説明

無線中継装置、無線中継方法及びプログラム

【課題】 インターネット等の公衆回線への接続環境を改善することが可能な無線中継装置等を提案する。
【解決手段】 無線通信システム1において、WMA7は、いわば、中継機能を有するモバイルルータであり、単に公衆ホットスポット5と直接接続できた場合だけでなく、近隣のWMA7を経由してもインターネット3にアクセスすることもできる。ただし、近隣のWMA7を経由する場合には、上流の接続が切断され、インターネット3に接続できていない状態もありうる。そのため、少なくとも近隣のWMA7を経由する場合には、単に接続できたか否かだけでなく、特定のサイトにアクセスできるかも検出することにより、インターネット3との接続状態を確認して、接続できる状態か否かを判断する。接続できる状態であれば、制御部25は、LAN用無線通信部23をオン状態にして、携帯端末9や近隣のWMA7などと無線通信できる状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線中継装置、無線中継方法及びプログラムに関し、特に、公衆回線と無線装置等との無線中継通信を行う無線中継装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人々は、複数の携帯端末(例えば、携帯型ゲーム機、スマートフォンなど)を持つようになった。これらの端末のほとんどは、Wi-Fi(wireless fidelity)が搭載されている。複数の通信業者が、これらのWi-Fi端末が通信を行うことができる公衆Wi-Fi接続サービスを提供している。これらのサービスは、公衆ホットスポットと呼ばれている。人々は、公衆ホットスポットに接続する際に、各ホットスポット業者が指定する認証手続きを通信の都度踏まねばならず、その作業は煩雑である。また、ユーザが複数の端末を保有する場合には、端末毎に登録が必要であったり、また利用する都度、端末毎に個別に認証手続きを行ったりしなければならなかった。携帯端末は、必ずしもユーザインターフェースに優れる機器ばかりではない。そのため、この作業は、携帯端末では、決して楽な作業ではない。
【0003】
公衆ホットスポット網とWi-Fi携帯端末とのゲートウェイとして機能する無線中継装置(いわゆるモバイルルータ)が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。モバイルルータは、本来、携帯電話網とWi-Fi端末を接続するための携帯型のWi-Fiアクセスポイントとして普及してきたが、公衆ホットスポット網へ接続可能な機種も存在する。モバイルルータ自体が、ユーザのための最も身近なWi-Fiアクセスポイントとして機能するため、ユーザは、所有する携帯端末群から統一された簡易な認証手法で接続できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“ドコモ3G対応「ポータブルWi-Fi」は3万7000円、6月24日発売”、[online]、2010年5月25日、アイティメディア株式会社、インターネット<URL:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1005/25/news064.html>
【非特許文献2】斎藤,外1名、“さらに手軽、便利になった「モバイル無線LANルーター」”、[online]、2010年1月7日、asahi.com(朝日新聞社) デジタルトレンドチェック、インターネット<URL:http://www.asahi.com/digital/digitre/TKY201001060206.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のモバイルルータが機能するためには、公衆ホットスポットにしろ、携帯電話網にしろ、モバイルルータを所有する人に利用権がある外部ネットワークが存在しなければならない。しかし、公衆ホットスポットは、文字通りアクセス可能なエリアがスポット的で狭い。一方、携帯電話網は、エリアは広いが通信速度が低く、かつ高額なアクセス料金が発生する。このように、外部ネットワーク接続性の利便性が低いため、モバイルルータを利用する層は、先端的ビジネスパーソンが中心で、一般の人々への普及度は低かった。
【0006】
そこで、本願発明は、外部ネットワーク接続性を大幅に向上しうる無線中継装置等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、無線中継装置であって、他の無線通信機器と接続できる状態か否かを制御可能なLAN用無線通信部と、他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由せずに、無線通信により公衆回線と接続可能なWAN用無線通信部と、前記LAN用無線通信部の動作を制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記LAN用無線通信部に対して、前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