説明

無機ナノ粒子の分離精製方法

【課題】限外濾過膜を用いて、無機ナノ粒子溶液をクロスフロー濾過することにより、無機ナノ粒子を高精度で分級する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置を提供すること。
【解決手段】分画粒子径が、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.5倍以上2倍以下である限外濾過膜を用いて、粒子径比が1.5以上10以下であり、その粒子径が1nm以上500nm以下である標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子無機ナノ粒子を含有する溶液をクロスフロー濾過することにより、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を分離する方法および限外濾過膜モジュール、装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な限外濾過膜を用いて、無機ナノ粒子溶液をクロスフロー濾過することにより、無機ナノ粒子を高精度で分離精製する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ナノ粒子は、産業的に大きな注目を集め、具体化されてきている(非特許文献1)。無機ナノ粒子が非常に興味を持たれる主な理由は、単に物質が小さくなっただけでなく、電子状態、格子振動、磁性、光、比熱などやそれらに関連した性質が、ある限界以下の粒子径でバルク材料とは全く異なる性質を示すからである。
【0003】
無機ナノ粒子の利用形態は、2つに大別できる。第一は、粉体のまま、あるいは他の媒体中に分散させて利用する場合であり、磁気テープ/磁性流体、触媒/触媒担体、研磨剤、ペースト、顔料などがある。第二の利用は、焼結体の原料としての利用が挙げられる。ナノ粒子になると、極めて低い温度で焼結することが可能となる。焼結温度が著しく低下することは材料の製造プロセスが著しく低廉化するのみならず、得られる焼結体の結晶粒度を微細に保つことが可能となり、材料の機械的強度や諸特性を大幅に向上させることができる。
いずれの利用に際しても、目的に応じた粒子径に制御することが重要な課題となっている。また、その粒子径分布が、得られる材料の性能や物性に大きく影響することが知られており、粒子径分布の狭いナノ粒子を得ることも同時に重要な課題である。
【0004】
粒子径および粒子径分布の制御を粒子の製造工程で計ることができれば、最善である。ナノ粒子の製造方法には、ブレイクダウン法とビルドアップ法がある。ブレイクダウン法は、粗粒子からナノ粒子を得る方法で、主に粉砕機によって製造される。ビルドアップ法は、気相法に属する蒸発・凝集法と気相反応法、液相法に属する沈殿法と金属塩溶液を噴霧蒸発する溶媒蒸発法などが挙げられる。化学反応によって生成される粒子であれば、反応時間、温度、攪拌速度、触媒、分離方法などによって制御される。晶析により製造される粒子は、過飽和度、晶析時間、攪拌速度、イオン、種結晶、分離方法、乾燥方法が粒子径均一化の制御因子となる。しかしながら、現状、ブレイクダウン法およびビルドアップ法のいずれの場合においても製造時に粒子径および粒子径分布を制御することは極めて困難となっている。
【0005】
通常、粒子径の均一化をはかる方法として、分級法が用いられる。現在、様々な分級機を用いた分級法が提案されている。分級機としては、重力分級機、慣性分級機、遠心分級機などが挙げられる。しかし、市販されている多くの製品は、ミクロンサイズの粒子の分級は可能であるが、ナノサイズの粒子の分級には適応していない。しかも、市販されている分級機は、非常に大型であり、大規模な設備投資が必要である。
【0006】
簡便な分級法として利用されてきたのが、ふるい分け法である。これは、網目を通過するか否かという粒子サイズに基づく単純な原理に従い、複雑な物理的要因が入らない分級方法であり、幅広く利用されてきた。この方法は、国際規格ISO3360−1に基づいた日本工業規格JISZ8801−1で定められている。しかし、日本工業規格JISの最小網ふるいの目開きは32μmとなっており、ナノ粒子の分級には適していない。
【0007】
このふるい分け法の原理と近い分級法として、膜濾過による分離精製法が考えられる。しかし、ナノ粒子製造工程において、膜濾過法が利用される場合は、極めて巨大な粒子の除去方法として、デプス型フィルター(濾過材を通過する流体中から異物を捕集するためのフィルター)を用いたデッドエンド濾過が主流であり(特許文献1、非特許文献2)、粒子径が近いナノ粒子の分離精製として膜濾過法が利用されることはなかった。
また、無機ナノ粒子を対象とした濾過は、蛋白質や高分子ラテックスなどのソフトな粒子の場合と挙動が全く異なり、閉塞し易さや限外濾過膜の選択において様々な問題があった。
【特許文献1】特開平11−57454号公報
【非特許文献1】微粒子工学大系全二巻、第一巻、基本技術、柳田博明監修、株式会 社フジ・テクノシステム発行、2001年。
【非特許文献2】化学工学会 第39回秋季大会、2007年、札幌、日本ポール、 渡辺史武、廣瀬聡、塚崎和生、角屋正人、沼口徹、講演番号A209。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、適切な限外濾過膜を用いて、無機ナノ粒子溶液をクロスフロー濾過することにより、無機ナノ粒子を高精度で分離精製する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分離対象に合わせた孔径を有する限外濾過膜を用いて、適切な濾過方法を選択することにより、極めて粒子径の近い無機ナノ粒子の分離精製が可能であることを見出した。
すなわち、分画粒子径が、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.5倍以上2倍以下である限外濾過膜を用いて、粒子径比が1.5以上10以下であり、その粒子径が1nm以上500nm以下である標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液をクロスフロー濾過することにより、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を分離する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置を発明するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
[1]分画粒子径が、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.5倍以上2倍以下である限外濾過膜を用いて、粒子径比が1.5以上10以下であり、その粒子径が1nm以上500nm以下である標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液をクロスフロー濾過することにより、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を分離することを特徴とする分離精製方法。
[2]該限外濾過膜の分画粒子径が、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.6倍以上1.2倍以下であることを特徴とする上記[1]記載の方法。
[3]該標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液の無機ナノ粒子の濃度が、1〜150g/Lであることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の方法。
[4]該標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液の無機ナノ粒子の濃度を100としたとき、クロスフロー濾過中の無機ナノ粒子の濃度変化を50〜200に維持しながら、クロスフロー濾過を行うことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]該標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の少なくともどちらか一方が、シリカであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]該限外濾過膜が、ポリスルホン系高分子、芳香族エーテル系高分子、(メタ)アクリル系高分子、(メタ)アクリロニトリル系高分子、フッ素系高分子、オレフィン系高分子、ビニルアルコール系高分子、セルロース系高分子からなる群から選ばれる1種以上の高分子からなることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]該高分子が、ポリスルホン系高分子であることを特徴とする上記[6]に記載の方法。
[8]該ポリスルホン系高分子が下記式(4)〜(6)で表されるポリスルホン系高分子の少なくとも1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする上記[7]に記載の方法。
[化4]

[化5]

[化6]


