説明

無段変速機

【課題】転動部材の支持軸、延いては転動部材のキャリアからの脱落を防ぐこと。
【解決手段】共通の第1回転中心軸R1を有する相対回転可能な第1回転部材10、第2回転部材20、サンローラ30及びキャリア40と、第1及び第2の回転部材10,20に挟持される放射状に配置した複数の遊星ボール50と、遊星ボール50と同じ第2回転中心軸R2を有し、遊星ボール50から両端を突出させた支持軸51と、を備え、キャリア40が第1円盤部41の放射状のガイド溝43と第2円盤部42の放射状のガイド溝44とで支持軸51の両端を傾転時に案内する無段変速機1において、夫々のガイド溝43,44は、第1円盤部41及び第2円盤部42の外周面に開口させ、且つ、遊星ボール50のスピンモーメントにより支持軸51が当接する溝側壁43a,44aの前記開口の近くの端部について溝幅を当該開口の近くの端部以外の溝幅よりも拡幅させる形状とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通の回転軸を有する入力側の回転要素及び出力側の回転要素と、その回転軸に対して放射状に複数配置した転動部材と、を備え、その各回転要素に挟持された転動部材を傾転させることによって入出力間の変速比を無段階に変化させる無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の無段変速機、つまり、回転軸としてのシャフトと、このシャフトの中心軸を第1回転中心軸とする相対回転可能な複数の回転要素と、その第1回転中心軸と平行な別の第2回転中心軸を有し、第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置した転動部材と、を備え、対向させて配置した入力側の第1回転要素と出力側の第2回転要素とで各転動部材を挟持すると共に、各転動部材を第3回転要素の外周面上に配置し、その転動部材を傾転させることで変速比を無段階に変化させる所謂トラクション遊星ギヤ機構の無段変速機が知られている。この無段変速機においては、各転動部材を夫々の回転軸を介して保持する第4回転要素も備えており、転動部材の傾転時に自身の回転軸の夫々の端部が第4回転要素における入力側のガイド溝と出力側のガイド溝に沿って案内される。例えば、下記の特許文献1及び2には、この種の無段変速機について開示されている。特許文献1の無段変速機においては、その第4回転要素としての保持器(キャリア)に設ける入力側のガイド溝と出力側のガイド溝をシャフトの軸線方向で観て周方向にオフセットし、第1回転中心軸と第2回転中心軸の平行状態が保たれるようにしている。その軸線方向にて対向する夫々のガイド溝は、一方が径方向の両端を閉塞させた溝であり、他方が径方向の両端を開口させた溝である。また、特許文献2の無段変速機には、径方向における外径側を開口させたガイド溝が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−144932号公報
【特許文献2】実開昭52−35481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、転動部材とキャリア(第4回転要素)との関係について説明する。この種の無段変速機において、キャリアは、同心円上に対向させて配置した2枚の円盤部材と、この夫々の円盤部材を連結する複数本の連結軸と、を備え、全体として籠状となるように形成している。そして、夫々の転動部材は、そのキャリアの内部空間に当該キャリアの回転軸を中心にして放射状に配置している。転動部材は、自転を可能にする支持軸を備えており、その夫々の両端を各円盤部材のガイド溝に挿入することでキャリアに保持される。そのガイド溝は、転動部材の位置に合わせて夫々の円盤部材に放射状に形成されており、転動部材の傾転時に支持軸の端部をキャリアの径方向へと案内する。このような転動部材とキャリアとの関係において、これらの組み付け作業性を高める為には、組み立てられたキャリアに対して、支持軸の挿入された転動部材を取り付けることが好ましい。これが為、この場合には、各ガイド溝を円盤部材の外周部分にまで開口させ、その開口部分から支持軸の挿入された転動部材を挿入する。しかしながら、この場合には、傾転角が増速側又は減速側で最大となったときに、その開口部分から支持軸が外れてしまう虞がある。つまり、この場合には、転動部材がキャリアから脱落してしまう可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、転動部材の支持軸、延いては転動部材のキャリア(第4回転要素)からの脱落を防ぐことが可能な無段変速機を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、本発明は、対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、前記第1回転要素と前記各転動部材との夫々の接触点及び前記第2回転要素と前記各転動部材との夫々の接触点を当該各転動部材の傾転動作によって変えることで当該各回転要素の間の回転比を変化させる変速制御部と、前記各転動部材を外周面上に配置し、前記第1回転中心軸上で前記第1及び第2の回転要素に対する相対回転が可能な第3回転要素と、前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、前記支持軸の一方の端部を傾転時に自身の径方向へと案内するガイド溝が形成された第1円盤部、前記支持軸の他方の端部を傾転時に自身の径方向へと案内するガイド溝が形成された第2円盤部及び当該第1円盤部と第2円盤部とを連結する連結部材を有し、前記第1回転中心軸上で前記第1から第3の回転要素に対する相対回転が可能な第4回転要素と、を備えた無段変速機において、夫々の前記ガイド溝は、前記第1円盤部及び前記第2円盤部の外周面に開口させ、且つ、前記転動部材のスピンモーメントにより前記支持軸が当接する壁面の前記開口の近くの端部について溝幅を当該開口の近くの端部以外の溝幅よりも拡幅させる形状とすることを特徴としている。
