説明

無端ベルトの製造方法

【課題】遠心成形法により、無端ベルトを製造する際に、塗布型から塗布膜を容易に剥離できるようにする。
【解決手段】塗布型1の内周面に、凹部4を形成する。凹部4は、塗布型1の内周面に形成される塗布膜2の軸方向端部に対応する位置に形成される。凹部4に、塗布膜2を乾燥固化させるときの乾燥温度より高い気化温度で気化する充填部材3が充填される。遠心成形法により、塗布型1に塗布膜2を形成する。塗布型1を加熱して、塗布膜2を乾燥固化し、さらに気化温度以上に加熱する。充填部材3が気化して、凹部3から消失する。塗布膜2の端部と塗布型1の内周面との間に隙間ができる。この隙間を利用して、塗布膜2を塗布型1から剥がす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心成形法を用いた無端ベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置の感光体ベルトや中間転写体ベルトなどの無端ベルトの製造方法として、遠心成形法が広く用いられてきた。この製造方法では、無端ベルトを形成するための基剤をスプレーなどの注入手段によって筒状の塗布型の内周面に注入し、回転する塗布型の遠心力によって無端ベルト形成用の塗布膜を塗布型の内周面に成型する。
【0003】
この遠心成形法を用いて形成した塗布膜を無端ベルトとするためには、塗布膜を加熱等により乾燥固化させてから、塗布型から塗布膜を剥離する必要がある。ところが、上記遠心成形法においては、遠心力により塗布型の内周面に膜を広げていくという成形法ゆえに、塗布膜の端部が薄くだれてしまうので、乾燥固化後に塗布型から塗布膜を剥離することが困難であるという問題があった。
【0004】
そこで、上記の問題を解決する方法の一つとして、例えば特許文献1には、堰止め部材を所定の気化温度以上で気化する物質で形成し、塗布膜を乾燥固化させてから該物質を気化させ、堰止め部材を消失させることが記載されている。堰止め部材の消失により、塗布型に付着している塗布膜の端部が露出する。この端部に塗布型から剥がすような力が作用され、塗布型に付着している塗布膜が塗布型から剥離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−334855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、堰止め部材塗布膜を剥離可能な程度にまで固化させた後、塗布膜を剥離しようとすると、塗布膜の端面は露出するが、塗布膜の端部は塗布型に密着しているので、作業者が塗布膜を剥離するためのスタートポイントとなる隙間がなく、塗布膜を剥離しにくい。そのため、塗布膜の端部に空気圧をかけて剥離しており、エアーコンプレッサ等の機器を使用しなければならず、作業が煩雑になる。
【0007】
また、1枚の塗布膜を成形するたびに、マスク等を使用して堰止め部材を設ける必要がある。堰止め部材を形成するための製膜工程が増えるといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑み、塗布膜を塗布型から容易に剥離できるようにした無端ベルトの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筒状の塗布型の内側に塗布液を注入し、塗布型を回転させて、その遠心力により均一な塗布膜を形成し、塗布膜を乾燥固化させて無端ベルトを製造する無端ベルトの製造方法において、塗布型の内周面に、凹部を形成して、凹部に所定温度以上で消失する充填部材を充填して、充填部材の上に塗布膜を形成するものである。
【0010】
遠心成形法により塗布膜を形成するときには、凹部に充填部材が充填されているので、塗布型の内周面に凹凸はない。塗布膜の形成後、塗布型を加熱することにより、充填部材が気化、流失などによって凹部から消失する。塗布膜の端部の下に凹部が現れ、塗布膜と塗布型の内周面との間に隙間ができる。塗布膜の端部は塗布型の内周面から離れた状態となり、塗布膜を剥がしやすくなる。
【0011】
すなわち、凹部は塗布膜の軸方向端部に合わせて形成され、凹部に充填された充填部材の上に塗布膜の軸方向端部がくるように、塗布膜を形成し、充填部材を消失させて、塗布膜の端部と塗布型との間に隙間を形成し、この隙間を利用して塗布型から塗布膜を剥がす。
【0012】
充填部材は、塗布膜を乾燥固化させるための乾燥温度よりも高い気化温度で気化するものとする。そして、塗布膜を乾燥固化するために塗布型を加熱した後、充填部材の気化温度以上の温度で塗布型を加熱して、充填部材を気化させる。
【0013】
塗布膜が固化するまで、充填部材が気化して消失することはない。そのため、固化する前に、塗布液は充填部材により堰止められ、塗布膜が凹部に入り込むことを防げる。したがって、塗布膜の端部がだれた形状になることを防止できる。
