説明

無線用ICタグを備える口腔内装着器具および口腔内装着器具探索システム

【課題】無線用ICタグを備える口腔内装着器具から発生される電波が、使用者の生体に対して及ぼす健康被害を防止する。
【解決手段】使用者が口腔内に口腔内装着器具を装着しているときには電波の発信回路を切断することにより、口腔内装着器具の装着時における使用者の健康被害を防止するという知見に基づく。具体的に、無線用ICタグを備える口腔内装着器具は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに回路を切断し、口腔内装着器具が口腔内から外されたときに回路を接続する回路開閉手段を含む無線用ICタグを有する口腔内装着器具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内装着時に発信回路が切断され、装着していないときに発信回路のスイッチが入る無線信号を発信する無線用ICタグを備える口腔内装着器具に関する。また、本発明は、無線信号を発信する無線用ICタグを備える口腔内装着器具と、口腔内装着器具が発信した信号を検知し口腔内装着器具の所在を探索するリーダを有する口腔内装着器具探索システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の高齢化は著しく進んでおり、65歳以上の老年人口は、全人口の20%を超え、いまや世界第一位の高齢者を抱える国になった。このような高齢化に伴い、口腔内装着器具としての義歯の需要も拡大している。
【0003】
年齢とともに記憶力が衰え物忘れが増えてくるため、介護施設などでも高齢者が取り外した義歯を置いた場所を失念するという問題が増加している。特に、有床義歯(局部床義歯、全部床義歯を含む)は、床部の樹脂の衛生状態を保つことが、装着者の健康を保つ上で重要であり、着脱の頻度も高い。このため、特に置き忘れが多い傾向にある。また、口腔内への着脱が可能な矯正治療器具も、同様に洗浄を行うために取り外した際に、どこかに置き忘れるという問題があった。そこで、例えば義歯や矯正治療器具のような患者が自ら着脱可能な口腔内装着器具にGPSなどのマイクロチップを埋入させることにより、口腔内装着器具の所有者を特定したり、取り外された口腔内装着器具の所在を探索する技術が存在する(例えば特許文献1)。
【0004】
しかし、口腔内に装着する器具へのチップの埋入は様々な問題を引き起こす。
【0005】
一つは、GPSは室内では感度が異常に低くなり、精度に欠けるだけでなく、場合によっては検知できないこともあるという点である。
【0006】
次に、チップから発生する電波の問題である。つまり、口腔内装着器具内のチップから発生する電波が、使用者の口腔内のみならず生体全体に対して健康被害を生じさせるという問題である。
【0007】
さらに、口腔内装着器具内のチップへの電力供給のための電源の確保の問題である。例えば、電源として口腔内に電池を組み込んだ場合、いずれ電池の交換が必要となる。口腔内装着器具内の電池の交換作業は防水などの問題もあり、使用者自身が行うことは困難であるため、多くは使い捨て状態となり、探索機能のみならず、治療という面も含めて口腔内装着器具が十分な機能を果たすことができなくなる。つまり、通常は口腔内装着器具内に組み込んだGPSチップなどを機能させるためには常時もしくは間歇的かつ持続的に電波を発生させる必要があり、電池の消耗が激しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−253481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、口腔内への装着/非装着を契機として無線送信の停止/開始を制御する、より具体的には、回路開閉手段を組み込むことにより無線用ICタグを備える口腔内装着器具から発生する電波が使用者の生体に対して及ぼす健康被害を防止することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、口腔内装着器具内のチップの電力消費を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基本的には、使用者が口腔内に口腔内装着器具を装着しているときには電波の発信回路を切断し、装着による使用者の健康被害を防止し、かつ、チップの電力消費を抑える。つまり、本発明では、口腔内装着器具が口腔内に装着されているときには、発信回路が切断されており、口腔内装着器具が口腔外へ取り出されて非装着になると発信回路が接続されることにより常時もしくは探索無線波を感知したときに無線信号を発信する。
【0012】
