説明

無溶接接合杭の高止り防止方法及び冶具

【課題】 杭外周から外方に突出した無溶接接合部を有する杭を地中に沈設する場合に、無溶接接合部に作用する沈設抵抗によって杭が高止まりすることがある。
【解決手段】 上杭20aと下杭20bとを結合する内リング30、外リング40からなる無溶接接合部50の下方に、土圧を外方に拡散させる抑制部材(治具)10を装着し、無溶接接合部に生ずる沈設抵抗を減殺しながら杭を沈下させる。抑制部材(治具)10は杭の外周に外嵌するリング状の治具で矢印61で示すように土圧を外方に拡散させ杭の沈設抵抗を増大させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無溶接接合杭の高止り防止方法及び冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の杭の継手構造は、溶接接合であった。このような溶接接合は、溶接技術者を必要とし、その作業は天候に支配され、また溶接強度は作業者の技能によるところが多く信頼性に欠ける点がある、また、溶接時間の割合も大変大きい。
【0003】
これを解決するために、杭の無溶接継手構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この技術は、杭の突き合わせ端部の近傍の外径に環状溝を設け、この溝に2つ割りの内リングを係合させ、その外径に円筒テーパで内リングを締めつける外リングを外嵌したものである。この継手構造は、外径300〜1200mmの杭に適用することができ、組立が簡単で現場溶接を必要とせず、また継手の寸法や精度を規格化して一定品質のものを容易に製造することができる等の利点を有する。
【0005】
しかし、このような杭の無溶接継手構造は多くの利点を有するが、一方、外リングが、杭の外径より大きい外径を有し、杭の外方に突出しているので、プレボーリング工法又は中掘り工法によって杭を地中に埋設又は沈設させるときに沈設抵抗を発生させ、杭の沈設途中で所望深さまでの沈設が妨げられ、杭の高止まりを生ずる問題がある。
【特許文献1】実開平3−83224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、無溶接継手構造を有する杭は、沈設工程中に沈設抵抗が増大し、高止まりを生ずる問題があった。高止まりした杭は廃棄することとなり、その近くに別の杭打ちを行う必要があり、多大な損失となる。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決した無溶接接合部を有する杭の高止り防止方法及びその冶具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、次の技術手段を講じたことを特徴とする。すなわち、本発明は、杭外周から外方に突出した無溶接接合部を有する杭を地中に沈設するに当り、前記無溶接接合部の下方に、土圧を外方に拡散させる抑制部材を装着し、前記無溶接接合部に生ずる沈設抵抗を減殺しながら杭を沈下させることを特徴とする無溶接接合杭の高止り防止方法である。
【0009】
上記本発明方法を好適に実施することができる本発明の冶具(土圧を外方に拡散させる抑制部材)は杭外周に外嵌し、外周は上方が大径の斜面を備え、最大外径が杭の無溶接接合部の最大径と同等か又はより大きい寸法を有する冶具であって、杭外周に固定する固定手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
この場合、前記冶具の材質は問わないが、金属又はゴムとすれば、強度が大きく製作が容易で取付も簡単となるので好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、杭外周から外方に突出した無溶接接合部を有する杭を地中に沈設する場合に、従来しばしば生じていた杭の高止まりの問題を解消することができ、杭施工工程や経済性の面で無駄を省くことができ、寄与するところが大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明が対象としている杭の無溶接接合部の構造は、外リングの直径が杭の外径より大きいものである。このため、杭を地中に沈下させるときに外リングが、掘削孔壁と接触することによる抵抗及び孔壁の削落等による土圧によって、杭の沈設抵抗が生ずる。本発明はこの土圧による杭の沈設抵抗を減殺し杭の高止まりを防止するものである。
【0013】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
まず、従来の問題点について図4を参照して説明する。
【0015】
図4は杭の沈設工程において生ずる無溶接接合部における沈設抵抗を説明する模式図であって、右半分は中掘り工法、左半分はプレボーリング工法を示す杭の断面図である。但し、杭内オーガドリル80は左半分にも描いてあるが、これは中掘り工法用のものであって、プレボーリング工法では用いない。
