説明

無機微粒子分散溶液の製造方法、有機光学素子の製造方法および二酸化チタン分散液

【課題】 一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子が良好に分散し、光学素子としての光散乱・透過性能を満足する程度に分散し、更にハンドリング性が良い粘度を有する無機微粒子分散溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 溶媒に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子が分散した無機微粒子分散溶液の製造方法において、溶媒の中に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子が凝集した状態で存在している混合溶液に、平均粒径15μm以上30μm以下のメディアを導入して攪拌して前記無機微粒子を分散させる分散処理工程を有し、前記分散処理中もしくは分散処理直後に、前記混合溶液に超音波を印加する無機微粒子分散溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーズミルなどによるビーズ式分散処理による無機微粒子分散溶液の製造方法、有機光学素子の製造方法および二酸化チタン分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機物質は、有機物質と比較して屈折率およびその波長分散性のバリエーションが豊富であるが、一般に加工が容易でないという問題を抱えている。一方、有機物質は加工が容易である。そこで、従来から、無機物質を微粒化して有機物質中に混合し、有機物質単独では成し得ない特異的性質を持つ成形品を、低コストで作製することが検討されてきた。特に近年、無機物質のナノサイズ微粒子を入手できる環境が整い、測定技術も向上してきたことより、無機微粒子の光学素子への利用が期待されている。
【0003】
しかし一般に微粒化した無機物質は凝集しやすく、一度凝集した無機粒子を再度一次粒子まで分散させることは非常に困難であると考えられていた。
【0004】
無機粒子を液体中に分散させる方法の1つとして、メディア分散処理装置による方法が一般に知られている。メディア分散処理装置は、メディアと呼ばれる分散用のビーズの入った容器内に、無機粒子と溶剤の混合物を入れ、それらを攪拌しビーズと無機粒子とを衝突させることで、無機粒子を溶剤中で分散させることができる。
【0005】
しかしながら無機粒子は、分散が進行して個々の無機粒子の凝集体が小さくなればなるほど、再凝集しやすくなる事が知られている。ビーズとの衝突により分散した無機粒子の、新たに露出された表面は、活性化された極性の高い面となる。また粉砕により新たに創出された表面も、活性化された極性の高い面となる。また更に、無機粒子の凝集体が小さくなると、無機粒子の表面積が増加するため、無機粒子間や無機粒子と液体分子間で相互作用する力が増加し、結果として無機微粒子同士が凝集すると考えられている。
【0006】
無機粒子の再凝集を防止する対策として、超音波振動を使用する方法が提案されている。特許文献1では、粉砕容器中でアジテータによりビーズと材料とを混合攪拌して、該砕料の粉砕を行うメデイア攪拌式粉砕機が開示されている。より詳細には、粉砕された無機粒子の粒径が1μm以下になると、再凝集により粉砕が進まなくなる。そこで特許文献1では、粉砕容器に超音波振動発生器を設置して超音波振動を加えることで、キャビテーションを発生させ、無機粒子の再凝集を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平3−41791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、無機粒子を分散させ溶液を使って透明光学材料を作製する場合、無機粒子の大きさを透過波長の1/10以下程度にする必要がある。すなわち無機粒子は、光の散乱を無視できる程度の大きさでなければならない。使用する光が可視光である場合、無機粒子の粒径は100nm以下、更に好ましくは粒径30nm以下とすることが必要となる。
【0009】
特許文献1に示された超音波振動による効果は、粒径1μmの粒子に対しては有効であることが知られている。しかしながら、機粒子の表面積が100倍以上になる粒径100nm以下の無機粒子の場合、表面積の増加により無機粒子間の極性により相互作用が過度に大きくなる。そのため、特許文献1の方法のように超音波振動を加えても、相互作用が強すぎるため、無機粒子を分散させる効果はほとんどない。
【0010】
本発明の目的は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、溶媒中に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子が分散した溶液を製造し、光学素子としての光散乱・透過性能を満足する光学材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するため本発明では、溶媒に一次粒子の平均粒径が1nm以上30nm以下の無機微粒子が分散した無機微粒子分散溶液の製造方法において、溶媒の中に一次粒子の平均粒径が1nm以上30nm以下の無機微粒子が凝集した状態で存在している混合溶液を、平均粒径が15μm以上30μm以下のビーズを用いて攪拌すると同時に超音波を印加することで、前記無機微粒子を分散処理する無機微粒子分散溶液の製造方法を提供している。