[9]該限外濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う上記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
(イ)無機ナノ粒子元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)無機ナノ粒子元液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)無機ナノ粒子元液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
[11]上記[1]〜[10]のいずれかに記載の方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)無機ナノ粒子元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)無機ナノ粒子元液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)無機ナノ粒子元液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
【発明の効果】
【0011】
本発明の分離精製方法を実施することにより、粒子径比が1.5以上10以下であり、その粒子径が1nm以上500nm以下である標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液をクロスフロー濾過することにより、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を分離することが可能になる。
すなわち、本発明は、特定の分画粒子径を有する限外濾過膜を用いてクロスフロー濾過するだけであるので、専用の大型分級機の設備導入も必要ない。また、公知のデプス型フィルターを用いたデッドエンド濾過による膜分離のような非常に巨大な粒子の除去だけでなく、粒子径の近い無機ナノ粒子の精密な分離精製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係わる限外濾過膜による無機ナノ粒子を高精度で分離する方法およびその限外濾過膜モジュール、クロスフロー濾過装置について具体的に説明する。
【0013】
本発明に係わる無機ナノ粒子は、金属および/または金属化合物からなるナノ粒子を示す。例えば、金属(例えば、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、Si、Se、Al、Ti、Zr、W、Mo、Cr、Znおよびこれら2種以上からなる複合金属など)、金属酸化物(例えば、Fe、AgO、TiO、SiOなど)、金属窒化物(例えば、AlN、GaN、Siなど)、金属硫化物(例えば、CdS、CdS、HgS、PbS、CuS、Inなど)、金属炭化物、金属ホウ化物、金属ケイ酸塩、金属炭酸塩、粘土、シリカ(コロイド、ヒュームド、非晶質)、シリカゾル、ゼオライト、フラーレン、カーボンナノチューブおよびこれらの複合体群から選択されるナノ粒子が挙げられる。また、無機ナノ粒子を基材として有機化合物で表面修飾したナノ粒子も含有する。本発明に係わる標的無機ナノ粒子とは、分離し得ようとする無機ナノ粒子のことで、これ以外の無機ナノ粒子は不純物無機ナノ粒子といい、分離し得ようとする無機ナノ粒子の凝集体も含む。また、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の材質は同じであっても異なっていても良い。
【0014】
本発明に係わる無機ナノ粒子の粒子径は1nm以上500nm以下である。より好ましくは、1nm以上200nm以下である。特に、独立分散している粒子径1nm以上500nm以下の無機ナノ粒子を使用することが好ましい。「独立分散している」とは、溶液中で粒子が凝集体を形成することなく単独で分散している状態のことを意味する。凝集体を形成し、単一粒子にならない場合もしくはなりにくい場合においては、凝集体を単一粒子同等とみなして扱うことも可能である。ただし、その場合の粒子径は、凝集体全体としての粒子径を意味する。
【0015】
本発明に係わる無機ナノ粒子の粒子径を測定する方法としては、動的光散乱測定、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による観測、などの結果より算出する方法が挙げられるが、算出することができれば、これらに限定するものではない。
【0016】
本発明に係わる標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径比は、1.5以上10以下であり、より好ましくは、2以上8以下であり、これらの粒子径比であれば標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の分離精製に適合できる。粒子径比の算出は、粒子径の大きな無機ナノ粒子の粒子径を粒子径の小さな無機ナノ粒子の粒子径を除した値を示す。この際に、標的無機ナノ粒子は、不純物無機ナノ粒子より粒子径が大きくても小さくても構わない。すなわち、標的無機ナノ粒子が粒子径の大きな無機ナノ粒子であっても粒子径が小さな無機ナノ粒子であっても構わない。
【0017】
一般に、濾過方法としてクロスフロー濾過とデッドエンド濾過が汎用濾過法として実施されている。クロスフロー濾過とは、無機ナノ粒子などの微粒子が含まれる被処理液を膜に供給しつつ濾過して、異径の微粒子を分離するものである。膜面に堆積する微粒子(ケーク層)を微粒子溶液の平行流による剪断力にて掻き取りながら、安定したケーク層の状態を長期にわたって維持することで、分画性能を維持しようとするものである。一方、デッドエンド濾過は、膜面に対して垂直に微粒子を流すため、膜表面に微粒子が蓄積し、濾過時間と共に透過抵抗が次第に増加し、透過微粒子濃度が変化してしまう。垂直濾過やノーマル濾過とも呼称される。
【0018】
本発明に係わるクロスフロー濾過(十字流濾過や平行濾過、タンジェンシャルフロー濾過とも呼称される)とは、膜面に対して平行に無機ナノ粒子溶液を流し、せん断力により膜表面に堆積する物を押し流すことで、動的平衡が成立した一定のケーク層の状態を形成し、分画性能を維持したまま連続運転を可能にする濾過方式である。
【0019】
本発明に係わる線速とは、膜面に対して平行流れる溶液の速度である。線速は、分離性能を発現させることができれば特に限定されるものではないが、例えば、下限としては0.1cm/秒以上、好ましくは1cm/秒以上、より好ましくは10cm/秒以上が良く、上限としては200cm/秒以下、より好ましくは100cm/秒以下が良い。200cm/秒超えると、無機ナノ粒子へのストレスがかかり、凝集や変性が起こりやすくなり、逆に、0.1cm/秒未満では、処理量が小さくなり、その結果、コストが高くなるなどの問題がある。
【0020】
本発明に係わる濾過圧力としては、下限として0.001MPa以上、好ましくは0.005MPa以上であり、上限としては0.30MPa以下、好ましくは0.20MPa以下が良い。0.001MPa未満では、処理量が低くなるため生産性が悪くなり、一方0.30MPa超えると急激なケーク層形成が引き起こされ、膜閉塞が起こる問題がある。
【0021】
本発明に係わる無機ナノ粒子は、クロスフロー濾過を実施するために適切な溶媒で分散されていることが好ましい。本発明に係わる無機ナノ粒子を分散させる溶媒としては、無機ナノ粒子の凝集、変性、溶解等が起こらず、該限外濾過膜の使用ができれば、特に限定しない。一般的には、純水、アルコール系溶媒が用いられる。また、水溶液を用いる場合、無機ナノ粒子の凝集、変性、溶解等が起こらなければ、pHや分散性を調整するために、緩衝剤や界面活性剤、糖類、無機塩等を用いても構わない。
【0022】
本発明に係わる緩衝剤としては、例えば、リン酸カルシウム・生理食塩水(PBS)やN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、3−[(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸](AMPSO)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPSO)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)等のグッド緩衝剤、酢酸塩、グリシン、クエン酸塩、リン酸塩、ベロナール、ホウ酸塩、コハク酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、イミダゾール等の緩衝液等が挙げられる。
【0023】
本発明に係わる緩衝剤の濃度は、無機ナノ粒子の変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、下限として、1mM以上、好ましくは10mM以上、より好ましくは50mM以上が良く、上限としては、1M以下、好ましくは500mM以下、より好ましくは200mM以下が良い。
本発明に係わる緩衝剤のpHは、無機ナノ粒子の変性や凝集を起こすことがなければ何ら限定はしないが、例えば、下限として、pH3以上、好ましくはpH4以上、より好ましくはpH5以上が良く、上限としては、pH10以下、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH8以下が良い。
【0024】
本発明に係わる界面活性剤としては、無機ナノ粒子の変性や凝集を起こさず、分画性能に影響しなければ何ら限定されないが、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0025】
本発明に係わる両イオン性界面活性剤としては、例えば、アミノ酸、アミノ酸誘導体、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。この中でも、特に、アミノ酸および/またはアミノ酸誘導体が良い。アミノ酸は無機ナノ粒子の変性や凝集を起こさず、分画性能に影響しなければ特に種類は限定しないが、例えば、リシン、アルギニン、アラニン、システイン、グリシン、セリン、プロリンなどが挙げられる。また、他の界面活性剤との併用も可能である。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。
本発明に関わるアミノ酸誘導体は、アミノ酸を化学修飾した物質であり、アセチル化アミノ酸、アシル化アミノ酸等がある。該アミノ酸および/または該アミノ酸誘導体は酸付加塩の形態で使用することもできる。酸付加塩を形成し得る酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。また、他の界面活性剤との併用も可能である。
【0026】
本発明に係わる非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。この中でも、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系高分子および/その誘導体が良い。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、無機ナノ粒子の変性や凝集を起こさず、分画性能に影響しなければ、特に種類は限定しないが、例えば、ポリエチレングリコールおよび/またはポリエチレングリコール誘導体が挙げられ、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、また、ポリエチレングリコールを親水性セグメントとして含有する界面活性剤やブロック共重合体およびグラフト共重合体も利用できる。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。また、他の界面活性剤との併用も可能である。これらを2種以上組み合わせて使用することも可能である。
【0027】
本発明に係わるカチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0028】
本発明に係わるアニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0029】
本発明に係わる界面活性剤の分子量の下限値としては30Da以上、さらに好ましくは、50Da以上であり、上限値としては、50,000Da以下、さらに好ましくは、30,000Da以下である。30Da未満では、分散安定性の効果が得られず、逆に、50,000Daを超えると界面活性剤や、無機ナノ粒子と界面活性剤の複合体が膜への詰まりやファウリングの原因となる場合がある。本発明に係わる界面活性剤の濃度としては、種類にも依存するが、下限値としては、0.1g/L以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5g/L以上であり、上限値としては、200g/L以下が好ましく、さらに好ましくは、150g/L以下である。この範囲内であれば、分散安定性を向上もしくは保持できる。
【0030】
本発明に係わる糖類としては、無機ナノ粒子の変性や凝集を起こさず、分画性能に影響しなければ特に種類は限定しないが、具体的な糖類の例としては、グルコース、ソルビトール、ショ糖が挙げられる。その濃度としては、種類にも依存するが、下限値としては、0.1g/L以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5g/L以上であり、上限値としては、200g/L以下が好ましく、さらに好ましくは、150g/L以下である。この範囲内であれば、分散安定性を向上もしくは保持できる。
【0031】
本発明に係わる無機塩としては、塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。その濃度としては、例えば、下限値としては、1mM以上が好ましく、より好ましくは10mM以上、最も好ましくは50mM以上が良い。上限値としては、1M以下が好ましく、より好ましくは500mM以下、最も好ましくは200mM以下が良い。
【0032】
本発明に係わる無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の下限濃度は、他の条件によって異なるが、1g/L以上、好ましくは5g/L以上であれば、処理速度が十分に得られる。また、無機ナノ粒子の上限濃度は、他の条件によって異なるが、150g/L以下、好ましくは100g/L以下、さらに好ましくは50g/L以下であれば急激な膜閉塞を引き起こさないで、無機ナノ粒子を透過させることができる。
【0033】
濾過中の無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度変化は、透過性能を維持させるために条件を変動させないで濾過することが好ましい。例えば、無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度が徐々に高くなる場合、濾過閉塞が起こり、十分な透過量が得られなくなる場合がある。
一方、透過量と同量の希釈液を添加する定容量クロスフロー濾過では、濾過が進むにつれて無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度が低下する。この場合、濾過後半に透過する無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度が低下し、その結果、高収率で回収するためには長大な時間が必要となる。従って、短時間で高い分画性能と透過性能を達成するためには、無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度を一定にして濾過(定濃度濾過)することが好ましい。
【0034】
濾過中の無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度変化は、濾過前の無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度を100とした時、下限としては50以上、好ましくは70以上、より好ましくは80以上が良く、上限としては200以下、好ましくは150以下、より好ましくは120以下が良い。特に、無機ナノ粒子溶液中の無機ナノ粒子の濃度を実質一定に維持しながらクロスフロー濾過することが最も好ましい。ここで示す「濃度を実質一定に維持しながら」とは、「濃度を軽微な変動にとどめながら」と同意である。例えば、操作や装置で濃度をコントロール時に起こる軽微な濃度変動などが含まれる。
しかしながら、濾過後半で、無機ナノ粒子溶液の残量が少なくなり、濾過が困難になった場合、膜中や装置配管に残存する無機ナノ粒子を回収するために、水や希釈液、緩衝溶液、無機塩溶液を添加し、濾過を実施する場合は、濃度一定で濾過を行う必要はない。
【0035】
本発明に係わる限外濾過膜は、無機ナノ粒子を分離精製するために使用する膜のことである。限外濾過膜としては、所望の分画粒子径を有する膜を製造できれば何ら限定しないが、例えば、ポリスルホン系高分子膜、芳香族エーテル系高分子膜、フッ素系高分子膜、オレフィン系高分子膜、セルロース系膜、(メタ)アクリル系高分子膜、(メタ)アクリロニトリル系高分子膜、ビニルアルコール系高分子膜、無機膜などが挙げられる。好ましくは、ポリスルホン系高分子膜が良い。
【0036】
本発明に係わる限外濾過膜の分画粒子径は、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.5倍以上2倍以下、好ましくは0.55倍以上1.5倍以下、さらに好ましくは、0.6倍以上1.2倍以下が良い。0.5倍未満であると透過量が低下する問題があり、また、2倍を超えると標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の分離性能が低下する問題がある。
本発明に係わる限外濾過膜の分画粒子径は、粒子径が既知である数種類の無機ナノ粒子溶液を用いて、実施するクロスフロー濾過条件と同じ条件で、クロスフロー濾過を行い、無機ナノ粒子の粒子径と阻止率の関係から阻止率が50%となる粒子径として算出される。
【0037】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜は特に限定されるものではなく、分子中にスルホン基を有する高分子は全て用いることができる。ポリスルホン系高分子の例としては、例えば下記式(7)で表されるポリスルホン、下記式(8)で表されるポリエーテルスルホン、下記式(9)で表されるポリアリールスルホン等が挙げられる。式中lおよびm、nは繰り返し単位を表す。
[化7]

[化8]

[化9]

これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。ポリスルホン系高分子は、必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、無機ナノ粒子の静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
【0038】
本発明に係るポリスルホン系高分子の重量平均分子量は、下限として5,000以上、好ましくは1万以上、さらに好ましくは2万以上のものを用いることが良く、上限としては100万以下、好ましくは50万以下、さらに好ましくは30万以下のものを用いることが良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0039】
本発明においては、ポリスルホン系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水化によって分離処理に供される無機ナノ粒子溶液と本発明のポリスルホン系高分子からなる限外濾過膜との接触を良好にするものである。
親水性高分子の種類は特に限定されるものではない。例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、ポリスルホン系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0040】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は、下限としては1,000以上、好ましくは5,000以上が良く、上限としては200万以下、好ましくは120万以下が良い。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。本発明においては、K90を単独で用いるのが最も好ましい。
【0041】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜の親水性高分子の含量は、膜に親水性が付与できれば、特に限定されるものではない。例えば、下限として0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上が良く、上限としては10重量%含有以下、好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下が良い。
【0042】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0043】
本発明に係わる高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するポリスルホン系高分子膜を製造できれば何ら限定はしないが、例えば、膜原液全体を100重量%とした場合、ポリスルホン系高分子の濃度範囲としては下限として1重量%以上、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上である。また上限としては45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。親水性高分子は、下限として0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、上限として20重量%以下、好ましくは10重量%以下で、均一に溶解した溶液が好適に使用される。また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
【0044】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは20℃の100g純水に10g以上溶解可能であり、かつ膜材料のポリスルホン系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、更に好ましくは水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは2種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しない。例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸、ポリ−p−スチレンスルホン酸ナトリウム、N,N−ジメチルアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。
【0046】
また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ―ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0047】
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であり、本発明の中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0048】
本発明に係わるポリスルホン系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
【0049】
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明の湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡糸口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡糸口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0050】
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0051】
本発明に係わる湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0052】
湿式成膜法により得られた未乾燥のポリスルホン系高分子膜は、乾燥中の膜破断が生じない温度で乾燥させる。例えば、乾燥温度は、下限としては20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、上限としては溶融温度以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0053】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜は特に限定されるものではなく、芳香族エーテル系高分子の例としては、下記式(10)で表されるものが挙げられる。
[化10]

(R、R、R、R、R、Rは水素、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の非プロトン性有機官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のqは繰り返し単位数である。異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子の末端のフェノール性水酸基は、無機ナノ粒子溶液中で安定して存在可能であるpHを維持するために、必要に応じてエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、無機ナノ粒子の静電気的な特性との相性から、高分子末端にアミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入できる。
【0054】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜は、主として芳香族エーテル系高分子からなるものであるが、芳香族エーテル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。例えば、ポリスチレンやその誘導体を含有しても良い。
【0055】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは2万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは50万以下、特に好ましくは30万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0056】
本発明においては、芳香族エーテル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水化によって分離処理に供される無機ナノ粒子溶液と本発明の芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜との接触を良好にするものである。
本発明に係わる親水性高分子としては、親水性を付与できるものであれば何ら限定しないが。無機ナノ粒子との電気的な相互作用を低減させるために、荷電構造を含まないノニオン性であることが望ましい。
【0057】
本発明に係わる親水性高分子は、親水性を付与できるものであればいかなる高分子化合物であっても構わない。
親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの親水性高分子化合物が例示される。また、これらの物質を親水性セグメントと疎水性セグメント含有する界面活性剤やブロック共重合体およびグラフト共重合体も親水性高分子として十分活用できる。例えば、ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体などが好ましい。
【0058】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、高い親水性を有するポリエチレングリコールを親水性セグメントに有するため、親水性高分子として有効に活用できる。また、これらは二種以上を組み合わせて使用することもできる。この中でも好適に利用できるのは、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールを親水性セグメントとして含有するブロック共重合体およびグラフト共重合体であり、その中も特にポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体が芳香族エーテル系高分子膜の親水性を向上させる親水性高分子として好適に利用できる。
【0059】
本発明に係わる親水性高分子の分子量は、製造方法およびその条件によって適宜選ばれる。例えば、成膜方法が湿式成膜法で溶媒として非ハロゲン系水溶性有機溶媒を用いる場合、耐溶剤性の高い芳香族エーテル系高分子の溶解性は極めて低い。そのため、親水性高分子を膜原液にブレンドする場合、均一に溶解した膜原液を得るためには親水性高分子の分子量および添加量を適切に選択する必要がある。十分な添加量の親水性高分子を用いるためには、親水性高分子の分子量は、例えば、数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
【0060】
本発明に係わる親水性高分子が疎水性セグメントと親水性セグメントからなる化合物の場合、その親水性高分子の親水性セグメントの数平均分子量は、300以上、100,000以下であることが好ましい。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能である。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体は、ポリスチレン系高分子由来のセグメントとポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントから成るブロック共重合体である。
【0061】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントを形成するポリスチレン系高分子としては、下記式(11)に示す繰り返し単位からなるポリスチレン系高分子が好ましい。
[化11]

(R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14は水素、フッ素を除くハロゲン原子、炭素数1以上6以下を含む有機官能基、または、酸素、窒素または珪素を含有する炭素数6以下の官能基であり、それぞれ同一であっても、異なっても構わない。構造式中のsは繰り返し単位数である。構造範囲内で異なる繰り返し単位を2成分以上含む共重合体でも構わない。)
【0062】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、300以上、1,000,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であると同時に、水溶液に対して、溶出性が低減できる。より好ましい下限は、500以上、特に好ましい下限は、700以上であり、上限としてより好ましくは500,000以下、特に好ましい上限は、300,000以下である。
【0063】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを形成するポリエチレングリコール系高分子とは、下記式(12)および/または(13)に示す繰り返し単位からなるポリエチレングリコール系高分子が好ましい。
[化12]

[化13]

