説明

無線通信システム、無線通信装置及び同期信号送信装置

【課題】環境雑音下でも安定した通信を可能とする。
【解決手段】基準となる同期信号で変調された所定の周波数帯の同期変調信号を放射する同期信号発生部3を備え、無線通信端末1,2で同期変調信号を受信して同期信号を用いてクロック信号、搬送波を生成し、パケットに基づいた信号列のみを搬送波で変調して送受信する。これにより、送信データにクロック信号を加えて送信する従来の場合と比較して占有帯域幅が狭くなり、その結果、受信する側のフィルタの通過帯域幅は狭くてよく、環境雑音が混入しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス社会のネットワークを担う近距離無線通信が注目されている。近距離無線には、通信距離が100m程度の無線LAN(Local Area Network)や10mから20m程度をカバーする無線PAN(Personal Area Network)などがある。また、人が通信相手と接触するまで近接したときに通信することを目的とし、人体などの伝送媒体に電界を誘起し、誘起された電界を検出することで通信する電界通信も存在する。
【0003】
図23に従来の無線通信システムで使用される無線通信端末100,200のブロック図を示す。同図では無線通信端末100が送信すべき情報を送信し、無線通信端末200で受信する場合を記載している。
【0004】
無線通信端末100では、端末処理部101で送信すべき情報に基づくデータ列を出力し、データエンコーダ102で通信制御に必要なデータ列を付加したパケットを生成し、クロック部103から出力されたクロック信号でパケットに基づいた信号列を変調して出力する。そして、変調部105でクロック信号で変調されたパケットに基づいた信号列を、搬送波生成部104から出力された所定の周波数の搬送波で変調し、パワーアンプ106で出力信号を所定の振幅まで増幅してアンテナ107から出力する。
【0005】
無線通信端末200では、アンテナ207で受信した信号を増幅・フィルタ部201で増幅するとともに、不要な雑音を除去する。搬送波再生部203で増幅・フィルタ部201の出力信号から搬送波を再生し、復調部202で増幅・フィルタ部201の出力信号と搬送波再生部203から出力された搬送波とを同期検波し、クロック信号で変調されたパケットに基づいた信号列を復調する。そして、データデコーダ205で、クロック再生部204が復調部202の出力信号から再生したクロック信号を用いて、復調部202の出力信号からパケットに基づいた信号列を再生するとともに、受信すべきデータ列を抽出し、端末処理部206に出力する。
【0006】
これらの無線通信システムの内、発射する電波が著しく微弱な無線局(微弱無線)や空中線電力が10mW以下の小電力無線局に該当する無線通信システムでは、信号強度が微弱なため環境雑音の影響を受けやすい。環境雑音が大きい場合、データだけでなくクロック等の同期をとるために必要な信号も乱されるため、受信信号と雑音の強度から予想されるエラーレートよりも実際のエラーレートが悪くなる。
【0007】
また、上述の無線通信システムでは連続する0または1からなる長いベースバンド信号が含まれない任意のビットパターンのデジタルシリアルデータを符号化し、クロック信号を送信データ内に埋め込むマンチェスター符号化法が使用されることがある。この方法を使用すると、精度が高くない安価なクロックを持つ送信器から出力された信号強度が不安定な送信データを復号できる安価なデータリカバリ回路を構築することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】奥村善久、進仕昌明監修、「移動通信の基礎」、初版、電子情報通信学会、昭和61年10月1日、p. 154-155
【非特許文献2】「無線通信用のマンチェスタデータ符号化方式」、[online]、2005年6月24日、マキシム・ジャパン株式会社、[2011年5月9日検索]、インターネット〈URL:http://japan.maxim-ic.com/app-notes/index.mvp/id/3435〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図24にマンチェスター符号化法を用いた場合のアンテナ107から出力されるパワースペクトル密度の周波数特性を示し、図25に送信データのみを送信する場合に用いられるNRZ(Non−Return To Zero)符号化法でのパワースペクトル密度の周波数特性を示す。マンチェスター符号化法では送信データに加えてクロック信号も送信するため、図24,25に示すように、NRZ符号化法よりも占有帯域幅が広くなり環境雑音が混入しやすくなる。このため、クロック信号等の基準信号の復元、延いては安定した通信が困難になる。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、環境雑音下でも安定した通信を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明に係る無線通信システムは、第1、第2の無線通信装置、同期信号送信装置を備え、前記第1、第2の無線通信装置間で無線を用いて情報を送受信する無線通信システムであって、前記同期信号送信装置は、同期信号で変調した同期変調信号を生成する同期変調信号発生手段と、前記同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段と、を有し、前記第1、第2の無線通信装置のそれぞれは、前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出する同期信号抽出手段と、前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、を有し、前記第1の無線通信装置は、前記クロック信号に基づいて送信すべき情報からパケットを生成するパケット生成手段と、前記パケットに基づいた信号列を前記搬送波で変調して変調搬送波を生成する変調手段と、前記変調搬送波を送信する送信手段と、を有し、前記第2の無線通信装置は、前記変調搬送波を受信する受信手段と、前記搬送波に基づいて前記変調搬送波から前記パケットに基づいた信号列を復調する復調手段と、前記クロック信号に基づいて前記パケットに基づいた信号列から前記情報を取得するパケット抽出手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
第2の本発明に係る無線通信システムは、第1、第2の無線通信装置間で無線を用いて情報を送受信する無線通信システムであって、前記第1、第2の無線通信装置のいずれか一方は、同期信号で変調した同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段を有し、もう一方は、前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出する同期信号抽出手段を有し、前記第1、第2の無線通信装置のそれぞれは、前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、を有し、前記第1の無線通信装置は、前記クロック信号に基づいて送信すべき情報からパケットを生成するパケット生成手段と、前記パケットに基づいた信号列を前記搬送波で変調して変調搬送波を生成する変調手段と、前記変調搬送波を送信する送信手段と、を有し、前記第2の無線通信装置は、前記変調搬送波を受信する受信手段と、前記搬送波に基づいて前記変調搬送波から前記パケットに基づいた信号列を復調する復調手段と、前記クロック信号に基づいて前記パケットに基づいた信号列から前記情報を取得するパケット抽出手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境雑音下でも安定した通信を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施の形態における無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】同期信号発生部の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】同期信号抽出部の構成を示す機能ブロック図である。
