説明

無機質球状体の製造方法

実質的に均一な粒子径を有する無機質球状体を生産性よく得るための製造方法を提供する。無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体を、層流状態で流れる界面活性剤を含む有機液体中に微小孔を通して押し出してW/O型エマルジョンを形成する工程と、前記W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化して無機質球状体を形成する工程とを含む無機質球状体の製造方法において、前記有機液体として、W/O型エマルジョンの状態又はW/O型エマルジョンから分離された後で酸と接触されたもの、又は水性液状体と接触させた後、分離して回収したものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、無機質球状体の製造方法に関する。特に、液体クロマトグラフフィー用充填材、化粧品用フィラー、触媒担体などに有用な、実質的に均一粒子径を持つ無機質球状体を、安定した連続プロセスにより生産性よく製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
従来、粒子径の均一な無機質球状体を得る方法として種々の方法が提案されている。USP5,278,106号には、ミクロ多孔膜体を通して水性液体を有機溶媒中に圧入してW/O型エマルジョンを作製し、該W/O型エマルジョン中の無機化合物水溶液の液滴から無機質球状体を得る方法が開示されている。
この方法では、エマルジョンの粒子径の分布を狭いものにできるが、有機溶媒の流れが制御されていないことによるエマルジョン粒子径分布が生じるため、無機質球状体の粒子径の均一性という点では不充分であった。また、ガラス質のミクロ多孔膜体は耐アルカリ性が不足しているため、水性液体としてアルカリ金属のケイ酸塩を含む水溶液を用いた場合、細孔が大きくなるなど耐久性に問題があり、粒子径の均一なW/O型エマルジョンを連続して安定に得ることはできなかった。
近年、USP6,576,023号に、歪みをもった形状の微小孔を通して、加圧された無機化合物水溶液を有機液体中に押し出して均質なエマルジョンを製造する方法とそのための装置が提案されている。最近ではさらに、粒子径の均一な無機質球状体を長期間にわたって効率よく、大量に、かつ安定に製造可能な方法及び装置の開発が求められている。
【発明の開示】
本発明の目的は、実質的に均一な粒子径を有する無機質球状体を生産性よく、安定して得ることが可能な、量産に適した製造方法を提供することにある。
本発明は、無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体を、隔壁で区画された流路中を流速0.001〜2m/sかつ層流状態で流れる界面活性剤を含む有機液体中に、1つの隔壁の厚さ方向に貫通した微小孔を通して押し出してW/O型エマルジョンを形成する工程と、前記W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化して無機質球状体を形成する工程と、前記W/O型エマルジョン又は前記無機質球状体の形成後の液体から分離して回収した前記有機液体を前記有機液体の流路へと循環する工程と、を含む無機質球状体の製造方法であって、前記有機液体の流路へと循環される有機液体は、W/O型エマルジョンの状態又はW/O型エマルジョンから分離された後で酸と接触されたものであることを特徴とする無機質球状体の製造方法を提供する。
また、本発明は、無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体を、隔壁で区画された流路中を流速0.001〜2m/sかつ層流状態で流れる界面活性剤を含む有機液体中に、1つの隔壁の厚さ方向に貫通した微小孔を通して押し出してW/O型エマルジョンを形成する工程と、前記W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化して無機質球状体を形成する工程と、を含む無機質球状体の製造方法において、前記有機液体の流路へと供給される有機液体は、アルカリ性の水性液状体を接触させた後、分離して回収したものであることを特徴とする無機質球状体の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1:例1、2で用いた乳化装置の断面図を示す図。
図2:本発明の無機質球状体の製造を実施するための概要を示す図。
図3:本発明の無機質球状体の製造を実施するための概要を示す図。
図4:例3〜11で用いた乳化装置の断面図を示す図
【符号の説明】
1、5、10、13:アクリル樹脂製板
2、11:フッ素樹脂シート
3、12:ステンレス鋼板
4:アクリル樹脂製板部品
6、7:アクリル樹脂製板1に形成されたノズル
8:アクリル樹脂製板5に形成されたノズル
9:高速度カメラ
14、15:アクリル樹脂製板10に形成されたノズル
16、17:アクリル樹脂製板13に形成されたノズル
X:ステンレス鋼板3を貫通する微小孔
Y:ステンレス鋼板12を貫通する微小孔
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の無機質球状体の製造方法においては、無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体を、層流で流れる界面活性剤を含む有機液体中に、微小孔を通して押し出すことにより、有機液体が分散質(連続相)となりこの中に前記無機化合物を含有する水溶液の液滴が分散相となったエマルジョン、すなわちW/O型エマルジョンを形成する工程の後、該W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化して無機質球状体を形成する。