(R15は、炭素数3以上、30未満の有機官能基である。特に親水性が大きく低下させることがなければ、R15にエーテル基、エステル基、水酸基、ケトン基、カルボン酸基を含有しても構わない。tおよびuは繰り返し単位数である。)
【0064】
本発明において用いられるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの数平均分子量は、例えば300以上、100,000以下であることが必要である。この領域であれば、成膜に使用する良溶媒に十分溶解可能であると当時に、十分な親水性が得られる。より好ましい下限は、400以上、特に好ましい下限は、500以上であり、上限としてより好ましくは70,000以下、特に好ましくは、50,000以下である。
【0065】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの組成比としては、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントが全ポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の10重量%以上、99重量%以下であることが必要である。この組成比においては、十分な親水性を発現でき、かつ、溶出性が抑えられる。より好ましい下限値は、20重量%以上、特に好ましい下限値は、30重量%以上であり、より好ましい上限値は98重量%以下、特に好ましい上限値は、97重量%以下である。
【0066】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体のブロック構造は、2つの該セグメントから構成されるジブロック共重合体、3つの該セグメントから構成されるトリブロック共重合体、4つ以上の該セグメントから構成されるマルチブロック共重合体であっても構わない。また、これら2種以上のブロック共重合体の混合物であっても構わない。構成される各該セグメントの数平均分子量は同一であっても異なっても構わない。
【0067】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体の該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメント間は、高分子末端部分で直接化学的に結合される必要がある。製造するために、必要であれば、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントを接続するためのスペーサーとして低分子化合物および/または有機官能基を利用してもよい。低分子化合物および/または有機官能基の数平均分子量が500以下の場合、該ポリスチレン系高分子由来のセグメントと該ポリエチレングリコール系高分子由来のセグメントの効果を低下させること無く発現できる。具体的には、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いてスチレンを重合した後にポリエチレングリコールを縮合した際に形成されるポリスチレン−ポリエチレングリコール間の低分子化合物などが挙げられる。
【0068】
本発明に係わるポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を製造する方法の一例としては、反応性官能基を有するラジカル重合開始剤を用いる方法がある。具体的には、カルボン酸基を有するアゾ系ラジカル重合開始剤を用い、カルボン酸基を酸塩化物基に化学的に変換した後、スチレンをラジカル重合することで末端に酸塩化物基を有するポリスチレンが得られる。次いで、ポリエチレングリコールと縮合することによってポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(高分子論文集、1976年、第33巻、P131)。ポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合開始剤を用いて、スチレンをラジカル重合することによってもポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる。また、別の合成方法例として、リビング重合を利用する方法が挙げられる。具体的には、ニトロキシド系化合物によるリビングラジカル重合を用いてスチレンの重合を行い、高分子末端にニトロキシド化合物が結合した高分子を得られる。加水分解により高分子末端をヒドロキシル基に変換し、ポリエチレングリコールとのカップリング反応によりポリスチレン−ポリエチレングリコールブロック共重合体を得ることができる(Polymer、1998年、第39巻、第4号、P911)。
【0069】
本発明における親水性高分子を用いて芳香族エーテル系高分子からなる限外濾過膜を親水化する方法は、例えば、成膜時に親水性高分子をあらかじめ混合するブレンド法、親水性高分子を含む溶液に膜を浸漬した後、乾燥させて親水性高分子を残留させる塗布法、膜表面に親水性のアクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、アクリルアミド系モノマー等をグラフト重合する方法などが挙げられる。これらの方法を2つ以上組み合わせて行うことも可能である。芳香族エーテル系高分子に化学的変性を加えないブレンド法または塗布法が好ましく、製造面においては一段階の工程で親水化処理を行うことができるブレンド法が特に好ましい。
【0070】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0071】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒は、成膜条件において膜材料である芳香族エーテル系高分子を安定に5重量%以上溶解するものであれば如何なる溶媒を使用することができる。ただし、環境面およびコストの点から非ハロゲン系水溶性有機溶媒を用いることが好ましい。本発明における水溶性有機溶媒とは、20℃の100g純水に10g以上溶解可能である溶媒を示し、さらに好ましくは、水に混和可能なものである。具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらは2種以上組み合わせて使用できる。
【0072】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液の一例としては、良溶媒に親水性高分子を下限として0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは1重量%以上、上限として45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で、均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液全体を100重量%とした場合、芳香族エーテル系高分子の使用範囲としては下限として1重量%以上、好ましくは2重量%以上、特に好ましくは3重量%以上である。また上限としては45重量%以下、好ましくは35重量%以下、特に好ましくは25重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液の温度は、下限として25℃以上、好ましくは65℃以上、特に好ましくは80℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下にすることにより、芳香族エーテル系高分子の溶解性を高めることができ、さらに膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
【0073】
本発明に係わる親水性芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質をいう。具体的には純水、モノアルコール系溶媒、下記式(14)で表されるポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。
[化14]

(R16は炭素数1以上、20以下を含む有機官能基、または、酸素原子を1つ以上と炭素数1以上、20以下とを含む構造であり、R16に水酸基、エーテル結合、エステル基、ケトン基、カルボン酸基などを1つ以上含んでいてもよい。)
式(14)に表されるポリオール系溶媒の一例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。
【0074】
芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液の粘度によって透水性能を制御することが可能である。凝固液の粘度を高くすることにより、凝固液の原液への浸透が緩やかになり、結果、製造した膜の透水性能が向上することを見出した。高い透水性能を得るためには、凝固液の粘度が20℃で3cp以上であることが好ましい。より好ましくは、5cp以上である。凝固液の粘度を高めるためにポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチルアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することが可能である。また、上記ポリオール系溶媒などの20℃で5cp以上の高粘性溶媒を含有させることも好適である。
【0075】
本発明に係わる凝固液の粘度は、ガラス製毛細管粘度計を用いて測定した値であり、測定方法としては、20℃恒温水槽中で恒温としたガラス製毛管粘度計に凝固液を入れ、30分以上放置後、恒温に達したとして測定を行うことにより動粘度が得られる。この得られた動粘度の値より下記式(15)により凝固液の粘度を得ることができる。なお、ガラス製毛細管粘度計としては、柴田科学(株)製のウベローテ粘度計などを用いることができる。
ν=η/ρ (15)
(ν:動粘度(mm/s)、η:粘度(cp)、ρ:密度(g/cm))
【0076】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ―ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として下限0重量%以上、上限90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0077】
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であり、本発明の中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては、凝固液温度で決まる。成膜温度の下限としては25℃以上、好ましくは80℃以上、特に好ましくは90℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。特に成膜温度80℃以上、各沸点から10℃以上低い温度の範囲内で膜原液と凝固液が接触した場合において、特に高強度の膜を得ることできる。
【0078】
本発明に係わる芳香族エーテル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。
【0079】
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固を、より促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡糸口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、空走距離の下限としては0.01m以上、好ましくは0.05m以上、特に好ましくは0.1m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡糸口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として20℃以上、好ましくは50℃以上、特に好ましくは80℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは25%以上、特に好ましくは50%以上であり、上限としては100%以下である。
【0080】
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、巻取り速度は製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね600m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0081】
本発明に係わる湿式成膜法を用いることで、膜として供されるのに十分な強度、伸度を有した芳香族エーテル系高分子膜を得ることができる。また本発明の湿式成膜法においては濃度誘起相分離を利用することで、温度誘起相分離を利用する溶融成膜法では得ることが困難な、傾斜構造を有する多孔膜構造が容易に製造可能であり、得られる本発明の膜に高い透水性能を付与することが可能である。
【0082】
本発明に係わる湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0083】
本発明に係わる湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度である。即ち、膜原液の温度、凝固液の温度、中空糸膜であれば二重紡口の温度、平膜であれば膜形成をサポートする金属プレート等の温度により決まる。成膜温度の下限としては20℃以上、好ましくは25℃以上、特に好ましくは30℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。特に成膜温度80℃以上、各沸点から10℃以上低い温度の範囲内で膜原液と凝固液が接触した場合において、特に高強度の膜を得ることができる。
【0084】
湿式成膜法により得られた未乾燥の芳香族エーテル系高分子膜は、乾燥中の膜破断が生じない温度、例えば、20℃以上から芳香族エーテル系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては50℃以上、150℃以下、更に好ましくは60℃以上、140℃以下、特に好ましくは70℃以上、130℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0085】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル系高分子の例としては、下記式(16)で表されるものが挙げられる。
[化16]

(式中、R17およびR18は炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中vおよびwは繰り返し単位を表す。)
その中でも、ポリ(メタ)アクリル酸やポリ(メタ)アクリル酸エステルなど用いることができる。好ましくはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルおよびこれら2つ以上組み合わせた共重合体が良い。必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、無機ナノ粒子の静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
【0086】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜は、主としてポリ(メタ)アクリル酸エステルからなるものであるが、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
【0087】
本発明に係る(メタ)アクリル系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは2万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは50万以下、特に好ましくは30万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0088】
本発明においては、(メタ)アクリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0089】
本発明で係わる(メタ)アクリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は下限としては1,000以上、好ましくは5,000以上が良く、上限として200万以下、好ましくは100万以下、特に好ましくは50万以下が良い。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0090】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0091】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、20℃の純水100gに10g以上溶解可能であり、かつ膜材料の(メタ)アクリル系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、更に好ましくは、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。危険性、安全性、毒性の面からジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0092】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有する(メタ)アクリル系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。膜原液における(メタ)アクリル系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、(メタ)アクリル系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
【0093】
また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
【0094】
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0095】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に膜破れや膜切れなどを起こし、成膜性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
【0096】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0097】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0098】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法おいて中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は、上記の外部凝固液と同様の溶液を用いてもよく、また、空気、窒素、アンモニアガス等の気体を導入する乾湿式成膜法で製造しても良い。
【0099】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0100】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。また、乾湿式成膜法として空気、窒素、アンモニアガス等の気体を凝固剤として用いている場合には、この工程は実施しない。
【0101】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0102】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0103】
本発明に係わる(メタ)アクリル系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0104】
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明の(メタ)アクリル系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上から(メタ)アクリル系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度は、下限として30℃以上、好ましくは40℃以上、上限として80℃以下、好ましくは70℃以下が良い。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0105】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系膜は特に限定されるものではなく、(メタ)アクリロニトリル系高分子の例としては、下記式(17)で表されるものが挙げられる。
[化17]