【0007】
ここで、夫々の前記ガイド溝における前記壁面の前記開口の近くの端部は、溝幅を拡幅させる傾斜面とすることが望ましい。
【0008】
また、前記ガイド溝の傾斜面の傾斜角は、該傾斜面上の前記転動部材に働く全ての力による当該転動部材の傾転平面に沿ったモーメントと比較して、そのモーメントとは逆向きで且つそれ以上の大きさのモーメントを発生させる角度とすることが望ましい。
【0009】
また、夫々の前記ガイド溝における前記壁面の前記開口の近くの端部よりも径方向内側は、前記転動部材の傾転平面上に前記第2回転中心軸が配置された状態で前記支持軸を当接させる形状とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る無段変速機は、夫々のガイド溝における転動部材のスピンモーメントにより支持軸が当接する壁面の径方向外側の開口の近くの端部について溝幅を拡幅させる形状とする。これにより、この無段変速機においては、支持軸がその拡幅部分に到達したときにスピンモーメントの方向へとずれるので、転動部材に傾転角を0に戻す方向のモーメントが作用する。従って、この無段変速機においては、少なくともそれ以上の径方向外側への支持軸の端部の移動を抑えることができるので、その支持軸、延いては転動部材の第4回転要素からの脱落を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明に係る無段変速機の一例を示す部分断面図である。
【図2】図2は、図1の矢印Aの方向から観たキャリアのガイド溝の形状を断面で表した説明図である。
【図3】図3は、キャリアの内部空間側から観たガイド溝の形状の説明図である。
【図4】図4は、図1の矢印Bの方向から観たキャリアのガイド溝の形状の説明図である。
【図5】図5は、図1の矢印Aの方向から観たキャリアのガイド溝の形状を断面で表した説明図である。
【図6】図6は、脱落抑制モーメントの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る無段変速機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
[実施例]
本発明に係る無段変速機の実施例を図1から図6に基づいて説明する。
【0014】
最初に、本実施例の無段変速機の一例について図1を用いて説明する。図1の符号1は、本実施例の無段変速機を示す。
【0015】
この無段変速機1の主要部を成す無段変速機構は、共通の第1回転中心軸R1を有する相互間での相対回転が可能な第1から第4の回転要素10,20,30,40と、その第1回転中心軸R1と後述する基準位置において平行な別の第2回転中心軸R2を各々有する複数の転動部材50と、第1から第4の回転要素10,20,30,40の回転中心に配置した変速機回転軸としてのシャフト60と、を備えた所謂トラクション遊星ギヤ機構と云われるものである。この無段変速機1は、第2回転中心軸R2を第1回転中心軸R1に対して傾斜させ、転動部材50を傾転させることによって、入出力間の変速比を変えるものである。以下においては、特に言及しない限り、その第1回転中心軸R1や第2回転中心軸R2に沿う方向を軸線方向と云い、その第1回転中心軸R1周りの方向を周方向と云う。また、その第1回転中心軸R1に直交する方向を径方向と云い、その中でも、内方に向けた側を径方向内側と、外方に向けた側を径方向外側と云う。この無段変速機1においては、第1から第4の回転要素10,20,30,40の内の何れか1つを周方向へと回転させぬよう固定し、その内の残りが周方向に回転できるようになっている。
【0016】
この無段変速機1においては、第1回転要素10と第2回転要素20と第3回転要素30と第4回転要素40との間で各転動部材50を介したトルクの伝達が行われる。例えば、この無段変速機1においては、第1から第4の回転要素10,20,30,40の内の1つがトルク(動力)の入力部となり、残りの回転要素の内の少なくとも1つがトルクの出力部となる。これが為、この無段変速機1においては、入力部となる何れかの回転要素と出力部となる何れかの回転要素との間の回転速度(回転数)の比が変速比となる。例えば、この無段変速機1は、車両の動力伝達経路上に配設される。その際には、その入力部がエンジンやモータ等の動力源側に連結され、その出力部が駆動輪側に連結される。この無段変速機1においては、入力部としての回転要素にトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を正駆動と云い、出力部としての回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力された場合の各回転要素の回転動作を逆駆動と云う。例えば、この無段変速機1は、先の車両の例示に従えば、加速等の様に動力源側からトルクが入力部たる回転要素に入力されて当該回転要素を回転させているときが正駆動となり、減速等の様に駆動輪側から出力部たる回転中の回転要素に正駆動時とは逆方向のトルクが入力されているときが逆駆動となる。
【0017】