本発明の口腔内装着器具は、無線用ICタグを備える口腔内装着器具である。無線用ICタグ100は、情報を記録するICチップ10と、ICチップ10に記録されている情報を無線で送信するアンテナ20と、からなり、さらに口腔内装着時に回路を切断し、口腔外に取り出されて非装着になったときに回路を接続する回路開閉手段40に接続する回路30を含む。回路30はセミパッシブおよびアクティブタイプのICタグでは電力の供給の役割も担う。
【0013】
このように、本発明による口腔内装着器具は、無線用ICタグ100が回路開閉手段40を備えていることにより、装着時においては電波の発生をせず、取り外し時においては電波を発生させる。すなわち、口腔内装着器具の装着時においては電波が発生しないため、使用者の健康を害することがない。また、口腔内装着器具の装着時においては回路が切断されているため、チップによる電力消費を抑制し、セミパッシブおよびアクティブタイプの無線用ICタグでの電池の長寿命化にも寄与する。また、無線用ICタグ100は、薄いシート状に成形されており、例えば義歯の薄いレジン部であっても容易に収納することができ、義歯が口腔内装着時に使用者が違和感を感じることはない。
【0014】
本発明の第1の態様において、回路開閉手段40は、物理的手段によって回路を開閉する。例えば、マイクロスイッチである。すなわち、回路開閉手段40は、回路を開閉するスイッチ44と、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときにスイッチ44を押圧しスイッチ44に回路を切断させる押圧手段50を含む。
【0015】
具体的に、押圧手段50は、口腔内の水分を吸水し膨張することによってスイッチ44を押圧し、吸収した水分が乾燥することによって収縮する吸水性膨張部材であってもよい。
【0016】
また、具体的に、押圧手段50は、磁力によってスイッチ44を押圧する磁石であってもよい。
【0017】
本発明の第2の態様において、回路開閉手段40は、リレーである。つまり、電波の発信回路は、リレーを利用して電気的に開閉される。リレーは、口腔内装着器具を口腔内に装着したときにのみ発電を行う発電手段42と、発電手段42が発電を行うことにより回路を切断するリレー内のスイッチ44を含む。
【0018】
具体的に、発電手段42は、熱電変換素子46であってもよい。熱電変換素子46は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに、口腔粘膜に接する接触面46aと、口腔粘膜に接しない非接触面46bを有する。これにより、熱電変換素子46は、接触面46aの温度と非接触面46bの温度の温度差によって発電を行う。
【0019】
また、具体的に、発電手段42は、水電池48であってもよい。水電池48は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに、口腔内の水分によって発電を行う。
【0020】
本発明に係る口腔内装着器具探索システムは、上記した無線用ICタグを備える口腔内装着器具と、無線用ICタグ100が発信する電波を受信しICチップ10に記録されている情報を読み取るリーダを含む。
【0021】
本発明に係る口腔内装着器具探索システムにおいて、無線用ICタグ100は、リーダから発信された電波を受信し、受信した電波を起電力に変換し、リーダに対して、IDチップ10に記憶されている情報を発信するパッシブ型のICタグであってもよい。
【0022】
また、本発明に係る口腔内装着器具探索システムにおいて、無線用ICタグ100は、リーダから発信された電波を受信し、電波を受信したことを契機として内蔵されている電源を作動させ、リーダに対して、IDチップ10に記憶されている情報を発信するセミパッシブ型のICタグであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上のように本発明は、口腔内装着器具の装着時においては電波の発信回路が切断されているため、口腔内装着器具から発生する電波が使用者の生体に対して及ぼす健康被害を防止することができる。
【0024】
また、本発明は、口腔内装着器具の装着時においては回路が切断されているため、口腔内装着器具内に埋入されたチップの電力消費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明に用いられる無線用ICタグの回路図の例を示している。図1では、回路がパッシブ型RFID構造である場合の例を示している。
【図2】図2は、本発明に用いられるパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図2では、回路開閉手段として、スイッチの押圧手段が用いられた場合の例を示している。
【図3】図3は、本発明に用いられるパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図3では、押圧手段として、磁石が用いられた場合の例を示している。
