説明

無機微粒子凝集体の製造方法および無機微粒子を含有する樹脂組成物の製造方法

【課題】無機微粒子を、粉舞を回避して使用することができ、かつ、生産性低下やランニングコスト上昇を招くことなく、無機微粒子を分散した樹脂組成物を製造することができる技術を提供する。
【解決手段】無機質原料を、好適には無機系廃棄物由来の無機微粒子を、平均粒径(d50)が3μm以下、かつ、最大粒径20μm以下の無機微粒子になるまで湿式粉砕し、該無機微粒子を含むスラリーを形成する工程と、前記スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程と、を含む無機微粒子凝集体の製造方法。該製造方法にて得られた無機微粒子凝集体は、粉舞が起こりづらく、流動性が高いためハンドリング性がよい。また、樹脂ペレットと混合するときの圧力にて破壊されるため、該無機微粒子凝集体を使用することにより、無機微粒子を均一に混合した樹脂組成物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子凝集体の製造方法および無機微粒子を含有する樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮の観点から、廃棄物の有効利用を図る有効利用方法に関する技術が提案されている。特に焼却処理などが困難な無機系廃棄物のリサイクルが注目されている。
【0003】
無機系廃棄物は、例えば、卵殻、貝殻、骨類等の炭酸カルシウムを主成分とする生体由来の無機廃棄物と、陶器片、砕石廃泥、建設廃棄物等に由来する非生体由来の無機系廃棄物とに大別される。
これらの無機系廃棄物の有効利用を図る研究が盛んに行なわれている。その一つとして、無機系廃棄物を粉砕して無機微粒子とし、樹脂と複合化する方法がある。樹脂に無機微粒子を添加することにより、耐久性、機械的強度等を改善することができる。
【0004】
無機微粒子と樹脂との複合化は、通常、樹脂ペレットと無機微粒子とを混合容器内で混合しながら加熱し、樹脂ペレットを軟化して無機微粒子と混練することにより行われる(例えば、特許文献1参照)。この際、無機微粒子は、その平均粒径が5μm以下程度になると嵩密度が小さくなり、軟化前の樹脂ペレットと混合したときに、無機微粒子が混合容器の上部に浮き上がることがある。その結果、樹脂ペレットが軟化する前に無機微粒子と樹脂とが分離するため、得られる樹脂組成物の中の無機微粒子の分布が不均一になるという不具合があった。
【0005】
また、5μm以下程度の無機微粒子を使用すると、微粒子が舞い上がる、いわゆる粉舞が生じる。粉舞が起こると、無機微粒子の定量が困難になったり、微粒子粉塵を吸い込むことで人体に悪影響を及ぼすなどの問題がある。
【0006】
一方、無機微粒子を加圧固化し、これを樹脂ペレットと混合する方法もあるが、この場合、加圧固化された無機微粒子と軟化前の樹脂ペレットとの混合性は向上するものの、加圧により無機微粒子が強固に結着するため、無機微粒子が単分散せずに塊として樹脂中に含まれるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−51844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように無機微粒子を、樹脂内に均一に混練する技術に関しては、いまだ課題が多いのが実情である。
かかる状況下、本発明の目的は、無機微粒子、特に無機系廃棄物由来の無機微粒子を、粉舞を回避して使用することができ、かつ、生産性低下やランニングコスト上昇を招くことなく、無機微粒子を分散した樹脂組成物を製造することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、湿式粉砕により無機質原料を無機微粒子に粉砕し、これを特定の乾燥法にて乾燥することによって、粉舞が抑制され、かつ、樹脂との混合性に優れた無機微粒子凝集体を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 無機質原料を、平均粒径(d50)が3μm以下、かつ、最大粒径20μm以下の無機微粒子になるまで湿式粉砕し、該無機微粒子を含むスラリーを形成する工程と、
前記スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程と、
を含む無機微粒子凝集体の製造方法。
<2> すべての無機微粒子凝集体の粒径が100μm以下であり、かつ、すべての無機微粒子凝集体における、粒径が25μm以上63μm未満の無機微粒子凝集体の割合が、50重量%以上である前記<1>記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
<3> 無機質原料が、無機系廃棄物由来である前記<1>または<2>に記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
<4> 無機系廃棄物が、炭酸カルシウムを主成分とする無機系廃棄物である前記<3>に記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