この無段変速機1においては、シャフト60の中心軸(第1回転中心軸R1)を中心にして放射状に複数個の転動部材50を配置する。その夫々の転動部材50は、対向させて配置した第1回転要素10と第2回転要素20とで挟持させると共に、第3回転要素30の外周面上に配設する。また、夫々の転動部材50は、自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)を中心にした自転を行う。更に、転動部材50は、第4回転要素40が上記の固定対象になっていなければ、その第4回転要素40と一緒に回転して、第1回転中心軸R1を中心にした公転を行う。この無段変速機1は、第1及び第2の回転要素10,20の内の少なくとも一方を転動部材50に押し付けることによって、第1から第4の回転要素10,20,30,40と転動部材50との間に適切な摩擦力(トラクション力)を発生させ、その間におけるトルクの伝達を可能にする。また、この無段変速機1は、夫々の転動部材50を自身の第2回転中心軸R2と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面上で傾転させ、第1回転要素10と第2回転要素20との間の回転速度(回転数)の比を変化させることによって、入出力間の回転速度(回転数)の比を変える。
【0018】
ここで、この無段変速機1においては、第1及び第2の回転要素10,20が遊星ギヤ機構で云うところのリングギヤの機能を為すものとなる。また、第3回転要素30はトラクション遊星ギヤ機構のサンローラとして機能し、第4回転要素40はキャリアとして機能する。また、転動部材50は、トラクション遊星ギヤ機構におけるボール型ピニオンとして機能する。以下、第1及び第2の回転要素10,20については、各々「第1及び第2の回転部材10,20」と云う。また、第3回転要素30については「サンローラ30」と云い、第4回転要素40については「キャリア40」と云う。また、転動部材50については、「遊星ボール50」と云う。以下においては、キャリア40が上記の固定対象になっている場合を例に挙げて詳述する。
【0019】
第1及び第2の回転部材10,20は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円盤部材(ディスク)や円環部材(リング)であり、軸線方向で対向させて各遊星ボール50を挟み込むように配設する。この例示においては、双方とも円環部材とする。その第1回転部材10は、後述するトルクカム71と第1トルク伝達部材81と共に無段変速機1の正駆動時におけるトルク入力部(入力軸)を成す。その入力軸は、ラジアル軸受RB1,RB2を介してシャフト60に対する周方向の相対回転を行うことができる。一方、第2回転部材20は、後述するトルクカム72と第2トルク伝達部材82と共に無段変速機1の正駆動時におけるトルク出力部(出力軸)を成す。その出力軸は、ラジアル軸受RB3,RB4を介して入力軸やシャフト60に対する周方向の相対回転を行うことができる。尚、ここで例示するシャフト60は、例えば図示しない車体や筐体等の無段変速機1の固定部に固定したものであり、その固定部に対して相対回転させぬよう構成した円柱状の固定軸である。
【0020】
この第1及び第2の回転部材10,20は、後で詳述する各遊星ボール50の径方向外側の外周曲面と接触する接触面を有している。その夫々の接触面は、例えば、遊星ボール50の外周曲面の曲率と同等の曲率の凹円弧面、その外周曲面の曲率とは異なる曲率の凹円弧面、凸円弧面又は平面等の形状を成している。ここでは、後述する基準位置の状態で第1回転中心軸R1から各遊星ボール50との接触部分までの距離が同じ長さになるように夫々の接触面を形成して、第1及び第2の回転部材10,20の各遊星ボール50に対する夫々の接触角が同じ角度になるようにしている。その接触角とは、基準から各遊星ボール50との接触部分までの角度のことである。ここでは、径方向を基準にしている。その夫々の接触面は、遊星ボール50の外周曲面に対して点接触又は面接触している。また、夫々の接触面は、第1及び第2の回転部材10,20から遊星ボール50に向けて軸線方向の力が加わった際に、その遊星ボール50に対して径方向内側で且つ斜め方向の力が加わるように形成されている。
【0021】
サンローラ(アイドラローラ)30は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円筒状のものである。このサンローラ30の外周面には、複数個の遊星ボール50が放射状に略等間隔で配置される。従って、このサンローラ30においては、その外周面が遊星ボール50の自転の際の転動面となる。このサンローラ30は、自らの回転動作によって夫々の遊星ボール50を転動(自転)させることもできれば、夫々の遊星ボール50の転動動作(自転動作)に伴って回転することもできる。
【0022】
このサンローラ30は、軸受(アイドラプレート31と軸受ボール32)によって第1回転中心軸R1を中心とする周方向への回転が自在になるよう支持される。そのアイドラプレート31は、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた円筒状の部材であり、その外周面の周方向溝で軸受ボール32を介してサンローラ30を支持する。また、このアイドラプレート31は、その内方に挿入したシャフト60に対する軸線方向への相対移動が可能である。サンローラ30は、このアイドラプレート31を介してシフト機構による軸線方向への往復移動が可能になっている。そのサンローラ30の移動量は、夫々の遊星ボール50の傾転角と比例関係にある。
【0023】