【図4】図4は、本発明に用いられるパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図4では、スイッチを押す手段として、吸水膨張部材が用いられた場合の例を示している。
【図5】図5は、本発明に用いられるパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図5では、発電手段として熱電変換素子が用いられた場合の例を示している。
【図6】図6は、本発明に用いられるパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図3では、発電手段として水電池が用いられた場合の例を示している。
【図7】図7は、セミパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。
【図8】図8は、本発明に用いられるセミパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図8では、回路開閉手段として、スイッチの押圧手段が用いられた場合の例を示している。
【図9】図9は、本発明に用いられるセミパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図9では、発電手段として熱電変換素子が用いられた場合の例を示している。
【図10】図10は、本発明に用いられるセミパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図10では、発電手段として水電池が用いられた場合の例を示している。
【図11】図11は、本発明に用いられるセミパッシブ型RFID構造の無線用ICタグの回路図の例を示している。図11では、発電手段として熱電変換素子が用いられ、電源部分を別回路にした場合の例を示している。
【図12】図12は、本発明に用いられるセミパッシブ型RFID構造無線用ICタグの回路図の例を示している。図12では、発電手段として水電池が用いられ、電源部分を別回路にした場合の例を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、当業者にとって自明な範囲内で適宜変更したものを含む。
【0027】
ここで、口腔内装着器具には、義歯が含まれる。また、口腔内装着器具には、前歯の叢生を治療するために用いられる着脱可能な床矯正器具や、上下顎の顎関係を改善するための着脱可能なアクチバトールやバイオネータや保定装置であるトウースポジジョナーやリテーナーおよび顎関節症の治療に用いるマウスピースなどが含まれる。
【0028】
本発明に係る口腔内装着器具には、RFID(Radio Frequency IDentification)のICタグ100が備えられる。ICタグ100は、口腔内装着器具が口腔内に装着されている場合には回路が切断され、無線信号を発信しない。一方、ICタグ100は、口腔内装着器具が口腔内から取り外されている場合には回路が接続され、無線信号を発信することが可能である。ICタグ100は、専用のリーダからの信号を受信したことを契機として、リーダに対して、ICチップに記録されている情報を無線信号により送信する。口腔内装着器具から発信された無線信号は、リーダによって受信される。リーダは、口腔内装着器具からの無線信号を受信すると、口腔内装着器具からの信号を解析し、信号の発信源である口腔内装着器具の所在を検知又は特定する。すなわち、無線信号を受信したリーダから音声が発せられたり、ランプが点灯又は点滅したり、表示画面にメッセージや情報が表示されたり等、リーダの操作者に口腔内装着器具の存在を知覚し得る方法によって、口腔内装着器具の所在を特定することができる。
【0029】
口腔内装着器具内に埋入又は装着されたICタグ100は、例えば、ICタグ100に加わる物理的な押圧力または口腔内の温度や水分によって、無線信号発信回路の開閉を行う。従って、ICタグ100は、回路を開閉する機構に応じた配置で、口腔内装着器具に埋入又は装着される。また、無線用ICタグ100は、占有面積が小さく、そして、薄くシート状に形成されるものであるため、例えば義歯などの薄いレジン部であっても容易に収納することができる。無線用ICタグ100は、例えば、その厚みが0.3mm〜2mm程度のものが使用される。無線用ICタグ100は、例えば、口腔内装着器具におけるレンジ部に埋入され、又は口腔内装着器具と口腔粘膜の間に装着されることにより、口腔内装着器具に取り付けられる。無線用ICタグ100は、薄くシート状に形成されるものであるため、口腔内に装着されたとしても使用者に対して違和感を与えることはない。
【0030】