<5> 無機系廃棄物が、卵殻由来である前記<4>に記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
<6> スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程の前に、該スラリー中の無機微粒子以外の不純物を除去する工程を含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の製造方法にて得られた無機微粒子凝集体と、樹脂原料とを混練する無機微粒子を含有する樹脂組成物の製造方法。
<8> 無機微粒子凝集体と樹脂原料との重量比が、1〜50/99〜50である前記<7>記載の樹脂組成物の製造方法。
<9> 樹脂原料が、ABS樹脂、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群より選択される1または複数である前記<7>または<8>に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適度な結合力で凝集した無機微粒子凝集体を製造することができる。
この無機微粒子凝集体は、粉舞が生じづらく、流動性が高いため、ハンドリング性がよい。また、適度な圧力にて破壊されるため、該無機微粒子凝集体を使用することにより、無機微粒子を均一に混合した樹脂組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1に係るスラリーに含まれる無機微粒子の粒度分布である。
【図2】実施例1の無機微粒子凝集体(噴霧乾燥機本体)の電子顕微鏡像(300倍)である。
【図3】実施例1の無機微粒子凝集体(サイクロン)の電子顕微鏡像(300倍)である。
【図4】実施例1の無機微粒子凝集体の電子顕微鏡像(1900倍)である。
【図5】加圧により破割した実施例1の無機微粒子凝集体の電子顕微鏡像(1500倍)である。
【図6】実施例2に係るスラリーに含まれる無機微粒子の粒度分布である。
【図7】比較例1に係るスラリーに含まれる無機微粒子の粒度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、無機質原料を、平均粒径(d50)が3μm以下の無機微粒子になるまで湿式粉砕し、該無機微粒子を含むスラリーを形成する工程と、前記スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程と、を含む無機微粒子凝集体(単に「微粒子凝集体」と呼ぶ場合がある。)の製造方法に係るものである。
【0014】
本発明の無機微粒子凝集体の製造方法では、平均粒径(d50)が3μm以下、かつ、最大粒径20μm以下の無機微粒子を含むスラリーを、噴霧乾燥法にて乾燥、すなわち、スラリーを液滴として乾燥炉内に噴霧し、スラリーの媒体を蒸発させて乾燥することにより、無機微粒子凝集体を得る。得られた無機微粒子凝集体は、スラリーの媒体を蒸発することによって無機微粒子自体の凝集力によって結合しているため、適度な圧力をかけることにより崩壊し、無機微粒子凝集体を構成する微粒子のそれぞれが分離する性質を有す。 また、無機微粒子凝集体の粒径は、噴霧された液滴の大きさに由来するため、噴霧条件を制御することにより、均一性の高い粒径分布を有する無機微粒子凝集体を再現性よく製造することができる。
【0015】
無機質原料としては、無機成分を含むものであればよい。無機成分として、具体的には、シリカ、アルミナ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩などを挙げることができ、これらの混合物であってもよい。
本発明の製造方法では、リサイクルの観点から無機系廃棄物を粉砕して好適に使用することができる。
無機系廃棄物としては、例えば、卵殻、貝殻、骨類等の炭酸カルシウムを主成分とする生体由来の無機系廃棄物と、陶器片、砕石廃泥、建設廃棄物等に由来する非生体由来の無機系廃棄物のいずれも使用することができる。なお、無機系廃棄物を原料として使用する場合には、通常、事前に不純物除去が行われる。
【0016】
ここで、樹脂に添加した際に耐熱性や機械的強度を付与できるため、炭酸カルシウムを主成分とする生体由来の無機廃棄物を使用することが好ましい。ここで、炭酸カルシウムを主成分とするとは、炭酸カルシウムの総重量の60重量%以上(好適には、80重量%以上)含有することを意味する。
炭酸カルシウムを主成分とする生体由来の無機廃棄物の中でも、特に卵殻は炭酸カルシウムの含有量が高く、水分を含みにくいことから好適に使用される。なお、卵殻は、鶏の卵殻のみならずいかなる鳥の卵殻でもよいが、入手性などの観点からは、通常、鶏の卵殻が使用される。
なお、原料として卵殻を使用する場合には、湿式粉砕の前に、蛋白質除去の前処理(例えば、アルカリ処理)を行うことが好ましい。
【0017】
これらの無機質原料は、湿式粉砕により、平均粒径(d50)が、3μm以下、好ましくは2.5μm以下、特に好ましくは2μm以下の無機微粒子になるまで粉砕される。なお、無機微粒子の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定により得られる。