(式中、R19およびR20は、水素またはメチル基を表す。R21は炭素数1〜14のアルキル基またはアラルキル基を表す。アルキル基の水素原子またはアラルキル基の水素原子は、炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。式中xおよyは繰り返し単位を表す。)
その中でも、ポリ(メタ)アクリロニトリルやポリ(メタ)アクリロニトリル酸エステルなど用いることができる。好ましくはポリアクリロニトリル、ポリメタアクリロニトリルが良い。
【0106】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子を構成するモノマー組成は、(メタ)アクリロニトリル含量が少なくとも50重量%以上、好ましくは60重量%以上であり、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル化合物の一種又は二種以上の含量は50重量%以下、好ましくは40重量%以下である。上記ビニル化合物としては、(メタ)アクリロニトリルに対して共重合性を有する公知の化合物であれば良く、特に限定されないが、好ましい共重合成分としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、イタコン酸、酢酸ビニル、(メタ)アクリルスルホン酸ナトリウム、p(パラ)−スチレンスルホン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルメタクリレート、メタアクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロライド、メタアクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニルピロリドン等を例示することができる。例えば、アクリロニトリル−アクリル酸メチル−PVP共重合体などが挙げられる。
必要に応じて高分子末端および/または主鎖中にエステル化、エーテル化、エポキシ化など各種変性を実施することができる。また、無機ナノ粒子の静電気的な特性との相性から、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、スルフォニル基、スルホン酸基などの化学構造を必要に応じて導入しても良い。
【0107】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜は、主として(メタ)アクリロニトリル系高分子からなるものであるが、(メタ)アクリロニトリル系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
【0108】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは2万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは50万以下、特に好ましくは30万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0109】
本発明においては、(メタ)アクリロニトリル系高分子とともに、膜の孔の大きさをコントロールするためと、親水性を付与するために、親水性高分子が用いられることが好ましい。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ−N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどが挙げられる。中でも、ポリビニルピロリドンは、(メタ)アクリロニトリル系高分子との相溶性がよく、膜全体の親水性を高める上で特に好ましい。
【0110】
本発明で係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜に親水性を付与する親水性高分子の重量平均分子量は、下限としては1,000以上、好ましくは5,000以上が良く、上限としては200万以下、好ましくは100万以下、特に好ましくは50万以下が良い。例えばポリビニルピロリドンではBASF社より様々なグレードが市販されており、その重量平均分子量が9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0111】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0112】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、20℃の純水100gに10g以上溶解可能であり、かつ膜材料の(メタ)アクリロニトリル系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。危険性、安全性、毒性の面からジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0113】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有する(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を製造できれば何ら限定はしないが、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、(メタ)アクリロニトリル系高分子の濃度範囲としては、分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。(メタ)アクリロニトリル系高分子の濃度が2重量%未満では成膜原液の粘度が低く、成膜しにくい傾向にあり、50重量%より高いと成膜原液の粘度が高すぎ、成膜は困難となる傾向にある。また、原液粘度、溶解状態を制御する目的で水、塩類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、グリコール類等の非溶剤を複数添加することも可能であり、その種類、添加量は組み合わせにより随時決定すればよい。
また、該膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
【0114】
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0115】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に糸切れ、糸揺れなどを起こし、製糸性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
【0116】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0117】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチン、などの水溶性高分子を添加することも可能である。さらにn−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類などポリマーを溶解しない液体でも良い。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0118】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0119】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
【0120】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0121】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0122】
本発明に係わる(メタ)アクリロニトリル系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0123】
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明の(メタ)アクリロニトリル系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上から(メタ)アクリロニトリル系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては30℃以上、75℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0124】
本発明に係わるフッ素系高分子膜は、主としてフッ素系高分子からなるものであるが、フッ素系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるフッ素系高分子は、フッ化ビニリデンのホモ重合体や、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびパーフルオロメチルビニルエーテルのモノマー群から選んだ1種又は2種のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体のことである。また、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、フッ化ビニリデンが好ましい。
【0125】
本発明に係わるフッ素系高分子の重量平均分子量は、下限としては5万以上、好ましくは10万以上、特に好ましくは15万以上が良く、上限として500万以下、好ましくは200万以下、特に好ましくは100万以下が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0126】
無機ナノ粒子を含有する水溶液との親和性を高めるために、膜に親水性を付与することが好ましい。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、フッ素系高分子膜の細孔表面に親水性のアクリル系モノマーやメタクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にフッ素系高分子膜を浸漬した後、乾燥してフッ素系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
【0127】
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノマーが良い。さらに、スルホン基、カルボキシル基、アミド基、中性水酸基、スルフォニル基、スルフォニル基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できるが、無機ナノ粒子を含む溶液を濾過する場合には中性水酸基を含むモノマーが特に好ましい。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、もしくはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが好ましい。具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。さらに、1個のビニル基を有する親水性モノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を、上記親水性モノマーに対して、20mol%以上、1,000mol%以下の割合で用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水化が達成されたものである。
【0128】
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤の数平均分子量は、下限としては、200以上、好ましくは250以上、より好ましくは300以上であり、上限としては、2,000以下、好ましくは1,000以下、より好ましくは600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2,000以下であると、無機ナノ粒子の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。
【0129】
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが、親水性の観点から最も好ましい。
【0130】
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルが発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってフッ素系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、フッ素系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
【0131】
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1,000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1,000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
【0132】
本発明では、ラジカルを生成したフッ素系高分子膜と、親水性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、フッ素系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0133】
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、フッ素系高分子膜1gに対して10×10-5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるものではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、フッ素系高分子膜と親水性のモノマーを接触させる際に、親水性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
【0134】
本発明に係わる親水性フッ素系高分子膜は、疎水性のフッ素系高分子膜に強固な架橋構造を有する親水化層を導入することで、無機ナノ粒子の分離を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマーに対して架橋剤を、下限としては、20mol%以上、好ましくは30mol%以上の割合で、上限としては、1,000mol%以下、好ましくは500mol%以下、さらに好ましくは200mol%以下の割合で用いることが良い。
【0135】
本発明における疎水性フッ素系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、下限として、3%以上、好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、上限として、50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下が良い。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは下記式(18)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100 (18)
【0136】
本発明に係わるフッ素系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、フッ素系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0137】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば、溶融成膜法や湿式成膜法が挙げられる。溶融成膜法とは、膜材料と可塑剤を加熱することで均一混合させた後、冷却することにより相分離を発生させ、得られた膜フィルムから可塑剤を抽出することで膜を得る方法である。また、湿式成膜法とは膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて、膜を得る方法である。
【0138】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る代表的な溶融成膜法は、下記(a)〜(c)の工程を含む。
(a)フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を該フッ素系高分子の結晶融点以上に加熱して均一溶解した後、該組成物を吐出口から吐出し、膜を形成する工程;
(b)下記式(19)に定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該フッ素系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を、該温度が100℃以上に加熱された状態で、膜の一方の表面に接触させ、他方の膜表面は冷却する工程:
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (19)
(c)該可塑剤および該不揮発性液体の実質的な部分を除去する工程。
【0139】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法に用いられるポリマー濃度は、フッ素系高分子および可塑剤を含む組成物中に下限として、20重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%が良く、上限としては、90重量%以下、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70重量%以下が良い。ポリマー濃度が20重量%未満になると、成膜性が低下する、充分な力学強度が得られない等の不都合が発生する。ポリマー濃度が90重量%を超えると、得られるフッ素系高分子膜の孔径が小さくなりすぎるとともに、空孔率が小さくなるため、濾過速度が低下し、実用に耐えない。
【0140】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法に用いられる可塑剤としては、フッ素系高分子膜を製造する組成でフッ素系高分子と混合した際に樹脂の結晶融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いる。ここで言う不揮発性溶媒とは、大気圧下において250℃以上の沸点を有するものである。可塑剤の形態は、概ね常温20℃において、液体であっても固体であっても差し支えない。また、フッ素系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型固液相分離点を持つような、いわゆる固液相分離系の可塑剤を用いても良い。可塑剤の中には、フッ素系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型液液相分離点を有するものもあるが、一般に、液液相分離系の可塑剤を用いた場合は、得られたフッ素系高分子膜は大孔径化する傾向がある。ここで用いられる可塑剤は単品又は複数の物質の混合物であってもよい。
【0141】
熱誘起型固液相分離点を測定する方法は、フッ素系高分子と可塑剤を含む所定濃度の組成物を予め溶融混練したものを試料として用い、示差走査熱量測定(DSC)などの熱分析により該樹脂の発熱ピーク温度を測定することにより求めることができる。また、該樹脂の結晶化点を測定する方法は、予め該樹脂を溶融混練したものを試料として用い、同様に熱分析により求めることができる。
【0142】
本発明に係わる可塑剤としては、国際公開第01/28667号パンフレットに開示されている可塑剤が挙げられる。即ち、下記式(20)で定義する組成物の相分離点降下定数αが、下限として、0℃以上、好ましくは1℃以上、より好ましくは5℃以上が良く、上限として、40℃以下、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下の可塑剤が良い。相分離点降下定数が40℃を超えると、孔径の均質性や強度が低下してしまうために好ましくない。
α=100×(T−T)÷(100−C) (20)
αは相分離点降下定数(℃)
はフッ素系高分子の結晶化温度(℃)
は組成物の熱誘起固液相分離点(℃)
Cは組成物中のフッ素系高分子の濃度(重量%)
【0143】
具体的には、エステル鎖の炭素鎖長が7以下のフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エステル鎖の炭素鎖長が8以下のリン酸エステル類、クエン酸エステル類等が好適に使用でき、特にフタル酸ジヘプチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチル等が特に好ましい。
【0144】
本発明において使用する組成物には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0145】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法において、フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第一の方法は、該樹脂を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入してスクリュー混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する樹脂の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状の何れでもよい。また、このような方法によって均一溶解させる場合は、可塑剤の形態は常温液体であることが好ましい。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。
フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第二の方法は、ヘンシェルミキサー等の撹拌装置を用いて、フッ素系高分子と可塑剤を予め混合して分散させ、得られた組成物を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入して溶融混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する組成物の形態については、可塑剤が常温液体である場合はスラリー状とし、可塑剤が常温固体である場合は粉末状や顆粒状等とすればよい。
フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第三の方法は、ブラベンダーやミル等の簡易型樹脂混練装置を用いる方法や、その他のバッチ式混練容器内で溶融混練する方法である。この方法によれば、バッチ式の工程となるため生産性は良好とは言えないが、簡易でかつ柔軟性が高いという利点がある。
【0146】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法において、フッ素系高分子と可塑剤を含む組成物をフッ素系高分子の結晶融点以上の温度に加熱均一溶解させた後、Tダイやサーキュラーダイ、環状紡口の吐出口から平膜状、中空糸状の形状に押出す(a)の工程の後に、冷却固化させて成型を行う(b)の工程に移るが、この工程において、膜構造を形成する。
【0147】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る溶融成膜法においては、均一に加熱溶解したフッ素系高分子と可塑剤を含む組成物を吐出口から吐出させ、下記式(21)で定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該フッ素系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を接触させ、膜を形成させる。
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (21)

上記ドラフト比は、好ましくは下限としては、1.5以上、より好ましくは2以上が良く、好ましくは上限としては、10以下、より好ましくは7以下が良い。ドラフト比が1未満では膜にテンションがかからないために成型性が低下し、15を超える場合は、膜が引伸ばされるために、充分な厚みの粗大構造層を形成させることが難しい。ここで言う組成物の吐出口における吐出速度は下記式(22)で与えられる。
組成物の吐出口における吐出速度=
(単位時間当りに吐出される組成物の体積)/(吐出口の面積) (22)

