無線送信装置、無線受信装置、無線通信システムおよび集積回路
【課題】コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、移動局装置の複雑性の改善と、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量の抑圧を実現する。
【解決手段】複数の送信アンテナを備え、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する無線送信装置であって、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用し、前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なう。
【解決手段】複数の送信アンテナを備え、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する無線送信装置であって、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用し、前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信技術に関し、特に、コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
第3.9世代無線伝送方式として3rd Generation Partnership Project(3GPP)において標準化が進められたLong Term Evolution(LTE)では、第3世代無線伝送方式からの大幅な周波数利用効率の改善のために、複数の送受信アンテナを用いて無線伝送を行なうMultiple Input Multiple Output(MIMO)技術が仕様化された。MIMO技術の一つである空間多重(SM)技術により、周波数帯域幅を拡大することなく、伝送速度の向上が実現できる。また、LTEの発展版であるLTE-Advanced(LTE-A)が、第4世代無線伝送方式のひとつとして国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R)より承認され、その標準化活動が活発に行なわれている。LTE-Aでは下りリンク(基地局装置→移動局装置)伝送のピーク伝送速度1Gbpsを達成するために、最大8ストリームを空間多重可能なシングルユーザMIMO(SU-MIMO)が検討されている。SU-MIMOは複数送信アンテナを有する基地局装置と複数受信アンテナを有する単一移動局装置とのMIMO伝送である。
【0003】
MIMO伝送は、送信装置で伝搬路情報(CSI)を要求する閉ループ型MIMO伝送と、CSIを必要としない開ループ型MIMO伝送とに大別され、閉ループ型MIMOは開ループ型MIMOよりも優れた周波数利用効率が達成できることが報告されている。しかし、上下リンクで異なる搬送波周波数を用いる周波数分割複信(FDD)に基づく無線通信システムの場合、基地局装置がCSIを取得するためには、移動局装置よりCSIをフィードバックする必要があり、オーバーヘッドが大幅に増加してしまうという問題がある。
【0004】
そこで、LTEでは、非特許文献1に記載されているようにCSIの通知にかかるオーバーヘッド量を大幅に抑圧することができるコードブックベースの閉ループ型MIMO伝送がサポートされている。コードブックベースの閉ループ型MIMOでは、基地局装置と移動局装置の間で複数の線形フィルタが記載されたコードブックを予め共有しておき、移動局装置は所望の送信フィルタを前述のコードブックより抽出し、その番号(インデックス)を基地局装置に通知する。基地局装置は、通知された線形フィルタに基づき、送信データに対してプリコーディングを行なったのち、MIMO伝送を行なう。コードブックに基づきCSIを通知するため、CSIそのものを移動局装置が通知する方法と比較して、オーバーヘッドの量を大幅に抑圧することが可能である。しかし、移動局装置が所望の送信フィルタを抽出するためには、コードブック記載の全ての線形フィルタについて受信品質(受信信号対雑音電力比(受信SNR)、受信信号対干渉+雑音電力比(受信SINR)、または通信容量(キャパシティ)等)を算出し、その結果を比較する必要があるため、移動局装置の負担が大きくなってしまう。
【0005】
一方、同時接続する複数移動局装置を仮想的な大規模アンテナアレーとみなし、基地局装置から各移動局装置への送信信号を空間多重させるマルチユーザMIMO(MU-MIMO)がLTEでサポートされており、これもまたコードブックベースによるものである。SU-MIMOと同様に、MU-MIMOでも、移動局装置はコードブックから所望の線形フィルタを基地局装置に通知し、基地局装置は複数の移動局装置より通知された線形フィルタに基づき、複数移動局装置宛のデータを空間多重して送信するMU-MIMOを行なうかどうかを決定する。
【0006】
しかし、移動局装置がCSIそのものを通知していないコードブックベースのMU-MIMOでは、空間多重機会はそれほど向上しない。そこで、移動局装置が基地局装置に対して、所望の線形フィルタに加えて、所望線形フィルタと空間多重するのに最も相性の良い線形フィルタを表すBest companion PMIも通知するBest companion PMIフィードバックという技術が非特許文献2などで議論されている。これは、基地局装置は複数の移動局装置より通知される所望線形フィルタとBest companion PMIを取得し、お互いの所望線形フィルタが相手のBest companion PMIとなっている移動局装置同士を空間多重するという方法であり、純粋なコードブックベースMU-MIMOと比較して、空間多重機会を向上させることが可能である。しかし、Best companion PMIを通知するためにオーバーヘッド量が増加してしまうという問題がある。
【0007】
そこで最近、コードブック記載の線形フィルタ群に対して、何かしらの規範に基づき棲み分け(グループ化、クラスター化)を行なうことで、Best companion PMIの通知にかかるオーバーヘッド量を抑圧する技術が非特許文献3等で議論されている。非特許文献3では、LTEで採用されている4送信アンテナ用のコードブック記載の線形フィルタ群を4つのクラスターに分割し、Best companion PMIの通知にかかるオーバーヘッド量を抑圧する方法が示されている。しかし、非特許文献3では、非特許文献4Table6.3.4.2.3-2記載の4送信アンテナ用のコードブックのみを対象としており、非特許文献5記載のLTE-Aにおいて採用が決定している8送信アンテナ用のコードブックについては言及されていない。8送信アンテナ用のコードブックは、4送信アンテナ用と比べて、記載されている線形フィルタ数が膨大であり、所望線形フィルタを抽出するだけでも大きな負担を移動局装置に強いることとなるため、コードブックに対する棲み分けは4送信アンテナ用のコードブックよりも重要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】3GPP R1-100501, NTT Docomo, “Performance of DL MU-MIMO based on implicit feedback scheme in LTE-Advanced,” Jan. 2010.
【非特許文献2】3GPP R1-090051, Alcatel-Lucent, “UE PMI feedback signalling for user pairing/coordination,” Jan. 2009.
【非特許文献3】3GPP R1-103617, Pantech, “Companion subset based PMI feedback for rank 1/2 MIMO transmission,” June 2010.
【非特許文献4】3GPP TS36.211, “E-UTRA Physical channels and modulation,” Version 8.9.0, Dec. 2009.
【非特許文献5】3GPP R1-105011, “Way Forward on 8Tx Codebook for Rel.10 DL MIMO,” Aug. 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、コードブックベースの閉ループ型MIMOでは、コードブック記載の線形フィルタ群からの所望線形フィルタの抽出を移動局装置が行なうため、コードブックのサイズが大きくなるに従い、移動局装置の複雑性を増加させてしまう。また、所望線形フィルタとは別の線形フィルタも更に通知することで、周波数利用効率を改善させることができるが、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量が増加してしまう。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、移動局装置の複雑性の改善と、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量の抑圧を実現する無線送信装置、無線受信装置、無線通信システムおよび集積回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の無線送信装置は、複数の送信アンテナを備え、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する無線送信装置であって、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用し、前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうことを特徴としている。
【0012】
このように、無線送信装置が、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、各受信装置と共用し、各受信装置で関連付けに基づいてコードブックから抽出され、各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0013】
(2)また、本発明の無線送信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴としている。
【0014】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0015】
(3)また、本発明の無線送信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴としている。
【0016】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0017】
(4)また、本発明の無線送信装置において、前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴としている。
【0018】
このように、行列は、複数の行および列において、各線形フィルタを関連付ける情報が記載されているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0019】
(5)また、本発明の無線送信装置において、前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴としている。
【0020】
このように、第一の線形フィルタは、受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とするので、無線受信装置の受信品質を高めることができる。
【0021】
(6)また、本発明の無線送信装置において、前記複数の線形フィルタの関連付けに基づいて、前記プリコーディングの方法を決定することを特徴としている。
【0022】
このように、複数の線形フィルタの関連付けに基づいて、プリコーディングの方法を決定するので、無線送信装置は、無線受信装置より通知されてきた線形フィルタに基づいて、干渉抑圧を行うかどうかを判断することができ、演算量を大きく増加させることなく、柔軟にプリコーディング方法を切り替えることができ、システム全体の周波数利用効率の向上に寄与することができる。
【0023】
(7)また、本発明の無線送信装置において、前記プリコーディングは、modulo演算を含む非線形演算処理であることを特徴としている。
【0024】
このように、プリコーディングは、modulo演算を含む非線形演算処理であるので、無線送信装置は、非線形演算処理を行うかどうかを判断することができる。
【0025】
(8)また、本発明の無線受信装置は、少なくとも一つの受信アンテナを備え、無線送信装置から空間多重された信号を受信する無線受信装置であって、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用し、前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴としている。
【0026】
このように、無線受信装置は、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、無線送信装置と共用し、関連付けに基づいて、第一の線形フィルタをコードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、無線送信装置に対して通知するので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0027】
(9)また、本発明の無線受信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴としている。
【0028】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0029】
(10)また、本発明の無線受信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴としている。
【0030】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0031】
(11)また、本発明の無線受信装置において、前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴としている。
【0032】
このように、行列は、複数の行および列において、各線形フィルタを関連付ける情報が記載されているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0033】
(12)また、本発明の無線受信装置において、前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴としている。
【0034】
このように、第一の線形フィルタは、受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とするので、無線受信装置の受信品質を高めることができる。
【0035】
(13)また、本発明の無線受信装置において、前記関連付けに基づいて、前記第一の線形フィルタに関連付けられた第二の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴としている。
【0036】
このように、無線受信装置は、関連付けに基づいて、第一の線形フィルタに関連付けられた第二の線形フィルタをコードブックから抽出し、第一の線形フィルタおよび第二の線形フィルタを、無線送信装置に対して通知するので、空間多重機会等を向上させ、周波数利用効率を改善させることが可能である。また、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量の増加を回避することが可能となる。
【0037】
(14)また、本発明の無線受信装置において、前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタは、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴としている。
【0038】
このように、第一の線形フィルタおよび第二の線形フィルタは、直交性または相関値に基づいて関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0039】
(15)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタは、複数の線形フィルタに関連付けられていることを特徴としている。
【0040】
このように、第二の線形フィルタは、複数の線形フィルタに関連付けられているので、空間多重機会等を向上させ、周波数利用効率を改善させることが可能である。また、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量の増加を回避することが可能となる。
【0041】
(16)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタに関連付けられた受信品質は、前記第一の線形フィルタに関連付けられた受信品質とは異なることを特徴としている。
【0042】
このように、第二の線形フィルタに関連付けられた受信品質は、第一の線形フィルタに関連付けられた受信品質とは異なるので、無線受信装置は、自局の受信SNRを最小とする線形フィルタを他無線受信装置宛の送信データに乗算することで、他無線受信装置からの干渉電力を最小とすることができる。
【0043】
(17)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最小とすることを特徴としている。
【0044】
このように、第二の線形フィルタは、受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最小とするので、無線受信装置は、他無線受信装置からの干渉電力を最小とすることができる。
【0045】
(18)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタは、前記第一の線形フィルタとの相関値が高いことを特徴としている。
【0046】
このように、第二の線形フィルタは、第一の線形フィルタとの相関値が高いので、無線受信装置は、他無線受信装置からの干渉電力を最小とすることができる。
【0047】
(19)また、本発明の無線通信システムは、(1)記載の無線送信装置と、(8)記載の無線受信装置と、から構成されることを特徴としている。
【0048】
このように、(1)記載の無線送信装置と、(8)記載の無線受信装置と、から構成されるので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0049】
(20)また、本発明の集積回路は、複数の送信アンテナを備えた無線送信装置に実装され、前記無線送信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する機能と、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用する機能と、前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なう機能と、の一連の機能を、前記無線送信装置に発揮させることを特徴としている。
【0050】
このように、無線送信装置は、各受信装置で関連付けに基づいてコードブックから抽出され、各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0051】
(21)また、本発明の集積回路は、少なくとも一つの受信アンテナを備えた無線受信装置に実装され、前記無線受信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、無線送信装置から空間多重された信号を受信する機能と、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用する機能と、前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知する機能と、の一連の機能を、前記無線受信装置に発揮させることを特徴としている。
【0052】
このように、無線受信装置は、関連付けに基づいて、第一の線形フィルタをコードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、無線送信装置に対して通知するので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、既存のシステムに大きな変更を与えることなく、移動局装置の複雑性と、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量の両方を効率的に抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る基地局装置構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る移動局装置の構成を表すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。