【0012】
また、前述の無機微粒子分散溶液と有機樹脂を混合し、前記溶媒を揮発させた後、硬化させる有機光学素子の製造方法を提供している。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子を、溶液中に良好に分散させることができるため、光散乱・透過性能を満足するとともに、従来の有機樹脂では考えられない特異的性質を持つ光学素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の無機微粒子分散溶液の製造装置の一実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る無機微粒子分散溶液の製造方法について説明する。
【0016】
本発明に係る無機微粒子分散溶液の製造方法においては、溶媒の中に一次粒子の平均径が1nm以上30nm以下の無機微粒子が凝集した状態で存在している混合溶液に、平均粒径15μm以上30μm以下のビーズを導入して攪拌する。攪拌と同時に混合溶液に超音波を印加することで、前記無機微粒子を分散処理させる。またこのようにして製造された混合溶液は、アクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂等の有機樹脂と混合することで光学材料となる。この光学材料を成形することで光学素子は作られる。
【0017】
ここで、前述の特許文献1に記載されているような、粒径の大きなビーズを用いた粉砕処理と、本発明における分散処理の差を説明する。本発明の処理をここでは粉砕処理に対して解砕処理と呼ぶ。
【0018】
特許文献1に記載されている粉砕処理は、ビーズの粒径が大きいため、無機粒子との衝突により作用する運動エネルギーは大きい。そのため無機粒子は、大きな力で凝集が解かれるか、砕けることにより分散が進行する。このような粉砕処理の場合、前述したように、無機粒子の新たに露出された表面は、活性化された極性の高い面となる。
【0019】
これに対して本発明における解砕処理は、ビーズの粒径が30μm以下と小さいため、無機粒子との衝突による運動エネルギーは小さくなる。そのため無機粒子は、砕けることなく凝集が解かれる。このような解砕処理の場合、無機粒子の新たに露出された極性の高い表面の面積を比較的小さいくすることができるため、再凝集し難くなる。
【0020】
本発明では、このような解砕処理を実現するために、一次粒子の平均径が1nm以上30nm以下の無機微粒子に対して、平均粒径15μm以上30μm以下のメディア使用している。
【0021】
このような解砕処理により、本発明者は一次粒子の平均径が1nm以上30nm以下の無機微粒子が分散した混合溶液を製造する実現した。しかしながら、このようにして製造した混合溶液は、高粘度化するという新たな課題が顕在化した。混合溶液が高粘度化するとハンドリング性が低化するなど取扱に支障をきたし、有機樹脂等を添加した場合さらにハンドリング性が低化するといった支障が生じてしまう。混合溶液の高粘度化は、解砕処理により露出した極性の高い表面が、僅かにではあるが存在することに起因していると推察される。この表面は粒子間で相互作用し凝集を起こす程ではないものの、溶媒分子との相互作用により混合溶液系全体の粘度を高める原因となっていると考えられる。
【0022】
そこで本発明者は、更なる検討の結果、攪拌と同時に混合溶液に超音波を印加することで、混合溶液の高粘度化を抑制できることを見出した。無機微粒子を含有した混合溶液への超音波振動の印加は、無機微粒子表面の極性を低下させ、無機微粒子間及び/又は無機微粒子と液体分子間の相互作用が低下し、粘度の上昇を抑制すると推察される。特に、極性の高い無機微粒子表面に金属アルコキシドがある場合は、その影響は顕著となる。
【0023】
(分散処置装置)
本発明におけるビーズを用いた分散処理には、ボールミル、ビーズミル、バスケットミルなどを用いることが可能であり、メディアには、樹脂製、ガラス、ジルコニアなどのセラミックス製、ステンレスなどの金属製を用いることができる。その中でも、ビーズや分散機との摩擦による不純物生成が少ない等の理由から特に好ましくはイットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどが好適に用いられる。メディアの大きさは、平均粒径が15μm以上30μm以下である。
【0024】
(無機微粒子)
本発明において使用する無機微粒子は、光学素子としての光散乱、透過性能を満足する程度に分散される必要がある。したがって、無機微粒子の一次粒子径は、一般に光散乱、透過性能に影響を及ぼさないといわれる透過波長の1/10以下にする必要があるため、平均粒径が1nm以上30nm以下のものを使用する。
【0025】
無機微粒子の材質は、所望の光学素子の特性に応じてアルミニウム、インジウム、ケイ素、ジルコニア、スズ、チタンなどの金属やその化合物を1種類又は複数種類用いることができる。また無機微粒子表面の修飾状態や無機微粒子の凝集状態も所望の光学素子の特性に応じて調整することができる。
【0026】
前記混合溶液に含有される無機微粒子の含有量は、光学素子としての散乱、透過性能が保てる程度の分散状態と、後工程のハンドリング性が充分良い粘度を維持できる範囲で、所望の光学性能の求めに応じて種類と濃度を調整することができる。本発明では、混合溶液の10質量%以上30質量%以下が好ましい。10質量%未満の場合は低濃度すぎて所望の光学性能が得られず、また30質量%以上の場合は、攪拌と同時に混合溶液に超音波を印加しても、高粘度化の抑制効果は小さいものとなる。
