説明

無線中継装置

【課題】 従来は、無線中継装置からの中継送信信号に遅延が生じるために、端末が正しく受信できなくなってしまうことがあるという問題点があり、本発明は、中継送信信号の遅延をなくし、安定な廻り込み干渉キャンセル性能を実現する無線中継装置を提供する。
【解決手段】 指向性受信アンテナ11で受信した信号をキャンセル信号と合成し、増幅して指向性送信アンテナ24から中継送信信号として出力すると共に、送信アンプ17の利得を目標利得まで徐々に上げつつ、分岐した中継送信信号を直交検波器19が直交検波し、復調器20が直交検波信号中のパイロットシンボルを抽出して正規のシンボルに変換し、差分器23が直交検波信号と正規のシンボルとの差分を誤差ベクトルとして検出し、制御器16が直交検波信号と誤差ベクトルに基づいて残留回り込み干渉波成分を最小にするよう振幅及び移相を調節してキャンセル信号の生成を制御する無線中継装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号を受信、増幅、送信する無線中継装置(中継ブースタ)に係り、特に中継による信号遅延をほとんど無くし、廻り込みによる発振を防ぐことができる無線中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線中継装置(中継ブースタ)は、基地局が送出した送信信号を受信して増幅し、送信アンテナより送出することにより基地局信号を中継するものである。その際、送信アンテナと受信アンテナ間にカップリングがあると、ブースタ送信出力信号が受信アンテナに廻りこみ発振を起こす問題点がある。
【0003】
この問題を解決する一つの手段として、送信アンテナと受信アンテナの距離を十分とって、受信アンテナにブースタ出力の廻りこみ干渉信号が入らないようにする方法がある。しかし都心部においては中継ブースタの設置位置を確保することが困難な状況にあり、かつ送受信アンテナ距離を十分にとるようなことは立地条件の制約から難しくなってきている。
【0004】
そのため、送受信アンテナ距離を短くできるよう、廻りこみ干渉キャンセラ機能を備えた中継ブースタが用いられるようになっており、このような中継ブースタは、都心部での中継ブースタ設置スペースの問題を解決する上で大きなメリットを持つものである。
【0005】
ここで、従来の無線中継装置で用いられる廻り込み干渉キャンセラについて図5を使って説明する。図5は、従来の無線中継装置(中継ブースタ)の構成を示す構成ブロック図である。
図5に示すように、従来の中継ブースタは、指向性受信アンテナ11と受信アンプ12と、結合器13と、移相器14と、減衰器15と、制御器16′と、直交検波器19と、復調器20と、波形生成器22と、直交変調器31と、送信アンプ17′と、分配器18と、指向性送信アンテナ24と、複素相関器30とから構成されている。
【0006】
次に、従来の中継ブースタの各部について具体的に説明する。指向性受信アンテナ11は、指向性のあるアンテナであって、基地局の方向に指向されており、本来は基地局から受信した信号(以下、「基地局送信信号」とする)を受信するものである。
【0007】
また、指向性受信アンテナ11は、指向性送信アンテナ24が出力する中継送信信号の廻り込み干渉信号をも受信するものである。ここで、廻りこみ干渉信号とは、指向性送信アンテナ24が出力する中継送信信号であって、指向性受信アンテナ11と指向性送信アンテナ24との指向特性によるデカップリング量だけ減衰されているようになっている。
【0008】
受信アンプ12は、指向性受信アンテナ11が受信した信号(以下、「受信信号」と称する)を増幅するものである。
結合器13は、受信アンプ12で増幅された受信信号と、後述する移相器14から出力されるキャンセル信号とを合成し、キャンセラ出力信号として出力するものである。
直交検波器19は結合器13から入力されるキャンセラ出力信号を直交検波し、直交するI信号とQ信号とを出力するものである。以下、I信号とQ信号とをまとめて、「受信直交信号」と称することとする。
【0009】
復調器20は、直交検波器19から入力される受信直交信号を復調し、ディジタルの復調データを出力するものである。
波形生成器22は、復調器20から入力される復調データを元にI信号とQ信号とを再生し、再生直交信号として出力するものである。
【0010】
直交変調器31は、波形生成器22から入力される再生直交信号を直交変調し、直交変調信号として出力するものである。送信アンプ17′は、直交変調器31から入力される直交変調信号を増幅して出力するものである。
【0011】
移相器14は、後述する制御器16′から入力される位相回転情報に従って、減衰器15で減衰された直交変調信号の位相を変化させてキャンセル信号として出力するものである。