【0014】
塗布膜は乾燥温度および気化温度よりも高い硬化温度で硬化するものであって、塗布型を硬化温度以上に加熱して、塗布膜の硬化と充填部材の気化を同時に行う。塗布膜の乾燥固化と充填部材の気化とを別々に行う場合に比べて、硬化と気化が同時に進行するので、加熱する時間を短縮できる。
【0015】
充填部材を凹部に塗布あるいは蒸着により充填し、充填部材を塗布型の内周面と面一にする。充填部材の上に塗布膜を形成しても、塗布膜の表面は面一となり、平坦な表面が得られる。
【0016】
充填部材が、塗布液に対して非相溶性である。充填部材が塗布された塗布液と混じり合うことがない。
【0017】
凹部が、塗布型の内周面の円周方向に沿って形成された溝である。溝は、円周方向の全周にわたって形成される。塗布膜の端部の全周が露出するので、端部を傷付けずに剥がすことができる。
【0018】
凹部が、塗布型の内周面の円周方向の一部に形成された窪みである。この場合、塗布型に凹部を形成する作業を少なくできるとともに、使用する充填部材が少なくてすむ。
【0019】
凹部の断面形状が矩形とされる。塗布膜を剥がすためのヘラ等の治具が凹部に入れられ、塗布膜の剥離が行われる。そして、断面が矩形状であると、軸方向の幅を長くしておくことにより、凹部に応じて塗布膜の端部の位置を任意に設定でき、幅の異なる無端ベルトを製造する際、1つの塗布型で対応できる。
【0020】
凹部は、軸方向の端部から中央に向かって浅くなる。あるいは、凹部の断面形状が円弧状とされる。ヘラ等の治具を用いるとき、凹部に挿入した治具が凹部に沿ってスムーズに移動し、塗布膜と塗布型の内周面との境界にガイドすることができ、剥離作業がしやすくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、塗布型に遠心成形法により形成した塗布膜を加熱して乾燥固化すると、凹部に充填されていた充填部材が消失して、塗布膜の端部と塗布型との間に隙間を形成できる。この隙間を利用して、塗布膜の端部に無理な力をかけることなく、塗布型から剥がすことができる。したがって、塗布膜の端部を傷付けることはなく、良好な形態の無端ベルトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の無端ベルトの製造に用いる塗布型の断面図
【図2】塗布型に形成された凹部を示す図
【図3】他の形態の凹部を示す図
【図4】塗布膜を形成するためのスプレー塗布の説明図
【図5】塗布膜を形成して、充填部材を消失させた後の塗布型の断面図
【図6】塗布膜を固化させるときの工程毎の温度変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態に係る無端ベルトの製造方法では、遠心成形法を利用する。すなわち、回転する塗布型の内面にスプレー塗布などで塗布液を流し込んで、塗布型を高速回転させながらその遠心力で塗布液を軸方向に拡げて均一の膜を形成し、その均一な塗布膜を乾燥固化した後、塗布膜を剥離して取り出して、感光体ベルトや中間転写体ベルトなどの無端ベルトを製造するものである。
【0024】
図1に本製造方法において使用される塗布型1を示す。塗布型1は、例えばステンレス鋼等の金属製の円筒とされる。塗布型1は、ローラの上に載置されて、ローラの回転駆動により、図中一点鎖線で示される回転軸線を中心にして回転する。図中、2は、塗布型1の内周面に形成された塗布膜である。
【0025】
また、塗布型1からの塗布膜2の剥離を効果的に行うために、フッ素樹脂系、シリコン樹脂系等の離型剤を予め塗布型1の内周面に塗布しておくことが好ましい。塗布膜2をスムーズに剥がすことができる。
【0026】
本製造方法においては、塗布膜2を剥離しやすくするために、塗布型1の内周面に、充填部材3が充填された凹部4が形成される。充填部材3は、加熱によって消失する。凹部4が充填部材3により埋められているとき、塗布型1の内周面に凹凸はなく、内周面は滑らかである。充填部材3が消失すると、塗布型1の内周面には凹みができる。
【0027】
塗布型1に形成される塗布膜2の軸方向端部は、塗布型1の軸方向端部よりも内側に位置する。凹部4は、塗布膜2の軸方向の両側の端部に対応するように設けられる。なお、凹部4は、少なくとも軸方向のいずれか一側に形成されていればよい。
【0028】
凹部4は、塗布型1の内周面に形成された溝である。凹部4は、塗布型1の製作時に、切削加工あるいはエッチング等により円周方向に沿って形成される。そして、凹部4は、ヘラ等の剥離治具の先端を挿入できる断面形状を有する。例えば、図2に示すような幅10mm〜30mm、深さ1mm〜5mmの矩形状の断面形状に形成される。
【0029】