【図4】LTE-Aにおいて、基地局装置が8送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る所望線形フィルタ抽出の方法を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る最適なW1の抽出方法を説明する第1の棲み分けを表す表(行列)である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るW2の決定方法に関する第2の棲み分けを表す表(行列)である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。
【図9】LTEにおいて、基地局装置が4送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る第2のコードブックにおけるBPMIの抽出に関する棲み分けを示す表である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW1に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第4の棲み分け)を示す表である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第5の棲み分け)を示す表である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第6の棲み分け)を示す表である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係る基地局装置の装置構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第3の実施形態に係る移動局装置の装置構成について示すブロック図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る第2のコードブックにおける干渉抑圧処理に関連付けられた棲み分け(第7の棲み分け)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
<第1の実施形態>
本発明による第1の実施形態では、Nt本の送信アンテナを有する基地局装置(送信装置とも呼ぶ)に対して、Nr本の受信アンテナを有する複数の移動局装置(受信装置、移動端末とも呼ぶ)が接続している通信を対象とする。そして、同一無線リソースにおいて最大U=2局の移動局装置が空間多重されるMU-MIMO伝送を対象とする。ただし、Nt≧R×U(Rは後述するランク数)が満たされる限りの数だけの空間多重を行なうことができるため、同一無線リソースにおいて空間多重される移動局装置数は2に限ったものではない。また、以下の説明では、簡単のため、各移動局装置には1データストリームだけを通信している状況を想定しているが、各移動局装置が有する受信アンテナ数だけのデータストリームを同時に伝送することも可能である。また、各移動局装置が有する受信アンテナ数はそれぞれ異なる数でも良く、もちろん各移動局装置に送信するデータストリーム数も異なっていて良い。以下では、移動局装置あたりに基地局装置が送信しているデータストリーム数のことをランク数と呼び、R個のデータストリームを伝送している場合には、ランクRの伝送を行なっていると呼ぶこととする。
【0056】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る基地局装置構成を示すブロック図である。各移動局装置宛の送信データは、チャネル符号化部101-1、101-2およびデータ変調部103-1、103-2に入力され、チャネル符号化およびデータ変調が行なわれる。なお、各移動局装置宛の送信データに適用されるチャネル符号化率およびデータ変調方式は、事前に各移動局装置より通知される各移動局装置の受信品質に関連付けられた制御情報に基づいて、既に決定されているものとする。データ変調部103-1、103-2出力は参照信号多重部105-1、105-2に入力され、移動局装置において伝搬路推定を行なうための既知参照信号系列が参照信号多重部105-1、105-2において多重される。なお、各移動局装置宛の参照信号については、移動局装置において分離可能なように、それぞれが直交するように多重されるものとする。以下の説明では、参照信号は任意の無線リソースに理想的に配置されたものとし、移動局装置では上記既知参照信号系列により、自局の伝搬路情報を理想的に推定できるものとする。
【0057】
参照信号多重部105-1、105-2出力はPrecoding部107に入力される。ここで、参照信号多重部105-1、105-2より出力される第1および第2移動局装置の送信シンボルをd1およびd2とし、送信シンボルベクトルdをd=[d1,d2]Tと定義する。なおATは行列Aの転置行列を表す。Precoding部107には線形フィルタ取得部からの出力が入力されるが、線形フィルタ取得部117では後述する図3の方法で第1および第2の移動局装置より通知されてきた各移動局装置の所望の線形フィルタが取得されており、Precoding部107では、各移動局装置の所望の線形フィルタに基づいてプリコーディングが行なわれる。
【0058】
プリコーディングの方法は何かに限定されるものではないが、以下では、一例として移動局装置より通知された線形フィルタに基づいて、基地局装置が送信線形フィルタを算出し、算出された送信線形フィルタを用いてプリコーディングを行なう方法を対象とする。また、実際に空間多重される移動局装置は、各移動局装置より通知される所望線形フィルタおよび基地局装置で行なわれるスケジューリングに基づき決定されるが、以下では、第1の移動局装置と第2の移動局装置とを空間多重する場合を対象とする。
【0059】
Precoding部107では、第1の移動局装置と第2の移動局装置より通知された所望の線形フィルタ{W1,W2}より、各移動局装置と基地局装置間の見掛け上の伝搬路行列Heffを次式のように定義する。
【数1】
【0060】
見掛け上の伝搬路行列Heffは各移動局装置から通知された送信線形フィルタ(ここではW1とW2)にエルミート転置を与えることで得られる行ベクトルを行方向に結合することにより得ることができる。ここでは、同時空間多重移動局装置数を2としているが、空間多重数が3以上となった場合も、同様に伝搬路行列Heffを定義できる。式(1)で与えられる伝搬路行列Heffより、Precoding部107で用いる線形フィルタWeffを生成する。本実施形態で用いる線形フィルタWeffは伝搬路行列Heffを対角行列に変換する行列であり、そのような行列は、Heffの一般逆行列を求めることにより、生成することができる。
【数2】
【0061】
ここでA+は行列Aの一般逆行列を表す。式(2)で表される線形フィルタは、ユーザ間干渉(IUI)が発生しないようにするZero-forcing(ZF)規範に基づいている。ZF規範ではなく、受信信号と送信信号との平均二乗誤差を最小にするMinimum mean square error(MMSE)規範や、ある移動局装置宛の送信信号が他移動局装置に与える与干渉電力(Leakage power)を最小とするSignal-to-leakage power ratio(SLR)規範や、所望信号電力と与干渉+受信雑音電力の比を最大とするSignal-to-leakage plus noise power ratio(SLNR)規範に基づいて線形フィルタを生成しても良い。
【0062】
式(2)で表現される線形フィルタを送信シンボルベクトルdに乗算することで、Precoding部107出力が生成される。なお、プリコーディング後の信号の送信に要求される送信電力が、所定の送信電力を超えないように電力の正規化が併せて行なわれる。Precoding部107出力は、各送信アンテナの無線送信部109に入力される。無線送信部109において、ベースバンド帯の送信信号が無線周波数(RF)帯の送信信号に変換される。無線送信部109の出力信号は、各送信アンテナよりそれぞれ送信される。
【0063】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る移動局装置の構成を表すブロック図である。移動局装置では、各受信アンテナで受信された信号が対応する無線受信部201に入力され、ベースバンド帯の信号に変換される。ベースバンド帯に変換された信号は、参照信号分離部203に入力される。参照信号分離部203では、受信信号はデータ系列と既知参照信号系列とに分離され、データ系列は伝搬路補償部205に入力され、既知参照信号系列は伝搬路推定部207に入力される。伝搬路推定部207では、入力された既知参照信号系列を用いて伝搬路推定が行なわれる。各移動局装置宛の既知参照信号系列はそれぞれ直交するように基地局装置より送信されているから、第1の移動局装置では、伝搬路行列H1を、第2の移動局装置では、伝搬路行列H2を推定することができる。推定された伝搬路行列はそれぞれ伝搬路補償部205および所望線形フィルタ算出部209に入力される。
【0064】
所望線形フィルタ算出部209では、伝搬路推定値と後述する図3の方法に基づき、所望の線形フィルタを所定のコードブックより抽出する。抽出された線形フィルタは基地局装置に通知されることになる。一方、受信データ系列については伝搬路補償部205に入力され、伝搬路推定部207より入力される伝搬路推定情報に基づいて算出される受信フィルタを乗算する伝搬路補償が行なわれる。伝搬路補償の方法は何かに限定されるものではないが、例えば、受信SNRを最大とする場合、基地局装置に通知した所望線形フィルタWuと既に推定済みの伝搬路情報Huに基づいて、Wru=(Hu×Wu)Hを受信フィルタとして用いることで、受信SNRを最大にすることができる。
【0065】
なお、基地局装置のPrecoding部107で行なわれる信号処理によっては、伝搬路推定値だけではなく、基地局装置で実際に乗算された線形フィルタ(例えば式(2)においてZFフィルタではなくMMSEフィルタ等が用いられた場合等)に関する情報が伝搬路補償に必要となる場合がある。このとき、基地局装置は、伝搬路情報を推定する既知参照信号系列に加えて、基地局装置で乗算された線形フィルタを移動局装置が推定可能な既知参照信号系列を更に伝送すれば良い。具体的な方法としては、例えば、既知参照信号系列の一部に、プリコーディングに用いられる線形フィルタを乗算してから送信すれば良い。上記のように移動局装置が基地局装置で行なわれたプリコーディングを把握できる場合、その情報に基づき、伝搬路補償を行なうようにしても良い。伝搬路補償部205出力は、データ復調部211およびチャネル復号部213に入力され、データ復調、チャネル復号がそれぞれ適用されたのち、各移動局装置の送信データが検出される。
【0066】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。はじめに、基地局装置は、送信データを生成するとともに(ステップS101)、接続している複数の移動局装置に対して、既知の参照信号系列を送信する(ステップS102)。次いで、移動局装置は受信された既知参照信号系列に基づき、伝搬路推定を行なう(ステップS103)。推定された伝搬路情報に基づき、移動局装置は自局に最も望ましい線形フィルタを既知のコードブックより抽出し(ステップS104)、その線形フィルタの番号(インデックス)を基地局装置に通知する(ステップS105)。
【0067】
基地局装置は、各移動局装置の所望の線形フィルタを取得し、その情報に基づき、各移動局装置宛の送信データに対して、送信符号化(プリコーディング)を施す(ステップS106)。プリコーディング後のデータを同一無線リソースに空間多重して、接続されている複数の移動局装置宛に送信する(ステップS107)。複数移動局装置宛のデータが空間多重された信号を受信した移動局装置では、前述の伝搬路情報等に基づき、自局の所望データを検出する(ステップS108)。
【0068】
移動局装置では、自局に対して最も望ましい線形フィルタをコードブックより抽出する必要がある。コードブックは基地局装置が有する送信アンテナ数や、各移動局装置への送信ランク数に応じて規定される。コードブックのサイズ、すなわち記載線形フィルタ数をCとし、記載線形フィルタを{cj;j=1〜C}と定義する。第uの移動局装置と基地局装置間の伝搬路行列をHu、第uユーザが所望する線形フィルタをWuとすると、第uの移動局装置が基地局装置に通知する線形フィルタは次式を満たすものとなる。
【数3】
【0069】
ここで、||a||はベクトルaのノルム演算を表す。また、arg maxx(f(x))は評価関数f(x)を最大とするxを選択する関数であるから、式(3)の場合、||Hu×cj||2を最大とするcjをコードブック記載の線形フィルタ群から抽出し、それを基地局装置に通知する所望線形フィルタWuとすることを意味している。なお、||Hu×cj||2を最大とするということは、受信信号対雑音電力比(SNR)を最大とすることを意味している。受信SNRではなく、受信信号対干渉+雑音電力比(SINR)や、通信容量を最大とするような線形フィルタを抽出するようにしても良い。通常、最適な線形フィルタを抽出するためには、コードブック記載の全ての線形フィルタに対して、式(3)の計算を行なう必要がある。しかし、コードブックのサイズが大きい場合、その計算に係る計算量は大幅に増加してしまい、移動局装置の負担を増加させてしまう。
【0070】
図4は、LTE-Aにおいて、基地局装置が8送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。図4に示すコードブック(第1のコードブック)には、2つの線形フィルタW1、W2それぞれについて、16個の線形フィルタが記載されたコードブックが準備されている。最終的に、基地局装置が把握する線形フィルタはW1とW2それぞれに基づくから、全部で256通りもの線形フィルタが記載されていることになる。そこで、第1の実施形態では、この256通りの線形フィルタの全てについて式(3)の計算をせずとも、高精度に所望の線形フィルタを抽出できる方法、すなわち、図3中の手続きXについて新たな方法を開示している。
【0071】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る所望線形フィルタ抽出の方法を説明するフローチャートである。第1のコードブックはW1とW2の二つの線形フィルタの行列積で表されており、W1が16通り、W2が16通り存在し、W1については、C1={c1,j;j=1〜16}、W2についてはC2={c2,j;j=1〜16}から所望のコードを抽出し、それを乗算することで、所望の線形フィルタWuを抽出する。初めにW1の決定方法について説明する。初めにW1については、記載されている16個の線形フィルタの中で、直交している線形フィルタを複数個抽出する(ステップS201)。
【0072】
直交している複数個の線形フィルタの組み合わせとして、{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}という組み合わせが考えられる。移動局装置では、{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}の中から式(3)の条件に最もよく当てはまる線形フィルタを抽出する。このとき、W2については、任意の一つ(例えばc2,1)を抽出し、それを用いれば良い。次いで、{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}から選択された線形フィルタc1,xに対して、相関の大きい複数の線形フィルタを抽出する(ステップS202)。例えば、c1,xに対して、{c1,x−2,c1,x−1,c1,x,c1,x+1,c1,x+2}という5つの線形フィルタを抽出することが考えられる。先に抽出されたc1,xがc1,1である場合、{c1,15,c1,16,c1,1,c1,2,c1,3}の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良い。抽出されたc1,yに基づき、基地局装置に通知するW1を生成する(ステップS203)。このようにW1を抽出することで全16通りではなく、8通りの線形フィルタの中から所望線形フィルタを抽出すれば良いことになる。
【0073】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る最適なW1の抽出方法を説明する第1の棲み分けを表す表(行列)である。第1の棲み分けを表す行列の各要素は、W1に関する線形フィルタのインデックスを表しており、例えば、第1行第3列成分は、c1,1を表すことになる。第1の棲み分けでは列方向には、お互いの相関の強い、もしくは直交性が弱い線形フィルタが並び、行方向には、お互いの相関が弱い、もしくは無相関、もしくは直交性が強い線形フィルタが並んでいる。例えば、第1行に並ぶ{c1,15,c1,16,c1,1,c1,2,c1,3}については、お互いの相関が強く、第3列に並ぶ{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}については、お互いの相関が弱いということになる。
【0074】
移動局装置では、第1の棲み分けから任意の列を抽出し、抽出された列の中から最適な線形フィルタを抽出する。その後、抽出された最適な線形フィルタが含まれている行を抽出し、抽出された行の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良い。先ほどの例では、最初に抽出された列は第3列であり、次いで抽出された行は第1行と言うことになる。つまり、移動局装置は、第1の棲み分けに応じて、線形フィルタを抽出することで、効率的な線形フィルタの抽出を行なうことが可能となる。
【0075】
なお、第1の棲み分けでは、列サイズは5となっているが、これは任意の列から抽出された線形フィルタの前後2個までの線形フィルタから最適な線形フィルタを抽出するような棲み分けとなっていることになる。ここで、前後2個までに限らず、前後K個(1≦K≦8)までのコードブックから抽出するものとし、無線通信システムの要求する伝送品質に応じて、Kの値を変更しても良い。K=2とすれば、前述の第1の棲み分けと等価となり、K=8とすれば、従来の全ての線形フィルタから所望コードを抽出する方法と等価となる。また、第1の棲み分けによれば、一つの線形フィルタが複数の行もしくは列に記載されることもある。
【0076】
次いで、W2の決定方法について説明する。再び図5のフローチャートに従って説明する。初めにW2について、記載されている16個の線形フィルタのうち、互いに直交している複数個の線形フィルタを抽出する。例えば、{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}という組み合わせが考えられるから、移動局装置は、{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}から、所望の線形フィルタを抽出する(ステップS204)。このとき、W1については任意の一つを抽出し、それを用いれば良い。次いで、{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}から抽出された線形フィルタに対して、相関の大きい複数の線形フィルタを抽出する(ステップS205)。例えば{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}からc2,1が選択されている場合、{c2,1,c2,5,c2,9,c2,13}の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良いことになる。抽出されたc2,yに基づき、基地局装置に通知するW2を生成する(ステップS206)。このような算出をすることにより、W2についても、8通りの線形フィルタの中から所望線形フィルタを抽出すれば良いことになる。
【0077】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るW2の決定方法に関する第2の棲み分けを表す表(行列)である。W2についても、W1の抽出方法と同様に、ある棲み分けに基づいて行なうことが可能である。第1の棲み分けと同様に、第2の棲み分けを表す表も、W2に関する線形フィルタのインデックスを要素とする行列で表現されており、例えば、第1行第3列成分は、c2,9を表すことになる。列方向には、お互いの相関の強い線形フィルタが並び、行方向には、お互いの相関が弱い、もしくは無相関となる線形フィルタが並んでいる。
【0078】
移動局装置では、第2の棲み分けから任意の列を抽出し、抽出された列の中から最適な線形フィルタを抽出する。その後、抽出された最適な線形フィルタが含まれている行を抽出し、抽出された行の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良い。先ほどの例では、最初に抽出された列は第1列であり、次いで抽出された行は第1行と言うことになる。つまり、移動局装置は、第2の棲み分けに応じて、線形フィルタを抽出することで、W2についても効率的な線形フィルタの抽出を行なうことが可能となる。
【0079】
図5に戻り、最終的に基地局装置に通知する所望線形フィルタは上記手続きにより抽出された二つの線形フィルタW1とW2を乗算することで得られるWu(=W1×W2)である(ステップS207)。なお、無線通信システムにおいて、所望線形フィルタを移動局装置が基地局装置に通知する方法として、W1とW2を別々に通知するような場合、図5のフローチャートにおけるステップS207の処理は移動局装置では不要であり、基地局装置が行なうことになる。
【0080】
