説明

無機Ti‐Mg触媒を用いて合成されたポリエチレンテレフタレート樹脂及びその使用

【課題】優れた透明性を有するPET樹脂を提供する。
【解決手段】
少量の青色染料と、必要に応じてFe34またはBaSO4の無機粒子とを含むPET樹脂が、重縮合プロセスにおいて重縮合触媒として使用される無機Ti‐Mg触媒と、リン安定剤との存在中で合成される。得られたPET樹脂は黄色味を帯びておらず、製造後の再生成アセトアルデヒドと環状オリゴマーとが削減される。このため、このPET樹脂でできたPETボトル予成形品は、エージング時間を短縮することができ、その結果、ボトル予成形品の製造歩留りが向上し、ボトル予成形品を保管するためのスペースを削減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂、特に、少量の青色染料と無機粒子とを含み、重縮合触媒として無機Ti‐Mg触媒を使用して合成されるポリエチレンテレフタレート樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を製造する従来のプロセスは、精製されたテレフタル酸(TA)とエチレングリコール(EG)とを直接エステル化反応により反応させ、ビス(2‐ヒドロキシエチル)テレフタレート(即ちモノマー)とオリゴマーと水とを生成する。この反応は可逆であり、直接エステル化プロセスの間に水を取除くことで反応を完了させることができる。直接エステル化プロセスは触媒を必要とせず、従来、触媒は使用されない。
【0003】
次に、該モノマーは重縮合プロセスを経て、PETを形成する。重縮合プロセスは通常、重縮合触媒としてアンチモンを使用する。必要であれば、重縮合プロセスに続いて固相重合プロセスを実行し得られるPET樹脂の分子量を増加させてもよい。
【0004】
近年、PETボトルは飲料容器用途で優位となり、全ての種類のガラスボトルとアルミ缶とをほとんど置き換えてしまった。しかし、PETボトルから微量のアンチモン(Sb)が、ボトル内の飲料に滲み出し可能であり、アンチモン(Sb)等の重金属が人の健康にとって重大な脅威となっていることが証明された。
【0005】
この問題を解決するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)を製造するプロセスでは、PETを形成する重縮合プロセスにおける重縮合触媒として、アンチモン(Sb)触媒の代りに有機チタン含有触媒が使用されてきた。しかし、チタン含有触媒を重縮合触媒として使用することは、幾つかの欠点をまだ有している。例えば、でき上ったPETが黄色味を帯び、また熱劣化し易く、このため不都合にもPET内に比較的高い濃度のアセトアルデヒドと環状オリゴマーとをもたらす。でき上ったPETが黄色味を帯びる問題は、PET製造の重縮合プロセス中に染料を加えることでも解決することが困難である。
【0006】
例えば、特許文献1は、有機チタン酸テトラブチル(TBTとも呼ばれる)をチタン含有触媒として使用し、ビス(2,4‐ジ‐t‐ブチルフェニル)ペンタエリトリトール・ジホスファイト(市場では酸化防止剤AT‐626と呼ばれる)を合成されたポリマーのアセトアルデヒド濃度を下げる安定剤として使用する。しかしながら、この従来技術は、でき上ったPETが黄色味を帯びる問題を克服できていない。
【0007】
特許文献2は、PET製造の重縮合プロセスにおいて有機チタン酸テトラブチル化合物をチタン含有触媒として使用し、酢酸コバルトを加えて、PETの欠点である黄色味をなくす。
【0008】
特許文献3に開示された実施形態も、PETを合成するためにチタン酸テトラブチル(TBT)と、リン化物と、酢酸マグネシウムとの使用を含む。しかし、この従来技術は、チタン含有触媒の存在中で合成したPETの欠点である黄色味をなくすための解決法を提供していない。
【0009】
特許文献4は、重縮合触媒を開示している。この重縮合触媒を生成するために、有機チタン化合物と有機リン化合物とがある比率で混合され、グリコールに溶解され、触媒溶液が調製される。次に、この触媒溶液を無水物と200℃で反応され、重縮合触媒を生成する。しかし、この従来技術は、チタン含有触媒の存在中で合成したPETの欠点である黄色味をなくすための解決法を提供していない。
【0010】
