説明

無線基地局および無線通信方法

【課題】個々の無線通信端末に割り振ったタイムスロット対の持つ特性を十分に利用した速度/フェージングにより強い無線基地局および無線通信方法を提供する。
【解決手段】 複数のアンテナを具え、時分割多元接続/時分割複信方式で無線通信端末との間で無線通信を行う無線基地局は、無線通信端末における伝搬路変動を示す値を検出し、1フレーム内に含まれる、上りタイムスロットと下りタイムスロットとの時間間隔がそれぞれ異なる複数のタイムスロット対のいずれかを、伝搬路変動を示す値に応じて無線通信端末に割り当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TDMA/TDD(時分割多元接続/時分割復信)方式により無線通信を行う無線基地局および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TDMA/TDD(時分割多元接続/時分割復信)方式およびアダプティブアレイアンテナを採用する無線基地局と、無線通信端末からなる無線通信システムでは、アップリンクの信号に基づきダウンリンク信号のアンテナウェイト(アンテナアレイを構成する各アンテナ素子の重み付け)を推定する技術が開発され、実用化されている(特許文献1を参照されたい)。これは、無線通信端末から無線基地局へのアップリンク方向に対応するスロットと、無線基地局から無線通信端末へのダウンリンク方向に対応するスロットとが、同一周波数を使用することを前提とした技術で、基地局は、アップリンク側のタイムスロットとダウンリンク側のタイムスロットとを一対として、1つの無線通信端末に割り当てる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2004−510391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4に、従来技術による無線基地局の構成例を示す。図に示すように、基地局300は、第1信号処理部310、第2信号処理部320、制御部(CPU)340、アダプティブアレイアンテナ(AAA)を具える。制御部340は、リソース管理部342を具える。制御部240は、自局とセッションを持った通信相手の無線通信端末に送信すべきデータがある場合は、スイッチSW(分離/合成器)およびアダプティブアレイアンテナAAAを介して当該データを送信するように第1、第2信号処理部210,220を制御する。第1信号処理部310は、RF部315を具える。アダプティブアレイアンテナAAAは、複数のアンテナ素子ANT1、ANT2を有し、各アンテナ素子は、アンテナ素子別の受信信号に基づいて、アンテナ素子別に計算されたアンテナウェイト(重み付け)に応じた電波を発射する。このとき、各タイムスロットの検波等の信号処理は該当キャリア、該当タイムスロットのタイムスロット1,2,3制御部311,312,313(DSP)がそれぞれ計算を行い、最適なウェイトを算出する。
【0005】
TDD/TDMAシステムでは、上述のように一対のタイムスロットが割り当てられるため、アップリンクとダウンリンクとの間に一定の時間間隔(時間差)が生じることとなり、電波伝搬路特性が劣化しやすくなると言う特徴があった。さらに、無線通信端末が高速で移動している場合、フェージング変動が大きくなるため、特性差が、さら顕著になる。従って、このような状況でウェイトを算出してデータを無線通信端末に送信しても、アダプティブアレイアンテナの性能を十分に活用できているとはいえなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、個々の無線通信端末に割り振ったタイムスロット対の持つ特性を十分に利用した速度/フェージングにより強い通信技法(無線基地局および無線通信方法)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、複数のアンテナを具え、時分割多元接続/時分割複信方式で無線通信端末との間で無線通信を行う無線基地局であって、前記無線通信端末における伝搬路変動を示す値を検出する検出部と、1フレーム内に含まれる、上りタイムスロットと下りタイムスロットとの時間間隔がそれぞれ異なる複数のタイムスロット対のいずれかを、前記検出部で検出された前記伝搬路変動を示す値に応じて前記無線通信端末に割り当てる割当部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明は、前記割当部で割り当てられた前記上りタイムスロットについて前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて算出される各アンテナ受信ウェイトを、前記割り当てられた下りタイムスロットで用いる送信ウェイトに設定するウェイト設定部と、をさらに有することが好ましい。