【0016】
図4に示すように、上杭20aの端板21aと下杭20bの端板21bとを、円周方向複数分割した内リング30を外嵌して一体化させ、内リング30の外径にテーパリングである外リング40を外嵌し、これを杭軸方向にシフトし、テーパによって内リング30を締付け固定し、無溶接接合部50が形成されている。この無溶接接合部50では外リング40の外径が杭20a,20bの外径より大きい。
【0017】
図4の右半分に示す中掘り工法では、オーガドリル80によって杭底の地層を掘削しながら矢印51で示すように杭を地中に進入させる。このとき、杭外周の土砂が外リング40の周囲に圧密固着して杭外周に強固な土塊70を形成する。従って、杭の沈設抵抗が増大する。この沈設抵抗によって、オーガドリル80を用いる杭の円滑な沈設が阻害され、沈設不能に至ることがある。所望深さまで沈設できなかった杭は高止りし、廃棄せざるを得ず、近接部に別の杭を沈設施工しなければならない。
【0018】
図4の左半分に示すプレボーリング工法では、先ず杭外径より大きい掘削孔壁72を有する孔をボーリングにより地中に掘削し、その孔内に泥水73等を充満させて掘削孔壁72の崩落を防止し、杭20a,20bを無溶接接合部により結合して矢印52で示すようにこの掘削孔中に挿入沈下させる。このとき、掘削孔壁72の一部が崩落74を生ずると、矢印75で示すように、この崩落土砂(特に礫など)が、孔壁と無溶接接合部との間に土塊76を形成し、杭の円滑な沈下を妨げ、杭の高止りを生ずる。
【0019】
図1はこのような従来技術を改善した本発明の実施例を示すもので、無溶接接合部を有する杭に高止り防止冶具10を取付けた図で、杭沈設時の杭周土圧の作用を説明する杭の部分断面図である。
【0020】
上杭20aと下杭20bは、無溶接接合部50によって接合されている。無溶接接合部50は、上杭20aの端板21aと下杭20bの端板21bとを抱えるように取付けられた円周複数分割の内リング30と、これに外嵌する外リング40とを備えている。内リング30の外径面は円錐テーパ状になっており、外リング40はこのテーパに外嵌する円錐テーパ状の内径を有している。外リング40を杭軸方向にシフトするとテーパの作用によって分割されている内リング30が締めつけられる。内リング30は上杭20aの端板21aと下杭20bの端板21bとを抱き込み、上杭20aと下杭20bとを強固に連結する。
【0021】
この無溶接接合部50の下側に下杭20bに外嵌するリング状の冶具10が取付けられている。冶具10は、オーガドリル80により杭底の地盤を掘削しながら杭を地中に沈下させるとき、杭外周の土砂60を矢印61で示すように誘導し、土圧を外方に拡散させる抑制部材である。
【0022】
図2は冶具10の一実施例の側面図、図3はその平面図を示している。図2には図3のA−A矢視断面を示してある。この治具10は、例えば図2,図3に示すように、リング状をなし、その内径面14は杭の外径に外嵌し、外径面13は外リング40の外径と等しいか又はこれより大きい。底面12と外径面13との間に上方に向って拡大する傾斜面11を外面に有する。この傾斜面11は土圧を外方に拡散させる傾斜面であって、例えば円錐面又は円錐面に近似するテーパ曲面をなしている。
【0023】
治具10の上面15は、杭に装着したとき、内リング30の下端に当接する。傾斜面11は鉛直面に対して角度θをなす円錐面又は曲面であって、角度θは土砂の内部摩擦角と同等程度がよく30°〜40°とすればよい。
【0024】
治具10を杭外周に固定する固定部材16は、例えばねじボルト等を用いるとよい。図3では2個の固定部材16を示しているが、治具10の規模等に応じ適切な個数を用いるとよい。
【0025】
次に、無溶接接合部を有する杭に本発明の手段を適用した、高止り防止方法の実施例について説明する。
【0026】
実施例に用いた使用杭は、次の通りである。
【0027】
(1)杭種:PHCパイルA,B,C種
(2)規格:杭径φ700mm,肉厚t=100mm
杭径φ800mm,肉厚t=110mm
(3)杭材リスト:杭径、杭長及び杭本数は次の通りである。
【0028】
杭径φ700mm:杭種C+A+A+A、杭長43m(9+11+11+12)、8本
杭径φ800mm:杭種B+A+A+A、杭長43m(9+11+11+12)、5本
杭径φ800mm:杭種B+A+A+A、杭長41m(9+10+10+12)、20本
杭は中掘り拡大根固め工法によって施工した。中掘り工法では、杭の先端形状を、開放形とし、下杭先端部外周面に周面摩擦力をカットするフリクションカッタを取付けて杭を沈設した。フリクションカッタは、杭径φ700mmの杭では厚みt=12mm,高さH=200mmとし、杭径φ800mmの杭では厚みt=24mm,高さH=200mmとした。
【0029】
杭の設計支持力は長期許容支持力として、杭径φ700mmの杭では1,900kN/本とし、杭径φ800mmの杭では2,400kN/本とした。