特許文献5は、チタン酸テトラブチル(TBT)、リン酸エステル、及びマグネシウム化合物の存在中で合成されるPETに関係する。しかし、この従来技術は、チタン含有触媒の存在中で合成したPETの欠点である黄色味をなくすための解決法を提供していない。
【0011】
特許文献6と特許文献7は、それぞれ有機チタン酸テトラブチル(TBT)、又は有機チタン酸テトライソプロピルを重縮合触媒として使用し、また、ホスホン酸エステルを使用して所望の色を持ったPETを合成する。
【0012】
特許文献8と特許文献9は、有機チタンイソプロポキシド・ビス(アセチル‐アセトナート)、又は有機チタン酸テトラブチル(TBT)を重縮合触媒として使用してPETを合成する。このPETでできたボトル予成形品は、輝いていて非常に透明であり、金属成分濃度が低いという特徴を備える。このようなボトル予成形品から作られた熱い物体用ボトルは、華氏195〜205度の物体温度において優れた透明性と所望のサイズ安定性とを維持する。
【0013】
特許文献10は、ハロゲン化チタンを加水分解して水解物を得て、その水解物を脱水乾燥することで調製される固体チタン化合物Tを開示する。この従来技術によると、固体チタン化合物Tを他の化合物E、例えば水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、又は水酸化バリウムと混合してもよい。ここで、E/Tiモル比は1/50と50/1の間であり、一方、OH/Tiモル比は0.09と4の間である。
【0014】
特許文献11は、ボトルの製造に使用されるPETの合成に適用可能な重縮合触媒に関係する。Mg(OH)2とTiCl4が水に混合され水溶液を形成する。次に、アンモニア水を一滴ずつ加え、該水溶液を約9pHに調整する。次に、酢酸水溶液を一滴ずつ加え、該水溶液を約5pHに調整する。濾過し、洗浄し、エチレングリコールに溶解した後、この溶液を遠心分離機にかけ、固形物を分離する。次に、この固形物を真空中において40℃で20時間乾燥させた後、砕いて10〜20μmのサイズの粉末にする。この粉末を水酸化ナトリウムを含むエチレングリコール溶液と混合してPETボトルの合成に使用する重縮合触媒を得る。水酸化ナトリウムを使用することで、この従来技術は、高い固相重縮合率を持ち、再生成アセトアルデヒドの濃度が低いポリエステルを提供する。しかし、この従来技術は、チタン含有触媒の存在中で合成したPETの欠点である黄色味をなくすための解決法を提供していない。
【0015】
特許文献12は、ポリエステル製造のための重縮合触媒を開示する。この重縮合触媒はMgCl2水溶液をNaOH水溶液と170℃で約30分間反応させて生成されるチタン含有触媒であり、この反応溶液を濾過し、洗浄してMg(OH)2水スラリーを形成する。次に、TiCl4水溶液とNaOH水溶液を混合したものを、Mg(OH)2水スラリーに加える。TiCl4・NaOH混合水溶液をMg(OH)2スラリーに一滴ずつ加えた後、この混合液をエージングのために1時間攪拌し、スラリー内のMg(OH)2の外面にTiO2を付着させる。その後、このスラリーを濾過し、洗浄して固形物を得る。この固形物を乾燥させ砕いて粉末にし、エチレングリコールと混合して重縮合で使用する溶液を形成する。この文献に開示されているように、この重縮合触媒の反応速度と、この重縮合触媒の存在中で合成したポリエステルの色とは、三酸化アンチモン(Sb23)の場合と類似している。
【0016】
また、ボトル完成品に成形される前に、チタン触媒の存在中で合成したPETでできたボトル予成形品は、アンチモン触媒の存在中で合成したPETでできたボトル予成形品より長いエージング時間を必要とする。そうしないと、チタン触媒の存在中で合成したPETでできたボトル予成形品はサイズ安定性に劣り、収縮及び変形し易い。また、エージング時間の長さが不十分な場合は、温度設定されたプロセスによって作られた熱い物体用ボトルの結晶化度が低くなり、また、チタン触媒の存在中で製造された熱い物体用ボトルの耐熱温度がアンチモン触媒の存在中で製造された熱い物体用ボトルに比べて低くなる。
【特許文献1】米国特許第5,922,828号明細書
【特許文献2】米国特許第6,013,756号明細書
【特許文献3】米国特許第6,500,915号明細書
【特許文献4】米国特許第6,593,447号明細書