【0027】
また、一般に液体に添加する無機微粒子の量が増加すると、及び/又は無機微粒子の微粒化分散が促進されると、無機微粒子間及び/又は無機微粒子と液体分子間の相互作用が増加し、無機微粒子分散溶液の粘度は増加する傾向にある。粘度の上昇は成形性、特に金型に樹脂を充填、又は流延する際の展開性を低下させる。また有機溶媒などから樹脂への置換や基板上への塗布工程においても、粘度の上昇は操作性を低下させ問題となる。
【0028】
(溶媒/混合溶液)
本発明に用いる溶媒は、水、有機溶媒、又は不飽和結合を持つ有機物質などを用いることができる。有機溶媒は、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、DMF、DMAc、NMP等のアミド系、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ブチルカルビトール等のエーテル類、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いる無機微粒子との親和性や後工程や環境負荷を考慮して溶媒を選択することができ、又、溶媒は1種類のみで使用することもできるし、分散性を損なわない範囲において2種類以上を併用して使用することもできる。
【0029】
また混合溶液には樹脂を含んでもよく、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、フェノール系樹脂、アリール系樹脂等を用いることができる。
【0030】
不飽和結合を有する有機物質とは、例えば不飽和二重結合として(メタ)アクリレート基やビニル基等を分子内に有している化合物であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ジメチルアミノエチルジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、ネオペンチルグリコールベンゾエート(メタ)アクリレート、α−ナフチル(メタ)アクリレート、β−ナフチル(メタ)アクリレート、イミドアクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、1−ビニルイミダゾール、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、N−ビニルフタルイミド等の1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
さらに混合溶液には、無機物質の分散を助力する金属アルコキシドを含んでも良い。例えば、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、チタンなどの金属アルコキシドなどが挙げられる。特に、アルコキシシラン、シラザンで構成される一群のケイ素化合物が挙げられ、ビニル、エポキシ、スチリル、メタクリロキシ、アクリロキシ、アミノ、ウレイド、クロロプロピル、メルカプト、スルフィド、イソシアネートなどの有機物を含んでもよい。また金属アルコキシドの種類や濃度などは、光学素子としての散乱・透過性能が保てる程度の分散状態と低粘度を維持できる範囲で、所望の光学性能の求めに応じて調整することができる。
【0032】
また、混合溶液は、分散剤、界面活性剤などを含んでも良く、その濃度や種類は光学素子としての散乱・透過性能が保てる程度の分散状態と低粘度を維持できる範囲で、所望の光学性能の求めに応じて調整することができる。
【0033】
(超音波印加)
具体的には、ビーズを導入して攪拌して前記無機微粒子を分散させる分散処理工程において、攪拌と同時に混合溶液に超音波を印加する。超音波処理は、ビーズ式分散装置のいずれかの部分に超音波発生装置を設置して無機微粒子の分散を助力するものであるが、特にはタンクや供給管や排出管で行われることが好ましい。超音波の出力は、無機微粒子やビーズに影響する程度の振動エネルギー強度を有することが好ましく、取り付ける位置や装置材質によりその強度は変化するが、一度に分散する無機微粒子混合溶液100gあたり10から1000Wで行うことが好ましい。超音波の周波数は、20kHz以上の超音波領域であれば特に限定されるものではない。
【0034】
また超音波振動を印加しながらの分散処理の連続運転の時間は、バッチ処理や循環処理といった処理方式に関係せず、一度に分散する無機微粒子溶液100gあたり10から2000分行うことができる。
【0035】
(製造装置)
次に、本発明の無機微粒子分散溶液の製造装置について説明する。
【0036】
図1は、本発明の無機微粒子分散溶液のビーズミル装置の概略図である。図1において、1は円筒状の分散容器であり、分散容器1の内部には羽付攪拌軸2が設けられており、羽付攪拌軸2の隙間には複数のメディアと呼ばれるビーズ20が配置されている。
【0037】
分散容器1の内部に供給される混合溶液7に含有されている無機微粒子は、羽付攪拌軸2を回転させることでビーズ20と衝突することで解砕される。11は混合溶液7とビーズ20を分離するセパレータであり、分離された混合溶液は分散容器出口12から分散容器の外部に排出される。4は排出された混合溶液をタンク3に送り込む排出路である。タンク3は混合溶液で満たされており、一旦タンク3に送られた混合溶液は、供給路5を通って、分散容器入口13から再び分散容器1に供給される。6は混合溶液を、タンク3、供給路5、分散容器1、排出路4の間を循環させるポンプである。8は分散容器1に冷却水を供給する冷却水入口であり、9は分散容器1から冷却水を排出する冷却水出口である。10はタンク3の混合溶液7に超音波を印加する超音波印加手段である。