【図4】搬送波変換部の構成を示す機能ブロック図である。
【図5】無線通信端末と同期信号発生部との距離を説明する図である。
【図6】無線通信端末と同期信号発生部の配置を三角形でモデル化した図である。
【図7】同期信号抽出部の変形例の構成を示す機能ブロック図である。
【図8】同期信号発生部の変形例の構成を示す機能ブロック図である。
【図9】図8の同期信号発生部のタイミングチャートである。
【図10】同期検波回路の構成を示す機能ブロック図である。
【図11】第1の実施の形態における別の無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図12】位相補正部の構成を示す機能ブロック図である。
【図13】位相補正部の動作を示すタイミングチャートである。
【図14】動作切替積分器の構成を示す機能ブロック図である。
【図15】位相補正部の変形例の構成を示す機能ブロック図である。
【図16】位相補正部の別の変形例の構成を示す機能ブロック図である。
【図17】|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|と2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)の関係を表す図である。
【図18】反転・非反転切替バッファの構成を示す機能ブロック図である。
【図19】第2の実施の形態における無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図20】第2の実施の形態の同期信号発生部の構成を示す機能ブロック図である。
【図21】第2の実施の形態の変形例の無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図22】第3の実施の形態における無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。
【図23】従来の無線通信システムで使用される無線通信端末のブロック図を示す。
【図24】マンチェスター符号化法でのパワースペクトル密度の周波数特性を示す図である。
【図25】NRZ符号化法でのパワースペクトル密度の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態における無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。第1の実施の形態における無線通信システムは、無線通信端末1,2と同期信号発生部3を備える。無線通信端末1,2はそれぞれ送信・受信する機能をもつモジュールを備えているが、簡略化のため、無線通信端末1では送信モジュールのみを、無線通信端末2では受信モジュールのみを示している。
【0017】
第1の実施の形態における同期信号発生部3は、無線通信端末1,2とは別に配置された装置で、基準となる同期信号で変調された所定の周波数帯の同期変調信号を生成し、アンテナ31から出力する。無線通信端末1,2は、同期変調信号を受信して基準となる同期信号を抽出し、基準となる同期信号を用いてクロック信号、搬送波を生成し、クロック信号、搬送波を用いて送信すべき情報の変調、復調を行う。
【0018】
無線通信端末1の送信モジュールは、同期信号抽出部11、クロック変換部12、搬送波変換部13、端末処理部14、パケット生成部15、変調部16、パワーアンプ17、および2個のアンテナ18,19を備える。
【0019】
同期信号抽出部11は、アンテナ19で受信した同期変調信号から基準となる同期信号を抽出してクロック変換部12、搬送波変換部13に出力する。
【0020】
クロック変換部12は、同期信号抽出部11が抽出した同期信号を変換してクロック信号を生成する。
【0021】
搬送波変換部13は、同期信号抽出部11が抽出した同期信号を変換して搬送波を生成する。
【0022】
端末処理部14は、送信すべき情報に基づくデータ列をパケット生成部15に出力する。
【0023】
パケット生成部15は、端末処理部14から入力した送信すべき情報に基づくデータ列に、通信制御に必要なデータ列を付加してパケットを生成し、パケットに基づいた信号列をクロック変換部12が出力するクロック信号に同期して変調部16に出力する。
【0024】
変調部16は、パケット生成部15から入力したパケットに基づいた信号列を搬送波変換部13から入力する搬送波で変調して変調搬送波を生成してパワーアンプ17に出力する。
【0025】
パワーアンプ17は、変調部16から入力した変調搬送波を所定の振幅まで増幅してアンテナ18から送信する。
【0026】
無線通信端末2の受信モジュールは、同期信号抽出部21、クロック変換部22、局所発振信号変換部23、増幅・フィルタ部24、復調部25、パケット抽出部26、端末処理部27、および2個のアンテナ28,29を備える。
【0027】
同期信号抽出部21、クロック変換部22、局所発振信号変換部23は、無線通信端末1と同様に、同期信号抽出部21がアンテナ29で受信した同期変調信号から基準となる同期信号を抽出し、クロック変換部22が同期信号からクロック信号を生成し、局所発振信号変換部23が同期信号から、送信モジュールで生成する搬送波と同じ周波数の、局所発振信号を生成する。
【0028】
増幅・フィルタ部24は、アンテナ28で受信した信号を増幅して不要な雑音を除去し、復調部25に出力する。
【0029】
復調部25は、増幅・フィルタ部出力信号から、局所発振信号変換部23で生成された局所発振信号をもとに、パケットに基づいた信号列を復調する。
【0030】
パケット抽出部26は、復調されたパケットに基づいた信号列を、クロック変換部22が出力するクロック信号のタイミングに基づいてデータ列としてメモリに記憶するとともに、メモリに記憶されたデータ列から受信すべきデータ列を抽出して端末処理部27に出力する。
【0031】
端末処理部27は、抽出されたデータ列を受信して処理を行う。
【0032】
<同期信号について>
次に、同期信号発生部3、同期信号抽出部11,21について説明する。
【0033】
まず、同期信号発生部3について説明する。図2は、同期信号発生部3の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、同期信号発生部3では、搬送波の周波数と異なる周波数fの信号と基準信号の周波数frefの半分の周波数の信号を乗算して同期変調信号を生成し、アンテナ31から出力する。同期信号発生部3の出力信号Vは次式(1)で表される。
【数1】