由せずに前記公衆回線と通信できる状態である場合には、他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由しても他の無線中継装置を経由しなくても前記公衆回線と通信できない状態である場合には、他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせるものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の無線中継装置であって、前記WAN用無線通信部は、前記他の無線中継装置が備えるLAN用無線通信部に接続することにより、前記他の無線中継装置を経由して前記公衆回線と通信するものであり、前記制御手段は、前記WAN用無線通信部が、他の無線中継装置を経由せずに前記公衆回線と通信できる状態であることを検出した場合、又は、他の無線中継装置のLAN用無線通信部と接続できる状態にあり、前記公衆回線と通信できる状態であることを検出した場合に、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できる状態であると判断し、前記WAN用無線通信部が、他の無線中継装置を経由せずに前記公衆回線と通信できる状態でない場合であって、他の無線中継装置のLAN用無線通信部とも接続できる状態でもないか、又は、他の無線中継装置のLAN用無線通信部とは接続できる状態であるものの前記公衆回線とは通信できない状態であることを検出したときに、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できない状態であると判断するものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の無線中継装置であって、前記制御手段は、定期的に前記公衆回線と前記WAN用無線通信部との接続状態を検出して切断状態にあるか接続状態にあるかを判断するものであって、前回に切断状態と判断していた場合に、前記公衆回線と前記WAN用無線通信部とが通信できる状態になったか否かを検出する回線選択手段と、前回に接続状態と判断していた場合に、前記公衆回線と前記WAN用無線通信部とが通信できる状態が維持されているか否かを検出する状態確認手段を有し、前記回線選択手段は、通信できる状態になっていない場合には切断状態と判断し、通信できる状態になった場合には接続状態と判断して前記LAN用無線通信部に対して他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、前記状態確認手段は、通信できる状態が維持されている場合には接続状態と判断し、通信できる状態ではなくなった場合には切断状態と判断して前記LAN用無線通信部に対して他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせるものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の無線中継装置であって、前記WAN用無線通信部は、無線基地局に接続するものであり、前記無線基地局の一つとして前記他の無線中継装置に接続することにより当該他の無線中継装置を経由して前記公衆回線と通信するものであり、前記制御手段は、前記LAN用無線通信部に対して、干渉が生じる可能性の低いチャネルを設定して前記他の無線通信機器と接続できる状態にさせるものであり、前記WAN用無線通信部に対して、前記WAN用無線通信部が複数の前記無線基地局に接続可能な場合に、各無線基地局を順番に選択して接続させて、無線基地局として他の無線中継装置を選択したときには、前記公衆回線と通信できる状態であるか否かを検査して前記公衆回線と通信できる状態にあれば、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できる状態にあると判断し、無線基地局として他の無線中継装置以外を選択したときには、前記公衆回線と通信できる状態であるか否かを検査して前記公衆回線と通信できる状態にあれば、又は、前記公衆回線と通信できる状態であるか否かを検査することなく、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できる状態と判断するものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の無線中継装置であって、前記LAN用無線通信部には、少なくとも2つの識別情報が割り振られており、他の無線中継装置が備えるWAN用無線通信部は、特定の識別情報を用いて接続し、WAN用無線通信部以外の無線通信機器は、前記特定の識別情報以外の識別情報を用いて接続するものである。
【0012】