以上説明してきた方法に基づけば、256通りものコードが存在する第1のコードブックから所望の線形フィルタを抽出するために、16個の線形フィルタの中から式(3)を満たす線形フィルタを抽出すれば良いことになり、移動局装置の複雑性を大幅に抑圧することが可能となる。また、以上の説明では、基地局装置構成として送信アンテナ数が8本を想定しているが、送信アンテナ数が2本や4本の場合にもおいても、所定のコードブックに対して、記載されている複数の線形フィルタに対して、互いに直交している線形フィルタの組み合わせと、それぞれの線形フィルタに対して相関の強い線形フィルタを抽出することで、第1および第2の棲み分けと同等のことができるため、線形フィルタ抽出に係る演算量を抑圧することが可能である。
【0081】
以上の方法で各移動局装置は所望線形フィルタを所定のコードブックより抽出し、それを基地局装置に通知することになる。
【0082】
本実施形態においては、伝送方式(もしくはアクセス方式)については制限を与えていない。例えば、LTEの下りリンク伝送に採用されている直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)方式に適用することも可能である。この場合は、サブキャリア毎に本発明を適用すれば良く、また複数サブキャリアを一纏めとしたリソースブロック毎に本発明を適用しても良い。同様に、シングルキャリアベースのアクセス方式(例えばシングルキャリア周波数分割多重アクセス(SC-FDMA)方式など)に適用することも可能であり、周波数成分毎に適用しても良いし、送信電力の強調を回避するために、全周波数帯域に渡って同一のプリコーディングを行なうようにしても良い。
【0083】
また、第1の実施形態では、複数の移動局装置宛のデータを同一無線リソースに空間多重して送信するMU-MIMOを対象として説明を行なったが、本実施形態で用いる各棲み分け方法は、基地局装置と単一の移動局装置とが空間多重伝送を行なうSU-MIMOにも適用することが可能である。本実施形態により、移動局装置が、所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、本実施形態の方法により、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0084】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、コードブックベースのMU-MIMOを対象に、効率的な所望線形フィルタの抽出方法を明らかにした。第2の実施形態では、コードブックベースのMU-MIMO伝送における空間多重機会の向上を目的とし、移動局装置が所望線形フィルタ(第1の線形フィルタと呼ぶ)に加えて、第2の線形フィルタを基地局装置に通知する場合を対象とする。第1の実施形態と同様に、Nt本の送信アンテナを有する基地局装置(送信装置とも呼ぶ)に対して、Nr本の受信アンテナを有する複数の移動局装置(受信装置、移動端末とも呼ぶ)が接続している通信を対象とする。そして、同一無線リソースにおいて最大U=2局の移動局装置が空間多重され、各移動局装置に対してランク1の伝送を行なうMU-MIMO伝送を対象とする。ただし、第1の実施形態と同様に、空間多重数や送信ランク数は上記に限ったものではない。
【0085】
基地局装置と移動局装置の構成は基本的に第1の実施形態に係る装置構成(図1および図2参照)と同様である。本発明の第2の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明する。
【0086】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。基本的には図3と同様であるが、異なるのは移動局装置において所望線形フィルタである第1の線形フィルタに加えて、第2の線形フィルタの抽出も行なわれることにある(手続きY参照)。はじめに、基地局装置は、送信データを生成するとともに(ステップS201)、接続している複数の移動局装置に対して、既知の参照信号系列を送信する(ステップS202)。次いで、移動局装置は受信された既知参照信号系列に基づき、伝搬路推定を行なう(ステップS203)。推定された伝搬路情報に基づき、移動局装置は自局に最も望ましい線形フィルタである第1の線形フィルタを既知のコードブックより抽出し(ステップS204)、さらに、第2の線形フィルタを既知のコードブックより抽出する(ステップS205)。これらの線形フィルタの番号(インデックス)を基地局装置に通知する(ステップS206)。
【0087】
基地局装置は、各移動局装置の所望の線形フィルタと第2の線形フィルタを取得し、その情報に基づき、各移動局装置宛の送信データに対して、送信符号化(プリコーディング)を施す(ステップS207)。プリコーディング後のデータを同一無線リソースに空間多重して、接続されている複数の移動局装置宛に送信する(ステップS208)。複数移動局装置宛のデータが空間多重された信号を受信した移動局装置では、前述の伝搬路情報等に基づき、自局の所望データを検出する(ステップS209)。
【0088】
第2の線形フィルタとして、MU-MIMOの空間多重機会の向上を目的とした線形フィルタを通知する方法が考えられる。そのような方法のひとつとして、Best companion PMI方式と呼ばれる方法がある。以下では、初めにBest companion PMI方式を対象としたコードブックに対する棲み分け方法を開示する。Best companion PMI方式では、自局の所望線形フィルタに対して最も相性の良い線形フィルタ(以下、BPMIと呼ぶこととする)を移動局装置が基地局装置に通知する方式である。下りリンクMU-MIMOの場合、BPMIとは受信SNRを最小とするような線形フィルタとなる。なぜならば、自局の受信SNRを最小とする線形フィルタを他移動局装置宛の送信データに乗算することで、他移動局装置宛の送信データが干渉信号として受信されにくくなるためである。arg minx(f(x))が評価関数f(x)を最小とするxを選択する関数であるものとすると、BPMIとなるコードcB,uは次式で与えられることになる。
【数4】
【0089】
所望線形フィルタと併せてBPMIも移動局装置が基地局装置に通知することにより、基地局装置のPrecoding部107ではより柔軟に様々な移動局装置同士を空間多重するようなプリコーディングを行なうことが可能である。しかし、BPMIを抽出するために、所望線形フィルタを抽出するのと同等の演算量を移動局装置に強いることとなり、また、BPMIを新たに基地局装置に通知するために、オーバーヘッドが増加してしまうという問題がある。以下では、BPMIの抽出に要求される演算量と、基地局装置への通知に係るオーバーヘッド量の抑圧を目的とした効率的なBPMIの抽出方法を開示する。
【0090】
図9は、LTEにおいて、基地局装置が4送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。図9のように、LTEにおける送信4アンテナでランク1伝送に用いられるコードブック(第2のコードブックとする)には16個の線形フィルタが記載されている。図9には、コードブックC={c1,c2,c3,・・・,c16}が示されている。従来の方法では、所望線形フィルタの抽出と同様に、コードブック記載の全ての線形フィルタについて式(4)の演算を行ない、BPMIを算出している。
【0091】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る第2のコードブックにおけるBPMIの抽出に関する棲み分けを示す表である。第2の実施形態では、初めに第3の棲み分けを定義する。第3の棲み分けは第2のコードブックに記載の線形フィルタのそれぞれに対して、直交性が保たれている線形フィルタを抽出することにより生成される。第3の棲み分け方法として例えば図10記載の棲み分けが考えられる。移動局装置は、第3の棲み分けに基づいてBPMIを抽出する。例えば、所望線形フィルタがc5で有った場合に、BPMIは{c6,c7,c8}から抽出すれば良いことを意味している。第3の棲み分けはコードブック記載の線形フィルタ同士の相関に基づいて決定されている。つまり、c5に対して{c6,c7,c8}は直交していることを意味している。最適なBPMIは伝搬路に依存して決定されるため、c5に対して直交している{c6,c7,c8}が必ずしもBPMIとなるとは限らない。しかし、所望線形フィルタがc5である移動局装置の最適なBPMIは{c6,c7,c8}になる確率が非常に高いため、下りリンクMU-MIMOの空間多重機会を向上させるには第3の棲み分けで十分である。
【0092】
また第3の棲み分けでは、BPMIの候補は最大でも5である。4送信アンテナのコードブックサイズは16であるから、従来の方法でBPMIを通知しようとすると4ビットの通知情報量が必要となるが、第3の棲み分けに基づいてBPMIを決定した場合、通知情報量は3ビットで十分となり、オーバーヘッドの削減にも寄与することが可能となる。次いで、8送信アンテナのランク1伝送におけるコードブックを対象としたBPMIの抽出方法について説明する。8送信アンテナ用のコードブックは第1の実施形態でも説明したようにW1とW2の二つのコードブックより生成されるダブルコードブックである。本実施形態においては、W1に関連付けられたC1={c1,j;j=1〜16}とW2に関連付けられたC2={c2,j;j=1〜16}から、それぞれBPMIを抽出する方法を説明する。
【0093】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW1に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第4の棲み分け)を示す表である。まず、W1について説明する。なお、事前に所望の線形フィルタが抽出されているものとする。所望線形フィルタの抽出方法については、第1の実施形態の方法でも良いし、他の方法に依って抽出しても良い。初めに、第4の棲み分けを定義する。第4の棲み分けはW1からある二つの線形フィルタを抽出したときに、その二つの線形フィルタのうち、どちらか一方を第1の移動局装置が通知してきて、残りの一方を第2の移動局装置が通知してきた場合、第1および第2の移動局装置がお互いにどのようなW2を通知してきたとしても、第1の移動局装置と第2の移動局装置との直交性が保たれやすいW1の線形フィルタの組み合わせを抽出することで生成される。第4の棲み分けとして、例えば図11記載の棲み分けが考えられる。移動局装置は抽出されている所望の線形フィルタと図11記載の第4の棲み分けに基づき、W1のBPMIを抽出する。例えば、所望線形フィルタがc1,1であった場合、BPMIは{c1,5,c1,9,c1,13}のいずれかであることを意味しているから、{c1,5,c1,9,c1,13}の中で、最も受信SNRを小さくするフィルタをBPMIとして基地局装置に通知するということである。
【0094】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第5の棲み分け)を示す表である。ついで、W2について説明する。W2についても事前に所望の線形フィルタが抽出されているものとする。W2については、第5の棲み分けに基づいて抽出される。第5の棲み分けでは、任意のW1が選択されているとしたときに、基地局装置に通知する線形フィルタW=W1W2の直交性が保たれる組み合わせを抽出することで生成される。第5の棲み分けとして例えば図12に記載の棲み分けが考えられる。移動局装置は抽出されている所望の線形フィルタと図12記載の第5の棲み分けに基づき、W2のBPMIを抽出する。例えば、所望の線形フィルタがc2,2で有った場合、BPMIは{c2,4,c2,8,c2,12,c2,16}のいずれかであることを意味しているから、{c2,4,c2,8,c2,12,c2,16}の中で最も受信SNRを小さくするフィルタをBPMIとして基地局装置に通知するということである。
【0095】
上記方法に基づけば、W1については3つ、W2については4つの線形フィルタについて受信SNRの計算をすれば良いことになるから、コードブック記載の全ての線形フィルタについて受信SNRを計算する必要がある従来方法と比較して、演算量を大幅に減らすことが可能となる。また、BPMIのフィードバックに要する情報量が、従来の方法では、W1とW2でそれぞれ4ビット必要なのに対して、本方式に依れば、W1とW2とでそれぞれ2ビットで良いこととなり、オーバーヘッドの抑圧にも寄与することが可能である。
【0096】
なお、上記の方法はW1とW2で独立に適用しても良い。つまり、W1については上記の方法でBPMIを抽出し、W2については、従来通りコードブック記載の全ての線形フィルタの中からBPMIを抽出するようにしても良い。しかし、上記の方法では、BPMIが見つからない可能性もある。その場合、W1のBPMIの抽出が第4の棲み分けに基づいて行なわれていることを条件に、W2のBPMIはさらに、第6の棲み分けに基づいて行なっても良い。第5の棲み分けが、任意のW1が選択されていることを想定しているのに対して、第6の棲み分けは、W1が第4の棲み分けに基づいて抽出されていることを前提とした棲み分けである。
【0097】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第6の棲み分け)を示す表である。第6の棲み分けとして、例えば図13に記載の第6の棲み分けが考えられる。W2について所望の線形フィルタがc2,1であり、第5の棲み分けに基づいた抽出では、BPMIが抽出されなかった場合、更に{c2,2,c2,4}からBPMIを抽出するということである。候補線形フィルタ数が6に増加するため、抽出にかかる演算量やフィードバックにかかるオーバーヘッドは増加するものの、BPMI自体の精度を向上させ、空間多重機会を向上させることが可能となる。
【0098】
以上の方法に基づいて、各移動局装置は所望線形フィルタに加えてBPMIを抽出し、それらを基地局装置に通知することになる。基地局装置では、通知された所望線形フィルタとBPMIに基づいてプリコーディングを行なうことになる。プリコーディングについては、何かに限定されることは無く、例えば第1の実施形態で説明した方法に基づいて行なっても良いが、その際に、空間多重する移動局装置、つまり、式(1)で表現される等価伝搬路行列を構成する移動局装置の組み合わせ(式(1)の場合は第1移動局装置と第2移動局装置)をBPMIに基づいて決めることで、伝送品質を向上させ、空間多重機会を大幅に向上させることができる。
【0099】
例えば、第1の移動局装置と第2の移動局装置の2つの移動局装置を空間多重することを考えた時、第1の移動局装置が通知した所望線形フィルタと第2の移動局装置が通知したBPMIが一致し、第1の移動局装置が通知したBPMIと第2の移動局装置が通知した所望線形フィルタが一致するような第1の移動局装置と第2の移動局装置とを空間多重した方が、他の移動局装置を空間多重するよりも優れた伝送品質を達成することが可能となる。また、全ての移動局装置がBPMIを通知しなくても良い。BPMIを通知していない移動局装置が存在する場合、基地局装置は、通知されてきた所望の線形フィルタとBPMIに関する各種の棲み分けに基づき、BPMIを通知していない移動局装置のBPMIを推定し、推定されたBPMIに基づき、基地局装置がプリコーディングを行なっても良い。
【0100】
また、通知する情報は、BPMIとなる線形フィルタそのものを表す情報ではなく、BPMIに基づいたプリコーディングを基地局装置が行なったときに、移動局装置で観測される受信品質に関わる情報であっても良い。なお、プリコーディングの方法を除く基地局装置における信号処理、およびBPMIを抽出する方法を除く移動局装置における信号処理は第1の実施形態と同様であるから説明は省略する。また、MU-MIMOの空間多重機会を向上させる方法は、Best companion PMI方式に限らない。以下では、Worst companion PMI方式に基づいた棲み分け方法について簡単に説明する。
【0101】
Worst companion PMI方式は、Best companion PMI方式とは異なり、自局の所望線形フィルタに対して最も相性の悪い線形フィルタを表すWorst companion PMI(以下、WPMIと呼ぶこととする)を移動局装置が基地局装置に通知する方式である。下りリンクMU-MIMOの場合、WPMIとして、例えば受信SNRを最大とするような線形フィルタが考えられる。なぜならば、自局の受信SNRを最大とする線形フィルタを他移動局装置宛の送信データに乗算すると、他移動局装置からの干渉電力が最大となってしまうためである。しかし、受信SNRを最大とする線形フィルタは、所望の線形フィルタ(第1の線形フィルタ)そのものであるから、WPMIとなる第2の線形フィルタは、第1の線形フィルタを除いて、最も受信SNRが大きくなる線形フィルタということになる。よって、第2の線形フィルタは式(3)に基づき抽出されることになる。このことは、WPMIの抽出には図6および図7に示されている、第1および第2の棲み分けを応用することが可能である事を意味している。
【0102】
第1の棲み分けを応用して、第1のコードブックにおけるWPMIを抽出する方法の一例を説明する。移動局装置は、第1の線形フィルタの抽出と同様に、図5のフローチャートに基づき線形フィルタの抽出を行なうが、ステップS201およびステップS204で抽出する線形フィルタについては、第1の線形フィルタと同じものを抽出するものとする。
【0103】
そして、ステップS202およびステップS205においては、第1の線形フィルタとして抽出されたフィルタを除いたのち、第1の線形フィルタを抽出したときと同様の処理により線形フィルタを抽出する。以上の処理により、移動局装置は、簡易な処理でWPMIを抽出することが可能となる。また、W1、W2それぞれで、4つ、または3つの線形フィルタからWPMIを抽出することになるから、移動局装置からの通知にかかる情報量は併せて4ビットで済むため、オーバーヘッドの削減にも寄与できる。
【0104】
基地局装置では、移動局装置から通知されてくる第1の線形フィルタと第2の線形フィルタであるWPMIに基づいてプリコーディングを行なうことになる。プリコーディングの方法として、例えば、第1の移動局装置と第2の移動局装置の2つの移動局装置を空間多重することを考えた時、第1の移動局装置が通知した所望線形フィルタと第2の移動局装置が通知したWPMIが一致すること、もしくは、第1の移動局装置が通知したWPMIと第2の移動局装置が通知した所望線形フィルタが一致することのいずれかの条件を満たすような第1の移動局装置と第2の移動局装置については、空間多重することを避けることにより、伝搬路の直交性が低い2つの移動局装置を空間多重する確率を大幅に低下させることが可能となる。よって、WPMIを通知する方法は、誤った空間多重を行なう可能性を低下させることができる技術であるということができ、MU-MIMO伝送の周波数利用効率の改善に有効である。また、WPMIの抽出にも、コードブックに対する棲み分けを行なうことにより、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量を増加させることなく、MU-MIMOの伝送品質を向上させることが可能となる。
【0105】
このように、コードブックベースのMU-MIMOでは、所望の線形フィルタに加えて、第2の線形フィルタも通知することにより、空間多重機会等を向上させ、周波数利用効率を改善させることが可能である。第2の線形フィルタの抽出の規範として、BPMI方式やWPMI方式で規範とした受信SNRや受信SINR以外にも、ランク数等の受信品質に関連付けられた情報が考えられるが、いずれの場合においても、コードブックに対する棲み分けを行なうことで、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量の増加を回避することが可能となる。第2の実施形態では、所望線形フィルタに加えて、第2の線形フィルタを移動局装置が基地局装置に通知するシステムを対象に、効率的な第2の線形フィルタの抽出方法を開示した。本実施形態によれば、第2の線形フィルタの抽出および通知を低演算量かつ低オーバーヘッドにより実現することが可能であり、第2の線形フィルタによる下りリンクMU-MIMOの周波数利用効率の改善にも大きく寄与することが可能である。
【0106】
<第3の実施形態>
第1および第2の実施形態では、基地局装置におけるプリコーディングは線形フィルタの乗算によって行なわれる線形プリコーディングを行なうものとして説明を行なってきた。しかし、コードブックベースの下りリンクMU-MIMOでは、線形プリコーディングだけではIUIを完全に抑圧するのは難しく、周波数利用効率の改善には限界がある。そこで、基地局装置において、予め残留IUIを抑圧する干渉抑圧処理を行なうことで、周波数利用効率を改善させることが可能となる。干渉抑圧処理の例としては、非線形干渉抑圧技術として知られているTomlinson-Harashima-precoding(THP)等を用いることができる。しかし、干渉抑圧処理は演算量を増加させるなど、一般的に基地局装置の負担を増加させてしまう。そのため、通常は線形プリコーディングのみを行ない、残留IUIが大きくなる時だけ干渉抑圧処理を行なうことで、演算量の増加を最小限に抑えながら、大きな伝送特性改善を実現することが可能である。
【0107】
しかし、残留IUIが大きくなるかどうかを推定するためにも、やはり基地局装置の演算量を増加させてしまうという問題がある。そこで、第3の実施形態では、これまで述べてきたコードブックの棲み分けを応用し、棲み分けに応じて、基地局装置におけるプリコーディング処理を変える方法を対象とする。第3の実施形態でも、第1および第2の実施形態と同様に、Nt本の送信アンテナを有する基地局装置(送信装置とも呼ぶ)に対して、Nr本の受信アンテナを有する複数の移動局装置(受信装置、移動端末とも呼ぶ)が接続している通信を対象とする。そして、同一無線リソースにおいて最大U=2局の移動局装置が空間多重され、各移動局装置に対してランク1の伝送を行なうMU-MIMO伝送を対象とする。ただし、第1の実施形態と同様に、空間多重数や送信ランク数は上記に限ったものではない。基地局装置と移動局装置の装置構成を図14および図15にそれぞれ示す。