なお、凹部4の断面形状は、矩形に限るものではなく、図3(a)〜(c)に示すように、断面形状が軸方向の端部から中央に向かって浅くなるように、凹部4を形成してもよい。凹部4の断面形状として、例えば、(a)に示すような階段状、(b)に示すような傾斜状、(c)に示すような円弧状とされる。また、凹部4は、塗布型1の内周面の全周にわたる溝として形成してもよく、円周方向の一部に窪みとして形成してもよい。なお、窪みは、1つだけでなく、複数であってもよい。
【0030】
充填部材3は、所定温度以上で消失する物質とされる。すなわち、充填部材3は、所定の気化温度以上で気化する物質とされる。充填部材3としては、所定の昇華温度以上で昇華する物質を用いる。具体的には、昇華開始温度が109℃であるαナフトキノン、昇華開始温度が110℃であるテレソフタル酸ジメチル、昇華開始温度が121℃であるアントラセン、昇華開始温度が124℃であるNMA、昇華開始温度が130℃であるイソフタル酸ジフェニール、昇華開始温度が180℃であるTCNQ(日東化学製)、昇華開始温度が250℃であるテレフタル酸、昇華開始温度が276℃であるペリレンなどが用いられる。
【0031】
また、充填部材3は、塗布膜2を構成する塗布液に対して非相溶性であることが望ましい。これにより、充填部材3が塗布膜2と混じり合うことがなく、塗布膜2の膜質を変化させることはない。このような充填部材3としては、上述のαナフトキノン、テレソフタル酸ジメチル、アントラセン、NMA、イソフタル酸ジフェニール、TCNQ(日東化学製)、テレフタル酸、ペリレンなどが用いられる。
【0032】
充填部材3の充填方法としては、充填部材3となる物質を液体に溶解あるいは分散させた溶液を凹部4に塗布して、充填部材3を充填する。あるいは、充填部材3となる物質を蒸着により、凹部に付着させて、充填部材を充填する。そして、充填部材3の表面は、塗布型1の内周面と面一とされる。また、充填部材3はマスク等を使用することなく充填されるため、作業が煩雑になることはない。
【0033】
次に、所定の工程にしたがって、凹部4に充填部材3が充填された塗布型1の内周面に、遠心成形法により塗布膜2が形成される。所定の工程として、塗布工程、予備乾燥工程、焼成工程、離型工程が実行される。
【0034】
具体的には、塗布型1が複数のローラによって水平に保持される。塗布工程において、図4に示すように、塗布型1の内周面に、無端ベルトを形成するための基剤である塗布液がスプレー5などの注入手段によって注入される。塗布液は、充填部材3の表面上にかかるように塗布される。そして、塗布型1は、回転軸線を中心に高速回転される。遠心力が発生して、塗布液が塗布型1の内周面に均一に拡がり、塗布膜2が形成される。
【0035】
ここで、塗布液として、無端ベルトの基本素材を有機溶媒に溶解させた溶液を用いる。無端ベルトの基本素材としては、例えば、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリパラバン酸、フッ素系樹脂、ポリエーテルイミド、熱硬化性不飽和ポリエステル、エポキシ系熱硬化性樹脂などが使用される。
【0036】
また、有機溶媒は、例えば一般的に使用されるものとしては、N−メチル−2ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホシキド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ピリジン、ジメチルスルホン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジオキサン、トルエン等がある。
【0037】
さらに、無端ベルトに導電性ないし半導電性を付与する必要がある場合には、基本素材に導電性物質が混練される。導電性物質としては、金属や合金からなる針状,球状,板状,不定形等の粉末、アセチレンブラック,ケッチェンブラック,ファーネスブラック等のカーボン粉末、天然黒鉛,人造黒鉛,膨張黒鉛等の黒鉛粉末、セラミックス粉末、表面が金属メッキされた各種粒子等が用いられる。
【0038】
また、有機溶媒中の基本素材や導電性物質の濃度は特に限定されるものではない。但し、優れた表面性や厚み精度、電気特性を得るためには、基本素材や導電性物質の濃度調整により、塗布液の粘度を調整することが望ましい。さらに、塗布液中に、必要に応じて分散剤等を追加して加えてもよい。
【0039】
塗布膜2の形成において、塗布型1の回転終了後における塗布膜2の変形を回避しなければならない。そこで、塗布液の溶媒成分をある程度蒸発させて、塗布膜2が乾燥固化するまで、塗布型1の回転を継続する。塗布後の予備乾燥工程において、均一な塗布膜2を形成した後に、塗布型1の回転を継続しながら所定の乾燥温度で加熱を行い、塗布膜2を乾燥固化する。
【0040】