吐出速度は、下限として、1m/分以上、好ましくは3m/分以上が良く、上限として、60m/分以下、より好ましくは40m/分以下が良い。吐出速度が1m/分未満の場合は、生産性が低下することに加えて、吐出量の変動が大きくなる等の問題が発生する。反対に、吐出速度が60m/分を超える場合は、吐出量が多いために吐出口で乱流が発生し、吐出状態が不安定になる場合がある。また、引取速度は吐出速度に合わせて設定することができ、下限としては、1m/分以上、好ましくは3m/分以上が良く、上限としては、200m/分以下、好ましく150m/分以下が良い。引取速度が1m/分未満の場合は、生産性、成型性が低下し、引取速度が200m/分を超える場合は、冷却時間が短くなる、膜にかかるテンションが大きくなることによって膜の断裂が起き易くなる。
【0148】
本発明においては、可塑剤を除去するために抽出溶剤を使用する。抽出溶剤はフッ素系高分子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がフッ素系高分子膜の融点より低いことが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、又は水が挙げられる。
【0149】
本発明において、可塑剤を除去する第一の方法は、抽出溶剤が入った容器中に所定の大きさに切り取ったフッ素系高分子膜を浸漬し充分に洗浄した後に、付着した溶剤を風乾させるか、又は熱風によって乾燥させることにより行う。この際、浸漬の操作や洗浄の操作を多数回繰り返して行うとフッ素系高分子膜中に残留する可塑剤が減少するので好ましい。また、浸漬、洗浄、乾燥の一連の操作中にフッ素系高分子膜の収縮を抑えるために、フッ素系高分子膜の端部を拘束することが好ましい。
可塑剤を除去する第二の方法は、抽出溶剤で満たされた槽の中に連続的にフッ素系高分子膜を送り込み、可塑剤を除去するのに充分な時間をかけて槽中に浸漬し、しかる後に付着した溶剤を乾燥させることにより行う。この際、槽内部を多段分割することにより濃度差がついた各槽に順次フッ素系高分子膜を送り込む多段法や、フッ素系高分子膜の走行方向に対し逆方向から抽出溶剤を供給して濃度勾配をつけるための向流法のような公知の手段を適用すると、抽出効率が高められ好ましい。第一および第二の方法においては、何れも可塑剤をフッ素系高分子膜から実質的に除去することが重要である。実質的に除去するとは、分離膜としての性能を損なわない程度にフッ素系高分子膜中の可塑剤を除去することを指し、フッ素系高分子膜中に残存する可塑剤の量は1重量%以下となることが好ましく、さらに好ましくは100重量ppm以下である。フッ素系高分子膜中に残存する可塑剤の量は、ガスクロマトグラフィや液体クロマトグラフィー等で定量することができる。また、抽出溶剤を、該溶剤の沸点未満、好ましくは沸点−5℃以下の範囲内で加温すると、可塑剤と溶剤との拡散を促進することができるので抽出効率を高めることができ好ましい。
【0150】
本発明においては、可塑剤を除去する工程の前若しくは後、又は前後において、フッ素系高分子膜に加熱処理を施すと、可塑剤を除去した際のフッ素系高分子膜の収縮の低減、フッ素系高分子膜の強度の向上、および耐熱性の向上といった効果が得られる。加熱処理の方法としては、熱風中にフッ素系高分子膜を配して行う方法、熱媒中にフッ素系高分子膜を浸漬して行う方法、または加熱温調した金属製のロール等にフッ素系高分子膜を接触させて行う方法がある。加熱処理において、寸法を固定した状態で行うと、特に微細な孔の閉塞を防ぐことができるために好ましい。加熱処理の温度は、融点以下で行う事が好ましい。ポリフッ化ビニリデンの場合、下限としては121℃以上、好ましくは125℃以下が良く、上限としては170℃以下、好ましくは165℃以下が良い。融点を超えると、加熱処理中に膜が破断する、細孔が潰れる等の不都合が発生する可能性がある。
【0151】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る代表的な湿式成膜法について説明する。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、水に混和可能なものであれば何ら限定しないが、20℃の純水100gに10g以上溶解可能であり、かつ膜材料のフッ素系高分子膜を5重量%以上溶解するものが好ましい。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。危険性、安全性、毒性の面からジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましく用いられる。これらの溶媒は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0152】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するフッ素系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。膜原液におけるフッ素系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、フッ素系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
また、膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0153】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に膜破れや膜切れなどを起こし、成膜性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0154】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しない。例えば、純水、モノアルコール系溶媒、ポリオール系溶媒又はこれら2種以上の混合液などが好適に使用される。モノアルコール系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどが挙げられる。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0155】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0156】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。
【0157】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0158】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0159】
本発明に係わるフッ素系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0160】
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明のフッ素系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からフッ素系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。乾燥温度は、下限として、30℃以上、好ましくは40℃以上が良く、上限としては120℃以下、好ましくは100℃以下が良い。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0161】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜は、主としてオレフィン系高分子からなるものであるが、オレフィン系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるオレフィン系高分子は、オレフィン類やアルケンをモノマーとして合成される高分子であり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリ4−メチル1−ペンテンなどが挙げられる。さらに、上記ホモ重合体および上記共重合体を混合して使用することもできる。その中でも、ポリエチレンが好ましい。
【0162】
本発明に係わるオレフィン系高分子の重量平均分子量は、下限としては5万以上、好ましくは10万以上、特に好ましくは15万以上が良く、上限として500万以下、好ましくは200万以下、特に好ましくは100万以下が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、GPC測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5万より小さいと、溶融成型の際のメルトテンションが小さくなり成形性が悪くなったり、膜の力学強度が低くなったりするので好ましくない。平均分子量が500万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0163】
無機ナノ粒子を含有する水溶液との親和性を高めるために、膜に親水性を付与することが好ましい。親水化処理の方法としては、例えば、界面活性剤を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜中に界面活性剤を残留させる方法、電子線やガンマ線等の放射線を照射する、あるいは過酸化物を用いることによって、オレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性の(メタ)アクリル系モノマー等をグラフトする方法、成膜時に親水性高分子を予め混合する方法、親水性高分子を含む溶液にオレフィン系高分子膜を浸漬した後、乾燥してオレフィン系高分子膜の細孔表面に親水性高分子の被膜を作る方法等が挙げられるが、親水化の永続性や親水性添加物の漏洩の可能性を考慮するとグラフト重合が最も好ましい。特に、特開昭62−179540号公報、特開昭62−258711号公報、および米国特許第4,885,086号明細書に開示された放射線グラフト重合法による親水化処理は、膜内全領域の細孔内表面に均一な親水化層を形成し得る点で好ましい。
【0164】
本発明のグラフト重合に使用する親水性モノマーとしては、ビニル基を有する親水性モノマーであれば特に限定されるものではない。好ましくは、1個のビニル基を有するモノマーが良い。さらに、スルホン基、カルボキシル基、アミド基、中性水酸基、スルフォニル基、スルホン酸基等を含む(メタ)アクリル系モノマーが好適に使用できるが、無機ナノ粒子を含む溶液を濾過する場合には中性水酸基を含むモノマーが特に好ましい。本発明に係わる親水性モノマーとは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解するモノマーである。例えば、ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基を有する、もしくはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有するビニルモノマー、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー等が挙げられる。中でも、1個以上のヒドロキシル基、あるいはその前駆体となる官能基を有するビニルモノマーが好ましい。
【0165】
具体的には、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、および酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類等が挙げられる。さらに、1個のビニル基を有する親水性モノマーとともに、2個以上のビニル基を有する架橋剤を、上記親水性モノマーに対して、20mol%以上、1,000mol%以下の割合で用いて、グラフト重合法によって共重合させることにより、充分に親水化が達成されたものである。
【0166】
本発明に係わる使用する架橋剤は、上記親水性モノマーと共重合しうる2個以上のビニル基を有する架橋剤であり、親水性モノマーと同時に膜に接触させることにより導入する。架橋剤は、数平均分子量200以上、2,000以下であることが好ましく、より好ましくは数平均分子量250以上、1,000以下、最も好ましくは数平均分子量300以上、600以下である。架橋剤の数平均分子量が200以上、2,000以下であると、無機ナノ粒子溶液の高い濾過速度が得られ好ましい。本発明においては、2個以上のビニル基を有する架橋剤であれば、いかなる架橋剤も使用できるが、親水性の架橋剤が好ましい。ここで親水性の架橋剤とは、大気圧下で、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解する架橋剤である。
【0167】
本発明で用いられる架橋剤の具体例としては、芳香族系ではジビニルベンゼン誘導体、脂肪族系ではエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のようなメタクリル酸系の架橋剤、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等のような(メタ)アクリル酸系の架橋剤等が挙げられる。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートのような3個の反応性基を有する架橋剤も用いることが出来る。また、架橋剤は2種類以上の混合物も用いることが出来る。本発明において、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、またはそれらの混合物を用いることが最も好ましい。
【0168】
本発明に係わるグラフト重合法とは、ラジカルを発生させる方法であれば何ら限定しないが、例えば、放射線開始剤の添加や電離性放射線や化学反応等の手段によってオレフィン系高分子膜にラジカルを生成させ、そのラジカルを開始点として、該膜にモノマーをグラフト重合させる反応である。本発明において、オレフィン系高分子膜にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜全体に均一なラジカルを生成させるためには、電離性放射線の照射が好ましい。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線またはγ線が最も好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、およびセシウム137などの放射性同位体から、またはX線撮影装置、電子線加速器および紫外線照射装置等により得られる。
【0169】
本発明に係わる電離性放射線の照射線量は、1kGyから1,000kGyまでが好ましい。1kGy未満ではラジカルが均一に生成せず、1,000kGyを越えると膜強度の低下を引き起こすことがある。グラフト重合法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。本発明においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が最も好ましい。
【0170】
本発明では、ラジカルを生成したオレフィン系高分子膜と、親水性モノマーおよび架橋剤との接触は、気相でも液相で達成されるが、本発明においては、グラフト反応が均一にすすむ液相で接触させる方法が好ましい方法である。グラフト反応をさらに均一に進めるために、親水性モノマーおよび架橋剤はあらかじめ溶媒中に溶解させてから、高分子オレフィン系高分子膜と接触させることが望ましい。親水性モノマーおよび架橋剤を溶解する溶媒としては、均一溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、エタノールやイソプロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
【0171】
本発明に係わるグラフト重合は、親水性モノマーと架橋剤を合わせた濃度で0.3容量%〜30容量%の反応液を用い、オレフィン系高分子膜1gに対して10×10-5〜100×10-53の割合で反応を行うことが望ましい。該範囲内でグラフト重合を行えば、親水化層によって孔が埋まることもなく、均一性に優れた膜が得られる。
本発明に係わるグラフト重合時の反応温度は、重合反応が起これば特に限定されるものではないが、一般的に20℃から80℃までで行われる。
本発明に係わるグラフト重合は、オレフィン系高分子膜と親水性のモノマーを接触させる際に、親水性のモノマーは気体、液体又は溶液のいずれの状態でもよいが、均一な親水化層を形成させるためには、液体又は溶液であることが好ましく、溶液であることが特に好ましい。
【0172】
本発明に係わる親水性オレフィン系高分子膜は、疎水性のオレフィン系高分子膜に強固な架橋構造を有する親水化層を導入することで、無機ナノ粒子の分離を高いレベルで実現することができる。そのために、親水性モノマーに対して架橋剤を、下限として20mol%以上、好ましくは30mol%以上、上限としては1,000mol%以下、好ましくは500mol%以下、さらに好ましくは200mol%以下の割合で用いることが良い。
【0173】
本発明に係わる疎水性オレフィン系高分子膜にグラフトされるグラフト率は、下限として3%以上、好ましくは4%以上、さらに好ましくは5%以上が良く、上限としては50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下が良い。グラフト率が3%未満であると膜の親水性が不足し、無機ナノ粒子溶液の濾過速度の急激な低下を引き起こす。50%を越えると、比較的小さな孔が親水化層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは、下記式(23)で定義される値である。
グラフト率(%)=
(グラフト後の膜重量−グラフト前の膜重量)/グラフト前の膜重量×100(23)
【0174】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、オレフィン系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0175】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば溶融成膜法が挙げられる。溶融成膜法とは、膜材料と可塑剤を加熱することで均一混合させた後、冷却することにより相分離を発生させ、得られた膜フィルムから可塑剤を抽出することで膜を得る方法である。
【0176】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る代表的な溶融成膜法は、下記(a)〜(c)の工程を含む。
(a)オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を該オレフィン系高分子の結晶融点以上に加熱して均一溶解した後、該組成物を吐出口から吐出し、膜を形成する工程;
(b)下記式(24)に定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該オレフィン系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を、該温度が100℃以上に加熱された状態で、膜の一方の表面に接触させ、他方の膜表面は冷却する工程
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (24)
(c)該可塑剤および該不揮発性液体の実質的な部分を除去する工程。
【0177】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法に用いるポリマー濃度は、オレフィン系高分子および可塑剤を含む組成物中20〜90重量%が好ましく、より好ましくは30〜80重量%、そして最も好ましくは35〜70重量%である。ポリマー濃度が20重量%未満になると、成膜性が低下する、充分な力学強度が得られない等の不都合が発生する。ポリマー濃度が90重量%を超えると、得られるオレフィン系高分子膜の孔径が小さくなりすぎるとともに、空孔率が小さくなるため、濾過速度が低下し、実用に耐えない。
【0178】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法に用いられる可塑剤としては、オレフィン系高分子膜を製造する組成でオレフィン系高分子と混合した際に樹脂の結晶融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いる。ここで言う不揮発性溶媒とは、大気圧下において250℃以上の沸点を有するものである。可塑剤の形態は、概ね常温20℃において、液体であっても固体であっても差し支えない。また、オレフィン系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型固液相分離点を持つような、いわゆる固液相分離系の可塑剤を用いても良い。可塑剤の中には、オレフィン系高分子との均一溶液を冷却した際に、常温以上の温度において熱誘起型液液相分離点を有するものもあるが、一般に、液液相分離系の可塑剤を用いた場合は、得られたオレフィン系高分子膜は大孔径化する傾向がある。ここで用いられる可塑剤は単品又は複数の物質の混合物であってもよい。
【0179】
熱誘起型固液相分離点を測定する方法は、オレフィン系高分子と可塑剤を含む所定濃度の組成物を予め溶融混練したものを試料として用い、示差走査熱量測定(DSC)などの熱分析により該樹脂の発熱ピーク温度を測定することにより求めることができる。また、該樹脂の結晶化点を測定する方法は、予め該樹脂を溶融混練したものを試料として用い、同様に熱分析により求めることができる。
【0180】
本発明に係わる可塑剤としては、国際公開第01/28667号パンフレットに開示されている可塑剤が挙げられる。即ち、下記式(25)で定義する組成物の相分離点降下定数αが0〜40℃である可塑剤であり、好ましくは1〜35℃の可塑剤、更に好ましくは5〜30℃の可塑剤である。相分離点降下定数が40℃を超えると、孔径の均質性や強度が低下してしまうために好ましくない。
α=100×(T−T)÷(100−C) (25)
αは相分離点降下定数(℃)
はオレフィン系高分子の結晶化温度(℃)
は組成物の熱誘起固液相分離点(℃)
Cは組成物中のオレフィン系高分子の濃度(重量%)
【0181】
具体的には、エステル鎖の炭素鎖長が7以下のフタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、セバシン酸エステル類、エステル鎖の炭素鎖長が8以下のリン酸エステル類、クエン酸エステル類等が好適に使用でき、特にフタル酸ジヘプチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリ(2−エチルヘキシル)、リン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチル等が特に好ましい。
【0182】
本発明において使用する組成物には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0183】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法において、オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第一の方法は、該樹脂を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入してスクリュー混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する樹脂の形態は、粉末状、顆粒状、ペレット状の何れでもよい。また、このような方法によって均一溶解させる場合は、可塑剤の形態は常温液体であることが好ましい。押出機としては、単軸スクリュー式押出機、二軸異方向スクリュー式押出機、二軸同方向スクリュー式押出機等が使用できる。
オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第二の方法は、ヘンシェルミキサー等の撹拌装置を用いて、オレフィン系高分子と可塑剤を予め混合して分散させ、得られた組成物を押出機等の連続式樹脂混練装置に投入して溶融混練することにより、均一溶液を得る方法である。投入する組成物の形態については、可塑剤が常温液体である場合はスラリー状とし、可塑剤が常温固体である場合は粉末状や顆粒状等とすればよい。
オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を均一溶解させる第三の方法は、ブラベンダーやミル等の簡易型樹脂混練装置を用いる方法や、その他のバッチ式混練容器内で溶融混練する方法である。この方法によれば、バッチ式の工程となるため生産性は良好とは言えないが、簡易でかつ柔軟性が高いという利点がある。
【0184】
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法において、オレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物をオレフィン系高分子の結晶融点以上の温度に加熱均一溶解させた後、Tダイやサーキュラーダイ、環状紡口の吐出口から平膜状、中空糸状の形状に押出す(a)の工程の後に、冷却固化させて成型を行う(b)の工程に移るが、この工程において、膜構造を形成する。
本発明に係わるオレフィン系高分子膜を得る溶融成膜法においては、均一に加熱溶解したオレフィン系高分子と可塑剤を含む組成物を吐出口から吐出させ、下記式(26)で定義するドラフト比が1以上15以下となるような引取速度で該膜を引取りながら、該オレフィン系高分子に対して部分的な溶解性を有する不揮発性液体を接触させ、膜を形成させる。
ドラフト比=(膜の引取速度)/(組成物の吐出口における吐出速度) (26)

上記ドラフト比は、下限として好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、上限としては好ましくは10以下、より好ましくは7以下が良い。ドラフト比が1未満では膜にテンションがかからないために成型性が低下し、15を超える場合は、膜が引伸ばされるために、充分な厚みの粗大構造層を形成させることが難しい。
ここで言う組成物の吐出口における吐出速度は下記式(27)で与えられる。
組成物の吐出口における吐出速度=
(単位時間当りに吐出される組成物の体積)/(吐出口の面積) (27)