【0034】
ここで、πは円周率、tは時間を表す。出力信号の周波数はf+fref/2とf−fref/2の2種類となる。
【0035】
続いて、同期信号抽出部11,21について説明する。図3は、同期信号抽出部11,21の構成を示す機能ブロック図である。アンテナ19で受信した信号をAMP(増幅器)で増幅し、通過帯域f+fref/2のBPF(バンドパスフィルタ)1と通過帯域f−fref/2のBPF2にそれぞれ並列に通過させて、両者の信号を乗算器に入力してフィルタで高周波側の信号を除去することで、周波数frefの同期信号を抽出する。
【0036】
同期信号発生部3と無線通信端末1との距離をd1とすると、同期信号発生部3から放射された同期変調信号はτ1=d1/c0遅れて無線通信端末1に到達する(c0は電磁波の速度)。したがって、乗算器の出力信号Vmix1は次式(2)のようになる。
【数2】

【0037】
上式(2)の第1項である乗算器の出力信号の周波数の高い成分をフィルタで除去することにより、無線通信端末1においてクロック信号や搬送波の基準となる周波数frefの同期信号Vref1=−(A/2)cos{2πfref(t−τ1)}(式(2)の第2項)を抽出する。無線通信端末2の同期信号抽出部21においても同様の信号処理を行うことにより、無線通信端末2においてクロック信号や搬送波の基準となる周波数frefの同期信号Vref2=−(A/2)cos{2πfref(t−τ2)}を抽出する。
【0038】
<遅延の影響について>
次に、無線通信端末1,2で生じる遅延の影響について考察する。
【0039】
搬送波は、搬送波変換部13において、図4に示すPLL回路を用いて同期信号Vref1から生成される。ここでは、簡単のため振幅をすべて1とする。搬送波をsin(2πf0t+θ1)とし、同期信号Vref1=cos{2πfref(t−τ1)}と搬送波を1/Nに分周した信号sin{(2πf0t+θ1)/N}が同じになるように帰還されるとモデル化している。この場合帰還が収束すると(f0/N)=fref,(θ1/N)=2πfrefτ1となり、搬送波はsin{2πNfref(t−τ1)}となる。
【0040】
図5に示すように、無線通信端末1,2間の距離をd12とすると、無線通信端末1から送信され無線通信端末2で受信される搬送波には遅延τ12=d12/c0が生じ、無線通信端末2で受信した搬送波はsin{2πNfref(t−τ1−τ12)}となる。
【0041】
一方、無線通信端末2の局所発振信号も図5と同じ回路で生成されsin{2πNfref(t−τ2)}と表される。無線通信端末2で受信した搬送波と無線通信端末2が生成した局所発振信号の位相差θ12は次式(3)で表される。
【数3】

【0042】
ここで図6に示すように無線通信端末1,2の大きさを無視して無線通信端末1,2と同期信号発生部3の配置を三角形で近似する。図中αは無線通信端末1と同期信号発生部3を結んだ辺と無線通信端末2と同期信号発生部3を結んだ辺のなす角度である。余弦定理より次式(4)が成立する。
【数4】

【0043】
式(4)で1−cosα≧0であるから次式(5)の不等式が成立する。
【数5】

【0044】
式(5)の不等式を考慮すると式(3)で示す搬送波と局所発振信号の位相差θ12には次式(6)の不等式が成立する。
【数6】

【0045】
したがって、同期信号発生部3と無線通信端末1,2との間の距離d1,d2が遠くても、搬送波の波長c0/Nfrefと比較して無線通信端末1,2間の距離d12が十分近ければ、搬送波と局所発振信号の位相差θ12は無視できて復調できる。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態によれば、基準となる同期信号で変調された所定の周波数帯の同期変調信号を放射する同期信号発生部3を備え、無線通信端末1,2で同期変調信号を受信して同期信号を用いてクロック信号、搬送波を生成し、パケットに基づいた信号列のみを搬送波で変調して送受信することにより、送信データにクロック信号を加えて送信する従来のマンチェスター符号化法の場合と比較して占有帯域幅が狭くなり、その結果、受信する側のフィルタの通過帯域幅は狭くてよく、環境雑音が混入しにくい。
【0047】
基準となる同期信号についても、単一周波数の周波数f+fref/2とf−fref/2の信号それぞれを通過させるBPFを使用するため、従来のマンチェスター符号化法の場合に比べ必要な通過帯域幅は狭くて良く、環境雑音が混入しにくい。
【0048】
パケットに基づいた信号列を搬送波で変調した変調搬送波と、基準となる同期信号で変調された同期変調信号の両方に環境雑音が混入にくいため、従来のマンチェスター符号化法の場合に比べて安定した通信が可能となる。なお、本実施の形態では、搬送波と同期変調信号の混信を防ぐために搬送波の周波数と異なる周波数fの信号を用いて同期信号を変調した。
【0049】
図1では、各無線通信端末1,2で2個のアンテナを使用しているが、1個のアンテナで同期変調信号を受信し、変調搬送波を送・受信してもよい。
【0050】
<同信号抽出部の変形例>
次に、同期信号抽出部11,21の変形例について説明する。
【0051】
図7は、同期信号抽出部11,21の変形例の構成を示す機能ブロック図である。同図に示す同期信号抽出部11,21は、受信した同期変調信号と周波数floの信号を乗算器2に入力してダウンコンバートした後、図3と同じ信号処理をすることにより同期信号を抽出する。無線通信端末1,2に図7に示す同期信号抽出部11,21が組み込まれているとすると、無線通信端末2での乗算器2から出力される信号Vm2は次式(7)のようになる。
【数7】