【特許文献5】米国特許第6,667,383号明細書
【特許文献6】米国特許第6,489,433号明細書
【特許文献7】米国特許第6,541,598号明細書
【特許文献8】米国特許第7,094,863号明細書
【特許文献9】米国特許第7,129,317号明細書
【特許文献10】米国特許第6,451,959号明細書
【特許文献11】米国特許第7,300,998号明細書
【特許文献12】国際特許出願公開第2008/001473号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の主な目的は、少量の青色染料と、必要に応じて無機粒子とを含むPET樹脂を提供することである。このPET樹脂は、重縮合プロセスにおいて重縮合触媒として使用される無機Ti‐Mg触媒と、適当な量のリン安定剤との存在中で合成される。得られたPET樹脂は黄色味を帯びておらず、製造後の再生成アセトアルデヒドと環状オリゴマーとがかなり削減される。
【0018】
本発明の別の目的は、精製されたテレフタル酸とエチレングリコールを使用して直接エステル化プロセスと、重縮合プロセスとを続けて実行し、必要に応じて更に個相重合プロセスを実行してPETポリマーの固有粘度を0.70dl/g以上に増加させることを含むPET樹脂製造プロセスを提供することである。該直接エステル化プロセスの終了前に、PET樹脂全重量の3ppm未満の濃度で青色染料を加え、該重縮合プロセスの開始前に、PET樹脂全重量の10〜100ppmの範囲の濃度で無機Ti‐Mg触媒と、該PET樹脂全重量の5〜50ppmの範囲の濃度でリン化合物とを直接エステル化プロセスを実行するための反応タンク内に加える。加えられたチタンの濃度は、該PET樹脂全重量の5〜10ppmの範囲であり、加えられた該チタンとマグネシウムのモル比は0.005〜1の範囲である。また、該重縮合プロセス中に、Fe34またはBaSO4の無機粒子を前記PET樹脂全重量の20〜250ppmの範囲の濃度で更に加えてもよい。
【0019】
本発明の効果の1つは、少量の青色染料と、必要に応じて無機粒子とを含む本発明の合成されたPET樹脂はPETボトル予成形品を作るのに適し、ボトル予成形品の必要とするエージング時間が短縮され、それにより、PETボトルの製造効率が向上し、ボトル予成形品を保管するためのスペースを削減できることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のポリエチレンテレフタレート(PET)を製造するためのプロセスは、2つのステップ、(1)直接エステル化プロセスと、(2)重縮合プロセスとを含む。PETの固有粘度(IV)を0.70dl/g以上に増加させてるために、必要であれば、固相重合プロセスを更に実行してもよい。
【0021】
本発明においては、直接エステル化プロセスにおいて触媒系を使用しないが、青色染料を直接エステル化プロセスが終る前に加える。
【0022】
重縮合プロセスにおいて、無機チタン・マグネシウム含有触媒(以下、無機Ti‐Mg触媒と略記する)を重縮合触媒として使用し、リン化合物を熱安定剤として使用する。これらを重縮合プロセスの開始前に加える。
【0023】
本発明のPETを製造するための別の実施形態では、無機粒子を重縮合プロセス中に更に加え、製造されたPETが該無機粒子を含むようにする。
【0024】
本発明のPETを製造するための実際のプロセスを下記に示す。
【0025】
精製されたテレフタル酸(TA)とエチレングリコール(EG)とをスラリーの形態に調製し、連続的にエステル化タンクにポンプで投入し、そこで第1段階である直接エステル化プロセスが行われる。このエステル化プロセスは240℃〜270℃、好ましくは250℃〜260℃の範囲の材料温度、及び大気圧〜2.0Kg/cm2、好ましくは0.01Kg/cm2〜1.0Kg/cm2の範囲のプロセス圧で、3〜8時間、好ましくは4〜6時間の範囲の反応時間実行される。
【0026】
また、エステル化タンクの出口におけるモノマー変換率は92%、好ましくは95%を超える。直接エステル化プロセス中に生成される蒸気状態のエチレングリコールと水とは、蒸気管を通って分離のために蒸留塔に導かれ、蒸留塔の底に集められたエチレングリコールは、エステル化タンクに還流される。
【0027】