そのシフト機構とは、遊星ボール50を傾転させる傾転装置の一部分を成すものである。このシフト機構は、シャフト60の中空部61と、この中空部61とシャフト60の外周面側とを連通させるシャフト60のスリット62と、中空部61内に挿入したシフト軸91と、このシフト軸91の外周面に螺合した円筒部を有するシフトキー92と、で構成する。そのシフト軸91は、例えば電動モータ等のアクチュエータを駆動源にして、シャフト60に対する周方向の相対移動を行う。また、シフトキー92は、その板状のキー部をスリット62からアイドラプレート31に向けて突出させ、そのアイドラプレート31の内周面側に固定する。このシフト機構は、シフト軸91の回転に伴いシフトキー92のキー部をスリット62内で軸線方向へと移動させる。これが為、このシフト機構は、アイドラプレート31及び軸受ボール32と共にサンローラ30をシャフト60に対して軸線方向に相対移動させることができる。尚、シフトキー92のキー部がスリット62の周方向側の壁面で係止されるので、アイドラプレート31は、シャフト60に対する周方向の相対回転を行わない。
【0024】
キャリア40は、例えば、中心軸を第1回転中心軸R1に一致させた第1及び第2の円盤部41,42を対向させて配置し、その第1及び第2の円盤部41,42を複数本の連結軸(図示略)で連結して、全体として籠状となるようにしている。これにより、このキャリア40は、外周面に開放部分を有することになる。各遊星ボール50は、第1及び第2の円盤部41,42の間に配置し、その開放部分を介してキャリア40の外周面から径方向外側に一部分を突出させている。第1及び第2の円盤部41,42の夫々の対向する部分には、遊星ボール50の支持軸51の端部を傾転方向(径方向)に向けて案内するガイド溝43,44が各々形成されている。そのガイド溝43,44は、その長手方向を径方向に一致させており、遊星ボール50毎に形成する。つまり、全てのガイド溝43と全てのガイド溝44は、軸線方向から観ると夫々に放射状を成している。
【0025】
遊星ボール50は、サンローラ30の外周面上を転がる転動部材である。この遊星ボール50は、完全な球状体であることが好ましいが、少なくとも転動方向にて球形を成すもの、例えばラグビーボールの様な断面が楕円形状のものであってもよい。この遊星ボール50は、その中心を通って貫通させた支持軸51によって回転自在に支持する。例えば、遊星ボール50は、支持軸51の外周面との間に配設した軸受(図示略)によって、第2回転中心軸R2を回転軸とした支持軸51に対する相対回転(つまり自転)ができるようにしている。従って、この遊星ボール50は、支持軸51を中心にしてサンローラ30の外周面上を転動することができる。その支持軸51の両端は、遊星ボール50から突出させておく。
【0026】
その支持軸51の基準となる位置は、図1に示すように、第2回転中心軸R2が第1回転中心軸R1と平行になる位置である。この支持軸51は、その基準位置で形成される自身の回転中心軸(第2回転中心軸R2)と第1回転中心軸R1とを含む傾転平面内において、基準位置とそこから傾斜させた位置との間を遊星ボール50と共に揺動(傾転)することができる。その傾転は、その傾転平面内で遊星ボール50の中心を支点にして行われる。
【0027】
この無段変速機1には、夫々の遊星ボール50を傾転させることによって変速させる変速制御部が設けられている。その遊星ボール50の傾転装置となる変速制御部としては、この技術分野において周知のものを利用することができる。例えば、この変速制御部は、上述したシフト機構と、アイドラプレート31と、傾転用アーム93と、で構成する。
【0028】
その傾転用アーム93は、アイドラプレート31の軸線方向の移動に伴って、支持軸51と遊星ボール50に傾転力を作用させ、その支持軸51と共に遊星ボール50の第2回転中心軸R2を傾斜させる為のものである。この傾転用アーム93は、径方向に延在させた部材であり、径方向内側の先端部を先細り形状に成形する。この傾転用アーム93は、全ての支持軸51の夫々の端部毎に用意されており、その支持軸51の端部に径方向外側部分を取り付ける。故に、遊星ボール50は、突出させた支持軸51の夫々の端部を保持する一対の傾転用アーム93,93によって支持されている。また、傾転用アーム93は、キャリア40の内部空間において、第1円盤部41とアイドラプレート31及び遊星ボール50との間、第2円盤部42とアイドラプレート31及び遊星ボール50との間に配設する。従って、第1円盤部41側の全ての傾転用アーム93と第2円盤部42側の全ての傾転用アーム93は、軸線方向から観ると夫々に放射状を成している。尚、この傾転用アーム93は、キャリア40に対する軸線方向の相対移動や周方向の相対回転を行わない。
【0029】
その一対の傾転用アーム93は、各々の径方向内側の先細り形状の壁面でアイドラプレート31の軸線方向における両端部の壁面を挟み込む。ここで、そのアイドラプレート31は、径方向外側に向けた先細り形状になっている。一方、一対の傾転用アーム93は、その夫々の先端部の先細り形状によって、アイドラプレート31の先細り形状を挟む径方向内側への外開き形状にする。これにより、この変速制御部は、シフト機構の作用によりアイドラプレート31を軸線方向に動かすことで、その先細り形状の壁面から各傾転用アーム93の先細り形状の壁面に対して、軸線方向に対して斜め外側を向いた力を作用させる。これに伴い、第1円盤部41側と第2円盤部42側の夫々の傾転用アーム93群は、夫々の支持軸51を上記の傾転平面内で傾斜させ、これと共に各遊星ボール50もその傾転平面内で傾斜させる。その際、夫々の支持軸51の両端は、ガイド溝43,44によって径方向へと案内されている。
