定の範囲内であるため、焼き嵌めによる圧縮応力によって突き合わせ部が歪みにくかった。
一方、鋼板No.3、4、7、8は貫通粒の割合が多かったために、焼き嵌めによる圧縮応力によって突き合わせ部が歪みやすかった。また、鋼板No.9〜11は、Si+0.5×sol.Al+0.3×Mn+10×Pの値が所定の範囲外であるため、貫通粒の割合が少なくても、焼き嵌めによる圧縮応力によって突き合わせ部が歪みやすかった。
【0060】
[実施例2]
上記表1に示す鋼Aを板厚2.2mmまで熱間圧延した後、酸洗を施した。得られた酸洗板について、一部は箱焼鈍または連続焼鈍による熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延で仕上板厚0.25mmとし、残りは熱延板焼鈍を施さずに、800℃で10時間保持する中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延により仕上板厚0.25mmとした。これらの冷延鋼板に3MPaの張力を負荷しながら1100℃で10秒間保持する仕上焼鈍を施して、平均結晶粒径96μm〜113μmの無方向性電磁鋼板とした。なお、この無方向性電磁鋼板の貫通粒の個数割合は5%〜10%であった。
この無方向性電磁鋼板を用いて実施例1と同様の手法で応力Xを測定し、I{011}<100>で整理した。表3、図2にその結果を示す。
【0061】
【表3】

【0062】
鋼板No.12〜14はI{011}<100>が高く、焼き嵌めによる圧縮応力によって突き合わせ部が歪みにくかった。一方、鋼板No.15、16はI{011}<100>が低いために、焼き嵌めによる圧縮応力によって突き合わせ部が歪みやすかった。
【0063】
[実施例3]
下記表4に示す化学組成を有するスラブを仕上温度800℃、巻取り温度500℃で熱間圧延を施して板厚1.6mm〜3.0mmの熱延鋼板とし、酸洗を施した。これらの酸洗鋼板について、一部を除いて熱延板焼鈍を施さずに中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって仕上板厚0.20mm〜0.30mmの冷延鋼板とした。一部は、箱焼鈍または連続焼鈍による熱延板焼鈍を施して、この内の一部は種々の条件での中間焼鈍を挟む第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程によって仕上板厚の冷延鋼板とし、残りは1回の冷間圧延工程にて仕上板厚の冷延鋼板とした。これらの冷延鋼板に850℃以上1180℃以下の温度で10秒間保持する仕上焼鈍を施して、平均結晶粒径31μm〜151μmの無方向性電磁鋼板とした。なお、これらの無方向性電磁鋼板における貫通粒の個数割合は0〜21%であった。
【0064】
これらの無方向性電磁鋼板について、磁束密度1.0T、周波数800Hzで磁化した際のL方向の鉄損W10/800、磁化力5000A/mで磁化した際のL方向の磁束密度B50、およびX線回折装置によりランダム方位強度に対する{011}<100>方位強度I{011}<100>を測定した。表5にその結果を示す。また、図3に鋼板No.17〜26、34〜37の第1冷間圧延工程および第2冷間圧延工程の圧下率と磁気特性との関係、図4に鋼板No.17〜30、39〜40の仕上焼鈍温度および仕上焼鈍時の張力と磁気特性との関係を示す。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
鋼板No.17〜30および39〜40は、熱延鋼板の板厚、2回の冷間圧延の圧下率、中間焼鈍条件、仕上焼鈍条件、平均結晶粒径が所定の範囲内であるため、所望の磁気特性が得られた。また、鋼板No.22、39、40に示すように、仕上焼鈍時の張力を好適範囲とすることにより鉄損が低下して磁気特性が良好になる傾向があった。また、鋼板No.17、27、28に示すように、熱延鋼板の板厚が厚いほど磁気特性が良好になる傾向があった。さらに、鋼板No.29、30示すように、熱延板焼鈍を施しても所望の磁気特性を得ることができ、箱焼鈍による熱延板焼鈍を施した鋼板No.29の方が、連続焼鈍による熱延板焼鈍を施した鋼板No.30よりも磁気特性が良好であった。
一方、鋼板No.31は中間焼鈍が連続焼鈍であるため、所望の集合組織を得ることができなかった。また、鋼板No.32、33は2回冷延法ではないため、鋼板No.34、35は第1冷間圧延工程の圧下率、鋼板No.36、37は第2冷間圧延工程の圧下率が所定の範囲外であるため、鋼板No.38は熱延鋼板の板厚が薄いため、所望の集合組織を得ることができなかった。また、鋼板No.41は仕上焼鈍温度が低いため、所望の平均結晶粒径を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005%以下、Si:1.5%以上4.0%以下、Mn:3.0%以下、sol.Al:3.0%以下、P:0.2%以下、S:0.01%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなるとともに、下記式(1)を満足する化学組成を有し、
平均結晶粒径が40μm以上180μm以下、板厚方向に貫通した結晶粒の個数割合が30%以下である鋼組織を有し、
ランダム組織の方位強度に対する{011}<100>方位強度I{011}<100>が1.0以上10.0以下である集合組織を有し、
板厚が0.10mm以上0.30mm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
Si+0.5×sol.Al+0.3×Mn+10×P≧2.5 (1)
(ここで、Si、sol.Al、MnおよびPは、各元素の含有量(質量%)を示す。)
【請求項2】
板厚t(mm)と磁束密度1.0Tおよび周波数800Hzで磁化した際の圧延方向の鉄損W10/800(W/kg)とが下記式(2)を満足し、磁化力5000A/mで磁化した際の圧延方向の磁束密度B50が1.68T以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
10/800≦80×t+16 (2)
【請求項3】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Sn:0.1質量%以下およびSb:0.1質量%以下からなる群から選択される1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Ca:0.01質量%以下を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法:
(A)請求項1から請求項4までのいずれかに記載された化学組成を有する板厚1.8mm以上3.5mm以下の熱延鋼板に10%以上75%以下の圧下率で冷間圧延を施す第1冷間圧延工程;
(B)前記第1冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する中間焼鈍を施す中間焼鈍工程;
(C)前記中間焼鈍工程により得られた中間焼鈍鋼板に50%以上85%以下の圧下率の冷間圧延を施して0.10mm以上0.30mm以下の板厚とする第2冷間圧延工程;および
(D)前記第2冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に下記式(3)を満足する仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程。
900≦A≦1200 (3)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)を示す。)
【請求項6】
前記仕上焼鈍工程において、さらに下記式(4)を満足する仕上焼鈍を施すことを特徴とする請求項5に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
5−A/300≦B≦10−A/300 (4)
(ここで、Aは仕上焼鈍温度(℃)、Bは仕上焼鈍時に負荷する張力(MPa)を示す。)
【請求項7】
前記第1冷間圧延工程に供する熱延鋼板に、700℃以上900℃以下の温度域に3時間以上40時間以下保持する箱焼鈍による、または、900℃以上1150℃以下の温度域に1秒間以上300秒間以下保持する連続焼鈍による、熱延板焼鈍を施す熱延板焼鈍工程を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36474(P2012−36474A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179461(P2010−179461)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】