請求項6に係る発明は、無線中継装置が備える制御手段が、LAN用無線通信部に対して、WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由しないで公衆回線と通信できる状態である場合には、他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由しても他の無線中継装置を経由しなくても前記公衆回線と通信できない状態である場合には、他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせる制御ステップを含む無線中継方法である。
【0013】
請求項7に係る発明は、無線通信するか否かを制御可能なLAN用無線通信部と、他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由しないで無線通信により公衆回線と通信可能なWAN用無線通信部とを備える無線中継装置におけるコンピュータを、前記LAN用無線通信部に対して、前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由しないで公衆回線と通信できる状態である場合には、他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由しても他の無線中継装置を経由しなくても前記公衆回線と通信できない状態である場合には、他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせる制御手段として機能させるためのプログラムである。
【0014】
なお、本願発明を、請求項7記載のプログラムを(定常的に)記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本願の各請求項に係る発明(以下、「本願発明」という。)によれば、複数の無線中継装置(例えば、モバイルルータ、コンピュータに接続される周辺ネットワーク機器であってモバイルルータと同等の機能を有する機器など。後者は、例えば、USBドングル型、あるいはカード型の無線インターフェースモジュールなどである。)が、互いに中継接続する機能を有し、中継経路がループ状に連なり外部回線への接続が遮断されてしまう現象を回避して中継経路を構築することにより、無線中継装置における外部ネットワーク接続性を大幅に向上させることができる。このように、本願発明は、無線基地局として、公衆ホットスポットだけでなく、他の無線中継装置も含ませることにより、無線中継装置が、公衆ホットスポットに直接接続した場合(すなわち、「他の無線中継装置を経由せずに」公衆回線と接続する)だけでなく、他の無線中継装置に接続して、公衆回線との通信可能状態が確認できた場合にも、LAN用無線通信部による無線通信(例えば、他の無線中継装置や携帯端末などとの無線通信)を可能にさせるものである。これにより、公衆回線への接続環境を大幅に改善することが可能になる。
【0016】
さらに、無線中継装置が介在することにより、特定の公衆ホットスポットの通信環境は、格段に向上する。すなわち、通信可能エリアについて公衆ホットスポットだけでなく無線中継装置も接続の対象とできるために、拡大する。さらに、各無線中継装置は、遠方に設置されているかもしれない公衆ホットスポットと無理に接続するのではなく、近隣の無線中継装置を介して当該公衆ホットスポットとの通信経路を確保することによって、より安定した通信状態を得ることができる。
【0017】
すなわち、本願発明によれば、無線中継装置同士が協調し合い、広い接続可能エリアを提供することが可能となり、外部ネットワークへの利用権を持たないユーザへ新たな接続の選択肢を提供することが可能となる。
【0018】
特に、本願発明によれば、WAN無線通信部について、単に無線基地局への接続を確認するだけでなく、公衆回線との通信状態をも確認することにより、中継ループを抑制することが可能な経路制御手法を実現することができる。さらに、携帯端末について、無線中継装置が介在することで、認証ポリシーを無線中継装置内に設定することが可能となり、悪意のあるユーザによるただ乗りを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本願発明の実施例にかかる無線通信システムの概略ブロック図である。
【図2】図1のWMA7の状態遷移の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
図1は、本願発明の実施例にかかる無線通信システムの概要を示すブロック図である。無線通信システム1は、インターネット3(本願請求項の「公衆回線」の一例)と、公衆ホットスポット5と、n個のWMA(Wireless Multihop Aggregator)71,…,7n(本願請求項の「無線中継装置」の一例)(以下、添え字は、複数を意味する場合には省略する。)と、携帯端末9(例えば、携帯型ゲーム機、スマートフォン、ノートPCなど)(本願請求項の「無線通信機器」の一例)を備える。本実施例は、特に、各WMA7の動作を説明することにより、各WMA7について、インターネット3への接続ルール(WAN回線接続ルール)を提案する点に特徴がある。
【0022】
公衆ホットスポット5は、LAN用無線通信部11を備える。LAN用無線通信部11は、WMA7及び携帯端末9と無線通信が可能である。いわば、LANにおけるアクセスポイント(LAN AP)として機能する。WMA7及び携帯端末9は、直接又はWMA7を経由して公衆ホットスポット5と接続し、インターネット3にアクセスする。