【0030】
この無段変速機1においては、夫々の遊星ボール50の傾転角が基準位置、即ち0度のときに、第1回転部材10と第2回転部材20とが同一回転速度(同一回転数)で回転する。つまり、このときには、第1回転部材10と第2回転部材20の回転比(回転速度又は回転数の比)が1となり、変速比が1になっている。一方、夫々の遊星ボール50を基準位置から傾転させた際には、第1回転部材10との接触部分(接触点)及び第2回転部材20との接触部分(接触点)が変わり、支持軸51の中心軸から第1回転部材10との接触部分までの距離が変化すると共に、支持軸51の中心軸から第2回転部材20との接触部分までの距離が変化する。これが為、第1回転部材10又は第2回転部材20の内の何れか一方が基準位置のときよりも高速で回転し、他方が低速で回転するようになる。例えば第2回転部材20は、遊星ボール50を一方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも低回転になり(減速)、他方へと傾転させたときに第1回転部材10よりも高回転になる(増速)。従って、この無段変速機1においては、その傾転角を変えることによって、第1回転部材10と第2回転部材20との間の回転比(変速比)を無段階に変化させることができる。尚、ここでの増速時には、図1における上側の遊星ボール50を紙面時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール50を紙面反時計回り方向に傾転させる。また、減速時には、図1における上側の遊星ボール50を紙面反時計回り方向に傾転させ且つ下側の遊星ボール50を紙面時計回り方向に傾転させる。
【0031】
この無段変速機1には、第1又は第2の回転部材10,20の内の少なくとも何れか一方を各遊星ボール50に押し付けて、第1及び第2の回転部材10,20と各遊星ボール50との間に挟圧力を発生させる押圧部が設けられている。その押圧部は、軸線方向の力(押圧力)を発生させることで、その間に挟圧力を生じさせるものである。その間においては、その挟圧力によって適切な摩擦力(トラクション力)が発生する。また、その押圧部の押圧力は、第1及び第2の回転部材10,20の接触面と各遊星ボール50の外周曲面の形状及び位置関係によって、各遊星ボール50を介してサンローラ30にも伝わる。これが為、サンローラ30と各遊星ボール50との間にも適切な摩擦力(トラクション力)が発生する。この無段変速機1においては、その摩擦力によって効率の良い回転トルクの伝達が可能なる。この押圧部は、無段変速機1がどの回転要素をトルクの入力側とするのか、そして入力トルクの回転方向に基づいて、第1回転部材10側と第2回転部材20側の双方又は一方に設ければよい。この例示においては、押圧部としてのトルクカム機構を双方に設けることにする。
【0032】
第1回転部材10側のトルクカム71は、その第1回転部材10と第1トルク伝達部材81との間に配設する。例えば、このトルクカム71は、第1トルク伝達部材81の回転トルクを第1回転部材10に伝えると共に、その第1トルク伝達部材81から第1回転部材10に向けた軸線方向の推力を発生させ、且つ、第1回転部材10の回転トルクを第1トルク伝達部材81に伝えると共に、その第1回転部材10から第1トルク伝達部材81に向けた軸線方向の推力を発生させるよう構成する。尚、その第1トルク伝達部材81は、ラジアル軸受RB1,RB2を介したシャフト60に対する周方向への相対回転を可能にする円筒部を有している。ここでは、その円筒部に動力源を繋ぐ。
【0033】
一方、第2回転部材20側のトルクカム72は、第2回転部材20と第2トルク伝達部材82との間に配設する。例えば、このトルクカム72は、第2回転部材20の回転トルクを第2トルク伝達部材82に伝えると共に、その第2回転部材20から第2トルク伝達部材82に向けた軸線方向の推力を発生させ、且つ、第2トルク伝達部材82の回転トルクを第2回転部材20に伝えると共に、その第2トルク伝達部材82から第2回転部材20に向けた軸線方向の推力を発生させるよう構成する。尚、その第2トルク伝達部材82は、変速機組み立ての都合上2分割構造にしており、その内の一方がラジアル軸受RB3及びスラスト軸受TBを介して第1トルク伝達部材81との間の相対回転が可能になり、他方がラジアル軸受RB4や後述するアウターケース204を介してシャフト60との間の相対回転が可能になっている。
【0034】
この無段変速機1においては、第1回転部材10の回転に伴い第1回転部材10と夫々の遊星ボール50との間に摩擦力(トラクション力)が発生し、夫々の遊星ボール50が自転を始める。そして、この無段変速機1においては、その夫々の遊星ボール50の回転によって、各遊星ボール50と第2回転部材20との間、各遊星ボール50とサンローラ30との間にも摩擦力が発生し、その第2回転部材20とサンローラ30も回転を始める。
【0035】
また、この無段変速機1においては、第2回転部材20の回転に伴い第2回転部材20と夫々の遊星ボール50との間に摩擦力が発生し、夫々の遊星ボール50が自転を始める。そして、この無段変速機1においては、その夫々の遊星ボール50の回転によって、各遊星ボール50と第1回転部材10との間、各遊星ボール50とサンローラ30との間にも摩擦力が発生し、その第1回転部材10とサンローラ30も回転を始める。
【0036】