ここで、ICタグ100の回路は、パッシブ型、セミパッシブ型又はこれに順ずる構造を有する。パッシブ型のICタグ100は、リーダから発信された電波を受信する。そして、受信した電波を、例えばアンテナのコイルやショットキーダイオードにより起電力に変換し、リーダに対して、IDチップ内の情報を発信する。従って、パッシブ型のICタグには、電源(例えば電池)が不要であるため、電源が口腔内の粘膜に接触する危険性はない。また、セミパッシブ型のICタグは、リーダから発信された電波を受信し、これを契機としてICタグ内の電源を作動させる。そして、電源からの電力を利用し、リーダに対して、IDチップ内の情報を発信する。ICタグから発せられた電波は、パッシブ型であれば半径約数m、セミパッシブ型であれば半径約30mの範囲まで情報を送信することが可能である。
【0031】
口腔内外での回路の開閉は、アンテナ部分などのICタグ100内の回路の開閉により行われる。すなわち、回路が切断されている状態においては、リーダからの信号を受信することができない。従って、このような状態において、ICタグは、電波を発信することもない。また、回路が切断された状態においては、ICタグは発電することもできない。このため、回路は完全なオフ状態となる。一方、アンテナ部分の回路が接続されると、ICタグは、リーダからの信号を受信することができるようになる。従って、回路が接続されている状態において、ICタグは、発電し、リーダに対して信号を発信することができる。
【0032】
図1は、無線用ICタグの回路図の例を示している。特に、図1では、パッシブ型構造のICタグの回路の例を示している。図1に示すICタグ100は、情報を記録するICチップ10と、ICチップ10に記録されている情報を無線で送信するアンテナ20と、ICチップ10及びアンテナ20に電流を流す回路30を含んでいる。ICチップ10には、ICタグの個体識別情報が記録されている。個体識別情報は、回路30を介して電力が印加されることによりアンテナ20からリーダへ送信される。アンテナ20は、小型で共振性が高いものを用いることが好ましく、例えば巻線(コイル)、エッチング、メッキ、又は印刷方式のものが用いられる。ICチップ10とアンテナ20の接続は、例えば、ICチップ10を乗せた薄く微細な基板をアンテナ20の両極端子に接続することにより行われる。
【0033】
以下に説明する図4〜図6では、回路開閉手段49として物理的に回路の開閉方法を用いたパッシブ型のICタグの例を示している。
【0034】
図2に示すICタグ100には、回路開閉手段40として、スイッチ40に取り付けられた押圧手段50が用いられている。押圧手段50は、例えば、マイクロスイッチや、プラスチック片、金属片が用いられる。押圧手段50は、口腔内装着器具が口腔外にあるとき、スイッチ40を押圧しない。従って、スイッチ30は、口腔内装着器具が口腔外にあるとき、回路を接続している。回路が閉じている状態において、ICタグ100は、アンテナ20を介して無線信号をリーダに送信することができる。一方、口腔内装着器具が口腔内に装着されたとき、押圧手段50は、スイッチ40を押圧する。従って、押圧されたスイッチ40は、回路を切断する。これにより、回路が開いた状態となり、ICタグ100は、無線信号の発信ができなくなる。物理的な回路開閉手段40を有するICタグは、口腔内装着器具を口腔内に装着したときに押圧手段50がスイッチを押圧するように、口腔内装着器具の粘膜面に装着又は埋入される。
【0035】
図3に示すICタグ100においては、押圧手段50として2つの磁石52が用いられている。2つの磁石52のうちの一つは、スイッチ40に取り付けられている。また、他方の磁石52は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときにスイッチ40に取り付けられた磁石52に近接する位置に配設されている。そして、2つの磁石52は、互いに反発しあう向きで対向するように配設されている。従って、口腔内装着器具が口腔内に装着されると2つの磁石52の間に磁力によって、スイッチ40が押圧され、スイッチ40は回路を切断する。一方、口腔内装着器具が口腔外に取り外されると、2つの磁石の距離が離れるため、スイッチ40は回路を接続する。このように、磁力を利用して回路の開閉を行う場合、押圧手段50がスイッチ40に直接接触しないため、防水処理が容易であるという利点がある。
【0036】
図4に示すICタグ100においては、押圧手段50として吸水膨張部材54が用いられている。吸水膨張部材54には、吸水すると体積が膨張する樹脂、例えばナイロン樹脂が用いられる。吸水膨張部材54は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに口腔内の水分(唾液)を吸収し、体積を膨張させる。吸水により体積が膨張した吸水膨張部材54は、スイッチ40を押圧し、スイッチ40は回路を切断する。一方、口腔内装着器具が口腔外へ取り外されると、吸水膨張部材54が吸収した水分は蒸発し、部材は乾燥する。吸水膨張部材54は乾燥すると体積を収縮させ、スイッチ40を押下しなくなる。これにより、スイッチ40は、回路を再び接続する。吸水膨張部材54を備えるICタグは、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに、吸水膨張部材54が水分(唾液)接するように、口腔内装着器具に装着又は埋入される。