【0108】
第1および第2の実施形態と同様に、移動局装置は基地局装置に対して所望の線形フィルタを通知する。このとき、所望の線形フィルタの抽出方法は第1の実施形態の方法に基づいても良いし、また、第2の実施形態のように、BPMIをはじめとした第2の線形フィルタを同時に通知するようにしても良い。基地局装置では、各移動局装置より通知された所望の線形フィルタに基づいてプリコーディングを行なうが、このとき通知された所望の線形フィルタに基づいて、プリコーディングの方法を切り替えることになる。
【0109】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る基地局装置の装置構成を示すブロック図である。第1の実施形態に係る基地局装置構成に加えて、Precoding切替部301が追加される。Precoding切替部301では、移動局装置より通知される所望線形フィルタと後述する第7の棲み分けや第8の棲み分けに基づき、干渉抑圧を行なうかどうかを切り替える。Precoding部303では、Precoding切替部301からの制御信号に基づき、送信データに対して、線形フィルタの乗算に基づく線形プリコーディングだけを行なう、もしくは線形プリコーディングに加えて干渉抑圧を行なうことになる。Precoding部303とPrecoding切替部301以外の構成装置において行なわれる信号処理は第1の実施形態に係る基地局装置(図1参照)と同様であるため、説明は省略する。
【0110】
図15は、本発明の第3の実施形態に係る移動局装置の装置構成について示すブロック図である。図15に基づいて説明する。基本的には、第1の実施形態に係る移動局装置(図2参照)と同様であり、異なるのは伝搬路補償部401における信号処理と制御情報取得部403である。第3の実施形態においては、基地局装置のPrecoding部303において干渉抑圧が行なわれており、その際に送信電力の増大を抑えるためにmodulo演算が行なわれている場合がある。modulo演算を含むプリコーディングが行なわれた送信データより所望の信号を検出するためには、受信機側でもmodulo演算を行なう必要がある。
【0111】
そこで、第3の実施形態に係る移動局装置の伝搬路補償部401では、第1の実施形態と同様の伝搬路補償が行なわれたのち、基地局装置のPrecodingで行なわれたものと同様のmodulo演算を施すことで、伝搬路補償部401出力が生成される。実際にmodulo演算を行なうかどうかは、基地局装置が、modulo演算を行なったかどうかに関連付けられた制御情報を通知し、制御情報取得部403がこの制御情報を伝搬路補償部401に入力することにより、それに基づいて制御しても良いし、移動局装置が単独でmodulo演算の有無を推定しても良いし、基地局装置で行なわれるプリコーディングの種類に依らず、常にmodulo演算を行なうように制御しても良い。伝搬路補償部401における信号処理と制御情報取得部403を除いた移動局装置の各構成装置の信号処理については、第1の実施形態に係る移動局装置(図2参照)と同様であるため、説明は省略する。
【0112】
第1のコードブックを対象として説明する。すなわち、基地局装置の送信アンテナ数が4であり、各移動局装置にはランク1の伝送を行なっている。コードブック記載の線形フィルタ同士は、それぞれ異なった相関値を持っている。そこで、第3の実施形態では、各移動局装置より通知された線形フィルタ同士の相関値に基づき、干渉抑圧処理を行なうかどうかを決定する。そのために、線形フィルタ同士の相関値の大小に基づいた第7の棲み分けを生成する。
【0113】
図16は、本発明の第3の実施形態に係る第2のコードブックにおける干渉抑圧処理に関連付けられた棲み分け(第7の棲み分け)を示す表である。例えば、所望線形フィルタとしてc1を通知してきた第1の移動局装置に対して、c5を所望線形フィルタとして通知してきた第2の移動局装置を空間多重する場合、第7の棲み分けによればc1とc5の組み合わせは残留IUIが大きくなる組み合わせであることが分かるから、基地局装置で干渉抑圧処理を行なうことになる。干渉抑圧処理を行なう場合の、基地局装置のPrecoding部303における信号処理について説明する。第1の実施形態と同様にPrecoding部303では、各移動局装置より通知された所望の線形フィルタ{W1,W2}より、各移動局装置と基地局装置間の見掛け上の伝搬路行列Heffを式(1)のように定義する。
【0114】
式(1)で与えられる伝搬路行列Heffより、線形フィルタWeffを生成する。第1の実施形態で用いる線形フィルタWeffは伝搬路行列Heffを単位行列に変換する行列であったが、本実施形態で用いる線形フィルタWeffは、伝搬路行列Heffを下三角行列に変換する行列である。そのような行列は、Heffの随伴行列HeffHにQR分解を適用することにより求めることができる。すなわち、HeffH=QRとQR分解したとき(Qがユニタリ行列、Rが上三角行列である)、Qが線形フィルタWeffとなる。なお、
【数5】
であるから、正確にはQの第1から第2列ベクトルまでを抽出した(Nt×2)の行列が線形フィルタWeffとなる。
【0115】
ここで、式(5)を満たすユニタリ行列Qを線形フィルタWeffとして送信シンボルベクトルに乗算することにより得られるベクトルWeffdを送信信号ベクトルとして、基地局装置より送信することを考える。第u移動局装置の移動局装置の第m受信アンテナで受信される受信信号を{ru,m;u=1〜2,m=1〜Nr}としたとき、第u移動局装置の受信信号ベクトルru=[ru,1,…,ru,Nr]Tは次式で与えられる。
【数6】
ここで、nuは雑音ベクトルである。各移動局装置では、所望信号の受信SNRを最大にする受信フィルタwr,uを受信信号ベクトルに乗算する。ランク1の伝送を行なっている場合、受信SNRを最大にする受信フィルタWruは(HuWu)Hで表される(Nr×1)の行ベクトルである。Wru=(HuWu)Hが乗算された検波出力をdu^とする。第1および第2移動局装置の検波出力をまとめた検波出力ベクトルd^=[d1^,d2^]Tは次式で与えられる。
【数7】
なお、簡単のため雑音項は省略している。
【0116】
各移動局装置は自局宛の信号の受信SNRを最大化できる送信線形フィルタwt,uを基地局装置に通知している。このような送信線形フィルタは基地局装置と第uの移動局装置間の伝搬路行列Huから算出されるHuHHuという行列(なお、AHは行列Aの随伴行列を表す)が有する固有ベクトルのうち、最大固有値(ここではλu,maxとする)に対応する固有ベクトル(ここではuu,maxとする)である。本実施形態では、移動局装置が基地局装置に通知している線形フィルタはコードブックに記載の線形フィルタに限られており、固有ベクトル自体を通知できるわけではない。しかし、コードブックサイズが十分に大きければ、固有ベクトルに対して十分な相関を有した線形フィルタを基地局装置が把握することが可能である。移動局装置が基地局装置に通知している線形フィルタWuがWu=uu,maxが満たしている場合、
【数8】
が成り立つ。式(8)を式(7)に代入することで、
【数9】
が得られる。
【0117】
式(9)より第1の移動局装置は自局宛の信号のみを受信できるのに対して、第2の移動局装置の受信信号には、第1の移動局装置宛の信号が干渉として受信されてしまうことが分かる。そこで、Precoding部303では、この第2の移動局装置に観測される干渉信号を予め減算する。
【0118】
Precoding部303では、入力された変調シンボルdとHeffおよびWeffに基づいて干渉抑圧が行なわれる。具体的には、第2の移動局装置宛の送信信号d2に対して次式に示すような信号処理を行ない、第2の移動局装置宛の送信信号x2を新たに算出する。
【数10】
式(10)で表される信号x2を第2の移動局装置宛の送信信号としてd2の代わりに送信することで、第2の移動局装置にも所望信号のみを受信させることが可能となることが分かる。
【0119】
以上の干渉抑圧処理を線形フィルタWeffの乗算前に行なうことで、第2の移動局装置に対しても干渉を与えない伝送を行なうことが可能となる。しかし、伝搬路情報Heffの状態によっては、x2の大きさがd2よりも遥かに大きくなってしまい、膨大な送信電力を必要としてしまう可能性がある。その場合、x2に対してmodulo演算と呼ばれる非線形信号処理を行なう必要がある。
【0120】
modulo演算ModM(x)は、ある入力xに対して、その出力が−Mより大きく、かつM以下に収まるようにするものである。ここでMはmodulo幅と呼ばれ、入力される信号の変調方式等に応じて設定される。例えばQPSK変調信号が入力される場合には、M=sqrt(2)と設定される。実際に、式(10)で表される信号x2にmodulo演算を施した場合、その出力は次式で与えられる。
【数11】
ここで、zは実部と虚部がそれぞれ整数となる複素数であり、式(10-1)の右辺の実部と虚部がそれぞれ−Mより大きく、かつM以下に収まるように選択される。このzのことをmodulo演算の等価表現と呼ぶ。modulo演算を施すことにより、伝搬路情報Heffの状態に依らず、x2の大きさを常に一定とすることができる。式(10-1)は次式のように表現することも可能である。
【数12】
ここで、floor(x)は実数xを超えない最大の整数を返す関数であり、床関数とも呼ばれる。また、Re(c)およびIm(c)はそれぞれ、複素数cの実数および虚数を返す関数である。
【0121】
このように算出されたx2(modulo演算も含む)が第2の移動局装置宛の送信シンボルとして非線形信号処理部(図示せず)より出力される。なお、第1の移動局装置宛の送信シンボルについては特に信号処理は行なわれない。上記の干渉抑圧が行なわれた送信シンボルに対して、線形フィルタWeff=Qが乗算されたのち、Precoding部303出力sが出力されることになる。
【0122】
以上、第7の棲み分けにより、大きな残留IUIを発生させる線形フィルタを所望線形フィルタとして通知してきた移動局装置同士を空間多重する場合におけるPrecoding部303における信号処理について説明した。なお、第7の棲み分けにおいて、残留IUIを発生させない線形フィルタを所望線形フィルタとして通知してきた移動局装置同士を空間多重する場合(例えば、第1の移動局装置がc1、第2の移動局装置がc11を所望線形フィルタとして通知してきた場合に、両者を空間多重する場合)においては、式(9)においてr2,1が0となるから、Precoding部303において干渉抑圧を行なう必要はない。
【0123】
以上、4送信アンテナ時における基地局装置における干渉抑圧処理に関連付けられたコードブックの棲み分けについて説明した。第7の棲み分けでは、残留IUIが小さくなる線形フィルタのインデックスは第3の棲み分け(図10参照)において、BPMIの候補となる線形フィルタのインデックスに一致していることが分かり、残留IUIが大きくなる線形フィルタのインデックスはBPMIの候補になっていない線形フィルタということになる。このことは、8送信アンテナに対するコードブックに対しても同様のことを言うことができ、第4から第6の棲み分けにおいてBPMIの候補になっている線形フィルタは、残留IUIを小さくできる線形フィルタであり、BPMIの候補になっていない線形フィルタは残留IUIを大きくしてしまう線形フィルタである。そのため、第4から第6の棲み分けにおいてBPMIの候補になっているかいないかで、新たに第8の棲み分け(図示せず)を生成することが出来、第8の棲み分けに応じて、基地局装置における干渉抑圧をするかしないかを制御することも可能となる。
【0124】
第7および第8の棲み分けは、線形フィルタ間の相関の強弱、すなわち、プリコーディング後の残留IUIが大きくなるか小さくなるかの2値に棲み分けている。第3の実施形態において、棲み分けを2値に限定する必要はなく、残留IUIを大きさに応じて、3値以上に棲み分けしても良い。その際に、各棲み分けにおける残留IUIの大きさに応じて、基地局装置のPrecoding切替部301は、Precoding部303が線形プリコーディングのみを行なうか、干渉抑圧を行なうか、非線形演算による干渉抑圧を行なうかについて、または、基地局装置のPrecoding部303が生成する送信線形フィルタをZF規範に基づくものにするか、MMSE規範に基づくものにするかなどを適応的に切り替えるように制御しても良い。
【0125】
第3の実施形態においては、コードブックの棲み分けに応じて、基地局装置におけるプリコーディングの方法を切り替える場合を対象とした。移動局装置より通知されてきた線形フィルタに基づいて、干渉抑圧を行なうかどうかを判断することができるため、演算量を大きく増加させることなく、柔軟にプリコーディング方法を切り替えることができ、システム全体の周波数利用効率の向上に寄与することができる。
【0126】
<全実施形態共通>
[変形例]
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【0127】
本発明に関わる移動局装置および基地局装置で動作するプログラムは、本発明に関わる上記実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的にRAMに蓄積され、その後、各種ROMやHDDに格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行なわれる。プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光記録媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD等)、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよい。また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本発明の機能が実現される場合もある。
【0128】
また市場に流通させる場合には、可搬型の記録媒体にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されたサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれる。また、上述した実施形態における移動局装置および基地局装置の一部、または全部を典型的には集積回路であるLSIとして実現してもよい。移動局装置および基地局装置の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
【0129】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
101-1、101-2 チャネル符号化部
103-1、103-2 データ変調部
105-1、105-2 参照信号多重部
107 Precoding部
201-m、201 無線受信部
203-m、203 参照信号分離部
205 伝搬路補償部
207-m、207 伝搬路推定部
209 所望線形フィルタ算出部
211 データ復調部
213 チャネル復号部
301 Precoding切替部
303 Precoding部
401 伝搬路補償部
403 制御情報取得部
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信技術に関し、特に、コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
第3.9世代無線伝送方式として3rd Generation Partnership Project(3GPP)において標準化が進められたLong Term Evolution(LTE)では、第3世代無線伝送方式からの大幅な周波数利用効率の改善のために、複数の送受信アンテナを用いて無線伝送を行なうMultiple Input Multiple Output(MIMO)技術が仕様化された。MIMO技術の一つである空間多重(SM)技術により、周波数帯域幅を拡大することなく、伝送速度の向上が実現できる。また、LTEの発展版であるLTE-Advanced(LTE-A)が、第4世代無線伝送方式のひとつとして国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R)より承認され、その標準化活動が活発に行なわれている。LTE-Aでは下りリンク(基地局装置→移動局装置)伝送のピーク伝送速度1Gbpsを達成するために、最大8ストリームを空間多重可能なシングルユーザMIMO(SU-MIMO)が検討されている。SU-MIMOは複数送信アンテナを有する基地局装置と複数受信アンテナを有する単一移動局装置とのMIMO伝送である。
【0003】
MIMO伝送は、送信装置で伝搬路情報(CSI)を要求する閉ループ型MIMO伝送と、CSIを必要としない開ループ型MIMO伝送とに大別され、閉ループ型MIMOは開ループ型MIMOよりも優れた周波数利用効率が達成できることが報告されている。しかし、上下リンクで異なる搬送波周波数を用いる周波数分割複信(FDD)に基づく無線通信システムの場合、基地局装置がCSIを取得するためには、移動局装置よりCSIをフィードバックする必要があり、オーバーヘッドが大幅に増加してしまうという問題がある。
【0004】
そこで、LTEでは、非特許文献1に記載されているようにCSIの通知にかかるオーバーヘッド量を大幅に抑圧することができるコードブックベースの閉ループ型MIMO伝送がサポートされている。コードブックベースの閉ループ型MIMOでは、基地局装置と移動局装置の間で複数の線形フィルタが記載されたコードブックを予め共有しておき、移動局装置は所望の送信フィルタを前述のコードブックより抽出し、その番号(インデックス)を基地局装置に通知する。基地局装置は、通知された線形フィルタに基づき、送信データに対してプリコーディングを行なったのち、MIMO伝送を行なう。コードブックに基づきCSIを通知するため、CSIそのものを移動局装置が通知する方法と比較して、オーバーヘッドの量を大幅に抑圧することが可能である。しかし、移動局装置が所望の送信フィルタを抽出するためには、コードブック記載の全ての線形フィルタについて受信品質(受信信号対雑音電力比(受信SNR)、受信信号対干渉+雑音電力比(受信SINR)、または通信容量(キャパシティ)等)を算出し、その結果を比較する必要があるため、移動局装置の負担が大きくなってしまう。
【0005】
一方、同時接続する複数移動局装置を仮想的な大規模アンテナアレーとみなし、基地局装置から各移動局装置への送信信号を空間多重させるマルチユーザMIMO(MU-MIMO)がLTEでサポートされており、これもまたコードブックベースによるものである。SU-MIMOと同様に、MU-MIMOでも、移動局装置はコードブックから所望の線形フィルタを基地局装置に通知し、基地局装置は複数の移動局装置より通知された線形フィルタに基づき、複数移動局装置宛のデータを空間多重して送信するMU-MIMOを行なうかどうかを決定する。
【0006】
しかし、移動局装置がCSIそのものを通知していないコードブックベースのMU-MIMOでは、空間多重機会はそれほど向上しない。そこで、移動局装置が基地局装置に対して、所望の線形フィルタに加えて、所望線形フィルタと空間多重するのに最も相性の良い線形フィルタを表すBest companion PMIも通知するBest companion PMIフィードバックという技術が非特許文献2などで議論されている。これは、基地局装置は複数の移動局装置より通知される所望線形フィルタとBest companion PMIを取得し、お互いの所望線形フィルタが相手のBest companion PMIとなっている移動局装置同士を空間多重するという方法であり、純粋なコードブックベースMU-MIMOと比較して、空間多重機会を向上させることが可能である。しかし、Best companion PMIを通知するためにオーバーヘッド量が増加してしまうという問題がある。
【0007】
そこで最近、コードブック記載の線形フィルタ群に対して、何かしらの規範に基づき棲み分け(グループ化、クラスター化)を行なうことで、Best companion PMIの通知にかかるオーバーヘッド量を抑圧する技術が非特許文献3等で議論されている。非特許文献3では、LTEで採用されている4送信アンテナ用のコードブック記載の線形フィルタ群を4つのクラスターに分割し、Best companion PMIの通知にかかるオーバーヘッド量を抑圧する方法が示されている。しかし、非特許文献3では、非特許文献4Table6.3.4.2.3-2記載の4送信アンテナ用のコードブックのみを対象としており、非特許文献5記載のLTE-Aにおいて採用が決定している8送信アンテナ用のコードブックについては言及されていない。8送信アンテナ用のコードブックは、4送信アンテナ用と比べて、記載されている線形フィルタ数が膨大であり、所望線形フィルタを抽出するだけでも大きな負担を移動局装置に強いることとなるため、コードブックに対する棲み分けは4送信アンテナ用のコードブックよりも重要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】3GPP R1-100501, NTT Docomo, “Performance of DL MU-MIMO based on implicit feedback scheme in LTE-Advanced,” Jan. 2010.