【0052】
上式(7)で、θ1は無線通信端末1の周波数floの信号の同期信号frefに対する位相ずれを表し、時間に対しては一定であるとする。BPF3で周波数f+fref/2−floとf−fref/2−floの成分のみを通過させた信号Vbpfは次式(8)となる。
【数8】

【0053】
この後、図3で説明した信号処理を行うと乗算器1の出力信号Vは次式(9)で表される。
【数9】

【0054】
このように、図3の場合と同様に、上式(9)の第1項である乗算器1の出力信号の周波数の高い成分をフィルタで除去することにより、無線通信端末1においてクロック信号や搬送波の基準となる周波数frefの同期信号を抽出できる。無線通信端末1での同期信号はθ1に依存しないため、無線通信端末2でも周波数floの信号に無線通信端末1とは異なる位相ずれθ2があっても無線通信端末1と同様の同期信号が得られる。無線通信端末1,2間の距離d12の影響に関しては図3の場合と同様であり、搬送波の波長c0/Nfrefと比較して無線通信端末1,2間の距離d12が十分近いとして、搬送波と局所発振信号の位相差θ12を無視した。
【0055】
図3の場合では、周波数fを中心に±fref/2離れた周波数であるf+fref/2とf−fref/2をBPF1とBPF2の中心周波数とするのに対し、図7の場合では図3の場合よりも低い周波数f−floをBPF1とBPF2の中心周波数とする。図3の場合では、BPF1はf+fref/2の信号を通過させるがf−fref/2の信号を遮断させるように設計し、図7の場合では、BPF1はf−flo+fref/2の信号を通過させるがf−flo−fref/2の信号を遮断させるように設計する。通過させたい信号の周波数と遮断させたい信号の周波数の差frefの絶対値は図3と図7の場合で変わらないが、通過させたい信号の周波数と遮断させたい信号の周波数の差frefと中心周波数の相対値は図7の場合のほうが高い。
【0056】
以上説明したように、同期変調信号と周波数floの信号を乗算器2に入力してダウンコンバートすることにより、中心周波数や中心周波数に対する通過帯域幅の相対的な精度が低いバンドパスフィルタを使用できる。
【0057】
<同信号発生部の変形例>
次に、同期信号発生部3の変形例について説明する。
【0058】
図8は、同期信号発生部3の変形例の構成を示す機能ブロック図である。同図に示す同期信号発生部3は、フレーム信号変調部32を備えて、同期信号にパケット生成部15やパケット抽出部26の動作を初期化することに用いるフレーム信号を混合して送信する。フレーム信号を混合することにより、無線通信端末1,2は、送・受信動作を初期化することができ、送・受信動作のタイミングを合わせることができる。
【0059】
図9のタイミングチャートを用いてフレーム信号の混合動作について説明する。同期信号の半分の周波数fref/2の信号をフレーム信号変調部32に入力する。無線通信端末1,2の動作を合わせるタイミングでフレーム信号を変化させる。図9の例ではフレーム信号をHレベルにしている。フレーム信号が変化したときの周波数fref/2の信号を一定値にする信号処理を行った後、周波数fの信号と乗算してアンテナ31から出力する。
【0060】
フレーム信号が変化していない時(Lレベルの時)では、図2の場合と同様に、周波数f+fref/2とf−fref/2の信号が出力され、同期信号抽出部11,21では周波数frefの同期信号が抽出される。これに対し、フレーム信号が変化した時(Hレベルの時)では、周波数f+fref/2とf−fref/2ではなく別の周波数(図9の場合では周波数f)の信号が出力されるため、同期信号抽出部11,21では同期信号が抽出されない。クロック変換部12,22では同期信号が入力されないことを検知して、パケット生成部15やパケット抽出部26を初期化する信号を出力する。
【0061】
以上説明したように、フレーム信号変調部32を備えてフレーム信号を混合し、同期変調信号に基準となる同期信号を含まない期間を設けることで、同期変調信号からクロック信号や搬送波を生成するだけでなく、フレーム信号を用いて送・受信動作のタイミングを合わせることができる。
【0062】
以上の構成では無線通信端末1,2間の伝播遅延の影響を、搬送波の波長に比べて無線通信端末1,2間の距離d12が十分短いとして無視したが、復調部25に図10に示す同期検波回路を備えて同期検波により復調する場合は伝播遅延の影響を緩和できる。
【0063】
<位相補正部>
図11は、第1の実施の形態における別の無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。同図に示す無線通信システムは、図1に示した受信モジュールに位相補正部40を備えたものである。無線通信端末1は、パケットに基づいた信号列を出力する前に、搬送波のみを出力する期間(プリアンブル)を設ける。無線通信端末2は、プリアンブルの期間において位相補正部40で局所発振信号変換部23から出力された局所発振信号と受信した搬送波を比較し位相補正をした後、位相補正された位相補正搬送波を復調部25に出力する。
【0064】
図12に、位相補正部40の機能ブロック図を示し、図13のタイミングチャートを用いて位相補正動作について説明する。タイミングチャートではプリアンブルの期間での波形のみを記載している。以下では簡略化のため搬送波の振幅を1として説明する。
【0065】
局所発振信号変換部23から出力された局所発振信号sin{2πNfref(t−τ2)}は可変遅延器41を通過するとsin{2πNfref(t−τ2−τd)}となる。ここでτdは可変遅延器41を通過した時に生じる遅延時間である。この信号は90°移相器42を介して乗算器43に入力される。
【0066】
図5,6を用いて説明したように、増幅・フィルタ部出力信号はsin{2πNfref(t−τ1−τ12)}であり、乗算器43の出力Vm3は次式(10)のようになる。
【数10】