【0037】
以下に説明する図5および図6では、回路開閉手段49としてリレーを用いたパッシブ型のICタグの例を示している。リレーは、発電手段と、電気信号を受け機械的な動きに変える電磁石と、電気を開閉するスイッチで構成された回路開閉手段である。パッシブ型のICタグ100は、リーダから発信された電波を受信し、受信した電波を起電力に換え、リーダに対して、IDチップ内の情報を発信する。
【0038】
図5および図6に示すICタグ100には、回路開閉手段40として、リレーが用いられている。リレーとしての回路開閉手段40は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに発電を行う発電手段42が発電を行うことにより回路を切断するリレー内のスイッチ44を備えている。発電手段42が発電を行うと、発電手段42に接続された端子間に電力が発生する。端子間は、例えばコイルによって連結されている。発電手段42に接続されている端子間にはスイッチ44が配設されており、端子間に発生した電磁力を受け、回路を開閉する。図5および図6に示す例では、発電手段42が発電し、端子間に電力が生じている場合を示している。この場合においては、図5および図6に示すように、スイッチ44が回路を切断する方向に引きつけられ、ICタグ100の回路はオフの状態となる。一方、発電手段42による発電が止まり端子間の電力がなくなると、スイッチ44はICタグの回路を接続する。発電手段としては、例えば、熱電変換素子や、水電池、又は圧電変換素子などが用いられる。なお、図1に示す例においては、ICタグの回路が、1つのリレーによって構成されているが、リレーは1つの回路に対し、複数設けられることとしてもよい。
【0039】
図5に示すICタグ100においては、発電手段として熱電変換素子46が用いられている。熱電変換素子は、熱と電力を変換するものであり、例えばペルチェ素子が用いられる。熱電変換素子46は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに口腔粘膜に接する接触面46aと、口腔粘膜に接しない非接触面26bからなる。接触面46aの温度は、口腔粘膜に接することによって約37度となり、粘膜に接していない非接触面46bとの間に温度差が生じる。このように、熱電変換素子46の面に温度差が生じると、ペルチェ効果により、電力が流れ、発電効果が生まれる。このようにして、熱電変換素子46が発電を行うことより、これに接続された2つの端子の間に電磁力が発生する。そして、図5に示すように、端子間に配設されたスイッチ44は、電磁力を受けて回路を切断する。一方、口腔内装着器具が口腔外へ取り外されると、熱電変換素子46の接触面46aと非接触面46bの温度は略同一となるため、発電は止まる。これにより、熱電変換素子46に接続された端子間の電力がなくなり、スイッチ44の電磁力もなくなり、ICタグの回路を接続する。熱電変換素子46を用いたICタグは、接触面46aが口腔内の粘膜に接し非接触面46bが粘膜に接しないように、口腔内装着器具に装着又は埋入される。
【0040】
図6に示すICタグ100においては、発電手段として水電池48が用いられている。水電池48としては、例えば、マグネシウムと炭素の間に塩分を含んだ活性炭が嵌入されたものが用いられる。水電池48は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたとき、口腔内の水分(唾液)を利用して発電する。このようにして、水電池48が発電を行うことより、これに接続された2つの端子の間に電磁力が発生する。そして、図3に示すように、端子間に配設されたスイッチ44は、電磁力を受けて回路を切断する。一方、口腔内装着器具が口腔外へ取り外されると、水電池48内の水分が蒸発し、水電池48が乾いた状態となるため発電が止まる。これにより、水電池48に接続された端子間の電磁力がなくなり、スイッチ44はICタグの回路を接続する。水電池48を用いたICタグは、口腔内装着器具が口腔内に装着されたときに、水電池48が水分(唾液)接するように、口腔内装着器具に装着又は埋入される。
【0041】
以下に説明する図7〜図10では、回路開閉手段49として物理的な開閉手段またはリレーを用いたセミパッシブ型のICタグの例を示している。リレーは、発電手段と、電気信号を受け機械的な動きに変える電磁石と、電気を開閉するスイッチで構成された回路開閉手段である。物理的な開閉手段としては、例えばスイッチを押圧する押圧手段50を用いられる。また、セミパッシブ型のICタグ100は、リーダから発信された電波を受信し、これを契機としてICタグ内の電源を作動させ、電源からの電力を利用し、リーダに対して、IDチップ内の情報を発信する。図7の場合の電源は充電池を使用する。この場合、電磁誘導を応用した非接触型の充電ができるものが好ましい。