【0030】
中、上杭を図1に示すように、無溶接接合工法で接続した後、杭打ち機の反力と圧縮空気によってリフトアップされた土砂を杭の中空部より排出し、杭を所定深度まで沈設した。無溶接接合工法を用いて接合した杭は、外リングの外径が杭外周より大きくなるため、長尺杭の場合、砂礫土および硬質粘性土中を沈設する時に、無溶接接合金具の周囲に土砂が堆積し、圧密土となり杭の沈設途中で沈設が不能となる。よって、所定深度まで到達できず、高止り状況が発生する。
【0031】
実施例では、無溶接接合金具に土砂が堆積しないように、図2,3に示すような外周にテーパ形状を有するリング状の冶具10をすべての無溶接接合金具の下側に取り付けて杭の沈設を行った。これにより無溶接接合部に土砂が堆積、固化するのを排除し、杭の高止り発生を最小限に抑えることができた。上記リング状の冶具10としては、ゴム輪と鋼製バンドの2種類を用いた。実施例の冶具10は、例えば800mmφの杭に対して、外径852mmφ、リング軸方向厚38mm、内径802mmφ(鋼製)、795mmφ(ゴム輪)とし、テーパは頂角74°の円錐台形とした。ゴムは硬度65の硬質ゴムを用いた。
【0032】
実施例を適用した地層の支持層は玉石混り砂礫層で、地下44m以深に泥岩層があり、その泥岩層に杭下端を2.0m以上貫入させた。又、泥岩層上部には玉石(100mm〜200mm)が多数存在した。
【0033】
表1は本発明の治具を装着しない従来例の杭の状況を示すもので、表2は本発明の実施例の施工状況を示すものである。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
比較例では高止りが発生した杭は約50%であったが、冶具10を取り付けた本発明の実施例では中杭及び上杭で沈設が容易で、高止り発生率は約20%となり、著しく改善された。
【0037】
杭沈設時の状況を観察すると、実施例では杭外周から空気の漏れも無く、又杭打機のオペレータは無理な反力をかけずに沈設することができた。本発明の冶具10を取付けた実施例では、杭中空部での土砂排出効果が増大したことが明らかであった。
【0038】
上記実施例ではすべての無溶接接合部の下側に治具10を装着したが、地層の状況等によってはすべての無溶接接合部の下側に冶具を装着する必要はなく、実情に応じて杭の下端側の無溶接接合部に装着して対応すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例の無溶接接合部を有する杭に高止り防止冶具を取付けた図で、杭沈設時の杭周土圧の作用を説明する杭の部分断面図である。
【図2】高止り防止冶具の一実施例の側面図である。
【図3】高止り防止冶具の一実施例の平面図である。
【図4】従来の杭沈設時の杭周土圧の作用を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10 治具(土圧を拡散させる抑制部材)
11 傾斜面
12 底面
13 外径面
14 内径面
15 上面
16 固定部材
20a,20b 杭
21a,21b 端板
30 内リング
40 外リング
50 無溶接接合部
51,52 矢印
60 土砂
70 土塊
71 空隙部
72 掘削孔壁
73 泥水
74 孔壁崩落
75 矢印
76 土塊
80 オーガドリル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭外周から外方に突出した無溶接接合部を有する杭を地中に沈設するに当り、前記無溶接接合部の下方に、土圧を外方に拡散させる抑制部材を装着し、前記無溶接接合部に生ずる沈設抵抗を減殺しながら杭を沈下させることを特徴とする無溶接接合杭の高止り防止方法。
【請求項2】
杭外周に外嵌し、外周は上方が大径の斜面を備え、最大外径が杭の無溶接接合部の最大径と同等又はより大きい寸法を有し、杭外周に固定する固定手段を備えたことを特徴とする無溶接接合杭の高止り防止冶具。
【請求項3】
前記冶具の材質が金属又はゴムであることを特徴とする請求項2記載の無溶接接合杭の高止り防止冶具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−69597(P2008−69597A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251046(P2006−251046)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(591197699)日本高圧コンクリート株式会社 (20)
【出願人】(591082362)シントク工業株式会社 (14)
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【出願人】(505408686)ジャパンパイル株式会社 (67)
【Fターム(参考)】