無機微粒子の平均粒径(d50)が、3μmを超えると無機微粒子の凝集力が不十分になり、無機微粒子凝集体が形成できなかったり、無機微粒子凝集体にクラックができるなどの問題がある。また、保管時などに無機微粒子凝集体が崩壊するおそれがある。
無機微粒子は、上記平均粒径(d50)を満たし、かつ、粒径が20μm超の粒子を実質的に含まないことを必須とし、15μm超の粒子を実質的に含まないことが好ましく、特に好ましくは10μm超の粒子を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定において、頻度が0.2%以下であることをいう。このような大粒子を含むと、無機微粒子を樹脂に添加した場合の品質に問題が生じるためである。
【0018】
スラリーを形成する工程における湿式粉砕は、従来公知の湿式混合機を使用することができる。すなわち、ボールミル(チューブミル、コンパウンドミル、円錐形ボールミル、ロッドミル)、振動ミル、コロイドミル、摩擦円盤ミル分散機による粉砕が挙げられ、ボールミルによる粉砕が一般的である。この粉砕時には、不純物混入を避けるために、硬質で化学的安定性の高いジルコニアボールを使用することが好ましい。
粉砕時間は、原材料の種類や処理量によって適宜決定すればよく、スラリーに含まれる無機微粒子の粒径が上記値になるまで粉砕される。具体的には、原材料として蛋白質除去済の卵殻を使用する場合には、30分から3時間程度である。
【0019】
スラリーの媒体としては、スラリーの媒体は、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール等のアルコール類などが挙げられる。通常、水である。
【0020】
スラリー中の固形分(無機微粒子)の濃度は、無機微粒子が均一に分散でき、かつ、後工程である噴霧乾燥法の際にスムーズに噴霧できる範囲で決定され、通常、10〜70重量%、好適には40〜60重量%である。固形分濃度が70重量%を超えると、供給ライン等が無機微粒子で閉塞しやすくなり、10重量%未満の場合は十分な生産性が得られない場合がある。
【0021】
スラリー中の無機微粒子の分散性を高める観点から、分散促進剤を添加してもよい。分散促進剤として、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、高分子系界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることができる。
【0022】
また、生産性向上の観点からは、無機質原料は、湿式粉砕によって無機微粒子を含むスラリーを形成する工程に供される前に、原料を20〜100μm程度まで予備粉砕を行うことが好ましい。予備粉砕を行うことによって、その後のスラリーを形成する工程における湿式粉砕の効率を向上させると共に、上記の大粒子が存在する確率を低減させることができる。
予備粉砕は、乾式、湿式のいずれによってもよく、衝撃摩擦粉砕機、遠心力粉砕機、ボールミル、振動ミル、コロイドミル、摩擦円盤ミルまたはジェットミルなどの微粉砕用の粉砕機など公知の粉砕方法によって行えばよい。
【0023】
また、本発明の製造方法において、スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程の前に、該スラリー中の無機微粒子以外の不純物を除去する工程を含むことが好ましい。
上述のように無機系廃棄物を使用した場合には、通常、湿式粉砕によって無機微粒子を含むスラリーを形成する工程に供される前、あるいは予備粉砕の前に、原料から不純物の除去を行うが、粉砕前の原料は塊状であり、不純物の除去が不十分になる場合がある。特に生体由来の無機廃棄物の場合は、原料粉砕前の不純物除去では、蛋白質の除去が不十分な場合が多い。
湿式粉砕によって原料を無機微粒子に粉砕する際に、付着していた不純物がスラリーの媒体に遊離するが、無機微粒子以外の不純物を含むスラリーを後工程である噴霧乾燥に供した場合、供給ラインやノズルの閉塞の原因となったり、製造される無機微粒子凝集体の品質が低下するおそれがある。また、不純物を含む無機微粒子凝集体を樹脂に添加する場合と、樹脂との混合性が悪化したり、製造された樹脂組成物の品質が低下する場合がある。
そのため、スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程の前に、スラリーの媒体に遊離した不純物成分を分離する工程を設けることにより、上記の問題を回避することが好ましい。
スラリー中の無機微粒子と、スラリー中の媒体に遊離した不純物成分を分離する方法としては、沈降分離、遠心分離など従来公知の分離方法を用いることができる。
特に原料が卵殻などの生体由来の無機廃棄物である場合には、スラリーを強撹拌することによって、蛋白質などを含む泡状の不純物としてスラリーから分離して取り除くこともできる。
【0024】
次いで、スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程について説明する。