【0067】
m3をLPF44に通過させると、式(10)の第1項が除去され第2項のみとなる。すなわち偏差量はsin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]となる。以下では説明のためτ1+τ12−τ2>0でτdの初期値がゼロとする。この場合、偏差量は正、sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]>0となる。
【0068】
図13(D)の期間Aに示すように、LPF44のもつ遅延特性のためLPF44の出力は緩やかに増加する。動作切替積分器45は積分停止信号がLレベルの間は積分動作を行い、可変遅延器41は、動作切替積分器45の出力(積分値)が増加すると遅延時間τdが増加するように設計されている。図13(D)に示すLPF出力すなわち偏差量が正であると積分値が増加し、遅延時間τdが増加してτ1+τ12−τ2に近づく。遅延時間τdがτ1+τ12−τ2に十分近づくと偏差量は減少するが偏差量が正であるため、遅延時間τdはさらにτ1+τ12−τ2に近づく(図13(D)の期間B)。図13(D)の期間Cに示すように、遅延時間τdがτ1+τ12−τ2と等しくなると偏差量はゼロとなり積分値は変化しなくなる。したがって、遅延時間τdはτ1+τ12−τ2と等しくなった値で変化しなくなる。以上の動作により、図13(A)に示す増幅・フィルタ部出力信号と図13(F)に示す位相補正搬送波の位相は等しくなる。
【0069】
検波回路46では増幅・フィルタ部24の出力の振幅を検波する。図13(G),(H)に示すように、立ち上がり遅延回路47は、検波回路46の出力がしきい値を超えてから予め設定された期間Wが経過した後、積分停止信号をHレベルにする。積分停止信号がHレベルになると動作切替積分器45は積分動作を停止する。図14に、積分停止信号により積分動作を停止する機能を実現する動作切替積分器45の構成例を示す。積分停止信号がLレベルのときは、スイッチ451のa1とb1を接続し、偏差量を積分器452に入力して積分を行う。積分停止信号がHレベルのときは、スイッチ451のa1とc1を接続し、直流電圧源453から出力されるゼロに相当する信号を積分器452に入力する。この場合、積分値は変化しない。
【0070】
ここでτ1+τ12−τ2>0が成立する範囲を考察する。図6の三角形での近似において余弦定理から導出した式(4)から式(5)への展開で、d122≧(d1−d22から次式(11)が導出できる。
【数11】

【0071】
式(11)にd12を足すと次式(12)となる。
【数12】

【0072】
式(12)を電磁波の速度c0で割ると次式(13)となる。
【数13】

【0073】
等式の場合を除けばτ1+τ12−τ2>0は満たされる。等式の場合、つまりτ1+τ12−τ2=0の場合は、無線通信端末1,2間の伝播遅延による位相誤差がないことを意味しており、可変遅延器41の遅延時間はゼロのままでよい。この場合でも増幅・フィルタ部出力信号と位相補正搬送波の位相は等しくなり目的を達成できる。
【0074】
ここでは、積分値(動作切替積分器45の出力)が大きくなると遅延時間が大きくなる可変遅延器41で説明したが、積分値が小さくなると遅延時間が大きくなる可変遅延器41を使用してもよい。この場合、偏差量(LPF44の出力)が正の時に積分値が小さくなるように動作切替積分器45を設計する。
【0075】
次に、位相補正部40の変形例について説明する。
【0076】
上記では同期信号抽出部21や局所発振信号変換部23で遅延をないことを前提に考察したが、実際には使用する回路の入力と出力で遅延が生じることがある。また、可変遅延器41の遅延時間にオフセットがある、つまり、積分値がゼロでも遅延時間がゼロより大きい値となる場合もある。このように局所発振信号に遅延がある場合や可変遅延器41の遅延時間にオフセットがある場合は、図15の位相補正部の変形例に示すように、増幅・フィルタ部24の出力に遅延時間がτpで固定の固定遅延器48を接続する。
【0077】
以下では簡単のため局所発振信号の振幅を1として説明する。無線通信端末2での局所発振信号の伝播遅延以外の遅延時間の全体をτofとおくと、可変遅延器41を通過した局所発振信号は、sin{2πNfref(t−τ2−τof−τd)}となる。ここでτofには動作切替積分器45の出力で制御される成分τpは含まれていないとしている。固定遅延器48を通した増幅・フィルタ部出力信号はsin{2πNfref(t−τ1−τ12−τp)}と表される。乗算器43の出力Vm3は次式(14)で表される。
【数14】

【0078】
したがって、LPF44の出力は、sin{2πNFref(τ1+τ12+τp−τ2−τof−τd)}となる。固定遅延器48の遅延時間τpを適切に設計することでτ1+τ12+τp−τ2−τof>0は満たされる。図12で示した位相補正部40と同様の動作で位相補正搬送波と固定遅延器48の出力の位相は等しくなる。
【0079】
次に、位相補正部40の別の変形例について説明する。
【0080】
無線通信端末1,2間の距離d12が大きくなると偏差量が負、sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]<0となる場合もある。この場合でも正しく位相補正できる位相補正部40の別の変形例を図16に示す。同図に示す位相補正部40は、LPF44と動作切替積分器45の間に絶対値回路51を挿入し、|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|とする演算を追加した。絶対値回路51は例えばOPアンプとダイオードで構成される全波整流回路などを用いることができる。
【0081】
初期値でπ≦2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)<2πとし、可変遅延器41の遅延時間の初期値をτd=0とする。このときsin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]<0であるが、絶対値回路51を通すことで|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|>0となる。図13のタイミングチャートにおける偏差量が|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|であり、|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|が正であるため、動作切替積分器45の出力(積分値)は増加する。この結果τpは増加し、2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)は減少する。|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|>0の間τpは増加し2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)は減少し続け、|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|=0となるとτpの増加と2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)の減少は停止する。
【0082】
上記の動作を|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|と2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)の関係を表す図17を用いて考察する。図17の黒丸で示す初期値から|sin[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]|=0、2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)=πの点に移動する。したがって、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号の位相差はπとなり、増幅・フィルタ部出力信号は可変遅延器出力信号を反転した信号となる。
【0083】
一方、可変遅延器出力信号sin[2πNfref(t−τ2−τd)]と増幅・フィルタ部出力信号sin[2πNfref(t−τ1−τ12)]を乗算器52で乗算した信号Vm4は次式(15)で表される。
【数15】