【0009】
また、本発明は、複数のアンテナを具え、時分割多元接続/時分割複信方式で無線通信端末との間で無線通信を行う無線基地局の無線通信方法であって、前記無線通信端末における伝搬路変動を示す値を検出する検出ステップと、1フレーム内に含まれる、上りタイムスロットと下りタイムスロットとの時間間隔がそれぞれ異なる複数のタイムスロット対のいずれかを、前記検出した前記伝搬路変動を示す値に応じて前記無線通信端末に割り当てる割当ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高速通信を行う高速移動端末に対して、より確からしいアンテナウェイトを用いた送信を行うことで、下り回線の高速通信性能を向上させることができるという利点がある。また、タイムスロットによる特性差がなくなるということはないが、従来の通信にくらべて、適切なウェイトをすぐに実現することができ、端末が高速で移動するしないに関わらず、伝搬路の追従性が向上することによって、スループットの向上が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る無線基地局の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る無線基地局の処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に係る無線基地局の無線通信端末に対するタイムスロットの割り当てを示す図である。
【図4】従来技術による無線基地局の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施態様による無線基地局の基本構成を示すブロック図である。図に示すように、無線基地局100は、RF部110、送信部120、受信部130、装置全体の制御を司る制御部140、スロット割当部150、ウェイト算出部160、ウェイト設定部170、移動速度算出部180、記憶部190、およびアダプティブアレイアンテナAAAを具える。制御部140は、自装置とセッションを持った通信相手の無線通信端末に送信すべきデータがある場合は、スイッチSW(分離/合成器)およびアダプティブアレイアンテナAAAを介して当該データを送信するように送信部120を制御する。アダプティブアレイアンテナAAAは、複数のアンテナ素子を有し、各アンテナ素子は、受信部130が受信したアンテナ素子別の受信信号に基づいて、アンテナ素子別に計算されたアンテナウェイト(重み付け)に応じた電波を発射する。
【0013】
スロット割当部150は、無線通信端末へスロット(チャネル)をタイムスロット対として割り当てる。スロット割当部150は、1つの無線通信端末が、多くの帯域を必要とする場合には、複数のタイムスロット対を当該端末に追加で割り当てる。
【0014】
ウェイト算出部160は、受信部130が受信したアンテナ素子別の受信信号に基づいて、アンテナ素子別に計算されたアンテナウェイト(重み付け)を算出する。ウェイト設定部170は、ウェイト算出部160が算出したアンテナウェイトを、無線通信端末へデータを送信する際のウェイトとして設定する。記憶部190は、スロット割当テーブル、タイムスロットの時間差テーブルなどが格納される。
【0015】
移動速度算出部180は、相手の無線通信端末との間の伝搬路変動を判断する要素の1つである、当該無線通信端末の移動速度(相対速度)を算出する。制御部140は、移動速度算出部180で算出された速度が所定の閾値を超えるか否かを判断(即ち、伝搬路が安定しているか否かを判断し)し、判断に応じたタイムスロットの割り当てをスロット割当部150が行うように制御する。
(無線基地局―無線通信端末間の相対移動速度の取得)