上記エステル化プロセスで生成されたモノマーは、連続的に前重縮合反応器にポンプで投入され、前重縮合反応が行われる。前重縮合反応器は1つ又は2つの容器を備えてよい。前重縮合プロセスは260℃〜280℃、好ましくは250℃〜260℃の範囲の材料温度、及び10mmHg〜200mmHgの範囲のプロセス圧で実行される。前重縮合プロセス中に生成されるエチレングリコール等の蒸気副生成物は、液体に凝縮される。前重縮合の滞留時間は0.5時間と2時間の間である。
【0028】
前重縮合プロセスで生成された生成物は、連続的に高真空仕上げ器にポンプで投入され、更に重縮合反応を行い、その固有粘度は0.50dl/g以上に増加する。高真空仕上げ器はケージ型又はディスク型の1つ又は2つの容器を備えてよい。高真空仕上げ器内の材料温度は265℃〜290℃、好ましくは285℃未満である。高真空仕上げ器では、多段排出装置を使用し、真空圧を2mmHg未満に保つとともに、実際に加えられる真空圧はでき上ったポリマーの粘度のフィードバック制御によって影響される。
【0029】
高真空仕上げ器内の重縮合プロセスにより生成されたポリマーは、ポンプで金型ヘッドに連続的に引き出され押し出し成形される。押し出し成形されたポリマーは直ちに冷水中で冷やされ、カッターで無定形のチップに切断される。
【0030】
本発明の無機Ti‐Mg触媒は重縮合プロセスにおいて重縮合触媒として使用され、PET樹脂を形成する。この触媒は、下記のように化学析出によって合成される。
(1)TiCl4を純水に溶解し、氷水槽内における加水分解プロセスを経て水解物水溶液を形成する;
(2)この水解物水溶液とMgCl2水溶液とを所定のTi/Mgモル比で室温において混合する;
(3)次に、NaOH水溶液をTi‐Mg混合物に攪拌しながらゆっくりと加え、白い析出物を含むスラリーを形成する;
(4)次に、このスラリーを純水で洗浄し、濾過し、100℃で真空乾燥する;
(5)この乾燥生成物を砕いて1μm未満のサイズの粉末にする;
(6)得られた粉末をエチレングリコールと混合し触媒溶液、即ち、本発明で使用される無機Ti‐Mg触媒を生成する。
【0031】
本発明で使用される無機Ti‐Mg触媒の粒子直径は1μm未満であり、加えられたチタンとマグネシウムのモル比(以下、Ti/Mgモル比と略記する)は、約0.005〜1、好ましくは0.1〜0.2である。
【0032】
本発明のPET樹脂を生成するための合成プロセスにおいて、重縮合プロセスにおいて加えられる無機Ti‐Mg触媒の量は、PET樹脂全重量の10ppm〜100ppmの範囲である。加えられるチタンの量は、PET樹脂全重量の5ppm〜10ppmの範囲である。Ti‐Mg触媒とエチレングリコールとからなる触媒溶液の濃度は、0.01%と15%の間である。
【0033】
本発明で使用されるリン化合物は、リン酸、亜リン酸、及び様々な燐エステルから選択された任意のものであってよい。本開示のPETの合成プロセスにおいては、リン化合物がPET樹脂全重量の5ppm〜50ppm、好ましくは10ppm〜30ppmの範囲の濃度で加えられる。
【0034】
本発明で使用される無機粒子は、Fe34またはBaSO4の粒子直径1μm未満の無機粒子である。本発明で開示されたPETの合成プロセスにおいては、この無機粒子はPET樹脂全重量の20〜250ppm、好ましくは25〜50ppmの範囲の濃度で加えられる。
【0035】
本発明のPET樹脂が黄色味を帯びないようにするために、染料が必要に応じて使用され、ハンター比色計で測定されるPETのハンター“b”値を下げる。この染料はC.I. Solvent Blue 104等の青色染料であってよい。加えられる青色染料の量は、PET樹脂全重量の3ppm未満、好ましくは2ppm未満、より好ましくは1ppm未満である。
【0036】
一方、同じハンター比色計で測定されるPET樹脂のハンター“a”値が低くなるのを防ぐために(低いハンター“a”値はPETが緑色を帯びることを意味する)、少量の赤色染料が必要に応じて加えられてもよい。しかし、赤色染料はPET樹脂のハンター“L”値を減少させ、PET樹脂を黒ずませる。
【0037】