【非特許文献2】3GPP R1-090051, Alcatel-Lucent, “UE PMI feedback signalling for user pairing/coordination,” Jan. 2009.
【非特許文献3】3GPP R1-103617, Pantech, “Companion subset based PMI feedback for rank 1/2 MIMO transmission,” June 2010.
【非特許文献4】3GPP TS36.211, “E-UTRA Physical channels and modulation,” Version 8.9.0, Dec. 2009.
【非特許文献5】3GPP R1-105011, “Way Forward on 8Tx Codebook for Rel.10 DL MIMO,” Aug. 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、コードブックベースの閉ループ型MIMOでは、コードブック記載の線形フィルタ群からの所望線形フィルタの抽出を移動局装置が行なうため、コードブックのサイズが大きくなるに従い、移動局装置の複雑性を増加させてしまう。また、所望線形フィルタとは別の線形フィルタも更に通知することで、周波数利用効率を改善させることができるが、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量が増加してしまう。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、移動局装置の複雑性の改善と、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量の抑圧を実現する無線送信装置、無線受信装置、無線通信システムおよび集積回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の無線送信装置は、複数の送信アンテナを備え、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する無線送信装置であって、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用し、前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうことを特徴としている。
【0012】
このように、無線送信装置が、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、各受信装置と共用し、各受信装置で関連付けに基づいてコードブックから抽出され、各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0013】
(2)また、本発明の無線送信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴としている。
【0014】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0015】
(3)また、本発明の無線送信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴としている。
【0016】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0017】
(4)また、本発明の無線送信装置において、前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴としている。
【0018】
このように、行列は、複数の行および列において、各線形フィルタを関連付ける情報が記載されているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0019】
(5)また、本発明の無線送信装置において、前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴としている。
【0020】
このように、第一の線形フィルタは、受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とするので、無線受信装置の受信品質を高めることができる。
【0021】
(6)また、本発明の無線送信装置において、前記複数の線形フィルタの関連付けに基づいて、前記プリコーディングの方法を決定することを特徴としている。
【0022】
このように、複数の線形フィルタの関連付けに基づいて、プリコーディングの方法を決定するので、無線送信装置は、無線受信装置より通知されてきた線形フィルタに基づいて、干渉抑圧を行うかどうかを判断することができ、演算量を大きく増加させることなく、柔軟にプリコーディング方法を切り替えることができ、システム全体の周波数利用効率の向上に寄与することができる。
【0023】
(7)また、本発明の無線送信装置において、前記プリコーディングは、modulo演算を含む非線形演算処理であることを特徴としている。
【0024】
このように、プリコーディングは、modulo演算を含む非線形演算処理であるので、無線送信装置は、非線形演算処理を行うかどうかを判断することができる。
【0025】
(8)また、本発明の無線受信装置は、少なくとも一つの受信アンテナを備え、無線送信装置から空間多重された信号を受信する無線受信装置であって、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用し、前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴としている。
【0026】
このように、無線受信装置は、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、無線送信装置と共用し、関連付けに基づいて、第一の線形フィルタをコードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、無線送信装置に対して通知するので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0027】
(9)また、本発明の無線受信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴としている。
【0028】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0029】
(10)また、本発明の無線受信装置において、前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴としている。
【0030】
このように、各線形フィルタは、コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0031】
(11)また、本発明の無線受信装置において、前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴としている。
【0032】
このように、行列は、複数の行および列において、各線形フィルタを関連付ける情報が記載されているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0033】
(12)また、本発明の無線受信装置において、前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴としている。
【0034】
このように、第一の線形フィルタは、受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とするので、無線受信装置の受信品質を高めることができる。
【0035】
(13)また、本発明の無線受信装置において、前記関連付けに基づいて、前記第一の線形フィルタに関連付けられた第二の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴としている。
【0036】
このように、無線受信装置は、関連付けに基づいて、第一の線形フィルタに関連付けられた第二の線形フィルタをコードブックから抽出し、第一の線形フィルタおよび第二の線形フィルタを、無線送信装置に対して通知するので、空間多重機会等を向上させ、周波数利用効率を改善させることが可能である。また、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量の増加を回避することが可能となる。
【0037】
(14)また、本発明の無線受信装置において、前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタは、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴としている。
【0038】
このように、第一の線形フィルタおよび第二の線形フィルタは、直交性または相関値に基づいて関連付けられているので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。
【0039】
(15)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタは、複数の線形フィルタに関連付けられていることを特徴としている。
【0040】
このように、第二の線形フィルタは、複数の線形フィルタに関連付けられているので、空間多重機会等を向上させ、周波数利用効率を改善させることが可能である。また、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量の増加を回避することが可能となる。
【0041】
(16)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタに関連付けられた受信品質は、前記第一の線形フィルタに関連付けられた受信品質とは異なることを特徴としている。
【0042】
このように、第二の線形フィルタに関連付けられた受信品質は、第一の線形フィルタに関連付けられた受信品質とは異なるので、無線受信装置は、自局の受信SNRを最小とする線形フィルタを他無線受信装置宛の送信データに乗算することで、他無線受信装置からの干渉電力を最小とすることができる。
【0043】
(17)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最小とすることを特徴としている。
【0044】
このように、第二の線形フィルタは、受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最小とするので、無線受信装置は、他無線受信装置からの干渉電力を最小とすることができる。
【0045】
(18)また、本発明の無線受信装置において、前記第二の線形フィルタは、前記第一の線形フィルタとの相関値が高いことを特徴としている。
【0046】
このように、第二の線形フィルタは、第一の線形フィルタとの相関値が高いので、無線受信装置は、他無線受信装置からの干渉電力を最小とすることができる。
【0047】
(19)また、本発明の無線通信システムは、(1)記載の無線送信装置と、(8)記載の無線受信装置と、から構成されることを特徴としている。
【0048】
このように、(1)記載の無線送信装置と、(8)記載の無線受信装置と、から構成されるので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0049】
(20)また、本発明の集積回路は、複数の送信アンテナを備えた無線送信装置に実装され、前記無線送信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する機能と、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用する機能と、前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なう機能と、の一連の機能を、前記無線送信装置に発揮させることを特徴としている。
【0050】
このように、無線送信装置は、各受信装置で関連付けに基づいてコードブックから抽出され、各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0051】
(21)また、本発明の集積回路は、少なくとも一つの受信アンテナを備えた無線受信装置に実装され、前記無線受信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、無線送信装置から空間多重された信号を受信する機能と、相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用する機能と、前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知する機能と、の一連の機能を、前記無線受信装置に発揮させることを特徴としている。
【0052】
このように、無線受信装置は、関連付けに基づいて、第一の線形フィルタをコードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、無線送信装置に対して通知するので、無線受信装置が所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、コードブックベースの閉ループ型MIMOにおいて、既存のシステムに大きな変更を与えることなく、移動局装置の複雑性と、移動局装置からの通知にかかるオーバーヘッド量の両方を効率的に抑圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る基地局装置構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る移動局装置の構成を表すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。
【図4】LTE-Aにおいて、基地局装置が8送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る所望線形フィルタ抽出の方法を説明するフローチャートである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る最適なW1の抽出方法を説明する第1の棲み分けを表す表(行列)である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るW2の決定方法に関する第2の棲み分けを表す表(行列)である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。
【図9】LTEにおいて、基地局装置が4送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る第2のコードブックにおけるBPMIの抽出に関する棲み分けを示す表である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW1に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第4の棲み分け)を示す表である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第5の棲み分け)を示す表である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第6の棲み分け)を示す表である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係る基地局装置の装置構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の第3の実施形態に係る移動局装置の装置構成について示すブロック図である。
【図16】本発明の第3の実施形態に係る第2のコードブックにおける干渉抑圧処理に関連付けられた棲み分け(第7の棲み分け)を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
<第1の実施形態>
本発明による第1の実施形態では、Nt本の送信アンテナを有する基地局装置(送信装置とも呼ぶ)に対して、Nr本の受信アンテナを有する複数の移動局装置(受信装置、移動端末とも呼ぶ)が接続している通信を対象とする。そして、同一無線リソースにおいて最大U=2局の移動局装置が空間多重されるMU-MIMO伝送を対象とする。ただし、Nt≧R×U(Rは後述するランク数)が満たされる限りの数だけの空間多重を行なうことができるため、同一無線リソースにおいて空間多重される移動局装置数は2に限ったものではない。また、以下の説明では、簡単のため、各移動局装置には1データストリームだけを通信している状況を想定しているが、各移動局装置が有する受信アンテナ数だけのデータストリームを同時に伝送することも可能である。また、各移動局装置が有する受信アンテナ数はそれぞれ異なる数でも良く、もちろん各移動局装置に送信するデータストリーム数も異なっていて良い。以下では、移動局装置あたりに基地局装置が送信しているデータストリーム数のことをランク数と呼び、R個のデータストリームを伝送している場合には、ランクRの伝送を行なっていると呼ぶこととする。
【0056】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る基地局装置構成を示すブロック図である。各移動局装置宛の送信データは、チャネル符号化部101-1、101-2およびデータ変調部103-1、103-2に入力され、チャネル符号化およびデータ変調が行なわれる。なお、各移動局装置宛の送信データに適用されるチャネル符号化率およびデータ変調方式は、事前に各移動局装置より通知される各移動局装置の受信品質に関連付けられた制御情報に基づいて、既に決定されているものとする。データ変調部103-1、103-2出力は参照信号多重部105-1、105-2に入力され、移動局装置において伝搬路推定を行なうための既知参照信号系列が参照信号多重部105-1、105-2において多重される。なお、各移動局装置宛の参照信号については、移動局装置において分離可能なように、それぞれが直交するように多重されるものとする。以下の説明では、参照信号は任意の無線リソースに理想的に配置されたものとし、移動局装置では上記既知参照信号系列により、自局の伝搬路情報を理想的に推定できるものとする。
【0057】
参照信号多重部105-1、105-2出力はPrecoding部107に入力される。ここで、参照信号多重部105-1、105-2より出力される第1および第2移動局装置の送信シンボルをd1およびd2とし、送信シンボルベクトルdをd=[d1,d2]Tと定義する。なおATは行列Aの転置行列を表す。Precoding部107には線形フィルタ取得部からの出力が入力されるが、線形フィルタ取得部117では後述する図3の方法で第1および第2の移動局装置より通知されてきた各移動局装置の所望の線形フィルタが取得されており、Precoding部107では、各移動局装置の所望の線形フィルタに基づいてプリコーディングが行なわれる。
【0058】
プリコーディングの方法は何かに限定されるものではないが、以下では、一例として移動局装置より通知された線形フィルタに基づいて、基地局装置が送信線形フィルタを算出し、算出された送信線形フィルタを用いてプリコーディングを行なう方法を対象とする。また、実際に空間多重される移動局装置は、各移動局装置より通知される所望線形フィルタおよび基地局装置で行なわれるスケジューリングに基づき決定されるが、以下では、第1の移動局装置と第2の移動局装置とを空間多重する場合を対象とする。
【0059】
Precoding部107では、第1の移動局装置と第2の移動局装置より通知された所望の線形フィルタ{W1,W2}より、各移動局装置と基地局装置間の見掛け上の伝搬路行列Heffを次式のように定義する。
【数1】
【0060】
見掛け上の伝搬路行列Heffは各移動局装置から通知された送信線形フィルタ(ここではW1とW2)にエルミート転置を与えることで得られる行ベクトルを行方向に結合することにより得ることができる。ここでは、同時空間多重移動局装置数を2としているが、空間多重数が3以上となった場合も、同様に伝搬路行列Heffを定義できる。式(1)で与えられる伝搬路行列Heffより、Precoding部107で用いる線形フィルタWeffを生成する。本実施形態で用いる線形フィルタWeffは伝搬路行列Heffを対角行列に変換する行列であり、そのような行列は、Heffの一般逆行列を求めることにより、生成することができる。
【数2】
【0061】
ここでA+は行列Aの一般逆行列を表す。式(2)で表される線形フィルタは、ユーザ間干渉(IUI)が発生しないようにするZero-forcing(ZF)規範に基づいている。ZF規範ではなく、受信信号と送信信号との平均二乗誤差を最小にするMinimum mean square error(MMSE)規範や、ある移動局装置宛の送信信号が他移動局装置に与える与干渉電力(Leakage power)を最小とするSignal-to-leakage power ratio(SLR)規範や、所望信号電力と与干渉+受信雑音電力の比を最大とするSignal-to-leakage plus noise power ratio(SLNR)規範に基づいて線形フィルタを生成しても良い。