まず、無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体としては、固形化によって沈殿物を形成することができるものであれば、いずれも適用可能であり、無機化合物の水溶液だけでなく、シリカゾルなどのコロイド溶液を採用できる。無機化合物の水溶液としては、具体的にはアルカリ金属のケイ酸塩及びアルミン酸塩の水溶液が挙げられる。
本発明では、無機化合物としてケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム及びシリカからなる群より選ばれる1種以上を含む水性液状体を用いると好ましい。具体的には、水溶性シリカが溶解した水溶液、有機ケイ素化合物を加水分解して得られたシリカゾル及び市販のシリカゾルなどの固体シリカが分散した水性分散液(コロイド状シリカ)や、ケイ酸カリウム又はケイ酸ナトリウムの水溶液が好ましく使用される。なかでも入手の容易さ、経済的理由によりケイ酸ナトリウムを含む水溶液を用いると最も好ましい。ナトリウムとケイ酸の割合は、SiO/NaO(モル比)で2.0〜3.8が好ましく、さらには2.0〜3.5が好ましい。また、水性液状体中のケイ酸アルカリ又はシリカの濃度は、SiO濃度として5〜30質量%が好ましく、さらには5〜25質量%が好ましい。
次に、有機液体としては、有機溶媒に界面活性剤を溶解させたものを使用する。該有機溶媒としては、炭素数が9〜12の飽和炭化水素を用いるのが好ましく、操作性、火気への安全性、固形化した粒子と有機液体との分離性、無機質球状体粒子の形状特性、水への有機液体の溶解性などを総合的に考慮して選定される。炭素数が9〜12の飽和炭化水素は、単独で使用してもよいし、このうちの二種以上を混合して使用してもよい。また、炭素数が9〜12の飽和炭化水素は、その化学的安定性が良好であれば、直鎖状炭化水素であってもよいし、側鎖を有する炭化水素であってもよい。
炭素数9〜12の飽和炭化水素の引火点としては、20〜80℃のものが好ましい。引火点が20℃未満の飽和炭化水素を有機溶媒とした場合、引火点が低すぎるため、防火上、作業環境上の対策が必要である。また、引火点が80℃を超えるものは、揮発性が小さいことから、得られる無機質球状体に付着する炭化水素の量が多くなるおそれがある。
本発明では、W/O型エマルジョンと有機液体とは通常液液分離され、エマルジョンを固形化した後の無機質球状体と有機液体とは通常固液分離される。分離後のW/O型エマルジョンあるいは無機質球状体に付着又は吸着している有機液体は、乾燥操作などにより気化、分離するのが好ましい。気化により分離しやすいという面では有機溶媒は沸点が200℃以下であることが好ましく、これらの条件を満たすものとしては、C20、C1022及びC1124からなる群より選ばれる1種以上であると好ましい。
また、界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤も使用可能であるが、親水性、親油性の調整が容易である点でノニオン系界面活性剤が好ましい。例えば、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどが望ましい。
界面活性剤の使用量は、界面活性剤の種類、界面活性剤の親水性あるいは疎水性の程度を表す指標であるHLB(Hydrophile−lipophile balance)、目的とする無機質球状体の粒子径などの条件により異なるが、上記有機液体中に500〜50000ppm、好ましくは1000〜20000ppm含有させるのが好ましい。500ppm未満であると、乳化される水溶液の液滴が大きくなり、エマルジョンが不安定になるおそれがある。また、50000ppmを超えると、製品である無機質球状体粒子に付着する界面活性剤の量が多くなり好ましくない。
また、本発明では、有機液体の流速を0.001〜2m/sとすることにより、粒子径分布の狭いエマルジョン液滴が形成され、得られる無機質球状体の粒子径分布も狭くできる。有機液体の流速が0.01〜1m/sである場合はさらに好ましい。
流路中を流れる有機液体のレイノルズ数は2100以下とされる。ここで、流路の断面が円形である場合のレイノルズ数は式1で計算され、流路の内径Dは流路の断面における最小径を使用する。ここで、D(流路の内径:m)、u(平均流速:m/s)、ρ(流体密度:kg/m)、μ(流体粘度:Pa・s)である。
レイノルズ数(−)=D・u・ρ/μ ・・・式1
また、流路の断面が円形でない場合のレイノルズ数は式2で計算される。ここで、rは流路動水半径(m)=流路の断面積(m)/流路断面の流体に接する周長(m)であり、u、ρ、μは式1と同様である。
レイノルズ数(−)=4×r・u・ρ/μ ・・・式2
レイノルズ数が2100以下の場合、有機液体の流れは層流状態であるため、有機液体の流れは安定したものとなる。その結果、微小孔を通して供給される無機化合物を含む水性液状体が、常に一定の粒子径を有するW/O型エマルジョンとなるため、実質的に粒子径が均一な無機質球状体が製造されやすい。逆に、レイノルズ数が2100を超える場合、有機液体の流れが乱流となるため、従来と同様に粒子径が不揃いなW/O型エマルジョンとなり、その結果、無機質球状体の粒子径も不揃いになる。なお、この有機液体の流路の形状については、特に限定されない。また、より有機液体の流れを安定させるために、有機液体の流れのレイノルズ数が500以下であることが好ましい。なお、この有機液体の流路の形状については、特に限定されない。