減衰器15は、後述する制御器16′から入力される減衰特性情報に従って、送信アンプ17′によって増幅された直交変調信号を減衰して出力するものである。
【0012】
制御器16′は、複素相関器30から入力される残留相関信号に基いて、減衰特性情報と位相回転情報とを演算し、キャンセル信号として、それぞれ減衰器15と移相器14とに出力するものである。
【0013】
複素相関器30は、直交検波器19から入力される受信直交信号と、波形生成器22から入力される再生直交信号との複素相関を演算し、該複素相関の値を残留相関信号として出力するものである。
【0014】
次に、従来の中継ブースタの動作について説明する。
まず、基地局送信信号が指向性受信アンテナ11で受信され、受信アンプ12で増幅され、結合器13で移相器14から入力されるキャンセル信号と合成されて、キャンセラ出力信号として出力される。
【0015】
そして、キャンセラ出力信号は、直交検波器19で直交検波され、受信直交信号として出力され、復調器20で復調され、波形成型器22で直交I、Q信号が再生されて再変調信号として出力され、直交変調器31で直交変調され直交変調信号が出力される。
【0016】
ここで、直交変調器19から出力される直交変調信号は、復調誤りがなければ再変調操作により受信信号に混入した廻り込み干渉信号と伝搬路上で混入したノイズ等とが低減されることにより、基地局送信信号と同じ品質の送信信号を再生できるようになっている。
【0017】
そして、直交変調器37から出力された、ノイズの混入していない直交変調信号は、送信アンプ8で増幅されて、指向性送信アンテナ24から中継送信信号として送信出力されるようになる。
【0018】
このとき、直交検波器19から出力された受信直交信号と、波形生成器22から出力された再生直交信号とは、それぞれ分岐して複素相関器30に入力され、複素相関器30で複素相関が行われ、残留相関信号が制御器16′に出力される。
【0019】
そして、制御器16′では残留相関信号に基いて、残留相関信号を除去するように減衰特性情報と位相回転情報とがキャンセル信号として演算され、それぞれ減衰特性情報が減衰器15へ出力され、位相回転情報が移相器14へ出力されるようになる。
【0020】
また、送信アンプ17′から出力された直交変調信号は、分配器18で分岐して減衰器15に取り込まれ、減衰器15で制御器16′からの減衰特性情報に従って減衰され、次に、移相器14で制御器16′からの位相回転情報に従って位相が変化させられ、キャンセル信号として結合器13に出力される。
【0021】
そして、指向性送信アンテナ24から中継送信信号が出力されると、指向性受信アンテナ11と指向性送信アンテナ24との指向特性によるデカップリング量だけ減衰された廻り込み干渉信号が指向性受信アンテナ11から受信され、基地局送信信号と加算された信号が受信アンプ12に出力される。
【0022】
これにより、複素相関器30では、直交検波器19の出力である直交I、Q信号(廻り込み干渉信号を含む信号)と、波形生成器22の出力である直交I、Q信号(廻り込み干渉信号のもととなる信号)との複素相関を行うことにより、移相器14からのキャンセラ出力信号に残留する廻り込み干渉信号レベル(以下、残留干渉レベルとする)を抽出することができるようになる。
【0023】
そして、制御器16′では、複素相関器30の出力である残留干渉レベルを監視しながら、干渉信号を除去するように移相器14及び減衰器15を調整する。つまり残留干渉レベルをキャンセラ制御に使用することによって、廻り込み干渉信号のキャンセルを実現できることとなる。
【0024】
【特許文献1】特開平11−163952号公報(第4−6頁、図1)
【特許文献2】特開平10−2902808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、従来の無線中継装置では、復調・再変調操作が入るため、基地局送信信号と中継送信信号の間に遅延が生じ、復調に最低でも1シンボル区間の受信が必要なFSK(Frequency Shift Keying;周波数偏移変調)やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;直交波周波数分割多重)等では、原理的に中継送信信号に1シンボル以上の遅延が生じる。端末が、無線中継装置からの中継送信信号のみを受信する孤立エリアに位置する場合には大きな問題にならないが、基地局送信信号のレベルが中継送信信号に比較して無視できないエリア境界に位置する場合には、端末が基地局送信信号と中継送信信号の両方の信号を受信してしまい、長遅延パスによる干渉を受けるために、正しく受信できなくなってしまう。