【0042】
図8は、図2−4に示すパッシブ型のICタグを、セミパッシブ型とした場合の例を示している。図8に示すICタグ100においては、回路変換手段40として押圧手段50が用いられている。押圧手段50の例は、口腔粘膜に対する物理的な押圧手段や磁石や吸水膨張部材である。押圧手段50は、口腔内装着器具が口腔内に装着された際に、スイッチ44を押圧する。押圧手段50により押圧されたスイッチ44は、回路を切断する。また、ICタグ100は、例えば熱電変換素子や水電池、圧電変換素子のような発電手段42と、例えば充電池やコンデンサのような電源60を備える。発電手段42は、口腔内装着器具が口腔内に装着されたことき、例えば口腔内の温度や水分、圧力を利用して発電を行う。この発電手段42としては、複数種類のものを複数設けることとしてもよい。発電手段42により発電した電力は、電源60に蓄電される。電源60は、ICチップ10も接続されており、リーダからの信号を受信したことを契機として作動する。そして、電源60からICチップに供給される電力を利用し、リーダに対して、ICチップに記録されている個体識別情報を送信する。
【0043】
図9は、図5に示すパッシブ型のICタグを、セミパッシブ型とした場合の例を示している。図9に示すICタグ100においては、リレーの発電手段として、例えばペルチェ素子のような熱電変換素子46が用いられている。熱電変換素子46は、接触面46aと非接触面46bの間に温度差が生じた際に発電し、熱電変換素子46に接続された2つの端子間に電力を発生させる。2つの端子は、例えばコイルによって連結されている。2つの端子の間には、スイッチ44が配設されており、スイッチ44は、電磁力により回路を切断する。また、電磁力を発生させる2つの端子には、例えば充電池やコンデンサのような電源60が接続されている。電源60から供給される電力は、スイッチ44に回路を切断させるための電力として利用される。このように、熱電変換素子46のみの発電で電力が足りない場合には、電源60と併用して発電量を補助させることとしてもよい。また、口腔内装着器具が口腔内に装着されたことによって発電手段42が発電した電力は、電源60に蓄電しておくこととしてもよい。一方、電源60は、ICチップ10にも接続されている。このような構造のセミパッシブ型のICタグは、リーダからの信号を受信したことを契機として、電源60を作動させる。そして、電源60からICチップ10に供給される電力を利用し、リーダに対して、ICチップ10に記録されている個体識別情報を送信する。
【0044】
図10は、図6に示すパッシブ型のICタグを、セミパッシブ型とした場合の例を示している。図10に示すICタグ100においては、発電手段として水電池48が用いられている。水電池48は、口腔内の水分(唾液)を利用して発電し、熱電変換素子46に接続された2つの端子間に電磁力を発生させる。2つの端子の間には、スイッチ44が配設されており、スイッチ44は、電磁力を受け回路を切断する。また、電磁力を発生させる2つの端子には、例えば充電池やコンデンサのような電源60が接続されている。電源60から供給される電力は、スイッチ44に回路を切断させるための補助電力として利用される。また、口腔内装着器具が口腔内に装着されたことによって発電手段42が発電した電力は、電源60に蓄電しておくこととしてもよい。一方、電源60は、ICチップ10にも接続されており、リーダからの信号を受信したことを契機として作動する。そして、電源60からICチップに供給される電力を利用し、リーダに対して、ICチップに記録されている個体識別情報を送信する。
【0045】
以下に説明する図11および図12では、回路開閉手段49としてリレー用いたセミパッシブ型のICタグの例を示している。特に、図11および図12の例においては、回路開閉のための発電システムと、電源60を充電するための発電システムが、別の回路として設けられた場合の例を示している。
【0046】
図11は、図9に示すセミパッシブ型のICタグにおける回路開閉のための発電システムと電源60を充電するための発電システムを、別の回路として構築した場合の例を示している。図11に示すICタグ100においては、回路開閉のための発電手段として、例えばペルチェ素子のような熱電変換素子46が用いられている。熱電変換素子46は、接触面46aと非接触面46bの間に温度差が生じた際に発電し、熱電変換素子46に接続された2つの端子間に電磁力を発生させる。2つの端子の間には、スイッチ44が配設されており、スイッチ44は、電磁力により回路を切断する。一方、回路開閉のための発電手段とは別に、電源60を充電するための発電手段42が設けられている。発電手段42は、例えば熱電変換素子や水電池、圧電変換素子であり、口腔内の温度や水分、圧力を利用して発電を行う。この発電手段42としては、複数種類のものを複数設けることとしてもよい。発電手段42により発電された電力は、電源60に蓄電される。電源60は、ICチップ10に接続されており、リーダからの信号を受信したことを契機として、作動する。そして、電源60は蓄電された電力をICチップ10に供給し、ICタグ100は、リーダに対して、ICチップ10に記録されている個体識別情報を送信する。