上記吐出速度の好ましい範囲は、下限として1m/分以上、好ましくは3m/分以上、上限としては60m/分以下、好ましくは40m/分以下が良い。吐出速度が1m/分未満の場合は、生産性が低下することに加えて、吐出量の変動が大きくなる等の問題が発生する。反対に、吐出速度が60m/分を超える場合は、吐出量が多いために吐出口で乱流が発生し、吐出状態が不安定になる場合がある。また、引取速度は吐出速度に合わせて設定することができるが、下限として1m/分以上、好ましくは3m/分以上、上限として200m/分以下、好ましくは150m/分以下が良い。引取速度が1m/分未満の場合は、生産性、成型性が低下し、引取速度が200m/分を超える場合は、冷却時間が短くなる、膜にかかるテンションが大きくなることによって膜の断裂が起き易くなる。
【0185】
本発明においては、可塑剤を除去するために抽出溶剤を使用する。抽出溶剤はオレフィン系高分子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がオレフィン系高分子膜の融点より低いことが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類、塩化メチレンや1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、又は水が挙げられる。
【0186】
本発明において、可塑剤を除去する第一の方法は、抽出溶剤が入った容器中に所定の大きさに切り取ったオレフィン系高分子膜を浸漬し充分に洗浄した後に、付着した溶剤を風乾させるか、又は熱風によって乾燥させることにより行う。この際、浸漬の操作や洗浄の操作を多数回繰り返して行うとオレフィン系高分子膜中に残留する可塑剤が減少するので好ましい。また、浸漬、洗浄、乾燥の一連の操作中にオレフィン系高分子膜の収縮を抑えるために、オレフィン系高分子膜の端部を拘束することが好ましい。
可塑剤を除去する第二の方法は、抽出溶剤で満たされた槽の中に連続的にオレフィン系高分子膜を送り込み、可塑剤を除去するのに充分な時間をかけて槽中に浸漬し、しかる後に付着した溶剤を乾燥させることにより行う。この際、槽内部を多段分割することにより濃度差がついた各槽に順次オレフィン系高分子膜を送り込む多段法や、オレフィン系高分子膜の走行方向に対し逆方向から抽出溶剤を供給して濃度勾配をつけるための向流法のような公知の手段を適用すると、抽出効率が高められ好ましい。
【0187】
第一および第二の方法においては、何れも可塑剤をオレフィン系高分子膜から実質的に除去することが重要である。実質的に除去するとは、分離膜としての性能を損なわない程度にオレフィン系高分子膜中の可塑剤を除去することを指し、オレフィン系高分子膜中に残存する可塑剤の量は1重量%以下となることが好ましく、さらに好ましくは100重量ppm以下である。オレフィン系高分子膜中に残存する可塑剤の量は、ガスクロマトグラフィや液体クロマトグラフィー等で定量することができる。また、抽出溶剤を、該溶剤の沸点未満、好ましくは沸点−5℃以下の範囲内で加温すると、可塑剤と溶剤との拡散を促進することができるので抽出効率を高めることができ好ましい。
【0188】
本発明においては、可塑剤を除去する工程の前若しくは後、又は前後において、オレフィン系高分子膜に加熱処理を施すと、可塑剤を除去した際のオレフィン系高分子膜の収縮の低減、オレフィン系高分子膜の強度の向上、および耐熱性の向上といった効果が得られる。加熱処理の方法としては、熱風中にオレフィン系高分子膜を配して行う方法、熱媒中にオレフィン系高分子膜を浸漬して行う方法、または加熱温調した金属製のロール等にオレフィン系高分子膜を接触させて行う方法がある。加熱処理において、寸法を固定した状態で行うと、特に微細な孔の閉塞を防ぐことができるために好ましい。加熱処理の温度は、目的やオレフィン系高分子の融点以下で行う事が好ましい。ポリエチレンの場合、乾燥温度は、下限として、60℃以上、好ましくは65℃以上が良く、上限としては100℃以下、好ましくは95℃以下が良い。融点を超えると、加熱処理中に膜が破断する、細孔が潰れる等の不都合が発生する可能性がある。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0189】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子は、ポリビニルアルコールや部分アセタール化等の変性ポリビニルアルコールとエチレンやプロピレン、ビニルピロリドン、塩化ビニル、フッ化ビニル、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、イタコン酸等と共重合させた共重合体(ブロック共重合体、グラフト共重合体を含む)およびその誘導体である。その中でも、エチレン−ビニルアルコールの共重合体が好ましい。
【0190】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子のケン化度は、下限としては80mol%以上、好ましくは85mol%以上が良く、上限としては100mol%以下、好ましくは95mol%以下が良い。
本発明にの係わるビニルアルコール系高分子鎖中のポリビニルアルコール含量は、少なくとも30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは50重量%以上である。30重量%未満の場合は、膜の親水性が低くなる等の問題が発生するために好ましくない。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜は、主としてビニルアルコール系高分子からなるものであるが、ビニルアルコール系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
【0191】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは5万以上が良く、上限として200万以下、好ましくは90万以下、特に好ましくは80万以下が良い。一般に平均分子量が100万を超えるような樹脂については、GPC測定が困難であるので、その代用として粘度法による粘度平均分子量をあてることができる。平均分子量が5,000より小さいと、膜の力学強度が低くなるため好ましくない。平均分子量が200万を超えると、均一な溶融混練が難しくなるために好ましくない。
【0192】
本発明においては、ビニルアルコール系高分子膜に悪影響を及ぼさない範囲内で、更に付加的処理を施してもよい。付加的処理としては、例えば、架橋処理、化学的表面修飾による官能基導入などが挙げられる。
【0193】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を製造する方法は何ら限定しないが、例えば湿式成膜法が挙げられる。湿式成膜法とは、膜材料を良溶媒に溶解した膜原液と、膜原液中の良溶媒とは混和可能だが膜材料とは相溶しない他の溶媒からなる凝固液とを接触させることで、接触表面から濃度誘起による相分離を発生させて膜を得る方法である。
【0194】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒としては、膜材料であるビニルアルコール系高分子を5重量%以上溶解するものが好ましく、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が例示できる。これらの溶媒は単独で、もしくは2種以上組み合わせて使用できる。工業的な面から水が最も好ましい。また、上記組成以外に凝固を促進するホウ酸や成膜安定性を向上させる界面活性剤、消泡剤等を適宜添加してもよい。
【0195】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するビニルアルコール系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。通常、ビニルアルコール系高分子および孔径形成剤をこれらに共通の溶媒で溶解したものが用いられる。膜原液におけるビニルアルコール系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、ビニルアルコール系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては50重量%以下、好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。
【0196】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法における膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明において使用する膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0197】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる孔形成剤としては、平均分子量200〜4,000,000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、グリセリン、ブタンジオール等の多価アルコール類、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類等が例示でき、単独あるいは2種類以上の混合物が用いられる。
【0198】
本発明に係わる孔形成剤の添加量は、ビニルアルコール系高分子の種類、孔形成剤の種類により適宜異なるが、膜原液が後述する上限臨界共溶点を有するような添加量にするのが好ましい。上記の上限臨界共溶点とは、膜原液を高温で透明な均一状態とし、該原液の温度を徐々に下げていった時に透明溶液から白濁溶液に変化する時の温度のことで、白化点や曇点と同義である。
【0199】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法で親水性高分子を用いる場合、その役割は、主に外側の多孔支持層部分の多孔構造を促進して形成させるところにあり、膜原液の増粘効果を奏するものである。膜原液中に添加する親水性高分子の量は安定した成膜を行うために親水性ポリマーの分子量と添加量を適宜調整することもできる。膜原液の粘度が低い場合、成膜時に膜破れや膜切れなどを起こし、成膜性が不安定になる場合がある。逆に膜原液の粘度が高すぎる場合、多孔支持層を充分に成長させることができず、外層の多孔構造の空孔率が不十分となり、目的の高い透過性を持つ膜が得られにくくなる。更には、膜原液の粘度が上がることで、口金から吐出された原液がメルトフラクチャーを起こすことも危惧される。
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法において、膜原液中の親水性高分子の濃度の上限値は、使用する親水性高分子の種類と分子量に応じて最適値が決定されるが、通常40重量以下%、好ましくは30重量%以下である。
【0200】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、水系凝固剤としては、純水、硫酸ナトリウム等の脱水性塩類の水溶液、水酸化ナトリウムやアンモニア水等のアルカリ性物質の水溶液などが例示することができ、単独で使用することもできるし、組み合わせて使用してもよい。水系凝固剤以外にも、例えばメタノールやエタノール、プロパノールなどが挙げられる。また、ポリオール系溶媒の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のようなビニルアルコール系高分子の凝固能を有する有機系凝固剤を使用したり、水と組み合わせて使用することは自由である。凝固液中にポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリビニルアルコールアミド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシアクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリビニルアルコール酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリシトラコン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸、ポリ−p−スチレンスルフォン酸ナトリウム、N,N−ジメチルビニルアルコールアミド、カルボキシメチルセルロース、澱粉、コーンスターチ、ポリキトサン、ポリキチンなどの水溶性高分子を添加することも可能である。添加する水溶性高分子の分子量や添加量にも依存するが、これらを添加することにより濾過性能を向上させることが可能である。また、凝固液中に、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンなどの良溶媒を含有させることも可能である。特に、良溶媒を非溶媒に含有させた凝固液を使用する場合、その組成は、膜原液の組成、膜原液と凝固液との接触温度などで異なるが、概ね、凝固液全体を100重量%とした場合、良溶媒の重量%として90重量%以下が好ましい。この範囲であれば、膜を形成するのに必要十分な濃度誘起相分離を十分に達成できる。
【0201】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法おいて中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液(以後、内部凝固液)は、上記の外部凝固液と同様の溶液を用いてもよく、また、ヘキサン、流動パラフィン等といったビニルアルコール系高分子に対して全く凝固能を有さずしかも膜原液の溶媒と混和しないような有機溶剤を用いてもよい。また空気、窒素、アンモニアガス等の気体を導入した乾湿式成膜法で行っても良い。
【0202】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0203】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、中空糸膜製造時に糸の内部を通す凝固液は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。また、乾湿式成膜法として空気、窒素、アンモニアガス等の気体を凝固剤として用いている場合には、この工程は実施しない。
【0204】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、二重紡口から出た膜原液と内部凝固液による凝固をより促進するため、紡口直下に槽(以後、凝固槽)を設け、凝固槽中に満たされた凝固液(以後、外部凝固液)と接触させることができる。
【0205】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合、中空糸膜の断面構造を均一構造のみならず、様々な不均一構造まで、自由に構造制御するために紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)および紡口から外部凝固液面までの空間の温度と湿度を調整することができる。空間の温度と湿度を調整できれば何ら限定しないが、例えば、空走距離の下限としては0.001m以上、好ましくは0.005m以上、特に好ましくは0.01m以上、上限として2.0m以下、好ましくは1.5m以下、特に好ましくは1.2m以下である。また紡口から外部凝固面までの空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
【0206】
本発明に係わる湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、概ね300m/時間から9,000m/時間の速度が選択される。
【0207】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、必要に応じて延伸、中和、水洗や湿熱処理、硫酸アンモニウム置換、乾燥などの処理をすることができる。膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。さらに、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキザール、ノナンジアール等のモノアルデヒドおよび/又は多価アルデヒドによるアセタール化や、エステル化、エーテル化等の変性処理をしたり、メチロール化合物や多価イソシアネートを用いた架橋化処理を単独あるいは組み合わせて行うことが可能である。また、紡糸後熱延伸および/又は熱処理したり、更に熱延伸および/又は熱処理後に上記の各種変性処理をすることができる。
【0208】
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥の本発明のビニルアルコール系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からビニルアルコール系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。好ましい乾燥温度としては30℃以上、80℃以下である。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01時間以上から48時間までが選択される。
【0209】
本発明に係わるビニルアルコール系高分子膜の親水性の度合いは、接触角によって評価することができる。25℃における前進接触角および後退接触角の平均値が60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましく、更に好ましくは30度以下である。また、簡便な評価法としては、ビニルアルコール系高分子膜を水と接触させた際に、膜の細孔内部に水が自発的に浸透すれば充分な親水性を持つと判断してよい。
【0210】
本発明に係わるセルロース系高分子膜は、主としてセルロース系高分子からなるものであるが、セルロース系高分子の特性を損なわない範囲で他の高分子量物質や添加物を含有していてもよい。これらの高分子を二種以上、組み合わせて実施することも可能である。
本発明に係わるセルロース系高分子は、銅アンモニア再生セルロースやセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースフェニルカルバニレートなどのセルロースエステル化合物、メチルセルロース、エチルセルロースなどのセルロースエーテルなど、およびこれらを組み合わせたブレンド化合物が挙げられる。その中でも、銅アンモニア再生セルロースが良い。
【0211】
本発明に係わるセルロース系高分子の重量平均分子量は、下限としては5,000以上、好ましくは1万以上、特に好ましくは5万以上が良く、上限として100万以下、好ましくは90万以下、特に好ましくは80万以下が良い。この範囲内であれば、十分な強度と成膜性が得られる。
【0212】
本発明に係わるセルロース系高分子膜の中空糸を製造する方法は何ら限定しないが、例えば、環状二重紡口の外側紡出口より紡糸原液を、該環状二重紡口の中央紡出口より上記紡糸原液に対するミクロ相分離兼凝固液である内部凝固液を、同時に吐出し、紡出筒に導入する。紡出筒とは紡口に直接連結された筒である。紡出筒には、紡糸原液が吐出された直後に外部凝固液と接触させるために外液で満たされており、定常的に送液され、紡糸原液とともに、下行管中を流下する。この時にミクロ相分離により粒子が形成され、三次元的につながった膜構造が固定されて多孔膜構造が完成される。
【0213】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる良溶媒とは、セルロース系高分子を溶解させるものであれば何ら限定しないが、例えば、銅アンモニア溶液、などが挙げられる。
【0214】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液は、目的の構造および性能を有するセルロース系高分子膜を製造できれば何ら限定はしない。膜原液におけるセルロース系高分子の濃度に関しては、濃度を上げるにつれて成膜性は向上するが、逆に膜の空孔率は減少し、透水性が低下する傾向がある。そのため、膜原液全体を100重量%とした場合、セルロース系高分子の濃度範囲としては分子量によって異なるが、下限として2重量%以上、好ましくは5重量%以上、特に好ましくは10重量%以上である。また上限としては25重量%以下、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下で均一に溶解した溶液が好適に使用される。セルロース濃度が2重量%未満の時は、得られる中空糸膜の力学的特性が不十分となり、25重量%を越えると紡糸液調整および紡糸操作が困難になる。
【0215】
本発明に係わる膜原液の温度は、下限として0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上、上限として膜原液中の良溶媒沸点以下が好適に使用される。この温度条件下であれば、膜原液として好ましい膜への加工を行うのに好適な粘度を得ることができる。
本発明に係わる膜原液には、製造する膜の性能に影響を及ぼさない限り、目的に応じて、酸化防止剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を混合しても差し支えない。
【0216】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる凝固液としては、膜原液と接触したとき濃度誘起相分離を引き起こし、接触面から膜を形成することができる物質であれば何ら限定しないが、例えば、純水、水、パークレン、トリクレン、トリクロロトリフルオロエタン、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、水酸化ナトリウム、硫酸、硫酸アンモニウム、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリセリン、ポリエチレングリコール等のポリオール等、紡糸液に対して非凝固性又は微凝固性を示す液体などが挙げられる。このような凝固剤は、紡糸液の種類によって適宜選択して用いる。これらの凝固液から選ばれる少なくとも1種を含む溶液又はこれらの混合液が好ましく用いられる。好ましくは、アセトンとアンモニア、水からなる混合溶液が良い。
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる内部凝固液と外部凝固液は、同じ凝固液でも異なる凝固液でも良い。
【0217】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る成膜法として、空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、酸素、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン等のいわゆるフロンガス、その他ハロゲンガス等の気体を使用した乾湿式成膜法で製造しても良い。
【0218】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法における成膜温度とは、膜原液と凝固液を接触させ、濃度誘起相分離を生じさせる時の温度であれば何ら限定しないが、成膜温度の下限としては0℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上である。上限としては膜原液もしくは凝固液の各沸点以下、好ましくは各沸点から5℃以上低い温度、特に好ましくは沸点から10℃以上低い温度である。中空糸膜であれば二重紡口の温度により決まる。なお、平膜においては凝固液温度で決まる。
【0219】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法に用いられる膜原液、凝固液、特に中空糸膜製造時に糸の内部を通す内部凝固液は均一溶解後に、溶存気体を除去することが望ましい。溶存気体を除去することで、溶存気体の発泡による膜の欠陥を著しく改善することができる。また、溶存気体のなかでも特に酸素を除くことで、高い温度下での膜加工による材料への酸化反応が減少する。膜原液および凝固液、内部凝固液に気体が溶存していない場合は、この工程を省略しても良い。また、乾湿式成膜法として空気、窒素、アンモニアガス等の気体を凝固剤として用いている場合には、この工程は実施しない。
【0220】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法で紡口から外部凝固液面までの距離(以後、空走距離)を設けて外部凝固液中に導入しても、あるいは直接外部凝固液に導入してもよい。空走距離は、紡糸原液が真っすぐに外部凝固液に進入する長さが好ましい。例えば、0.5m以下、好ましくは0.2m以下、特に好ましくは0.1m以下である。空走距離が長くなると成型性が悪くなり、中空糸形状を保持できなくなる。
本発明に係わる空走距離の空間における温度は、下限として10℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。湿度は温度との兼ね合いで変化するが、下限として0%以上、好ましくは10%以上、特に好ましくは30%以上であり、上限としては100%以下である。
紡糸原液は、下行管中を流下している段階で中空糸膜の形状を有するようになり、この中空糸膜は、上行管の開口部より引き出され巻取枠に巻取られる。
【0221】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法で中空糸膜を製造する場合の巻取り速度は、製造条件である各種因子、紡口の形状、紡糸原液の組成、内部凝固液および外部凝固液の組成、原液および各凝固液の温度等で変化し得るが、下限としては、100m/時間以上、より好ましくは200m/時間以上が良く、上限としては、1,000m/時間以下、より好ましくは500m/時間以下が良い。
【0222】
本発明に係わるセルロース系高分子膜を得る湿式成膜法においては、凝固液による凝固後、膜の強度を強めるため脱溶媒槽に浸漬して脱溶媒を促進することができる。脱溶媒液には、凝固液による濃度誘起相分離後、残存している溶媒を除去できる溶媒であり、膜を溶解しないものであればいずれの溶媒でも用いることが可能である。一般には、水、エタノール等を用いることが多い。
【0223】
本発明に係わる湿式成膜法により得られた未乾燥のセルロース系高分子膜の乾燥温度は、乾燥中の膜破断が生じない温度であれば何ら限定はしないが、例えば、20℃以上からセルロース系高分子の溶融温度以下の温度範囲内で乾燥を行う。乾燥温度は、下限としては、30℃以上、より好ましくは40℃以上が良く、上限としては、80℃以下、より好ましくは70℃以下が良い。乾燥に要する時間は、乾燥温度との関係で決まるが、概ね0.01〜48時間までが選択される。また、水および無機塩水溶液で精練された後に、グリセリンあるいはポリエチレングリコール等の公知の膜孔径保持剤が付与して、乾燥しても良い。
【0224】
本発明に係わる紡出筒中の外部凝固液の流れの速度(外部凝固液速度)は、巻取速度より極端に遅い場合は、紡出筒中で延伸がかかるようになり、好ましくない。本発明では、外部凝固液速度と巻取速度の関係は、その速度差が20%以下にあることが望ましい。
本発明に係わる外部凝固液速度は凝固浴中の浴抵抗を抑えるために早い方が良い。しかしながら、外液流速が速くなりすぎると中空糸膜の糸揺れが激しくなり紡糸が困難になるので、適切な値に設定する必要がある。最も好ましくは、中空糸膜の糸揺れが生じない範囲での最大流速を選ぶことである。
【0225】
本発明に係わる紡出筒の径は、大きい方が紡出作業は容易であるが、凝固液量を多量に必要とするために小さい方が望ましく、下限としては、3mm以上、より好ましくは5mm以上が良く、上限としては、20mm以下、より好ましくは10mm以下が良い。
本発明に係わる紡出筒の長さは、中空糸膜構造の形成に対応して適切な凝固時間を与え得るものでなければならないために、中空糸膜の紡糸速度に対応して適切な長さに設定されることが好ましい。その材質は、凝固液に対して耐久性のある素材であればどのような素材でも使用することが可能であるが、紡糸状態を観察することのできる透明の材質が望ましく、例えば、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等が使用できる。その中でも、紡糸原液が付着しにくいため紡出作業が容易であるという特徴をもつポリテトラフルオロエチレンが最も好適な材質である。
【0226】
本発明の限外濾過膜の膜厚は、下限としては15μm以上、好ましくは20μm以上が良く、上限としては2,000μm以下、好ましくは1,000μm以下、特に好ましくは500μm以下が良い。膜厚が15μm未満であると限外濾過膜の強度が不充分になる傾向があり好ましくない。また、2,000μmを超えると無機ナノ粒子の透過性能が不充分となる傾向があり好ましくない。
本発明に係わる限外濾過膜の中空糸の内表面、あるいは、平膜の片面に緻密な層を有している場合、その緻密層の厚みは、無機ナノ粒子溶液の透過を向上させるために通常100μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下が良い。
【0227】
本発明に係わる限外濾過膜の空孔率は、下限としては30%以上、好ましくは40%以上、特に好ましくは50%が良く、上限としては95%以下、好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下が良い。空孔率が30%未満であると濾過速度が不充分となり、95%を超えると限外濾過膜の強度が不充分となることから好ましくない。空孔率は、膜の断面積および長さから求めた見かけ体積と該膜の重量および膜素材の真密度から求めた数値である。
【0228】
本発明に係わる限外濾過膜の形状は、分画性能を発現できれば特に限定されるものではないが、例えば、中空糸状、平膜状、チューブ状等、種々の形状を用いることができるが、体積に比して濾過有効膜面積の大きい中空糸状が有効である。
本発明に係わる限外濾過膜の膜表面構造についてはとくに制限はなく、円形、楕円形等の単独孔や連続的に繋がった連続孔、網状微細孔、スリット状微細孔等が挙げられる。
【0229】
本発明における限外濾過膜は、無機ナノ粒子が接触する膜表面が限外濾過膜であれば良く、構造を保持するためには、如何なる材質から成る基材(支持体)を用いてもよい。例えば、物理的強度を高めるために他の基材(支持体)として織布又は不織布や多孔性無機体など用い、これらの基材の上に限外濾過膜を成型した膜などが挙げられる。
【0230】
本発明に係わるクロスフロー濾過を行うための装置は、無機ナノ粒子溶液の濃度や線速、濾過圧力などをコントロールできる装置であれば何ら限定しないが、例えば、無機ナノ粒子溶液の濃度を吸光度計でモニタリングし、無機ナノ粒子溶液の濃度を一定にするために希釈液を供給する装置と限外濾過膜に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力をコントロールする装置が一体となったクロスフロー濾過装置が挙げられる。
【0231】
具体的には、図1のようなクロスフロー濾過装置が挙げられる。無機ナノ粒子元液タンク(4)内の溶液の濃度を吸光度計が組み込まれた濃度コントローラー(11)でモニタリングし、その信号を送液ポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液用タンク(1)中の希釈液を添加しながら無機ナノ粒子元液タンク(4)中の溶液濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量をモニタリングし、圧力・流量コントローラー(12)から調整バルブ(7)と送液ポンプ2(3)に信号を送って、限外濾過膜モジュール(8)に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力が設定値になるようにコントロールする。得られた無機ナノ粒子透過液タンク(9)中の無機ナノ粒子透過液の濃度および粒子径分布を測定できる装置を本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
【0232】
本発明に係わる「無機ナノ粒子元液」とは、分画性能評価および分離を行うために使用する無機ナノ粒子溶液のことである。また、「無機ナノ粒子透過液」とは、「限外濾過膜」によって分離・透過した溶液のことである。
【0233】
また、図2のようなクロスフロー濾過装置でも良い。無機ナノ粒子元液タンク(4)と限外濾過膜モジュール(8)との間に濃度をモニタリングできる装置、例えば、UVフローセル(13)などを設け、無機ナノ粒子元液タンク(4)中の溶液濃度を濃度コントローラー(11)でモニタリングし、その信号を送液ポンプ1(2)に信号を送って回転をコントロールし、希釈液用タンク(1)中の希釈液を添加しながら無機ナノ粒子元液タンク(4)中の溶液濃度をコントロールする。さらに、圧力計1(5)および圧力計2(6)、流量計(10)で圧力と流量をモニタリングし、圧力・流量コントローラー(12)から調整バルブ(7)と送液ポンプ2(3)に信号を送って、限外濾過膜モジュール(8)に対して接線方向の線速と限外濾過膜を横切る圧力が設定値になるようにコントロールする。得られた無機ナノ粒子透過液タンク(9)中の無機ナノ粒子透過液の濃度および粒子径分布を測定できる装置が本クロスフロー濾過装置に連結していても良い。
【0234】
無機ナノ粒子を磁気テープ/磁性流体、触媒/触媒担体、研磨剤、ペースト、顔料焼結体の原料として用いる場合、不純物無機ナノ粒子は標的無機ナノ粒子からできるだけ除去した方が良い。従って、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の透過率比(透過率の低い無機ナノ粒子の透過率を透過率の高い無機ナノ粒子の透過率で割ったもの)は0.20以下が良く、好ましくは0.15以下、より好ましくは、0.1以下である。透過率比が低い程、一方の無機ナノ粒子の透過率が低く、他方の透過率が高いことを示し、分画性能が高いことを示している。
【0235】
本発明に係わる透過率および透過率比を測定する方法としては、動的光散乱測定などの粒度分布測定、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による観測、高速液体クロマトグラフフィー法、核磁気共鳴法、質量分析法、赤外分光法などの結果より算出する方法が挙げられるが、算出することができれば、これらに限定するものではない。
【0236】
本発明における限外濾過膜モジュールとは、例えばケーシング内に平膜もしくは中空糸膜を収容したものであり、少なくとも、無機ナノ粒子溶液をケーシング内に注ぎ込む液体流入口を一つ以上、分離された液体を導出するための液体流出口を一つ以上供えたものをいう。モジュールに使用するケーシングは一つ以上のケーシング部品から組み立てられる。ケーシング部品の材料は金属、ガラス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など、必要に応じて選択できる。好適な材料は、内部の様子が観察可能な透明性を有する熱可塑性樹脂材料であり、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、硬質塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。特に好適なものは透明性を有する非晶性樹脂であり、ポリスチレンブタジエン共重合体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0237】
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングを組み立てる際に使用されるケーシング部品の製造方法は、成型加工が可能であれば何ら限定しないが、例えば、溶接、プレス成型、射出成型、反応射出成型、超音波圧着、プラズマ融着、接着剤による接着などである。これらは単独でも2つ以上組み合わせても良い。特に好適なケーシング部品の製造方法としては材料に透明性を有する熱可塑性樹脂を用いた射出成型品と適切な接着剤で封止する方法である。
【0238】
本発明に係わるモジュールに使用するケーシングおよび/またはケーシング部品には成型中、および/または成型後、および/または組み立て中、および/または組み立て後に、分離処理される液体と接触および/または接触しない表面に表面加工が実施できる。表面加工には種々の方法があるが、例えば親水化をする場合は親水性高分子の塗布や空気中でのプラズマ処理による表面酸化などが、疎水化する場合は撥水剤および/または離型剤の塗布が、また酸素透過を減少させる場合には蒸着法などにより酸化ケイ素膜をはじめとする各種無機コートを実施することができる。ケーシングおよび/またはケーシング材料への親水化加工を行うことでモジュール組み立て時に同種および/または異種材料界面の接着性制御が容易になり、疎水化加工を行うことで組み立て時に一時的に使用される各種保護フィルムなどとの剥離性を向上させることができる。
【0239】
本発明に係わるモジュールの構造は、使用する膜の形状、例えば中空糸や平膜によって異なるが、中空糸や平膜などがケーシング内に適切に収容され、分離処理される無機ナノ粒子溶液が混ざらない構造であれば良い。また金属メッシュや不織布などを膜の保持材として組み合わせてケーシングに収容し、モジュール化することもできる。
【0240】
本発明に係わる分離方法は、サイズ分画によって分離する方法であるため、無機ナノ粒子の分離精製に関連するあらゆるプロセスに適応可能である。例えば電子材料分野、医薬品分野、飲食料品分野における無機ナノ粒子の分離精製を目的とする用途に利用できる。
【実施例】
【0241】
本発明を次に実施例および比較例によって説明するが、これらに限定されるものではない。
【0242】
[ポリスルホン系高分子膜の製造例]
<中空糸膜(PSf−1)の製造方法>
1,650gのN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業(株)製、以下、DMAcと略す)に280gのポリスルホン(P1700、UCC社製、以下PSfと略す)および110gのポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製、以下PVPと略す)を加え、膜原液用の5,000×10−6反応器に注ぎ込んだ。反応器の攪拌をしながら減圧と窒素置換を5回繰り返した。その後、60℃に反応器内液温度をあげ、均一なPSfのDMAc溶液を得た。均一に溶解したことを確認し、この段階で攪拌を停止し、減圧にして脱泡を行った。その後、大気圧と同じ圧力に戻し、60℃に保持された紡糸用の膜原液を得た。
純水450gにDMAc550gを混合し、内部凝固液用の3,000×10−6反応器に加えた。減圧と窒素置換を5回繰り返し、内部凝固液を得た。
60℃に保持された2重紡口(内直径100μm、スリットの幅50μm、外直径300μm)に内部凝固液をおよび膜原液を通液させた。それぞれの流速は紡糸時の巻取り速度に応じて適宜調整した。
得られた中空糸膜は空走距離0.6mで、60℃に保持された凝固槽中の外部凝固液(純水)中に導かれ、凝固を完了させたあと、巻取り装置で巻き取った。巻取り速度としては2,400m/時間から4,800m/時間で巻き取ることができた。
その後、得られた中空糸膜は60℃の純水を用いて浸漬・洗浄を繰り返し、その後70℃の熱風乾燥機で6時間乾燥した。この製造方法により、分画粒子径12.3nm、内径207μm、膜厚41μmのポリスルホン系高分子膜を製造することができた。

<中空糸膜(PSf−2)の製造方法>
内部凝固液の組成(純水/DMAc)および膜原液中のポリスルホン濃度を変化させ、PSf−1の製造方法と同等の条件で行うことにより、分画粒子径25.0nm、内径205μm、膜厚43μmのポリスルホン系高分子膜を製造することができた。
【0243】
<中空糸膜(PSf−3)の製造方法>
内部凝固液の組成(純水/DMAc)および膜原液中のポリスルホン濃度を変化させ、PSf−1の製造方法と同等の条件で行うことにより、分画粒子径3.8nm、内径208μm、膜厚40μmのポリスルホン系高分子膜を製造することができた。
【0244】
<中空糸膜(PSf−4)の製造方法>
内部凝固液の組成(純水/DMAc)および膜原液中のポリスルホン濃度を変化させ、PSf−1の製造方法と同等の条件で行うことにより、分画粒子径41.5nm、内径203μm、膜厚43μmのポリスルホン系高分子膜を製造することができた。
【0245】
<無機ナノ粒子溶液の調製>
コロイダルシリカ溶液(日産化学工業(株)製)を0.45μmメンブレンフィルター(アドバンテック(株)製)を用いて、凝集した巨大な不溶物を除去した後、蒸留水(和光純薬工業(株)製)で希釈して、所定濃度のコロイダルシリカ溶液を調整した。
【0246】
<分画粒子径の測定>
中空糸膜の中空部分の断面積合計が0.005mとなるように本数を取り出し、分画粒子径測定用の糸束を作製した。その中空糸膜モジュールおよび粒子径の異なる3種のコロイダルシリカ溶液(濃度:10g/L)を用いて、中空糸膜中での線速が10cm/秒、中空糸膜出側圧力の平均が0.010MPaとなる条件でクロスフロー濾過を各溶液それぞれ行った。コロイダルシリカのグレードは、XS、20、50で、これらの粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観測を行い、画像解析によって100個以上の粒子の粒子径の平均値を算出した結果、8.8、14.7、25.8nmであった。
濾過開始から10分の間に透過したコロイダルシリカ透過液および元液中のコロイダルシリカ濃度を分光光度計(測定波長:190nm)で測定し、濾過前後の吸光度から、下記式(28)を用いて、それぞれの阻止率を算出した。コロイダルシリカの粒子径と阻止率の関係から、阻止率50%の時の粒子径を求め、その値を分画粒子径と定めた。
阻止率(%)=(1−元液の吸光度/透過液の吸光度)×100 (28)