【0023】
WMA7は、WAN用無線通信部21(本願請求項の「WAN用無線通信部」の一例)と、制御部25(本願請求項の「制御手段」の一例)と、LAN用無線通信部23(本願請求項の「LAN用無線通信部」の一例)を備える。制御部25は、回線選択部27(本願請求項の「回線選択手段」の一例)と、状態確認部29(本願請求項の「状態確認手段」の一例)を備える。なお、LAN用無線通信部11とWAN用無線通信部21は、物理的に異なる無線通信インターフェースを用いる場合と、物理的には1つの無線通信インターフェースをソフトウェア的に切り替えて使う場合とがある。
【0024】
LAN用無線通信部23は、従来のモバイルルータと同様に、携帯端末9との間で無線通信が可能である。そのため、LAN用無線通信部23も、LANにおけるアクセスポイント(LAN AP)として機能する。LAN用無線通信部23は、さらに、他のWMA7のWAN用無線通信部とも無線通信が可能である(この場合の他のWMA7は、本願請求項における「他の無線通信機器」の一例である。)。本実施例では、従来の中継機能のないモバイルルータは、携帯端末9の一例に位置づけることもできる。LAN用無線通信部23は、制御部25のオンオフ制御により、携帯端末9及び他のWMA7との間で無線通信できる状態か否かが制御される。
【0025】
LAN用無線通信部23は、通常ESSIDと呼ばれる識別名(本願請求項のLAN用無線通信部に割り振られる「識別情報」の一例)が割り振られる。携帯端末9が接続するためのESSIDと他のWMA7が中継接続するためのESSIDを異ならせ、後者のESSIDへの接続をWMA7だけに制限することで、無線中継の権限を持たない無線装置からの意図的なアクセスを防止することができる。また、後者のESSIDを非放送とすることで、故意ではない他の無線通信機器が中継接続してしまう問題を回避できる。さらに、ESSID毎に異なるセキュリティルールを適用することもできる。たとえば、携帯端末9に対しては簡易な接続手続きを志向したセキュリティルールを適用し、一方、高い秘匿性が必要な中継回線に対しては厳格なセキュリティルールを適用するなど、利便性を加味した柔軟なネットワーク構成が可能となる。
【0026】
WAN用無線通信部21は、公衆ホットスポット5のLAN用無線通信部11に、直接(すなわち、他のWMA7を経由せずに)又は他のWMA7を経由して接続する。WAN用無線通信部21は、公衆ホットスポット5を無線基地局として接続するだけでなく、他のWMA7をも無線基地局として接続するものである。図1では、WMA71及び72は、直接公衆ホットスポットに接続している。WMA7nは、WMA71を経由して接続している。すなわち、WMA7nは、WMA71のLAN用無線通信部23に無線通信により接続することにより、WMA71と公衆ホットスポット5との接続を用いてインターネット3に接続している状態である。
【0027】
制御部25は、WAN用無線通信部21とインターネット3との通信状態を確認することにより、LAN用無線通信部23のオンオフ制御を行う。すなわち、制御部25は、WAN用無線通信部21がインターネット3との間で通信できる状態である場合には、LAN用無線通信部23をオン状態にして無線アクセスポイントとしての機能を提供する状態にさせる。WAN用無線通信部21がインターネット3との間で通信できない状態である場合には、LAN用無線通信部23をオフ状態にして無線アクセスポイントとして機能しない状態にさせる。制御部25の具体的な動作について、図2を参照して説明する。ここで、LAN用無線通信部23をオフ状態にする手法には、例えば、電源供給を遮断し完全に機能しない状態にする場合、電源供給は行うが一切の接続に関する要求を拒否する場合などがある。
【0028】
図2は、図1のWMA7の状態遷移の一例を示す図である。WMA7が起動すると、制御部25は、WAN用無線通信部21をオン状態として無線通信可能な状態とし、LAN用無線通信部23をオフ状態とする(状態ST1)。WAN用無線通信部21は、単にオン状態となっただけであり、インターネット3との間で通信経路を確立してはいない。そのため、初期状態では、WAN用無線通信部21とインターネット3との間で通信可能な状態が確認されていない状態(以下、「切断状態」という。)である(状態ST2)。
【0029】
切断状態にある場合、回線選択部27は、定期的にインターネット3とWAN用無線通信部21とが通信できる状態になったか否かを検出する(状態ST3)。図2では、一例として5秒毎に検出することとしている。この検出動作について具体的に説明する。
【0030】
表1は、WMA71のWAN用無線通信部21が検出した無線通信可能な無線基地局のESSIDと、各ESSIDに対して事前に付与された接続優先度と、ビーコンのRSSIの一例である。例えば、WAN用無線通信部21は、チャネルスキャン(無線基地局が送信するビーコン等のパケットの受信電力強度測定)を行う。ビーコンのRSSIは、無線基地局との通信環境の安定さを示す一つの指標となる。