【0062】
式(2)で表現される線形フィルタを送信シンボルベクトルdに乗算することで、Precoding部107出力が生成される。なお、プリコーディング後の信号の送信に要求される送信電力が、所定の送信電力を超えないように電力の正規化が併せて行なわれる。Precoding部107出力は、各送信アンテナの無線送信部109に入力される。無線送信部109において、ベースバンド帯の送信信号が無線周波数(RF)帯の送信信号に変換される。無線送信部109の出力信号は、各送信アンテナよりそれぞれ送信される。
【0063】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る移動局装置の構成を表すブロック図である。移動局装置では、各受信アンテナで受信された信号が対応する無線受信部201に入力され、ベースバンド帯の信号に変換される。ベースバンド帯に変換された信号は、参照信号分離部203に入力される。参照信号分離部203では、受信信号はデータ系列と既知参照信号系列とに分離され、データ系列は伝搬路補償部205に入力され、既知参照信号系列は伝搬路推定部207に入力される。伝搬路推定部207では、入力された既知参照信号系列を用いて伝搬路推定が行なわれる。各移動局装置宛の既知参照信号系列はそれぞれ直交するように基地局装置より送信されているから、第1の移動局装置では、伝搬路行列H1を、第2の移動局装置では、伝搬路行列H2を推定することができる。推定された伝搬路行列はそれぞれ伝搬路補償部205および所望線形フィルタ算出部209に入力される。
【0064】
所望線形フィルタ算出部209では、伝搬路推定値と後述する図3の方法に基づき、所望の線形フィルタを所定のコードブックより抽出する。抽出された線形フィルタは基地局装置に通知されることになる。一方、受信データ系列については伝搬路補償部205に入力され、伝搬路推定部207より入力される伝搬路推定情報に基づいて算出される受信フィルタを乗算する伝搬路補償が行なわれる。伝搬路補償の方法は何かに限定されるものではないが、例えば、受信SNRを最大とする場合、基地局装置に通知した所望線形フィルタWuと既に推定済みの伝搬路情報Huに基づいて、Wru=(Hu×Wu)Hを受信フィルタとして用いることで、受信SNRを最大にすることができる。
【0065】
なお、基地局装置のPrecoding部107で行なわれる信号処理によっては、伝搬路推定値だけではなく、基地局装置で実際に乗算された線形フィルタ(例えば式(2)においてZFフィルタではなくMMSEフィルタ等が用いられた場合等)に関する情報が伝搬路補償に必要となる場合がある。このとき、基地局装置は、伝搬路情報を推定する既知参照信号系列に加えて、基地局装置で乗算された線形フィルタを移動局装置が推定可能な既知参照信号系列を更に伝送すれば良い。具体的な方法としては、例えば、既知参照信号系列の一部に、プリコーディングに用いられる線形フィルタを乗算してから送信すれば良い。上記のように移動局装置が基地局装置で行なわれたプリコーディングを把握できる場合、その情報に基づき、伝搬路補償を行なうようにしても良い。伝搬路補償部205出力は、データ復調部211およびチャネル復号部213に入力され、データ復調、チャネル復号がそれぞれ適用されたのち、各移動局装置の送信データが検出される。
【0066】
図3は、本発明の第1の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。はじめに、基地局装置は、送信データを生成するとともに(ステップS101)、接続している複数の移動局装置に対して、既知の参照信号系列を送信する(ステップS102)。次いで、移動局装置は受信された既知参照信号系列に基づき、伝搬路推定を行なう(ステップS103)。推定された伝搬路情報に基づき、移動局装置は自局に最も望ましい線形フィルタを既知のコードブックより抽出し(ステップS104)、その線形フィルタの番号(インデックス)を基地局装置に通知する(ステップS105)。
【0067】
基地局装置は、各移動局装置の所望の線形フィルタを取得し、その情報に基づき、各移動局装置宛の送信データに対して、送信符号化(プリコーディング)を施す(ステップS106)。プリコーディング後のデータを同一無線リソースに空間多重して、接続されている複数の移動局装置宛に送信する(ステップS107)。複数移動局装置宛のデータが空間多重された信号を受信した移動局装置では、前述の伝搬路情報等に基づき、自局の所望データを検出する(ステップS108)。
【0068】
移動局装置では、自局に対して最も望ましい線形フィルタをコードブックより抽出する必要がある。コードブックは基地局装置が有する送信アンテナ数や、各移動局装置への送信ランク数に応じて規定される。コードブックのサイズ、すなわち記載線形フィルタ数をCとし、記載線形フィルタを{cj;j=1〜C}と定義する。第uの移動局装置と基地局装置間の伝搬路行列をHu、第uユーザが所望する線形フィルタをWuとすると、第uの移動局装置が基地局装置に通知する線形フィルタは次式を満たすものとなる。
【数3】
【0069】
ここで、||a||はベクトルaのノルム演算を表す。また、arg maxx(f(x))は評価関数f(x)を最大とするxを選択する関数であるから、式(3)の場合、||Hu×cj||2を最大とするcjをコードブック記載の線形フィルタ群から抽出し、それを基地局装置に通知する所望線形フィルタWuとすることを意味している。なお、||Hu×cj||2を最大とするということは、受信信号対雑音電力比(SNR)を最大とすることを意味している。受信SNRではなく、受信信号対干渉+雑音電力比(SINR)や、通信容量を最大とするような線形フィルタを抽出するようにしても良い。通常、最適な線形フィルタを抽出するためには、コードブック記載の全ての線形フィルタに対して、式(3)の計算を行なう必要がある。しかし、コードブックのサイズが大きい場合、その計算に係る計算量は大幅に増加してしまい、移動局装置の負担を増加させてしまう。
【0070】
図4は、LTE-Aにおいて、基地局装置が8送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。図4に示すコードブック(第1のコードブック)には、2つの線形フィルタW1、W2それぞれについて、16個の線形フィルタが記載されたコードブックが準備されている。最終的に、基地局装置が把握する線形フィルタはW1とW2それぞれに基づくから、全部で256通りもの線形フィルタが記載されていることになる。そこで、第1の実施形態では、この256通りの線形フィルタの全てについて式(3)の計算をせずとも、高精度に所望の線形フィルタを抽出できる方法、すなわち、図3中の手続きXについて新たな方法を開示している。
【0071】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る所望線形フィルタ抽出の方法を説明するフローチャートである。第1のコードブックはW1とW2の二つの線形フィルタの行列積で表されており、W1が16通り、W2が16通り存在し、W1については、C1={c1,j;j=1〜16}、W2についてはC2={c2,j;j=1〜16}から所望のコードを抽出し、それを乗算することで、所望の線形フィルタWuを抽出する。初めにW1の決定方法について説明する。初めにW1については、記載されている16個の線形フィルタの中で、直交している線形フィルタを複数個抽出する(ステップS201)。
【0072】
直交している複数個の線形フィルタの組み合わせとして、{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}という組み合わせが考えられる。移動局装置では、{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}の中から式(3)の条件に最もよく当てはまる線形フィルタを抽出する。このとき、W2については、任意の一つ(例えばc2,1)を抽出し、それを用いれば良い。次いで、{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}から選択された線形フィルタc1,xに対して、相関の大きい複数の線形フィルタを抽出する(ステップS202)。例えば、c1,xに対して、{c1,x−2,c1,x−1,c1,x,c1,x+1,c1,x+2}という5つの線形フィルタを抽出することが考えられる。先に抽出されたc1,xがc1,1である場合、{c1,15,c1,16,c1,1,c1,2,c1,3}の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良い。抽出されたc1,yに基づき、基地局装置に通知するW1を生成する(ステップS203)。このようにW1を抽出することで全16通りではなく、8通りの線形フィルタの中から所望線形フィルタを抽出すれば良いことになる。
【0073】
図6は、本発明の第1の実施形態に係る最適なW1の抽出方法を説明する第1の棲み分けを表す表(行列)である。第1の棲み分けを表す行列の各要素は、W1に関する線形フィルタのインデックスを表しており、例えば、第1行第3列成分は、c1,1を表すことになる。第1の棲み分けでは列方向には、お互いの相関の強い、もしくは直交性が弱い線形フィルタが並び、行方向には、お互いの相関が弱い、もしくは無相関、もしくは直交性が強い線形フィルタが並んでいる。例えば、第1行に並ぶ{c1,15,c1,16,c1,1,c1,2,c1,3}については、お互いの相関が強く、第3列に並ぶ{c1,1,c1,5,c1,9,c1,13}については、お互いの相関が弱いということになる。
【0074】
移動局装置では、第1の棲み分けから任意の列を抽出し、抽出された列の中から最適な線形フィルタを抽出する。その後、抽出された最適な線形フィルタが含まれている行を抽出し、抽出された行の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良い。先ほどの例では、最初に抽出された列は第3列であり、次いで抽出された行は第1行と言うことになる。つまり、移動局装置は、第1の棲み分けに応じて、線形フィルタを抽出することで、効率的な線形フィルタの抽出を行なうことが可能となる。
【0075】
なお、第1の棲み分けでは、列サイズは5となっているが、これは任意の列から抽出された線形フィルタの前後2個までの線形フィルタから最適な線形フィルタを抽出するような棲み分けとなっていることになる。ここで、前後2個までに限らず、前後K個(1≦K≦8)までのコードブックから抽出するものとし、無線通信システムの要求する伝送品質に応じて、Kの値を変更しても良い。K=2とすれば、前述の第1の棲み分けと等価となり、K=8とすれば、従来の全ての線形フィルタから所望コードを抽出する方法と等価となる。また、第1の棲み分けによれば、一つの線形フィルタが複数の行もしくは列に記載されることもある。
【0076】
次いで、W2の決定方法について説明する。再び図5のフローチャートに従って説明する。初めにW2について、記載されている16個の線形フィルタのうち、互いに直交している複数個の線形フィルタを抽出する。例えば、{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}という組み合わせが考えられるから、移動局装置は、{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}から、所望の線形フィルタを抽出する(ステップS204)。このとき、W1については任意の一つを抽出し、それを用いれば良い。次いで、{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}から抽出された線形フィルタに対して、相関の大きい複数の線形フィルタを抽出する(ステップS205)。例えば{c2,1,c2,2,c2,3,c2,4}からc2,1が選択されている場合、{c2,1,c2,5,c2,9,c2,13}の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良いことになる。抽出されたc2,yに基づき、基地局装置に通知するW2を生成する(ステップS206)。このような算出をすることにより、W2についても、8通りの線形フィルタの中から所望線形フィルタを抽出すれば良いことになる。
【0077】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るW2の決定方法に関する第2の棲み分けを表す表(行列)である。W2についても、W1の抽出方法と同様に、ある棲み分けに基づいて行なうことが可能である。第1の棲み分けと同様に、第2の棲み分けを表す表も、W2に関する線形フィルタのインデックスを要素とする行列で表現されており、例えば、第1行第3列成分は、c2,9を表すことになる。列方向には、お互いの相関の強い線形フィルタが並び、行方向には、お互いの相関が弱い、もしくは無相関となる線形フィルタが並んでいる。
【0078】
移動局装置では、第2の棲み分けから任意の列を抽出し、抽出された列の中から最適な線形フィルタを抽出する。その後、抽出された最適な線形フィルタが含まれている行を抽出し、抽出された行の中から最適な線形フィルタを抽出すれば良い。先ほどの例では、最初に抽出された列は第1列であり、次いで抽出された行は第1行と言うことになる。つまり、移動局装置は、第2の棲み分けに応じて、線形フィルタを抽出することで、W2についても効率的な線形フィルタの抽出を行なうことが可能となる。
【0079】
図5に戻り、最終的に基地局装置に通知する所望線形フィルタは上記手続きにより抽出された二つの線形フィルタW1とW2を乗算することで得られるWu(=W1×W2)である(ステップS207)。なお、無線通信システムにおいて、所望線形フィルタを移動局装置が基地局装置に通知する方法として、W1とW2を別々に通知するような場合、図5のフローチャートにおけるステップS207の処理は移動局装置では不要であり、基地局装置が行なうことになる。
【0080】
以上説明してきた方法に基づけば、256通りものコードが存在する第1のコードブックから所望の線形フィルタを抽出するために、16個の線形フィルタの中から式(3)を満たす線形フィルタを抽出すれば良いことになり、移動局装置の複雑性を大幅に抑圧することが可能となる。また、以上の説明では、基地局装置構成として送信アンテナ数が8本を想定しているが、送信アンテナ数が2本や4本の場合にもおいても、所定のコードブックに対して、記載されている複数の線形フィルタに対して、互いに直交している線形フィルタの組み合わせと、それぞれの線形フィルタに対して相関の強い線形フィルタを抽出することで、第1および第2の棲み分けと同等のことができるため、線形フィルタ抽出に係る演算量を抑圧することが可能である。
【0081】
以上の方法で各移動局装置は所望線形フィルタを所定のコードブックより抽出し、それを基地局装置に通知することになる。
【0082】
本実施形態においては、伝送方式(もしくはアクセス方式)については制限を与えていない。例えば、LTEの下りリンク伝送に採用されている直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)方式に適用することも可能である。この場合は、サブキャリア毎に本発明を適用すれば良く、また複数サブキャリアを一纏めとしたリソースブロック毎に本発明を適用しても良い。同様に、シングルキャリアベースのアクセス方式(例えばシングルキャリア周波数分割多重アクセス(SC-FDMA)方式など)に適用することも可能であり、周波数成分毎に適用しても良いし、送信電力の強調を回避するために、全周波数帯域に渡って同一のプリコーディングを行なうようにしても良い。
【0083】
また、第1の実施形態では、複数の移動局装置宛のデータを同一無線リソースに空間多重して送信するMU-MIMOを対象として説明を行なったが、本実施形態で用いる各棲み分け方法は、基地局装置と単一の移動局装置とが空間多重伝送を行なうSU-MIMOにも適用することが可能である。本実施形態により、移動局装置が、所望の線形フィルタを抽出する際に要求される演算量を大幅に抑圧することが可能となる。特に、8送信アンテナ用に準備されているコードブックのサイズは4送信アンテナ用などに比べて極めて大きく、一方で、大幅な周波数利用効率の改善には8送信アンテナは必須と考えられていることから、本実施形態の方法により、周波数利用効率の改善を図りながら、演算量の大幅な抑圧に寄与することが可能となる。
【0084】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、コードブックベースのMU-MIMOを対象に、効率的な所望線形フィルタの抽出方法を明らかにした。第2の実施形態では、コードブックベースのMU-MIMO伝送における空間多重機会の向上を目的とし、移動局装置が所望線形フィルタ(第1の線形フィルタと呼ぶ)に加えて、第2の線形フィルタを基地局装置に通知する場合を対象とする。第1の実施形態と同様に、Nt本の送信アンテナを有する基地局装置(送信装置とも呼ぶ)に対して、Nr本の受信アンテナを有する複数の移動局装置(受信装置、移動端末とも呼ぶ)が接続している通信を対象とする。そして、同一無線リソースにおいて最大U=2局の移動局装置が空間多重され、各移動局装置に対してランク1の伝送を行なうMU-MIMO伝送を対象とする。ただし、第1の実施形態と同様に、空間多重数や送信ランク数は上記に限ったものではない。
【0085】
基地局装置と移動局装置の構成は基本的に第1の実施形態に係る装置構成(図1および図2参照)と同様である。本発明の第2の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明する。
【0086】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るシステム全体の信号処理についてその概要を説明するフローチャートである。基本的には図3と同様であるが、異なるのは移動局装置において所望線形フィルタである第1の線形フィルタに加えて、第2の線形フィルタの抽出も行なわれることにある(手続きY参照)。はじめに、基地局装置は、送信データを生成するとともに(ステップS201)、接続している複数の移動局装置に対して、既知の参照信号系列を送信する(ステップS202)。次いで、移動局装置は受信された既知参照信号系列に基づき、伝搬路推定を行なう(ステップS203)。推定された伝搬路情報に基づき、移動局装置は自局に最も望ましい線形フィルタである第1の線形フィルタを既知のコードブックより抽出し(ステップS204)、さらに、第2の線形フィルタを既知のコードブックより抽出する(ステップS205)。これらの線形フィルタの番号(インデックス)を基地局装置に通知する(ステップS206)。
【0087】
基地局装置は、各移動局装置の所望の線形フィルタと第2の線形フィルタを取得し、その情報に基づき、各移動局装置宛の送信データに対して、送信符号化(プリコーディング)を施す(ステップS207)。プリコーディング後のデータを同一無線リソースに空間多重して、接続されている複数の移動局装置宛に送信する(ステップS208)。複数移動局装置宛のデータが空間多重された信号を受信した移動局装置では、前述の伝搬路情報等に基づき、自局の所望データを検出する(ステップS209)。
【0088】
第2の線形フィルタとして、MU-MIMOの空間多重機会の向上を目的とした線形フィルタを通知する方法が考えられる。そのような方法のひとつとして、Best companion PMI方式と呼ばれる方法がある。以下では、初めにBest companion PMI方式を対象としたコードブックに対する棲み分け方法を開示する。Best companion PMI方式では、自局の所望線形フィルタに対して最も相性の良い線形フィルタ(以下、BPMIと呼ぶこととする)を移動局装置が基地局装置に通知する方式である。下りリンクMU-MIMOの場合、BPMIとは受信SNRを最小とするような線形フィルタとなる。なぜならば、自局の受信SNRを最小とする線形フィルタを他移動局装置宛の送信データに乗算することで、他移動局装置宛の送信データが干渉信号として受信されにくくなるためである。arg minx(f(x))が評価関数f(x)を最小とするxを選択する関数であるものとすると、BPMIとなるコードcB,uは次式で与えられることになる。
【数4】
【0089】
所望線形フィルタと併せてBPMIも移動局装置が基地局装置に通知することにより、基地局装置のPrecoding部107ではより柔軟に様々な移動局装置同士を空間多重するようなプリコーディングを行なうことが可能である。しかし、BPMIを抽出するために、所望線形フィルタを抽出するのと同等の演算量を移動局装置に強いることとなり、また、BPMIを新たに基地局装置に通知するために、オーバーヘッドが増加してしまうという問題がある。以下では、BPMIの抽出に要求される演算量と、基地局装置への通知に係るオーバーヘッド量の抑圧を目的とした効率的なBPMIの抽出方法を開示する。