これにより、塗布液が溶媒成分で希釈されて、流動性が比較的高くなっている状態のときに遠心力を与えることができる。その後、加熱によって溶媒成分の蒸発が促進され、塗布液の流動性が徐々に低下して、膜厚を均一な状態に保ちつつ塗布膜2が乾燥固化される。したがって、均一な塗布膜をより高速に形成することができる。
【0041】
なお、これとは異なり、塗布型1を加熱した状態で塗布型1の回転を開始するようにしてもよい。この場合、均一な塗布膜2が形成されるよりも前に、塗布液に含まれる溶媒成分が蒸発して、塗布液が流動性を失ってしまう。このような事態を避けるために、塗布型1を加熱する温度を、溶媒成分が蒸発する温度よりも低くなるように適切に設定すればよい。ここでの乾燥固化は、いわゆる指触乾燥、すなわち軽く触れたときに粘着性を感じる段階となる程度である。
【0042】
このようにして乾燥された塗布膜2には、まだ溶媒成分が残存しているが、この溶媒成分は焼成工程において除去される。焼成工程では、塗布膜2を硬化する。具体的には、塗布膜2が付着している塗布型1を硬化用の炉に移して、まず塗布膜2中の溶媒成分の完全除去と塗布膜2中の基本素材の高温乾燥を行い、塗布膜2を完全に硬化する。
【0043】
充填部材3による効果を良好に発揮させるためには、塗布膜2が流動しない程度に塗布膜2が固化してから、充填部材3の気化が開始すればよい。例えば、塗布膜2の乾燥固化のための加熱の際に、気化物質が気化しないように、気化温度が塗布膜2の乾燥固化のための乾燥温度よりも高い充填部材3を採用する。
【0044】
そして、塗布膜2の乾燥固化の後に、充填部材3が気化するように、気化温度以上の温度で塗布型1の加熱を行うようにする。あるいは、塗布型1を加熱せずに自然乾燥によって塗布膜2を乾燥固化させてから、気化物質が気化するように、塗布型1の加熱を行ってもよい。塗布膜2が乾燥固化した後、気化温度以上の温度で充填部材3を加熱することにより、充填部材3を消失させることができる。
【0045】
図5に示すように、充填部材3が消失することにより、凹部4が現れ、塗布膜2の端部と塗布型1の内周面との間に隙間が形成される。塗布膜2は固化しているので、凹部4内に垂れ下がることはない。この隙間を利用して、塗布型1に付着している塗布膜2の端部を剥がす方向に力を作用させ、塗布膜2の端部から中央側に向けて、塗布膜2を剥がしていく。
【0046】
このとき、凹部4があるので、塗布膜2の端部は浮いた状態となり、端部を容易に保持することができ、引き剥がしやすい。したがって、簡単な作業で塗布膜2を塗布型1から容易に剥離することができる。塗布型1から外された塗布膜2は種々のベルト装置における無端ベルトとして用いられる。
【0047】
なお、充填部材3を気化させるための加熱を塗布膜2の硬化温度以上の温度で行うようにしてもよい。例えば、充填部材3として、塗布膜2を硬化させるために加熱する際の最高温度よりも気化温度が低い物質を用いればよい。塗布膜2が硬化するのと同時に充填部材3が徐々に気化して消失する。これにより、硬化と気化とを別々に行う場合に比べて、焼成工程を簡素化することができ、作業時間の短縮を図れる。
【0048】
以下に、具体的な実施例として、画像処理装置の中間転写体ベルトの製造方法について、図6にしたがって説明する。
【0049】
(塗布型の作製)
内径390mm、長さ500mm、厚さ10mmの円筒形のステンレス鋼製の塗布型1の内周面の塗布膜形成領域の軸方向端部近傍に、図3(c)に示すような幅20mm、最大深さ3mmの円弧状の断面形状を有する凹部4を円周方向全周に設ける。塗布膜形成領域を鏡面仕上げした後、シリコン樹脂系の離型剤を塗布する。
【0050】
次に、気化物質であるテレフタル酸(昇華開始温度250℃)を凹部4に塗布し、樹脂製のヘラで塗布型1の内周面と均一になるように充填部材3を充填する。
【0051】
(塗布液の作製)
ポリアミドイミド樹脂を有機溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で希釈し、所望の導電性を付与するための導電性物質としてカーボンブラックを加えた後、混合機で混合し、塗布液を作製する。
【0052】
(中間転写体ベルトの作製)
予熱工程において、充填部材3を詰めた塗布型1を室温から加熱する。塗布工程において、塗布型1を表面温度50℃、回転速度80rpmで回転させながら、中間転写体ベルトとしての塗布膜2を形成するための塗布液を図4に示すようにスプレー塗布方式で均一に塗布する。このとき、塗布膜2の端部が凹部4の中央付近になるようにスプレーのストロークSが設定される。
【0053】
予備乾燥工程において、塗布型1の表面温度が乾燥温度である170℃に達するまで加熱して予備乾燥する。その後、塗布型1の回転を止めて、塗布型1を回転用のローラから取り出し、高温炉に投入する。焼成工程において、まず220℃まで昇温して、有機溶剤であるNMPを除去する。この時点では、気化物質であるテレフタル酸は昇華していないと考えられる。