【0031】
どのESSIDの無線基地局と接続するかは、接続優先度を優先する場合と、RSSIを優先する場合とがある。接続優先度を優先する場合、表1の例では、接続優先度1が付与されたA社とC社のアクセスポイントが接続すべき候補となる。次に、両社のアクセスポイントから送信されたビーコン信号の受信RSSIレベルより、値の大きいほう、すなわちC社のアクセスポイントが最終的に接続すべきアクセスポイントとして選択される。RSSIを優先する場合、表1の例では、最もRSSI値の高いWMA7nのアクセスポイントが接続すべきアクセスポイントとして選択される。なお、ここでは、より安定した無線基地局を順番に選択して接続する例を示したが、優先順位の決定は、このような方法に限定されるものではない。
【0032】
【表1】

【0033】
本実施例におけるWMA7は、他の近隣のWMA7と中継接続することが可能な無線中継装置である。しかし、近隣のWMA7は、常に接続すべきものであるとは限らない。なぜなら、WMA7の移動や周辺電波環境の変化により、中継接続する先のWMA7がインターネットと接続できる状態に必ずしもあるとは限らないからである。インターネットとの接続が遮断されているWMA7と中継接続してしまうと、インターネットへの接続ができないばかりか、中継経路の巡回(中継ループ)が発生する場合があり、ネットワークの破綻を引き起こしてしまう。
【0034】
従来のモバイルルータでは、単に公衆ホットスポット5のLAN用無線通信部11と接続できたことをもって、インターネット3と接続できた状態と判断することができた。しかし、WMA71は、少なくとも近隣のWMA7と接続可能な状態を検出した場合には、直ちにインターネット3と接続できた状態と判断することはできない。そのため、少なくともこの場合には、従来のモバイルルータとは異なる処理が必要となる。回線選択部27は、少なくとも近隣のWMA7と接続する場合には、例えば外部の特定のインターネットサイトにアクセスし、アクセスできたことが確認された段階で、公衆回線との通信が可能である状態と判断する(以下、「接続状態」という。)。
【0035】
例えば、回線選択部27は、表1の状況で、接続優先度が1かつ最もRSSIレベルの高いC社の公衆ホットスポットとの接続を選択する。C社の公衆ホットスポットとの接続が確立できれば、インターネット3にアクセスできる状態と判断してもよい(なお、この場合も、特定のサイトにアクセスして、通信可能かを判断してもよい。)。
【0036】
回線選択部27は、C社の公衆ホットスポットとの接続に失敗した場合、次にRSSIレベルが高いA社のアクセスポイントを選択し、A社のアクセスポイントとの接続に失敗すれば、2番目に接続優先度の高いB社のアクセスポイントを選択する。WAN用無線通信部21は、少なくともWMAを選択した場合には、単に接続したアクセスポイントのLAN用無線通信部に接続できただけでなく、さらに、外部の特定のサイトにアクセスできるか否かを検査し、アクセスできた段階で、初めて公衆回線との通信が可能であると判断する。例えば、図1の状態では、WMA7nは、WMA71を経由してインターネット3に接続している。WMA71がWMA7nに接続しても、WMA7nの上流回線が切れており、さらに、WMA71とWMA7nとの間でループが生じてインターネット3の特定のサイトにアクセスすることができない。そのため、この場合には、公衆回線との接続ができない状態と判断する。
【0037】
このように、状態ST3において、回線選択部27は、WAN用無線通信部21に対して、接続可能な無線基地局(公衆ホットスポット・近隣のWMAなど)について、接続可能か否か、さらに、少なくとも無線基地局が近隣のWMA7の場合にはインターネット3にアクセスできるか否かを検査して、接続状態か否かを判断する。接続状態が全く確認できなければ切断状態のままと判断して、選択は失敗であり、状態ST2に戻る。接続状態が確認できた回線が存在すれば、選択は成功であるとして、状態ST4に移行する。
【0038】
状態ST4では、LAN用無線通信部23をオン状態として、携帯端末9や近隣のWMA7などと無線通信可能な状態とさせる。ここで、回線選択部27は、LAN用無線通信部23に対して、チャネルスキャンをさせ、全く利用されていないか、あるいは、最も受信レベルの低いチャネルを割り当てる処理を行う。これにより、LAN用無線通信部23において、干渉が生じる可能性が低いチャネルを設定することができる。そして、接続状態と判断する(状態ST5)。このチャネルスキャンは、WMA7が、LAN用無線通信部がオン状態にあるかオフ状態にあるかにかかわらず、定期的に実施することで、長期間にわたる干渉レベルの統計を取ることができる。その結果、より正確な空きチャネルの検出が可能となる。
【0039】