【0026】
つまり、従来の無線中継装置では、無線中継装置からの中継送信信号に遅延が生じるために、端末が正しく受信できなくなってしまうことがあるという問題点があった。
【0027】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、中継送信信号の遅延をなくし、かつ安定な廻り込み干渉キャンセル性能を実現する無線中継装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、指向性受信アンテナで受信された信号を増幅して指向性送信アンテナから送信すると共に、指向性送信アンテナから指向性受信アンテナへの回り込み干渉信号をキャンセルするキャンセラ機能を備えた無線中継装置であって、受信信号を増幅する利得を目標の利得となるまで段階的に上げながら増幅するアンプと、アンプからの出力を分配し、一方を指向性送信アンテナに出力する分配器と、分配器からの他方の出力について、減衰量を制御する減衰器と、分配器からの他方の出力について、位相回転量を制御する移相器と、減衰器と移相器とで制御されたキャンセル信号と受信信号とを結合してアンプに出力する結合器と、分配器からの他方の出力について、回り込み干渉信号の成分を検出する回り込み干渉波成分検出手段と、回り込み干渉波成分検出手段からの回り込み干渉信号の成分に基づいて最適なキャンセル信号となるよう減衰器と移相器を制御する制御部とを有する無線中継装置としており、受信信号を増幅して送信するまでに復調・変調といった1シンボル区間以上時間のかかる処理を含まないので、中継送信信号の遅延をなくすことができ、また、アンプの利得を段階的に引き上げつつ、最適なキャンセル信号を生成して受信信号と合成することにより、発振を防ぎながら回り込み干渉信号を精度よくキャンセルすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の無線中継装置は、指向性受信アンテナで受信した受信信号をアンプで増幅して、指向性送信アンテナから送信すると共に、制御部が、アンプの利得を目標の利得となるまで段階的に上げつつ、送信出力を分配した信号について、回り込み干渉波成分検出手段で検出した回り込み干渉信号の成分に基づいて最適なキャンセル信号となるよう減衰器と移相器を制御する無線中継装置としているので、中継送信信号の遅延をなくすことができ、また、発振を防いで安定に動作させながら回り込み干渉信号を精度よくキャンセルすることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の無線中継装置は、復調・再変調のような大きな遅延を生じる処理ブロックを通さずに遅延のない中継送信信号を出力すると共に、送信アンプにおける利得を段階的に引き上げながら、シンボル判定前後の信号の違いを廻り込み干渉信号の影響と見立てて、その違いを最小にするようフィードバック量を制御して廻り込み干渉信号の逆相信号を合成することにより、廻り込み干渉信号をキャンセルするものであり、中継による信号遅延をほとんどなくし、且つ、安定して廻り込み干渉信号をキャンセルすることができるものである。
【0031】
また、本発明の無線中継装置は、移相オフセット検出器と移相補正回路とを設けて、キャンセラ収束点の検出を高速化し、伝送路変動があってもキャンセラ信号を迅速に追従させることができるものである。
【0032】
尚、無線中継装置で遅延のない中継送信信号を出力しようとすると、送信アンプの利得によっては発振を起こすおそれがあるが、本発明の無線中継装置では制御器が、送信信号のレベルが安定するまで、送信アンプの利得を徐々に段階的に上げていくことで発振を抑えることができる。
【0033】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る無線中継装置(中継ブースタ)の構成ブロック図である。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る無線中継装置(第1の無線中継装置)は、指向性受信アンテナ11と、受信アンプ12と、結合器13と、送信アンプ17と、分配器18と、指向性送信アンテナ24と、直交検波器19と、復調器20と、波形生成器22と、第2の遅延素子21と、差分器23と、制御器16と、第1の遅延素子25と、減衰器15と、移相器14とから構成されている。
【0034】
上記構成部分の内、指向性受信アンテナ11と、受信アンプ12と、結合器13と、移相器14と、減衰器15と、分配器18と、指向性送信アンテナ24とは従来と同様の部分であるため、ここでは説明を省略する。
【0035】