【0090】
図9は、LTEにおいて、基地局装置が4送信アンテナを有しているランク1伝送のコードブックを示す表である。図9のように、LTEにおける送信4アンテナでランク1伝送に用いられるコードブック(第2のコードブックとする)には16個の線形フィルタが記載されている。図9には、コードブックC={c1,c2,c3,・・・,c16}が示されている。従来の方法では、所望線形フィルタの抽出と同様に、コードブック記載の全ての線形フィルタについて式(4)の演算を行ない、BPMIを算出している。
【0091】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る第2のコードブックにおけるBPMIの抽出に関する棲み分けを示す表である。第2の実施形態では、初めに第3の棲み分けを定義する。第3の棲み分けは第2のコードブックに記載の線形フィルタのそれぞれに対して、直交性が保たれている線形フィルタを抽出することにより生成される。第3の棲み分け方法として例えば図10記載の棲み分けが考えられる。移動局装置は、第3の棲み分けに基づいてBPMIを抽出する。例えば、所望線形フィルタがc5で有った場合に、BPMIは{c6,c7,c8}から抽出すれば良いことを意味している。第3の棲み分けはコードブック記載の線形フィルタ同士の相関に基づいて決定されている。つまり、c5に対して{c6,c7,c8}は直交していることを意味している。最適なBPMIは伝搬路に依存して決定されるため、c5に対して直交している{c6,c7,c8}が必ずしもBPMIとなるとは限らない。しかし、所望線形フィルタがc5である移動局装置の最適なBPMIは{c6,c7,c8}になる確率が非常に高いため、下りリンクMU-MIMOの空間多重機会を向上させるには第3の棲み分けで十分である。
【0092】
また第3の棲み分けでは、BPMIの候補は最大でも5である。4送信アンテナのコードブックサイズは16であるから、従来の方法でBPMIを通知しようとすると4ビットの通知情報量が必要となるが、第3の棲み分けに基づいてBPMIを決定した場合、通知情報量は3ビットで十分となり、オーバーヘッドの削減にも寄与することが可能となる。次いで、8送信アンテナのランク1伝送におけるコードブックを対象としたBPMIの抽出方法について説明する。8送信アンテナ用のコードブックは第1の実施形態でも説明したようにW1とW2の二つのコードブックより生成されるダブルコードブックである。本実施形態においては、W1に関連付けられたC1={c1,j;j=1〜16}とW2に関連付けられたC2={c2,j;j=1〜16}から、それぞれBPMIを抽出する方法を説明する。
【0093】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW1に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第4の棲み分け)を示す表である。まず、W1について説明する。なお、事前に所望の線形フィルタが抽出されているものとする。所望線形フィルタの抽出方法については、第1の実施形態の方法でも良いし、他の方法に依って抽出しても良い。初めに、第4の棲み分けを定義する。第4の棲み分けはW1からある二つの線形フィルタを抽出したときに、その二つの線形フィルタのうち、どちらか一方を第1の移動局装置が通知してきて、残りの一方を第2の移動局装置が通知してきた場合、第1および第2の移動局装置がお互いにどのようなW2を通知してきたとしても、第1の移動局装置と第2の移動局装置との直交性が保たれやすいW1の線形フィルタの組み合わせを抽出することで生成される。第4の棲み分けとして、例えば図11記載の棲み分けが考えられる。移動局装置は抽出されている所望の線形フィルタと図11記載の第4の棲み分けに基づき、W1のBPMIを抽出する。例えば、所望線形フィルタがc1,1であった場合、BPMIは{c1,5,c1,9,c1,13}のいずれかであることを意味しているから、{c1,5,c1,9,c1,13}の中で、最も受信SNRを小さくするフィルタをBPMIとして基地局装置に通知するということである。
【0094】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第5の棲み分け)を示す表である。ついで、W2について説明する。W2についても事前に所望の線形フィルタが抽出されているものとする。W2については、第5の棲み分けに基づいて抽出される。第5の棲み分けでは、任意のW1が選択されているとしたときに、基地局装置に通知する線形フィルタW=W1W2の直交性が保たれる組み合わせを抽出することで生成される。第5の棲み分けとして例えば図12に記載の棲み分けが考えられる。移動局装置は抽出されている所望の線形フィルタと図12記載の第5の棲み分けに基づき、W2のBPMIを抽出する。例えば、所望の線形フィルタがc2,2で有った場合、BPMIは{c2,4,c2,8,c2,12,c2,16}のいずれかであることを意味しているから、{c2,4,c2,8,c2,12,c2,16}の中で最も受信SNRを小さくするフィルタをBPMIとして基地局装置に通知するということである。
【0095】
上記方法に基づけば、W1については3つ、W2については4つの線形フィルタについて受信SNRの計算をすれば良いことになるから、コードブック記載の全ての線形フィルタについて受信SNRを計算する必要がある従来方法と比較して、演算量を大幅に減らすことが可能となる。また、BPMIのフィードバックに要する情報量が、従来の方法では、W1とW2でそれぞれ4ビット必要なのに対して、本方式に依れば、W1とW2とでそれぞれ2ビットで良いこととなり、オーバーヘッドの抑圧にも寄与することが可能である。
【0096】
なお、上記の方法はW1とW2で独立に適用しても良い。つまり、W1については上記の方法でBPMIを抽出し、W2については、従来通りコードブック記載の全ての線形フィルタの中からBPMIを抽出するようにしても良い。しかし、上記の方法では、BPMIが見つからない可能性もある。その場合、W1のBPMIの抽出が第4の棲み分けに基づいて行なわれていることを条件に、W2のBPMIはさらに、第6の棲み分けに基づいて行なっても良い。第5の棲み分けが、任意のW1が選択されていることを想定しているのに対して、第6の棲み分けは、W1が第4の棲み分けに基づいて抽出されていることを前提とした棲み分けである。
【0097】
図13は、本発明の第2の実施形態に係る第1のコードブックのW2に関するBPMIの抽出に関する棲み分け(第6の棲み分け)を示す表である。第6の棲み分けとして、例えば図13に記載の第6の棲み分けが考えられる。W2について所望の線形フィルタがc2,1であり、第5の棲み分けに基づいた抽出では、BPMIが抽出されなかった場合、更に{c2,2,c2,4}からBPMIを抽出するということである。候補線形フィルタ数が6に増加するため、抽出にかかる演算量やフィードバックにかかるオーバーヘッドは増加するものの、BPMI自体の精度を向上させ、空間多重機会を向上させることが可能となる。
【0098】
以上の方法に基づいて、各移動局装置は所望線形フィルタに加えてBPMIを抽出し、それらを基地局装置に通知することになる。基地局装置では、通知された所望線形フィルタとBPMIに基づいてプリコーディングを行なうことになる。プリコーディングについては、何かに限定されることは無く、例えば第1の実施形態で説明した方法に基づいて行なっても良いが、その際に、空間多重する移動局装置、つまり、式(1)で表現される等価伝搬路行列を構成する移動局装置の組み合わせ(式(1)の場合は第1移動局装置と第2移動局装置)をBPMIに基づいて決めることで、伝送品質を向上させ、空間多重機会を大幅に向上させることができる。
【0099】
例えば、第1の移動局装置と第2の移動局装置の2つの移動局装置を空間多重することを考えた時、第1の移動局装置が通知した所望線形フィルタと第2の移動局装置が通知したBPMIが一致し、第1の移動局装置が通知したBPMIと第2の移動局装置が通知した所望線形フィルタが一致するような第1の移動局装置と第2の移動局装置とを空間多重した方が、他の移動局装置を空間多重するよりも優れた伝送品質を達成することが可能となる。また、全ての移動局装置がBPMIを通知しなくても良い。BPMIを通知していない移動局装置が存在する場合、基地局装置は、通知されてきた所望の線形フィルタとBPMIに関する各種の棲み分けに基づき、BPMIを通知していない移動局装置のBPMIを推定し、推定されたBPMIに基づき、基地局装置がプリコーディングを行なっても良い。
【0100】
また、通知する情報は、BPMIとなる線形フィルタそのものを表す情報ではなく、BPMIに基づいたプリコーディングを基地局装置が行なったときに、移動局装置で観測される受信品質に関わる情報であっても良い。なお、プリコーディングの方法を除く基地局装置における信号処理、およびBPMIを抽出する方法を除く移動局装置における信号処理は第1の実施形態と同様であるから説明は省略する。また、MU-MIMOの空間多重機会を向上させる方法は、Best companion PMI方式に限らない。以下では、Worst companion PMI方式に基づいた棲み分け方法について簡単に説明する。
【0101】
Worst companion PMI方式は、Best companion PMI方式とは異なり、自局の所望線形フィルタに対して最も相性の悪い線形フィルタを表すWorst companion PMI(以下、WPMIと呼ぶこととする)を移動局装置が基地局装置に通知する方式である。下りリンクMU-MIMOの場合、WPMIとして、例えば受信SNRを最大とするような線形フィルタが考えられる。なぜならば、自局の受信SNRを最大とする線形フィルタを他移動局装置宛の送信データに乗算すると、他移動局装置からの干渉電力が最大となってしまうためである。しかし、受信SNRを最大とする線形フィルタは、所望の線形フィルタ(第1の線形フィルタ)そのものであるから、WPMIとなる第2の線形フィルタは、第1の線形フィルタを除いて、最も受信SNRが大きくなる線形フィルタということになる。よって、第2の線形フィルタは式(3)に基づき抽出されることになる。このことは、WPMIの抽出には図6および図7に示されている、第1および第2の棲み分けを応用することが可能である事を意味している。
【0102】
第1の棲み分けを応用して、第1のコードブックにおけるWPMIを抽出する方法の一例を説明する。移動局装置は、第1の線形フィルタの抽出と同様に、図5のフローチャートに基づき線形フィルタの抽出を行なうが、ステップS201およびステップS204で抽出する線形フィルタについては、第1の線形フィルタと同じものを抽出するものとする。
【0103】
そして、ステップS202およびステップS205においては、第1の線形フィルタとして抽出されたフィルタを除いたのち、第1の線形フィルタを抽出したときと同様の処理により線形フィルタを抽出する。以上の処理により、移動局装置は、簡易な処理でWPMIを抽出することが可能となる。また、W1、W2それぞれで、4つ、または3つの線形フィルタからWPMIを抽出することになるから、移動局装置からの通知にかかる情報量は併せて4ビットで済むため、オーバーヘッドの削減にも寄与できる。
【0104】
基地局装置では、移動局装置から通知されてくる第1の線形フィルタと第2の線形フィルタであるWPMIに基づいてプリコーディングを行なうことになる。プリコーディングの方法として、例えば、第1の移動局装置と第2の移動局装置の2つの移動局装置を空間多重することを考えた時、第1の移動局装置が通知した所望線形フィルタと第2の移動局装置が通知したWPMIが一致すること、もしくは、第1の移動局装置が通知したWPMIと第2の移動局装置が通知した所望線形フィルタが一致することのいずれかの条件を満たすような第1の移動局装置と第2の移動局装置については、空間多重することを避けることにより、伝搬路の直交性が低い2つの移動局装置を空間多重する確率を大幅に低下させることが可能となる。よって、WPMIを通知する方法は、誤った空間多重を行なう可能性を低下させることができる技術であるということができ、MU-MIMO伝送の周波数利用効率の改善に有効である。また、WPMIの抽出にも、コードブックに対する棲み分けを行なうことにより、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量を増加させることなく、MU-MIMOの伝送品質を向上させることが可能となる。
【0105】
このように、コードブックベースのMU-MIMOでは、所望の線形フィルタに加えて、第2の線形フィルタも通知することにより、空間多重機会等を向上させ、周波数利用効率を改善させることが可能である。第2の線形フィルタの抽出の規範として、BPMI方式やWPMI方式で規範とした受信SNRや受信SINR以外にも、ランク数等の受信品質に関連付けられた情報が考えられるが、いずれの場合においても、コードブックに対する棲み分けを行なうことで、移動局装置の複雑性や、オーバーヘッド量の増加を回避することが可能となる。第2の実施形態では、所望線形フィルタに加えて、第2の線形フィルタを移動局装置が基地局装置に通知するシステムを対象に、効率的な第2の線形フィルタの抽出方法を開示した。本実施形態によれば、第2の線形フィルタの抽出および通知を低演算量かつ低オーバーヘッドにより実現することが可能であり、第2の線形フィルタによる下りリンクMU-MIMOの周波数利用効率の改善にも大きく寄与することが可能である。
【0106】
<第3の実施形態>
第1および第2の実施形態では、基地局装置におけるプリコーディングは線形フィルタの乗算によって行なわれる線形プリコーディングを行なうものとして説明を行なってきた。しかし、コードブックベースの下りリンクMU-MIMOでは、線形プリコーディングだけではIUIを完全に抑圧するのは難しく、周波数利用効率の改善には限界がある。そこで、基地局装置において、予め残留IUIを抑圧する干渉抑圧処理を行なうことで、周波数利用効率を改善させることが可能となる。干渉抑圧処理の例としては、非線形干渉抑圧技術として知られているTomlinson-Harashima-precoding(THP)等を用いることができる。しかし、干渉抑圧処理は演算量を増加させるなど、一般的に基地局装置の負担を増加させてしまう。そのため、通常は線形プリコーディングのみを行ない、残留IUIが大きくなる時だけ干渉抑圧処理を行なうことで、演算量の増加を最小限に抑えながら、大きな伝送特性改善を実現することが可能である。
【0107】
しかし、残留IUIが大きくなるかどうかを推定するためにも、やはり基地局装置の演算量を増加させてしまうという問題がある。そこで、第3の実施形態では、これまで述べてきたコードブックの棲み分けを応用し、棲み分けに応じて、基地局装置におけるプリコーディング処理を変える方法を対象とする。第3の実施形態でも、第1および第2の実施形態と同様に、Nt本の送信アンテナを有する基地局装置(送信装置とも呼ぶ)に対して、Nr本の受信アンテナを有する複数の移動局装置(受信装置、移動端末とも呼ぶ)が接続している通信を対象とする。そして、同一無線リソースにおいて最大U=2局の移動局装置が空間多重され、各移動局装置に対してランク1の伝送を行なうMU-MIMO伝送を対象とする。ただし、第1の実施形態と同様に、空間多重数や送信ランク数は上記に限ったものではない。基地局装置と移動局装置の装置構成を図14および図15にそれぞれ示す。
【0108】
第1および第2の実施形態と同様に、移動局装置は基地局装置に対して所望の線形フィルタを通知する。このとき、所望の線形フィルタの抽出方法は第1の実施形態の方法に基づいても良いし、また、第2の実施形態のように、BPMIをはじめとした第2の線形フィルタを同時に通知するようにしても良い。基地局装置では、各移動局装置より通知された所望の線形フィルタに基づいてプリコーディングを行なうが、このとき通知された所望の線形フィルタに基づいて、プリコーディングの方法を切り替えることになる。
【0109】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る基地局装置の装置構成を示すブロック図である。第1の実施形態に係る基地局装置構成に加えて、Precoding切替部301が追加される。Precoding切替部301では、移動局装置より通知される所望線形フィルタと後述する第7の棲み分けや第8の棲み分けに基づき、干渉抑圧を行なうかどうかを切り替える。Precoding部303では、Precoding切替部301からの制御信号に基づき、送信データに対して、線形フィルタの乗算に基づく線形プリコーディングだけを行なう、もしくは線形プリコーディングに加えて干渉抑圧を行なうことになる。Precoding部303とPrecoding切替部301以外の構成装置において行なわれる信号処理は第1の実施形態に係る基地局装置(図1参照)と同様であるため、説明は省略する。
【0110】
図15は、本発明の第3の実施形態に係る移動局装置の装置構成について示すブロック図である。図15に基づいて説明する。基本的には、第1の実施形態に係る移動局装置(図2参照)と同様であり、異なるのは伝搬路補償部401における信号処理と制御情報取得部403である。第3の実施形態においては、基地局装置のPrecoding部303において干渉抑圧が行なわれており、その際に送信電力の増大を抑えるためにmodulo演算が行なわれている場合がある。modulo演算を含むプリコーディングが行なわれた送信データより所望の信号を検出するためには、受信機側でもmodulo演算を行なう必要がある。
【0111】
そこで、第3の実施形態に係る移動局装置の伝搬路補償部401では、第1の実施形態と同様の伝搬路補償が行なわれたのち、基地局装置のPrecodingで行なわれたものと同様のmodulo演算を施すことで、伝搬路補償部401出力が生成される。実際にmodulo演算を行なうかどうかは、基地局装置が、modulo演算を行なったかどうかに関連付けられた制御情報を通知し、制御情報取得部403がこの制御情報を伝搬路補償部401に入力することにより、それに基づいて制御しても良いし、移動局装置が単独でmodulo演算の有無を推定しても良いし、基地局装置で行なわれるプリコーディングの種類に依らず、常にmodulo演算を行なうように制御しても良い。伝搬路補償部401における信号処理と制御情報取得部403を除いた移動局装置の各構成装置の信号処理については、第1の実施形態に係る移動局装置(図2参照)と同様であるため、説明は省略する。
【0112】
第1のコードブックを対象として説明する。すなわち、基地局装置の送信アンテナ数が4であり、各移動局装置にはランク1の伝送を行なっている。コードブック記載の線形フィルタ同士は、それぞれ異なった相関値を持っている。そこで、第3の実施形態では、各移動局装置より通知された線形フィルタ同士の相関値に基づき、干渉抑圧処理を行なうかどうかを決定する。そのために、線形フィルタ同士の相関値の大小に基づいた第7の棲み分けを生成する。
【0113】
図16は、本発明の第3の実施形態に係る第2のコードブックにおける干渉抑圧処理に関連付けられた棲み分け(第7の棲み分け)を示す表である。例えば、所望線形フィルタとしてc1を通知してきた第1の移動局装置に対して、c5を所望線形フィルタとして通知してきた第2の移動局装置を空間多重する場合、第7の棲み分けによればc1とc5の組み合わせは残留IUIが大きくなる組み合わせであることが分かるから、基地局装置で干渉抑圧処理を行なうことになる。干渉抑圧処理を行なう場合の、基地局装置のPrecoding部303における信号処理について説明する。第1の実施形態と同様にPrecoding部303では、各移動局装置より通知された所望の線形フィルタ{W1,W2}より、各移動局装置と基地局装置間の見掛け上の伝搬路行列Heffを式(1)のように定義する。
【0114】
式(1)で与えられる伝搬路行列Heffより、線形フィルタWeffを生成する。第1の実施形態で用いる線形フィルタWeffは伝搬路行列Heffを単位行列に変換する行列であったが、本実施形態で用いる線形フィルタWeffは、伝搬路行列Heffを下三角行列に変換する行列である。そのような行列は、Heffの随伴行列HeffHにQR分解を適用することにより求めることができる。すなわち、HeffH=QRとQR分解したとき(Qがユニタリ行列、Rが上三角行列である)、Qが線形フィルタWeffとなる。なお、
【数5】
であるから、正確にはQの第1から第2列ベクトルまでを抽出した(Nt×2)の行列が線形フィルタWeffとなる。
【0115】
ここで、式(5)を満たすユニタリ行列Qを線形フィルタWeffとして送信シンボルベクトルに乗算することにより得られるベクトルWeffdを送信信号ベクトルとして、基地局装置より送信することを考える。第u移動局装置の移動局装置の第m受信アンテナで受信される受信信号を{ru,m;u=1〜2,m=1〜Nr}としたとき、第u移動局装置の受信信号ベクトルru=[ru,1,…,ru,Nr]Tは次式で与えられる。
【数6】