本発明では、W/O型エマルジョン又は無機質球状体の形成後の液体から分離して回収した有機液体を、有機液体の流路へと循環させて乳化工程に再使用する。W/O型エマルジョンを長期にわたって安定に生産するためには、界面活性能力が安定している必要があるが、本発明者らの検討により、アルカリとの接触により徐々に界面活性能力が低下することが判明した。本発明者らはW/O型エマルジョン又は無機質球状体の形成後の液体から分離して回収した有機液体を、W/O型エマルジョンの状態又はW/O型エマルジョンから分離された後で酸と接触させることにより、界面活性能力の低下を抑制できることを見出した。このことにより、高度に粒子径が均一化されたW/O型エマルジョン及び無機質球状体を、安定した連続プロセスにより長期間、安定して生産性よく得ることができる。
また、本発明者らの種々の検討の結果、界面活性剤の種類によってはアルカリとの接触後、初期的に界面活性能力が低下する場合があるが、あらかじめアルカリと接触させた後、分離して回収した有機液体を乳化工程に使用することにより、この初期的な界面活性能力の低下の影響を回避できることを見出した。
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1中、1、5はアクリル樹脂製板、2はフッ素樹脂シート、3はステンレス鋼板、4はアクリル樹脂製板部品である。図1において、無機化合物を含む水性液状体はノズル8から導入され、ステンレス鋼板3を貫通する微小孔Xを通して、ノズル6から導入されてノズル7から排出されるように層流状態で流れる有機液体中に圧入される。また、図4中、10、13はアクリル樹脂製板、11はフッ素樹脂シート、12はステンレス鋼板である。図4において、無機化合物を含む水性液状体はノズル16から導入されてノズル17から排出されるように流れるとともに、ステンレス鋼板12を貫通する微小孔Yを通して、ノズル14から導入されてノズル15から排出されるように層流状態で流れる有機液体中に圧入される。
なお、微小孔X、Yより圧入される水性液状体は、界面張力に起因して、微小孔X、Yの出口においてその孔径よりも大きく成長する。その後、液滴は、有機液体の流れにより切り離され、有機液体中でW/O型エマルジョンの液滴となる。
本発明においては、W/O型エマルジョンを形成する工程の後に得られた液体から分離、回収した有機液体を酸と接触させた後、有機液体の流路へと循環して乳化工程に循環使用することが好ましい。具体的には図2の工程図に示すように、乳化工程から排出したW/O型エマルジョンを分離装置に導入して有機液体(A)と、水性液状体が濃縮されたW/O型エマルジョン(B)とに分離し、(A)を酸と接触させた後、有機液体の流路へと循環して乳化工程に再使用するとともに、(B)中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を固形化装置に導入して固形化する方法が挙げられる。
また、図2及び図3に示すように、乳化工程から排出したW/O型エマルジョンを固形化装置に導入し、該W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化した後、得られた固形化物を有機液体(A’)と、無機質球状体(C)とに分離し、(A’)を脱酸処理した後、乳化工程に再使用する方法も同様に好ましく用いられる。この場合、固形化剤として酸を用いることにより、固形化と同時に(A’)の酸処理をも行うことができるため、長期に安定して無機質球状体を生産できる。
なお、図2に示すように、(A)と(B)とを分離した後、さらに(A’)と(C)との分離を行うと、溶媒の回収率を向上できる点でさらに好ましい。ここで、(A)又は(A’)を有機液体の流路へと循環して乳化工程に再使用する操作は、アルカリ性の水性液状体と有機液体とを接触させた後の液体から分離、回収した有機液体を有機液体の流路へと供給して乳化工程に使用する操作に含まれるものである。なお、有機液体を乳化工程に循環使用する際には、図2及び図3に示すように、分離工程などにおいて目減りする分の有機液体を添加したうえで使用することが好ましく、この場合に添加する有機液体も、あらかじめアルカリと接触させたものとする。ただし、ノズル6、14から導入される有機液体に対し、目減りする有機液体の体積割合が30%以下の場合には、あらかじめアルカリと接触させることなく有機液体を添加してもよい。
上記の分離操作に用いる分離装置の形式は特に限定されないが、水性液状体相と有機液体相との比重差を利用して分離できるものであると、操作の簡便性などの点から好ましい。前記(A)と(B)との分離は、分離装置に1分〜12時間滞留させて行うことが好ましい。1分未満では分離が不充分となり、水性液状体相の一部が有機液体相に同伴して収率の悪化や品質のばらつきを招く可能性があるため好ましくない。また12時間を超えると液滴同士が合一して所望の液滴径を逸脱する大粒子となりやすく、また、装置の大型化により設置費用が高くなるおそれがあるため好ましくない。より好ましくは滞留時間を3分〜8時間とする。
一方、上記(A’)と(C)との分離は、分離装置に1分〜5時間滞留させて行うことが好ましい。1分未満では分離が不充分で、無機質球状体の一部が有機液体相に同伴して収率の悪化や品質のばらつきを招く可能性があるため好ましくない。また5時間を超えると沈殿が槽底に堆積して排出しにくくなるうえ、装置の大型化により設置費用が高くなるおそれがあるため好ましくない。より好ましくは滞留時間を2分〜3時間とする。