【0038】
分散容器1に、溶媒の中に一次粒子の平均粒径が30nm以下の無機微粒子が凝集した状態で存在する混合溶液7を、平均粒径30μm以下のビーズ(メディア)で攪拌し、解砕する。
【0039】
なお、羽付攪拌軸2の回転数と送液ポンプ流量は、無機微粒子の大きさや含有量およびビーズの大きさ等のより適宜設定することができる。本装置では、羽付攪拌軸2の回転数は1から5000rpm、送液ポンプ流量は0.1から100kg/hの間で設定することができる。
【0040】
尚、図1において超音波処理手段10は、タンク3にのみ配置されているが、本発明はこれに限られたものではない。超音波の印加は攪拌と同時に行なう事が重要であり、その配置は分離容器1、排出管4、タンク3、供給管5のいずれか、又は全てに印加しても良い。混合容器は分離容器1、排出管4、タンク3、供給管5の間で循環しており、何れの位置に配置しても、混合溶液の攪拌と同時にすることができ、解砕された無機微粒子の再凝集を防止する。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
図1に示したビーズミル装置の分散容器に、無機微粒子(TiO2、一次粒子の平均粒径15nm)、金属アルコキシド(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)と、ジグライム300mLを導入した。二酸化チタン粒子の濃度を5質量%、金属アルコキシド濃度を10質量%の割合で調整した。また同時にビーズとして平均粒径30μmのジルコニアビーズ400gを導入した。その後、周波数35kHz、出力100Wで超音波振動を分散容器に印加しながら、攪拌軸回転数3485rpm、ポンプ流量10kg/hの条件で1050分ビーズミル処理を行った。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0042】
評価結果である粘度と透過率は、以下のようにして測定し、評価項目と評価基準の詳細を基に、評価結果をまとめ示した。
【0043】
(粘度)
表1における粘度は株式会社トキメック製粘度計TV−20H(製品名)に1°34′×R24ローターを取り付け、樹脂粘度に応じたレンジにて測定し、50Pa・s未満を○、50Pa・s以上を×として評価した。
【0044】
(透過率)
表1における粘度は透過率は、分散処理後の解砕された無機微粒子の混合溶液を1cm角の石英セルに入れ、日立ハイテクノロジー社製の分光光度計U−4000を用いて測定した。波長600nmにおける透過率が70%以上を良、70%未満を不良として評価した。
【0045】
(実施例2)
実施例1の超音波振動を印加する位置を、供給管と排出管の間に変更して実施した。得られた無機微粒子混合物は、無機微粒子の沈殿を生じなかった。また粘度は、初期状態とほとんど変わりなく、高粘度化しなかった。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例3)
実施例1の金属アルコキシドを3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランに変更して実施した。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例4)
実施例1のビーズの平均粒径を15μmとして実施した。メディア径以外の条件は、実施例1と同様である。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0048】
(実施例5)
ビーズミルの分散容器に、無機微粒子(SiO2、一次粒子の平均粒径12nm)、金属アルコキシド(3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)とメタクリル酸メチル400mLを導入し、無機微粒子濃度を1質量%に、金属アルコキシド濃度を2質量%に調整した。また同時にメディアとして平均粒径30μmのジルコニアビーズ400gを導入した。その後周波数35kHz、出力100Wで超音波振動を分散容器に印加しながら、攪拌軸回転数3485rpm、ポンプ流量10kg/hの条件で540分ビーズミル処理を行った。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例6)
実施例1で得られた無機微粒子分散溶液に、樹脂(PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート)と光重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)を添加した。ロータリーエバポレーターを用いて24時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながら、実施例1で得られた分散液中のジグライム揮発させて留去し有機光学材料とした。その時の水浴温は50℃とし、留去されたジグライムは適宜系内から取り除いた。
【0050】
以上の操作により得られた樹脂/二酸化チタン分散液である無機微粒子混合物は、無機濃度(TiO2)が5%に、光重合開始剤が1.4%に調整された。本無機微粒子混合物を、互いに対向させた2枚のガラス基板(2mmt)に30μmのスペーサーを配し、ガラス基板の中央に流延した。その後、ガラス基板に密着させながら展開し、紫外線を照射(50mW/cm2、200秒)して硬化させ有機光学素子を製造した。硬化して得られた無機物質混合フィルム状素子は、光学素子としての光散乱・透過性能を満足する程度の透明性を有していた。