【0247】
<透過率比を評価する方法>
透過率比を測定する方法としては、動的光散乱測定などの粒度分布測定、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による観測、高速液体クロマトグラフフィー法、核磁気共鳴法、質量分析法、赤外分光法などの結果より算出する方法が挙げられるが、算出することができれば、これらに限定するものではない。
本発明においては、元液および透過液をカーボン支持膜上に滴下、風乾して、検鏡試料とし、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所製、HF−2000)を用い、加速電圧200kVで観測し、粒子の透過率を測定した。
【0248】
[実施例1]
中空糸膜(PSf−1)の中空部分の断面積合計が0.005mとなるように本数を取り出し、コロイダルシリカ分離性能評価用の糸束を作製した。その糸束を図3に示すようなクロスフロー濾過装置に接続する。
次に、5g/LのコロイダルシリカXS(粒子径:8.8nm)および5g/Lのコロイダルシリカ50(粒子径:25.8nm)を含有するコロイダルシリカ溶液(粒子径の平均値は、17.3nm)を調整した。調整したコロイダルシリカ溶液を装置にセットし、中空糸膜中での線速が10cm/秒、中空糸膜出側圧力が0.010MPaとなるよう送液ポンプ2(3)を回転させ、調整バルブ(7)で調整した。濾過中、コロイダルシリカ濃度が常に一定になるように希釈液用タンク(1)内の蒸留水を無機ナノ粒子元液タンク(4)内に添加する。25℃で60分間クロスフロー濾過を行った。濾過終了後、透過液をカーボン支持膜上に滴下、風乾して、透過型電子顕微鏡(TEM)で観測した結果、コロイダルシリカXSは観測されるもののコロイダルシリカ50に相当する無機ナノ粒子は全く観測されなかった。コロイダルシリカ50の透過率を0%と近似し、コロイダルシリカXSの透過率を下記式(29)から算出すると、82.3%であった。
T=[1−(V×A/A)/(V×A)]×100 (29)
T:コロイダルシリカXSの透過率(%)
:透過液の容量(L)
:透過液の吸光度(Abs)
A:1g/Lのコロイダルシリカ溶液の吸光度(Abs)
:元液の容量(L)
:元液のコロイダルシリカXSの濃度(5g/L)

以上の結果から、分画粒子径12.3nmの限外濾過膜を用いて、クロスフロー濾過することにより、コロイダルシリカ粒子の25.8nmと8.8nmの分離を行うことができ、コロイダルシリカXSを82.3%の高い透過率で回収することができた。
[実施例2]
中空糸膜(PSf−1)を中空糸膜(PSf−2)に変えた以外、実施例と同様の方法でクロスフロー濾過実験を行った。透過液を透過型電子顕微鏡で観測した結果、コロイダルシリカXSは観測されるもののコロイダルシリカ50に相当する無機ナノ粒子は微量観測されるのみであった。
【0249】
[比較例1]
中空糸膜(PSf−1)を中空糸膜(PSf−3)に変えた以外、実施例と同様の方法でクロスフロー濾過実験を行った。透過液を透過型電子顕微鏡で観測した結果、コロイダルシリカXSおよびコロイダルシリカ50は、ともに観測されなかった。
この結果から、コロイダルシリカXSもコロイダルシリカ50も共に濾過されず、分離できていないことを示す。
【0250】
[比較例2]
中空糸膜(PSf−1)を中空糸膜(PSf−4)に変えた以外、実施例と同様の方法でクロスフロー濾過実験を行った。透過液を透過型電子顕微鏡で観測した結果、元液と透過液と同等の状態であり、濾過前後で溶液中に含まれるコロイダルシリカXSおよびコロイダルシリカ50の粒子数にほとんど変化はなかった。
この結果から、コロイダルシリカXSもコロイダルシリカ50も共に膜透過し、分離できていないことを示す。
【0251】
[比較例3]
実施例と同等の中空糸膜(PSf−1)モジュールを用いて、図4のデッドエンド濾過装置を使用してデッドエンド濾過を行った。バルブ1(17)を開放しバルブ2(18)を閉塞した状態で圧力調整機(14)を作動させ、中空糸膜入り側圧力を0.01MPa、25℃に設定してデッドエンド濾過を行なった。
この場合、濾過直後から閉塞が始まり、10分後には、ほとんど透過液が得られなかった。以上の結果から、デッドエンド濾過では、無機ナノ粒子の分離精製が困難である。
【産業上の利用可能性】
【0252】
本発明に係わる分離精製方法は、電子材料分野、医薬品分野、飲食料品分野などにおける無機ナノ粒子の分離・精製分野で好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0253】
【図1】本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。
【図2】本発明のクロスフロー濾過装置を例示する図である。
【図3】本発明のクロスフロー濾過方法を例示する図である。
【図4】デッドエンド濾過方法を例示する図である。
【符号の説明】
【0254】
1 希釈液用タンク
2 送液ポンプ1
3 送液ポンプ2
4 無機ナノ粒子元液タンク
5 圧力計1
6 圧力計2
7 調整バルブ
8 限外濾過膜モジュール
9 無機ナノ粒子透過液タンク
10 流量計1
11 濃度コントローラー
12 圧力・流量コントローラー
13 UVフローセル
14 圧力調整機
15 圧力計4
16 無機ナノ粒子元液タンク
17 バルブ1
18 バルブ2
19 限外濾過膜モジュール
20 透過液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分画粒子径が、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.5倍以上2倍以下である限外濾過膜を用いて、粒子径比が1.5以上10以下であり、その粒子径が1nm以上500nm以下である標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液をクロスフロー濾過することにより、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を分離することを特徴とする分離精製方法。
【請求項2】
該限外濾過膜の分画粒子径が、標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の粒子径の平均値の0.6倍以上1.2倍以下であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液の無機ナノ粒子の濃度が、1〜150g/Lであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子を含有する溶液の無機ナノ粒子の濃度を100としたとき、クロスフロー濾過中の無機ナノ粒子の濃度変化を50〜200に維持しながら、クロスフロー濾過を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該標的無機ナノ粒子と不純物無機ナノ粒子の少なくともどちらか一方が、シリカであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
該限外濾過膜が、ポリスルホン系高分子、芳香族エーテル系高分子、(メタ)アクリル系高分子、(メタ)アクリロニトリル系高分子、フッ素系高分子、オレフィン系高分子、ビニルアルコール系高分子、セルロース系高分子からなる群から選ばれる1種以上の高分子からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該高分子が、ポリスルホン系高分子であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該ポリスルホン系高分子が下記式(1)〜(3)で表されるポリスルホン系高分子の少なくとも1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項7に記載の方法。 [化1]

[化2]

[化3]

【請求項9】
該限外濾過膜が、中空糸膜であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置を用いて行う請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
(イ)無機ナノ粒子元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)無機ナノ粒子元液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)無機ナノ粒子元液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法に使用するモジュールおよび下記(イ)〜(ニ)からなる手段の1つ以上の手段を含む装置。
(イ)無機ナノ粒子元液の濃度をモニタリングできる手段
(ロ)無機ナノ粒子元液の濃度をコントロールできる手段
(ハ)無機ナノ粒子元液の線速をコントロールできる手段
(ニ)限外濾過膜の濾過圧力をコントロールできる手段

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−46621(P2010−46621A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213925(P2008−213925)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】