接続状態にある場合、状態確認部29は、定期的にインターネット3とWAN用無線通信部21とが通信できる状態が維持されているか否かを検出する(状態ST6)。図2では、60秒毎に検出することとしている。例えば、特定のサイトにアクセス可能か否かを検出する。アクセスできれば、成功と判断して、接続状態が維持されているとして、状態ST5に戻る。失敗すれば、LAN用無線通信部23をオフ状態にして、携帯端末9や近隣のWMA7などとの接続を拒否する状態とさせる(状態ST7)。そして、状態ST2に移行する。
【0040】
なお、図2では、WAN回線選択(状態ST3)は5秒毎に、WAN回線接続状態確認(状態ST6)は60秒毎という一定時間毎にしている。しかし、本願発明はこれに限定されるものではなく、例えば、通信環境の変化が小さければ間隔をあけ、通信環境の変化が大きければ間隔を狭めるように、間隔は変更するものであってもよい。
【0041】
また、MWA7及び公衆ホットスポット5(本段落において「ノード」という。)には、それぞれ送信周期が定められ、各ノードは、送信周期に応じて周期的にフレームを送信する機能を有してもよい。発明者は、このような間欠周期的送信(Intermittent Periodic Transmit:IPT)を用いることにより、マルチホップネットワークにおいて、伝送効率の高いパケット中継伝送を実現できることを示している(特開2005−143046号公報など参照)。
【0042】
本実施例によれば、無線基地局として、公衆ホットスポット5だけでなく、近隣のWMA7も含ませることができる。そして、WMA7が、公衆ホットスポット5に直接接続した場合だけでなく、近隣のWMA7に接続して、インターネット3との通信可能状態が確認できた場合にも、LAN用無線通信部23による無線通信を可能にさせる。
【0043】
さらに、WMA7が介在することにより、公衆ホットスポット5の通信環境は、格段に向上する。すなわち、通信可能エリアについて、公衆ホットスポット5だけでなく各WMA7も接続の対象とできるために、拡大する。さらに、各WMA7は、遠方に設置されているかもしれない公衆ホットスポット5と無理に接続するのではなく、近隣のWMA7を介して公衆ホットスポット5との通信経路を確保することによって、より安定した通信状態を得ることができる。
【0044】
特に、本願発明によれば、WAN無線通信部21について、単に無線基地局への接続を確認するだけでなく、インターネット3との通信状態をも確認することにより、中継ループを抑制することが可能な経路制御手法を実現することができる。さらに、携帯端末について、無線中継装置が介在することで、認証ポリシーを無線中継装置内に設定することが可能となり、悪意のあるユーザによるただ乗りを防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
3 インターネット、5 公衆ホットスポット、71,…,7n WMA、9 携帯端末、21 WAN用無線通信部、23 LAN用無線通信部、25 制御部、27 回線選択部、29 状態確認部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線中継装置であって、
他の無線通信機器と接続できる状態か否かを制御可能なLAN用無線通信部と、
他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由せずに、無線通信により公衆回線と接続可能なWAN用無線通信部と、
前記LAN用無線通信部の動作を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記LAN用無線通信部に対して、
前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由せずに前記公衆回線と通信できる状態である場合には、他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、
前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由しても他の無線中継装置を経由しなくても前記公衆回線と通信できない状態である場合には、他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせる、無線中継装置。
【請求項2】
前記WAN用無線通信部は、前記他の無線中継装置が備えるLAN用無線通信部に接続することにより、前記他の無線中継装置を経由して前記公衆回線と通信するものであり、
前記制御手段は、
前記WAN用無線通信部が、他の無線中継装置を経由せずに前記公衆回線と通信できる状態であることを検出した場合、又は、他の無線中継装置のLAN用無線通信部と接続できる状態にあり、前記公衆回線と通信できる状態であることを検出した場合に、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できる状態であると判断し、
前記WAN用無線通信部が、他の無線中継装置を経由せずに前記公衆回線と通信できる状態でない場合であって、他の無線中継装置のLAN用無線通信部とも接続できる状態でもないか、又は、他の無線中継装置のLAN用無線通信部とは接続できる状態であるものの前記公衆回線とは通信できない状態であることを検出したときに、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できない状態であると判断する、請求項1記載の無線中継装置。
【請求項3】
前記制御手段は、定期的に前記公衆回線と前記WAN用無線通信部との接続状態を検出して切断状態にあるか接続状態にあるかを判断するものであって、
前回に切断状態と判断していた場合に、前記公衆回線と前記WAN用無線通信部とが通信できる状態になったか否かを検出する回線選択手段と、
前回に接続状態と判断していた場合に、前記公衆回線と前記WAN用無線通信部とが通信できる状態が維持されているか否かを検出する状態確認手段を有し、
前記回線選択手段は、
通信できる状態になっていない場合には切断状態と判断し、
通信できる状態になった場合には接続状態と判断して前記LAN用無線通信部に対して他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、
前記状態確認手段は、
通信できる状態が維持されている場合には接続状態と判断し、
通信できる状態ではなくなった場合には切断状態と判断して前記LAN用無線通信部に対して他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせる、請求項1又は2記載の無線中継装置。
【請求項4】
前記WAN用無線通信部は、無線基地局に接続するものであり、前記無線基地局の一つとして前記他の無線中継装置に接続することにより当該他の無線中継装置を経由して前記公衆回線と通信するものであり、
前記制御手段は、
前記LAN用無線通信部に対して、干渉が生じる可能性の低いチャネルを設定して前記他の無線通信機器と接続できる状態にさせるものであり、
前記WAN用無線通信部に対して、前記WAN用無線通信部が複数の前記無線基地局に接続可能な場合に、各無線基地局を順番に選択して接続させて、
無線基地局として他の無線中継装置を選択したときには、前記公衆回線と通信できる状態であるか否かを検査して前記公衆回線と通信できる状態にあれば、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できる状態にあると判断し、
無線基地局として他の無線中継装置以外を選択したときには、前記公衆回線と通信できる状態であるか否かを検査して前記公衆回線と通信できる状態にあれば、又は、前記公衆回線と通信できる状態であるか否かを検査することなく、前記WAN用無線通信部が前記公衆回線と通信できる状態と判断する、請求項1から3のいずれかに記載の無線中継装置。
【請求項5】
前記LAN用無線通信部には、少なくとも2つの識別情報が割り振られており、
他の無線中継装置が備えるWAN用無線通信部は、特定の識別情報を用いて接続し、
WAN用無線通信部以外の無線通信機器は、前記特定の識別情報以外の識別情報を用いて接続する、請求項1から4のいずれかに記載の無線中継装置。
【請求項6】
無線中継装置が備える制御手段が、LAN用無線通信部に対して、
WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由しないで公衆回線と通信できる状態である場合には、他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、
前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由しても他の無線中継装置を経由しなくても前記公衆回線と通信できない状態である場合には、他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせる制御ステップを含む無線中継方法。
【請求項7】
無線通信するか否かを制御可能なLAN用無線通信部と、他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由しないで無線通信により公衆回線と通信可能なWAN用無線通信部とを備える無線中継装置におけるコンピュータを、前記LAN用無線通信部に対して、
前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由して又は他の無線中継装置を経由しないで公衆回線と通信できる状態である場合には、他の無線通信機器と接続できる状態にさせ、
前記WAN用無線通信部が他の無線中継装置を経由しても他の無線中継装置を経由しなくても前記公衆回線と通信できない状態である場合には、他の無線通信機器との接続を拒否する状態にさせる
制御手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−120131(P2012−120131A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270887(P2010−270887)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(509266251)PicoCELA株式会社 (1)
【Fターム(参考)】