尚、本装置では、基地局からの基地局送信信号中に、特定数のシンボル毎に既知の信号パターンとしてのパイロットシンボルが含まれていることを前提としている。パイロットシンボルは、例えば、フレームの先頭部分に配置されている。
【0036】
尚、本装置は、地上波デジタル通信に用いられるOFDMや、CDMA(Code Division Multiple Access)2000、FDMA(Frequency Division Multiple Access)等の変調方式に適用されるものである。これらの変調方式の内、OFDM、CDMA2000では特定数のシンボル毎に既知の信号パターンとしてのパイロットシンボルが含まれており、FDMAでは、特定数のシンボル毎に既知の信号パターンであるパイロットトーンが含まれている。これらのパイロットシンボルやパイロットトーンは、例えば、フレームの先頭部分に配置されている。本装置では、基地局送信信号中に含まれる既知の信号パターンであるパイロットシンボルやパイロットトーンを抽出してキャンセル信号の最適化を図るようにしている。
【0037】
また、送信アンプ17は、第1の遅延素子25で遅延されたキャンセラ出力信号を、後述する制御器16からの指示に応じた利得で増幅して中継送信信号として出力するものである。本装置の特徴として、送信アンプ17の利得は、電源投入時には十分小さく設定しておき、受信信号と廻り込み干渉信号のレベル差に基づいて発振が起きない範囲で段階的に最適な利得に達するまで上げていくようになっている。
【0038】
第1の遅延素子25は、分配器18で分岐された他方の中継送信信号を一定時間遅延させて出力するものである。第1の遅延素子25における遅延時間は、指向性送信アンテナ24からの回り込み干渉信号が指向性受信アンテナ11で受信されるまでの遅延時間を考慮したものであり、キャンセル信号の追従性を向上させるものである。
【0039】
直交検波器19は、従来と同様の構成及び動作であるが、本装置では、分配器18によって分配された中継送信信号を直交検波して、I信号とQ信号とから成る直交検波信号を出力するものである。
【0040】
復調器20は、直交検波器19から入力された直交検波信号をディジタル復調するものであるが、本装置の特徴として、内部のクロックに基づいて、特定のタイミングで直交検波信号から既知のパターン(パイロットシンボル又はパイロットトーン、以下、「パイロットシンボル」とする)のみを検出して、当該パターンの復調データを予め内部に記憶されている正規のパイロットシンボルに変換して出力するものである。これにより、復調器20からの出力は、正しいパイロットシンボルとなるものである。尚、復調器20には、予め基地局送信信号の変調方式に応じた既知のパターンが記憶されているものである。
【0041】
波形生成器22は、従来と同様に、復調器20から入力された復調データからI信号とQ信号とを再生し、再変調信号として出力するものである。尚、パイロットシンボルのみを対象として回り込み干渉波成分を検出する場合には、波形生成器22を設けない構成としても構わないものである。
【0042】
また、第2の遅延素子21は、直交変調器31から入力された直交検波信号を、波形生成器22及び復調器20の処理に要する時間分だけ遅延させて出力するものである。
ここで、第2の遅延素子21は、復調器20からの出力タイミング指示の入力があった場合に、遅延させた直交検波信号を差分器23に出力するように構成してもよいし、又は、予め復調器20及び波形生成器22での処理に要する時間を第2の遅延素子21に設定しておき、その分だけ遅延させて差分器23に出力するようにしてもよい。これにより、差分器23に入力される信号のタイミングが合致するものである。
【0043】
差分器23は、波形生成器22からの再変調信号と、第2の遅延素子21からの遅延出力信号におけるパイロットシンボルに相当する部分の信号との差分を誤差ベクトルとして出力するものである。ここで、復調器20において直交検波信号を正しいパイロットシンボルに変換しているので、差分器23からの出力は、直交検波信号と正しいパイロットシンボルの再変調信号との差分となり、これは、指向性送信アンテナ24に残留する廻り込み干渉波成分に相当する。
【0044】
尚、直交検波器19、復調器20、波形生成器22、第2の遅延素子21、差分器23から構成される回路部分が、請求項に記載した回り込み干渉波成分検出手段に相当するものである。
【0045】
また、移相器14、減衰器15、制御器16、直交検波器19、復調器20、第2の遅延素子21、波形生成器22、差分器23、遅延素子25から成る回路部分が、キャンセラ回路である。
【0046】