本発明で開示されたPETの合成プロセスにおいて、固相重合プロセスに使用される装置は、例えば、スイスのBuhler、イタリアのSinco、又はアメリカのBepexによって提供される連続重合装置であってよい。連続重合装置を使用することで、第2段階である重縮合プロセスにおいて生成される無定形PETの分子量を0.70dl/g以上、好ましくは0.72dl/gと0.86dl/gの間の値に増加させることができる。
【0038】
本発明のPET樹脂は、従来の一段階ボトル製造方法または二段階ボトル製造方法による熱い物体用PETボトルの製造において使用される。
【0039】
一段階ボトル製造方法を採用した場合、延伸ブロー成形機において、PET樹脂は270℃〜295℃の範囲の溶融温度で直接溶融され、ボトル予成形品が作られる。短い冷却時間後、ボトル予成形品を延伸ブローにより熱い物体用PETボトルに成形することができる。
【0040】
二段階ボトル製造方法を採用した場合、射出ブロー成形機が使用され、270℃〜290℃の範囲の溶融温度でPET樹脂からボトル予成形品が作られる。数日間のエージング後、この予成形品は近赤外ランプによりそのガラス遷移温度を超える温度に加熱され、PETボトルにブロー成形される。
【0041】
また、本発明のPET樹脂は次のような幾つかの特徴を持つ:
(1)重縮合プロセスにおいて、本発明の無機Ti‐Mg触媒の存在中で合成された本発明のPET樹脂は、有機チタン触媒の存在中で合成された既知のPET樹脂よりかなり低いハンター“b”値(ハンター比色計で測定される)を有する。
(2)既知のPET樹脂は通常、重縮合プロセスにおいて有機チタン触媒及び熱安定化剤であるリン酸の存在中で合成されるが、有機チタン触媒の働きはこのリン酸によってかなり抑制されることが実験によって分かった。
一方、本発明のPET樹脂は、重縮合プロセスにおいて無機Ti‐Mg触媒及び熱安定化剤のリン酸の存在中で合成されるが、無機Ti‐Mg触媒の働きはこのリン酸によってあまり抑制されないことが本発明者らの実験によって分かった。この結果、本発明のPET樹脂でできたPETボトルは、上記既知のPET樹脂でできたPETボトルより少ないアセトアルデヒドを含む。
(3)重縮合プロセスにおいて本発明の無機Ti‐Mg触媒の存在中で、ある量の染料を加えて合成された本発明のPET樹脂は、有機チタン触媒の存在中で、同じ量の染料を加えて合成された既知のPET樹脂より明らかに優れた色調を呈する。
従って、本発明のPET樹脂は、既知のPET樹脂より少ない量の青色染料を含んでもよいことが分かった。その結果、本発明のPET樹脂は相対的に高いハンター“L”値(ハンター比色計で測定される)を有する。特に、本発明のPET樹脂でできたPETボトルは、相対的にずっと明るく見える。
(4)Fe34またはBaSO4の無機粒子を更に含む本発明のPET樹脂でできたボトル予成形品は、その必要とするエージング時間が無機粒子を含まないPET樹脂でできたボトル予成形品よりずっと短い。
一般に、有機チタン触媒の存在中で合成された既知のPET樹脂でできたボトル予成形品は、ボトルにブロー成形する前に5〜7日間待たなければならない。そうしないと、そのボトルはサイズ安定性に劣る傾向がある。ボトルネックが結晶化され白くなるべき熱い物体用PETボトルが、十分でないエージング時間後にボトル予成形品からブロー成形された場合、そのボトルネックの結晶化度は、低くなる傾向がある。この結果、熱い物体用PETボトルは、熱い物体を充填する工程で容易に変形し、キャップとボトルの間の封止が不完全になり、このため、該ボトル内の飲料の保存寿命がかなり短くなる。
一方、本発明のPET樹脂でできたボトル予成形品は、たった5日または3日未満でもよい短いエージング時間を必要とするだけである。
【0042】
下記の実施例及び比較例は、本発明の効果を例示し、提示するために提供される。従って、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されないことは理解されるべきである。
【0043】
アセトアルデヒド濃度分析
射出成形された予成形品を液体窒素で凍結させ、砕いて粉末にする。この粉末を隔壁キャップで封止されるセルに受け取り、このセルを150℃で30分間加熱処理する。次に、セル内のガスを該キャップに突き刺したサンプリングプローブにより抜き取り、次にこのサンプリングプローブからガス試料をガスクロマトグラフ装置に注入し分析する。
【0044】
環状三量体分析
六フッ化イソプロピルアルコール溶媒を使用して正確に計量されたPET樹脂を溶解し、透明な溶液を調製する。この透明な溶液を真空中で濾過し、透明な濾過液を蒸発乾燥させ、白い結晶の形態の環状オリゴマーを得る。
この白い結晶をジオクサン(二酸化ジエチレンとも呼ばれる)に溶解し別の透明な溶液を得る。この透明な溶液を高性能液体クロマトグラフィー装置(HPLC)に注入してLC分析をする。
【0045】
予成形品エージング時間試験
本発明のPETでできた複数のボトル予成形品を、それぞれ1日、2日、3日、4日、5日、6日、及び7日間エージングのために保管する。次に、これらのボトルのボトルネックを近赤外ランプにより約160℃に加熱する。近赤外加熱を3分間続けると、ボトルネックは白くなる。次に、白くなったボトルネックをボトルから取り出して密度勾配管により分析し結晶化度を測定する。
白くなったボトルネックの結晶化度が35%を超えるエージング期間を記録する。
【0046】
実施例1
連続溶融重合工程から取ったエステル化率88%のBHETモノマーを計量し、10.81KgのBHETモノマーに3.23KgのEGと、0.6gのリン酸(即ち、60ppmのリン酸)とを加える。得られた混合物を190℃超に加熱し、攪拌器回転速度60rpm、反応圧約1Kg/cm2で2時間、エステル化反応を実行する。エステル化反応の終りにおいて、この混合物は約240℃であり、エステル化率は95%を超える。
【0047】
エステル化反応後、エチレングリコールに溶解された無機Ti‐Mg触媒を加える。無機Ti‐Mg触媒のTi/Mgモル比は0.25であり、チタンの添加量はPETの5ppmである。更に、エチレングリコールに溶解された青色染料と、エチレングリコールに溶解された赤色染料とをそれぞれPETの2.0ppmと0.7ppmの濃度で添加する。次に、エステル化されたモノマーは真空中で前重合プロセスを経る。1時間のこのプロセスの間、反応圧は760トルから10トルに徐々に減少される。反応温度は240℃と255℃の間である。続いて、重合プロセスが、反応圧は1トル未満で、反応温度は255℃から徐々に増加される高真空環境下で実行される。反応温度の増加とともに、ポリマーの粘度は増加し、攪拌器の一定のトルクの下、攪拌器の回転速度は約25rpmまで徐々に減少する。このプロセスの終りにおいて、ポリマーの温度は280.7℃である。ポリマーは急速に冷却され、無定形のチップに切断される。分析により、その固有粘度IVは0.613dl/gであることが分かる。反応時間は82分である。得られた樹脂を先細の真空個相重合タンクに投入し、個相重合プロセスを行う。これによりIV値が0.724dl/gに増加する。
得られた樹脂を使用してボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0048】
実施例2
実施例2のPET樹脂は、実施例1で説明したのと同様の方法によって生成される。実施例2では、PET樹脂の1.1ppmの濃度で青色染料が添加される。275.0℃まで加熱した後、ポリマーは急速に冷却され、無定形のチップに切断される。分析により、その固有粘度IVは0.538dl/gであることが分かる。反応時間は90分である。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.74dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0049】
実施例3
実施例3のPET樹脂は、実施例1で説明したのと同様の方法によって生成される。実施例3では、PET樹脂の0.9ppmの濃度で青色染料と、PET樹脂の0.6ppmの濃度で赤色染料とが添加される。281.1℃まで加熱した後、ポリマーは急速に冷却され、無定形のチップに切断される。分析により、その固有粘度IVは0.607dl/gであることが分かる。反応時間は81分である。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.73dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0050】
実施例4
実施例4のPET樹脂は、実施例3で説明したのと同様の方法によって生成される。実施例4では、青色染料と赤色染料とに加えて、Fe34の無機粒子がPET樹脂の25ppmの濃度で添加される。280.1℃まで加熱した後、ポリマーは急速に冷却され、無定形のチップに切断される。分析により、その固有粘度IVは0.610dl/gであることが分かる。反応時間は80分である。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.72dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0051】
実施例5
実施例5のPET樹脂は、実施例4で説明したのと同様の方法によって生成される。実施例5では、Fe34の無機粒子がPET樹脂の50ppmの濃度で添加される。280.0℃まで加熱した後、ポリマーは急速に冷却され、無定形のチップに切断される。分析により、その固有粘度IVは0.608dl/gであることが分かる。反応時間は81分である。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.71dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0052】
実施例6
実施例6のPET樹脂は、実施例4で説明したのと同様の方法によって生成される。実施例6では、赤色染料は添加せず、PET樹脂の0.5ppmの濃度で青色染料と、250ppmの濃度でFe34の無機粒子が添加される。279.8℃まで加熱した後、ポリマーは急速に冷却され、無定形のチップに切断される。分析により、その固有粘度IVは0.605dl/gであることが分かる。反応時間は81分である。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.72dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0053】
実施例7
実施例7のPET樹脂は、実施例2で説明したのと同様の方法によって生成される。実施例7では、チタンの濃度がPET樹脂の10ppmとなるように無機Ti‐Mg触媒が添加される。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.76dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0054】
比較例1
比較例1のPET樹脂は、実施例1で説明したのと同様の方法によって生成される。比較例1では、無機Ti‐Mg触媒の代わりに有機チタン酸テトラブチル(TBT)触媒が使用され、リン酸トリエチル(TEP)が安定剤として添加される。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.72dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0055】
比較例2
比較例2のPET樹脂は、実施例2で説明したのと同様の方法によって生成される。比較例2では、無機Ti‐Mg触媒の代わりに有機チタン酸テトラブチル(TBT)触媒が使用され、リン酸トリエチル(TEP)が安定剤として添加される。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.72dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0056】
比較例3
比較例3のPET樹脂は、実施例2で説明したのと同様の方法によって生成される。比較例3では、無機Ti‐Mg触媒の代わりに有機チタン酸テトラブチル(TBT)触媒が使用され、リン酸が安定剤として添加される。得られた樹脂を個相重合プロセスで処理すると、固有粘度が0.67dl/gに増加する。
この樹脂からボトル予成形品を射出ブローにより作る。生成された樹脂、個相重合樹脂、及びボトル予成形品を分析し、結果の詳細を表1に示す。
【0057】
結論
表1に示した実施例1〜7と比較例1〜3の結果から次の結論が導かれる。
(1)実施例1〜7のPET樹脂は、少量の青色染料を含み、PETの合成プロセスにおいて、無機Ti‐Mg触媒が重縮合触媒として使用され、リン酸も熱安定剤として添加される。得られたPETは、黄色味を帯びておらず、優れた透明性を有し、製造後より少ない再生成アセトアルデヒドと環状三量体とを生成することを特徴とする。
(2)実施例4〜6のPET樹脂は、Fe34の無機粒子を更に含み、延伸ブロー成形機によりPET樹脂がボトル予成形品にブロー成形される時に相対的に高い結晶化度に大きく貢献する。従って、実施例4〜6のPET樹脂は、ボトルに成形される時に、ボトル予成形品の必要なエージング時間がより短く、ボトル製造の生産効率が改善され、予成形品を保管するためのスペースを削減できるので、有利である。
(3)実施例5のPET樹脂は、PET樹脂の50ppmの濃度でFe34の無機粒子を含み、延伸ブロー成形機によりPET樹脂がボトル予成形品に成形された後、加熱・延伸されてボトルにブロー成形される前に、該予成形品はたった2日のエージングで済む。
【0058】
【表1】

注(1):TBTはチタン酸テトラブチルを意味する。
注(2):TEPはリン酸トリエチルを意味する。
注(3):ハンター比色計で測定されたハンター“L”値がより高いと、より白っぽい色で、より高い透明度を意味する。ハンター比色計で測定されたハンター“b”値がより高いと、より黄色味を帯びた色を、一方、より低いと、より青味を帯びた色を意味する。
注(4):AAはボトル予成形品のアセトアルデヒド(又は酢酸アルデヒド)濃度を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全重量の0.5〜2.0ppmの濃度で青色染料を含むポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂であって、その生成工程は、
(a)精製されたテレフタル酸(PTA)とエチレングリコール(EG)を使用して直接エステル化プロセスと、重縮合プロセスとを続けて実行し、必要に応じて更に個相重合プロセスを実行してPETポリマーの固有粘度を0.70dl/g以上に増加させるステップと、
(b)該直接エステル化プロセスの終了前に、該直接エステル化プロセスを実行するための反応タンク内に該青色染料を加えるステップと、
(c)該重縮合プロセスの開始前に、該PET樹脂全重量の10〜100ppmの範囲の濃度で無機Ti‐Mg触媒と、該PET樹脂全重量の5〜50ppmの範囲の濃度でリン化合物の安定剤とを該反応タンク内に加えるステップと
を含み、
該無機Ti‐Mg触媒に含まれるチタンは、該PET樹脂全重量の5〜10ppmの範囲であり、加えられた該チタンとマグネシウムのモル比は0.1〜0.2の範囲であるポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項2】
前記加えられたチタンとマグネシウムの前記モル比は、0.005〜1の範囲である請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項3】
前記無機Ti‐Mg触媒の粒子直径は1μm未満である請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項4】
前記ステップ(b)において、Fe34またはBaSO4の無機粒子を前記PET樹脂全重量の20〜250ppmの範囲の濃度で更に加える請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項5】
前記無機粒子の粒子直径は1μm未満である請求項4に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【請求項6】
請求項4に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂でできたボトル予成形品。
【請求項7】
請求項6に記載のボトル予成形品をエージングのために2日間放置した後、これを延伸ブローにより成形することで製造されたPETボトル。

【公開番号】特開2009−270083(P2009−270083A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227326(P2008−227326)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(599011296)南亜塑膠工業股▲ふん▼有限公司 (10)
【Fターム(参考)】