なお、上記分離操作により回収した有機液体を循環使用する際に、ポンプによる機械入熱などにより有機液体の温度が上昇するおそれがある場合には、蒸気圧の上昇による工程ロスなどを防ぐ目的から、冷却器を通して冷却しながら循環使用することが望ましい。
ここで、有機液体と接触させる酸としては無機酸や有機酸などが用いられる。なかでも、有機液体を酸処理した後、乳化工程に再使用する前の脱酸処理を容易に行う観点から炭酸ガス又は固体酸性物質を用いることが好ましく、固体酸性物質としては陽イオン交換樹脂などが挙げられる。
また、固形化工程に用いる酸としては、特に無機酸である硫酸、塩酸、硝酸、炭酸などを用いると好ましい。操作の容易性などの点で最も簡便で好ましいのは、炭酸ガスを用いる方法である。炭酸ガスは、100%濃度の純炭酸ガスを導入してもよいし、空気や不活性ガスで希釈した炭酸ガスを用いてもよい。なかでも、炭素数9〜12の飽和炭化水素に炭酸ガスを溶解した有機液体を用いると、微小液滴の形状を保ったままで固形化でき、また固形化速度をコントロールしやすいため好ましい。さらに、固形化後の無機質球状体と有機液体との分離が容易となるなど操作性に優れるほか、固形化を穏やかに進行できるという利点もある。固形化に要する時間は、通常4〜30分が好ましく、固形化時の温度は5〜30℃が好ましい。
本発明の無機質球状体の製造装置において、隔壁を構成する材料としては、無機化合物を含む水性液状体及び有機液体に対する耐性を有するものを使用する。金属を主体とするものであると加工性及び強度に優れるため好ましいが、その他、樹脂を主体とするものも好適に用いられる。樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリエステル及びフッ素樹脂からなる1種以上を用いると加工性、寸法安定性に優れるため好ましい。
厚さ方向に貫通した微小孔を有する隔壁を構成する材料は、親有機液体性、もしくは撥水性を有することが好ましい。これは、無機化合物を含む水性液状体が微小孔を通過した後の隔壁からの液離れを促すためであり、隔壁が親水性の場合、微小孔を通過後、隔壁に沿って水性液状体が流れてしまい、エマルジョンの粒子径が不均一になりやすいことが、高速度カメラでの観察により明らかになっている。隔壁が金属材質の場合には、油を焼き付けるなどの方法で親有機液体性をもたせるか、疎水性樹脂又はシランカップリング剤を溶剤に溶解した撥水処理剤を用いて表面をコーティングすることが好ましい。このとき、疎水性樹脂としては熱可塑性樹脂を用いると好ましい。これはコーティングの際に微小孔が閉塞した場合であっても、加熱処理により孔を貫通させられるためである。また、疎水性樹脂として溶剤可溶型のフッ素樹脂を用いると、耐久性の観点で好ましい。
また、有機液体の流路を構成する隔壁の少なくとも一部分を透明な材料で構成すると、該透明な材料を介して、エマルジョン液滴を形成する工程を外部から連続監視できるため、実質的に均一な粒子径をもつ無機質球状体を安定して製造する観点から好ましい。該透明な材料は、有機液体や水性液状体への耐性を有するものであれば特に限定されず、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどが好ましく使用できる。
図1では、アクリル樹脂製板1を介して高速度カメラ9を設置して連続監視を行う。高速度カメラ9により得られた画像情報を画像処理によって解析しながら、その解析結果に基づいて乳化条件の調整を行うと好ましい。該調整は手動又は自動制御で行うことができるが、乳化条件の調整を速やかに行える点から自動制御で調整を行うことが好ましい。また、高速度カメラ9の上下左右への移動が可能となるように、スライド用ガイドを付設しておくと、微小孔間におけるエマルジョン液滴径のばらつきを観察できるため好ましい。
本発明において、微小孔は、断面の形状が円形のものが好ましいが、円形以外の形状のものでも構わない。微小孔の断面を内側に凸でない、長方形、楕円及び三角形からなる群より選ばれる1つ以上の形状とすると、加工が比較的容易であり、また、粒子径の均一な無機質球状体を安定して製造できることから好ましい。ただし、いずれの孔においても有機液体の流路幅より小さい孔であることが必須である。微小孔の形成方法としては、エキシマレーザーなどレーザーを用いる加工方法やプレス加工などの方法が挙げられるが、特に限定されるものではない。
ここで、微小孔の断面が円形状以外の形状である場合、孔の出口で液滴となった時点で液滴は曲率分布をもち、比較的早期に自発的に切り離され有機液体中で液滴になると推定される。そのため、円形状の孔を使用した場合と比べ、比較的エマルジョン粒子径が小さいものが得られやすいという利点を有する。また、このとき断面の形状に内接する円の直径に対する断面形状に外接する円の直径の比が20以下であることが好ましい。さらに好ましくは10以下とする。20を超える場合、長径方向で液滴が分割される傾向がみられ、その結果エマルジョン粒子が不均一なものとなりやすく好ましくない。特に、断面形状に内接する円の直径を1μm以上、断面形状に外接する円の直径を80μm以下とすると好ましい。
また、微小孔の断面の動水半径rの4倍値は0.1〜100μmとすることが好ましい。さらに好ましくは1〜80μmとする。ここで、rは式2と同様に、断面の動水半径r(m)=微小孔の断面積(m)/微小孔断面の流体に接する周長(m)である。したがって、微小孔の断面が円形の形状の場合、動水半径r=円の内径D/4となるから、動水半径rの4倍値は円の内径Dに相当する。微小孔の断面の動水半径rの4倍値が0.1μm未満では、無機化合物を含む水性液状体の供給量が小さく、生産性の点で好ましくない。また、100μmより大きい場合は、目的とする粒子径を逸脱するエマルジョン粒子が生成しやすくなるので好ましくない。