【0051】
(比較例1)
実施例1の無機微粒子の一次粒子の平均粒径を150nmとして実施した。無機微粒子の一次粒子径以外の条件は、実施例1と同様である。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例2)
実施例1の無機微粒子の一次粒子の平均粒径を50nmとして実施した。無機微粒子の一次粒子径以外の条件は、実施例1と同様である。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例3)
実施例1のメディアの平均粒径を200μmとして実施した。メディア径以外の条件は、実施例1と同様である。得られた無機微粒子分散溶液の評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例4)
実施例1の無機微粒子濃度を70質量%に変更して実施した。無機微粒子濃度以外の条件は、実施例1と同様である。得られた混合物は、粘度、透過率の評価できないほどに流動性の乏しいしものであった。
【0055】
(比較例5)
実施例1の超音波振動の印加を除いて実験を行った。超音波振動以外の条件は、実施例1と同様である。得られた無機微粒子混合溶液は高粘度化(ゲル化)し、粘度、透過率の評価はできなかった。
【0056】
(比較例6)
実施例5の超音波振動の印加を除いて実験を行った。超音波振動以外の条件は、実施例5と同様である。得られた無機微粒子混合溶液は高粘度化(ゲル化)し、粘度、透過率の評価はできなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
比較例1、2、3の場合、無機微粒子分散溶液は白濁すると同時に透過率が低いか・散乱率が高い結果となった。従って無機微粒子の一次粒子の平均粒径は30nm以下に、ビーズの平均粒径は15μm以上30μm以下が好適であることが分った。また比較例4から、無機微粒子が70質量%以上の場合は、混合溶液の高粘度化が起こり、また透過率が低下することが分った。また比較例5、6から、超音波処理を施さないと、混合溶液の高粘度化が発生することが分り、超音波印加の有効性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、一次粒子の平均粒径が100nm以下の無機微粒子が良好に分散し、光学素子としての光散乱・透過性能を満足する程度に分散し、更にハンドリング性が良い粘度を有するので、無機微粒子分散溶液を用いた光学素子の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 分散容器
2 羽付攪拌軸
3 タンク
4 排出管
5 供給管
6 送液ポンプ
7 無機微粒子の混合溶液
8 冷却水入口
9 冷却水出口
10 超音波印加手段
11 セパレータ
12 分散容器出口
13 分散容器入口
20 ビーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に一次粒子の平均粒径が1nm以上30nm以下の無機微粒子が分散した無機微粒子分散溶液の製造方法において、溶媒の中に一次粒子の平均粒径が1nm以上30nm以下の無機微粒子が凝集した状態で存在している混合溶液を、平均粒径が15μm以上30μm以下のビーズを用いて攪拌すると同時に超音波を印加することで、前記無機微粒子を分散処理することを特徴とする無機微粒子分散溶液の製造方法。
【請求項2】
前記無機微粒子が、少なくともアルミニウム、インジウム、ケイ素、ジルコニア、スズ、チタンのいずれかの金属または化合物であることを特徴とする請求項1に記載の無機微粒子分散溶液の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶液が、少なくとも金属アルコキシドを含むことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかの項に記載の無機微粒子分散溶液の製造方法。
【請求項4】
前記金属アルコキシドは、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はトリフルオロプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項3に記載の無機微粒子分散溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法により製造された無機微粒子分散溶液と有機樹脂を混合し、前記溶媒を揮発させた後、硬化させることを特徴とする有機光学素子の製造方法。
【請求項6】
溶媒に平均粒径が1nm以上30nm以下の二酸化チタン粒子が70質量%以下の割合で分散しており、波長600nmの光に対する透過率が70%以上であることを特徴とする二酸化チタン分散液。

【図1】
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【公開番号】特開2010−23031(P2010−23031A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145452(P2009−145452)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】