【0084】
m4をLPF53に入力すると周波数の高い式(15)の第1項が除去され、式(15)の第2項のcos[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]が出力される。反転・非反転切替バッファ54はcos[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]<0の時に反転バッファとして動作し、cos[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]>0の時に非反転バッファとして動作する。
【0085】
2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)=πのとき、cos[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]=−1であるため、反転・非反転切替バッファ54は反転バッファとして動作する。この状態で増幅・フィルタ部出力信号と反転した可変遅延器出力信号を入力すると、反転・非反転切替バッファ54で反転されて増幅・フィルタ部出力信号と同相の位相補正搬送波が得られる。
【0086】
以上の動作により、π≦2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)<2πでも、増幅・フィルタ部出力信号と同相の位相補正搬送波が得られる。
【0087】
さらに考察すると、n=0,1,2,・・・として、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号の位相差の初期値が2nπ≦2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)<(2n+1)πの場合では、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号の位相差は2nπに収束するため、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号は同相と等価となる。この場合、cos[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]=1となり、反転・非反転切替バッファ54は非反転バッファとして動作するため、増幅・フィルタ部出力信号と同相の位相補正搬送波が得られる。
【0088】
n=0,1,2,・・・として、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号の位相差の初期値が(2n+1)π≦2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)<(2n+2)πの場合では、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号の位相差は(2n+1)πに収束するため、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号は反転している。この場合、cos[2πNfref(τ1+τ12−τ2−τd)]=−1となり、反転・非反転切替バッファ54は反転バッファとして動作するため、増幅・フィルタ部出力信号と同相の位相補正搬送波が得られる。
【0089】
このように、可変遅延器出力信号と増幅・フィルタ部出力信号の位相差の初期値がどのような値でも増幅・フィルタ部出力信号と位相補正搬送波は同相となる。
【0090】
図18に反転・非反転切替バッファの構成例を示す。
【0091】
LPF53の出力が負の時、コンパレータ61の出力はLレベルとなり、スイッチ62のa1とb1が接続され、スイッチ63のa2とb2が接続される。このとき、OPアンプ64の非反転入力は接地され、可変遅延器41の出力信号が反転入力に入力されるため、可変遅延器41の出力信号は同相で出力される。
【0092】
以上説明したように、局所発振信号変換部23から出力された局所発振信号と受信した搬送波を比較し位相補正する位相補正部40を備えることにより、無線通信端末1,2間の信号伝播距離の違いに起因する位相誤差を補正することが可能となる。
【0093】
[第2の実施の形態]
図19は、第2の実施の形態における無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。第2の実施の形態における無線通信システムは、第1の実施の形態の同期信号発生部3を無線通信端末1の送信モジュールに備えたものである。
【0094】
第2の実施の形態では、無線通信端末1の同期信号発生部71で基準となる同期信号を含む所定の周波数帯の同期変調信号を生成しアンテナ19から送信するとともに、同期信号発生部71から基準となる同期信号をクロック変換部12、搬送波変換部13に出力する。
【0095】
図20に、同期信号発生部71の構成例を示す。同図に示す同期信号発生部71は、第1の実施の形態の同期信号発生部と同様に、搬送波の周波数と異なる周波数fの信号と基準信号の周波数の半分の周波数fref/2の信号を乗算して同期変調信号を生成し出力する。さらに、周波数fref/2の信号を逓倍部711により逓倍して同期信号を生成し、クロック変換部12、搬送波変換部13に出力する。
【0096】
第2の実施の形態の無線通信端末2は、第1の実施の形態と同様であるので説明は省略する。
【0097】
また、無線通信端末2が同期信号発生部3を備える構成でもよい。この場合、無線通信端末1は、第1の実施の形態と同様となる。
【0098】
図19では、無線通信端末1,2それぞれでアンテナを2個を使用しているが、1個のアンテナで同期変調信号を受信し、変調搬送波を送・受信してもよい。
【0099】
図21に第2の実施の形態の変形例を示す。図21に示す変形例では、図19に示したものに、無線通信端末1については、局所発振信号変換部23、増幅・フィルタ部24、復調部25、パケット抽出部26、および位相補正部40を有する受信モジュールと送受切替SW1を備え、無線通信端末2については、搬送波変換部13、パケット生成部15、変調部16、およびパワーアンプ17を有する受信モジュールと送受切替SW2を備えて、無線通信端末2から無線通信端末1へも送信する構成とした。
【0100】
第2の実施の形態では、同期信号発生部71を備えた無線通信端末1が送信して無線通信端末2で受信する場合、同期変調信号と変調搬送波は共に無線通信端末1から送信されるため、無線通信端末2で受信する同期変調信号と変調搬送波の遅延は等しい。図6においては、d1=0,d12=d2となる。したがって、式(3)から無線通信端末2で受信した搬送波と同期信号に基づいて生成される局所発振信号の位相差θ12=0となり、無線通信端末1,2間の距離d12が離れていても無線通信端末2で受信した搬送波と局所発振信号の位相は同じである。このため無線通信端末2で位相補正をする必要はない。
【0101】
図21に示す変形例において、無線通信端末2が送信して無線通信端末1で受信する場合について説明する。簡単のため振幅をすべて1とする。図4に示すPLL回路を用いて生成した端末2の搬送波は、sin{2πNfref(t−τ12)}となる。無線通信端末1で生成される局所発振信号はsin{2πNfref(t−2τ12)}であるため、無線通信端末1で受信する搬送波と局所発振信号には4πNFrefτ12の位相差が生じる。この位相差を補正するために、図21に示す無線通信端末1には位相補正部40を備えた。図12,14,15の機能ブロック図に示したいずれの位相補正部40を用いてもよい。