本発明において、無機化合物を含む水性液状体を供給する微小孔X、Yは、有機液体の流路上のステンレス鋼板3、12の厚さ方向に貫通するように、複数個設けることが生産性の観点から好ましく、100個以上、特に1000個以上設けると充分な生産性が得られるため好ましい。
また、その際の微小孔X、Yの配列については特に限定されるものではないが、生産性及び加工性の観点から、ステンレス鋼板3、12の幅方向(有機液体流路の幅方向)及び長さ方向(有機液体流路の流れ方向)のそれぞれに一定のピッチで複数個の微小孔を設置してなる並列配列、又は並列配列した微小孔のうち、幅方向に隣接する2つの微小孔と、長さ方向に隣接する2つの微小孔とを選び、これらの孔の中心を結んで形成される長方形の対角線の中心にもう1個の微小孔を設置してなる千鳥配列とすると好ましい。千鳥配列とすると、微小孔を密に配列でき、開孔率を高くできるため、生産性向上の観点から特に好ましい。
このとき、ステンレス鋼板3、12の開孔率が1〜35%であることが好ましい。開孔率が1%以下の場合は、生産性が低く、設備費用が割高となるので好ましくない。一方、開孔率が35%以上では、各微小孔から水性液状体を圧入して形成されたエマルジョンの液滴が合一し、その結果粒子径が不均一になるおそれがあるため好ましくない。より好ましい開孔率は2〜25%である。
ここで、一定面積の複数個の微小孔を一定の配列により設置する場合の開孔率は式3により算出する。このとき、S(微小孔の断面積:m)であり、P(幅方向のピッチ:m)、P(長さ方向のピッチ:m)である。
開孔率(%)=100×S/(P×P)・・・式3
式3において、円形の微小孔を並列配列で設置した場合の開孔率は、式4で算出できる。ここで、D(微小孔径:m)であり、P、Pは式3と同様である。
開孔率(%)=78.5×D/(P×P)・・・式4
また、式3において、円形の微小孔を千鳥配列で設置した場合、上記で定めた2本の対角線がなす角度が90°の場合(角千鳥配列)の開孔率は式5で、60°の場合(60°千鳥配列)の開孔率は式6でそれぞれ算出できる。ここで、Dは式4と同様であり、Pはピッチ(m)である。なお、式6におけるPは幅方向、長さ方向のピッチのうち短い方(m)を指す。
開孔率(%)=157×D/P・・・式5
開孔率(%)=91×D/P ・・・式6
また、微小孔X、Yは、微小孔の断面形状に外接する円の直径の1/2以上の間隔を設けてステンレス鋼板3、12上に設置するのが好ましい。さらに好ましくは微小孔の断面形状に外接する円の直径以上の間隔を設ける。外接する円の直径の1/2より短い間隔しか設けずに微小孔を設置すると、エマルジョンの液滴が合一しやすくなり、その結果粒子径が不均一になる可能性があるため好ましくない。ただし、合一しない範囲でなるべく密接して設置したほうが、生産性を向上できるので好ましい。
さらに、目標とする粒子径の無機質球状体を効率的に得る観点から、本発明では、微小孔の断面の動水半径rの4倍値に対する無機質球状体の平均粒子径の比を、好ましくは0.1〜5.0とする。より好ましくは0.3〜3.0である。この比が0.1未満では生産性が低下し、得られる無機質球状体の平均粒子径が目標値より大きくなる可能性が高くなるので好ましくない。また、逆に5.0を超えると粒子径を制御しにくくなり、目的とする粒子径を大きく逸脱する微粒状の粒子の副生を引き起こす可能性が高くなるので好ましくない。
なお、生成するW/O型エマルジョンの液滴径は、上記で定めた微小孔の設置条件のみならず、水性液状体の流れ方向の線速に対する有機液体の流れ方向の線速の比によっても影響を受ける。水性液状体の流れ方向の線速は微小孔部分で測定すればよい。この線速の比は1〜500とすると好ましく、さらに好ましくは10〜300とする。線速の比が500を超える場合は、有機液体を過剰に消費しすぎるおそれがあるため経済的観点から好ましくない。また、1未満では、有機液体の流れにより液滴が切り離される効果が得られにくくなり、エマルジョン粒子が不均一になるおそれがあるため好ましくない。
本発明において、無機化合物を含む水性液状体中の無機化合物がケイ酸アルカリ又はシリカの場合は、W/O型エマルジョンを酸によりゲル化することにより、球状である水溶液の分散液滴はこの形状を保持したままゲル化され、球状のシリカヒドロゲルが得られる。ゲル化には、エマルジョン中にゲル化剤を導入するのが好ましい。
ゲル化終了後は、反応系を静置して、有機液体の相とシリカヒドロゲルを含む水性相に2相分離させてシリカゲルを分離するのが好ましい。有機液体として飽和炭化水素を用いた場合は、上層に有機液体の相が、下部にシリカヒドロゲルを含む水性液状体相が分離するので、両者を公知の手段により分離する。上記のように分離装置を用いて分離すれば好ましい。
シリカヒドロゲルの水スラリーは、所望により硫酸などの酸を添加してpHを1〜5程度に調整してゲル化を完結させる。次に60〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度で水蒸気蒸留して当該水スラリー中に残留している僅かの飽和炭化水素を留出して除去する。さらにはpH7〜9程度の適当なpHで加温してシリカヒドロゲルの熟成を行う。
上記の熟成処理を必要に応じて行った後、水スラリーをろ過してシリカヒドロゲルを得、これを100〜150℃程度の温度で、1〜30h程度乾燥することにより、シリカ多孔質球状体粒子が得られる。