無線基地局と無線通信端末との間の相対速度(伝搬路変動を示す値)を得る方法として、信号の到達タイミングより求める方法を説明する。例えば、”High Capacity-Spatial Division Multiple Access (HC-SDMA) WTSC- 2005-032(ATIS/ANSI)”では、無線通信端末は無線基地局の送信するダウンリンク信号に同期させる為に、無線基地局の送信する報知情報チャンネルバーストを定期的にモニタリングして、受信位置を調整する。無線通信端末は受信位置決定後、無線基地局との距離に応じたアップリンク送信タイミングを知る為に、コンフィギュレーションチャネルバーストを無線基地局に送信する。無線基地局はコンフィギュレーションチャネルバーストの受信位置から、本来のアップリンク受信位置との差分情報を含むコンフィギュレーションバーストを無線通信端末に返信する。無線通信端末は無線基地局から得た差分情報を元に送信タイミングの調整を行う。この時無線基地局は、同一無線通信端末の差分情報から当該無線通信端末の自基地局との距離を得る事ができ、かつこの差分情報を過去複数回に渡って記録する制御を行い、その時間的変化を調べる事により、当該無線通信端末の無線基地局からの相対速度を得る事ができる(検出ステップに相当する)。差分情報は無線通信端末でも共有しているため、相対速度の取得は無線通信端末側でも容易に実施可能である。
【0016】
また、TDMA/TDD方式を用いた通信システムでは、同一キャリアであればアップリンクのエアの状態とダウンリンクのエアの状態は同一であるとみなすことができる。このため、送信のアンテナウェイトは受信のアンテナウェイトをそのまま使用する(キャリブレーションは行う)。受信信号のレベルや位相は、フェージングによって時間変動している。この時間変動は無線通信端末が高速で移動している場合に大きくなる。無線通信端末が停止しており、伝搬環境がまったく動かなければ、時間による変動なく、ずっと同じレベルや位相となる。しかし、通常は、伝搬環境は動いているため、受信信号のレベルや位相は時間変化を行うと考えてよい。このような状況の場合、最適なアンテナウェイトはフェージング状況によって変動する。つまり、最適なアンテナウェイトは時間変動する、ということである。特に高速で移動するユーザー端末との通信では、伝搬環境の変動が大きく、受信レベルや位相回転の状態が大きく変動することがある。TDMA/TDDでは、アップリンクのウェイトをそのままダウンリンクに適用できるとされているが、それはこのような時間変動が無視できるという前提が入っているためである。しかしながら、無線通信端末が高速で移動しているような場合には、アップリンク受信時のウェイトがダウンリンク送信時には大きく変わる可能性が高く、このような場合のダウンリンク特性は劣化しやすいと言う特徴がある。
【0017】
例えば、PHSについて説明する。図3に、フレーム構成図を示す。PHSの通信フレームは、5msで構成されており、当該通信フレームには、ともに2.5msで構成されるアップリンク受信区間(UL受信区間)とダウンリンク送信区間(DL送信区間)とを含む。さらに、アップリンク受信区間とダウンリンク送信区間とは、ともに4つのタイムスロット(第1〜4スロット)を含み、無線通信端末には、図3(A)に示すように、タイムスロット対を割り当てている。そのため、各タイムスロット対のアップリンクとダウンリンクの時間間隔は、2.5msとなってしまい、このような状況でウェイトを算出してデータを無線通信端末に送信しても、アダプティブアレイアンテナの性能を十分に活用できているとはいいがたい。そのため、本発明では、以下のタイムスロット割り当てを提案する。
【0018】
本発明の構成では、図3(B)に示すようにアップリンク受信区間とダウンリンク送信区間とに含まれるタイムスロットを、アップリンク受信区間とダウンリンク送信区間との間にあるガードバンドに関して対称となるようなタイムスロット対を割り当てる。そのため、タイムスロット対において、第1スロットが最も離れて配置され、一方、第4スロットが最も近い時間間隔で配置されるようになり、各タイムスロット対の時間間隔を異なるよう設定できる。
【0019】
そして、制御部140は、移動速度算出部180が算出した無線通信端末の移動速度(相対速度)と所定の閾値とを比較して、比較結果をスロット割当部150に出力する。スロット割当部150は、制御部140からの比較結果に基づき、タイムスロット対を割り当てる。このとき、スロット割当部150は、高速で移動しているような無線通信端末には、伝搬路変動の影響を受けにくい、最も近い時間間隔で配置されているタイムスロット対(図3(B)における第4スロット)を割り当てる。一方、スロット割当部150は、移動していない、または、低速で移動しているような無線通信端末には、離れて配置されているタイムスロット対(図3(B)における第1スロット)を割り当てる。ウェイト算出部160は、スロット割当部150が割り当てたタイムスロット対に応じて受信部130が受信したアンテナ素子別の受信信号に基づいて、アンテナ素子別に計算されたアンテナウェイト(重み付け)を算出する。
【0020】