【0054】
さらに硬化温度である270℃まで加熱して、60分程保持し、ポリアミドイミド樹脂を完全に硬化する。270℃は充填部材の気化温度よりも高いので、270℃に達するまでの間に、テレフタル酸は昇華して消失すると考えられる。充填部材3が消失することにより、塗布膜2の端部と塗布型1の内周面との間に隙間が形成される。
【0055】
塗布膜2を充分硬化した後、冷却工程において、塗布型1を空冷し、さらに室温まで冷却する間の離型工程において、隙間に樹脂製のヘラを挿入して、ヘラを塗布型1の内周面に沿って押し進めることにより、塗布膜2を塗布型1から剥離する。塗布膜2の端部に対して無理な力をかけずにすみ、塗布膜2をスムーズに剥離することができる。最後に、塗布型1の内周面を清掃し、次回の製造に備える。このようにして、膜厚70〜90μmの良好な中間転写体ベルトを得ることができた。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正および変更を加え得ることは勿論である。充填部材として、凹部に充填されたときは固体であり、加熱により溶けて流れ出す物質を用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 塗布型
2 塗布膜
3 充填部材
4 凹部
5 スプレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の塗布型の内側に塗布液を注入し、塗布型を回転させて、その遠心力により均一な塗布膜を形成し、塗布膜を乾燥固化させて無端ベルトを製造する無端ベルトの製造方法において、塗布型の内周面に、凹部を形成して、凹部に所定温度以上で消失する充填部材を充填して、充填部材の上に塗布膜を形成することを特徴とする無端ベルトの製造方法。
【請求項2】
凹部が塗布膜の軸方向端部に合わせて形成され、凹部に充填された充填部材の上に塗布膜の軸方向端部がくるように、塗布膜を形成し、充填部材を消失させて、塗布膜の端部と塗布型との間に隙間を形成し、この隙間を利用して塗布型から塗布膜を剥がすことを特徴とする請求項1記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項3】
充填部材は、塗布膜を乾燥固化させるための乾燥温度よりも高い気化温度で気化することを特徴とする請求項1または2記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項4】
塗布膜を乾燥固化するために塗布型を加熱した後、充填部材の気化温度以上の温度で塗布型を加熱して、充填部材を気化させることを特徴とする請求項3記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項5】
塗布膜は乾燥温度および気化温度よりも高い硬化温度で硬化するものであって、塗布型を硬化温度以上に加熱して、塗布膜の硬化と充填部材の気化を同時に行うことを特徴とする請求項3または4記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項6】
充填部材を凹部に塗布あるいは蒸着により充填し、充填部材を塗布型の内周面と面一にすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項7】
充填部材が、塗布液に対して非相溶性であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項8】
凹部が、塗布型の内周面の円周方向に沿って形成された溝であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項9】
凹部が、塗布型の内周面の円周方向の一部に形成された窪みであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項10】
凹部の断面形状が矩形とされたことを特徴とする請求項8または9記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項11】
凹部は、軸方向の端部から中央に向かって浅くなることを特徴とする請求項8または9記載の無端ベルトの製造方法。
【請求項12】
凹部の断面形状が円弧状とされたことを特徴とする請求項8または9記載の無端ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−25620(P2011−25620A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176025(P2009−176025)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】