尚、この例示では第1回転部材10を入力側、第2回転部材20を出力側にしているが、シャフト60の回転動作を可能にしてサンローラ30を入力側とする場合には、サンローラ30の回転に伴いサンローラ30と夫々の遊星ボール50との間に摩擦力が発生し、夫々の遊星ボール50が自転を始める。そして、この場合の無段変速機1においては、その夫々の遊星ボール50の回転によって、各遊星ボール50と第1回転部材10との間、各遊星ボール50と第2回転部材20との間にも摩擦力が発生し、その第1回転部材10と第2回転部材20も回転を始める。また、キャリア40以外の回転要素を固定対象に設定した場合には、そのキャリア40の回転に伴い夫々の遊星ボール50が自転と公転を始める。そして、この場合の無段変速機1においては、その夫々の遊星ボール50の回転によって、各遊星ボール50と第1回転部材10との間、各遊星ボール50と第2回転部材20との間、各遊星ボール50とサンローラ30との間にも摩擦力が発生し、その第1回転部材10と第2回転部材20とサンローラ30も回転を始める。
【0037】
このように構成した無段変速機1においては、第1回転部材10に動力源の動力が加えられた場合、遊星ボール50における第1回転部材10との接触部分に、第1回転部材10の回転方向と同じ向き(下記のスピンモーメントが作用しない状態の遊星ボール50の回転方向とは逆向き)の接線方向の摩擦力(トラクション力)が加わる。更に、この場合には、遊星ボール50における第2回転部材20との接触部分に、第1回転部材10との接触部分の摩擦力とは逆向き、即ち第2回転部材20の回転方向とは逆向き(下記のスピンモーメントが作用しない状態の遊星ボール50の回転方向と同じ向き)の摩擦力が加わる。つまり、この無段変速機1の動作中においては、図2に示すように、遊星ボール50における第1回転部材10との接触部分と第2回転部材20との接触部分とに逆方向の摩擦力が定常的に発生している。ここで、その夫々の接触部分は、図2に示すように、遊星ボール50の外周面上において遊星ボール50の重心から外れた位置にある。これが為、夫々の摩擦力は遊星ボール50において偏心荷重となるので、その摩擦力が加わった際には、その重心を中心にした回転モーメント(以下、「スピンモーメント」という。)が遊星ボール50に発生する。ここでは、モーメント方向が反時計回りのスピンモーメントが発生している。尚、その図2は、傾転角0度の遊星ボール50と第1及び第2の回転部材10,20との接触部分について、図1の矢印Aの方向から、即ち上記の傾転平面に対して平行で且つ第2回転中心軸R2に対して直交する方向から観た図である。
【0038】
ところで、この無段変速機1においては、遊星ボール50の傾転動作を円滑にする為に、その傾転動作の際に動作させる部材間に隙間を設けている。例えば、この例示においては、キャリア40のガイド溝43,44の溝幅を支持軸51の外径よりも拡げ、その支持軸51の夫々の端部とガイド溝43,44との間に隙間を設けている。尚、その支持軸51の端部にガイド溝43,44内でのガイド部材(例えば球体等)が配設されている場合、ガイド溝43,44の溝幅は、そのガイド部材又は支持軸51の内の最大部位よりも拡大させる。以下においては、そのガイド部材も含めて支持軸51と総称する。ここで、この無段変速機1においては、その隙間と上記のスピンモーメントにより遊星ボール50の第2回転中心軸R2が上述した傾転平面内から外れてしまうと、第1回転中心軸R1との間の平行状態が崩れ、その遊星ボール50の回転軸ずれによるスキューが発生して、意図しない変速や発熱損失を発生させる虞がある。これが為、この無段変速機1には、遊星ボール50の回転軸ずれを抑え、その遊星ボール50の傾転動作を上記の傾転平面内で実行させる回転軸ずれ抑制部を設ける。
【0039】
その回転軸ずれ抑制部は、遊星ボール50の支持軸51とキャリア40のガイド溝43,44の内の少なくとも一方とで構成する。この回転軸ずれ抑制部は、遊星ボール50毎に用意する。
【0040】
例えば、第1円盤部41のガイド溝43と支持軸51とからなる回転軸ずれ抑制部は、スピンモーメントにより支持軸51が当接する溝側壁43aを回転軸ずれの抑制の為の係止面として利用する。その溝側壁43aは、図3に示すように、上記の傾転平面内で遊星ボール50の第2回転中心軸R2が傾転動作を行っているときに、その遊星ボール50の支持軸51の外周面が当接し続ける形状にする。つまり、溝側壁43aは、上記の傾転平面に対して支持軸51の半径分だけスピンモーメントのモーメント方向へとずらした位置に、その傾転平面と平行な壁面を有している。ガイド溝43は、その溝側壁43aを基点にして支持軸51の外径よりも広い溝幅を設定すればよい。尚、図3は、第1円盤部41と第2円盤部42をキャリア40の内側(つまり遊星ボール50側)から観た図である。
【0041】
また、第2円盤部42のガイド溝44側に回転軸ずれ抑制部を設ける場合も同様であり、スピンモーメントにより支持軸51が当接する溝側壁44aは、上記の傾転平面内で遊星ボール50の第2回転中心軸R2が傾転動作を行っているときに、その遊星ボール50の支持軸51の外周面が当接し続ける形状にする。つまり、溝側壁44aについても、上記の傾転平面に対して支持軸51の半径分だけスピンモーメントのモーメント方向へとずらした位置に、その傾転平面と平行な壁面を有している。ガイド溝44は、その溝側壁44aを基点にして支持軸51の外径よりも広い溝幅を設定すればよい。
【0042】
この無段変速機1においては、このような回転軸ずれ抑制部を第1円盤部41側又は第2円盤部42側の内の少なくとも一方に設けることで、スピンモーメントによる遊星ボール50の回転軸ずれを抑制できる。故に、この無段変速機1は、遊星ボール50の回転軸ずれによる意図しない変速や発熱損失の発生を防ぐことができ、トルク伝達効率の低下を抑えることができる。
【0043】