制御器16は、差分器23からの誤差ベクトルと、第2の遅延素子21からのずれを含む直交検波信号とに基づいて、誤差ベクトルが最小となるよう演算を行い、最適な廻り込み干渉信号の逆相信号(キャンセル信号)を生成するための減衰特性情報と位相回転情報とを求め、減衰特性情報を減衰器15に出力し、移相回転情報を移相器14に出力して、減衰器15及び移相器14を制御すると共に、送信アンプ17の利得を制御するものである。制御器16における制御については後で詳細に説明する。尚、請求項における制御部は、制御器16に相当するものである。
【0047】
第1の無線中継装置における動作について図1を用いて説明する。
まず、特定数のシンボル毎にパイロットシンボル又はパイロットトーン等の既知の信号パターンを含む基地局信号が、指向性受信アンテナ11で受信され、受信アンプ12で増幅され、結合器13で移相器14から入力されるキャンセル信号と合成されて、キャンセラ出力信号として出力される。
【0048】
そして、キャンセラ出力信号は、送信アンプ17に入力されて制御器16からの指示に従った利得で増幅されて、分配器18の一方の出力となり、指向性送信アンテナ24から中継送信信号として出力される。
【0049】
つまり、第1の無線中継装置では、基地局送信信号を受信すると、復調・再変調といった1シンボル分以上の時間がかかる処理を行うことなく、中継送信信号として出力する構成となっている。これにより、第1の無線中継装置では、中継送信信号の遅延を、アナログ素子による遅延のみに留めることができるものである。これらの遅延は一般的にはシンボル長に比較して小さいので、エリア境界においても、マルチパス間に時間差がある周波数選択性フェージングではなく、緩やかなレイリーフェージングとして観測されるため、端末がエリア境界にあっても容易に受信することが可能となるものである。
【0050】
一方、分配器18の他方の出力としての中継送信信号は、更に分岐されて、一方は、直交検波器19に入力されて直交検波され、直交検波信号は分岐されて、一方が復調器20に入力される。復調器20において、特定のタイミングで直交検波信号中に含まれるパイロットシンボルが検出され、正規のパイロットシンボルに変換されて出力される。
そして、復調器20からのパイロットシンボルは波形生成器22に入力されて再変調され、再変調信号として差分器23に入力される。
【0051】
直交検波器19から分岐した他方の直交検波信号は、そのまま第2の遅延素子21に入力され、遅延されて分岐して差分器23と制御器16とに出力される。
【0052】
差分器23において、波形生成器22から入力された再変調信号と、第2の遅延素子21からの出力との差分が求められて誤差ベクトルが制御器16に出力される。
【0053】
そして、制御器16では、差分器23からの誤差ベクトルと第2の遅延素子21からの出力に基づいて、最小自乗法を用いて、最適なキャンセル信号を得るよう演算を行い、演算結果に基づいて減衰器15及び移相器14を制御する。
【0054】
このとき、制御器16は、電源投入直後は、送信アンプ17の利得を最低(若しくは特定レベル以下)にした状態で減衰器15及び移相器14を調整して、発振が起きないようにしておき、安定したら送信アンプ17の利得を少し上げ、また減衰器15及び移相器14を調整する、というように段階的に利得を引き上げていく制御を繰り返す。そして、目標の利得に達したら送信アンプ17の利得を固定する。
【0055】
また、分配器18から分岐された中継送信信号は、第1の遅延素子25に入力されて、指向性送信アンテナ24から指向性受信アンテナ11への回り込み干渉信号の回り込み遅延時間分だけ遅延されて出力される。
【0056】
そして、制御器16からの指示に従って、減衰器15が、分配器18から入力された中継送信信号に重み付けを行い、移相器14が移相を変換して、廻り込み干渉信号の逆位相となるキャンセル信号を得て、結合器13の他方の入力とする。
【0057】
これにより、結合器13では、受信された基地局送信信号と、キャンセル信号とが合成されて出力される。キャンセラ信号は、基地局送信信号に混在する廻り込み干渉信号と同振幅逆位相の信号であるから、結合器13からのキャンセラ出力信号においては、廻り込み干渉信号成分がキャンセルされていることになる。
【0058】
ここで、制御器16における制御について説明する。
制御器16には、差分器23から誤差ベクトルが入力され、第2の遅延素子21からずれを含む信号が入力される。時刻t=nTにおける誤差ベクトルをe(n)、ずれを含む直交検波信号をR(n)、タップ計数ベクトルをw(n)とすると、最小自乗法(LMS;Least Mean Square)アルゴリズムは、
w(n+1)=w(n)+μR(n)e(n)
で与えられる。ここでμは重み付けである。
【0059】
制御器16では、これに基づいてRとeとを用いて、キャンセル信号Aを生成する。