この工程では、上記工程にて得られたスラリーを、公知の噴霧乾燥機を用い、乾燥機中にスラリーを噴霧し、スラリーに含まれる媒体を蒸発させることにより、行うことができる。
【0025】
噴霧乾燥において、スラリーを霧状に噴霧する方法としては、超音波噴霧法、回転円盤を用いる回転円板噴霧法、圧力ノズルによる加圧噴霧法等があり、このいずれも使用することができるが、ハンドリング性、量産性の観点からは、回転円板噴霧法が好適である。
【0026】
回転円板噴霧法において、スラリーの噴霧速度は、回転円板の回転速度で制御でき、原料となる無機質原料の種類、使用するスラリーの固形分濃度、目的とする無機微粒子凝集体の大きさなどを考慮して適宜決定される。
【0027】
噴霧乾燥の時の温度は、噴出されるスラリーからなる液滴の大きさ、乾燥機の大きさなどによって適宜決定されるが、通常、120〜250℃である。120℃未満では、スラリーの媒体が十分に蒸発しないおそれがあり、250℃を超えるとエネルギー効率的に不利であるだけでなく、形成される無機微粒子凝集体に形状欠陥品が多くなるおそれがある。
【0028】
ここで、すべての無機微粒子凝集体の粒径が100μm以下のであり、かつ、すべての無機微粒子凝集体における、粒径が25μm以上63μm未満の無機微粒子凝集体の割合が、50重量%以上(好適には60重量%)であることが好ましい。なお、無機微粒子凝集体の粒径分布は、篩を使用した粒径分布計を使用して求めることができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて直接無機微粒子凝集体を観察することにより測定することができる。
製造される無機微粒子凝集体に、100μmを超える粒径の無機微粒子凝集体が含まれると、樹脂と混合したときに、樹脂中の無機微粒子の分布の均一性が悪くなることがある。そのため、すべての無機微粒子凝集体の粒径が、100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。
また、粒径が25μm以上63μm未満の無機微粒子凝集体は、表面にクラックなどの欠陥が生じづらく、より均一な構造を有するため、特に樹脂への混合に適している。
そのため、すべての無機微粒子凝集体における、粒径が25μm以上63μm未満の無機微粒子凝集体の割合が、50重量%以上、好ましくは、60重量%以上であると、無機微粒子凝集体がより均一となり、欠陥も少なくなり、樹脂への混合性も向上する。
【0029】
本発明の製造方法にて製造した無機微粒子凝集体の好適な回収機構としては、噴霧乾燥機にと、その噴霧乾燥機に接続された補集装置とを基本構成としているものである。
噴霧乾燥機で製造された無機微粒子凝集体は、ブロワー等にて空気輸送され補集装置で回収される。補集装置としては、サイクロン、バグフィルター等が用いられる。
ここで、ガス流量などを制御することで、無機微粒子凝集体の粒径選別を行うことができる。すなわち、重量の小さい小径(例えば、粒径25μm以下)の無機微粒子凝集体は、気流と共に移動して補集装置にて回収し、重量の大きい大径(例えば、25μm超)の無機微粒子凝集体は、気流で移動せずに噴霧乾燥機にて回収することができる。この場合、分離の進行状況に応じて気流の流量を変化させると良い。
【0030】
本発明の製造方法にて得られた無機微粒子凝集体は、無機微粒子が凝集しているため微粒子特有の粉舞の問題がほとんど生じず、球状で粒径が揃い流動性がよいため、ハンドリング性に優れる。また、上述したように適度な圧力をかけることにより崩壊し、無機微粒子凝集体を構成する微粒子のそれぞれが分離する性質を有する。
そのため、樹脂への混合用フィラーの用途のみならず、研磨剤、紙やゴム製品の添加剤などの用途に好適に使用することができる。
【0031】
次に、本発明の無機微粒子を含有する樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0032】
樹脂原料としては、熱可塑性樹脂が好適に使用される。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレン(LDPEおよびHDPEのいずれでもよい)、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、AS樹脂、ABS樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用することもできる。この中でも、好適には、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリスチレンから選ばれる一種または複数種である。また、樹脂原料としては、天然ゴムまたは各種合成ゴムも使用できる。なお、樹脂原料は、通常、樹脂ペレットの形態で反応器に供される。
【0033】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、原料として、上述の製造方法にて得られた無機微粒子凝集体と、樹脂原料としての樹脂ペレットとを撹拌して加熱し、両者を均一になるまで混合することによって無機微粒子を含有する樹脂組成物を得る。無機微粒子凝集体と樹脂原料とを混練する工程で、無機微粒子凝集体が加圧により崩壊して無機微粒子のそれぞれがバラバラに分離し、その結果、樹脂組成物中に分散し易くなる。また、無機微粒子凝集体は、無機微粒子そのものと比較して嵩密度が大きいため、軟化前の樹脂ペレットと混合したときに、無機微粒子が混合容器の上部に浮き上がるという問題が回避できる。
なお、混練装置としては、従来公知の樹脂混合機を用いることができる。混練温度は、樹脂原料の種類にもよるが、通常、150〜250℃の範囲で行われる。
【0034】
無機微粒子凝集体と樹脂原料との好適な混合割合は、無機微粒子凝集体と樹脂原料との重量比が、1〜50/99〜50である。無機微粒子凝集体と樹脂原料との重量比がこの範囲にあると、再現性よく均一に無機微粒子が分散した樹脂組成物を得ることができる。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物は、本願発明の効果を損なわない範囲で任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、顔料、染料、酸化防止剤、耐候性改良剤、造核剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤及びその他の樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明の樹脂組成物の成形体の製造方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、回転成形法、真空成形法、発泡成形法、ブロー成形法等の成形法が挙げられる。また、マスターバッチとして、射出成形機にて成形する方法が挙げられる。この場合、具体的には、混練後の無機微粒子を含有する樹脂組成物を射出成形機に投入し、成形する。射出温度として好ましくは180〜240℃である。
得られた成形体は、無機微粒子が均一に分散しているため、耐久性や機械的強度の向上など無機微粒子添加に起因した優れた性質を有する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
無機質原料として、卵殻を使用した。水洗後の予備粉砕として卵殻を乾式粉砕機により粉砕したのち、アルカリ処理によって卵殻に付着した蛋白質成分の除去を行った。
粉砕後の卵殻(粒径:20μm以上)50重量部と水50重量部とを混合槽に入れ、分散剤を添加し、均一になるまで撹拌した。次いで、卵殻と水との混合物約300kgを、湿式粉砕機(アシザワファインテック株式会社製)に入れ、湿式粉砕を行い、スラリーとした。
スラリーの一部をサンプリングし、乾燥させて後に残存した粒子をレーザー回折散乱式粒度分布測定法(日機装株式会社製、型番:マイクロトラックMT3300)にて粒径を評価した。粒度分布を図1に示す。なお、図1に示すようにスラリーに含まれる無機微粒子の平均粒径(d50)は、1.46μmであり、すべての粒子が粒径10μm未満であった。
【0039】
得られたスラリーを、捕集装置としてサイクロンを備えた噴霧乾燥機(大川原化工機株式会社製、回転円板式)にて噴霧乾燥を行うことにより、実施例1の無機微粒子凝集体を得た。
噴霧条件は、乾燥機入口温度220℃、出口温度106℃、アドマイザ回転数17000rpm、サイクロン差圧0.50kPaの条件である。なお、噴霧乾燥機とサイクロンで回収された無機微粒子凝集体の割合は、2:1程度であった。噴霧乾燥機本体とサイクロンで回収された無機微粒子凝集体の嵩密度を求めたところ、それぞれ0.83g/mlであり、ほぼ同じ密度で無機微粒子が凝集していることが確認された。得られた無機微粒子凝集体(噴霧乾燥機本体で回収)の残留水分を、105℃/2hの条件で水分計にて蒸発する水分から求めたところ、0.44重量%であった。
【0040】
無機微粒子凝集体の粒径分布を、粒径分布計および走査型顕微鏡にて評価した。
また、図2に噴霧乾燥機本体、図3にサイクロンで回収したそれぞれの無機微粒子凝集体の走査型顕微鏡像を示す。図2および図3から無機微粒子凝集体は、すべてが100μm以下であることがわかる。また、噴霧乾燥機本体で回収した無機微粒子凝集体の方が、サイクロンで回収した無機微粒子凝集体より全体的に粒径が大きかった。
図4に噴霧乾燥機本体で回収した無機微粒子凝集体の拡大像を示す。無機微粒子凝集体は真球状であり、破損ひび割れはほとんど見られなかった。また、図5に示す無機微粒子凝集体を加圧して破割させたSEM像から、適度な空隙を持って無機微粒子が凝集していることが確認された。
【0041】
次いで、噴霧乾燥機本体で回収した無機微粒子凝集体の粒径分布を評価した。
粒径分布計は、株式会社セイシン企業製の自動乾式音波ふるい分け粒度分布測定器(株型番:ロボットシフターRPS-105)を使用した。結果を表1に示す。
表1から、全体の60重量%以上が、25μm以上63μm未満の領域にあることが確認された。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2)
湿式粉砕の時間を変え、図6の粒度分布を有する無機微粒子(d50=2.49μm)を含むスラリーを使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の無機微粒子凝集体を得た。なお、図6に示すようにスラリーには、粒径20μmを超える無機微粒子が含まれていなかった。
該無機微粒子凝集体を電子顕微鏡にて測定したところ、実施例1と同様に真球状であり、破損ひび割れはほとんど見られなかった。
【0044】
(比較例1)
湿式粉砕の時間を変え、図7の粒度分布を有する無機微粒子(d50=2.44μm)を含むスラリーを使用した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の無機微粒子凝集体を得た。なお、図7に示すようにスラリーには、粒径20μmを超える無機微粒子が含まれていた。該無機微粒子凝集体を電子顕微鏡にて測定したところ、破損ひび割れが多く確認された。
【0045】
「無機微粒子を含有する樹脂組成物の製造」
(樹脂組成物1の製造)
実施例1の無機微粒子凝集体10重量部、ABS樹脂ペレット(日本エイアンドエル株式会社製、クララスチックGA−501)90重量部、二軸押出機(長田製作所株式会社製)で混合しながら、約220℃まで加熱し、十分撹拌した。その後、押出温度210℃で押し出すことで、無機微粒子を含有した樹脂組成物1を得た。原料混合時、押出時にも特に臭気もなく、加工性も良好であった。
【0046】
得られた樹脂組成物を、フィルム状に加工し、無機微粒子の分散状態を目視にて確認したところ、特に無機微粒子が偏在している部分は確認できず、無機微粒子が樹脂中に分散性よく分散していることが確認された。
【0047】
(樹脂組成物2の製造)
比較例1の無機微粒子凝集体、ABS樹脂ペレット及びカーボンブラックを実施例1と同じ割合及び条件にて混合して、無機微粒子を含有した樹脂組成物2を得た。得られた樹脂組成物を、フィルム状に加工し、無機微粒子の分散状態を目視にて確認したところ、実施例1の樹脂組成物と比較して、明らかに無機微粒子が偏在している部分は確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、ハンドリング性の高い無機微粒子凝集体を工業的に製造できる。また、該無機微粒子凝集体を使用することにより、無機微粒子を均一に分散した樹脂組成物を再現性よく生産できるため、工業的に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質原料を、平均粒径(d50)が3μm以下、かつ、最大粒径20μm以下の無機微粒子になるまで湿式粉砕し、該無機微粒子を含むスラリーを形成する工程と、
前記スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする無機微粒子凝集体の製造方法。
【請求項2】
すべての無機微粒子凝集体の粒径が100μm以下であり、かつ、すべての無機微粒子凝集体における、粒径が25μm以上63μm未満の無機微粒子凝集体の割合が、50重量%以上である請求項1記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
【請求項3】
無機質原料が、無機系廃棄物由来である請求項1または2に記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
【請求項4】
無機系廃棄物が、炭酸カルシウムを主成分とする無機系廃棄物である請求項3に記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
【請求項5】
無機系廃棄物が、卵殻由来である請求項4に記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
【請求項6】
スラリーを噴霧乾燥法にて乾燥する工程の前に、該スラリー中の無機微粒子以外の不純物を除去する工程を含む請求項1から5のいずれかに記載の無機微粒子凝集体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の製造方法にて得られた無機微粒子凝集体と、樹脂原料とを混練することを特徴とする無機微粒子を含有する樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
無機微粒子凝集体と樹脂原料との重量比が、1〜50/99〜50である請求項7記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
樹脂原料が、ABS樹脂、ポリプロピレン及びポリスチレンからなる群より選択される1または複数である請求項7または8に記載の樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256260(P2011−256260A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131328(P2010−131328)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(510066835)株式会社和田木型製作所 (2)
【出願人】(503044019)
【Fターム(参考)】