ここで、この無段変速機1では第1円盤部41側と第2円盤部42側の双方に回転軸ずれ抑制部を設けているので、ガイド溝43,44は、図4に示す如く、キャリア40を軸線方向(図1の矢印Bの方向)から観ると、その一部が重なり合っている。そのガイド溝43,44は、第1回転中心軸R1と第2回転中心軸R2の平行状態を保ったままで、その重なり合う部分(ガイドオーバーラップ部)の周方向の幅が支持軸51の外径と同等になるよう形成する。従って、遊星ボール50は、支持軸51をガイドオーバーラップ部に配置することで、スピンモーメントによる回転軸ずれが抑制される。また、そのガイドオーバーラップ部の径方向外側の端部は、遊星ボール50が最大傾転角のときの支持軸51の端部の位置に一致させる又は当該位置よりも径方向外側に設定する。尚、その図4は、ガイド溝43,44を透視図として示しており、比較の便宜上、ガイド溝43を一点鎖線、ガイド溝44を二点鎖線で表している。
【0044】
このように、この無段変速機1は、円滑な遊星ボール50の傾転動作を妨げることなく、スピンモーメントによる遊星ボール50の回転軸ずれを抑制できる。ここで、ガイド溝43,44は、キャリア40への遊星ボール50や支持軸51の組み付け作業性を向上させるべく、その径方向外側を第1及び第2の円盤部41,42の外周面に開口させている。これが為、遊星ボール50の傾転角に依っては、そのガイド溝43,44から支持軸51が外れる虞がある。例えば、この無段変速機1においては、傾転装置によるサンローラ30の軸線方向への移動量が過大になり、ガイドオーバーラップ部で支持軸51を保持可能な傾転角を超えてしまったときに、支持軸51がガイド溝43,44から脱落する虞がある。そこで、ガイド溝43,44の双方には、支持軸51がガイド溝43,44から外れることを抑制する溝外れ抑制部を設ける。
【0045】
ガイド溝43の溝外れ抑制部は、スピンモーメントにより支持軸51の当接する溝側壁43aの径方向外側の端部(つまり上記の開口の近く)について溝幅を拡幅させる形状とする。具体的に、この溝外れ抑制部は、その端部が径方向外側に向かうにつれて溝幅を拡幅するテーパ形状になるよう傾斜させたものである。この溝外れ抑制部は、その傾斜面43aによって図5に示すように遊星ボール50の回転軸ずれを発生させ、その遊星ボール50に対して図6に示す傾転角0に戻す方向のモーメント(以下、「脱落抑制モーメント」という。)を作用させるものである。支持軸51は、その一方の端部が傾斜面43aに到達すると、遊星ボール50の回転軸(第2回転中心軸R2)が上記の傾転平面内から外れ、傾転角が0に戻る方向の脱落抑制モーメントを発生させる。これが為、遊星ボール50には、その脱落抑制モーメントが作用することになる。その脱落抑制モーメントは、傾転装置による傾転角増加時の遊星ボール50に作用する傾転モーメントとは逆向きである。
【0046】
一方、ガイド溝44の溝外れ抑制部についても、ガイド溝43の溝外れ抑制部と同様に構成する。故に、この溝外れ抑制部は、スピンモーメントにより支持軸51の当接する溝側壁44aの径方向外側の端部(上記の開口の近く)を傾斜させ、ガイド溝44の径方向外側の端部が径方向外側に向かうにつれて溝幅を拡幅するテーパ形状になるよう形成する。従って、支持軸51は、その一方の端部が傾斜面44aに到達すると、遊星ボール50の回転軸(第2回転中心軸R2)が上記の傾転平面内から外れて脱落抑制モーメントを発生させる。従って、遊星ボール50には、その脱落抑制モーメントが作用することになる。
【0047】
ここで、脱落抑制モーメントは、少なくとも遊星ボール50をその傾斜面43a,44a上の位置で保持できる大きさであることが望ましい。これが為、その傾斜面43a,44aの傾斜角(図3に示すテーパ角θ)は、例えば、溝外れ抑制部以外によって傾斜面43a,44a上の遊星ボール50に働く全ての力による上記の傾転平面に沿ったモーメントと比較して、そのモーメントとは逆向きで且つそれ以上の大きさの脱落抑制モーメントを発生させる角度に設定することが好ましい。また、このテーパ角θは、溝側壁43a,44aの主壁面(上記の傾転平面と平行な面)に対して浅すぎると、支持軸51の脱落を防ぐことができず、逆に深すぎると、スピンモーメントによって支持軸51の脱落を助長してしまう可能性がある。これが為、このテーパ角θは、このことも考慮した上で設定することが好ましい。例えば、深めのテーパ角θの場合には、溝側壁43a,44aの主壁面に対して45度以内に抑えることが好ましい。45度を超えることにより、支持軸51が傾斜面43a,44a上を脱落方向へと滑動する可能性があるからである。尚、実際のテーパ角θの大きさは、厳密に云えば、遊星ボール50やキャリア40等の具体的な形状や素材等によって異なるので、無段変速機の仕様毎にその都度実験結果等に基づき設定する必要がある。
【0048】
以上示したように、この無段変速機1は、支持軸51をガイドオーバーラップ部の範囲内で動かす限り、遊星ボール50を回転軸ずれ無く傾転させることができる。そして、その支持軸51がガイドオーバーラップ部を外れて径方向外側へと移動した場合には、その支持軸51の端部が溝側壁43aの傾斜面43a又は溝側壁44aの傾斜面44aへ到達したときに、遊星ボール50に脱落抑制モーメントを作用させることができるので、少なくともそれ以上の径方向外側への支持軸51の端部の移動を抑えることができる。従って、この無段変速機1は、支持軸51、延いては遊星ボール50のキャリア40からの脱落を防ぐことができる。故に、この無段変速機1は、ガイド溝43,44の径方向外側の開口を塞ぐ必要がなく、キャリア40への遊星ボール50や支持軸51の組み付け作業性を向上させることができる。