【0102】
無線通信端末1で送信し無線通信端末2で受信する場合は、無線通信端末1の送受切替SW1のx1端子とy1端子を接続し、無線通信端末2の送受切替SW2のx2端子とz2端子を接続する。
【0103】
無線通信端末1では、同期信号発生部71で基準となる同期信号を含む所定の周波数帯の同期変調信号を生成してアンテナ19から送信するとともに、同期信号発生部71から基準となる同期信号をクロック変換部12、搬送波変換部13に出力する。同期信号発生部71から出力された基準となる同期信号を用いて、送信すべき情報を送信モジュールで変調してアンテナ18から変調搬送波を送信する。
【0104】
無線通信端末2では、同期信号抽出部21がアンテナ29で受信した同期変調信号から基準となる同期信号を抽出するとともに、変調搬送波をアンテナ28で受信し、抽出した同期信号を用いて、受信した変調搬送波を受信モジュールで復調して送信すべき情報を取得する。
【0105】
無線通信端末2で送信し無線通信端末1で受信する場合は、無線通信端末1の送受切替SW1のx1端子とz1端子を接続し、無線通信端末2の送受切替SW2のx2端子とy2端子を接続する。
【0106】
無線通信端末2では、同期信号抽出部21がアンテナ29で受信した同期変調信号から基準となる同期信号を抽出するとともに、抽出した同期信号を用いて、送信すべき情報を送信モジュールで変調してアンテナ28から変調搬送波を送信する。
【0107】
無線通信端末1では、同期信号発生部71で基準となる同期信号を含む所定の周波数帯の同期変調信号を生成してアンテナ19から送信するとともに、変調搬送波をアンテナ28で受信し、同期信号発生部71から出力された基準となる同期信号を用いて、変調搬送波を受信モジュールで復調して送信すべき情報を取得する。同期信号発生部71から出力された基準となる同期信号を用いて生成した局所発振信号と増幅・フィルタ部24の出力信号には位相差が生じるため、無線通信端末1では、位相補正部40で位相差を補正する。
【0108】
[第3の実施の形態]
図22は、第3の実施の形態における無線通信システムの構成を示す機能ブロック図である。第3の実施の形態では、無線通信端末1,2のそれぞれに同期信号発生部81と同期信号抽出部82を備える。無線通信端末1が送信して無線通信端末2で受信する場合は、無線通信端末1の同期信号発生部81から同期変調信号を出力し、無線通信端末2の同期信号抽出部82で同期信号を抽出する。無線通信端末2が送信して無線通信端末1で受信する場合は、無線通信端末2の同期信号発生部81から同期変調信号を出力し、無線通信端末1の同期信号抽出部82で同期信号を抽出する。送・受信の切り替わりにより動作の切り替えはスイッチ83で行う。送信時は同期信号発生部81とアンテナ86を接続し、受信時は同期信号抽出部82とアンテナ86を接続する。送信すべき情報は、端末送・受信部84で変調搬送波に変換されてアンテナ85を用いて送受信される。なお、図22では、無線通信端末1,2それぞれで2個のアンテナ85,86を使用しているが、1個のアンテナで同期変調信号、変調搬送波を送・受信してもよい。
【符号の説明】
【0109】
1,2…無線通信端末
11,21…同期信号抽出部
12,22…クロック変換部
13…搬送波変換部
14…端末処理部
15…パケット生成部
16…変調部
17…パワーアンプ
18,19,28,29…アンテナ
21…同期信号抽出部
22…クロック変換部
23…局所発振信号変換部
24…増幅・フィルタ部
25…復調部
26…パケット抽出部
27…端末処理部
3…同期信号発生部
31…アンテナ
32…フレーム信号変調部
40…位相補正部
41…可変遅延器
42…移相器
43…乗算器
44…LPF
45…動作切替積分器
451…スイッチ
452…積分器
453…直流電圧源
46…検波回路
47…立ち上がり遅延回路
48…固定遅延器
51…絶対値回路
52…乗算器
53…LPF
54…反転・非反転切替バッファ
61…コンパレータ
62…スイッチ
63…スイッチ
64…OPアンプ
71…同期信号発生部
711…逓倍部
81…同期信号発生部
82…同期信号抽出部
83…スイッチ
84…端末送・受信部
85,86…アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2の無線通信装置、同期信号送信装置を備え、前記第1、第2の無線通信装置間で無線を用いて情報を送受信する無線通信システムであって、
前記同期信号送信装置は、
同期信号で変調した同期変調信号を生成する同期変調信号発生手段と、
前記同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段と、を有し、
前記第1、第2の無線通信装置のそれぞれは、
前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出する同期信号抽出手段と、
前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、
前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、を有し、
前記第1の無線通信装置は、
前記クロック信号に基づいて送信すべき情報からパケットを生成するパケット生成手段と、
前記パケットに基づいた信号列を前記搬送波で変調して変調搬送波を生成する変調手段と、
前記変調搬送波を送信する送信手段と、を有し、
前記第2の無線通信装置は、
前記変調搬送波を受信する受信手段と、
前記搬送波に基づいて前記変調搬送波から前記パケットに基づいた信号列を復調する復調手段と、
前記クロック信号に基づいて前記パケットに基づいた信号列から前記情報を取得するパケット抽出手段と、
を有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
同期信号で変調した同期変調信号を送信する同期信号送信装置から前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出し、当該同期信号に基づいて情報を送信する無線通信装置であって、
前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出する同期信号抽出手段と、
前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、
前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、
前記クロック信号に基づいて送信すべき情報からパケットを生成するパケット生成手段と、
前記パケットに基づいた信号列を前記搬送波で変調して変調搬送波を生成する変調手段と、
前記変調搬送波を送信する送信手段と、
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
同期信号で変調した同期変調信号を送信する同期信号送信装置から前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出するとともに、前記同期信号に基づいて情報を復調する無線通信装置であって、