【0047】
図12は、図10に示すセミパッシブ型のICタグにおける回路開閉のための発電システムと電源60を充電するための発電システムを、別の回路として構築した場合の例を示している。図12に示すICタグ100においては、回路開閉のための発電手段として、水電池48が用いられている。水電池48は、口腔内の水分を利用して発電し、熱電変換素子46に接続された2つの端子間に電磁力を発生させる。2つの端子の間には、スイッチ44が配設されており、スイッチ44は、電磁力により回路を切断する。一方、回路開閉のための発電手段とは別に、電源60を充電するための発電手段42が設けられている。発電手段42は、例えば熱電変換素子や水電池、圧電変換素子であり、口腔内の温度や水分、圧力を利用して発電を行う。この発電手段42としては、複数種類のものを複数設けることとしてもよい。発電手段42により発電された電力は、電源60に蓄電される。電源60は、ICチップ10に接続されており、リーダからの信号を受信したことを契機として、作動する。そして、電源60は蓄電された電力をICチップ10に供給し、ICタグ100は、リーダに対して、ICチップ10に記録されている個体識別情報を送信する。
【0048】
ここで、口腔内装着器具が備える無線用ICタグ100が発信する電波を受信し、ICチップ10に記録されている情報を読み取るリーダは、ICタグ100に対して、信号の送受信が可能なものであればよい。リーダの例は、携帯型端末、パーソナルコンピュータ、及び携帯電話である。また、リーダの表示画面に、無線用ICタグを備える口腔内装着器具の位置を表示させることとしても良い。その他、口腔内装着器具探索システムに用いられるリーダとしては、公知のものを採用することができる。
【実施例1】
【0049】
本発明の実施例1を説明する。実施例1では無線用ICタグが実際に義歯などの樹脂内に設置した場合に認識できるかどうかを確認した。無線用ICタグのリーダーとしてメインモジュールRB-101(雪岡製作所、 13.56MHz)、RS-232Cボード RB-101Sub (雪岡製作所) アンテナ各種 RA-100、 101、 102、 103、 104(雪岡製作所)を使用した。ICタグとしては、フィルム状のRT-003(25×50mm、 ユーザーメモリサイズ 2048bit、 準拠規格 ISO/IEC15693-2、 雪岡製作所販売、 テキサスインスツルメンツ社製)、コイン型のRT-021(22mmφ、 ユーザーメモリサイズ 2048bit、 準拠規格 ISO/IEC15693-2、 雪岡製作所販売、 テキサスインスツルメンツ社製)、 フィルム状円形のRT-P05(22mmφ、 ユーザーメモリサイズ 256bit、 準拠規格 ISO/IEC15693-2、 雪岡製作所販売、 テキサスインスツルメンツ社製)を使用した。使用したICタグはパッシブ型であった。義歯などの口腔内の装着する可撤式の治療装置に使用されるほとんどの樹脂はPMMA系のものである。そのため、無線用ICタグをPMMAの約2mm厚の板で挟み、その上でリーダーがICタグを認識できるかどうかを調べた。その結果を表1に示す
【0050】
【表1】

【0051】
表1からわかるようにPMMAの板でICタグを挟んでもリーダーはその情報を読み取り、また、情報の書き込み、書き換えもできることがわかった。
【実施例2】
【0052】
次に、本発明の実施例2を説明する。実施例2では、フィルム状のICタグRT-003の回路の一部を切断し、その部分にマイクロスイッチAM50642C3F(松下電工社製)を挿入し、そのスイッチをON/OFFした場合にPMMAに挟まれたICタグがリーダーに認識されるかどうかについて調べた。口腔内では電波を発生させず、患者が装置をはずした場合に装置を認識することを想定した回路を組んだ結果、マイクロスイッチを押さないとリーダーはICタグを認識し、マイクロスイッチを押すと認識できなかった。このマイクロスイッチのON/OFFする方法としては、口腔粘膜や歯などの口腔内組織に直接接する方法と接しない方法がある。そこで、間接的な方法として吸水性樹脂によるスイッチングが可能かどうかを調べた。その結果、スイッチングが可能なことがわかった。吸水膨張性樹脂の体積変化の結果とスイッチングの結果を表2および表3に示す。このことは、口腔内では電波を発生させず患者が装置をはずした場合に装置を認識することを意味している。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【実施例3】