ここで、nuは雑音ベクトルである。各移動局装置では、所望信号の受信SNRを最大にする受信フィルタwr,uを受信信号ベクトルに乗算する。ランク1の伝送を行なっている場合、受信SNRを最大にする受信フィルタWruは(HuWu)Hで表される(Nr×1)の行ベクトルである。Wru=(HuWu)Hが乗算された検波出力をdu^とする。第1および第2移動局装置の検波出力をまとめた検波出力ベクトルd^=[d1^,d2^]Tは次式で与えられる。
【数7】
なお、簡単のため雑音項は省略している。
【0116】
各移動局装置は自局宛の信号の受信SNRを最大化できる送信線形フィルタwt,uを基地局装置に通知している。このような送信線形フィルタは基地局装置と第uの移動局装置間の伝搬路行列Huから算出されるHuHHuという行列(なお、AHは行列Aの随伴行列を表す)が有する固有ベクトルのうち、最大固有値(ここではλu,maxとする)に対応する固有ベクトル(ここではuu,maxとする)である。本実施形態では、移動局装置が基地局装置に通知している線形フィルタはコードブックに記載の線形フィルタに限られており、固有ベクトル自体を通知できるわけではない。しかし、コードブックサイズが十分に大きければ、固有ベクトルに対して十分な相関を有した線形フィルタを基地局装置が把握することが可能である。移動局装置が基地局装置に通知している線形フィルタWuがWu=uu,maxが満たしている場合、
【数8】
が成り立つ。式(8)を式(7)に代入することで、
【数9】
が得られる。
【0117】
式(9)より第1の移動局装置は自局宛の信号のみを受信できるのに対して、第2の移動局装置の受信信号には、第1の移動局装置宛の信号が干渉として受信されてしまうことが分かる。そこで、Precoding部303では、この第2の移動局装置に観測される干渉信号を予め減算する。
【0118】
Precoding部303では、入力された変調シンボルdとHeffおよびWeffに基づいて干渉抑圧が行なわれる。具体的には、第2の移動局装置宛の送信信号d2に対して次式に示すような信号処理を行ない、第2の移動局装置宛の送信信号x2を新たに算出する。
【数10】
式(10)で表される信号x2を第2の移動局装置宛の送信信号としてd2の代わりに送信することで、第2の移動局装置にも所望信号のみを受信させることが可能となることが分かる。
【0119】
以上の干渉抑圧処理を線形フィルタWeffの乗算前に行なうことで、第2の移動局装置に対しても干渉を与えない伝送を行なうことが可能となる。しかし、伝搬路情報Heffの状態によっては、x2の大きさがd2よりも遥かに大きくなってしまい、膨大な送信電力を必要としてしまう可能性がある。その場合、x2に対してmodulo演算と呼ばれる非線形信号処理を行なう必要がある。
【0120】
modulo演算ModM(x)は、ある入力xに対して、その出力が−Mより大きく、かつM以下に収まるようにするものである。ここでMはmodulo幅と呼ばれ、入力される信号の変調方式等に応じて設定される。例えばQPSK変調信号が入力される場合には、M=sqrt(2)と設定される。実際に、式(10)で表される信号x2にmodulo演算を施した場合、その出力は次式で与えられる。
【数11】
ここで、zは実部と虚部がそれぞれ整数となる複素数であり、式(10-1)の右辺の実部と虚部がそれぞれ−Mより大きく、かつM以下に収まるように選択される。このzのことをmodulo演算の等価表現と呼ぶ。modulo演算を施すことにより、伝搬路情報Heffの状態に依らず、x2の大きさを常に一定とすることができる。式(10-1)は次式のように表現することも可能である。
【数12】
ここで、floor(x)は実数xを超えない最大の整数を返す関数であり、床関数とも呼ばれる。また、Re(c)およびIm(c)はそれぞれ、複素数cの実数および虚数を返す関数である。
【0121】
このように算出されたx2(modulo演算も含む)が第2の移動局装置宛の送信シンボルとして非線形信号処理部(図示せず)より出力される。なお、第1の移動局装置宛の送信シンボルについては特に信号処理は行なわれない。上記の干渉抑圧が行なわれた送信シンボルに対して、線形フィルタWeff=Qが乗算されたのち、Precoding部303出力sが出力されることになる。
【0122】
以上、第7の棲み分けにより、大きな残留IUIを発生させる線形フィルタを所望線形フィルタとして通知してきた移動局装置同士を空間多重する場合におけるPrecoding部303における信号処理について説明した。なお、第7の棲み分けにおいて、残留IUIを発生させない線形フィルタを所望線形フィルタとして通知してきた移動局装置同士を空間多重する場合(例えば、第1の移動局装置がc1、第2の移動局装置がc11を所望線形フィルタとして通知してきた場合に、両者を空間多重する場合)においては、式(9)においてr2,1が0となるから、Precoding部303において干渉抑圧を行なう必要はない。
【0123】
以上、4送信アンテナ時における基地局装置における干渉抑圧処理に関連付けられたコードブックの棲み分けについて説明した。第7の棲み分けでは、残留IUIが小さくなる線形フィルタのインデックスは第3の棲み分け(図10参照)において、BPMIの候補となる線形フィルタのインデックスに一致していることが分かり、残留IUIが大きくなる線形フィルタのインデックスはBPMIの候補になっていない線形フィルタということになる。このことは、8送信アンテナに対するコードブックに対しても同様のことを言うことができ、第4から第6の棲み分けにおいてBPMIの候補になっている線形フィルタは、残留IUIを小さくできる線形フィルタであり、BPMIの候補になっていない線形フィルタは残留IUIを大きくしてしまう線形フィルタである。そのため、第4から第6の棲み分けにおいてBPMIの候補になっているかいないかで、新たに第8の棲み分け(図示せず)を生成することが出来、第8の棲み分けに応じて、基地局装置における干渉抑圧をするかしないかを制御することも可能となる。
【0124】
第7および第8の棲み分けは、線形フィルタ間の相関の強弱、すなわち、プリコーディング後の残留IUIが大きくなるか小さくなるかの2値に棲み分けている。第3の実施形態において、棲み分けを2値に限定する必要はなく、残留IUIを大きさに応じて、3値以上に棲み分けしても良い。その際に、各棲み分けにおける残留IUIの大きさに応じて、基地局装置のPrecoding切替部301は、Precoding部303が線形プリコーディングのみを行なうか、干渉抑圧を行なうか、非線形演算による干渉抑圧を行なうかについて、または、基地局装置のPrecoding部303が生成する送信線形フィルタをZF規範に基づくものにするか、MMSE規範に基づくものにするかなどを適応的に切り替えるように制御しても良い。
【0125】
第3の実施形態においては、コードブックの棲み分けに応じて、基地局装置におけるプリコーディングの方法を切り替える場合を対象とした。移動局装置より通知されてきた線形フィルタに基づいて、干渉抑圧を行なうかどうかを判断することができるため、演算量を大きく増加させることなく、柔軟にプリコーディング方法を切り替えることができ、システム全体の周波数利用効率の向上に寄与することができる。
【0126】
<全実施形態共通>
[変形例]
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【0127】
本発明に関わる移動局装置および基地局装置で動作するプログラムは、本発明に関わる上記実施形態の機能を実現するように、CPU等を制御するプログラム(コンピュータを機能させるプログラム)である。そして、これら装置で取り扱われる情報は、その処理時に一時的にRAMに蓄積され、その後、各種ROMやHDDに格納され、必要に応じてCPUによって読み出し、修正・書き込みが行なわれる。プログラムを格納する記録媒体としては、半導体媒体(例えば、ROM、不揮発性メモリカード等)、光記録媒体(例えば、DVD、MO、MD、CD、BD等)、磁気記録媒体(例えば、磁気テープ、フレキシブルディスク等)等のいずれであってもよい。また、ロードしたプログラムを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、オペレーティングシステムあるいは他のアプリケーションプログラム等と共同して処理することにより、本発明の機能が実現される場合もある。
【0128】
また市場に流通させる場合には、可搬型の記録媒体にプログラムを格納して流通させたり、インターネット等のネットワークを介して接続されたサーバコンピュータに転送したりすることができる。この場合、サーバコンピュータの記憶装置も本発明に含まれる。また、上述した実施形態における移動局装置および基地局装置の一部、または全部を典型的には集積回路であるLSIとして実現してもよい。移動局装置および基地局装置の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いることも可能である。
【0129】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
101-1、101-2 チャネル符号化部
103-1、103-2 データ変調部
105-1、105-2 参照信号多重部
107 Precoding部
201-m、201 無線受信部
203-m、203 参照信号分離部
205 伝搬路補償部
207-m、207 伝搬路推定部
209 所望線形フィルタ算出部
211 データ復調部
213 チャネル復号部
301 Precoding切替部
303 Precoding部
401 伝搬路補償部
403 制御情報取得部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナを備え、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する無線送信装置であって、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用し、
前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうことを特徴とする無線送信装置。
【請求項2】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項4】
前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴とする請求項3記載の無線送信装置。
【請求項5】
前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項6】
前記複数の線形フィルタの関連付けに基づいて、前記プリコーディングの方法を決定することを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項7】
前記プリコーディングは、modulo演算を含む非線形演算処理であることを特徴とする請求項6記載の無線送信装置。
【請求項8】
少なくとも一つの受信アンテナを備え、無線送信装置から空間多重された信号を受信する無線受信装置であって、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用し、
前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴とする無線受信装置。
【請求項9】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項10】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項11】
前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴とする請求項10記載の無線受信装置。
【請求項12】
前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項13】
前記関連付けに基づいて、前記第一の線形フィルタに関連付けられた第二の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項14】
前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタは、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項15】
前記第二の線形フィルタは、複数の線形フィルタに関連付けられていることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項16】
前記第二の線形フィルタに関連付けられた受信品質は、前記第一の線形フィルタに関連付けられた受信品質とは異なることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項17】
前記第二の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最小とすることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項18】
前記第二の線形フィルタは、前記第一の線形フィルタとの相関値が高いことを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項19】
請求項1記載の無線送信装置と、請求項8記載の無線受信装置と、から構成されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項20】
複数の送信アンテナを備えた無線送信装置に実装され、前記無線送信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、
複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する機能と、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用する機能と、
前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なう機能と、の一連の機能を、前記無線送信装置に発揮させることを特徴とする集積回路。
【請求項21】
少なくとも一つの受信アンテナを備えた無線受信装置に実装され、前記無線受信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、
無線送信装置から空間多重された信号を受信する機能と、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用する機能と、
前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知する機能と、の一連の機能を、前記無線受信装置に発揮させることを特徴とする集積回路。
【請求項1】
複数の送信アンテナを備え、複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する無線送信装置であって、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用し、
前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なうことを特徴とする無線送信装置。
【請求項2】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項3】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項4】
前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴とする請求項3記載の無線送信装置。
【請求項5】
前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項6】
前記複数の線形フィルタの関連付けに基づいて、前記プリコーディングの方法を決定することを特徴とする請求項1記載の無線送信装置。
【請求項7】
前記プリコーディングは、modulo演算を含む非線形演算処理であることを特徴とする請求項6記載の無線送信装置。
【請求項8】
少なくとも一つの受信アンテナを備え、無線送信装置から空間多重された信号を受信する無線受信装置であって、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用し、
前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴とする無線受信装置。
【請求項9】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項10】
前記各線形フィルタは、前記コードブックにおいて、相互に相関値の高い線形フィルタに関連付けられた情報で構成された行ベクトル、および相互に相関値の低いまたは無相関である線形フィルタに関連付けられた情報で構成された列ベクトルを有する行列によって関連付けられていることを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項11】
前記行列は、複数の行および列において、前記各線形フィルタを関連付ける情報が記載されていることを特徴とする請求項10記載の無線受信装置。
【請求項12】
前記第一の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最大とすることを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項13】
前記関連付けに基づいて、前記第一の線形フィルタに関連付けられた第二の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知することを特徴とする請求項8記載の無線受信装置。
【請求項14】
前記第一の線形フィルタおよび前記第二の線形フィルタは、直交性または相関値に基づいて関連付けられていることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項15】
前記第二の線形フィルタは、複数の線形フィルタに関連付けられていることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項16】
前記第二の線形フィルタに関連付けられた受信品質は、前記第一の線形フィルタに関連付けられた受信品質とは異なることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項17】
前記第二の線形フィルタは、前記受信装置の受信信号対雑音電力比、受信信号対干渉・雑音電力比または通信容量のいずれかを最小とすることを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項18】
前記第二の線形フィルタは、前記第一の線形フィルタとの相関値が高いことを特徴とする請求項13記載の無線受信装置。
【請求項19】
請求項1記載の無線送信装置と、請求項8記載の無線受信装置と、から構成されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項20】
複数の送信アンテナを備えた無線送信装置に実装され、前記無線送信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、
複数の受信装置宛てのデータ信号に対して、それぞれプリコーディングを行ない、前記プリコーディング後の信号を空間多重して送信する機能と、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記各受信装置と共用する機能と、
前記各受信装置で前記関連付けに基づいて前記コードブックから抽出され、前記各受信装置から通知された第一の線形フィルタに基づいて、前記各受信装置宛てのデータ信号のそれぞれに対してプリコーディングを行なう機能と、の一連の機能を、前記無線送信装置に発揮させることを特徴とする集積回路。
【請求項21】
少なくとも一つの受信アンテナを備えた無線受信装置に実装され、前記無線受信装置に複数の機能を発揮させる集積回路であって、
無線送信装置から空間多重された信号を受信する機能と、
相互に関連付けられた複数の線形フィルタが記載されたコードブックを、前記無線送信装置と共用する機能と、
前記関連付けに基づいて、第一の線形フィルタを前記コードブックから抽出し、抽出した第一の線形フィルタを、前記無線送信装置に対して通知する機能と、の一連の機能を、前記無線受信装置に発揮させることを特徴とする集積回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−104988(P2012−104988A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250636(P2010−250636)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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