なお、水性液状体としてケイ酸アルカリ水溶液を用いた場合、ゲル化によりアルカリ金属塩(例えばゲル化剤が炭酸であれば炭酸ナトリウムなど)を副生するので、この塩がシリカ多孔質球状体へ混入することを防止するため、ろ過した際のシリカヒドロゲル(ウエットケーキ)は十分水洗することが好ましい。場合によっては、水洗後のウエットケーキに再度水を添加してスラリーとして、再度ろ過、水洗を繰り返してもよい。なおこの際、所望により当該スラリーのpHを1〜5程度に調整して再度熟成する操作を行ってもよい。
例1
(1)(溶液の調製)
SiO濃度24.4質量%、NaO濃度8.14質量%(SiO/NaOモル比=3.09、密度1320kg/m)のケイ酸ナトリウム水溶液を調製した。有機溶媒はイソノナン(C20、密度730kg/m)を使用し、あらかじめ界面活性剤としてソルビタンモノオレイン酸エステルを5000ppm溶解したものを準備した。
(2)(乳化装置作製)
乳化装置は図1に断面図を示す。まず、厚さ2mm、1辺50mmの正方形のアクリル樹脂製板1に、内径3.2mmの孔を2個形成し、外径3.2mmのゴムチューブ配管(ノートン社製、商品名:タイゴンチューブR−3603)をそれぞれ接続してノズル6、7とし、ノズル6より液の供給が、また、ノズル7より液の排出ができるようにした。もう1枚の厚さ2mm、1辺50mmの正方形のアクリル樹脂製板5の中央に、内径3mmの貫通孔を形成し、ジョイント部品を介して内径1mmのテトラフルオロエチレンチューブ配管を接続してノズル8とし、ノズル8より液が供給できるようにした。さらにもう1枚の厚さ2mm、1辺50mmの正方形のアクリル樹脂製板に対し、外縁部より10mmを残し内側30mm角をくり抜いてアクリル樹脂製板部品4を作製した。次いで、厚さ400μm、1辺50mmの正方形のフッ素樹脂シートに幅3mm、長さ35mmのスリットを形成してフッ素樹脂シート2を作製した。さらに、厚さ50μm、1辺50mmの正方形のステンレス鋼板3の中央部に、エキシマレーザーにて内径4r=30μmの、断面の形状が円形の貫通孔を、幅方向に100μmピッチで28個、長さ方向に100μmピッチで230個の並列配列として合計6440個を作製して微小孔Xとした。幅方向、長さ方向それぞれの最外部に設けた貫通孔の中心を結ぶ線で囲まれた範囲において、ステンレス鋼板3の開孔率は7.1%であった。
アクリル樹脂製板1、フッ素樹脂シート2、ステンレス鋼板3、アクリル樹脂製板部品4及びアクリル樹脂製板5を順に積層し、クランプにて4辺を均等な力で締め付けて固定した。このとき、ステンレス鋼板3に作製した貫通孔の幅方向及び長さ方向を、それぞれフッ素樹脂シート2に作製したスリットの幅方向及び長さ方向に合わせ、貫通孔がスリットの中心部に位置するように、また、アクリル樹脂製板1のノズル6の孔とノズル7の孔とがフッ素樹脂シート2のスリット上に位置するように設置した。さらに、作製した装置はあらかじめ水を供給することで液が漏洩しないことを確認した。
アクリル樹脂製板1の正面に高速度カメラ9を設置し、照明を用いながら、形成されるエマルジョン液滴の形状、粒子径を連続して監視した。
(3)(乳化)
(2)で作製した乳化装置を水平に置いて使用し、ノズル6より(1)で調製した界面活性剤を溶解したイソノナンを、ノズル8より(1)で調製したケイ酸ナトリウム水溶液を供給することで、ケイ酸ナトリウム水溶液が界面活性剤を溶解したイソノナン中に分散するW/O型エマルジョンを連続的に製造した。このとき界面活性剤を溶解したイソノナンの供給量は1350mL/hであった。実験は常温で行い、運転時間は2時間であった。
このとき、イソノナンの流れのレイノルズ数は、流路の動水半径:176.5μm、線速:0.31m/s、粘度:7.5×10−4Pa・sから計算したところ約213であり、層流状態であった。また、ケイ酸ナトリウム水溶液の供給量は32.2mL/hであり、貫通孔における流れ方向の線速は2.0×10−3m/sであった。
また、貫通孔から供給されるケイ酸ナトリウム水溶液の貫通孔部分での流れ方向の線速に対する、イソノナンの流れ方向の線速の比は159であった。高速度カメラにて乳化の様子を確認したところ、ケイ酸ナトリウム水溶液は、貫通孔出口で液滴化されており、またエマルジョン粒子は約60μmの実質的に均一な粒子径を有していた。
(4)(相分離)
乳化装置から取り出したW/O型エマルジョンは、有効容積約3Lの分離槽(直径120mm、高さ300mm)において、比重差を利用してイソノナン相とエマルジョン相とに分離した。該分離槽における滞留時間は2.2時間であった。分離後のイソノナン相は、ノズル6に供給して乳化操作に循環使用した。
(5)(ゲル化)
(4)で分離したエマルジョン相を容積約5Lの容器(直径100mm、高さ650mm)に連続的に供給しながら、炭酸ガスを300mL/minの供給速度で吹き込んで予備ゲル化を行い、シリカヒドロゲルの水スラリーを得た。得られた水スラリーに0.1規定の硫酸水溶液を加え、25℃でpH9に調整した後、80℃において1時間熟成した。その後、室温まで放冷し、さらに20質量%の硫酸水溶液を添加してpH2に調整し、3時間静置した。次いでろ過、水洗を行い、120℃で20時間乾燥することでシリカ多孔質球状体を得た。得られたシリカ多孔質球状体の収量は19.7gであった。
(6)(形状確認)
得られたシリカ多孔質球状体は走査型電子顕微鏡写真よりほぼ真球状であることが確認された。また、粒子の合計数が1000個以上となるように、複数枚の写真を使用し、写真内に確認できる全数を測定した結果を使用して粒子径分布を実測した。個数平均粒子径は50μmであり、標準偏差は6.4μmであった。このときの、粒子径分布の標準偏差を個数平均粒子径で割った値は0.128であり、実質的に均一な粒子径のシリカ多孔質球状体であった。
例2
例1と同様にしてW/O型エマルジョンを連続的に製造した。界面活性剤を溶解したイソノナンを容積約5Lの容器(直径100mm、高さ650mm)に入れ、この溶液中に炭酸ガスを300mL/minの供給速度で吹き込みながら、該容器中に上記で得られたW/O型エマルジョンを連続的に供給してゲル化を行った。生成したシリカヒドロゲルを有効容積約2Lの分離槽(直径110mm、高さ240mm)において、比重差を利用してイソノナン相と水性液状体相とに分離し、シリカヒドロゲルの水スラリーを得た。滞留時間は1.4時間であった。得られた水スラリーを例1と同様にして熟成し、ろ過、水洗、乾燥を行ってシリカ多孔質球状体を得た。得られたシリカ多孔質球状体の収量は19.5gであった。分離後のイソノナン相は、ノズル6に供給して乳化操作に循環使用した。
得られたシリカ多孔質球状体は走査型電子顕微鏡写真よりほぼ真球状であることが確認され、個数平均粒子径は51μmであり、標準偏差は6.8μmであった。このときの、粒子径分布の標準偏差を個数平均粒子径で割った値は0.133であり、実質的に均一な粒子径のシリカ多孔質球状体であった。
例3
(1)乳化装置の作製
乳化装置は図4に断面図を示す。まず、厚さ20mm、50×120mmの長方形のアクリル樹脂製板10に、内径3.2mmの孔を2個形成し、外径3.2mmのゴムチューブ配管(ノートン社製、商品名:タイゴンチューブR−3603)をそれぞれ接続してノズル14、15とし、ノズル14より液の供給が、また、ノズル15より液の排出ができるようにした。もう1枚の厚さ20mm、50×120mmの長方形のアクリル樹脂製板13の中央に、幅5mm、深さ2mmの直線状の溝を形成し、両端に内径3mmの貫通孔を形成し、ジョイント部品を介して内径1mmのテトラフルオロエチレンチューブ配管を接続してノズル16、17とし、ノズル16より液の供給が、また、ノズル17より液の排出ができるようにした。ついで、厚さ400μm、50×120mmの長方形のフッ素樹脂シートに幅3mm、長さ70mmのスリットを形成してフッ素樹脂シート11を作製した。さらに、厚さ50μm、50×100mm長方形のステンレス鋼板12の中央部に、エキシマレーザーにて内径4r=30μmの、断面の形状が円形の貫通孔を、幅方向に100μmピッチで26個、長さ方向に100μmピッチで301個の並列配列として合計13026個を作製して微小孔Yとした。次いで、溶剤可溶型フッ素樹脂(旭硝子製、商品名:サイトップ)を溶媒(旭硝子製、商品名:CT−solv100)に溶解した溶液で処理して、被覆厚0.1μmのフッ素樹脂層を形成してステンレス鋼板12を作製した。例1と同様にして測定したステンレス鋼板12の開孔率は7.1%であった。
アクリル樹脂製板10、フッ素樹脂シート11、ステンレス鋼板12及びアクリル樹脂製板13を順に積層し、クランプにて上下2辺を均等な力で締め付けて固定した。このとき、ステンレス鋼板12に作製した貫通孔の幅方向及び長さ方向を、それぞれフッ素樹脂シート11に作製したスリットの幅方向及び長さ方向に合わせ、貫通孔がスリットの中心部に位置するように、また、アクリル樹脂製板10のノズル14の孔とノズル15の孔とがフッ素樹脂シート11のスリット上に位置するように設置した。さらに、作製した装置はあらかじめ水を供給することで液が漏洩しないことを確認した。
(2)乳化
(1)で作製した乳化装置は図4のように、水平面に対して垂直に置いて使用した。界面活性剤の濃度を20000ppmに変更した以外は例1と同様にして調製したイソノナンをノズル14から供給し、例1と同様にして調製したケイ酸ナトリウム水溶液をノズル16から供給してW/O型エマルジョンを連続的に製造した。このときの、界面活性剤を溶解したイソノナンの供給量は900mL/hであった。実験は常温で行い、運転時間は1時間であった。
このとき、イソノナンの流れのレイノルズ数は、流路の動水半径:176.5μm、線速:0.20m/s、粘度:7.5×10−4Pa・sから計算したところ約137であり、層流状態であった。また、ケイ酸ナトリウム水溶液の供給量は29mL/hであり、貫通孔における流れ方向の線速は8.7×10−4m/sであった。
また、貫通孔から供給されるケイ酸ナトリウム水溶液の貫通孔部分での流れ方向の線速に対する、イソノナンの流れ方向の線速の比は238であった。
乳化装置から取り出したW/O型エマルジョンは、有効容積約3Lの分離槽(直径120mm、高さ300mm)において、比重差を利用してイソノナン相とエマルジョン相とに分離した。分離したイソノナン相はノズル14に供給して乳化操作に循環使用した。さらにこの循環操作を4回繰り返した。
分離操作の各回後において得られたエマルジョン相の一部を採取し、光学顕微鏡で平均的なエマルジョン径[μm]を観察したところ、表1に示す結果が得られた(表1において、n[回目]=イソノナンの使用回数を示す)。なお、FT−IRを用い、カルボニルの吸収強度から界面活性剤の濃度を定量したが、各回において濃度変化は認められなかった。

表1の結果より、有機液体の界面活性能力は水性液状体との核触により初期的に低下するものの、3回目以降は比較的安定化すると判断される。
例4〜10
界面活性剤の濃度を20000ppmに変更した以外は例1と同様にして調製したイソノナン10Lのうち、1.2Lを2Lのビーカーに採取し、表2に示すアルカリを含む液体を添加して撹拌機で10分間混合した。一晩静置した後、上相のイソノナン相約1Lを採取して有機液体として用いた以外は例3と同様にしてW/O型エマルジョンを作製した。得られたエマルジョンの一部を採取し、光学顕微鏡でエマルジョンが形成されているかどうかを観察した。さらに、一晩静置した後のエマルジョン径の変化の有無を光学顕微鏡で観察し、エマルジョンの安定性を調べた。結果を表2に示す。

表2の結果より、強アルカリ性の水溶液と接触させることにより、有機液体の界面活性能力が著しく低減することがわかる。
例11
フッ素樹脂シート2として厚さ200μmのものを用い、ステンレス鋼板3に穿孔した貫通孔の内径を20μmに変更した以外は例3と同様にして乳化装置を作製した。得られた乳化装置を用い、例10と同様にしてW/O型エマルジョンを作製した。このとき、イソノナンの使用量は950mL/回とした。1回の乳化操作により目減りするイソノナンなどの量を100mL/nと概算し、毎回の分離操作後に得られたイソノナン相に対し、例10と同様にして作製した有機液体を100mL/回添加しながら循環操作を繰り返して連続的にW/O型エマルジョンを作製した。
分離したエマルジョンに対し、界面活性剤を7000ppm含むイソノナンを添加して全量を900mLとし、炭酸ガスを200mL/分の速度で30分間吹き込んで液滴を固形化した。得られた固形化物を分離し、洗浄、乾燥を行ってシリカ多孔質球状体を得た。得られたシリカ多孔質球状体の粒子径分布を140μmのアパチャーを使用して、電気抵抗法(ベックマン・コールター社製、Multisizer 3)で測定した。結果を表3に示す。

表3の結果より、循環使用の繰り返しにより平均粒子径、粒度分布幅ともに経時的に、徐々に増大することがわかる。
次に、85回使用した後の有機液体(約800mL)に対し、200mL/分の速度で炭酸ガスを30分間吹き込んだ後、空気を200mL/分の速度で15分間吹き込んで脱炭酸処理し、例10と同様に作製したイソノナン溶液を添加して全量を950mLとしたものを有機液体として用いて再度、W/O型エマルジョンを作製し、上記と同様にして固形化処理してシリカ多孔質球状体を得た。上記と同様にして測定したシリカ多孔質球状体の平均粒子径及び粒子径分布を合わせて表3に示す。
表3の結果より、酸処理(炭酸ガス処理)を行うと有機液体の界面活性能力が回復することがわかる。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、実質的に均一な粒子径を持つ無機質球状体を、安定した連続プロセスにより高生産性で製造することが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体を、隔壁で区画された流路中を流速0.001〜2m/sかつ層流状態で流れる界面活性剤を含む有機液体中に、1つの隔壁の厚さ方向に貫通した微小孔を通して押し出してW/O型エマルジョンを形成する工程と、前記W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化して無機質球状体を形成する工程と、前記W/O型エマルジョン又は前記無機質球状体の形成後の液体から分離して回収した前記有機液体を前記有機液体の流路へと循環する工程と、を含む無機質球状体の製造方法であって、
前記有機液体の流路へと循環される有機液体は、W/O型エマルジョンの状態又はW/O型エマルジョンから分離された後で酸と接触されたものであることを特徴とする無機質球状体の製造方法。
【請求項2】
無機化合物を含むアルカリ性の水性液状体を、隔壁で区画された流路中を流速0.001〜2m/sかつ層流状態で流れる界面活性剤を含む有機液体中に、1つの隔壁の厚さ方向に貫通した微小孔を通して押し出してW/O型エマルジョンを形成する工程と、前記W/O型エマルジョン中の無機化合物を含む水性液状体の液滴を酸により固形化して無機質球状体を形成する工程と、を含む無機質球状体の製造方法において、
前記有機液体の流路へと供給される有機液体は、アルカリ性の水性液状体を接触させた後、分離して回収したものであることを特徴とする無機質球状体の製造方法。
【請求項3】
前記無機化合物がケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム及びシリカからなる群より選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の無機質球状体の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤がノニオン系界面活性剤である請求項1〜3のいずれかに記載の無機質球状体の製造方法。
【請求項5】
前記界面活性剤を、前記有機液体中に500〜50000ppm含有する請求項1〜4のいずれかに記載の無機質球状体の製造方法。
【請求項6】
前記有機液体の流路を構成する隔壁の少なくとも一部分を透明な材料で構成する請求項1〜5のいずれかに記載の無機質球状体の製造方法。
【請求項7】
前記W/O型エマルジョンを形成する工程を、前記透明な材料を介して設置した監視装置を用いて連続的に監視しながら行う請求項6に記載の無機質球状体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/101139
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506248(P2005−506248)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006810
【国際出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】