前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出する同期信号抽出手段と、
前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、
前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、
前記変調搬送波を受信する受信手段と、
前記搬送波に基づいて前記変調搬送波から前記パケットに基づいた信号列を復調する復調手段と、
前記クロック信号に基づいて前記パケットに基づいた信号列から前記情報を取得するパケット抽出手段と、
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
前記同期信号抽出手段は、
前記同期変調信号を受信する同期信号受信手段と、
前記同期変調信号の変調に用いた信号の周波数を中心として前記同期信号の周波数分離れた2つの周波数を持つ信号をそれぞれを通過させる第1、第2のフィルタと、
前記第1、第2のフィルタの出力信号を乗算する乗算器と、
前記乗算器の出力の高周波成分を取り除く第3のフィルタと、
を有することを特徴とする請求項2又は3記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記同期変調信号に別の周波数を持つ信号を乗算するダウンコンバート手段を前記第1、第2のフィルタの前段に有することを特徴とする請求項4記載の無線通信装置。
【請求項6】
受信した前記変調搬送波と前記搬送波変換手段が変換した搬送波とを比較して前記搬送波の位相を補正する位相補正手段を有することを特徴とする請求項3記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記位相補正手段は、
前記変調搬送波と位相を90度ずらした前記搬送波を乗算した信号を入力する第1のローパスフィルタと、
前記第1のローパスフィルタの出力を積分する積分器と、
前記積分器が出力する積分値に応じて前記搬送波を遅延させる可変遅延器と、
前記変調搬送波の振幅が所定の閾値を超えてから所定の時間経過後に前記積分器に積分動作の停止を指示する積分停止信号を送信するプリアンブル検出回路と、
を有することを特徴とする請求項6記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記位相補正手段は、前記変調搬送波を所定の時間遅延させる固定遅延器を備えることを特徴とする請求項7記載の無線通信装置。
【請求項9】
前記位相補正手段は、
前記第1のローパスフィルタの出力の絶対値をとり前記積分器に入力する絶対値回路と、
前記変調搬送波と前記搬送波を乗算した信号を入力する第2のローパスフィルタと、
前記第2のローパスフィルタの出力に応じて前記搬送波を反転し、前記復調手段に出力する反転バッファと、
を有することを特徴とする請求項7記載の無線通信装置。
【請求項10】
情報を変調搬送波に変調して送受信する第1、第2の無線通信装置で前記情報の変調及び復調に用いられる同期信号を含む同期変調信号を送信する同期信号送信装置であって、
同期信号で変調した同期変調信号を生成する同期変調信号発生手段と、
前記同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段と、
を有することを特徴とする同期信号送信装置。
【請求項11】
前記同期変調信号発生手段は、
同期信号の周波数の半分の周波数の第1の信号を出力する第1の信号源と、
前記変調搬送波の変調に用いた搬送波の周波数とは異なる周波数の第2の信号を出力する第2の信号源と、
前記第1、第2の信号を乗算する乗算器と、
を有することを特徴とする請求項10記載の同期信号送信装置。
【請求項12】
前記同期変調信号発生手段は、前記第1の信号にフレーム信号を混合するフレーム信号変調手段を有することを特徴とする請求項11記載の同期信号送信装置。
【請求項13】
第1、第2の無線通信装置間で無線を用いて情報を送受信する無線通信システムであって、
前記第1、第2の無線通信装置のいずれか一方は、
同期信号で変調した同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段を有し、
もう一方は、
前記同期変調信号を受信して前記同期信号を抽出する同期信号抽出手段を有し、
前記第1、第2の無線通信装置のそれぞれは、
前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、
前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、を有し、
前記第1の無線通信装置は、
前記クロック信号に基づいて送信すべき情報からパケットを生成するパケット生成手段と、
前記パケットに基づいた信号列を前記搬送波で変調して変調搬送波を生成する変調手段と、
前記変調搬送波を送信する送信手段と、を有し、
前記第2の無線通信装置は、
前記変調搬送波を受信する受信手段と、
前記搬送波に基づいて前記変調搬送波から前記パケットに基づいた信号列を復調する復調手段と、
前記クロック信号に基づいて前記パケットに基づいた信号列から前記情報を取得するパケット抽出手段と、
を有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項14】
同期信号で変調した同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段と、
前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、
前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、
前記クロック信号に基づいて送信すべき情報からパケットを生成するパケット生成手段と、
前記パケットに基づいた信号列を前記搬送波で変調して変調搬送波を生成する変調手段と、
前記変調搬送波を送信する送信手段と、
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項15】
同期信号で変調した同期変調信号を送信する同期変調信号送信手段と、
前記同期信号をクロック信号に変換するクロック変換手段と、
前記同期信号を搬送波に変換する搬送波変換手段と、
前記変調搬送波を受信する受信手段と、
前記搬送波に基づいて前記変調搬送波から前記パケットに基づいた信号列を復調する復調手段と、
前記クロック信号に基づいて前記パケットに基づいた信号列から前記情報を取得するパケット抽出手段と、
を有することを特徴とする無線通信装置。
【請求項16】
受信した前記変調搬送波と前記同期信号とを比較して前記変調搬送波の位相を補正する位相補正手段を有することを特徴とする請求項15記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−249264(P2012−249264A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121937(P2011−121937)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】