ここで、キャンセル信号Aは、 A=Pwejθ
で表される。Pwは減衰特性情報であり、θは位相回転情報である。
そこで、制御器16は、最小自乗法によってPwejθが最適となるようなPw及びθの組を求め、Pwを減衰特性情報として減衰器15に与え、θを位相回転情報として移相器14に与えるものである。
【0060】
次に、第1の無線中継装置の制御器16における減衰器15及び移相器14の制御と、送信アンプ17の利得制御の処理について図2を用いて説明する。図2は、制御器16における電源投入時の処理を示すフローチャート図である。
図2に示すように、制御器16は、電源が投入されると、送信アンプ17の利得を特定レベル以下に設定して発振が起きないようにしておき(100)、誤差ベクトル及び直交検波信号に基づいて上述したようにPwとθを求め、減衰器15及び移相器14を調整する(102)。
【0061】
そして、制御器16は、送信アンプ17の利得を予め設定されたレベルだけ上げて(104)、目標利得に達したかどうかを判断する(106)。
送信アンプ17の利得が制御器16内部のメモリに予め記憶されている目標利得に達していない場合には、制御器16は、処理102に戻って振幅と移相の調整を行い、利得を引き上げる処理を繰り返す。
【0062】
そして、処理106において、送信アンプ17の利得が目標利得に達した場合には、制御器16は、送信アンプ17の利得調整を終了し、通常の制御(通常動作)に移行する。通常の制御とは、誤差ベクトル及び直交検波信号の入力があると、それに基づいて減衰器15及び移相器14の調整を行う処理のことである。
このようにして、制御器16における電源投入時の処理が行われるものである。
【0063】
本発明の第1の実施の形態に係る無線中継装置(第1の無線中継装置)によれば、指向性受信アンテナ11で受信した基地局送信信号をキャンセラ回路からのキャンセル信号と合成して、増幅して分岐した一方を指向性送信アンテナ24から中継送信信号として出力する無線中継装置であって、分岐した他方の信号を直交検波器19が直交検波し、復調器20が、直交検波信号中のパイロットシンボルを抽出して正規のシンボルに変換し、差分器23が、直交検波信号と復調器20からの正規のシンボルとの差分を誤差ベクトルとして検出し、制御器16が、直交検波信号と誤差ベクトルに基づいて直交検波信号に含まれる残留回り込み干渉波成分を最小にするよう振幅及び移相を調節してキャンセル信号の生成を制御すると共に、制御器16が、送信アンプ17の利得を始めは小さく設定しておき、発振が起きない範囲で徐々に上げていき、目標利得にする無線中継装置としているので、基地局送信信号を受信してから中継送信信号を送信出力するまでに、1シンボル区間以上時間がかかる復調・変調処理を行わないため、遅延のない信号を出力することができると共に、増幅器の利得を抑えて発振を防ぎつつキャンセラ機能を実現することができる効果がある。
【0064】
尚、第1の無線中継装置では、分配器18は送信アンプ17の後段に設けているが、送信アンプ送信アンプ17の前段に設けた構成としても構わない。
【0065】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る無線中継装置(第2の無線中継装置)について説明する。
第2の装置では、始めは、第1の装置と同様にパイロットシンボルのみを用いてキャンセル信号を制御しておき、キャンセル信号が安定し、増幅器の利得が目標値に達したら、パイロットシンボルだけではなく全てのシンボルについて差分を検出し、キャンセル信号の制御を行うものである。
【0066】
第2の無線中継装置の構成について図3を用いて説明する。図3は、第2の無線中継装置の構成を示す構成ブロック図である。尚、図1に示した第1の装置と同様の部分については同一の符号を用いて説明する。
図3に示すように、第2の無線中継装置の構成は、図1に示した第1の無線中継装置とほぼ同様であるが、第2の無線中継装置では、復調器20′の構成及び動作と、制御器16の動作が、第1の装置とは一部異なっている。
【0067】
第2の無線中継装置の特徴部分について説明する。
第2の無線中継装置における復調器20′は、第1の装置における復調器20と同様に、変調方式に対応した正規の信号パターン(パイロットシンボル等)を予め記憶しており、直交検波信号からパイロットシンボルのみを抽出して、正規のパターンに変換して出力する手段(変換手段)を備えている。また、復調器20′は、入力された直交検波信号の全シンボルをディジタルデータに変換する通常の復調動作を行う手段(復調手段)を備えている。
【0068】