【0055】
次に、本発明の実施例3を説明する。実施例3では、フィルム状のICタグRT-003の回路の一部を切断し、口腔内では電波を発生させず、患者が装置をはずした場合に装置を認識することを想定しリレー(3V小型リレー Y14H-1C-3DS、 接点容量1A、 Hsinda precision社製)を回路に組み込み、ペルチェ素子や水電池などによるスイッチングができるかどうかを調べるために乾電池(単3型1.5V)を使用してリレーの有効性について調べた。その結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
表4からわかるように、リレーに電気が通っているときにはリーダーはICタグを認識せず、通電すると認識した。このことは、ペルチェ素子、水電池、圧電素子などで口腔内で発電しているときはICタグは電波を発生させず、患者が装置をはずした場合に装置を認識することを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、無線信号で情報を発信することができる口腔内装着器具として利用することができる。また、本発明は、取り外された口腔内装着器具の所在を、リーダを用いて特定する口腔内装着器具探索システムとして利用することができる。従って、例えば、介護施設や老人ホームといった高齢者の介護の現場や、歯列の矯正治療を行う歯科医院において好適に利用しうる。
【符号の説明】
【0059】
10 ICチップ
20 アンテナ
30 回路
40 回路開閉手段
42 発電手段
44 スイッチ
46 熱電変換素子
46a 口腔粘膜への接触面
46b 非接触面
48 水電池
50 押圧手段
52 磁石
54 吸水膨張部材
60 電源
100 無線用ICタグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を記録するICチップと、前記ICチップに記録されている情報を無線で送信するアンテナと、を含む無線用ICタグを備える口腔内装着器具であって、
前記無線用ICタグは、口腔内の装着/非装着を契機として、前記アンテナを介した前記ICチップからの情報の送信を停止/開始することを特徴とする無線用ICタグを備える口腔内装着器具。
【請求項2】
前記無線用ICタグは、前記ICチップ及び前記アンテナを電気的に接続する回路を備え、
口腔内の装着を契機として前記回路を切断し、口腔内の非装着を契機として前記回路を接続する回路開閉手段を備えることを特徴とする請求項1記載の無線用ICタグを備える口腔内装着器具。
【請求項3】
前記無線用ICタグは、口腔内の装着を契機として発電を行う発電手段を備え、
前記回路開閉手段は、前記回路又は前記発電手段への通電を制御するスイッチング手段を有し、前記発電手段による発電を契機として前記スイッチング手段を制御することを特徴とする請求項2記載の無線用ICタグを備える口腔内装着器具。
【請求項4】
前記発電手段は、口腔内の口腔粘膜の接触/非接触による温度差によって発電を行う熱電変換素子又は口腔内の水分によって発電を行う水電池であることを特徴とする請求項3記載の無線用ICタグを備える口腔内装着器具。
【請求項5】
前記回路開閉手段は、口腔内の装着を契機として押圧される押圧手段を有し、
前記押圧手段の押圧状態で前記回路を切断し、前記押圧手段の離反状態で前記回路を接続することを特徴とする請求項2記載の無線用ICタグを備える口腔内装着器具。
【請求項6】
前記押圧手段は、磁力によって押圧する磁石又は口腔内の水分によって膨張収縮する吸水性部材であることを特徴とする請求項5記載の無線用ICタグを備える口腔内装着器具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の無線用ICタグを備える口腔内装着器具と、
前記無線用ICタグが発信する電波を受信し、前記ICチップに記録されている情報を読み取るリーダと、
を含む口腔内装着器具探索システム。
【請求項8】
前記無線用ICタグは、前記リーダから発信された電波を受信し、受信した電波を起電力として、前記リーダに対して前記ICチップに記録されている情報を発信するパッシブ型のICタグであることを特徴とする請求項7記載の口腔内装着器具探索システム。
【請求項9】
前記無線用ICタグは、前記リーダから発信された電波を受信し、電波を受信したことを契機として内蔵されている電源を作動させ、前記リーダに対して前記ICチップに記録されている情報を発信するセミパッシブ型のICタグであることを特徴とする請求項9記載の口腔内装着器具探索システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate