無段変速機
【課題】適正に変速比を変更することができる無段変速機を提供することを目的とする。
【解決手段】第1回転要素3及び第2回転要素4と、第1回転要素3と第2回転要素4とに重心からずれた位置で接触して挟持される第3回転要素5と、第3回転要素5と接触して設けられ第1回転軸線X1を回転中心として相対回転可能かつ第1回転軸線X1に沿った方向に相対移動可能な第4回転要素6と、傾転部9とを備え、傾転部9は、第3回転要素5を一方側に傾転させる第1傾転部12と、第3回転要素5が回転した状態で当該第3回転要素5から第4回転要素6に作用する第1回転軸線X1に沿った方向の力を利用して第3回転要素5を一方側とは反対側に傾転させる第2傾転部13とを有する。
【解決手段】第1回転要素3及び第2回転要素4と、第1回転要素3と第2回転要素4とに重心からずれた位置で接触して挟持される第3回転要素5と、第3回転要素5と接触して設けられ第1回転軸線X1を回転中心として相対回転可能かつ第1回転軸線X1に沿った方向に相対移動可能な第4回転要素6と、傾転部9とを備え、傾転部9は、第3回転要素5を一方側に傾転させる第1傾転部12と、第3回転要素5が回転した状態で当該第3回転要素5から第4回転要素6に作用する第1回転軸線X1に沿った方向の力を利用して第3回転要素5を一方側とは反対側に傾転させる第2傾転部13とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるトラクションドライブ方式の従来の変速機として、例えば、特許文献1には駆動部材から被駆動部材へ動力を伝達するための複数のボールがそれぞれ駆動部材、被駆動部材、および支持部材に対して3点摩擦接触するようにして設けられた変速機が開示されている。この変速機は、例えば、ピボット支持物に支持されるボールの回転軸の一端をバネや紐によって引っ張ることでボールの回転軸を傾転させ、これにより、変速比を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−521109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載されている変速機は、例えば、更なる改善のため、上記とは異なる構成によって、適正に変速比が変更されることが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、適正に変速比を変更することができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る無段変速機は、第1回転軸線に沿った方向に対向し当該第1回転軸線を回転中心として相対回転可能である第1回転要素及び第2回転要素と、前記第1回転軸線とは異なる第2回転軸線を回転中心として回転可能であり前記第1回転要素と前記第2回転要素とに重心からずれた位置で接触して挟持され当該第1回転要素及び当該第2回転要素との間でトルクを伝達可能である第3回転要素と、前記第1回転軸線と直交する方向に対して前記第3回転要素より前記第1回転軸線側に、当該第3回転要素と接触して設けられ、前記第1回転要素及び前記第2回転要素に対して前記第1回転軸線を回転中心として相対回転可能かつ前記第1回転軸線に沿った方向に相対移動可能な第4回転要素と、前記第3回転要素を傾転可能である傾転部とを備え、前記傾転部は、前記第3回転要素を一方側に傾転させる第1傾転部と、前記第3回転要素が回転した状態で当該前記第3回転要素から前記第4回転要素に作用する前記第1回転軸線に沿った方向の力を利用して前記第3回転要素を前記一方側とは反対側に傾転させる第2傾転部とを有することを特徴とする。
【0007】
また、上記無段変速機では、前記第1傾転部は、前記第3回転要素を回転可能に支持する支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させ、前記第2傾転部は、前記第1回転軸線に沿った方向の力を前記反対側に傾転させる力に変換し前記支持軸に作用させるものとすることができる。
【0008】
また、上記無段変速機では、前記第1傾転部は、絞り固定環部材に形成された絞り開口を絞り羽が絞り込む動作によって前記支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させるものとすることができる。
【0009】
また、上記無段変速機では、前記第2傾転部は、基端部が前記支持軸の一端部に固定され、先端部が前記第4回転要素の前記第1回転軸線に沿った方向の一方の端部に当接可能であるアーム部を有するものとすることができる。
【0010】
また、上記無段変速機では、前記第4回転要素は、前記一方の端部に、曲面状に形成された曲面部を有し、前記アーム部は、前記先端部に、前記曲面部に接触して転動可能な転動体が設けられるものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る無段変速機は、第1傾転部が第3回転要素を一方側に傾転させ、第2傾転部が第3回転要素から第4回転要素に作用する第1回転軸線に沿った方向の力を利用して第3回転要素を一方側とは反対側に傾転させるので、適正に変速比を変更することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る無段変速機の概略断面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る無段変速機におけるボール傾転角度と変速比との関係の一例を表す線図である。
【図3】図3は、図1に示すL1矢視図である。
【図4】図4は、図1に示すL1矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る無段変速機の概略断面図、図2は、実施形態に係る無段変速機におけるボール傾転角度と変速比との関係の一例を表す線図、図3、図4は、図1に示すL1矢視図である。
【0015】
図1に示す本実施形態の無段変速機1は、車両に搭載され、内燃機関などの動力源が発生する動力(トルク)を車両の駆動輪に伝達するものである。この無段変速機1は、接触させた回転要素間に介在させた流体例えばトラクション油(伝達油)によってこの回転要素間で動力を伝達可能ないわゆるトラクションドライブ方式の無段変速機である。無段変速機1は、一方の回転要素と他方の回転要素との接触面に介在するトラクション油をせん断するときに生ずる抵抗力(トラクション力、トラクション油膜のせん断力)を利用して動力(トルク)を伝達する。
【0016】
本実施形態の無段変速機1は、円筒状あるいは円柱状に形成された軸部材2を備え、この軸部材2の外周側に複数の回転要素が組みつけられる。無段変速機1は、この軸部材2の中心軸線が第1回転軸線としての回転軸線X1をなす。
【0017】
なお、以下の説明では、特に断りのない限り、無段変速機1の回転軸線X1に沿った方向を軸方向といい、回転軸線X1に直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線X1周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線X1側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。また、この無段変速機1は、回転軸線X1を中心軸線としてほぼ対称になるように構成されることから、この図1には、回転軸線X1を中心軸線として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線X1を中心軸線として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。
【0018】
無段変速機1は、いわゆるボールプラネタリ式の無段変速装置であり、複数の回転要素として、第1回転要素としての第1リング3と、第2回転要素としての第2リング4と、第3回転要素としての遊星ボール5と、第4回転要素としてのサンローラ6と、第5回転要素としてのキャリア7とを備える。無段変速機1は、さらに、押圧部8と、傾転部9とを備える。
【0019】
第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7は、軸部材2の外周側に組みつけられ、回転軸線X1を中心として互いに同軸に配置され相互に相対回転可能である。遊星ボール5は、回転軸線X1とは異なる第2回転軸線としての回転軸線X2を回転中心として回転(自転)可能である。遊星ボール5は、回転軸線X1の軸方向に対して第1リング3と第2リング4との間に挟持されると共に、径方向内側に設けられるサンローラ6の外周面6aに接触して配置される。遊星ボール5は、キャリア7に支持されており、以下での説明のようにキャリア7が固定対象になっていなければ、キャリア7と一緒に回転して、回転軸線X1を中心にした回転(公転)を行うこともできる。
【0020】
無段変速機1は、押圧部8が第1リング3、第2リング4のうちの少なくとも一方を遊星ボール5に押し付けることによって、第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7と遊星ボール5との間に適切なトラクション力(摩擦力)を発生させ、その間におけるトルクの伝達を可能にする。また、無段変速機1は、傾転部9が作動し回転軸線X2を回転軸線X1に対して傾斜させ、遊星ボール5を傾転させることによって、入出力間の変速比を無段階に変えることができる。
【0021】
無段変速機1は、軸部材2などの部材に対して、第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7のうちのいずれか1つが回転軸線X1を中心として周方向へと回転しないように固定され、残りが回転軸線X1を中心として周方向に回転できるようになっている。この無段変速機1では、第1リング3と第2リング4とサンローラ6とキャリア7との間で遊星ボール5を介したトルクの伝達が行われる。例えば、この無段変速機1では、第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7のうちの1つがトルク(動力)の入力部材となり、残りのうちの少なくとも1つがトルクの出力部材となる。この無段変速機1では、入力部材となるいずれかの回転要素と出力部材となるいずれかの回転要素との間の回転速度(回転数)の比が変速比となる。以下の説明では、無段変速機1は、第1リング3が入力部材、第2リング4が出力部材、キャリア7が固定対象になっている場合を例示して説明する。
【0022】
なお、この無段変速機1においては、入力部材としての回転要素にトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を正駆動といい、出力部材としての回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を逆駆動という。例えば、この無段変速機1は、車両の加速時等の様に動力源側から入力部材をなす回転要素にトルクが入力されてこの回転要素を回転させているときが正駆動となり、車両の減速時等の様に駆動輪側から出力部材をなす回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力されてこの回転要素を回転させているときが逆駆動となる。
【0023】
具体的には、第1リング3と第2リング4とは、ともに回転軸線X1を中心とした円環板状の形状をなし、この回転軸線X1の軸方向に対して互いに対向して配置される。第1リング3、第2リング4は、軸部材2、サンローラ6、遊星ボール5などの径方向外側に設けられる。第1リング3と第2リング4とは、回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である。第1リング3と第2リング4とは、回転軸線X1の軸方向に対して遊星ボール5を挟み込むようにして設けられ、押圧部8が発生させる所定の押圧力に応じてこの遊星ボール5を挟持することができる。
【0024】
そしてここでは、第1リング3は、入力部材をなし、例えば、回転軸線X1を中心とした円筒形状をなす入力ドラム部材10などを介して動力源が発生する動力(トルク)が入力される。また、第2リング4は、出力部材をなし、例えば、回転軸線X1を中心とした円筒形状をなす出力ドラム部材11などを介して第1リング3に入力され変速された動力を駆動輪側に向けて出力する。なおここでは、第1リング3、第2リング4及び出力ドラム部材11は、入力ドラム部材10の内側に収容されるようにして配置される。
【0025】
第1リング3、第2リング4は、当接面3a、4aが各遊星ボール5の外面(外周曲面)5aにそれぞれトルク伝達可能に接触する。第1リング3、第2リング4は、この当接面3a、4aを介して、遊星ボール5に対してこの遊星ボール5の重心位置からずれた位置(オフセットされた位置)で接触する。当接面3a、4aは、それぞれ、第1リング3、第2リング4の遊星ボール5側の側面に設けられている。ここでは、当接面3aと当接面4aとは、回転軸線X2が回転軸線X1と平行に位置している状態で回転軸線X1から遊星ボール5との接触部分までの距離Lが同等になりかつ遊星ボール5に対する接触角度θが同等になるように形成されている。ここで、接触角度θとは、遊星ボール5の中心を通り径方向と平行な基準線と、当接面3a、4aと外面5aとの接触部分及び遊星ボール5の中心を通る線(当接面3a、4aと外面5aとの接触面の法線)とがなす角度である。当接面3a、4aは、第1リング3、第2リング4から遊星ボール5に向けて軸方向の力が作用した際に、遊星ボール5に対して径方向内側で且つ斜め方向の力が加わるように形成されている。
【0026】
遊星ボール5は、いわゆるトラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンに相当し、回転軸線X2を回転中心として回転可能である。ここでの遊星ボール5は、回転軸線X2を回転中心として回転可能な球体である。遊星ボール5は、回転軸線X1の周方向に沿って放射状に複数設けられる。なお、遊星ボール5は、ここでは球体であるものとして説明するが、例えば、少なくとも転動方向にて球形を成すもの、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。各遊星ボール5は、それぞれ中心を貫通するようにして設けられる支持軸51によって回転可能に支持される。各遊星ボール5は、各支持軸51周りに回転自在である。各遊星ボール5は、この各支持軸51の中心軸線が回転軸線X2をなす。
【0027】
各遊星ボール5は、上述したように重心からずれた位置で第1リング3と第2リング4とに接触する。各遊星ボール5は、第1リング3、第2リング4との間でトルクを伝達可能な伝達部材である。ここでは、各遊星ボール5は、後述のサンローラ6の外周面6a上を転動可能な転動部材でもある。つまり、各遊星ボール5は、外面5aが第1リング3、第2リング4の内周部である当接面3a、4aと接触すると共にサンローラ6の外周部である外周面6aにも接触しながら回転軸線X2を回転中心として回転することができる。
【0028】
サンローラ6は、回転軸線X1を中心とした円筒状の形状をなし、回転軸線X1と直交する方向に対して各遊星ボール5より回転軸線X1側に、すなわち、径方向に対して遊星ボール5の内側にこの遊星ボール5と接触して設けられる。サンローラ6は、内周面側が軸受などを介して軸部材2に回転可能に支持される。サンローラ6は、第1リング3及び第2リング4に対して回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である。サンローラ6は、外周面6aが遊星ボール5の転動面をなす。遊星ボール5は、このサンローラ6の外周面6a上に放射状に略等間隔で複数個配置される。サンローラ6は、自らの回転動作によって各遊星ボール5を転動(自転)させることもできれば、各遊星ボール5の転動動作(自転動作)に伴って回転することもできる。
【0029】
キャリア7は、各遊星ボール5の支持軸51を支持するものであり、言い換えれば、支持軸51を介して各遊星ボール5を回転軸線X2周りに回転(自転)自在に支持するものである。キャリア7は、第1リング3、第2リング4及びサンローラ6に対して回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である。キャリア7は、回転軸線X1を中心とした円板状の形状をなす一対の円板部材71、72を含んで構成される。円板部材71、72は、回転軸線X1の軸方向に対して、各遊星ボール5、サンローラ6を挟んで対向して設けられる。ここでは、キャリア7は、円板部材71が軸方向一方側の第1リング3側、円板部材72が軸方向他方側の第2リング4側に設けられる。円板部材71、円板部材72は、例えば、それぞれ径方向に沿った直線状の溝部(不図示)が各遊星ボール5の各支持軸51に対応して複数個形成される。キャリア7は、円板部材71、円板部材72の各溝部に各支持軸51の軸方向端部が挿入され、円板部材71が各支持軸51の一方の端部を、円板部材72が各支持軸51の他方の端部をそれぞれ支持する。ここでは、キャリア7は、上述したように基本的には固定対象になっている。
【0030】
押圧部8は、回転要素同士の接触部分に押圧力を作用させるものである。押圧部8は、第1リング3、第2リング4を各遊星ボール5に押し付けて、第1リング3、第2リング4と各遊星ボール5との間に押圧力(挟圧力)を発生させる。押圧部8は、この押圧力によって回転要素同士の接触部分、すなわち、第1リング3、第2リング4の当接面3a、4aと各遊星ボール5の外面5aとの接触部分に伝達トルクに応じた適切なトラクション力(摩擦力)を発生させる。ここでの押圧部8は、トルクカム機構81、82を含んで構成されるものを例示するが、これに限らず、液体や気体の圧力を利用して押圧力を発生させる液圧押圧機構や気圧押圧機構であってもよい。
【0031】
トルクカム機構81は、回転軸線X1の軸方向に対して第1リング3と入力ドラム部材10の円環板状の円環端面部10aとの間に設けられ、トルクカム機構82は、回転軸線X1の軸方向に対して第2リング4と出力ドラム部材11との間に設けられる。トルクカム機構81は、第1リング3と入力ドラム部材10との間でトルクを伝達する際に、伝達されるトルクの大きさに応じて第1リング3と入力ドラム部材10とが相対変位し、この相対変位に伴って、カム面やカム部材の作用により第1リング3に対して軸方向に沿った各遊星ボール5側への推力を発生させる。トルクカム機構82もトルクカム機構81とほぼ同様の構成、作用であるのでここではその説明を省略する。これにより、押圧部8は、伝達されるトルクの大きさに応じて、第1リング3と各遊星ボール5、第2リング4と各遊星ボール5とを相対的に接近させ互いに押し付ける方向への押圧力を発生させることができる。この結果、無段変速機1は、押圧部8が発生させる押圧力に応じた伝達トルク容量が確保され、この伝達トルク容量に応じて第1リング3と第2リング4との間で各遊星ボール5を介して相互に動力(トルク)を伝達することができる。
【0032】
また、この押圧部8による押圧力は、第1リング3、第2リング4の当接面3a、4aと各遊星ボール5の外面5aの形状及び位置関係に応じた作用によって、各遊星ボール5を介してサンローラ6にも伝わる。これにより、無段変速機1は、各遊星ボール5とサンローラ6との間にも適切なトラクション力(摩擦力)が発生して、各遊星ボール5とサンローラ6との間で相互に動力(トルク)を伝達することができる。
【0033】
傾転部9は、回転軸線X2を傾斜させ遊星ボール5を傾転させることでこの無段変速機1における変速比、すなわち、第1リング3と第2リング4との回転速度比を無段階に変更可能なものである。傾転部9は、遊星ボール5の回転軸線X2が回転軸線X1を含む平面内に位置し、かつその平面内で回転軸線X1と平行な状態と、その平行状態から傾斜する状態とに傾転させることができるように構成されている。この傾転部9は、支持軸51に傾転させる力、すなわち、傾転力を付与することで、支持軸51を傾斜させ、これにより、回転軸線X1に対する回転軸線X2の傾斜角度である傾転角度φが変更され、支持軸51と共に遊星ボール5を傾転させる。この傾転部9の具体的な構成については、後で詳細に説明する。
【0034】
上記のように構成される無段変速機1は、例えば、第1リング3にトルクが伝達されると、押圧部8が第1リング3の回転に伴い第1リング3と各遊星ボール5との間、各遊星ボール5と第2リング4との間、各遊星ボール5とサンローラ6との間にトラクション力(摩擦力)が発生し、各遊星ボール5、第2リング4、サンローラ6が回転を始める。そして、無段変速機1は、傾転部9が各遊星ボール5を傾転させることで第1リング3と各遊星ボール5との接触半径r1と、第2リング4と各遊星ボール5との接触半径r2との比率を変更し、これにより、入力側と出力側との回転速度比である変速比を無段階に変更することができる。
【0035】
ここで、接触半径r1、r2(図1参照)は、それぞれ第1リング3、第2リング4の当接面3a、4aが遊星ボール5の外面5aと接触している接触点での当該遊星ボール5の回転半径、すなわち、回転軸線X2から前記接触点までの距離に相当する。接触半径r1、r2は、例えば、それぞれ遊星ボール半径rb、接触角度θ、傾転角度φを用いて下記の数式(1)、(2)で表すことができる。
r1=rb・sin[(π/2)−(θ+φ)]=rb・cos(θ+φ)・・・(1)
r2=rb・sin[(π/2)−(θ−φ)]=rb・cos(θ−φ)・・・(2)
【0036】
例えば、無段変速機1は、図1の回転軸線X2’に例示するように回転軸線X2が回転軸線X1と平行に設定されている場合、すなわち、傾転角度φ=0の場合、接触半径r1と接触半径r2とがほぼ同等であることから、第1リング3と第2リング4とが同一回転速度で回転し、したがって、変速比は1となる。一方、無段変速機1は、傾転部9が作動し図1に例示するように回転軸線X2が回転軸線X1に対して傾斜した場合には、接触半径r1が相対的に増加し接触半径r2が相対的に減少しこれに伴って変速比が変更される。この場合、第1リング3の回転速度が相対的に増速され、第2リング4の回転速度が相対的に減速される。このようにして無段変速機1は、例えば、図2に例示するように、遊星ボール5の自転中心である回転軸線X2の傾転角度φに応じて変速比が連続的に変更される。変速比γは、例えば、第1リング3の回転速度ω1、第2リング4の回転速度ω2、接触角度θ、傾転角度φを用いて下記の数式(3)で表すことができる。
γ=ω1/ω2=cos(θ+φ)/cos(θ−φ)・・・(3)
【0037】
ところで、本実施形態の無段変速機1は、図1に示すように、遊星ボール5を傾転可能である傾転部9が第1傾転部としての絞り機構12と第2傾転部としての伝達機構13とを含んで構成され、これら絞り機構12と伝達機構13とによって適正に変速比の変更を行っている。この絞り機構12は、遊星ボール5を一方側に傾転させるものである。一方、伝達機構13は、遊星ボール5が回転した状態で遊星ボール5からサンローラ6に作用する回転軸線X1の軸方向の力であるスラスト力を利用して遊星ボール5を一方側とは反対側に傾転させるものである。
【0038】
本実施形態の無段変速機1が備えるサンローラ6は、遊星ボール5などの回転要素に対して回転軸線X1の軸方向に相対移動可能な構成となっている。サンローラ6は、内周面側が軸受などを介して軸部材2に対して相対回転可能かつ軸方向相対移動可能に支持される。
【0039】
ここで、図3、図4は、図1に示すL1矢視図であり、遊星ボール5に偏心荷重モーメントが発生しているときの模式図である。ここでは、例えば、図3は正駆動時、図4は逆駆動時を表している。無段変速機1は、例えば、第1リング3が回転し始めると、遊星ボール5における第1リング3との接触部分に第1リング3の回転方向と同じ向きの接線方向のトラクション力(摩擦力)が作用する。このとき、遊星ボール5における第1リング3との接触部分の位置は、遊星ボール5の外面5a上において遊星ボール5の重心からずれた位置にある。これにより、遊星ボール5における第1リング3との接触部分に作用するトラクション力は、この遊星ボール5において偏心荷重となるので、このトラクション力が作用した際には、重心を中心にした回転モーメント(以下、「偏心荷重モーメント」という。)が遊星ボール5に発生する。
【0040】
さらに、この無段変速機1の動作中(動力伝達中)においては、図3、図4に示すように、遊星ボール5における第1リング3との接触部分と第2リング4との接触部分とに逆方向のトラクション力(摩擦力)が定常的に発生している。例えば、第1リング3を入力側、第2リング4を出力側とした正転時の場合、第1リング3との接触部分においては、第1リング3の回転方向と同じ向きの接線方向のトラクション力となり、第2リング4との接触部分においては、第2リング4の回転方向とは逆向きの接線方向のトラクション力となる。この結果、遊星ボール5には、そのトラクション力の向きの違いによって、重心を中心にした偏心荷重モーメントが発生する。
【0041】
ここで、無段変速機1は、例えば、遊星ボール5の傾転動作を円滑にするために、その傾転動作の際に動作させる部材間に隙間(クリアランス)が設けられている。例えば、無段変速機1は、上述した支持軸51とキャリア7の円板部材71、72との間などに隙間を設けている。これにより、遊星ボール5は、上記の偏心荷重モーメントが発生した場合に、その隙間に応じた量だけ偏心荷重モーメントの方向へと傾いてしまう。つまり、偏心荷重モーメントの方向は、上述した回転軸線X1と回転軸線X2とを含む平面に沿うものではないので、偏心荷重モーメントが作用することによって、回転軸線X1と回転軸線X2との間の平行状態が崩れてしまい、回転軸線X2が上述した平面内から外れてしまう。したがって、サンローラ6と遊星ボール5との間には、スキューが発生する。
【0042】
この結果、この無段変速機1は、遊星ボール5の偏心荷重モーメントに応じたスラスト力、すなわち、図3、図4に示すように、サンローラ6の速度ベクトルと遊星ボール5の速度ベクトルのずれに応じた軸線方向のスラスト力が遊星ボール5からサンローラ6に作用することとなる。このとき、図3に示す正駆動時のスラスト力と図4に示す逆駆動時のスラスト力とは、回転軸線X1の軸方向に沿って互いに逆向きに作用することとなる。本実施形態の無段変速機1では、図3に示す正駆動時におけるスラスト力は、第2リング4側から第1リング3側に作用し、図4に示す逆駆動時におけるスラスト力は、第1リング3側から第2リング4側に作用する。本実施形態の伝達機構13は、このスラスト力を利用して遊星ボール5を絞り機構12による傾転とは反対側の他方側に傾転させる。
【0043】
具体的には、絞り機構12は、遊星ボール5を一方側、ここでは、図1中時計回り側に傾転させる。絞り機構12は、各支持軸51に押付力を作用させることで、各遊星ボール5を一方側に傾転させる。この絞り機構12が各支持軸51に作用させる押付力は、遊星ボール5を一方側に傾転させる押し付ける力である。ここでの絞り機構12は、複数の支持軸51に同時に押付力を作用させ、複数の遊星ボール5を一方側に同時に傾転させる。
【0044】
絞り機構12は、絞り固定環部材12aと、絞り開口12bと、絞り羽12cとを含んで構成される。絞り機構12は、絞り固定環部材12aに形成された絞り開口12bを絞り羽12cが絞り込む動作によって各支持軸51に押付力を作用させるものである。
【0045】
絞り固定環部材12aは、回転軸線X1を中心とした円環板状に形状される。絞り固定環部材12aは、回転軸線X1の軸方向に対して、各支持軸51の一方側の端部、ここでは第1リング3側の端部近傍に設けられる。絞り固定環部材12aは、回転軸線X1の軸方向に対して、円板部材71を挟んで各遊星ボール5とは反対側に設けられる。つまり、各遊星ボール5と絞り固定環部材12aと円板部材71とは、回転軸線X1の軸方向に対して円板部材71が各遊星ボール5と絞り固定環部材12aとの間に挟まれるような位置関係で配置される。絞り固定環部材12aは、軸部材2に固定して設けられる。
【0046】
絞り開口12bは、回転軸線X1の軸方向に絞り固定環部材12aを貫通するような開口である。絞り開口12bは、回転軸線X1を中心とした円形状の開口である。絞り開口12bは、各支持軸51の一方側の軸方向端部、すなわち、第1リング3側の軸方向端部が挿入される。
【0047】
絞り羽12cは、絞り開口12bを開閉するためのものであり、複数枚設けられる。各絞り羽12cは、例えば、絞り固定環部材12aなどに揺動軸を中心として揺動可能に支持される。絞り羽12cは、例えば、不図示のモータなどの絞り駆動装置が発生させる回転動力がリンク機構などで揺動動力に変換されて伝達される。各絞り羽12cは、揺動動力が伝達され一方側に揺動し絞り開口12b内に進出することで、絞り開口12bを絞り込んだ状態、すなわち、絞り開口12bを相対的に小さくした状態とすることができる。各絞り羽12cは、揺動動力が伝達され他方側に揺動し絞り開口12b内から退避することで、絞り開口12bを開放した状態、すなわち、絞り開口12bを相対的に大きくした状態とすることができる。
【0048】
したがって、絞り機構12は、例えば、電子制御装置(ECU)の制御により絞り駆動装置が駆動し、発生した動力によって絞り羽12cが絞り開口12bを絞り込む側へ動作することで、各絞り羽12cが各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に当接し、この軸方向端部を回転軸線X1に接近させる側に向けて押し付けることができる。絞り機構12は、各支持軸51の軸方向端部に回転軸線X1に接近する側に向けた押付力を作用させることで、各支持軸51の軸方向一方側の端部の径方向位置と軸方向他方側の端部の径方向位置とをずらすことができ、これに伴って各遊星ボール5を一方側、ここでは図1中時計回り側に傾転させることができ、このずれに応じて傾転角度φを変更することができる。各遊星ボール5の一方側への傾転の傾転角度φ、言い換えれば変速比は、絞り羽12cの絞り開口12b内への進出量に応じて定まる。
【0049】
伝達機構13は、サンローラ6に作用するスラスト力を利用して遊星ボール5を他方側、ここでは、図1中反時計回り側に傾転させる。伝達機構13は、スラスト力を各支持軸51に伝達することで、各遊星ボール5を他方側に傾転させる。さらに言えば、伝達機構13は、サンローラ6に作用する回転軸線X1の軸方向のスラスト力を傾転力に変換し、この傾転力を各支持軸51に作用させる。この伝達機構13が各支持軸51に作用させる傾転力は、遊星ボール5を他方側に傾転させる力である。
【0050】
伝達機構13は、アーム部13aを含んで構成される。伝達機構13は、アーム部13aによってサンローラ6に作用するスラスト力を傾転力に変換し各支持軸51に作用させるものである。
【0051】
アーム部13aは、各支持軸51にそれぞれ設けられる線状の部材である。アーム部13aは、基端部が支持軸51の一端部に固定され、先端部がサンローラ6の軸方向端部61に当接可能である。ここでは、軸方向端部61は、サンローラ6の第1リング3側(図中右側)の端部である。つまりここでは、アーム部13aは、サンローラ6の第1リング3側(図中右側)に設けられ、基端部が各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に固定される。アーム部13aは、支持軸51の第1リング3側の軸方向端部側からサンローラ6の軸方向端部61側に向けて延在する。
【0052】
したがって、伝達機構13は、例えば、図1に示すように、正駆動時に遊星ボール5からサンローラ6に第1リング3側へのスラスト力が作用し、サンローラ6が軸方向一方側、すなわち、第1リング3側に移動すると、各アーム部13aの先端部がサンローラ6の軸方向端部61と当接する。伝達機構13は、各アーム部13aの先端部とサンローラ6の軸方向端部61とが当接することで、サンローラ6のスラスト力が、各アーム部13aを介して各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に傾転力として伝達される。すなわち、伝達機構13は、サンローラ6に作用するスラスト力を傾転力に変換し、この傾転力を各支持軸51に作用させることができる。伝達機構13は、各アーム部13aがサンローラ6の軸方向端部61に当接し、サンローラ6に作用するスラスト力によって各アーム部13aが押されることで、この各アーム部13aを介して各支持軸51に傾転力を作用させ、各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部を回転軸線X1から離間させる側に向けて押しあげることができる。
【0053】
伝達機構13は、このようにしてサンローラ6に作用するスラスト力を利用し各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に回転軸線X1から離間する側に向けた傾転力を作用させる。これにより、伝達機構13は、絞り羽12cが絞り開口12bを開放する側へ動作することに伴って、各支持軸51の軸方向一方側の端部の径方向位置と軸方向他方側の端部の径方向位置とをずらすことができ、これに伴って各遊星ボール5を他方側、ここでは図1中反時計回り側に傾転させることができ、このずれに応じて傾転角度φを変更することができる。
【0054】
また、この伝達機構13は、上記のように構成されることで、絞り羽12cが絞り開口12bを絞り込む側へ動作することに伴って各遊星ボール5が一方側へ傾転する際には、この傾転動作に伴ってアーム部13aがサンローラ6を第2リング4側に向かって押すことができる。つまりこの場合、伝達機構13は、遊星ボール5を傾転させる押付力を、回転軸線X1の軸方向の他方側にサンローラ6を押す力に変換する変換部としても機能する。伝達機構13は、絞り機構12から支持軸51に付与される押付力の一部をアーム部13aの先端部とサンローラ6の軸方向端部61との接触部分にてサンローラ6を軸方向の他方側に押す力として作用させることができる。この場合、伝達機構13は、サンローラ6に作用しているスラスト力の大きさや向きにかかわらず、遊星ボール5の傾転に伴ってサンローラ6を回転軸線X1の軸方向の他方側、すなわち、第2リング4側に押して移動させることができる。
【0055】
なお、この無段変速機1は、逆駆動時に遊星ボール5からサンローラ6に第2リング4側へのスラスト力が作用し、サンローラ6が軸方向他方側、すなわち、第2リング4側に移動すると、所定の位置で不図示のストッパがサンローラ6の軸方向端部62に当接することで、このサンローラ6の軸方向移動が規制される。軸方向端部62は、サンローラ6の第2リング4側(図中左側)の端部である。この場合、伝達機構13は、各アーム部13aとサンローラ6の軸方向端部61との当接が解除された状態となる。この場合、無段変速機1は、各遊星ボール5が他方側へは傾転せず、したがって、各遊星ボール5の他方側への傾転に伴った変速も行われない。
【0056】
ここで、サンローラ6は、回転軸線X1の軸方向の一方の端部である軸方向端部61に、曲面状に形成された曲面部63を有している。曲面部63は、軸方向端部61の壁面の中央部が回転軸線X1の軸方向に沿ってアーム部13a側に向かって突出となるように湾曲した形状をなす。そして、アーム部13aは、先端部にこの曲面部63に接触して転動可能な転動体としてのローラ13bが設けられる。この結果、伝達機構13は、サンローラ6がアーム部13aを回転軸線X1の軸方向の一方側に押す際や遊星ボール5の傾転に伴ってアーム部13aがサンローラ6を回転軸線X1の軸方向の他方側に押す際に、ローラ13bが曲面部63によって案内されることで、アーム部13aの先端部と軸方向端部61との摺動抵抗を低減することができる。すなわち、伝達機構13は、軸方向端部61がアーム部13aの先端部を押す際やアーム部13aの先端部が軸方向端部61を押す際にローラ13bが曲面部63に接触しながら転動することで、アーム部13aの先端部と軸方向端部61との摺動抵抗を低減することができ、サンローラ6がアーム部13aを、あるいは、アーム部13aがサンローラ6を滑らかに効率的に押すことができる。
【0057】
上記のように構成される無段変速機1は、遊星ボール5を一方側に傾転させる絞り機構12と、サンローラ6に作用するスラスト力を利用して遊星ボール5を他方側に傾転させる伝達機構13とが動作することで、変速比を無段階に変更することができる。
【0058】
そして、無段変速機1は、例えば、遊星ボール5を支持、傾転させるためのピボット支持物やこれに組み付けられるバネや紐を備えなくても、絞り機構12と伝達機構13との動作によって変速比を変更することができる。これにより、無段変速機1は、上記ピボット支持物などを備える場合と比較して、同等の外径のサンローラ6の外周面6aに対して、設けることができる遊星ボール5の数を相対的に多くすることができる。この結果、無段変速機1は、複数の遊星ボール5を介してトルクを伝達する際に、1個あたりの遊星ボール5に作用する面圧を相対的に小さくすることができることから耐久性を向上することができる。逆に言えば、無段変速機1は、上記ピボット支持物などを備える場合と比較して、同数の遊星ボール5を設ける際に装置が大型化することを抑制することができる。つまり、無段変速機1は、装置の大型化の抑制と耐久性の向上とを両立することができる。さらに言えば、無段変速機1は、装置の大型化の抑制と許容できるトルク容量の増加とを両立することができる。
【0059】
また、この無段変速機1は、伝達機構13がサンローラ6に作用するスラスト力を利用して各遊星ボール5を他方側に傾転させることから、例えば、絞り羽12cが絞り開口12bを開放する側へ動作することに伴って各遊星ボール5を押し戻して他方側に傾転させるためリターンスプリングなどの弾性体等を設ける必要がない。このため、無段変速機1は、装置が大型化することを抑制することができる。
【0060】
また、この無段変速機1は、絞り機構12と伝達機構13との動作によって変速比を変更することができることから、例えば、各支持軸51と共に各遊星ボール5を傾転させるためにキャリア7を構成する一対の円板部材71、72を相対変位(回転)させる必要がない。したがって、キャリア7は、円板部材71と円板部材72とを複数本の連結軸(図示略)で連結して、全体として籠状となるように構成することができる。これにより、無段変速機1は、支持軸51を支持するキャリア7の剛性を高めることができ、例えば、大きな荷重がかかった際でも遊星ボール5の回転軸線X2にずれが生じることを抑制することができ、この結果、回転軸線X2にずれに起因して動力の伝達効率が悪化することを抑制することができる。
【0061】
また、この無段変速機1は、各遊星ボール5からサンローラ6にスラスト力が作用し、このサンローラ6が回転軸線X1の軸方向に移動することで、サンローラ6における各遊星ボール5との接触位置を変更することができる。このとき、無段変速機1は、正駆動時であれば、傾転角度φが変更されることで、すなわち、変速比が変更されることで、アーム部13aと軸方向端部61との軸方向接触位置も変更され、サンローラ6の軸方向位置も変更される。この結果、無段変速機1は、正駆動時には傾転角度φ、言い換えれば、変速比に応じてサンローラ6における各遊星ボール5との接触位置を変更することができるので、サンローラ6が局所的に摩耗することを抑制することができ、よって、耐久性を向上することができる。
【0062】
また、無段変速機1は、駆動状態が正駆動状態であるときと逆駆動状態であるときとでサンローラ6に作用するスラスト力の向きが逆になり、サンローラ6の移動方向が逆になる。このため、無段変速機1は、同じ傾転角度φであっても、すなわち、同じ変速比であっても、正駆動状態であるときと逆駆動状態であるときとで、サンローラ6における各遊星ボール5との接触位置を変更することができる。この結果、無段変速機1は、傾転角度φに応じて、すなわち、変速比に応じてサンローラ6における各遊星ボール5との接触位置が一義的に決まってしまうことを防止することができ、この点でも耐久性をさらに向上するこができる。
【0063】
以上で説明した実施形態に係る無段変速機1によれば、回転軸線X1に沿った方向に対向しこの回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である第1リング3及び第2リング4と、回転軸線X1とは異なる回転軸線X2を回転中心として回転可能であり第1リング3と第2リング4とに重心からずれた位置で接触して挟持され第1リング3及び第2リング4との間でトルクを伝達可能である遊星ボール5と、回転軸線X1と直交する方向に対して遊星ボール5より回転軸線X1側に、この遊星ボール5と接触して設けられ、第1リング3及び第2リング4に対して回転軸線X1を回転中心として相対回転可能かつ回転軸線X1に沿った方向に相対移動可能なサンローラ6と、遊星ボール5を傾転可能である傾転部9とを備え、傾転部9は、遊星ボール5を一方側に傾転させる絞り機構12と、遊星ボール5が回転した状態でこの遊星ボール5からサンローラ6に作用する回転軸線X1に沿った方向の力を利用して遊星ボール5を一方側とは反対側に傾転させる伝達機構13とを有する。したがって、無段変速機1は、絞り機構12と伝達機構13との動作によって適正に変速比を変更することができる。
【0064】
なお、上述した本発明の実施形態に係る無段変速機は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
以上の説明では、第1傾転部は、絞り機構12であるものとして説明したが、これに限らず、支持軸に押付力を作用させ第3回転要素を一方側に傾転させるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように本発明に係る無段変速機は、車両などに用いられる種々の無段変速機に適用して好適である。
【符号の説明】
【0067】
1 無段変速機
2 軸部材
3 第1リング(第1回転要素)
4 第2リング(第2回転要素)
5 遊星ボール(第3回転要素)
6 サンローラ(第4回転要素)
7 キャリア
8 押圧部
9 傾転部
12 絞り機構(第1傾転部)
12a 絞り固定環部材
12b 絞り開口
12c 絞り羽
13 伝達機構(第2傾転部)
13a アーム部
13b ローラ(転動体)
51 支持軸
61、62 軸方向端部
63 曲面部
X1 回転軸線(第1回転軸線)
X2 回転軸線(第2回転軸線)
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるトラクションドライブ方式の従来の変速機として、例えば、特許文献1には駆動部材から被駆動部材へ動力を伝達するための複数のボールがそれぞれ駆動部材、被駆動部材、および支持部材に対して3点摩擦接触するようにして設けられた変速機が開示されている。この変速機は、例えば、ピボット支持物に支持されるボールの回転軸の一端をバネや紐によって引っ張ることでボールの回転軸を傾転させ、これにより、変速比を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−521109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載されている変速機は、例えば、更なる改善のため、上記とは異なる構成によって、適正に変速比が変更されることが望まれていた。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、適正に変速比を変更することができる無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る無段変速機は、第1回転軸線に沿った方向に対向し当該第1回転軸線を回転中心として相対回転可能である第1回転要素及び第2回転要素と、前記第1回転軸線とは異なる第2回転軸線を回転中心として回転可能であり前記第1回転要素と前記第2回転要素とに重心からずれた位置で接触して挟持され当該第1回転要素及び当該第2回転要素との間でトルクを伝達可能である第3回転要素と、前記第1回転軸線と直交する方向に対して前記第3回転要素より前記第1回転軸線側に、当該第3回転要素と接触して設けられ、前記第1回転要素及び前記第2回転要素に対して前記第1回転軸線を回転中心として相対回転可能かつ前記第1回転軸線に沿った方向に相対移動可能な第4回転要素と、前記第3回転要素を傾転可能である傾転部とを備え、前記傾転部は、前記第3回転要素を一方側に傾転させる第1傾転部と、前記第3回転要素が回転した状態で当該前記第3回転要素から前記第4回転要素に作用する前記第1回転軸線に沿った方向の力を利用して前記第3回転要素を前記一方側とは反対側に傾転させる第2傾転部とを有することを特徴とする。
【0007】
また、上記無段変速機では、前記第1傾転部は、前記第3回転要素を回転可能に支持する支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させ、前記第2傾転部は、前記第1回転軸線に沿った方向の力を前記反対側に傾転させる力に変換し前記支持軸に作用させるものとすることができる。
【0008】
また、上記無段変速機では、前記第1傾転部は、絞り固定環部材に形成された絞り開口を絞り羽が絞り込む動作によって前記支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させるものとすることができる。
【0009】
また、上記無段変速機では、前記第2傾転部は、基端部が前記支持軸の一端部に固定され、先端部が前記第4回転要素の前記第1回転軸線に沿った方向の一方の端部に当接可能であるアーム部を有するものとすることができる。
【0010】
また、上記無段変速機では、前記第4回転要素は、前記一方の端部に、曲面状に形成された曲面部を有し、前記アーム部は、前記先端部に、前記曲面部に接触して転動可能な転動体が設けられるものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る無段変速機は、第1傾転部が第3回転要素を一方側に傾転させ、第2傾転部が第3回転要素から第4回転要素に作用する第1回転軸線に沿った方向の力を利用して第3回転要素を一方側とは反対側に傾転させるので、適正に変速比を変更することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係る無段変速機の概略断面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る無段変速機におけるボール傾転角度と変速比との関係の一例を表す線図である。
【図3】図3は、図1に示すL1矢視図である。
【図4】図4は、図1に示すL1矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る無段変速機の概略断面図、図2は、実施形態に係る無段変速機におけるボール傾転角度と変速比との関係の一例を表す線図、図3、図4は、図1に示すL1矢視図である。
【0015】
図1に示す本実施形態の無段変速機1は、車両に搭載され、内燃機関などの動力源が発生する動力(トルク)を車両の駆動輪に伝達するものである。この無段変速機1は、接触させた回転要素間に介在させた流体例えばトラクション油(伝達油)によってこの回転要素間で動力を伝達可能ないわゆるトラクションドライブ方式の無段変速機である。無段変速機1は、一方の回転要素と他方の回転要素との接触面に介在するトラクション油をせん断するときに生ずる抵抗力(トラクション力、トラクション油膜のせん断力)を利用して動力(トルク)を伝達する。
【0016】
本実施形態の無段変速機1は、円筒状あるいは円柱状に形成された軸部材2を備え、この軸部材2の外周側に複数の回転要素が組みつけられる。無段変速機1は、この軸部材2の中心軸線が第1回転軸線としての回転軸線X1をなす。
【0017】
なお、以下の説明では、特に断りのない限り、無段変速機1の回転軸線X1に沿った方向を軸方向といい、回転軸線X1に直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線X1周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線X1側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。また、この無段変速機1は、回転軸線X1を中心軸線としてほぼ対称になるように構成されることから、この図1には、回転軸線X1を中心軸線として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線X1を中心軸線として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。
【0018】
無段変速機1は、いわゆるボールプラネタリ式の無段変速装置であり、複数の回転要素として、第1回転要素としての第1リング3と、第2回転要素としての第2リング4と、第3回転要素としての遊星ボール5と、第4回転要素としてのサンローラ6と、第5回転要素としてのキャリア7とを備える。無段変速機1は、さらに、押圧部8と、傾転部9とを備える。
【0019】
第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7は、軸部材2の外周側に組みつけられ、回転軸線X1を中心として互いに同軸に配置され相互に相対回転可能である。遊星ボール5は、回転軸線X1とは異なる第2回転軸線としての回転軸線X2を回転中心として回転(自転)可能である。遊星ボール5は、回転軸線X1の軸方向に対して第1リング3と第2リング4との間に挟持されると共に、径方向内側に設けられるサンローラ6の外周面6aに接触して配置される。遊星ボール5は、キャリア7に支持されており、以下での説明のようにキャリア7が固定対象になっていなければ、キャリア7と一緒に回転して、回転軸線X1を中心にした回転(公転)を行うこともできる。
【0020】
無段変速機1は、押圧部8が第1リング3、第2リング4のうちの少なくとも一方を遊星ボール5に押し付けることによって、第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7と遊星ボール5との間に適切なトラクション力(摩擦力)を発生させ、その間におけるトルクの伝達を可能にする。また、無段変速機1は、傾転部9が作動し回転軸線X2を回転軸線X1に対して傾斜させ、遊星ボール5を傾転させることによって、入出力間の変速比を無段階に変えることができる。
【0021】
無段変速機1は、軸部材2などの部材に対して、第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7のうちのいずれか1つが回転軸線X1を中心として周方向へと回転しないように固定され、残りが回転軸線X1を中心として周方向に回転できるようになっている。この無段変速機1では、第1リング3と第2リング4とサンローラ6とキャリア7との間で遊星ボール5を介したトルクの伝達が行われる。例えば、この無段変速機1では、第1リング3、第2リング4、サンローラ6及びキャリア7のうちの1つがトルク(動力)の入力部材となり、残りのうちの少なくとも1つがトルクの出力部材となる。この無段変速機1では、入力部材となるいずれかの回転要素と出力部材となるいずれかの回転要素との間の回転速度(回転数)の比が変速比となる。以下の説明では、無段変速機1は、第1リング3が入力部材、第2リング4が出力部材、キャリア7が固定対象になっている場合を例示して説明する。
【0022】
なお、この無段変速機1においては、入力部材としての回転要素にトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を正駆動といい、出力部材としての回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を逆駆動という。例えば、この無段変速機1は、車両の加速時等の様に動力源側から入力部材をなす回転要素にトルクが入力されてこの回転要素を回転させているときが正駆動となり、車両の減速時等の様に駆動輪側から出力部材をなす回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力されてこの回転要素を回転させているときが逆駆動となる。
【0023】
具体的には、第1リング3と第2リング4とは、ともに回転軸線X1を中心とした円環板状の形状をなし、この回転軸線X1の軸方向に対して互いに対向して配置される。第1リング3、第2リング4は、軸部材2、サンローラ6、遊星ボール5などの径方向外側に設けられる。第1リング3と第2リング4とは、回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である。第1リング3と第2リング4とは、回転軸線X1の軸方向に対して遊星ボール5を挟み込むようにして設けられ、押圧部8が発生させる所定の押圧力に応じてこの遊星ボール5を挟持することができる。
【0024】
そしてここでは、第1リング3は、入力部材をなし、例えば、回転軸線X1を中心とした円筒形状をなす入力ドラム部材10などを介して動力源が発生する動力(トルク)が入力される。また、第2リング4は、出力部材をなし、例えば、回転軸線X1を中心とした円筒形状をなす出力ドラム部材11などを介して第1リング3に入力され変速された動力を駆動輪側に向けて出力する。なおここでは、第1リング3、第2リング4及び出力ドラム部材11は、入力ドラム部材10の内側に収容されるようにして配置される。
【0025】
第1リング3、第2リング4は、当接面3a、4aが各遊星ボール5の外面(外周曲面)5aにそれぞれトルク伝達可能に接触する。第1リング3、第2リング4は、この当接面3a、4aを介して、遊星ボール5に対してこの遊星ボール5の重心位置からずれた位置(オフセットされた位置)で接触する。当接面3a、4aは、それぞれ、第1リング3、第2リング4の遊星ボール5側の側面に設けられている。ここでは、当接面3aと当接面4aとは、回転軸線X2が回転軸線X1と平行に位置している状態で回転軸線X1から遊星ボール5との接触部分までの距離Lが同等になりかつ遊星ボール5に対する接触角度θが同等になるように形成されている。ここで、接触角度θとは、遊星ボール5の中心を通り径方向と平行な基準線と、当接面3a、4aと外面5aとの接触部分及び遊星ボール5の中心を通る線(当接面3a、4aと外面5aとの接触面の法線)とがなす角度である。当接面3a、4aは、第1リング3、第2リング4から遊星ボール5に向けて軸方向の力が作用した際に、遊星ボール5に対して径方向内側で且つ斜め方向の力が加わるように形成されている。
【0026】
遊星ボール5は、いわゆるトラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンに相当し、回転軸線X2を回転中心として回転可能である。ここでの遊星ボール5は、回転軸線X2を回転中心として回転可能な球体である。遊星ボール5は、回転軸線X1の周方向に沿って放射状に複数設けられる。なお、遊星ボール5は、ここでは球体であるものとして説明するが、例えば、少なくとも転動方向にて球形を成すもの、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。各遊星ボール5は、それぞれ中心を貫通するようにして設けられる支持軸51によって回転可能に支持される。各遊星ボール5は、各支持軸51周りに回転自在である。各遊星ボール5は、この各支持軸51の中心軸線が回転軸線X2をなす。
【0027】
各遊星ボール5は、上述したように重心からずれた位置で第1リング3と第2リング4とに接触する。各遊星ボール5は、第1リング3、第2リング4との間でトルクを伝達可能な伝達部材である。ここでは、各遊星ボール5は、後述のサンローラ6の外周面6a上を転動可能な転動部材でもある。つまり、各遊星ボール5は、外面5aが第1リング3、第2リング4の内周部である当接面3a、4aと接触すると共にサンローラ6の外周部である外周面6aにも接触しながら回転軸線X2を回転中心として回転することができる。
【0028】
サンローラ6は、回転軸線X1を中心とした円筒状の形状をなし、回転軸線X1と直交する方向に対して各遊星ボール5より回転軸線X1側に、すなわち、径方向に対して遊星ボール5の内側にこの遊星ボール5と接触して設けられる。サンローラ6は、内周面側が軸受などを介して軸部材2に回転可能に支持される。サンローラ6は、第1リング3及び第2リング4に対して回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である。サンローラ6は、外周面6aが遊星ボール5の転動面をなす。遊星ボール5は、このサンローラ6の外周面6a上に放射状に略等間隔で複数個配置される。サンローラ6は、自らの回転動作によって各遊星ボール5を転動(自転)させることもできれば、各遊星ボール5の転動動作(自転動作)に伴って回転することもできる。
【0029】
キャリア7は、各遊星ボール5の支持軸51を支持するものであり、言い換えれば、支持軸51を介して各遊星ボール5を回転軸線X2周りに回転(自転)自在に支持するものである。キャリア7は、第1リング3、第2リング4及びサンローラ6に対して回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である。キャリア7は、回転軸線X1を中心とした円板状の形状をなす一対の円板部材71、72を含んで構成される。円板部材71、72は、回転軸線X1の軸方向に対して、各遊星ボール5、サンローラ6を挟んで対向して設けられる。ここでは、キャリア7は、円板部材71が軸方向一方側の第1リング3側、円板部材72が軸方向他方側の第2リング4側に設けられる。円板部材71、円板部材72は、例えば、それぞれ径方向に沿った直線状の溝部(不図示)が各遊星ボール5の各支持軸51に対応して複数個形成される。キャリア7は、円板部材71、円板部材72の各溝部に各支持軸51の軸方向端部が挿入され、円板部材71が各支持軸51の一方の端部を、円板部材72が各支持軸51の他方の端部をそれぞれ支持する。ここでは、キャリア7は、上述したように基本的には固定対象になっている。
【0030】
押圧部8は、回転要素同士の接触部分に押圧力を作用させるものである。押圧部8は、第1リング3、第2リング4を各遊星ボール5に押し付けて、第1リング3、第2リング4と各遊星ボール5との間に押圧力(挟圧力)を発生させる。押圧部8は、この押圧力によって回転要素同士の接触部分、すなわち、第1リング3、第2リング4の当接面3a、4aと各遊星ボール5の外面5aとの接触部分に伝達トルクに応じた適切なトラクション力(摩擦力)を発生させる。ここでの押圧部8は、トルクカム機構81、82を含んで構成されるものを例示するが、これに限らず、液体や気体の圧力を利用して押圧力を発生させる液圧押圧機構や気圧押圧機構であってもよい。
【0031】
トルクカム機構81は、回転軸線X1の軸方向に対して第1リング3と入力ドラム部材10の円環板状の円環端面部10aとの間に設けられ、トルクカム機構82は、回転軸線X1の軸方向に対して第2リング4と出力ドラム部材11との間に設けられる。トルクカム機構81は、第1リング3と入力ドラム部材10との間でトルクを伝達する際に、伝達されるトルクの大きさに応じて第1リング3と入力ドラム部材10とが相対変位し、この相対変位に伴って、カム面やカム部材の作用により第1リング3に対して軸方向に沿った各遊星ボール5側への推力を発生させる。トルクカム機構82もトルクカム機構81とほぼ同様の構成、作用であるのでここではその説明を省略する。これにより、押圧部8は、伝達されるトルクの大きさに応じて、第1リング3と各遊星ボール5、第2リング4と各遊星ボール5とを相対的に接近させ互いに押し付ける方向への押圧力を発生させることができる。この結果、無段変速機1は、押圧部8が発生させる押圧力に応じた伝達トルク容量が確保され、この伝達トルク容量に応じて第1リング3と第2リング4との間で各遊星ボール5を介して相互に動力(トルク)を伝達することができる。
【0032】
また、この押圧部8による押圧力は、第1リング3、第2リング4の当接面3a、4aと各遊星ボール5の外面5aの形状及び位置関係に応じた作用によって、各遊星ボール5を介してサンローラ6にも伝わる。これにより、無段変速機1は、各遊星ボール5とサンローラ6との間にも適切なトラクション力(摩擦力)が発生して、各遊星ボール5とサンローラ6との間で相互に動力(トルク)を伝達することができる。
【0033】
傾転部9は、回転軸線X2を傾斜させ遊星ボール5を傾転させることでこの無段変速機1における変速比、すなわち、第1リング3と第2リング4との回転速度比を無段階に変更可能なものである。傾転部9は、遊星ボール5の回転軸線X2が回転軸線X1を含む平面内に位置し、かつその平面内で回転軸線X1と平行な状態と、その平行状態から傾斜する状態とに傾転させることができるように構成されている。この傾転部9は、支持軸51に傾転させる力、すなわち、傾転力を付与することで、支持軸51を傾斜させ、これにより、回転軸線X1に対する回転軸線X2の傾斜角度である傾転角度φが変更され、支持軸51と共に遊星ボール5を傾転させる。この傾転部9の具体的な構成については、後で詳細に説明する。
【0034】
上記のように構成される無段変速機1は、例えば、第1リング3にトルクが伝達されると、押圧部8が第1リング3の回転に伴い第1リング3と各遊星ボール5との間、各遊星ボール5と第2リング4との間、各遊星ボール5とサンローラ6との間にトラクション力(摩擦力)が発生し、各遊星ボール5、第2リング4、サンローラ6が回転を始める。そして、無段変速機1は、傾転部9が各遊星ボール5を傾転させることで第1リング3と各遊星ボール5との接触半径r1と、第2リング4と各遊星ボール5との接触半径r2との比率を変更し、これにより、入力側と出力側との回転速度比である変速比を無段階に変更することができる。
【0035】
ここで、接触半径r1、r2(図1参照)は、それぞれ第1リング3、第2リング4の当接面3a、4aが遊星ボール5の外面5aと接触している接触点での当該遊星ボール5の回転半径、すなわち、回転軸線X2から前記接触点までの距離に相当する。接触半径r1、r2は、例えば、それぞれ遊星ボール半径rb、接触角度θ、傾転角度φを用いて下記の数式(1)、(2)で表すことができる。
r1=rb・sin[(π/2)−(θ+φ)]=rb・cos(θ+φ)・・・(1)
r2=rb・sin[(π/2)−(θ−φ)]=rb・cos(θ−φ)・・・(2)
【0036】
例えば、無段変速機1は、図1の回転軸線X2’に例示するように回転軸線X2が回転軸線X1と平行に設定されている場合、すなわち、傾転角度φ=0の場合、接触半径r1と接触半径r2とがほぼ同等であることから、第1リング3と第2リング4とが同一回転速度で回転し、したがって、変速比は1となる。一方、無段変速機1は、傾転部9が作動し図1に例示するように回転軸線X2が回転軸線X1に対して傾斜した場合には、接触半径r1が相対的に増加し接触半径r2が相対的に減少しこれに伴って変速比が変更される。この場合、第1リング3の回転速度が相対的に増速され、第2リング4の回転速度が相対的に減速される。このようにして無段変速機1は、例えば、図2に例示するように、遊星ボール5の自転中心である回転軸線X2の傾転角度φに応じて変速比が連続的に変更される。変速比γは、例えば、第1リング3の回転速度ω1、第2リング4の回転速度ω2、接触角度θ、傾転角度φを用いて下記の数式(3)で表すことができる。
γ=ω1/ω2=cos(θ+φ)/cos(θ−φ)・・・(3)
【0037】
ところで、本実施形態の無段変速機1は、図1に示すように、遊星ボール5を傾転可能である傾転部9が第1傾転部としての絞り機構12と第2傾転部としての伝達機構13とを含んで構成され、これら絞り機構12と伝達機構13とによって適正に変速比の変更を行っている。この絞り機構12は、遊星ボール5を一方側に傾転させるものである。一方、伝達機構13は、遊星ボール5が回転した状態で遊星ボール5からサンローラ6に作用する回転軸線X1の軸方向の力であるスラスト力を利用して遊星ボール5を一方側とは反対側に傾転させるものである。
【0038】
本実施形態の無段変速機1が備えるサンローラ6は、遊星ボール5などの回転要素に対して回転軸線X1の軸方向に相対移動可能な構成となっている。サンローラ6は、内周面側が軸受などを介して軸部材2に対して相対回転可能かつ軸方向相対移動可能に支持される。
【0039】
ここで、図3、図4は、図1に示すL1矢視図であり、遊星ボール5に偏心荷重モーメントが発生しているときの模式図である。ここでは、例えば、図3は正駆動時、図4は逆駆動時を表している。無段変速機1は、例えば、第1リング3が回転し始めると、遊星ボール5における第1リング3との接触部分に第1リング3の回転方向と同じ向きの接線方向のトラクション力(摩擦力)が作用する。このとき、遊星ボール5における第1リング3との接触部分の位置は、遊星ボール5の外面5a上において遊星ボール5の重心からずれた位置にある。これにより、遊星ボール5における第1リング3との接触部分に作用するトラクション力は、この遊星ボール5において偏心荷重となるので、このトラクション力が作用した際には、重心を中心にした回転モーメント(以下、「偏心荷重モーメント」という。)が遊星ボール5に発生する。
【0040】
さらに、この無段変速機1の動作中(動力伝達中)においては、図3、図4に示すように、遊星ボール5における第1リング3との接触部分と第2リング4との接触部分とに逆方向のトラクション力(摩擦力)が定常的に発生している。例えば、第1リング3を入力側、第2リング4を出力側とした正転時の場合、第1リング3との接触部分においては、第1リング3の回転方向と同じ向きの接線方向のトラクション力となり、第2リング4との接触部分においては、第2リング4の回転方向とは逆向きの接線方向のトラクション力となる。この結果、遊星ボール5には、そのトラクション力の向きの違いによって、重心を中心にした偏心荷重モーメントが発生する。
【0041】
ここで、無段変速機1は、例えば、遊星ボール5の傾転動作を円滑にするために、その傾転動作の際に動作させる部材間に隙間(クリアランス)が設けられている。例えば、無段変速機1は、上述した支持軸51とキャリア7の円板部材71、72との間などに隙間を設けている。これにより、遊星ボール5は、上記の偏心荷重モーメントが発生した場合に、その隙間に応じた量だけ偏心荷重モーメントの方向へと傾いてしまう。つまり、偏心荷重モーメントの方向は、上述した回転軸線X1と回転軸線X2とを含む平面に沿うものではないので、偏心荷重モーメントが作用することによって、回転軸線X1と回転軸線X2との間の平行状態が崩れてしまい、回転軸線X2が上述した平面内から外れてしまう。したがって、サンローラ6と遊星ボール5との間には、スキューが発生する。
【0042】
この結果、この無段変速機1は、遊星ボール5の偏心荷重モーメントに応じたスラスト力、すなわち、図3、図4に示すように、サンローラ6の速度ベクトルと遊星ボール5の速度ベクトルのずれに応じた軸線方向のスラスト力が遊星ボール5からサンローラ6に作用することとなる。このとき、図3に示す正駆動時のスラスト力と図4に示す逆駆動時のスラスト力とは、回転軸線X1の軸方向に沿って互いに逆向きに作用することとなる。本実施形態の無段変速機1では、図3に示す正駆動時におけるスラスト力は、第2リング4側から第1リング3側に作用し、図4に示す逆駆動時におけるスラスト力は、第1リング3側から第2リング4側に作用する。本実施形態の伝達機構13は、このスラスト力を利用して遊星ボール5を絞り機構12による傾転とは反対側の他方側に傾転させる。
【0043】
具体的には、絞り機構12は、遊星ボール5を一方側、ここでは、図1中時計回り側に傾転させる。絞り機構12は、各支持軸51に押付力を作用させることで、各遊星ボール5を一方側に傾転させる。この絞り機構12が各支持軸51に作用させる押付力は、遊星ボール5を一方側に傾転させる押し付ける力である。ここでの絞り機構12は、複数の支持軸51に同時に押付力を作用させ、複数の遊星ボール5を一方側に同時に傾転させる。
【0044】
絞り機構12は、絞り固定環部材12aと、絞り開口12bと、絞り羽12cとを含んで構成される。絞り機構12は、絞り固定環部材12aに形成された絞り開口12bを絞り羽12cが絞り込む動作によって各支持軸51に押付力を作用させるものである。
【0045】
絞り固定環部材12aは、回転軸線X1を中心とした円環板状に形状される。絞り固定環部材12aは、回転軸線X1の軸方向に対して、各支持軸51の一方側の端部、ここでは第1リング3側の端部近傍に設けられる。絞り固定環部材12aは、回転軸線X1の軸方向に対して、円板部材71を挟んで各遊星ボール5とは反対側に設けられる。つまり、各遊星ボール5と絞り固定環部材12aと円板部材71とは、回転軸線X1の軸方向に対して円板部材71が各遊星ボール5と絞り固定環部材12aとの間に挟まれるような位置関係で配置される。絞り固定環部材12aは、軸部材2に固定して設けられる。
【0046】
絞り開口12bは、回転軸線X1の軸方向に絞り固定環部材12aを貫通するような開口である。絞り開口12bは、回転軸線X1を中心とした円形状の開口である。絞り開口12bは、各支持軸51の一方側の軸方向端部、すなわち、第1リング3側の軸方向端部が挿入される。
【0047】
絞り羽12cは、絞り開口12bを開閉するためのものであり、複数枚設けられる。各絞り羽12cは、例えば、絞り固定環部材12aなどに揺動軸を中心として揺動可能に支持される。絞り羽12cは、例えば、不図示のモータなどの絞り駆動装置が発生させる回転動力がリンク機構などで揺動動力に変換されて伝達される。各絞り羽12cは、揺動動力が伝達され一方側に揺動し絞り開口12b内に進出することで、絞り開口12bを絞り込んだ状態、すなわち、絞り開口12bを相対的に小さくした状態とすることができる。各絞り羽12cは、揺動動力が伝達され他方側に揺動し絞り開口12b内から退避することで、絞り開口12bを開放した状態、すなわち、絞り開口12bを相対的に大きくした状態とすることができる。
【0048】
したがって、絞り機構12は、例えば、電子制御装置(ECU)の制御により絞り駆動装置が駆動し、発生した動力によって絞り羽12cが絞り開口12bを絞り込む側へ動作することで、各絞り羽12cが各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に当接し、この軸方向端部を回転軸線X1に接近させる側に向けて押し付けることができる。絞り機構12は、各支持軸51の軸方向端部に回転軸線X1に接近する側に向けた押付力を作用させることで、各支持軸51の軸方向一方側の端部の径方向位置と軸方向他方側の端部の径方向位置とをずらすことができ、これに伴って各遊星ボール5を一方側、ここでは図1中時計回り側に傾転させることができ、このずれに応じて傾転角度φを変更することができる。各遊星ボール5の一方側への傾転の傾転角度φ、言い換えれば変速比は、絞り羽12cの絞り開口12b内への進出量に応じて定まる。
【0049】
伝達機構13は、サンローラ6に作用するスラスト力を利用して遊星ボール5を他方側、ここでは、図1中反時計回り側に傾転させる。伝達機構13は、スラスト力を各支持軸51に伝達することで、各遊星ボール5を他方側に傾転させる。さらに言えば、伝達機構13は、サンローラ6に作用する回転軸線X1の軸方向のスラスト力を傾転力に変換し、この傾転力を各支持軸51に作用させる。この伝達機構13が各支持軸51に作用させる傾転力は、遊星ボール5を他方側に傾転させる力である。
【0050】
伝達機構13は、アーム部13aを含んで構成される。伝達機構13は、アーム部13aによってサンローラ6に作用するスラスト力を傾転力に変換し各支持軸51に作用させるものである。
【0051】
アーム部13aは、各支持軸51にそれぞれ設けられる線状の部材である。アーム部13aは、基端部が支持軸51の一端部に固定され、先端部がサンローラ6の軸方向端部61に当接可能である。ここでは、軸方向端部61は、サンローラ6の第1リング3側(図中右側)の端部である。つまりここでは、アーム部13aは、サンローラ6の第1リング3側(図中右側)に設けられ、基端部が各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に固定される。アーム部13aは、支持軸51の第1リング3側の軸方向端部側からサンローラ6の軸方向端部61側に向けて延在する。
【0052】
したがって、伝達機構13は、例えば、図1に示すように、正駆動時に遊星ボール5からサンローラ6に第1リング3側へのスラスト力が作用し、サンローラ6が軸方向一方側、すなわち、第1リング3側に移動すると、各アーム部13aの先端部がサンローラ6の軸方向端部61と当接する。伝達機構13は、各アーム部13aの先端部とサンローラ6の軸方向端部61とが当接することで、サンローラ6のスラスト力が、各アーム部13aを介して各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に傾転力として伝達される。すなわち、伝達機構13は、サンローラ6に作用するスラスト力を傾転力に変換し、この傾転力を各支持軸51に作用させることができる。伝達機構13は、各アーム部13aがサンローラ6の軸方向端部61に当接し、サンローラ6に作用するスラスト力によって各アーム部13aが押されることで、この各アーム部13aを介して各支持軸51に傾転力を作用させ、各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部を回転軸線X1から離間させる側に向けて押しあげることができる。
【0053】
伝達機構13は、このようにしてサンローラ6に作用するスラスト力を利用し各支持軸51の第1リング3側の軸方向端部に回転軸線X1から離間する側に向けた傾転力を作用させる。これにより、伝達機構13は、絞り羽12cが絞り開口12bを開放する側へ動作することに伴って、各支持軸51の軸方向一方側の端部の径方向位置と軸方向他方側の端部の径方向位置とをずらすことができ、これに伴って各遊星ボール5を他方側、ここでは図1中反時計回り側に傾転させることができ、このずれに応じて傾転角度φを変更することができる。
【0054】
また、この伝達機構13は、上記のように構成されることで、絞り羽12cが絞り開口12bを絞り込む側へ動作することに伴って各遊星ボール5が一方側へ傾転する際には、この傾転動作に伴ってアーム部13aがサンローラ6を第2リング4側に向かって押すことができる。つまりこの場合、伝達機構13は、遊星ボール5を傾転させる押付力を、回転軸線X1の軸方向の他方側にサンローラ6を押す力に変換する変換部としても機能する。伝達機構13は、絞り機構12から支持軸51に付与される押付力の一部をアーム部13aの先端部とサンローラ6の軸方向端部61との接触部分にてサンローラ6を軸方向の他方側に押す力として作用させることができる。この場合、伝達機構13は、サンローラ6に作用しているスラスト力の大きさや向きにかかわらず、遊星ボール5の傾転に伴ってサンローラ6を回転軸線X1の軸方向の他方側、すなわち、第2リング4側に押して移動させることができる。
【0055】
なお、この無段変速機1は、逆駆動時に遊星ボール5からサンローラ6に第2リング4側へのスラスト力が作用し、サンローラ6が軸方向他方側、すなわち、第2リング4側に移動すると、所定の位置で不図示のストッパがサンローラ6の軸方向端部62に当接することで、このサンローラ6の軸方向移動が規制される。軸方向端部62は、サンローラ6の第2リング4側(図中左側)の端部である。この場合、伝達機構13は、各アーム部13aとサンローラ6の軸方向端部61との当接が解除された状態となる。この場合、無段変速機1は、各遊星ボール5が他方側へは傾転せず、したがって、各遊星ボール5の他方側への傾転に伴った変速も行われない。
【0056】
ここで、サンローラ6は、回転軸線X1の軸方向の一方の端部である軸方向端部61に、曲面状に形成された曲面部63を有している。曲面部63は、軸方向端部61の壁面の中央部が回転軸線X1の軸方向に沿ってアーム部13a側に向かって突出となるように湾曲した形状をなす。そして、アーム部13aは、先端部にこの曲面部63に接触して転動可能な転動体としてのローラ13bが設けられる。この結果、伝達機構13は、サンローラ6がアーム部13aを回転軸線X1の軸方向の一方側に押す際や遊星ボール5の傾転に伴ってアーム部13aがサンローラ6を回転軸線X1の軸方向の他方側に押す際に、ローラ13bが曲面部63によって案内されることで、アーム部13aの先端部と軸方向端部61との摺動抵抗を低減することができる。すなわち、伝達機構13は、軸方向端部61がアーム部13aの先端部を押す際やアーム部13aの先端部が軸方向端部61を押す際にローラ13bが曲面部63に接触しながら転動することで、アーム部13aの先端部と軸方向端部61との摺動抵抗を低減することができ、サンローラ6がアーム部13aを、あるいは、アーム部13aがサンローラ6を滑らかに効率的に押すことができる。
【0057】
上記のように構成される無段変速機1は、遊星ボール5を一方側に傾転させる絞り機構12と、サンローラ6に作用するスラスト力を利用して遊星ボール5を他方側に傾転させる伝達機構13とが動作することで、変速比を無段階に変更することができる。
【0058】
そして、無段変速機1は、例えば、遊星ボール5を支持、傾転させるためのピボット支持物やこれに組み付けられるバネや紐を備えなくても、絞り機構12と伝達機構13との動作によって変速比を変更することができる。これにより、無段変速機1は、上記ピボット支持物などを備える場合と比較して、同等の外径のサンローラ6の外周面6aに対して、設けることができる遊星ボール5の数を相対的に多くすることができる。この結果、無段変速機1は、複数の遊星ボール5を介してトルクを伝達する際に、1個あたりの遊星ボール5に作用する面圧を相対的に小さくすることができることから耐久性を向上することができる。逆に言えば、無段変速機1は、上記ピボット支持物などを備える場合と比較して、同数の遊星ボール5を設ける際に装置が大型化することを抑制することができる。つまり、無段変速機1は、装置の大型化の抑制と耐久性の向上とを両立することができる。さらに言えば、無段変速機1は、装置の大型化の抑制と許容できるトルク容量の増加とを両立することができる。
【0059】
また、この無段変速機1は、伝達機構13がサンローラ6に作用するスラスト力を利用して各遊星ボール5を他方側に傾転させることから、例えば、絞り羽12cが絞り開口12bを開放する側へ動作することに伴って各遊星ボール5を押し戻して他方側に傾転させるためリターンスプリングなどの弾性体等を設ける必要がない。このため、無段変速機1は、装置が大型化することを抑制することができる。
【0060】
また、この無段変速機1は、絞り機構12と伝達機構13との動作によって変速比を変更することができることから、例えば、各支持軸51と共に各遊星ボール5を傾転させるためにキャリア7を構成する一対の円板部材71、72を相対変位(回転)させる必要がない。したがって、キャリア7は、円板部材71と円板部材72とを複数本の連結軸(図示略)で連結して、全体として籠状となるように構成することができる。これにより、無段変速機1は、支持軸51を支持するキャリア7の剛性を高めることができ、例えば、大きな荷重がかかった際でも遊星ボール5の回転軸線X2にずれが生じることを抑制することができ、この結果、回転軸線X2にずれに起因して動力の伝達効率が悪化することを抑制することができる。
【0061】
また、この無段変速機1は、各遊星ボール5からサンローラ6にスラスト力が作用し、このサンローラ6が回転軸線X1の軸方向に移動することで、サンローラ6における各遊星ボール5との接触位置を変更することができる。このとき、無段変速機1は、正駆動時であれば、傾転角度φが変更されることで、すなわち、変速比が変更されることで、アーム部13aと軸方向端部61との軸方向接触位置も変更され、サンローラ6の軸方向位置も変更される。この結果、無段変速機1は、正駆動時には傾転角度φ、言い換えれば、変速比に応じてサンローラ6における各遊星ボール5との接触位置を変更することができるので、サンローラ6が局所的に摩耗することを抑制することができ、よって、耐久性を向上することができる。
【0062】
また、無段変速機1は、駆動状態が正駆動状態であるときと逆駆動状態であるときとでサンローラ6に作用するスラスト力の向きが逆になり、サンローラ6の移動方向が逆になる。このため、無段変速機1は、同じ傾転角度φであっても、すなわち、同じ変速比であっても、正駆動状態であるときと逆駆動状態であるときとで、サンローラ6における各遊星ボール5との接触位置を変更することができる。この結果、無段変速機1は、傾転角度φに応じて、すなわち、変速比に応じてサンローラ6における各遊星ボール5との接触位置が一義的に決まってしまうことを防止することができ、この点でも耐久性をさらに向上するこができる。
【0063】
以上で説明した実施形態に係る無段変速機1によれば、回転軸線X1に沿った方向に対向しこの回転軸線X1を回転中心として相対回転可能である第1リング3及び第2リング4と、回転軸線X1とは異なる回転軸線X2を回転中心として回転可能であり第1リング3と第2リング4とに重心からずれた位置で接触して挟持され第1リング3及び第2リング4との間でトルクを伝達可能である遊星ボール5と、回転軸線X1と直交する方向に対して遊星ボール5より回転軸線X1側に、この遊星ボール5と接触して設けられ、第1リング3及び第2リング4に対して回転軸線X1を回転中心として相対回転可能かつ回転軸線X1に沿った方向に相対移動可能なサンローラ6と、遊星ボール5を傾転可能である傾転部9とを備え、傾転部9は、遊星ボール5を一方側に傾転させる絞り機構12と、遊星ボール5が回転した状態でこの遊星ボール5からサンローラ6に作用する回転軸線X1に沿った方向の力を利用して遊星ボール5を一方側とは反対側に傾転させる伝達機構13とを有する。したがって、無段変速機1は、絞り機構12と伝達機構13との動作によって適正に変速比を変更することができる。
【0064】
なお、上述した本発明の実施形態に係る無段変速機は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
以上の説明では、第1傾転部は、絞り機構12であるものとして説明したが、これに限らず、支持軸に押付力を作用させ第3回転要素を一方側に傾転させるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように本発明に係る無段変速機は、車両などに用いられる種々の無段変速機に適用して好適である。
【符号の説明】
【0067】
1 無段変速機
2 軸部材
3 第1リング(第1回転要素)
4 第2リング(第2回転要素)
5 遊星ボール(第3回転要素)
6 サンローラ(第4回転要素)
7 キャリア
8 押圧部
9 傾転部
12 絞り機構(第1傾転部)
12a 絞り固定環部材
12b 絞り開口
12c 絞り羽
13 伝達機構(第2傾転部)
13a アーム部
13b ローラ(転動体)
51 支持軸
61、62 軸方向端部
63 曲面部
X1 回転軸線(第1回転軸線)
X2 回転軸線(第2回転軸線)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸線に沿った方向に対向し当該第1回転軸線を回転中心として相対回転可能である第1回転要素及び第2回転要素と、
前記第1回転軸線とは異なる第2回転軸線を回転中心として回転可能であり前記第1回転要素と前記第2回転要素とに重心からずれた位置で接触して挟持され当該第1回転要素及び当該第2回転要素との間でトルクを伝達可能である第3回転要素と、
前記第1回転軸線と直交する方向に対して前記第3回転要素より前記第1回転軸線側に、当該第3回転要素と接触して設けられ、前記第1回転要素及び前記第2回転要素に対して前記第1回転軸線を回転中心として相対回転可能かつ前記第1回転軸線に沿った方向に相対移動可能な第4回転要素と、
前記第3回転要素を傾転可能である傾転部とを備え、
前記傾転部は、前記第3回転要素を一方側に傾転させる第1傾転部と、前記第3回転要素が回転した状態で当該前記第3回転要素から前記第4回転要素に作用する前記第1回転軸線に沿った方向の力を利用して前記第3回転要素を前記一方側とは反対側に傾転させる第2傾転部とを有することを特徴とする、
無段変速機。
【請求項2】
前記第1傾転部は、前記第3回転要素を回転可能に支持する支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させ、
前記第2傾転部は、前記第1回転軸線に沿った方向の力を前記反対側に傾転させる力に変換し前記支持軸に作用させる、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記第1傾転部は、絞り固定環部材に形成された絞り開口を絞り羽が絞り込む動作によって前記支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させる、
請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記第2傾転部は、基端部が前記支持軸の一端部に固定され、先端部が前記第4回転要素の前記第1回転軸線に沿った方向の一方の端部に当接可能であるアーム部を有する、
請求項2又は請求項3に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記第4回転要素は、前記一方の端部に、曲面状に形成された曲面部を有し、
前記アーム部は、前記先端部に、前記曲面部に接触して転動可能な転動体が設けられる、
請求項4に記載の無段変速機。
【請求項1】
第1回転軸線に沿った方向に対向し当該第1回転軸線を回転中心として相対回転可能である第1回転要素及び第2回転要素と、
前記第1回転軸線とは異なる第2回転軸線を回転中心として回転可能であり前記第1回転要素と前記第2回転要素とに重心からずれた位置で接触して挟持され当該第1回転要素及び当該第2回転要素との間でトルクを伝達可能である第3回転要素と、
前記第1回転軸線と直交する方向に対して前記第3回転要素より前記第1回転軸線側に、当該第3回転要素と接触して設けられ、前記第1回転要素及び前記第2回転要素に対して前記第1回転軸線を回転中心として相対回転可能かつ前記第1回転軸線に沿った方向に相対移動可能な第4回転要素と、
前記第3回転要素を傾転可能である傾転部とを備え、
前記傾転部は、前記第3回転要素を一方側に傾転させる第1傾転部と、前記第3回転要素が回転した状態で当該前記第3回転要素から前記第4回転要素に作用する前記第1回転軸線に沿った方向の力を利用して前記第3回転要素を前記一方側とは反対側に傾転させる第2傾転部とを有することを特徴とする、
無段変速機。
【請求項2】
前記第1傾転部は、前記第3回転要素を回転可能に支持する支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させ、
前記第2傾転部は、前記第1回転軸線に沿った方向の力を前記反対側に傾転させる力に変換し前記支持軸に作用させる、
請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記第1傾転部は、絞り固定環部材に形成された絞り開口を絞り羽が絞り込む動作によって前記支持軸に前記一方側に傾転させる押し付ける力を作用させる、
請求項2に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記第2傾転部は、基端部が前記支持軸の一端部に固定され、先端部が前記第4回転要素の前記第1回転軸線に沿った方向の一方の端部に当接可能であるアーム部を有する、
請求項2又は請求項3に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記第4回転要素は、前記一方の端部に、曲面状に形成された曲面部を有し、
前記アーム部は、前記先端部に、前記曲面部に接触して転動可能な転動体が設けられる、
請求項4に記載の無段変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2011−202701(P2011−202701A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68886(P2010−68886)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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