そして、第2の無線中継装置における復調器20′の特徴として、直交検波器19からの入力信号を変換手段又は復調手段のいずれかに入力する切替手段(スイッチ)を備えており、制御器16からの指示に従って、切り替えられるようになっている。第2の無線中継装置では、電源投入直後の不安定な状態においては直交検波器19からの直交検波信号を変換手段に入力し、無線中継装置の動作が安定して利得が目標値に達した場合には、直交検波信号を復調手段に入力するようにしている。
【0069】
第2の無線中継装置における制御器16は、第1の無線中継装置における動作に加えて、復調器20′のスイッチの切替制御を行って、直交検波信号を変換手段又は復調手段のいずれかに入力するものである。
【0070】
具体的には、制御器16は、電源投入時には、復調器20′のスイッチを変換手段に切り替えておき、キャンセル信号が安定して、送信アンプ17の利得が目標値に達すると、復調器20′のスイッチを復調手段に切り替え、全てのシンボルデータについてディジタルデータに変換する通常動作に移行するものである。
【0071】
これは、電源投入直後の不安定な時期は、発振を防ぎ、キャンセル信号の早期安定を図るために、予めパターンがわかっているパイロットシンボルのみを検出して回り込み干渉波の残留成分を最小にするよう移相器14及び減衰器15を制御して最適なキャンセル信号を生成すると共に、送信アンプ17の利得を徐々に引き上げ、キャンセル信号が安定して、回り込み干渉波の残留成分が小さくなって、送信アンプ17の利得が目標値に達した場合には、全てのシンボルについて直交検波信号とノイズ等を含まない復調データを比較して、より細かい補正を行って、精度よく回り込み干渉波成分をキャンセルして、基地局送信信に対する追従性を向上させるためである。
【0072】
第2の無線中継装置における中継送信信号送信の動作やキャンセル信号の生成方法は、上述した第1の無線中継装置と同様であるため、ここでは説明を省略するが、第1の無線中継装置では、例えばフレームの先頭部分に含まれているパイロットシンボルのみに基づいて誤差ベクトルを検出したが、第2の無線中継装置では全てのシンボルデータについて誤差ベクトルの検出を行うので、キャンセル信号をより細かく調整できるものである。
【0073】
本発明の第2の実施の形態に係る無線中継装置によれば、復調器20′に直交検波信号から既知のパイロットシンボルを抽出して正規のパイロットシンボルに変換する変換手段と、直交検波信号の全てのシンボルをディジタルデータに変換する復調手段と、直交検波信号を変換手段又は復調手段に切り替えて入力するスイッチを備え、制御器16が、装置の電源投入直後はスイッチを変換手段に切り替えておき、キャンセル信号が安定して送信アンプ17の利得が目標値に達した場合には、スイッチを復調手段に切り替える無線中継装置としており、電源投入直後は既知のパターンのみを用いて早くキャンセル信号を収束させ、収束後は、全てのシンボルに基づいてキャンセル信号の補正を行って基地局送信信号に対する追従性を向上させることができる効果がある。
【0074】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る無線中継装置について説明する。
第3の無線中継装置は、各素子で発生する移相オフセットを考慮して、位相回転情報を補正した上で移相器14に位相回転情報を与えるようにしており、精度の高いキャンセル信号を生成して、追従性を向上できるものである。
図4は、本発明の第3の実施の形態に係る無線中継装置(第3の無線中継装置)の構成ブロック図である。尚、第1の無線中継装置と同一の構成部分には同一の符号を付して説明する。
【0075】
図4に示すように、第3の無線中継装置は、図1に示した第1の無線中継装置とほぼ同様の構成であるが、制御器16の後段に位相補正回路27を設けている点が異なっている。
【0076】
第3の無線中継装置の特徴部分について説明する。
位相補正回路27は、本無線中継装置において予め実験的に求めた位相オフセット量(Δθ)に基づいて、その逆位相のオフセット量(−Δθ)を補正値として記憶しており、制御器16からの位相回転情報(θ)に対して、補正値を加算して補正し、補正された位相回転情報(θ−Δθ)を移相器14に出力するものである。
そして、移相器14は補正された位相回転情報に基づいてキャンセル信号の位相を変換して結合器13に出力するものである。
【0077】
また、図示してはいないが、位相補正回路27を用いない構成として、制御器16から入力されるキャンセル信号の減衰特性情報に応じて減衰値を変えると遅延量が変化し、結果として位相オフセットが発生することに着目し、減衰器15に、様々な減衰値に対応する位相オフセット値の補正テーブルを備えておくようにしてもよい。
【0078】