【0049】
本実施例においては溝底を有するガイド溝43,44を例示したが、傾転時の支持軸51のガイド部としては、そのガイド溝43,44に替えて、このガイド溝43,44から溝底を省いたガイド孔を用いてもよい。この場合でも、そのガイド孔はガイド溝43,44と同様の効果を無段変速機1にもたらすことができる。また、そのガイド溝43,44の内の一方をガイド孔に置き換えてもよく、この場合においても同様の効果を奏することができる。
【0050】
ここで、この無段変速機1の具体的な適用例の1つを示す。その具体例としては、電気エネルギを機械エネルギに変換して出力する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギを電気エネルギに変換する発電機としての機能(回生機能)と、を兼ね備えている回転電機であり、変速機能内蔵型のものへの適用が考えられる。図1の符号200は、その変速機能内蔵型の回転電機を示す。
【0051】
この回転電機200は、回転電機本体としての電動発電機部201と変速部としての上述した無段変速機1とを備えている。この回転電機200は、電動発電機部201における後述するステータ202及びロータ230の回転中心と無段変速機1の回転中心とが第1回転中心軸R1で一致するように各要素が位置決めされている。
【0052】
この回転電機200においては、電動発電機部201を全体として第1回転中心軸R1と同軸の円筒状に形成すると共に、この電動発電機部201の径方向内側(即ち電動発電機部201の内周面よりも内側)に無段変速機1を配置して、その無段変速機1を径方向外側において電動発電機部201で覆う。そして、この回転電機200においては、無段変速機1の第2トルク伝達部材82を電動発電機部201のロータ230として利用する。また、そのロータ230の径方向外側には、ステータ202が配設される。ステータ202は、ロータ230の外周面上に放射状に配置したステータコイル203と、これらを覆うアウターケース204と、を備える。尚、そのアウターケース204は、シャフト60に固定されている。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明に係る無段変速機は、転動部材の支持軸、延いては転動部材のキャリアからの脱落を防ぐことが可能な技術に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 無段変速機
10 第1回転部材(第1回転要素)
20 第2回転部材(第2回転要素)
30 サンローラ(第3回転要素)
40 キャリア(第4回転要素)
41 第1円盤部
42 第2円盤部
43,44 ガイド溝
43a,44a 溝側壁
43a,44a 傾斜面
50 遊星ボール(転動部材)
51 支持軸
R1 第1回転中心軸
R2 第2回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向させて配置した共通の第1回転中心軸を有する相対回転可能な第1及び第2の回転要素と、
前記第1回転中心軸と平行な第2回転中心軸を有し、該第1回転中心軸を中心にして放射状に複数配置して前記第1及び第2の回転要素に挟持させた転動部材と、
前記第1回転要素と前記各転動部材との夫々の接触点及び前記第2回転要素と前記各転動部材との夫々の接触点を当該各転動部材の傾転動作によって変えることで当該各回転要素の間の回転比を変化させる変速制御部と、
前記各転動部材を外周面上に配置し、前記第1回転中心軸上で前記第1及び第2の回転要素に対する相対回転が可能な第3回転要素と、
前記第2回転中心軸を有し、前記転動部材から両端を突出させた当該転動部材の支持軸と、
前記支持軸の一方の端部を傾転時に自身の径方向へと案内するガイド溝が形成された第1円盤部、前記支持軸の他方の端部を傾転時に自身の径方向へと案内するガイド溝が形成された第2円盤部及び当該第1円盤部と第2円盤部とを連結する連結部材を有し、前記第1回転中心軸上で前記第1から第3の回転要素に対する相対回転が可能な第4回転要素と、
を備えた無段変速機において、
夫々の前記ガイド溝は、前記第1円盤部及び前記第2円盤部の外周面に開口させ、且つ、前記転動部材のスピンモーメントにより前記支持軸が当接する壁面の前記開口の近くの端部について溝幅を当該開口の近くの端部以外の溝幅よりも拡幅させる形状とすることを特徴とした無段変速機。
【請求項2】
夫々の前記ガイド溝における前記壁面の前記開口の近くの端部は、溝幅を拡幅させる傾斜面とすることを特徴とした請求項1記載の無段変速機。
【請求項3】
前記ガイド溝の傾斜面の傾斜角は、該傾斜面上の前記転動部材に働く全ての力による当該転動部材の傾転平面に沿ったモーメントと比較して、そのモーメントとは逆向きで且つそれ以上の大きさのモーメントを発生させる角度とすることを特徴とした請求項2記載の無段変速機。
【請求項4】
夫々の前記ガイド溝における前記壁面の前記開口の近くの端部よりも径方向内側は、前記転動部材の傾転平面上に前記第2回転中心軸が配置された状態で前記支持軸を当接させる形状とすることを特徴とした請求項1,2又は3に記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−122568(P2012−122568A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274987(P2010−274987)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】