このようなタイムスロットの割り当てを行うことで、アンテナウェイト計算に適した構成になり、その時間差を伝搬路変動の状態に応じて設定できる。よって、従来のタイムスロットの割り当てに比べて、顕著に高い速度耐性、フェージング耐性を持つ、高い通信品質を提供することが可能となる。
【0021】
図2は、本発明の一実施態様による無線基地局で実行される処理のフローチャートである。図に示すように、ステップST1にて無線通信端末の移動速度(相対速度)を算出する。この算出は、無線通信端末が無線基地局との無線通信を開始する場合であったり、無線通信端末との無線通信中に定期的に行ったりする。ステップST2にて、算出した移動速度(相対速度)を複数の所定の閾値と比較する。ステップST3にて、比較結果に応じて、割り当てるタイムスロット対の候補を判断する。ステップST4にて、候補としたタイムスロット対を無線通信端末に割り当てる。
【0022】
なお、割り当て候補と判断されたタイムスロット対が空きスロットでない場合は、順次、次に時間間隔の広いタイムスロット対が空きスロットであるか否かを判定していき、空きスロットがある場合にはタイムスロット対を一旦、割り当て、その後、候補と判断していたり、他の時間間隔の離れていないタイムスロット対が空きスロットとなったりした場合に、当該タイムスロット対に再割り当てするようにしてもよい。
【0023】
なお、本実施例の説明にあたっては、無線基地局と無線通信端末との間の伝搬路変動を判断する要素(伝搬路変動を示す値)の一例として、当該無線基地局と無線通信端末との間の相対速度を挙げたが、これ以外にも、無線基地局が無線通信端末から受信した信号のレベル変動や、受信した信号の位相回転量等によって求めることもできる。具体的には、受信信号のレベル変動が所定の度合いを超えた場合、または、受信信号の位相回転量が所定量を超えて回転した場合には、伝搬路が安定していないと判断し、当該判断された無線通信端末に対して、本発明を適用するように制御してもよい。
【0024】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各部、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0025】
100 無線通信装置、110 RF部、120 送信部、130 受信部、140 制御部、150 スロット割当部、160 ウェイト算出部、170 ウェイト設定部、180 移動速度算出部、190 記憶部、300 基地局、310 第1、第2信号処理部、311,312,313 タイムスロット1〜3制御部、315 RF部、310,320 第1、第2信号処理部、340 制御部、342 リソース管理部、344 アグリゲーション判断部、AAA アダプティブアレイアンテナ、ANT1,ANT2 アンテナ素子、SW スイッチ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを具え、時分割多元接続/時分割複信方式で無線通信端末との間で無線通信を行う無線基地局であって、
前記無線通信端末における伝搬路変動を示す値を検出する検出部と、
1フレーム内に含まれる、上りタイムスロットと下りタイムスロットとの時間間隔がそれぞれ異なる複数のタイムスロット対のいずれかを、前記検出部で検出された前記伝搬路変動を示す値に応じて前記無線通信端末に割り当てる割当部と、
を有することを特徴とする無線基地局。
【請求項2】
請求項1に記載の無線基地局であって、
前記割当部で割り当てられた前記上りタイムスロットについて前記複数のアンテナで受信した信号に基づいて算出される各アンテナ受信ウェイトを、前記割り当てられた下りタイムスロットで用いる送信ウェイトに設定するウェイト設定部と、
をさらに有することを特徴とする無線基地局。
【請求項3】
複数のアンテナを具え、時分割多元接続/時分割複信方式で無線通信端末との間で無線通信を行う無線基地局の無線通信方法であって、
前記無線通信端末における伝搬路変動を示す値を検出する検出ステップと、
1フレーム内に含まれる、上りタイムスロットと下りタイムスロットとの時間間隔がそれぞれ異なる複数のタイムスロット対のいずれかを、前記検出した前記伝搬路変動を示す値に応じて前記無線通信端末に割り当てる割当ステップと、
を有することを特徴とする無線通信方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−250148(P2011−250148A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121383(P2010−121383)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】