この場合、減衰器15が、制御器16からの減衰特性情報に従って調整された減衰値に応じた補正値を補正テーブルから読みこんで、移相器14に出力する。移相器14は、制御器16からの位相回転情報θに補正値を加えて補正し、補正された位相回転情報に基づいて、減衰器15からのキャンセル信号の位相を変換して、廻り込み干渉信号の逆位相となるキャンセル信号を出力するものである。
【0079】
本発明の第3の実施の形態に係る無線中継装置によれば、位相補正回路27が、各素子で発生する位相オフセット量を考慮して予め設定されている位相オフセットの補正値によって制御器16からの位相回転情報を補正して移相器14に出力するようにしているので、装置内の素子で発生する位相オフセットを除去する方向に回転を与えてキャンセル信号の位相を補正することができ、より精度の高いキャンセル信号を生成して、回り込み残留信号を最小とするキャンセル信号を生成することができる効果がある。
【0080】
また、第3の無線中継装置の別の構成として、減衰器15に減衰値に応じた位相オフセットの補正値を記憶しておき、減衰器15が、調整後の減衰値に対応する位相オフセットの補正値を移相器14に出力し、移相器14が制御器16からの位相回転情報を補正した値でキャンセル信号の位相を補正するようにしているので、装置内の素子で発生する位相オフセットを除去する方向に回転を与えてキャンセル信号の位相を補正することができ、より精度の高いキャンセル信号を生成して、回り込み残留信号を最小とするキャンセル信号を生成することができる効果がある。
【0081】
また、第3の無線中継装置では、第1の無線中継装置に位相補正回路27を追加した構成としているが、第2の無線中継装置の構成に位相補正回路を加えた構成としても構わず、又は第2の無線中継装置の減衰器15に位相オフセットの補正テーブルを備えた構成としても構わない。その場合にも同様に精度の高いキャンセル信号を生成することができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、中継送信信号の遅延をなくし、かつ安定な廻り込み干渉キャンセル性能を実現する無線中継装置を提供することができる無線中継装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る無線中継装置(第1の無線中継装置)の構成ブロック図である。
【図2】制御器21における電源投入時の処理を示すフローチャート図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る無線中継装置(第2の無線中継装置)の構成を示す構成ブロック図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る無線中継装置(第3の無線中継装置)の構成ブロック図である。
【図5】従来の無線中継装置(中継ブースタ)の構成を示す構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0084】
11…指向性受信アンテナ、 12…受信アンプ、 13…結合器、 14…移相器、 15…減衰器、 16…制御器、 17…送信アンプ、 18…分配器、 19…直交検波器、 20…復調器、 21…第2の遅延素子、 22…波形生成器、 23…差分器、 24…指向性送信アンテナ、 25…第1の遅延素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性受信アンテナで受信された信号を増幅して指向性送信アンテナから送信すると共に、前記指向性送信アンテナから前記指向性受信アンテナへの回り込み干渉信号をキャンセルするキャンセラ機能を備えた無線中継装置であって、
受信信号を増幅する利得を目標の利得となるまで段階的に上げながら増幅するアンプと、
前記アンプからの出力を分配し、一方を前記指向性送信アンテナに出力する分配器と、
前記分配器からの他方の出力について、減衰量を制御する減衰器と、
前記分配器からの他方の出力について、位相回転量を制御する移相器と、
前記減衰器と前記移相器とで制御されたキャンセル信号と受信信号とを結合して前記アンプに出力する結合器と、
前記分配器からの他方の出力について、回り込み干渉信号の成分を検出する回り込み干渉波成分検出手段と、
前記回り込み干渉波成分検出手段からの回り込み干渉信号の成分に基づいて最適なキャンセル信号となるよう前記減衰器と前記移相器を制御する制御部とを有することを特徴とする無線中継装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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